特許異議申立
2023-701182
感光性着色組成物、硬化物、着色スペーサー、画像表示装置
- 審判番号
- 2023-701182
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-125886外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 7268700
- 請求日
- 2023年11月08日
- 審決日
- 2024年03月08日
- 公報発行日
- 2024年04月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】三菱ケミカル株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人栄光事務所
- 【異議申立人】弁理士法人 朝日奈特許事務所
- 分類
- P1651.121-Y (G03F) / P1651.536-Y (G03F) / P1651.537-Y (G03F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7268700号発明「感光性着色組成物、硬化物、着色スペーサー、画像表示装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7268700号の請求項1~8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7268700号の請求項1~8に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願(特願2021-125886号)は、平成28年(2016年)3月10日(先の出願に基づく優先権主張 平成27年3月11日、同年8月7日)を国際出願日とする特願2017-505412号(以下「親出願」という。)の一部を令和3年7月30日に新たな特許出願としたものであって、令和5年4月25日にその特許権の設定登録がされ、令和5年5月8日に特許掲載公報が発行された。
本件特許について、特許掲載公報の発行の日から6月以内である令和5年11月8日に、特許異議申立人 弁理士法人 朝日奈特許事務所(以下「特許異議申立人」という。)から、請求項1~8に係る特許に対して、特許異議の申立てがされた。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~8に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明8」という。また、それらを総称して「本件特許発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。
【請求項1】
(a)着色剤、(b)アルカリ可溶性樹脂、(c)光重合開始剤、(d)エチレン性不飽和化合物、(e)溶剤、及び(f)分散剤を含有する感光性着色組成物であって、
前記(a)着色剤が、下記式(1)で表される化合物、その幾何異性体、その塩、またはその幾何異性体の塩を含有し、
前記(c)光重合開始剤が、下記式(I)で表されるオキシムエステル系化合物を含み、
前記(a)着色剤の含有量が、感光性着色組成物中の全固形分量に対して10質量%以上60質量%以下であり、
前記(c)光重合開始剤の含有割合が、感光性着色組成物の全固形分量に対して2質量%以上8質量%以下であることを特徴とする、感光性着色組成物。
【化1】
[図:0001409151000001.jpg]
(上記式(1)中、R11およびR16は互いに独立して水素原子、CH3、CF3、フッ素原子または塩素原子である;
R12、R13、R14、R15、R17、R18、R19およびR20は他の全てから互いに独立して水素原子、ハロゲン原子、R21、COOH、COOR21、COO-、CONH2、CONHR21、CONR21R22、CN、OH、OR21、COCR21、OOCNH2、OOCNHR21、OOCNR21R22、NO2、NH2、NHR21、NR21R22、NHCOR22、NR21COR22、N=CH2、N=CHR21、N=CR21R22、SH、SR21、SOR21、SO2R21、SO3R21、SO3H、SO3-、SO2NH2、SO2NHR21またはSO2NR21R22である;
且つ、R12とR13、R13とR14、R14とR15、R17とR18、R18とR19、及びR19とR20からなる群から選ばれる少なくとも1つの組み合わせは、互いに直接結合し、または酸素原子、硫黄原子、NH若しくはNR21ブリッジによって互いに結合することもできる;
R21およびR22は互いに独立して、炭素数1~12のアルキル基、炭素数3~12のシクロアルキル基、炭素数2~12のアルケニル基、炭素数3~12のシクロアルケニル基または炭素数2~12のアルキニル基である。)
【化2】
[図:0001409151000002.jpg]
(上記一般式(I)中、
R1は、置換基を有していてもよい芳香族環基を表す。
R2は、置換基を有していてもよいアルカノイル基、又は置換基を有していてもよいアリーロイル基を表す。
R3は、水素原子、又は置換基を有していてもよいアルキル基を表す。
R4は、置換基を有していてもよい芳香族環基を表す。
R5及びR6は各々独立に、置換基を有していてもよいベンゼン環、又は置換基を有していてもよいナフタレン環を表す。ただし、R5及びR6の少なくともいずれか1つは、置換基を有していてもよいナフタレン環である。
R1及びR4の少なくともいずれか1つは、置換基として-OR7基を有する。ただしR7はハロゲノアルキル基を表す。
Xは、直接結合、又はカルボニル基を表す。
Zは、直接結合、又はカルボニル基を表す。)
【請求項2】
前記(a)着色剤が、カーボンブラックを含有する、請求項1に記載の感光性着色組成物。
【請求項3】
前記(a)着色剤100質量部に対するカーボンブラックの含有割合が、5質量部以上50質量部以下である、請求項2に記載の感光性着色組成物。
【請求項4】
硬化した塗膜の膜厚1μm当たりの光学濃度が1.0以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の感光性着色組成物。
【請求項5】
フォトリソグラフィー法により高さの異なる着色スペーサーを一括形成するために用いる、請求項1~4のいずれか1項に記載の感光性着色組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の感光性着色組成物を硬化して得られる硬化物。
【請求項7】
請求項6に記載の硬化物から形成される着色スペーサー。
【請求項8】
請求項7に記載の着色スペーサーを備える画像表示装置。
第3 特許異議申立ての概要
1 証拠方法
特許異議申立人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。
甲第1号証の1:国際公開第2012/045736号
甲第1号証の2:特表2014-500852号公報(甲第1号証の1の公表特許公報であり、本件特許出願の審査段階における令和4年12月12日付け拒絶理由通知書で引用された文献1)
甲第2号証の1:国際公開第2013/083505号
甲第2号証の2:特表2015-509074号公報(甲第2号証の1の公表特許公報)
甲第3号証:特開2014-146029号公報(同拒絶理由通知書で引用された文献2)
甲第4号証:国際公開第2014/103628号
甲第5号証:国際公開第2013/115268号
甲第6号証:国際公開第2014/208348号
以下、「甲第1号証の2」を「甲1」、「甲第2号証の2」を「甲2」、「甲第3号証」~「甲第6号証」をそれぞれ「甲3」~「甲6」という。
2 申立て理由の概要
特許異議申立人が主張する特許異議の申立て理由は、概略、以下のとおりである。
(1) 申立て理由1:特許法29条2項(同法113条2号)
本件特許発明1~8は、甲1~甲5に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
(2) 申立て理由2:特許法36条4項1号(同法113条4号)
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件出願の請求項1~8に係る特許を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから、本件特許は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(3) 申立て理由3:特許法36条6項1号(同法113条4号)
本件特許発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものでないから、本件特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(申立て理由1において、甲1~甲4は、それぞれ主引用文献であり、副引用文献としても用いられるものである。また、甲5は副引用文献または技術常識を示す文献であり、甲6は技術常識を示す文献である。以下、甲1~甲4を主引用文献とした申立て理由1を、それぞれ、「申立て理由1-1」~「申立て理由1-4」という。)
第4 当合議体の判断
1 申立て理由1-1(甲1を主引用文献、甲3~甲5を副引用文献とした進歩性)
(1) 甲1発明
ア 甲1の【0413】には、「25%のプロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセテート(PGMEA)溶液としての、ベンジルメタクリレートおよびメタクリル酸のコポリマー(ベンジルメタクリレート:メタクリル酸=80質量%:20質量%)を、200.0質量部」、「ジペンタエリトリトールヘキサアクリレート((DPHA)、UCB-Chemicalsによって提供)を、50.0質量部」、「光開始剤を、1.0質量部」、「PGMEAを、150.0質量部」「の成分の混合によって製造」された「感受性試験のための光硬化性組成物」が記載されている。
イ ここで、甲1の【0414】には、上記「感受性試験」の具体的な工程が記載されるとともに、「使用される開始剤の感度は、現像後に残る(すなわち重合される)最高のステップ数を示すことによって特徴付けられる。ステップ数が高ければ高いほど、試験された開始剤の感度はより高い。結果を、第3表に示す。」と記載され、【0415】~【0417】に示される第3表(【表14】~【表16】)では、「光開始剤」の「例1」~「例76」のそれぞれに対応する「再現されたステップ数」が記載されている。
そうすると、上記アの「感受性試験」とは、上記「光硬化性組成物」に混合された「開始剤」(光開始剤)の「感受性」を「試験」するものであることは明らかであり、甲1の【0415】~【0417】に示される第3表(【表14】~【表16】)が意味するところは、上記「光硬化性組成物」における「光開始剤」として、「例1」~「例76」の「光開始剤」を選択した各「光硬化性組成物」を用いて「感受性試験」を行った際の「再現されたステップ数」(すなわち、「感受性試験」の結果)を示すものと解される。
ウ 一方、上記「例1」~「例76」の「光開始剤」の化合物の詳細が甲1の【0327】~【0400】に記載されているところ、「例24」の「光開始剤」は、【0344】~【0345】の第2表(【表4】)より、以下の化学式で示されるものである。
「
[図:0001409151000003.jpg]
ここで、R1は以下である。
[図:0001409151000004.jpg]
」
エ 上記ア~ウを総合すると、甲1には、「感受性試験」の対象を「例24」の「光開始剤」とした、次の「感受性試験のための光硬化性組成物」の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「25%のプロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセテート(PGMEA)溶液としての、ベンジルメタクリレートおよびメタクリル酸のコポリマー(ベンジルメタクリレート:メタクリル酸=80質量%:20質量%)を、200.0質量部、ジペンタエリトリトールヘキサアクリレート((DPHA)、UCB-Chemicalsによって提供)を、50.0質量部、以下の化学式で示される例24の光開始剤を、1.0質量部、PGMEAを、150.0質量部の成分の混合によって製造された感受性試験のための光硬化性組成物。
[図:0001409151000005.jpg]
ここで、R1は以下である。
[図:0001409151000006.jpg]
」
(2) 甲3に記載された技術的事項
甲3には、次の技術的事項が開示されていると認められる。
ア 甲3に記載された発明の技術分野は、「パッシベーション層、層間誘電体、スペーサー、有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイまたは液晶ディスプレイ(LCD)のパネルに用いられる遮光部分、および該組成物から形成された硬化層、特にカラムスペーサーとブラックマトリックスが1つの本体に組み込まれたブラックカラムスペーサー(BCS)を形成するのに適した着色感光性樹脂組成物に関する」こと(【0001】)。
イ 甲3に記載された発明が解決しようとする課題は、カラムスペーサーおよびブラックマトリックスの特性を同時に満たす、着色感光性樹脂組成物を提供することである点(【0006】)。
ウ 上記イの課題を解決するための手段が、以下の「着色感光性樹脂組成物」であること。
「(a)共重合体と;
(b)エポキシ樹脂化合物またはそれから誘導された化合物と;
(c)重合可能な化合物と;
(d)光重合開始剤と;
(e)着色感光性樹脂組成物の固形分の総重量に基づいて、0~5重量%の無機黒色着色剤、10~40重量%の有機黒色着色剤、および1~15重量%の青色着色剤を含む着色剤と
を含む、着色感光性樹脂組成物。」(【請求項1】)
エ 上記ウの「着色感光性樹脂組成物」に含まれる「(d)光重合開始剤」として、任意の公知の重合開始剤を使用することができ、上記「着色感光性樹脂組成物」の発明を具現化した実施例1~6では、オキシム系光開始剤(OXE-02、Ciba社)が用いられていること(【0046】、【0089】)。
オ 上記ウの「着色感光性樹脂組成物」に含まれる「(e)着色感光性樹脂組成物の固形分の総重量に基づいて、0~5重量%の無機黒色着色剤、10~40重量%の有機黒色着色剤、および1~15重量%の青色着色剤を含む着色剤」における「有機黒色着色剤」として、「当分野で公知のいずれの」「黒色有機着色剤」「も使用され得」、「特定の例としては、アニリンブラック、ラクタムブラック、ペリレンブラック、および同類のものを挙げることができ」、「それらの中で好ましいものは、望ましい光学濃度、透過性、透過率、および同類のもののためにラクタムブラック(例えば、FASF社のブラック582)であ」り、上記「実施例1~6」では、「BASF社のラクタムブラック(ブラック582)」を用いたこと(【0053】、【0055】、【0088】)。
(合議体注:甲3における上記「FASF社」は「BASF社」の誤記と認められる。)
(3) 甲4に記載された技術的事項
甲4には、次の技術的事項が開示されていると認められる。
ア 甲4に記載された発明の技術分野は、「カラーフィルタ用組成物、赤外線透過フィルタ及びその製造方法、並びに赤外線センサーに関する」こと([0001])。
イ 甲4に記載された発明が解決しようとする課題は、「非常に薄くても(例えば厚さが0.5μm)、可視光成分に由来のノイズが少ない状態で、赤外線(特に近赤外線)を透過可能な赤外線透過フィルタを作成可能なカラーフィルタ用組成物、並びに、これを用いた、赤外線透過フィルタ、赤外線透過フィルタの製造方法、及び、赤外線センサーを提供すること」([0008])。
ウ 上記イの課題を解決するための手段は、甲4の[請求項1]として特定される「近赤外透過黒色色材を含有する、カラーフィルタ用組成物」であること。
エ 上記ウの「近赤外透過黒色色材を含有する、カラーフィルタ用組成物」における「近赤外透過黒色色材は、」「近赤外透過黒色顔料であることが好まし」く、「近赤外透過黒色顔料としては、ビスベンゾフラノン系顔料、アゾメチン系顔料、ペリレン系顔料などを好適に挙げることができ」、「ビスベンゾフラノン系顔料であることが更に好まし」く、「ビスベンゾフラノン系顔料としては、」「例えば、BASF社製の「IRGAPHOR BK」として入手可能であ」り、「IRGAPHOR BK」が以下の構造を有すること([0019]~[0023])。
[図:0001409151000007.jpg]
オ 上記ウの「近赤外透過黒色色材を含有する、カラーフィルタ用組成物」の発明を具現化した「実施例1」の「着色感放射線性組成物」に含まれる「顔料分散液B-1」には、「色材」として「BASF社製のIRGAPHOR BK」を用いたこと([0242]、[0245][表1]の表1、[0254]~[0255][表3]の表2)。
カ 上記「カラーフィルタ用組成物」は、「(C)光重合開始剤を含むことが好まし」く、「光重合開始剤としては、前記重合性化合物の重合を開始する能力を有する限り、特に制限はなく、公知の光重合開始剤の中から適宜選択することができ」、「より好ましくはオキシム化合物が挙げられ」、「組成物が、重合開始剤としてオキシム化合物を含有することにより、組成物の塗布から露光までの時間(PCD:Post Coating Delay)に対するパターンの特性依存性」「が良好なものとなる」こと([0065]~[0066]、[0073])。
キ 上記ウの「近赤外透過黒色色材を含有する、カラーフィルタ用組成物」の発明を具現化した「実施例1」の「着色感放射線性組成物」には以下に示される「光重合開始剤1」が含まれること([0242]、[0254]~[0255][表3]の表2、[0265][化31])。
[図:0001409151000008.jpg]
(4) 甲5及び甲6に記載された技術的事項
甲5には、次の技術的事項が開示されていると認められる。
ア 甲5に記載される発明の技術分野は、「着色感光性組成物等」、「詳しくは、例えば液晶ディスプレイ等のカラーフィルターにおいてブラックフォトスペーサー等の形成に好ましく用いられる着色感光性組成物及びこの着色感光性組成物を用いて形成されたブラックフォトスペーサーとこのブラックフォトスペーサーを含むカラーフィルターに関する」こと([0001])。
イ 甲5に記載される発明が解決しようとする主たる課題は、「フォトリソグラフィー法により高さの異なるブラックフォトスペーサーを一括形成する方法において、遮光性と液晶の電圧保持率を確保した上で、形状や段差のコントロールが可能で、基板との密着性に優れたブラックフォトスペーサーを形成し得る着色感光性組成物を提供すること」([0009])。
ウ 上記イの課題を解決するための手段は、甲5の[請求項1]として特定される「顔料、バインダー樹脂、光重合性モノマー、及び光重合開始剤を含む着色感光性組成物であって、前記顔料が、下記(A)に示す顔料及び(B)に示す顔料を含む着色感光性組成物。
(A)C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.ピグメントオレンジ64、及びC.I.ピグメントオレンジ72からなる群より選ばれる1つ
(B)C.I.ピグメントブルー60」であること。
エ 上記ウの「着色感光性組成物」における「顔料」には「更に、黒色顔料や、その他の無機又は有機の顔料、染料の中から適宜選択して併用することができ」、黒色顔料として使用できる顔料の具体例として、「Irgaphor Black S 0100 CF(BASF社製)」([0022]~[0023]、[0030])が例示されること。
また、甲6に記載されるように、以下の事項は先の出願前において技術常識と認められる。
オ 遮光性を有する感光性樹脂組成物に含有させる黒色顔料に「BASF社製“IrgaphorBlackS0100CF”」([0064]等)を用いること。
(5) 本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
(ア) (b)アルカリ可溶性樹脂
甲1発明の「ベンジルメタクリレートおよびメタクリル酸のコポリマー(ベンジルメタクリレート:メタクリル酸=80質量%:20質量%)」は、原料となるモノマー成分としてメタクリル酸を用いていることから、カルボキシル基を含むコポリマー(樹脂)である。そうすると甲1発明の「ベンジルメタクリレートおよびメタクリル酸のコポリマー(ベンジルメタクリレート:メタクリル酸=80質量%:20質量%)」は、本件特許発明1の「(b)アルカリ可溶性樹脂」に相当する。
(イ) (c)光重合開始剤
甲1発明の「例24の光開始剤」は、甲1の「本発明は、特定のカルバゾール誘導体を基礎とする新規のオキシムエステル化合物ならびに前記化合物の光重合性の組成物における光開始剤としての使用に関する」(【0001】)の記載やその機能からみて、「光重合」の「開始剤」であることは明らかであるから、本件特許発明1の「(c)光重合開始剤」に相当する。
また、甲1発明の「例24の光開始剤」は、以下の化学式で表されるものであることから、
[図:0001409151000009.jpg]
ここで、R1は以下である。
[図:0001409151000010.jpg]
本件特許発明1の「一般式(I)で表されるオキシムエステル系化合物」に相当する。
具体的には、「例24の光開始剤」は、本件特許発明1の「一般式(I)」における
「R1」が以下の構造であり(これは、一般式(I)の「R1及びR4の少なくともいずれか1つは、置換基として-OR7基を有する。ただしR7はハロゲノアルキル基を表す」との要件を満たす)、
[図:0001409151000011.jpg]
「R2」がアセチル基であり、
「R3」が以下の構造の分岐アルキル基であり、
[図:0001409151000012.jpg]
「R4」が2,4,6-トリメチルフェニル基であり、
「R5」がナフタレン環、「R6」がベンゼン環であり(これは、一般式(I)の「R5及びR6は各々独立に、置換基を有していてもよいベンゼン環、又は置換基を有していてもよいナフタレン環を表す。ただし、R5及びR6の少なくともいずれか1つは、置換基を有していてもよいナフタレン環である」との要件を満たす。)、
「X」がカルボニル基であり、
「Z」が直接結合である、
化合物に該当する。
したがって、甲1発明の「光開始剤」は、本件特許発明1の「前記(c)光重合開始剤が、下記式(I)で表される」との要件を満たす、「オキシムエステル系化合物」に相当する。
(ウ) (d)エチレン性不飽和化合物
甲1発明の「ジペンタエリトリトールヘキサアクリレート(DPHA)」は、分子中に「エチレン性不飽和基」を有する化合物であるから、本件特許発明1の「(d)エチレン性不飽和化合物」に相当する。
(エ) (e)溶剤
甲1発明の「プロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセテート(PGMEA)」は、本件特許発明1の「(e)溶剤」に相当する。
(オ) 感光性着色組成物
甲1発明の「光硬化性組成物」は、「プロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセテート(PGMEA)溶液としての、ベンジルメタクリレートおよびメタクリル酸のコポリマー」「を、200.0質量部、ジペンタエリトリトールヘキサアクリレート」「を、50.0質量部、」「例24の光開始剤を、1.0質量部、PGMEAを、150.0質量部の成分の混合によって製造された」「感受性試験のための光硬化性組成物」である。
上記(ア)~(エ)の対比結果並びに上記組成及び試験の目的に照らせば、本件特許発明1と甲1発明とは、「(b)アルカリ可溶性樹脂、(c)光重合開始剤、(d)エチレン性不飽和化合物、及び(e)溶剤を含有する感光性組成物」である点で共通する。
(カ) 一致点及び相違点
上記(ア)~(オ)によれば、本件特許発明1と甲1発明とは、
「(b)アルカリ可溶性樹脂、(c)光重合開始剤、(d)エチレン性不飽和化合物、及び(e)溶剤を含有する感光性組成物であって、
前記(c)光重合開始剤が、下記式(I)で表されるオキシムエステル系化合物を含む感光性組成物。」
(当合議体注:「下記式(I)」は,前記「第2 本件特許発明」の【請求項1】に記載のとおりのものである。以下、「式(I)」の化学式の摘記を省略することがある。)
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1-1)
本件特許発明1は「(a)着色剤」を含有する「感光性着色組成物」であって、「前記(a)着色剤が、下記式(1)で表される化合物、その幾何異性体、その塩、またはその幾何異性体の塩を含有し、」「前記(a)着色剤の含有量が、感光性着色組成物中の全固形分量に対して10質量%以上60質量%以下であ」るのに対し、甲1発明は着色剤を含まない点。
(当合議体注:「下記式(1)」は,前記「第2 本件特許発明」の【請求項1】に記載のとおりのものである。以下、「式(1)」の化学式の摘記を省略することがある。)
(相違点1-2)
本件特許発明1は「前記(c)光重合開始剤の含有割合が、感光性着色組成物の全固形分量に対して2質量%以上8質量%以下である」のに対し、甲1発明は「光硬化性組成物」中の全固形分に占める「光開始剤」の含有割合は「0.99質量%」である点。
(合議体注:甲1発明の「光硬化性組成物」中の全固形分に占める「光開始剤」の含有割合は、特許異議申立書の第88頁に示されるとおり「0.99質量%」と認められる。)
(相違点1-3)
本件特許発明1は、「(f)分散剤を含有する」のに対し、甲1発明は分散剤を含まない点。
イ 判断
相違点1-1について検討する。
(ア) 甲1発明は、「感受性試験」の対象が「例24の光開始剤」である「感受性試験のための光硬化性組成物」の発明である。
(イ) そして、甲1(【0416】【表15】)には、「例24の光開始剤」を対象とした「感受性試験」の結果が、「17」(再現されたステップ数)であったこと及びその他の光開始剤(例1~例23、例25~76)を対象とした結果が「16」~「19」であったことが記載されている。これらの記載によれば、甲1発明の「例24の光開始剤」が他の例と同程度の感度を有することが理解される。
(ウ) 他方、甲1に記載された発明の技術分野は、「特定のカルバゾール誘導体を基礎とする新規のオキシムエステル化合物ならびに前記化合物の光重合性の組成物における光開始剤としての使用に関する」(【0001】)ものである。そして、甲1には、「光重合性の組成物を、様々な目的のために」「使用できる」ことが記載され(【0177】)、多様な目的(用途)が例示される中、カラーフィルター(【0177】、【0186】等)、液晶ディスプレイパネルにおける液晶部のセル間隔を制御するスペーサー(【0275】等)への使用は前記様々な目的(用途)のうちの一つにすぎないことが理解される。
(エ) 以上を踏まえて、甲1発明に基づいて上記相違点1-1に係る構成へ当業者が容易に想到し得たといえるかについて検討する。
まず、上記(ア)及び(イ)で説示したとおり、甲1の上記各記載に接した当業者であれば、「例24の光開始剤」が他の例の光開始剤と同等の一定の感度を有することから、「例24の光開始剤」を含有する「光重合性の組成物」が、上記様々な目的のために使用できることまでは理解するが、甲1に例示された多様な目的(用途)の中から、ある特定の目的(用途)に着目し、当該特定の目的(用途)に適した「光重合性の組成物」となるように成分調整を行うという積極的な動機づけを見いだすことができない。
また、このことは、甲3~甲5の開示内容を検討しても同様である。すなわち、甲3には、カラムスペーサーとブラックマトリックスが1つの本体に組み込まれたブラックカラムスペーサー(BCS)を形成するのに適した着色感光性樹脂組成物に用いられる有機黒色着色剤として、ラクタムブラック(例えば、FASF社のブラック582)が、光学濃度、透過性、透過率等の観点から好ましいことが記載され(上記(2)イ、ウ、オ)、甲4には、赤外線(特に近赤外線)を透過可能な赤外線透過フィルタを作成可能なカラーフィルタ用組成物に含有される近赤外透過黒色色材は、例えば、BASF社製の「IRGAPHOR BK」として入手可能であるビスベンゾフラノン系顔料好ましいことが記載され(上記(3)イ~オ)、甲5には、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターにおいてブラックフォトスペーサー等の形成に用いられる着色感光性組成物において、黒色顔料として「Irgaphor Black S 0100 CF(BASF社製)」が用いられることが好ましいこと(上記(4)イ~エ)が記載されていたとしても、甲1発明を改良にあたっての出発点としたときに、「ブラックカラムスペーサー(BCS)」や「赤外線(特に近赤外線)を透過可能な赤外線透過フィルタを作成可能なカラーフィルタ」といった特定の目的(用途)に着目し、当該選択した特定の目的(用途)に適した「光重合性の組成物」となるように成分調整を行う動機づけを見いだすことはできない。
したがって、当業者が、甲1発明に甲3~甲5に記載される技術的事項を適用して上記相違点1-1に係る本件特許発明1の構成に想到することが容易であったとはいえない。なお、このことは、上記(4)オで説示した甲6に記載された技術常識を考慮しても変わらない。
加えて、上記判断は本件特許発明の効果の観点からも首肯されることである。すなわち、本件特許明細書の【0054】~【0072】、【0093】~【0096】の記載や、本件特許発明を具現化した具体例である実施例3と比較例4との対比(【0444】~【0446】)の結果等より、「(c)光重合開始剤」として「式(I)で表されるオキシムエステル系化合物」と、「(a)着色剤」に含有される顔料として「式(1)で表される化合物、その幾何異性体、その塩、またはその幾何異性体の塩」とを組み合わせて用いたものは、「単位ODが高く遮光性に優れ、表面平滑性に優れ」、「中間透過開口部の基板密着性も良好」(【0446】)という効果を奏するものと認められる。また、同様の効果は、上記実施例3と、本件特許の審査段階において出願人より提出された意見書(提出日:令和5年2月8日)で示された、「式(1)で表される化合物、その幾何異性体、その塩、またはその幾何異性体の塩」とは異なる有機黒色顔料を用いた「追加実験例」(実施例3と同一の光開始剤を用いた実験例である。)との対比結果(同意見書における下記表Bを参照。)からも確認することができる。
[図:0001409151000013.jpg]
してみれば、本件特許発明1は、「(c)光重合開始剤」として「式(I)で表されるオキシムエステル系化合物」と、「(a)着色剤」に含有される顔料として「式(1)で表される化合物、その幾何異性体、その塩、またはその幾何異性体の塩」とを組み合わせて用いたことによって、格別な効果を生じるものであって、この効果は甲1、甲3~甲5の記載及び先の出願前の技術常識に基づいて、当業者が予測することができたとはいえない顕著なものといえる。
ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書(特に、第89~94頁)において、上記相違点1-1の容易想到性について、
- 甲1には、「カラーフィルターのブラックマトリックスの用途に用いる着色組成物として、黒色顔料を含有させる記載があり、さらに、C.I.ピグメントブラック1、7、31などの有機黒色顔料を含有させることも記載されている」こと、および
- 甲1には、「甲1発明の着色組成物をカラーフィルターのブラックマトリックスの用途や、液晶ディスプレイ用のスペーサー、すなわちブラックフォトスペーサーやブラックカラムスペーサーの用途に用いることの記載がある」こと、
等をあげ、
「本件特許発明1の構成要件1A-2である特定構造の有機黒色顔料は、本件の出願前において当業者にとって周知であ」り、「甲1発明、甲3発明、甲4発明、及び甲5発明はいずれも、黒色顔料を含有する着色組成物である点で共通の技術分野に属する発明であ」り、「さらに、甲1発明、甲3発明、甲4発明、及び甲5発明はいずれも、カラーフィルターのブラックマトリックスの用途や、液晶ディスプレイ用のブラックフォトスペーサーやブラックカラムスペーサーの用途、又はカラーフィルターの用途に用いられる点などにおいても、共通の技術分野に属する発明である」ことから、「甲第3号証、甲第4号証、及び甲第5号証による上記開示に基づき、甲1発明の着色組成物に上記の特定構造の有機黒色顔料を含有させて本件特許発明1の構成要件を満たすことは、当業者にとって公知材料の中からの最適材料の選択、あるいは設計変更や設計的事項の採用の範疇であり、当業者にとって特段の困難性はない」と主張する。
しかしながら、甲3~5に記載された技術的事項を甲1発明に適用して上記相違点1-1に係る本件特許発明1の構成に想到することが容易であったといえないことは、上記イで説示したとおりである。すなわち、特定の光重合開始剤と特定の有機黒色顔料を組み合わせたことによる効果(表面平滑性に優れ、かつ、中間通過開口部の基板密着性が良好であるという効果)が、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができない顕著なものであることは上記イで説示したとおりであるから、仮に上記相違点1-1に係る「式(1)で表される化合物、その幾何異性体、その塩、またはその幾何異性体の塩を含有」する「着色剤」自体が、先の出願前において当業者に周知であったとしても、上記イの判断を左右しない。
したがって、上記主張を採用することはできない。
エ 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、相違点1-2、相違点1-3について検討するまでもなく、甲1発明及び特許異議申立人が提出したいずれの証拠の記載に基づいても当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(6) 本件特許発明2~8について
本件特許の特許請求の範囲の請求項2~8は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明2~8は、本件特許発明1の構成を全て具備するものである。
そうすると、上記(5)のとおり、本件特許発明1が、甲1発明及び特許異議申立人が提出したいずれの証拠の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、本件特許発明2~8も、甲1発明及び特許異議申立人が提出したいずれの証拠の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 申立て理由1-2(本件特許発明1~8に対する甲2を主引用文献、甲3~甲5を副引用文献とした進歩性)
(1) 甲2発明
ア 甲2の【0370】には、「200.0質量部の、」「25%のプロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセテート(PGMEA)溶液としての、ベンジルメタクリレートおよびメタクリル酸のコポリマー(ベンジルメタクリレート:メタクリル酸=質量に対して、80:20)」、「50.0質量部の、ジペンタエリトリトールヘキサアクリレート((DPHA)、UCB-Chemicalsによって提供)」、「1.0質量部の、光開始剤」、「150.0質量部の、PGMEA」「を混合することによって製造される」「感度試験用の光硬化性組成物」が記載されている。
イ ここで、甲2の【0371】には、上記「感度試験」の具体的な工程、【0372】の第2表(【表6】)にその結果が示されているが、これは、上記1(1)で説示した甲1の「感受性試験」と同様のものである。そして、甲2の第2表(【表6】)には、「以下の例の光開始剤」として、「1」~「3」と記載されていることから、甲2では、上記「光硬化性組成物」における「光開始剤」として、「例1」~「例3」の「光開始剤」を選択したことが理解される。
ウ そして、上記「例1」の「光開始剤」の化合物は、甲2の【0318】~【0328】より、以下の化学式で示されるものである。
[図:0001409151000014.jpg]
エ 上記ア~ウを総合すると、甲2には、「感度試験」の対象を「例1」の「光開始剤」とした、次の「感度試験用の光硬化性組成物」の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。
「200.0質量部の、25%のプロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセテート(PGMEA)溶液としての、ベンジルメタクリレートおよびメタクリル酸のコポリマー(ベンジルメタクリレート:メタクリル酸=質量に対して、80:20)、50.0質量部の、ジペンタエリトリトールヘキサアクリレート((DPHA)、UCB-Chemicalsによって提供)、1.0質量部の、以下の化学式で示される例1の光開始剤、150.0質量部の、PGMEAを混合することによって製造される感度試験用の光硬化性組成物。
[図:0001409151000015.jpg]
」
(2) 甲3~6に記載された技術的事項
甲3~6に記載された発明及び技術的事項は、上記1(2)~(4)で説示したとおりのものである。
(3) 本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲2発明とを対比する。
(ア) (b)アルカリ可溶性樹脂、(d)エチレン性不飽和化合物、(e)溶剤、感光性着色組成物
甲2発明は、「光開始剤」の化合物の構造を除いて、甲1発明と同様のものである。
したがって、上記1(5)ア(ア)、(ウ)、(エ)で説示したとおり、甲2発明の「ベンジルメタクリレートおよびメタクリル酸のコポリマー(ベンジルメタクリレート:メタクリル酸=質量に対して、80:20)」、「ジペンタエリトリトールヘキサアクリレート((DPHA)、UCB-Chemicalsによって提供)」、「プロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセテート(PGMEA)」は、それぞれ、本件特許発明1の「(b)アルカリ可溶性樹脂」、「(d)エチレン性不飽和化合物」、「(e)溶剤」に相当する。
また、上記1(5)ア(オ)で説示したとおり、甲2発明の「光硬化性組成物」は、本件特許発明1の「感光性着色組成物」と、「感光性」「組成物」である点で共通する。
(イ) (c)光重合開始剤
甲2発明の「例1の光開始剤」は、その機能からみて、本件特許発明1の「(c)光重合開始剤」に相当する。
そして、その化学構造からみて、甲2発明の「例1の光開始剤」は、本件特許発明1の「前記(c)光重合開始剤が、下記式(I)で表される」との要件を満たす、「オキシムエステル系化合物」に相当する。
具体的には、一般式(I)における
「R1」が以下の実線で囲まれた構造であり、
[図:0001409151000016.jpg]
(当合議体注:上記化学式における実線は当合議体で付したものである。)
「R2」がアセチル基であり、
「R3」が以下の構造の分岐アルキル基であり、
[図:0001409151000017.jpg]
「R4」が2,4,6-トリメチルフェニル基であり、
「R5」がナフタレン環、「R6」がベンゼン環であり(これは、一般式(I)の「R5及びR6は各々独立に、置換基を有していてもよいベンゼン環、又は置換基を有していてもよいナフタレン環を表す。ただし、R5及びR6の少なくともいずれか1つは、置換基を有していてもよいナフタレン環である」との要件を満たす)、
「X」がカルボニル基であり、
「Z」が直接結合である、
化合物に該当する。
ここで、一般式(I)の「R7はハロゲノアルキル基を表す」との事項について、本件特許明細書の【0181】には「ハロゲノアルキル基が有していてもよい置換基としては、水酸基、アルコキシ基などが挙げられ、製造容易性の観点からは無置換であることが好ましい。」と記載されていることから、本件特許発明1の「式(I)中」の「R1及びR4の少なくともいずれか1つ」が「置換基として」「有する」「-OR7基」における「R7」とは、置換基を有しないハロゲノアルキル基である場合のみならず、置換基を有する場合も含むものと理解される。このような理解に基づくと、甲2発明における「例1の光開始剤」は、以下の破線を示した部分を「ハロゲノアルキル基」の「置換基」とみることができるから、「R1及びR4の少なくともいずれか1つは、置換基として-OR7基を有する。ただしR7はハロゲノアルキル基を表す」との要件を満たす。
[図:0001409151000018.jpg]
(当合議体注:上記化学式における破線は当合議体で付したものである。)
したがって、甲2発明は、本件特許発明1の「前記(c)光重合開始剤が、下記式(I)で表されるオキシムエステル系化合物を含み」との要件を満たす。
(ウ) 一致点及び相違点
以上の対比結果を踏まえると、本件特許発明1と甲2発明とは、
「(b)アルカリ可溶性樹脂、(c)光重合開始剤、(d)エチレン性不飽和化合物、及び(e)溶剤を含有する感光性組成物であって、
前記(c)光重合開始剤が、下記式(I)で表されるオキシムエステル系化合物を含むことを特徴とする、感光性組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点2-1)
本件特許発明1は「(a)着色剤」を含有する「感光性着色組成物」であって、「前記(a)着色剤が、下記式(1)で表される化合物、その幾何異性体、その塩、またはその幾何異性体の塩を含有し、」「前記(a)着色剤の含有量が、感光性着色組成物中の全固形分量に対して10質量%以上60質量%以下であ」るのに対し、甲2発明は着色剤を含まない点。
(相違点2-2)
本件特許発明1は「前記(c)光重合開始剤の含有割合が、感光性着色組成物の全固形分量に対して2質量%以上8質量%以下である」のに対し、甲2発明は「光硬化性組成物」中の全固形分に占める「光開始剤」の含有割合は「0.99質量%」である点。
(合議体注:甲2発明の「光硬化性組成物」中の全固形分に占める「光開始剤」の含有割合は、特許異議申立書の第97頁の計算式で算出されるとおり、「0.99質量%」と解される。)
(相違点2-3)
本件特許発明1は、「(f)分散剤を含有する」のに対し、甲2発明は分散剤を含まない点。
イ 判断
相違点2-1について検討する。
相違点2-1は、上記1(5)の相違点1-1と同様である。また、甲2発明は、甲1発明と同様に、光開始剤の感度試験(感受性試験)のための光硬化性組成物の発明である。
そして、甲2は甲1と同様、光重合性の組成物を、様々な目的のために使用できることが記載され(甲2の【0158】等)、多様な目的が例示される中、カラーフィルター(甲2の【0158】、【0166】等)、液晶ディスプレイパネルにおける液晶部のセル間隔を制御するスペーサー(甲2の【0255】等)に使用されることは記載されているものの、甲2の「例1の光開始剤」を特定の目的(用途)に用いることを示唆する記載はない。
してみれば、上記1(5)イで説示したのと同様の理由により、甲2発明において、甲2に例示される多様な目的(用途)の中から特定の目的(用途)を選択し、当該特定の目的(用途)に適した成分の「光重合性の組成物」とすることに動機を見いだすことができないから、甲2発明に甲3~5に記載された技術的事項を適用して上記相違点2-1に係る構成とすることが容易であったとはいえない。(なお、この点は、甲2における「例2」の「光開始剤」を「感度試験」の対象とした「感度試験用の光硬化性組成物」から主たる引用発明を認定したとしても同様である。)
また、本件特許発明の効果についても上記1(5)イ(エ)で説示したとおりであり、この効果は甲2~甲5の記載及び先の出願前の技術常識に基づいて、当業者が予測することができたとはいえない顕著なものといえる。
ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書(特に、第98~102頁)において、上記相違点2-1に関して、上記1(5)ウで説示したものと同様の主張をしているが、これについての判断は同様である。
加えて、特許異議申立人は、「また甲2発明の具体例である、甲第2号証の明細書段落[0373]の「感度試験用の光硬化性組成物」において、着色剤としてREGAL(登録商標)400ピグメントブラックを含むことの記載がある。」(特許異議申立書の第98~99頁)とも主張している。
しかしながら、、この記載が、上記「例1の光開始剤」を用いた「甲2発明」において、上記相違点2-1に係る構成を採用することの動機づけを与えるものとはいえないし、上記イおよび1(5)イ(エ)で説示したとおり、「(c)光重合開始剤」として「式(I)で表されるオキシムエステル系化合物」と、「(a)着色剤」に含有される顔料として「式(1)で表される化合物、その幾何異性体、その塩、またはその幾何異性体の塩」とを組み合わせた本件特許発明は、当業者に予測し得ない顕著な効果を奏するものである。
したがって、上記主張を採用することはできない。
エ 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、相違点2-2、相違点2-3について検討するまでもなく、甲2発明及び特許異議申立人が提出したいずれの証拠の記載に基づいても当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4) 本件特許発明2~8について
本件特許の特許請求の範囲の請求項2~8は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明2~8は、本件特許発明1の構成を全て具備するものである。
そうすると、上記(3)のとおり、本件特許発明1が、甲2発明及び特許異議申立人が提出したいずれの証拠の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、本件特許発明2~8も、甲2発明及び特許異議申立人が提出したいずれの証拠の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 申立て理由1-3(本件特許発明1~8に対する甲3を主引用文献、甲1~甲2を副引用文献とした進歩性)
(1) 甲3発明
ア 甲3の【0089】~【0090】には、「調製例1で得られる31%の固形分を有する共重合体、調製例2で得られるキサンテン構造を有するエポキシ樹脂から誘導される化合物、重合可能な化合物としてジペンタエリトリトールヘキサアクリレート(DPHA、日本化薬株式会社(NipponKayakuCo.))、および調製例3で得られる着色された分散体A~Cを、下の表3に記載される量で混合し」、「その上、光重合開始剤として0.04gのオキシム系光開始剤(OXE-02、Ciba社)、0.0082gの界面活性剤(BYK-333、BYK社)、および溶媒として7.5176gのPGMEAを従来法により混合し、5時間撹拌して」「調製した」「実施例1」の「着色感光性樹脂組成物」が記載されている。
イ 上記アにおける「表3に記載される量で混合」について、甲3の【0090】【表3】を参照すると、「実施例1」の「着色感光性樹脂組成物」は、「共重合体A:2.12g、調製例2の化合物:1.60g、重合可能な化合物:0.97g、着色された分散体A:0.84g、着色された分散体B:4.73g、着色された分散体C:2.10gの量で混合」したものであることが理解される。
ウ ここで、上記アにおける「調製例1で得られる」「共重合体」とは、甲3の【0083】~【0084】の記載より、「溶媒がPGMEAであり、共重合体を構成するモノマーがN-フェニルマレイミド:51モル%、スチレン:9モル%、グリシジルメタクリレート:10モル%、メタクリル酸:30モル%であり、共重合体のMwが11,000である共重合体A」であることが理解される。以下、この共重合体Aを、「調製例1で得られる重合体(共重合体)」という。
エ また、上記アにおける「調製例2で得られるキサンテン構造を有するエポキシ樹脂から誘導される化合物」とは、甲3の【0085】~【0087】の記載より、「125.4gのスピロ[フルオレン-9,9’-キサンテン]-3’,6’-ジオールおよび0.1386gのt-ブチルアンモニウムブロミドを、3000mL丸底フラスコに入れて混合し」、「78.6gのエピクロロヒドリンをさらにそれに添加し、混合物を90℃に加熱して反応を実施し」、「液体クロマトグラフィーを用いる分析により、スピロ[フルオレン-9,9’-キサンテン]-3’,6’-ジオールの完全な消費をもたらした後、反応体を30℃に冷却し、50%NaOH水溶液(3当量)をゆっくりと添加し」、「液体クロマトグラフィーを用いる分析により、エピクロロヒドリンの完全な消費をもたらした後、ジクロロメタンを用いて反応体を抽出し、3回洗浄し」、「有機層を、硫酸マグネシウムを用いて乾燥させ、ジクロロメタンを減圧下で留去し」、「ジクロロメタン/メタノール混合物溶媒(50:50、v/v)を用いて粗生成物を結晶化させ」「て得られる1当量のエポキシ系化合物に、0.004当量のt-ブチルアンモニウムブロミド、0.001当量の2,6-ジイソブチルフェノール、および2.2当量のアクリル酸を添加し」、「8.29gのPGMEA溶媒をその後それに添加し、その後溶液を混合し」「て調製される溶液の中に空気を25mL/分で吹き付け、溶液を90~100℃に加熱して反応体を溶解し」、「溶液が白色で濁っている場合、反応体を完全に溶解するために温度を120℃まで上昇させ」、「溶液が透明となり粘度が増加した時に溶液の酸値を測定し、酸値が1.0mgKOH/g未満に達するまで溶液を撹拌し」、「酸値が目標値(0.8)に達するまで、撹拌を11時間継続し」、「反応の完了後、反応器の温度は室温まで低下し」「て得られる」、「無色の透明な」「固体生成物43g、33.6gのアクリル酸、0.04gの2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、0.21gのテトラブチル酢酸アンモニウム、および18gのPGMEAを反応フラスコの中に入れ、混合物を120℃で13時間撹拌し」、「その後、反応体を室温まで冷却し、24gのPGMEAおよび10gの無水コハク酸をそれに添加し、その後混合物を100℃で3時間撹拌した。8gのビスフェノールZグリシジルエーテルをさらに混合物に添加し、混合物を120℃で4時間、90℃で3時間、60℃で2時間、そして40℃で5時間撹拌し」、「水およびアルコールへの再沈殿を実行して最終の樹脂を粉末の状態で得」、「次に、固形分が48%となるようにPGMEAを添加し」「て得られ」た「酸値は、105mgKOH/gであり、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定される、ポリスチレンを基準にした重量平均分子量(Mw)は5,500であ」る「樹脂」であることが理解される。
オ さらに、上記アにおける「調製例3で得られる着色された分散体A~C」について、甲3の【0088】の記載より、
-「着色された分散体A」はカーボンブラック(着色剤)100g、調製例1で得られる重合体(共重合体)4g、ポリマー分散剤(DISPERBYK-2000)(分散剤)19g、PGMEA(溶媒)377gの成分を混合したものであり、
-「着色された分散体B」はBASF社のラクタムブラック(ブラック582)(着色剤)100g、調製例1で得られる重合体(共重合体)15g、ポリマー分散剤(DISPERBYK-2000)(分散剤)15g、PGMEA(溶媒)370gの成分を混合したものであり、
-「着色された分散体C」はC.Iブルー15:6(着色剤)100g、調製例1で得られる重合体(共重合体)20g、ポリマー分散剤(DISPERBYK-2000)(分散剤)19g、PGMEA(溶媒)404gの成分を混合したもの、
とそれぞれ理解される。
カ 上記ア~オを総合すると、甲3には、実施例1として、以下に示す「着色感光性樹脂組成物」の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されている。
「溶媒がPGMEAであり、共重合体を構成するモノマーがN-フェニルマレイミド:51モル%、スチレン:9モル%、グリシジルメタクリレート:10モル%、メタクリル酸:30モル%であり、共重合体のMwが11,000であり、31%の固形分を有する調製例1で得られる重合体(共重合体):2.12g、
125.4gのスピロ[フルオレン-9,9’-キサンテン]-3’,6’-ジオールおよび0.1386gのt-ブチルアンモニウムブロミドを、3000mL丸底フラスコに入れて混合し、78.6gのエピクロロヒドリンをさらにそれに添加し、混合物を90℃に加熱して反応を実施し、液体クロマトグラフィーを用いる分析により、スピロ[フルオレン-9,9’-キサンテン]-3’,6’-ジオールの完全な消費をもたらした後、反応体を30℃に冷却し、50%NaOH水溶液(3当量)をゆっくりと添加し、液体クロマトグラフィーを用いる分析により、エピクロロヒドリンの完全な消費をもたらした後、ジクロロメタンを用いて反応体を抽出し、3回洗浄し、有機層を、硫酸マグネシウムを用いて乾燥させ、ジクロロメタンを減圧下で留去し、ジクロロメタン/メタノール混合物溶媒(50:50、v/v)を用いて粗生成物を結晶化させて得られる1当量のエポキシ系化合物に、0.004当量のt-ブチルアンモニウムブロミド、0.001当量の2,6-ジイソブチルフェノール、および2.2当量のアクリル酸を添加し、8.29gのPGMEA溶媒をその後それに添加し、その後溶液を混合して調製される溶液の中に空気を25mL/分で吹き付け、溶液を90~100℃に加熱して反応体を溶解し、溶液が白色で濁っている場合、反応体を完全に溶解するために温度を120℃まで上昇させ、溶液が透明となり粘度が増加した時に溶液の酸値を測定し、酸値が1.0mgKOH/g未満に達するまで溶液を撹拌し、酸値が目標値(0.8)に達するまで、撹拌を11時間継続し、反応の完了後、反応器の温度は室温まで低下して得られる、無色の透明な固体生成物43g、33.6gのアクリル酸、0.04gの2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、0.21gのテトラブチル酢酸アンモニウム、および18gのPGMEAを反応フラスコの中に入れ、混合物を120℃で13時間撹拌し、その後、反応体を室温まで冷却し、24gのPGMEAおよび10gの無水コハク酸をそれに添加し、その後混合物を100℃で3時間撹拌した。8gのビスフェノールZグリシジルエーテルをさらに混合物に添加し、混合物を120℃で4時間、90℃で3時間、60℃で2時間、そして40℃で5時間撹拌し、水およびアルコールへの再沈殿を実行して最終の樹脂を粉末の状態で得、次に、固形分が48%となるようにPGMEAを添加して得られた酸値は、105mgKOH/gであり、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定される、ポリスチレンを基準にした重量平均分子量(Mw)は5,500である樹脂であるキサンテン構造を有するエポキシ樹脂から誘導される化合物:1.60g、
重合可能な化合物としてジペンタエリトリトールヘキサアクリレート(DPHA、日本化薬株式会社(Nippon Kayaku Co.)):0.97g、
カーボンブラック(着色剤)100g、調製例1で得られる重合体(共重合体)4g、ポリマー分散剤(DISPERBYK-2000)(分散剤)19g、PGMEA(溶媒)377gの成分を混合したものである着色された分散体A:0.84g
BASF社のラクタムブラック(ブラック582)(着色剤)100g、調製例1で得られる重合体(共重合体)15g、ポリマー分散剤(DISPERBYK-2000)(分散剤)15g、PGMEA(溶媒)370gの成分を混合したものである着色された分散体B:4.73g
C.Iブルー15:6(着色剤)100g、調製例1で得られる重合体(共重合体)20g、ポリマー分散剤(DISPERBYK-2000)(分散剤)19g、PGMEA(溶媒)404gの成分を混合したものである着色された分散体C:2.10g
を、混合し、その上、光重合開始剤として0.04gのオキシム系光開始剤(OXE-02、Ciba社)、0.0082gの界面活性剤(BYK-333、BYK社)、および溶媒として7.5176gのPGMEAを従来法により混合し、5時間撹拌して調製した着色感光性樹脂組成物。」
が記載されている。
(2) 甲1及び甲2に記載された技術的事項
ア 甲1には、以下の技術的事項が記載されている。
(ア) 甲1の「本発明」の技術分野は、「特定のカルバゾール誘導体を基礎とする新規のオキシムエステル化合物ならびに前記化合物の光重合性の組成物における光開始剤としての使用に関する」(【0001】)こと。
(イ) 甲1の【請求項1】で特定される化合物を具現化した一例は、以下の化学式で表される「例24」の化合物であること(【0345】の第2表(【表4】))。
[図:0001409151000019.jpg]
ここで、「R1」は以下である。
[図:0001409151000020.jpg]
(ウ) 上記「例24」の化合物の光開始剤として「感受性試験」を行うための「感受性試験のための光硬化組成物」を製造し、その感受性試験を実施したこと(【0411】~【0416】)。
イ 甲2には、以下の技術的事項が記載されている。
(ア) 甲2の「本発明」の技術分野は、「特定のカルバゾール誘導体を基礎とする新規のオキシムエステル化合物ならびに当該化合物の、光重合性組成物における、特にフォトレジスト配合物における、例えばカラーフィルタ用途におけるブラックマトリクス用の樹脂における光開始剤としての使用に関する」(【0001】)こと。
(イ) 甲2の【請求項1】で特定される化合物を具現化した一例は、以下の化学式で表される「例1」、「例7」等の化合物であること(【0327】【化137】、【0364】の第1表(【表1】))。
「例1」の化合物
[図:0001409151000021.jpg]
「例7」の化合物
[図:0001409151000022.jpg]
(ウ) 上記「例1」の化合物の光開始剤として「例A2:感度試験」を行うための「感度試験用の光硬化組成物」を製造し、その感度試験を実施したこと(【0370】~【0372】)。
(エ) 「例A3:感度試験」を行うための「感度試験用の光硬化性組成物」は、「REGAL(登録商標)400ピグメントブラック(CABOTにより提供)」を成分に含むこと(【0373】~【0376】)。
(3) 本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲3発明とを対比する。
(ア) (a)着色剤
甲3発明における「カーボンブラック(着色剤)」、「BASF社のラクタムブラック(ブラック582)(着色剤)」、「C.Iブルー15:6(着色剤)」は、その機能から明らかなとおり、本件特許発明1の「着色剤」に相当する。
ここで、甲3発明の「BASF社のラクタムブラック(ブラック582)(着色剤)」について、例えば特開2023-145396号公報(以下「参考文献1」という。)の【0053】には、「後述する式(1)で表される化合物からなるベンゾジフラノン系黒色顔料の市販品として、“Irgaphor”(登録商標)BlackS0100CF、ExperimentalBlack582(以上、いずれもBASF社製)を好ましく用いることができる」と記載されるとともに、参考文献1の【0079】【化1】には、「式(1)」として以下の化学式が示されている。
[図:0001409151000023.jpg]
その名称や製造会社からみて、甲3発明の「BASF社のラクタムブラック(ブラック582)」と参考文献1の「ExperimentalBlack582」「(BASF社製)」は同じものであると推認されることから、甲3発明における「BASF社のラクタムブラック(ブラック582)(着色剤)」は、本件特許発明1の「式(1)で表される化合物」に相当するものであり、本件特許発明1の「前記(a)着色剤が、下記式(1)で表される化合物、その幾何異性体、その塩、またはその幾何異性体の塩を含有し」との要件を満たす。
また、甲3発明の「カーボンブラック(着色剤)」、「BASF社のラクタムブラック(ブラック582)(着色剤)」、「C.Iブルー15:6(着色剤)」の「実施例1の着色感光性樹脂組成物」の全固形分量に対する含有割合を計算すると、以下の計算式より31.6%となる。
計算式:
{0.84*(100/500)+4.73*(100/500)+2.10*(57/500)}/{2.12*0.31+1.60*0.48+0.97+0.84*(123/500)+4.73*(130/500)+2.10*(96/500)+0.04+0.0082}=0.316(31.6%)
したがって、甲3発明は、本件特許発明1の「前記(a)着色剤の含有量が、感光性着色組成物中の全固形分量に対して10質量%以上60質量%以下であり」との要件を満たす。
(イ) (b)アルカリ可溶性樹脂
甲3発明の「調製例1で得られる重合体(共重合体)」は、原料モノマーからみて本件特許発明1の「(b)アルカリ可溶性樹脂」に相当する。
(ウ) (c)光重合開始剤
甲3発明の「光重合開始剤として」「のオキシム系光開始剤(OXE-02、Ciba社)」は、その文言が意味するとおり、本件特許発明1の「(c)光重合開始剤」に相当する。
(エ) (d)エチレン性不飽和化合物
甲3発明の「重合可能な化合物としてジペンタエリトリトールヘキサアクリレート(DPHA、日本化薬株式会社(NipponKayakuCo.))」は、本件特許発明1の「(d)エチレン性不飽和化合物」に相当する。
(オ) (e)溶剤
甲3発明の「溶媒」である「PGMEA」は、本件特許発明1の「溶剤」に相当する。
(カ) (f)分散剤
甲3発明の「ポリマー分散剤(DISPERBYK-2000)(分散剤)」は、その文言が意味するとおり、本件特許発明1の「(f)分散剤」に相当する。
(キ) 感光性着色組成物
甲3発明の「着色感光性樹脂組成物」は、その記載からみて、本件特許発明1の「感光性着色組成物」に相当する。
(ク) 一致点及び相違点
以上の対比結果を踏まえると、本件特許発明1と甲3発明とは、
「(a)着色剤、(b)アルカリ可溶性樹脂、(c)光重合開始剤、(d)エチレン性不飽和化合物、(e)溶剤、及び(f)分散剤を含有する感光性着色組成物であって、
前記(a)着色剤が、下記式(1)で表される化合物、その幾何異性体、その塩、またはその幾何異性体の塩を含有し、
前記(a)着色剤の含有量が、感光性着色組成物中の全固形分量に対して10質量%以上60質量%以下であることを特徴とする、感光性着色組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点3-1)
本件特許発明1は「前記(c)光重合開始剤が、下記式(I)で表されるオキシムエステル系化合物を含」むのに対し、甲3発明はこれを含まない点。
(相違点3-2)
本件特許発明1は「前記(c)光重合開始剤の含有割合が、感光性着色組成物の全固形分量に対して2質量%以上8質量%以下である」のに対し、甲3発明は「着色感光性樹脂組成物」中の全固形分に占める「光重合開始剤」の含有割合は「1.0質量%」である点。
(合議体注:甲3発明の「着色感光性樹脂組成物」中の全固形分に占める「光重合開始剤」の含有割合は、以下の計算式より求めた。
計算式:
0.04/{2.12*0.31+1.60*0.48+0.97+0.84*(100+4*0.31+19*0.40)/500+4.73*(100+15*0.31+15*0.40)/500+2.10*(57+20*0.31+19*0.40)/500+0.04+0.0082}=0.010(1.0%)
なお、甲3の【0088】【表2】で用いた各試薬の固形分の割合について、「分散剤」として用いた「ポリマー分散剤(DISPERBYK-2000)」は40質量%(例えば、特開2005-234532号公報の【0072】等に基づく。)、その他(「着色剤」、「重合可能な化合物」、「光重合開始剤」、「界面活性剤」)は100質量%と仮定して、上記計算を行った。)
イ 判断
上記相違点3-1について検討する。
甲3には、「着色感光性樹脂組成物」に含まれる「光重合開始剤」について、「任意の公知の重合開始剤は、本発明において光重合開始剤として使用することができる」こと(【0046】)、「好ましいものは、・・・に開示されるオキシムである」こと(【0047】)、「市販の材料、例えばOXE-01およびOXE-02(Ciba社)、N-1919(ADEKA社)、および同類のものなどを、好ましくは高感受性および解像度のために使用することができる」こと(【0048】)がそれぞれ記載されている。しかしながら、光重合開始剤として多数のオキシムエステル系化合物が公知である中、上記相違点3-1に係る「式(I)で表されるオキシムエステル系化合物」を用いることを示唆する記載はない。
次に、甲1及び甲2について検討すると、甲1及び甲2には、「特定のカルバゾール誘導体を基礎とする新規のオキシムエステル化合物ならびに前記化合物の光重合性の組成物における光開始剤としての使用に関する」発明が記載され、当該オキシムエステル化合物の発明を具現化した例として、上記相違点3-1に係る「式(I)で表されるオキシムエステル系化合物」に相当する光開始剤が記載されている(甲1の例24、甲2の例1及び例7等)。
以上を踏まえて、甲3発明に基づいて上記相違点3-1に係る構成へ当業者が容易に想到し得たといえるかについて検討する。
甲1及び甲2の上記記載に接した当業者であれば、高感受性および高解像度とするために、甲3発明の「光重合開始剤」である「オキシム系光開始剤(OXE-02、Ciba社)」の材料変更を検討することまでは動機づけられるとしても、甲1及び甲2において、「光重合性の組成物における光開始剤として」「使用」される「特定のカルバゾール誘導体を基礎とする新規のオキシムエステル化合物」として例示された多数の化合物の中から本件特許発明1の式(I)で表される特定の例(甲1の例24、甲2の例1、例7等)を選択することまで動機づけるとはいえない(当合議体注:このことは、甲1及び甲2に、上記特定の例を選択する手がかりとなり得る記載が存在しないことからもいえることである。)。
また、上記1(5)イで説示したとおり、本件特許発明1は、甲3および甲1~甲2の記載及び先の出願前の技術常識に基づいて、当業者が予測することができたとはいえない顕著な効果を奏するものといえる。
したがって、甲3発明において、当業者が甲1及び甲2の技術的事項を適用して相違点3-1に係る本件特許発明1の構成に想到することが容易であったとはいえない。
ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書(特に、第104~109頁)において、上記相違点3-1における「前記(c)光重合開始剤が、下記式(I)で表されるオキシムエステル系化合物を含み」との構成について、
-当業者にとって、甲第3号証の明細書段落[0089]~[0090]の表3の実施例1に記載の「オキシム系の光重合開始剤としてOXE-02」に代えて、オキシム系の光重合開始剤として本件特許発明1の構成要件1C-2である特定構造の光重合開始剤に相当する、甲第1号証の明細書段落[0345]の表4の第2表に記載の「例24の化合物」を含有させることの示唆があること、
-当業者にとって、甲第3号証の明細書段落[0089]~[0090]の表3の実施例1に記載の「オキシム系の光重合開始剤としてOXE-02」に代えて、オキシム系の光重合開始剤として本件特許発明1の構成要件1C-2である特定構造の光重合開始剤に相当する、甲第2号証の明細書段落[0318]の製造例 例1で合成された明細書段落[0327]に記載の「例1の化合物」や、甲第2号証の明細書段落[0363]及び[0364]の表1に記載の「例7の化合物」を含有させることの示唆があること、
-本件特許発明1の構成要件1C-2である特定構造の光重合開始剤は、本件の出願前において当業者にとって周知であり、また着色顔料を含む着色組成物における遮光性の向上と高感度化との両立という技術課題は、本件の出願前において当業者にとって周知であり、さらに、光重合開始剤の最適化によるパターンの表面平滑性向上と基板への付着性向上という技術課題も、本件の出願前において当業者にとって周知であること、
-甲3発明、甲1発明、及び甲2発明はいずれも、黒色顔料を含有する着色組成物である点で共通の技術分野に属する発明であり、さらに、甲3発明、甲1発明、及び甲2発明はいずれも、カラーフィルターのブラックマトリックスの用途や、液晶ディスプレイ用のブラックフォトスペーサーやブラックカラムスペーサーの用途に用いられる点などにおいても、共通の技術分野に属する発明であること
等をあげ、
「甲第1号証及び甲第2号証による上記開示に基づき、甲3発明の着色組成物に上記の特定構造の光重合開始剤を含有させて本件特許発明1の構成要件を満たすことは、当業者にとって公知材料の中からの最適材料の選択、あるいは設計変更や設計的事項の採用の範疇であり、当業者にとって特段の困難性はない」旨を主張する。
しかし、この点は上記イで説示したとおり、甲3発明を出発点として設計変更を行うにあたって、甲3の記載から、「光重合開始剤」を「高感受性および解像度のために」設計変更を行うことまでは当業者に動機づけられたとしても、その際に、甲1及び甲2の「特定のカルバゾール誘導体を基礎とする新規のオキシムエステル化合物ならびに前記化合物の光重合性の組成物における光開始剤としての使用に関する」発明に包含される多様な化合物の中から、特定の例(甲1の例24、甲2の例1、例7等)の光開始剤を選択して用いるよう当業者が動機づけられるとはいえない。また、本件特許発明1が甲3および甲1~甲2の記載及び先の出願前の技術常識に基づいて、当業者が予測することができたとはいえない顕著な効果を奏することも上記イおよび1(5)イで説示したとおりである。
したがって、上記主張を採用することはできない。
エ 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、相違点3-2について検討するまでもなく、甲3発明及び特許異議申立人が提出したいずれの証拠の記載に基づいても当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4) 本件特許発明2~8について
本件特許の特許請求の範囲の請求項2~8は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明2~8は、本件特許発明1の構成を全て具備するものである。
そうすると、上記(3)のとおり、本件特許発明1が、甲3発明及び特許異議申立人が提出したいずれの証拠の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、本件特許発明2~8も、甲3発明及び特許異議申立人が提出したいずれの証拠の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
4 申立て理由1-4(本件特許発明1~8に対する甲4を主引用文献、甲1~甲2を副引用文献とした進歩性)
(1) 甲4発明
ア 甲4の[0254]~[0255]には、「下表2に記載の成分を下表2に記載の量で混合して」「調製した」「実施例1」の「着色感放射線性組成物」が記載されている。
イ ここで、上記アの「下表2に記載の成分を下表2に記載の量」とは、[0255]の表2([表3])における「実施例1」の列に記載される事項より、以下のとおりである。
顔料分散液B-1:92.3質量部
アルカリ可溶性樹脂1(固形分換算):0.2質量部
重合性化合物1(固形分換算):2質量部
重合性化合物2(固形分換算):0.6質量部
光重合開始剤1(1%PGMEA溶液):4.2質量部
重合禁止剤:0.001質量部
有機溶剤1:0.2質量部
ウ そして、上記イの「顔料分散液B-1」とは、甲4の[0242]より、「色材:BASF社製のIRGAPHOR BK 13.0部」、「分散剤:下記分散樹脂1 5.2部」、「有機溶剤:プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGMEA) 81.8部」「の混合液を、」「混合、分散して、」「調製した」ものであって、ここで、下記分散樹脂 1」は[0251][化25]に記載の以下のものである。
[図:0001409151000024.jpg]
エ 上記イの「アルカリ可溶性樹脂1」、「重合性化合物1」、「重合性化合物2」、「光重合開始剤1」、「重合禁止剤」、「有機溶剤1」は、それぞれ、甲4の[0256]~[0268]に記載されるとおり、以下の式で示されるものである。
アルカリ可溶性樹脂1:
[図:0001409151000025.jpg]
重合性化合物1:
[図:0001409151000026.jpg]
重合性化合物2:
[図:0001409151000027.jpg]
光重合開始剤1:
[図:0001409151000028.jpg]
重合禁止剤:p-メトキシフェノール
有機溶剤1:プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGMEA)
オ 上記ア~エを総合すると、甲4には、実施例1の「着色感放射線性組成物」として、以下の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されている。
「 -色材:BASF社製のIRGAPHOR BK 13.0部、分散剤:下記分散樹脂1 5.2部、有機溶剤:プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGMEA) 81.8部の混合液を、混合、分散して、調製した顔料分散液B-1:92.3質量部、
-アルカリ可溶性樹脂1(固形分換算):0.2質量部、
-重合性化合物1(固形分換算):2質量部、
-重合性化合物2(固形分換算):0.6質量部、
-光重合開始剤1(1%PGMEA溶液):4.2質量部、
-p-メトキシフェノール:0.001質量部、
-プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGMEA):0.2質量部、
で混合して調製したものであって、アルカリ可溶性樹脂1、重合性化合物1、重合性化合物2、光重合開始剤1はそれぞれ以下の式で示されるものである、実施例1の着色感放射線性組成物。
アルカリ可溶性樹脂1:
[図:0001409151000029.jpg]
重合性化合物1:
[図:0001409151000030.jpg]
重合性化合物2:
[図:0001409151000031.jpg]
光重合開始剤1:
[図:0001409151000032.jpg]
」
(2) 甲1及び2に記載された技術的事項
上記3(2)で説示したとおりである。
(3) 本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲4発明とを対比する。
(ア) (a)着色剤
甲4発明における「色材:BASF社製のIRGAPHOR BK」は、その「色材」との文言が意味するとおり、本件特許発明1の「(a)着色剤」に相当する。
そして、「色材:BASF社製のIRGAPHOR BK」は、甲4の[0023][化1]より、本件特許発明1の「式(1)で表される化合物」(トランス-トランス体)の幾何異性体(シス-シス体)に該当するから、結局、「式(1)で表される化合物、その幾何異性体、その塩、またはその幾何異性体の塩」に相当するといえる。
したがって、甲4発明は、本件特許発明1の「前記(a)着色剤が、下記式(1)で表される化合物、その幾何異性体、その塩、またはその幾何異性体の塩を含有し」との要件を満たす。
また、甲4発明における「色材:BASF社製のIRGAPHOR BK」の「着色感放射線性組成物」の全固形分量に対する含有割合を計算すると、以下の計算式より、59.6%である。
計算式:
(92.3*0.13)/{(92.3*0.182)+0.2+2+0.6+0.5+4.2*0.01+0.001}=0.596(59.6%)
そうすると、甲4発明は、本件特許発明1の「前記(a)着色剤の含有量が、感光性着色組成物中の全固形分量に対して10質量%以上60質量%以下であり」との要件も満たす。
(イ) (b)アルカリ可溶性樹脂
甲4発明における「アルカリ可溶性樹脂1」は、その記載から明らかなとおり、本件特許発明1の「(b)アルカリ可溶性樹脂」に相当する。
(ウ) (c)光重合開始剤
甲4発明における「光重合開始剤1」は、その記載から明らかなとおり、本件特許発明1の「(c)光重合開始剤」に相当する。
ここで、甲4発明における「光重合開始剤1」の「着色感放射線性組成物」の全固形分量に対する含有割合を計算すると、以下の計算式より、2.5%である。
計算式:
0.5/{(92.3*0.182)+0.2+2+0.6+0.5+4.2*0.01+0.001}=0.025(2.5%)
したがって、甲4発明は、本件特許発明1の「前記(c)光重合開始剤の含有割合が、感光性着色組成物の全固形分量に対して 2質量%以上 8質量%以下である」との要件を満たす。
(エ) (d)エチレン性不飽和化合物
甲4発明における「重合性化合物1」、「重合性化合物2」は、いずれもその分子内に「エチレン性不飽和基」を有する「化合物」であるから、本件特許発明1の「(d)エチレン性不飽和化合物」に相当する。
(オ) (e)溶剤
甲4発明における「プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGMEA)」は、「有機溶剤」として用いており、本件特許発明1の「(e)溶剤」に相当する。
(カ) (f)分散剤
甲4発明の「分散剤:下記分散樹脂1」は、その記載から明らかなとおり、本件特許発明1の「(f)分散剤」に相当する。
(キ) 感光性着色組成物
甲4発明の「着色感放射線性組成物」は、その記載からみて、本件特許発明1の「感光性着色組成物」に相当する。
(ク) 一致点及び相違点
以上の対比結果を踏まえると、本件特許発明1と甲4発明とは、
「(a)着色剤、(b)アルカリ可溶性樹脂、(c)光重合開始剤、(d)エチレン性不飽和化合物、(e)溶剤、及び(f)分散剤を含有する感光性着色組成物であって、
前記(a)着色剤が、下記式(1)で表される化合物、その幾何異性体、その塩、またはその幾何異性体の塩を含有し、
前記(a)着色剤の含有量が、感光性着色組成物中の全固形分量に対して10質量%以上60質量%以下であり、
前記(c)光重合開始剤の含有割合が、感光性着色組成物の全固形分量に対して 2質量%以上 8質量%以下であることを特徴とする、感光性着色組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点4-1)
本件特許発明1は「前記(c)光重合開始剤が、下記式(I)で表されるオキシムエステル系化合物を含」むのに対し、甲4発明はこれを含まない点。
イ 判断
上記相違点4-1について検討する。
上記相違点4-1は、上記3(3)ア(ク)で説示した上記相違点3-1と同様である。
ここで、甲4には、「光重合開始剤」について、「光重合開始剤としては、前記重合性化合物の重合を開始する能力を有する限り、特に制限はなく、公知の光重合開始剤の中から適宜選択することができる」こと([0066])、「重合開始剤として、より好ましくはオキシム化合物が挙げられ」、「組成物が、重合開始剤としてオキシム化合物を含有することにより、組成物の塗布から露光までの時間(PCD:Post Coating Delay)に対するパターンの特性依存性(以下、単に、「PCD依存性」とも言う)が良好なものとなる」こと([0073])等が記載されるとともに、好適に用いられるオキシム誘導体が例示されている([0073]~[0108]等)にとどまり、甲3と同様、上記相違点4-1に係る「式(I)で表されるオキシムエステル系化合物」を特に用いることを示唆する記載はない。
また、本件特許発明の効果については、上記1(5)イで説示したとおりであり、甲4および甲1~甲2の記載及び先の出願前の技術常識に基づいて、当業者が予測することができたとはいえない顕著なものといえる。
してみれば、上記3(3)イでの説示と同様の理由により、甲4発明に甲1及び甲2の技術的事項を適用して相違点4-1に係る構成とすることが容易であったとはいえない。
ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書(特に、第104~109頁)において、上記相違点4-1における「前記(c)光重合開始剤が、下記式(I)で表されるオキシムエステル系化合物を含み」との構成について主張する。
しかしながら、これは、上記3(3)ウで説示した主張と同様の論理に基づくものであり、甲4発明を出発点とした場合であっても、上記3(3)ウで説示したのと同様の理由により、当該主張を採用することはできない。
エ 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲4発明及び特許異議申立人が提出したいずれの証拠の記載に基づいても当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4) 本件特許発明2~8について
本件特許の特許請求の範囲の請求項2~8は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明2~8は、本件特許発明1の構成を全て具備するものである。
そうすると、上記(3)のとおり、本件特許発明1が、甲4発明及び特許異議申立人が提出したいずれの証拠の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、本件特許発明2~8も、甲4発明及び特許異議申立人が提出したいずれの証拠の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
5 申立て理由2(本件特許発明1~8に対する特許法36条4項1号(実施可能要件))
(1) 当合議体の判断
物の発明について実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明の記載が、当業者において、その記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、当該発明に係る物を作り、使用することができる程度のものでなければならない。
上記判断基準に照らして、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載をみると、本件特許明細書の【0025】~【0370】には、本件特許発明の「感光性着色組成物」に含有される各成分である「(a)着色剤、(b)アルカリ可溶性樹脂、(c)光重合開始剤、(d)エチレン性不飽和化合物、(e)溶剤、及び(f)分散剤」についての好適な材料や特性等も含めた詳細が記載されており、また、同【0371】~【0378】には、本件特許発明の「感光性着色組成物」の製造方法に関して記載されており、同【0379】~【0409】には、本件特許発明の「感光性着色組成物」の着色スペーサーへの適用に関して記載されており、同【0410】~【0447】には、本件特許発明の「感光性着色組成物」を具現化した例として「実施例3」が記載され、これを試験したところ優れた評価結果が得られたことが記載されている。
また、上記各記載のほか、本件特許発明の【0150】には、本件特許発明が奏する効果の作用機序について、「式(I)で表されるオキシムエステル系化合物を含むことにより、そのカルバゾール骨格中に含まれるナフタレン環によって長波長光に対する吸光性が高くなり、塗膜内部の架橋密度を高めることができ、また、構造中にハロゲン原子を有しているため塗膜表面に当該化合物が分布しやすく、酸素阻害の影響によって膜表面の架橋密度が過度に高くなるのを抑制できるものと考えられる。」と記載されている。
以上を総合すれば、当業者は、本件特許明細書の記載や先の出願前の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明に係る物を作り、使用することができることは明らかであるから、本件特許明細書は、当業者が本件特許発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明1~8について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものである。
(2) 特許異議申立人の主張
特許異議申立人の主張の概略は、「本件特許発明1は、着色組成物の組成に関して、特定構造の(a)着色剤と特定構造の(c)光重合開始剤以外の成分の構造は特定されておらず、あらゆるアルカリ可溶性樹脂、エチレン性不飽和化合物、溶剤、及び分散剤の組み合わせを包含する記載となっている」ことから、「アルカリ可溶性樹脂や分散剤である多種多様な樹脂と、エチレン性不飽和化合物、溶剤、分散剤である多種多様な化合物を含有する着色組成物が、「遮光性が高く、表面平滑性に優れたパターンを形成することが可能」という本件特許の発明の課題を解決できることは本件の特許明細書の記載、及び実施例の記載において十分に裏付けられていない」というものである。
しかしながら、上記(1)で説示したとおり、本件特許明細書には、本件特許発明の「感光性着色組成物」に含有される各成分である「(a)着色剤、(b)アルカリ可溶性樹脂、(c)光重合開始剤、(d)エチレン性不飽和化合物、(e)溶剤、及び(f)分散剤」についての好適な材料や特性等も含めた詳細が記載されるとともに、本件特許発明を具現化した具体例も記載されている以上、本件特許明細書は、当業者が本件特許発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
したがって、当該主張を採用することはできない。
(3)小括
以上のとおり、申立て理由2は、その理由がない。
6 申立て理由3(本件特許発明1~8に対する特許法36条6項1号(サポート要件))
(1) 当合議体の判断
ア サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲で特定された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
イ 本件特許発明が解決しようとする課題
本件特許明細書の【0010】の記載から、「遮光性が高く、表面平滑性に優れたパターンを形成することが可能な感光性着色組成物を提供すること」であると認められる。
ウ 本件特許明細書の記載から理解される課題解決手段に関する事項
本件特許発明が上記イの課題を解決する作用機序について、本件特許明細書の【0150】より、本発明の感光性着色組成物における(c)光重合開始剤に含まれる「式(I)で表されるオキシムエステル系化合物」のカルバゾール骨格中に含まれるナフタレン環によって長波長光に対する吸光性が高くなり、塗膜内部の架橋密度を高めることができ、また、構造中にハロゲン原子を有しているため塗膜表面に当該化合物が分布しやすく、酸素阻害の影響によって膜表面の架橋密度が過度に高くなるのを抑制できる」ことにより、「表面平滑性に優れたパターンを形成することが可能」となることが理解される。そして、本件特許明細書の【0054】、【0093】の記載、本件特許発明を具現化した具体例である実施例3と比較例4との対比(【0444】~【0446】)の結果等より、「(c)光重合開始剤」として「式(I)で表されるオキシムエステル系化合物」と、「(a)着色剤」に含有される顔料として「式(1)で表される化合物、その幾何異性体、その塩、またはその幾何異性体の塩」とを組み合わせたものは、「単位ODが高く遮光性に優れ、表面平滑性に優れ」、「中間透過開口部の基板密着性も良好」(【0446】)という効果を奏すること(すなわち、上記イで説示した「本件特許発明が解決しようとする課題」を解決すること)が理解され、この効果は、本件特許の審査段階で出願人より提出された意見書(提出日:令和5年2月8日)で示された、「式(1)で表される化合物、その幾何異性体、その塩、またはその幾何異性体の塩」とは異なる有機黒色顔料を用いた「追加実験例」との対比からも確認できる。
エ 判断
上記ア~ウを踏まえて検討する。
本件特許発明を具現化した「実施例3」では、本件特許発明が解決しようとする課題を解決されていることが確認され、これは、光重合開始剤が「式(I)で表されるオキシムエステル系化合物」を含まない「比較例4」との比較において、「表面平滑性」の観点で顕著な効果が奏されるものであるところ、上記ウで説示した本件特許明細書の課題解決に関する作用機序に関する記載とも整合するものである。そして、本件特許発明を具現化した具体例である実施例3と比較例4との対比の結果(【0444】~【0446】)等より、「(c)光重合開始剤」として「式(I)で表されるオキシムエステル系化合物」と、「(a)着色剤」に含有される顔料として「式(1)で表される化合物、その幾何異性体、その塩、またはその幾何異性体の塩」とを組み合わせたものであれば、上記課題を解決することができることは当業者であれば十分に認識できるといえる。
そうすると、本件特許発明の「感光性着色組成物」は、「(a)着色剤が、下記式(1)で表される化合物、その幾何異性体、その塩、またはその幾何異性体の塩を含有し」、及び、「(c)光重合開始剤が、下記式(I)で表されるオキシムエステル系化合物を含み」との特定事項を含むものであるから、本件特許発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
(2) 特許異議申立人の主張
特許異議申立人の主張の概略は、以下のア~エ(以下「主張ア」~「主張エ」という。)のとおりである。
ア アルカリ可溶性樹脂、エチレン性不飽和化合物、溶剤、及び分散剤の要件について
アルカリ可溶性樹脂や分散剤である多種多様な樹脂と、エチレン性不飽和化合物、溶剤、分散剤である多種多様な化合物を含有する着色組成物が、「遮光性が高く、表面平滑性に優れたパターンを形成することが可能」という本件特許の発明の課題を解決できることは本件の特許明細書の記載、及び実施例の記載において十分に裏付けられていない。
イ カーボンブラックの要件について
カーボンブラックの有無や含有量に関係無く、本件特許の発明の効果を奏するかについて当業者は認識できない。
ウ 実施例と比較例との対比について
本件特許発明1の構成要件である特定構造の(a)着色剤や特定構造の(c)光重合開始剤と、「遮光性が高く、表面平滑性に優れたパターンを形成することが可能」という本件特許の発明の効果との技術的関連性を当業者が認識できない。
エ (c)着色剤の含有比率と(c)光重合開始剤の含有比率について
本件特許の具体例である実施例に記載の組成物のみを以って、本件特許発明1における「前記(a)着色剤の含有量が、感光性着色組成物中の全固形分量に対して10質量%以上60質量%以下」という全ての範囲、及び「前記(c)光重合開始剤の含有割合が、感光性着色組成物の全固形分量に対して2質量%以上8質量%以下」という全ての範囲において、本件特許の発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載されていない。
オ 特許異議申立人による主張について
(ア) 主張アについて
上記(1)エで説示したとおりである。なお、「アルカリ可溶性樹脂」、「エチレン性不飽和化合物」、「溶剤」、及び「分散剤」の材料として、あえて「感光性着色組成物」として機能を損なうものを選択した場合についてまでサポート要件を充足することが求められるものではない。
したがって、上記主張アを採用することはできない。
(イ) 主張イについて
上記(1)エで説示したとおり、「(c)光重合開始剤」として「式(I)で表されるオキシムエステル系化合物」と、「(a)着色剤」に含有される顔料として「式(1)で表される化合物、その幾何異性体、その塩、またはその幾何異性体の塩」とを組み合わせて用いたことによって「遮光性が高」い「パターンを形成する」との効果が得られることが理解される。そして、この効果は、本件特許明細書に記載の「実施例3」と、本件出願の審査の過程で令和5年2月8日に提出された意見書において示される「追加実験例」(同意見書における下記表Bを参照。)との比較することによっても確認できるものである。
してみれば、本件特許明細書の実施例において、カーボンブラックが遮光性に寄与していたとしても、カーボンブラックの有無や含有量に関係無く、本件特許発明は「遮光性が高」い「パターンを形成することが可能な感光性着色組成物を提供する」との課題を解決できると認識できる。
したがって、上記主張イを採用することはできない。
(ウ) 主張ウについて
上記(1)エで説示したとおり、本件特許発明を具現化した具体例である実施例3では、本件特許発明が解決しようとする課題を解決されていることが確認され、これは、光重合開始剤が「式(I)で表されるオキシムエステル系化合物」ではない比較例4との比較において、「表面平滑性」の観点で顕著な効果が奏されているものである。したがって、上記主張ウを採用することはできない。
なお、特許異議申立人は、特許異議申立書において、本件特許発明に含まれる実施例である「実施例3」と、「実施例1」、「実施例2」、「比較例2」及び、親出願の拒絶査定不服審判事件に関する令和3年7月30日に提出された審判請求書で示される「追加比較例5」とを対比する等により、本件特許発明1の構成要件を満たすことによる顕著な効果を見いだすことはできない旨も主張するが、これらの具体例はいずれも、有機顔料として有機黒色顔料を用いたものでなく、本件特許発明とは異なる実施態様(本件特許明細書の【0033】でいう「第1の態様」)に関するものと解すべきものであり、実施例3とこれらの具体例とを比較して顕著な効果を見いだせないことによって、上記の判断は左右されるものではない。
(エ) 主張エについて
上記(1)エで説示したとおり、「(c)光重合開始剤」として「式(I)で表されるオキシムエステル系化合物」と、「(a)着色剤」に含有される顔料として「式(1)で表される化合物、その幾何異性体、その塩、またはその幾何異性体の塩」とを組み合わせたものにおいて、「遮光性が高」く、「表面平滑性に優れた」パターンを形成することが可能な感光性着色組成物を提供する」という課題を解決できることは当業者が認識できるものである。
a. (a)着色剤の含有量について
本件特許発明が解決しようとする課題は上記(1)イで説示したとおりであって、当該課題における「遮光性」や「表面平滑性」については、具体的な数値までもが本件特許発明の課題として認定されるべきとする根拠が見いだせない。したがって、「着色剤(a)」の「感光性着色組成物中の全固形分量に対」する「含有量」が本件特許発明の下限値(10質量%)や上限値(60質量%)であった場合、それぞれ「遮光性」や「表面平滑性」の観点で実施例3より多少劣るものであったとしても、上記実施例3の「(a)着色剤の含有量」の値(44.88質量%)や上記(1)ウで説示した本件特許明細書の記載から理解される課題解決手段に関する事項に鑑みれば、「(a)着色剤の含有量が、感光性着色組成物中の全固形分量に対して」「10質量%以上60質量%以下」との数値範囲において、上記課題を解決できるものと当業者は認識できるといえる。
b. (c)光重合開始剤の含有割合について
本件特許明細書の【0358】~【0359】の記載等を参酌すれば、本件特許発明における「(c)光重合開始剤」の「感光性着色組成物中の全固形分量に対」する「含有割合」に関する上限値や下限値は、「感光性着色組成物」に一般的に要請される「感度低下の抑制」や「現像不良の抑制」を実現するために規定されたものと解するべきものである。そして、実施例3において、「(c)光重合開始剤の含有割合」が上記上限値(8質量%)と下限値(2質量%)の中央値である「5.00質量%」において上記課題が解決することが示され、上記(1)ウで説示した本件特許明細書の記載から理解される課題解決手段に関する記載事項に照らせば、「式(I)で表されるオキシムエステル系化合物」の含有割合が2質量%以上8質量%以下の範囲内において本件特許発明の課題が解決されると当業者は認識できるといえる。
c. 小括
上記a及びbより、上記主張エを採用することはできない。
(オ) 小括
上記(ア)~(エ)より、申立て理由3に係る特許異議申立人の主張はいずれも採用することはできない。
(3)小括
以上のとおり、申立て理由3は、その理由がない。
第5 むすび
したがって、請求項1~8に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701182