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特許異議申立

2021-700369

ペリクル膜、ペリクル枠体、ペリクル、その製造方法、露光原版、露光装置、半導体装置の製造方法

審判番号
2021-700369
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2018-526366
登録番号
6781864
請求日
2021年04月23日
審決日
2024年12月26日
公報発行日
2025年05月30日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】三井化学株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
  • 【権利者】国立研究開発法人産業技術総合研究所
  • 【権利者代理人】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
  • 【異議申立人】長谷川 ▲恵▼
  • 【異議申立人】金山 愼一
  • 【異議申立人】谷口 真魚
審判長/審判官
  • 審判長 波多江 進
  • 審判官 山村 浩
  • 審判官 芝沼 隆太
分類
P1651.113-YAA(G03F) / P1651.121-YAA(G03F) / P1651.536-YAA(G03F) / P1651.537-YAA(G03F)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第9項、特許法第181条第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第5項、特許法第126条第7項、特許法第29条の2、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6781864号発明「ペリクル膜、ペリクル枠体、ペリクル、その製造方法、露光原版、露光装置、半導体装置の製造方法」の特許異議申立事件について、令和5年3月30日付けの異議の決定のうち、請求項19~23に係る部分が確定した一方で、知的財産高等裁判所において、請求項1、3~18に係る部分を取り消す判決(令和5年(行ケ)第10053号、令和6年6月24日判決言渡)があり、当該判決はその後確定したので、特許法第181条第2項の規定により、請求項2に係る部分を取り消した上で、請求項1~18に係る部分を更に審理し、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6781864号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~18〕について訂正することを認める。 特許第6781864号の請求項1、3~18に係る特許を維持する。 特許第6781864号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第6781864号(以下「本件特許」という。)の請求項1~23に係る特許についての出願(以下「本件出願」という。)は、2017年(平成29年)7月3日(優先権主張 2016年(平成28年)7月5日)を国際出願日とするものであって、令和2年10月21日にその特許権の設定登録がされ、令和2年11月11日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和 3年 4月23日 :特許異議申立人長谷川惠(以下「申立人A」という。)による請求項1~18に係る特許に対する特許異議の申立て 令和 3年 5月 7日 :特許異議申立人金山愼一(以下「申立人B」という。)による請求項1~23に係る特許に対する特許異議の申立て 令和 3年 5月11日 :特許異議申立人谷口真魚(以下「申立人C」という。)による請求項1~23に係る特許に対する特許異議の申立て 令和 3年 9月30日付け:取消理由通知書(以下、この取消理由通知書に係る取消理由を「第1次取消理由」という。なお、指定期間は職権により発送日(同年10月6日)から90日とされた。) 令和 3年12月28日 :意見書(特許権者)及び訂正請求書(以下、この訂正請求書を「第1次訂正請求書」といい、第1次訂正請求書に係る訂正を「第1次訂正」という。)の提出 令和 4年 1月28日付け:訂正拒絶理由通知書(第1次訂正に係る請求に対するもの) 令和 4年 3月 7日 :意見書(特許権者)及び手続補正書(第1次訂正請求書に対するもの)の提出 令和 4年 4月27日 :意見書(申立人B)の提出 令和 4年 4月28日 :意見書(申立人C)の提出 令和 4年 6月22日 :意見書(申立人A)の提出 令和 4年 8月 8日付け:取消理由通知書(決定の予告。以下、この取消理由通知書に係る取消理由を「第2次取消理由」という。なお、指定期間は職権により発送日(同月15日)から90日とされた。) 令和 4年11月11日 :意見書(特許権者)及び訂正請求書(以下、この訂正請求書による訂正のうち、訂正後の請求項1~18に係る部分のものを「本件訂正」という。)の提出 令和 4年12月23日 :意見書(申立人A)の提出 令和 4年12月23日 :意見書(申立人B)の提出 令和 4年12月23日 :意見書(申立人C)の提出 令和 5年 3月30日付け:異議の決定(以下「原決定」という。) 令和 5年12月13日 :原決定のうち請求項19~23に係る部分の確定登録 令和 6年 6月24日 :原決定のうち請求項1、3~18に係る部分を取り消す判決(以下「本件判決」という。) なお、第1次訂正に係る請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなされた。 また、第2次取消理由及び第1次取消理由を総称して、以下、単に「取消理由」ということがあり、申立人A~Cを総称して、以下、単に「申立人」ということがある。さらに、申立人A~Cによる特許異議申立理由を総称して、以下、単に「特許異議申立理由」という。 第2 本件訂正の適否 1 本件訂正の内容 本件訂正の内容は以下のとおりである(下線は訂正箇所である。)。 なお、本件訂正は、一群の請求項である訂正後の請求項1~18について請求されたものである。 (1)訂正事項1 本件訂正前の請求項1に記載された「支持枠の開口部に張設される露光用ペリクル膜であって、前記ペリクル膜は、厚さが200nm以下であり、前記ペリクル膜は、カーボンナノチューブシートを含み、前記カーボンナノチューブシートは複数のカーボンナノチューブから形成されるバンドルを備え、前記バンドルは径が100nm以下であり、前記カーボンナノチューブシート中で前記バンドルが面内配向しており、前記カーボンナノチューブの径が0.8nm以上6nm以下である、露光用ペリクル膜。」を、 「支持枠の開口部に張設される露光用ペリクル膜であって、前記ペリクル膜は、厚さが200nm以下であり、前記ペリクル膜は、カーボンナノチューブシートの自立膜であり、前記カーボンナノチューブシートは複数のカーボンナノチューブから形成されるバンドルを備え、前記バンドルは径が100nm以下であり、前記カーボンナノチューブシート中で前記バンドルが面内配向しており、下記条件(1)を満たし、前記カーボンナノチューブシートは、面内配向した前記バンドル同士が絡み合った網目構造を有し、前記カーボンナノチューブの径が0.8nm以上6nm以下である、露光用ペリクル膜。 (1)カーボンナノチューブシートの断面の制限視野電子線回折像において、前記カーボンナノチューブのバンドルの三角格子に由来する前記カーボンナノチューブシートの膜厚方向の、回折強度のピークとなる逆格子ベクトルにおける回折強度と、前記カーボンナノチューブシートの膜厚方向の前記ピークと重ならず、ベースラインとなる逆格子ベクトルにおける回折強度との差を、前記膜厚方向の前記ベースラインとなる逆格子ベクトルにおける前記カーボンナノチューブシートの面内方向の回折強度と、前記膜厚方向の回折強度のピークとなる逆格子ベクトルにおける前記カーボンナノチューブシートの面内方向の回折強度との差で除した比 RBが0.40以上である。」に訂正する。 (請求項1の記載を引用する請求項3~5、13~18も同様に訂正する。) (2)訂正事項2 本件訂正前の請求項2を削除する。 (3)訂正事項3 本件訂正前の請求項5に記載された「請求項1~4のいずれか一項に記載の露光用ペリクル膜」を「請求項1、3~4のいずれか一項に記載の露光用ペリクル膜」に訂正する。(請求項5の記載を引用する請求項13~18も同様に訂正する。) (4)訂正事項4 本件訂正前の請求項6に記載された「カーボンナノチューブの径が0.8nm以上6nm以下であり、カーボンナノチューブの長さが10μm以上10cm以下であり、カーボンナノチューブ中のカーボンの含有量が98質量パーセント以上である、カーボンナノチューブシートを含む、ペリクル膜。」を、 「カーボンナノチューブの径が0.8nm以上6nm以下であり、カーボンナノチューブの長さが10μm以上10cm以下であり、カーボンナノチューブ中のカーボンの含有量が98質量パーセント以上である、カーボンナノチューブシートの自立膜であるペリクル膜であって、前記カーボンナノチューブシートは複数のカーボンナノチューブから形成されるバンドルを備え、前記バンドルは径が100nm以下であり、前記カーボンナノチューブシート中で前記バンドルが面内配向し、下記条件(1)を満たし、前記カーボンナノチューブシートは、面内配向した前記バンドルが絡み合った網目構造を有する、ペリクル膜。 (1)カーボンナノチューブシートの断面の制限視野電子線回折像において、前記カーボンナノチューブのバンドルの三角格子に由来する前記カーボンナノチューブシートの膜厚方向の、回折強度のピークとなる逆格子ベクトルにおける回折強度と、前記カーボンナノチューブシートの膜厚方向の前記ピークと重ならず、ベースラインとなる逆格子ベクトルにおける回折強度との差を、前記膜厚方向の前記ベースラインとなる逆格子ベクトルにおける前記カーボンナノチューブシートの面内方向の回折強度と、前記膜厚方向の回折強度のピークとなる逆格子ベクトルにおける前記カーボンナノチューブシートの面内方向の回折強度との差で除した比 RBが0.40以上である。」に訂正する。 (請求項6の記載を引用する請求項7~18も同様に訂正する。) 2 訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1 ア 訂正の目的 訂正事項1に係る訂正は、次の内容からなるものである。 (i)本件訂正前の請求項1において、「前記ペリクル膜」を構成する「カーボンナノチューブシート」が「カーボンナノチューブシートの自立膜」であることに限定する訂正。 (ii)本件訂正前の請求項1において、「前記カーボンナノチューブシート」が「面内配向した前記バンドル同士が絡み合った網目構造を有」するものであることに限定する訂正。 (iii)本件訂正前の請求項1において、「前記ペリクル膜」が、「下記条件(1)を満た」すとともに、当該「条件(1)」が「(1)カーボンナノチューブシートの断面の制限視野電子線回折像において、前記カーボンナノチューブのバンドルの三角格子に由来する前記カーボンナノチューブシートの膜厚方向の、回折強度のピークとなる逆格子ベクトルにおける回折強度と、前記カーボンナノチューブシートの膜厚方向の前記ピークと重ならず、ベースラインとなる逆格子ベクトルにおける回折強度との差を、前記膜厚方向の前記ベースラインとなる逆格子ベクトルにおける前記カーボンナノチューブシートの面内方向の回折強度と、前記膜厚方向の回折強度のピークとなる逆格子ベクトルにおける前記カーボンナノチューブシートの面内方向の回折強度との差で除した比 RBが0.40以上である」ものであることに限定する訂正。 前記(i)~(iii)に係る訂正は、いずれも、特許請求の範囲を減縮することを目的とすることから、訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項の追加の有無 (ア)前記(i)及び(ii)に係る訂正について、本件特許の登録時の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)の【0112】には「バンドルが面内配向しているカーボンナノチューブシート(またはペリクル膜)は、面内方向にバンドル同士が絡み合った網目構造とすることができるために、100nm以下の厚さであっても自立膜を形成することができる。」と記載されていることから、当該訂正は新たな技術的事項を導入するものではない。 (イ)前記(iii)に係る訂正について、本件明細書等の【0099】には、バンドル構造の配向性に関して、カーボンナノチューブのバンドルの三角格子に由来するd=0.37nm(g=2.7nm-1)付近のピークについて、以下の式(以下「本件RB式」という。)を用いて面内方向におけるピーク強度と膜厚方向におけるピーク強度の比RBを定義すると記載されている。 [図:0001422361000001.jpg] ここで、本件RB式における「I」は回折強度を意味すると解される(同【0100】)ところ、同【0080】、【0084】~【0086】の記載からは、この回折強度が、カーボンナノチューブシート断面の制限視野電子回折像に基づいて測定されるものであることが当業者にとって理解できる。また、本件RB式における「th」及び「in」は、それぞれ、「膜厚方向」及び「面内方向」を意味すると解される(同【0100】)。 さらに、本件RB式における「2.7nm」及び「2.2nm」という値について、同【0100】には、「g=2.7nm-1」が「図5における回折強度のピークとなるgの値」であると記載されるとともに、「g=2.2nm-1」が「本回折ピークと重ならない位置において、ベースラインとなる強度を差し引くための位置」であると記載されているが、同【0102】には、RBを算出するときのgの値はこれらの値に限定されるものではなく適宜選定できると記載されている。そうすると、本件明細書等の記載に接した当業者は、本件RB式における「2.7nm」及び「2.2nm」という値が、それぞれ、回折強度のピーク、及び回折ピークと重ならない位置におけるベースラインとなるgの値の例示であると理解できる。 このように、本件明細書等には、RBの定義として「2.7nm」及び「2.2nm」という具体的な値が特定されるなどとされた本件RB式が記載されているものの、当業者には、その意味するところは前記(iii)の内容であることが理解できるといえる。 そして、同【0104】にはRBが0.40以上では面内配向しているとの記載がある。 したがって、当該訂正は新たな技術的事項を導入するものではない。 (ウ)前記(ア)及び(イ)によれば、訂正事項1に係る訂正は、新規事項を追加するものではない。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でないか否か 前記ア及びイによれば、訂正事項1に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2 ア 訂正の目的 訂正事項2に係る訂正は、本件訂正前の請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項の追加の有無 前記アによれば、訂正事項2に係る訂正によって新規事項が追加されることはない。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でないか否か 前記ア及びイによれば、訂正事項2に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)訂正事項3 ア 訂正の目的 訂正事項3に係る訂正は、本件訂正前に引用していた請求項の数を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項の追加の有無 前記アによれば、訂正事項3に係る訂正によって新規事項が追加されることはない。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でないか否か 前記ア及びイによれば、訂正事項3に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (4)訂正事項4 ア 訂正の目的 訂正事項4は、次の内容からなるものである。 (i)本件訂正前の請求項6において、「ペリクル膜」が「カーボンナノチューブシートを含」むことを、「ペリクル膜」が「カーボンナノチューブシートの自立膜である」ことに限定する訂正。 (ii)本件訂正前の請求項6において、「カーボンナノチューブシート」が、「複数のカーボンナノチューブから形成されるバンドルを備え」るものであるとともに、「前記バンドルは径が100nm以下であ」るものに限定する訂正。 (iii)前記(ii)に加えて、「ペリクル膜」が「前記カーボンナノチューブシート中で前記バンドルが面内配向」するものであることに限定する訂正。 (iv)前記(ii)に加えて、「前記カーボンナノチューブシート」が「面内配向した前記バンドル同士が絡み合った網目構造を有」するものであることに限定する訂正。 (v)本件訂正前の請求項6において、「ペリクル膜」が、「下記条件(1)を満た」すとともに、当該「条件(1)」が「(1)カーボンナノチューブシートの断面の制限視野電子線回折像において、前記カーボンナノチューブのバンドルの三角格子に由来する前記カーボンナノチューブシートの膜厚方向の、回折強度のピークとなる逆格子ベクトルにおける回折強度と、前記カーボンナノチューブシートの膜厚方向の前記ピークと重ならず、ベースラインとなる逆格子ベクトルにおける回折強度との差を、前記膜厚方向の前記ベースラインとなる逆格子ベクトルにおける前記カーボンナノチューブシートの面内方向の回折強度と、前記膜厚方向の回折強度のピークとなる逆格子ベクトルにおける前記カーボンナノチューブシートの面内方向の回折強度との差で除した比 RBが0.40以上である」ものであることに限定する訂正。 前記(i)~(v)に係る訂正は、いずれも、特許請求の範囲を減縮することを目的とすることから、訂正事項4に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項の追加の有無 前記(i)及び(iv)に係る訂正について、訂正事項1の(i)及び(ii)(前記(1)イ(ア))と同様である。 前記(ii)に係る訂正について、本件明細書等の【0075】には「カーボンナノチューブシートは、複数のカーボンナノチューブの束から形成されるバンドルを備える。」と記載されており、同【0076】には「本実施形態において、カーボンナノチューブシートが有するカーボンナノチューブのバンドルの径は100nm以下である必要がある。」と記載されていることから、当該訂正は新たな技術的事項を導入するものではない。 前記(iii)に係る訂正について、同【0013】には、露光用ペリクル膜が「カーボンナノシート中で前記バンドルが面内配向している」と記載されていることから、当該訂正は新たな技術的事項を導入するものではない。 前記(v)に係る訂正について、訂正事項1の(iii)(前記(1)イ(イ))と同様である。 したがって、訂正事項4に係る訂正は、新規事項を追加するものではない。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でないか否か 前記ア及びイによれば、訂正事項4に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3 小括 以上によれば、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。なお、本件訂正に係る請求項は、いずれも、特許異議の申立てがされたものであるから、本件訂正には、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第7項所定のいわゆる独立特許要件は課されない。 したがって、本件訂正を認める。 第3 本件発明 本件訂正後の請求項1~18に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明18」といい、本件訂正により削除された請求項2を除くものを総称して「本件発明」という。)は、本件訂正後の請求項1~18に記載された事項によって特定されるものであるところ、当該各請求項の記載は、次のとおりである。 【請求項1】 支持枠の開口部に張設される露光用ペリクル膜であって、 前記ペリクル膜は、厚さが200nm以下であり、 前記ペリクル膜は、カーボンナノチューブシートの自立膜であり、 前記カーボンナノチューブシートは複数のカーボンナノチューブから形成されるバンドルを備え、 前記バンドルは径が100nm以下であり、 前記カーボンナノチューブシート中で前記バンドルが面内配向しており、下記条件(1)を満たし、 前記カーボンナノチューブシートは、面内配向した前記バンドル同士が絡み合った網目構造を有し、 前記カーボンナノチューブの径が0.8nm以上6nm以下である、 露光用ペリクル膜。 (1)カーボンナノチューブシートの断面の制限視野電子線回折像において、前記カーボンナノチューブのバンドルの三角格子に由来する前記カーボンナノチューブシートの膜厚方向の、回折強度のピークとなる逆格子ベクトルにおける回折強度と、前記カーボンナノチューブシートの膜厚方向の前記ピークと重ならず、ベースラインとなる逆格子ベクトルにおける回折強度との差を、前記膜厚方向の前記ベースラインとなる逆格子ベクトルにおける前記カーボンナノチューブシートの面内方向の回折強度と、前記膜厚方向の回折強度のピークとなる逆格子ベクトルにおける前記カーボンナノチューブシートの面内方向の回折強度との差で除した比 RBが0.40以上である。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 前記カーボンナノチューブシートに接する保護層をさらに含む 請求項1に記載の露光用ペリクル膜。 【請求項4】 前記保護層は、SiOx(x≦2)、SiaNb(a/bは0.7~1.5)、SiON、Y2O3、YN、Mo、Ru、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、B4C、SiCまたはRhからなる群から選択される1つ以上を含む、 請求項3に記載の露光用ペリクル膜。 【請求項5】 請求項1、3~4のいずれか一項に記載の露光用ペリクル膜と、 前記ペリクル膜を支持する支持枠と、 を有するペリクル。 【請求項6】 カーボンナノチューブの径が0.8nm以上6nm以下であり、 カーボンナノチューブの長さが10μm以上10cm以下であり、 カーボンナノチューブ中のカーボンの含有量が98質量パーセント以上である、カーボンナノチューブシートの自立膜であるペリクル膜であって、 前記カーボンナノチューブシートは複数のカーボンナノチューブから形成されるバンドルを備え、 前記バンドルは径が100nm以下であり、 前記カーボンナノチューブシート中で前記バンドルが面内配向し、下記条件(1)を満たし、 前記カーボンナノチューブシートは、面内配向した前記バンドル同士が絡み合った網目構造を有する、ペリクル膜。 (1)カーボンナノチューブシートの断面の制限視野電子線回折像において、前記カーボンナノチューブのバンドルの三角格子に由来する前記カーボンナノチューブシートの膜厚方向の、回折強度のピークとなる逆格子ベクトルにおける回折強度と、前記カーボンナノチューブシートの膜厚方向の前記ピークと重ならず、ベースラインとなる逆格子ベクトルにおける回折強度との差を、前記膜厚方向の前記ベースラインとなる逆格子ベクトルにおける前記カーボンナノチューブシートの面内方向の回折強度と、前記膜厚方向の回折強度のピークとなる逆格子ベクトルにおける前記カーボンナノチューブシートの面内方向の回折強度との差で除した比 RBが0.40以上である。 【請求項7】 前記カーボンナノチューブの径に対する長さの比(長さ/径)が、1×104以上1×108以下である、請求項6に記載のペリクル膜。 【請求項8】 カーボンナノチューブシートに接する保護層をさらに含む請求項6に記載のペリクル膜。 【請求項9】 前記保護層は、SiOx(x≦2)、SiaNb(a/bは0.7~1.5)、SiON、Y2O3、YN、Mo、Ru、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、B4C、SiCまたはRhからなる群から選択される1つ以上を含む請求項8に記載のペリクル膜。 【請求項10】 請求項6~9のいずれか一項に記載のペリクル膜と、 前記ペリクル膜を支持する支持枠と、 を有するペリクル。 【請求項11】 請求項6~9のいずれか一項に記載のペリクル膜と、 前記ペリクル膜を支持する第1の枠体と、 を有するペリクル枠体。 【請求項12】 請求項11に記載のペリクル枠体と、 前記ペリクル枠体に接続される第2の枠体と、 を有するペリクル。 【請求項13】 原版と、前記原版のパターンを有する側の面に装着された請求項5、10または12に記載のペリクルと、を含む露光原版。 【請求項14】 請求項13に記載の露光原版を有する、露光装置。 【請求項15】 露光光を放出する光源と、請求項13に記載の露光原版と、前記光源から放出された露光光を前記露光原版に導く光学系と、を有し、前記露光原版は、前記光源から放出された露光光が前記ペリクル膜を透過して前記原版に照射されるように配置されている、露光装置。 【請求項16】 前記露光光が、EUV光である、請求項15に記載の露光装置。 【請求項17】 光源から放出された露光光を、請求項13に記載の露光原版のペリクル膜を透過させて原版に照射し、前記原版で反射させるステップと、前記原版によって反射された露光光を、前記ペリクル膜を透過させて感応基板に照射することにより、前記感応基板をパターン状に露光するステップと、を有する、半導体装置の製造方法。 【請求項18】 前記露光光がEUV光である、請求項17に記載の半導体装置の製造方法。 第4 申立人及び特許権者が提出した証拠(参考資料を含む。)並びに引用文献等について 以下、証拠番号は「第」及び「号証」を略して表記する。その上で、申立人が提出した証拠については、申立人A~Cのうちどの申立人が提出したものかを特定するべく、甲A1などということにする。 1 申立人及び特許権者が提出した証拠(参考資料を含む。)について (1)申立人Aが提出した証拠 甲A1:Ivan Pollentier, et. al., "EUV lithography imaging using novel pellicle membranes", Proc. of SPIE, 2016年, Vol. 9776, p. 977620 甲A2:Jae Uk Lee, et. al., "Introducing the EUV CNT pellicle", Proc. of SPIE, 2016年, Vol. 9985, p. 99850C 甲A3:Ivan Pollentier, et. al., "Novel membrane solutions for the EUV pellicle: better or not?", Proc. of SPIE, 2017年, Vol. 10143, p. 101430L 甲A4:米国特許出願公開第2017/0038676号明細書 甲A5:国際公開第2014/142125号 甲A6:国際公開第2006/011655号 甲A7:国際公開第2014/188710号 甲A8:国際公開第2016/043301号 甲A9:国際公開第2016/043292号 甲A10:特願2018-93909号(特開2018-194840号) 甲A11:特願2016-133062号 甲A11-1:甲A11に係る出願における平成29年6月12日提出の出願人名義変更届 甲A12:国際公開第2018/008594号 参考資料1:Ken R. Atkinson, et. al., "Multifunctional carbon nanotube yarns and transparent sheets: Fabrication, properties, and applications", Physica B, 2007年, Vol. 394, p. 339-p. 343 参考資料2:参考資料1の抄訳 (2)申立人Bが提出した証拠 甲B1:国際公開第2006/011655号 甲B2:国際公開第2014/136981号 甲B3:木村寛恵、「スーパーグロース法による単層カーボンナノチューブ合成技術に関する研究」、筑波大学大学院博士課程 数理物質科学研究科 博士論文 博士(工学)、2014年2月 甲B4:特開2006-228818号公報 甲B5::Ivan Pollentier, et. al., "EUV lithography imaging using novel pellicle membranes", Proc. of SPIE, 2016年, Vol. 9776, p. 977620 甲B6:Emily E. Gallagher, et. al., "Properties and performance of EUVL pellicle membranes", Proc. of SPIE, 2015年, Vol. 9635, p. 96350X 甲B7:Jae Uk Lee, et. al., "Introducing the EUV CNT pellicle", Proc. of SPIE, 2016年, Vol. 9985, p. 99850C 甲B8:Ivan Pollentier, et. al., "Novel membrane solutions for the EUV pellicle: better or not?", Proc. of SPIE, 2017年, Vol.10143, p.101430L 甲B9:米国特許出願公開第2008/0152873号明細書 甲B10:「単層カーボンナノチューブ -Ver.2-」、関東化学株式会社、2016年4月 甲B11:特開2009-29695号公報 甲B12:特開2006-273712号公報 甲B13:飯島澄男著、「カーボンナノチューブの挑戦」、株式会社岩波書店、1999年1月22日発行、80~83頁、86~87頁 甲B14:特表2011-530184号公報 甲B15:国際公開第2015/178250号 甲B16:国際公開第2016/043301号 甲B17:特願2016-133062号 甲B18:長倉三郎その他編集、「岩波 理化学辞典 第5版」、株式会社岩波書店、1998年2月20日発行、1392~1395頁 甲B19:特開2003-206114号公報 甲B20:特開2016-108524号公報 甲B21:特表2011-530184号公報 甲B22:特表2015-523611号公報 甲B23:特開2014-84255号公報 甲B24:国際公開第2010/076885号 甲B25:特開2015-188811号公報 甲B26:国際公開第2015/045427号 (3)申立人Cが提出した証拠 甲C1:特表2011-530184号公報 甲C2:Ken R. Atkinson, et. al., "Multifunctional carbon nanotube yarns and transparent sheets: Fabrication, properties, and applications", Physica B, 2007年, Vol. 394, p. 339-p. 343 甲C3:特開2013-18673号公報 甲C4:Ivan Pollentier, et. al., "EUV lithography imaging using novel pellicle membranes", Proc. of SPIE, 2016年, Vol. 9776, p. 977620 甲C5:国際公開第2006/011655号 甲C6:国際公開第2016/043301号 甲C7:米国特許第7379154号明細書 甲C8:国際公開第2014/136981号 甲C9:三宅泰雄監修、「三省堂 化学小事典 第3版」、株式会社三省堂、1988年1月20日発行、226頁 甲C10:Albert G. Nasibulin, et. al., "Multifunctional Free-Standing Single-Walled Carbon Nanotube Films", ACS Nano, 2011年, Vol. 5, p. 3214-p.3221 (4)特許権者が提出した証拠 乙1:Sang-Yong Ju, et. al., "Brightly Fluorescent Single-Walled Carbon Nanotubes via an Oxygen-Excluding Surfactant Organization", SCIENCE, 2009年, Vol. 323, p. 1319-p. 1323 乙2:Minsuk Park, et. al., "Selective Dispersion of Highly Pure Large-Diameter Semiconducting Carbon Nanotubes by a Flavin for Thin-Film Transistors", Applied Materials & Interfaces, 2016年, Vol. 8, p. 23270-p. 23280 乙3:Sang-Yong Ju, et. al., "Selection of carbon nanotubes with specific chiralities using helical assemblies of flavin mononucleotide", Nature Nanotechnology, 2008年, Vol. 3, p. 356-p. 362 乙4:Jinsook Sim, et. al., "Effect of tight flavin mononucleotide wrapping and its binding affinity on carbon nanotube covalent reactivities", [online], 2013年, インターネット<URL:https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2013/cp/c3cp53634c> 乙5:実験成績証明書 2 引用文献等 原決定の一部を取り消した本件判決は、原決定に含まれる「引用文献1」等の表記を用いていることから、便宜のため、この決定においてもそれらの表記を用いることとする。それらの表記と前記1に記載した各証拠との関係は以下のとおりである(文献名も再掲している。)。 引用文献1:Ivan Pollentier, et. al., "EUV lithography imaging using novel pellicle membranes", Proc. of SPIE, 2016年, Vol. 9776, p. 977620(甲A1、甲B5、甲C4) 引用文献2:国際公開第2006/011655号(甲A6、甲B1、甲C5) 引用文献3:特表2011-530184号公報(甲B14、甲B21、甲C1) 引用文献4:国際公開第2014/136981号(甲B2、甲C8) 引用文献5:木村寛恵、「スーパーグロース法による単層カーボンナノチューブ合成技術に関する研究」、筑波大学大学院博士課程 数理物質科学研究科 博士論文 博士(工学)、2014年2月(甲B3) 引用文献6:特開2009-29695号公報(甲B11) 引用文献7:特開2006-273712号公報(甲B12) 引用文献8:飯島澄男著、「カーボンナノチューブの挑戦」、株式会社岩波書店、1999年1月22日発行、80~83頁、86~87頁(甲B13) 引用文献9:Ken R. Atkinson, et. al., "Multifunctional carbon nanotube yarns and transparent sheets: Fabrication, properties, and applications", Physica B, 2007年, Vol. 394, p. 339-p. 343(参考資料1、甲C2) 引用文献10:特開2006-228818号公報(甲B4) 引用文献11:国際公開第2016/043301号(甲A8、甲B16、甲C6) 引用文献12:国際公開第2014/188710号(甲A7) 引用文献13:国際公開第2015/178250号(甲B15) 引用文献14:Emily E. Gallagher, et. al., "Properties and performance of EUVL pellicle membranes", Proc. of SPIE, 2015年, Vol. 9635, p. 96350X(甲B6) 引用文献15:国際公開第2014/142125号(甲A5) 引用文献16:国際公開第2016/043292号(甲A9) 引用文献17:特開2013-18673号公報(甲C3) 引用文献18:Albert G. Nasibulin, et. al., "Multifunctional Free-Standing Single-Walled Carbon Nanotube Films", ACS Nano, 2011年, Vol. 5, p. 3214-p.3221(甲C10) 先願1:特願2018-93909号(特開2018-194840号)(甲A10) 第5 取消理由及び特許異議申立理由の概要 以下、原決定のうち確定登録された部分に係る取消理由及び特許異議申立理由を除いている。なお、第1次訂正及び本件訂正により、請求項2は削除された。 1 第2次取消理由の概要 第2次取消理由に係る通知書では、第1次訂正後の請求項1、3~18に係る発明について、優先権主張の効果が否定された上で、次の取消理由が通知されている。 (1)第1次訂正後の請求項1、3~5に係る発明に対する引用文献1に記載された発明に基づく新規性欠如。 (2)第1次訂正後の請求項1、3~18に係る発明に対する引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づく進歩性欠如。 (3)第1次訂正後の請求項1、3~18に係る発明に対する引用文献2に記載された発明及び周知技術に基づく進歩性欠如。 (4)第1次訂正後の請求項1、3~18に係る発明に対する引用文献3に記載された発明及び周知技術に基づく進歩性欠如。 (5)第1次訂正後の請求項1、3~5、13~18に係る発明に対する先願1に係る外国語書面出願の外国語書面(そのうち、優先権主張基礎出願の出願書類全体に記載されたものに限る。)に記載された発明に基づく拡大先願同一。 2 第1次取消理由(第2次取消理由に含まれないもの)の概要 第1次取消理由に係る通知書では、本件特許の登録時の請求項2に係る発明に対しても、優先権主張の効果が否定された上で、前記1(1)~(5)の取消理由が通知されていた。 3 特許異議申立理由(第2次取消理由及び第1次取消理由に含まれないもの)の概要 (1)本件訂正後の請求項1、3~18について ア 本件訂正後の請求項1、3~18の記載に対する明確性要件違反(申立人A~C) イ 本件訂正後の請求項1、3~18の記載に対するサポート要件違反(申立人A及びB) ウ 本件訂正後の発明の詳細な説明の記載に対する本件訂正後の請求項1、3~18に係る発明についての実施可能要件違反(申立人A及びB) (2)第1次訂正後の請求項1、3~18及び本件特許の登録時の請求項1~18について ア 本件特許の登録時の請求項6~18に係る発明に対する甲A2に基づく進歩性欠如(申立人A)。 イ 本件特許の登録時の請求項1~5、13~18及び第1次訂正後の請求項1、3~5、13~18の記載に対する明確性要件違反(申立人B) ウ 本件特許の登録時の請求項1~18及び第1次訂正後の請求項1、3~18の記載に対するサポート要件違反(申立人B) エ 本件特許の登録時の発明の詳細な説明の記載に対する登録時の請求項1~18及び第1次訂正後の請求項1、3~18に係る発明についての実施可能要件違反(申立人B) 第6 第2次取消理由及び第1次取消理由についての当合議体の判断 1 本件発明の優先権主張の効果について 事案に鑑み、まず、本件発明の優先権主張の効果について検討する。 独立項に係る本件発明1及び6には、(i)「前記カーボンナノチューブシートは複数のカーボンナノチューブから形成されるバンドルを備え」ること、(ii)「前記バンドルは径が100nm以下であ」ること、(iii)「前記カーボンナノチューブシート中で前記バンドルが面内配向し」ていること、(iv)「前記カーボンナノチューブシートは、面内配向した前記バンドル同士が絡み合った網目構造を有」すること、(v)露光用ペリクル膜又はペリクル膜が条件(1)(RBが0.40以上であるという事項であり、以下「RB0.40以上事項」という。)を満たすこと、が特定されている。しかるところ、これらの各特定事項は、本件出願の優先権主張の基礎出願である特願2016-133062号(甲A11、甲B17)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面には記載されておらず、当業者にとって自明なものでもない。 したがって、本件発明1及び6について、優先権主張の効果を認めることはできない。本件発明1又は6を引用する本件発明3~5、7~18についても同様である。 2 本件発明の技術的意義について 本件訂正後の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件訂正明細書等」という。)によれば、本件発明の技術的意義は、次のとおりであると認められる。 本件発明は、先行文献に比してさらにEUV透過性が高く耐熱性に優れたペリクル膜を提供するという課題(【0012】)を解決するものであり、その課題を解決するために、EUV透過率が高く、膜自体の物理的強度も高いペリクル膜を提供する(【0118】)ものである。 独立項に係る本件発明1は、ペリクル膜の厚さが200nm以下と薄いため、EUV透過率が高いものである(【0076】・【0014】・【0136】)。当該厚さを薄くするために、バンドル径を100nm以下とする(【0076】)とともに、バンドルを面内配向させている(【0112】)。カーボンナノチューブがバンドルを形成することによって、カーボンナノチューブ単独の場合と比べて強度が高まっている(【0075】)。面内配向したバンドルが網目構造を有しているため、100nm以下の厚さであっても自立膜を形成することができる(【0112】)し、自立膜に応力を加えても、網目構造及び自立膜形状を保つことができる(【0114】)。RBの値が0.40以上であるので、バンドルが面内配向している(【0104】)。 別の独立項に係る本件発明6は、ペリクル膜の厚さの特定はないものの、カーボンナノチューブ中のカーボンの含有率が98質量パーセント以上と非常に高いため、EUV透過率が高く(【0116】)、また、カーボンナノチューブの径が0.8nm以上6nm以下であって大きいため、低密度の膜となることからもEUV透過率が高いものである(【0118】)。さらに、カーボンナノチューブの長さが10μm以上10cm以下と長いため、カーボンナノチューブどうしが絡み合い、強靱なシートとなることができる(【0118】)。その他、バンドル径、自立膜であること、バンドルが面内配向していること、面内配向したバンドル同士が絡み合った網目構造を有すること、RBの値が0.40以上であることについては、本件発明1と同様である。 3 引用文献1を主引用例とする新規性欠如(本件発明1、3~5に対するもの)及び進歩性欠如(本件発明1、3~18に対するもの)について (1)引用発明1の認定 引用文献1には、図14(b)に記載されたRuでコーティングされたCNT膜(引用文献1の表題からみて、このCNT膜はEUVリソグラフィ用のCNTペリクル膜であると認められる。)について、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる(引用発明の認定に用いた記載箇所等を参考までに括弧内に付してある。以下同じ。)。 「EUVリソグラフィ用のCNTペリクル膜であって、(要約) CNTはRuでコーティングされており、 このコーティングされた膜は、自立するものである、(12頁4行~9行) CNTペリクル膜。」 (2)本件発明1について ア 対比 引用発明1の「EUVリソグラフィ用のCNTペリクル膜」は、本件発明1の「露光用ペリクル膜」に相当する。そして、当該「CNTペリクル膜」は、技術常識に照らせば、本件発明1でいう「支持枠の開口部に張設される」ものといえる。 引用発明1の「CNTペリクル膜」は、「自立するものである」ことから、本件発明1でいう「カーボンナノチューブシートの自立膜」であるといえる。 イ 一致点及び相違点の認定 前記アによれば、本件発明1と引用発明1は、 「支持枠の開口部に張設される露光用ペリクル膜であって、 前記ペリクル膜は、カーボンナノチューブシートの自立膜である、 露光用ペリクル膜。」である点で一致し、次の点で相違する。 [相違点1-1] 「露光用ペリクル膜」が、本件発明1は、厚さが200nm以下であるのに対し、引用発明1は、EUVリソグラフィ用のCNTペリクル膜であるが、厚さが不明である点。 [相違点1-2] 「カーボンナノチューブシート」が、本件発明1は、複数のカーボンナノチューブから形成されるバンドルを備え、前記バンドルは径が100nm以下であり、前記カーボンナノチューブシート中で前記バンドルが面内配向しており、前記カーボンナノチューブシートは、面内配向した前記バンドル同士が絡み合った網目構造を有するのに対し、引用発明1は、そうであるのか不明である点。 [相違点1-3] 「カーボンナノチューブ」が、本件発明1は、径が0.8nm以上6nm以下であるのに対し、引用発明1は、径が不明である点。 [相違点1-4] 「露光用ペリクル膜」が、本件発明1は、RB0.40以上事項を満たすのに対し、引用発明1は、そうであるのか不明である点。 ウ 相違点の判断 事案に鑑み、相違点1-4及び1-2から判断する。ここで、相違点1-4に係る本件発明1のRB0.40以上事項は、「カーボンナノチューブシート」について観念される量であることから、同じく「カーボンナノチューブシート」に係る相違点である相違点1-2とまとめて判断するのが相当である。 (ア)本件発明1においてRB0.40以上事項を満たすということは、以下のとおり、径が100nm以下という相当程度小さいバンドルが、面内方向に相当程度沿った上で、きわめて高密度に存在していることを意味していると解するのが相当である。 まず、RBは、「カーボンナノチューブシートの断面の制限視野電子線回折像」における「カーボンナノチューブのバンドルの三角格子」に由来する回折強度を測定することによって算出されるところ、RB0.40以上事項を満たすためには、RBの定義からみて、「前記カーボンナノチューブのバンドルの三角格子に由来する前記カーボンナノチューブシートの膜厚方向の、回折強度のピークとなる逆格子ベクトルにおける回折強度」(以下「膜厚方向ピーク回折強度」という。)を相当程度大きくしつつ、「前記膜厚方向の回折強度のピークとなる逆格子ベクトルにおける前記カーボンナノチューブシートの面内方向の回折強度」(以下「面内方向ピーク回折強度」という。)を相当程度小さくする必要があるといえる。 このように、RB0.40以上事項を満たすためには、カーボンナノチューブシートの断面の制限視野電子線回折像における膜厚方向ピーク回折強度を相当程度大きくするとともに面内方向ピーク回折強度を相当程度小さくしなければならないことから、そのためには、「カーボンナノチューブシートの断面」の制限視野内において、バンドルの三角格子に係る構造が、きわめて多数存在しなければならないといえる。そして、本件発明1では、バンドルの径として100nm以下という小さくなる方向の値が特定されていることから、上記制限視野内においてバンドルの三角格子に係る構造がきわめて多数存在しているということは、上記制限視野内においてバンドルがきわめて多数存在している、つまり、きわめて高密度に存在しているとともに、それらのバンドルが面内方向に相当程度沿っていることを意味していることになる。 以上をまとめると、本件発明1においてRB0.40以上事項を満たすということは、径が100nm以下という相当程度小さいバンドルが、面内方向に相当程度沿った上で、きわめて高密度に存在していることを意味しているといえる。なお、この理解は、本件訂正明細書等の実施例(RBが1.02)では、バンドルの平均径が9.0nmであり、径が100nmを超えるバンドルが見られなかった(【0190】・【0192】)一方で、比較例(RBが0.353)では、径が100nmを超えるバンドルが観察された(【0196】・【0197】)ことや、本件訂正明細書等には、カーボンナノチューブシートを製造する際に用いる分散液に分散剤を含ませると、バンドルが細くなり、面内配向しやすくなる(【0059】)旨記載されていることと整合している。 (イ)a これを引用発明1についてみると、引用発明1の「CNTペリクル膜」は、バンドルを形成しているのか、また、仮にバンドルを形成しているといえたとしても、その径がどの程度であるのか、そのバンドルがどの程度面内方向に沿っているのか、そのバンドルがどの程度の密度で存在しているのかが一切不明であることから、RB0.40以上事項を満たすのかも不明と言わざるを得ない。 この点、引用文献1には、CNTペリクルのEUVリソグラフィ用散乱のモデリングを行う際に、CNTペリクルを、CNTの複雑なネットワークを平面上に横たわる平行なシリンダーのセットに単純化することができた旨記載されているところ、この記載は、モデリングに関するものである上、それをさておくとしても、CNTペリクルのバンドル径やバンドルの密度までも明らかにするものではないから、当該記載によって上記判断が左右されることはない。 また、引用文献1には、多層CNT粉末をパラフィンワックス溶液に分散させた溶液をスピンコーティング又はスプレーコーティングし、アニールしてCNT薄膜を得る方法が記載されている(8頁下から4行~末行)が、この方法によって得られたCNT薄膜が、バンドルを形成しているのか、バンドルを形成しているとしてもその径がどの程度か、バンドルが面内方向にどの程度沿って存在しているのか、バンドルがどの程度の密度で存在しているのかの記載はない。そして、本件訂正明細書等(【0187】・【0188】・【0190】・【0057】)には、RB0.40以上事項を満たす例として、いわゆるスーパーグロース法で製造されたカーボンナノチューブを、分散剤として有機側鎖フラビンを用いて得られた分散液を用いて厚さ200nm程度のカーボンナノチューブシートを製造した実施例が一例(以下「本件実施例」という。)記載されているが、引用文献1に記載された上記の方法が本件実施例に係る方法と一致しているとはいえないことから、上記の方法によって製造されたCNT薄膜がRB0.40以上事項を満たしている蓋然性が高いともいえない。 以上によれば、相違点1-4及び1-2は実質的である。 b 引用発明1から出発した当業者が相違点1-4及び1-2に係る本件発明1の構成に至るためには、当該「CNTペリクル膜」に含まれるCNTがバンドルを形成するとともに、そのバンドル径を100nm以下という相当程度小さいものとし、さらに、そのバンドルを面内方向に相当程度沿うようにした上で、きわめて高密度に存在させることが必要となるが、それが容易であるとはいえない。 すなわち、引用文献1には、そのようにする記載も示唆もないし、申立人及び特許権者が提出した他の証拠をみても、引用発明1から出発した当業者が、相違点1-4及び1-2に係る本件発明1の構成に容易に至ることを根拠付ける記載は見いだせない。 したがって、相違点1-4及び1-2に係る本件発明1の構成は、引用発明1並びに申立人及び特許権者が提出した他の証拠に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に至るものともいえない。 エ 申立人の主張について (ア)申立人は、RB0.40以上事項が本件発明1で特定されたバンドルの「面内配向」を特定しているにすぎないとか、引用発明1は、バンドルが「面内配向」しているといえることから、これがRB0.40以上事項を満たすようにすることは当業者にとって容易であるなどと主張する。 しかしながら、前記ウ(ア)で説示したとおり、本件発明1においてRB0.40以上事項を満たすためには、径が100nm以下という相当程度小さいバンドルが、面内方向に相当程度沿った上で、きわめて高密度に存在することを要すると解されるのであり、そうである以上、申立人の主張は、その前提を欠くものである。 (イ)a 申立人は、引用文献1には、面内配向するとともに、安定した自立型のCNT膜が記載されているから、当該CNT膜はRB0.40以上事項を満たす旨主張する。 しかしながら、前記ウ(イ)aで説示したとおり、当該CNT膜において、バンドルを形成しているのか、また、仮にバンドルを形成しているとしても、バンドル径がどの程度であるのか、バンドルが面内方向にどの程度沿って存在しているのか、バンドルがどの程度の密度で存在しているのかは不明である。そして、本件訂正明細書等には、RB0.40以上事項を満たすとバンドルが面内配向していること(【0104】)、バンドルが面内配向しているカーボンナノチューブシートは、100nm以下の厚さであっても自立膜を形成することができること(【0112】)が記載されているものの、だからといって、論理的には、バンドルが面内配向しており、かつ、自立膜が形成されてさえいれば、直ちにRB0.40以上事項を満たすとはいえないのであり、このことは、同事項を満たすためには、バンドルの面内配向と自立膜の形成という要件以外の他の要件も必要とされる可能性が排除されないことからみて明らかである。そうすると、当該CNT膜が、面内配向しており自立していることをもって、RB0.40以上事項を満たすともいえない。 b さらに、申立人は、安定した自立型のCNT膜のRBの値を0.40以上とすることは周知技術にすぎないとも主張し、その根拠として、引用文献3及び6を挙げるようである。 しかしながら、引用文献3には、カーボンナノチューブシートにおいてカーボンナノチューブが面内に配向していると解される記載がある(【0061】)にとどまり、引用文献3に記載されたカーボンナノチューブシートがRB0.40以上事項を満たしているのかは不明である。 また、引用文献6には、カーボンナノチューブ集合体に係る透明導電性フィルム(【0001】)であって、溶媒などに対する分散性の観点からバンドル径の平均が20nm以下であることが好ましく(【0039】)、厚みが約0.5nm~約1000μmであり(【0069】)、自立フィルムとして用いることもできる(【0068】)ものが記載されている。そして、当該フィルムは、3次元編目構造を形成している(【0053】・図5)。しかしながら、バンドルの面内配向の程度及びバンドルの密度の程度が、RB0.40以上事項を満たす程度に至っているのかは不明と言わざるを得ない。また、そのフィルムの製造方法は、カーボンナノチューブ集合体を分散液として、その分散液を基板に塗布するものであり(請求項3・【0016】・【0049】)、実施例に記載された透明導電性フィルム(【0128】・【0139】・【0151】・【0156】)は、塗布厚みが12μmとされるところ、本件実施例のように、分散剤として有機側鎖フラビンを用いることは記載されていないし、カーボンナノチューブシートの膜厚(本件実施例では200nm程度)も相当異なる。そうすると、当該透明導電性フィルムの製造方法が、前記ウ(イ)aで説示した本件実施例に係る製造方法と一致しているとはいえないのであり、そのため、引用文献6に記載された実施例に係る透明導電性フィルムがRB0.40以上事項を満たしている蓋然性が高いともいえない。 (ウ)申立人は、RB0.40以上事項において用いられる制限視野電子線回折法を用いた配向性に関する評価方法は周知技術(甲B24~B26)であり、RBについて0.40を境界値として何らかの臨界的意義があるとはいえないから、引用発明1から出発した当業者がRB0.40以上事項に係る構成に至ることに格別の困難性はない旨主張する。 しかしながら、甲B24~B26には、RBについての記載があるわけではない。そして、制限視野電子線回折法を用いた配向性に関する評価方法が周知技術であり、RBについて0.40を境界値として何らかの臨界的意義があるとはいえないとしても、前記ウ(イ)bで説示したとおり、引用発明1から出発した当業者が、相違点1-4及び1-2に係る本件発明1の構成に容易に至るとはいえない以上、申立人の主張によって前記の説示が左右されることはない。 オ 小括 そして、引用文献1に記載されたいずれの発明を引用発明として認定しても、前記の説示を左右するものはない。 したがって、本件発明1は、引用文献1に記載された発明とはいえないし、また、他の相違点について検討するまでもなく、引用文献1に記載された発明並びに申立人及び特許権者が提出した他の証拠に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (3)本件発明3~18について ア 本件発明3~5は、本件発明1に従属するものといえるから、前記(2)と同様の理由で、引用文献1に記載された発明とはいえないし、また、引用文献1に記載された発明並びに申立人及び特許権者が提出した他の証拠に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 イ 本件発明6は、これを引用発明1と対比すると、両者の間には相違点1-2及び1-4と同様の相違点が存在することから、前記(2)と同様の理由で、引用文献1に記載された発明並びに申立人及び特許権者が提出した他の証拠に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ 本件発明7~12は、本件発明6に従属するものといえるから、前記イと同様の理由で、引用文献1に記載された発明並びに申立人及び特許権者が提出した他の証拠に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 エ 本件発明13~18は、本件発明1又は6に従属するものといえるから、前記イ及び前記(2)と同様の理由で、引用文献1に記載された発明並びに申立人及び特許権者が提出した他の証拠に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (4)小括 以上のとおりであるから、引用文献1を主引用例とする新規性欠如及び進歩性欠如の取消理由は、理由がない。 4 引用文献2を主引用例とする進歩性欠如(本件発明1、3~18に対するもの)について (1)引用発明2の認定 引用文献2には、請求項28の記載を引用する請求項47に記載された配向単層カーボンナノチューブ・バルク構造体であって、請求項48に記載された製造方法によって製造されたもの(26頁12行~14行、34頁13行~22行、図11を参照。)について、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。 「複数の配向単層カーボンナノチューブからなり、高さが10μm以上である配向単層カーボンナノチューブ・バルク構造体であって、(請求項28) バルク構造体が薄膜であり、(請求項47) 金属触媒を基板上にパターニングし、その金属触媒の存在下に基板面に対して所定方向に配向するように複数の単層カーボンナノチューブを化学気相成長(CVD)させてバルク構造体とする方法であって、反応雰囲気に酸化剤を添加する配向単層カーボンナノチューブ・バルク構造体の製造方法によって製造される、(請求項48) 配向単層カーボンナノチューブ・バルク構造体。(請求項28)」 (2)本件発明1について ア 対比 引用発明2の「バルク構造体が薄膜であ」る「配向単層カーボンナノチューブ・バルク構造体」は、本件発明1でいう「カーボンナノチューブシート」を構成しているといえる。 本件発明1の「露光用ペリクル膜」と引用発明2の「バルク構造体が薄膜であ」る「配向単層カーボンナノチューブ・バルク構造体」は、膜構造体である点で共通する。 イ 一致点及び相違点の認定 前記アによれば、本件発明1と引用発明2は、 「膜構造体であって、 膜構造体は、カーボンナノチューブシートである、 膜構造体。」である点で一致し、次の点で相違する。 [相違点2-1] 膜構造体が、本件発明1は、「支持枠の開口部に張設される露光用ペリクル膜」であるのに対し、引用発明2は、「バルク構造体が薄膜であ」る「配向単層カーボンナノチューブ・バルク構造体」である点。 [相違点2-2] 膜構造体が、本件発明1は、厚さが200nm以下であるのに対し、引用発明2は、厚さが不明である点。 [相違点2-3] 「カーボンナノチューブシート」である膜構造体が、本件発明1は、自立膜であるのに対し、引用発明2はそうであるのか不明である点。 [相違点2-4] 「カーボンナノチューブシート」が、本件発明1は、複数のカーボンナノチューブから形成されるバンドルを備え、前記バンドルは径が100nm以下であり、前記カーボンナノチューブシート中で前記バンドルが面内配向しており、前記カーボンナノチューブシートは、面内配向した前記バンドル同士が絡み合った網目構造を有するのに対し、引用発明2は、そうであるのか不明である点。 [相違点2-5] 「カーボンナノチューブ」が、本件発明1は、径が0.8nm以上6nm以下であるのに対し、引用発明2は、径が不明である点。 [相違点2-6] 膜構造体が、本件発明1は、RB0.40以上事項を満たすのに対し、引用発明2は、そうであるのか不明である点。 ウ 相違点の判断 事案に鑑み、相違点2-4から判断する。 引用発明2は、従来の技術では、例えば不純物を除く精製中に容易に無秩序・無配向のバルク構造体を構成してしまい、垂直配向した単層カーボンナノチューブのバルク構造体が得られていないという課題があった(引用文献2の3頁15行~下から2行)ことから、この課題を解決するために、複数の配向単層カーボンナノチューブからなり、高さ10μm以上である配向単層カーボンナノチューブ・バルク構造体を得る(同26頁7行~下から4行)ものであるところ、この構造体は、「金属触媒を基板上にパターニングし、その金属触媒の存在下に基板面に対して所定方向に配向するように複数の単層カーボンナノチューブを化学気相成長(CVD)させてバルク構造体とする方法であって、反応雰囲気に酸化剤を添加する配向単層カーボンナノチューブ・バルク構造体の製造方法によって製造される」ものであり、この製造方法では、触媒を基板上に配置して基板面に垂直に配向した単層カーボンナノチューブが成長されることになる(同24頁下から5行~下から4行)。 このように、引用発明2に係る「配向単層カーボンナノチューブ・バルク構造体」は、単層カーボンナノチューブが基板面に垂直に配向されることになるから、相違点2-4に係る本件発明1の構成のように、「バンドル」を有しているのか不明であるし、また、仮に「バンドル」を有することがあるとしても、それら「同士が絡み合った網目構造を有」しているとは解し難い。 そして、引用発明2は、上記のとおり、垂直配向した単層カーボンナノチューブのバルク構造体が得られていないという課題を解決するものであるから、相違点2-4に係る本件発明1の構成を採用することは、上記課題の解決を阻害することになるのであり、このことは、引用文献2の他の記載並びに申立人及び特許権者が提出した他の証拠の記載をみても左右されない。 したがって、相違点2-4に係る本件発明1の構成は、引用発明2並びに申立人及び特許権者が提出した他の証拠に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に至るものとはいえない。 エ 申立人の主張について 申立人は、カーボンナノチューブをバンドルとした際にバンドル同士が網目構造となることは当然のことであるとか、仮にそうでないとしても、そのような構造とすることは当業者が通常行い得ることであると主張するが、ここで想定すべき当業者は、引用発明2から出発した当業者なのであり、そうである以上、前記ウで説示したとおりとなる。 オ 小括 そして、引用文献2に記載されたいずれの発明を引用発明として認定しても、前記の説示を左右するものはない。 したがって、本件発明1は、他の相違点について検討するまでもなく、引用文献2に記載された発明並びに申立人及び特許権者が提出した他の証拠に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3)本件発明3~18について ア 本件発明3~5は、本件発明1に従属するものといえるから、前記(2)と同様の理由で、引用文献2に記載された発明並びに申立人及び特許権者が提出した他の証拠に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 本件発明6は、これを引用発明2と対比すると、両者の間には相違点2-4と同様の相違点が存在することから、前記(2)と同様の理由で、引用文献2に記載された発明並びに申立人及び特許権者が提出した他の証拠に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ 本件発明7~12は、本件発明6に従属するものといえるから、前記イと同様の理由で、引用文献2に記載された発明並びに申立人及び特許権者が提出した他の証拠に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 エ 本件発明13~18は、本件発明1又は6に従属するものといえるから、前記イ及び前記(2)と同様の理由で、引用文献2に記載された発明並びに申立人及び特許権者が提出した他の証拠に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (4)小括 以上のとおりであるから、引用文献2を主引用例とする進歩性欠如の取消理由は、理由がない。 5 引用文献3を主引用例とする進歩性欠如(本件発明1、3~18に対するもの)について (1)引用発明3の認定 引用文献3には、「リソグラフィ装置1内のマスクペリクル100cとして」「配置され」る「光学素子100」(【0085】)について、次の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。 「リソグラフィ装置1内のマスクペリクル100cとして配置される光学素子100であって、(【0085】) 前記光学素子100は配向カーボンナノチューブシート110を含み、前記光学素子100は約20~500nmの範囲内の素子厚さを有し、かつ、1~20nmの範囲内の波長を有するEUV放射に対して、前記EUV放射による垂直照射下で少なくとも20%の透過を有するものであり、(請求項1) 配向カーボンナノチューブシート110は、配向単層カーボンナノチューブシートを含み、(【0023】) 光学素子100の配向カーボンナノチューブシート110は、約10~500nmの範囲内のシート厚さを有し、(【0024】) ナノチューブは配向しており、その配向は、シートの表面と実質的に平行であり、(【0061】) 配向カーボンナノチューブシート110は、強度があることによりサポートが必ずしも必要ではなく、したがって、光学素子100は、自立型である、(【0067】) 光学素子100。」 (2)本件発明1について ア 対比 引用発明3の「光学素子100」は、「リソグラフィ装置1内のマスクペリクル100cとして配置される」ものであるから、本件発明1の「露光用ペリクル膜」に相当する。そして、当該「光学素子100」は、技術常識に照らせば、本件発明1でいう「支持枠の開口部に張設される」ものといえる。 引用発明3の「配向カーボンナノチューブシート110」は、本件発明1の「カーボンナノチューブシート」に相当する。 引用発明3は、「配向カーボンナノチューブシート110は、強度があることによりサポートが必ずしも必要ではなく、したがって、光学素子100は、自立型である」ことから、当該「配向カーボンナノチューブシート110」は、本件発明1でいう「自立膜」であるといえる。 イ 一致点及び相違点の認定 前記アによれば、本件発明1と引用発明3は、 「支持枠の開口部に張設される露光用ペリクル膜であって、 前記ペリクル膜は、カーボンナノチューブシートの自立膜である、 露光用ペリクル膜。」である点で一致し、次の点で相違する。 [相違点3-1] 「露光用ペリクル膜」が、本件発明1は、厚さが200nm以下であるのに対し、引用発明3は、約20~500nmの範囲内の素子厚さを有し、配向カーボンナノチューブシート110は、約10~500nmの範囲内のシート厚さを有するものである点。 [相違点3-2] 「カーボンナノチューブシート」が、本件発明1は、複数のカーボンナノチューブから形成されるバンドルを備え、前記バンドルは径が100nm以下であり、前記カーボンナノチューブシート中で前記バンドルが面内配向しており、前記カーボンナノチューブシートは、面内配向した前記バンドル同士が絡み合った網目構造を有するのに対し、引用発明3は、そうであるのか不明である点。 [相違点3-3] 「カーボンナノチューブ」が、本件発明1は、径が0.8nm以上6nm以下であるのに対し、引用発明3は、径が不明である点。 [相違点3-4] 「露光用ペリクル膜」が、本件発明1は、RB0.40以上事項を満たすのに対し、引用発明3は、そうであるのか不明である点。 ウ 相違点の判断 事案に鑑み、相違点3-4及び3-2から判断する。両相違点をまとめて判断するのが相当であることは、前記3(2)ウの冒頭に説示したとおりである。 (ア)前記3(2)ウ(ア)で説示したことに照らせば、相違点3-4及び3-2に係る本件発明1の構成を満たすためには、径が100nm以下という相当程度小さいバンドルが、面内方向に相当程度沿った上で、きわめて高密度に存在していることを要すると解される。 これを引用発明3についてみると、引用発明3の「光学素子100」は、「ナノチューブは配向しており、その配向は、シートの表面と実質的に平行であ」るものの、バンドルを形成しているのか、また、仮にバンドルを形成しているといえたとしても、その径がどの程度であるのか、そのバンドルがどの程度面内方向に沿っているのか、そのバンドルがどの程度の密度で存在しているのかが一切不明であることから、RB0.40以上事項を満たすのかも不明と言わざるを得ない。 また、引用文献3には、配向カーボンナノチューブシートを製造する方法として、引用文献9が例示されている(【0010】)ところ、引用文献9には、バインダを使用することなしでナノチューブ集合体を製造する方法が開示されており(339頁の「要旨」の項)、CNTシートは、撚りを入れることなくCNTフォレストからCNTを延伸させることにより生産されること、また、自立型MWNTシートが、最初は50nmという薄さの強固なシートに高密度化され得る高度に異方性のエアロゲルとして形成されること、フォレストからナノチューブを延伸させることにより形成された高密度化MWNTシートにおいてナノチューブがバンドル化していること(342頁右欄~343頁右欄の「6.シート生産及び特性」の項、図7のキャプション)、が記載されている。しかしながら、引用文献9に記載された方法によって製造された高密度化MWNTシートのバンドル径の程度、面内配向の程度及びバンドルの密度の程度が、RB0.40以上事項を満たす程度に至っているのかは不明と言わざるを得ないし、当該MWNTシートの製造方法は、前記3(2)ウ(イ)aで説示した本件実施例に係る製造方法と一致しているとはいえないことから、これがRB0.40以上事項を満たしている蓋然性が高いともいえない。 (イ)そして、引用発明3から出発した当業者が相違点3-4及び3-2に係る本件発明1の構成に至るためには、当該「カーボンナノチューブシート110」に含まれる「ナノチューブ」がバンドルを形成しているとともに、そのバンドル径を100nm以下という相当程度小さいものとし、さらに、そのバンドルを面内方向に相当程度沿うようにした上で、きわめて高密度に存在させることが必要となる。 しかるところ、引用文献3には、「ナノチューブは配向しており、その配向は、好適にはシートの表面と実質的に平行であり、したがって、好適には光ビームの伝播に対して実質的に垂直であるかまたは光軸に平行である。」(【0061】)とは記載されているものの、以上の観点のようにする記載も示唆もない。 そして、申立人及び特許権者が提出した他の証拠をみても、引用発明3から出発した当業者が、相違点3-4及び3-2に係る本件発明1の構成に容易に至ることを根拠付ける記載は見いだせない。 したがって、相違点3-4及び3-2に係る本件発明1の構成は、引用発明3並びに申立人及び特許権者が提出した他の証拠に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に至るものとはいえない。 エ 申立人の主張について (ア)申立人は、引用文献3に引用された引用文献9の記載を根拠に、引用発明3がRB0.40以上事項を満たす蓋然性が高い旨主張するが、引用発明3の「配向カーボンナノチューブシート110」として引用文献9に記載されたものを採用することができるとしても、前記ウ(ア)で説示したとおり、引用文献9に記載されたシートがRB0.40以上事項を満たしているとはいえない。 (イ)申立人は、引用文献1を主引用例とする新規性欠如及び進歩性欠如の理由においてした主張(前記3(2)エ)と同様の主張を、本取消理由においてもするが、同様に採用できない。 オ 小括 そして、引用文献3に記載されたいずれの発明を引用発明として認定しても、前記の説示を左右するものはない。 したがって、本件発明1は、他の相違点について検討するまでもなく、引用文献3に記載された発明並びに申立人及び特許権者が提出した他の証拠に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3)本件発明3~18について ア 本件発明3~5は、本件発明1に従属するものといえるから、前記(2)と同様の理由で、引用文献3に記載された発明並びに申立人及び特許権者が提出した他の証拠に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 本件発明6は、これを引用発明3と対比すると、両者の間には相違点3-2及び3-4と同様の相違点が存在することから、前記(2)と同様の理由で、引用文献3に記載された発明並びに申立人及び特許権者が提出した他の証拠に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ 本件発明7~12は、本件発明6に従属するものといえるから、前記イと同様の理由で、引用文献3に記載された発明並びに申立人及び特許権者が提出した他の証拠に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 エ 本件発明13~18は、本件発明1又は6に従属するものといえるから、前記イ及び前記(2)と同様の理由で、引用文献3に記載された発明並びに申立人及び特許権者が提出した他の証拠に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (4)小括 以上のとおりであるから、引用文献3を主引用例とする進歩性欠如の取消理由は、理由がない。 6 先願1に係る外国語書面出願の外国語書面(そのうち、優先権主張基礎出願の出願書類全体に記載されたものに限る。)に記載された発明に基づく拡大先願同一(本件発明1、3~5、13~18に対するもの)について (1)先願発明Aの認定 先願1に係る外国語書面出願の出願日は、2018年(平成30年)5月15日であって、優先日は、2017年(平成29年)5月15日であるところ、前記1で説示したとおり、本件発明については、優先日が2016年(平成28年)7月5日であるが、その効果を認めることができず、そのため、特許要件の判断基準日は、国際出願日である2017年(平成29年)7月3日となる。そうすると、先願1に係る外国語書面出願は、特許法第29条の2所定の「当該特許出願の日前の他の出願」に該当する。 そして、先願1に係る外国語書面出願の外国語書面(そのうち、優先権主張基礎出願の出願書類全体に記載されたものに限るものであり、以下「先願1当初明細書等」という。)には、図1に係る「自立型CNTペリクル膜102」について、次の発明(以下「先願発明A」という。)が記載されていると認められる(翻訳は、先願1に係る公開公報の記載に基づくものであり、参考までに括弧内に記載してある先願発明Aの認定に用いた箇所については、当該公報の段落番号に基づいて示してある。)。 「CNTフィルム104を加圧することによって形成された自立型CNTペリクル膜102であって、(【0087】) CNTフィルム104は、第1の加圧面106と第2の加圧面108との間に配置されており、(【0077】) CNTフィルム104は、いわゆる自立型CNTフィルム104であり、(【0077】) CNTフィルム104のCNT110は、単層CNTであり、(【0078】) CNTフィルム104の個々のCNTは、CNT110が主要な方向または優勢な方向に沿ってCNTフィルム104内に配置されていないという意味で、CNTフィルム104内にランダムに配置されており、(【0079】) CNTフィルム104は、ランダムに配向されたCNT束から形成されており、(【0080】) CNT束110は、例えば、2~20個の個々のCNTを含むことができ、(【0080】) 加圧面106,108は、CNTフィルム104に機械的に圧力を印加するために、共に加圧することができ、(【0084】) 加圧中にオーバーラップする位置で起こる結合は、CNTフィルム104の強度および完全性を向上させ、それによって、自立型CNTペリクル膜102を形成するものであり、(【0086】) 個々のCNT110は、0.5~2nmの直径を有し、(【0104】。なお、「CNT112」の記載は、図1及び【0081】等の記載からみて「CNT110」の明らかな誤記と認められるので、誤記を正して認定した。) CNTペリクル膜102の厚さは、5~50nmの範囲である、(【0106】。なお、当該段落には、「5~50mm」と記載されているが、この「mm」は「nm」の明らかな誤記であると認められるので、誤記を正して認定した。) 自立型CNTペリクル膜102。」 (2)本件発明1について ア 対比 先願発明Aの「自立型CNTペリクル膜102」は、本件発明1の「露光用ペリクル膜」に相当する。そして、当該「自立型CNTペリクル膜102」は、技術常識に照らせば、本件発明1でいう「支持枠の開口部に張設される」ものといえる。 先願発明Aの「自立型CNTペリクル膜102」は、「5~50nm」の厚さであるから、本件発明1でいう「厚さが200nm以下」であるといえる。 先願発明Aの「自立型CNTペリクル膜102」は、本件発明1でいう「カーボンナノチューブシートの自立膜」であるといえる。 先願発明Aの「自立型CNTペリクル膜102」は、「CNTフィルム104」を加圧することによって形成されるものであるところ、当該「CNTフィルム104」は、「ランダムに配向されたCNT束から形成されて」いることから、先願発明Aは、本件発明1の「前記カーボンナノチューブシートは複数のカーボンナノチューブから形成されるバンドルを備え」ているものといえる。 イ 一致点及び相違点の認定 前記アによれば、本件発明1と先願発明Aは、 「支持枠の開口部に張設される露光用ペリクル膜であって、 前記ペリクル膜は、厚さが200nm以下であり、 前記ペリクル膜は、カーボンナノチューブシートの自立膜であり、 前記カーボンナノチューブシートは複数のカーボンナノチューブから形成されるバンドルを備えている、 露光用ペリクル膜。」である点で一致し、次の点で相違する。 [相違点A-1] 「カーボンナノチューブシート」が、本件発明1は、複数のカーボンナノチューブから形成されるバンドルの径が100nm以下であり、前記カーボンナノチューブシート中で前記バンドルが面内配向しており、前記カーボンナノチューブシートは、面内配向した前記バンドル同士が絡み合った網目構造を有するのに対し、先願発明Aは、そうであるのか不明である点。 [相違点A-2] 「カーボンナノチューブ」が、本件発明1は、径が0.8nm以上6nm以下であるのに対し、先願発明Aは、0.5~2nmの直径を有する点。 [相違点A-3] 「露光用ペリクル膜」が、本件発明1は、RB0.40以上事項を満たすのに対し、先願発明Aは、そうであるのか不明である点。 ウ 相違点の判断 前記3(2)ウの冒頭に説示したのと同様の理由により、相違点A-1及びA-3をまとめて判断する。 (ア)前記3(2)ウ(ア)で説示したことに照らせば、相違点A-1及びA-3に係る本件発明1の構成を満たすためには、径が100nm以下という相当程度小さいバンドルが、面内方向に相当程度沿った上で、きわめて高密度に存在していることを要すると解される。 これを先願発明Aについてみると、先願発明Aの「自立型CNTペリクル膜102」は、「CNTフィルム104を加圧することによって形成された」ものであり、CNT束110が、「2~20個の個々のCNT」を含み、個々のCNT110は、「0.5~2nmの直径を有」するものであるところ、これらの個数及び直径の大きさからすれば、一のCNT束110の径が100nmを超えないことまでは理解できるものの、CNT束110の面内配向の程度及び密度の程度が、RB0.40以上事項を満たす程度に至っているのかは不明と言わざるを得ないし、当該「自立型CNTペリクル膜102」の製造方法は、前記3(2)ウ(イ)aで説示した本件実施例に係る製造方法と一致しているとはいえないことから、これがRB0.40以上事項を満たしている蓋然性が高いともいえない。 そして、先願1当初明細書等の他の記載をみても上記の判断を左右するものはない。 したがって、相違点A-1についてはさておくとしても、相違点A-3は、実質的である。 (イ)そして、相違点A-3が、課題解決のための具体化手段における微差であるといえる根拠も見いだせない。 (ウ)したがって、本件発明1と先願発明Aは、同一とはいえない。 エ 申立人の主張について 申立人は、引用文献1を主引用例とする新規性欠如及び進歩性欠如の理由においてした主張(前記3(2)エ)と同様の主張を、本取消理由においてもするが、同様に採用できない。 オ 小括 そして、先願1当初明細書等に記載されたいずれの発明を先願発明として認定しても、前記の説示を左右するものはない。 したがって、本件発明1は、先願1当初明細書等に記載された発明と同一であるとはいえない。 (3)本件発明3~5、13~18について 本件発明3~5、13~18は、本件発明1に従属するものといえるから、前記(2)と同様の理由で、先願1当初明細書等に記載された発明と同一であるとはいえない。 (4)小括 以上のとおりであるから、先願1に係る外国語書面出願の外国語書面(そのうち、優先権主張基礎出願の出願書類全体に記載されたものに限る。)に記載された発明に基づく拡大先願同一の取消理由は、理由がない。 7 第2次取消理由及び第1次取消理由についての当合議体の判断の小括 第1次取消理由のうち第2次取消理由に含まれないものは、前記第5の2のとおり、本件特許の登録時の請求項2に係るもののみであるが、当該請求項2は本件訂正により削除されている。 したがって、第2次取消理由及び第1次取消理由によって、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。 第7 特許異議申立理由(第2次取消理由及び第1次取消理由に含まれないもの)についての当合議体の判断 1 明確性要件違反に係る理由 (1)RB0.40以上事項に関連する主張について ア 申立人は、本件発明のRBに係る特定事項が「Aと、Bとの差」という表現構造を含む記載となっていることについて、これでは、A-Bを意味しているのか、B-Aを意味しているのかが明確でない、つまり、AとBのいずれが被減数であっていずれが減数であるのかが不明である旨主張する。 しかしながら、当該特定事項は、(i)「膜厚方向の、回折強度のピークとなる逆格子ベクトルにおける回折強度」と、「膜厚方向の、」「ベースラインとなる逆格子ベクトルにおける回折強度」との差を、(ii)「前記膜厚方向の前記ベースラインとなる逆格子ベクトルにおける前記カーボンナノチューブシートの面内方向の回折強度」と、「前記膜厚方向の回折強度のピークとなる逆格子ベクトルにおける前記カーボンナノチューブシートの面内方向の回折強度」との差で除した比として記載されているのであり、分子(i)と分母(ii)の双方に「差」に係る表現が登場している。そして、分子及び分母において、どちらが被減数でどちらが減数になるのかは、記載された順序に基づいて、分子及び分母の双方につき同様にこれを決することが自然である。そうすると、申立人が主張するいずれの意味に解しても、商をとったRBの値としてみると、これは一意に特定されることになる。 イ 申立人は、RBを算出する際には、「前記カーボンナノチューブのバンドルの三角格子に由来するカーボンナノチューブシートの膜厚方向の、回折強度のピークとなる逆格子ベクトル」(以下「本件ピーク逆格子ベクトル」という。)と、「前記カーボンナノチューブシートの膜厚方向の前記ピークと重ならず、ベースラインとなる逆格子ベクトル」(以下「本件ベースライン逆格子ベクトル」という。)が特定される必要があるが、これらが明確に特定されていない旨主張し、その根拠として、(i)本件訂正明細書等には、本件ピーク逆格子ベクトル及び本件ベースライン逆格子ベクトルとして、それぞれ、2.7nm-1及び2.2nm-1のものが記載されている(【0100】)ものの、これに限定することなく、適宜選定できるとも記載されており(【0102】)、選定する値によって、RBの値が大きく変化してしまうこと、(ii)本件ベースライン逆格子ベクトルについては、「本回折ピークと重ならない位置において、ベースラインとなる強度を差し引くための位置」と記載されているが(【0100】)、この記載からどのように特定するのかは当業者にとっても不明であることを挙げる。 (ア)a まず、本件ピーク逆格子ベクトルは、「カーボンナノチューブのバンドルの三角格子に由来する前記カーボンナノチューブシートの膜厚方向の、回折強度のピークとなる」と特定されているものであり、その文言は、当業者にとって明確に理解できる。 また、本件ベースライン逆格子ベクトルは、「前記カーボンナノチューブシートの膜厚方向の前記ピークと重ならず、ベースラインとなる逆格子ベクトル」と特定されているところ、その特定中の「ベースライン」という文言、及びRBの定義において、本件ベースライン逆格子ベクトルに係る回折強度と本件ピーク逆格子ベクトルに係る回折強度との(商ではなく)差が特定されていることに照らせば、当業者であれば、本件ベースライン逆格子ベクトルが、「カーボンナノチューブシートの断面」における「膜厚方向」の「前記カーボンナノチューブのバンドルの三角格子」に係る構造(以下「本件バンドル三角格子構造」という。)にもっぱら由来する回折強度を明らかにするためのものであって、本件ピーク逆格子ベクトルにおける回折強度から、本件バンドル三角格子構造に係る影響以外の影響を差し引くための回折強度に対応する逆格子ベクトルを意味していることを理解できる。 b この点、本件訂正明細書等の【0102】には、本件ピーク逆格子ベクトル及び本件ベースライン逆格子ベクトルは、それぞれ「2.7nm-1」及び「2.2nm-1」に限定することなく、適宜選定することができる旨記載されており、そのため、本件ピーク逆格子ベクトル及び本件ベースライン逆格子ベクトルに任意性があると理解される余地がある。しかしながら、本件訂正明細書等の図5(後掲してある。)のような、横軸にカーボンナノチューブシートの断面の制限視野電子線回折像における逆格子ベクトルをとり、縦軸に膜厚方向及び面内方向における回折強度を反映する輝度をとった曲線(同【0041】・【0091】。以下「本件逆格子ベクトル-回折強度曲線」といい、当該図5に記載された本件逆格子ベクトル-回折強度曲線を「本件図5曲線」という。)について、本件図5曲線その他のいかなる本件逆格子ベクトル-回折強度曲線であっても、上記の「ピーク」が「2.7nm-1」に常に現れるとは解し難く、このことは、同【0085】において、回折強度や散乱角が、ナノチューブの直径や集合状態に依存すると記載されていることからみても明らかである。そうであるならば、本件ピーク逆格子ベクトルは、上記の特定、つまり、「カーボンナノチューブのバンドルの三角格子に由来する前記カーボンナノチューブシートの膜厚方向の、回折強度のピークとなる」という特定に基づいて、本件逆格子ベクトル-回折強度曲線から読み取れる値をもって値を確定すべきであるのが明らかであり、上記の「適宜選定することができる」旨の記載も、そのことを意味しているにすぎないと解するのが相当である。同様に、本件ベースライン逆格子ベクトルも、上記の特定、つまり、「前記カーボンナノチューブシートの膜厚方向の前記ピークと重ならず、ベースラインとなる」という特定に基づいて、本件逆格子ベクトル-回折強度曲線から読み取れる値をもって値を確定すべきであるのが明らかである。 [図:0001422361000002.jpg] c 申立人は、特許権者が引用文献1に記載されたペリクル膜の再現実験であるとして提出した乙5に記載された本件逆格子ベクトル-回折強度曲線(一例を後掲する。)においては、当該曲線からは、本件ピーク逆格子ベクトル及び本件ベースライン逆格子ベクトルを特定できない旨主張する。 しかしながら、RBは、前記aの本件ピーク逆格子ベクトル及び本件ベースライン逆格子ベクトルの理解によれば、要するに、本件バンドル三角格子構造の量を把握しようとするものであって、回折強度を観測しているという原理に照らせば、この構造は、理想的には、滑らかな曲線で表されるものと理解されることから、乙5に記載された本件逆格子ベクトル-回折強度曲線のように滑らかさに欠く曲線が得られたとしても、これをフィッティングして解析すればよいことが明らかである。 [乙5の6頁に記載された電子線回折プロファイル] [図:0001422361000003.jpg] (イ)a 次に、本件ベースライン逆格子ベクトルが具体的にどのような値として定まるのかについて検討する。すなわち、本件ベースライン逆格子ベクトルは、前記(ア)aのとおり、本件バンドル三角格子構造にもっぱら由来する回折強度を明らかにするためのものであって、本件ピーク逆格子ベクトルにおける回折強度から、本件バンドル三角格子構造に係る影響以外の影響を差し引くための回折強度に対応する逆格子ベクトルを意味していることを理解できるが、本件逆格子ベクトル-回折強度曲線が与えられたときに、そのような逆格子ベクトルを具体的に特定できるのかについては、申立人の主張があることも踏まえると、さらに検討する必要がある。 b 本件図5曲線のうち、本件ベースライン逆格子ベクトルの特定に係る「膜厚方向」に対応する「厚み方向」を表す実線は、同【0100】の記載及びその前後の文脈にも照らせば、本件ピーク逆格子ベクトルが2.7nm-1であって、本件ベースライン逆格子ベクトルが2.2nm-1であることを表していることを理解できる。 その上で、改めて本件図5曲線の実線をみると、当該実線には、g=2.7nm-1付近にピークをもつ所定の広がりをもった山なりの曲線部分を見て取れるとともに、当該曲線部分が、g=2.0nm-1付近で極小値となっており、換言すれば、この付近で傾きの変動傾向を大きく変えていることも見て取れる。もっとも、当該曲線部分は、特にこの付近では輝度が滑らかに変動していないことを見て取れることから、当業者であれば、前記(ア)cに照らして、当該実線をフィッティングした上で理解できるのであり、そうであれば、上記の傾きの変動傾向を大きく変えている点は、g=2.2nm-1付近と解することも可能である。 c また、本件図5曲線の実線における前記山なりの曲線部分を含む曲線全体は、前記aの説示に照らせば、(i)本件バンドル三角格子構造にもっぱら由来する曲線と、(ii)ベースラインを構成する曲線との和によって形成されていることを理解できる。 そして、(i)の曲線は、山形の形状である一方、(ii)の曲線は、輝度が最大のところから、おおむね滑らか、かつ、単調に減少する形状となっていると解される。 d 本件図5曲線の実線を、前記(ア)並びに前記b及びcを踏まえて整合的に理解できれば、本件ベースライン逆格子ベクトルの意味をより具体的に理解できるといえるところ、そのためには、(i)の本件バンドル三角格子構造にもっぱら由来する曲線(山形の形状である。)が、gの値が2.2nm-1付近にまで大きくなって初めて有意な値をもつものであると理解するとともに、(ii)のベースラインを構成する曲線(輝度が最大のところから、おおむね滑らか、かつ、単調に減少する形状である。)が、(i)の曲線を足し合わせると本件図5曲線の実線となるようなものと理解すればよいのであり、この理解は、本件図5曲線並びにその本件ピーク逆格子ベクトル及び本件ベースライン逆格子ベクトルの値に接した当業者にとって合理的なものといえる。 このように、本件ベースライン逆格子ベクトルは、本件逆格子ベクトル-回折強度曲線(必要ならばフィッティングを行う。)を得た上で、本件ピーク逆格子ベクトルのピークをもつ本件バンドル三角格子構造にもっぱら由来する曲線が有意な値をもち始める逆格子ベクトルの値をもって特定されるものであることが当業者にとって理解できるのであり、第三者に不測の不利益を及ぼすことはないというべきである。 (ウ)したがって、本件ピーク逆格子ベクトル及び本件ベースライン逆格子ベクトルはいずれも明確である。この点に関する申立人の主張はいずれも採用できない。 ウ 申立人は、本件発明1及び6においてカーボンナノチューブの製造方法が特定されていないことをもって、本件発明の特定事項の記載が明確でない旨主張し、その根拠として、RBを求めるためには、「バンドルの三角格子に由来する」回折強度のピークを求める必要がある一方で、本件訂正明細書等の【0085】の記載によれば、このピークの位置や形状が、カーボンナノチューブの製造方法によって異なるとされていることを挙げる。 しかしながら、RBに係る特定事項には、「回折強度のピーク」が「バンドルの三角格子に由来する」ことが含まれている。そして、カーボンナノチューブの製造方法によって当該ピークの位置や形状が異なるとしても、その差異は、上記の「バンドルの三角格子に由来する」「回折強度のピークとなる逆格子ベクトル」という特定事項に反映されることになる。 エ 申立人は、本件訂正明細書等の記載が、RB0.40以上事項について、所望の面内配向が得られると当業者において認識できる程度のものになっていない、下限であるRBが0.40のときのカーボンナノチューブシートがどのような面内配向の状態にあるのか理解できない、RBの下限である0.40は比較例1のRBの0.353に極めて近く両者の間で技術的な有意差があると理解できない、RBの上限値が不明などと主張する。 しかしながら、RB0.40以上事項についての明確性要件の検討に際しては、当該特定事項それ自体が明確であるか否かを検討すれば足りるのであり、当該特定事項それ自体は、前記ア~ウでも説示したとおり、明確である。申立人の上記各主張は、いずれも、それを問題とするものではない。 (2)RB0.40以上事項以外の主張について ア 申立人は、本件発明の「自立膜」の意味が明確でない旨主張し、その根拠として、特許権者が、引用文献1に記載されたCNT膜について局所的に凝集体を形成したから自立膜を形成しない旨主張していると理解されることや、本件訂正明細書等において自立膜の定義や必要とする面積についての記載がないことを挙げるが、「自立膜」は、本件訂正明細書等の【0045】のとおり、「基材や基板がなく薄膜自身でその形状を保持可能なもの」と理解されるのであり、明確である。特許権者がどのように主張したかによって、この判断が左右されることはない。 さらに、申立人は、本件発明の「カーボンナノチューブシートの自立膜」という記載では、カーボンナノチューブシートのみの自立膜であるのか、他の成分も任意的に含有してもよいのか明確でない旨主張するが、同【0071】には、保護層が、カーボンナノチューブシート中の各バンドルを被覆する態様であってよい旨記載されていることから、上記の記載は、他の成分も任意的に含有してよいものと解される。 イ 申立人は、本件発明1における、ペリクル膜の厚さの下限値が不明であるとか、バンドルの径の下限値が不明であるなどと主張するが、この値が特定されていないことによって、明確性要件違反の問題が生じることはない。 ウ 申立人は、本件発明の「カーボンナノチューブ」の「径」が「0.8nm以上6nm以下」であるという特定事項が明確でない旨主張し、その根拠として、「径」の測定方法について、乙5において採用された方法と本件訂正明細書等の【0117】に記載されたカーボンナノチューブの「径の中心サイズ」に係る方法とが整合していないことを挙げる。 カーボンナノチューブの「径」の測定方法については、当該【0117】に、カーボンナノチューブの「径」の「中心サイズ」の測定方法に関する文脈において、カーボンナノチューブシートの膜面において、透過電子顕微鏡にて透過電子像を撮影し、その画像から、カーボンナノチューブの直径を各々計測する旨の記載がある(なお、径の「中心サイズ」は、この計測されたデータに基づいて作成されたヒストグラムから、その90パーセントが有する径として計算される旨記載されている。)。そうすると、上記の特定事項は、そのようにして測定されたカーボンナノチューブの「径」が、「0.8nm以上6nm以下」であることを意味していると解するのが自然であり、そのため、明確である。 そして、乙5において採用された測定方法の内容がどのようなものかによって、上記の判断が左右されることはないし、それをさておくとしても、当該測定方法は、上記のとおり理解された測定方法と同様のものである。申立人が主張する当該【0117】に記載された測定方法は、カーボンナノチューブの「径の中心サイズ」に係るものであって、本件発明に特定されたカーボンナノチューブの「径」に係るものとは異なる。 (3)小括 以上のとおりであるから、本件発明の明確性要件違反に係る特許異議申立理由は、理由がない。 2 実施可能要件違反に係る理由 (1)判断 申立人は、本件訂正明細書等の記載では、当業者が本件発明に係るペリクル膜を実施できない旨主張するので検討する。 ア 本件訂正明細書等には、おおむね次のことが記載されている。 (ア)ペリクル膜に用いるカーボンナノチューブは、反応系に金属触媒を存在させ、かつ反応雰囲気に酸化剤を添加するCVD法によって、化学気相成長用基板上に形成する。詳細には、カーボンナノチューブは、スーパーグロース法を参照して製造できる(【0057】)。 化学気相成長用基板からカーボンナノチューブを剥離して得られたカーボンナノチューブを液体中に分散させた分散液を準備し、これを用いて、カーボンナノチューブシートを製造できる(【0058】)。分散液を基板上にコーティングした後、分散液に用いた液体を除去すると、その除去するための蒸発に伴い、基板面に対してカーボンナノチューブが略平行である膜が得られ、その基板を取り除くことで、ペリクル膜が得られる(【0063】~【0066】)。 分散液には、分散剤を含んでよく、分散剤を含むと、バンドルが細くなり、面内配向しやすく好ましい(【0059】)。分散剤の種類として、有機側鎖フラビン、フラビン誘導体、ドデシル硫酸ナトリウム、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどを用いることができるが、スーパーグロース法で合成したカーボンナノチューブを分散液中で細くて均一なバンドルに分散させる場合には、分散剤として有機側鎖フラビンを用いることが望ましい(【0059】・【0061】)。 分散液の溶媒の種類としては、分散剤の溶解性に応じて、適宜溶媒を選定することができ、たとえば、分散剤として有機側鎖フラビンを用いる場合は、溶媒としてトルエン、キシレン、エチルベンゼンを用いることができる。分散剤を用いない場合においては、N-メチルピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド、プロピレングリコール、メチルイソブチルケトン(MIBK)などを用いることができる(【0060】)。 バンドルが面内配向しているカーボンナノチューブシートは、面内方向にバンドル同士が絡み合った網目構造とすることができるために、100nm以下の厚さであっても自立膜を形成できる(【0112】)。液体上に膜を浮かせてから掬い取ることで自立膜を得ることができる(【0125】)。 バンドル径を100nm以下とすると、膜厚を200nm以下とすることができ(【0076】)、バンドルが面内配向しているようにすると、バンドル径と同等の膜厚とすることが可能となる(【0112】)。 化学気相成長用基板からカーボンナノチューブを剥離したり(【0064】)、酸洗浄により金属触媒を除したりする(【0116】)ことにより、カーボンナノチューブの純度を98質量パーセント以上とすることができる。 (イ)a 実施例1(本件実施例)として、スーパーグロース法で合成したカーボンナノチューブ300mgと分散剤としての有機側鎖フラビン1gをトルエン100mLに加え、これを攪拌、分散させてカーボンナノチューブ分散液を得て脱泡させた後、そのカーボンナノチューブ分散液を、シリコン基板に、ブレードとのギャップを240μmとして、ブレードコートして、乾燥後に厚さ200nmの膜を得た。そして、有機側鎖フラビンを除去したのち、シリコン基板を水浴に浸透して膜を剥離し、枠で膜を掬い取って、自立膜であるペリクル膜を得た(【0187】・【0188】・【0057】)。 このペリクル膜は、バンドルの平均径が9.0nmであり、径が100nmを超えるバンドルは見られなかった(【0192】)。 RBは1.02であった(【0190】)。 b 実施例2として、実施例1と同様の方法で作製した分散液を用いて、当該分散液を、シリコン基板に、ブレードとのギャップを50μmとして、ブレードコートして、乾燥後に厚さ40nmの膜を得た。そして、有機側鎖フラビンを除去したのち、シリコン基板を水浴に浸透して膜を剥離し、枠で膜を掬い取って、自立膜であるペリクル膜を得た(【0193】)。 このペリクル膜は、バンドルの平均径が10.0nmであり、径が100nmを超えるバンドルは見られなかった(【0193】)。 RBの値は記載されていない。 c 比較例1として、スーパーグロース法で合成したカーボンナノチューブ400mgを有機溶媒であるプロピレングリコール100gに加え、これを攪拌、分散させて得られたカーボンナノチューブ分散液を脱泡した後、そのカーボンナノチューブ分散液を、シリコン基板にブレードとのギャップを240μmとしてブレードコートして、乾燥後に厚さ200nmの膜を得た(【0194】・【0057】)。 RBは0.353であった(【0196】)。 径が100nmを超えるバンドルが観察され、上記の基板を水浴に浸透したところ、基板から剥離したカーボンナノチューブシートの膜は、枠に掬い取る際に細かく砕け、自立膜であるペリクル膜は得られなかった(【0197】)。 イ 以上をも踏まえて、本件訂正明細書等の記載に接した当業者が本件発明に係るペリクル膜を実施できるかを検討する。 (ア)まず、本件発明においてRB0.40以上事項を満たすということは、前記第6の3(2)ウ(ア)のとおり、径が100nm以下という相当程度小さいバンドルが、面内方向に相当程度沿った上で、きわめて高密度に存在することを意味しているのであり、このことは、本件訂正明細書等の記載に接した当業者であれば理解できる。 (イ)次に、本件訂正明細書等には、前記ア(ア)のとおり、本件発明に係るペリクル膜を製造するための製造方法が一般的に記載されている。 a すなわち、ペリクル膜に用いるカーボンナノチューブは、スーパーグロース法で合成すること、基板面に対してカーボンナノチューブを略平行にする方法として、カーボンナノチューブを液体中に分散させた分散液を基板上にコーティングさせた後に、分散液に用いた液体を蒸発により除去すること、バンドルを細くして、面内配向しやすくするための方法として、分散液に分散剤を含めることが記載されている。 加えて、上記分散液について、分散剤は、スーパーグロース法で合成したカーボンナノチューブには、有機側鎖フラビンを用いることが望ましく、また、分散液の溶媒の種類は、分散剤の溶解性に応じて、適宜選定できることも記載されている。 b そして、膜厚を小さくするためには、バンドル径を100nm以下とするとともに、バンドルが面内配向しているようにすることが記載されているところ、これらは分散液に分散剤を含めるといった前記aの方法により実現できるといえる。 c また、自立膜を得るためには、バンドルが面内配向しているカーボンナノチューブシートを用いること、面内方向にバンドル同士が絡み合った網目構造とすることが記載されているところ、これらも、分散液を基板上にコーティングさせた後に、分散液に用いた液体を蒸発により除去するといった前記aの方法により実現できるといえるし、液体上に膜を浮かせてから掬い取ることで自立膜を実現できることも記載されている。 d さらに、カーボンナノチューブの純度を98質量パーセント以上とするために、化学気相成長用基板からカーボンナノチューブを剥離したり、酸洗浄により金属触媒を除したりすることも記載されている。 (ウ)a 本件訂正明細書等には、前記ア(イ)a及びcのとおり、RBが1.02の実施例1とRBが0.353の比較例1が記載されている。ここで、両者の製造方法は、おおむね、分散剤の有無及び用いる溶媒の点(実施例1では、分散剤として「有機側鎖フラビン」を用い、溶媒として「トルエン」を用いているが、比較例1では、分散剤を用いておらず、溶媒として「プロピレングリコール」を用いている。)で異なることが理解できる。 ところで、上記のとおり、実施例1では、分散剤として「有機側鎖フラビン」を用いると記載されているにとどまり、具体的にどのような物質を用いたのかの明記はない。この点、「フラビン」は、一般に、イソアロキサジン誘導体を意味する(例えば、特開2008-56585号公報の【0002】を参照。)ところ、「有機側鎖フラビン」は、その文言に照らして、イソアロキサジン誘導体の置換基に有機側鎖が存在するものと解される。そして、カーボンナノチューブの技術分野において、FC12という化合物が単層カーボンナノチューブの分散剤として周知であった(例えば、乙1の要約欄、引用文献4の[0026]を参照。)と認められるところ、FC12は、その化学構造式(次図参照。引用文献4の【0027】から引用したものである。)からみて、「有機側鎖フラビン」の一種であることが理解できる。 [図:0001422361000004.jpg] さらに、有機側鎖フラビンが単層カーボンナノチューブの分散剤として作用する機序が、芳香環を有する部位が単層カーボンナノチューブと相互作用するとともに、アルキル鎖部位といった有機側鎖が溶媒に対する溶解性を示すことにあるのも周知であった(例えば、引用文献4の[0026]を参照。)と認められる。そして、このことから、当業者であれば、カーボンナノチューブが単層か多層かにかかわらず、カーボンナノチューブの分散剤として機能する化合物には、カーボンナノチューブに対して相互作用する部位と、溶媒に対する溶解性を示す部位を備えているものがあり、これらの部位を選択することにより、カーボンナノチューブに対する相互作用の程度と溶媒に対する溶解性の程度を制御することを通じて、カーボンナノチューブの分散性を制御できることも理解できるといえる。 b また、本件訂正明細書等には、前記ア(イ)a及びbのとおり、実施例として、膜厚が200nm程度及び40nm程度のペリクル膜が記載されている。ここで、両者の相違は、シリコン基板に分散液をブレードコートする際のブレードとシリコン基板のギャップの差(それぞれ、240μm及び50μm)に起因するものであることも理解できる。 (エ)a 以上によれば、本件訂正明細書等の記載に接した当業者であれば、本件発明のうち、まずRB0.40以上事項を満たすためには、バンドル径を100nm以下という相当程度小さいものとし、バンドルを面内方向に相当程度沿わせ、バンドルをきわめて高密度に存在させればよいことを理解できる(前記(ア))ところ、そのためには、分散液に分散剤を含めるか、分散剤を含めるならば分散剤として何を選択するか、分散液に用いる溶媒をどうするかなどを選択する必要があることを理解できる(前記(イ)a及び(ウ)a)し、これらのほかにも、カーボンナノチュ-ブをどのように合成するか(前記(イ)a)、合成したカーボンナノチューブをどの程度分散液に含ませるかについても、分散剤として何を選択するかやバンドルの密度に影響することから、選択する必要があるのを理解できるといえる。さらに、前記(イ)aのとおり、本件訂正明細書等には、スーパーグロース法で合成したカーボンナノチューブでは分散剤として有機側鎖フラビンを用いることが望ましいことが記載されている。 そして、前記(ウ)aのとおり、本件訂正明細書等には、RBが1.02となる実施例1が存在し、スーパーグロース法で合成したカーボンナノチューブを用いて、分散剤として有機側鎖フラビンを用いるとともに溶媒としてトルエンを用いることが、それらの量などとともに記載されている。ここで、有機側鎖フラビンの具体例こそ明記されていないものの、有機側鎖フラビンに該当するFC12といった具体的化合物が単層カーボンナノチューブの分散剤として周知である。また、当業者は、有機側鎖フラビンを含めたカーボンナノチューブの分散剤として機能する化合物において、どのようにすれば、カーボンナノチューブの分散性を制御できるのかも理解できるし、分散性の程度が得られるバンドル径に影響することも当業者には明らかである。 このように、本件訂正明細書等には、RB0.40以上事項を満たすべく、RBの値を制御するために選択する必要がある事項が何であるのかを理解できるように記載されているとともに、RB0.40以上事項を満たす実施例1が記載されていること、当該実施例1では分散剤である有機側鎖フラビンの具体例こそ明記されていないものの、技術常識に照らしてどのようなものを選択すればよいか理解できるといえることから、当業者であれば、本件訂正明細書等の記載に基づいて、RB0.40以上事項を満たすべく、RBの値を制御するために必要な事項の内容及びその事項をどのように選択するかの指針を理解することができるといえる。 b 本件発明におけるRB0.40以上事項以外の特定事項である、バンドル径を100nm以下とすること、バンドルを面内配向すること、自立膜を得ること、面内配向したバンドル同士が絡み合った網目構造を有するようにすることについては、前記(イ)cに照らせば、RB0.40以上事項を満たすペリクル膜を製造することに伴って実現されるものといえる。 加えて、本件発明1における膜厚を200nm以下とすることは、前記(イ)bのとおり、バンドル径を小さくすることとともに、バンドルが面内配向しているようにすることや、前記(ウ)bのとおり、シリコン基板に分散液をブレードコートする際のブレードとシリコン基板のギャップの差の調整により実現できるし、本件発明6におけるカーボンナノチューブの純度は、前記(イ)dのとおり、酸洗浄などの手段により実現できることが理解できる。 c 前記a及びbによれば、当業者であれば、本件訂正明細書等の発明の詳細な説明の記載に基づいて、過度の試行錯誤をすることなく、本件発明に係るペリクル膜を製造することができると認められる。 ウ したがって、本件訂正明細書等の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明に係るペリクル膜を実施できるように記載されている。 (2)特許異議申立理由について ア RB0.40以上事項に関連する理由について (ア)申立人は、本件訂正明細書等には、実質的に実施例が存在しないから、当業者であってもRB0.40以上事項を満たすペリクル膜を製造できない旨主張し、その根拠として、分散剤としての「有機側鎖フラビン」の具体例の記載がないことを挙げる。 しかしながら、前記(1)イ(ウ)aで説示したとおり、単層カーボンナノチューブの分散剤としての「有機側鎖フラビン」の具体例は周知であるし、その作用機序も周知であることから、申立人の主張によって前記(1)イ及びウの説示が左右されることはない。 (イ)申立人は、本件訂正明細書等には、RB0.40以上事項を満たすようにする制御方法やRBに影響を与える条件などRB0.40以上事項を満たすための具体的な手法が記載されていない旨主張するが、前記(1)イ(エ)で説示したとおりである。 (ウ)申立人は、RBを計算することができない旨主張し、その根拠として、「回折強度のピーク」が特定できない旨主張するが、この意味は、前記1(1)イ(ア)で説示したとおり明確である。 (エ)申立人は、RB0.40以上事項について、前記(ア)~(ウ)以外にも、RBが1.02以外の場合について実施例によるサポートがされておらず、RBが0.40以上という数値範囲について実施できない、膜厚との関係でRBが0.40以上であるという数値範囲について実施できない、RBだけでは面内配向の特定として不十分でありRFFTも特定される必要があるなどと主張する。 しかしながら、本件訂正明細書等が、当業者が本件発明に係るペリクル膜を実施できるように記載されていることは、前記(1)で説示したとおりである。 イ RB0.40以上事項以外に関連する理由について (ア)申立人は、ペリクル膜の厚さについて、自立膜として一定以上の厚さを有していなければならないにもかかわらず本件発明1に下限値が特定されていない、本件訂正明細書等には、実施例1の200nmと実施例2の40nmの2つしか記載されていない、などと主張するが、前記(1)イで説示したことのほか、本件発明は、「自立膜」であることが特定されていることから、それが実現する範囲の膜厚であることが当然の前提になっているといえる。 また、申立人は、本件発明6にはそもそも膜厚が特定されていない旨も主張するが、前記第6の2で認定したとおり、本件発明6は、カーボンナノチューブ中のカーボンの含有率を高くしつつ、カーボンナノチューブの径を大きくすることによって、EUV透過率を低くするものであるから、膜厚の特定がないことをもって当該発明についての実施可能要件が問題となることはない。 (イ)申立人は、本件発明にはカーボンナノチューブが単層か複層かの特定がないが、本件訂正明細書等に記載された実施例は単層のものしかない旨主張する。 しかしながら、本件発明は、前記第6の2で認定したとおり、先行文献に比してさらにEUV透過性が高く耐熱性に優れたペリクル膜を提供するという課題を解決するものであって、その課題を解決するために、要するに、バンドル径を小さくして、バンドルを面内配向させつつ、面内配向したバンドルが網目構造を有するようにするものといえる。そして、前記(1)で説示したとおり、本件訂正明細書等には、このような課題解決手段が実施可能に記載されている。そうすると、カーボンナノチューブが単層か複層かの観点をもって、本件発明についての実施可能要件が問題となることはないというべきである。 (ウ)申立人は、バンドル径、カーボンナノチューブの径、及びカーボンナノチューブの長さについても、るる主張するが、前記(1)で説示したとおりである。 (3)小括 以上によれば、本件発明についての実施可能要件違反に係る特許異議申立理由は、理由がない。 3 サポート要件違反に係る理由 (1)判断 申立人は、本件発明が本件訂正明細書等の発明の詳細な説明に記載されていない旨主張するので検討する。 前記第6の2によれば、本件発明の課題は、先行文献に比してさらにEUV透過性が高く耐熱性に優れたペリクル膜を提供することである。 そして、本件訂正明細書等には、ペリクル膜の厚さが200nm以下と薄いため、EUV透過率が高いこと、当該厚さを薄くするために、バンドル径を100nm以下とするとともに、バンドルを面内配向させていること、カーボンナノチューブがバンドルを形成することによって、カーボンナノチューブ単独の場合と比べて強度が高まっていること、面内配向したバンドルが網目構造を有しているため、100nm以下の厚さであっても自立膜を形成することができるとともに、自立膜に応力を加えても、網目構造及び自立膜形状を保つことができることが記載されている。また、本件訂正明細書等には、カーボンナノチューブ中のカーボンの含有率が98質量パーセント以上と非常に高いため、EUV透過率が高いこと、カーボンナノチューブの径が0.8nm以上6nm以下であって大きいため、低密度の膜となることからもEUV透過率が高いこと、カーボンナノチューブの長さが長いため、カーボンナノチューブどうしが絡み合い、強靱なシートとなることができることも記載されている。加えて、本件訂正明細書等には、RBが1.02の実施例1が記載されており、分散剤としての「有機側鎖フラビン」の具体例こそ明記はないものの、前記2(1)イ(ウ)aのとおり、それを選択する指針を理解できるものである。 以上によれば、当業者は、本件発明に特定されたペリクル膜が、本件訂正明細書等の発明の詳細な説明に記載された課題を解決できると認識できる範囲を超えていないと認識できるといえるから、本件発明はサポート要件を満たしている。 (2)特許異議申立理由について 申立人は、本件発明がサポート要件違反である旨主張し、その根拠をるる挙げるが、おおむね、実施可能要件違反の主張をサポート要件違反として構成し直したものであるにすぎず、前記(1)及び前記2に照らして、いずれも採用できない。 (3)小括 以上によれば、本件発明のサポート要件違反に係る特許異議申立理由は、理由がない。 4 甲A2を主引用例とする進歩性欠如(本件特許の登録時の請求項6~18に係る発明に対するもの)に関する理由 (1)引用発明A2の認定 甲A2には、図1に記載された自立したCNTペリクルについて、次の発明(以下「引用発明A2」という。)が記載されていると認められる。 「自立したCNTペリクル膜であって、(図1) CNTを水平面に配列させて、連続フィルムよりもはるかに密度が低い層を形成している、(2頁下から8行~下から7行) CNTペリクル膜。」 (2)本件発明6について ア 対比、一致点及び相違点の認定 本件発明6と引用発明A2とは、 「カーボンナノチューブシートの自立膜であるペリクル膜である、 ペリクル膜。」である点で一致し、次の点で相違する。 [相違点A2-1] 「カーボンナノチューブ」について、本件発明6は、径が0.8nm以上6nm以下であり、長さが10μm以上10cm以下であり、その中のカーボンの含有量が98質量パーセント以上であるのに対し、引用発明A2は、いずれも不明である点。 [相違点A2-2] 「カーボンナノチューブシート」が、本件発明6は、複数のカーボンナノチューブから形成されるバンドルを備え、前記バンドルは径が100nm以下であり、前記カーボンナノチューブシート中で前記バンドルが面内配向しており、前記カーボンナノチューブシートは、面内配向した前記バンドル同士が絡み合った網目構造を有するのに対し、引用発明A2は、そうであるのか不明である点。 [相違点A2-3] 「ペリクル膜」が、本件発明6は、RB0.40以上事項を満たすのに対し、引用発明A2は、そうであるのか不明である点。 イ 相違点の判断 前記第6の3(2)ウの冒頭に説示したのと同様の理由により、相違点A2-2及びA2-3をまとめて判断する。 (ア)前記第6の3(2)ウ(ア)で説示したことに照らせば、相違点A2-2及びA2-3に係る本件発明6の構成を満たすためには、径が100nm以下という相当程度に小さいバンドルが、面内方向に相当程度沿った上で、きわめて高密度に存在することを要すると解される。 これを引用発明A2についてみると、引用発明A2の「CNTペリクル膜」は、CNTを水平面に配列させて、連続フィルムよりもはるかに密度が低い層を形成しているものの、バンドルを形成しているのか、また、仮にバンドルを形成しているといえたとしても、その径がどの程度であるのか、そのバンドルがどの程度面内方向に沿っているのか、そのバンドルがどの程度の密度で存在しているのかが一切不明であることから、RB0.40以上事項を満たすのかも不明と言わざるを得ない。 また、甲A2には、水平面に配列したCNTを製造する方法として、CNTを液体中に分散させて「インク」を作り、スピンコート、ブレードコート、スプレーコートで表面に塗布し、その後、インクから界面活性剤を熱的又は化学的に除去することや、基板上で長く整列したCNTを合成し、液体中に分散させることなく、様々な方法で連続的に転写することが記載されている(2頁「2.1」の項の6行~9行)が、これらの方法によって製造されたCNTがバンドルを形成しているのか、形成しているとしてバンドル径の程度、面内配向の程度及びバンドルの密度の程度が、RB0.40以上事項を満たす程度に至っているのかは不明と言わざるを得ないし、当該方法は、前記第6の3(2)ウ(イ)aで説示した本件実施例の製造方法と一致しているとはいえないことから、これがRB0.40以上事項を満たしている蓋然性が高いともいえない。 (イ)そして、引用発明A2から出発した当業者が相違点A2-2及びA2-3に係る本件発明6の構成に至るためには、当該「CNTペリクル膜」に含まれる「CNT」がバンドルを形成しているとともに、そのバンドル径を100nm以下という相当程度小さいものとし、さらに、そのバンドルを面内方向に相当程度沿うようにした上で、きわめて高密度に存在させることが必要となる。 しかるところ、甲A2には、引用発明A2で特定されるように、「CNTを水平面に配列させ」るとは記載されているものの、以上の観点のようにする記載も示唆もない。 そして、申立人及び特許権者が提出した他の証拠をみても、引用発明A2から出発した当業者が、相違点A2-2及びA2-3に係る本件発明6の構成に容易に至ることを根拠付ける記載は見いだせない。 したがって、相違点A2-2及びA2-3に係る本件発明6の構成は、引用発明A2並びに申立人及び特許権者が提出した他の証拠に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に至るものとはいえない。 ウ 小括 そして、甲A2に記載されたいずれの発明を引用発明として認定しても、前記の説示を左右するものはない。 したがって、本件発明6は、他の相違点について検討するまでもなく、甲A2に記載された発明並びに申立人及び特許権者が提出した他の証拠に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (3)本件発明7~18について 本件発明7~18は、本件発明6に従属するものといえるから、前記(2)と同様の理由で、甲A2に記載された発明並びに申立人及び特許権者が提出した他の証拠に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (4)小括 以上のとおりであるから、甲A2を主引用例とする進歩性欠如の取消理由は、理由がない。 5 特許異議申立理由(第2次取消理由及び第1次取消理由に含まれないもの)についての当合議体の判断の小括 以上によれば、特許異議申立理由(第2次取消理由及び第1次取消理由に含まれないもの)によって、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。 第8 むすび 以上のとおり、第2次取消理由、第1次取消理由及び特許異議申立理由によっては、本件発明1、3~18に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件発明1、3~18に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 本件特許の請求項2は、本件訂正により削除されたため、申立人による特許異議の申立てのうち、当該請求項2に係る特許に対する申立ては、その対象が存在しないものとなった。そのため、当該申立てについては、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2021-700369

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