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特許異議申立

2024-700100

プリプレグ、及びプリント配線基板

審判番号
2024-700100
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-189364
登録番号
7321879
請求日
2024年02月07日
審決日
2026年03月06日
公報発行日
2026年06月26日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】信越化学工業株式会社
  • 【権利者代理人】好宮 幹夫
  • 【権利者代理人】小林 俊弘
  • 【権利者代理人】大塚 徹
  • 【異議申立人】河原田 隆
審判長/審判官
  • 審判長 田口 傑
  • 審判官 稲葉 大紀
  • 審判官 神山 茂樹
分類
P1651.121-YAA(D03D) / P1651.536-YAA(D03D) / P1651.537-YAA(D03D)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第126条第5項、特許法第126条第6項、特許法第120条の5第5項、特許法第36条第5項、特許法第2条第3項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項第1号、特許法第17条の2第3項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7321879号発明「プリプレグ、及びプリント配線基板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7321879号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。 特許第7321879号の請求項1~3に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7321879号(以下「本件特許」という。)の請求項1~3に係る特許についての出願は、令和元年10月16日に出願され、令和5年7月28日に特許権の設定登録がされ、令和5年8月7日に特許掲載公報が発行された。 本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和6年 2月 7日 :特許異議申立人河原田隆(以下「申立人」という。)による請求項1~3に係る特許に対する特許異議の申立て 令和6年 7月 1日付け:取消理由通知書 令和6年 8月26日 :特許権者による意見書の提出 令和7年 3月 7日付け:取消理由通知書(決定の予告) 令和7年 3月31日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 令和7年 5月 2日 :訂正請求書に対する手続補正書(方式)の提出 令和7年 6月13日 :申立人による意見書の提出 令和7年 8月29日付け:訂正拒絶理由通知書 令和7年 9月26日 :令和7年5月2日提出の手続補正書(方式)により補正された訂正請求書に対する手続補正書の提出 なお、令和7年10月21日付けで申立人に対して、訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)を、期間を指定して行ったものであるが、当該期間内に申立人からは応答がなかった。 第2 訂正の請求について 1 令和7年9月26日に提出された手続補正書による手続補正について 上記手続補正は、令和7年5月2日提出の手続補正書(方式)により補正された訂正請求書における訂正事項1の「プリプレグ得る工程」を「プリプレグを得る工程」とし、訂正事項3の「請求項1又は請求項2に記載のプリプレグ」を「請求項1又は請求項2に記載のプリプレグの製造方法により製造されたプリプレグ」とするいずれも軽微な瑕疵の補正であるから、上記手続補正は、訂正請求書の要旨を変更するものではない。 したがって、上記手続補正は、特許法120条の5第9項において準用する同法131条の2第1項の規定に適合するものであるから、上記手続補正を認める。 以下、この手続補正書によって補正された訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。 2 訂正の内容 本件訂正請求の趣旨は、「特許第7321879号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~3について訂正することを求める。」というものであり、本件訂正の内容は、次の訂正事項からなるものである。なお、下線は、当審が訂正箇所に付したものである。また、「・・・」は文章の省略を示す。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「加熱処理シリカガラスクロスと、前記加熱処理シリカガラスクロスに含浸された硬化性樹脂とからなるプリプレグであって、 前記加熱処理シリカガラスクロスが、SiO2組成量が96.0~100.0質量%含まれるガラスフィラメントからなる加熱処理シリカガラスクロスであって、 前記加熱処理シリカガラスクロス単体の周波数9GHzでの誘電正接tanδ1の非加熱処理シリカガラスクロス単体の周波数9GHzでの誘電正接tanδ2に対する比tanδ1/tanδ2が0.47以下であり、 前記加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1が、周波数9GHzで0.0010以下であり、 前記誘電正接は、誘電体共振器周波数9GHzで測定した、シリカガラスクロスを、シリカガラスと空気の複合体としてシリカガラスのみの誘電正接値を算出したものであることを特徴とするプリプレグ。」と記載されているのを、 「加熱処理シリカガラスクロスと、前記加熱処理シリカガラスクロスに含浸された硬化性樹脂とからなるプリプレグの製造方法であって、 前記加熱処理シリカガラスクロスが、SiO2組成量が96.0~100.0質量%含まれるガラスフィラメントを束ねたガラスストランドに対して撚りを掛けたガラスヤーンを製織してなるものであり、 SiO2組成量が96.0~100.0質量%含まれるガラスフィラメントを束ねたガラスストランドに対して撚りを掛けたガラスヤーンを製織して非加熱処理シリカガラスクロスを準備する工程と、 前記非加熱処理シリカガラスクロスを500℃~1650℃の温度で、1分~72時間加熱処理することにより加熱処理シリカガラスクロスを得る工程と、 前記加熱処理シリカガラスクロスを硬化性樹脂に含侵してプリプレグを得る工程を含み、 前記加熱処理シリカガラスクロスを得る工程において、前記加熱処理シリカガラスクロス単体の周波数9GHzでの誘電正接tanδ1の非加熱処理シリカガラスクロス単体の周波数9GHzでの誘電正接tanδ2に対する比tanδ1/tanδ2が0.47以下となり、 前記加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1が、周波数9GHzで0.0010以下となるように前記非加熱処理シリカガラスクロスを加熱処理する(ただし、前記誘電正接は、誘電体共振器周波数9GHzで測定した、シリカガラスクロスを、シリカガラスと空気の複合体としてシリカガラスのみの誘電正接値を算出したものである)ことを特徴とするプリプレグの製造方法。」に訂正する。 請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2、3も同様に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に 「前記加熱処理シリカガラスクロスが、」「製織してなるものであることを特徴とする請求項1に記載のプリプレグ。」と記載されているのを、 「前記加熱処理シリカガラスクロスとして、」「製織したものを用いることを特徴とする請求項1に記載のプリプレグの製造方法。」に訂正する。 請求項2の記載を引用する請求項3も同様に訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3に 「請求項1又は請求項2に記載のプリプレグを備えるものであることを特徴とするプリント配線基板。」と記載されているのを、 「請求項1又は請求項2に記載のプリプレグの製造方法により製造されたプリプレグを用いることを特徴とするプリプレグを備えたプリント配線基板の製造方法。」に訂正する。 3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1 訂正事項1は、以下の4つの訂正からなるものであると認められる。 ・訂正前の請求項1の 「加熱処理シリカガラスクロスと、前記加熱処理シリカガラスクロスに含浸された硬化性樹脂とからなるプリプレグ」 と記載されているのを、 「加熱処理シリカガラスクロスと、前記加熱処理シリカガラスクロスに含浸された硬化性樹脂とからなるプリプレグの製造方法」 とする訂正(以下「訂正事項1-1」という。)。 ・訂正前の請求項1の 「前記加熱処理シリカガラスクロスが、SiO2組成量が96.0~100.0質量%含まれるガラスフィラメントからなる加熱処理シリカガラスクロスであって、」 と記載されているのを、 「前記加熱処理シリカガラスクロスが、SiO2組成量が96.0~100.0質量%含まれるガラスフィラメントを束ねたガラスストランドに対して撚りを掛けたガラスヤーンを製織してなるものであり、 SiO2組成量が96.0~100.0質量%含まれるガラスフィラメントを束ねたガラスストランドに対して撚りを掛けたガラスヤーンを製織して非加熱処理シリカガラスクロスを準備する工程と、 前記非加熱処理シリカガラスクロスを500℃~1650℃の温度で、1分~72時間加熱処理することにより加熱処理シリカガラスクロスを得る工程と、 前記加熱処理シリカガラスクロスを硬化性樹脂に含侵してプリプレグを得る工程を含み、」 とする訂正(以下「訂正事項1-2」という。)。 ・訂正前の請求項1の 「前記加熱処理シリカガラスクロス単体の周波数9GHzでの誘電正接tanδ1の非加熱処理シリカガラスクロス単体の周波数9GHzでの誘電正接tanδ2に対する比tanδ1/tanδ2が0.47以下であり、 前記加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1が、周波数9GHzで0.0010以下であり、 前記誘電正接は、誘電体共振器周波数9GHzで測定した、シリカガラスクロスを、シリカガラスと空気の複合体としてシリカガラスのみの誘電正接値を算出したものであること」 と記載されているのを、 「前記加熱処理シリカガラスクロスを得る工程において、前記加熱処理シリカガラスクロス単体の周波数9GHzでの誘電正接tanδ1の非加熱処理シリカガラスクロス単体の周波数9GHzでの誘電正接tanδ2に対する比tanδ1/tanδ2が0.47以下となり、 前記加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1が、周波数9GHzで0.0010以下となるように前記非加熱処理シリカガラスクロスを加熱処理する(ただし、前記誘電正接は、誘電体共振器周波数9GHzで測定した、シリカガラスクロスを、シリカガラスと空気の複合体としてシリカガラスのみの誘電正接値を算出したものである)こと」 とする訂正(以下「訂正事項1-3」という。)。 ・訂正前の請求項1の 「プリプレグ。」 と記載されているのを、 「プリプレグの製造方法。」 とする訂正(以下「訂正事項1-4」という。)。 ア 訂正の目的について 訂正事項1は、訂正前の請求項1について、「プリプレグ」である「物の発明」としていたところを訂正事項1-1、訂正事項1-4により、その「製造方法」の発明であると特定し、加熱処理シリカガラスクロスの態様を訂正事項1-2により、「ガラスフィラメントを束ねたガラスストランドに対して撚りを掛けたガラスヤーンを製織してなるもの」と特定するとともに、上記プリプレグの製造方法について、「非加熱処理シリカガラスクロスを準備する工程」、「加熱処理シリカガラスクロスを得る工程」及び「プリプレグを得る工程」を含むことを特定し、訂正事項1-3により、加熱処理シリカガラスクロスを得る工程において、加熱処理を行う前と後のシリカガラスクロス単体の物性値(誘電正接)を測定して比較する工程を含むことを明らかにしたものである。 ここで、訂正前の請求項1の記載は、「加熱処理シリカガラスクロスと、前記加熱処理シリカガラスクロスに含浸された硬化性樹脂とからなるプリプレグ」、「プリプレグ。」であるから、訂正前の請求項1に係る発明の対象は、「プリプレグ」という「物」であることは明らかである。 一方、訂正前の請求項1には、「前記加熱処理シリカガラスクロス単体の周波数9GHzでの誘電正接tanδ1の非加熱処理シリカガラスクロス単体の周波数9GHzでの誘電正接tanδ2に対する比tanδ1/tanδ2が0.47以下」であると特定されているところ、加熱処理を行う前と後のシリカガラスクロス単体の物性値(誘電正接)を測定して比較するという工程を含むものであるから、その物の製造方法が記載されている。 この点、「物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう『発明が明確であること』という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解するのが相当である」(最高裁第二小法廷判決平成27年6月5日(平成24年(受)第1204号))と判示されている。 そこで、上記判示事項を踏まえて検討すると、訂正前の請求項1には加熱処理を行う前と後のシリカガラスクロス単体の物性値(誘電正接)を測定して比較するという工程を含む「プリプレグ」の製造方法が記載されており、「発明が明確であること」という要件を欠くおそれがある。 そして、訂正事項1は、「発明が明確であること」という要件を欠くおそれがある訂正前の請求項1を、上記の「プリプレグの製造方法」として、加熱処理を行う前と後のシリカガラスクロス単体の物性値(誘電正接)を測定して比較することを特定する訂正後の請求項1に訂正するものであって、「発明が明確であること」という要件を満たすものである。 すなわち、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、また、プリプレグの製造方法として上記各工程を追加しているので、同法同条同項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的としているものでもある。 イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて 訂正事項1-1及び訂正事項1-4は本件特許明細書の【0057】、訂正事項1-2は本件特許明細書の【0050】、【0054】及び【0057】、訂正事項1-3は本件特許明細書の【0066】~【0069】及び【0072】【表1】の記載に基づくものであるから新規事項の追加に該当しない。 ウ 訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて (ア)発明が解決しようとする課題とその解決手段について 特許法第126条第6項は、第1項に規定する訂正がいかなる場合にも実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであってはならない旨を規定したものである。 また、特許法第36条第4項第1号の規定により委任された特許法施行規則の第24条の2には、「特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載は、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。」と規定されているから、訂正前の請求項1に係る発明と訂正後の請求項1に係る発明において、発明が解決しようとする課題及びその解決手段が、実質的に変更されたものか否かにより、訂正後の請求項1に係る発明の技術的意義が、訂正前の請求項1に係る発明の技術的意義を実質上拡張し、又は変更されたものであるか否かについて検討する。 本件特許明細書の【0010】~【0012】、【0066】~【0069】及び【0072】【表1】の記載から、訂正前の請求項1に係る発明の課題は、「誘電正接が低く、伝送損失が小さい基板(「基板」とは、プリプレグ、プリント配線板、又はこれらの積層板等を含む概念である)を作製することのできるシリカガラスクロス、前記シリカガラスクロスを用いたプリプレグ、及びプリント配線板を提供する」ことであり、その解決手段は、加熱処理シリカガラスクロスであって、前記加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1が、周波数9GHz以上で0.0010以下であり、前記加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1の非加熱処理シリカガラスクロスの周波数9GHz以上での誘電正接tanδ2に対する比tanδ1/tanδ2が0.47以下にすることである。 一方、本件特許明細書の【0010】~【0012】、【0054】、【0066】~【0069】及び【0072】【表1】の記載から、訂正後の請求項1に係る発明の課題は、「誘電正接が低く、伝送損失が小さい基板(「基板」とは、プリプレグ、プリント配線板、又はこれらの積層板等を含む概念である)を作製することのできるシリカガラスクロス、前記シリカガラスクロスを用いたプリプレグ、及びプリント配線板を提供する」ことであり、その解決手段は 「前記加熱処理シリカガラスクロスを得る工程において、前記加熱処理シリカガラスクロス単体の周波数9GHzでの誘電正接tanδ1の非加熱処理シリカガラスクロス単体の周波数9GHzでの誘電正接tanδ2に対する比tanδ1/tanδ2が0.47以下となり、前記加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1が、周波数9GHzで0.0010以下となるように前記非加熱処理シリカガラスクロスを加熱処理」することである。 してみると、訂正前の請求項1に係る発明と訂正後の請求項1に係る発明の課題には、何ら変更はなく、訂正前の請求項1に係る発明と訂正後の請求項1に係る発明における課題解決手段も、実質的な変更はない。 したがって、訂正後の請求項1に係る発明の技術的意義は、訂正前の請求項1に係る発明の技術的意義を実質上拡張し、又は変更するものではない。 (イ)訂正による第三者の不測の不利益について 特許請求の範囲は、「特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべて」が記載されたもの(特許法第36条第5項)である。 また、特許法第126条第6項は、第1項に規定する訂正がいかなる場合にも実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであってはならない旨を規定したものであって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなる、言い換えれば、訂正前の発明の「実施」に該当しないとされた行為が訂正後の発明の「実施」に該当する行為となる場合、第三者にとって不測の不利益が生じるおそれがあるため、そうした事態が生じないことを担保したものである。 以上を踏まえ、訂正前の請求項1に係る発明と訂正後の請求項1に係る発明において、それぞれの発明の「実施」に該当する行為の異同により、訂正後の請求項1に係る発明の「実施」に該当する行為が、訂正前請求項1発明の「実施」に該当する行為を実質上拡張し、又は変更するものであるか否かについて検討する。 ここで、特許法第2条第3項第1号に規定された「物の発明」(訂正前の請求項1に係る発明)及び第3号に規定された「物を生産する方法の発明」(訂正後の請求項1に係る発明)の実施について比較する。 「物の発明」の実施(第1号)とは、「その物の生産、使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為であり、「物を生産する方法」の実施(第3号)とは、「その方法の使用をする行為」(第2号)のほか、その方法により生産した「物の使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為」である。ここで、「物を生産する方法」の実施における「その方法の使用をする行為」とは、「その方法の使用により生産される物の生産をする行為」と解されることから、「物の発明」の実施における「その物の生産」をする行為に相当する。 すると、「物の発明」の実施においては、物の生産方法を特定するものではないのに対して、「物を生産する方法の発明」の実施においては、物の生産方法を「その方法」に特定している点で相違するが、その実施行為の各態様については、全て対応するものである。 そして、訂正前の請求項1に係る発明は、 「誘電正接tanδ1が、周波数9GHzで0.0010以下」である「加熱処理シリカガラスクロス単体の周波数9GHzでの誘電正接tanδ1の非加熱処理シリカガラスクロス単体の周波数9GHzでの誘電正接tanδ2に対する比tanδ1/tanδ 2が0.47 以下」との、加熱処理を行う前と後のシリカガラスクロス単体の物性値(誘電正接)を測定して比較するという工程を含むという製造方法(以下「特定の製造方法」という。)により「プリプレグ」という物が特定された「物の発明」であるから、特定の構造を有する「プリプレグ」を前記特定の製造方法により生産することに加え、前記特定の製造方法以外の製造方法により生産することも特許発明の実施に含むものである。 一方、訂正後の請求項1に係る発明は、上記特定の製造方法により「プリプレグの製造方法」という方法が特定された「物を生産する方法の発明」であるから、前記特定の製造方法により「プリプレグ」を生産することを、特許発明の実施に含むものである。 したがって、訂正後の請求項1に係る発明の「実施」に該当する行為は、訂正前の請求項1に係る発明の「実施」に該当する行為に全て含まれるので、第三者にとって不測の不利益が生じるおそれはないから、訂正前の請求項1に係る発明の「実施」に該当する行為を実質上拡張し、又は変更するものとはいえない。 エ 小括 以上より、当該訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に規定する事項を目的とするものに該当し、また、特許法120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (2)訂正事項2 訂正事項2は、以下の2つの訂正からなるものであると認められる。 ・訂正前の請求項2の 「前記加熱処理シリカガラスクロスが、・・・ガラスヤーンを製織してなるものである」 との記載を、 「前記加熱処理シリカガラスクロスとして、・・・ガラスヤーンを製織したものを用いる」 とする訂正(以下「訂正事項2-1」という)。 ・訂正前の請求項2の 「プリプレグ。」 との記載を、 「プリプレグの製造方法。」 とする訂正(以下「訂正事項2-2」という)。 訂正事項2は、訂正後の請求項1の記載と請求項2の記載の整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。 したがって、当該訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当し、また、特許法120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (3)訂正事項3 訂正事項3は、訂正後の請求項1又は請求項2の記載と請求項3の記載の整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、また、本件特許明細書の【0017】、【0059】の記載に基づくものであるから新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。 したがって、当該訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当し、また、特許法120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (4)一群の請求項について 訂正前の請求項2、3は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項〔1~3〕について請求されたものである。 4 まとめ 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合する。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記のとおり、本件訂正は認められるから、本件訂正後の請求項1~3に係る発明(以下「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 加熱処理シリカガラスクロスと、前記加熱処理シリカガラスクロスに含浸された硬化性樹脂とからなるプリプレグの製造方法であって、 前記加熱処理シリカガラスクロスが、SiO2組成量が96.0~100.0質量%含まれるガラスフィラメントを束ねたガラスストランドに対して撚りを掛けたガラスヤーンを製織してなるものであり、 SiO2組成量が96.0~100.0質量%含まれるガラスフィラメントを束ねたガラスストランドに対して撚りを掛けたガラスヤーンを製織して非加熱処理シリカガラスクロスを準備する工程と、 前記非加熱処理シリカガラスクロスを500℃~1650℃の温度で、1分~72時間加熱処理することにより加熱処理シリカガラスクロスを得る工程と、 前記加熱処理シリカガラスクロスを硬化性樹脂に含侵してプリプレグを得る工程を含み、 前記加熱処理シリカガラスクロスを得る工程において、前記加熱処理シリカガラスクロス単体の周波数9GHzでの誘電正接tanδ1の非加熱処理シリカガラスクロス単体の周波数9GHzでの誘電正接tanδ2に対する比tanδ1/tanδ2が0.47以下となり、 前記加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1が、周波数9GHzで0.0010以下となるように前記非加熱処理シリカガラスクロスを加熱処理する(ただし、前記誘電正接は、誘電体共振器周波数9GHzで測定した、シリカガラスクロスを、シリカガラスと空気の複合体としてシリカガラスのみの誘電正接値を算出したものである)ことを特徴とするプリプレグの製造方法。 【請求項2】 前記加熱処理シリカガラスクロスとして、平均フィラメント径が3μm~20μmのガラスフィラメントを10本~400本の本数で束ねたガラスストランドに対して、1m当たり4回~40回の撚りを掛けて、番手の大きさが0.5~40texとしたガラスヤーンを製織したものを用いることを特徴とする請求項1に記載のプリプレグの製造方法。 【請求項3】 請求項1又は請求項2に記載のプリプレグの製造方法により製造されたプリプレグを用いることを特徴とするプリプレグを備えたプリント配線基板の製造方法。」 第4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について 1 取消理由の概要 訂正前の本件発明1~3に対して、当審において特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。 取消理由3(明確性要件) 本件の請求項1~3に係る特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 請求項1の対象となる物は、加熱処理後のシリカガラスクロスを含むプリプレグである。 しかしながら、請求項1には「加熱処理シリカガラスクロス単体の周波数9GHzでの誘電正接tanδ1の非加熱処理シリカガラスクロス単体の周波数9GHzでの誘電正接tanδ2に対する比tanδ1/tanδ2が0.47以下」と記載されているところ、当業者が、第三者のシリカガラスクロスが上記の構成要件を充足しているか否かを確認しようとしても、加熱処理後のシリカガラスクロスを加熱処理前の過去の状態に戻すことはできず、加熱処理前の状態における誘電正接を測定することはできないから、その充足性を判断することは不可能であり、また、加熱処理後のシリカガラスクロスから加熱処理前のシリカガラスクロスの誘電正接を測定又は推定することができるという技術常識も認められないため、請求項1の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるといわざるを得ない。 そして、請求項1を引用する請求項2、3にも、同様の事項が指摘される。 また、請求項1に係る発明は、物の発明であるが、当該請求項には、「加熱処理シリカガラスクロス単体の周波数9GHzでの誘電正接tanδ1の非加熱処理シリカガラスクロス単体の周波数9GHzでの誘電正接tanδ2に対する比tanδ1/tanδ2が0.47以下」と記載されており、これは、加熱処理を行う前と後のシリカガラスクロス単体の物性値(誘電正接)を測定して比較するという工程を含むものであるから、その物の製造方法が記載されているともいうことができる。 物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合において、「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解するのが相当であるが、本件特許については、不可能・非実際的事情が存在することについて、明細書等の記載を考慮しても認められない。 したがって、請求項1及びこれを引用する請求項2、3に係る発明は明確でない。 2 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由についての当審の判断 上記取消理由通知(決定の予告)についての当審の判断は以下のとおりである。 請求項1における、訂正前の物の発明である「プリプレグ」について、「前記加熱処理シリカガラスクロス単体の周波数9GHzでの誘電正接tanδ1の非加熱処理シリカガラスクロス単体の周波数9GHzでの誘電正接tanδ2に対する比tanδ1/tanδ2が0.47以下」という記載では、加熱処理後のシリカガラスクロスを加熱処理前の過去の状態に戻すことはできず、加熱処理前の状態における誘電正接を測定することはできないから、その充足性を判断することが不可能であったものが、訂正後の物の製造方法の発明である「プリプレグの製造方法」について、「前記非加熱処理シリカガラスクロスを500℃~1650℃の温度で、1分~72時間加熱処理することにより加熱処理シリカガラスクロスを得る工程と、」「前記加熱処理シリカガラスクロスを得る工程において、前記加熱処理シリカガラスクロス単体の周波数9GHzでの誘電正接tanδ1の非加熱処理シリカガラスクロス単体の周波数9GHzでの誘電正接tanδ2に対する比tanδ1/tanδ2が0.47以下となり」と記載され、プリプレグを製造する工程において、加熱処理後の誘電正接tanδ1が加熱処理前の誘電正接tanδ2の0.47以下となるような加熱処理をすることが明らかになったため、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえなくなった。 また、請求項1に係る発明は、訂正前の物の発明である「プリプレグ」から、訂正後は、物の製造方法の発明である「プリプレグの製造方法」になったため、物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合における要件は課せられなくなった。 よって、訂正後の請求項1及び請求項1を引用する請求項2、3は、取消理由(決定の予告)で通知した取消理由3(明確性要件)は解消した。 3 申立人の主張について 申立人は、令和7年6月13日提出の意見書において、訂正後の請求項1に記載の「非加熱処理シリカガラスクロスを500℃~165℃の温度で、1分~72時間加熱処理することにより加熱処理シリカガラスクロスを得る工程」について、この条件を満たす、500℃ で0.17時間(10分)加熱した参考例1及び、本件拒絶査定不服審判の審判請求書において記載の追加参考例、500℃で5時間加熱した追加比較例1においては、「加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1の前記非加熱処理シリカガラスクロスの周波数9GHz以上での誘電正接tanδ2に対する比tanδ1/tanδ2を0.47以下」とすることができず、当業者が課題を解決できない範囲を明らかに包含するものであるから、依然としてサポート要件を満たさず、広範な時間設定がされている点についてその技術内容が不明確でもある旨主張している。 しかしながら、上記の参考例1等は、tanδ1や比tanδ1/tanδ2は、本件発明1において規定される範囲のものではなく、本件発明1に含まれるものではないのであるから、参考例1等が本件発明の課題を解決するものではないとしても、それらは本件発明1がサポート要件を満たしていないものである、という根拠とはならない。また、加熱処理の時間として設定された1分~72時間については、その記載は明確である。 よって、申立人の上記主張を採用することはできない。 4 まとめ 以上のとおりであるから、本件発明1~3は明確である。 第5 取消理由通知(決定の予告)に採用しなかった特許異議申立書に記載の申立理由について 1 取消理由通知(決定の予告)で採用しなかった申立理由の概要について 取消理由通知(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立理由の概要は次のとおりである。 (1)申立理由1(明確性要件)(特許異議申立書27~28頁) 本件特許は、特許請求の範囲の請求項1~3の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 記載不備の概要は、以下のとおりである。 ア 誘電正接の測定条件 請求項1の「誘電正接」について、誘電正接の依存性がある測定時の温度と湿度が特定されていないため、誘電正接の測定条件が一意に特定できないため、誘電正接の値も特定できないから、発明を明確に把握することができない。 イ 補正根拠である実施例2の誘電正接の不明確性 請求項1の「前記加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1の前記非加熱処理シリカガラスクロスの周波数9GHz以上での誘電正接tanδ2に対する比tanδ1/tanδ2を0.47以下とする」について、当該記載の根拠とされる【0066】(実施例2)の記載と整合していない。 (2)申立理由2(サポート要件)(特許異議申立書29~33頁) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 記載不備の概要は、以下のとおりである。 ア サポート要件の非充足性(その1) 請求項1の「SiO2組成量が96.0~100.0質量%含まれるガラスフィラメント」を用いたガラスクロスという組成要件を満たしても、請求項1において規定される物性要件を満たさないシリカガラスクロスが存在することは、本件特許明細書の実施例において加熱処理前のガラスクロス(tanδ2=0.0022)が開示されていることからも明らかであるところ、組成要件で特定されるシリカガラスクロスが高い蓋然性をもって物性要件を満たし得るものであるとはいえず、サポート要件を満たさない。 イ サポート要件の非充足性(その2) 請求項1の物性要件である「比tanδ1/tanδ2が0.47以下」は加熱処理前の誘電正接と加熱処理後の誘電正接の比を規定する製法的な構成要件であり、その加熱処理によって得られる物の発明である「加熱処理シリカガラスクロス」自体を特定する構成要件ではないため、低誘電正接化という課題を解決する手段とはならず、サポート要件を満たさない。 ウ サポート要件の非充足性(その3) 請求項1では誘電正接tanδ2について特定していないが、誘電正接tanδ2が小さい場合、請求項1、3で特定する「比tanδ1/tanδ2」の要件を満たすことが困難か技術的に不可能であるので、誘電正接tanδ2が取り得るあらゆる範囲のものまで本件発明を拡張ないし一般化することはできない。 (3)申立理由3(実施可能要件)(特許異議申立書34~38頁) 本件特許は、明細書の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 記載不備の概要は、以下のとおりである。 ア 明らかな実施不能範囲(その1) 実施例4(700℃、10時間)と実施例5(1100℃、10時間)では、tanδ1/tanδ2が0.10、tanδ1が0.0002で同じであることから、実施例4(700℃、10時間)で下限に達しているといえるので、tanδ1/tanδ2が0.10未満、又は、tanδ1が0.0002未満となる範囲を含む本件発明1~3は、実施し得ない範囲を明らかに含むものである。 イ 明らかな実施不能範囲(その2) 請求項1で規定される「比tanδ1/tanδ2が0.47以下」が実施可能か否かは、加熱処理前の誘電正接であるtanδ2の値が影響するが、請求項1では、tanδ2を特定しておらず、実施可能とはいえない。 (4)申立理由4(新規事項)(特許異議申立書39頁) 本件特許は、令和5年5月1日付け手続補正書でした補正が、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 新規事項の概要は、以下のとおりである。 請求項1の「前記加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1の前記非加熱処理シリカガラスクロスの周波数9GHz以上での誘電正接tanδ2に対する比tanδ1/tanδ2を0.47以下とする」について、当該記載の根拠とされる【0066】には記載されていない。 (5)申立理由5(甲4を引用例とする新規性)(特許異議申立書42~50頁) 本件特許の請求項1及び3に係る発明は、甲4に記載の発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 なお、異議申立書における具体的な理由の記載から見て、甲4による申立てであると認める。 (6)申立理由6(甲5を主引用例とする進歩性)(特許異議申立書51~58頁) 本件特許の請求項1~3に係る発明は、甲5及び甲6に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 なお、異議申立書における具体的な理由の記載から見て、甲5及び甲6による申立てであると認める。 <引用文献等一覧> 甲4:特開2004-353132号公報(申立人が提出した甲第4号証) 甲5:特開2009-263824号公報(申立人が提出した甲第5号証) 甲6:特開平7-157972号公報(申立人が提出した甲第6号証) 2 取消理由通知(決定の予告)で採用しなかった申立理由についての当審の判断 (1)引用文献の記載及び引用発明 ア 甲4 甲4の【0020】【表2】のサンプル8、【0024】より、以下の発明(以下「甲4発明」という。」)が記載されていると認める。 [甲4発明] 「平織りのガラスクロスの作成方法であって、繊維径9μmの石英ガラス長繊維200本をヤーンとし、それを縦糸44本/25mm、横糸32本/25mmの平織りし、 周波数1MHzにおける誘電正接は1×10-4であり、周波数10GHzにおける誘電正接は2×10-4である、平織りのガラスクロスの作成方法。」 イ 甲5 甲5の【請求項1】、【0001】、【0002】、【0018】、【0019】、【0029】、【0030】、【0037】、【0041】、【0042】を参照し、実施例2について着目すると、甲5には、以下の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されていると認められる。 [甲5発明] 「石英ガラスクロスの製造方法であって、 石英ガラス素材を加熱延伸することにより平均フィラメント径φ5μm、フィラメント本数49本の石英ガラスストランドを得て、このストランドを撚糸機により撚り数10t/mで撚り掛けをした後、カバリングした石英ガラスのカバリング糸を用い、手織り織機を用いて平織りで製織し、製織クロスを得て、 製織クロスを500℃、5時間大気炉中で熱処理を行い完全にカバリング糸を除去し、 前記熱処理後の石英ガラスクロスの1MHzおよび1GHzの誘電正接がそれぞれ1×10-4以下および2×10-4以下である、高周波プリント配線基板用として十分な性能を持つ石英ガラスクロスの製造方法。」 ウ 甲6 甲6の【0001】、【0016】、【0027】を参照すると、甲6には以下の事項(以下「甲6記載事項1」という。)が記載されていると認められる。 [甲6記載事項1] 「シリカガラス繊維織物と、前記シリカガラス繊維織物に含浸された熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂とからなるプリプレグ。」 また、甲6の【0020】を参照すると、甲6には以下の事項(以下「甲6記載事項2」という。)が記載されていると認められる。 [甲6記載事項2] 「シリカガラス繊維織物のヒートクリーニングで、300~500℃の温度で30~150時間熱処理すること。」 (2)申立理由1(明確性要件)について ア 判断規範 特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。以下検討する。 イ 上記判断規範についての当審の判断 本件発明1~3の特許請求の範囲の記載は明確であり、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。 ウ 申立人の主張について 申立人は特許異議申立書において、上記1(1)ア、イの主張をしているが、以下に示すとおり、いずれの主張も採用することはできない。 (ア)上記1(1)アについて 本件発明は、スマートフォンなどの情報端末への適用を前提としているものであるから(【0002】)、本件発明の「誘電正接」についも、当業者がこれら情報端末の使用環境として通常想定し得る温度と湿度で測定した「誘電正接」として把握し得るものである。 (イ)上記1(1)イについて tanδ1及びtanδ2の実測値の有効数字等を考慮すれば、記載の根拠である【0066】(実施例2)の記載と整合していないとまではいえない。 エ まとめ 以上のとおり、申立理由1(明確性要件)は理由がない。 (3)申立理由2(サポート要件)について ア 判断規範 特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。以下検討する。 イ 上記判断規範についての当審の判断 本件特許明細書の【0010】の記載から、本件特許に係る発明が解決しようとする課題は「誘電正接が低く、伝送損失が小さい基板(「基板」とは、プリプレグ、プリント配線板、又はこれらの積層板等を含む概念である)を作製することのできるシリカガラスクロス、前記シリカガラスクロスを用いたプリプレグ、及びプリント配線板を提供すること」である。 そして、請求項1では、プリプレグ用加熱処理シリカガラスクロスの材料としての構成、加熱処理条件、加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1及び加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1の非加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ2に対する比tanδ1/tanδ2を規定しており、本件特許明細書の【0061】~【0074】に示される実施例を参照することにより、請求項1に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであって、上記発明が解決しようとする課題を解決できると認識できる範囲のものであると判断できる。 ウ 申立人の主張について 申立人は特許異議申立書において、上記1(2)ア~ウの主張をしているが、以下に示すとおり、いずれの主張も採用することはできない。 (ア)上記1(2)アについて 本件発明1は、組成要件と物性要件の両方を満たすシリカガラスクロスにより、上記イで説示したように発明の詳細な説明に記載されたものであって、発明が解決しようとする課題を解決できると認識できるものである。 そして、このことは、申立人が指摘するような例が存在するとしても変わるものではない。 (イ)上記1(2)イについて 本件訂正により、訂正後の請求項1は物の製造方法の発明である「プリプレグの製造方法」となり、「前記非加熱処理シリカガラスクロスを500℃~1650℃の温度で、1分~72時間加熱処理することにより加熱処理シリカガラスクロスを得る工程と、」「前記加熱処理シリカガラスクロスを得る工程において、前記加熱処理シリカガラスクロス単体の周波数9GHzでの誘電正接tanδ1の非加熱処理シリカガラスクロス単体の周波数9GHzでの誘電正接tanδ2に対する比tanδ1/tanδ2が0.47以下」とするものとなり、上記イで説示したように、請求項1記載の発明が、発明の詳細な説明に記載されたものであって、上記発明が解決しようとする課題を解決できると認識できる範囲のものであると判断できるものである。 (ウ)上記1(2)ウについて 加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1及び加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1の非加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ2に対する比tanδ1/tanδ2を規定すれば、誘電正接tanδ2を導出することができるものであり、そもそも比tanδ1/tanδ2を満たさない場合は、本件発明1に含まれるものではない。 エ 申立理由2(サポート要件)のまとめ 以上のとおり、申立理由2(サポート要件)は理由がない。 (4)申立理由3(実施可能要件)について ア 判断規範 発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たすというためには、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度の記載があることを要する。以下検討する。 イ 上記判断規範についての当審の判断 本件発明は、上記第3に記載されたとおりのものであるところ、【0061】~【0074】には、実施例が示され、本件発明の発明特定事項を有する実施例2~5が【0010】の記載から把握できる本件特許に係る発明が解決しようとする課題を解決するものとして記載されている。 これらの記載を参照することにより、当業者が、その記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明を実施できるものである。 ウ 申立人の主張について 申立人は特許異議申立書において、上記1(3)ア、イの主張をしているが、以下に示すとおり、いずれの主張も採用することはできない。 (ア)上記1(3)アについて 実施可能要件が、特許請求の範囲で規定する全ての数値範囲について実施できることを求めるものではないことは明らかである。 (イ)上記1(3)イについて 加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1及び加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1の非加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ2に対する比tanδ1/tanδ2を規定すれば、誘電正接tanδ2を導出することができるものである。 エ 申立理由3(実施可能要件)のまとめ 以上のとおり、申立理由3(実施可能要件)は理由がない。 (5)申立理由4(新規事項)について ア 申立人の主張について 申立人は特許異議申立書において、上記1(4)の主張をしているが、上記(2)ウ(イ)と同様、tanδ1及びtanδ2の実測値の有効数字等を考慮すれば、記載の根拠である【0066】(実施例2)の記載と整合していないとまではいえない。 イ 申立理由4(新規事項)のまとめ 以上のとおり、申立理由4(新規事項)は理由がない。 (6)申立理由5(甲4を引用例とする新規性)について ア 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲4発明とを対比する。 a 甲4発明の「石英ガラス」が、本件発明1の「シリカガラス」に相当する。 b ガラス繊維の分野において、ガラスフィラメントを束ねたものをガラスストランド、ガラスフィラメントを束ねて更に撚りをかけたものをシリカガラスヤーンとするのは技術常識であるから、甲4発明の「石英ガラス長繊維」、「石英ガラス長繊維200本」、「ヤーン」のそれぞれは、本件発明1の「ガラスフィラメント」、「ガラスフィラメントを束ねたガラスストランド」、「ガラスストランドに対して撚りを掛けたガラスヤーン」に相当する。 c 甲4発明の「ガラスクロス」は、石英ガラス長繊維からなるものであり、加熱されていないので、本件発明1の「非加熱処理シリカガラスクロス」に相当する。 d 甲4発明の「平織りし」が、本件発明1の「製織し」に相当する。 e 上記a~dより、甲4発明の「繊維径9μmの石英ガラス長繊維200本をヤーンとし、それを縦糸44本/25mm、横糸32本/25mmの平織り」する工程は、「SiO2組成量が96.0~100.0質量%含まれるガラスフィラメントを束ねたガラスストランドに対して撚りを掛けたガラスヤーンを製織して非加熱処理シリカガラスクロスを準備する工程」と、「ガラスフィラメントを束ねたガラスストランドに対して撚りを掛けたガラスヤーンを製織して非加熱処理シリカガラスクロスを準備する工程」の限りにおいて一致する。 f 甲4発明の「平織りのガラスクロスの作成方法」は、本件発明1の「プリプレグの製造方法」と「部品の製造方法」の限りにおいて一致する。 したがって、本件発明1と甲4発明とは、 「ガラスフィラメントを束ねたガラスストランドに対して撚りを掛けたガラスヤーンを製織して非加熱処理シリカガラスクロスを準備する工程を含む、部品の製造方法。」で一致し、少なくとも以下の点で相違する。 <相違点1> 本件発明1が、「前記非加熱処理シリカガラスクロスを500℃~1650℃の温度で、1分~72時間加熱処理することにより加熱処理シリカガラスクロスを得る工程」を有しており、「前記加熱処理シリカガラスクロスを得る工程において、前記加熱処理シリカガラスクロス単体の周波数9GHzでの誘電正接tanδ1の非加熱処理シリカガラスクロス単体の周波数9GHzでの誘電正接tanδ2に対する比tanδ1/tanδ2が0.47以下となり、前記加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1が、周波数9GHzで0.0010以下となるように前記非加熱処理シリカガラスクロスを加熱処理する(ただし、前記誘電正接は、誘電体共振器周波数9GHzで測定した、シリカガラスクロスを、シリカガラスと空気の複合体としてシリカガラスのみの誘電正接値を算出したものである)」 ものであるのに対して、甲4発明ではそのような構成を有するか不明な点。 (イ)判断 上記相違点1について検討する。 相違点1は実質的な相違点である。 (ウ)小括 よって、本件発明1は、他の相違点について検討するまでもなく、甲4発明ではない。 イ 本件発明3について 本件発明3は、本件発明1の全ての発明特定事項を含み、更なる限定を付加するものであるから、上記アで説示したのと同様の理由により、本件発明3は、甲4発明ではない。 ウ 申立理由5(甲4を引用例とする新規性)のまとめ 以上のとおり、申立理由5(甲4を引用例とする新規性)は理由がない。 (7)申立理由6(甲5を主引用例とする進歩性)について ア 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲5発明とを対比する。 a 甲5発明の「石英ガラス」は、本件発明1の「シリカガラス」に相当する。 b 甲5発明の「石英ガラス素材を加熱延伸することにより」得られた「フィラメント」は、本件発明1の「ガラスフィラメント」に相当する。 c 甲5発明の「フィラメント本数49本の石英ガラスストランド」は、本件発明1の「ガラスフィラメントを束ねたガラスストランド」に相当する。 d 甲5発明の「このストランドを撚糸機により撚り数10t/mで撚り掛けをし、カバリングした石英ガラスのカバリング糸」は、本件発明1の「ガラスストランドに対して撚りを掛けたガラスヤーン」に相当する。 e 甲5発明の「500℃、5時間大気炉中で熱処理を行い完全にカバリング糸を除去し」た「製織クロス」は、本件発明1の「加熱処理シリカガラスクロス」に相当する。 f 上記a~eより、甲5発明の「500℃、5時間大気炉中で熱処理を行い完全にカバリング糸を除去し」た「製織クロス」が「石英ガラス素材を加熱延伸することにより平均フィラメント径φ5μm、フィラメント本数49本の石英ガラスストランドを得て、このストランドを撚糸機により撚り数10t/mで撚り掛けをした後、カバリングした石英ガラスのカバリング糸を用い、手織り織機を用いて平織りで製織し」た態様と、本件発明1の「加熱処理シリカガラスクロスが、SiO2組成量が96.0~100.0質量%含まれるガラスフィラメントを束ねたガラスストランドに対して撚りを掛けたガラスヤーンを製織してなるものであ」る態様とは、 「加熱処理シリカガラスクロスが、ガラスフィラメントを束ねたガラスストランドに対して撚りを掛けたガラスヤーンを製織してなるものであ」る態様に限り一致する。 g 甲5発明の熱処理前の石英ガラス素材からなる「製織クロス」は、本件発明1の「非加熱処理シリカガラスクロス」に相当することから、甲5発明の「石英ガラス素材を加熱延伸することにより平均フィラメント径φ5μm、フィラメント本数49本の石英ガラスストランドを得て、このストランドを撚糸機により撚り数10t/mで撚り掛けをした後、カバリングした石英ガラスのカバリング糸を用い、手織り織機を用いて平織りで製織し、製織クロスを得」る工程は、本件発明1の「SiO2組成量が96.0~100.0質量%含まれるガラスフィラメントを束ねたガラスストランドに対して撚りを掛けたガラスヤーンを製織して非加熱処理シリカガラスクロスを準備する工程」と、「ガラスフィラメントを束ねたガラスストランドに対して撚りを掛けたガラスヤーンを製織して非加熱処理シリカガラスクロスを準備する工程」に限り一致する。 h 甲5発明の「製織クロスを500℃、5時間大気炉中で熱処理を行」う工程は、本件発明1の「非加熱処理シリカガラスクロスを500℃~1650℃の温度で、1分~72時間加熱処理することにより加熱処理シリカガラスクロスを得る工程」を満たす。 i 甲5発明の「石英ガラスクロスの製造方法」は、本件発明1の「プリプレグの製造方法」と「部品の製造方法」の限りにおいて一致する。 したがって、本件発明1と甲5発明とは、 「加熱処理シリカガラスクロスが、ガラスフィラメントを束ねたガラスストランドに対して撚りを掛けたガラスヤーンを製織してなるものであり、 ガラスフィラメントを束ねたガラスストランドに対して撚りを掛けたガラスヤーンを製織して非加熱処理シリカガラスクロスを準備する工程と、 前記非加熱処理シリカガラスクロスを500℃~1650℃の温度で、1分~72時間加熱処理することにより加熱処理シリカガラスクロスを得る工程と、を含む、 部品の製造方法。」で一致し、少なくとも以下の点で相違する。 <相違点2> 本件発明1は、「前記加熱処理シリカガラスクロスを得る工程において、前記加熱処理シリカガラスクロス単体の周波数9GHzでの誘電正接tanδ1の非加熱処理シリカガラスクロス単体の周波数9GHzでの誘電正接tanδ2に対する比tanδ1/tanδ2が0.47以下となり、前記加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1が、周波数9GHzで0.0010以下となるように前記非加熱処理シリカガラスクロスを加熱処理する(ただし、前記誘電正接は、誘電体共振器周波数9GHzで測定した、シリカガラスクロスを、シリカガラスと空気の複合体としてシリカガラスのみの誘電正接値を算出したものである)」のに対し、甲5発明は、「熱処理後の石英ガラスクロスの1MHzおよび1GHzの誘電正接がそれぞれ1×10-4以下および2×10-4以下である」点。 (イ)判断 上記相違点2について検討する。 まず、本件特許明細書の【0053】に「上記非加熱処理シリカガラスクロスは、SiO2が96.0~100.0質量%(組成量)含まれるシリカガラスフィラメントからなり、平均フィラメント径が3μm~20μmのシリカガラスフィラメントを10本~400本の本数で束ねてシリカガラスストランドとし、前記シリカガラスストランドに対して、1m当たり4回~40回の撚りを掛けて、番手の大きさが0.5~40texとしたシリカガラスヤーンを製織して製造されるものが好ましい。」と記載されている。 一方、甲5発明における石英ガラスフィラメントの平均フィラメント径、石英ガラスストランドを構成する石英ガラスフィラメントの本数及び石英ガラスストランドの1m当たりの撚りの回数は、本件発明1に用いられるシリカガラスフィラメント、シリカガラスストランドにおけるそれらの数値の範囲内となるとともに、甲5発明における石英ガラスフィラメントのSiO2組成量も96.0~100.0質量%となり、熱処理前の石英ガラスクロスの製造方法について、両者にはある程度の共通点が認められる。 しかしながら、甲5の【0041】には、「このストランドを同様に1.5%濃度の、澱粉に油剤エマルジョンを加えた2次サイズ剤を付与しながら撚糸機により撚り数10t/mで撚り掛けをした後、この糸の周りに5.5texの水溶性ポリビニルアルコール繊維を300t/mでカバリングしたものを用意した。」と記載され、また、【0042】には、「次に70℃のお湯に製織クロスを含浸し20分超音波をかけながらカバリング糸の溶解除去及び開繊処理を施した後、50℃のオーブンに入れ乾燥した。乾燥後、500℃、5時間大気炉中で熱処理を行い完全にカバリング糸を除去した。」と記載されている一方、本件発明1では、ガラスヤーンのカバリングや加熱処理によるカバリングの糸の除去は行っていない。 そうすると、甲5発明が本件発明1と上記のような共通点が存在していても、甲5発明の石英ガラスクロスにおいて、加熱処理シリカガラスクロス単体の周波数9GHzでの誘電正接tanδ1の非加熱処理シリカガラスクロス単体の周波数9GHzでの誘電正接tanδ2に対する比tanδ1/tanδ2が0.47以下となっている蓋然性が高いとまではいえない。 したがって、相違点2は実質的な相違点といえるところ、相違点2の容易想到性について以下検討する。 まず、特許権者の令和6年8月26日意見書における、追加比較例1(500℃、5時間)と実施例2(500℃、10時間)及び実施例の追試である追加実施例2(500℃、10時間)を参照すると、同じ加熱処理温度(500℃)でも加熱処理時間が長い方(5時間よりも10時間)が、誘電正接tanδ1やtanδ1/tanδ2が小さくなることが理解できる。 ここで、甲6記載事項2は「シリカガラス繊維織物のヒートクリーニングで、300~500℃の温度で30~150時間熱処理すること。」であり、本件発明の実施例2の加熱処理温度(500℃)、加熱処理時間(10時間)と同じ加熱温度(500℃)で、より長い加熱処理時間(30~150時間)でヒートクリーニングをするものであるが、そもそも甲5発明は、500℃、5時間でカバリング糸を完全に除去できていることから、甲5発明の熱処理時間を甲6記載事項2のような5時間よりも長い時間熱処理を行うことや、甲5発明の熱処理の後に更に甲6記載事項2の熱処理を行うことは、石英ガラスフィラメントに対してダメージを与える可能性や生産コストの観点からみれば、甲6記載事項2を甲5発明に採用する動機付けが存在するとはいえない。 したがって、相違点2に係る本件発明1の構成は当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 (ウ)小括 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲5発明及び甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 イ 本件発明2、3について 本件発明2、3は、本件発明1の全ての発明特定事項を含み、更なる限定を付加するものであるから、上記アで説示したのと同様の理由により、甲5発明及び甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ 申立理由6(甲5を主引用例とする進歩性)のまとめ 以上のとおり、申立理由6(甲5を主引用例とする進歩性)は理由がない。 (8)取消理由通知(決定の予告)で採用しなかった申立理由についての当審の判断のまとめ よって、本件発明1~3は、取消理由通知(決定の予告)に採用しなかった申立理由によって取り消すことはできない。 第6 むすび 以上のとおり、請求項1~3に係る特許は、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。さらに、他に請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-700100

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