特許異議申立
2023-701325
ストレッチ布帛およびその繊維製品
- 審判番号
- 2023-701325
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-242132
- 登録番号
- 7294803
- 請求日
- 2023年12月18日
- 審決日
- 2025年02月06日
- 公報発行日
- 2025年06月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】帝人株式会社
- 【権利者代理人】為山 太郎
- 【異議申立人】大森 隆一
- 審判長/審判官
- 審判長 金丸 治之
- 審判官 藤井 眞吾
- 審判官 武市 匡紘
- 分類
- P1651.121-YAA(D03D) / P1651.537-YAA(D03D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7294803号発明「ストレッチ布帛およびその繊維製品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7294803号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、3~7〕について訂正することを認める。
特許第7294803号の請求項1~7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7294803号(以下「本件特許」という。)の請求項1~7に係る特許についての出願は、平成30年12月26日の出願であって、令和5年6月12日にその特許権の設定登録がされ、令和5年6月20日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和5年12月18日 :特許異議申立人大森隆一(以下「申立人」という。)による本件特許に対する特許異議の申立て
令和6年 2月14日付け:取消理由通知書
令和6年 4月 3日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
令和6年 4月30日 :特許権者による訂正請求書を対象とする手続補正書の提出
令和6年 5月17日付け:訂正拒絶理由通知書
令和6年 5月31日 :特許権者による訂正請求書を対象とする手続補正書及び意見書の提出
令和6年 7月 9日 :申立人による意見書の提出
令和6年 8月30日 :特許権者による令和6年5月31日に提出された手続補正書を対象とする手続補正書の提出
令和6年 9月 4日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和6年10月 4日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
令和6年10月16日 :特許権者による訂正請求書を対象とする手続補正書の提出(以下、この手続補正書により補正された訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)
令和6年11月22日 :申立人による意見書の提出
なお、令和6年4月30日、同年5月31日及び同年8月30日に提出された手続補正書により補正された同年4月3日にされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
第2 本件訂正請求
1 訂正の内容
本件訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。
(1)訂正事項1
本件訂正前の請求項1に記載された「難燃性繊維を含む紡績糸と伸縮糸を用いた伸縮性難燃複合糸を緯糸とし、」を、
「難燃性繊維を含む紡績糸とポリエステル繊維からなる伸縮糸を用いた伸縮性難燃複合糸を緯糸とし、」に訂正する。(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3、4、6、7も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
本件訂正前の請求項5に記載された「請求項1~4のいずれか1つに記載のストレッチ布帛」を、
「請求項2に記載のストレッチ布帛」に訂正する。(請求項5の記載を直接的又は間接的に引用する請求項6、7も同様に訂正する。)
2 一群の請求項
本件訂正前の請求項1、3~7は、請求項3~7が、本件訂正前の請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項〔1、3~7〕について請求されたものである。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の「緯糸」に用いられる「伸縮糸」を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項1は、本件特許の明細書の【0022】の記載に基づくものであるから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項をさらに限定するものであり、また、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項4について、引用する請求項の数を減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項2は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
4 本件訂正の適否のまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、3~7〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正請求が認められたことから、本件特許の請求項1~7に係る発明(以下「本件発明1」等という。また、本件発明1~7を「本件発明」と総称することもある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1~7の記載は、次のとおりである。
【請求項1】
JISK7201により測定される限界酸素指数が25以上の難燃性繊維を含む紡績糸と導電糸及び/または長繊維からなる伸縮糸との複合糸を用いた布帛であって、当該布帛は、JISL1096法により測定される伸び率が5~40%であり、かつ、JISL1094法に規定される帯電電荷量が6.0マイクロクーロン以下であることを特徴とするストレッチ布帛であって、
難燃性繊維を含む紡績糸と、難燃性繊維を含む紡績糸と導電糸を用いた導電性難燃複合糸とを経糸とし、難燃性繊維を含む紡績糸とポリエステル繊維からなる伸縮糸を用いた伸縮性難燃複合糸を緯糸とし、
前記導電糸が、炭素粒子を配合した導電糸であり、JISL1094法に規定される帯電電荷量が4.0マイクロクーロン以下、前記難燃性繊維の重量比が布帛重量に対して40重量%以上であり、前記伸縮糸の重量比が布帛重量に対して0.1~5重量%であり、前記導電糸の重量比が布帛重量に対して0.1~5重量%であり、JISL1091A-4-1992法で規定される炭化長が100mm以下、かつ、残炎及び残塵が2秒以下であり、JISL1096B法で規定される経方向および/または緯方向の伸長率が5~20%であるストレッチ布帛。
【請求項2】
JISK7201により測定される限界酸素指数が25以上の難燃性繊維を含む紡績糸と導電糸及び/または長繊維からなる伸縮糸との複合糸を用いた布帛であって、当該布帛は、JISL1096法により測定される伸び率が5~40%であり、かつ、JISL1094法に規定される帯電電荷量が6.0マイクロクーロン以下であることを特徴とするストレッチ布帛であって、
難燃性繊維と導電繊維を含む紡績糸と、難燃性繊維を含む紡績糸と導電糸を用いた導電性難燃複合糸とを経糸とし、難燃性繊維と導電繊維を含む紡績糸と伸縮糸を用いた伸縮性難燃複合糸を緯糸とし、
前記導電糸が、炭素粒子を配合した導電糸であり、JISL1094法に規定される帯電電荷量が4.0マイクロクーロン以下、前記難燃性繊維の重量比が布帛重量に対して40重量%以上であり、前記伸縮糸の重量比が布帛重量に対して0.1~5重量%であり、前記導電糸及び/または前記導電繊維の重量比が布帛重量に対して0.1~5重量%であり、JISL1091A-4-1992法で規定される炭化長が100mm以下、かつ、残炎及び残塵が2秒以下であり、JISL1096B法で規定される経方向および/または緯方向の伸長率が5~20%であるストレッチ布帛。
【請求項3】
前記紡績糸の撚係数が2.5~4.5である請求項1または2に記載のストレッチ布帛。
【請求項4】
前記難燃性繊維が、メタ系アラミド繊維、パラ系アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維、ポリベンゾイミダゾール繊維、ポリイミド繊維、ポリエーテルイミド繊維、ポリアミドイミド繊維、炭素繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリ塩化ビニル繊維、難燃レーヨン、モダアクリル繊維、難燃アクリル繊維、難燃ポリエステル繊維、難燃ビニロン繊維、メラミン繊維、フッ素繊維、難燃ウール、難燃コットンの群から選ばれた1種類以上の繊維である、請求項1~3のいずれか1つに記載のストレッチ布帛。
【請求項5】
前記伸縮糸が、エーテル系ポリウレタンを含む請求項2に記載のストレッチ布帛。
【請求項6】
前記難燃性繊維に難燃剤が練りこまれている請求項1~5のいずれか1つに記載のストレッチ布帛。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1つに記載されたストレッチ布帛を用いてなる、防護服、消防防火服、消防活動服、救助服、ワークウェア、警察制服、自衛隊衣服、および軍服からなる群より選択されるいずれかの繊維製品。
第4 取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
当審が令和6年9月4日付け取消理由通知書(決定の予告)で通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
取消理由2(進歩性)
本件特許の請求項1、3~7に係る発明は、下記甲1に記載された発明、下記甲3に記載された事項及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
甲1:特開2014-208930号公報(甲第1号証)
甲3:特開2016-145430号公報(甲第3号証)
第5 当審の判断
ここでは、取消理由の対象としなかった請求項2に係る発明も含め、請求項1~7に係る発明の進歩性について判断する。
1 引用文献の記載及び引用発明等
(1)甲1
ア 甲1に記載された事項
甲1には次の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
アラミド繊維とその他の繊維と制電繊維を含む混紡紡績糸を経糸とし、アラミド繊維とその他の繊維と制電繊維を含む混紡紡績糸と弾性繊維糸を一体的に撚った合撚糸を緯糸とした難燃ストレッチ織物であって、
前記緯糸の混紡紡績糸のアラミド繊維混率は、経糸の混紡紡績糸のアラミド繊維混率に比べて相対的に低いことを特徴とする難燃ストレッチ織物。
・・・
【請求項5】
前記難燃ストレッチ織物を100質量%としたとき、下記に示す混率である請求項1~4のいずれか1項に記載の難燃ストレッチ織物。
(1)m-アラミド繊維:50~80%
(2)p-アラミド繊維:0~5質量%
(3)その他の繊維:10~45質量%
(4)制電繊維:0.1~1質量%
(5)弾性繊維:1.5~4質量%
【請求項6】
前記難燃ストレッチ織物の難燃性が、JIS L 1091 A-4法試験における12秒接炎で炭火長が15cm以下、残炎・残塵が2秒以下である請求項1~5のいずれか1項に記載の難燃ストレッチ織物。
【請求項7】
前記難燃ストレッチ織物のストレッチ性が、JIS L 1096 B法試験におけるヨコ伸長率が9%以上である請求項1~6のいずれか1項に記載の難燃ストレッチ織物。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、アラミド繊維と弾性繊維を含む難燃ストレッチ織物及びこれを用いた衣類に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記従来の問題を解決するため、強度と難燃性が高く、ピリングが発生しにくく、品位を高く維持できる難燃ストレッチ織物及びこれを用いた衣類を提供する。」
「【0014】
本発明において、その他の繊維はウール、難燃レーヨン、難燃アクリル及びポリエステルから選ばれる少なくとも一つの繊維が好ましい。その他の繊維を加えるのは着心地を良くするためとコスト低減のためである。アラミド繊維だけでは着心地は良くなく、コストも高い問題がある。」
「【0026】
(実施例1~8)
1.混紡紡績糸の製造
(1)経糸用紡績糸
m-アラミド繊維として帝人社製、商品名“コーネックス”(単繊維繊度3.3deci tex,繊維長76~102mm)94.5質量% と、p-アラミド繊維として帝人社製、商品名“テクノーラ”(単繊維繊度1.7deci tex,繊維長64~89mm)5.0質量%と、制電繊維としてクラレ製、商品名“クラカーボ” (単繊維繊度3.3deci tex,繊維長76mm)0.5質量%を混紡して繊度333dtex(60メートル番手双糸、2/60と表示)の混紡糸を得た。この混紡糸の双糸撚りはS撚り960回/m,単糸撚りはZ撚り800回/mとした。
(2)緯糸用紡績糸
m-アラミド繊維として帝人社製、商品名“コーネックス”(単繊維繊度3.3deci tex,繊維長76~102mm)64.5質量% と、p-アラミド繊維として帝人社製、商品名“テクノーラ”(単繊維繊度1.7deci tex,繊維長64~89mm)5.0質量%と、その他の繊維としてポリエステル(PET)繊維(単繊維繊度3.3deci tex,繊維長76~102mm)30.0質量%と、制電繊維としてクラレ製、商品名“クラカーボ”(単繊維繊度3.3deci tex,繊維長76mm)0.5質量%を混紡して繊度166.5dtex(60メートル番手単糸、1/60と表示)の混紡糸を得た。この混紡糸の撚り方向と撚り数はZ撚り800回/mとした。
【0027】
2.緯糸用合撚糸の製造
弾性糸としてオペロンテックス社製、商品名“ライクラ”(エーテル系ポリウレタン糸)、44deci tex,1本と前記緯糸用紡績糸として製造した混紡紡績糸2本とを合撚した。ライクラは1.5~3.0倍のドラフトをして合撚した。この合撚糸の撚り方向と撚り数はS撚り960回/mとした。
【0028】
3.織物の製造
前記経糸と緯糸を用いて織物を製造した。織物組織は平組織と2/2綾組織とした。条件と結果を表1~2にまとめて示す。
【0029】
【表1】
[図:0001423450000001.jpg]
【0030】
【表2】
[図:0001423450000002.jpg]
【0031】
表1~2に示す通り、本発明の各実施例品はピリングが3級以上であり、織物の品位を高く維持できる。この性質は衣類に縫製した後も同様であり、摩擦によるピリングが発生しにくくなり、衣類の品位を高く維持できる。また強度と難燃性を高く維持し、緯糸に弾性繊維を使用したことにより、ヨコ方向にストレッチ性を与えて人体の動きを阻害しない織物であることが確認できた。」
イ 甲1に記載された発明
甲1には、実施例3(【0026】~【0031】)を【請求項1】、【請求項5】~【請求項7】の記載に沿って整理すると、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「アラミド繊維とその他の繊維と制電繊維を含む混紡紡績糸を経糸とし、アラミド繊維とその他の繊維と制電繊維を含む混紡紡績糸と弾性繊維糸を一体的に撚った合撚糸を緯糸とした難燃ストレッチ織物であって、(【請求項1】)
経糸用紡績糸は、m-アラミド繊維として帝人社製、商品名“コーネックス”と、p-アラミド繊維として帝人社製、商品名“テクノーラ”と、制電繊維としてクラレ製、商品名“クラカーボ”を混紡して得た混紡糸を、双糸撚りはS撚り960回/m、単糸撚りはZ撚り800回/mしたものであり、(【0026】)
緯糸用合撚糸は、m-アラミド繊維として帝人社製、商品名“コーネックス”と、p-アラミド繊維として帝人社製、商品名“テクノーラ”と、その他の繊維としてポリエステル(PET)繊維と、制電繊維としてクラレ製、商品名“クラカーボ”を混紡して得た繊度166.5dtexでZ撚り800回/mの混紡糸とした緯糸用混紡紡績糸と、弾性糸であるオペロンテックス社製、商品名“ライクラ”(エーテル系ポリウレタン糸)とを合撚したものであり、(【0026】、【0027】)
前記難燃ストレッチ織物を100質量%としたとき、下記に示す混率であり、
(1)m-アラミド繊維:76.7重量%
(2)p-アラミド繊維:5.0質量%
(3)その他の繊維:14.6質量%
(4)制電繊維:0.5質量%
(5)弾性繊維:3.2質量%(【請求項5】、【0029】【表1】)
前記難燃ストレッチ織物の難燃性が、JIS L 1091 A-4法試験における12秒接炎で炭化長が経7.8cm、緯7.4cmで、残炎が経0.0秒、緯0.0秒、残塵が経0.9秒、緯0.9秒であり、(【請求項6】、【0030】【表2】)
前記難燃ストレッチ織物のストレッチ性が、JIS L 1096B法試験におけるヨコ伸長率が12.5%である難燃ストレッチ織物。」(【請求項7】、【0030】【表2】)
(2)甲3
ア 甲3に記載された事項
甲3には次の事項が記載されている。
「【請求項1】
難燃性繊維糸と導電性複合糸とを含み、導電性複合糸が間隔を空けて格子状に配列されている布帛であって、導電性複合糸が、難燃性繊維を含む芯糸と、導電性繊維を含む鞘糸とから構成され、導電性複合糸が難燃性繊維糸より太く、JIS L1091 8.5E-2法に基づいて測定される限界酸素指数(LOI値)が25以上であることを特徴する難燃制電性布帛。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性と制電性とを兼備する導電性繊維使いの布帛に関するものである。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2記載の織物は、引裂強度や耐薬品性などにも優れており、難燃制電性布帛として安全性にもより配慮されている。しかし、この織物では、導電性複合糸としてポリエステル仮撚糸と導電性繊維との合撚糸が用いられているため、複合糸表面における導電性繊維の露出量が少なく、格子状配列の接点において導電性繊維同士の導通性が十分に確保できないという問題がある。このため、上記のIEC基準が達成できないという課題がある。この場合、導電性繊維の混率を増やせば、ある程度織物の表面抵抗値を低減させることは可能であるが、必要以上に導電性繊維を増やすと、強度が下がりかえって安全性が損なわれる他、製造コスト、見映えの点でも不利となる。
【0007】
また、特許文献3記載の織物は、難燃性等は無論のこと、電磁波の遮蔽性などにも優れることから、広く一般資材として好適に使用できるという利点がある。しかし、同織物では、制電性を付与するにあたり繊維布帛全体を金属メッキ処理しており、しかも全面状にコーティングしたホットメルト樹脂接着剤を介して難燃剤を付与していることから、着用感、適度な通気性など衣服に要求される基本的な特性が得られないという問題がある。
【0008】
以上の点から、制電性と共に難燃性、防炎性などに優れ、しかも安全上静電気の抑制が求められる現場で着用するユニフォーム衣服全般に好適な難燃制電性布帛は、未だ提案されていないのが実情である。
【0009】
本発明は、上記の従来技術の欠点を解消するものであり、制電性と共に難燃性、防炎性などに優れ、電子部品、精密部品の製造現場だけでなく、医薬品、食品加工現場の他、製鉄現場、火災現場など静電気が障害となる現場全般において、安全、快適に使用できる難燃制電性布帛を提供することを課題とする。」
「【0059】
(実施例1)
難燃性ビニロン繊維(ユニチカトレーディング社製「ミューロンFR」、LOI値35、単糸繊度1.5dtex、平均繊維長38mm)及び綿繊維をビニロン繊維75質量部、綿繊維25質量部の割合で混紡して得た、撚係数3.5、太さ15番手の難燃性繊維糸を用意した。そして、この難燃性繊維糸を芯糸としてその周囲に導電性マルチフィラメント糸(ユニチカトレーディング社製「メガーナE5」、28dtex2f)を300T/Mで順次ダブルカバリングし、導電性複合糸とした。
【0060】
続いて、上記難燃性繊維糸及び上記導電性複合糸を難燃性繊維糸16本、導電性複合糸1本の繰り返しで配列した織機ビームを整経した後、エアージェット織機を使用して、上記難燃性繊維糸及び上記導電性複合糸を難燃性繊維糸14本、導電性複合糸1本の繰り返しで緯入れし、幅が163cmで2/2綾組織の生機とした。生機密度は、経糸密度85本/2.54cm、緯糸密度75本/2.54cmであった。」
イ 甲3記載事項
上記アによると、甲3には、特に実施例1の経糸及び緯糸に着目すると、「難燃制電性布帛において、難燃性ビニロン繊維及び綿繊維を混紡して得た難燃性繊維糸と、難燃性繊維糸を芯糸としてその周囲に導電性マルチフィラメント糸をダブルカバリングした導電性複合糸とを配列して経糸及び緯糸とすること。」(以下「甲3記載事項」という。)が記載されている。
2 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
アラミド繊維は難燃性繊維であるから、甲1発明の「アラミド繊維」、「m-アラミド繊維」、「p-アラミド繊維」はいずれも本件発明1の「難燃性繊維」に相当する。
甲1発明の「弾性繊維糸」及び「弾性糸」は本件発明1の「伸縮糸」に相当する。
甲1発明の「難燃ストレッチ織物」は本件発明1の「ストレッチ布帛」に相当する。
甲1発明において、「アラミド繊維とその他の繊維と制電繊維を含む混紡紡績糸と弾性繊維糸を一体的に撚った合撚糸を緯糸とし」、「緯糸用合撚糸」が「m-アラミド繊維として帝人社製、商品名“コーネックス”と、p-アラミド繊維として帝人社製、商品名“テクノーラ”と、その他の繊維としてポリエステル(PET)繊維と、制電繊維としてクラレ製、商品名“クラカーボ”を混紡して得た繊度166.5dtexでZ撚り800回/mの混紡糸とした緯糸用混紡紡績糸と、弾性糸であるオペロンテックス社製、商品名“ライクラ”(エーテル系ポリウレタン糸)とを合撚したもの」であることと、本件発明1において、「難燃性繊維を含む紡績糸とポリエステル繊維からなる伸縮糸を用いた伸縮性難燃複合糸を緯糸とし」たこととは、「難燃性繊維を含む紡績糸と伸縮糸を用いた伸縮性難燃複合糸を緯糸とし」た限りで一致する。
甲1発明において「前記難燃ストレッチ織物を100質量%としたとき」、「(1)m-アラミド繊維:76.7重量%(2)p-アラミド繊維:5.0質量%(3)その他の繊維:14.6質量%(4)制電繊維:0.5質量%(5)弾性繊維:3.2質量%」の「混率であ」ることは、本件発明1において、「前記難燃性繊維の重量比が布帛重量に対して40重量%以上であり、前記伸縮糸の重量比が布帛重量に対して0.1~5重量%であり、前記導電糸の重量比が布帛重量に対して0.1~5重量%であ」ることに相当する。
甲1発明において「前記難燃ストレッチ織物の難燃性が、JIS L 1091 A-4法試験における12秒接炎で炭化長が経7.8cm、緯7.4cmで」あることは、本件発明1において「JISL1091A-4-1992法で規定される炭化長が100mm以下」であることに相当する。
甲1発明において「残炎が経0.0秒、緯0.0秒、残塵が経0.9秒、緯0.9秒であ」ることは、本件発明1において「残炎及び残塵が2秒以下であ」ることに相当する。
甲1発明において「前記難燃ストレッチ織物のストレッチ性が、JIS L 1096B法試験におけるヨコ伸長率が12.5%である」ことは、本件発明1において「当該布帛は、JISL1096法により測定される伸び率が5~40%であり」、「JISL1096B法で規定される経方向および/または緯方向の伸長率が5~20%である」ことに相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「布帛であって、当該布帛は、JISL1096法により測定される伸び率が5~40%であるストレッチ布帛であって、
難燃性繊維を含む紡績糸と伸縮糸を用いた伸縮性難燃複合糸を緯糸とし、
前記難燃性繊維の重量比が布帛重量に対して40重量%以上であり、前記伸縮糸の重量比が布帛重量に対して0.1~5重量%であり、前記導電糸の重量比が布帛重量に対して0.1~5重量%であり、JISL1091A-4-1992法で規定される炭化長が100mm以下、かつ、残炎及び残塵が2秒以下であり、JISL1096B法で規定される経方向および/または緯方向の伸長率が5~20%であるストレッチ布帛。」
[相違点1]
本件発明1は、「難燃性繊維を含む紡績糸と伸縮糸及び/または長繊維からなる伸縮糸との複合糸を用いた布帛」であるのに対して、甲1発明は、「アラミド繊維とその他の繊維と制電繊維を含む混紡紡績糸を経糸とし、アラミド繊維とその他の繊維と制電繊維を含む混紡紡績糸と弾性繊維糸を一体的に撚った合撚糸を緯糸とした難燃ストレッチ織物」である点。
[相違点2]
本件発明1は、「難燃性繊維」が「JISK7201により測定される限界酸素指数が25以上」であるのに対して、甲1発明は、「m-アラミド繊維」及び「p-アラミド繊維」の「JISK7201により測定される限界酸素指数」について特定していない点。
[相違点3]
難燃性繊維を含む紡績糸と伸縮糸を用いた伸縮性難燃複合糸を緯糸としたことに関して、本件発明1は、「難燃性繊維を含む紡績糸とポリエステル繊維からなる伸縮糸を用いた伸縮性難燃複合糸を緯糸と」したのに対して、甲1発明は、「アラミド繊維とその他の繊維と制電繊維を含む混紡紡績糸と弾性繊維糸を一体的に撚った合撚糸を緯糸とし」、「緯糸用合撚糸」が「m-アラミド繊維として帝人社製、商品名“コーネックス”と、p-アラミド繊維として帝人社製、商品名“テクノーラ”と、その他の繊維としてポリエステル(PET)繊維と、制電繊維としてクラレ製、商品名“クラカーボ”を混紡して得た繊度166.5dtexでZ撚り800回/mの混紡糸とした緯糸用混紡紡績糸と、弾性糸であるオペロンテックス社製、商品名“ライクラ”(エーテル系ポリウレタン糸)とを合撚したもの」である点。
[相違点4]
本件発明1は、「JISL1094法に規定される帯電電荷量が6.0マイクロクーロン以下であ」るのに対して、甲1発明は、「JISL1094法に規定される帯電電荷量」が不明である点。
[相違点5]
本件発明1は、「難燃性繊維を含む紡績糸と、難燃性繊維を含む紡績糸と導電糸を用いた導電性難燃複合糸とを経糸とし」ており、「前記導電糸が、炭素粒子を配合した導電糸であり、JISL1094法に規定される帯電電荷量が4.0マイクロクーロン以下」であるのに対して、甲1発明は、「アラミド繊維とその他の繊維と制電繊維を含む混紡紡績糸を経糸とし」ている点。
(2)判断
事案に鑑み、まず相違点3について検討する。
甲1発明の「緯糸用合撚糸」に関して、甲1には、「本発明で使用する合撚糸は、紡績糸2本と弾性繊維糸1本を一体的に撚った合撚糸が好ましい。・・・弾性糸としては、例えばオペロンテックス社製、商品名“ライクラ”(エーテル系ポリウレタン糸)、日清紡社製、商品名“モビロン”(ポリエステル系ポリウレタン糸)等がある。」(【0019】)と記載されているものの、緯糸の伸縮糸として「ポリエステル繊維」を使用することは記載も示唆もされていない。
また、申立人が提出した他の証拠にも、ストレッチ布帛の緯糸に用いられる、難燃性繊維を含む紡績糸と伸縮糸を用いた伸縮性難燃複合糸における伸縮糸として、ポリエステル繊維を使用することは記載も示唆もされておらず、甲1発明において、相違点3に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到できたことではない。
(3)小括
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 本件発明2について
本件発明2と甲1発明とは、少なくとも次の点で相違する。
[相違点6]
本件発明2は、「経糸」が「難燃性繊維と導電繊維を含む紡績糸と、難燃性繊維を含む紡績糸と導電糸を用いた導電性難燃複合糸」であるのに対して、甲1発明は、「経糸用紡績糸」が「m-アラミド繊維として帝人社製、商品名“コーネックス”と、p-アラミド繊維として帝人社製、商品名“テクノーラ”と、制電繊維としてクラレ製、商品名“クラカーボ”を混紡して得た混紡糸」である点。
相違点6について検討する。
甲1や申立人が提出した他の証拠には、ストレッチ布帛の経糸を、難燃性繊維と導電繊維を含む紡績糸と、難燃性繊維を含む紡績糸と導電糸を用いた導電性難燃複合糸とすることは記載も示唆もされておらず、甲1発明において、相違点6に係る本件発明2の構成とすることは、当業者が容易に想到できたことではない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
4 本件発明3~7について
本件発明3~7は、本件発明1又は本件発明2のいずれかの発明特定事項を全て含む発明であるから、上記2、3と同様の理由により、本件発明3~7は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第6 取消理由通知(決定の予告)に採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知(決定の予告)に採用しなかった特許異議申立理由の概要
(サポート要件)
本件発明1、2は、「前記伸縮糸の重量比が布帛重量に対して0.1~5重量%であ」ることを発明特定事項としているが、当該配合割合により、「難燃性と伸縮性に加えて優れた制電性を有するストレッチ布帛」を提供する課題が解決されるとはいえず、本件特許の請求項1~7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、本件特許の特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合しないため、請求項1~7に係る特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 当審の判断
(1)本件発明の解決しようとする課題について
本件発明が解決しようとする課題(以下「本件課題」という。)は、「難燃性と伸縮性に加えて優れた制電性を有するストレッチ布帛およびそれを用いてなる繊維製品を提供すること」(【0005】)である。
(2)発明の詳細な説明の記載
本件課題に関して、発明の詳細な説明には次の記載がある。
「【0006】
本発明者らは上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、難燃性繊維を含む紡績糸と、導電糸と、伸縮糸とを用いることによって難燃性、伸縮性および制電性に優れる布帛が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明によれば、JISK7201により測定される限界酸素指数が25以上の難燃性繊維を含む紡績糸と、導電糸と、伸縮糸とを用いた布帛であって、当該布帛は、JISL1096法により測定される伸び率が5~40%であり、かつ、JISL1094法に規定される帯電電荷量が6.0マイクロクーロン以下であるストレッチ布帛が提供される。
【0008】
その際、難燃性繊維を含む紡績糸と、難燃性繊維を含む紡績糸と導電糸を用いた導電性難燃複合糸とを経糸とし、難燃性繊維を含む紡績糸と伸縮繊維を用いた伸縮性難複合糸とを緯糸とすることが好ましく、難燃性繊維と導電繊維を含む紡績糸と、難燃性繊維を含む紡績糸と導電糸を用いた導電性難燃複合糸とを経糸とし、難燃性繊維と導電繊維を含む紡績糸と伸縮繊維を用いた伸縮性難燃複合糸を緯糸とすることも好ましい、前記導電性複合糸は、布帛伸縮時5~50mmのピッチで経糸中に配設されることも好ましい、JISL1094法に規定される帯電電荷量が4.0マイクロクーロン以下であることも好ましい、難燃性繊維の重量比が布帛重量に対して40重量%以上であり、伸縮繊維の重量比が布帛重量に対して0.1~5重量%であり、導電糸及び/または導電繊維の重量比が布帛重量に対して0.1~5重量%であることも好ましい、JISL1091A-4-1992法で規定される炭化長が100mm以下、かつ、残炎及び残塵が2秒以下であることも好ましい、紡績糸の撚係数が2.5~4.5であることも好ましい、難燃性繊維が、メタ系アラミド繊維、パラ系アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維、ポリベンゾイミダゾール繊維、ポリイミド繊維、ポリエーテルイミド繊維、ポリアミドイミド繊維、炭素繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリ塩化ビニル繊維、難燃レーヨン、モダアクリル繊維、難燃アクリル繊維、難燃ポリエステル繊維、難燃ビニロン繊維、メラミン繊維、フッ素繊維、難燃ウール、難燃コットンの群から選ばれた1種類以上の繊維であることも好ましい、伸縮繊維が、エーテル系ポリウレタンを含むことも好ましい、難燃性繊維に難燃剤が練りこまれていることも好ましい、JISL1096B法で規定される経方向および/または緯方向の伸長率が5~20%であることも好ましい。」
「【0027】
また、前記伸縮糸の繊維が重量比率で布帛重量に対して5~15重量%の範囲であることが肝要である。前記伸縮糸の繊維が重量比率で布帛重量に対して15重量%を越える場合、炎が複合繊維に沿って伝わりやすく燃焼しやすくなるため好ましくない。また、逆に、前記伸縮糸の繊維が重量比率で5重量%未満の場合、布帛の伸縮性が低下するおそれがあり好ましくない。」
(3)判断
発明の詳細な説明には、本件課題を解決するための手段に関して、「JISK7201により測定される限界酸素指数が25以上の難燃性繊維を含む紡績糸と、導電糸と、伸縮糸とを用いた布帛であって、当該布帛は、JISL1096法により測定される伸び率が5~40%であり、かつ、JISL1094法に規定される帯電電荷量が6.0マイクロクーロン以下である」(【0007】)と記載されている。
ここで、「紡績糸」が「JISK7201により測定される限界酸素指数が25以上の難燃性繊維を含む」ことにより「難燃性」を有し、「布帛」に「伸縮糸」を用いること、及び「当該布帛は、JISL1096法により測定される伸び率が5~40%であ」ることにより「伸縮性」を有し、また、「布帛」に「導電糸」を用いること、及び「当該布帛」が「JISL1094法に規定される帯電電荷量が6.0マイクロクーロン以下である」ことにより「制電性」を有することが理解できる。
そうすると、当業者は、「JISK7201により測定される限界酸素指数が25以上の難燃性繊維を含む紡績糸と、導電糸と、伸縮糸とを用いた布帛であって、当該布帛は、JISL1096法により測定される伸び率が5~40%であり、かつ、JISL1094法に規定される帯電電荷量が6.0マイクロクーロン以下である」「ストレッチ布帛」は本件課題を解決できると認識できる。
そして、本件発明は、本件課題を解決できると認識できる「JISK7201により測定される限界酸素指数が25以上の難燃性繊維を含む紡績糸と、導電糸と、伸縮糸とを用いた布帛であって、当該布帛は、JISL1096法により測定される伸び率が5~40%であり、かつ、JISL1094法に規定される帯電電荷量が6.0マイクロクーロン以下である」「ストレッチ布帛」を更に限定したものである。
したがって、本件発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
よって、本件発明1~7は、発明の詳細な説明に記載したものであり、申立人の上記主張は採用できない。
第7 むすび
以上のとおり、請求項1~7に係る特許は、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由、及び特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできない。さらに、他に請求項1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701325