特許異議申立
2025-700233
熱伝導性樹脂シート
- 審判番号
- 2025-700233
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-018476外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 7542317
- 請求日
- 2025年02月26日
- 審決日
- 2025年05月01日
- 公報発行日
- 2025年07月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】積水化学工業株式会社
- 【権利者代理人】田口 昌浩
- 【権利者代理人】虎山 滋郎
- 【異議申立人】角田 朗
- 分類
- P1651.121-Y (C08J) / P1651.536-Y (C08J) / P1651.537-Y (C08J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7542317号発明「熱伝導性樹脂シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7542317号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7542317号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、令和2年2月6日を出願日とする出願であって、令和6年8月22日にその特許権の設定登録(請求項の数9)がされ、同年同月30日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和7年2月26日に特許異議申立人 角田 朗(以下「特許異議申立人」という。)より特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし9に係る発明(以下「本件特許発明1」ないし「本件特許発明9」という。また、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
シリコーン樹脂を含有し、前記シリコーン樹脂が付加反応型シリコーン樹脂であり、以下の式(1)で示される熱抵抗値変化率Aが15%以下であるか、又は以下の式(2)で示される熱抵抗値変化率Bが7.5%以下であり、30%圧縮強度が2000kPa以下であり、熱伝導性フィラーを含み、 前記熱伝導性フィラーのアスペクト比が5以上であり、前記熱伝導性フィラーの含有量が、樹脂100質量部に対して150~700質量部であり、前記熱伝導性フィラーの配向角度が45°より大きい、熱伝導性樹脂シート。
|(1-10%圧縮時の熱抵抗値/30%圧縮時の熱抵抗値)×100| (1)
|(1-40%圧縮時の熱抵抗値/30%圧縮時の熱抵抗値)×100| (2)
【請求項2】
前記熱抵抗値変化率Aが15%以下であり、かつ熱抵抗値変化率Bが7.5%以下である、請求項1に記載の熱伝導性樹脂シート。
【請求項3】
10%圧縮時の熱抵抗値が5K/W以下である、請求項1又は2に記載の熱伝導性樹脂シート。
【請求項4】
前記熱伝導性フィラー中の非球状フィラーの含有量が90質量%以上である、請求項1~3のいずれかに記載の熱伝導性樹脂シート。
【請求項5】
前記熱伝導性フィラーが窒化ホウ素である、請求項1~4のいずれかに記載の熱伝導性樹脂シート。
【請求項6】
前記熱伝導性フィラーのアスペクト比が10以上、200以下である、請求項1に記載の熱伝導性樹脂シート。
【請求項7】
前記熱伝導性フィラーの配向角度が80°以上である、請求項1に記載の熱伝導性樹脂シート。
【請求項8】
前記熱伝導性フィラーの含有量が、樹脂100質量部に対して230~450質量部である、請求項1に記載の熱伝導性樹脂シート。
【請求項9】
前記樹脂が固体状である、請求項1~8のいずれかに記載の熱伝導性樹脂シート。」
第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和7年2月26日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし4及び6ないし9に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件明細書には、板状の熱伝導性フィラーを用いる熱伝導性樹脂シートについて詳細な説明及びこれにより得られる効果の具体的な記載があるものの、針状フィラー、繊維状フィラー、及び樹枝状フィラーを夫々用いた熱伝導性樹脂シートについての説明及び具体例はない。本件特許発明1に記載の熱抵抗値変化率は熱伝導性フィラーのアスペクト比及び配向角度により調節されるところ、本件明細書には、本件出願時の技術常識に照らしても、板状、繊維状又は樹枝状のフィラーを包含するあらゆる形状の熱伝導性フィラーが、板状フィラーと同等の製造方法で配向して本件特許発明の課題を解決できると当業者が認識できる程度の具体例又は説明が記載されていない。
本件請求項1を引用する請求項2~4及び6~9も同じ論理が当てはまる。
2 申立理由2(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし4及び6ないし9に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
繊維状のフィラーを本件明細書に記載のプレス法のみでシート厚み方向に一定に配向させるのは技術的に困難であり、繊維状フィラーの配向角度がシート面に対し45°より大きい熱伝導性樹脂シートを得るためにはプレス法のみでなくその他の高度な配向技術を必要とする。これは針状及び樹枝状のフィラーにもあてはまることである。本件明細書には、針状、繊維状、又は樹枝状のフィラーを使用し配向角度が45°より大きい熱伝導性シートの製造方法についての詳細な説明はなく、当業者は、針状、繊維状、又は樹枝状のフィラーの配向角度がシート面に対し45°より大きい熱伝導性樹脂シートを得るために、出願時の技術常識を考慮したとしても、過度の試行錯誤や高度な配向技術を必要とされる。従って、本件特許発明の詳細な説明は、当業者があらゆる形状のフィラーを包含する本件請求項1~4及び請求項6~9に係る発明を実施することができる程度に記載されていない。
3 申立理由3(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
4 証拠方法
甲第1号証:国際公開第2018/030430号
甲第2号証:特開2001-335602号公報
甲第3号証:特開2015-216387号公報
甲第4号証:特開2011-184663号公報
甲第5号証:特開2021-161417号公報
甲第6号証:特開2002-270739号公報
甲第7号証:KF-96H-10万CSパンフレット、URL:https://www.silicone.jp/guide/cosme/products/kf-96h-100000cs/
甲第8号証:SEMICOSIL(R)(合議体注:(R)は○の中にR。)962 TC A/Bパンフレット、URL:https://www.wacker.com/h/en-us/silicone-rubber/c/semicosil-962-tc-ab/p/000011042
甲第9号証:特開2020-13870号公報
甲第10号証:特開2005-42096号公報
甲第11号証:令和6年4月19日付意見書
なお、証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。
第4 当審の判断
1 申立理由1(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)サポート要件の判断
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりである。
本件特許の発明の詳細な説明の【0006】によると、本件特許発明1ないし4及び6ないし9の解決しようとする課題(以下「発明の課題」という。)は、「柔軟であり、かつ圧縮率が変動した場合であっても、安定した放熱性能を示す熱伝導性樹脂シートを提供すること」である。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0007】、【0008】、【0011】、【0018】、【0025】、【0031】、【0032】及び【0036】には本件特許発明1ないし4及び6ないし9に対応する記載がある。
さらに、本件特許の発明の詳細な説明の【0051】ないし【0062】には本件特許発明の実施形態について説明があり、【0009】には本件特許発明による発明の効果が記載されている。
そうすると、当業者は、「シリコーン樹脂を含有し、前記シリコーン樹脂が付加反応型シリコーン樹脂であり、以下の式(1)で示される熱抵抗値変化率Aが15%以下であるか、又は以下の式(2)で示される熱抵抗値変化率Bが7.5%以下であり、30%圧縮強度が2000kPa以下であ」る「熱伝導性樹脂シート。
|(1-10%圧縮時の熱抵抗値/30%圧縮時の熱抵抗値)×100| (1)
|(1-40%圧縮時の熱抵抗値/30%圧縮時の熱抵抗値)×100| (2)」は、発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし4及び6ないし9は、上記「熱伝導性樹脂シート」をさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明1ないし4及び6ないし9は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明1ないし4及び6ないし9に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
なお、特許異議申立人は、上記第3 1のとおり主張するが、「針状フィラー、繊維状フィラー、及び樹枝状フィラー」では発明の課題を解決できないとする特段の証拠はなく、本件特許発明1ないし4及び6ないし9がサポート要件を満たすのは上記検討のとおりである。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(3)申立理由1(サポート要件)についてのむすび
本件特許発明1ないし4及び6ないし9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由1によっては取り消すことはできない。
2 申立理由2(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断基準
上記第2のとおり、本件特許発明1ないし4及び6ないし9は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。
(2)実施可能要件の判断
発明の詳細な説明には、本件特許発明1ないし4及び6ないし9の各発明特定事項について具体的に記載され、【0044】ないし【0049】には、本件特許発明のシートを製造する方法が記載され、本件特許発明1ないし4及び6ないし9の実施例についてもその製造方法を含め具体的に記載されている。
したがって、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし4及び6ないし9を生産し、使用をすることができる程度の記載があるといえる。
よって、本件特許発明1ないし4及び6ないし9に関して、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を充足する。
なお、特許異議申立人は、上記第3 2のとおり主張するが、本件特許発明1ないし4及び6ないし9が実施可能要件を満たすのは上記検討のとおりであって、本件特許発明における「配向角度」は平均値であり、その角度未満のフィラーの存在を否定しないこと(【0033】)を考慮すれば、発明の詳細な説明に記載された上記製造方法では、針状フィラー等の場合に配向角度を45°より大きくすることができないとまではいえない。
(3)申立理由2(実施可能要件)についてのむすび
本件特許発明1ないし4及び6ないし9に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由2によっては取り消すことはできない。
3 申立理由3(甲第1号証に基づく進歩性)について
(1)甲第1号証に記載された事項等
ア 甲第1号証に記載された事項
甲第1号証には、「熱伝導シート及びその製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「[0006] しかし、特許文献1、2の技術では、いずれも、熱伝導性板状フィラーの配向度が低く、熱伝導率の向上を実現するためには、熱伝導性板状フィラーを多く使用せざるを得ず、熱伝導シートの柔軟性の観点、原料コストの観点から好ましくない。
本発明は、以上の事情に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、熱伝導性板状フィラーの使用量を抑制しつつ、熱伝導シートの熱伝導率の向上を実現した熱伝導シート及びその製造方法を提供することである。」
・「[0008] 本発明によれば、熱伝導性板状フィラーの使用量を抑制しつつ、熱伝導シートの熱伝導率の向上を実現した熱伝導シートを提供できる。」
・「[0018] また、樹脂8は、常温で液状の樹脂を含むことが好ましい。また、常温で液状の樹脂と固体状の樹脂の双方を含んでもよいが、常温で液状の樹脂のみからなることがより好ましい。液状の樹脂を含むことで、熱伝導シート1の製造時における熱伝導性板状フィラーとの混練負荷を低減できるため、熱伝導性板状フィラーを均一に分散させやすくなり、熱伝導性が向上する。なお、常温で液状の樹脂とは、20℃、1気圧(1.01×10-1MPa)の条件下において液状の樹脂のことを意味する。
液状の樹脂としては、例えば上記した樹脂の液状のものを用いることができ、好適な具体例として、液状アクリロニトリルブタジエンゴム、液状エチレンプロピレン共重合体、液状天然ゴム、液状ポリイソプレンゴム、液状ポリブタジエンゴム、液状水素化ポリブタジエンゴム、液状スチレン-ブタジエンブロック共重合体、液状水素化スチレン-ブタジエンブロック共重合体、液状シリコーン樹脂などが挙げられる。
[0019] 熱伝導性板状フィラー6は、前記XY平面の長手方向寸法/厚み>2.0の形状を有する熱伝導性板状フィラーであって、材質としては、例えば、炭化物、窒化物、酸化物、水酸化物、金属、炭素系材料などが挙げられる。」
・「[0022] 熱伝導性板状フィラー6の光散乱法によって測定される平均粒子径(面積が最大であるXY平面の長手方向(以下、単に「長手方向」という)の長さ)は、例えば、0.1~1000μm、好ましくは、0.5~500μm、より好ましくは、1~100μmである。
[0023] 熱伝導性板状フィラー6の厚みは、例えば、0.05~500μm、好ましくは、0.25~250μmである。
[0024] 熱伝導性板状フィラー6は、市販品またはそれを加工した加工品を用いることができ、市販品としては、例えば、窒化ホウ素粒子の市販品などが挙げられ、窒化ホウ素粒子の市販品として、具体的には、例えば、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製の「PT」シリーズ(例えば、「PT-110」など)、昭和電工社製の「ショービーエヌUHP」シリーズ(例えば、「ショービーエヌUHP-1」など)などが挙げられる。」
・「[0028] 熱伝導性樹脂層7における熱伝導性板状フィラー7の含有量は、樹脂8の100質量部に対し、好ましくは50~700質量部、より好ましくは50~500質量部、さらに好ましくは100~400質量部、より好ましくは150~300質量部であり、かつ、熱伝導性樹脂層の全体積に対し、15~70体積%である。
[0029] 熱伝導性板状フィラー7の含有割合が上記範囲に満たない場合、厚み方向の熱伝導率が3W/m・K以上の熱伝導性を有する熱伝導シート1は得られない。
一方、このレベルの熱伝導性を実現するにあたり、上記範囲を超える過剰な熱伝導性板状フィラー7の使用は不要である。熱伝導性板状フィラー7の使用量が多くなるほど、熱伝導シートの柔軟性が失われるが、熱伝導性板状フィラー7の使用量を上記範囲とすることにより、高い熱伝導率を有する熱伝導シートを、熱伝導シートの柔軟性を失うことなく、実現することができる。すなわち、柔軟性と高い熱伝導性を両立させた熱伝導シートを得ることができる。
[0030] このような良好な物性バランスは、熱伝導性板状フィラー6を、その長軸が、前記シート面に対して60°以上の角度をとるように配向させていることに起因すると推測される。また、前記した良好な物性バランスは、熱伝導性樹脂層7の幅を、熱伝導性樹脂層7中に含まれる熱伝導性板状フィラー6の厚みの1~2000倍、好ましくは1~50倍、更に好ましくは1~10倍、更に好ましくは1~3倍、最も好ましくは1~2倍としていることにも起因するものと推測される。」
・「[0038](熱伝導シートの物性)
本発明の熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率は、シートの放熱性を良好とする観点から、好ましくは3W/m・K以上であり、より好ましくは5W/m・K以上であり、さらに好ましくは8W/m・K以上である。また、熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率は、通常、100W/m・K以下であり、好ましくは70W/m・K以下である。熱伝導率は、実施例に記載の方法で測定することができる。
本発明の熱伝導シートのアスカーC硬度は、好ましくは70以下であり、より好ましくは50以下であり、さらに好ましくは40以下である。また、熱伝導シートのアスカーC硬度は、例えば1以上、好ましくは5以上である。このような値であると、熱伝導シートの柔軟性が良好である。アスカーC硬度は、実施例に記載の方法で測定することができる。
本発明の熱伝導シートの30%圧縮強度は、好ましくは1500kPa以下であり、より好ましくは1000kPa以下であり、さらに好ましくは500kPa以下である。また、熱伝導シートの30%圧縮強度は、例えば10kPa以上であり、好ましくは50kPa以上である。このような値であると、熱伝導シートの柔軟性が良好である。30%圧縮強度は、実施例に記載の方法で測定することができる。」
・「[0053](実施例4)
シリコーン樹脂(信越化学工業株式会社製「KF-96H-10万cs」、液状)100質量部、厚さ1μmの窒化ホウ素260質量部を溶融混練後、これを多層成型ブロック製造用押出機で押出し、1層あたりの厚みが1000μm(熱伝導性樹脂層の幅が1000μm)であり、これが10層積層された多層成形ブロックを得た。該多層成形ブロックを積層面に垂直な面をシート面となるよう向きを調整し、熱伝導シートを得た。本熱伝導シートを、後述する評価方法に基づいて評価した結果を表1に示す。」
・「[0057](評価)
(1)フィラー配向角度の測定
熱伝導シートの断面を走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製 S-4700)で観察した。倍率3000倍の観察画像から、任意の20個のフィラーについて、シート面とのなす角を測定し、その平均値を配向角度とした。結果を表1に示す。」
・「[0059]
[図:0001424616000001.jpg]
」
イ 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証に記載された事項を、特に実施例4に関して整理すると、甲第1号証には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1発明>
「シリコーン樹脂(信越化学工業株式会社製「KF-96H-10万cs」、液状)100質量部、厚さ1μmの窒化ホウ素260質量部を溶融混練後、これを多層成型ブロック製造用押出機で押出し、1層あたりの厚みが1000μm(熱伝導性樹脂層の幅が1000μm)であり、これが10層積層された多層成形ブロックを得、該多層成形ブロックを積層面に垂直な面をシート面となるよう向きを調整して得た、熱伝導シート。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明における「シリコーン樹脂(信越化学工業株式会社製「KF-96H-10万cs」、液状)」、「熱伝導シート」は、それぞれ、本件特許発明1における「シリコーン樹脂」、「熱伝導性樹脂シート」に相当する。
甲1発明における「熱伝導シート」は、表1より30%圧縮強度が281kPAであるから、本件特許発明1における「30%圧縮強度が2000kPa以下であ」るとの特定事項を満たす。
甲1発明における「熱伝導シート」は、「シリコーン樹脂(信越化学工業株式会社製「KF-96H-10万cs」、液状)100質量部」に対して「窒化ホウ素260質量部」を含有し、表1よりフィラー配向角度が83.2°であるから、本件特許発明1における「熱伝導性フィラーを含み、 前記熱伝導性フィラーの含有量が、樹脂100質量部に対して150~700質量部であり、前記熱伝導性フィラーの配向角度が45°より大きい」との特定事項を満たす。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「シリコーン樹脂を含有し、前記シリコーン樹脂がシリコーン樹脂であり、30%圧縮強度が2000kPa以下であり、熱伝導性フィラーを含み、 前記熱伝導性フィラーの含有量が、樹脂100質量部に対して150~700質量部であり、前記熱伝導性フィラーの配向角度が45°より大きい、熱伝導性樹脂シート。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1>
本件特許発明1は、「シリコーン樹脂が付加反応型シリコーン樹脂」とあるのに対して、甲1発明は、「シリコーン樹脂(信越化学工業株式会社製「KF-96H-10万cs」、液状)」が「付加反応型シリコーン樹脂」ではない点。
<相違点2>
本件特許発明1は、「以下の式(1)で示される熱抵抗値変化率Aが15%以下であるか、又は以下の式(2)で示される熱抵抗値変化率Bが7.5%以下・・・|(1-10%圧縮時の熱抵抗値/30%圧縮時の熱抵抗値)×100| (1)
|(1-40%圧縮時の熱抵抗値/30%圧縮時の熱抵抗値)×100| (2)」とあるのに対して、甲1発明は、そのようには特定されていない点。
<相違点3>
本件特許発明1は、「熱伝導性フィラーのアスペクト比が5以上」とあるのに対して、甲1発明は、そのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点1について検討する。
甲第1号証及び他の証拠には、甲1発明において相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することの動機付けとなる記載はない。
してみると、甲1発明において、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
ウ まとめ
したがって、その他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明並びに甲第1号証及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2ないし9について
本件特許発明2ないし9は、請求項1を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明並びに甲第1号証及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)申立理由3についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし9は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由3によっては取り消すことはできない。
第5 結語
以上のとおり、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2025-700233