特許異議申立
2026-700050
締結方法
- 審判番号
- 2026-700050
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-056814
- 登録番号
- 7712238
- 請求日
- 2026年01月15日
- 審決日
- 2026年04月08日
- 公報発行日
- 2026年05月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】トヨタ自動車株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人片山特許事務所
- 【権利者】エヌティーツール株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人片山特許事務所
- 【異議申立人】西内 大生
- 審判長/審判官
- 審判長 本庄 亮太郎
- 審判官 青木 良憲
- 審判官 藤江 大望
- 分類
- P1651.121-Y (B23B) / P1651.537-Y (B23B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7712238号発明「締結方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7712238号の請求項1に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7712238号の請求項1に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、令和4年3月30日に出願され、令和7年7月14日に特許権の設定登録がされ、同月23日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許に対し、令和8年1月15日に特許異議申立人西内大生(以下「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
工具が挿入されたコレットを保持したホルダに対して螺合するキャップを締め付けることにより、前記コレットを介して前記工具を前記ホルダに締結する締結方法であって、
前記キャップを締め付けてから緩め、
次に前記キャップを再度締め付けてから前記ホルダに対する前記工具の位置を計測し、
次に前記キャップを緩めて前記工具の位置の計測結果に基づいて前記ホルダに対して前記工具の位置決めしてから、前記キャップを締め付ける、締結方法。」
第3 申立ての理由
1 特許異議申立書における申立ての理由の概要
(1)理由1:特許法第29条第2項(進歩性欠如)
本件特許発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された、又は、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記2の甲第1号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術的事項に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(同法第113条第2号)。
(2)理由2:特許法第36条第6項第1号(サポート要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記第5の1の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(同法第113条第4号)。
(3)理由3:特許法第36条第6項第2号(明確性要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記第6の1の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(同法第113条第4号)。
2 証拠方法
上記1(1)の証拠方法として申立書に添付された書証は次のとおりである
(1)甲第1号証:実願平4-37270号(実開平5-86406号)のCD-ROM(当審注:申立書や証拠説明書では単に「実開平5-86406号公報」と記載されているが、申立書の内容や甲第1号証に付された赤枠からみて、甲第1号証としては上記したものが提出されたものと扱う。)
(2)甲第2号証:米国特許出願公開第2012/0014764号明細書
(以下、甲第1号証、甲第2号証をそれぞれ「甲1」、「甲2」という。)
第4 理由1(進歩性、第3の1(1))についての当審の判断
上記第3の1(1)について以下検討する。
1 本件特許発明の認定
本件特許発明は、上記第2のとおり、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。
2 甲1に記載された技術的事項
(1)甲1の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている(なお、下線は当審にて付した。以下同様。)。
「 【0002】
【従来の技術】
コレットチャックに把持された回転切削工具(以下、工具と称する)の取り付け精度は、通常ツールプリセッタなどにより計測されるが、工具刃先の振れを許容値内に補正するためにはチャックの把持を緩め、工具とコレットの相対位置またはコレットとチャックの相対位置、場合によっては工具・コレットチャックの3者の相対位置などを適宜に変えて締め直し、再び計測することが行われてきた。必要に応じてこのような操作を繰り返すこともある。あるいは、チャックを若干緩め気味にして、工具のチャックにより把持された個所の近傍部分を木槌などの手段で強引に叩いて取り付け精度を出しているのが現状である。
【0003】
【考案が解決しようとする課題】
上記の如き工具の取り付け精度の補正操作は、計測した結果判明した振れの方向や振れの量に対応した補正の方向と量に基づいて為されたものではなく、計測値を単なる目安として、個人的な経験と勘により定性的に補正する方法に過ぎない。かかる操作には、多くの時間を要するばかりでなく、場合によっては工具或いはコレットやチャックに変形や破損を与えるという問題が起きる。また、工作機などにワークを取り付けるためのコレットチャックについて、ワークの半径方向の芯の調整に軸に対し放射状に配置された複数個の調整ねじを用い、またワークの軸芯の傾きをこの軸芯に対して直角な面の傾きを調整ねじによって調整し、正しいワークの取り付けを行うことが広く知られている(実開平1-1805号公報参照)。しかし、この方法でもワーク等をまず一旦把持固定して最初の計測を行い、その計測量に基づいた芯出し調整は固定を緩めたのち行い、調整後再び固定しその後計測を行うこととなる。必要に応じてこの繰り返しが行われる。かかる調整前の計測時の固定と調整後の計測時の固定とは、同じ状態になることは殆どなく、しかも最後の完全固定のための締め付けによる取り付け精度の悪化を免れることができず、個人的な経験と勘に頼らざるをえないのであり、煩雑でしかも時間を多く要するという問題がある。
・・・
【0006】
【実施例】
次に、この考案の実施例を図面につき説明する。図1及び図2におい(当審注:「において」の誤記)工作機械の主軸(図示省略)に装着されたコレットチャック本体1の先端には先細テーパ面2が形成されている。チャック本体1の先細テーパ面2の後端に続く大径部にはおねじ4が形成されており、該おねじ4には内周面が前記先細テーパ部2に合致するテーパ面6を構成した締め付けナット5がねじ込まれている。チャック本体1の先細テーパ面2と締め付けナット5のテーパ面6の間には、多数のニードルローラ7がチャック本体1の軸線X-Xに対して僅かな角度傾斜し、かつ回転自在に介装される。」
(2)甲1の記載事項の整理
ア 【0002】には、コレットチャックに把持された工具の取り付け精度の補正操作に係る事項が記載されているから、コレットを介して工具をコレットチャックに締結する締結方法が記載されていると認められる。
イ 甲1には、コレットチャックを締め、緩めることが記載されているところ、このために、例えば甲1の【0006】に例示される締め付けナットを用いることは一般的な事項であり、【0002】記載の従来の技術においても採用されている事項であると認められる。
ウ 【0002】には、工具刃先の振れを許容値内に補正するためにコレットチャックの把持を緩め、工具とコレット又は工具とコレット及びコレットチャックの相対位置を適宜に変えて締め直し、再び計測すること、及び、必要に応じてこのような操作を繰り返すことが記載されている。
また、イによれば、コレットチャックの把持を緩め又は締めることは、締め付けナットを緩め又は締めることになる。
そうすると、甲1の従来技術では、まず締め付けナットを締めてから、コレットチャックに対する工具の取り付け精度の計測を行い、取り付け精度が不十分である場合には、締め付けナットを緩めて、工具の位置を適宜に変え、締め付けナットを締め直し、再び取り付け精度を計測するという補正操作を繰り返していると認められる。
(3)甲1従来発明
上記(1)及び(2)ア~ウより、甲1には、次の従来技術(以下「甲1従来発明」という。)が記載されていると認められる。
「工具が取り付けられたコレットを保持したコレットチャックに対して締め付けナットを締めることにより、前記コレットを介して前記工具を前記コレットチャックに締結する締結方法であって、
前記締め付けナットを締めてから前記コレットチャックに対する前記工具の取り付け精度を計測し、
取り付け精度が不十分である場合には、前記締め付けナットを緩めて前記コレットチャックに対して前記工具の位置を適宜に変えてから、前記締め付けナットを締め直し再び計測することを繰り返す、締結方法。」
3 甲2に記載された技術的事項(1)甲2の記載事項
甲2には、以下の事項が記載されている。
「[0003] Adding axial grooves ・・・ more effective rejection of the grit.」
<日本語訳>
(甲2の日本語訳については、特許異議申立書11ページ~12ページにおいて申立人が記載した翻訳文(以下「甲2翻訳文」という。)に基づく。)
「ねじ山の雄ねじまたは雌ねじのいずれか、または両方に軸方向の溝を追加することで、ねじ山の噛み合いから砂状の汚染物質を排出する「逃げ道」が確保され、締め付け動作によって汚染物質を排出することが可能になる。従来のねじ山では、粒子の大きさがねじ山のクリアランスより小さい場合、または粒子の大きさがねじ山のクリアランスよりはるかに大きい場合、締め付け動作によって汚染物質が連続的に排出されることがある。しかし、粒子の大きさがねじ山のクリアランスと同程度の場合、粒子が噛み合わせ部に詰まり、それ以上の締め付けができなくなることがある。しかし、本発明を利用すると、部品を部分的に緩めてから締め付ける動作を繰り返すことで、汚染物質が軸方向の溝に移動し、または汚染物質が押しつぶされてねじを完全に締め付けることが可能になる。溝は雄ねじまたは雌ねじのどちらか一方に設ければ効果的であるが、両方に設けると更に効果は向上する。溝の半径方向の深さは、雄ねじの内径、または雌ねじの外径と同程度である必要があり、さらに深くするとさらに性能が向上する。また、これらの溝に半径方向の排出口を追加すると、より短い経路で異物を排出でき、より効果的な異物除去が可能となる。」
(2)甲2記載の技術的事項
上記(1)より、甲2には、次の事項(以下「甲2記載の技術的事項」という。)が記載されていると認められる。
「汚染物質を移動又は押しつぶしてねじを完全に締め付けるために、軸方向の溝を追加されたねじを締め付けてから緩めること」
4 本件特許発明と甲1従来発明との対比
(1)相当関係
本件特許発明(上記1)と甲1従来発明(上記2(3))とを対比すると、両者の発明特定事項には、次の相当関係がある。
ア 甲1従来発明における「取り付けられた」は本件特許発明における「挿入された」に相当し、以下同様に、「コレットチャック」は「ホルダ」に、「締め付けナット」は「螺合するキャップ」に、「締める」は「締め付ける」に、それぞれ相当する。
イ 甲1従来発明における「前記締め付けナットを締めてから前記コレットチャックに対する前記工具の取り付け精度を計測」することと本件特許発明における「次に前記キャップを再度締め付けてから前記ホルダに対する前記工具の位置を計測」することは、「前記キャップを締め付けてから前記ホルダに対する前記工具の取り付け状態を計測」することに限り相当する。
ウ 甲1従来発明では、イで言及した「前記工具の取り付け精度を計測し」た計測結果に基づいて「取り付け精度が不十分である場合」を判断し、不十分である場合に工具の位置を適宜に変えているものと解される。
そうすると、甲1従来発明における「取り付け精度が不十分である場合には、前記締め付けナットを緩めて前記コレットチャックに対して前記工具の位置を適宜に変えてから、前記締め付けナットを締め直し再び計測することを繰り返す」ことと本件特許発明の「次に前記キャップを緩めて前記工具の位置の計測結果に基づいて前記ホルダに対して前記工具の位置決めしてから、前記キャップを締め付ける」ことは、「次に前記キャップを緩めて前記工具の取り付け状態の計測結果に基づいて前記ホルダに対して前記工具の位置決めしてから、前記キャップを締め付ける」ことに限り相当する。
(2)一致点
上記(1)より、本件特許発明と甲1従来発明は、次の一致点で一致する。
[一致点]
「工具が挿入されたコレットを保持したホルダに対して螺合するキャップを締め付けることにより、前記コレットを介して前記工具を前記ホルダに締結する締結方法であって、
前記キャップを締め付けてから前記ホルダに対する前記工具の取り付け状態を計測し、
次に前記キャップを緩めて前記工具の取り付け状態の計測結果に基づいて前記ホルダに対して前記工具の位置決めしてから、前記キャップを締め付ける、締結方法。」
(3)相違点
他方、本件特許発明と甲1従来発明とは、次の相違点1~2で相違する。
ア 相違点1
本件特許発明は、「キャップを締め付けてから緩め」る工程を備え、「次に」キャップを「再度」締め付けてからホルダに対する工具の「位置」を計測する工程を備えるのに対して、甲1従来発明は、「前記締め付けナットを締めてから前記コレットチャックに対する前記工具の取り付け精度を計測し、取り付け精度が不十分である場合には、前記締め付けナットを緩めて前記コレットチャックに対して前記工具の位置を適宜に変えてから、前記締め付けナットを締め直し再び計測することを繰り返す」ものの、まず計測せずに「キャップを締め付けてから緩め」、「次に」キャップを「再度」締め付けてから計測するものではない点。
イ 相違点2
計測する工具の取り付け状態が、本件特許発明では前記工具の「位置」であるのに対し、甲1従来発明では前記工具の「取り付け精度」である点。
5 相違点に対する判断
事案に鑑み、相違点1について検討する。
(1)甲1従来発明からの容易想到性について
ア 本件特許発明は、「キャップを締め付けてから緩め」ること(以下「事前締付に係る工程」という。)と、「次に前記キャップを再度締め付けてから前記ホルダに対する前記工具の位置を計測し、次に前記キャップを緩め」ること(以下「計測のための仮締に係る工程」という。)を区別しており、その意義も、事前締付に係る工程は、本件特許に係る発明の詳細な説明【0027】~【0029】に記載のとおり、スラッジSを雌ネジ部44の谷部の底に押し込むためのものであるのに対して、計測のための仮締に係る工程は、工具の位置の計測のためのものであり、両者を区別している。
この点に関し、甲1従来発明は、締め付けナットを締めてからコレットチャックに対する工具の取り付け精度を計測し、前記締め付けナットを緩め、前記工具の位置を適宜に変えてから、再度締め付けナットを締め直し再び計測することを繰り返すというものである。すなわち、甲1従来発明は、少なくとも事前締付に係る工程を備えておらず、甲1にもかかる工程やスラッジに関する記載や示唆はない。
そのため、甲1従来発明において、事前締付に係る工程を想到すること、すなわち、工具の位置を計測する前に、まず「キャップ(締め付けナット)を締め付けてから緩め」るという相違点1に係る本件特許発明の構成を想到することは当業者にとって容易であるということができない。
イ 申立人は、特許異議申立書において、相違点1と同様の相違点に関して、甲1従来発明においてチャックの把持を緩めることに先行して、チャックを締め付けることは必ず行われるものであり、甲1従来発明が内在する通常工程である旨(特許異議申立書13ページ下から10行~14ページ4行)、及び、相違点に係る本件特許発明の構成と甲1従来発明の構成とが同一の技術的思想に基づくものであり、甲1従来発明に基づいて当業者が容易に想到できる旨(特許異議申立書14ページ5行~下から7行)を主張しているが、上記アのとおり、相違点1に係る本件特許発明が有する構成は、甲1従来発明と異なる技術的思想に基づくものであるから、申立人の上記主張は採用できない。
(2)甲1従来発明に甲2記載の技術的事項を適用することの容易想到性について
ア 甲1従来発明に甲2記載の技術的事項を適用することの動機について、甲1従来発明は、締め付けナットを有し、工具を締め付けるコレットチャック装置において、工具の取り付け精度の向上を課題としたものである。これに対し、甲2記載の技術的事項は、ねじに関し、汚染物質の存在下においてねじを完全に締め付けることを課題としたものである。
そうすると、両者はねじを締め付ける点では共通する。
しかしながら、技術分野及び課題が共通するとはいえず、甲1従来発明に甲2記載の技術的事項を採用する動機があるとはいえない。
イ 上記アのとおり、甲1従来発明に甲2記載の技術的事項を適用する動機があるとはいえないが、甲1従来発明に甲2記載の技術的事項を適用した場合について検討する。
甲1従来発明は、上記(1)のとおり、上記事前締付に係る工程を備えていない。さらに、甲2記載の技術的事項は、工具の取り付けに関するものではなく、上記事前締付に係る工程を示すものでもない。そのため、両者を組み合わせたとしても、上記事前締付に係る工程を備える方向に働く事情が存在するということができない。したがって、両者を組み合わせたとしても、相違点1に係る本件特許発明の構成を想到することは当業者にとって容易であるということができない。
ウ 申立人は、特許異議申立書(14ページ下から6行~15ページ最終行)において、相違点1と同様の相違点に関して、甲1従来発明に甲2記載の技術的事項を適用し、相違点に係る本件特許発明の構成を想到することが容易であることを主張しているが、上記アのとおり、両者を組み合わせる動機があるとは認められないこと、上記イのとおり、両者を組み合わせたとしても、相違点1に係る本件特許発明が有する構成に想到することが当業者にとって容易であるということができないから、申立人の上記主張は採用できない。
6 本件特許発明の進歩性について
以上のとおり、相違点1に係る本件特許発明の構成については、甲1従来発明に基づいて、又は、甲1従来発明及び甲2記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものということができないから、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明は、甲1従来発明に基づいて、又は、甲1従来発明及び甲2記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
第5 理由2(サポート要件、第3の1(2))についての当審の判断
上記第3の1(2)について以下検討する。
1 理由の概要
本件特許発明における「前記キャップを締め付けてから緩め」との構成について、本件特許発明の目的が「ホルダに対する工具の位置精度が向上した締結方法」を提供することであって、段落【0028】にはホルダに対する工具の位置精度を向上するため、ネジに付着したスラッジがネジ部の谷底に押し込まれるという点、段落【0029】には事前締付量の条件が記載されているのに対して、本件特許発明には事前締付量の条件等が記載されておらず、課題を解決できない態様を含むから、課題解決手段が反映されておらず、サポート要件を充足していない。
2 当審の判断
本件特許発明は、「前記キャップを締め付けてから緩め」との構成、すなわち、事前締付を行うことで、雌ネジ部に付着したスラッジが雌ネジ部の谷部の底に押し込まれ、ホルダに対する工具の位置精度を向上できるものである。
そうすると、事前締付量の大小に関わらず事前締付された分だけスラッジが雌ネジ部の谷部の底に押し込まれるから、事前締付量を特定しなくとも事前締付を行うことでホルダに対する工具の位置精度の向上は認められるものである。また、当業者であれば、スラッジを雌ネジ部の谷部の底に押し込む程度の事前締付量で事前締付を行うのが自然である。したがって、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段が反映されていないとまでいうことはできない。
3 本件特許発明のサポート要件について
そうすると、本件特許は発明の詳細な説明に記載した範囲のものであり、特許法36条第6項第1号の要件を満たしていない、ということはできない。
第6 理由3(明確性要件、第3の1(3))についての当審の判断
上記第3の1(3)について以下検討する。
1 理由の概要
(1)キャップとコレットの回転関係が明確ではない。
(2)ホルダに対する工具の「位置」の定義が明確ではない。
2 当審の判断
(1)上記1(1)の理由について
請求項に係る発明が明確に把握されるためには、請求項に係る発明の範囲が明確であること、すなわち、ある具体的な物や方法が請求項に係る発明の範囲に入るか否かを当業者が理解できるように記載されていることが必要であるところ、キャップとホルダとの回転関係は請求項1に記載されており、キャップとコレットの回転関係の記載の有無に関わらず、本件特許発明の範囲は、特許請求の範囲の請求項1に記載されたものであって、明確である。
また、申立人は、キャップとコレットの回転関係で発明の効果が変わることを主張しているが、その回転関係の有無で本件特許発明の範囲が不明確になるということはできない。
(2)上記1(2)の理由について
本件特許発明では、工具の位置を計測し、計測結果に基づいて位置決め(修正)しているから、工具の位置は、計測できるものであって、かつ、修正できるパラメータであればよいことが把握できる。そのため、本件特許発明の範囲は明確であるといえる。
3 本件特許発明の明確性要件について
そうすると、本件特許は発明の詳細な説明に記載した範囲のものであり、特許法36条第6項第2号の要件を満たしていない、ということはできない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、特許異議の申立てがされた請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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