特許異議申立
2025-700769
ケミカルルーピングシステム及びケミカルルーピング法
- 審判番号
- 2025-700769
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-039314
- 登録番号
- 7643834
- 請求日
- 2025年07月25日
- 審決日
- 2026年03月31日
- 公報発行日
- 2026年07月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】住友重機械工業株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人雄渾
- 【異議申立人】西内 大生
- 審判長/審判官
- 審判長 平瀬 知明
- 審判官 大山 健
- 審判官 柳幸 憲子
- 分類
- P1651.121-YAA(F24V) / P1651.537-YAA(F24V)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7643834号発明「ケミカルルーピングシステム及びケミカルルーピング法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7643834号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~2〕、3について訂正することを認める。
特許第7643834号の請求項1~3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7643834号の請求項1~3に係る特許は、令和2年3月6日の出願であって、令和7年3月3日にその特許権の設定登録がされ、同月11日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、概ね、次のとおりである。
令和7年 7月25日 :特許異議申立人 西内 大生(以下「申立人」という。)による請求項1~3に係る特許に対する特許異議の申立て
同年 9月 8日 :申立人による手続補正書の提出
同年11月17日付け:取消理由通知
令和8年 1月16日 :住友重機械工業株式会社(以下「特許権者」という。)による訂正請求書の提出
同年 1月21日 :特許権者による意見書の提出
同年 2月26日 :申立人による意見書(以下「申立人意見書」という。)の提出
第2 本件訂正の適否
1.訂正の内容
令和8年1月16日に提出の訂正請求書による訂正の請求(以下「本件訂正」という。)は、「特許第7643834号(以下「本件特許」という。)の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし3について訂正することを求める」ものである。
[請求項1~2について]
(1)訂正事項1
ア 特許請求の範囲の請求項1に
「循環流路内で酸素キャリア金属粒子が酸化反応と還元反応を繰り返すケミカルルーピングシステム」と記載されているのを、
「循環流路内で酸素キャリア金属粒子が酸化反応と還元反応を繰り返す二酸化炭素の回収と水素製造を行うケミカルルーピングシステム」(下線部は訂正した箇所を示す。訂正事項2についても同様。)に訂正する(請求項1を引用する請求項2についても同様に訂正する。)。
イ 特許請求の範囲の請求項1に
「前記燃料反応部は、完全燃焼反応が進行する完全燃焼部と、不完全燃焼反応が進行する不完全燃焼部を有し、
前記不完全燃焼部に前記燃料を供給し、
前記不完全燃焼部で生じた反応後の酸素キャリア金属粒子を前記水素生成部に供給し、前記不完全燃焼部で生じたガスを前記完全燃焼部に供給し、」と記載されているのを、
「前記燃料反応部は、完全燃焼反応が進行する完全燃焼部と、不完全燃焼反応が進行する不完全燃焼部を有し、
前記完全燃焼部は、前記酸化処理部で完全酸化された酸素キャリア金属粒子が供給され、前記完全燃焼部で前記不完全燃焼ガスと反応して還元された酸素キャリア金属粒子が生成され、
前記不完全燃焼部は、前記完全燃焼部の反応後の酸素キャリア金属粒子が供給され、前記不完全燃焼部に前記燃料を供給して不完全燃焼ガスを生成するとともに、還元度の高いキャリア金属粒子が生成され、
前記不完全燃焼部で生じた反応後の酸素キャリア金属粒子を前記水素生成部に供給し、前記不完全燃焼部で生じた前記不完全燃焼ガスを前記完全燃焼部に供給して完全燃焼させることで二酸化炭素を生成し、」に訂正する(請求項1を引用する請求項2についても同様に訂正する。)。
(2)一群の請求項
訂正前の請求項1について、請求項2は請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1~2に対応する訂正後の請求項〔1~2〕は、一群の請求項である。
[請求項3について]
(3)訂正事項2
ア 特許請求の範囲の請求項3に
「循環流路内で酸素キャリア金属粒子が酸化反応と還元反応を繰り返すケミカルルーピング法」と記載されているのを、
「循環流路内で酸素キャリア金属粒子が酸化反応と還元反応を繰り返す二酸化炭素の回収と水素製造を行うケミカルルーピング法」に訂正する。
イ 特許請求の範囲の請求項3に
「前記燃料反応工程は、完全燃焼反応が進行する完全燃焼工程と、不完全燃焼反応が進行する不完全燃焼工程を有し、
前記不完全燃焼工程に前記燃料を供給し、
前記不完全燃焼工程で生じた反応後の酸素キャリア金属粒子を前記水素生成工程に供給し、前記不完全燃焼工程で生じたガスを前記完全燃焼工程に供給し、」と記載されているのを、
「前記燃料反応工程は、完全燃焼反応が進行する完全燃焼工程と、不完全燃焼反応が進行する不完全燃焼工程を有し、
前記完全燃焼工程は、前記酸化処理工程で完全酸化された酸素キャリア金属粒子が供給され、前記完全燃焼工程で前記不完全燃焼ガスと反応して還元された酸素キャリア金属粒子が生成され、
前記不完全燃焼工程は、前記完全燃焼工程の反応後の酸素キャリア金属粒子が供給され、前記不完全燃焼工程に前記燃料を供給して不完全燃焼ガスを生成するとともに、還元度の高い酸素キャリア金属粒子が生成され、
前記不完全燃焼工程で生じた反応後の酸素キャリア金属粒子を前記水素生成工程に供給し、前記不完全燃焼工程で生じた前記不完全燃焼ガスを前記完全燃焼工程に供給して完全燃焼させることで二酸化炭素を生成し、」に訂正する。
2.訂正の適否について
(1)独立特許要件
訂正前の全ての請求項である請求項1~3に係る特許に対して特許異議の申立てがされているから、訂正前の請求項1~3に対応する訂正後の請求項〔1~2〕、3に係る発明については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件(いわゆる「独立特許要件」)は課されない。
[一群の請求項〔1~2〕について]
(2)訂正事項1について
ア 訂正の目的
まず、1.(1)アの訂正については、訂正前の請求項1の「ケミカルルーピングシステム」を、「二酸化炭素の回収と水素製造を行うケミカルルーピングシステム」と限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、1.(1)イの訂正については、訂正前の請求項1の「完全燃焼部」及び「不完全燃焼部」について構成を付加して限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
以上、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無
訂正事項1に関連して、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「特許明細書等」という。)には、以下の記載がある(なお、下線部は当審で付した。以下同様。)。
(ア)「【0001】
本発明は、ケミカルルーピングシステム及びケミカルルーピング法に関するものである。特に、本発明は、二酸化炭素回収と水素製造を両立するケミカルルーピングシステム及びケミカルルーピング法に関するものである。」
(イ)「【0042】
本実施態様のケミカルルーピングシステム1Bの燃焼反応部2において、酸素キャリア金属粒子Mの還元状態を複数ある状態とし、かつ還元度の高い酸素キャリア金属粒子M1のみを取り出す手段の一例について説明する。
まず、不完全燃焼部23(不完全燃焼塔23a)において、ラインL20を介して燃料Fを供給し、酸素キャリア金属粒子MOの還元度を高め、酸素キャリア金属粒子M1を得るとともに、不完全燃焼ガス(二酸化炭素、一酸化炭素、水素等)を生成する。
次に、水素生成部3(水素生成塔31)において、不完全燃焼部23で還元された酸素キャリア金属粒子M1と、ラインL21を介して供給される水蒸気とを反応させ、酸素キャリア金属粒子M1の酸化反応を進行させるとともに、水素を効率的に生成する。なお、生成した水素はラインL31を介して回収される。
そして、酸化処理部4(酸化塔41)において、水蒸気により酸化された酸素キャリア金属粒子MOを、ラインL22を介して供給される空気により、完全酸化状態の酸素キャリア金属粒子MO2にする。なお、このとき生成した窒素はラインL32を介して回収される。
さらに、完全燃焼部22(完全燃焼塔22a)において、完全酸化状態の酸素キャリア金属粒子MO2と、ラインL23を介して供給される不完全燃焼ガスとを反応させ、完全燃焼させることで、高純度の二酸化炭素を回収することが可能となる。また、完全酸化状態の酸素キャリア金属粒子MO2は、完全燃焼反応により部分酸化状態の酸素キャリア金属粒子MOに還元される。この部分酸化状態の酸素キャリア金属粒子MOを不完全燃焼部23にラインL4を介して供給することで、不完全燃焼部23では酸素キャリア金属粒子MOを還元度の高い酸素キャリア金属粒子M1に還元する反応が進行する。
以上の工程を繰り返すことにより、完全燃焼部22及び不完全燃焼部23からなる燃料反応部2では、酸素キャリア金属粒子Mの還元状態を複数ある状態とし、かつ不完全燃焼部23から還元度の高い酸素キャリア金属粒子M1のみをラインL2を介して取り出すことが可能となる。これにより、水素生成部3では高収率で水素製造を行うことが可能となる。また、完全燃焼部22では、高純度の二酸化炭素回収が可能となる。」
(ウ)「図5
[図:0001437391000001.jpg]
」
(エ)以上(ア)~(ウ)から、訂正事項1に係る1.(1)アの訂正及び1.(1)イの訂正は、いずれも特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
訂正事項1に係る訂正は、上記ア及びイで述べたとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、特許明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
[請求項3について]
(3)訂正事項2について
訂正事項2に係る訂正は、訂正前の請求項3について、上記請求項1についての上記訂正事項1と同様の訂正をするものであるから、同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、訂正事項1と同様の理由により、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、さらに発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでもなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
3.小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~2〕、3について訂正することを認める。
なお、訂正請求書において、訂正後の請求項3について、訂正が認められる場合には、一群の請求項〔1~2〕とは別の訂正単位とする求めがされているが、別の訂正単位とする求めの有無にかかわらず、訂正後の請求項3は、一群の請求項〔1~2〕とは別の訂正単位である。
第3 本件発明
第2で説示したとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1~3に記載された発明は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される下記のとおりのものと認める(以下「本件発明1」などという。)。
「【請求項1】
循環流路内で酸素キャリア金属粒子が酸化反応と還元反応を繰り返す二酸化炭素の回収と水素製造を行うケミカルルーピングシステムであって、
前記循環流路内には、還元反応部と、酸化反応部とが設けられており、
前記還元反応部は、酸素キャリア金属粒子と燃料とを反応させる燃料反応部を備え、
前記酸化反応部は、前記燃料反応部で生じた反応後の酸素キャリア金属粒子と水蒸気とを反応させて、酸素キャリア金属粒子を部分酸化するとともに、水素を生成する水素生成部と、部分酸化された前記酸素キャリア金属粒子を完全酸化する酸化処理部を備え、
前記燃料反応部は、完全燃焼反応が進行する完全燃焼部と、不完全燃焼反応が進行する不完全燃焼部を有し、
前記完全燃焼部は、前記酸化処理部で完全酸化された酸素キャリア金属粒子が供給され、前記完全燃焼部で前記不完全燃焼ガスと反応して還元された酸素キャリア金属粒子が生成され、
前記不完全燃焼部は、前記完全燃焼部の反応後の酸素キャリア金属粒子が供給され、前記不完全燃焼部に前記燃料を供給して不完全燃焼ガスを生成するとともに、還元度の高いキャリア金属粒子が生成され、
前記不完全燃焼部で生じた反応後の酸素キャリア金属粒子を前記水素生成部に供給し、前記不完全燃焼部で生じた前記不完全燃焼ガスを前記完全燃焼部に供給して完全燃焼させることで二酸化炭素を生成し、
前記還元反応部では、前記酸素キャリア金属粒子の還元状態が複数段階存在し、還元度の高い酸素キャリア金属粒子のみを前記水素生成部に供給することを特徴とする、ケミカルルーピングシステム。
【請求項2】
前記酸素キャリア金属粒子は、鉄、銅、マンガン、セリウム、モリブデン、タングステン、及びこれらの金属原子を一部でも含むことを特徴とする、請求項1に記載のケミカルルーピングシステム。
【請求項3】
循環流路内で酸素キャリア金属粒子が酸化反応と還元反応を繰り返す二酸化炭素の回収と水素製造を行うケミカルルーピング法であって、
前記循環流路内において、還元反応プロセスと、酸化反応プロセスとが別々に進行し、
前記還元反応プロセスは、酸素キャリア金属粒子と燃料とを反応させる燃料反応工程を含み、
前記酸化反応プロセスは、前記燃料反応工程で生じた反応後の酸素キャリア金属粒子と水蒸気とを反応させて、酸素キャリア金属粒子を部分酸化するとともに、水素を生成する水素生成工程と、部分酸化された前記酸素キャリア金属粒子を完全酸化する酸化処理工程を含んでおり、
前記燃料反応工程は、完全燃焼反応が進行する完全燃焼工程と、不完全燃焼反応が進行する不完全燃焼工程を有し、
前記完全燃焼工程は、前記酸化処理工程で完全酸化された酸素キャリア金属粒子が供給され、前記完全燃焼工程で前記不完全燃焼ガスと反応して還元された酸素キャリア金属粒子が生成され、
前記不完全燃焼工程は、前記完全燃焼工程の反応後の酸素キャリア金属粒子が供給され、前記不完全燃焼工程に前記燃料を供給して不完全燃焼ガスを生成するとともに、還元度の高い酸素キャリア金属粒子が生成され、
前記不完全燃焼工程で生じた反応後の酸素キャリア金属粒子を前記水素生成工程に供給し、前記不完全燃焼工程で生じた前記不完全燃焼ガスを前記完全燃焼工程に供給して完全燃焼させることで二酸化炭素を生成し、
前記還元反応プロセスでは、前記酸素キャリア金属粒子の還元状態が複数段階存在し、還元度の高い酸素キャリア金属粒子のみを前記水素生成工程に供給することを特徴とする、ケミカルルーピング法。」
第4 取消理由通知の概要
当審が取消理由通知に記載した取消理由の概要は、次のとおりである。
理由1(進歩性)
本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
記
1.甲第1号証を引用発明とした場合
本件発明1~3について
・引用文献等 甲第1号証及び甲第2号証
2.甲第3号証を引用発明とした場合
本件発明1~3について
・引用文献等 甲第3号証
3.証拠方法
申立人は、特許異議申立書に添付して下記証拠を提出した。
(1)甲第1号証:特開2013-194213号公報
(2)甲第2号証:Zhongliang Yu 他、「Iron-based oxygen carriers in chemical looping conversions: A review」、Carbon Resources Conversion、Volume 2、2019、p.23-34
(3)甲第3号証:米国特許出願公開第2005/0175533号明細書
(4)甲第4号証:本件特許の出願に係る令和6年12月23日付け意見書
また、申立人は、申立人意見書に添付して下記証拠を提出した。
(5)甲第5号証:社団法人化学工学会、「改訂六版 化学工学便覧」、丸善株式会社、第7刷、平成22年1月20日、p.190,621
(以下、それぞれ「甲1」などという。)
第5 甲号証に記載された事項
1.甲1について
(1)甲1には、次の記載がある。
「【0008】
空気反応器1では、金属粒子(Me)5が空気6中の酸素と反応して金属酸化物(MeO)となる。
MexOy-1+0.5O2→MexOy・・・(1)
酸化した金属粒子(MeO)4は、サイクロン(図示せず)で排ガス(N2,O2など)8と分離され、燃料反応器2へ送られる。燃料反応器2では高温の金属粒子(MeO)4と固体燃料(例えば石炭)7が接触して、金属粒子(MeO)4の酸素と固体燃料7が反応する。このとき、固体燃料7を酸化した金属粒子(MeO)4は還元されて金属粒子(Me)5となり、再び空気反応器1へ戻る循環ループを形成する。」
「【0021】
本発明の目的は、固体成分(チャー)と気体成分(揮発分)の酸化反応を2塔に分けて行うことで、揮発分反応器の容積を巨大化する必要がなく、チャーの未反応率が低減でき、システムの高効率化が図れるケミカルルーピング燃焼システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
前記目的を達成するため、本発明の第1の手段は、
例えば後述するような金属粒子(MeO)などの酸化物の酸素キャリア粒子を供給しながら形成した反応層に固体燃料とガス化剤を供給して前記固体燃料を熱分解させて、生成した固体成分をそのまま残して前記反応層で酸化反応を行う燃料反応器と、
前記燃料反応器で生成した気体成分を取り出して、酸化物の酸素キャリア粒子を供給しながら形成した反応層に導入して気体成分の酸化反応を行う揮発分反応器と、
前記燃料反応器によって還元された例えば後述するような金属粒子(Me)などの前記酸素キャリア粒子を燃料反応器から取り出して、空気で酸化して酸化物の酸素キャリア粒子とする空気反応器を備え、
前記酸素キャリア粒子が前記揮発分反応器と燃料反応器と空気反応器を循環流動するように構成されていることを特徴とするものである。」
「【実施例1】
【0032】
図1は本発明の実施例1に係るにケミカルルーピング燃焼システム(CLC)の具体例を示す概略系統図、図2はそのCLCの原理を説明するための図である。
まず、図2を用いて本実施例に係るCLCの原理について説明する。
本発明の基本的な特徴点は、本来の燃焼反応器を別個に独立した燃料反応器2と揮発分反応器3の2塔に分けたことである。従ってCLCは図2に示すように、空気反応器1と燃料反応器2と揮発分反応器3から主に構成されており、これらの間を金属粒子(MeO)4と金属粒子(Me)5が循環流動するシステムになっている。
【0033】
燃料反応器2の内部には、高温の金属粒子(MeO)4と金属粒子(Me)5が混在しており、そこに固体燃料(石炭)7が供給されて、固体燃料(石炭)7は固体成分のチャーと気体成分11の揮発分13に分離する。チャーはそのまま燃料反応器2の内部で反応し、チャーの反応阻害要因である揮発分13は順次揮発分反応器3へ送られて、燃料反応器2内から排除される。
【0034】
なお、予備実験として、揮発分を分離したチャー単独の場合のチャーのガス化率と、揮発分を分離しない場合のチャーのガス化率を調べたところ、揮発分を分離した方がチャーのガス化率は増加していることを確認している。これは、揮発分とチャー反応生成物とのガス分圧差の影響や、揮発分がチャーの反応表面に吸着するなどが考えられる。このことからも、揮発分はチャーの反応阻害要因であることが分かり、チャーの反応を効率よく進めるには、揮発分とチャーの分離が必要である。
【0035】
一方、空気反応器1では、金属粒子(Me)5が空気6中の酸素と反応して金属酸化物(MeO)4となり、生成した金属粒子(MeO)4は、サイクロン12(図1参照)で排ガス(N2,O2)8と分離されて、揮発分反応器3へ送られる。揮発分13は高温の金属粒子(MeO)4と接触して反応し、CO29やH2O10を生成して、それらは揮発分反応器3から排出される。
【0036】
燃料反応器2内での固体燃料7の酸化により、金属粒子(MeO)4は還元されて金属粒子(Me)5となり、再び空気反応器1へ戻る循環ループを形成する。
【0037】
次に図1を用いてCLCの概略について具体的に説明する。
同図に示すようにCLCは、空気反応器1、燃料反応器2、揮発分反応器3、サイクロン12、排ガス浄化装置14、熱交換器15、空気予熱器16、熱交換器17、CO2浄化装置18、CO2圧縮液化装置30ならびにCO2貯留装置31などを備え、図に示すような接続関係になっている。
【0038】
前記空気反応器1-サイクロン12-揮発分反応器3-燃料反応器2-空気反応器1の間は、金属粒子4,5が循環できるように太い実線で示されている配管でエンドレス状に連結されている。
【0039】
始めに、固体燃料(例えば石炭)7とガス化剤(例えばCO2、H2O)19が燃料反応器2に供給される。この燃料反応器2には、高温の金属粒子(MeO)4と金属粒子(Me)5が混在した移動層(図示せず)が形成されている。ここで、固体燃料(例えば石炭)7は熱分解し、固体成分のチャーと気体成分の揮発分13に分離し、チャーはそのまま燃料反応器2の内部に残って反応し、生成したガス状の揮発分13は揮発分反応器3へ移動する。また、燃料反応器2からは、還元された金属粒子(Me)5が適量排出される。
【0040】
排出された金属粒子(Me)5は、粒子搬送量調整手段であるLバルブ20を通過して、空気反応器1へ移送される。空気反応器1には、空気予熱器16を通過した高温の空気6が導入されており、空気反応器1の内部では空気6と金属粒子(Me)5が反応して、酸化した金属粒子(MeO)4を生成する。この金属粒子(MeO)4は排気ガス(N2、残留O2、NOx、飛灰など)8と共にサイクロン12に移動され、比重差により固体の金属粒子(MeO)4と気体の排気ガス8に分離される。
【0041】
金属粒子(MeO)4は、重力でサイクロン12の下部に落下し、粒子搬送量調整手段であるLバルブ20を通過して、揮発分反応器3へ移動する。この揮発分反応器3の内部では、燃料反応器2から送られてきた揮発分13が、金属粒子(MeO)4を浮遊流動させながら金属粒子(MeO)4と反応してCO2ガスとガスH2O(水蒸気)が生成する。また、金属粒子(MeO)4は揮発分13との反応により還元されて金属粒子(Me)5となり、その金属粒子(Me)5と未反応の金属粒子(MeO)4は、粒子搬送量調整手段であるLバルブ20を通過して、燃料反応器2へ移動する。
【0042】
このようにCLCでは、金属粒子4,5が燃料反応器2→空気反応器1→揮発分反応器3→燃料反応器2→・・・を循環流動しながら固体燃料7と反応している。また、金属粒子4,5を搬送する配管(図1において太い実線で示す部分)に使用する搬送用流体として、系内で生成したCO2ガスおよび/あるいはH2O(水蒸気)、または排ガス8が利用される。」
「【0045】
金属粒子(MeO)4としては、例えばニッケル(Ni),鉄(Fe),銅(Cu),カルシウム(Ca)などの酸化物が使用される。特に酸化鉄は無公害で安価なためCLCに好適である。金属粒子(MeO)4としては酸化鉄を使用した場合の還元、酸化反応式を下記に示す。
【0046】
還元反応: C(石炭)+6Fe2O3⇒4Fe3O4+CO2-吸熱 ・・・(3)
酸化反応: 4Fe3O4+O2(空気)⇒6Fe2O3+発熱 ・・・(4)
金属粒子(MeO)4として酸化鉄を使用した場合、金属粒子(MeO)4はFe2O3、金属粒子(Me)5はFe3O4に相当する。そして空気反応器1では前記式(4)に示すFe3O4と空気の酸化反応が生じ、燃料反応器2と揮発分反応器3では前記式(3)に示すFe2O3の還元反応が生じる。
【0047】
揮発分13の主成分はCH4とCOとH2であり、揮発分反応器3では揮発分13と金属粒子(MeO)4であるFe2O3の間で下記の反応が生じる。
【0048】
CH4+6Fe2O3⇒CO+H2O+4Fe3O4 ・・・(5)
CO+3Fe2O3⇒CO2+2Fe3O4 ・・・(6)
H2+3Fe2O3⇒H2O+2Fe3O4 ・・・(7)
次に本発明に至った経過について説明する。図10で説明したように、石炭が熱分解すると気体成分の揮発分と固体成分のチャーが生成する。揮発分は金属粒子(MeO)との固-気反応であるため反応時間は数秒オーダと速いが、一方のチャーは反応完了時間が遅い。従って、チャーの反応が律速反応となり、チャーの反応速度に適した反応器の設計が必要である。」
「【図1】
[図:0001437391000002.jpg]
【図2】
[図:0001437391000003.jpg]
」
(2)甲1の記載等から理解できる事項
ア 段落【0008】、【0032】~【0036】、【0038】~【0042】及び図1、2等から、甲1のケミカルルーピング燃焼システムは、循環ループ内で金属粒子(MeO)4及び金属粒子(Me)5が酸化反応と還元反応を繰り返して、二酸化炭素の回収を行うものであることが理解できる。
イ 段落【0036】、【0039】~【0041】等から、甲1の揮発分反応器3及び燃料反応器2は還元反応部であり、空気反応器1は酸化反応部であることが理解できる。
ウ 段落【0033】、【0039】から、甲1の燃料反応器2では、前記金属粒子(MeO)4及び前記金属粒子(Me)5が混在し、固体燃料7が供給されて、金属粒子(MeO)4を還元して金属粒子(Me)5とすることが理解できる。
エ 段落【0041】、【0042】、【0047】、【0048】、図2等から、揮発分反応器3には、空気反応器1で完全酸化された金属粒子(MeO)4が供給され、揮発分反応器3でCOと反応して還元された金属粒子(Me)5が生成されることが理解できる。
オ 段落【0039】~【0042】、【0047】、【0048】、図2等から、燃料反応器2には、揮発分反応器3で還元された金属粒子(Me)5及び未反応の金属粒子(Me0)4が供給され、燃料反応器2に固体燃料7を供給して揮発分13(主成分がCH4、CO、H2)を生成するとともに、金属粒子(Me)5が生成されること、及び燃料反応器2で生じた金属粒子(Me)5を空気反応器1に供給すること、並びに燃料反応器2で生じた揮発分13を揮発分反応器3に供給して完全燃焼させることで二酸化炭素を生成することが理解できる。
(3)甲1発明
上記(1)及び(2)から、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
[甲1発明]
「 循環ループ内で金属粒子(MeO)4及び金属粒子(Me)5が酸化反応と還元反応を繰り返す二酸化炭素の回収を行うケミカルルーピング燃焼システムであって、
前記循環ループ内には、揮発分反応器3及び燃料反応器2からなる還元反応部と、空気反応器1からなる酸化反応部とが設けられており、
前記還元反応部は、金属粒子(MeO)4及び金属粒子(Me)5と固体燃料7及び揮発分13とを反応させる燃料反応器2及び揮発分反応器3を備え、
前記酸化反応部は、前記金属粒子(Me)5が空気6中の酸素と反応して金属粒子(MeO)4となる空気反応器1を備え、
前記還元反応部は、揮発分13が高温の金属粒子(MeO)4と接触して反応し、CO2やH2Oを生成する揮発分反応器3と、高温の金属粒子(MeO)4と金属粒子(Me)5が混在しており、そこに固体燃料7が供給されて、金属粒子(MeO)4を還元して金属粒子(Me)5とする燃料反応器2を有し、
前記揮発分反応器3は、前記空気反応器1で完全酸化された金属粒子(MeO)4が供給され、前記揮発分反応器3でCOと反応して還元された金属粒子(Me)5が生成され、
前記燃料反応器2は、前記揮発分反応器3で還元された金属粒子(Me)5及び未反応の金属粒子(Me0)4が供給され、前記燃料反応器2に前記固体燃料7を供給してCOを生成するとともに、金属粒子(Me)5が生成され、
前記燃料反応器2で生じた金属粒子(Me)5を前記空気反応器1に供給し、前記燃料反応器2で生じたCOを前記揮発分反応器3に供給して完全燃焼させることで二酸化炭素を生成し、
前記燃料反応器2では、前記金属粒子(MeO)4及び前記金属粒子(Me)5が混在し、前記金属粒子(Me)5を前記空気反応器1に供給し、前記金属粒子(MeO)4として酸化鉄を使用した場合、前記金属粒子(MeO)4はFe2O3、前記金属粒子(Me)5はFe3O4である、ケミカルルーピング燃焼システム。」
2.甲2について
(1)甲2の記載
なお、甲2及び甲3については、当審の訳文(以下「当審訳」という。)を付した。
ア 「Unlike to other chemical looping processes, the oxygen needed in CLHG is partly provided by H20 (and hence producing H2) besides the air source. A typical CLHG system consists of three reactors: a fuel reactor, a steam reactor and an air reactor, as shown in Fig. 3. The oxygen carrier is firstly reduced by fuel in the fuel reactor with the generating of H20 and CO2, then the reduced oxygen carrier is partly oxidized by H20 in the steam reactor with the producing of high concentration of H2, and finally, the partly oxidized oxygen carrier is completely regenerated by air to its original form in the air reactor.」(24ページ右欄19~27行)
「(当審訳)他のケミカルルーピングプロセスとは異なり、CLHGでは、必要な酸素の一部が空気源に加えてH20から供給される(その結果、H2が生成される)。図3に示すように、典型的なCLHGシステムは、燃料反応器、蒸気反応器及び空気反応器の3つの反応器から構成される。酸素キャリアは、まず燃料反応器で燃料によって還元され、このときH20とCO2を生成する。次に、還元された酸素キャリアは蒸気反応器でH20によって部分的に酸化され、高濃度のH2を生成する。最後に、部分的に酸化された酸素キャリアは空気反応器で空気により完全に再生され、元の状態に戻される。」
イ 「Furthermore, the deeply reduced products of FeO/Fe can be used to produce H2 from the reaction with steam.」(29ページ右欄下から6行~下から4行)
「(当審訳)さらに、FeO/Feの高度に還元された生成物は、水蒸気との反応からH2を生成するのに使用することができる。」
ウ 「
[図:0001437391000004.jpg]
」(図3)
(2)甲2の記載から理解できる事項
上記(1)イ及びウから、燃料反応器で燃料によって還元される酸素キャリアMeOXが高度に還元された生成物であるFeO/Feである場合、水蒸気との反応からH2を生成するのに使用することができることが理解できる。
(3)甲2に記載の技術的事項
上記(1)及び(2)から、甲2には、次の技術的事項(以下「甲2に記載の技術的事項」という。)が記載されていると認められる。
「ケミカルルーピングシステムが、燃料反応器、蒸気反応器及び空気反応器から構成され、酸素キャリアMeOXは、まず燃料反応器で燃料によって還元され、このときCO2とH2Oが生成され、還元された酸素キャリアMeOX-2は蒸気反応器でH2Oによって部分的に酸化され、高濃度のH2が生成され、部分的に酸化された酸素キャリアMeOX-1は空気反応器で空気により完全に再生され、完全に再生された酸素キャリアMeOXが燃料反応器に戻されること。」
3.甲3について
(1)甲3の記載
ア 「[0032] FIGS. 1A and 1B are schematic diagrams of a chemical looping system in accordance with an embodiment of the invention;
・・・
[0034] FIG. 3 is a schematic diagram of another embodiment of the invention using a solid carbon-based fuel such as coal;」
「(当審訳)
[0032] 図1A及び図1Bは、本発明の実施形態によれば、ケミカルループシステムの概略図である。
・・・
[0034] 図3は、石炭のような固体炭素系燃料を使用して、本発明の別の実施形態の概略図である。」
イ 「[0052]・・・ In the example using iron oxide (Fe2O3), the oxidation state of iron is lowered from +3 to +2.66 (Fe3O4), +2 (FeO) or 0 (Fe). ・・・」
「(当審訳)
[0052]・・・ 酸化鉄(Fe2O3)を用いる例では、鉄の酸化状態は +3 から +2.66(Fe3O4)、+2(FeO)、または 0(Fe)へ と低下する。」
ウ 「Alternative Embodiment Using Solid Carbon-Based Fuel
[0058] In this embodiment, coal is again used as the solid carbon-based fuel. The porous composite is Fe2O3 in a TiO2 ceramic matrix provided in the form of particles. As shown in FIG. 3, the coal and metal oxide porous composite are introduced into the top section of reactor 1. The coal and metal oxide react to form a CO2 rich flue gas stream. Coal devolatilization occurs principally near the top section of reactor 1. The coal volatilization products will react with the metal oxide to form CO2 and H2O. The products produced in the top section of reactor 1 are principally partially reduced metal oxide composite particles and coal char/ash.
[0059] The metal oxide composite particles, along with the char/ash exiting the top section of reactor 1 enter the bottom section of reactor 1. Further reduction of the metal oxide will occur by further reaction with the coal and combustion products of coal. The reduction reaction may be enhanced by partially gasifying the coal char in situ using a high temperature CO2 recycle stream. The CO2 will partially gasify the coal char forming CO via the Boudard reaction. The products leaving the bottom section of reactor 1 are principally reduced metal/metal oxide and coal ash.
[0060] The reduced metal/metal oxide composite particles are separated from the coal ash using a magnetic or eddy current separator. The separated, reduced metal oxide composite particles are then introduced into the top section of reactor 2. In the top section of reactor 2, hydrogen is produced by a steam-metal oxidation reaction. The metal oxide composite particles then pass into the bottom section of reactor 2. In this section, the metal oxide composite particles are further reacted with oxygen to produce heat. The oxidation reaction products leaving the bottom section of reactor 2 are principally oxidized metal oxide composite particles that are recycled back to reactor 1.
[0061] The hydrogen gas produced in reactor 2 is purified, for example, using a hot temperature membrane filter that removes contaminants such as sulfur gases. The purified hydrogen gas can be used, for example, in fuel cells to produce electricity. Reactors 1 and 2 both include top and bottom sections. These sections can either be physically detached or coupled together into a single reactor. The solids (i.e., the porous composite particles) in the reactors move counter-currently with respect to the combustion and other gases. Solids are removed from the bottom of the moving beds and introduced at the top of the beds. The temperatures of operation of the reactors is typically in the range of from about 700℃. to about 950℃. Pressures in the reactors may range from between about 1 to about 30 atm.」
「(当審訳)
固体炭素系燃料を用いる別の実施形態
[0058] この実施形態では、固体炭素系燃料として再び石炭を用いる。多孔質複合体はTiO2セラミック母材中に配置されたFe2O3で構成され、粒子状に提供される。図3に示すように、石炭及び金属酸化物多孔質複合体は反応器1の上部セクションに導入される。石炭と金属酸化物は反応してCO2を多く含む排ガス流を形成する。石炭の脱揮発は主として反応器1の上部セクション付近で起こる。石炭の揮発生成物は金属酸化物と反応してCO2及びH2Oを生成する。反応器1の上部セクションで生成する主な生成物は、部分的に還元された金属酸化物複合体粒子と石炭チャー/灰である。
[0059] 金属酸化物複合体粒子は、上部セクションから排出されるチャー/灰とともに反応器1の下部セクションに入る。金属酸化物のさらなる還元は、石炭および石炭の燃焼生成物とのさらに進行する反応によって起こる。還元反応は、高温のCO2リサイクル流を用いて石炭チャーをその場で部分ガス化することによって増強され得る。CO2は石炭チャーを部分ガス化し、ブードアール反応によってCOを形成する。反応器1の下部セクションから排出される生成物は、主として還元された金属/金属酸化物および石炭灰である。
[0060] 還元された金属/金属酸化物複合体粒子は、磁力選別機または渦電流セパレータを用いて石炭灰から分離される。分離された還元金属酸化物複合体粒子は、次に反応器2の上部セクションに導入される。反応器2の上部セクションでは、金属ー水蒸気酸化反応によって水素が生成される。その後、金属酸化物複合体粒子は反応器2の下部セクションへ移動する。このセクションでは、粒子は酸素とさらに反応し、熱を生成する。反応器2の下部セクションから排出される酸化反応生成物は、主として酸化された金属酸化物複合体粒子であり、これらは反応器1へリサイクルされる。
[0061] 反応器2で生成された水素ガスは、例えば高温膜フィルタを用いて硫黄系ガスなどの不純物を除去して精製される。精製された水素ガスは、例えば燃料電池での発電に使用できる。反応器1及び2はいずれも上部及び下部セクションを含む。これらのセクションは物理的に分離して構成してもよく、また一体化した単一の反応器として構成してもよい。反応器内の固体(すなわち、多孔質複合体粒子)は、燃焼ガスやその他のガスに対して向流(カウンターカレント)で移動する。固体は移動層の下部から取り出され、層の上部に導入される。反応器の運転温度は通常約700℃~約950℃の範囲である。反応器内の圧力は約1~約30気圧の範囲で変動し得る。」
エ 「図3
[図:0001437391000005.jpg]
」
(2)甲3の記載等から理解できる事項
ア 上記(1)イから、Fe2O3は、Fe3O4、FeO、Feの順に還元されること、すなわち、Fe2O3、Fe3O4、FeO、Feの順で還元度が高いことが理解できる。
また、甲3の図3において、反応器1の上部セクションには、Fe2O3と燃料が供給されていること、及び反応器1の下部セクションからFeが排出されていることが図示されているから、反応器1の上部セクション及び反応器1の下部セクションでは、Fe2O3、Fe3O4、FeO、Feが生成されることが理解できる。
イ 上記ア及び上記(1)ア~エから、甲3には、循環流路内でFe2O3、Fe3O4、FeO、Feが酸化反応と還元反応を繰り返す二酸化炭素の回収と水素製造を行うケミカルルーピングシステムが記載されていることが理解できる。
ウ 上記(1)イ~エから、甲3の図3の反応器1の下部セクションには、反応器1の上部セクションから部分的に還元された金属酸化物複合体粒子、チャー及び灰が供給され、Feのみが排出されることが理解でき、反応器1の下部セクションでは、少なくともFeが生成されることが理解できる。
エ 上記(1)ウから、反応器1の下部セクションにおいては、CO2が導入されることによってチャーを部分ガス化し、ブードアール反応によってCOを生成するとともに、Fe3O4、FeO、Feが生成されていると理解できる。さらに、生成されたCOは反応器1の上部セクションに導入されて燃料及びFe2O3と反応しCO2が生成されると理解できる。
そして、反応器1の上部セクションはCO2が生成されるから、完全燃焼反応が進行する完全燃焼部であると理解でき、反応器1の下部セクションはCOが生成されるから、不完全燃焼反応が進行する不完全燃焼部であると理解できる。
(3)甲3発明
(1)及び(2)から、甲3には以下の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
「 循環流路内でFe2O3、Fe3O4、FeO、Feが酸化反応と還元反応を繰り返す二酸化炭素の回収と水素製造を行うケミカルルーピングシステムであって、
循環流路内には、反応器1の上部セクション及び反応器1の下部セクションと、反応器2の上部セクション及び反応器2の下部セクションとが設けられており、
Fe2O3と燃料とを反応させる反応器1の上部セクション及び反応器1の下部セクションを備え、
反応器1の下部セクションで生じたFeとH2Oとを反応させて、Feを部分酸化するとともに水素を生成する反応器2の上部セクションと、部分酸化された前記酸素キャリア金属粒子をFe2O3にする反応器2の下部セクションを備え、
反応器1の上部セクション及び反応器1の下部セクションは、完全燃焼反応が進行する反応器1の上部セクションと、不完全燃焼反応が進行する反応器1の下部セクションを有し、
反応器1の上部セクションは、Fe2O3が供給され、部分的に還元された金属酸化物複合体粒子、チャー及び灰が生成され、
反応器1の下部セクションは、反応器1の上部セクションからの部分的に還元された金属酸化物複合体粒子、チャー及び灰が供給され、CO2が導入されることによってチャーを部分ガス化し、ブードアール反応によってCOを生成するとともに、少なくともFeが生成され、
反応器1の下部セクションからのFeを反応器2の上部セクションに供給し、反応器1の下部セクションで生じたCOを反応器1の上部セクションに供給してCO2を生成し、
反応器1の上部セクション及び反応器1の下部セクションでは、Fe2O3、Fe3O4、FeO、Feが存在し、Feのみを反応器2の上部セクションに供給する、ケミカルルーピングシステム。」
第6 当審の判断
1.甲1発明を引用発明とした場合の進歩性について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「循環ループ」は本件発明1の「循環流路」に相当し、以下同様に、「金属粒子(MeO)4」及び「金属粒子(Me)5」は「酸素キャリア金属粒子」に、「ケミカルルーピング燃焼システム」は「ケミカルルーピングシステム」に、それぞれ相当する。
以上から、甲1発明の「循環ループ内で金属粒子(MeO)4及び金属粒子(Me)5が酸化反応と還元反応を繰り返す二酸化炭素の回収を行うケミカルルーピング燃焼システム」は、本件発明1の「循環流路内で酸素キャリア金属粒子が酸化反応と還元反応を繰り返す二酸化炭素の回収と水素製造を行うケミカルルーピングシステム」と、「循環流路内で酸素キャリア金属粒子が酸化反応と還元反応を繰り返すケミカルルーピングシステム」である限りで一致する。
イ 甲1発明の「前記循環ループ内には、揮発分反応器3及び燃料反応器2からなる還元反応部と、空気反応器1からなる酸化反応部とが設けられて」いることは、本件発明1の「前記循環流路内には、還元反応部と、酸化反応部とが設けられて」いることに相当する。
ウ 甲1発明の「固体燃料7」及び「揮発分13」は本件発明1の「燃料」に相当し、同様に、「燃料反応器2及び揮発分反応器3」は「燃料反応部」に相当する。
以上から、甲1発明の「前記還元反応部は、金属粒子(MeO)4及び金属粒子(Me)5と固体燃料7及び揮発分13とを反応させる燃料反応器2及び揮発分反応器3を備え」ることは、本件発明1の「前記還元反応部は、酸素キャリア金属粒子と燃料とを反応させる燃料反応部を備え」ることに相当する。
エ 甲1発明の「前記金属粒子(Me)5が空気6中の酸素と反応して金属粒子(MeO)4となる空気反応器1」は、本件発明1の「前記酸素キャリア金属粒子を完全酸化する酸化処理部」に相当する。
以上から、甲1発明の「前記酸化反応部は、前記金属粒子(Me)5が空気6中の酸素と反応して金属粒子(MeO)4となる空気反応器1を備え」ることは、本件発明1の「前記酸化反応部は、前記燃料反応部で生じた反応後の酸素キャリア金属粒子と水蒸気とを反応させて、酸素キャリア金属粒子を部分酸化するとともに、水素を生成する水素生成部と、部分酸化された前記酸素キャリア金属粒子を完全酸化する酸化処理部を備え」ることと、「前記酸化反応部は、前記酸素キャリア金属粒子を完全酸化する酸化処理部を備え」る限りで一致する。
オ 甲1発明の「揮発分13が高温の金属粒子(MeO)4と接触して反応し、CO2やH2Oを生成する揮発分反応器3」は、CO2を生成すること(第5の1.(2)エ、オ等を参照。)に鑑みれば、本件発明1の「完全燃焼反応が進行する完全燃焼部」に相当する。同様に、甲1発明の「高温の金属粒子(MeO)4と金属粒子(Me)5が混在しており、そこに固体燃料7が供給されて、金属粒子(MeO)4を還元して金属粒子(Me)5とする燃料反応器2」は、COを生成すること(第5の1.(2)エ、オ等を参照。)に鑑みれば、本件発明1の「不完全燃焼反応が進行する不完全燃焼部」に相当する。
以上から、甲1発明の「前記還元反応部は、揮発分13が高温の金属粒子(MeO)4と接触して反応し、CO2やH2Oを生成する揮発分反応器3と、高温の金属粒子(MeO)4と金属粒子(Me)5が混在しており、そこに固体燃料7が供給されて、金属粒子(MeO)4を還元して金属粒子(Me)5とする燃料反応器2を有」することは、本件発明1の「前記燃料反応部は、完全燃焼反応が進行する完全燃焼部と、不完全燃焼反応が進行する不完全燃焼部を有」することに相当する。
カ 甲1発明の「CO」は本件発明1の「不完全燃焼ガス」に相当し、同様に「還元された金属粒子(Me)5」は「還元された酸素キャリア金属粒子」に相当する。
以上から、甲1発明の「前記揮発分反応器3は、前記空気反応器1で完全酸化された金属粒子(MeO)4が供給され、前記揮発分反応器3でCOと反応して還元された金属粒子(Me)5が生成され」ることは、本件発明1の「前記完全燃焼部は、前記酸化処理部で完全酸化された酸素キャリア金属粒子が供給され、前記完全燃焼部で前記不完全燃焼ガスと反応して還元された酸素キャリア金属粒子が生成され」ることに相当する。
キ 甲1発明の「前記揮発分反応器3で還元された金属粒子(Me)5及び未反応の金属粒子(MeO)4」は、反応により還元された金属粒子(Me)5も含むから、本件発明1の「前記完全燃焼部の反応後の酸素キャリア金属粒子」に相当し、同様に「(燃料反応器2で生成された)金属粒子(Me)5」は「還元度の高いキャリア金属粒子」に相当する。
以上から、甲1発明の「前記燃料反応器2は、前記揮発分反応器3で還元された金属粒子(Me)5及び未反応の金属粒子(MeO)4が供給され、前記燃料反応器2に前記固体燃料7を供給してCOを生成するとともに、金属粒子(Me)5が生成され」ることは、本件発明1の「前記不完全燃焼部は、前記完全燃焼部の反応後の酸素キャリア金属粒子が供給され、前記不完全燃焼部に前記燃料を供給して不完全燃焼ガスを生成するとともに、還元度の高いキャリア金属粒子が生成され」ることに相当する。
ク 甲1発明の「空気反応器1」は、上記エのとおり、本件発明1の「酸化処理部」に相当するところ、当該「酸化処理部」は「酸化反応部」に含まれるから、本件発明1の「水素生成部」とは、「酸化反応部」である限りで一致する。
以上から、甲1発明の「前記燃料反応器2で生じた金属粒子(Me)5を前記空気反応器1に供給し、前記燃料反応器2で生じたCOを前記揮発分反応器3に供給して完全燃焼させることで二酸化炭素を生成」することと、本件発明1の「前記不完全燃焼部で生じた反応後の酸素キャリア金属粒子を前記水素生成部に供給し、前記不完全燃焼部で生じた前記不完全燃焼ガスを前記完全燃焼部に供給して完全燃焼させることで二酸化炭素を生成」することとは、「前記不完全燃焼部で生じた反応後の酸素キャリア金属粒子を前記酸化反応部に供給し、前記不完全燃焼部で生じた前記不完全燃焼ガスを前記完全燃焼部に供給して完全燃焼させることで二酸化炭素を生成」する限りで一致する。
ケ 甲1発明の「前記金属粒子(MeO)4及び前記金属粒子(Me)5が混在」する及び「前記金属粒子(MeO)4として酸化鉄を使用した場合、前記金属粒子(MeO)4はFe2O3、前記金属粒子(Me)5はFe3O4である」ことは、本件発明1の「前記酸素キャリア金属粒子の還元状態が複数段階存在」することに相当する。また、甲1発明の「金属粒子(Me)5」は、金属粒子(MeO)4及び金属粒子(Me)5が混在している内で還元度が高い金属粒子(Me)5のみであるといえるから、本件発明1の「還元度の高い酸素キャリア金属粒子のみ」に相当する。
以上から、甲1発明の「前記燃料反応器2では、前記金属粒子(MeO)4及び前記金属粒子(Me)5が混在し、前記金属粒子(Me)5を前記空気反応器1に供給」することは、本件発明1の「前記還元反応部では、前記酸素キャリア金属粒子の還元状態が複数段階存在し、還元度の高い酸素キャリア金属粒子のみを前記水素生成部に供給する」ことと、「前記還元反応部では、前記酸素キャリア金属粒子の還元状態が複数段階存在し、還元度の高い酸素キャリア金属粒子のみを前記酸化反応部に供給する」限りで一致する。
(2)一致点、相違点
以上のことから、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点1]
「 循環流路内で酸素キャリア金属粒子が酸化反応と還元反応を繰り返すケミカルルーピングシステムであって、
前記循環流路内には、還元反応部と、酸化反応部とが設けられており、
前記還元反応部は、酸素キャリア金属粒子と燃料とを反応させる燃料反応部を備え、
前記酸化反応部は、前記酸素キャリア金属粒子を完全酸化する酸化処理部を備え、
前記燃料反応部は、完全燃焼反応が進行する完全燃焼部と、不完全燃焼反応が進行する不完全燃焼部を有し、
前記完全燃焼部は、前記酸化処理部で完全酸化された酸素キャリア金属粒子が供給され、前記完全燃焼部で前記不完全燃焼ガスと反応して還元された酸素キャリア金属粒子が生成され、
前記不完全燃焼部は、前記完全燃焼部の反応後の酸素キャリア金属粒子が供給され、前記不完全燃焼部に前記燃料を供給して不完全燃焼ガスを生成するとともに、還元度の高いキャリア金属粒子が生成され、
前記不完全燃焼部で生じた反応後の酸素キャリア金属粒子を酸化反応部に供給し、前記不完全燃焼部で生じた前記不完全燃焼ガスを前記完全燃焼部に供給して完全燃焼させることで二酸化炭素を生成し、
前記還元反応部では、前記酸素キャリア金属粒子の還元状態が複数段階存在し、還元度の高い酸素キャリア金属粒子のみを前記酸化反応部に供給する、ケミカルルーピングシステム。」
[相違点1]
本件発明1は、「二酸化炭素の回収と水素製造を行う」ケミカルルーピングシステムが「前記燃料反応部で生じた反応後の酸素キャリア金属粒子と水蒸気とを反応させて、酸素キャリア金属粒子を部分酸化するとともに、水素を生成する水素生成部」を備え、不完全燃焼部で生じた反応後の酸素キャリア金属粒子及び還元度の高い酸素キャリア金属粒子のみを「前記水素生成部」に供給し、「部分酸化された」酸素キャリア金属粒子を酸化処理部に供給するのに対し、甲1発明は、二酸化炭素の回収を行うケミカルルーピング燃焼システムであって、「水素生成部」を備えておらず、燃料反応器2で生じた金属粒子(Me)5を空気反応器1に供給している点。
(3)判断
上記相違点1について検討する。
甲1発明は、「二酸化炭素の回収を行うケミカルルーピング燃焼システム」であって、蒸気反応器(水素生成部)を備えるものではない。
他方、上記第5の2.(3)のとおり、甲2には、「ケミカルルーピングシステムが、燃料反応器、蒸気反応器及び空気反応器から構成され、酸素キャリアMeOXは、まず燃料反応器で燃料によって還元され、このときCO2とH2Oが生成され、還元された酸素キャリアMeOX-2は蒸気反応器でH2Oによって部分的に酸化され、高濃度のH2が生成され、部分的に酸化された酸素キャリアMeOX-1は空気反応器で完全に再生され、完全に再生された酸素キャリアMeOXが燃料反応器に戻されること。」との技術的事項が記載されている。
しかしながら、上記第5の2.(2)のとおり、甲2の記載からは、燃料反応器で燃料によって還元される酸素キャリアMeOXが高度に還元された生成物であるFeO/Feである場合、水蒸気との反応からH2を生成するのに使用することができる旨が理解できるところ、甲1発明は、金属粒子(MeO)4として酸化鉄を使用した場合、燃料反応器2で生じたFe3O4を空気反応器1に供給するものであり、燃料反応器2でFeO又はFeを生成するものではないから、甲1発明に甲2に記載の技術的事項を適用することの動機付けは見当たらない。
さらに、上記甲2の記載によれば、燃料反応器、蒸気反応器及び空気反応器から構成されたケミカルルーピングシステムにおいて、水素生成部で水素を生成するためにはFe3O4よりも還元度の高いFeO又はFeを蒸気反応器に供給する必要があるところ、甲1には、燃料反応器2においてFe3O4よりも還元度の高いFeO又はFeを生成することは記載も示唆もないし、Fe3O4よりも還元度の高いFeO又はFeのみを酸化反応部に供給することの記載も示唆もない。
加えて、甲1発明は、チャーの未反応率を低減し、CO2の回収効率を高めることを目的とするものである(甲1の段落【0021】)ところ、本件発明1は、従来技術であるCLHG(「ケミカルループの水素製造」)において、「水素製造を高収率で行うことを考えた場合、水素生成塔における反応効率を上げるため、酸素キャリア金属粒子の還元率を高める必要がある。しかしながら、燃料反応塔において酸素キャリア金属粒子の還元率を高めるためには、不完全燃焼反応とする必要があり、二酸化炭素の回収率が低下してしまう。すなわち、従来のケミカルルーピングにおいては、二酸化炭素回収率の向上と水素収率の向上はトレードオフの関係にある。」(特許明細書等の段落【0005】、【0006】を参照。)ことを解決すべき課題とし、「ケミカルルーピングシステムにおいて、二酸化炭素回収の向上と水素収率の向上を両立させる」(特許明細書等の段落【0013】)との顕著な作用効果を奏するものである。
したがって、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2は、甲1発明及び甲2に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
また、本件発明3は、本件発明1に対応する方法の発明であるところ、同様の理由により、甲1発明及び甲2に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
(4)申立人の主張
申立人は、申立人意見書において、概ね、本件発明1と甲1発明との相違点について、CLCとCLHGは、いずれも固体酸素キャリアの酸化還元サイクルを利用する極めて近接した技術分野であることや、甲2に燃料反応器と空気反応器との間に蒸気反応器を追加配置することが技術的に可能であることが示されていることなどから、甲1発明に蒸気反応器を追加することは、当業者にとって特段の困難性がない旨を主張している。
しかしながら、上記(3)のとおり、甲1発明において、燃料反応器2で生成されるのはFe3O4であって、Fe3O4よりも還元度の高いFeO又はFeではなく、甲2の記載から、甲1発明に蒸気反応器(水素生成部)を追加配置することが当業者にとって容易に想到し得るとはいえないから、上記申立人の主張は採用することができない。
2.甲3発明を引用発明とした場合の進歩性について
(1)対比
本件発明1と甲3発明とを対比する。
ア 甲3発明の「Fe2O3、Fe3O4、FeO、Fe」は本件発明1の「酸素キャリア金属粒子」に相当する。
以上から、甲3発明の「循環流路内でFe2O3、Fe3O4、FeO、Feが酸化反応と還元反応を繰り返す二酸化炭素の回収と水素製造を行うケミカルルーピングシステム」は、本件発明1の「循環流路内で酸素キャリア金属粒子が酸化反応と還元反応を繰り返す二酸化炭素の回収と水素製造を行うケミカルルーピングシステム」に相当する。
イ 甲3発明の「循環流路内には、反応器1の上部セクション及び反応器1の下部セクションと、反応器2の上部セクション及び反応器2の下部セクションとが設けられて」いることは、「反応器1の上部セクション及び反応器1の下部セクション」は酸化鉄が還元反応する還元反応部であり、「反応器2の上部セクション及び反応器2の下部セクション」は酸化鉄が酸化反応する酸化反応部であるから、本件発明1の「前記循環流路内には、還元反応部と、酸化反応部とが設けられて」いることに相当する。
ウ 甲3発明の「Fe2O3と燃料とを反応させる反応器1の上部セクション及び反応器1の下部セクションを備え」ることは、本件発明1の「前記還元反応部は、酸素キャリア金属粒子と燃料とを反応させる燃料反応部を備え」ることに相当する。
エ 甲3発明の「反応器1の下部セクションで生じたFeとH2Oとを反応させて、Feを部分酸化するとともに水素を生成する反応器2の上部セクションと、部分酸化された前記酸素キャリア金属粒子をFe2O3にする反応器2の下部セクションを備え」ることは、本件発明1の「前記酸化反応部は、前記燃料反応部で生じた反応後の酸素キャリア金属粒子と水蒸気とを反応させて、酸素キャリア金属粒子を部分酸化するとともに、水素を生成する水素生成部と、部分酸化された前記酸素キャリア金属粒子を完全酸化する酸化処理部を備え」ることに相当する。
オ 甲3発明の「反応器1の上部セクション及び反応器1の下部セクションは、完全燃焼反応が進行する反応器1の上部セクションと、不完全燃焼反応が進行する反応器1の下部セクションを有」することは、本件発明1の「前記燃料反応部は、完全燃焼反応が進行する完全燃焼部と、不完全燃焼反応が進行する不完全燃焼部を有」することに相当する。
カ 甲3発明の「反応器1の上部セクションは、Fe2O3が供給され、部分的に還元された金属酸化物複合体粒子、チャー及び灰が生成され」ること及び「・・・反応器1の下部セクションで生じたCOを反応器1の上部セクションに供給してCO2を生成」することは、本件発明1の「前記完全燃焼部は、前記酸化処理部で完全酸化された酸素キャリア金属粒子が供給され、前記完全燃焼部で前記不完全燃焼ガスと反応して還元された酸素キャリア金属粒子が生成され」ることに相当する。
キ 甲3発明の「反応器1の下部セクションは、反応器1の上部セクションからの部分的に還元された金属酸化物複合体粒子、チャー及び灰が供給され、CO2が導入されることによってチャーを部分ガス化し、ブードアール反応によってCOを生成するとともに、少なくともFeが生成され」ることは、本件発明1の「前記不完全燃焼部は、前記完全燃焼部の反応後の酸素キャリア金属粒子が供給され、前記不完全燃焼部に前記燃料を供給して不完全燃焼ガスを生成するとともに、還元度の高いキャリア金属粒子が生成され」ることと、「前記不完全燃焼部は、前記完全燃焼部の反応後の酸素キャリア金属粒子が供給され、不完全燃焼ガスを生成するとともに、還元度の高いキャリア金属粒子が生成され」る限りで一致する。
ク 甲3発明の「反応器1の下部セクションからのFeを反応器2の上部セクションに供給し、反応器1の下部セクションで生じたCOを反応器1の上部セクションに供給してCO2を生成」することは、本件発明1の「前記不完全燃焼部で生じた反応後の酸素キャリア金属粒子を前記水素生成部に供給し、前記不完全燃焼部で生じた前記不完全燃焼ガスを前記完全燃焼部に供給して完全燃焼させることで二酸化炭素を生成」することに相当する。
ケ 甲3発明の「Fe2O3、Fe3O4、FeO、Feが存在」することは、本件発明1の「前記酸素キャリア金属粒子の還元状態が複数段階存在」することに相当し、「Feのみ」は「還元度の高い酸素キャリア金属粒子のみ」に相当する。
以上から、甲3発明の「反応器1の上部セクション及び反応器1の下部セクションでは、Fe2O3、Fe3O4、FeO、Feが存在し、Feのみを反応器2の上部セクションに供給する」することは、本件発明1の「前記還元反応部では、前記酸素キャリア金属粒子の還元状態が複数段階存在し、還元度の高い酸素キャリア金属粒子のみを前記水素生成部に供給する」ことに相当する。
(2)一致点、相違点
[一致点2]
「 循環流路内で酸素キャリア金属粒子が酸化反応と還元反応を繰り返す二酸化炭素の回収と水素製造を行うケミカルルーピングシステムであって、
前記循環流路内には、還元反応部と、酸化反応部とが設けられており、
前記還元反応部は、酸素キャリア金属粒子と燃料とを反応させる燃料反応部を備え、
前記酸化反応部は、前記燃料反応部で生じた反応後の酸素キャリア金属粒子と水蒸気とを反応させて、酸素キャリア金属粒子を部分酸化するとともに、水素を生成する水素生成部と、部分酸化された前記酸素キャリア金属粒子を完全酸化する酸化処理部を備え、
前記燃料反応部は、完全燃焼反応が進行する完全燃焼部と、不完全燃焼反応が進行する不完全燃焼部を有し、
前記完全燃焼部は、前記酸化処理部で完全酸化された酸素キャリア金属粒子が供給され、前記完全燃焼部で前記不完全燃焼ガスと反応して還元された酸素キャリア金属粒子が生成され、
前記不完全燃焼部は、前記完全燃焼部の反応後の酸素キャリア金属粒子が供給され、不完全燃焼ガスを生成するとともに、還元度の高いキャリア金属粒子が生成され、
前記不完全燃焼部で生じた反応後の酸素キャリア金属粒子を前記水素生成部に供給し、前記不完全燃焼部で生じた前記不完全燃焼ガスを前記完全燃焼部に供給して完全燃焼させることで二酸化炭素を生成し、
前記還元反応部では、前記酸素キャリア金属粒子の還元状態が複数段階存在し、還元度の高い酸素キャリア金属粒子のみを前記水素生成部に供給する、ケミカルルーピングシステム。」
[相違点2]
不完全燃焼ガス(CO)を生成するために、本件発明1では「前記不完全燃焼部に前記燃料を供給して不完全燃焼ガスを生成する」のに対し、甲3発明では、反応器1の上部セクションでFe2O3と燃料とを反応させ、反応器1の下部セクションに、反応器1の上部セクションからの部分的に還元された金属酸化物複合体粒子、チャー及び灰が供給され、CO2が導入されることによってチャーを部分ガス化し、ブードアール反応によってCOを生成している点。
(3)判断
上記相違点2について検討する。
甲3発明においても、反応器1の下部セクションにおいてCOを生成しているものの、その機序は、反応器1の上部セクションでFe2O3と燃料とを反応させて、その反応により生じた生成物(部分的に還元された金属酸化物複合体粒子、チャー及び灰)に加えてCO2を、反応器1の下部セクションに供給することによって、当該チャーを部分ガス化し、ブードアール反応によってCOを生成するものである。
そうすると、甲3発明において、反応器1の上部セクションに燃料(とFe2O3)を供給してチャー等の生成物を得ること、及び、反応器1の下部セクションにおいて、反応器1の上部セクションでの反応に得られたチャー等の生成物に加えてCO2を供給して当該チャーを部分ガス化し、ブードアール反応によってCOを生成することは、いずれも必須の要件と認められる。
このことから、甲3発明において、燃料を、反応器1の上部セクションに供給することに換えて、反応器1の下部セクションに供給することが、当業者にとって適宜設計変更できる事項であるということはできない。
さらに、甲3発明の反応器1の下部セクションにおいては、CO2が供給されてチャーを部分ガス化してブードアール反応によってCOを生成されているところ、さらに反応器1の下部セクションに燃料を加えて不完全燃焼させることによりCOを生成することができることを示す証拠も見当たらないから、甲3発明において、反応器1の下部セクションに燃料を供給することの動機付けがあるともいえない。
したがって、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2は、甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
また、本件発明3は、本件発明1に対応する方法の発明であるところ、同様の理由により、甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
(4)申立人の主張
申立人は、申立人意見書において、概ね、本件発明1と甲3発明との相違点について、以下の点を主張している。
ア 甲3の図2では、燃料をsecond stage(不完全燃焼部に相当)に供給する態様が示されているから、甲3は燃料供給位置が複数あり得ることを明確に示しており、燃料供給位置は反応目的(反応率、温度分布、還元度)に応じて当業者が適宜選択できる構成要素である。
また、甲1においても燃料投入位置が設計上の選択肢であることが裏付けられており、甲1の図1では燃料反応器2(不完全燃焼部に相当)に燃料を供給している一方、甲1の図7では揮発分反応器3(完全燃焼部に相当)に燃料を供給している。
イ CLC及びCLHGはともに酸素キャリアの還元・酸化を段階的に行うプロセスであり、反応器の数(単段/多段)、流れ方向(対向流/並行流)、燃料投入位置などは、当業者が目的に応じて適宜変更し得る一般的な設計事項であり、この点は、甲5において反応器の数(単段/多段)、流れ方向(対向流/並行流)、ガス固体接触方式などが反応率向上や温度制御の観点から通常の設計選択として採用される旨が説明されていることからも裏付けられる。
ウ 甲3の段落[0059]の記載から、甲3の反応器1の下部セクションにおいても、燃料(coal)と酸素キャリア金属粒子を反応させることで、金属酸化物の還元度を更に高めることを目的としており、チャーのガス化は反応器1の下部セクションの主目的ではなく、還元反応を促進するための一態様にすぎないものであり、甲3の反応器1の下部セクションと本件発明1の不完全燃焼部は機能的に一致している。
上記申立人の主張について検討する。
アの点については、甲3の図3の実施形態では、反応器1の上部セクションに、Fe2O3と燃料が供給されている(上記第5の3.(2)ア等を参照。)。
そして、甲3の図2の実施形態、甲1の図1、7の実施形態は、いずれも甲3の図3の実施形態とは異なる実施形態であるから、それら異なる実施形態に記載された技術事項(燃料の投入位置)を、甲3の図3の実施形態に基づく甲3発明に適用することが直ちに動機付けられるとはいえない。
イの点については、甲5には、甲3発明のケミカルルーピングシステムにおいて、燃料を、反応器1の上部セクションに供給することに換えて又は加えて、反応器1の下部セクションに供給することを示すような記載や示唆は見当たらない。
ウの点については、本件発明1では、不完全燃焼ガス(CO)を生成するために、不完全燃焼部に燃料を供給しているのであり、反応器1の下部セクションにおいて、金属酸化物の更なる還元を進行するためとの、甲3の段落[0059]に記載された目的とは異なる。そして、甲3には、COの生成について「CO2は石炭チャーを部分ガス化し、ブードアール反応によってCOを形成する。」と明記されていることや、反応器1の下部セクションに燃料を加えて不完全燃焼させることによりCOを生成することができることを裏付ける証拠も見当たらないことに鑑みれば、甲3において、COを生成する際に、チャーのガス化が反応器1の下部セクションの主目的ではないとか、還元反応を促進するための一態様にすぎないとかいう主張は採用できない。
以上から、上記申立人の主張は採用することができない。
3.小括
以上から、上記第4の取消理由通知に記載した取消理由によっては、請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人は、特許異議申立書及び申立人意見書において、理由2として、訂正前の請求項1の「完全燃焼部」と「不完全燃焼部」について、特許明細書等の段落【0040】以降においては、「完全燃焼塔」及び「不完全燃焼塔」として2つの独立した反応器の構成が示されている一方、他の実施態様(図4等)では、1つの反応器内でゾーン分けされている構成が示されており、請求項に記載された「完全燃焼部」及び「不完全燃焼部」が、物理的に独立した反応器を意味するのか、単一の反応器内の区画を意味するのか不明確であるから、本件発明1~3は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない旨を主張する。
しかしながら、まず、本件発明3については、方法の発明であり、「完全燃焼部」及び「不完全燃焼部」を特定するものではなく、不明確な記載は見当たらないから、本件発明3についての上記申立人の主張は採用できない。
さらに、本件発明1~2については、「完全燃焼部」及び「不完全燃焼部」について、本件発明1には、「前記燃料反応部は、完全燃焼反応が進行する完全燃焼部と、不完全燃焼反応が進行する不完全燃焼部を有し、前記完全燃焼部は、前記酸化処理部で完全酸化された酸素キャリア金属粒子が供給され、前記完全燃焼部で前記不完全燃焼ガスと反応して還元された酸素キャリア金属粒子が生成され、前記不完全燃焼部は、前記完全燃焼部の反応後の酸素キャリア金属粒子が供給され、前記不完全燃焼部に前記燃料を供給して不完全燃焼ガスを生成するとともに、還元度の高いキャリア金属粒子が生成され、前記不完全燃焼部で生じた反応後の酸素キャリア金属粒子を前記水素生成部に供給し、前記不完全燃焼部で生じた前記不完全燃焼ガスを前記完全燃焼部に供給して完全燃焼させることで二酸化炭素を生成」することが記載されており、この記載は明確に理解できるから、本件発明1が不明確であるということはできない。
加えて、申立人が主張する、本件発明1の「完全燃焼部」及び「不完全燃焼部」が、物理的に独立した反応器を意味するのか、単一の反応器内の区画を意味するのか明瞭でないことが、直ちに本件発明1を不明確しているということもできないし、少なくとも特許明細書等の段落【0040】~【0044】は「完全燃焼部」及び「不完全燃焼部」の用語を用いて発明が説明されていることに鑑みれば、発明の詳細な説明を参酌すれば本件発明1は明確に理解できるともいえる。
以上から、本件発明1及び本件発明1に従属する本件発明2並びに本件発明3は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たす。
したがって、申立人のかかる主張は、採用することができない。
なお、申立人意見書において、本件訂正後の請求項1、3において、「前記不完全燃焼ガス」よりも前に「不完全燃焼ガス」の記載がなく、「前記不完全燃焼ガス」が何を指し示しているのか不明確である旨も主張するが、「不完全燃焼ガス」が前記されていないとしても、前記されている「不完全燃焼部」で生じたガスであることは明らかであり、この記載が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいうことができないから、申立人のかかる主張も採用することができない。
第8 まとめ
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書において主張した特許異議申立理由によっては、請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2025-700769