特許異議申立
2026-700016
グラスライニング製品及びその製造方法
- 審判番号
- 2026-700016
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-021896
- 登録番号
- 7703297
- 請求日
- 2025年12月26日
- 審決日
- 2026年06月12日
- 公報発行日
- 2026年07月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】NGK株式会社
- 【権利者代理人】アクシス国際弁理士法人
- 【権利者】エヌジーケイ・ケミテック株式会社
- 【権利者代理人】アクシス国際弁理士法人
- 【異議申立人】西内 大生
- 審判長/審判官
- 審判長 佐藤 陽一
- 審判官 富永 泰規
- 審判官 酒井 英夫
- 分類
- P1651.121-Y (C23D) / P1651.536-Y (C23D) / P1651.537-Y (C23D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7703297号発明「グラスライニング製品及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7703297号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件の特許第7703297号(以下「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願(特願2020-21896号。以下「本願」という。)は、令和 2年 2月12日の出願であって、令和 7年 6月27日にその特許権の設定登録がされ、同年 7月 7日に特許掲載公報が発行されたものである。
本件は、その後、令和 7年12月26日に、その請求項1~6(全請求項)に係る特許について、特許異議申立人である西内 大生(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~6に係る発明は、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、以下において、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~6に係る発明を「本件発明1」~「本件発明6」といい、総称して「本件発明」という。また、本願の願書に添付した明細書及び図面を「本件明細書等」という。
「【請求項1】
JIS B 0633:2001で測定される表面粗さRa(JIS B 0601:1994)が6~9μmであり、JIS B 0633:2001で測定される表面粗さRz(JIS B 0601:1994)が25~39μmである表面をもつ粗面化された金属基材を作製する工程と、
前記粗面化された金属基材の前記表面上に釉薬を焼き付けることによりグラスライニング層を形成する工程と、
を含むグラスライニング製品の製造方法。
【請求項2】
前記粗面化された金属基材の前記表面は、JIS B 0633:2001で測定される表面粗さRz(JIS B 0601:1994)が27~38μmである請求項1に記載のグラスライニング製品の製造方法。
【請求項3】
前記粗面化された金属基材を作製する工程は、前記金属基材の表面をサンドブラスト処理することを含む請求項1又は2に記載のグラスライニング製品の製造方法。
【請求項4】
前記サンドブラスト処理は、平均粒径が0.5mm以上2mm以下の研磨材を吹き付けることを含む請求項3に記載のグラスライニング製品の製造方法。
【請求項5】
前記研磨材はアルミナ粉を含む請求項4に記載のグラスライニング製品の製造方法。
【請求項6】
前記金属基材が低炭素鋼又はステンレス鋼である請求項1~5の何れか一項に記載のグラスライニング製品の製造方法。」
第3 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として下記4の甲第1~8号証(以下「甲1」等という。)を提出し、以下の理由により、本件特許の請求項1~6に係る特許は取り消されるべきものであることを主張している。
1 申立理由1(進歩性)
本件発明1~6は、甲1に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。したがって、本件発明1~6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由2(実施可能要件)
本件明細書等の発明の詳細な説明は、請求項1~6に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえないから、請求項1~6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
3 申立理由3(サポート要件)
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~6の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものとはいえないから、請求項1~6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
4 証拠方法
甲1:Jigisha Thakkarら,“Optimization of Surface Preparation Process Prior To Glass Coating of Different Type Of M.S.G.L Pressure Vessel.”,Journal of Emerging Technologies and Innovative Research,2019年,Vol. 6,Issue 5,p.293-301
甲2:會田軍太夫,“グラスライニング”,日本機械学会誌,1957年,第60巻,第458号,p. 283-288
甲3-1:特許第3432399号公報
甲3-2:特許第3783742号公報
甲3-3:特許第5191384号公報
甲3-4:特許第5860713号公報
甲4:森猛ら,“鋼材の表面粗さパラメータと高力ボルト摩擦接合継手のすべり係数”,土木学会論文集Al(構造・地震工学),2011年,Vol. 67,No. 2,p. 446-453
甲5:清水紀夫ら,“ほうろうに関する界面物理化学的研究(第1報)”Journal of the Ceramic Society of Japan,1998年,Vol. 106,No. 2,p. 144-149
甲6:特公昭49-36808号公報
甲7-1:ウェブサイト“Made-in-China.com”における“Mdt310 Surface Roughness Tester”の商品紹介ページ(https://mitech.en.made-in-china.com/product/HMonbmIGgFcU/China-Mdt310-Surface-Roughness-Tester.html,アクセス日令和7年12月25日)
甲7-2:ウェブサイト“Wayback Machine”に掲載されているウェブサイト“Made-in-China.com” における“Mdt310 Surface Roughness Tester”の商品紹介ページの2013年3月31日時点のアーカイブ(https://web.archive.org/web/20130331025105/https://mitech.en.made-in-china.com/product/HMonbmIGgFcU/China-Mdt310-Surface-Roughness-Tester.html,アクセス日令和7年12月25日)
甲8:Ozge Isiksacanら,“Vitreous Enamel Coating Surface Defects and Evaluation of the Causes” International Advanced Research Journal in Science, Engineering and Technology,2018年,Vol. 5,Issue 5,p. 6-11
第4 当合議体の判断
当合議体は、以下に示すとおり、上記第3の申立理由1~3によっては、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
1 申立理由1(進歩性)
(1)甲1に記載された事項
本願の出願前に公知となった甲1には、以下の記載がある(なお、下線は当合議体が付したものである。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下同様。)。
ア 「Optimization of Surface Preparation Process Prior To Glass Coating of Different Type Of M.S.G.L Pressure Vessel.」(表題)
(当合議体訳)「各種MSGL圧力容器のガラスコーティング前の表面処理プロセスの最適化。」
イ 「Surface preparation process is the essential stage treatment of a steel substrate before the application of any coating and is generally accepted as being the most important factor affecting the total success of a corrosion protection system. Surface preparation is the process of treating the surface in order to increase its adhesion to coatings.
・・・
Grit blasting is used for various industrial applications. The purpose of this process is to clean, roughen, remove material, texture, and deburr substrates. In this process, various parameters are varied in order to generate a desired result. Some of these parameters are as follows:
・ Media propellant type of propulsion of media. Using different types will affect the roughness and energy required to power the system.
・ Control type- manual, automatic, or semi-automatic. These types of control are selected prior to blasting based on the blasting application
・ Media - properties of the abrasive in the process. These can be abrasive size, shape of abrasive, hardness, fracture strength, media type, and purity of media supply.
・ Substrate- properties of the material being blasted. The material strength and hardness, size, thickness, cleanliness, and initial roughness influence media selection.
・ Blast angle - nozzle angle with respect to the substrate during process.
・ Blast distance- nozzle exit distance from the substrate.
・ Blast pressure- pressure of the system set prior to blasting. This affects the media flow rate and velocity.
Process parameters are set by the operator prior to blasting. Characterization techniques occur at the surface of substrate upon completion of blasting. Subsequently, parts which are out of specification require re-work or are scrapped, both of which decrease yield and increase costs. Some of the common characterization properties are:
・Roughness characterization-microscopy, and mechanical profilometryoptical profilometry. These methods are used to gather information on various roughness parameters of blasted substrates.
・・・」(p.293下段「1.INTRODUCTION」)
(当合議体訳)「表面処理工程は、鋼材基材にコーティングを施す前に行う必須の処理工程であり、腐食防止システムの成否を左右する最も重要な要素として広く認識されている。表面処理とは、コーティングとの密着性を高めるために表面を処理する工程である。
・・・
グリットブラストは、様々な産業用途で使用されている。この工程の目的は、基材の洗浄、粗面化、材料除去、表面テクスチャリング、バリ取りである。この工程では、所望の結果を得るために様々なパラメータが調整される。これらのパラメータの一部を以下に示す。
・媒体噴射剤の種類:媒体の噴射方法。異なる種類の噴射剤を使用すると、粗さやシステムに必要なエネルギーに影響する。
・制御方式:手動、自動、または半自動。これらの制御方法は、ブラスト処理の用途に基づいて、ブラスト処理前に選択される。
・メディア-処理に使用される研磨材の特性。研磨材のサイズ、形状、硬度、破壊強度、メディアの種類、メディア供給の純度などが含まれる。
・基材-ブラスト処理される材料の特性。材料の強度と硬度、サイズ、厚さ、清浄度、初期粗さは、メディアの選択に影響する。
・ブラスト角度-処理中の基材に対するノズルの角度。
・ブラスト距離-基材からのノズル出口距離。
・ブラスト圧力-ブラスト処理前に設定されるシステムの圧力。これはメディアの流量と速度に影響する。
処理パラメータは、ブラスト処理前にオペレーターによって設定される。特性評価は、ブラスト処理完了後に基材表面で行われる。その後、仕様外の部品は再加工または廃棄され、いずれも歩留まりの低下とコストの増加につながる。一般的な特性評価項目には、以下のようなものがある。
・表面粗さ評価:顕微鏡観察、機械的表面粗さ測定、光学的表面粗さ測定。これらの方法は、ブラスト処理された基材の様々な表面粗さパラメータに関する情報を収集するために用いられる。
・・・」
ウ 「Time of sand blasting and roughness of surface mainly depend on the following process parameter
・Types of nozzle.
・Stand of distance.
・Impact angle.
・Media size.
・Blasting pressure.
So, we have perform total five experiment by changing different parameter and six one by changing all parameter together.
So, we have used following parameter and equipment.
・Mild steel plate as raw material.
・Aluminium oxide grit of 14 mesh size.
・Compressed air blasting machine with 159 cfm compressor.
・Surface roughness tester.
・Blasting pressure 100 PSI.
・Standoff distance 50 mm.
・Impact angle 75°.」(p.294「2.EXPERIMENTAL INVESTIGATION」)
(当合議体訳)「サンドブラスト時間と表面粗さは、主に以下のプロセスパラメータ」に依存する。
・ノズルの種類
・スタンドオフ距離
・衝撃角度
・メディアサイズ
・ブラスト圧力
そこで、異なるパラメータを変更した実験を5回、すべてのパラメータを同時に変更した実験を6回実施した。
使用したパラメータと装置は以下のとおりである。
・原材料:軟鋼板
・14メッシュの酸化アルミニウムグリット
・159cfmコンプレッサー付き圧縮空気ブラスト機
・表面粗さ計
・ブラスト圧力 100PSI
・スタンドオフ距離 50mm
・衝撃角度 75°」
エ 「Result:
Followings are the results when we have changed only a one parameter and another constant.
[図:0001437410000001.jpg]
Conclusion:
・To obtain the outcome of this project or to reduce the time of the sandblasting process we have to use XL performance nozzle or Bazooka nozzle.
・XL performance nozzle gives high velocity of abrasive partials.
・Roughness mainly depends on blasting pressure and the size of the abrasive particles.
・As we increase the Mesh size the abrasive become very fine so it can not much penetrate though the roughness will decrease and vice versa.
・And as blasting pressure increase the force for penetration also increase and so the roughness also increases in that case.
・We cannot see the much change in time in these two cases.
・Time is majorly depending on blasting angle and stand of distance.
・As we increase blasting angle and make flow perpendicular to surface than the time taken for Blasting is less.
・And as we increase from 50mm to 100mm the roughness of the surface increase and then decrease.
・But as we increase the distance the time is increase more as compare to other parameter because as we increase distance abrasive particles reach surface at slow velocity and that's why they cannot penetrate on surface.」(p.300~301「3.RESULT AND CONCLUSION」)
(当合議体訳)「結果:
以下は、1つのパラメータと1つの定数のみを変更した場合の結果である。
表7
[図:0001437410000002.jpg]
結論:
・このプロジェクトの成果を達成するため、またはサンドブラスト工程の時間を短縮するためには、XLパフォーマンスノズルまたはバズーカノズルを使用する必要がある。
・XLパフォーマンスノズルは、研磨粒子の高速噴射を実現する。
・表面粗さは、主にブラスト圧力と研磨粒子のサイズに依存する。
・メッシュサイズを大きくすると研磨粒子が非常に細かくなるため、浸透力が低下し、表面粗さは減少する。逆に、メッシュサイズを小さくすると、表面粗さは増加する。
・ブラスト圧力が増加すると、浸透力も増加するため、表面粗さも増加する。
・これら2つのケースでは、処理時間に大きな変化は見られない。
・処理時間は、主にブラスト角度と距離に依存する。
・ブラスト角度を大きくし、ブラスト流を表面に垂直にすると、ブラストにかかる時間は短縮される。
・ブラスト距離を50mmから100mmに増やすと、表面粗さは増加した後、減少する。
・しかし、距離が長くなると、他のパラメータと比較して時間が長くなる。これは、距離が長くなると研磨粒子が表面に到達する速度が遅くなり、そのため表面に浸透できなくなるためである。」
(2)甲1に記載された発明
ア 上記(1)イによれば、甲1には、鋼材基材にコーティングを施す前に表面処理工程を行うこと、表面処理とはコーティングとの密着性を高めるために表面を処理する工程であること、上記表面処理としてブラスト処理を行うことが記載され、上記(1)アによれば、上記コーティングが、MSGL圧力容器を製造するためのガラスコーティングであることも明らかである。
イ 上記(1)ウ、エによれば、甲1には、Sr番号8として、14メッシュの酸化アルミニウムグリットを用いて、ブラスト圧力100PSI、スタンドオフ距離50mm、衝撃角度90°で軟鋼板の表面をブラスト処理することで、軟鋼板を表面粗さ7.13ミクロンとする例が記載されている。
ウ 以上によれば、甲1には以下の発明が記載されていると認められる。
「ガラスコーティングの前に14メッシュの酸化アルミニウムグリットを用いて、ブラスト圧力100PSI、スタンドオフ距離50mm、衝撃角度90°で軟鋼板の表面をブラスト処理し、表面粗さ7.13ミクロンとする、MSGL圧力容器の製造方法。」(以下「甲1発明」という。)
(3)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1の上記(1)イに示した「グリットブラストは、様々な産業用途で使用されている。この工程の目的は、基材の洗浄、粗面化、材料除去、表面テクスチャリング、バリ取りである。」なる記載を参照するに、甲1発明の「14メッシュの酸化アルミニウムグリットを用いて、ブラスト圧力100PSI、スタンドオフ距離50mm、衝撃角度90°で軟鋼板の表面をブラスト処理し、表面粗さ7.13ミクロンとする」ことは、グリットによって洗浄、粗面化を行うものと解され、「粗面化された金属基材を作製する」ものである限りにおいて、本件発明1と共通する。
(イ)甲1発明の「ガラスコーティング」は、ガラス層である限りにおいて、本件発明1の「グラスライニング層」と共通する。
また、甲1発明のブラスト処理は、「MSGL圧力容器」を製造する際の「ガラスコーティング」の前処理として行われるものであるから、該「MSGL圧力容器」は、ブラスト処理の後、ガラスコーティングする工程を経て製造されることが明らかである。
したがって、甲1発明の「MSGL圧力容器」は、ガラス層を備えた「製品」である限りにおいて、本件発明1と共通するものであり、甲1発明の「MSGL圧力容器の製造方法」は、「粗面化された金属基材の前記表面上に」ガラス層「を形成する工程」を含む「製品の製造方法」である限りにおいて、本件発明1と共通する。
(ウ)そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「粗面化された金属基材を作製する工程と、
前記粗面化された金属基材の表面上にガラス層を形成する工程と、
を含むガラス層を備えた製品の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1は「粗面化された金属基材」が「JIS B 0633:2001で測定される表面粗さRa(JIS B 0601:1994)が6~9μmであり、JIS B 0633:2001で測定される表面粗さRz(JIS B 0601:1994)が25~39μmである表面をもつ」ものであるのに対し、甲1発明はそのような特定をしていない点。
<相違点2>
本件発明1は「釉薬を焼き付けることにより」「形成」された「グラスライニング層」を備えた「グラスライニング製品」を製造するものであるのに対し、甲1発明はそのような特定をしていない点。
イ 相違点についての判断
上記相違点1について検討する。
(ア)甲1には、金属基材の表面粗さRaを所定範囲とし、さらに、表面粗さRzも所定範囲とすることに着目した記載は見当たらない。また、このことが技術常識であるともいえない。
さらに、上記(1)エに示した表7をみるに、甲1には、軟鋼板の表面粗さを所定範囲(6.18~7.34ミクロン程度)に制御できることは記載されているものの、該表面粗さがどのような基準で算出されたものであるのか(本件発明におけるRaに相当するものであるのか、Rzに相当するものであるのか、それとも、それらのどれでもないのか)は全く不明である。
したがって、甲1の記載から、甲1発明において、表面粗さRa及びRzを、ともに所定範囲に設定することが動機付けられるとはいえない。
(イ)a 申立人は、本件明細書等には、RaおよびRzを制御する具体的な手段として研磨材の種類および平均粒径の好適な条件に係る事項のみが説明されており、本件発明1において特定されるRaおよびRzの範囲は、【0020】に記載された研磨材の種類および平均粒径を充足する条件で粗面化を行うことで実現されると解されること、甲1における「メッシュサイズ14」のブラスト媒体は、0.84~1.4mm程度の平均粒径と解され、本件明細書等において好適な平均粒径として記載されている0.5~2.0mmの範囲にあることを挙げ、甲1発明は、本件発明1で特定される範囲のRa及びRzを満たすことを主張する(特許異議申立書の第12頁第16行~第14頁下から5行)。
b しかし、「メッシュサイズ14」とは、1インチ当たりの網目の数が14個であることを表すものにすぎず、目開きの大きさは、線径によって変化するものと認められるから、「メッシュサイズ14」の篩の目開きが約1.4mmであるかは不明である。仮に、ブラスト媒体が「メッシュサイズ14」であることが、該ブラスト媒体が目開き約1.4mmのメッシュを通過したものであることを表すとしても、該メッシュを通過させることにより、ある程度の粗大な粒子が除去されたものであるとは解されるものの、直ちに平均粒径が0.84~1.4mm程度となることを意味すると解することはできない。そうすると、甲1における「メッシュサイズ14」のブラスト媒体が、0.84~1.4mm程度の平均粒径と解されることを前提とする申立人の上記主張は採用することができない。
c また、仮に、甲1における「メッシュサイズ14」のブラスト媒体が、0.84~1.4mm程度の平均粒径と解されるとしても、技術常識からみて、ブラスト処理により形成される表面粗さは、ブラスト媒体の種類および平均粒径のみにより決定できるものではなく、ブラスト媒体を噴射するためのノズルの種類や噴射圧、ノズル-被処理基材間の距離等の他のパラメータにも依存して変化することは明らかであり(上記(1)ウ)、これらのパラメータが不明である甲1発明が、本件発明1で特定される範囲のRa及びRzを満たすとまではいえないものである。
d よって、申立人の上記主張は、採用することができない。
(ウ)したがって、甲1発明において、上記相違点1に係る「粗面化された金属基材」が「JIS B 0633:2001で測定される表面粗さRa(JIS B 0601:1994)が6~9μmであり、JIS B 0633:2001で測定される表面粗さRz(JIS B 0601:1994)が25~39μmである表面をもつ」という発明特定事項を備えることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
なお、甲2~甲3-4には、「グラスライニング」が、ガラスや釉薬を加熱ないしは焼き付けることにより形成されることについての記載はあるものの、Ra及びRzを、ともに所定範囲に設定することに着目した記載は見当たらないから、上記の判断は、甲2~甲3-4の記載を参酌しても変わるものではない。
ウ 小括
以上のとおり、他の相違点については検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)本件発明2~6について
本件特許の請求項2~6は、請求項1の記載を直接または間接的に引用するものであるから、本件発明2~6は、本件発明1の発明特定事項をすべて備えたものである。
そして、上記(3)のとおり、本件発明1が甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、同様に、本件発明2~6も、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5)まとめ
以上のとおり、本件発明1~6は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。
したがって、申立理由1によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由2(実施可能要件)
(1)本件明細書等の記載
本件明細書等には、以下の記載がある(なお、下線は当合議体が付したものである。以下同様。)。
ア 「【0010】
このように、種々の観点からグラスライニング製品は改良されてきている。しかしながら、グラスライニング層と金属基材の間の密着性に関しては未だ十分な検討がなされておらず、グラスライニング層と金属基材の間の密着性が改善されたグラスライニング製品が得られることが望ましい。
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、一実施形態において、グラスライニング層と金属基材の間の密着性が改善されたグラスライニング製品を提供することを課題とする。本発明は別の一実施形態において、そのようなグラスライニング製品の製造方法を提供することを課題とする。」
イ 「【0017】
(1.金属基材)
金属基材としては、限定的ではないが、低炭素鋼、ステンレス鋼等の鉄合金が例示される。金属基材の形状にも特に制限はないが、壁状、板状、翼状及び棒状等が挙げられる。
【0018】
金属基材の表面は、JIS B 0633:2001で測定される表面粗さRa(JIS B 0601:1994)が2~9μmであることが好ましい。金属基材の表面粗さRaの下限が2μm以上であることで、金属基材とグラスライニング層の密着強度を高めることができる。金属基材の表面粗さRaは好ましくは3μm以上であり、より好ましくは5μm以上である。また、金属基材の表面粗さRaの上限が9μm以下であることで、グラスライニング層の粗大気泡の発生抑制という利点が得られる。金属基材の表面粗さRaは好ましくは8μm以下であり、より好ましくは7μm以下である。
【0019】
また、金属基材の前記表面は、JIS B 0633:2001で測定される表面粗さRz(十点平均粗さ)(JIS B 0601:1994)が15~39μmであることが好ましい。金属基材の表面粗さRzの下限が15μm以上であることで、金属基材とグラスライニング層の密着強度を更に高めることができる。金属基材の表面粗さRzは好ましくは20μm以上であり、より好ましくは25μm以上である。また、金属基材の表面粗さRzの上限が39μm以下であることで、グラスライニング層の粗大気泡の発生抑制という利点が得られる。金属基材の表面粗さRzは好ましくは37μm以下であり、より好ましくは35μm以下である。
【0020】
金属基材の表面粗さは粗面化処理を行うことで制御可能である。例えば、金属基材の表面に対してサンドブラスト処理を行うことで粗面化することができる。一実施形態において、サンドブラスト処理は、平均粒径が0.5mm以上2mm以下の研磨材を吹き付けることを含む。平均粒径が2mm以下、好ましくは1.5mm以下の研磨材を使用してサンドブラスト処理することで、気泡を伴うブロー欠陥が発生するのを抑制可能である。また、平均粒径が0.5mm以上、好ましくは0.6mm以上の研磨材を使用してサンドブラスト処理することで、金属基材の表面を上述した範囲に制御しやすくなり、グラスライニングと金属基材の密着性が向上しやすくなる。研磨材としては、限定的ではないが、ガラスとの過剰な反応防止の理由から、アルミナ粉、鉄グリッド粉、鉄ショット粉等を好適に使用できる。・・・」
ウ 「【0021】
(2.グラスライニング層)
グラスライニング層は、前記粗面化された金属基材の前記表面上に釉薬(以下、「グラスライニング用スラリー組成物」ともいう。)を焼き付けることにより形成可能である。グラスライニング層を形成するための施釉操作、焼成温度等の条件は特に限定されるものではなく、グラスライニングにおける慣用、公知の操作を使用することができる。但し、施釉操作は、厚みを制御しやすい理由から、スプレー施工することが好ましい。また、焼成温度は、金属基材の変形抑制の理由から、800~900℃が好ましい。グラスライニング層は一層又は複数層で構成することができる。
【0022】
グラスライニング層としては、例えば、グランドコート層(グラスライニング層のうち、最内層)、カバーコート層(グラスライニング層のうち、最外層)、及び中間層(グランドコート層及びカバーコート層に挟まれた層)が挙げられる。
【0023】
図1には、本発明の一実施形態に係るグラスライニング製品10の層構造例が模式的に示されている。グラスライニング製品10は、金属基材11の表面に、グランドコート層12、中間層13、及びカバーコート層14が順に積層された表面構造を有する。
【0024】
一実施形態において、グラスライニング層の合計厚みは0.6~1.8mmである。この合計厚みが1.8mm以下、好ましくは1.4mm以下であることで、熱伝導性向上効果が得られる。この合計厚みが0.6mm以上、好ましくは0.8mm以上であることで、製品として安全な耐食性が得られる。
【0025】
釉薬(グラスライニング用スラリー組成物)は用途に応じて公知のものを適宜選択することができ、特に制限はないが、以下に例示する。」
エ 「【実施例】
【0049】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、本発明が限定されることを意図するものではない。
【0050】
<1.フリットの作製>
表1に記載する組成の原料配合物を1260℃で4時間加熱することにより溶融し、次いで、急冷することにより粗粉砕物を得た。得られた粗粉砕物を慣用のアルミナボールを用いたボールミルにて乾式粉砕し、得られた粉砕物を分級することにより、表1に記載の平均粒径をもつ各種のフリットを得た。平均粒径は、(株)セイシン企業製のレーザー回折粒度分布装置(型式:LMS-30)により測定される体積基準の累積粒度分布に基づいて求めた。
【0051】
【表1】
略
【0052】
<2.グラスライニングスラリー組成物の調製>
水30質量部、白金繊維(長さ100μm、直径1μm)0.3質量部、CMC1.5質量%水溶液50質量部(固形分換算)、及びポリカルボン酸アンモニウム塩0.05質量部を混合機に投入し、10分間撹拌した。その後、上記で作製した第一釉薬用フリット100質量部、珪石50質量部を混合機に投入し、更に20分間撹拌して、スラリー状の第一釉薬を得た。
【0053】
水30質量部、白金繊維0.3質量部、CMC1.5質量%水溶液50質量部(固形分換算)、及びポリカルボン酸アンモニウム塩0.05質量部を混合機に投入し、10分間撹拌した。その後、上記で作製した第二釉薬用フリット100質量部を混合機に投入し、更に20分間撹拌して、スラリー状の第二釉薬を得た。
【0054】
水30質量部、白金繊維0.3質量部、CMC1.5質量%水溶液50質量部(固形分換算)、及びポリカルボン酸アンモニウム塩0.05質量部を混合機に投入し、10分間撹拌した。その後、上記で作製した第三釉薬用フリット100質量部を混合機に投入し、更に20分間撹拌して、スラリー状の第三釉薬を得た。」
オ 「【0055】
<3.機械衝撃性試験>
1辺が100mmの正方形状で厚みが5mmの低炭素鋼板の一方の主表面に対して、サンドブラスト処理を行った。この際、サンドブラスト処理するときの研磨材(ブラウンアルミナ)の平均粒径を変化させることで種々の表面粗さをもつ実施例及び比較例のステンレス鋼板を得た。サンドブラスト処理後の各低炭素鋼板の表面粗さRa(JIS B 0601:1994)及びRz(JIS B 0601:1994)を接触式ポータブル粗さ計(MITECHINSTRUMENT製/MDT310)でJIS B 0633:2001に準拠して測定した。結果を表2に示す。
【0056】
次いで、このようにして得られた種々の表面粗さを有する低炭素鋼板の表面に、第一釉薬をスプレー塗布により施釉して860℃で15分間焼成する工程を1回行うことにより、厚み200μmのグランドコート層を得た。次いで、第二釉薬をグランドコート層の上にスプレー塗布により施釉して800℃で15分間焼成する工程を3回実施することにより、厚み500μmの中間層を得た。次いで、第三釉薬を中間層の上にスプレー塗布により施釉して800℃で15分間焼成する工程を1~3回実施することにより、厚み300μmのカバーコート層を得た。
【0057】
このようにして得られたグラスライニング層付き鋼板について、DIN-51155規格の機械衝撃性試験により、グラスライニング層と鋼板の機械衝撃性(剥離荷重)を測定し、及び気泡を伴うブロー欠陥の有無を目視で確認した。ブロー欠陥が確認された場合は、その程度を「少」及び「多」で分類わけした。「少」はブロー欠陥が1m2あたり5個未満であることを意味する。「多」はブロー欠陥が1m2あたり5個以上であることを意味する。結果を表2に示す。
【0058】
【表2】
[図:0001437410000003.jpg]
」
(2)実施可能要件についての判断
ア 上記第2のとおり、本件発明1は、「JIS B 0633:2001で測定される表面粗さRa(JIS B 0601:1994)が6~9μmであり、JIS B 0633:2001で測定される表面粗さRz(JIS B 0601:1994)が25~39μmである表面をもつ粗面化された金属基材を作製する工程と、
前記粗面化された金属基材の前記表面上に釉薬を焼き付けることによりグラスライニング層を形成する工程と、
を含むグラスライニング製品の製造方法。」に関する発明である。
イ 本件明細書等には、上記(1)イに示したとおり、「金属基材の表面粗さは粗面化処理を行うことで制御可能である。例えば、金属基材の表面に対してサンドブラスト処理を行うことで粗面化することができる。一実施形態において、サンドブラスト処理は、平均粒径が0.5mm以上2mm以下の研磨材を吹き付けることを含む。平均粒径が2mm以下、好ましくは1.5mm以下の研磨材を使用してサンドブラスト処理することで、気泡を伴うブロー欠陥が発生するのを抑制可能である。また、平均粒径が0.5mm以上、好ましくは0.6mm以上の研磨材を使用してサンドブラスト処理することで、金属基材の表面を上述した範囲に制御しやすくなり、グラスライニングと金属基材の密着性が向上しやすくなる。」(【0020】)と記載されており、該記載によれば、金属基材をサンドブラスト等の手段により、金属基材表面のRaを6~9μm、Rzを25~39μmとできることが理解される。
ウ また、本件明細書等には、上記(1)エに示したように、サンドブラストにより金属基材表面のRa及びRzを所定範囲の値に制御することで、機械衝撃性試験の剥離荷重が高く、ブロー欠陥が少ない、すなわち、グラスライニングと金属基材の密着性が向上されたグラスライニング製品を得ることができることが、具体的な例をもって記載されている(【0055】~【0058】の実施例1~2)。
エ 上記イ、ウによれば、当業者であれば、本件明細書等の発明の詳細な説明に基づき、Raが6~9μm、Rzが25~39μmの範囲に粗面化された金属基材にグラスライニング層を形成したグラスライニング製品を生産できることが認識できるものである。
よって、本件特許の発明の詳細な説明は、本件発明1~6について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
オ 申立人の主張について
(ア)a 申立人は、本件明細書等の発明の詳細な説明には、Ra及びRzを制御するための手段として、ブラスト処理における研磨材の種類及び平均粒径に係る事項のみが説明されているが、ブラストの投射時間や圧力等もRa及びRzに影響を与え得るものであることが技術常識として知られており、これらについての開示を欠く本件明細書等の発明の詳細な説明は、Ra及びRzを制御する具体的な方法について十分に開示しているとはいえないことを主張する(特許異議申立書第17頁下から3行~第22頁下から2行)。
b しかし、申立人が主張するように、投射時間や圧力等もRa及びRzに影響を与え得るものであることは技術常識として知られているのであるから、本件明細書等の発明の詳細な説明にこれらの開示がなくても、当業者であれば、本件発明1を実施するに際し、金属基材のブラスト処理時に所望のRa及びRzが得られるように、これらの条件も適宜に調整することは、当然になすべき事項であり、当業者に過度の試行錯誤を強いるものとまではいえない。
(イ)a 申立人は、釉薬に係る諸条件及びこれを焼き付ける際の諸条件がグラスライニング層と金属基材の密着性に影響するものであるが、本件明細書等の発明の詳細な説明においては、特定の組成の釉薬を特定の温度条件及び時間条件で焼成した場合についてのみ実施例として具体的な検証を行っているものであることを主張する(特許異議申立書第23頁第11行~第25頁第11行)。
b しかし、本件明細書等には、上記(1)ウに、「釉薬(グラスライニング用スラリー組成物)は用途に応じて公知のものを適宜選択することができ、特に制限はない」(【0025】)と示されているように、組成等の釉薬に係る諸条件は、コーティング層に求められる特性等に応じて、当業者が適宜選択すべき事項にすぎないものである。また、焼成の条件についても、釉薬に係る諸条件に応じて当然に選択すべき事項にすぎないものである。そして、これらの選択が当業者に過度の試行錯誤を強いるものとまではいえない。
(ウ)a 申立人は、ブロー欠陥の評価に用いられる試料は「1辺が100mmの正方形状」のものであり、その面積は10000mm2 (0.01m2)であるから、1m2あたりのブロー欠陥の数は、「0、100、200、・・・」の離散的な値しか取り得ず、1m2あたりのブロー欠陥の数が5個未満の「少」の水準は生じないことになるから、本件明細書等の発明の詳細な説明に記載された実施例、比較例のうち、ブロー欠陥の評価が「少」の評価である比較例3、4は、その妥当性に疑義があることを主張する(特許異議申立書第26頁下から13行~第27頁第3行)。
b しかし、上記ブロー欠陥の評価に際し、例えば、多数の評価用試料を観察し、その合計のブロー欠陥の数を1m2あたりに換算して、該評価の指標とすることは、通常考え得ることであり、その場合、ブロー欠陥の評価が「少」の評価となる例が存在することも十分に想定されるところであるから、申立人の上記主張は採用することができない。
(エ)a 申立人は、本件明細書等の発明の詳細な説明に記載された実施例、比較例においては、測定誤差が±15%である接触式ポータブル粗さ計(MITECHINSTRUMENT製/MDT310)を用いてRa及びRzを測定している(甲7-1、甲7-2)から、例えば、実施例2はRaが9±1.35μm、 Rzが38±5.7μm、比較例3はRaが10±1.5μm、Rzが40±6.0μmとなり、これらによりRaについて1μm、Rzについて2μmの微差が本件発明の作用効果の成否に関わることを妥当に評価できているとは認められない点を主張する(特許異議申立書第27頁第4~17行)。
b しかし、測定装置が誤差を含んでいることが、本件発明を実施できるか否かに影響するものではないから、上記主張には理由がなく採用することができない。なお、技術常識に照らして、測定結果に測定誤差や変動性が想定される場合には、装置の校正・補正を行ったり、複数回測定して平均値を取ったりした上で、閾値が決定されていると解されるから、実施例、比較例のRa及びRzは妥当に評価できていると認められる。また、比較例のRa及びRzの値が本件発明1の範囲に含まれていると解すべき理由もない。
(オ)a 申立人は、本件発明は、グラスライニング層と金属基材の間の密着性が改善されたグラスライニング製品を提供することを解決すべき課題とするものであり、該課題が解決されるためには、施工面の全体にわたって密着性が改善される必要があると解されるが、本件発明は、金属基材が粗面化される範囲及びグラスライニング層が設けられる範囲を特定するものではなく、本件発明は上記課題を解決しない場合を含むものであることを主張する(特許異議申立書第27頁第24行~第29頁第23行)。
b しかし、本件明細書等の発明の詳細な説明の記載に接した当業者であれば、上記課題を解決するためには、必ずしも施工面の全体にわたって密着性が改善される必要があるとまではいえず、本件発明に特段の特定がなくとも、少なくとも密着性を向上させるべき部位において所定の粗面化を行い、その粗面化された部位においてグラスライニング層を形成しようとすることは明らかである。
カ したがって、本件明細書等の発明の詳細な説明は、本件発明1について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。本件特許の請求項1の記載を直接または間接的に引用する本件発明2~6についても同様である。
(3)小括
以上のとおり、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1~6について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、特許法第36条第4項第1号に適合するものであるから、申立理由2によっては、請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由3(サポート要件)
(1)上記第2のとおり、本件発明1は、「JIS B 0633:2001で測定される表面粗さRa(JIS B 0601:1994)が6~9μmであり、JIS B 0633:2001で測定される表面粗さRz(JIS B 0601:1994)が25~39μmである表面をもつ粗面化された金属基材を作製する工程と、
前記粗面化された金属基材の前記表面上に釉薬を焼き付けることによりグラスライニング層を形成する工程と、
を含むグラスライニング製品の製造方法。」に関する発明である。
(2)一方、本件明細書等の発明の詳細な説明の記載をみるに、本件発明において解決すべき課題は、「グラスライニング層と金属基材の間の密着性が改善された」「グラスライニング製品の製造方法を提供すること」(【0011】)と認められる。
(3)ア そして、上記2(1)イに示したとおり、本件明細書等の発明の詳細な説明【0018】~【0020】の記載によれば、金属基材をサンドブラスト等の手段により、金属基材表面のRaを6~9μm、Rzを25~39μmとすることでグラスライニングと金属基材の密着性が向上することが理解される。
イ また、上記2(1)オに示したとおり、本件明細書等の発明の詳細な説明【0055】~【0058】によれば、サンドブラストにより金属基材表面のRa及びRzを所定範囲にある値に制御することで、機械衝撃性試験の剥離荷重が高く、ブロー欠陥が少ない、すなわち、グラスライニングと金属基材の密着性が向上されたグラスライニング製品を得ることができることが、具体的な例をもって記載されている。
(4)上記(3)によれば、本件明細書等の発明の詳細な説明には、Raが6~9μm、Rzが25~39μmの範囲に粗面化された金属基材にグラスライニング層を形成することで、上記(2)に示した課題を解決できることが記載されているといえる。
よって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~6の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものである。
(5)申立人の主張について
ア(ア)申立人は、本件明細書等の発明の詳細な説明には、金属基材が低炭素鋼板であり、研磨材がブラウンアルミナであり、研磨材の平均粒径が1.0mm(実施例1)または1.7mm(実施例2)である場合についてのみ、本件発明1において特定されたRa及びRzを実現できることが記載されており、該記載を本件発明1の残余の範囲にまで拡張ないし一般化できるとはいえないことを主張する(特許異議申立書第22頁下から1行~第23頁第10行)。
(イ)しかし、上記(3)のとおり、本件明細書等の発明の詳細な説明の記載からは、Raが6~9μm、Rzが25~39μmの範囲に粗面化された金属基材にグラスライニング層を形成することで、上記(2)に示した課題を解決できることが把握され、本件発明1はこれらの事項を特定するものである。また、金属基材及び研磨材が特定のものでない場合においても、本件発明1において特定されたRa及びRzを満たすことにより、上記課題が解決できると当業者が理解できる。したがって、本件発明1は、上記課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているとはいえない。
イ(ア)申立人は、本件明細書等の発明の詳細な説明には、特定の組成の釉薬を特定の温度条件及び時間条件で焼成した場合についてのみ具体的な検証が行われており、本件発明1の残余の範囲にまで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないことを主張する(特許異議申立書第23頁第11行~第25頁第6行)。
(イ)しかし、上記2(1)ウに、「釉薬(グラスライニング用スラリー組成物)は用途に応じて公知のものを適宜選択することができ、特に制限はない」(【0025】)と示されているように、組成等の釉薬に係る諸条件は、コーティング層に求められる特性等に応じて、当業者が適宜選択すべき事項にすぎないものである。また、焼成の条件についても、釉薬に係る条件に応じて当然に選択すべき事項にすぎないものである。また、釉薬の組成が特定の組成でない場合、また、特定の温度条件及び時間条件でない場合においても、本件発明1において特定されたRa及びRzを満たすことにより、上記課題が解決できると当業者が理解できる。したがって、本件発明1は、上記課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているとはいえない。
(6)そうすると、本件発明1は、発明の詳細な説明において、上記(2)の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものとはいえない。この点は、本件特許の請求項1の記載を直接又は間接的に引用する本件発明2~6についても同様である。
(7)小括
以上のとおり、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~6の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものといえ、特許法第36条第6項第1号に適合するものであるから、申立理由3によっては、同請求項に係る特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、申立人による特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2026-700016