特許異議申立
2023-700044
非水電解質二次電池の集電体用のクロム含有鋼板
- 審判番号
- 2023-700044
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-523560
- 登録番号
- 7103551
- 請求日
- 2023年01月17日
- 審決日
- 2023年07月12日
- 公報発行日
- 2023年10月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】JFEスチール株式会社
- 【権利者代理人】坂井 哲也
- 【権利者代理人】磯村 哲朗
- 【権利者代理人】熊坂 晃
- 【権利者代理人】森 和弘
- 【異議申立人】小海 善史
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 信一
- 審判官 山田 正文
- 審判官 須原 宏光
- 分類
- P1651.16 -YAA(H01M) / P1651.4 -YAA(H01M) / P1651.121-YAA(H01M) / P1651.537-YAA(H01M) / P1651.536-YAA(H01M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第39条第1項、特許法第29条第2項、特許法第29条の2、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7103551号発明「非水電解質二次電池の集電体用のクロム含有鋼板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7103551号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-2〕について訂正することを認める。
特許第7103551号の請求項1に係る特許を維持する。
特許第7103551号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7103551号の請求項1ないし2に係る特許についての出願は、2021年12月13日(優先権主張 2020年12月15日、日本国)を国際出願日とする出願であって、令和4年7月11日にその特許権が設定登録され、令和4年7月20日に特許掲載公報が発行された。
その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和5年 1月17日 :特許異議申立人小海善史(以下、「申立人」という。)による請求項1-2に係る特許に対する特許異議の申立て
令和5年 3月16日付け:取消理由通知
令和5年 4月20日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
なお、令和5年4月20日に提出された特許権者による意見書及び訂正請求書に対して、申立人に期間を指定して意見書を提出する機会を設けたが、申立人から意見書は提出されなかった。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和5年4月20日付けの訂正請求の趣旨は、特許第7103551号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2に訂正することを求めるものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「Crを10質量%以上含有する成分組成を有し、
ISO 25178に規定されるパラメータSaが0.15μm以上0.50μm以下であり、かつ、ISO25178に規定されるパラメータSskが0超である、非水電解質二次電池の集電体用のクロム含有鋼板。」と記載されているのを、
「Crを10質量%以上含有する成分組成を有し、
ISO 25178に規定されるパラメータSaが0.15μm以上0.50μm以下であり、かつ、ISO25178に規定されるパラメータSskが0超1.00以下であり、
[金属形態以外(Cr+Fe)]/[金属形態(Cr+Fe)]が8.0以下である、非水電解質二次電池の集電体用のクロム含有鋼板。
ここで、[金属形態以外(Cr+Fe)]/[金属形態(Cr+Fe)]は、前記クロム含有鋼板の表面において金属の形態として存在するCrおよびFeの合計に対する、金属以外の形態で存在するCrおよびFeの合計の比である。」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
2 訂正要件についての判断
(1)一群の請求項について
訂正事項1、2に係る本件訂正前の請求項1ないし2について、請求項2は請求項1を引用しているから、本件訂正前の請求項1ないし2に対応する本件訂正の請求項〔1-2〕は、特許法第120条の5第4項に規定する関係を有する一群の請求項である。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、独立特許要件
ア 訂正事項1について
(ア)訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載されていた「ISO25178に規定されるパラメータSsk」について、「1.00以下」とその範囲の上限を限定すると共に、訂正前の請求項1に記載されていた「クロム含有鋼板」について、「[金属形態以外(Cr+Fe)]/[金属形態(Cr+Fe)]が8.0以下である」、「ここで、[金属形態以外(Cr+Fe)]/[金属形態(Cr+Fe)]は、前記クロム含有鋼板の表面において金属の形態として存在するCrおよびFeの合計に対する、金属以外の形態で存在するCrおよびFeの合計の比である。」と限定するものである。
よって、訂正事項1は、請求項1について、特許請求の範囲を減縮するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
(イ)新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
明細書の段落【0032】には「Sskは、好ましくは1.00以下」と記載され、段落【0053】には「上述したように、クロム含有鋼板の表面において、[金属形態以外(Cr+Fe)]/[金属形態(Cr+Fe)]を8.0以下の範囲に制御することによって、スマットが十分に除去され、さらなる界面抵抗低減効果が得られる。よって、[金属形態以外(Cr+Fe)]/[金属形態(Cr+Fe)]は、8.0以下が好ましい。・・・ここで、[金属形態以外(Cr+Fe)]/[金属形態(Cr+Fe)]は、クロム含有鋼板の表面において金属の形態として存在するCrおよびFeの合計に対する、金属以外の形態で存在するCrおよびFeの合計の比である。」と記載されている。
よって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
イ 訂正事項2について
訂正事項2に係る請求項2の訂正は、請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項2に係る訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
ウ 独立特許要件について
訂正事項1は、上記「ア(ア)」に示したとおり、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするところ、本件においては、訂正前の請求項1ないし2について特許異議の申立てがされているから、対応する訂正後の請求項1ないし2に係る発明について、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-2〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1ないし2に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明2」という。)は、その訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された次の事項により特定されるものである。なお、下線は、訂正箇所を示す。
「【請求項1】
Crを10質量%以上含有する成分組成を有し、
ISO 25178に規定されるパラメータSaが0.15μm以上0.50μm以下であり、かつ、ISO25178に規定されるパラメータSskが0超1.00以下であり、
[金属形態以外(Cr+Fe)]/[金属形態(Cr+Fe)]が8.0以下である、非水電解質二次電池の集電体用のクロム含有鋼板。
ここで、[金属形態以外(Cr+Fe)]/[金属形態(Cr+Fe)]は、前記クロム含有鋼板の表面において金属の形態として存在するCrおよびFeの合計に対する、金属以外の形態で存在するCrおよびFeの合計の比である。
【請求項2】
(削除)」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
令和5年3月16日付けの取消理由通知に記載した取消理由の概要は、次のとおりである。
1(サポート要件)本件請求項1及び2に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2(拡大先願)本件請求項1に係る発明は、その出願の日前の日本語特許出願であって、その出願後に国際公開がされた以下の日本語特許出願(先願1)の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の日本語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記日本語特許出願の出願人と同一でもないので、本件請求項1に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。
記
●理由1(サポート要件)について
・請求項1について
発明の詳細な説明【0013】、【0018】、【0022】、【0023】、【0030】、【0032】、【0070】、【0076】、【0093】、【0094】の記載によれば、発明の詳細な説明には、鋼板表面と電極活物質との界面抵抗を低減しレート特性及びサイクル特性を改善するために、クロム含有鋼板の表面にISO25178に規定されるパラメータSaが0.15μm以上0.50μm以下、かつ、ISO25178に規定される面粗さのパラメータの一種であるSskが0超1.00以下の凹凸構造を形成すると共に、[金属形態以外(Cr+Fe)]/[金属形態(Cr+Fe)]を8.0以下に制御し、課題を解決することが記載されていると認められる。
しかしながら、請求項1には「Crを10質量%以上含有する成分組成を有し、ISO25178に規定されるパラメータSaが0.15μm以上0.50μm以下であり、かつ、ISO25178に規定されるパラメータSskが0超である」と記載されているものの、[金属形態以外(Cr+Fe)]/[金属形態(Cr+Fe)]を8.0以下に制御することは特定されていない。
そうすると、請求項1に記載の製造方法で作成された「非水電解質二次電池の集電体用のクロム含有鋼板」は、[金属形態以外(Cr+Fe)]/[金属形態(Cr+Fe)]を8.0以下に制御することを満たさないものも含まれることになるが、そのようなものは必ずしも上記の課題を解決できるものとは認められない。
したがって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された課題を解決する手段が反映されていない。
よって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
・請求項1および2について
発明の詳細な説明には、鋼板表面と電極活物質との界面抵抗を低減しレート特性及びサイクル特性を改善するために、クロム含有鋼板の表面にISO25178に規定されるパラメータSaが0.15μm以上0.50μm以下、かつ、ISO25178に規定される面粗さのパラメータの一種であるSskが0超1.00以下の凹凸構造を形成すると共に、[金属形態以外(Cr+Fe)]/[金属形態(Cr+Fe)]を8.0以下に制御し、課題を解決することが記載されていると認められる。
しかしながら、請求項1には「ISO25178に規定されるパラメータSaが0.15μm以上0.50μm以下であり、かつ、ISO25178に規定されるパラメータSskが0超である」と記載されているものの、パラメータSskが1.00以下であることは特定されていない。
そうすると、請求項1に記載の製造方法で作成された「非水電解質二次電池の集電体用のクロム含有鋼板」は、パラメータSskが1.00以下であることを満たさないものも含まれることになるが、そのようなものは必ずしも上記の課題を解決できるものとは認められない。
したがって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された課題を解決する手段が反映されていない。
よって、請求項1に係る発明および請求項1を引用する請求項2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
●理由2(拡大先願)について
先願1:特願2021-501054号(PCT/JP2020/021997号、国際公開第2020/250784号(甲第1号証)、特許第6908207号公報、優先権主張:2019年6月11日、国際出願日:2020年6月3日、国際公開日:2020年12月17日、特許公報発行日:令和3年(2021年)7月21日)
2 当審の判断
(1)理由1(サポート要件)について
本件訂正により、本件発明1は「Crを10質量%以上含有する成分組成を有し、ISO25178に規定されるパラメータSaが0.15μm以上0.50μm以下であり、かつ、ISO25178に規定されるパラメータSskが0超1.00以下であり、[金属形態以外(Cr+Fe)]/[金属形態(Cr+Fe)]が8.0以下である、非水電解質二次電池の集電体用のクロム含有鋼板。ここで、[金属形態以外(Cr+Fe)]/[金属形態(Cr+Fe)]は、前記クロム含有鋼板の表面において金属の形態として存在するCrおよびFeの合計に対する、金属以外の形態で存在するCrおよびFeの合計の比である。」とされ、[金属形態以外(Cr+Fe)]/[金属形態(Cr+Fe)]が8.0以下であると共にパラメータSskが0超1.00以下のクロム含有鋼板に特定された。
よって、上記取消理由1は解消した。
(2)理由2(拡大先願)について
ア 先願1の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明
(ア)先願1の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面の記載
先願1の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「先願1の明細書等」という。)には、以下の記載がある。なお、下線は当審で付与した。
「[0033] [4.ステンレス鋼の製造方法]
本発明のステンレス鋼の製造方法は、少なくとも、上述の粗化工程を有する。本発明のステンレス鋼の製造方法によれば、粗化処理の前よりも表面が粗い、すなわち、凹凸が処理前の表面よりも拡大された表面を有するステンレス鋼が製造できる。
本発明のステンレス鋼の製造方法の対象となるステンレス鋼は、上記[3.ステンレス鋼]の欄で述べたとおりである。
本発明のステンレス鋼の製造方法によって得られる粗化処理されたステンレス鋼表面の最大高さ(Rz)及び算術平均粗さ(Ra)は、上記[3.ステンレス鋼]の欄で述べたとおりである。
本発明のステンレス鋼の製造方法によって得られる粗化処理されたステンレス鋼は、例えば、固体電池やリチウムイオン電池などの電池用集電箔、太陽電池基材、電子デバイス用フレキシブル基板、蓄電デバイス用基板、排気ガス浄化触媒等の担体、電磁波シールド部材、及び放熱部材などの用途に用いることができる。本発明のステンレス鋼の製造方法によって得られる粗化処理されたステンレス鋼箔は、例えば、電池用集電箔として好適に用いられる。」
「実施例1
[0039] 厚さが20μm、縦と横の長さが30mm×30mmであり、材質がSUS304であるステンレス鋼箔を準備した。上記「ステンレス鋼箔の表面粗さの測定」に従って測定した、当該ステンレス鋼箔のRzは、1.2μm、Raは、0.2μmであった。
130mlの超純水に、過酸化水素を最終的に0.2質量%となる量(60wt%の過酸化水素水溶液を0.7g)、硫酸銅五水和物を6質量%(12.0g)、塩酸の35wt%水溶液を29質量%(57.1g)、それぞれ添加した水性組成物を準備した。この組成物中の硫酸銅に由来する銅イオン(Cu2+)の濃度は、水性組成物全量基準で1.5質量%、塩酸に由来するハロゲン化物イオン(Cl-)の濃度は、水性組成物全量基準で10質量%であった。
[0040] 上記ステンレス鋼箔を、まず、液温40℃の上記水性組成物に60秒間、浸漬した。次いで、浸漬後のステンレス鋼箔を超純水で十分に水洗した後、十分に乾燥させて、表面処理箔を得た。得られた表面処理箔を上記「ステンレス鋼箔の表面観察」に従って観察した。その顕微鏡画像を図1に示す。また、得られた表面処理箔の表面の最大高さを上記「ステンレス鋼箔の表面粗さの測定」に従って測定したところ、Rzの値が5.9μm、Raの値が0.6μmであった。」
「[0059] [表1]
[図:0001402778000001.jpg]
」
(イ)先願1の明細書等に記載された技術事項
a 段落[0039]には、実施例1として、130mlの超純水に、過酸化水素を最終的に0.2質量%となる量、硫酸銅五水和物を6質量%、塩酸の35wt%水溶液を29質量%、それぞれ添加した、硫酸銅に由来する銅イオン(Cu2+)の濃度は、水性組成物全量基準で1.5質量%、塩酸に由来するハロゲン化物イオン(Cl-)の濃度は、水性組成物全量基準で10質量%である水性組成物を準備することが記載されている。
b 段落[0040]には、ステンレス鋼箔を、液温40℃の上記水性組成物に60秒間、浸漬することが記載されている。段落[0039]には、ステンレス鋼箔はSUS304であることが記載されている。
c 段落[0033]には、粗化処理されたステンレス鋼箔がリチウムイオン電池用集電箔として用いられることが記載されている。
d 段落[0059]の[表1]によれば、実施例1の処理液pHは0.05である。
(ウ)先願1の明細書等に記載された発明
上記「(イ)aないしd」によれば、先願1の明細書等には、実施例1として以下の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されていると認められる。
「130mlの超純水に、過酸化水素を最終的に0.2質量%となる量、硫酸銅五水和物を6質量%、塩酸の35wt%水溶液を29質量%、それぞれ添加した、硫酸銅に由来する銅イオン(Cu2+)の濃度は、水性組成物全量基準で1.5質量%、塩酸に由来するハロゲン化物イオン(Cl-)の濃度は、水性組成物全量基準で10質量%であるpH0.05の水性組成物を準備し、
液温40℃の上記水性組成物に60秒間、浸漬した、
リチウムイオン電池用集電箔として用いられる粗化処理されたSUS304であるステンレス鋼箔。」
イ 対比・判断
(ア)対比
本件発明1と先願発明とを対比する。
a 先願発明において、「ステンレス鋼箔」は、SUS304であるところ、SUS304はCrを18~20質量%含む鋼材である。
また、リチウムイオン電池は非水電解質二次電池の一種である。
してみると、先願発明の「リチウムイオン電池用集電箔として用いられる粗化処理されたSUS304であるステンレス鋼箔」は、本件発明1の「Crを10質量%以上含有する成分組成を有」する「非水電解質二次電池の集電体用クロム含有鋼板」に相当する。
b クロム含有鋼板が、本件発明1は「ISO 25178に規定されるパラメータSaが0.15μm以上0.50μm以下であり、かつ、ISO 25178に規定されるパラメータSskが0超1.00以下」であるのに対して、先願発明はその旨特定されていない点で相違する。
c クロム含有鋼板が、本件発明1は「[金属形態以外(Cr+Fe)]/[金属形態(Cr+Fe)]が8.0以下」、「ここで、[金属形態以外(Cr+Fe)]/[金属形態(Cr+Fe)]は、前記クロム含有鋼板の表面において金属の形態として存在するCrおよびFeの合計に対する、金属以外の形態で存在するCrおよびFeの合計の比である」のに対して、先願発明はその旨特定されていない点で相違する。
d 上記aないしcによれば、本件発明1と先願発明とは、次の一致点及び相違点を有する。
〈一致点〉
「Crを10質量%以上含有する成分組成を有する、非水電解質二次電池の集電体用クロム含有鋼板。」
〈相違点1〉
クロム含有鋼板が、本件発明1は「ISO 25178に規定されるパラメータSaが0.15μm以上0.50μm以下であり、かつ、ISO 25178に規定されるパラメータSskが0超1.00以下」であるのに対して、先願発明はその旨特定されていない点。
〈相違点2〉
クロム含有鋼板が、本件発明1は「[金属形態以外(Cr+Fe)]/[金属形態(Cr+Fe)]が8.0以下」、「ここで、[金属形態以外(Cr+Fe)]/[金属形態(Cr+Fe)]は、前記クロム含有鋼板の表面において金属の形態として存在するCrおよびFeの合計に対する、金属以外の形態で存在するCrおよびFeの合計の比である」のに対して、先願発明はその旨特定されていない点。
(イ)判断
事案に鑑み、相違点2について検討する。
a 本件の明細書段落【0020】ないし【0023】には、「【0020】さらに、素材となるクロム含有鋼板(素材クロム含有鋼板)に、第1の浸漬処理として、過酸化水素、銅イオンおよびハロゲン化物イオンを含む酸性水溶液を使用し、かつ、処理温度および処理時間をそれぞれ30~50℃および40~90秒とした浸漬処理を施し、当該第1の浸漬処理後、さらに、第2の浸漬処理として、(A)過酸化水素を含む酸性水溶液を使用し、処理温度および処理時間をそれぞれ30~60℃および5~120秒とした浸漬処理、(B)硝酸を含む水溶液を使用し、処理温度および処理時間をそれぞれ30~60℃および5~120秒とした浸漬処理、または、(C)前記(A)および(B)を組み合わせた処理、を施すことにより、所定の凹凸構造を形成でき、電池のレート特性およびサイクル特性を向上できることを知見した。【0021】さらに、第2の浸漬処理を、硝酸を含む水溶液を用いて実施することにより、クロム含有鋼板の表面において、金属の形態として存在するCrおよびFeの原子濃度の合計に対する、金属以外の形態として存在するCrおよびFeの原子濃度の比である[金属形態以外(Cr+Fe)]/[金属形態(Cr+Fe)]を8.0以下に制御すれば、さらなる界面抵抗低減効果を得ることができる。【0022】すなわち、第1の浸漬処理(エッチング処理)後、鋼板の表面にスマット(C、N、S、O、Fe、Cr、Ni、Cuを主要な構成元素とする混合物で電気抵抗が高い)が生成し、これらが残存すると、所望の凹凸構造が得られても、界面抵抗上昇の原因となってしまう場合がある。この点、上記のエッチング処理後に、上記の第2の浸漬処理(スマット除去処理)を行うことで、上記のスマットが除去され、界面抵抗の低減効果が安定して得られるようになる。特に、第2の浸漬処理の処理液として、硝酸を含む水溶液を用いることで、いっそうの界面抵抗低減効果を得ることができる。【0023】鋼板表面のスマット量は、[金属形態以外(Cr+Fe)]/[金属形態(Cr+Fe)]と相関があり、[金属形態以外(Cr+Fe)]/[金属形態(Cr+Fe)]が低いほど、スマットは十分に除去されていると言える。そのため、[金属形態以外(Cr+Fe)]/[金属形態(Cr+Fe)]を8.0以下に制御することにより、界面抵抗がより低減し、非水電解質二次電池の集電体にクロム含有鋼板を用いた場合でも、レート特性およびサイクル特性をより向上できる、と本発明者らは考えている。」と記載されている。
当該記載を考慮すれば、本件発明1の相違点2に係る構成は、クロム含有鋼板を第1の浸漬処理(エッチング処理)した後、硝酸を含む水溶液を用いて第2の浸漬処理(スマット除去処理)を実施することにより得られるものと認められる。
b これに対し、先願発明は「130mlの超純水に、過酸化水素を最終的に0.2質量%となる量、硫酸銅五水和物を6質量%、塩酸の35wt%水溶液を29質量%、それぞれ添加した、硫酸銅に由来する銅イオン(Cu2+)の濃度は、水性組成物全量基準で1.5質量%、塩酸に由来するハロゲン化物イオン(Cl-)の濃度は、水性組成物全量基準で10質量%であるpH0.05の水性組成物を準備し、液温40℃の上記水性組成物に60秒間、浸漬」するが、かかる処理は粗化処理(エッチング処理)にすぎず、当該処理の後、硝酸を含む水溶液を用いた浸漬処理(スマット除去処理)を実施するものではない。また、先願1の明細書等のその他の記載を検討しても、粗化処理(エッチング処理)の後、硝酸を含む水溶液を用いた浸漬処理(スマット除去処理)を行うことは記載も示唆もされていない。
してみると、本件発明1の上記相違点2に係る構成は実質的な相違であり、その他の相違点について検討するまでもなく本件発明1は先願1の明細書等に記載された発明と同一ではない。
したがって、本件請求項1に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものではない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立人の主張
申立人は特許異議申立書において、概略次のように主張している。
(1)請求項1に係る発明は下記の甲第1号証の請求項22に記載された発明と同一であるから、特許法第39条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)請求項1に係る発明は下記の甲第4ないし6号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
記
甲第1号証:国際公開第2020/250784号
甲第4号証:特開2020-140808号公報
甲第5号証:特開2009-26491号公報
甲第6号証:国際公開第01/29912号
(3)本件請求項1及び2に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
また、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである
記
本件特許の実施例には、Sskが0.4以下の実施例しか開示がなく、Sskが0.4を大きく越える集電箔を用いた場合に、界面抵抗の低減効果が得られるのか全く不明である。したがって、本件特許の明細書の発明の詳細な説明におけるかかる記載だけでは、本件特許の所望の効果が得られると当業者が認識できる程度に、具体例を開示して記載しているとは言えないから、本件特許発明1及び請求項2(以下、本件特許発明2ともいう)の記載は、明細書のサポート要件を満足しない。
また、同様の理由から、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が発明を実施できる程度にその内容が記載されているとは言えないから、本件明細書の本件特許発明1及び2の記載は、明細書の実施可能要件を満足しない。(第17頁第3ないし11行)
2 当審の判断
(1)特許法第39条第1項の規定違反について
ア 申立人の主張
申立人は特許異議申立書において、概略以下のように主張している。
甲第1号証の請求項4には、「ステンレス鋼の表面を粗化するための水性組成物であって、過酸化水素を前記水性組成物の全量基準で0.1~3.0質量%含み、銅イオンを前記水性組成物の全量基準で1.5~10質量%含み、ハロゲン化物イオンを前記水性組成物の全量基準で8~15質量%含む、水性組成物」、請求項15には、「請求項4に記載の水性組成物を用いて表面が粗化処理された粗化ステンレス鋼」、請求項22には、「請求項15に記載の粗化ステンレス鋼を含む電池用集電箔」が開示されている。(第4頁第15ないし23行)
本件の請求項1に係る特許発明は、甲第1号証の請求項22に係る発明と同一であるから、特許法第39条第1項の規定に基づき、取り消されるべきである。(第10頁第19ないし20行)
イ 当審の判断
甲第1号証に係る国際出願に対応する日本国特許出願である特願2021-501054号は、令和3年7月5日を登録日として設定登録されており、その特許公報である特許第6908207号の請求項22には「請求項15~21のいずれかに記載の粗化ステンレス鋼の製造方法。」と記載されており、粗化ステンレス鋼を含む電池用集電箔は記載されていない。また、当該特許の特許請求の範囲に記載された発明は、「水性組成物」、「ステンレス鋼の粗化処理方法」、「粗化ステンレス鋼の製造方法」、「表面が粗化処理されたステンレス鋼を含む製品の製造方法」であり、粗化ステンレス鋼を含む電池用集電箔ではない。
よって、本件の請求項1に係る特許発明は、甲第1号証に係る国際出願に対応する日本国特許出願に係る発明と同一ではなく、請求人の主張は採用できない。
(2)特許法第29条第2項の規定違反について
ア 甲第4号証に記載された発明
(ア)甲第4号証の記載
甲第4号証には、以下の記載がある。なお、下線は当審で付与した。
「【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池の正極及びリチウムイオン二次電池に関する。」
「【0017】
リチウムイオン二次電池の正極に用いられる一般的な集電箔は、表面が平坦なものである。本発明の正極においては、表面が粗い集電箔を採用する。表面が粗い集電箔を採用することで、集電箔と、正極活物質を含有する正極活物質層との密着性が増加すると考えられ、その結果、充放電後の抵抗増加を抑制できると考えられる。
【0018】
面粗さの算術平均高さSaとは、ISO 25178で規定される面粗さの算術平均高さを意味し、集電箔の表面における平均面に対する各点の高さの差の絶対値の平均値である。
Saとしては、0.15μm≦Sa≦1μmを満足するのがより好ましく、0.15μm≦Sa≦0.9μmを満足するのがより好ましく、0.18μm≦Sa≦0.8μmを満足するのがさらに好ましく、0.2μm≦Sa≦0.75μmを満足するのがさらに好ましい。」
「【0026】
集電箔は箔状のものであって、リチウムイオン二次電池の放電又は充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子伝導体をいう。集電箔の材料としては、銀、銅、金、アルミニウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種、並びにステンレス鋼などの金属材料を例示することができる。」
「【0094】
(実施例1)
以下のとおり、実施例1の正極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
厚み15μmのJIS A1000番系に該当するアルミニウム箔の表面を、アセチレンブラックと結着剤で構成された炭素膜で被覆した状態の、合計厚み17μmの炭素被覆アルミニウム箔を準備し、これを実施例1の集電箔とした。」
「【0100】
(実施例2)
厚み15μmのJIS A8000番系に該当するアルミニウム箔の表面を、アセチレンブラックと結着剤で構成された炭素膜で被覆した状態の、合計厚み17μmの炭素被覆アルミニウム箔を準備し、これを実施例2の集電箔とした。
実施例2の集電箔を正極に用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2の正極及びリチウムイオン二次電池を製造した。」
「【0103】
(評価例4)
実施例1~実施例3及び比較例1の集電箔につき、非接触式の表面粗さ測定機器である形状解析レーザー顕微鏡(株式会社キーエンス、型番VK?X250)を用いて、観察倍率500倍の条件で、表面分析を行った。
面粗さの算術平均高さSa、展開面積比Sdr、二乗平均平方根高さSq、二乗平均平方根傾斜Sdqについての結果を表2に示す。
【0104】
(評価例5)
引張試験機を用いて、実施例1~実施例3及び比較例1の正極の剥離強度を測定した。試験方法はJISZ 0237に準拠した。試験方法について詳細に述べると、正極活物質層側を下向きにして台座に粘着テープで接着し、そして、正極の集電箔を上向きに90度の方向に引っ張ることにより剥離強度を測定した。
結果を表2に示す。
【0105】
【表2】
[図:0001402778000002.jpg]
」
(イ)甲第4号証に記載された技術事項
a 段落【0001】、【0017】の記載によれば、甲第4号証にはリチウムイオン二次電池の正極に用いられる、表面が粗い集電箔が記載されているといえる。
b 段落【0094】には、実施例1の集電箔は、アルミニウム箔の表面を、アセチレンブラックと結着剤で構成された炭素膜で被覆した状態の炭素被覆アルミニウム箔であることが記載されている。そして、段落【0018】、【0103】、【0105】の【表2】によれば、実施例1のISO 25178で規定される面粗さ算術平均高さSaは0.41μmである。
c 段落【0100】には、実施例2の集電箔は、アルミニウム箔の表面を、アセチレンブラックと結着剤で構成された炭素膜で被覆した状態の炭素被覆アルミニウム箔であることが記載されている。そして、段落【0018】、【0103】、【0105】の【表2】によれば、実施例2のISO 25178で規定される面粗さ算術平均高さSaは0.23μmである。
(ウ)甲第4号証に記載された発明
上記「(イ)aないしc」によれば、甲第4号証には、実施例1または2として以下の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。
「リチウムイオン二次電池の正極に用いられる、表面が粗い集電箔において、
集電箔は、アルミニウム箔の表面を、アセチレンブラックと結着剤で構成された炭素膜で被覆した状態の炭素被覆アルミニウム箔であり、
そのISO 25178で規定される面粗さ算術平均高さSaは0.41μmまたは0.23μmである
集電箔。」
イ 対比・判断
(ア)対比
本件発明1と甲4発明とを対比する。
a リチウムイオン二次電池は非水電解質二次電池の一種であるから、甲4発明の「リチウムイオン二次電池の正極に用いられる、表面が粗い集電箔」は、本件発明1の「非水電解質二次電池の集電体」に相当する。また、甲4発明の集電箔は炭素被覆アルミニウム箔であるから金属体といえ、甲4発明の「集電箔」は本件発明1と、「非水二次電池の集電体用の金属体」である点で共通するといえる。
ただし、本件発明1は「Crを10質量%以上含有する成分組成を有」する「クロム含有鋼板」であるのに対して、甲4発明は「炭素被覆アルミニウム箔」である点で相違する。
b 甲4発明が「ISO 25178で規定される面粗さ算術平均高さSaは0.41μmまたは0.23μmである」ことは、本件発明1の「ISO25178に規定されるパラメータSaが0.15μm以上0.50μm以下」であることに含まれる。
c 本件発明1は「ISO 25178に規定されるパラメータSskが0超1.00以下」であるのに対して、甲4発明はその旨特定されていない点で相違する。
d 本件発明1は「[金属形態以外(Cr+Fe)]/[金属形態(Cr+Fe)]が8.0以下」、「ここで、[金属形態以外(Cr+Fe)]/[金属形態(Cr+Fe)]は、前記クロム含有鋼板の表面において金属の形態として存在するCrおよびFeの合計に対する、金属以外の形態で存在するCrおよびFeの合計の比である」のに対して、甲4発明はその旨特定されていない点で相違する。
e 上記aないしdによれば、本件発明1と甲4発明とは、次の一致点及び相違点を有する。
〈一致点〉
「ISO 25178に規定されるパラメータSaが0.15μm以上0.50μm以下である、非水電解質二次電池の集電体用の金属体。」
〈相違点3〉
本件発明1は「Crを10質量%以上含有する成分組成を有」する「クロム含有鋼板」であるのに対して、甲4発明は「炭素被覆アルミニウム箔」である点。
〈相違点4〉
本件発明1は「ISO 25178に規定されるパラメータSskが0超1.00以下」であるのに対して、甲4発明はその旨特定されていない点。
〈相違点5〉
本件発明1は「[金属形態以外(Cr+Fe)]/[金属形態(Cr+Fe)]が8.0以下」、「ここで、[金属形態以外(Cr+Fe)]/[金属形態(Cr+Fe)]は、前記クロム含有鋼板の表面において金属の形態として存在するCrおよびFeの合計に対する、金属以外の形態で存在するCrおよびFeの合計の比である」のに対して、甲4発明はその旨特定されていない点。
(イ)判断
事案に鑑み、相違点5について検討する。
甲第5号証の段落【0045】及び図2、甲第6号証の第43頁第11ないし14行及び第45頁第19行ないし第46頁第9行には、集電体の表面に凹凸を設けることが記載されているものの、甲第5ないし6号証のいずれにも、「[金属形態以外(Cr+Fe)]/[金属形態(Cr+Fe)]が8.0以下」とすることは、記載も示唆もされていない。
そして、上記「第4」の「2(2)イ(イ)a」で検討したのと同様に、本件発明1の相違点5に係る構成は、クロム含有鋼板を第1の浸漬処理(エッチング処理)した後、硝酸を含む水溶液を用いて第2の浸漬処理(スマット除去処理)を実施することにより得られるものと認められるところ、甲第4ないし6号証のいずれにも、エッチング処理した後、硝酸を含む水溶液を用いたスマット除去処理を行うことは記載も示唆もされていない。
したがって、本件発明1は甲4発明および甲第5ないし6号証に記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、甲第2号証(ステンレス協会HP(ステンレスとは)URL:www.jssa.gr.jp/contents/about_stainless/)、甲第3号証(電気学会HP(用語解説 第13回テーマ:リチウムイオン電池|電気学会 [B]電力・エネルギー部門)URL:www.iee.jp/pes/termb_013/)のいずれにも、[金属形態以外(Cr+Fe)]/[金属形態(Cr+Fe)]が8.0以下」とすること及びエッチング処理した後、硝酸を含む水溶液を用いたスマット除去処理を行うことは記載も示唆もされていない。
よって、本件の請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、請求人の主張は採用できない。
(3)特許法第36条第6項第1号及び同条第4項第1号の規定違反について
本件の明細書段落【0013】に「本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、電池環境での耐食性に優れ、かつ、非水電解質二次電池の集電体として使用した場合に、非水電解質二次電池のレート特性およびサイクル特性に優れる、非水電解質二次電池の集電体用のクロム含有鋼板を提供することを目的とする。」、段落【0015】に「前記のように、電池のレート特性やサイクル特性の劣化は、集電体とその上に形成される電池活物質層との界面抵抗の上昇が原因であると、本発明者らは考えるに至った。」と記載され、段落【0032】に「Sskは、ISO 25178に規定される面粗さのパラメータの一種であり、高さ分布の対称性を表すものである。図2に示すように、Ssk(スキューネス)が正の値(0超)の場合、凸部(山部)の先端(上端部)が鋭くなり、凹部(谷部)の先端(下端部)が広幅となる(平坦に近づく)ことを示す。一方、Sskが負の値(0未満)の場合、凸部(山部)の先端が広幅となり(平坦に近づき)、凹部(谷部)の先端(下端部)が鋭くなることを示す。従って、Sskが0超であると、鋼板表面の凸部(山部)の先端が鋭くなり、鋼板表面の鋭い先端形状の凸部が電極活物質に突き刺さりやすくなり、界面抵抗が低下する。一方、Sskが0未満であると、鋼板表面の凸部(山部)の先端が平坦であるため、電極活物質に鋼板表面の凸部が突き刺さりにくく、界面抵抗が低下しにくいと考えられる。好ましくはSskが0.10以上である。Sskの上限は特に限定されないが、Sskの過度の上昇を抑制することで、凸部の数が減少することを抑制しやすくなり、界面抵抗の低減効果をより安定して得られやすくなる点から、Sskは、好ましくは1.00以下であり、より好ましくは0.50以下である。」と記載されている。これらの記載を考慮すれば、Sskが0.4以下の実施例しか開示されていないとしても、Sskを0超1.00以下とすることにより本件発明の課題を解決し得ると当業者は理解するものと認められる。
また、本件明細書の段落【0076】ないし【0095】には、素材クロム含有鋼板、処理液、処理条件を具体的に示した実施例が記載されていることを考慮すれば、明細書の発明の詳細な説明は当業者が発明を実施できる程度に記載されているものと認められる。
よって、申立人の主張は採用できない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した異議申立理由によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。さらに、ほかに請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件特許の請求項2に係る特許は、訂正により削除され、請求項2に係る特許についての特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-700044