特許異議申立
2023-701403
ガスバリア性塗料組成物及びガスバリア性積層体
- 審判番号
- 2023-701403
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-555526外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 7302754
- 請求日
- 2023年12月28日
- 審決日
- 2025年03月10日
- 公報発行日
- 2025年07月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】東洋製罐グループホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
- 【権利者代理人】奥貫 佐知子
- 【異議申立人】株式会社 クラレ
- 【異議申立人代理人】池田 義典
- 分類
- P1651.537-YAA(C09D) / P1651.536-YAA(C09D) / P1651.121-YAA(C09D) / P1651.113-YAA(C09D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第7項、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7302754号発明「ガスバリア性塗料組成物及びガスバリア性積層体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7302754号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~15〕について訂正することを認める。
特許第7302754号の請求項1、3、5~15に係る特許を維持する。
特許第7302754号の請求項2及び4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7302754号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~15に係る特許についての出願は、令和3年10月6日を出願日(優先権主張 令和2年10月6日(以下、「優先日」という。)、日本国)とする特願2022-555526号であって、令和5年6月26日にその特許権の設定登録(請求項の数15)がされ、同年7月4日に特許掲載公報が発行され、その後、本件特許に対し、同年12月28日に特許異議申立人 株式会社クラレ(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1~15)がされたものである。
その後の手続の経緯は、次のとおりである。
令和6年 7月18日付け:取消理由通知
同年 9月20日 :意見書及び訂正請求書(特許権者)
同年10月17日 :訂正請求書の手続補正書(特許権者)
同年10月31日付け:通知書(申立人宛て)
本通知書に対して、申立人からの応答はなかった。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和6年10月17日の手続補正書により補正された訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、次の訂正事項を含む。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「リン酸に可溶な多価金属のカルボン酸塩」と記載されているのを、「多価金属イオンとアミノ酸化合物から成るカルボン酸塩」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「含有する」と記載されているのを、「含有し、揮発性の無機酸を含まない」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3に、「請求項2記載の」と記載されているのを、「請求項1記載の」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項5に、「請求項1~4の何れかに記載の」と記載されているのを、「請求項1又は3に記載の」に訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項6に、「請求項1~5の何れかに記載の」と記載されているのを、「請求項1,3,5の何れかに記載の」に訂正する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項7に、「請求項1~5の何れかに記載の」と記載されているのを、「請求項1,3,5の何れかに記載の」に訂正する。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項8に、「請求項1~7の何れかに記載の」と記載されているのを、「請求項1,3,5~7の何れかに記載の」に訂正する。
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項11に、「請求項8~10記載の」と記載されているのを、「請求項8~10の何れかに記載の」に訂正する。
(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項12に、「請求項8~11記載の」と記載されているのを、「請求項8~11の何れかに記載の」に訂正する。
(12)一群の請求項について
訂正前の請求項1~15について、請求項2~15は、請求項1を直接又は間接的に引用することから、訂正前の請求項1~15に対応する訂正後の請求項1~15は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
訂正事項1による請求項1の訂正は、訂正前の請求項1に記載された「リン酸に可溶な多価金属のカルボン酸塩」を、願書に添付した明細書の段落【0015】の「本発明に用いるリン酸に可溶な多価金属のカルボン酸塩としては、多価金属イオンと、有機カルボン酸を含有するアミン化合物とから成るものを好適に使用することができる」及び段落【0016】の「多価金属イオンと多価金属のカルボン酸塩を形成可能な、有機カルボン酸を含有するアミン化合物としては、アミノ基及びカルボキシ基を有するアミノ酸化合物を例示することができる。」等の記載に基づき、「多価金属イオンとアミノ酸化合物から成るカルボン酸塩」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
当該訂正は願書に添付した明細書の段落【0015】及び段落【0016】並びに請求項4等の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項3及び5~15についても同様である。
(2)訂正事項2
訂正事項2による請求項1の訂正は、訂正前の請求項1に係る発明が「揮発性の無機酸を含まない」ことを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、当該訂正は願書に添付した明細書の段落【0009】の「・・・多量の無機酸を使用することなく金属酸化物粒子が高度に分散したバリア性塗料組成物を得ることが可能となる。その結果、塗膜の形成時に無機酸が揮発することがない」との記載等に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項3及び5~15についても同様である。
(3)訂正事項3
訂正事項3は、請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではなく、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものである。
(4)訂正事項4
訂正事項4は、請求項2が削除されたことに伴い、「請求項2」に従属していた請求項3の従属先を「請求項1」に訂正するというものであるから、当該訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
(5)訂正事項5
訂正事項5は、請求項4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
(6)訂正事項6
訂正事項6は、請求項2及び請求項4が削除されたことに伴い、「請求項1~4の何れか」に従属していた請求項5の従属先を「請求項1又は3」に訂正するというものであるから、当該訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
(7)訂正事項7
訂正事項7は、請求項2及び請求項4が削除されたことに伴い、「請求項1~5の何れか」に従属していた請求項6の従属先を「請求項1,3,5の何れか」に訂正するというものであるから、当該訂正事項7は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
(8)訂正事項8
訂正事項8は、請求項2及び請求項4が削除されたことに伴い、「請求項1~5の何れか」に従属していた請求項7の従属先を「請求項1,3,5の何れか」に訂正するというものであるから、当該訂正事項8は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
(9)訂正事項9
訂正事項9は、請求項2及び請求項4が削除されたことに伴い、「請求項1~7の何れか」に従属していた請求項8の従属先を「請求項1,3,5~7の何れか」に訂正するというものであるから、当該訂正事項9は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
(10)訂正事項10
訂正事項10は、請求項11が「請求項8~10の何れか」に従属するべきところ、「請求項8~10」に従属する誤った記載がされていたことから、本来の正しい記載である「請求項8~10の何れかに記載」に訂正するものであるから、訂正事項10は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではなく、新たな技術的事項を導入するものでもない。
(11)訂正事項11
訂正事項11は、請求項12が「請求項8~11の何れか」に従属するべきところ、「請求項8~11」に従属する誤った記載がされていたことから、本来の正しい記載である「請求項8~11の何れかに記載」に訂正するものであるから、訂正事項11は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではなく、新たな技術的事項を導入するものでもない。
(12)独立特許要件について
本件においては、訂正前の全ての請求項1~15について特許異議申立てがされているので、訂正前の請求項1~15に係る訂正事項1~11に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項のいわゆる独立特許要件は課されない。
3 訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1及び2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~15〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1~15に係る発明(以下、順に「本件発明1」のようにいい、総称して「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~15に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
なお、本件訂正により、請求項2及び4は削除された。
「【請求項1】
金属酸化物、リン酸化合物、及び多価金属イオンとアミノ酸化合物から成るカルボン酸塩を含有し、揮発性の無機酸を含まないことを特徴とするガスバリア性塗料組成物。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記多価金属イオンが、アルミニウムイオンである請求項1記載のガスバリア性塗料組成物。
【請求項4】(削除)
【請求項5】
前記多価金属のカルボン酸塩が、アルミニウムグリシナートである請求項1又は3に記載のガスバリア性塗料組成物。
【請求項6】
前記金属酸化物が、ジルコニウム酸化物である請求項1,3,5の何れかに記載のガスバリア性塗料組成物。
【請求項7】
前記リン酸化合物が、オルトリン酸、メタリン酸、ポリリン酸、環状ポリリン酸の少なくとも1種である請求項1,3,5の何れかに記載のガスバリア性塗料組成物。
【請求項8】
基材上に、請求項1,3,5~7の何れかに記載のガスバリア性塗料組成物からなる塗膜を有することを特徴とするガスバリア性積層体。
【請求項9】
前記塗膜が、赤外線吸収スペクトルにおいて1000~1130cm-1の範囲に赤外吸収が最大となる吸収ピークを有する請求項8記載のガスバリア性積層体。
【請求項10】
前記塗膜が、金属酸化物を有することを特徴とする請求項8又は9記載のガスバリア性積層体。
【請求項11】
前記塗膜が、XPSによるNの結合エネルギーが400~405eVの範囲で最大となるピークを有する請求項8~10の何れかに記載のガスバリア性積層体。
【請求項12】
前記塗膜が、ポリアミド縮合物を含有する請求項8~11の何れかに記載のガスバリア性積層体。
【請求項13】
前記塗膜が、多価金属のカルボン酸塩を含有する請求項8~12の何れかに記載のガスバリア性積層体。
【請求項14】
前記基材と塗膜の間にアンカーコート層を有する請求項8~13の何れかに記載のガスバリア性積層体。
【請求項15】
前記基材が12μm厚の二軸延伸ポリエステルから成り、該基材上に塗工量1.0g/m2の前記塗膜が形成され、該塗膜の上に50μm厚の無延伸ポリプロピレンフィルムが配置されている場合に、酸素透過量が25cc/m2・day・atm(40℃90%RH)以下であり、且つ水蒸気透過量が5.5g/m2・day(40℃90%RH)以下である請求項8~14の何れかに記載のガスバリア性積層体。」
第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
特許異議申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(サポート要件違反)
本件特許の請求項1~15に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(1)発明の詳細な説明において具体的に課題を解決するために用いられたことが開示されているジルコニウム酸化物及びアルミニウムグリシナートについて、それぞれ「金属酸化物」及び「リン酸に可溶な多価金属のカルボン酸塩」にまで拡張ないし一般化できるとはいえず、本件特許の請求項1~15に係る発明はサポート要件を満たさない。
(2)さらに、無機酸及び透明性に影響を与える成分の有無等についての特定がされていない本件特許の請求項1~15に係る発明は、発明の課題を解決するための手段が反映されていないから、サポート要件を満たさない。
2 申立理由2(明確性要件違反)
本件特許の請求項1~15に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(1)本件特許の請求項1における「リン酸に可溶な多価金属のカルボン酸塩」は「リン酸に可溶」の意味するところが曖昧であるから、本件特許の請求項1及びこれを引用する請求項2~15に係る発明は、不明確である。
(2)本件特許の請求項15において、「前記基材が12μm厚の二軸延伸ポリエステルから成り、該基材上に塗工量1.0g/m2の前記塗膜が形成され、該塗膜の上に50μm厚の無延伸ポリプロピレンフィルムが配置されている場合」に該当しない場合の発明の範囲が不明であり、本件特許の請求項15に係る発明は、不明確である。
3 申立理由3(実施可能要件違反)
本件特許の請求項1~15に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(1)本件特許の請求項1における「リン酸に可溶な多価金属のカルボン酸塩」は、発明の詳細な説明にどのような化合物であるか記載されておらず不明瞭であるから、「リン酸に可溶な多価金属のカルボン酸塩」を含有するガスバリア性塗料組成物を当業者が実施をすることができず、本件特許の請求項1及びこれを引用する請求項2~15に係る発明は、実施可能要件を満たさない。
4 申立理由4(新規性欠如)
本件特許の請求項1、6~10及び13~15に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、6~10及び13~15に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
5 申立理由5(進歩性欠如)
本件特許の請求項1、6~10及び13~15に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、6~10及び13~15に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
6 証拠方法
甲第1号証:国際公開第2015/141225号
甲第2号証:国際公開第2017/200020号
甲第3号証:特開昭59-23473号公報
以下、「甲第1号証」を、「甲1」という。
第5 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
本件特許に対して、当審が令和6年7月18日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は次の(1)~(3)のとおりである。
(1)取消理由1(明確性要件)について(前記第4 2(1)に対応)
本件特許の請求項1~15に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。
請求項1の「リン酸に可溶な多価金属のカルボン酸塩」との記載は明確でないため、請求項1及び請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~15に係る発明は、明確でない。
(2)取消理由2(サポート要件)について(前記第4 1(1)に対応)
本件特許の請求項1~15に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。
本件明細書の実施例1~4に記載されるアルミニウムグリシナート等の多価金属イオンとアミノ酸化合物からなるカルボン酸塩以外をも包含する本件発明1は、発明の詳細な説明の記載により当業者が課題を解決できると認識できない。
(3)取消理由3(甲1を主引例とする進歩性)(前記第4 5に対応)
本件発明1、3、6~10及び13~15は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1、3、6~10及び13~15に係る特許は取り消すべきものである。
2 甲1の記載
以下、下線は合議体による。
(1)「[0010] そこで本発明の目的の1つは、ガスバリア性および水蒸気バリア性のいずれにも優れ、かつ物理的ストレスに対する耐性が高い多層構造体を提供することである。また、本発明の目的の他の1つは、前記多層構造体を製造するための方法およびコーティング液を提供することである。・・・
[0011] 前記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、本発明者らは、特定のコーティング液を用いることによって、ガスバリア性および水蒸気バリア性のいずれにも優れ、延伸等の物理的ストレスを受けた後でも両バリア性が高いコーティング層を形成できることを見出した。この新たな知見に基づいてさらに検討を重ねることによって、本発明者らは本発明を完成させた。
[0012] 本発明は、基材(X)と、前記基材(X)上に積層された層(Y)とを含む多層構造体であって、前記層(Y)は、金属酸化物(A)とリン化合物(B)とイオン価(FZ)が1以上3以下である陽イオン(Z)とを含有し、前記リン化合物(B)が、前記金属酸化物(A)と反応可能な部位を含有する化合物であり、前記層(Y)において、前記金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)のモル数(NM)と、前記リン化合物(B)に由来するリン原子のモル数(NP)とが、0.8≦NM/NP≦4.5の関係を満たし、前記層(Y)において、前記モル数(NM)と、前記陽イオン(Z)のモル数(NZ)と、前記イオン価(FZ)とが、0.001≦FZ×NZ/NM≦0.60の関係を満たす多層構造体を提供する。」
(2)「[0076][陽イオン(Z)]
陽イオン(Z)のイオン価(FZ)は、1以上3以下である。レトルト処理等、物理的ストレスのみならず熱水や加熱水蒸気に対する耐性も必要となる場合は、イオン価(FZ)は、2以上3以下であることが好ましく、3であることがより好ましい。陽イオン(Z)は周期表第2~7周期の元素を含む陽イオンである。陽イオン(Z)としては、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、チタンイオン、ジルコニウムイオン、ランタノイドイオン(例えば、ランタンイオン)、バナジウムイオン、マンガンイオン、鉄イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、銅イオン、亜鉛イオン、ホウ素イオン、アルミニウムイオン、およびアンモニウムイオン等が挙げられ、中でも、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ランタノイドイオン(例えば、ランタンイオン)、亜鉛イオン、ホウ素イオンが好ましい。陽イオン(Z)は1種類であってもよいし、2種類以上を含んでいてもよい。陽イオン(Z)の働きについては、現在のところ明確ではない。1つの仮説では、陽イオン(Z)は、金属酸化物(A)やリン化合物(B)の水酸基を介して他の金属酸化物(A)やリン化合物(B)が有する水酸基とイオン結合を形成することによって、層(Y)の物理的ストレスに対する耐性を向上させていると考えられる。・・・
[0078] 陽イオン(Z)は、溶媒に溶解した際に陽イオン(Z)を生じるイオン性化合物(E)を第1コーティング液(U)に溶解させることで層(Y)に添加することができる。陽イオン(Z)のカウンターイオンとしては、例えば、水酸化物イオン、塩化物イオン、硫酸イオン、硫酸水素イオン、硝酸イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン等の無機陰イオン;酢酸イオン、ステアリン酸イオン、シュウ酸イオン、酒石酸イオン等の有機酸陰イオン等が挙げられる。・・・」
(3)「[0186]<第1コーティング液(U-1)の製造例>
蒸留水230質量部を撹拌しながら70℃に昇温した。その蒸留水に、トリイソプロポキシアルミニウム88質量部を1時間かけて滴下し、液温を徐々に95℃まで上昇させ、発生するイソプロパノールを留出させることによって加水分解縮合を行った。得られた液体に、60質量%の硝酸水溶液4.0質量部を添加し、95℃で3時間撹拌することによって加水分解縮合物の粒子の凝集体を解膠させた。その後、その液体に濃度が1.0モル%の水酸化ナトリウム水溶液2.24質量部を加え、固形分濃度が酸化アルミニウム換算で10質量%になるように濃縮した。こうして得られた液体18.66質量部に対して、蒸留水58.19質量部、メタノール19.00質量部、および5質量%のポリビニルアルコール水溶液(株式会社クラレ製PVA124;ケン化度98.5モル%、粘度平均重合度2,400、20℃での4質量%水溶液粘度60mPa・s)0.50質量部を加え、均一になるように撹拌し、金属酸化物(A)を含む液体である分散液を得た。続いて、液温を15℃に維持した状態で前記分散液を攪拌しながらリン化合物(B)を含む溶液である85質量%のリン酸水溶液3.66質量部を滴下して加え、滴下完了後からさらに30分間攪拌を続け、表1に記載されたNM/NP、FZ×NZ/NM、およびFZ×NZ/NPの値を有する目的の第1コーティング液(U-1)を得た。・・・
[0191]<第1コーティング液(U-7)および(U-10)~(U-18)の製造例>
分散液の調製において1.0モル%の水酸化ナトリウム水溶液の代わりに各種金属塩の水溶液を使用した以外は第1コーティング液(U-5)の調製と同様の方法によって、第1コーティング液(U-7)および(U-10)~(U-18)を調製した。金属塩の水溶液として、・・・第1コーティング液(U-12)では0.5モル%の塩化カルシウム水溶液・・・を用いた。
(4)「[0204][実施例1]<実施例1-1> まず、基材(X)としてPET12を準備した。この基材上に、乾燥後の厚さが0.5μmとなるようにバーコーターを用いて第1コーティング液(U-1)を塗工した。塗工後のフィルムを100℃で5分間乾燥することによって基材上に層(Y)の前駆体層を形成した。続いて、180℃で1分間熱処理することによって層(Y)を形成した。このようにして、層(Y)(0.5μm)/PETという構造を有する多層構造体(1-1)を得た。・・・
[0208]<実施例1-2~1-23> 第1コーティング液(U-1)の代わりに第1コーティング液(U-2)~(U-23)を用いたこと以外は実施例1の多層構造体(1-1)の作製と同様にして、実施例1-2~1-23の多層構造体(1-2)~(1-23)を作製した。・・・
[0222]
[表1]
・・・
[図:0001424560000001.jpg]
[0224]
[表2]
[図:0001424560000002.jpg]
[0225] 表2から明らかなように、実施例の多層構造体は、強い物理的ストレスを受けても、ガスバリア性および水蒸気バリア性の両方を高いレベルで維持できた。」
3 合議体の判断
(1) 取消理由1(明確性要件)について
本件発明1は、前記1(1)の取消理由において明確性違反を指摘した「リン酸に可溶な多価金属のカルボン酸塩」との記載を含むものではないから、前記1(1)の理由により不明確とはいえない。
本件発明3及び5~15も、同様の理由から不明確とはいえない。
(2) 取消理由2(サポート要件)について
ア 前提
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明の記載や示唆がなくとも、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
イ 本件発明の課題について
本件発明は、「ジルコニウム酸化物、リン酸化合物及びアミン化合物から成るガスバリア性塗料組成物」は、「ジルコニウム酸化物分散体を安定化させるために添加される無機酸がガスバリア塗膜の形成時に揮発して、設備や作業環境への悪影響を与えるという問題」があり、また「アミン化合物を添加しても十分な水分バリア性能が得られない」という問題がある(【0005】)との背景の下、「より優れた酸素バリア性及び水蒸気バリア性並びに透明性を有するガスバリア性塗膜を、無機酸の揮発を生じることなく形成可能な塗料組成物」を提供すること(【0006】)を解決しようとする課題とするものと認められる。
ウ 検討
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「多価金属のカルボン酸塩」について、「多価金属イオンが、金属酸化物とリン酸との架橋構造における粒子間のバインダー中の金属イオン不足を補うことにより、酸素バリア性及び水蒸気バリア性を更に向上することができ」(【0015】)、「リン酸エステル結合が形成され、金属酸化物とリン酸化合物が架橋されていることにより緻密な架橋構造を形成することが可能となる。また多価金属のカルボン酸塩における有機カルボン酸を含有するアミン化合物は、金属イオン及びリン酸と反応してアンモニウム塩化合物を形成して上記架橋構造に取り込まれるか、アミン化合物同士が縮合したポリアミドの形となり複合構造体を形成している」(【0022】)等と記載されている。加えて、実施例1~4として、ジルコニウム酸化物ゾルと、リン酸と、多価金属のカルボン酸塩として多価金属イオンがアルミニウムかつアミノ酸化合物がグリシンであるアルミニウムグリシナートを用いて揮発性の無機酸を添加することなくガスバリア性塗料組成物を製造し、フィルムに塗布して得られた積層体において、レトルト処理前後において酸素及び水蒸気のガスバリア性が確認されたことが記載されている。また、実施例1~4は揮発性の無機酸を含まないことから、無機酸の揮発を生じないものである。
これらの記載からみて、前記実施例で用いられた以外の多価金属イオンとアミノ酸化合物からなるカルボン酸塩を用いた場合でも、多価金属イオンが、金属酸化物とリン酸との架橋構造における粒子間のバインダー中の金属イオン不足を補うことにより、酸素バリア性及び水蒸気バリア性を更に向上させ、リン酸エステル結合が形成され、金属酸化物とリン酸化合物が架橋されていることにより緻密な架橋構造を形成することが可能となり、アミノ酸化合物が金属イオン及びリン酸と反応してアンモニウム塩化合物を形成して上記架橋構造に取り込まれるか、アミン化合物同士が縮合したポリアミドの形となり複合構造体を形成し得ることにより、ガスバリア性が高まることを当業者は理解できるものといえる。
したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、発明の詳細な説明の記載により当業者が前記イの課題を解決できると認識できるものといえる。
請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明3及び5~15も、同様の理由から、発明の詳細な説明に記載されたものであり、発明の詳細な説明の記載により当業者が前記イの課題を解決できると認識できるものといえる。
エ 申立人の主張について
(ア)申立人は、本件明細書の実施例1~4は、比較例2と比べて塗布量が多いにも拘わらず酸素透過量が多く、より優れた酸素バリア性を有するガスバリア性塗膜を形成可能という課題が解決できないと主張する。
しかしながら、実施例1~4もレトルト処理前後における酸素及び水蒸気のガスバリア性を示すものであり、本件明細書の前記ウの段落【0015】及び【0022】の記載に加え、実施例1~4では比較例に比べて水蒸気透過量の減少をも確認することができることから、実施例1~4が比較例2より酸素透過量が多いとの点をもって、本件発明がより優れた酸素バリア性を有するとの課題を解決することができないということはできない。
(イ)申立人はまた、金属酸化物としてアルミニウム酸化物を用いた場合にも、金属酸化物の粒子が高度に分散することにより優れた酸素及び水蒸気バリア性が生じ得ることを当業者は認識できないから、実施例で用いられているジルコニウム酸化物以外の金属酸化物にまで、拡張ないし一般化できないとも主張する。
しかしながら、申立人が申立書において「同一分子中に酸性基と塩基性基とを有するアミノ酸の塩と、塩基性基を有しない他のカルボン酸の塩とでは、金属酸化物に対する分散安定性が大きく異なることは明らかであり、塩基性基を有しない他のカルボン酸の塩の場合も、金属酸化物の粒子が高度に分散することによって上記効果が生じ得ることを当業者が認識できない。」と主張するように、「多価金属イオンとアミノ酸化合物から成るカルボン酸塩」を特定事項とする本件発明1、3及び5~15は、塩基性基を有するカルボン酸塩であることにより、ジルコニウム酸化物以外の種々の金属酸化物の粒子を分散し得るものと認められる。
(ウ)申立人はさらに、本件明細書の段落【0021】には、ガスバリア性塗料組成物には、充填剤、着色剤等を含有することもできる旨記載されており、これらが塗膜の透明性に影響を与えることは明らかであるから、透明性を有するガスバリア性塗膜を形成可能との課題が解決できるものとはいえないとも主張する。
確かに本件明細書の段落【0021】には申立人主張どおりの記載がなされているが、本件発明1、3及び5~15は、充填剤や着色剤を含有することを発明特定事項とするものではなく、また、透明性を担保するためにそれらの配合量を調整することは当業者が実施に際して行う範囲内の事項である。
そうしてみると、本件明細書の段落【0021】の記載をもって、本件発明が透明性を有するガスバリア性塗膜を形成可能との課題を解決できないということはできない。
(エ)以上のとおりであるから、申立人の主張はいずれも採用できない。
オ 小括
したがって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であるから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たすものである。
(3) 取消理由3(甲1に基づく進歩性)について
ア 甲1に記載された発明
前記2 (3)及び(4)の記載から、甲1には、
「蒸留水に、トリイソプロポキシアルミニウムを滴下し、加水分解縮合を行い、得られた液体に硝酸水溶液を添加し、加水分解縮合物の粒子の凝集体を解膠させ、その後、その液体に塩化カルシウム水溶液を加え、濃縮し、蒸留水、メタノールおよびポリビニルアルコール水溶液を加え、均一になるように撹拌して金属酸化物である酸化アルミニウムを含む液体である分散液を得て、続いて、リン酸水溶液を滴下して得られた、ガスバリア性および水蒸気バリア性の多層構造体を作成するための第1コーティング液(U-12)」の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明1を対比する。
甲1発明の「金属酸化物である酸化アルミニウム」、「リン酸」及び「ガスバリア性および水蒸気バリア性の多層構造体を作成するための第1コーティング液(U-12)」は、それぞれ、本件発明1の「金属酸化物」、「リン酸化合物」及び「ガスバリア性塗料組成物」に相当し、両者は、
「金属酸化物、及び、リン酸化合物を含有することを特徴とするガスバリア性塗料組成物」の発明である点で一致し、
本件発明1は、多価金属イオンとアミノ酸化合物から成るカルボン酸塩を含有するのに対し、甲1発明は、多価金属イオンとアミノ酸化合物から成るカルボン酸塩を含まない点(以下「相違点A」という。)、及び、
本件発明1は、「揮発性の無機酸を含まない」のに対し、甲1発明は、ガスバリア性塗料組成物の製造工程で硝酸水溶液を用いている点(以下「相違点B」という。)で相違するものである。
なお、本件明細書の段落【0017】にも記載のとおり、硝酸が揮発性の無機酸であることは技術常識である。
(イ) 検討
a 相違点Aについて
前記2のとおり、甲1には甲1発明のコーティング溶液により製造される基材上の層(Y)が、金属酸化物(A)とリン化合物(B)とイオン価(FZ)が1以上3以下である陽イオン(Z)とを含有するものであり、1つの仮説では、陽イオン(Z)は、金属酸化物(A)やリン化合物(B)の水酸基を介して他の金属酸化物(A)やリン化合物(B)が有する水酸基とイオン結合を形成していると考えられていること、陽イオン(Z)としては、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ランタノイドイオン、亜鉛イオン、及び、ホウ素イオンが好ましいこと、並びに、陽イオン(Z)のカウンターイオンとしては、塩化物イオンに加え、酢酸イオン、ステアリン酸イオン、シュウ酸イオン、酒石酸イオン等の種々の陰イオンが記載されている。
しかしながら、甲1には、陽イオン(Z)のカウンターイオンとしてアミノ酸化合物を用いることについて記載も示唆もされておらず、アミノ酸化合物は、甲1に列挙される陰イオン各種と異なりアミノ基を有するものであり、アミノ基の存在の有無により化合物により奏される活性が異なることは当該技術分野における技術常識であるから、甲1の記載に接した当業者が、陽イオン(Z)のカウンターイオンとしてアミノ酸化合物を用いることを想起するとはいえない。
b 相違点Bについて
甲1には硝酸水溶液が塗料組成物に及ぼす影響等について何ら記載されておらず、甲1の記載に接した当業者が、甲1発明において硝酸水溶液を用いずに、塗膜組成物が揮発性の無機酸を含まないものとすることを容易に想到したとはいえない。
c 効果について
本件明細書の段落【0022】には、「多価金属のカルボン酸塩における有機カルボン酸を含有するアミン化合物は、金属イオン及びリン酸と反応してアンモニウム塩化合物を形成して上記架橋構造に取り込まれるか、アミン化合物同士が縮合したポリアミドの形となり複合構造体を形成している」とも記載されているところ、多価金属イオンとアミノ酸化合物から成るカルボン酸塩を含有する化合物としてアルミニウムグリシナートを用いた実施例1~4において、レトルト処理前後で酸素及び水蒸気の透過量をある程度抑制できたことが記載されている。このような効果は、甲1発明並びに甲1及びその他の提出された証拠に記載された事項からみて、本件発明1の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。
(ウ)申立人の主張について
申立人は、アミン化合物がアミノ酸である訂正前の請求項4に係る発明について、進歩性欠如との取消理由を主張していない。
(エ)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲1の記載に基づいて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
ウ 本件発明3及び5~15について
請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明3及び5~15に係る発明も、前記イと同様の理由から、甲1に記載された発明及び甲1の記載に基づいて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立理由2(明確性要件違反)(2)について
請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明15は、酸素透過量や水蒸気透過量について、本件発明1、3及び5~14をさらに特定するものである。
酸素透過量や水蒸気透過量が膜の状態等により異なることは当該分野における技術常識であることから、本件発明15は「前記基材が12μm厚の二軸延伸ポリエステルから成り、該基材上に塗工量1.0g/m2の前記塗膜が形成され、該塗膜の上に50μm厚の無延伸ポリプロピレンフィルムが配置されている場合」と記載するものにすぎず、本件発明15において当該場合以外のあらゆる場合が特定されていないことをもって、本件発明15が不明確とはいえない。
したがって、申立人の主張は採用できない。
2 申立理由3(実施可能要件違反)(1)について
訂正前の請求項1の「リン酸に可溶な多価金属のカルボン酸塩」が不明瞭であるから、「リン酸に可溶な多価金属のカルボン酸塩」を含有するガスバリア性塗料組成物を当業者が実施をすることができず、訂正前の請求項1~15に係る発明は、実施可能要件を満たさないとの申立人の主張については、本件発明1、3及び5~15はいずれも「リン酸に可溶な多価金属のカルボン酸塩」を特定事項とするものではないから、申立人の主張は採用できない。
3 申立理由4(新規性欠如)について
申立人はアミノ酸化合物を特定事項とする訂正前の請求項4について新規性欠如との取消理由を主張するものではないところ、本件発明1、3及び5~15と甲1に記載された発明とは、少なくとも前記第5 3(3)イの相違点Aにおいて異なるものである。
4 小括
以上のとおりであるから、申立人の上記主張はいずれも採用できない。
第7 むすび
前記第5及び第6のとおり、本件特許の請求項1、3及び5~15に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。さらに、他に本件特許の請求項1、3及び5~15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正により請求項2及び4は削除され、請求項2及び4に係る特許異議の申立ては対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-701403