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特許異議申立

2022-701260

高耐久防曇塗膜およびコーティング組成物

審判番号
2022-701260
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-501048
登録番号
7087059
請求日
2022年12月18日
審決日
2024年05月07日
公報発行日
2024年08月30日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】旭化成株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人浅村特許事務所
  • 【異議申立人】藤井 香
審判長/審判官
  • 審判長 関根 裕
  • 審判官 瀬下 浩一
  • 審判官 塩見 篤史
分類
P1651.113-YAA(C09D) / P1651.121-YAA(C09D) / P1651.536-YAA(C09D) / P1651.537-YAA(C09D)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条、特許法第126条第7項、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第4項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7087059号発明「高耐久防曇塗膜およびコーティング組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7087059号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~26〕、27、28、29、30、31、32について訂正することを認める。 特許第7087059号の請求項1、3~6、8~10、15、16、18、20~26に係る特許を維持する。 特許第7087059号の請求項2、17に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7087059号の請求項1~26に係る特許についての出願は、2019年(平成31年)2月21日(優先権主張 2018年2月23日 (JP)日本国、2018年9月6日 (JP)日本国、2018年12月27日 (JP)日本国)を国際出願日とする出願であって、令和4年6月10日に特許権の設定登録(請求項の数26)がされ、同年同月20日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1~6、8~10、15~18、20~26に係る特許に対し、令和4年12月18日に特許異議申立人 藤井 香(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、令和5年3月8日付けで取消理由を通知し、特許権者は、その指定期間内である同年5月12日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、当審は、同年6月6日付けでその訂正の請求に対して手続補正指令を通知し、特許権者は同年同月23日に訂正の請求の手続補正書を提出し、当審は、特許権者から訂正請求があったこと、意見書及び手続補正書が提出されたことを、同年8月22日付けで特許異議申立人に通知し、それに対して、特許異議申立人は、その指定期間内である同年9月19日に意見書を提出し、当審は、同年11月8日付けで取消理由を通知し、特許権者は、その指定期間内である同年12月28日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、当審は、令和6年1月18日付けでその訂正の請求に対して手続補正指令を通知し、特許権者は同年2月1日に訂正の請求の手続補正書を提出し、当審は、特許権者から訂正請求があったこと、意見書及び手続補正書が提出されたことを、同年同月27日付けで特許異議申立人に通知し、それに対して、特許異議申立人は、その指定期間内である同年3月26日に意見書を提出したものである。 なお、令和5年5月12日にされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。 第2 本件訂正の適否についての判断 1 本件訂正の内容 令和5年12月28日に提出され、令和6年2月1日提出の手続補正書により補正された訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による、訂正の内容(以下、「本件訂正」という。)は、以下のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「金属酸化物(A)と親水性化合物(B)を含み、塗膜表面溶出試験による溶出物の高さが1.0μm以下であり、ここで、塗膜表面溶出試験は、塗膜に脱イオン水10μlを乗せ、23℃50%RHの環境下で24時間放置し、塗膜表面10cm2の範囲内で20点の溶出物の高さを測定し、最も大きい高さを決定することにより行われ、塗膜を85℃85%RHの環境下に24時間曝露後、23℃50%RHの環境下に1時間静置させる耐湿性試験に供した後に測定した水接触角が40゜未満であり、上記金属酸化物(A)が、シリカ、シリコーン粒子、およびアクリルシリコーン粒子の少なくとも1つであり、上記親水性化合物(B)が、分子内にアルキレングリコール部位を有する、塗膜。」とあるのを、「金属酸化物(A)と親水性化合物(B)を含み、塗膜表面溶出試験による溶出物の高さが1.0μm以下であり、ここで、塗膜表面溶出試験は、塗膜に脱イオン水10μlを乗せ、23℃50%RHの環境下で24時間放置し、塗膜表面10cm2の範囲内で20点の溶出物の高さを測定し、最も大きい高さを決定することにより行われ、塗膜全溶出試険による塗膜単位体積あたりの溶出量が10m/cm3以下であり、ここで、塗膜全溶出試験は23℃の脱イオン水に24時間浸漬させた後、脱イオン水から回収される塗膜溶出物の重量を測定することにより行われ、塗膜を85℃85%RHの環境下に24時間曝露後、23℃50%RHの環境下に1時間静置させる耐湿性試験に供した後に測定した水接触角が40゜未満であり、上記金属酸化物(A)が、1~400nmの数平均粒子径を有する酸性コロイダルシリカであり、上記親水性化合物(B)が、分子内にアルキレングリコール部位を有し、かつ分子内にアルコキシシラン及び/又はシラノール基を含む、塗膜。」に訂正する。 (請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~26も同様に訂正する。) (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項4に「水接触角の値が40゜未満である、請求項1~3のいずれか1項に記載の塗膜。」とあるのを、「水接触角の値が40°未満である、請求項1又は3に記載の塗膜。」に訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項5に、「上記金属酸化物(A)が、水酸基を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の塗膜。」とあるのを、「上記金属酸化物(A)が、水酸基を有する、請求項1、3及び4のいずれか1項に記載の塗膜。」に訂正する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項6に「上記親水性化合物(B)が、非共有結合及び/又は共有結合を介して上記金属酸化物表面に結合している、請求項1~5のいずれか1項に記載の塗膜。」とあるのを、「上記親水性化合物(B)が、非共有結合及び/又は共有結合を介して上記金属酸化物表面に結合している、請求項1及び3~5のいずれか1項に記載の塗膜。」に訂正する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項7に「イソシアネート化合物(C)をさらに含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の塗膜。」とあるのを、「イソシアネート化合物(C)をさらに含む、請求項3~6のいずれか1項に記載の塗膜。」に訂正する。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項7から請求項1の引用を除いたことに伴い、請求項1を引用する請求項7に係る発明を独立項として書き下すことで、請求項27として、以下のとおり記載する訂正を行う。 「 金属酸化物(A)と親水性化合物(B)を含み、 イソシアネート化合物(C)をさらに含み、 塗膜表面溶出試験による溶出物の高さが1.0μm以下であり、ここで、塗膜表面溶出試験は、塗膜に脱イオン水10μlを乗せ、23℃50%RHの環境下で24時間放置し、塗膜表面10cm2の範囲内で20点の溶出物の高さを測定し、最も大きい高さを決定することにより行われ、 塗膜を85℃85%RHの環境下に24時間曝露後、23℃50%RHの環境下に1時間静置させる耐湿性試験に供した後に測定した水接触角が40°未満であり、 上記金属酸化物(A)が、シリカ、シリコーン粒子、およびアクリルシリコーン粒子の少なくとも1つであり、 上記親水性化合物(B)が、分子内にアルキレングリコール部位を有する、 塗膜。」 (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項11が引用する請求項7から請求項1の引用を除いたことに伴い、請求項1を引用する請求項7を引用する請求項11に係る発明を独立項として書き下すことで、請求項28として、以下のとおり記載する訂正を行う。 「 金属酸化物(A)と親水性化合物(B)を含み、 イソシアネート化合物(C)をさらに含み、 上記イソシアネート化合物(C)が、水分散性イソシアネート化合物であり、 塗膜表面溶出試験による溶出物の高さが1.0μm以下であり、ここで、塗膜表面溶出試験は、塗膜に脱イオン水10μlを乗せ、23℃50%RHの環境下で24時間放置し、塗膜表面10cm2範囲内で20点の溶出物の高さを測定し、最も大きい高さを決定することにより行われ、 塗膜を85℃85%RHの環境下に24時間曝露後、23℃50%RHの環境下に1時間静置させる耐湿性試験に供した後に測定した水接触角が40°未満であり、 上記金属酸化物(A)が、シリカ、シリコーン粒子、およびアクリルシリコーン粒子の少なくとも1つであり、 上記親水性化合物(B)が、分子内にアルキレングリコール部位を有する、 塗膜。」 (9)訂正事項9 特許請求の範囲の請求項12が引用する請求項7から請求項1の引用を除いたことに伴い、請求項1を引用する請求項7を引用する請求項12に係る発明を独立項として書き下すことで、請求項29として、以下のとおり記載する訂正を行う。 「金属酸化物(A)と親水性化合物(B)を含み、 イソシアネート化合物(C)をさらに含み、 上記イソシアネート化合物(C)が、分子内にアルコキシシラン部位及び/又はシロキサン部位を有し、 塗膜表面溶出試験による溶出物の高さが1.0μm以下であり、ここで、塗膜表面溶出試験は、塗膜に脱イオン水10μlを乗せ、23℃50%RHの環境下で24時間放置し、塗膜表面10cm2の範囲内で20点の溶出物の高さを測定し、最も大きい高さを決定することにより行われ、 塗膜を85℃85%RHの環境下に24時間曝露後、23℃50%RHの環境下に1時間静置させる耐湿性試験に供した後に測定した水接触角が40゜未満であり、 上記金属酸化物(A)が、シリカ、シリコーン粒子、およびアクリルシリコーン粒子の少なくとも1つであり、 上記親水性化合物(B)が、分子内にアルキレングリコール部位を有する、 塗膜。」 (10)訂正事項10 特許請求の範囲の請求項13が引用する請求項7から請求項1の引用を除いたことに伴い、請求項1を引用する請求項7を引用する請求項13に係る発明を独立項として書き下すことで、請求項30として、以下のとおり記載する訂正を行う。 「金属酸化物(A)と親水性化合物(B)を含み、 イソシアネート化合物(C)をさらに含み、 上記イソシアネート化合物(C)が、ブロックイソシアネートであり、 塗膜表面溶出試験による溶出物の高さが1.0μm以下であり、ここで、塗膜表面溶出試験は、塗膜に脱イオン水10μlを乗せ、23℃50%RHの環境下で24時間放置し、塗膜表面10cm2の範囲内で20点の溶出物の高さを測定し、最も大きい高さを決定することにより行われ、 塗膜を85℃85%RHの環境下に24時間曝露後、23℃50%RHの環境下に1時間静置させる耐湿性試験に供した後に測定した水接触角が40゜未満であり、 上記金属酸化物(A)が、シリカ、シリコーン粒子、およびアクリルシリコーン粒子の少なくとも1つであり、 上記金属酸化物(B)が、分子内にアルキレングリコール部位を有する、 塗膜。」 (11)訂正事項11 特許請求の範囲の請求項8に「上記親水性化合物(B)が、ノニオン系化合物、アニオン系化合物及び両性イオン系化合物からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~7のいずれか1項に記載の塗膜。」とあるのを、「上記親水性化合物(B)が、ノニオン系化合物、アニオン系化合物及び両性イオン系化合物からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1及び3~7のいずれか1項に記載の塗膜。」に訂正する。 (12)訂正事項12 特許請求の範囲の請求項9に「上記親水性化合物(B)が、分子内に炭素一酸素結合を有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の塗膜。」とあるのを、「上記親水性化合物(B)が、分子内に炭素一酸素結合を有する、請求項1及び3~8のいずれか1項に記載の塗膜。」に訂正する。 (13)訂正事項13 特許請求の範囲の請求項10に「上記親水性化合物(B)が、ウレタン結合及び/又はシロキサン結合を介して互いに結合している、請求項1~9のいずれか1項に記載の塗膜。」とあるのを、「上記親水性化合物(B)が、ウレタン結合及び/又はシロキサン結合を介して互いに結合している、請求項1及び3~9のいずれか1項に記載の塗膜。」に訂正する。 (14)訂正事項14 特許請求の範囲の請求項14に「重合体粒子(D)をさらに含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の塗膜。」とあるのを、「重合体粒子(D)をさらに含む、請求項3~13のいずれか1項に記載の塗膜。」に訂正する。 (15)訂正事項15 特許請求の範囲の請求項14から請求項1の引用を除いたことに伴い、請求項1を引用する請求項14に係る発明を独立項として書き下すことで、請求項31として、以下のとおり記載する訂正を行う。 「金属酸化物(A)と親水性化合物(B)を含み、 重合体粒子(D)をさらに含み、 塗膜表面溶出試験による溶出物の高さが1.0μm以下であり、ここで、塗膜表面溶出試験は、塗膜に脱イオン水10μlを乗せ、23℃50%RHの環境下で24時間放置し、塗膜表面10cm2の範囲内で20点の溶出物の高さを測定し、最も大きい高さを決定することにより行われ、 塗膜を85℃85%RHの環境下に24時間曝露後、23℃50%RHの環境下に1時間静置させる耐湿性試験に供した後に測定した水接触角が40゜未満であり、 上記金属酸化物(A)が、シリカ、シリコーン粒子、およびアクリルシリコーン粒子の少なくとも1つであり、 上記親水性化合物(B)が、分子内にアルキレングリコール部位を有する、 塗膜。 (16)訂正事項16 特許請求の範囲の請求項15に「塗膜を85℃85%RHの環境下に24時間曝露後、23℃50%RHの環境下に1時間静置させる耐湿性試験に供した後に測定したHAZEと、その試験前の当該塗膜のHAZEとの差であるΔHAZEが1.0未満である、請求項1~14のいずれか1項に記載の塗膜。」とあるのを、「塗膜を85℃85%RHの環境下に24時間曝露後、23℃50%RHの環境下に1時間静置させる耐湿性試験に供した後に測定したHAZEと、その試験前の当該塗膜のHAZEとの差であるΔHAZEが1.0未満である、請求項1及び3~14のいずれか1項に記載の塗膜。」に訂正する。 (17)訂正事項17 特許請求の範囲の請求項16に「金属酸化物(A)が、アルコキシシラン、及び/又はアルコキシシランの加水分解・縮合物から構成される、請求項1~15のいずれか1項に記載の塗膜を製造するためのコーティング組成物。」とあるのを、「金属酸化物(A)が、アルコキシシラン、及び/又はアルコキシシランの加水分解・縮合物から構成される、請求項1及び3~15のいずれか15項に記載の塗膜を製造するためのコーティング組成物。」に訂正する。 (18)訂正事項18 特許請求の範囲の請求項17を削除する訂正を行う。 (19)訂正事項19 特許請求の範囲の請求項18に「親水性化合物(B)が、分子内にポリアルキレンオキシド鎖を有し、ポリアルキレンオキシド鎖の一方の末端に一級脂肪族水酸基、もう一方の末端にアルコキシシラン及び/又はシラノール基を含む、請求項1~15のいずれか1項に記載の塗膜を製造するためのコーティング組成物。」とあるのを、「親水性化合物(B)が、分子内にポリアルキレンオキシド鎖を有し、ポリアルキレンオキシド鎖の一方の末端に一級脂肪族水酸基、もう一方の末端にアルコキシシラン及び/又はシラノール基を含む、請求項1及び3~15のいずれか1項に記載の塗膜を製造するためのコーティング組成物。」に訂正する。 (20)訂正事項20 特許請求の範囲の請求項19に「金属酸化物(A)、親水性化合物(B)、並びに、任意選択で、イソシアネート化合物(C)及び/又は重合体粒子(D)及び/又は水を含有し、請求項1~15のいずれか1項に記載の塗膜を製造するためのコーティング組成物。」とあるのを、「金属酸化物(A)、親水性化合物(B)、並びに、任意選択で、イソシアネート化合物(C)及び/又は重合体粒子(D)及び/又は水を含有し、請求項3~15のいずれか1項に記載の塗膜を製造するためのコーティング組成物。」に訂正する。 (21)訂正事項21 特許請求の範囲の請求項19から請求項1の引用を除いたことに伴い、請求項1を引用する請求項19に係る発明を独立項として書き下すことで、請求項32として、以下のとおり記載する訂正を行う。 「塗膜を製造するためのコーティング組成物であって、 上記塗膜が、金属酸化物(A)と親水性化合物(B)を含み、並びに、任意選択で、イソシアネート化合物(C)及び/又は重合体粒子(D)及び/又は水を含有し、 塗膜表面溶出試険による溶出物の高さが1.0μm以下であり、ここで、塗膜表面溶出試験は、塗膜に脱イオン水10μlを乗せ、23℃50%RHの環境下で24時間放置し、塗膜表面10cm2の範囲内で20点の溶出物の高さを測定し、最も大きい高さを決定することにより行われ、 塗膜を85℃85%RHの環境下に24時間曝露後、23℃50%RHの環境下に1時間静置させる耐湿性試験に供した後に測定した水接触角が40゜未満であり、 上記金属酸化物(A)が、シリカ、シリコーン粒子、およびアクリルシリコーン粒子の少なくとも1つであり、 上記親水性化合物(B)が、分子内にアルキレングリコール部位を有する、 塗膜を製造するためのコーティング組成物。」 (22)訂正事項22 特許請求の範囲の請求項20に「上記親水性化合物(B)が、分子内にイソシアネート基と反応し得る官能基を三つ以上有している、請求項16~19のいずれか1項に記載のコーティング組成物。」とあるのを、「上記親水性化合物(B)が、分子内にイソシアネート基と反応し得る官能基を三つ以上有している、請求項16及び18~19のいずれか1項に記載のコーティング組成物。」に訂正する。 (23)訂正事項23 特許請求の範囲の請求項21に「上記親水性化合物(B)のグリフィン法で求められるHLB値が10以上であることを特徴とする、請求項16~19のいずれか1項に記載のコーティング組成物。」とあるのを、「上記親水性化合物(B)のグリフィン法で求められるHLB値が10以上であることを特徴とする、請求項16及び18~19のいずれか1項に記載のコーティング組成物。」に訂正する。 (24)訂正事項24 特許請求の範囲の請求項22に「樹脂基材及び/又はガラス基材と、請求項1~15のいずれか1項に記載の塗膜との積層体。」とあるのを、「樹脂基材及び/又はガラス基材と、請求項1及び3~15のいずれか1項に記載の塗膜との積層体。」に訂正する。 (25)訂正事項25 特許請求の範囲の請求項23に「樹脂基材及び/又はガラス基材に防曇性を付与するための請求項1~15のいずれか1項に記載の塗膜の使用。」とあるのを、「樹脂基材及び/又はガラス基材に防曇性を付与するための請求項1及び3~15のいずれか1項に記載の塗膜の使用。」に訂正する。 (26)訂正事項26 特許請求の範囲の請求項24に「防曇塗膜として使用される、請求項1~15のいずれか1項に記載の塗膜。」とあるのを、「防曇塗膜として使用される、請求項1及び3~15のいずれか1項に記載の塗膜。」に訂正する。 (27)訂正事項27 特許請求の範囲の請求項25に、「自動車外装部品用塗膜として使用される、請求項1~15のいずれか1項に記載の塗膜。」とあるのを、「自動車外装部品用塗膜として使用される、請求項1及び3~15のいずれか1項に記載の塗膜。」に訂正する。 (28)訂正事項28 特許請求の範囲の請求項26に「ランプカバー用塗膜として使用される、請求項1~15のいずれか1項に記載の塗膜。」とあるのを、「ランプカバー用塗膜として使用される、請求項1及び3~15のいずれか1項に記載の塗膜。」に訂正する。 (29)訂正事項29 明細書の段落【0126】に 「次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。本発明の主題は、あくまで添付の特許請求の範囲によって決定され得るものであり、その文言上の範囲に加え、当業者によって自明な変更、均等物などを含む。 なお、各種物性は下記の方法で評価した。 <数平均粒子径> 試料中の固形分含有量が1~20質量%となるよう適宜溶媒を加えて希釈し、湿式粒度分析計(日本国日機装製マイクロトラックUPA-9230)を用いて測定した。」とあるのを、 「次に、実施例ならびに参考例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。本発明の主題は、あくまで添付の特許請求の範囲によって決定され得るものであり、その文言上の範囲に加え、当業者によって自明な変更、均等物などを含む。 なお、各種物性は下記の方法で評価した。 <数平均粒子径> 試料中の固形分含有量が1~20質量%となるよう適宜溶媒を加えて希釈し、湿式粒度分析計(日本国日機装製マイクロトラックUPA-9230)を用いて測定した。」に訂正する。 (30)訂正事項30 明細書の段落【0164】に 「〔実施例1〕 金属酸化物(A)として数平均粒子径4nmの水分散コロイダルシリカ(商品名「スノーテックス-OXS」、日産化学工業(株)製、固形分10質量%)40.0g、親水性化合物(B)として、ポリソルベート(モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、商品名「Tween-20」、東京化成工業(株)製、固形分100質量%、密度1.11g/cm3、平均粒径1.5nm)0.2gを混合後、25℃で1時間攪拌した。次いで、蒸留水1.8gを混合後、25℃でさらに1時間攪拌し、固形分10%のコーティング組成物を得た。得られたコーティング組成物を縦60mm×横60mm×厚さ2mmのポリカーボネート板(タキロン社製)の全体に、スピンコーターにより800rpm×5secの条件でコーティングし、20℃の環境で30分間乾燥させた。その後、120℃で30分間乾燥することにより、試験板を得た。得られた塗膜の膜厚は400nmであった。塗膜外観は良好(透明)であった。また、水接触角は2°であり、高い親水性を示した。得られた塗膜の表面溶出物高さは0.1μm以下であった。得られた試験片を、温度23℃のイオン交換水に24時間浸漬後、イオン交換水(脱イオン水)から試験片を取り出し、イオン交換水を減圧下にて除去することで得られた塗膜溶出物の量(塗膜単位体積あたり)は3mg/cm3であった。得られた試験片を、耐湿性試験1として、温度85℃85%RHの環境試験器に24時間入れ、次いで温度23℃、50%RHの環境下に1時間静置させた後、HAZE、密着性、水接触角、防曇性の評価を行った結果、ΔHAZEは0.1以下と良好で、密着性、親水性(水接触角)、防曇性も維持されており、耐湿性は慨して良好であった。また、得られた試験片を、耐湿性試験2として、温度50℃95%RHの環境試験器に240時間入れ、次いで温度23℃、50%RHの環境下に1時間静置させた後、HAZE、密着性、水接触角、防曇性の評価を行った結果、耐湿性試験1に匹敵する結果が得られ、すなわち、ΔHAZEは0.5未満と良好で、密着性、親水性(水接触角)、防曇性も維持されており、耐湿性は慨して良好であった。各原料の配合量(質量部)を表1-1に示す。初期特性を含めた各評価結果を表2-1に示す。」 とあるのを 「〔参考例1〕 金属酸化物(A)として数平均粒子径4nmの水分散コロイダルシリカ(商品名「スノーテックス-OXS」、日産化学工業(株)製、固形分10質量%)40.0g、親水性化合物(B)として、ポリソルベート(モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、商品名「Tween-20」、東京化成工業(株)製、固形分100質量%、密度1.11g/cm3、平均粒径1.5nm)0.2gを混合後、25℃で1時間攪拌した。次いで、蒸留水1.8gを混合後、25℃でさらに1時間攪拌し、固形分10%のコーティング組成物を得た。得られたコーティング組成物を縦60mm×横60mm×厚さ2mmのポリカーボネート板(タキロン社製)の全体に、スピンコーターにより800rpm×5secの条件でコーティングし、20℃の環境で30分間乾燥させた。その後、120℃で30分間乾燥することにより、試験板を得た。得られた塗膜の膜厚は400nmであった。塗膜外観は良好(透明)であった。また、水接触角は2°であり、高い親水性を示した。得られた塗膜の表面溶出物高さは0.1μm以下であった。得られた試験片を、温度23℃のイオン交換水に24時間浸漬後、イオン交換水(脱イオン水)から試験片を取り出し、イオン交換水を減圧下にて除去することで得られた塗膜溶出物の量(塗膜単位体積あたり)は3mg/cm3であった。得られた試験片を、耐湿性試験1として、温度85℃85%RHの環境試験器に24時間入れ、次いで温度23℃、50%RHの環境下に1時間静置させた後、HAZE、密着性、水接触角、防曇性の評価を行った結果、ΔHAZEは0.1以下と良好で、密着性、親水性(水接触角)、防曇性も維持されており、耐湿性は慨して良好であった。また、得られた試験片を、耐湿性試験2として、温度50℃95%RHの環境試験器に240時間入れ、次いで温度23℃、50%RHの環境下に1時間静置させた後、HAZE、密着性、水接触角、防曇性の評価を行った結果、耐湿性試験1に匹敵する結果が得られ、すなわち、ΔHAZEは0.5未満と良好で、密着性、親水性(水接触角)、防曇性も維持されており、耐湿性は慨して良好であった。各原料の配合量(質量部)を表1-1に示す。初期特性を含めた各評価結果を表2-1に示す。」 に訂正する。 (31)訂正事項31 明細書の段落【0165】に 「〔実施例2~24及び[比較例1~17〕 実施例2~24及び比較例1~17において、表1-1~表1-3、表1-9、表1-10に示すとおり、原料の種類や配合量(質量部)を変えること以外は実施例1に準じた方法で塗膜を製造し、試験片を作製して塗膜性能の評価を行った。初期特性を含めた塗膜性能の評価結果を表2-1~表2-3、表2-9、表2-10に示す。」 とあるのを、 「〔実施例14~24、参考例2~13及び比較例1~17〕 実施例14~24、参考例2~13及び比較例1~17において、表1-1~表1-3、表1-9、表1-10に示すとおり、原料の種類や配合量(質量部)を変えること以外は参考例1に準じた方法で塗膜を製造し、試験片を作製して塗膜性能の評価を行った。初期特性を含めた塗膜性能の評価結果を表2-1~表2-3、表2-9、表2-10に示す。」 に訂正する。 (32)訂正事項32 明細書の段落【0166】に 「〔実施例25〕 金属酸化物(A)として数平均粒子径4nmの水分散コロイダルシリカ(商品名「スノーテックス-OXS」、日産化学工業(株)製、固形分10質量%)90.7g、親水性化合物(B)として、合成例10で合成した(B)-8(固形分90%)1.0g、蒸留水2.9g、エタノール4.9g、ドデシルベンゼンスルホン酸(固形分10%)0.5gを混合後、80℃で5時間攪拌した。その後室温に冷却し、合成例22で得たポリイソシアネート(C)-2:1.3g、アルミニウムキレート化合物(商品名「DX9740」、信越化学(株)製、固形分100%)0.03g、ジメチルスルホキシド5.0gを混合後、25℃でさらに30分攪拌し、蒸留水で固形分10%に調整しコーティング組成物を得た。得られたコーティング組成物を縦60mm×横60mm×厚さ2mmのポリカーボネート板(タキロン社製)の全体に、スピンコーターにより800rpm×5secの条件でコーティングし、その後、120℃で10分間乾燥することにより、試験板を得た。実施例1に準じた方法で塗膜性能の評価を行った。」 とあるのを、 「〔実施例25〕 金属酸化物(A)として数平均粒子径4nmの水分散コロイダルシリカ(商品名「スノーテックス-OXS」、日産化学工業(株)製、固形分10質量%)90.7g、親水性化合物(B)として、合成例10で合成した(B)-8(固形分90%)1.0g、蒸留水2.9g、エタノール4.9g、ドデシルベンゼンスルホン酸(固形分10%)0.5gを混合後、80℃で5時間攪拌した。その後室温に冷却し、合成例22で得たポリイソシアネート(C)-2:1.3g、アルミニウムキレート化合物(商品名「DX9740」、信越化学(株)製、固形分100%)0.03g、ジメチルスルホキシド5.0gを混合後、25℃でさらに30分攪拌し、蒸留水で固形分10%に調整しコーティング組成物を得た。得られたコーティング組成物を縦60mm×横60mm×厚さ2mmのポリカーボネート板(タキロン社製)の全体に、スピンコーターにより800rpm×5secの条件でコーティングし、その後、120℃で10分間乾燥することにより、試験板を得た。参考例1に準じた方法で塗膜性能の評価を行った。」 に訂正する。 (33)訂正事項33 明細書の段落【0167】に 「〔実施例26~68〕 実施例26~68において、表1-4~表1-8に示すとおり、原料の種類や配合量(質量部)を変えること以外は実施例25に準じた方法で塗膜を製造し、試験片を作製して塗膜性能の評価を行った。初期特性を含めた塗膜性能の評価結果を表2-4~表2-8に示す。」 とあるのを、 「〔実施例26~29、34~42、44~65及び参考例30~33、43、66~68〕 実施例26~29、34~42、44~65及び参考例30~33、43、66~68において、表1-4~表1-8に示すとおり、原料の種類や配合量(質量部)を変えること以外は実施例25に準じた方法で塗膜を製造し、試験片を作製して塗膜性能の評価を行った。初期特性を含めた塗膜性能の評価結果を表2-4~表2-8に示す。」に訂正する。 (34)訂正事項34 明細書の段落【0168】に 「【表1-1】 [図:0001413287000001.jpg] 」とあるのを、 「【表1-1】 [図:0001413287000002.jpg] 」に訂正する。 (35)訂正事項35 明細書の段落【0169】に 「【表1-2】 [図:0001413287000003.jpg] 」 とあるのを、 「【表1-2】 [図:0001413287000004.jpg] 」に訂正する。 (36)訂正事項36 明細書の段落【0171】に 「【表1-4】 [図:0001413287000005.jpg] 」とあるのを、 「【表1-4】 [図:0001413287000006.jpg] 」に訂正する。 (37)訂正事項37 明細書の段落【0173】に 「【表1-6】 [図:0001413287000007.jpg] 」とあるのを、 「【表1-6】 [図:0001413287000008.jpg] 」に訂正する。 (38)訂正事項38 明細書の段落【0175】に 「【表1-8】 [図:0001413287000009.jpg] 」とあるのを、 「【表1-8】 [図:0001413287000010.jpg] 」に訂正する。 (39)訂正事項39 明細書の段落【0178】に 「【表2-1】 [図:0001413287000011.jpg] 」とあるのを、 「【表2-1】 [図:0001413287000012.jpg] 」に訂正する。 (40)訂正事項40 明細書の段落【0179】に 「【表2-2】 [図:0001413287000013.jpg] 」とあるのを、 「【表2-2】 [図:0001413287000014.jpg] 」に訂正する。 (41)訂正事項41 明細書の段落【0181】に 「【表2-4】 [図:0001413287000015.jpg] 」とあるのを、 「【表2-4】 [図:0001413287000016.jpg] 」に訂正する。 (42)訂正事項42 明細書の段落【0183】に 「【表2-6】 [図:0001413287000017.jpg] 」とあるのを、 「【表2-6】 [図:0001413287000018.jpg] 」に訂正する。 (43)訂正事項43 明細書の段落【0185】に 「【表2-8】 [図:0001413287000019.jpg] 」とあるのを、 「【表2-8】 [図:0001413287000020.jpg] 」に訂正する。 2 一群の請求項等について 訂正前の請求項1~26について、請求項2~26はそれぞれ請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~26は一群の請求項であり、本件訂正は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項ごとにされたものである。 3 訂正の適否 (1)訂正事項1 ア 訂正の目的について 訂正事項1は、塗膜について「塗膜全溶出試験による塗膜単位体積あたりの溶出量が10mg/cm3以下であり、ここで、塗膜全溶出試験は、23℃の脱イオン水に24時間浸漬させた後、脱イオン水から回収される塗膜溶出物の重量を測定することにより行われ」に限定し、金属酸化物(A)について「1~400nmの数平均粒子径を有する酸性コロイダルシリカ」に限定するものであり、塗膜に含まれる親水性化合物(B)について「分子内にアルキレングリコール部位を有し、「かつ分子内にアルコキシシラン及び/又はシラノール基を含む」ものに限定するものであるから、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるかの判断 上記アの理由から明らかなように、訂正事項1は、塗膜、金属酸化物(A)及び塗膜に含まれる親水性化合物(B)を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものであるといえる。 ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正でないかの判断 塗膜について「塗膜全溶出試験による塗膜単位体積あたりの溶出量が10mg/cm3以下であり、ここで、塗膜全溶出試験は、23℃の脱イオン水に24時間浸漬させた後、脱イオン水から回収される塗膜溶出物の重量を測定することにより行われ」は明細書【0043】に「ここで、塗膜全溶出試験は、23℃の脱イオン水に24時間浸漬させた後、脱イオン水から回収される塗膜溶出物の重量を測定することにより行われる。 塗膜全溶出試験における溶出量は、より好ましくは30mg/cm3以下、さらに好ましくは20mg/cm3以下、さらにより好ましくは10mg/cm3以下、最も好ましくは5mg/cm3以下である。」と記載され、金属酸化物(A)について「1~400nmの数平均粒子径を有する酸性コロイダルシリカ」は明細書【0021】及び【0022】に「一実施形態において、金属酸化物(A)は、取扱い性の観点からシリカが好ましい。・・・その中でもコロイダルシリカは、シリカの水又は水溶性溶剤の分散体であり、取り扱い性の観点から好ましい。シリカの数平均粒子径は1~400nmであり、好ましくは1~100nmであり、より好ましくは1~50nmである。数平均粒子径が1nm以上の場合、コーティング組成物の貯蔵安定性が良好となる傾向にある。また、数平均粒子径が400nm以下の場合、透明性が良好となる傾向にある。」「上記範囲の数平均粒子径のシリカは、水性分散液の状態で、酸性、塩基性、及びカチオン性のいずれであっても用いることができる。」と記載され、塗膜に含まれる「親水性化合物(B)」が、分子内にアルキレングリコール部位を有し、「かつ分子内にアルコキシシラン及び/又はシラノール基を含む」ことは、前記訂正事項18として削除する訂正を行う本件特許の請求項17(請求項1を引用)の発明特定事項であることから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものであるといえる。 エ 独立特許要件についての判断 訂正事項1に係る訂正前の請求項1について特許異議の申立てがされているので、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 (2)訂正事項2、18 ア 訂正の目的について 訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項2を削除する訂正であり、訂正事項18は、特許請求の範囲の請求項17を削除する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるかの判断 訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項2を削除する訂正であり、訂正事項18は、特許請求の範囲の請求項17を削除する訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものであるといえる。 ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正でないかの判断 訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項2を削除する訂正であり、訂正事項18は、特許請求の範囲の請求項17を削除する訂正であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものであるといえる。 エ 独立特許要件についての判断 訂正事項2に係る訂正前の請求項2及び訂正事項18に係る訂正前の請求項17について特許異議の申立てがされているので、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 (3)訂正事項3~5、11~13、16、17、19、24~28 ア 訂正の目的について 訂正事項3~5、11~13、16、17、19、24~28は、訂正事項3~5、11~13、16、17、19、24~28に係る請求項4~6、8~10、15~17、22~26で引用する請求項群から請求項2を削除するものであり、多数項引用形式の請求項の引用請求項数を減少する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるかの判断 訂正事項3~5、11~13、16、17、19、24~28は、訂正事項3~5、11~13、16、17、19、24~28に係る請求項4~6、8~10、15~17、22~26で引用する請求項群から請求項2を削除するものであり、多数項引用形式の請求項の引用請求項数を減少する訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものであるといえる。 ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正でないかの判断 訂正事項3~5、11~13、16、17、19、24~28は、訂正事項3~5、11~13、16、17、19、24~28に係る請求項4~6、8~10、15~17、22~26で引用する請求項群から請求項2を削除するものであり、多数項引用形式の請求項の引用請求項数を減少する訂正であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものであるといえる。 エ 独立特許要件についての判断 訂正事項3~5、11~13、16、17、19、24~28に係る訂正前の請求項4~6、8~10、15~17、22~26について特許異議の申立てがされているので、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 (4)訂正事項6 ア 訂正の目的について 訂正事項6は、訂正事項6に係る請求項7で引用する請求項群から請求項1及び2を除き、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるかの判断 訂正事項6は、引用する請求項群から請求項1及び2を除き、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものであるといえる。 ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正でないかの判断 訂正事項6は、引用する請求項群から請求項1及び2を除き、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものであるといえる。 エ 独立特許要件についての判断 上記訂正事項6による訂正後の請求項7に係る発明は、新規性、進歩性、明確性要件、サポート要件及び実施可能要件ならびにその他の全ての特許要件を満たすと認定されたうえで特許査定及び登録された本件特許の請求項7に対し、「塗膜全溶出試験による塗膜単位体積あたりの溶出量が10mg/cm3以下であり、ここで、塗膜全溶出試験は、23℃の脱イオン水に24時間浸漬させた後、脱イオン水から回収される塗膜溶出物の重量を測定することにより行われ」なる発明特定事項及び「上記金属酸化物(A)」が「1~400nmの数平均粒子径を有する酸性コロイダルシリカであり」なる発明特定事項による減縮を加えるものに当たるから、このような訂正後の請求項7に係る発明は、新規性、進歩性、明確性要件、サポート要件及び実施可能要件ならびにその他の全ての特許要件を当然に満たすと認定されるべきであると考えられる。すなわち、当該訂正後の請求項7に係る発明は、特許異議申立書あるいは取消理由通知書にて引用されたいずれの先行技術文献にも記載・示唆されておらず、何ら不明確性を生じるものでもなく、また発明の詳細な説明によりサポートされており、また当業者が実施可能な程度に発明の詳細な説明に明確かつ十分に記載されており、そして他のいかなる不特許事由にも該当しないといえる。 したがって、訂正後の請求項7に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであり、独立特許要件を満たすから、この訂正事項6は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に適合するものであるといえる。 (5)訂正事項14、20 ア 訂正の目的について 訂正事項14は、訂正事項14に係る請求項14で引用する請求項群から請求項1及び2を除き、訂正事項20は訂正事項20に係る請求項19で引用する請求項群から請求項1及び2を除き、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるかの判断 訂正事項14は、訂正事項14に係る請求項14で引用する引用する請求項群から請求項1及び2を除き、訂正事項20は訂正事項20に係る請求項19で引用する請求項群から請求項1及び2を除き、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものであるといえる。 ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正でないかの判断 訂正事項14は、訂正事項14に係る請求項14で引用する引用する請求項群から請求項1及び2を除き、訂正事項20は訂正事項20に係る請求項19で引用する請求項群から請求項1及び2を除き、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものであるといえる。 エ 独立特許要件についての判断 訂正事項14による訂正後の請求項14に係る発明は、新規性、進歩性、明確性要件、サポート要件及び実施可能要件ならびにその他の全ての特許要件を満たすと認定されたうえで特許査定及び登録された本件特許の請求項14に対し、そして、訂正事項20による訂正後の請求項19に係る発明は、新規性、進歩性、明確性要件、サポート要件及び実施可能要件ならびにその他の全ての特許要件を満たすと認定されたうえで特許査定及び登録された本件特許の請求項19に対し、「塗膜全溶出試験による塗膜単位体積あたりの溶出量が10mg/cm3以下であり、ここで、塗膜全溶出試験は、23℃の脱イオン水に24時間浸漬させた後、脱イオン水から回収される塗膜溶出物の重量を測定することにより行われ」なる発明特定事項及び「上記金属酸化物(A)」が「1~400nmの数平均粒子径を有する酸性コロイダルシリカであり」なる発明特定事項による減縮を加えるものに当たるから、このような訂正後の請求項14及び19に係る発明は、新規性、進歩性、明確性要件、サポート要件及び実施可能要件ならびにその他の全ての特許要件を当然に満たすと認定されるべきであると考えられる。すなわち、当該訂正後の請求項7に係る発明は、特許異議申立書あるいは取消理由通知書にて引用されたいずれの先行技術文献にも記載・示唆されておらず、何ら不明確性を生じるものでもなく、また発明の詳細な説明によりサポートされており、また当業者が実施可能な程度に発明の詳細な説明に明確かつ十分に記載されており、そして他のいかなる不特許事由にも該当しないといえる。 したがって、訂正後の請求項14及び19に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであり、独立特許要件を満たすから、この訂正事項14及び20は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に適合するものであるといえる。 (6)訂正事項7~10、15、21 ア 訂正の目的について 訂正事項7は、上記訂正事項6により請求項7から請求項1の引用を除いたことに伴い、請求項1を引用する請求項7に係る発明を独立項として書き下すことで、請求項27としたものであり、訂正事項8は、上記訂正事項6により請求項7から請求項1の引用を除いたことに伴い、請求項1を引用する請求項7を引用する請求項11に係る発明を独立項として書き下すことで、請求項28としたものであり、訂正事項9は、上記訂正事項6により請求項7から請求項1の引用を除いたことに伴い、請求項1を引用する請求項7を引用する請求項12に係る発明を独立項として書き下すことで、請求項29としたものであり、訂正事項10は、上記訂正事項6により請求項7から請求項1の引用を除いたことに伴い、請求項1を引用する請求項7を引用する請求項13に係る発明を独立項として書き下すことで、請求項30としたものであり、訂正事項15は、上記訂正事項14により請求項14から請求項1の引用を除いたことに伴い、請求項1を引用する請求項14に係る発明を独立項として書き下すことで、請求項31としたものであり、訂正事項21は、上記訂正事項20により請求項18から請求項1の引用を除いたことに伴い、請求項1を引用する請求項18に係る発明を独立項として書き下すことで、請求項32としたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであるといえる。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるかの判断 訂正事項7は、上記訂正事項6により請求項7から請求項1の引用を除いたことに伴い、請求項1を引用する請求項7に係る発明を独立項として書き下すことで、請求項27としたものであり、訂正事項8は、上記訂正事項6により請求項7から請求項1の引用を除いたことに伴い、請求項1を引用する請求項7を引用する請求項11に係る発明を独立項として書き下すことで、請求項28としたものであり、訂正事項9は、上記訂正事項6により請求項7から請求項1の引用を除いたことに伴い、請求項1を引用する請求項7を引用する請求項12に係る発明を独立項として書き下すことで、請求項29としたものであり、訂正事項10は、上記訂正事項6により請求項7から請求項1の引用を除いたことに伴い、請求項1を引用する請求項7を引用する請求項13に係る発明を独立項として書き下すことで、請求項30としたものであり、訂正事項15は、上記訂正事項14により請求項14から請求項1の引用を除いたことに伴い、請求項1を引用する請求項14に係る発明を独立項として書き下すことで、請求項31としたものであり、訂正事項21は、上記訂正事項20により請求項18から請求項1の引用を除いたことに伴い、請求項1を引用する請求項18に係る発明を独立項として書き下すことで、請求項32としたものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものであるといえる。 ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正でないかの判断 訂正事項7は、上記訂正事項6により請求項7から請求項1の引用を除いたことに伴い、請求項1を引用する請求項7に係る発明を独立項として書き下すことで、請求項27としたものであり、訂正事項8は、上記訂正事項6により請求項7から請求項1の引用を除いたことに伴い、請求項1を引用する請求項7を引用する請求項11に係る発明を独立項として書き下すことで、請求項28としたものであり、訂正事項9は、上記訂正事項6により請求項7から請求項1の引用を除いたことに伴い、請求項1を引用する請求項7を引用する請求項12に係る発明を独立項として書き下すことで、請求項29としたものであり、訂正事項10は、上記訂正事項6により請求項7から請求項1の引用を除いたことに伴い、請求項1を引用する請求項7を引用する請求項13に係る発明を独立項として書き下すことで、請求項30としたものであり、訂正事項15は、上記訂正事項14により請求項14から請求項1の引用を除いたことに伴い、請求項1を引用する請求項14に係る発明を独立項として書き下すことで、請求項31としたものであり、訂正事項21は、上記訂正事項20により請求項18から請求項1の引用を除いたことに伴い、請求項1を引用する請求項18に係る発明を独立項として書き下すことで、請求項32としたものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものであるといえる。 エ 独立特許要件についての判断 訂正事項7~10、15、21により訂正された訂正後の請求項27~32は、特許異議の申立てのされなかった訂正前の請求項1のみを引用する請求項7、11~14及び19を独立形式の請求項に改めたものであるが、これらの訂正の目的は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正(請求項間の引用関係の解消を目的とする訂正)であるから、訂正事項7~10、15、18、21、23に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 (7)訂正事項22、23 ア 訂正の目的について 訂正事項22、23は、訂正事項22、23に係る請求項20、21で引用する請求項群から請求項17を削除するものであり、多数項引用形式の請求項の引用請求項数を減少する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるかの判断 訂正事項22、23は、訂正事項22、23に係る請求項20、21で引用する請求項群から請求項17を削除するものであり、多数項引用形式の請求項の引用請求項数を減少する訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものであるといえる。 ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正でないかの判断 訂正事項22、23は、訂正事項22、23に係る請求項20、21で引用する請求項群から請求項17を削除するものであり、多数項引用形式の請求項の引用請求項数を減少する訂正であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものであるといえる。 エ 独立特許要件についての判断 訂正事項22、23に係る訂正前の請求項20、21について特許異議の申立てがされているので、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 (8)訂正事項29~43 ア 訂正の目的について 訂正事項29~43は、訂正事項1により、請求項1の塗膜において「塗膜全溶出試験による塗膜単位体積あたりの溶出量が10mg/cm3以下であり、ここで、塗膜全溶出試験は、23℃の脱イオン水に24時間浸漬させた後、脱イオン水から回収される塗膜溶出物の重量を測定することにより行われ」、「上記親水性化合物(B)が、分子内にアルキレングリコール部位を有し、かつ分子内にアルコキシシラン及び/又はシラノール基を含む」及び「上記親水性化合物(B)が、分子内にアルキレングリコール部位を有する」なる事項を規定するように訂正した結果、本件特許の明細書に記載された実施例1~13、30~33、43、66~68は、訂正後の請求項1の範囲外となったため、実施例1~13、30~33、43、66~68を参考例1~13、30~33、43、66~68と変更し、それに伴い、段落【0126】において、「実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する」に参考例を追加し、「実施例ならびに参考例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する」と変更するとともに、段落【0164】において「実施例1」を「参考例1」に変更し、段落【0165】において「実施例2」~「実施例13」を「参考例2」~「参考例13」に変更し、段落【0166】において、発明の範囲内の例であることを意味する「実施例1」を「参考例1」に変更し、段落【0167】において「実施例30」~「実施例33」、「実施例43」及び「実施例66」~「実施例68」を「参考例30」~「参考例33」、「参考例43」及び「参考例66」~「参考例68」に変更し、段落【0168】において「実施例1」~「実施例7」を「参考例1」~「参考例7」に変更し、段落【0169]において「実施例8」~「実施例13」を「参考例8」~「参考例13」に変更し、段落【0171】において「実施例30」~「実施例33」を「参考例30」~「参考例33」に変更し、段落【0173】において「実施例43」を、請求項1の訂正発明の範囲外の例であることを意味する「参考例43」に変更し、段落【0175】において「実施例66」~「実施例68」を「参考例66」~「参考例68」に変更し、段落【0178】において「実施例1」~「実施例7」を「参考例1」~「参考例7」に変更し、段落【0179】において「実施例8」~「実施例13」を「参考例8」~「参考例13」に変更し、段落【0181】において「実施例30」~「実施例33」を「参考例30」~「参考例33」に変更し、段落【0183】において「実施例43」を「参考例43」に変更し、段落【0185】において「実施例66」~「実施例68」を「参考例66」~「参考例68」に変更するものであって、訂正事項29~43は、上記訂正事項1の訂正が認められた場合の請求項1の記載との関係で不合理(不整合)を生じているために不明瞭となっている記載上の不備(訂正発明の範囲外の例であるべきところを発明の範囲内の例として記載されていることの不備)を訂正することを意図するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであるといえる。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるかの判断 訂正事項29~43は、単に明細書の例の表記を形式的に変更するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものであるといえる。 ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正でないかの判断 訂正事項29~43は、単に明細書の例の表記を形式的に変更するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものであるといえる。 エ 独立特許要件についての判断 訂正事項29~43は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであるといえるから、訂正事項29~43に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 オ 明細書又は図面の訂正と関係する請求項についての説明 明細書についての訂正事項29~43は、上記訂正事項1の訂正が認められた場合の請求項1の記載との関係で不合理(不整合)を生じているために不明瞭となっている記載上の不備(訂正発明の範囲外の例であるべきところを発明の範囲内の例として記載されていることの不備)を訂正することを意図するものであり、その訂正内容は、一群の請求項である請求項1~26並びに別の訂正単位とされる請求項27、28、29、30、31及び32の全てに関係している。 4 別の訂正単位とする求めについて 訂正事項7~10、15、21により、独立形式の請求項とした請求項27~32について、訂正が認められる場合には、請求項1~26とは別途訂正する求めがあり、上記3(6)のとおり訂正が認められるから、別の訂正単位とすることを認める。 5 小括 以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、特許第7087059号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-26〕、27、28、29、30、31、32について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 上記第2で述べたとおり、本件訂正後の請求項〔1-26〕、27、28、29、30、31、32について訂正することが認められ、かつ、請求項27~32は、上記第2の3(6)で検討したとおり、特許異議の申立てのなかった請求項7、11~14、19を独立形式の請求項に改めたものであるので、特許異議の申立ての対象は、本件特許の請求項1~6、8~10、15~18、20~26であり、それらの請求項に係る発明は、令和6年12月28日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~6、8~10、15~18、20~26に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下項番順に「本件特許発明1」等といい、まとめて「本件特許発明」ともいう。)である。 「【請求項1】 金属酸化物(A)と親水性化合物(B)を含み、 塗膜表面溶出試験による溶出物の高さが1.0μm以下であり、ここで、塗膜表面溶出試験は、塗膜に脱イオン水10μlを乗せ、23℃50%RHの環境下で24時間放置し、塗膜表面10cm2の範囲内で20点の溶出物の高さを測定し、最も大きい高さを決定することにより行われ、 塗膜全溶出試験による塗膜単位体積あたりの溶出量が10mg/cm3以下であり、ここで、塗膜全溶出試験は、23℃の脱イオン水に24時間浸漬させた後、脱イオン水から回収される塗膜溶出物の重量を測定することにより行われ、 塗膜を85℃85%RHの環境下に24時間曝露後、23℃50%RHの環境下に1時間静置させる耐湿性試験に供した後に測定した水接触角が40゜未満であり、 上記金属酸化物(A)が、1~400nmの数平均粒子径を有する酸性コロイダルシリカであり、 上記親水性化合物(B)が、分子内にアルキレングリコール部位を有し、かつ分子内にアルコキシシラン及び/又はシラノール基を含む、 塗膜。 【請求項2】(削除) 【請求項3】 塗膜全溶出試験による塗膜単位体積あたりの溶出量が40mg/cm3以下であり、ここで、塗膜全溶出試験は、80℃の脱イオン水に24時間浸漬させた後、脱イオン水から回収される塗膜溶出物の重量を測定することにより行われる、請求項1に記載の塗膜。 【請求項4】 水接触角の値が40゜未満である、請求項1又は3に記載の塗膜。 【請求項5】 上記金属酸化物(A)が、水酸基を有する、請求項1、3及び4のいずれか1項に記載の塗膜。 【請求項6】 上記親水性化合物(B)が、非共有結合及び/又は共有結合を介して上記金属酸化物表面に結合している、請求項1及び3~5のいずれか1項に記載の塗膜。」 「【請求項8】 上記親水性化合物(B)が、ノニオン系化合物、アニオン系化合物及び両性イオン系化合物からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1及び3~7のいずれか1項に記載の塗膜。 【請求項9】 上記親水性化合物(B)が、分子内に炭素-酸素結合を有する、請求項1及び3~8のいずれか1項に記載の塗膜。 【請求項10】 上記親水性化合物(B)が、ウレタン結合及び/又はシロキサン結合を介して互いに結合している、請求項1及び3~9のいずれか1項に記載の塗膜。」 「【請求項15】 塗膜を85℃85%RHの環境下に24時間曝露後、23℃50%RHの環境下に1時間静置させる耐湿性試験に供した後に測定したHAZEと、その試験前の当該塗膜のHAZEとの差であるΔHAZEが1.0未満である、請求項1及び3~14のいずれか1項に記載の塗膜。 【請求項16】 金属酸化物(A)が、アルコキシシラン、及び/又はアルコキシシランの加水分解縮合物から構成される、請求項1及び3~15のいずれか1項に記載の塗膜を製造するためのコーティング組成物。 【請求項17】(削除) 【請求項18】 親水性化合物(B)が、分子内にポリアルキレンオキシド鎖を有し、ポリアルキレンオキシド鎖の一方の末端に一級脂肪族水酸基、もう一方の末端にアルコキシシラン及び/又はシラノール基を含む、請求項1及び3~15のいずれか1項に記載の塗膜を製造するためのコーティング組成物。」 「【請求項20】 上記親水性化合物(B)が、分子内にイソシアネート基と反応し得る官能基を三つ以上有している、請求項16及び18~19のいずれか1項に記載のコーティング組成物。 【請求項21】 上記親水性化合物(B)のグリフィン法で求められるHLB値が10以上であることを特徴とする、請求項16及び18~19のいずれか1項に記載のコーティング組成物。 【請求項22】 樹脂基材及び/又はガラス基材と、請求項1及び3~15のいずれか1項に記載の塗膜との積層体。 【請求項23】 樹脂基材及び/又はガラス基材に防曇性を付与するための請求項1及び3~15のいずれか1項に記載の塗膜の使用。 【請求項24】 防曇塗膜として使用される、請求項1及び3~15のいずれか1項に記載の塗膜。 【請求項25】 自動車外装部品用塗膜として使用される、請求項1及び3~15のいずれか1項に記載の塗膜。 【請求項26】 ランプカバー用塗膜として使用される、請求項1及び3~15のいずれか1項に記載の塗膜。」 第4 取消理由通知に記載した取消理由について 1 当審が令和5年3月8日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 「理由1(新規性)本件特許の請求項1~6、8~10、15、17、21~24に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、上記の請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 理由2(進歩性)本件特許の請求項1~6、8~10、15、17、20~26に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証~甲第3号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、上記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 記 甲第1号証:特開2012-7037号公報 甲第2号証:国際公開2017/159564号」 2 当審が令和5年11月8日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 「理由3(実施可能要件)本件特許の請求項1、3~6、8~10、15~18、20~26、32、33に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 (1)実施可能要件について 特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明のいわゆる実施可能要件を規定したものであって、物の発明では、その物を作り、かつ、その物を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載が無い場合には、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作り、その物を使用することができる程度にその発明が記載されていなければならないと解される。 そうすると、本件特許発明1、3~6、8~10、15~18、20~26を実施することができるといえるためには、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、「塗膜表面溶出試験による溶出物の高さが1.0μm以下であり、ここで、塗膜表面溶出試験は、塗膜に脱イオン水10μlを乗せ、23℃50%RHの環境下で24時間放置し、塗膜表面10cm2の範囲内で20点の溶出物の高さを測定し、最も大きい高さを決定することにより行われ、 塗膜全溶出試験による塗膜単位体積あたりの溶出量が10mg/cm3以下であり、ここで、塗膜全溶出試験は、23℃の脱イオン水に24時間浸漬させた後、脱イオン水から回収される塗膜溶出物の重量を測定することにより行われ、 塗膜を85℃85%RHの環境下に24時間曝露後、23℃50%RHの環境下に1時間静置させる耐湿性試験に供した後に測定した水接触角が40゜未満であり」という要件(以下、「本件特許発明1の3要件」という。)を満たす塗膜を得ることができる程度の記載があることを要する。 また、本件特許発明32、33を実施することができるといえるためには、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、「塗膜表面溶出試験による溶出物の高さが1.0μm以下であり、ここで、塗膜表面溶出試験は、塗膜に脱イオン水10μlを乗せ、23℃50%RHの環境下で24時間放置し、塗膜表面10cm2の範囲内で20点の溶出物の高さを測定し、最も大きい高さを決定することにより行われ、 塗膜を85℃85%RHの環境下に24時間曝露後、23℃50%RHの環境下に1時間静置させる耐湿性試験に供した後に測定した水接触角が40゜未満であり」という要件(以下、「本件特許発明32の2要件」という。)を満たす塗膜を得ることができる程度の記載があることを要する。」 (2)判断 ア 甲第1号証との関係 本件特許明細書の【0038】の「金属酸化物(A)に対する親水性化合物(B)の質量比((B質量)/(A質量))は、耐湿性の観点から好ましくは0.005以上、より好ましくは0.01以上、さらに好ましくは0.03以上である。また、この質量比は、耐溶出性、水滴痕発生抑制の観点から好ましくは1以下、より好ましくは0.7以下、さらに好ましくは0.5以下である。」との記載、【0052】の「親水性化合物(B)は、グリフィン法で求められるHLB値(親水性親油性バランス)が10以上であることが好ましい。」との記載及び【0121】の「典型的な一実施態様において、本発明に係る塗膜を形成するためのコーティング組成物は、(A)成分と(B)成分を予め混合後、水と混合する工程、および40℃未満で10分以上撹拌する工程を含む方法によって製造することができる。」との記載から、親水性化合物(B)が分子内にアルコキシシラン及び/又はシラノール基を含むポリアルキレンオキシドであり、金属酸化物(A)に対する親水性化合物(B)の質量比((B質量)/(A質量))は0.005以上であり、親水性化合物(B)がHLB値(親水性親油性バランス)が10以上であり、(A)成分と(B)成分を予め混合後、水と混合する工程、および40℃未満で10分以上撹拌する工程を含む方法によって製造されることにより、本件特許発明1は、塗膜が前記本件特許発明1の3要件を満たすものとなると解され、本件特許発明32、33は、塗膜が前記本件特許発明32の2要件を満たすものとなると解される。 ここで、甲第1号証の比較例1の防曇剤組成物から形成した塗膜において、本件特許発明1の金属酸化物(A)に相当する酸性のコロイダルシリカであるスノーテックスO(日産化学工業(株)製、シリカ含有量20質量%、pH2.0-4.0)と本件特許発明1の親水性化合物(B)に相当するCH3O-(C2H4O)10-(CH2)3Si(OCH3)3との質量比(B)/(A)は0.115(6.9/(300×20/100))であり、甲第1号証の比較例1の防曇剤組成物から形成した塗膜における質量比(B)/(A)は本件特許明細書の前記記載の範囲内である。 また、甲第1号証の比較例1の防曇剤組成物から形成した塗膜におけるCH3O-(C2H4O)10-(CH2)3Si(OCH3)3のHLB値に関し、CH3O-(C2H4O)10-(CH2)3Si(OCH3)3は本件特許明細書の【0033】の「上記親水性化合物(B)として、分子内にアルコキシシラン及び/又はシラノール基を含むポリアルキレンオキシドが挙げられる。」との記載の範囲内のものであり、そのHLB値は十分高いものであるはずであるから、特許異議申立人の主張どおり、化学式に基づいてグリフィン法に従って算出するとCH3O-(C2H4O)10-(CH2)3Si(OCH3)3のHLB値が10以上となることは明らかである。 そして、製造条件に関し、甲第1号証の比較例1の防曇剤組成物から形成した塗膜は、上記の金属酸化物(A)に相当する塩基性のコロイダルシリカゾル(スノーテックスS:日産化学工業(株)製、シリカ含有量30質量%、pH9.0-10.5)と親水性化合物(B)に相当するCH3O-(C2H4O)10-(CH2)3Si(OCH3)3をイオン交換水と混合した後、25℃で3時間撹拌させて共加水分解・縮合反応を行っており、この条件は、本件特許明細書の前記記載の範囲内である。 さらに、甲第1号証の比較例1の防曇剤組成物から形成した塗膜における酸性のコロイダルシリカであるスノーテックスO(日産化学工業(株)製、シリカ含有量20質量%、pH2.0-4.0)は本件特許発明1で実際に用いられている金属酸化物(A)である。 以上のように、甲第1号証の比較例1の防曇剤組成物から形成した塗膜は、本件特許明細書に記載された範囲内の出発材料を用い、かつ、本件明細書に記載された製造条件の範囲内で防曇剤組成物が調製されていることは明らかである。 しかし、甲第1号証の比較例1の防曇剤組成物から形成した塗膜は耐湿性が明らかに劣るものであり、前記本件特許発明1の3要件を満たさず、前記本件特許発明32の2要件を満たさないといえる。 そうすると、金属酸化物(A)と親水性化合物(B)を含み、 上記金属酸化物(A)が、1~400nmの数平均粒子径を有する酸性コロイダルシリカであり、 上記親水性化合物(B)が、分子内にアルキレングリコール部位を有する塗膜であっても、前記本件特許発明1の3要件又は前記本件特許発明32の2要件を満たさないものがあるといえる。 また、前記本件特許発明1の3要件又は前記本件特許発明32の2要件を満たすように前記金属酸化物(A)及び前記親水性化合物(B)を選択する指標となるような出願時の技術常識もない。 そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載又は技術常識に基づいて、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、前記本件特許発明1の3要件又は前記本件特許発明32の2要件を満たす塗膜を得ることができるとはいえない。 したがって、本件特許明細書は、本件特許発明1、32、33の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとは言えないから、実施可能要件違反に該当するものである。 本件特許発明1を直接又は間接的に引用する本件特許発明3~6、8~10、15~18、20~26についても同様である。 イ 甲第2号証との関係 前記(1)のとおり、親水性化合物(B)が分子内にアルコキシシラン及び/又はシラノール基を含むポリアルキレンオキシドであり、金属酸化物(A)に対する親水性化合物(B)の質量比((B質量)/(A質量))は0.005以上であり、親水性化合物(B)がHLB値(親水性親油性バランス)が10以上であり、(A)成分と(B)成分を予め混合後、水と混合する工程、および40℃未満で10分以上撹拌する工程を含む方法によって製造されることにより、本件特許発明1は、塗膜が前記本件特許発明1の3要件を満たすものとなると解される。 ここで、甲2号証の実施例9の防曇性を有する塗膜において、金属酸化物(A)と親水性化合物(B)と質量比(B)/(A)は1(4.0/(40×0.1))であり、甲2発明1の塗膜における質量比(B)/(A)は本件特許明細書の前記記載の範囲内である。 また、甲2号証の実施例9の防曇性を有する塗膜における親水性化合物(B)のHLB値は11.3であり、本件特許明細書の前記記載の範囲内である。 そして、製造条件に関し、甲2発明1では、上記の金属酸化物(A)と親水性化合物(B)を蒸留水と混合した後、25℃で3時間撹拌して共加水分解・縮合反応を行っており、この条件は、この条件は、本件特許明細書の前記記載の範囲内である。 さらに、甲2号証の実施例9の防曇性を有する塗膜における金属酸化物(A)として数平均粒子径4nmの水分散コロイダルシリカ(商品名「スノーテックス-OXS」は、本件特許発明1の実施例で実際に用いられたものである。 以上のように、甲2号証の実施例9の防曇性を有する塗膜は、本件特許明細書に記載された範囲内の出発材料を用い、かつ、本件明細書に記載された製造条件の範囲内で防曇剤組成物が調製されていることは明らかである。 しかし、甲2号証の実施例9の防曇性を有する塗膜は、前記本件特許発明1の3要件及び前記本件特許発明32の2要件を満たしていない本件特許明細書の比較例4、6、7及び8の分子内にアルキレングリコール部位を有する親水性化合物(B)であるP123を含むものであり、前記本件特許発明1の3要件又は前記本件特許発明32の2要件を満たす蓋然性が高いとはいえない。この点について、特許権者によって令和5年5月12日に提出された意見書(5-5)~(5-6)においても、本件明細書に示された比較例4、6~8の結果をもとに、親水性化合物(B)としてP123使用された実施例1、2、3、5について本件特許発明1の3要件を満たさない蓋然性が極めて高いと言えると主張されている。 また、本件特許明細書の比較例3も親水性化合物(B)として分子内にアルキレングリコール部位を有するL44を含有し、比較例9も親水性化合物(B)として分子内にアルキレングリコール部位を有するPE10100を含有するものの、前記本件特許発明1の3要件及び前記本件特許発明32の2要件を満たさない。 また、前記本件特許発明1の3要件又は前記本件特許発明32の2要件を満たすように前記金属酸化物(A)及び前記親水性化合物(B)を選択する指標となるような出願時の技術常識もない。 そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載又は技術常識に基づいて、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、前記本件特許発明1の3要件又は前記本件特許発明32の2要件を満たす塗膜を得ることができるとはいえない。 したがって、本件特許明細書は、本件特許発明1、32、33の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとは言えないから、実施可能要件違反に該当するものである。 本件特許発明1を直接又は間接的に引用する本件特許発明3~6、8~10、15~18、20~26についても同様である。」 第5 前記第4における理由1(新規性)及び理由2(進歩性)についての判断 1 甲号証について 前記第4の1に記載した甲第1号証及び甲第2号証に加え、特許異議申立人が副引例として提示した次の甲第3号証についても検討する。 甲第3号証:特表2016-526061号公報 2 甲号証の記載について (1)甲第1号証(以下、「甲1」という。) 1a「【請求項1】 (A)一般式:R3-O[-R4-O]m-R5-SiR2n(OR1)3-n (式中、R1は水素原子又は炭素数が1~4のアルキル基、R2は炭素数が1~4のアルキル基、R3は炭素数が1~8の1価炭化水素基、R4及びR5は炭素数が1~8の2価炭化水素基、nは0または1、mは1~200の整数である。)で示されるシラン化合物と、 (B)塩基性のコロイダルシリカゾル とを共加水分解・縮合反応させたものを含むことを特徴とする防曇剤組成物。」 1b「【0033】 本発明において、(A)シラン化合物と(B)塩基性のコロイダルシリカゾルの共加水分解・縮合反応時の反応温度は特に限定するものではないが、例えば、反応温度が10~60℃であることが好ましい。反応時間も特に限定するものではないが、1~6時間程度であることが好ましい。共加水分解・縮合反応の加水分解では、Si原子上に存在するアルコキシ基の加水分解によりSiOH(シラノール基)とアルコールが生じる。続いてSiOH(シラノール基)同士が縮合することで共加水分解・縮合反応が完結する。 ・・・ 【0039】 本発明の防曇剤組成物を適用する被適用物としては、曇り現象を呈するものであれば特に制限されないが、例えば、無機ガラス、プラスチック、透明セラミック、金属からなる成形品などが挙げられ、より具体的には、浴室や洗面所の鏡や窓ガラス、自動車等の車両のドアミラー、サイドミラー、ウインドウガラス、レンズ、プラスチックフィルム、シート、アルミフィンなどが例示される。」 1c「【0042】 以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。 【0043】 [実施例1] 蛇管コンデンサ及び温度計を設けた3リットル四つ口フラスコに、CH3O-(C2H4O)10-(CH2)3Si(OCH3)36.9g(0.01モル)、塩基性のコロイダルシリカゾル(スノーテックスS:日産化学工業(株)製、シリカ含有量30質量%、pH9.0-10.5)200g、イオン交換水304g及びグリセリン236gを添加し、撹拌しながら系内にごく少量の流速で窒素を通じた。この状態で溶液を撹拌させた。内温25℃で、3時間攪拌させ共加水分解・縮合反応を進行させた。 この後、更にイオン交換水1,436gを投入し、混合することにより防曇剤組成物1を得た。この防曇剤組成物1のシリカとシロキサンの成分量は3質量%である。 【0044】 [実施例2] 実施例1の塩基性のコロイダルシリカゾルをスノーテックスC(日産化学工業(株)製、シリカ含有量20質量%、pH8.5-9.0)300gとした以外は実施例1と同様に共加水分解・縮合反応を進行させ、更にイオン交換水1,336gを投入し、混合することにより防曇剤組成物2を得た。この防曇剤組成物2のシリカとシロキサンの成分量は3質量%である。 ・・・ 【0048】 [実施例6] 実施例2においてグリセリンを添加せずに同様に共加水分解・縮合反応を進行させ、更にイオン交換水1,572gを投入し、混合することにより防曇剤組成物6を得た。この防曇剤組成物6のシリカとシロキサンの成分量は3質量%である。 ・・・ 【0051】 (防曇塗膜の形成方法) 基材:ガラス板(15×5×2mm)を市販の油膜とり剤(ソフト99社製)にて洗浄後、更にイオン交換水にて洗浄、乾燥したものを用いた。その後、上記防曇剤組成物をディップ法(10秒浸漬、引き上げ速度85mm/分)で塗工した。キュアー(硬化)は室 温下で1時間乾燥させることで行い、防曇膜を形成させた。 【0049】 [比較例1] 実施例1の塩基性のコロイダルシリカゾルを酸性のコロイダルシリカであるスノーテックスO(日産化学工業(株)製、シリカ含有量20質量%、pH2.0-4.0)300gとした以外は実施例1と同様に共加水分解・縮合反応を進行させ、更にイオン交換水1,336gを投入し、混合することにより防曇剤組成物7を得た。この防曇剤組成物7のシリカとシロキサンの成分量は3質量%である。 ・・・ 【0052】 (1)呼気防曇性 温度20℃、相対湿度50%RH(relative humidity)の恒温室内でガラス板の防曇層に息を吹きかけ、曇りの様態を目視により次の基準にて呼気防曇性を判定した(呼気防曇性試験)。 ○:全く曇らない、△:やや曇りが観察される、×:全面が曇る。 【0053】 (2)蒸気防曇性 温度60℃の恒温水槽上の水面から1cmの位置にガラス板を固定し、10分後の曇りの状態を目視により次の基準にて蒸気防曇性を判定した。 ◎:水滴が全くない、○:直径5mm以下の水滴がない、△:直径5mm以下の水滴が部分的にある、×:全面に直径5mm以下の水滴がある。 【0054】 (3)耐水性 室温の水道水を満たしたビーカー中にガラス板を1000時間浸漬し、取り出した後、温度20℃、相対湿度50%RHの雰囲気下で24時間放置した。その後、呼気防曇性試験を行うことで耐水性を判定した。 ○:全く曇らない(耐水性有り)、△:やや曇りが観察される(やや耐水性有り)、×:全面が曇る(耐水性なし)。 【0055】 (4)耐熱性 ガラス板を105℃の乾燥器の中に入れ、10日間静置して取り出した後、温度20℃、相対湿度50%RHの雰囲気下で24時間放置した。その後呼気防曇性試験を行うことで耐熱性を判定した。 ○:全く曇らない(耐熱性有り)、△:やや曇りが観察される(やや耐熱性有り)、×:全面が曇る(耐熱性なし)。 【0056】 (5)耐布摩耗性 HEIDON社製SCRATCHING INTENSITY TESTER HEIDON-18機を使用し、ガラス板の防曇層表面に、200g荷重でネル布(綿300番)を1000回往復させたときの外観と呼気防曇性を判定し、異常がなかったものを合格(○)、異常があったものを不合格(×)として耐布摩耗性を判定した。 【0057】 (6)耐湿性 ガラス板を温度80℃、相対湿度99%RHの環境に10日間静置して取り出した後、温度20℃、相対湿度50%RHの雰囲気下で24時間放置した。その後、呼気防曇性試験を行うことで耐湿性を判定した。 ○:全く曇らない(耐湿性有り)、△:やや曇りが観察される(やや耐湿性有り)、×:全面が曇る(耐湿性なし)。 【0058】 (7)防曇効果の反復性 ガラス板を、塗工面を下にして、水温50℃に恒温保持した水槽の水面上約10cmのところに、水面に対して約15°の角度で設置し、5分間湯気に曝した後、室温で10分間乾燥させるという操作を、初期防曇性が失効するまで繰り返した。その回数により、防曇効果の反復性を評価した。 【0059】 (1)~(7)の評価結果を表1に示す。 【0060】 【表1】 [図:0001413287000021.jpg] 」 (2)甲第2号証(以下、「甲2」という。) 2a「[請求項1] 金属酸化物(A)と親水性化合物(B)とを含み、表面のXPSによる元素分析においてC1sスペクトルと金属酸化物由来の金属(M)スペクトルとから得られるC元素と金属元素との元素濃度比(C1s/M)が0.2~10の範囲である塗膜。 ・・・ [請求項4] 上記親水性化合物(B)が、非共有結合及び/又は共有結合を介して上記金属酸化物表面に結合していることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の塗膜。 ・・・ [請求項6] 上記親水性化合物(B)が、ノニオン系化合物、アニオン系化合物及び両性イオン系化合物からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の塗膜。 [請求項7] 上記親水性化合物(B)が、分子内に炭素-酸素結合を有することを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の塗膜。 [請求項8] 上記親水性化合物(B)が、分子内にアルキレングリコール部位を有することを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の塗膜。・・・ ・・・ [請求項13] 金属酸化物(A)、親水性化合物(B)、並びに、任意選択で、イソシアネート化合物(C)及び/又は重合体粒子(D)及び/又は水を含有し、請求項1~12のいずれか1項に記載の塗膜を製造するためのコーティング組成物。 ・・・ [請求項15] 上記親水性化合物(B)のグリフィン法で求められるHLB値が2~14であることを特徴とする、請求項13又は14に記載のコーティング組成物。 [請求項16] 樹脂基材及び/又はガラス基材と、請求項1~12のいずれか1項に記載の塗膜との積層体。 [請求項17] 樹脂基材及び/又はガラス基材に防曇性を付与するための請求項1~12のいずれか1項に記載の塗膜の使用。 [請求項18] 防曇塗膜として使用される、請求項1~12のいずれか1項に記載の塗膜。 [請求項19] 自動車外装部品用塗膜として使用される、請求項1~12のいずれか1項に記載の塗膜。」 2b「[0019] 一実施形態において、金属酸化物(A)は、取扱い性の観点からコロイダルシリカが好ましい。コロイダルシリカは、ゾル-ゲル法で調製されてもよいし、市販品を利用してもよい。ゾル-ゲル法で調製する場合には、Werner Stober et al;J.Colloid and Interface Sci., 26, 62-69 (1968)、Rickey D.Badley et al;Lang muir 6, 792-801 (1990)、色材協会誌,61 [9] 488-493 (1988)等を参照できる。コロイダルシリカは、二酸化ケイ素を基本単位とするシリカの水又は水溶性溶媒の分散体である。コロイダルシリカの数平均粒子径は1~400nmであり、好ましくは1~100nmであり、より好ましくは4~50nmである。数平均粒子径が1nm以上の場合、コーティング組成物の貯蔵安定性が良好となる傾向にある。また、数平均粒子径が400nm以下の場合、透明性が良好となる傾向にある。」 2c「[0024] (B)成分に用いられる親水性化合物としては、コーティング組成物の分散安定性の観点から水に溶解及び/又は分散可能な化合物が使用可能である。水に溶解及び/又は分散可能であれば親水性基の他、疎水性基を有しても良い。また、金属酸化物(A)との相互作用部位を含有していることが塗膜の耐久性の観点から好ましい。そのような相互作用部位の例としては、水酸基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基、シラノール基、スルホ基、ポリオキシアルキレン部位、アンモニウム塩部位、ピリジニウム塩部位、イミダゾリウム塩部位などが挙げられる。」 2d「[0112] <合成例2(親水性化合物(B)-1の合成)> 還流冷却器、滴下槽、窒素導入管、温度計及び撹拌装置を有する反応器に、イソプロパノール360g、N,N-ジエチルアクリルアミド60.0g、アクリル酸ブチル38.7g、2-ヒドロキシエチルメタクリレート1.3gをそれぞれ投入した後、窒素ガスを吹き込みながら80℃に加熱した。開始剤としてV-70(和光純薬株式会社製)2.4gをイソプロパノール40gに溶解させたものを、反応容器中の温度を80℃に保った状態で約2時間かけて滴下した。さらに反応容器中の温度が80℃の状態で約2時間撹拌を続行した後、室温まで冷却し、減圧下でイソプロパノールを除去することで親水性化合物(B)-1を得た。本合成例における原料の種類および配合量(g)、並びに分子量、密 度、HLB(グリフィン法により測定)を、表1に示す。ここでの分子量は、GPCによって測定されるポリスチレン換算で示される重量(質量)基準の平均分子量である(JIS K7252-1に準拠)。 [0113] <合成例3~5(親水性化合物(B)-2、(B)-3及び(B)-4の合成)> 合成例3~5にて、表1に示すとおり、原料の種類や配合量を変えること以外は合成例2に準じた方法で、親水性化合物(B)-2、(B)-3及び(B)-4を製造した。合成例3~5に用いた原料の種類や配合量に加えて、得られた親水性化合物の分子量、密度、HLB(グリフィン法により測定)をそれぞれ表1に示した。 [0114] [表1] [図:0001413287000022.jpg] [0115] 上記表中の各化合物の名称の略語は、以下のとおりである。 ・DEAAm:N,N-ジエチルアクリルアミド ・SPDMAM:2-(N-3-スルホプロピル-N,N-ジメチルアンモニウム)エチルメタクリラート ・BA:アクリル酸ブチル ・2-HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリラート ・PEGM:ポリ(エチレングリコール)メタクリラート ・AA:アクリル酸 ・・・ [0116] 〔実施例1〕 金属酸化物(A)として数平均粒子径4nmの水分散コロイダルシリカ(商品名「スノーテックス-OXS」、日産化学工業(株)製、固形分10質量%)40.0g、親水性化合物(B)として、ポリオキシエチレン-オキシプロピレン-オキシエチレントリブロックコポリマー(商品名「P123」、Sigma-Aldrich Japan製、固形分100質量%、密度1.1g/cm3、平均粒径2.1nm)4.0gを混合後、25℃で1時間攪拌した。次いで、蒸留水17.3gを混合後、25℃でさらに1時間攪拌し、固形分15%のコーティング組成物を得た。得られたコーティング組成物を縦60mm×横60mm×厚さ2mmのポリカーボネート板(タキロン社製)にスピンコーターにより800rpm×5secの条件でコーティングし、20℃の環境で30分間乾燥させた。その後、80℃で30分間乾燥することにより、試験板を得た。得られた塗膜の膜厚は300nmであった。塗膜外観は良好(透明)であった。また、水接触角は、10°であり高い親水性を示した。表面のXPSによる元素分析においてC1sスペクトルとシリカ由来のSiスペクトルとから得られるC元素とSi元素との元素濃度比(C1s/Si )は0.8、炭素-酸素結合、炭素-窒素結合に由来するC1sスペクトルから得られるC元素の相対元素濃度は13atomic%であった。得られた試験片を、耐水性試験として、温度40℃の温水に240時間浸漬後、温水から試験片を取り出し、23℃50%RHの環境下に24時間静置した後の塗膜外観、密着性、防曇性を評価した結果、塗膜外観は良好で防曇性も維持されており、耐水性は概して良好であった。得られた試験片を、耐湿性試験として、温度85℃、85%RHの環境試験器に24時間入れ、次いで温度23℃、50%RHの環境下に1時間静置させた後、塗膜外観、密着性、水接触角、防曇性の評価を行った結果、塗膜外観は良好で親水性(水接触角)、防曇性も維持されており、耐湿性は慨して良好であった。各原料の配合量(質量部)を表2に示す。初期特性を含めた各評価結果を表3に示す。 [0117] 〔実施例2~10、12、13及び比較例1~5〕 実施例2~10、12、13及び比較例1~5にて、表2及び表4に示すとおり、原料の種類や配合量(質量部)を変えること以外は実施例1に準じた方法で塗膜を製造し、塗膜試験片を作製して塗膜性能の評価を行った。初期特性を含めた塗膜性能の評価結果を表3及び表5に示す。 ・・・ [0123] [表2] [図:0001413287000023.jpg] ・・・ [0131] 本発明の塗膜は、塗膜外観、親水性、防曇性、耐水性に優れ、高温多湿下のような過酷な環境下においても防曇性を長期に維持可能である。従って、本発明の塗膜は、高い防曇性が必要とされる防曇塗膜として、特に好適に使用できる。さらに、例えば自動車のヘッドランプ等の車両灯具などの自動車外装部品用の塗膜として、高湿度環境下での防曇耐久性が求められる用途のために用いることができる。また、本発明の塗膜は、各種機器の内部部品や高所に設置される部品のように、曇り除去のために容易に取り出すことができないような部品にも用いることができる。本発明に係る塗膜について上述した特徴及び利点の全ては、これらの防曇塗膜、自動車外装部品用塗膜、内部部品用塗膜についても適用される。」 (3)甲第3号証(以下、「甲3」という。) 3a「【請求項1】 下記式を有するオルガノシラン: (R1)(3-n)(R2O)nSiR3O(CH2CH2O)a(C3H6O)bR4 (式中、 nは1又は2であり、 a≧1であり、bは0~30まで様々であってよく、ただしa≧bであり、 R1は1~12個の炭素原子を含有する炭化水素基であり、 R2は水素又は1~6個の炭素原子を含有するアルキル基であり、 R3は2~12個の炭素原子を含有する二価炭化水素基であり、 R4は水素、R1、又はアセチル基である)と、 熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、及びエラストマーのうちの少なくとも1つとを含む組成物。」 3b「【0027】 本発明のオルガノシランは、上記式において(R2O)で表されるように、少なくとも1つのアルコキシ基を含有する。したがって、本発明のオルガノシランは、水性媒質中で加水分解するものであり、更に縮合してオリゴマーシロキサン又はより高分子量のポリマーシロキサンを形成し得る。よって、本開示は、前述のオルガノシランの加水分解及び/又は縮合の結果生じる反応生成物に関する。本発明のオルガノシラン、又は該オルガノシランに由来するその後生成するオリゴマー若しくはポリマーシロキサンは、ヒドロキシル官能性化合物又は表面と反応することができる。本発明のオルガノシランは、主にエチレンオキシドであるポリアルキレンオキシド鎖を含有するため、本発明のオルガノシランは「親水性」であると考えることができる。よって、本発明のオルガノシランを使用して様々な表面を処理して、その表面により高い「親水性」を持たせることができる。更に、シラン部分の反応性により、本発明の組成物は様々な表面に結合して、より長く持続し、より耐久性のある親水性処理を施すことができる。例えば、本発明のオルガノシランを含む組成物が様々な表面(例えば、繊維の表面)に適用される場合、オルガノシランは表面上の官能基(例えば、エポキシ、ヒドロキシル、カルビノール、及びエステル)と反応し、それによって表面と実質的に永久的な結合を形成することができる。本発明のオルガノシランを含む組成物が熱可塑性樹脂、及び熱硬化性樹脂中などに組み込まれる(例えば、ブレンドされる)場合、樹脂が製造されるとき又は溶融樹脂になるときのいずれかで、同じ反応が起こり得る。 ・・・ 【0029】 本発明のオルガノシラン、又はそれに由来する反応生成物を使用して、様々な表面の表面エネルギー及び水接触角を小さくすることができ、このことは、それらの表面の親水性が増加することを示す。いくつかの実施形態において、オルガノシラン又はそれに由来する反応生成物を使用して、フィルム(例えば、農業用フィルム及び自動車窓用フィルム)を含む表面に、高い透明性を維持しながら防曇性、水膜形成性、高光沢、高い表面平滑性などを付与することができる。本処理は、従来の処理よりも長く持続し得る、又はより耐久性があり得る。いくつかの実施形態において、オルガノシラン又はそれに由来する反応生成物は、以下の特性:ウェットアウト性(wet out property)、分散性、溶解性、接着性、機械的特性、光学的特性、表面特性、難燃性、表面平滑性のうちの1つ以上を向上させることができ、表面の摩擦係数などを低減させることができる。」 3 甲号証に記載された発明 (1)甲1に記載された発明 ア 甲1発明1 甲1には、実施例6の防曇組成物から形成した防曇膜が記載されているから(摘記1c参照)、「ガラス板に、CH3O-(C2H4O)10-(CH2)3Si(OCH3)36.9g(0.01モル)、塩基性のコロイダルシリカゾルをスノーテックスC(日産化学工業(株)製、シリカ含有量20質量%、pH8.5-9.0)300gを、イオン交換水304gを添加し、撹拌しながら系内にごく少量の流速で窒素を通じ、この状態で溶液を撹拌させ、内温25℃で、3時間攪拌させ共加水分解・縮合反応を進行させ、更にイオン交換水1,572gを投入し、混合することにより得た、防曇組成物を塗工し、キュアーして、形成した防曇膜。」の発明が記載されているといえる(摘記1c参照)。 イ 甲1発明5 甲1には、比較例1の防曇組成物から形成した防曇膜が記載されているから(摘記1c参照)、「ガラス板に、CH3O-(C2H4O)10-(CH2)3Si(OCH3)36.9g(0.01モル)、酸性のコロイダルシリカであるスノーテックスO(日産化学工業(株)製、シリカ含有量20質量%、pH2.0-4.0)300gを、イオン交換水304gを添加し、撹拌しながら系内にごく少量の流速で窒素を通じ、この状態で溶液を撹拌させ、内温25℃で、3時間攪拌させ共加水分解・縮合反応を進行させ、更にイオン交換水1,336gを投入し、混合することにより得た、防曇組成物を塗工し、キュアーして、形成した防曇膜。」の発明が記載されているといえる(摘記1c参照)。 (2)甲2に記載された発明 ア 甲2発明1 甲2には実施例9として「金属酸化物(A)として数平均粒子径4nmの水分散コロイダルシリカ(商品名「スノーテックス-OXS」、日産化学工業(株)製、固形分10質量%)40.0g、親水性化合物(B)として、SPDMAM:2-(N-3-スルホプロピル-N,N-ジメチルアンモニウム)エチルメタクリラート、BA:アクリル酸ブチル、PEGM:ポリ(エチレングリコール)メタクリラート及び開始剤としてV-70(和光純薬株式会社製)から得た、分子量8200g/mol、密度1.00g/cm3、HLB11.3の親水性化合物(B)-4を4.0gを混合後、25℃で1時間攪拌し、次いで、蒸留水17.3gを混合後、25℃でさらに1時間攪拌し、得られた、固形分15%のコーティング組成物をポリカーボネート板(タキロン社製)にコーティングし、乾燥することにより、得られた、防曇性を有する塗膜。」の発明が記載されているといえる(摘記2d参照)。 4 対比・判断 (1)甲1発明1又は甲1発明5を主たる引用発明とする場合 ア 本件特許発明1 (ア)甲1発明1との対比 本件特許発明1と甲1発明1を対比する。 甲1発明1の「CH3O-(C2H4O)10-(CH2)3Si(OCH3)3」は本件特許発明1の「親水性化合物(B)」及び「上記親水性化合物(B)が、分子内にアルキレングリコール部位を有し、かつ分子内にアルコキシシラン及び/又はシラノール基を含む」に相当する。 甲1発明1の「塩基性のコロイダルシリカゾルをスノーテックスC(日産化学工業(株)製、シリカ含有量20質量%、pH8.5-9.0)」は、本件特許明細書【0188】によれば、平均粒子径が15nmであり、数平均粒子径も1~400nmの範囲内である蓋然性が高いから、本件特許発明1の「金属酸化物(A)」、「上記金属酸化物(A)が、1~400nmの数平均粒子径を有する」及び「コロイダルシリカであり」に相当する。 甲1発明1の「防曇膜」は本件特許発明1の「塗膜」に相当する。 そうすると、本件特許発明1と甲1発明1は、「金属酸化物(A)と親水性化合物(B)を含み、 上記金属酸化物(A)が、1~400nmの数平均粒子径を有するコロイダルシリカであり、 上記親水性化合物(B)が、分子内にアルキレングリコール部位を有し、かつ分子内にアルコキシシラン及び/又はシラノール基を含む、 塗膜。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1-1> 塗膜が、本件特許発明1では、塗膜表面溶出試験による溶出物の高さが1.0μm以下であり、ここで、塗膜表面溶出試験は、塗膜に脱イオン水10μlを乗せ、23℃50%RHの環境下で24時間放置し、塗膜表面10cm2の範囲内で20点の溶出物の高さを測定し、最も大きい高さを決定することにより行われ、塗膜全溶出試験による塗膜単位体積あたりの溶出量が10mg/cm3以下であり、ここで、塗膜全溶出試験は、23℃の脱イオン水に24時間浸漬させた後、脱イオン水から回収される塗膜溶出物の重量を測定することにより行われ、塗膜を85℃85%RHの環境下に24時間曝露後、23℃50%RHの環境下に1時間静置させる耐湿性試験に供した後に測定した水接触角が40゜未満であるのに対し、甲1発明1ではそのような特定がない点。 <相違点1-2> コロイダルシリカが、本件特許発明1では酸性であるのに対し、甲1発明1では塩基性である点。 (イ)相違点についての検討 <相違点1-2>について 相違点1-2は実質的な相違点である。 甲1には甲1発明1の防曇膜において塩基性のコロイダルシリカを必須成分とすることが記載されており(摘記1a参照)、酸性のコロイダルシリカを含む比較例において、初期防曇性、耐水性、耐熱性、耐布摩耗性、耐湿性、防曇効果の反復性のいずれもが、実施例よりも著しく劣った結果になったことが示されているから(摘記1c参照)、甲1発明1の防曇膜において、塩基性のコロイダルシリカに代えて、あるいは、塩基性のコロイダルシリカに加えて、酸性のコロイダルシリカを採用する動機付けがあるとはいえない。 そして、甲3にも甲1発明1の防曇膜において酸性のコロイダルシリカを採用する動機付けとなる記載はない。 <相違点1-1>について 本件特許明細書の【0038】の「金属酸化物(A)に対する親水性化合物(B)の質量比((B質量)/(A質量))は、耐湿性の観点から好ましくは0.005以上、より好ましくは0.01以上、さらに好ましくは0.03以上である。また、この質量比は、耐溶出性、水滴痕発生抑制の観点から好ましくは1以下、より好ましくは0.7以下、さらに好ましくは0.5以下である。」との記載、【0052】の「親水性化合物(B)は、グリフィン法で求められるHLB値(親水性親油性バランス)が10以上であることが好ましい。」との記載及び【0121】の「典型的な一実施態様において、本発明に係る塗膜を形成するためのコーティング組成物は、(A)成分と(B)成分を予め混合後、水と混合する工程、および40℃未満で10分以上撹拌する工程を含む方法によって製造することができる。」との記載から、親水性化合物(B)が分子内にアルコキシシラン及び/又はシラノール基を含むポリアルキレンオキシドであり、金属酸化物(A)に対する親水性化合物(B)の質量比((B質量)/(A質量))は0.005以上であり、親水性化合物(B)がHLB値(親水性親油性バランス)が10以上であり、(A)成分と(B)成分を予め混合後、水と混合する工程、および40℃未満で10分以上撹拌する工程を含む方法によって製造されることにより、本件特許発明1は、塗膜が、塗膜表面溶出試験による溶出物の高さが1.0μm以下であり、ここで、塗膜表面溶出試験は、塗膜に脱イオン水10μlを乗せ、23℃50%RHの環境下で24時間放置し、塗膜表面10cm2の範囲内で20点の溶出物の高さを測定し、最も大きい高さを決定することにより行われ、塗膜を85℃85%RHの環境下に24時間曝露後、23℃50%RHの環境下に1時間静置させる耐湿性試験に供した後に測定した水接触角が40°未満であるものとなると解される。 ここで、甲1発明1の防曇剤組成物から形成した塗膜において、本件特許発明1の金属酸化物(A)に相当する塩基性のコロイダルシリカゾル(スノーテックスS:日産化学工業(株)製、シリカ含有量30質量%、pH9.0-10.5)と本件特許発明1の親水性化合物(B)に相当するCH3O-(C2H4O)10-(CH2)3Si(OCH3)3との質量比(B)/(A)は0.115(6.9/(200×30))であり、甲1発明1の塗膜における質量比(B)/(A)は本件特許明細書の前記記載の範囲内である。 また、甲1発明1の防曇剤組成物から形成した塗膜におけるCH3O-(C2H4O)10-(CH2)3Si(OCH3)3のHLB値に関し、CH3O-(C2H4O)10-(CH2)3Si(OCH3)3は本件特許明細書の【0033】の「上記親水性化合物(B)として、分子内にアルコキシシラン及び/又はシラノール基を含むポリアルキレンオキシドが挙げられる。」との記載の範囲内のものであり、そのHLB値は十分高いものであるはずであるから、特許異議申立人の主張どおり、化学式に基づいてグリフィン法に従って算出するとCH3O-(C2H4O)10-(CH2)3Si(OCH3)3のHLB値が10以上となることは明らかである。 そして、製造条件に関し、甲1発明1では、上記の金属酸化物(A)に相当する塩基性のコロイダルシリカゾル(スノーテックスS:日産化学工業(株)製、シリカ含有量30質量%、pH9.0-10.5)と親水性化合物(B)に相当するCH3O-(C2H4O)10-(CH2)3Si(OCH3)3をイオン交換水と混合した後、25℃で3時間撹拌させて共加水分解・縮合反応を行っており、この条件は、本件特許明細書の前記記載の範囲内である。 さらに、甲1発明1の防曇膜のための防曇剤組成物から形成した塗膜における塩基性のコロイダルシリカゾル(スノーテックスS:日産化学工業(株)製、シリカ含有量30質量%、pH9.0-10.5)は本件特許発明1で実際に用いられている金属酸化物(A)である。 以上のように、甲1発明1では、本件特許明細書に記載された範囲内の出発材料を用い、かつ、本件明細書に記載された製造条件の範囲内で防曇剤組成物が調製されていることは明らかである。 そうすると、甲1発明1の防曇膜のための防曇剤組成物は本件発明のコーティング組成物に該当するものとなる以上、それを本件特許発明1で特定される塗膜表面溶出試験に供すれば、構成要件Bの溶出物の高さ1.0μm以下を満たすものであり、本件特許発明1で特定される耐湿性試験に供した後、その水接触角を測定すれば、40℃末満となるものであるといえる。 しかし、<相違点1-2>についてで検討したとおり、酸性のコロイダルシリカを含む比較例において、初期防曇性、耐水性、耐熱性、耐布摩耗性、耐湿性、防曇効果の反復性のいずれもが、実施例よりも著しく劣った結果になったことが示されているから(摘記1c参照)、甲1発明1の防曇膜が、塗膜全溶出試験による塗膜単位体積あたりの溶出量が10mg/cm3以下である蓋然性はない。 したがって、<相違点1-1>は実質的な相違点である。 そして、甲1にも甲2にも、甲1発明1の防曇膜を、塗膜全溶出試験による塗膜単位体積あたりの溶出量が10mg/cm3以下とすることについて記載も示唆もないから、甲1発明1の防曇膜を、塗膜全溶出試験による塗膜単位体積あたりの溶出量が10mg/cm3以下とする動機付けがあるとはいえない。 また、甲3にも甲1発明1の防曇膜を、塗膜全溶出試験による塗膜単位体積あたりの溶出量が10mg/cm3以下とすることについて記載も示唆もないから、甲1発明1の防曇膜を、塗膜全溶出試験による塗膜単位体積あたりの溶出量が10mg/cm3以下とする動機付けを採用する動機付けとなる記載はない。 (ウ)甲1発明5との対比 本件特許発明1と甲1発明5を対比する。 甲1発明5の「CH3O-(C2H4O)10-(CH2)3Si(OCH3)3」は本件特許発明1の「親水性化合物(B)」及び「上記親水性化合物(B)が、分子内にアルキレングリコール部位を有し、かつ分子内にアルコキシシラン及び/又はシラノール基を含む」に相当する。 甲1発明5の「酸性のコロイダルシリカであるスノーテックスO(日産化学工業(株)製、シリカ含有量20質量%、pH2.0-4.0)」は、本件特許明細書【0188】によれば、平均粒子径が15nmであり、数平均粒子径も1~400nmの範囲内である蓋然性が高いから、本件特許発明1の「金属酸化物(A)」及び「上記金属酸化物(A)が、1~400nmの数平均粒子径を有する酸性コロイダルシリカであり」に相当する。 甲1発明5の「防曇膜」は本件特許発明1の「塗膜」に相当する。 そうすると、本件特許発明1と甲1発明5は、「金属酸化物(A)と親水性化合物(B)を含み、 上記金属酸化物(A)が、1~400nmの数平均粒子径を有する酸性コロイダルシリカであり、 上記親水性化合物(B)が、分子内にアルキレングリコール部位を有し、かつ分子内にアルコキシシラン及び/又はシラノール基を含む、 塗膜。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1-3> 塗膜が、本件特許発明1では、塗膜表面溶出試験による溶出物の高さが1.0μm以下であり、ここで、塗膜表面溶出試験は、塗膜に脱イオン水10μlを乗せ、23℃50%RHの環境下で24時間放置し、塗膜表面10cm2の範囲内で20点の溶出物の高さを測定し、最も大きい高さを決定することにより行われ、塗膜全溶出試験による塗膜単位体積あたりの溶出量が10mg/cm3以下であり、ここで、塗膜全溶出試験は、23℃の脱イオン水に24時間浸漬させた後、脱イオン水から回収される塗膜溶出物の重量を測定することにより行われ、塗膜を85℃85%RHの環境下に24時間曝露後、23℃50%RHの環境下に1時間静置させる耐湿性試験に供した後に測定した水接触角が40゜未満であるのに対し、甲1発明5ではそのような特定がない点。 (エ)相違点についての検討 <相違点1-3>について 甲1発明5の防曇膜は、期防曇性、耐水性、耐熱性、耐布摩耗性、耐湿性、防曇効果の反復性のいずれもが、実施例よりも著しく劣った結果になったことが示されているから(摘記1c参照)、塗膜表面溶出試験による溶出物の高さが1.0μm以下であり、ここで、塗膜表面溶出試験は、塗膜に脱イオン水10μlを乗せ、23℃50%RHの環境下で24時間放置し、塗膜表面10cm2の範囲内で20点の溶出物の高さを測定し、最も大きい高さを決定することにより行われ、塗膜全溶出試験による塗膜単位体積あたりの溶出量が10mg/cm3以下であり、ここで、塗膜全溶出試験は、23℃の脱イオン水に24時間浸漬させた後、脱イオン水から回収される塗膜溶出物の重量を測定することにより行われ、塗膜を85℃85%RHの環境下に24時間曝露後、23℃50%RHの環境下に1時間静置させる耐湿性試験に供した後に測定した水接触角が40゜未満である蓋然性があるとはいえない。 そうすると、相違点1-3は実質的な相違点である。 そして、甲1~甲3にも、甲1発明5の防曇膜を塗膜表面溶出試験による溶出物の高さが1.0μm以下であり、ここで、塗膜表面溶出試験は、塗膜に脱イオン水10μlを乗せ、23℃50%RHの環境下で24時間放置し、塗膜表面10cm2の範囲内で20点の溶出物の高さを測定し、最も大きい高さを決定することにより行われ、塗膜全溶出試験による塗膜単位体積あたりの溶出量が10mg/cm3以下であり、ここで、塗膜全溶出試験は、23℃の脱イオン水に24時間浸漬させた後、脱イオン水から回収される塗膜溶出物の重量を測定することにより行われ、塗膜を85℃85%RHの環境下に24時間曝露後、23℃50%RHの環境下に1時間静置させる耐湿性試験に供した後に測定した水接触角が40゜未満であるものとすることについて記載も示唆もないから、塗膜表面溶出試験による溶出物の高さが1.0μm以下であり、ここで、塗膜表面溶出試験は、塗膜に脱イオン水10μlを乗せ、23℃50%RHの環境下で24時間放置し、塗膜表面10cm2の範囲内で20点の溶出物の高さを測定し、最も大きい高さを決定することにより行われ、塗膜全溶出試験による塗膜単位体積あたりの溶出量が10mg/cm3以下であり、ここで、塗膜全溶出試験は、23℃の脱イオン水に24時間浸漬させた後、脱イオン水から回収される塗膜溶出物の重量を測定することにより行われ、塗膜を85℃85%RHの環境下に24時間曝露後、23℃50%RHの環境下に1時間静置させる耐湿性試験に供した後に測定した水接触角が40゜未満であるものとする動機付けがあるとはいえない。 (オ)本件特許発明1の効果について 本件特許明細書の【表1-1】~【表2-10】からみて、本件特許発明1は、酸性のコロイダルシリカを含むことにより、塗膜表面溶出試験による溶出物の高さが1.0μm以下であり、ここで、塗膜表面溶出試験は、塗膜に脱イオン水10μlを乗せ、23℃50%RHの環境下で24時間放置し、塗膜表面10cm2の範囲内で20点の溶出物の高さを測定し、最も大きい高さを決定することにより行われ、塗膜全溶出試験による塗膜単位体積あたりの溶出量が10mg/cm3以下であり、ここで、塗膜全溶出試験は、23℃の脱イオン水に24時間浸漬させた後、脱イオン水から回収される塗膜溶出物の重量を測定することにより行われ、塗膜を85℃85%RHの環境下に24時間曝露後、23℃50%RHの環境下に1時間静置させる耐湿性試験に供した後に測定した水接触角が40゜未満であるものとすることができ、それにより、防曇性に優れ、高温多湿下のような過酷な環境下に晒された場合においても良好な防曇性、外観、密着性が保たれ、耐溶出性に優れる塗膜が得られるから、本件特許発明1は甲1発明1や甲1発明5と比較して、優れた効果を奏するといえる。 (カ)特許異議申立人の主張及び当審の判断について 特許異議申立人は、令和5年9月19日付けの意見書において、甲1の比較例1のもの(甲1発明5)では、本件特許明細書に記載された範囲内の出発材料を用い、かつ、本件明細書に記載された製造条件の範囲内で防曇剤組成物が調製されていることは明らかであるから、本件特許発明1は新規性を欠如するものであると主張する。 しかし、前記(ウ)のとおり、本件特許発明1は甲1発明5と相違点1-3の点で相違し相違点1-3は実質的な相違点であるから、特許異議申立人の前記主張は採用できない (キ)小括 したがって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明並びに甲2及び甲3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものでもない。 イ 本件特許発明2~6、8~10、15、20~26 本件特許発明2~6、8~10、15、20~26は、本件特許発明1を引用し、あるいは、本件特許発明1を引用し、さらに限定するものであり、前記本件特許発明1と甲1発明1又は甲1発明5との<相違点1-1>及び<相違点1-2>と同じ相違点を有するものであるから、本件特許発明2~6、8~10、15、20~26は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明並びに甲2及び甲3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものでもない。 (2)甲2発明1を主たる引用発明とする場合 ア 本件特許発明1 (ア)甲2発明1との対比 本件特許発明1と甲2発明1を対比する。 甲2発明1の「金属酸化物(A)として数平均粒子径4nmの水分散コロイダルシリカ(商品名「スノーテックス-OXS」、日産化学工業(株)製、固形分10質量%)」は、本件特許明細書【0188】からみて、酸性のコロイダルシリカであるから、本件特許発明1の「金属酸化物(A)」及び「上記金属酸化物(A)が、1~400nmの数平均粒子径を有する酸性コロイダルシリカであり」に相当する。 甲2発明1の「親水性化合物(B)として、SPDMAM:2-(N-3-スルホプロピル-N,N-ジメチルアンモニウム)エチルメタクリラート、BA:アクリル酸ブチル、PEGM:ポリ(エチレングリコール)メタクリラート及び開始剤としてV-70(和光純薬株式会社製)から得た、分子量8200g/mol、密度1.00g/cm3、HLB11.3の親水性化合物(B)-4」は、モノマーとして分子内にエチレングリコール部位を有するPEGM:ポリ(エチレングリコール)メタクリラートが含まれているから、本件特許発明1の「親水性化合物(B)」及び「上記親水性化合物(B)が、分子内にアルキレングリコール部位を有する」に相当する。 そうすると、本件特許発明1と甲2発明1は、「金属酸化物(A)と親水性化合物(B)を含み、 上記金属酸化物(A)が、1~400nmの数平均粒子径を有する酸性コロイダルシリカであり、 上記親水性化合物(B)が、分子内にアルキレングリコール部位を有する、 塗膜。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点2-1> 塗膜が、本件特許発明1では、塗膜表面溶出試験による溶出物の高さが1.0μm以下であり、ここで、塗膜表面溶出試験は、塗膜に脱イオン水10μlを乗せ、23℃50%RHの環境下で24時間放置し、塗膜表面10cm2の範囲内で20点の溶出物の高さを測定し、最も大きい高さを決定することにより行われ、塗膜全溶出試験による塗膜単位体積あたりの溶出量が10mg/cm3以下であり、ここで、塗膜全溶出試験は、23℃の脱イオン水に24時間浸漬させた後、脱イオン水から回収される塗膜溶出物の重量を測定することにより行われ、塗膜を85℃85%RHの環境下に24時間曝露後、23℃50%RHの環境下に1時間静置させる耐湿性試験に供した後に測定した水接触角が40゜未満であるのに対し、甲2発明1ではそのような特定がない点。 <相違点2-2> 親水性化合物(B)が、本件特許発明1では分子内にアルコキシシラン及び/又はシラノール基を含むのに対し、甲2発明1では分子内にアルコキシシラン及び/又はシラノール基を含まない点。 (イ)相違点についての検討 <相違点2-1>について 甲2発明1と「P123」(ポリオキシエチレンオキシプロピレンオキシエチレントリブロックコポリマー)を用いた実施例1とが、防曇性、密着性等の点で同様の傾向が認められるところ、本件特許明細書のP123を用いた比較例4、6~8は、塗膜表面溶出試験による溶出物の高さが1.0μmを超え、塗膜全溶出試験による塗膜単位体積あたりの溶出量が10mg/cm3を超えるから、甲2発明1の塗膜も、本件特許明細書のP123を用いた比較例4、6~8と同様に、塗膜表面溶出試験による溶出物の高さが1.0μmを超え、塗膜全溶出試験による塗膜単位体積あたりの溶出量が10mg/cm3を超えている蓋然性が高く、相違点2-1は実質的な相違点であるといえる。 そして、甲2にも、また、甲1及び甲3にも、甲2発明1の塗膜を塗膜表面溶出試験による溶出物の高さが1.0μm以下であり、ここで、塗膜表面溶出試験は、塗膜に脱イオン水10μlを乗せ、23℃50%RHの環境下で24時間放置し、塗膜表面10cm2の範囲内で20点の溶出物の高さを測定し、最も大きい高さを決定することにより行われ、塗膜全溶出試験による塗膜単位体積あたりの溶出量が10mg/cm3以下であるものとすることについて記載も示唆もないから、甲2発明1の塗膜を塗膜表面溶出試験による溶出物の高さが1.0μm以下であり、ここで、塗膜表面溶出試験は、塗膜に脱イオン水10μlを乗せ、23℃50%RHの環境下で24時間放置し、塗膜表面10cm2の範囲内で20点の溶出物の高さを測定し、最も大きい高さを決定することにより行われ、塗膜全溶出試験による塗膜単位体積あたりの溶出量が10mg/cm3以下であるものとする動機付けがあるとはいえない。 (ウ)本件特許発明1の効果について 本件特許発明1は、塗膜を塗膜表面溶出試験による溶出物の高さが1.0μm以下であり、ここで、塗膜表面溶出試験は、塗膜に脱イオン水10μlを乗せ、23℃50%RHの環境下で24時間放置し、塗膜表面10cm2の範囲内で20点の溶出物の高さを測定し、最も大きい高さを決定することにより行われ、塗膜全溶出試験による塗膜単位体積あたりの溶出量が10mg/cm3以下であることにより、塗膜を塗膜表面溶出試験による溶出物の高さが1.0μm以下ではなく、塗膜全溶出試験による塗膜単位体積あたりの溶出量が10mg/cm3以下ではない、甲2発明1により奏される効果を超える顕著な効果を奏するものであるといえる。 (エ)特許異議申立人の主張及び当審の判断について 特許異議申立人は、令和5年9月19日付けの意見書において、「第一に、本件特許明細書の比較例6に基づく上記主張は、あくまで推測の域を出るものではなく、また「P123」が甲第2号証の実施例9(甲2発明1)の親水性化合物とは全く異なる化合物であるところ、両者が同じ性質又は挙動を示すという出願時の技術常識も存在しない。 加えて、甲第2号証の実施例1と実施例9では被覆率も異なり(実施例1は70%。実施例9は65%)、被覆率が高いほど溶出する可能性が大きくなるところ(例えば本件特許明細書【0050】など)、被覆率は実施例9の方が小さく、溶出量もそれだけ少なくなると考えるのが相当である。とりわけ、甲第2号証の実施例9の被覆率は65%であるが、この被覆率は、本件特許明細書【0050】で「この被覆率(P)は、3%以上70%未満であることがより好ましく」と記載されているように「3%以上70%未満」の範囲内である。他方、甲第2号証の実施例1の被覆率は70%であり、上記範囲から外れている。 これらの事実からみても、甲第2号証の実施例1の溶出量が多いからと言って、直ちに実施例9も同様の傾向を示すとは限らないというべきである。 第二に、特許権者は、「P123」が甲第2号証で最良の選択肢であることを前提とした立場をとっているが、甲第2号証【0026】には「これらの中でもポリオキシエチレンオキシプロピレンオキシエチレントリブロックコポリマーを含有すると、コロイダルシリカ表面への固定化、防曇持続性向上、及び成膜性の観点から好ましい。」(下線部は異議申立人による。)と記載されているだけであって、決して「耐溶出性(水滴痕の発生抑制)の観点から最良の選択肢」のような記載がなされているわけではない。この点に関する特許権者の上記主張は、審判合議体をミスリードするものであって、到底容認できるものではない。 ちなみに、「P123」に当たるポリオキシエチレンオキシプロピレンオキシエチレントリブロックコポリマーは、本件特許明細書【0030】においても、訂正発明1で採用できる親水性化合物(B)の具体例として挙げられている化合物である。 第三に、特許権者は、本件特許明細書の比較例6は、あたかも甲第2号証の実施例1に該当するような主張をしているが、本件特許明細書の比較例6の塗膜形成条件は120℃×30分であるのに対して甲第2号証の実施例1では80℃×30分となっており、少なくともその温度条件が異なる。 この塗膜形成温度に関し、本件特許明細書【0123】では「塗膜の乾燥後、50℃以上150℃未満の温度で10分乃至60分熱処理を行うことが、基材との密着性、耐水性、擦過性の観点で好ましい。」と記載されており、塗膜の密着性、耐水性等は温度依存性であることを自ら謳っている。従って、異なる温度条件で形成された塗膜どうしを対比すること自体、科学的な客観性・妥当性に欠けることは明白である。 ・・・ 本件特許明細書の実施例1等では、親水性化合物(B)として、ポリソルベート(モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、商品名「Tween-20」、東京化成工業(株)製)が使用されている。 ・・・ つまり、本件特許明細書に記載の実施例1等は、実質的に甲第2号証に記載された範囲内の組成といえ、甲第2号証の実施例9の親水性化合物「(B)-4」に代えて、同じく甲第2号証に記載されている「ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル」を採用してみる程度のことは、甲第2号証に接した当業者であれば適宜試み得ることであって、そこに何の困難性も認められない。」と主張する。 しかし、甲2の実施例1と実施例9では被覆率の差はわずか5%であるから、それにより防曇性、密着性等の点で両者に同様の傾向が認められないとまではいえない。 また、本件特許明細書の比較例6の塗膜形成条件は120℃×30分であるのに対して甲第2号証の実施例1では80℃×30分となっており、少なくともその温度条件が異なるが、そうであるとしても、甲2発明1の塗膜が、塗膜表面溶出試験による溶出物の高さが1.0μm以下であり、塗膜全溶出試験による塗膜単位体積あたりの溶出量が10mg/cm3以下であるとまではいえない。 そして、甲第2号証の実施例9の親水性化合物「(B)-4」に代えて、同じく甲第2号証に記載されている「ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル」を採用してみる程度のことは、甲第2号証に接した当業者であれば適宜試み得ることであって、そこに何の困難性も認められないかもしれないが、それにより、直ちに、甲2発明1の塗膜が、塗膜表面溶出試験による溶出物の高さが1.0μm以下となり、塗膜全溶出試験による塗膜単位体積あたりの溶出量が10mg/cm3以下となるとまではいえない。 よって、特許異議申立人の前記主張は採用できない。 (オ)小括 したがって、本件特許発明1は、甲2に記載された発明ではなく、また、<相違点2-2>について検討するまでもなく、甲2に記載された発明並びに甲1及び甲3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものでもない。 イ 本件特許発明3~6、8~10、15、20~26 本件特許発明3~6、8~10、15、20~26は、本件特許発明1を引用し、あるいは、本件特許発明1を引用し、さらに限定するものであり、前記本件特許発明1と甲2発明1との<相違点2-1>と同じの相違点を有するものであるから、本件特許発明3~6、8~10、15、20~26は、甲2に記載された発明ではなく、また、甲2に記載された発明並びに甲1及び甲3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものでもない。 第6 前記第4における理由3(実施可能要件)について 1 実施可能要件について 特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明のいわゆる実施可能要件を規定したものであって、物の発明では、その物を作り、かつ、その物を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載が無い場合には、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作り、その物を使用することができる程度にその発明が記載されていなければならないと解される。 そうすると、本件特許発明1、3~6、8~10、15、1618、20~26を実施することができるといえるためには、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、「塗膜表面溶出試験による溶出物の高さが1.0μm以下であり、ここで、塗膜表面溶出試験は、塗膜に脱イオン水10μlを乗せ、23℃50%RHの環境下で24時間放置し、塗膜表面10cm2の範囲内で20点の溶出物の高さを測定し、最も大きい高さを決定することにより行われ、 塗膜全溶出試験による塗膜単位体積あたりの溶出量が10mg/cm3以下であり、ここで、塗膜全溶出試験は、23℃の脱イオン水に24時間浸漬させた後、脱イオン水から回収される塗膜溶出物の重量を測定することにより行われ、 塗膜を85℃85%RHの環境下に24時間曝露後、23℃50%RHの環境下に1時間静置させる耐湿性試験に供した後に測定した水接触角が40゜未満であり」という要件(以下、「本件特許発明1の3要件」という。)を満たす塗膜を得ることができる程度の記載があることを要する。 2 判断 本件特許明細書の実施例14~19,34~42,44~65からみて、実施例に記載の金属酸化物(A)として1~400nmの数平均粒子径を有する酸性コロイダルシリカを含み、親水性化合物(B)として分子内にアルキレングリコール部位を有し、かつ分子内にアルコキシシラン及び/又はシラノール基を含むものを用い、【0038】に記載の金属酸化物(A)に対する親水性化合物(B)の質量比、【0052】に記載の親水性化合物(B)のHLB値として、【0121】に記載のコーティング組成物の製造方法により前記本件特許発明1の3要件を満たす塗膜を得ることができると理解できる。 ここで、甲1の比較例1の防曇剤組成物から形成した塗膜は親水性化合物であるグリセリンを含むことにより前記【0038】に記載の金属酸化物(A)に対する親水性化合物(B)の質量比の範囲外となるため、また、甲2の実施例9の防曇性を有する塗膜並びに本件特許明細書の比較例3及び9の塗膜は、親水性化合物(B)として分子内にアルキレングリコール部位を有し、かつ分子内にアルコキシシラン及び/又はシラノール基を含むものを含まないから、前記本件特許発明1の3要件を満たさないといえるから、前記本件特許発明1の3要件を満たす塗膜と記本件特許発明1の3要件を満たさない塗膜を作り分けることができる。 そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、前記本件特許発明1の3要件を満たす塗膜を得ることができるといえる。 したがって、本件特許明細書は、本件特許発明1、及び、本件特許発明1を直接又は間接的に引用する本件特許発明3~6、8~10、15、16、18、20~26の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえるから、実施可能要件違反に該当するものとはいえない。 3 特許異議申立人の主張及び当審の判断について (1)特許異議申立人の主張 特許異議申立人は、令和6年3月26日提出の意見書において 「(3)訂正発明1の特許性について (3-1)訂正発明1と実施例との関係について 特許権者は、令和5年12月28日付け意見書(以下、単に「意見書」という。)3頁の「本件特許発明1及びこれを引用する本件特許発明3~6、8~10、15~16、18、20~26に係る特許についての本件特許明細書の実施可能要件の充足」という項目から同23頁の項目「(4-8)」にわたり、本件明細書は実施可能要件を充足することを縷々主張している。 しかしながら、その主張の実体は、結局ところ、各実施例と発明の詳細な説明とが対応関係にあることを述べているだけにすぎない。つまり、単に、実施例が、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲内にあることを述べているだけである。 特許法36条4項1号に規定される実施可能要件について取消理由3で問題とされている点は、あくまで「請求項に記載されており、かつ、実施例に記載されていない発明」を実施できるかどうかであって、実施例に記載されている発明が発明の詳細な説明に記載された範囲内にあるかどうかの問題ではない。 この点、特許 実用新案審査基準「第II部第1章第1節実施可能要件」においても、実施可能要件違反の典型例として「3.2.2 請求項に係る発明に含まれる実施の形態以外の部分が実施可能でないことに起因する実施可能要件違反」が挙げられており、それを再掲すると、下記の通りである。 記 「(1)発明の詳細な説明に、請求項に記載された上位概念に含まれる一部の下位概念についての実施の形態のみが実施可能に記載されている場合 以下の(i)及び(ii)の両方に該当する場合は、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たさない。 (i)請求項に上位概念の発明が記載されており、発明の詳細な説明にその上位概念に含まれる「一部の下位概念」についての実施の形態のみが実施可能に記載されている。 (ii)その上位概念に含まれる他の下位概念については、その「一部の下位概念」についての実施の形態のみでは、当業者が出願時の技術常識 (実験や分析の方法等も含まれる点に留意。)を考慮しても実施できる程度に明確かつ十分に説明されているとはいえない具体的理由がある。 (2)発明の詳細な説明に、特定の実施の形態のみが実施可能に記載されている場合 以下の(i)及び(ii)の両方に該当する場合は、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たさない。 (i)発明の詳細な説明に特定の実施の形態のみが実施可能に記載されている。 (ii)その特定の実施の形態が請求項に係る発明に含まれる特異点である等の理由によって、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識(実験や分析の方法等も含まれる点に留意。)を考慮しても、その請求項に係る発明に含まれる他の部分についてはその実施をすることができないとする十分な理由がある。」 このように、特許 実用新案審査基準に照らしてみても、訂正発明1の範囲のうち実施例に記載されていない発明が実施可能要件違反の対象として取り上げられていることは明らかである。 このようなケースが実施可能要件違反に該当することについては、裁判所においても支持されているところである。 例えば、「疲労特性に優れたCu-Ni-Si系合金部材」事件(平成 24年(ワ)第15612号、東京地裁、判決日:平成26年10月9日)では、「そして,本件明細書の記載内容及び弁論の全趣旨からすれば,原告が本件特許出願時において直径4μm以上の全ての介在物個数を0個/mm2とするCu-Ni-Si系合金部材を製造することができたと認めるに足りず,技術的な説明がなくても,当業者が出願時の技術常識に基づいてその物を製造できたと認めることもできない。 そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明には,特許請求の範囲に記載された数値範囲全体についての実施例の開示がなく,かつ,実施例のない部分について実施可能であることが理解できる程度の技術的な説明もないものといわざるを得ない。」と判示されている。 また例えば、「抗C型肝炎ウイルス(HCV)抗体」事件(平成20年(行ケ)第10272号、知財高裁、判決日:平成21年9月2日)では、「原告は,旧特許法36条3項所定の実施可能要件の判断に当たり,本願発明が実施可能か否かは,本来任意に選択された一個の部分(本件では抗体)が生産及び使用をすることができるように本願明細書に記載されていることで足りると解すべきであるにもかかわらず,審決が「網羅的」に得ることが必要であるとした点には,誤りがあると主張する。旧特許法36条3項は,「発明の詳細な説明には,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に,その発明の目的,構成及び効果を記載しなければならない。」と規定する。特許権は,公開することの代償として,物の発明であれば,特許請求の範囲に記載された「その物」について,実施する権利を専有することができる制度であることに照らすならば,公開の裏付けとなる明細書の記載の程度は,「その物」の全体について実施できる程度に記載されていなければならないのは当然であって,「その物」の一部についてのみ実施できる程度に記載されれば足りると解すべきではない。したがって,原告の上記主張はその前提において失当である。」と判示されている。 従って、実施例が本件明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲内にあることを述べるにすぎない一方、実施例に記載されていない発明を過度の負担なく再現できる程度に記載されていることについての釈明が一切ない特許権者の主張は、今回の取消理由3に係る実施可能要件違反に対する反論として不適切ないしは失当と言わざるを得ない。 (3-2)甲第1号証との訂正発明1との関係について 特許権者は、意見書23~26頁の項目「4-9」において、甲第1号証の比較例1の記載は、本件特許明細書が本件特許発明1についての実施可能要件を満たさないという認定の根拠となり得ない旨主張している。 しかしながら、特許権者による上記主張には重大な誤りがあるので、全く採用に値しないものである。 特許権者は、要するに、甲第1号証の比較例1では、グリセリンが使用されているところ、これは訂正発明1の親水性化合物(B)に該当するものであることを前提として、金属酸化物(A)に対する親水性化合物(B)の質量比(B)/(A)は約4であるから、甲第1号証に基づく実施可能要件違反は当たらない旨主張している。 ここで、訂正発明1で規定されている「親水性化合物(B)」は、「分子内にアルキレングリコール部位を有し、かつ分子内にアルコキシシラン及び/又はシラノール基を含む」と明確に規定されている。 そして、グリセリンは、特許権者が意見書25頁で示した化学構造式からも明らかなように、アルコキシシラン基も有さず、またシラノール基も有しない化合物である。 そうすると、グリセリンは、そもそも訂正発明1における「親水性化合物(B)」に該当しないものであることは、当業者でなくても理解することができる。 それにもかかわらず、グリセリンを、訂正発明1の「親水性化合物(B)」に該当するとしたうえで、その質量比(B)/(A)の数値を算出して、本件明細書の発明の詳細な説明に記載の質量比(B)/(A)の数値範囲と異なるという特許権者の主張は、その前提に誤りがあることは明らかである。 翻って、甲第1号証の比較例1を見直せば、金属酸化物(A)に対する親水性化合物(B)の質量比(B)/(A)については、グリセリンは訂正発明1で規定する「親水性化合物(B)」には該当しないので、取消理由通知に示されている通り0.115とするのが正解である。 結局のところ、甲第1号証の比較例1は、本件明細書に記載された範囲の出発材料を用い、かつ、本件明細書に記載された製造条件に従って得られた物が開示されていると言え、なおかつ、所望の耐湿性が発揮されていないということであるから、これは本件明細書の記載にも当てはまることとなる。 そうすれば、本件明細書に接した当業者は、少なくとも本件明細書の実施例以外の発明について、訂正発明1の「塗膜全溶出試験による塗膜単位体積あたりの水への溶出量が10mg/cm3以下」という要イを満たす塗膜を得るための的確な手掛かりもないまま,試行錯誤によってその製造方法等を探索せざるを得ないところ、このような試行錯誤は過度の負担を強いるものというべきである。 よって、甲第1号証に基づいて実施可能要件違反を認定した取消理由通知書の取消理由3に基づいて訂正発明1は取り消されるべきものである。 仮に、分子内にアルコキシシラン及び/又はシラノール基を含まない化合物であるグリセリンを訂正発明1の「親水性化合物(B)」に含めるとすれば、甲第2号証の実施例9で使用されている化合物は、特許権者も認める通り、ポリエチレングリコール基を有するポリ(エチレングリコール)メタクリラート(PEGM)、2-(N--3-スルホプロピル-N,N-ジメチルアンモニウム)エチルメタクリラート(SPDMAM)、アクリル酸ブチル(BA)及びアゾ系重合開始剤から形成された親水化合物も、訂正発明1の「親水性化合物(B)」に該当することになる。 そうすると、訂正発明1は、甲第1号証との関係での実施可能要件違反の該当性はさておき、甲第2号証との関係においては実施可能要件違反が免れ得なくなり、従って取消理由3が当てはまることになる。」と主張している。 (2)当審の判断 前記2で検討したとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載、特に、実施例の記載に基づいて、実施例に記載されていないものでも、金属酸化物(A)として1~400nmの数平均粒子径を有する酸性コロイダルシリカを含み、親水性化合物(B)として分子内にアルキレングリコール部位を有し、かつ分子内にアルコキシシラン及び/又はシラノール基を含むものを用い、【0038】に記載の金属酸化物(A)に対する親水性化合物(B)の質量比、【0052】に記載の親水性化合物(B)のHLB値として、【0121】に記載のコーティング組成物の製造方法により、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1の塗膜を得ることができるといえるから、実施例以外のものも実施できることが理解できるといえる。 そして、甲1の比較例1のグリセリンは、本件特許発明1で特定される、分子内にアルキレングリコール部位を有し、かつ分子内にアルコキシシラン及び/又はシラノール基を含むものではないが、親水性化合物に変わりはなく、それにより、本件特許明細書の【0038】に記載の金属酸化物(A)に対する親水性化合物(B)の質量比が範囲外となり、ここで、【0038】における親水性化合物(B)は本件特許発明1で特定される、分子内にアルキレングリコール部位を有し、かつ分子内にアルコキシシラン及び/又はシラノール基を含むものに限定されるものではないから、甲1の比較例1は、本件明細書に記載された範囲の出発材料を用い、かつ、本件明細書に記載された製造条件に従って得られた物が開示されているとはえないから、所望の耐湿性が発揮されていないと理解できる。 また、前記2で検討したとおり、甲2の実施例9の防曇性を有する塗膜は、親水性化合物(B)として分子内にアルキレングリコール部位を有し、かつ分子内にアルコキシシラン及び/又はシラノール基を含むものを含まないから、本件特許発明1で特定されるような塗膜を得ることができないことが、理解できる。 そうすると、特許異議申立人の前記主張は採用できない。 第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 1 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要 当審が取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要は以下の(1)~(4)のとおりである。 (1)理由1(新規性)本件特許の請求項16に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった前記の甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、上記の請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (2)理由2(進歩性)本件特許の請求項16、18に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった前記の甲第1号証及び甲第2号証、並びに、甲第3号証(特表2016-526061号公報)に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、上記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (3)理由3(サポート要件)本件特許の請求項1~6、8~10、15~18、20~26に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 ア 本件明細書の比較例11 本件明細書に記載されている比較例11は、(B成分の質量)/(A成分の質量)=1、(B)成分のHLB値=11であり、本件明細書【0038】、【0052]等に記載された好ましい範囲を満たしている。 それにもかかわらず、比較例11における溶出物高さは1.0μmを超えており、本件発明1の構成要件Bを満たしていない。 これは、物として、本件明細書に記載された範囲内の組成物であるにもかかわらず、構成要件Bを満たさない場合があることの証左であるといえる。 そうすれば、構成要件Bを満たす組成物にたどりつくためには、本件明細書の開示内容だけでは足りず、当業者による多大な試行錯誤が強いられることになることは明らかである。 よって、本件発明1の内容は、本件明細書によってサポートされていないことに帰結するため、本件発明1とそれを引用する本件発明2~6,8~10,15~18,20~26は、いずれもサポート要件違反に該当する。 イ 本件明細書に記載の硬化剤 本件明細書によれば、親水性化合物(B)は、 (1)末端の相互作用官能基として一OHしか有しないPEG系成分又は界面活性剤、 (2)末端にオルガノシランを有するシラン化合物に大別される。 ここで、上記(2)のシラン化合物である(B)-2~(B)-16、(AB)-1、シラノール変性PVAが配合されているすべての実施例14~68では、硬化剤(C)が用いられている。 これに関し、本件明細書【0026】では「塗膜性能を向上させるためには、この (B)成分が(A)成分に非共有結合と共有結合のいずれかを介して固定化されていればよいが、耐溶出性および耐湿性の点で、2種の結合を介して固定化されていることが好ましい」とある。その一方、本件明細書【0029】では「親水性化合物(B)は、分子内にイソシアネート基(イソシアネート化合物(C)が有する官能基である)と反応し得る官能基を1つまたは2つ以上有しているものであってよい。」とあり、効果を奏する官能基としてシラノールが挙げられている。 そうすると、親水性化合物(B)としてシラン化合物(シラノール又はオルガノシランを有する化合物)を選択する場合、上記実施例は、硬化剤(C)の配合が必要不可欠であることを示していると考えるのが自然である。 換言すれば、本件発明1等は、硬化剤を含む場合も含まない場合も包含しているところ、実施例で裏付けされているのは硬化剤を含む場合のみである。そのため、親水性化合物(B)としてシラン化合物(シラノール又はオルガノシランを有する化合物)を選択する場合において、硬化剤なしでも所望の塗膜が形成できるかどうか不明といわざるを得ない。 よって、硬化剤を必須要件としていない本件発明1及びそれを引用する本件発明2~6,8~10,15~18,20~26は、いずれもサポート要件違反に該当する。 (4)理由4(実施可能要件)本件特許の請求項1~6、8~10、15~18、20~26に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 ア 本件明細書の比較例11 本件明細書に記載されている比較例11は、(B成分の質量)/(A成分の質量)=1、(B)成分のHLB値=11であり、本件明細書【0038】、【0052]等に記載された好ましい範囲を満たしている。 それにもかかわらず、比較例11における溶出物高さは1.0μmを超えており、本件発明1の構成要件Bを満たしていない。 これは、物として、本件明細書に記載された範囲内の組成物であるにもかかわらず、構成要件Bを満たさない場合があることの証左であるといえる。 そうすれば、構成要件Bを満たす組成物にたどりつくためには、本件明細書の開示内容だけでは足りず、当業者による多大な試行錯誤が強いられることになることは明らかである。 よって、本件明細書は、実施可能要件違反に該当する。 イ 甲第1号証又は甲第2号証との関係 甲第1号証又は甲第2号証には本件発明1と実質的に同じ発明が開示されている。 ここで、仮に、本件明細書と同様の出発材料及び製法に従って得られた物が、本件発明1を満たしていないとすれば、本件明細書には本件発明1にたどり着くための開示が不十分なものとなっているといえる。 従って、仮に甲第1号証又は甲第2号証には本件発明1と実質的に同じ発明が開示されていないということであれば、本件明細書は実施可能要件違反に該当することになる。 2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由についての当審の判断 (1)理由1(新規性)及び理由2(進歩性)について 本件特許発明16、18は、本件特許発明1を引用し、あるいは、本件特許発明1を引用し、さらに限定するものであり、前記本件特許発明1と甲1発明1又は甲1発明5との<相違点1-1>~<相違点1-3>と同じ相違点を有するものであり、前記本件特許発明1と甲2発明1との<相違点2-1>と同じ相違点を有するものであるから、前記第5 4(1)ア(キ)のとおり、本件特許発明16は、甲1に記載された発明ではなく、また、本件特許発明16、18は、甲1に記載された発明並びに甲2及び甲3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、前記第5 4(2)ア(オ)のとおり、本件特許発明16は、甲2に記載された発明ではなく、また、本件特許発明16、18は、甲2に記載された発明並びに甲1及び甲3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、同法同条第2項の規定により、特許を受けることができないものでもない。 (2)理由3(サポート要件)について ア 本件明細書の比較例11 比較例11は親水性化合物(B)として合成例1のものを含み、合成例1の親水性化合物(B)は、本件特許発明1で特定される「分子内にアルキレングリコール部位を有するもの」ではないないから、本件特許発明1に含まれるものではない。 そうすると、本件特許発明1に含まれない比較例11における溶出物高さが1.0μmを超えているからといって、本件特許発明1が本件特許明細書によってサポートされていないということにはならない。 本件特許発明1を引用する本件特許発明3~6、8~10、15、17、20~26も同様である。 イ 本件明細書に記載の硬化剤 本件特許発明1の課題は、本件特許明細書【0007】からみて、防曇性に優れ、高温多湿下などの過酷な環境に晒された場合においても良好な防曇性、外観、密着性が保たれ、耐溶出性に優れる(水滴痕の発生が抑制された)防曇性塗膜を提供することにあると認める。 ここで、確かに、シラン化合物である(B)-2~(B)-16、(AB)-1、シラノール変性PVAが配合されているすべての実施例14~68では、硬化剤(C)が用いられている。 しかし、本件特許明細書【0027】には「(B)成分は金属酸化物(A)との相互作用部位を含有していることが塗膜の耐久性の観点から好ましい。そのような相互作用部位の例としては、水酸基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基、シラノール基、スルホ基、ポリオキシアルキレン部位、アンモニウム塩部位、ピリジニウム塩部位、イミダゾリウム塩部位、アルコキシシラン部位などが挙げられる。」と記載されており、シラノール基が金属酸化物(A)と直接相互作用できるといえるから、硬化剤(C)なしでも所望の塗膜が形成でき、前記課題を解決できるといえる。 そして、特許異議申立人は親水性化合物(B)がシラン化合物(シラノール又はオルガノシランを有する化合物)である場合において、硬化剤(C)なしでは前記課題を解決できないことを実証しているわけでもない。 そうすると、本件特許発明1および本件特許発明1を引用する本件特許発明3~6、8~10、15、20~26が、本件特許発明の課題を解決できないとまではいえない。 (3)理由4(実施可能要件)について ア 本件明細書の比較例11 比較例11は親水性化合物(B)合成例1のものを含み、合成例1の親水性化合物(B)は本件特許発明1の親水性化合物(B)である分子内にアルキレングリコール部位を有するものではないから、本件特許発明1に含まれるものではない。 そうすると、それにより、本件特許発明1の塗膜表面溶出試験による溶出物の高さが1.0μm以下である組成物にたどりつくためには、本件明細書の開示内容だけでは足りず、当業者による多大な試行錯誤が強いられることになるとはいえない。 そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明は当業者が本件特許発明1および本件特許発明1を引用する本件特許発明3~6、8~10、15、20~26の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。 イ 甲第1号証又は甲第2号証との関係 前記第4 4(1)ア(キ)及びイ(オ)のとおり、甲第1号証又は甲第2号証には本件特許発明1と実質的に同じ発明が開示されているとはいえないところ、本件特許発明の実施例をみれば、金属酸化物(A)と親水性化合物(B)として本件特許明細書の実施例のものを用いれば、これらを全て満たすものが作製できるとことが理解できるとから、塗膜表面溶出試験による溶出物の高さが1.0μm以下であり、塗膜を85℃85%RHの環境下に24時間曝露後、23℃50%RHの環境下に1時間静置させる耐湿性試験に供した後に測定した水接触角が40°未満であるものにたどり着くための開示が不十分なものとなっているとはいえない。 第8 令和6年3月26日提出の意見書における新たな特許異議申立理由について 1 新たな特許異議申立理由の概要 特許異議申立人が上記意見書で新たに主張する特許異議申立理由の概要は以下の(1)及び(2)のとおりである。 (1)理由1(明確性要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。 (2)理由2(実施可能要件)本件特許の請求項1、3~6、8~10、15、16、18、20~26に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。 特許権者が主張するように、グリセリンを訂正発明1で規定する「親水性化合物(B)」に含めるとすれば、以下に示すように、本件明細書における前記質量比(B)/(A)の意味が不明確となって、新たな実施可能要件違反あるいは発明の明確性要件違反を惹起することになる。 まず、本件明細書のどこにも、グリセリンが本件発明の「親水性化合物(B)」に該当することは記載されていない。このような場合、特許権者が主張するように、本件明細書【0027】に記載されたような条件を満たす化合物を全て「親水性化合物(B)」に該当することとなると、親水性化合物(B)の範囲が不明確となってしまう。 例えば、本件明細書【0117】に界面活性剤として挙げられているポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルは、本件明細書【0030】に親水性化合物(B)として例示されている「ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル」の下位概念に当たるものであるから、「親水性化合物(B)」に該当することになる。 また例えば、本件明細書【0116】には、溶剤としてメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロバノール、ブタノールが挙げられているところ、これらも「水酸基を有する親水性化合物」である。 このように、仮に特許権者の主張に基づいて親水性化合物(B)の意味を理解するとすれば、ある親水性化合物は、何を基準にして、「親水性化合物(B)」に該当するのか、あるいは該当しないのかの区別ができなくなってしまうことになる。 そうすると、本件明細書に接した当業者が、前記質量比(B)/(A)を算出しようとしても、本件明細書では訂正発明1で規定されている「親水性化合物(B)」に該当する親水性化合物であるかどうかの判定ができなくなっているため、その値を正確に算出することも不可能となる。つまり、新たな実施可能要件違反が生じることになるか、あるいは訂正発明1の「親水性化合物(B)」の意味内容に関して発明の明確性の要件(特許法36条6項2号)違反の問題が生じることになる。 以上のように、甲第1号証に基づく実施可能要件違反について、分子内にアルコキシシラン及び/又はシラノール基を含まない親水性化合物であるグリセリンを訂正発明1の「親水性化合物(B)」に含めることを前提とした特許権者の主張は、特許請求の範囲に基づかない主張であって、明らかに誤りである。 また、百歩譲って、グリセリンを訂正発明1の親水性化合物(B)に含めるとした場合には、既述の通り、甲第2号証との関係で実施可能要件違反に該当することになるから、いずれにしても実施可能要件違反を免れ得ない。 さらに、グリセリンを訂正発明1の親水性化合物(B)に含めた場合には、新たな実施可能要件違反が生じることになるか、あるいは発明の明確性の要件(特許法36条6項2号)に違反することになることも明らかである。 2 新たな特許異議申立理由についての当審の判断 (1)理由1(明確性要件)について 本件特許発明1における「親水性化合物(B)が、分子内にアルキレングリコール部位を有し、かつ分子内にアルコキシシラン及び/又はシラノール基を含む」との特定は、本件特許明細書【0027】の記載を参酌するまでもなく明確であり、【0117】に界面活性剤として挙げられているポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルは、本件明細書【0030】に親水性化合物(B)として例示されている「ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル」の下位概念に当たるものであるが、「分子内にアルコキシシラン及び/又はシラノール基を含む」ものではないから、本件特許発明1の「親水性化合物(B)」に該当しないことが明確であり、本件特許明細書【0116】には、溶剤としてメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロバノール、ブタノールが挙げられているところ、これらも「水酸基を有する親水性化合物」であるが、同じ理由で、本件特許発明1の「親水性化合物(B)」に該当しないことが明確であるし、グリセリンが本件特許発明1の「親水性化合物(B)」に該当しないことも、同じ理由で明確である。 その結果、本件特許発明1、及び、本件特許発明1を直接又は間接的に引用する本件特許発明3~6、8~10、15、16、18、20~26は明確である。 (2)理由2(実施可能要件)について 前記(1)のとおり、グリセリンは、訂正により「分子内にアルコキシシラン及び/又はシラノール基を含む」ことが特定された本件特許発明1の「親水性化合物(B)」には該当しないから、本件特許明細書は実施可能要件違反に該当するものとはいえない。 第9 むすび 以上のとおりであるから、令和5年3月8日付けの取消理由通知書に記載した取消理由、同年11月8日付けの取消理由通知書に記載した取消理由、令和6年3月26日提出の意見書において主張する特許異議申立理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、3~6、8~10、15、16、18、20~26に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1、3~6、8~10、15、16、18、20~26に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 本件特許の請求項2、17は、本件訂正により削除され、この特許に対する特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2022-701260

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