特許異議申立
2025-700458
脱離用印刷インキ組成物及び脱離方法
- 審判番号
- 2025-700458
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-191948
- 登録番号
- 7574506
- 請求日
- 2025年04月24日
- 審決日
- 2026年05月22日
- 公報発行日
- 2026年09月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】サカタインクス株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人お茶の水内外特許事務所
- 【権利者代理人】山田 泰之
- 【権利者代理人】安藤 達也
- 【異議申立人】田中 理紗
- 審判長/審判官
- 審判長 里村 利光
- 審判官 外川 敬之
- 審判官 高松 大
- 分類
- P1651.113-YAA(C09D) / P1651.121-YAA(C09D) / P1651.536-YAA(C09D) / P1651.537-YAA(C09D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第36条、特許法第29条、特許法第113条、特許法第2条、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の8第1項、特許法第135条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7574506号発明「脱離用印刷インキ組成物及び脱離方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7574506号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
特許第7574506号の請求項1、2及び5に係る特許を維持する。
特許第7574506号の請求項3及び4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7574506号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、令和2年11月18日に出願され、令和6年10月21日にその特許権の設定登録がされ、同月29日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対し、令和7年4月24日に、特許異議申立人 田中 理紗(以下「申立人」という。)より、特許異議申立書が提出され、本件特許の請求項1~5に係る特許について、特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立て以降の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和7年 7月28日付け:取消理由通知書
令和7年 9月26日 :意見書(特許権者)の提出
令和7年 9月26日 :訂正請求書(特許権者、この訂正請求書による訂正の請求を、以下「本件訂正請求」という。)の提出
令和7年11月28日 :手続補正書(特許権者)の提出
なお、申立人に対し、令和8年1月23日に提出された訂正請求書による訂正請求があった旨の通知をしたが、指定した期間内に申立人からの意見書の提出はなかった。
第2 本件訂正請求について
1 訂正請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、「特許第7574506号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~5について訂正することを求める。」というものである。なお、下線は当合議体が付したものであり、訂正箇所を示す。
2 訂正の内容
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「実質的に酸基を有しないポリウレタン樹脂、及び/又は、ポリアミド樹脂を含有するバインダー樹脂、」と記載されているのを、「(A)実質的に酸基を有しないポリエステルポリエーテル型ポリウレタン樹脂と、セルロース誘導体を含有するバインダー樹脂、又は(B)実質的に酸基を有しないポリエステルポリエーテル型ポリウレタン樹脂と塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂を含有し、固形分比率でポリエステルポリエーテル型ポリウレタン樹脂/塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂=100/0~70/30であるバインダー樹脂、」に訂正する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「及び酸価100~350mgKOH/gのロジン系樹脂をインキ組成物中に0.1~5.0質量%、」と記載されているのを、「及び酸価100~350mgKOH/gのロジン系樹脂を、インキ組成物中に0.1~5.0質量%かつインキ組成物の固形分中に0.3~10.0質量%、」に訂正する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「脱離用印刷インキ組成物。」と記載されているのを、「脱離用表刷り印刷インキ組成物。」に訂正する。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1に「前記プライマー層を形成することに用いられるプライマー組成物は、バインダー樹脂として、60℃の1質量%水酸化ナトリウム水溶液に12時間浸漬後の重量平均分子量(Mw)が70%以下(浸漬前のMwを100%とする)となる樹脂(A)を含有する、包装材の印刷層に使用する印刷インキ組成物。を除く」と記載されているのを、「前記プライマー層を形成することに用いられるプライマー組成物は、バインダー樹脂として、60℃の1質量%水酸化ナトリウム水溶液に12時間浸漬後の重量平均分子量(Mw)が70%以下(浸漬前のMwを100%とする)となる樹脂を含有する、包装材の印刷層に使用する印刷インキ組成物。を除く」に訂正する。
(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項2に「脱離用印刷インキ組成物」と記載されているのを、「脱離用表刷り印刷インキ組成物」に訂正する。
(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項5に、2個所「脱離用印刷インキ組成物」と記載されているのを、それぞれ「脱離用表刷り印刷インキ組成物」に訂正する。
(7) 訂正事項7
訂正前の特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(8) 訂正事項8
訂正前の特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(9) 訂正事項9
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1~4のいずれかに記載の」と記載されているのを、「請求項1又は2に記載の」に訂正する。
3 訂正の適否についての判断
(1) 一群の請求項について
訂正前の請求項2~5は、訂正前の請求項1を直接的または間接的に引用しており、訂正事項1に係る訂正によって連動して訂正されるものであるから、訂正後の請求項1~5は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
(2) 訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された発明に係るバインダー樹脂を、「(A)実質的に酸基を有しないポリエステルポリエーテル型ポリウレタン樹脂と、セルロース誘導体を含有するバインダー樹脂」、又は、「(B)実質的に酸基を有しないポリエステルポリエーテル型ポリウレタン樹脂と塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂を含有し、固形分比率でポリエステルポリエーテル型ポリウレタン樹脂/塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂=100/0~70/30であるバインダー樹脂」に特定する訂正をするものである。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
請求項2~5についてみても、同様である。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことについて
上記アより、訂正事項1に係る訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは、明らかである。
請求項2~5についてみても、同様である。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであることについて
願書に添付した明細書の段落【0009】に、「バインダー樹脂としては、(A)ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂及びアクリル系樹脂から選ばれる少なくとも1種と、セルロース誘導体を含有するバインダー樹脂又は(B)ポリウレタン樹脂と塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂を含有し、固形分比率でポリウレタン樹脂/塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂=100/0~70/30であるバインダー樹脂を使用することが好ましい。」と記載されているとおり、訂正事項1は、願書に添付した明細書の段落【0009】に記載されている。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
請求項2~5についてみても、同様である。
(3) 訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、訂正前の請求項1に記載された発明に係るロジン系樹脂について、「酸価100~350mgKOH/gのロジン系樹脂を、インキ組成物中に0.1~5.0質量%」に加えて、さらに「インキ組成物の固形分中に0.3~10.0質量%」含有することを特定するものである。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
請求項2~5についてみても、同様である。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことについて
上記アより、訂正事項2に係る訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは、明らかである。
請求項2~5についてみても、同様である。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであることについて
願書に添付した明細書の段落【0027】に、「ロジン系樹脂としては、脱離性の点から、酸価100~350mgKOH/g、・・・(略)・・・である。」、及び「また、インキ組成物中の固形分中のロジン系樹脂の含有量は0.3~10.0質量%が好ましく」と記載されているとおり、訂正事項2は、願書に添付した明細書の段落【0027】に記載されている。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
請求項2~5についてみても、同様である。
(4) 訂正事項3について
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、訂正前の請求項1に記載された発明に係る「脱離用印刷インキ組成物」を、「脱離用表刷り印刷インキ組成物」に特定するものである。
したがって、訂正事項3に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
請求項2~5についてみても、同様である。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことについて
上記アより、訂正事項3に係る訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは、明らかである。
請求項2~5についてみても、同様である。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであることについて
願書に添付した明細書の段落【0006】に、「5.1~4のいずれかに記載の脱離用印刷インキ組成物を基材に印刷した印刷物から、該脱離用表刷り印刷インキ組成物被膜を、アルカリ水溶液からなる脱離液中で脱離する、脱離用印刷インキ組成物の脱離方法。」と記載されているとおり、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
請求項2~5についてみても、同様である。
(5) 訂正事項4について
ア 訂正の目的について
訂正前の請求項1に係る発明では、「前記プライマー層を形成することに用いられるプライマー組成物は、バインダー樹脂として、60℃の1質量%水酸化ナトリウム水溶液に12時間浸漬後の重量平均分子量(Mw)が70%以下(浸漬前のMwを100%とする)となる樹脂(A)を含有する、包装材の印刷層に使用する印刷インキ組成物。を除く」と記載されていたところ、上記訂正事項1に係る訂正により、樹脂が(A)と(B)の2種類に特定された。訂正事項4に係る訂正は、これら両樹脂とも、「前記プライマー層を形成することに用いられるプライマー組成物は、バインダー樹脂として、60℃の1質量%水酸化ナトリウム水溶液に12時間浸漬後の重量平均分子量(Mw)が70%以下(浸漬前のMwを100%とする)」という要件を満たすことを明確にするための訂正である。
したがって、訂正事項4に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことについて
上記アより、訂正事項4に係る訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは、明らかである。
請求項2~5についてみても、同様である。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであることについて
上記アより、訂正事項4に係る訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは、明らかである。
請求項2~5についてみても、同様である。
(6) 訂正事項5について
ア 訂正の目的について
訂正事項5は、訂正前の請求項1に記載された発明に係る脱離用印刷インキ組成物について、「脱離用表刷り印刷インキ組成物」に特定するものである。
したがって、訂正事項5に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
請求項2~5についてみても、同様である。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことについて
上記アより、訂正事項5に係る訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは、明らかである。
請求項2~5についてみても、同様である。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであることについて
願書に添付した明細書の段落【0006】に、「5.1~4のいずれかに記載の脱離用印刷インキ組成物を基材に印刷した印刷物から、該脱離用表刷り印刷インキ組成物被膜を、アルカリ水溶液からなる脱離液中で脱離する、脱離用印刷インキ組成物の脱離方法。」と記載されているとおり、訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
請求項2~5についてみても、同様である。
(7) 訂正事項6について
ア 訂正の目的について
訂正事項6は、訂正前の請求項5に記載された発明に係る脱離用印刷インキ組成物について、「脱離用表刷り印刷インキ組成物」に特定するものである。
したがって、訂正事項6に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことについて
上記アより、訂正事項6に係る訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは、明らかである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであることについて
願書に添付した明細書の段落【0006】に、「5.1~4のいずれかに記載の脱離用印刷インキ組成物を基材に印刷した印刷物から、該脱離用表刷り印刷インキ組成物被膜を、アルカリ水溶液からなる脱離液中で脱離する、脱離用印刷インキ組成物の脱離方法。」と記載されているとおり、訂正事項6は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(8) 訂正事項7について
訂正事項7に係る訂正は、請求項3を削除するものであることから、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(9) 訂正事項8について
訂正事項8に係る訂正は、請求項4を削除するものであることから、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(10) 訂正事項9について
訂正事項9に係る訂正は、訂正事項7及び8に係る訂正により訂正前の請求項3及び4が削除されたことに伴い、訂正前の請求項3及び4を引用していた訂正前の請求項5について、請求項間の引用関係を整合させるための訂正であるから、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
4 本件訂正請求についてのまとめ
上記3によれば、本件訂正請求による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書、同条第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、結論に記載のとおり、特許第7574506号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正は認められた。
そうしてみると、特許異議の申立ての対象となっている、請求項1~5に係る発明は、本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。
なお、各請求項に係る訂正後の特許発明をその請求項の番号に基づいて、「本件特許発明1」などといい、全ての請求項に係る特許発明を総称して、「本件特許発明」ということがある。
「【請求項1】
顔料、
(A)実質的に酸基を有しないポリエステルポリエーテル型ポリウレタン樹脂と、
セルロース誘導体を含有するバインダー樹脂、
又は
(B)実質的に酸基を有しないポリエステルポリエーテル型ポリウレタン樹脂と塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂を含有し、
固形分比率でポリエステルポリエーテル型ポリウレタン樹脂/塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂=100/0~70/30であるバインダー樹脂、
及び酸価100~350mgKOH/gのロジン系樹脂を、インキ組成物中に0.1~5.0質量%かつインキ組成物の固形分中に0.3~10.0質量%、及び有機溶剤を含有する脱離用表刷り印刷インキ組成物。
(但し、少なくとも、第1の基材、第1の基材を脱離させて第1の基材をリサイクルするためのプライマー層、及び印刷層をこの順に備えた包装材であって、
前記プライマー層を形成することに用いられるプライマー組成物は、バインダー樹脂として、60℃の1質量%水酸化ナトリウム水溶液に12時間浸漬後の重量平均分子量(Mw)が70%以下(浸漬前のMwを100%とする)となる樹脂を含有する、包装材の印刷層に使用する印刷インキ組成物。を除く)
【請求項2】
ロジン系樹脂が、ロジン変性マレイン酸樹脂及び/又は重合ロジン樹脂であることを特徴とする請求項1記載の脱離用表刷り印刷インキ組成物。
【請求項3】削除
【請求項4】削除
【請求項5】
請求項1又は2に記載の脱離用表刷り印刷インキ組成物を基材に印刷した印刷物から、該脱離用表刷り印刷インキ組成物被膜を、アルカリ水溶液からなる脱離液中で脱離する、脱離用表刷り印刷インキ組成物の脱離方法。」
第4 申立人が提出した証拠方法及び申立理由
1 証拠方法
申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)とともに証拠方法として、以下に示す甲第1号証~甲第20号証を提出した。
甲第1号証:特開2001-31899号公報(以下「甲1」という。)
甲第2号証:特開平11-209677号公報(以下「甲2」という。)
甲第3号証:国際公開第2020/066652号(以下「甲3」という。)
甲第4号証:特開2019-214669号公報(以下「甲4」という。)
甲第5号証:特開2020-70396号公報(以下「甲5」という。)
甲第6号証:特開2020-128487号公報(以下「甲6」という。)
甲第7号証:特開2020-180259号公報(以下「甲7」という。)
甲第8号証:特開2013-245308号公報(以下「甲8」という。)
甲第9号証:特開2019-183112号公報(以下「甲9」という。)
甲第10号証:総合カタログ「Product Overview」、三洋化成工業株式会社、2019年12月18日(以下「甲10」という。)
甲第11号証:特開2009-83292号公報(以下「甲11」という。)
甲第12号証:特開2019-77847号公報(以下「甲12」という。)
甲第13号証:特開2021-112838号公報(以下「甲13」という。)
甲第14号証:DICグラフィックス株式会社のWEBサイトを印刷した書面、「軟包装用材料グラビア印刷裏刷り用インキ」と題する頁、[online],[取得日 2025年3月22日],取得先<https://www.dic-graphics.co.jp/event/biomass/p_finart.html>(以下「甲14」という。)
甲第15号証:特開2001-350411号公報(以下「甲15」という。)
甲第16号証の1:富士機械工業株式会社のWEBサイトを印刷した書面、2020年発行「お知らせ 環境省の公募事業に選定されました」と題する頁、[online],[取得日 2025年3月21日],取得先<https://www.fujikikaikogyo.com/news/detail?id=695>(以下「甲16の1」という。)
甲第16号証の2:環境省の「令和2年度脱炭素社会を支えるプラスチック等資源循環システム構築実証事業の公募採択事業(一次公募)について」と題する頁、[online],[取得日 2025年3月23日],取得先<https://www.env.go.jp/press/108438.html>(以下「甲16の2」という。)
甲第17号証の1:Advances and approaches for chemical recycling of plastic waste, Journal of Polymer Science, 2020, Vol.58, p.1347‐1364, 取得先<https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/pol.20190261>(以下「甲17の1」という。)
甲第17号証の2:甲17の1の発行日が記載されるWEBサイトの第1頁、[online],[取得日 2025年4月21日],取得先<https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/pol.20190261>(以下「甲17の2」という。)
甲第18号証:INX International lnk Co.のWEBサイトを印刷した書面 2020年4月24日発行「INX International introduces GenesisTM GS washable inks for the Label market」と題する頁、[online],[取得日 2025年3月21日],取得先<https://www.inxinternational.com/news/inx-international-introduces-genesistm-gs-washable-inks-label-market>(以下「甲18」という。)
甲第19号証:特開2020-175620号公報(以下「甲19」という。)
甲第20号証:荒川化学工業株式会社のWEBサイトを印刷した書面、「製品情報 マルキード」と題する頁、[online],[取得日 2025年3月21日],取得先<https://www.arakawachem.co.jp/jp/products/chemicals/03.html>(以下「甲20」という。)
(当合議体注:甲1~9は主引用例であり、甲10~20は周知技術又は技術常識を示す文献である。)
2 申立理由の概要
申立人は、概略、下記(1)~(8)の特許異議申立理由を主張している。申立理由の番号は当合議体が付与したものである。
(1) 申立理由1(新規性欠如)
本件特許発明1~5は、甲1~8のいずれかに記載される発明であるから、甲1~8に記載の発明に対して新規性を欠く。
本件特許発明1~3及び5は、甲9に記載される発明であるから、甲9に記載の発明に対して新規性を欠く。
(2) 申立理由2(進歩性欠如)
本件特許発明1~5はいずれも、甲1~8に記載の発明を基に、適宜他の公知文献と組み合わせることにより、当業者が容易に想到し得たものに過ぎない。よって、本件特許発明1~5はいずれも、甲1~8に記載の発明に対して進歩性を欠く。
本件特許発明1~3及び5はいずれも、甲9に記載の発明を基に、適宜他の公知文献と組み合わせることにより、当業者が容易に想到し得たものに過ぎない。よって、本件特許発明1~3及び5はいずれも、甲9に記載の発明に対して進歩性を欠く。
(3) 申立理由3(明確性要件違反)
本件特許発明4及び5はいずれも、特許請求の範囲の記載により、特許を受けようとする発明が明確ではない。よって、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。
(4) 申立理由4(実施可能要件違反)
本件特許発明1~5はいずれも、これらの発明を実施することができる程度に、明細書に必要な事項を記載しているとは認められない。よって、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。
(5) 申立理由5(サポート要件違反)
本件特許発明1~5はいずれも、特許請求の範囲の記載が、発明の詳細な説明に記載したものではない。よって、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。
第5 当合議体が通知した取消しの理由
令和7年7月28日付け取消理由通知書により通知した取消しの理由は、概略以下のとおりである。
理由1:(新規性)本件特許の請求項1~3及び5に係る発明は、本件出願前に日本国内又は外国において下記の電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。
理由2:(進歩性)本件特許の請求項1~5に係る発明は、本件出願前に日本国内又は外国において、下記の頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、請求項1~5に係る本件特許は、特許法113条2号に該当し、取り消すべきものである。
理由3:(明確性)本件特許の特許請求の範囲の請求項5に係る発明は 、特許を受けようとする発明が明確であるということができないから、本件特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
したがって、本件特許は特許法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。
記
甲第1号証:特開2001-31899号公報
甲第3号証:国際公開第2020/066652号
甲第4号証:特開2019-214669号公報
甲第5号証:特開2020-70396号公報
甲第6号証:特開2020-128487号公報
甲第7号証:特開2020-180259号公報
甲第8号証:特開2013-245308号公報
甲第9号証:特開2019-183112号公報
甲第10号証:総合カタログ「Product Overview」、三洋化成工業株式会社、2019年12月18日
甲第11号証:特開2009-83292号公報
甲第12号証:特開2019-77847号公報
甲第13号証:特開2021-112838号公報
(当合議体注:甲1、甲3~9は主引用文献であり、甲10~甲13は、周知技術又は技術常識を示す文献である。)
第6 当合議体の判断
1 甲1を主引例とした新規性及び進歩性の有無の検討
(1) 甲1発明
ア 甲1の段落【0010】~【0012】、【0017】の第1表-4に記載された「実施例23」及び段落【0026】から理解される、以下の「脱離性インキ組成物」の発明を、「甲1-1発明」という。
(甲1-1発明)
「硝化綿[旭化成(株)、1/8秒硝化綿、30重量%溶液、溶媒:酢酸エチル/イソプロピルアルコール]30重量部、酢酸酪酸セルロース[EastmanKodak Company、CAB381-0.5、15重量%酢酸エチル/イソプロピルアルコール溶液]10重量部、ウレタン樹脂[三洋化成工業(株)、サンプレンIB104、30重量%酢酸エチル/イソプロピルアルコール溶液]20重量部、ロジン-マレイン酸樹脂[理化ハーキュレス(株)、ペンタリン269の40重量%酢酸エチル/イソプロピルアルコール溶液]15重量部、ポリエチレンワックス0.5重量部、メチルエチルケトン10重量部、酢酸エチル17重量部、酢酸プロピル17.5重量部及びフタロシアニンブルー10重量部をペイントシェーカーに入れ、60分間分散して得られたインキ組成物。」
イ また、甲1の【請求項5】、段落【0010】~【0012】、【0017】の第1表-4に記載された「実施例23」及び段落【0026】から理解される、以下の「脱離性インキ組成物を用いて印刷した印刷物を、アルカリ水溶液と接触させる」「脱離性インキ組成物を印刷物から脱離する方法」を、「甲1-2発明」という。
(甲1-2発明)
「甲1-1発明を用いて印刷されたポリエステルフイルムなどの印刷塗膜を、80~90℃に加熱された1.5重量%の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、20~30分間撹拌処理する、印刷インキ部分を脱離する方法。」
(2) 本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1-1発明を対比する。
(ア) 脱離用印刷インキ組成物
甲1-1発明の「フタロシアニンブルー」、及び「ロジン-マレイン酸樹脂」は、それぞれ、本件特許発明1の「顔料」、及び「ロジン系樹脂」に相当する。また、甲1-1発明の「脱離性インキ組成物」は、「硝化綿」、「酢酸酪酸セルロース」、及び「ウレタン樹脂」を含有するから、本件特許発明1の「ポリウレタン樹脂と、セルロース誘導体を含有するバインダー樹脂」、「を含有し」という要件を満たす。加えて、甲1-1発明の「メチルエチルケトン」、「酢酸エチル」及び「酢酸プロピル」は、いずれも、本件特許発明1の「有機溶剤」に相当する。さらに、甲1-1発明の「脱離性インキ組成物」は、ポリエステルフイルムへ印刷され、「印刷インキ部分を脱離する方法」である甲1-2発明に用いられるから、本件特許発明1の「脱離用」「印刷インキ組成物」に相当する。
(イ) ロジン系樹脂の脱離用印刷インキ組成物全体に対する含有割合
甲1-1発明の「ロジン-マレイン酸樹脂」の脱離用印刷インキ組成物全体に対する割合は、配合組成及び「ロジン-マレイン酸樹脂」の固形分割合からみて、4.6質量%であるから、本件特許発明1の「ロジン系樹脂をインキ組成物中に0.1~5.0質量%」「含有する」という要件を満たす。
(ウ) ロジン系樹脂の脱離用印刷インキ組成物の固形分に対する含有割合
本件特許発明1の「ロジン系樹脂」に相当する、引用発明の「ロジン-マレイン酸樹脂」のインキ組成物の固形分に対する含有割合は、配合組成及び「ロジン-マレイン酸樹脂」の固形分割合からみて、18.2質量%と認められる。
(合議体注:インキ組成物における硝化綿の固形分は、30×30重量%=9重量部、酢酸酪酸セルロースの固形分は、10×15重量%=1.5重量部、ウレタン樹脂の固形分は、20×30重量%=6重量部、ロジンマレイン酸樹脂の固形分は、15×40重量%=6重量部、ポリエチレンワックスの固形分は0.5重量部、フタロシアニンブルーの固形分は10重量部であるから、インキ組成物の固形分中におけるロジン-マレイン酸樹脂の含有割合は、6÷(9+1.5+6+6+1.5+10)×100=18.2%)
イ 一致点及び相違点
本件特許発明1と甲1-1発明は、以下の点(ア)で一致し、以下の点(イ)において相違する。
(ア) 一致点
「 顔料、
バインダー樹脂、
及びロジン系樹脂をインキ組成物中に0.1~5.0質量%及び有機溶剤を含有する脱離用印刷インキ組成物。」
(イ) 相違点
(相違点1-1)
バインダー樹脂が、本件特許発明1は、「(A)実質的に酸基を有しないポリエステルポリエーテル型ポリウレタン樹脂と、セルロース誘導体を含有するバインダー樹脂、又は(B)実質的に酸基を有しないポリエステルポリエーテル型ポリウレタン樹脂と塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂を含有し、固形分比率でポリエステルポリエーテル型ポリウレタン樹脂/塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂=100/0~70/30であるバインダー樹脂」であるのに対し、甲1-1発明は、「ポリウレタン樹脂」と「セルロース誘導体を含有する」バインダー樹脂である点。
(相違点1-2)
ロジン系樹脂が、本件特許発明1は、「酸価100~350mgKOH/g」であるのに対し、甲1-1発明は、酸価が明らかでない点。
(相違点1-3)
ロジン系樹脂が、本件特許発明1は、「インキ組成物の固形分中に0.3~10.0質量%」含有されるのに対し、甲1-1発明は、18.2質量%である点。
(相違点1-4)
印刷インキ組成物が、本件特許発明1は、「表刷り」印刷インキ組成物であるのに対し、甲1-1発明は、そのように特定されていない点。
(相違点1-5)
印刷インキ組成物が、本件特許発明1は、「但し、少なくとも、第1の基材、第1の基材を脱離させて第1の基材をリサイクルするためのプライマー層、及び印刷層をこの順に備えた包装材であって、前記プライマー層を形成することに用いられるプライマー組成物は、バインダー樹脂として、60℃の1質量%水酸化ナトリウム水溶液に12時間浸漬後の重量平均分子量(Mw)が70%以下(浸漬前のMwを100%とする)となる樹脂を含有する、包装材の印刷層に使用する印刷インキ組成物。を除く」のに対し、甲1-1発明はそのように特定されていない点。
ウ 判断
相違点1-1について検討する。
(ア) 甲1-1発明の「インキ組成物」は、「ウレタン樹脂[三洋化成工業(株)、サンプレンIB104、30重量%酢酸エチル/イソプロピルアルコール溶液]」を含有する。しかしながら、甲1-1発明のインキ組成物に含まれる「ウレタン樹脂[三洋化成工業(株)、サンプレンIB104、30重量%酢酸エチル/イソプロピルアルコール溶液]」は、「ポリエステルポリエーテル型ポリウレタン樹脂」であるかは明らかでない。
(イ) 甲1の段落【0005】には、「本発明の脱離性インキ組成物は、(A)・・・(略)・・・又はセルロース系樹脂とウレタン樹脂の混合体、及び、(B)スチレン-アクリル酸樹脂、スチレン-マレイン酸樹脂、ロジン-マレイン酸樹脂から選ばれた1種又は2種以上の樹脂をビヒクルの主成分とする。」及び段落【0006】には、「本発明に用いるウレタン樹脂に特に制限はなく、例えば、ジイソシアネートとポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオールなどから得られるポリウレタン樹脂、ポリウレタン尿素樹脂などを挙げることができる。これらの中で、線状ポリウレタン尿素樹脂を好適に用いることができる。」と記載されている。しかしながら、甲1には、「ポリエステルポリエーテル型ポリウレタン樹脂」と、「セルロース誘導体」または「塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体」を組み合わせて使用することについて記載がない。そして、甲1及びその他の甲号証の記載を参照しても、甲1-1発明において、ポリエステルポリエーテル型ポリウレタン樹脂」と、「セルロース誘導体」または「塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体」を組み合わせて使用する動機付けが存在しない。
(ウ) してみると、その他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1-1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(エ) 申立人の主張について
申立人は、申立書の77~78ページにおいて、本件特許発明1は、甲1に記載の発明であるか、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明である旨主張する。しかしながら、上記(ア)及び(イ)で述べたとおり、本件特許発明1は、甲1-1発明であるとはいえず、甲1-1発明に甲1の記載事項及び周知技術を適用する動機付けが存在しない。
したがって、申立人の主張を採用することはできない。
エ 小括
本件特許発明1は、甲1-1発明であるとはいえず、甲1-1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(3) 本件特許発明2及び5について
本件特許発明2及び5は、いずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1の構成を全て具備するものである。
そうすると、上記(2)のとおり、本件特許発明1が、甲1-1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、本件特許発明2及び5も、甲1-1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 甲3を主引例とした新規性及び進歩性の有無の検討
(1) 甲3発明
ア 甲3の段落[0090]~[0115]から理解される「Ink4」の発明を、「甲3-1発明」という。
(甲3-1発明)
「DICグラフィックス社製 フィナート R507原色藍に、酸性基を有する化合物が固形分中5質量%となるように、荒川化学工業社製 マルキード#31(酸価200mgKOH/gであるマレイン化ロジン樹脂)を酢酸エチルで40質量%になるように希釈した溶液を配合したインキ。」
イ また、甲3の段落[0090]~[0115]に記載された「実施例1」から理解される「積層フィルムの分離回収方法」の発明を、「甲3-2発明」という。
(甲3-2発明)
「甲3-1発明のインキをフィルム「Film1」に展色し、印刷インキの展色面に、反応性接着剤を塗布し、フィルム「Film2」と貼り合わせ、積層フィルム「LAM1」を作成し、積層フィルム「LAM1」を10mm×10mmのサイズにカットし試験片を得、試験片を水酸化ナトリウム水溶液5質量%溶液 60℃にて2時間撹拌処理する、積層フィルムの分離回収方法。」
(2) 本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲3-1発明を対比する。
(ア) ロジン系樹脂及び有機溶剤
甲3-1発明の「荒川化学工業社製 マルキード#31(酸価200mgKOH/gであるマレイン化ロジン樹脂)」及び「酢酸エチル」は、それぞれ、本件特許発明1の「酸化ロジン系樹脂」及び「有機溶剤」に相当する。ここで、甲3-1発明の「荒川化学工業社製 マルキード#31」は、「酸価200mgKOH/g」の「マレイン化ロジン樹脂」であるから、甲3-1発明の「酸価100~350mgKOH/gのロジン系樹脂」という要件を満たす。
(イ) 脱離用印刷インキ組成物
甲3-1発明の「Ink4」は、「『Film1』に展色し」、「印刷インキの展色面」「に、反応性接着剤『Ad』を」「塗布し」、「フィルム『Film2』と貼り合わせ」、「LAM1」「を得」、「LAM1」「を10mm×10mmのサイズにカットし試験片を得」、「試験片を工程1-1~工程1-7にて剥離試験を実施し」、「工程1-1~工程1-5で使用した水酸化ナトリウムが1質量%以上のアルカリ溶液は、積層フィルムを全て各層の単相フィルムに剥離することができ」、「単相フィルムにインキ層は残っていなかった」ものであるから、本件特許発明1の「脱離用印刷インキ組成物」に相当する。
イ 一致点及び相違点
本件特許発明1と甲3-1発明は、以下の点(ア)で一致し、以下の点(イ)において、相違する。
(ア) 一致点
「酸価100~350mgKOH/gのロジン系樹脂、及び有機溶剤を含有する脱離用印刷インキ組成物。」
(イ) 相違点
(相違点3-1)
脱離用印刷インキ組成物が、本件特許発明1は、「顔料、(A)実質的に酸基を有しないポリエステルポリエーテル型ポリウレタン樹脂と、セルロース誘導体を含有するバインダー樹脂、又は(B)実質的に酸基を有しないポリエステルポリエーテル型ポリウレタン樹脂と塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂を含有し、固形分比率でポリエステルポリエーテル型ポリウレタン樹脂/塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂=100/0~70/30であるバインダー樹脂」を含有するのに対し、甲3-1発明は、そのように特定されていない点。
(相違点3-2)
ロジン系樹脂が、本件特許発明1は、「インキ組成物中に0.1~5.0質量%かつインキ組成物の固形分中に0.3~10.0質量%」含有するのに対し、甲3-1は、そのように特定されていない点。
(相違点3-3)
印刷インキ組成物が、本件特許発明1は、「但し、少なくとも、第1の基材、第1の基材を脱離させて第1の基材をリサイクルするためのプライマー層、及び印刷層をこの順に備えた包装材であって、前記プライマー層を形成することに用いられるプライマー組成物は、バインダー樹脂として、60℃の1質量%水酸化ナトリウム水溶液に12時間浸漬後の重量平均分子量(Mw)が70%以下(浸漬前のMwを100%とする)となる樹脂(A)を含有する、包装材の印刷層に使用する印刷インキ組成物。を除く」のに対し、甲3-1発明はそのように特定されていない点。
ウ 判断
相違点3-1について検討する。
(ア) 甲3-1発明の「Ink4」は、「DICグラフィックス社製 フィナート R507原色藍」を含有する。ここで、甲12の段落【0089】に、「DIC(株)製印刷白インキ「フィナート」(グラビア印刷用インキ;樹脂タイプ 塩酢ビ/ウレタン)」と記載されていることからみて、「DICグラフィックス社製 フィナート R507原色藍」は、実質的に酸基を有しないポリウレタン樹脂を含有するといえる。また、甲13の段落【0052】に、「・インキ2:DICグラフィックス(株)社製ウレタンインキ、フィナートR796白(S2)。顔料含有率35質量%。」と記載されていることからみて、「DICグラフィックス社製 フィナート R507原色藍」は、顔料を含有するといえる。そうしてみると、甲3-1発明の「DICグラフィックス社製 フィナート R507原色藍」は、顔料及び実質的に酸基を有しないポリウレタン樹脂を含有する。
(イ) しかしながら、甲3-1発明のインキ組成物に含まれるポリウレタン樹脂が、「ポリエステルポリエーテル型ポリウレタン樹脂」であるかは明らかでない。また、甲3-1発明のインキ組成物は、「セルロース誘導体」や「塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂」を含有するものとは認められない。
(ウ) 甲3の段落[0060]には、「グラビアインキやフレキソインキ等の印刷インキの一般的な組成は、バインダー樹脂、着色剤、有機溶剤や水性溶剤等の溶剤、添加剤等を含む。」及び「バインダー樹脂としては、・・・(略)・・・。中でも硝化綿等のセルロール系樹脂、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体等を適宜組み合わせて使用することが多い。」と記載されている。しかしながら、甲3には、「ポリエステルポリエーテル型ポリウレタン樹脂」と、「セルロース誘導体」または「塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体」を組み合わせて使用することについて記載がない。そして、甲3及びその他の甲号証の記載を参照しても、甲3-1発明において、ポリエステルポリエーテル型ポリウレタン樹脂」と、「セルロース誘導体」または「塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体」を組み合わせて使用する動機付けが存在しない。
(エ) してみると、その他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲3-1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(オ) 申立人の主張について
申立人は、申立書の87~91ページにおいて、本件特許発明1は、甲3に記載の発明であるか、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明である旨主張する。
しかしながら、上記(ア)~(ウ)で述べたとおり、本件特許発明1は、甲3-1発明であるとはいえず、甲3-1発明に甲3の記載事項及び周知技術を適用する動機付けが存在しない。
したがって、申立人の主張を採用することはできない。
エ 小括
本件特許発明1は、甲3-1発明であるとはいえず、甲3-1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(3) 本件特許発明2及び5について
本件特許発明2及び5は、いずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1の構成を全て具備するものである。
そうすると、上記(2)のとおり、本件特許発明1が、甲3-1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、本件特許発明2及び5も、甲3-1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 甲4~9を主引例とした新規性及び進歩性の有無の検討
(1) 甲4~9発明
甲4の段落【0041】~【0067】【表1】の実施例A1から理解される「軟包装用ラミネート用印刷インキ組成物」の発明を、「甲4発明」という。同様に、甲5の段落【0051】~【0073】【表1】の実施例B1、甲6の段落【0051】~【0073】【表1】の実施例B1、甲7の段落【0044】~【0062】【表1】の実施例1、甲8の段落【0026】~【0040】【表1】の実施例1、及び甲9の段落【0054】~【0066】【表1】の実施例1から理解される「インキ組成物」の発明を、それぞれ、「甲5発明」、「甲6発明」、「甲7発明」、「甲8発明、及び「甲9発明」という。
(2) 本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲4発明を対比する。
(ア) 印刷インキ組成物
甲4発明の「顔料」、及び「重合ロジン」は、それぞれ、本件特許発明1の「顔料」、及び「ロジン系樹脂」に相当する。また、甲4発明の「軟包装用ラミネート用印刷インキ組成物」は、「バイオマスでないウレタン樹脂ワニス」及び「バイオマスウレタン樹脂ワニス」を含有するから、本件特許発明1の「ポリウレタン樹脂、及び/又は、ポリアミド樹脂を含有するバインダー樹脂」「を含有する」という要件を満たす。加えて、甲4発明の「バイオマスウレタン樹脂ワニス」は、「酢酸エチル」及び「イソプロピルアルコール」を含有するから、本件特許発明1の「有機溶媒を含有する」という要件を満たす。さらに、甲4発明の「軟包装用ラミネート用印刷インキ組成物」」は、本件特許発明1の「印刷インキ組成物」に相当する。
(イ) ロジン系樹脂
甲4発明の「重合ロジン」は、「酸価160mgKOH/g」であるから、本件特許発明1の「酸価100~350mgKOH/gのロジン系樹脂」という要件を満たす。また、甲4発明の「軟包装用ラミネート用印刷インキ組成物」は0.5%含有されるから、「ロジン系樹脂をインキ組成物中に0.1~5.0質量%」「含有する」という要件を満たす。
イ 一致点及び相違点
本件特許発明1と甲4発明は、以下の点(ア)で一致し、以下の点(イ)において、相違する。
(ア) 一致点
「顔料、
バインダー樹脂、及び酸価100~350mgKOH/gのロジン系樹脂をインキ組成物中に0.1~5.0質量%、及び有機溶剤を含有する印刷インキ組成物。」
(イ) 相違点
(相違点4-1)
脱離用印刷インキ組成物が、本件特許発明1は、「顔料、(A)実質的に酸基を有しないポリエステルポリエーテル型ポリウレタン樹脂と、セルロース誘導体を含有するバインダー樹脂、又は(B)実質的に酸基を有しないポリエステルポリエーテル型ポリウレタン樹脂と塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂を含有し、固形分比率でポリエステルポリエーテル型ポリウレタン樹脂/塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂=100/0~70/30であるバインダー樹脂」を含有するのに対し、甲4発明は、そのように特定されていない点。
(相違点4-2)
ロジン系樹脂が、本件特許発明1は、「インキ組成物の固形分中に0.3~10.0質量%」含有するのに対し、甲4は、そのように特定されていない点。
(相違点4-3)
印刷インキ組成物が、本件特許発明1は、「脱離用表刷り」印刷インキ組成物であるのに対し、甲4発明は、そのように特定されていない点。
(相違点4-4)
印刷インキ組成物が、本件特許発明1は、「但し、少なくとも、第1の基材、第1の基材を脱離させて第1の基材をリサイクルするためのプライマー層、及び印刷層をこの順に備えた包装材であって、前記プライマー層を形成することに用いられるプライマー組成物は、バインダー樹脂として、60℃の1質量%水酸化ナトリウム水溶液に12時間浸漬後の重量平均分子量(Mw)が70%以下(浸漬前のMwを100%とする)となる樹脂(A)を含有する、包装材の印刷層に使用する印刷インキ組成物。を除く」のに対し、甲4発明はそのように特定されていない点。
ウ 判断
事案に鑑み、相違点4-3について検討する。
(ア) 甲4発明の「軟包装用ラミネート用印刷インキ組成物」について
甲4の段落【0007】には、「本発明のラミネート用印刷インキ組成物によれば、ラミネート用印刷インキ組成物は経時安定性に優れ、各種汎用フィルム(OPP、PET、NY等)、各種高機能フィルム(無機や有機のバリヤ材が塗布されたフィルム)に印刷した場合に、優れた耐ブロッキング性、重ね刷り適性、耐ガイドロール汚れ性を有し、また各種フィルムに対して優れた接着性を有し、さらにラミネート加工したときには、得られるラミネート加工物が優れたラミネート適性を有し、地球温暖化防止や環境負荷低減に貢献できるという効果を奏する。」、
段落【0016】には、「上記の好ましいポリウレタン樹脂は特定の官能基を有することで、本発明のラミネート用印刷インキ組成物が、フィルムに対する優れた印刷適性及び接着性を有し、加えて、優れたラミネート適性を有することとなる」、
段落【0025】には、「本発明のラミネート用印刷インキ組成物は、ポリウレタン樹脂と(塩化ビニル/酢酸ビニル系共重合体及び/又は塩化ビニル/アクリル共重合体)とを、ポリウレタン樹脂/(塩化ビニル/酢酸ビニル系共重合体及び/又は塩化ビニル/アクリル共重合体)=95/5~45/55(質量比)で含有することができる。このような割合でポリウレタン樹脂と塩化ビニル/酢酸ビニル系共重合体及び/又は塩化ビニル/アクリル共重合体とを含有することで、本発明のフィルム用グラビア印刷インキ組成物は、フィルムに対するさらに優れた印刷適性及び接着性を有することとなる。更に、ラミネート加工が行われる場合、より優れたラミネート適性を有することとなる」、
段落【0026】には、「インキ組成物中に、ロジン及びその誘導体、塩素化ポリプロピレン、ダンマル樹脂から選ばれる少なくとも1種を含有させることにより各種フィルムに対する接着性、ラミネート適性を向上させる。また、これらを2種以上含有させることが、さらに接着性とラミネート適性を向上させる上で好ましい。」、
段落【0070】には、「本発明に沿った例である各実施例の積層体は、バイオポリウレタン樹脂の使用量に関わらず、ガイドロール取られ、トラッピング性、接着性、耐ブロッキング性、白と藍の階調再現性、及び耐レトルト性の何れも良好であった。また各実施例にて使用したインキはいずれも保存安定性に優れていた」、
と記載されている。
(イ) しかしながら、甲4には、甲4発明の「軟包装用ラミネート用印刷インキ組成物」を「脱離用表刷り」印刷インキとして使用することについて記載されていない。また、甲4には、上記(ア)で述べたとおり、甲4発明の「軟包装用ラミネート用印刷インキ組成物」が、ラミネート適性に優れることが記載されるにとどまり、「脱離用表刷り」インキとして使用し得ることについて記載されていない。さらに、甲4及びその他の甲号証、並びに技術常識からみても、甲4発明の「軟包装用ラミネート用印刷インキ組成物」が「脱離用表刷り」印刷インキとして使用し得るものであるともいえない。
したがって、甲4発明の「軟包装用ラミネート用印刷インキ組成物」は「脱離用表刷り」印刷インキと、インキという物として同じであるとはいえない。また、甲4発明の「軟包装用ラミネート用印刷インキ組成物」を、「脱離用表刷り」印刷インキとして使用する動機付けも存在しない。
(ウ) してみると、その他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲4発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(エ) 申立人の主張について
申立人は、申立書の94~98ページにおいて、本件特許発明1は、甲4に記載の発明であるか、甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明である旨主張する。しかしながら、上記(ア)及び(イ)で述べたとおり、本件特許発明1は、甲4発明であるとはいえず、甲4-1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
したがって、申立人の主張を採用することはできない。
エ 小括
本件特許発明1は、甲4発明であるとはいえず、甲4発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(3) 本件特許発明2及び5について
本件特許発明2及び5は、いずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1の構成を全て具備するものである。
そうすると、上記(2)のとおり、本件特許発明1が、甲4発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、本件特許発明2及び5も、甲4発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4) そして、(1)~(3)における検討事項は、甲5~9発明を主引用発明とした場合にも、同様に当てはまる。
第7 取消理由通知書で採用しなかった特許異議申立ての理由について
1 甲2を主引用例とした新規性及び進歩性の欠如
(1) 甲2発明
ア 甲2の段落【0010】、【0013】【表3】の第1表-3に記載された「実施例-7」及び段落【0017】~【0018】【表7】の第3表-1から理解される、以下の「脱離性インキ組成物」の発明を、「甲2-1発明」という。
(甲2-1発明)
「ウレタン樹脂(商品名:サンプレンIB104、三洋化成社製品、固形分30重量%トルエン-MEK-IPA溶液)35.0重量部、繊維素系樹脂(30%)硝化綿 2.0重量部、ポリエチレンワックス 0.5重量部、メチルエチルケトン 27.0重量部、トルエン 14.0重量部、イソプロピルアルコール 2.0重量部、スチレン-マレイン酸樹脂(商品名CA-6623、近代化学社製品、酢酸エチル-IPA40%溶液) 3.0質量部、有機顔料 ジスアゾエロー顔料 8.0重量部をペイントシェーカーに入れ、60分間分散して得られた、カラーインキ組成物。」
イ また、甲2の段落【0010】、【0013】【表3】の第1表-3に記載された「実施例-7」及び段落【0017】~【0018】【表7】の第3表-1から理解される、以下の「脱離性インキ組成物を用いて印刷した印刷フイルムを、苛性ソーダ水溶液に浸漬し」「脱離性インキ組成物を印刷フイルムから脱離する方法」を、「甲2-2発明」という。
(甲2-2発明)
「甲2-1発明を用いて印刷された印刷フイルムを、80~90℃に加熱された1~3%の苛性ソーダ水溶液に浸漬し、20~30分間撹拌処理する、印刷インキ部分を脱離する方法。」
(2) 本件特許発明1について
ア 対比
甲2-1発明の「有機顔料 ジスアゾエロー顔料」は、本件特許発明1の「顔料」に相当する。また、甲2-1発明の「カラーインキ組成物」は、「硝化綿」、及び「ウレタン樹脂」を含有するから、本件特許発明1の「ポリウレタン樹脂と、セルロース誘導体を含有するバインダー樹脂」、「を含有し」という要件を満たす。加えて、甲2-1発明の「メチルエチルケトン」、「トルエン」及び「イソプロピルアルコール」は、いずれも、本件特許発明1の「有機溶剤」に相当する。さらに、甲2-1発明の「カラーインキ組成物」は、アルカリ処理脱離性を有するから、本件特許発明1の「脱離用」「印刷インキ組成物」に相当する。
イ 一致点及び相違点
本件特許発明1と甲2-1発明は、以下の点(ア)で一致し、以下の点(イ)において、一応相違する。
(ア) 一致点
「顔料、
バインダー樹脂、
及び有機溶剤を含有する脱離用印刷インキ組成物。」
(イ) 相違点
(相違点2-1)
バインダー樹脂が、本件特許発明1は、「(A)実質的に酸基を有しないポリエステルポリエーテル型ポリウレタン樹脂と、セルロース誘導体を含有するバインダー樹脂、又は(B)実質的に酸基を有しないポリエステルポリエーテル型ポリウレタン樹脂と塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂を含有し、固形分比率でポリエステルポリエーテル型ポリウレタン樹脂/塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂=100/0~70/30であるバインダー樹脂」であるのに対し、甲2-1発明は、「ポリウレタン樹脂」と「セルロース誘導体を含有する」バインダー樹脂である点。
(相違点2-2)
本件特許発明1は、「酸価100~350mgKOH/gのロジン系樹脂を、インキ組成物中に0.1~5.0質量%かつインキ組成物の固形分中に0.3~10.0質量%」含有するのに対し、甲2-1発明は、ロジン系樹脂を含有しない点。
(相違点2-3)
印刷インキ組成物が、本件特許発明1は、「表刷り」印刷インキ組成物であるのに対し、甲2-1発明は、そのように特定されていない点。
(相違点2-4)
印刷インキ組成物が、本件特許発明1は、「但し、少なくとも、第1の基材、第1の基材を脱離させて第1の基材をリサイクルするためのプライマー層、及び印刷層をこの順に備えた包装材であって、前記プライマー層を形成することに用いられるプライマー組成物は、バインダー樹脂として、60℃の1質量%水酸化ナトリウム水溶液に12時間浸漬後の重量平均分子量(Mw)が70%以下(浸漬前のMwを100%とする)となる樹脂(A)を含有する、包装材の印刷層に使用する印刷インキ組成物。を除く」のに対し、甲2-1発明はそのように特定されていない点。
ウ 判断
相違点2-1について検討する。
上記第6の1(2)ウで述べたのと同様に、甲2-1発明の「脱離性インキ組成物」が含有する「ウレタン樹脂」は、「ウレタン樹脂[三洋化成工業(株)、サンプレンIB104、30重量%酢酸エチル/イソプロピルアルコール溶液]」であって、「ポリエステルポリエーテル型ポリウレタン樹脂」であるとはいえない。また、甲2には、「ポリエステルポリエーテル型ポリウレタン樹脂」と、「セルロース誘導体」または「塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体」を組み合わせて使用することについて記載がなく、甲2及びその他の甲号証の記載を参照しても、甲2-1発明において、「ポリエステルポリエーテル型ポリウレタン樹脂」と、「セルロース誘導体」または「塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体」を組み合わせて使用する動機付けが存在しない。
次に、相違点2-2について検討する。
(ア) 甲2-1発明のインキ組成物は、「ロジン-マレイン酸樹脂」を含有していない。そうすると、相違点2-2は実質的な相違点である。
(イ) 甲2段落【0004】には、「本発明者らは、上記した問題点を解決するために鋭意研究を重ねた結果、印刷インキの主成分ビヒクルであるウレタン樹脂および/又はアクリル樹脂にスチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-マレイン酸樹脂、ロジン-マレイン酸樹脂、フェノール樹脂から選ばれた1種又は2種以上を配合したビヒクルを用いたインキ組成物はプラスチックフイルムに対する印刷物性が低下することがなく、該インキ組成物による印刷面は、1~3%の希アルカリ水溶液によって短時間で脱離することを知見し、本発明に到達した。」、段落【0005】には、「またロジンマレイン酸樹脂としては、酸価110~300、Tg130℃~150℃のアルコール可溶性等のものが使用される。」と記載されている。
(ウ) しかしながら、甲2及びその他の甲号証には、「ロジン系樹脂を、インキ組成物中に0.1~5.0質量%かつインキ組成物の固形分中に0.3~10.0質量%」含有させることが記載されておらず、甲2-1発明の印刷インキ組成物に、「酸価100~350mgKOH/gのロジン系樹脂を、インキ組成物中に0.1~5.0質量%かつインキ組成物の固形分中に0.3~10.0質量%」含有させる動機付けが存在しない。
(エ) してみると、その他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2-1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(オ) 申立人の主張について
申立人は、申立書の81~83ページにおいて、本件特許発明1は、甲2に記載の発明であるか、甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明である旨主張する。しかしながら、上記(ア)~(ウ)で述べたとおり、本件特許発明1は、甲2-1発明であるとはいえず、甲2-1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
したがって、申立人の主張を採用することはできない。
エ 小括
本件特許発明1は、甲2-1発明であるとはいえず、甲2-1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(3) 本件特許発明2及び5について
本件特許発明2及び5は、いずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1の構成を全て具備するものである。
そうすると、上記(2)のとおり、本件特許発明1が、甲2-1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、本件特許発明2及び5も、甲2-1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 明確性要件違反
(1) 明確性要件の判断基準
特許法36条6項2号の定める要件を充足するか否かは、すなわち、発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(2) 明確性要件についての判断
申立理由は、本件訂正請求に係る訂正前(以下「本件訂正」という。)の請求項4及び5に対するものである。本件訂正により、本件訂正前の請求項5に係る発明に対する申立理由は解消した。他方、本件訂正前の請求項4に対する申立理由は、「ポリエステルポリエーテル型ウレタン樹脂」という用語の意味が不明であることを指摘するものであって、当該用語は本件訂正後の請求項1に依然として記載されているから、この申立理由は、本件訂正後の請求項1に対するものとして、以下判断する。
本件特許の特許請求の範囲の請求項1及びその従属請求項である請求項2及び5の記載は上記第3のとおりである。そして、請求項1、2及び5の記載自体は明確であり、本件特許明細書の発明の詳細な説明における記載とも整合するものである。特に「ポリエステルポリエーテル型ウレタン樹脂」という用語は、後述するとおり、技術用語として確立した用語であって不明な点はない。
よって、本件特許発明1、2及び5は、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書及び図面の記載を考慮し、また、本件特許に係る出願の出願当時における当業者の技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
(3) 申立人の主張について
申立人は、申立書の134ページにおいて、「ポリエステルポリエーテル型ウレタン樹脂が意味するものが不明である」と主張する。
しかしながら、例えば、国際公開第2020/195611号の段落[0039]に記載のとおり、ポリエステルポリエーテル型ウレタン樹脂とは、ポリオールとしてポリエステルポリオール及びポリエーテルポリオールを用いて得られるウレタン樹脂を指すことが本件特許出願時の技術常識である。
そして、このような用語の理解は、本件特許明細書において実施例として開示されたウレタン樹脂に関する記載内容とも整合する。すなわち、本件特許明細書の段落【0041】には、「撹拌機、冷却管および窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに平均分子量2000の3-メチル-1,5-ペンチレンアジペートジオール100質量部、平均分子量2000のポリプロピレングリコール100質量部、およびイソホロンジイソシアネート44.4質量部を仕込み、窒素ガスを導入しながら100~105℃で6時間反応させた。室温近くまで放冷し、酢酸エチル521質量部、イソプロピルアルコール92質量部を加えた後、イソホロンジアミン15.6質量部を加えて鎖伸長させ、さらにモノエタノールアミン0.31質量部を加え反応させ、その後、イソホロンジアミン2.18質量部、ジエチレントリアミン0.17質量部を加えて反応停止させてポリウレタン樹脂ワニス(固形分30質量%)を得た。」と記載されている。そうしてみると、上記「ポリウレタン樹脂」は、そのポリオール部分の構造において、「3-メチル-1,5-ペンチレンアジペートジオール」由来のエステル結合と、「ポリプロピレングリコール」由来のエーテル結合を有していると認められる。
したがって、本件特許発明1の「ポリエステルポリエーテル型ウレタン樹脂」が意味するものが不明であるとはいえない。
そして、明確性要件については、上記(1)の判断基準に従って判断されるものであって、申立人のその他のいずれの主張も、上記(2)の判断に影響するものではない。
したがって、申立人の上記主張は採用することができない。
3 実施可能要件違反
(1) 実施可能要件の判断基準
本件特許発明1及び2は、上記第3のとおり、「物」の発明であるところ、物の発明における実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法2条3項1号)、例えば、明細書等にその物を生産することができる具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産することができるのであれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、実施可能要件を満たすといえる。
また、本件特許発明5は、上記第3のとおり「方法」の発明であるところ、方法の発明における実施とは、その方法の使用をする行為をいうから(特許法2条3項2号)、方法の発明について、例えば、明細書等にその方法を使用することができる程度に具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその方法を使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすといえる。
(2) 実施可能要件についての判断
本件特許明細書の段落【0009】には、「バインダー樹脂」として、「(A)ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂及びアクリル系樹脂から選ばれる少なくとも1種と、セルロース誘導体を含有するバインダー樹脂又は(B)ポリウレタン樹脂と塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂を含有し、固形分比率でポリウレタン樹脂/塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂=100/0~70/30であるバインダー樹脂を使用すること」、同【0027】には、「ロジン系樹脂としては、脱離性の点から、酸価100~350mgKOH/g、より好ましくは、200~350mgKOH/g、さらに好ましくは、250~350mgKOH/gである」こと、及び、「インキ組成物中のロジン系樹脂の含有量は0.1~5.0質量%」こと及び「インキ組成物の固形分中のロジン系樹脂の含有量は0.3~10.0質量%」であること、同【0039】~【0050】【表1】には、本件特許発明1の要件を満たす脱離用表刷り印刷インキ組成物が、実施例3及び4として具体的に記載され、いずれも脱離性の評価が「○~△」以上であったことが示されている。
してみると、これらの記載に接した当業者であれば、本件特許発明1、2及び5に係る発明の方法を実施することができる(使用することができる)ものといえる。
よって、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明1、2及び5について、当業者が実施できる程度に明確且つ十分に記載されたものであり、実施可能要件を満たす。
(3) 申立人の主張について
本件明細書の記載が実施可能要件を満たすことは上記(2)で述べたとおりであって、申立人は申立書135~136ページにおいて、本件特許発明1~5に係る発明について、ロジン系樹脂の含有量の臨界値の意義が不明であることを根拠として実施可能要件を満たしていない旨を縷々主張するが、実施可能要件については、上記(1)の判断基準に従って判断されるものであって、数値範囲の上限値又は下限値に臨界的意義が認められないことから直ちに実施可能要件が満たされないとはいえない。そして、申立人のいずれの主張も、上記(2)の判断に影響するものではない。
したがって、申立人の上記主張は採用しない。
4 サポート要件違反
(1) サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲で特定された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
(2) サポート要件についての判断
本件特許明細書の段落【0005】には、発明が解決しようとする課題として、「印刷物を使用したあとに、インク組成物による表面又は裏面の印刷被膜を任意に速やかに剥離可能とした脱離用印刷インキ組成物、及びそのインキ組成物で印刷した印刷物から該インキ組成物被膜を脱離する方法を提供すること」が記載され、同段落【0006】には、「脱離用印刷インキ組成物」が、「顔料、実質的に酸基を有しないバインダー樹脂、及び酸価100~350mgKOH/gのロジン系樹脂をインキ組成物中に0.1~5.0質量%、及び有機溶剤を含有する」構成とすることにより、上記課題を解決できることが記載されている。そして、そのことは、同段落【0039】~【0050】【表1】に記載された実施例及び比較例の評価結果によっても裏付けられている。
そうすると、本件特許発明は、当業者が上記課題を解決できると認識できる特定事項の全てを有し、さらに限定するものであるから、当然発明の課題を解決できると認識できる。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載は明細書のサポート要件に適合する。
(3) 申立人の主張について
申立人は申立書136~137ページにおいて、本件特許発明はサポート要件を満たさない旨、縷々主張するが、サポート要件については、上記(1)の判断基準に従って判断されるものであって、申立人のいずれの主張も、上記(2)の判断に影響するものではない。
したがって、申立人の上記主張は採用しない。
第8 むすび
本件特許の請求項1、2及び5に係る特許は、取消しの理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立ての理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件特許の請求項1、2及び5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項3及び4は、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項3~4に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する特許法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2025-700458