特許異議申立
2024-700808
クリヤー塗料組成物および塗装物品の製造方法
- 審判番号
- 2024-700808
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-206526
- 登録番号
- 7439230
- 請求日
- 2024年08月27日
- 審決日
- 2025年07月01日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社
- 【権利者代理人】山尾 憲人
- 【権利者代理人】山本 宗雄
- 【権利者代理人】津村 祐子
- 【異議申立人】御代川 友美
- 審判長/審判官
- 審判長 村守 宏文
- 審判官 光本 美奈子
- 審判官 渡辺 陽子
- 分類
- P1651.113-YAA(C09D) / P1651.121-YAA(C09D) / P1651.536-YAA(C09D) / P1651.537-YAA(C09D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第6項、特許法第126条第5項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第126条第5号、特許法第126条第7項、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7439230号発明「クリヤー塗料組成物および塗装物品の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7439230号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕、8について訂正することを認める。
特許第7439230号の請求項1~8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7439230号(以下「本件特許」ともいう。)についての出願は、令和4年12月23日の出願であって、令和6年2月16日にその特許権の設定登録(請求項の数8)がされ、同年同月27日に特許掲載公報が発行された。その後、当該特許に対して、令和6年8月27日に特許異議申立人 御代川 友美(以下「申立人」ともいう。)により全請求項に係る特許に対して特許異議の申立てがされた。
本件特許異議申立以後の経緯は、次のとおりである。
令和6年11月14日付け:取消理由通知
令和7年 1月15日 :意見書及び訂正請求書(特許権者)
同年 2月27日 :訂正請求書の手続補正書(特許権者)
同年 3月27日付け :通知書(申立人宛て)
本通知書に対して、申立人からの応答はなかった。
第2 本件訂正についての判断
1 請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、「特許第7439230号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~8について訂正することを求める。」というものである。
2 訂正事項
本件訂正は次の訂正事項からなる。
(1)訂正事項1-1
特許請求の範囲の請求項1に、「前記2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)は、重量平均分子量が6,000以上であり、」とあるのを、「前記2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)は、重量平均分子量が6,000以上であり、かつ、水酸基として2級水酸基のみを含有し、」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項3、4、5、6も同様に訂正する。)
(2)訂正事項1-2
特許請求の範囲の請求項1に、「前記有機溶媒(C)は、炭素数7以上のケトン化合物(C1)を含み、」とあるのを、「前記有機溶媒(C)は、炭素数7以上のケトン化合物(C1)と、沸点が200℃以上の、モノカルボン酸エステル、二塩基性エステル化合物、セロソルブおよびカルビトールよりなる群から選択される少なくとも1種を含み、」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項3、4、5、6も同様に訂正する。)
(3)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を独立項にし、さらに「前記2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)は、重量平均分子量が6,000以上であり、」とあるのを、「前記2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)は、重量平均分子量が6,000以上であり、かつ、水酸基として2級水酸基のみを含有し、」に訂正する。
(請求項2の記載を引用する請求項3、4、5、6、7も同様に訂正する。)
(4)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項7に「前記有機溶媒(C)はさらに、沸点が200℃以上の、モノカルボン酸エステル、二塩基性エステル化合物、セロソルブおよびカルビトールよりなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1または2記載のクリヤー塗料組成物」とあるのを、「前記有機溶媒(C)はさらに、沸点が200℃以上の、モノカルボン酸エステル、二塩基性エステル化合物、セロソルブおよびカルビトールよりなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項2記載のクリヤー塗料組成物」に訂正する。
(5)訂正事項4-1
特許請求の範囲の請求項8に、「前記2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)は、重量平均分子量が6,000以上であり、」とあるのを、「前記2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)は、重量平均分子量が6,000以上であり、かつ、水酸基として2級水酸基のみを含有し、」に訂正する。
(6)訂正事項4-2
特許請求の範囲の請求項8に、「前記有機溶媒(C)は、炭素数7以上のケトン化合物(C1)を含み、」とあるのを、「前記有機溶媒(C)は、炭素数7以上のケトン化合物(C1)を含み、前記1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)の酸価が0mgKOH/g以上40mgKOH/g以下であるか、あるいは、有機溶媒(C)がさらに、沸点が200℃以上の、モノカルボン酸エステル、二塩基性エステル化合物、セロソルブおよびカルビトールよりなる群から選択される少なくとも1種を含み、」に訂正する。
(6)一群の請求項について
訂正事項1-1~3は、訂正前に引用関係を有する請求項1~7に対して、また、訂正事項4-1及び4-2は、訂正前の請求項8に対して請求されたものである。
よって、本件訂正請求は、一群の請求項ごとに請求されている。
3 訂正要件についての判断
(1)訂正事項1-1について
ア 訂正の目的
訂正事項1-1は、訂正前の請求項1の「前記2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)は、重量平均分子量が6,000以上であり、」を、「前記2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)は、重量平均分子量が6,000以上であり、かつ、水酸基として2級水酸基のみを含有し、」に限定するものであるから、訂正事項1-1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 実質上の拡張・変更の有無
訂正事項1-1は、訂正前の請求項1の「前記2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)は、重量平均分子量が6,000以上であり、」を、「前記2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)は、重量平均分子量が6,000以上であり、かつ、水酸基として2級水酸基のみを含有し、」に限定するものであるから、特許請求の範囲を実質的に拡張・変更するものではない。
したがって、上記訂正事項は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ 新規事項の追加の有無
訂正事項1-1は、本件明細書の段落【0029】の「2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)(以下、第2アクリル樹脂(A2)とも称する。)は、少なくとも2級水酸基を含有し、さらに1級水酸基を含有していてもよい。第2アクリル樹脂(A2)は、2級水酸基のみを含有していてもよい。」との記載に基づくものである。
したがって、上記訂正事項は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(2)訂正事項1-2について
ア 訂正の目的
訂正事項1-2は、訂正前の請求項1の「前記有機溶媒(C)は、炭素数7以上のケトン化合物(C1)を含み、」とあるのを、「前記有機溶媒(C)は、炭素数7以上のケトン化合物(C1)と、沸点が200℃以上の、モノカルボン酸エステル、二塩基性エステル化合物、セロソルブおよびカルビトールよりなる群から選択される少なくとも1種を含み、」に限定するものであるから、訂正事項1-2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 実質上の拡張・変更の有無
訂正事項1-2は、訂正前の請求項1の「前記有機溶媒(C)は、炭素数7以上のケトン化合物(C1)を含み、」とあるのを、「前記有機溶媒(C)は、炭素数7以上のケトン化合物(C1)と、沸点が200℃以上の、モノカルボン酸エステル、二塩基性エステル化合物、セロソルブおよびカルビトールよりなる群から選択される少なくとも1種を含み、」に限定するものであるから、訂正事項1-2は、特許請求の範囲を実質的に拡張・変更するものではない。
したがって、上記訂正事項は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ 新規事項の追加の有無
訂正事項1-2は、訂正前の請求項7の「前記有機溶媒(C)はさらに、沸点が200℃以上の、モノカルボン酸エステル、二塩基性エステル化合物、セロソルブおよびカルビトールよりなる群から選択される少なくとも1種を含む」との記載に基づくものである。
したがって、上記訂正事項は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(3) 訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2を独立項にし、2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)が水酸基として2級水酸基のみを含有することを限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」、及び、同条同項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(4)訂正事項3について
訂正事項3は、引用する請求項として「請求項1または2」であったのを、「請求項2」に限定したものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」、及び、同条同項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(5)訂正事項4-1について
訂正事項4-1は、訂正前の請求項8に訂正事項1と同じ訂正をするものであるから、訂正事項1と同様に、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5号及び第6項に適合するものである。
(6) 訂正事項4-2について
ア 訂正の目的
訂正事項4-2は訂正前の請求項8に「前記1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)の酸価が0mgKOH/g以上40mgKOH/g以下であるか、あるいは、有機溶媒(C)がさらに、沸点が200℃以上の、モノカルボン酸エステル、二塩基性エステル化合物、セロソルブおよびカルビトールよりなる群から選択される少なくとも1種を含み、」を追加し、前記1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)や有機溶媒(C)をさらに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 実質上の拡張・変更の有無
訂正事項4-2は、訂正前の請求項8において、「前記1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)」や「有機溶媒(C)」をさらに限定するものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ 新規事項の追加の有無
訂正事項4-2は、訂正前の請求項2の「前記1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)は、酸価が0mgKOH/g以上40mgKOH/g以下である」、訂正前の請求項7の「前記有機溶媒(C)はさらに、沸点が200℃以上の、モノカルボン酸エステル、二塩基性エステル化合物、セロソルブおよびカルビトールよりなる群から選択される少なくとも1種を含む」の記載に基づくものである。
したがって、訂正事項4-2は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正に該当し、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(7)独立特許要件
本件訂正においては、訂正前の全ての請求項に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定は課されない。
4 小括
上記3において検討した訂正要件についての判断をまとめると、上記訂正事項1~4-2の訂正は、訂正要件を満たすものであるから、本件訂正は適法なものである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕、8について訂正することを認める。
第3 本件発明及び本件明細書の記載
1 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められたから、本件特許の請求項1~8に係る発明(以下、請求項番号にしたがって「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」ということもある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。下線は、訂正箇所であり、合議体が付した。
「【請求項1】
水酸基含有アクリル樹脂(A)と、
ポリイソシアネート化合物(B)と、
有機溶媒(C)と、を含み、
前記水酸基含有アクリル樹脂(A)は、1級水酸基含有アクリル樹脂(Al)および2級水酸基含有アクリル樹脂(A2) を含み、
前記1級水酸基含有アクリル樹脂(A1) は、重量平均分子量が6,000以下であり、かつ、
前記2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)は、重量平均分子量が6,000以上であり、
かつ、水酸基として2級水酸基のみを含有し、
前記有機溶媒(C)は、炭素数7以上のケトン化合物(C1) と、沸点が200℃以上の、
モノカルボン酸エステル、二塩基性エステル化合物、セロソルブおよびカルビトールよりな
る群から選択される少なくとも1種を含み、
塗装時の固形分濃度が55質量%以上である、クリヤー塗料組成物。
【請求項2】
水酸基含有アクリル樹脂(A) と、
ポリイソシアネート化合物(B)と、
有機溶媒(C)と、を含み、
前記水酸基含有アクリル樹脂(A) は1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)および2級水酸基含有アクリル樹脂(A2) を含み、
前記1級水酸基含有アクリル樹脂(A1) は、重量平均分子董が6,000以下であり、
かつ、酸価がOmgKOH/g以上40mgKOH/g以下であり、
前記2級水酸基含有アクリル樹脂(A2) は、重量平均分子量が6,000以上であり、
かつ、水酸基として2級水酸基のみを含有し、
前記有機溶媒(C) は、炭素数7以上のケトン化合物(C1) を含み、
塗装時の固形分濃度が55質量%以上である、クリヤー塗料組成物。
【請求項3】
前記2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)は、酸価がOmgKOH/g以上40mgKOH/g以下である、請求項1または2に記載のクリヤー塗料組成物。
【請求項4】
前記1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)の重量平均分子量が、3,000以上6,000以下である、請求項1または2記載のクリヤー塗料組成物。
【請求項5】
前記1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)の含有量と、前記2級水酸基含有アクリル樹脂(A2) の含有量との質量比(A1)/(A2)は、1/99~80/20である、請求項1または2記載のクリヤー塗料組成物。
【請求項6】
前記クリヤー塗料組成物の噴霧塗装時における塗着60秒後の固形分濃度は、60質量%以上80質量%以下である、請求項1または2記載のクリヤー塗料組成物。
【請求項7】
前記有機溶媒(C) はさらに、沸点が200℃以上の、モノカルボン酸エステル、二塩基性エステル化合物、セロソルブおよびカルビトールよりなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項2記載のクリヤー塗料組成物。
【請求項8】
被塗物上にベース塗料組成物を塗装して、未硬化のベース塗膜を形成する工程と、
前記未硬化のベース塗膜にクリヤー塗料組成物を塗装して、末硬化のクリヤー塗膜を形
成する工程と、
前記未硬化のベース塗膜および前記未硬化のクリヤー塗膜を同時に硬化させる工程と、を備え、
前記クリヤー塗料組成物は、
水酸基含有アクリル樹脂(A) と、
ポリイソシアネート化合物(B) と、
有機溶媒(C) と、を含み、
前記水酸基含有アクリル樹脂(A) は、1級水酸基含有アクリル樹脂(A1) および2級水酸基含有アクリル樹脂(A2) を含み、前記1級水酸基含有アクリル樹脂(A1) は重量平均分子量(Mw)が6,000以下であり、
前記2級水酸基含有アクリル樹脂(A2) は重量平均分子量(Mw)が6,000以上であり、かつ水酸基として2級水酸基のみを含有し、前記有機溶媒(C)は、炭素数7以上のケトン化合物(C1)を含み、前記1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)の酸価がOmgKOH/ 以上40mgKOH/以下であるか、あるいは有機溶媒(C)がさらに、沸点が200℃以上の、モノカルボン酸エステル、二塩基性エステル化合物、セロソルブおよびカルビトールよりなる群から選択される少なくとも1種を含み、
塗装時の固形分濃度が55質量%以上である、
塗装物品の製造方法。」
2 本件明細書の記載
「【発明が解決しようとする課題】
・・・
【0007】本発明の目的は、優れた耐色戻り性および外観を有する塗膜が得られるクリヤー塗料組成物と、このクリヤー塗料組成物を用いた塗装物品の製造方法とを提供することにある。」
第4 特許異議申立ての理由等の概要及び証拠方法について
1 申立人の申立ての概要
申立人は、証拠方法として下記(2)の甲第1号証~甲第8号証(以下「甲1」~「甲8」ともいう。)を提出するとともに、下記(1)の特許異議の申立ての理由(以下「申立理由1」~「申立理由4」ともいう。)を主張する。なお、本件発明1などの発明の番号は、訂正前のものに対応している。
(1)申立ての理由
ア 申立理由1(サポート要件違反)
本件発明1~8は、下記の理由により、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本件発明1~8に係る特許は、同法第36条第6項1号の規定を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消すべきものである。
(ア)本件発明1~8の「1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)」の量が特定されていないことから、課題を解決するための手段が請求項に反映されているといえず、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものである。
(イ)本件発明1~8の「2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)」の量が特定されていないことから、課題を解決するための手段が請求項に反映されているといえず、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものである。
(ウ)本件発明1~8の「1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)」及び「2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)」の重量平均分子量が同一又は近い場合には課題が解決できないことから、課題を解決するための手段が請求項に反映されているといえず、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものである。
(エ)本件発明1~8の「2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)」が1級水酸基を有する場合には課題が解決できないことから、課題を解決するための手段が請求項に反映されているといえず、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものである。
(オ)本件発明1~8の有機溶媒(C)中の、炭素数7以上のケトン化合物(C1)の量が少ない場合には課題が解決できないことから、課題を解決するための手段が請求項に反映されているといえず、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものである。
イ 申立理由2(実施可能要件違反)
この出願の発明の詳細な説明は、下記の点に関し、当業者が請求項1~8に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないので、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消すべきものである。
(ア)申立理由1において説明したとおり、本件発明1~8の「1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)」の量が特定されておらず、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものであるといえ、換言すれば、発明の詳細な説明には当業者が発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。
(イ)本件発明1~8の「2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)」の量が特定されておらず、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものであるといえ、換言すれば、発明の詳細な説明には当業者が発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。
(ウ)本件発明1~8の「1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)」及び「2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)」の重量平均分子量が同一又は近い場合に、課題を解決できるとはいえないから、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものであるといえ、換言すれば、発明の詳細な説明には当業者が発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。
(エ)本件発明1~8の「2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)」が1級水酸基を有する場合に課題を解決できるとはいえないから、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものであるといえ、換言すれば、発明の詳細な説明には当業者が発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。
(オ)本件発明1~8の有機溶媒(C)中の、炭素数7以上のケトン化合物(C1)の量が少ない場合に課題を解決できるとはいえないから、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものであるといえ、換言すれば、発明の詳細な説明には当業者が発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。
ウ 申立理由3(新規性)
本件発明1,3~5及び7~8は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1(請求項1、請求項3、【0014】【0018】【0036】【0038】【0055】【0042】【0045】【0046】【0072】【0086】【0101】【0102】、製造例1~8、実施例1~13、表1~表4)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明の係る特許は取り消すべきものである。
エ 申立理由4(進歩性)
(ア)本件発明1、3~6及び8は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1、甲1及び甲3の組み合わせ、甲1及び甲4の組み合わせ、又は甲1及び周知技術(甲5~甲7)の組み合わせに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
(イ)本件発明2は、甲1及び甲4の組み合わせ、甲1、甲3及び甲4の組み合わせ、甲1及び甲4の組み合わせ、甲1、甲4及び周知技術の組み合わせから当業者が容易に想到できたものである。
(ウ)本件発明7は、甲1及び甲8の組み合わせ、甲1、甲3及び甲8の組み合わせ、甲1、甲4及び甲8の組み合わせ、甲1、甲8及び周知技術の組み合わせから当業者が容易に想到できたものである。
(2)証拠方法
甲1:国際公開第2022/107847号
甲2:製品案内、三協化学株式会社、令和6年8月21日(出力日)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートの沸点、https://www.sankyo-chem.com/product/glycol-ester/diethyleneglycol-monoetyl-ether-acetate/
甲3:特開平9-3399号公報
甲4:特開2022-135423号公報
甲5:特表2009-535214号公報
甲6:特開2018-134606号公報
甲7:特開2017-165812号公報
甲8:製品案内、三協化学株式会社、令和6年8月21日(出力日)、ブチルカルビトールアセテートの沸点,https://www.sankyo-chem.com/product/glycol-ester/diethyleneglycol-monobutyl-ether-acetate/
2 取消理由の概要
令和6年11月14日付けの取消理由通知書で通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
取消理由1(進歩性)本件発明1、3~6、8は本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、甲1に記載された発明並びに甲1、甲5及び甲6に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1~8に係る特許は、取り消すべきものである(申立理由4(ア)に相当)。
取消理由2(サポート要件)本件発明1~8において、「2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)」が1級水酸基を有する場合に、発明の詳細な説明に記載された発明ではないことから、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本件発明1~8に係る特許は、同法第36条第6項1号の規定を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消すべきものである(申立理由1の(エ)に相当)。
第5 甲号証の記載
甲1~甲8には、次の記載がある。
下線は合議体が付した。
1 甲1の記載
甲1には、次の記載がある。
「[請求項1] (A)酸価が0~30mgKOH/gの範囲内の水酸基含有アクリル樹脂、
(B)酸価が60~120mgKOH/gの範囲内の水酸基含有アクリル樹脂、及び
(C)ポリイソシアネート化合物を含有し、かつ、
塗装時の固形分が、50質量%以上であることを特徴とする高固形分塗料組成物。
[請求項2] 前記水酸基含有アクリル樹脂(A)の重量平均分子量が、3,000~10,000の範囲内である請求項1に記載の高固形分塗料組成物。
[請求項3] 前記水酸基含有アクリル樹脂(B)の重量平均分子量が、1,000~4,000の範囲内である請求項1又は2に記載の高固形分塗料組成物。
[請求項4] 前記水酸基含有アクリル樹脂(A)及び前記水酸基含有アクリル樹脂(B)の含有割合が、水酸基含有アクリル樹脂(A)/水酸基含有アクリル樹脂(B)の質量比で、99/1~70/30である請求項1~3のいずれか1項に記載の高固形分塗料組成物。
[請求項5] 前記高固形分塗料組成物が、さらに水酸基含有ポリエステル樹脂(D)を含有する請求項1~4のいずれか1項に記載の高固形分塗料組成物。
[請求項6] 下記の工程(1)~(3):
工程(1):被塗物上に、光輝性塗料組成物を塗装して、光輝性塗膜を形成する工程、
工程(2):工程(1)で得られる光輝性塗膜上に、請求項1~5のいずれか1項に記載の高固形分塗料組成物を塗装して、クリヤ塗膜を形成する工程、
工程(3):前記工程(1)及び(2)で形成される光輝性塗膜及びクリヤ塗膜を含む複層塗膜を加熱することによって、前記複層塗膜を同時に硬化させる工程、を含む複層塗膜形成方法。」
「[0009] 本発明は、耐モドリ性及び仕上がり外観に優れた塗膜を形成できる高固形分塗料組成物を提供することを課題とする。」
「[0014] <酸価が0~30mgKOH/gの範囲内の水酸基含有アクリル樹脂(A)>
水酸基含有アクリル樹脂(A)は、1分子中に少なくとも1個の水酸基を有し、かつ、0~30mgKOH/gの範囲内の酸価を有するアクリル樹脂である。・・・
[0016] 上記水酸基含有アクリル樹脂(A)は、例えば、水酸基含有重合性不飽和モノマー、酸基含有重合性不飽和モノマー及びその他の重合性不飽和モノマー(水酸基含有重合性不飽和モノマー及び酸基含有重合性不飽和モノマー以外の重合性不飽和モノマー)を共重合することにより得ることができる。・・・
[0018] 上記水酸基含有重合性不飽和モノマーとしては、本塗料のポットライフ及び形成される塗膜の仕上がり外観等の観点から、2級水酸基含有重合性不飽和モノマーを使用することが好ましい。
[0019] 上記2級水酸基含有重合性不飽和モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、・・・なかでも、形成される塗膜の仕上がり外観等の観点から、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートを好適に使用することができる。」
「[0036] 上記重合性不飽和モノマー混合物を共重合して水酸基含有アクリル樹脂(A)を得るための共重合方法としては、有機溶剤中にて、重合開始剤の存在下で重合を行なう溶液重合法を好適に使用することができる。
[0037] 上記溶液重合法に際して使用される有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、「スワゾール1000」(コスモ石油社製、商品名、高沸点石油系溶剤)等の芳香族系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピルプロピオネート、ブチルプロピオネート、1-メトキシ-2-プロピルアセテート、2-エトキシエチルプロピオネート、3-メトキシブチルアセテート、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン等のケトン系溶剤、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、2-エチルヘキサノール等のアルコール系溶剤等を挙げることができる。
[0038] これらの有機溶剤は、単独で又は2種以上を組合せて使用することができるが、アクリル樹脂の溶解性の点からエステル系溶剤、ケトン系溶剤を使用することが好ましい。また、さらに芳香族系溶剤を好適に組合せて使用することもできる。」
「[0042]<酸価が60~120mgKOH/gの範囲内の水酸基含有アクリル樹脂(B)>
水酸基含有アクリル樹脂(B)は、1分子中に少なくとも1個の水酸基を有し、かつ、60~120mgKOH/gの範囲内の酸価を有するアクリル樹脂である。・・・
[0045] 上記水酸基含有重合性不飽和モノマーとしては、例えば、前記水酸基含有アクリル樹脂(A)の説明欄に記載した水酸基含有重合性不飽和モノマーを使用することができ、なかでも、形成される塗膜の耐水性等の観点から、1級水酸基含有重合性不飽和モノマーを使用することが好ましい。
[0046] 上記1級水酸基含有重合性不飽和モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート・・・なかでも、形成される塗膜の耐水性等の観点から、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートを好適に使用することができる。」
「[0053] 上記重合性不飽和モノマー混合物を共重合して水酸基含有アクリル樹脂(B)を得るための共重合方法としては、有機溶剤中にて、重合開始剤の存在下で重合を行なう溶液重合法を好適に使用することができる。
[0054] 上記溶液重合法に際して使用される有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、「スワゾール1000」(コスモ石油社製、商品名、高沸点石油系溶剤)等の芳香族系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピルプロピオネート、ブチルプロピオネート、1-メトキシ-2-プロピルアセテート、2-エトキシエチルプロピオネート、3-メトキシブチルアセテート、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン等のケトン系溶剤、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、2-エチルヘキサノール等のアルコール系溶剤等を挙げることができる。
[0055] これらの有機溶剤は、単独で又は2種以上を組合せて使用することができるが、アクリル樹脂の溶解性の点からエステル系溶剤、ケトン系溶剤を使用することが好ましい。また、さらに芳香族系溶剤を好適に組合せて使用することもできる。」
「[0072] 本発明の高固形分塗料組成物は、塗装時の固形分が50質量%以上であることで、VOCが良好に低減される。なかでも、塗装時の固形分はVOC低減の観点から、53質量%以上であることが好ましく、55%質量以上であることがさらに好ましい。」
「[0102] 有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、「スワゾール1000」(コスモ石油(株)社製、商品名、高沸点石油系溶剤)等の芳香族系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピルプロピオネート、ブチルプロピオネート、1-メトキシ-2-プロピルアセテート、2-エトキシエチルプロピオネート、エチル-3-エトキシプロピオネート、3-メトキシブチルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン等のケトン系溶剤、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、2-エチルヘキサノール等のアルコール系溶剤等を挙げることができる。これらは、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。」(下線は合議体が付した。)
「[0113]<複層塗膜形成方法>
本塗料が上塗りトップクリヤコート塗料として塗装される複層塗膜形成方法と しては、例えば、下記の方法を好適に用いることができる。
下記の工程(1)~(3):
工程(1):被塗物上に、光輝性塗料組成物を塗装して、光輝性塗膜を形成する工程、
工程(2):工程(1)で得られる光輝性塗膜上に、本発明の高固形分塗料組成物を塗装して、クリヤ塗膜を形成する工程、
工程(3):前記工程(1)及び(2)で形成される光輝性塗膜及びクリヤ塗膜を含む複層塗膜を加熱することによって、前記複層塗膜を同時に硬化させる工程、を含む複層塗膜形成方法。
[0114] 上記被塗物としては、特に限定されるものではなく、例えば、乗用車、トラック、オートバイ、バスなどの自動車車体の外板部;自動車部品;携帯電話、オーディオ機器などの家庭電気製品の外板部などを挙げることができる。これらの内、自動車車体の外板部及び自動車部品が好ましい。」
「[0132]表1
[図:0001427958000001.jpg]
」
「[0135][表2]
[図:0001427958000002.jpg]
」
「[0139]<高固形分塗料組成物の製造>
実施例1
製造例1で得た水酸基含有アクリル樹脂(A-1)溶液76.9部(固形分50部)、製造例6で得た水酸基含有アクリル樹脂(B-2)溶液12.3部(固形分8部)、「SETALUX 61767 VX-60」(商品名、allnex社製、粘性調整剤、固形分60%)0.5部(固形分0.3部)及び「BYK-300」(商品名、ビックケミー社製、表面調整剤、有効成分52%)0.4部(固形分0.2部)を均一に混合した主剤と、硬化剤である「スミジュールN3300」(商品名、住化コベストロウレタン社製、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体、固形分含有率100%)42部とを、塗装直前に均一に混合し、さらに、酢酸ブチルを加えて、塗装時の固形分が58%となるように調整して、高固形分塗料組成物No.1を得た。
[0140] 実施例2~13及び比較例1~4
配合組成及び塗装時の固形分を下記の表3~5に示すものとする以外は、高固形分塗料組成物No.1と同様にして、各高固形分塗料組成物No.2~17を得た。なお表3~5に示す配合組成は、各成分の固形分質量による。
[0141] <試験板の作成>
前記[1]で作製した被塗物上に、「WBC-713T No.1F7」(商品名、関西ペイント社製、アクリル・メラミン樹脂系水性ベースコート塗料、シルバー塗色)を、回転霧化型の静電塗装機を用いて、乾燥膜厚で12μmとなるように静電塗装し、3分間放置後、80℃で5分間プレヒートを行ない、未硬化のベースコート塗膜を形成した。
次いで、該未硬化のベースコート塗膜上に、高固形分塗料組成物No.1を、回転霧化型の静電塗装機を用いて、乾燥膜厚で35μmとなるように静電塗装してクリヤコート塗膜を形成して、7分間放置した。次いで、140℃で30分間加熱して、中塗り塗膜、ベースコート塗膜及びクリヤコート塗膜を加熱硬化させることにより実施例1の試験板を作製した。
上記高固形分塗料組成物No.1の試験板の作製において、高固形分塗料組成物No.1をそれぞれ高固形分塗料組成物No.2~17のいずれかとする以外は、高固形分塗料組成物No.1の試験板の作製と同様にして実施例2~13、比較例1~4の試験板をそれぞれ作製した。
上記で得られた各試験板について、下記の試験方法により評価を行なった。評価結果を塗料組成と併せて表3~5に示す。
[0142] (試験方法)
仕上がり外観:Wave Scan(商品名、BYK Gardner社製)によって測定されるLong Wave(LW)値及びShort Wave(SW)値に基づいて、仕上がり外観を評価した。
[0143] LW値:平滑性の指標であり、LW値が小さいほど塗面の平滑性が高いことを示す。7以下を合格とする。
[0144] SW値:鮮映性の指標であり、SW値が小さいほど塗面の鮮映性が高いことを示す。1~8以下を合格とする。
[0145] 耐モドリ性:多角度分光光度計「MA-68II」(商品名、X-Rite社製)を用いて、受光角15°及び受光角110°のL値(明度)を測定し、下記の式によってフリップフロップ値を求め、耐モドリ性の指標とした。フリップフロップ値が高いほど、アルミニウムの配向が良好であり、耐モドリ性に優れていることを表す。86以上を合格とする。
フリップフロップ値=受光角15°のL値-受光角110°のL値
[0146][表3]
[図:0001427958000003.jpg]
」
2 甲2の記載
甲2には、次の記載がある。
「ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートの沸点が217.4℃であること。」
3 甲3の記載
甲3には、次の記載がある。
「【請求項1】硬化に際して互いに反応性であってウレタン結合を形成する2成分を含んでなる硬化性塗料組成物であって、上記組成物が1つまたはそれより多いエポキシ基を含む第3成分をさらに含んでなる硬化性塗料組成物。
・・・
【請求項3】互いに反応性であってウレタン結合を形成する上記2成分が下記(A)および(B)である、請求項1に記載の硬化性塗料組成物。
(A)1群の活性水素基を含んでなる成分、および
(B)1群のイソシアネート基を含んでなる成分。
・・・
【請求項5】上記成分(A)がアクリル樹脂である、請求項3に記載の硬化性塗料組成物。」
「【0051】本発明の実施に際して用いる塗料組成物中には溶剤が任意に利用される。本発明の組成物は、例えば実質的固形の粉末状または分散体として利用できるが、この組成物を実質的に液状として使用するのが望ましい場合が多く、この目的は溶剤を使用して達成できる。この溶剤は組成物中の全ての成分に対して溶剤として機能するものでなければならない。一般に、この溶剤は各種成分の溶解特性に応じて有機溶剤および/または水から任意に選択できる。好ましい1実施態様における上記溶剤は極性有機溶剤であり、一層好ましくは極性脂肪族溶剤または極性芳香族溶剤である。なお一層好ましい溶剤としては、ケトン、エステル、アセテート、非プロトン性アミド、非プロトン性スルホキシド、または非プロトン性アミンが挙げられる。有用な溶剤の例中には、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、m-アミルアセテート、エチレングリコールブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、キシレン、N-メチルピロリドン、または芳香族炭化水素類の混合物が包含される。他の好ましい一実施態様における上記溶剤は水または水と少量の補助溶剤との混合物である。」
「【0054】この塗料組成物は公知の多数の塗装手法を用いて物品上に被覆することができる。これらの手法中には、例えばスプレー塗装、ディップ塗装、ローラー塗装、カーテン塗装、およびその他が包含される。自動車車体パネルの場合にはスプレー塗装が好ましい。
【0055】本発明の第2の態様によれば、工程(1)および工程(3)における塗料組成物は基質上に公知の多数の手段で被覆できる。これらの手段の例中には例えばスプレー塗装、ディップ塗装、ローラー塗装、カーテン塗装およびその他が包含される。基質としては、下塗り済みもしくは下塗りなしのスチールもしくは他の金属、ガラス、木材、またはプラスチックが挙げられる。この基質が自動車車体パネルである場合にはスプレー塗装が好ましい。」
「【0072】調製例4
次の処方により組成物を調製した。
成分 重量部
ヒドロキシ官能アクリル樹脂3 135.34
TinuvinR 1130 UVA 4.96
TinuvinR 123 HALS 2.36
5% BYKR 320 溶液 6.05
ブチルセロソルブアセテート 14.14
ジイソブチルケトン 7.85
ブチルカービトールアセテート 13.64
3 重量平均分子量約4000、ヒドロキシ当量約310のアクリル樹脂、このヒドロキシ官能価源はヒドロキシプロピルメタアクリレート由来のポリマー繰り返し単位である。」
「【0076】調製例8
次の処方により組成物を調製した。
成分重量部
イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート 97.79
ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート 35.06
ジイソブチルケトン 21.66
【0077】例2
調製例4、調製例5、調製例6、および調製例7の塗料組成物を2Kクリアーコート組成物の成分”A”として用い、かつ成分”B”として調製例8を組み合わせ、ヒドロキシ官能アリル樹脂およびメラミン樹脂架橋剤を利用した黒色ベースーコートを有するベース/クリアーコート複合塗膜中のクリアーコートとして、下塗りしたスチール製パネル上に塗布した。これらのパネルは129℃で20分間硬化させ、冷却し、さらに次の試験にかけた。
【0078】次いでこれらのパネルを実施例1に記載のようなICA IIIおよびICA IV試験にかけた。この際例1に類似のベースコートを用い、かつ第2ベース/クリアーコートのクリアーコート用には調製例4と同じクリアーコートを用いた。結果は表IIに示す通りである。
表II
調製試料 ICA III ICA IV
4+8(比較) 不合格 不合格
5+8(発明) 合格 不合格
6+8(発明) 合格 不合格
7+8(発明) 合格 合格」
4 甲4の記載
甲4には、次の記載がある。
「【請求項 1】水酸基含有アクリル樹脂(A)、水酸基含有アクリル樹脂(B)、多官能イソシアネート化合物(C)およびアミノプラスト樹脂(D)を含有するクリヤー塗料組成物であって、
前記水酸基含有アクリル樹脂(A)が、ガラス転移温度20~35℃、水酸基価100~200mgKOH/g、溶解性パラメータ9.5~11.5および脂環式(メタ)アクリレートを水酸基含有アクリル樹脂(A)の固形分全量に対して20~40質量%の量で含み、
前記水酸基含有アクリル樹脂(B)が、ガラス転移温度15~30℃、水酸基価150~250mgKOH/gおよび溶解性パラメータ10.5~12.5を有し、
前記水酸基含有アクリル樹脂(A)の溶解性パラメータが前記水酸基含有アクリル樹脂(B)の溶解性パラメータよりも低く、かつ、その差が0.5以上であり、
上記アミノプラスト樹脂(D)以外の全水酸基含有樹脂(X)の水酸基当量(α)と上記多官能イソシアネート化合物(C)のイソシアネート当量(β)の比率が、下記式(1)
1.20>β/α>0.80:式(1)
を満足し、かつ、
上記多官能イソシアネート化合物(C)および上記アミノプラスト樹脂(D)の固形分質量比率(Mc、Md)が、下記式(2)
8.0>Mc/Md>1.0:式(2)
を満足することを特徴とする、クリヤー塗料組成物。」
「【請求項 6】被塗装物に対して中塗り塗料組成物を塗布して、さらに得られた中塗り未硬化塗膜の上にベース塗料組成物を塗布してベース未硬化塗膜を得た後、請求項1~5のいずれか1項に記載のクリヤー塗料組成物を塗布してクリヤー未硬化塗膜を得、
前記中塗り未硬化塗膜、ベース未硬化塗膜及びクリヤー未硬化塗膜を同時に加熱して硬化させることを特徴とする複層塗膜の形成方法。」
「【0001】本発明は、クリヤー塗料組成物、特に自動車の表面に塗布するのに適したクリヤー塗料組成物およびそれを用いる複層塗膜の形成方法に関する。」
「【0046】[クリヤー塗料組成物]
クリヤー塗料組成物は、水系であってよく、有機溶剤系であってもよい。
有機溶剤として、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、安息香酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル等のエステル類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3-メトキシブチルアセテート等のグリコールエーテル類;芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類等が挙げられる。」
「【0074】製造例1 水酸基含有アクリル樹脂(a)の製造
攪拌機、温度制御装置、還流冷却器を備えた容器に、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート42.8gを仕込み、120℃に昇温させた。次に下記組成の単量体混合物(スチレン4.5部、メタクリル酸エチルヘキシル42.3部、メタクリル酸イソボロニル20.0部、メタクリル酸Sラウリル9部、メタクリル酸ヒドロキシエチル23.2部およびメタクリル酸1.0部)、そしてカヤエステルO 9.4部およびプロピレングリコールメチルエーテルアセテート9.0部を3時間かけて平行滴下させた後30分間放置し、カヤエステルO 0.5部、酢酸ブチル4部の溶液を1時間かけて滴下し、反応溶液を30分攪拌し樹脂への変化率を上昇させた後、反応を終了させ、固形分62.4%、数平均分子量2500、水酸基価100mg/KOH、酸価6.5mg/KOH、SP値9.6、Tg20℃である、水酸基含有アクリル樹脂(a)を得た。」
「【0087】製造例14 水酸基含有アクリル樹脂(n)の製造
単量体混合物の組成をスチレン15部、アクリル酸エチルへキシル0.95部、メタクリル酸メチル30.3部、アクリル酸ヒドロキシエチル51.75部及びメタクリル酸2.0部に変更した以外は製造例1と同様に実施し、固形分62.4%、数平均分子量3000、水酸基価250mg/KOH、酸価13.0mg/KOH、SP値12.41、Tg30℃である、水酸基含有アクリル樹脂(n)を得た。」
「【0097】 実施例1
クリヤー塗料組成物の調製
1Lの金属製容器に、製造例1の水酸基含有アクリル樹脂(a)を樹脂固形分で60.0部、製造例14の水酸基含有アクリル樹脂(n)を固形分で2部、アミノプラスト樹脂LUWIPAL01~8(BASF社から市販)を固形分で10部、チバガイギー社製紫外線吸収剤「チヌビン384」1.4部、チバガイギー社製光安定剤「チヌビン123」1.4部、アクリル系表面調整剤1.4部、メチルアミルケトン57.0部およびジブチルエーテル(昭栄ケミカル社製)22.0部、無機微粒子1~8部を順次添加し、ディスパーにて十分撹拌し、2液型クリヤー塗料組成物の主剤を得た。
【0098】 別の金属製容器に、住友バイエルウレタン社製「ディスモジュールN-3300」(NCO有効成分22%)固形分で40.0部および2-エチルエトキシプロパノールを順次添加し、十分撹拌し、2液型クリヤー塗料組成物の硬化剤を得た。
【0099】 塗膜形成
リン酸亜鉛処理した150×300×0.8mmのダル鋼板に、パワーニックス1010(日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製カチオン電着塗料)及びオルガP-30(日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製中塗り塗料)をそれぞれ乾燥膜厚20μm及び40μmとなるように塗装した試験板に、AR-3020ブラック(日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製水性ベース塗料)を乾燥膜厚が15μmとなるようにエアースプレー塗装し、80℃で5分間乾燥させることにより未硬化ベース塗膜を形成した。【0100】 その上に、上記クリヤー主剤と硬化剤を混合した混合物を、酢酸ノルマルブチル/3-エトキシプロピオン酸エチル=1/2(質量比)からなるシンナーによってNo.4フォードカップで30秒/20℃となるように希釈した。このようにして作製した二液混合クリヤー塗料組成物を、乾燥膜厚が40μmとなるようにエアースプレー塗装して未硬化クリヤー塗膜を形成し、7分間セッティング後、140℃で25分間焼き付け硬化させ、複層塗膜を形成した。」
5 甲5の記載
甲5には、次の記載がある。
「【請求項1】
(a)セルロースアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートブチレート、セルロースブチレート、セルローストリブチレート、セルロースプロピオネート、セルローストリプロピオネート、セルロースアセテートプロピオネート、カルボキシメチルセルロースアセテート、カルボキシメチルセルロースアセテートプロピオネート、カルボキシメチルセルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートブチレートサクシネート、またはこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種のセルロースエステル;および(b)アルコール、エステル、ケトン、グリコールエーテル、グリコールエーテルエステル、またはこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の有機溶媒を含むコーティング組成物を表面に適用すること、ならびに、前記コーティング組成物を硬化させて実質的に平滑かつ非多孔性の水不溶性親水性コーティングを与えることを含む、水中表面上の汚れを抑制する方法。」
「【0032】
本発明のコーティング組成物は、水不溶性の親水性コーティングの実質的に平滑で非多孔性の表面を与えることが更に必要である。」
「【0034】
好適には、本発明に従って使用するために任意の有機溶媒が好適である。しかし、本明細書で説明する種類の溶媒系コーティングについては、コーティング表面の質は、コーティング組成物の1種または複数種の溶媒成分の選択に顕著に影響される。溶媒の蒸発速度は、コーティング組成物が流れる機会および量を有し、それにより実質的に平滑で非多孔性の水不溶性の親水性コーティングが得られるように十分に遅くなければならない。合理的な量の時間で、コートされた構造物の取扱いおよび/または供給を可能にするのに十分に、溶媒が迅速に蒸発することもまた重要である。一態様において、アルコール、エステル、ケトン、グリコールエーテル、またはグリコールエーテルエステルからなる群から選択される溶媒は特に有用である。典型的には、溶媒は、組成物の総質量基準で30質量%から85質量%の量で含まれることができる。
【0035】
適切な蒸発速度を得るため、およびコーティング組成物のセルロースエステル成分に適切な溶解性を与えるために、コーティング組成物が、少なくとも1種の第1の溶媒(蒸発が遅い溶媒)と少なくとも1種の第2の溶媒(蒸発が速い溶媒)との混合物である溶媒を含むことが更なる態様である。1種または複数種の第1の溶媒は、環境圧力での沸点130℃から230℃によって特性化される。例示的な第1の溶媒としては、これらに限定するものではないが、2-エチルヘキサノール、ジアセトンアルコール、メチルアミルケトン、メチルイソアミルケトン、イソブチルイソブチレート、2-エチルヘキシルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコール2-エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、またはプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが挙げられる。1種または複数種の第2の溶媒は、環境圧力での沸点60℃から130℃によって特性化される。例示的な第2の溶媒としては、これらに限定するものではないが、メタノ
ール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアセテート、エチルアセテート、n-プロピルアセテート、イソプロピルアセテート、n-ブチルアセテート、t-ブチルアセテート、n-プロピルプロピオネート、またはプロピレングリコールモノメチルエーテルが挙げられる。一態様において、1種または複数種の第1の溶媒は、溶媒混合物の総質量基準で50質量%から90質量%の量で含まれることができる。更なる態様において、1種または複数種の第2の溶媒は、溶媒混合物の総質量基準で50質量%以下の量で含まれることができる。」
6 甲6の記載
甲6には、次の記載がある。
「【請求項1】
対象物に塗料組成物を用いて第一の塗膜を形成し、前記第一の塗膜上に第二の塗膜を形成する塗膜形成方法であって、前記塗料組成物は、
(A)樹脂材料と添加剤とを含む固形分と、
(B)30~70重量%の溶媒成分と、を含有し、
前記溶媒成分(B)の全体に占める、(i)酢酸ブチルを基準1とする蒸発速度が0.5以上である高揮発性溶媒成分の含有割合が70~98重量%であり、(ii)酢酸ブチルを基準1とする蒸発速度が0.5未満である低揮発性溶媒成分の含有割合が2~30重量%であることを特徴とする塗膜形成方法。」
「【請求項6】
前記低揮発性溶媒成分(ii)として、ノナン、デカン、ウンデカン、クメン、ジプロピルベンゼン、オクタノール、2-オクタノール、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジブチルイソブチルケトン、4-ヒドロキシー4-メチルペンタノン、1-メトキシ-2-プロピルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートからなる群から選ばれる少なくとも一を用いて、前記第一の層を形成することを特徴とする請求項1に記載の塗膜形成方法。
【請求項7】
前記樹脂材料として、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂又はエポキシ樹脂を含有する塗料組成物を用いて、前記第一の層を形成することを特徴とする請求項1に記載の塗膜形成方法。」
「【0008】
本発明によれば、外観の良好な塗膜を、低コストで短時間に形成できる塗膜形成方法を実現することができる。」
「【0025】
溶媒成分(B)を100重量%としたとき、溶媒成分(B)に占める高揮発性溶媒成分(i)の割合が70重量%未満である場合、低揮発性溶媒成分(ii)の溶媒成分(B)全体に占める割合が15重量%以上となるため、溶媒成分(B)の蒸発速度が遅くなり、乾燥処理に長時間を要する。一方、溶媒成分(B)を100重量%としたとき、溶媒成分(B)に占める高揮発性溶媒成分(i)の割合が85重量%を超えると、乾燥速度が速くなりすぎてサフェーサ層4における残留応力が高くなり、割れ等の不具合を生ずることがある。・・・
【0027】
高揮発性溶媒成分(i)としては、ヘキサン、オクタン、イソオクタン、シクロヘキサン等の飽和炭化水素、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素、エタノール、ブタノール、ヘキサノール等のアルコール類、ジブチルエーテル、ジプロピルエーテル等のエーテル類、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等のエステル類等の化合物が挙げられるが、これに限定されるものでは無い。
【0028】
また、低揮発性溶媒成分(ii)としては、ノナン、デカン、ウンデカン等の飽和炭化水素、クメン、ジプロピルベンゼン等の芳香族炭化水素、オクタノール、2-オクタノール等のアルコール類、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル類、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジブチルイソブチルケトン、4-ヒドロキシー4-メチルペンタノン等のケトン類、1-メトキシ-2-プロピルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル類等の化合物やナフサ等が挙げられるが、これに限定されるものでは無い。」
7 甲7の記載
甲7には、次の記載がある。
「【請求項 1】
水酸基含有フッ素樹脂およびイソシアネート系硬化剤を含む樹脂組成物と、ポリエステル樹脂とを含み、前記ポリエステル樹脂は、ガラス転移点が-70~-30℃であり、かつ、水酸基価が100~300mgKOH/gであり、前記樹脂組成物の樹脂固形分100質量部当たり、1~30質量部含まれる、コーティング組成物。
・・・
【請求項 3】
5~20質量%のシクロヘキサノンと、10~50質量%のジイソブチルケトンとを含む溶剤をさらに含む、請求項1または2記載のコーティング組成物。」
8 甲8の記載
甲8には、次の記載がある。
「ブチルカルビトールアセテートの沸点が246.8℃である。」
第6 合議体における判断
1 取消理由通知に記載した取消理由1(進歩性欠如)について
(1) 甲1に記載された発明
甲1に記載された、クリヤ塗膜用組成物について(甲1の請求項1~6、段落0009)、甲1の段落0132の表1、段落0135の表2、段落0139~段落0141の記載に着目して、段落0146の記載、実施例1に基づいて整理すると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲1発明>
「水酸基含有アクリル樹脂(A-1)(アクリル酸、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、スチレン、イソブチルメタクリレートからなり、酸価5.5mgKOH/g、重量平均分子量7,500であるアクリル樹脂)溶液76.9部(固形分50部)、水酸基含有アクリル樹脂(B-2)(アクリル酸、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、イソブチルアクリレートからなり、酸価89.6mgKOH/g、重量平均分子量3,500)溶液12.3部(固形分8部)、「SETALUX 61767 VX-60」(商品名、allnex社製、粘性調整剤、固形分60%)0.5部(固形分0.3部)及び「BYK-300」(商品名、ビックケミー社製、表面調整剤、有効成分52%)0.4部(固形分0.2部)を混合した主剤と、硬化剤である「スミジュールN3300」(商品名、住化コベストロウレタン社製、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体、固形分含有率100%)42部とを、塗装直前に混合し、さらに、酢酸ブチルを加えて、塗装時の固形分が58%となるように調整して得た、高固形分塗料組成物からなるクリヤ塗膜用組成物」
(2) 本件発明1
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「水酸基含有アクリル樹脂(A-1)」は2-ヒドロキシプロピルアクリレートを含み、重量平均分子量7,500であるから、本件発明1の「重量平均分子量が6,000以上」であり「水酸基として2級水酸基のみを含有」する「2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)」に相当する。
甲1発明の「水酸基含有アクリル樹脂(B-2)」は、2-ヒドロキシエチルメタクリレートを含み、重量平均分子量3,500であるから、本件発明1の「重量平均分子量が6,000以下」である「1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)」に相当する。
甲1発明の「スミジュールN3300」は、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体であるから、本件発明1の「ポリイソシアネート化合物(B)」に相当する。
甲1発明の「酢酸ブチル」は本件発明1の「(C)有機溶媒」に相当する。
甲1発明の「塗装時の固形分が58%」は、本件発明1の「塗装時の固形分濃度が55質量%以上」に相当する。
甲1発明の「クリヤ塗膜用組成物」は、本件発明1の「クリヤー塗料組成物」に相当する。
してみれば、本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「水酸基含有アクリル樹脂(A)と、
ポリイソシアネート化合物(B)と、
有機溶媒(C)と、を含み、
前記水酸基含有アクリル樹脂(A)は、1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)および2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)を含み、
前記1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)は、重量平均分子量が6,000以下であり、
前記2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)は、重量平均分子量が6,000以上であり、かつ、水酸基として2級水酸基のみを含有し、
塗装時の固形分濃度が55質量%以上である、クリヤー塗料組成物。」
<相違点1>
有機溶媒(C)が、本件発明1では、炭素数7以上のケトン化合物(C1)と、沸点が200℃以上の、モノカルボン酸エステル、二塩基性エステル化合物、セロソルブおよびカルビトールよりなる群から選択される少なくとも1種を含むものであるのに対し、甲1発明では、酢酸ブチル(低沸点のモノカルボン酸エステル)のみである点
イ 相違点1について検討する。
甲1の【0102】には、酢酸ブチルと並んで様々な有機溶剤が例示されており、例示の中には、酢酸ブチルと同じくエステル系溶剤であるジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等、ケトン系溶剤であるメチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン等が含まれている。ここで、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートはモノカルボン酸エステルに該当し、甲2には当該化合物の沸点が217.4℃であることが記載されている。また、甲1の【0102】には、有機溶剤に関し「これらは、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる」とも記載されている。しかしながら、甲1には、好適な有機溶剤や好適な組合せについて何ら記載も示唆もされていないところ、甲1の記載のみから、甲1発明において、溶剤である酢酸ブチルを、酢酸ブチルを同じくエステル系溶剤であるものの、沸点が200℃以上であるジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートと、ケトン系溶剤のメチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン等との組み合わせに転換することが動機付けられるものではない。
甲5及び甲6には、塗膜形成組成物に用いる有機溶媒として、蒸発速度が速い高揮発性溶媒成分に、蒸発速度が遅い低揮発性溶媒成分を組み合わせることで、乾燥速度が速くなりすぎず、塗膜表面が改善する(具体的には平滑性が改善され、割れ等の不具合がない)こと、さらに、蒸発速度が遅い低揮発性溶媒成分としてメチルアミルケトン、メチルイソアミルケトン(甲5の段落0035)、ジイソブチルケトン(甲6の段落0028)、蒸発速度が速い高揮発性溶媒成分としてn-ブチルアセテート(酢酸ブチル)(甲5の段落0035、甲6の段落0027)を用いることが記載されているところ、甲1発明において、高揮発性溶媒である酢酸ブチルに、低揮発性溶媒であるメチルアミルケトン、メチルイソアミルケトン、ジイソブチルケトンを追加して、外観(平滑性)を改善することは動機付けられるとしても、さらに甲1に多数例示されている有機溶剤の中からジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートを選択し、組み合わせようとすることまでが動機付けられるものではない。
甲3には、塗料組成物を調製した実施例として、調製例4において製造された、ブチルセロソルブアセテート 14.14部、ジイソブチルケトン 7.85部、ブチルカービトールアセテート 13.64部を含むヒドロキシ官能アクリル樹脂と(【0072】)、調製例8において製造された、ジイソブチルケトン21.66部を含むイソシアヌレート(【0076】)とから製造された、例2のクリアコート組成物が記載されており、ここで、ブチルカービトールアセテートは沸点が246.8℃のモノカルボン酸エステルであるものの(要すれば、甲8参照)、このクリアコート組成物は、ICA III試験、ICA IV試験(いずれも中塗り密着性)に不合格であったこと、すなわち比較例に相当するものに過ぎないことも記載されており、このような甲3の記載に基づき、甲1発明において、溶剤として、ジイソブチルケトン等のケトン化合物とブチルカービトールアセテート等の沸点が200℃以上のモノカルボン酸エステルとを組み合わせて用いることが動機付けられるものではない。
そうすると、甲1発明において、溶媒としての酢酸ブチルに換えて、上記ケトンと沸点200℃以上の溶媒を組み合わせることは、当業者が容易に想到し得たものではない。
ウ 効果について検討するに、本件明細書【0066】には、「ケトン化合物(C1)とともに、沸点が200℃以上の有機溶媒を含んでよい。これにより、得られる塗膜の外観がさらに向上し得る。・・・」と記載されており、全ての実施例において、沸点200℃の(C2)「DBE二塩基性エステル」を用いている場合はいずれも塗膜平滑性が優れる結果となっていることからも、本件発明1は、甲1、甲3、甲5、甲6の記載や当業者の技術常識からは予測できない、有利な効果を奏するものと認められる。
エ 小括
したがって、本件発明1は、甲1発明、甲1、甲3、甲5、甲6に記載の事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものではない。
(3) 本件発明2
ア 本件発明2と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「水酸基含有アクリル樹脂(A-1)」は2-ヒドロキシプロピルアクリレートを含み、重量平均分子量7,500であるから、本件発明2の「重量平均分子量が6,000以上」であり、「水酸基として2級水酸基のみを含有」するから、「2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)」に相当する。
甲1発明の「水酸基含有アクリル樹脂(B-2)」は、2-ヒドロキシエチルメタクリレートを含み、重量平均分子量3,500であるから、本件発明2の「重量平均分子量が6,000以下」である「1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)」に相当する。
甲1発明の「スミジュールN3300」は、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体であるから、本件発明2の「ポリイソシアネート化合物(B)」に相当する。
甲1発明の「酢酸ブチル」は本件発明2の「(C)有機溶媒」に相当する。
甲1発明の「塗装時の固形分が58%」は、本件発明2の「塗装時の固形分濃度が55質量%以上」に相当する。
甲1発明の「クリヤ塗膜用組成物」は、本件発明2の「クリヤー塗料組成物」に相当する。
してみれば、本件発明2と甲1発明の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「水酸基含有アクリル樹脂(A)と、
ポリイソシアネート化合物(B)と、
有機溶媒(C)と、を含み、
前記水酸基含有アクリル樹脂(A)は、1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)
および2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)を含み、
前記1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)は、重量平均分子量が6,000以下であり、かつ、水酸基として2級水酸基のみを含有し、
前記2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)は、重量平均分子量が6,000以上であり、
塗装時の固形分濃度が55質量%以上である、クリヤー塗料組成物。」
<相違点2-1>
有機溶媒(C)が、本件発明2では、炭素数7以上のケトン化合物(C1)を含むのに対し、甲1発明では、酢酸ブチルのみである点
<相違点2-2>
本件発明2では、1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)の酸価が0mgKOH/g以上40mgKOH/gであると規定されているのに対し、甲1発明では、A1に該当する「水酸基含有アクリル樹脂(B-2)」の酸価が89.6mgKOH/gである点
イ 相違点2-2について検討する。
甲1発明の「水酸基含有アクリル樹脂(B-2)」は請求項1、3の「水酸基含有アクリル樹脂(B)」の具体例であり、当該(B)について、甲1の請求項1には、「酸価が60~120mgKOH/g」であると規定しているのであるから、甲1発明の前記(B-2)において酸価を0mgKOH/g以上40mgKOH/gにすることは、当業者が想到し得たといえるものではない。
ウ 申立人は、申立書68頁~69頁において、「甲第4号証に係るクリヤー塗料組成物は、その請求項1に記載されるように、2種の水酸基含有アクリル樹脂(水酸基含有アクリル樹脂(A)及び水酸基含有アクリル樹脂(B))と、多官能イソシアネート化合物(C)とを含む点、請求項6に記載されるように、上記クリヤー塗料組成物が、ベース未硬化塗膜の上に塗工される点、段落【0001】に記載されるように、クリアー塗料組成物が、自動車の表面に塗布される点で、本件特許発明と共通している。次いで、甲第4号証の製造例1~13(段落【0074】~段落【0086】)では、水酸基含有アクリル樹脂(A)に該当する水酸基含有アクリル樹脂(a)~水酸基含有アクリル樹脂(m)が製造され、同製造例14~23(段落【0087】~段落【0096】)では、水酸基含有アクリル樹脂(B)に該当する水酸基含有アクリル樹脂(n)~水酸基含有アクリル樹脂(w)が製造されている。製造例1~13では、水酸基含有アクリル樹脂(A)に該当する水酸基含有アクリル樹脂(a)~水酸基含有アクリル樹脂(m)は、1級水酸基を有するとともに、1.0~13.0mgKOH/gの酸価を有しており、製造例14~23では、水酸基含有アクリル樹脂(B)に該当する水酸基含有アクリル樹脂(n)~水酸基含有アクリル樹脂(w)は、1級水酸基を有するとともに、6.5~13.0mgKOH/gの酸価を有している。そうすると、甲第1号証及び甲第4号証は、自動車の塗装に関する技術分野の同一性に基づいて、当業者は、甲第4号証における水酸基アクリル含有樹脂の酸価を、甲第1号証に適用することに容易に想到するものと思料する。」と主張する。
しかしながら、甲1における発明の課題は「耐モドリ性及び仕上がり外観に優れた塗膜を形成」することであるのに対し([0009])、甲4における発明の課題は「高い耐薬品性やドライ擦り傷性を有」することである(【0006】)のであるから、甲1において、甲4の技術を採用する動機付けがないから、上記申立人の主張は採用できるものではない。
ウ 小括
したがって、相違点2-1について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1発明、甲1、甲4、甲5、甲6に記載の事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものではない。
(4) 本件発明3~7
本件発明3~7は、請求項1または請求項2の直接の引用形式で記載されるものであり、さらに特定事項を付加するものであるから、前記(2)(3)と同様の理由から、甲1発明、甲1、甲3、甲5、甲6に記載の事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものではないし、甲1発明、甲1、甲4、甲5、甲6に記載の事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。
(5) 本件発明8
本件発明8は、本件発明1または本件発明2に係るクリアー塗料組成物を必須の構成として含む塗装物品の製造方法に係る発明であるから、前記(2)(3)と同様の理由から、甲1発明及び甲1、甲3、甲5、甲6に記載の事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものではないし、甲1発明及び甲1、甲4、甲5、甲6に記載の事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。
2 取消理由通知に記載された取消理由2(サポート要件)について
取消理由2は、上記「第4 3」で述べたとおり、本件発明1~8において、「2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)」が1級水酸基を有する場合に、発明の詳細な説明に記載された発明ではない、というものである。
この点に関し、本件訂正により、本件発明1、本件発明2、本件発明8の「2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)」について「水酸基として2級水酸基のみを含有」すると訂正された。これにより、上記の取消理由は解消された。
よって、取消理由2(申立理由1の(エ)に相当)によっては、本件発明1~8に係る特許を取り消すことはできない。
第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立理由1(サポート要件)の(ア)~(ウ)、(オ)について
(1) 前提
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と本件明細書の発明の詳細な説明(以下「発明の詳細な説明」という。)の記載を対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明の記載や示唆がなくとも、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
(2) 本件発明の課題
本件発明の課題は、本件特許の明細書の段落0007の記載からみて、「優れた耐色戻り性および外観を有する塗膜が得られるクリヤー塗料組成物と、このクリヤー塗料組成物を用いた塗装物品の製造方法とを提供すること」であると認める。
(3) 検討
ア (ア)(イ)(ウ)について
(ア)(イ)は上記「第4 1 (1)ア」で述べたように、本件発明1~8の「1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)」「2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)」の量が特定されていないため、課題を解決するための手段が請求項に反映されておらず、(ウ)は両者の重量平均分子量が同一又は近い場合には課題が解決できないとするものである(申立書39頁~43頁)。
本件明細書の段落【0018】~【0019】には、本件発明の効果のメカニズムとして、「【0018】すなわち、本開示によれば、反応性のより高い1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)の分子量が小さいため、反応速度が制御でき、かつ、クリヤー塗料組成物の粘度上昇を抑制することができる。よって、ポットライフが長くなるとともに、得られる塗膜の塗膜、性能および外観も向上する。塗膜の外観は、例えば、平滑性およびワキ(塗膜表面の小さな穴あるいは突起)の有無によって評価できる。【0019】一方、耐色戻り性の観点から、2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)としては、高分子量のものを使用する。・・・」と記載されており、段落【0032】には、「質量比(A1)/(A2)が前記の範囲であると、ポットライフ、塗膜性能および外観の向上と、耐色戻り性の向上とが、両立しやすい。」と記載されており、本件発明のクリヤー塗料組成物について、1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)、2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)を含めた各配合成分の具体例や配合割合が記載され、所望の外観、耐色戻り性が得られることが具体的に記載されている(実施例)。
このように発明の詳細な説明には、ポットライフ、塗膜性能および外観の観点から、1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)の分子量を適切に調整し、耐色戻り性の観点から、2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)の分子量を適切に調整し、A1とA2の配合割合も適切に調整すべきことが記載されていることを考慮すれば、1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)、2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)の量が特定されず、両者の重量平均分子量が同一又は近い場合を含む特定がされていることをもって、上記(2)の課題を解決できることを当業者が認識できないとはいえない。
イ (オ)について
(オ)は「第4 1 (1)ア」で述べたように、本件発明1~8の有機溶媒(C)中の、炭素数7以上のケトン化合物(C1)の量が少ない場合には課題が解決できないことから、課題を解決するための手段が請求項に反映されているといえないとするものである(申立書45頁~46頁)。
本件明細書の段落【0021】には、本件発明の効果のメカニズムとして、「【0021】ただし、固形分濃度が高い2液形の塗料組成物において、低分子量の1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)と高分子量の2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)とを併用するだけでは、得られる塗膜の外観を向上させることは難しい。固形分濃度が高いと、塗装時の粘度も高くなり易いためである。本開示では、有機溶媒(C)の少なくとも一部に、炭素数7以上のケトン化合物(C1)を用いる。これにより、高固形分濃度を有するクリヤー塗料組成物の塗装時の粘度を適切な範囲に制御することができる。その結果、得られる塗膜の外観が良好になる。」と記載されており、本件発明のクリヤー塗料組成物について、1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)、2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)、ケトン化合物(C1)を含めた各配合成分の具体例や配合割合が記載され、所望の外観、耐色戻り性が得られることが具体的に記載されている(実施例)。
このように発明の詳細な説明には、クリヤー塗料組成物の塗装時の粘度を適切に制御し、塗膜の外観を良好にする観点から、「炭素数7以上のケトン化合物(C1)」適切な範囲に制御すべきことが示唆されていることを考慮すれば、上記(2)の課題を解決できることを当業者が認識できないとはいえない。
(4) 特許異議申立人の主張
(ア)~(ウ)について、本件特許明細書の実施例では、1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)の量が少ない場合や、2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)の量が少ない場合や、両者の重量平均分子量が同じか近い場合に、優れた外観、耐戻り性に関する課題が解決できることは示されていないから、本件発明は、発明の詳細な説明に記載されていないと主張している。
また、(オ)について、本件特許明細書の実施例では、ケトン化合物(C1)を26部未満用いた場合に塗膜平滑性に優れることは示されていないから、本件発明は、発明の詳細な説明に記載されていないと主張している。
しかしながら、前記(3)ア及びイのとおり、当業者は、本件明細書の記載から、1級水酸基含有アクリル樹脂(A1)、2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)及びケトン化合物(C1)等と本件発明の課題の関係を理解できるから、本件発明においてそれぞれの含有量等で特定されていないことをもって、サポート要件を満たさないとはいえるものではない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
(5)小括
以上述べたとおり、本件発明1~8は、サポート要件を満たすものであるから、申立理由1の(ア)~(ウ)、(オ)には理由がない。
2 申立理由2(実施可能要件)について
(1)前提
本件発明1~7は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要し、本件発明8は、方法の発明であるところ、方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法の使用をすることができる程度の記載があることを要する。
(2)実施可能要件の判断
発明の詳細な説明には、本件発明1~8の各発明特定事項について、その技術的意義を含め具体的に記載されており、本件発明1~8を満たす実施例についても具体的に記載されている。したがって、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1~7を生産し、使用することができ、本件発明8を使用することができる程度の記載があるといえる。よって、本件発明1~8に関して、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足する。
(3)特許異議申立人の主張について
申立人は、本件発明1~8はサポート要件違反であるから、実施可能要件を充足しない旨主張している(申立書47頁~48頁)。
しかしながら、サポート要件と実施可能要件はその判断基準が異なるし、前記1のとおりサポート要件は充足しているのであるから、申立人の主張は採用できない。
したがって、申立理由2には理由がない。
3 申立理由3(新規性)について
(1)申立理由3は、第4 1(1)ウのとおり、甲1(請求項1、請求項3、【0014】【0018】【0036】【0038】【0055】【0042】【0045】【0046】【0072】【0086】【0101】【0102】、製造例1~8、実施例1~13、表1~表4)から、申立人が認定した甲1発明に基づいて新規性を主張するものである。
(2)甲1発明は、本件発明1及び本件発明8の「沸点が200℃以上のモノカルボン酸エステル~よりなる群から選択される少なくとも1種を含み」、本件発明2及び本件発明8の「1級水酸基含有アクリル油脂(A1)は・・・酸価が0mgKOH/g以上40mgKOH/g以下であり」を充足するものではないから、本件発明1、2、8が、甲1に記載された発明であるとはいえない。
本件発明3~7は、請求項1または請求項2の直接の引用形式で記載されるものであるから、本件発明1、2と同様である。
(3)特許異議申立人の主張
本件発明1(訂正前の請求項7に係る発明に相当する)について、甲1の段落【0102】には、有機溶剤の例として、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートが記載されており、その沸点は甲2に記載されているように217.4℃であるし、同【0102】には、有機溶剤に関し、「2種以上を組み合わせて使用することができる」と記載されているから、甲1には有機溶剤が、ケトンに加えて、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートを含むことが記載されている主張している。
しかしながら、甲1において実施例を持って具体的に開示されている溶媒は酢酸ブチルのみであり(前記第6 1 (1))、甲1に多数例示されている有機溶剤の一つとして記載されているからといって、多数の有機溶剤から選んだ2つの組み合わせ全てが甲1に実質的に記載されているとはいえるものではない。
よって、申立人の主張は採用できない。
4 申立理由4(進歩性)について
申立人はまた、第4 1(1)エのとおり、甲1を主引用例とし、進歩性欠如を主張するものである(申立書61頁~75頁)。
(1)申立人は本件発明1(訂正前の請求項7に係る発明に相当する)について、甲1の段落【0102】には、有機溶剤の例として、メチルアミルケトンやジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等が記載されており、甲2に記載されているように後者の沸点は217.4℃であるし、同【0102】には、有機溶剤に関し、「2種以上を組み合わせて使用することができる」と記載されているから、有機溶剤として、メチルアミルケトンに加えて、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートを採用することは当業者が容易に想到し得ると主張している(申立書61頁~64頁)。
しかしながら、甲1において実施例をもって具体的に開示されている溶媒は酢酸ブチルのみであり(前記第6 1 (1))、甲1にはメチルアルミケトン、多数例示されている有機溶剤の一つとして記載されているからといって、多数の有機溶剤から選んだ2つの組み合わせを採用することを当業者が容易に想到し得たとはいえないし、さらにそのような組み合わせにより本件発明の効果(塗膜平滑性)が奏されることが、当業者にとって予測し得たとはいえない。
(2)また申立人は、申立書63頁において「上記相違点1-1に関して、・・・炭素数にかかわらず、そしてケトン化合物にかかわらず、有機溶媒を加えれば、塗装時の粘度を適正な範囲に制御することができることは当然であり、塗装時の粘度を適正な範囲に制御すれば、塗膜の外観が良好になるのは当然である。また、本件特許明細書の段落【0021】には、「加えて、作業性も向上する。特定の理論に拘束されるものではないが、炭素数7以上のケトン化合物(C1)は、蒸発速度が比較的遅く(すなわち、沸点がある程度高く)、かつ、高分子量の2級水酸基含有アクリル樹脂(A2)を 良く分散できるためと考えられる。」ことが開示されているが、炭素数が大きくなれば蒸発速度が遅くなることは当然であるとともに、「高分子量の級水酸基含有アクリル樹脂(A2)を良く分散できる」ことは、甲第1号証の段落【0036】~【0038】、及び【0053】~【0055】に開示されている。・・・従って、炭素数7以上のケトン化合物(C1)に関する効果は、甲第1号証の内容から当業者が予測し得る範囲内のものであって、格別なものではない。」と主張している。
しかしながら、甲1の段落【0036】~【0038】、及び【0053】~【0055】は前記第5 1に記載されているとおり、ケトン化合物として、本願明細書の比較例2で用いられているメチルエチルケトン(MEK)も記載されており、本願明細書比較例2ではMEKを用いることで塗膜平滑性、耐ワキ性が劣る結果となることが開示されていることからすると、甲1において、ケトン化合物としてMEKではなくメチルアミルケトンを用いることで得られる効果は当業者といえども予測できないといえる。
(3)また申立人は、申立書64頁~65頁において、甲1に甲3を組み合わせることで本件発明とすることは当業者が容易になし得る事項であると主張している。
しかしながら、第5 3に記載したとおり甲3には、ジイソブチルケトンを用いた比較例(甲3の【0076】、表2)があるが、それを用いた実施例はなく、ジイソブチルケトンを用いることを積極的に動機づけられるとはいえないから、申立人の主張は採用できない。
(4)また申立人は、申立書65頁~66頁において、甲1に甲4を組み合わせることで本件発明とすることは当業者が容易になし得る事項であると主張している。
しかしながら、第5 4に記載したように、甲4には、特定の組成を有するクリヤー塗料組成物の有機溶媒にメチルアミルケトンを用いることが実施例をもって開示されているが、メチルアミルケトンを用いることで外観性等が改善されることについて記載も示唆もされていないのであるから、申立人の主張は採用できない。
(5)また申立人は、申立書66頁~67頁において、有機溶媒として炭素数7以上のケトン化合物を用いることは当該技術分野において周知技術(甲5~甲7に基づく)であるから、甲1に当該周知技術を組み合わせることで本件発明とすることは当業者が容易になし得る事項であると主張している。
しかしながら、甲5、6については、前記第5 5~6、第6 1で述べたとおりであるから、本件発明は、甲1発明、甲1、甲3、甲5、甲6に記載の事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものではない。
甲7については、前記第5 7に記載したとおり、水酸基含有フッ素樹脂及びイソシアネート系硬化剤とポリエステル樹脂を含むコーティング組成物における有機溶媒としてシクロヘキサノン5~20質量%のシクロヘキサノンと10~50質量%のジイソブチルケトンを含む溶剤を用いることが記載されているのみであるから、この記載をもとに、甲1におけるクリヤー塗料組成物の技術分野において、有機溶媒としてイソブチルケトンは周知といえるものではない。
よって、申立人の主張は採用できない。
第8 むすび
前記第6及び第7のとおり、本件特許の請求項1~8に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。さらに、他に本件特許の請求項1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700808