2023-700727
方向性電磁鋼板
- 審判番号
- 2023-700727
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-566457外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 7207436
- 請求日
- 2023年07月13日
- 審決日
- 2024年03月29日
- 公報発行日
- 2024年06月28日
- 結論
- 訂正認容
- 分類
- P1651.113-YAA(C22C) / P1651.121-YAA(C22C) / P1651.537-YAA(C22C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第126条第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 15項目
第1 手続の経緯
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特許第7207436号(以下、「本件特許」という。)の請求項1、2に係る特許についての出願は、2020年(令和 2年) 1月16日(優先権主張 平成31年 1月16日)を国際出願日とする出願(特願2020-566457号。以下、「本願」という。)であって、令和 5年 1月10日にその特許権の設定登録がなされ、同年 1月18日にその特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和 5年 7月13日付けで、特許異議申立人 前田 洋志(以下、「申立人」という。)により、本件特許の請求項1、2(全請求項)に係る特許に対して特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は、以下のとおりである。
6年 1月19日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提
出
なお、下記第2で述べるとおり、令和 6年 1月19日提出の訂正請求書による訂正は、実質的に一部の請求項の削除のみであり、特許法第120条の5第5項ただし書に規定される、「特許異議申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないと認められる特別の事情があるとき」といえるから、申立人に意見書を提出する機会を与えないこととした。
第2 訂正請求について
1 訂正請求の趣旨
令和 6年 1月19日になされた訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の趣旨は、特許第7207436号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2について訂正することを求める、というものである。
2 訂正の内容
本件訂正請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「前記観察領域に1μm以上の長さを有する針状介在物が存在しないことを特徴とする方向性電磁鋼板。」とあるのを、
「前記観察領域に1μm以上の長さを有する針状介在物が存在しないものであり、前記針状介在物に、3Al2O3・2SiO2で表されるムライトが含まれることを特徴とする方向性電磁鋼板。」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
3 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項1に係る訂正について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項1に係る訂正は、本件訂正前の請求項1における発明特定事項である「針状介在物」について、「前記針状介在物に、3Al2O3・2SiO2で表されるムライトが含まれる」とその化学組成を限定して特定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無について
訂正事項1に係る訂正は、本件訂正前の請求項2の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
上記アのとおり、訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(2)訂正事項2に係る訂正について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項2に係る訂正は、特許請求の範囲の請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無について
訂正事項2に係る訂正は、請求項2を削除する訂正であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
上記アのとおり、訂正事項2に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(3)独立特許要件について
本件特許異議の申立ては、本件訂正前の請求項1、2について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1、2に係る訂正後の請求項1、2に係る発明については、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
4 一群の請求項について
本件訂正前の請求項2は、請求項1の記載を引用するものであり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1、2は一群の請求項である。
そして、本件訂正請求は、一群の請求項ごとにされたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
5 訂正請求についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正は、上記第2で検討したとおり適法なものであるから、本件特許の請求項1、2に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」といい、総称して「本件発明」ともいう。)は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、下線は訂正箇所を示す。
【請求項1】
母材鋼板と張力絶縁被膜との間にフォルステライト系被膜が存在しない方向性電磁鋼板において、
前記母材鋼板は、化学組成として、質量%で、
C:0.085%以下、
S:0.003%以下、
N:0.0040%以下、
B:0.0005~0.0080%、
P:0~0.50%、
を含有し、残部がFe及び不純物からなり、
前記母材鋼板の圧延方向に直交する断面をみた場合に、前記母材鋼板の板厚方向において前記母材鋼板の表面から前記母材鋼板の内側に向かって10μmの長さを有し、且つ前記板厚方向に直交する方向に20mmの長さを有する領域を観察領域としたとき、前記観察領域に1μm以上の長さを有する針状介在物が存在しないものであり、
前記針状介在物に、3Al2O3・2SiO2で表されるムライトが含まれる
ことを特徴とする方向性電磁鋼板。
【請求項2】
(削 除)
第4 特許異議の申立ての理由及び取消理由の概要
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1 特許異議の申立ての理由の概要
申立人は、証拠方法として、後記する甲第1号証~甲第7号証を提出し、以下の申立理由1~4により、本件訂正前の請求項1、2に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。
(1)申立理由1(新規性)
本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(進歩性)
本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、甲第3、4号証に記載された事項及び甲第2、5~7号証に記載された技術常識に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(サポート要件)
ア 本願の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の実施例において、所望の効果が得られることが具体的に実証されているのは、B含有量が0.0015%以上の範囲のみであるから、B含有量が0.0015%未満の範囲は、サポート要件を満たさない。
よって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、本件訂正前の請求項1、2に係る発明について、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
イ 本件訂正前の請求項2に係る発明で規定する「針状介在物」が『ムライトを含む針状介在物』であると解釈すると、本件訂正前の請求項2に係る発明においては、『ムライトを含む針状介在物』は存在しない一方で、『ムライトを含まない針状介在物』の存在は許容される。しかし、本件明細書には、『ムライトを含まない針状介在物』が存在する具体例は何ら記載されていない。
よって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、本件訂正前の請求項2に係る発明について、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(4)申立理由4(明確性要件)
本件訂正前の請求項2に係る発明は、「前記針状介在物に、3Al2O3・2SiO2で表されるムライトが含まれる」ことを規定するが、本件訂正前の請求項2に係る発明が引用する本件発明1は、「針状介在物が存在しない」ものであり、存在しない針状介在物の組成をどのように特定するのか不明である。
よって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、本件訂正前の請求項2に係る発明について、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(5)証拠方法
2 令和 5年11月17日付けで通知した取消理由の概要
(1)取消理由1(進歩性)
取消理由1は、上記1(2)の申立理由2(進歩性)と同旨のものである。
第5 当審の判断
以下に述べるように、特許異議申立書に記載した申立理由及び当審から通知した取消理由によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
1 申立理由1、(新規性)、申立理由2(進歩性)、取消理由1(進歩性)
(1)甲第1号証の記載事項
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甲第1号証には、「鉄損の低い鏡面方向性珪素鋼板の製造方法」(発明の名称)に関し、以下の記載がある。なお、下線は当審が付与し、「・・・」は記載の省略を表すものであって、以下同様である。
ア 「【請求項1】 珪素鋼帯を、必要に応じて焼鈍し、1回もしくは中間焼鈍をはさむ2回以上の冷間圧延により最終板厚とし、次いで脱炭焼鈍、必要に応じて窒化処理を行った後、非水和性酸化物を主体とする焼鈍分離剤を塗布してコイルに巻き取り、しかる後に仕上げ焼鈍を行うことにより、鏡面方向性珪素鋼板を製造する方法において、仕上げ焼鈍直前の鋼板の片面あたりの酸素量(g/m2):〔O〕と、焼鈍分離剤中のアルカリ金属不純物の総和(重量%):〔A〕とが、下記の条件を満たすことを特徴とする鉄損の低い鏡面方向性珪素鋼板の製造方法。〔A〕>0.2×〔O〕・・・【請求項3】 重量比で続きを表示(全11行)Si:0.8~4.8%、酸可溶性Al:0.012~0.05%、N ≦0.01%、Mn:0.02~0.3%、S :0.005~0.040%を含有する珪素鋼帯を、1回もしくは中間焼鈍をはさむ2回以上の冷間圧延により最終板厚とし、次いで脱炭焼鈍を行った後、非水和性酸化物を主体とする焼鈍分離剤を塗布してコイルに巻き取り、しかる後に仕上げ焼鈍を行うことにより、鏡面方向性珪素鋼板を製造する方法において、仕上げ焼鈍直前の鋼板の片面あたりの酸素量(g/m2):〔O〕と、焼鈍分離剤中のアルカリ金属不純物の総和(重量%):〔A〕とが、下記の条件を満たすことを特徴とする鉄損の低い鏡面方向性珪素鋼板の製造方法。〔A〕>0.2×〔O〕・・・」
イ 「【0001】【産業上の利用分野】本発明は主として変圧器その他の電気機器等の鉄芯として利用される一方向性珪素鋼板の製造方法に関するものであり、特に、表面付近に析出物がない状態でかつ鏡面にすることにより、鉄損特性の向上を図ろうとするものである。」
ウ 「【0003】鉄損は渦電流損失による寄与とヒステリシス損失による寄与に分けて考えることができる。前者は鋼板の磁区幅の減少に伴って低下し、後者は磁壁移動の障害をなくすことによって低減できる。磁壁移動の障害となるものは鋼板表面の凹凸および鋼板中の析出物である。」
エ 「【0010】【発明が解決しようとする課題】本発明は、表面直下に析出物が存在せずかつ表面が鏡面を呈する鉄損の低い一方向性珪素鋼板を、従来の工程に準じ低コストで製造する方法、具体的には特開平6-256848号公報の方法において酸洗工程を採用せずに済む方法を開示するものである。」
オ 「【0014】内部酸化層の存在する脱炭焼鈍後の珪素鋼板に高純度で比較的粗粒のアルミナを塗布し、仕上げ焼鈍を行うと、表面酸化物皮膜のない一方向性珪素鋼板が得られるが、鏡面は呈さない。のみならず、図3(a)に示したように、表面直下に析出物の形成が認められる。【0015】この表面直下の析出物の化学的形態は、仕上げ焼鈍前の鋼板が酸可溶性Alを含有するか否かによる。すなわち、仕上げ焼鈍以前の工程において鋼板が酸可溶性Alを含有する場合には、図1(a)に示したX線回折結果により、この析出物がムライト(3Al2O3・2SiO2)である。一方、仕上げ焼鈍以前の工程において鋼板が酸可溶性Alを含まない場合には、表面層の電解抽出残渣の赤外線吸収スペクトル測定により、SiO2であることがわかった。【0016】これら仕上げ焼鈍後の綱板表面直下の析出物の形成量が脱炭焼鈍露点の上昇とともに増加することから、同析出物におけるSiO2成分の起源が脱炭焼鈍時に形成されたSiO2内部酸化層であると考えられる。一方、同析出物におけるAl2O3成分の起源は、焼鈍分離剤として使用したアルミナではなく、二次再結晶を制御するために鋼板に含有させた酸可溶性Alであると推定される。なぜならば、析出物が鋼板表面に露出していないからである。」
カ 「【0020】発明者等は焼鈍分離剤として種々のアルミナを用いた仕上げ焼鈍実験を行った。その結果、アルミナ中に不純物として含まれるNaが多い場合には、脱炭焼鈍酸化膜が存在しても鏡面化することを見いだした。さらに、図3(b)および図1(b)に示したように、表面が鏡面を呈する場合には表層直下の析出物が存在しないことが判明した。理由は不明であるが、Naの存在により、脱炭焼鈍時に形成されたSiO2の仕上げ焼鈍工程における還元が促進されたものと推定される。【0021】仕上げ焼鈍過程でSiO2の還元が容易に起これば、鋼板直下の析出物の残留、生成がなくなり、鏡面化が容易に進行する。したがってNa含有量の多いアルミナを焼鈍分離剤として用い、仕上げ焼鈍を行った場合は表面が鏡面を呈しかつ鋼板表層直下に析出物の存在しない一方向性珪素鋼板が得られる。【0022】次に、仕上げ焼鈍時の鋼板直下析出物の形成防止に必要な、焼鈍分離剤アルミナ中Na濃度を調査したところ、脱炭焼鈍時の酸素量に依存することがわかった。図2はアルミナ中Na濃度と仕上げ焼鈍後の鋼板直下析出物の発生状況を整理したものである。脱炭焼鈍板の酸素量が少なければ、必要なNa量は少なくてすみ、〔A〕>0.2×〔O〕なる関係が認められた。【0023】ここで、〔O〕は脱炭焼鈍板の片面あたりの酸素量(g/m2)、〔A〕は焼鈍分離剤として用いるアルミナ中のNa濃度(重量%)である。したがって、上記関係を満たす脱炭焼鈍板と焼鈍分離剤を用いるならば、仕上げ焼鈍後の表面直下析出物の形成が防止できかつ鏡面を呈する鋼板が得られる。」
キ 「【0028】Siは電気抵抗を高め、鉄損を下げる上で重要な元素である。しかしながら含有量が4.8%を超えると、冷間圧延時に鋼板が割れやすくなり、圧延が困難になる。一方、Si量を下げると仕上げ焼鈍時にα→γ変態が生じ、結晶の方向性が損なわれる。したがって、Siの下限は通常0.8%である。【0029】MnおよびSはMnSを形成し、インヒビターとしての機能をはたす元素である。安定した二次再結晶を起こさせるためには、Mnが0.02~0.3%、Sが0.005~0.04%の範囲にするのが良い。【0030】酸可溶性AlはNと結合してAlNまたは(Al,Si)Nを形成し、インヒビターとしての機能をはたす元素である。磁束密度の高い方向性珪素鋼板を製造するためには0.012~0.05%添加するのが良い。【0031】製鋼時にNを0.01%以上添加するとブリスターと称される空孔を鋼板に形成するゆえ、0.01%以下が望ましい。他のインヒビター構成元素として、B,Bi,Pb,S,Se,Sn,Ti等をAlに加えて利用できる。【0032】Cはγ相形成元素であり、仕上げ焼鈍前の一次再結晶組織を、二次再結晶に適する集合組織に整えるために必要である。したがって、冷間圧延工程までは0.02%以上含有させておく必要がある。一方、0.1%を超えると一次再結晶集合組織が悪化し、また脱炭に必要な時間も長くなり不経済である。」
ク 「【0045】仕上げ焼鈍の後、張力付与性の絶縁コーティングを施すならば、鉄損の低い珪素鋼板が得られる。さらにレーザー照射等の磁区細分化処理を施すならば、一層鉄損を下げることができる。以上、特に本発明の効果が顕著に現れる実施形態を述べたが、本発明の実施にあたっては必ずしも上記鋼板成分、製造条件に限定されるものではない。先に述べたように、下記の前提の下に製造される方向性珪素鋼板の鉄損を低減しようとする場合には全て適用可能である。鋼板がSiを含有する。脱炭焼鈍工程を必要とする。仕上げ焼鈍時にフォルステライトを主体とする皮膜を形成せず、鏡面化する。【0046】【実施例】実施例1重量で、Si:3.3%、Mn:0.1%、C:0.05%、S:0.007%、酸可溶性Al:0.03%、N:0.008%、Sn:0.05%を含有する板厚2.3mmの熱延珪素鋼帯を1100℃で2分間焼鈍し、酸洗した後、0.23mmに冷延した。この冷延鋼板に対し種々の雰囲気と焼鈍時間により脱炭焼鈍を施した。その際の鋼板酸素量は表1に示した通りである。ついでアンモニア雰囲気中で焼鈍することにより、鋼板窒素量を0.025%まで増加させ、インヒビターの強化を行った。【0047】その後、一部は従来のようにMgOを、一部は不純物としてのアルカリ金属の種類と濃度を変化させたアルミナを、水スラリーで塗布し、仕上げ焼鈍を施した。仕上げ焼鈍では、1200℃まではN2100%の雰囲気ガス中で10℃/hrの昇温速度で昇温し、1200℃に到達した後H2100%の雰囲気ガスに切り替え20時間の保定を行った。これらの試料に張力コーティングを施した後、レーザーを照射して磁区細分化処理を行った。得られた製品の磁気特性を表1に示す。【0048】【表1】[図:0001411327000001.jpg]」
ケ 「【図3】[図:0001411327000002.jpg]」
(2)甲第1号証に記載された発明
ア 甲第1号証には、「重量比で
N ≦0.01%、
S :0.005~0.040%を含有する珪素鋼帯を、1回もしくは中間焼鈍をはさむ2回以上の冷間圧延により最終板厚とし、次いで脱炭焼鈍を行った後、非水和性酸化物を主体とする焼鈍分離剤を塗布してコイルに巻き取り、しかる後に仕上げ焼鈍を行うことにより、鏡面方向性珪素鋼板を製造する方法において、仕上げ焼鈍直前の鋼板の片面あたりの酸素量(g/m2):〔O〕と、焼鈍分離剤中のアルカリ金属不純物の総和(重量%):〔A〕とが、下記の条件を満たすことを特徴とする鉄損の低い鏡面方向性珪素鋼板の製造方法。
〔A〕>0.2×〔O〕」に関する発明が記載されている(請求項3)。
イ また、上記アの発明に関し、実施例1として、表1の上から3つ目の例には、重量で、Si:3.3%、Mn:0.1%、C:0.05%、S:0.007%、酸可溶性Al:0.03%、N:0.008%、Sn:0.05%を含有する板厚2.3mmの熱延珪素鋼帯を1100℃で2分間焼鈍し、酸洗した後、0.23mmに冷延し、この冷延鋼板に対し脱炭焼鈍を施し、その際の鋼板酸素量は片面あたり0.7g/m2であり、ついでアンモニア雰囲気中で焼鈍することにより、鋼板窒素量を0.025%まで増加させるインヒビターの強化を行い、その後、不純物としてのNa濃度を0.20wt%としたアルミナを、水スラリーで塗布し、1200℃まではN2100%の雰囲気ガス中で10℃/hrの昇温速度で昇温し、1200℃に到達した後H2100%の雰囲気ガスに切り替え20時間の保定を行う仕上げ焼鈍を施し、ついで張力コーティングを施した後、レーザーを照射して磁区細分化処理を行った方向性珪素鋼板が記載されている。
また、表1によれば、上記イの方向性珪素鋼板は、表面性状が「鏡面」であり、表面直下析出物が「無し」であるから、表面直下に析出物が無い鏡面方向性珪素鋼板であるといえる。
ウ そうすると、甲第1号証には、特に実施例1の表1の上から3つ目の例に着目すると、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲1発明>
重量で、Si:3.3%、Mn:0.1%、C:0.05%、S:0.007%、酸可溶性Al:0.03%、N:0.008%、Sn:0.05%を含有する板厚2.3mmの熱延珪素鋼帯を1100℃で2分間焼鈍し、酸洗した後、0.23mmに冷延し、この冷延鋼板に対し脱炭焼鈍を施し、その際の鋼板酸素量は片面あたり0.7g/m2であり、ついでアンモニア雰囲気中で焼鈍することにより、鋼板窒素量を0.025%まで増加させるインヒビターの強化を行い、その後、不純物としてのNa濃度を0.20wt%としたアルミナを、水スラリーで塗布し、1200℃まではN2100%の雰囲気ガス中で10℃/hrの昇温速度で昇温し、1200℃に到達した後H2100%の雰囲気ガスに切り替え20時間の保定を行う仕上げ焼鈍を施し、ついで張力コーティングを施した後、レーザーを照射して磁区細分化処理を行った方向性珪素鋼板であって、表面直下に析出物が無い鏡面方向性珪素鋼板。
(3)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明との対比・判断
(ア)対比
a 甲1発明は、仕上げ焼鈍時に焼鈍分離剤としてアルミナを用い(段落【0020】)、表面が鏡面化しているため、フォルステライトを主体とする皮膜が生成されていないと解される(段落【0045】)。甲1発明は、仕上げ焼鈍後に張力コーティングを施しており、前記張力コーティングは、絶縁コーティングでもあると認められる(段落【0045】)。また、「珪素鋼板」は、「電磁鋼板」の別称であることは、当業者にとって明らかである。そうすると、甲1発明における、「不純物としてのNa濃度を0.20wt%としたアルミナを、水スラリーで塗布し、1200℃まではN2100%の雰囲気ガス中で10℃/hrの昇温速度で昇温し、1200℃に到達した後H2100%の雰囲気ガスに切り替え20時間の保定を行う仕上げ焼鈍を施し、ついで張力コーティングを施した」「鏡面方向性珪素鋼板」は、本件発明1における、「母材鋼板と張力絶縁被膜との間にフォルステライト系被膜が存在しない方向性電磁鋼板」に相当する。
b 甲1発明の熱延珪素鋼帯の化学組成における、Si、Mn及びSnの含有量が、仕上げ焼鈍(純化焼鈍)後もさほど変化しないことは技術常識である。一方、C及び酸可溶性Alの含有量は仕上げ焼鈍(純化焼鈍)後に減少するものの、熱延珪素鋼帯におけるこれらの含有量は、本件発明1の方向性電磁鋼板における上限値を下回っているため、仕上げ焼鈍(純化焼鈍)による減少量が不明であったとしても、甲1発明の仕上げ焼鈍(純化焼鈍)後の方向性珪素鋼板におけるこれらの含有量は、本件発明1の方向性電磁鋼板における含有量を満たすものと認められる。また、通常、質量%と重量%とは同じ値である。
よって、甲1発明において、熱延珪素鋼帯が、「重量で、Si:3.3%、Mn:0.1%、C:0.05%、酸可溶性Al:0.03%、Sn:0.05%を含有する」ことは、本件発明1において、母材鋼板が、「化学組成として、質量%で、C:0.085%以下、Si:0.80~7.00%、Mn:0.05~1.00%、酸可溶性Al:0.065%以下」、「Sn:0~0.30%、を含有」することに相当する。
c そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「母材鋼板と張力絶縁被膜との間にフォルステライト系被膜が存在しない方向性電磁鋼板において、前記母材鋼板は、化学組成として、質量%で、C:0.085%以下、Si:0.80~7.00%、Mn:0.05~1.00%、酸可溶性Al:0.065%以下、Sn:0~0.30%、を含有する方向性電磁鋼板。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1は、方向性電磁鋼板が、「S:0.003%以下、N:0.0040%以下」を含有するのに対し、甲1発明は、熱延珪素鋼帯が、「S:0.007%、N:0.008%」を含有する点。
<相違点2>
本件発明1は、方向性電磁鋼板が、「P:0~0.50%、Ni:0~1.00%」、「Sb:0~0.30%、Cu:0~0.40%、Cr:0~0.30%、Bi:0~0.01%」を含有し、化学組成の「残部がFe及び不純物」であるのに対し、甲1発明は、熱延珪素鋼帯及び方向性珪素鋼板のP、Ni、Sb、Cu、Cr及びBiの含有量と化学組成の残部が不明である点。
<相違点3>
本件発明1は、方向性電磁鋼板が、「B:0.0005~0.0080%」を含有するのに対し、甲1発明は、熱延珪素鋼帯及び方向性珪素鋼板のBの含有量が不明である点。
<相違点4>
最終製品における表面近傍の析出物・介在物について、本件発明1は、「母材鋼板の圧延方向に直交する断面をみた場合に、前記母材鋼板の板厚方向において前記母材鋼板の表面から前記母材鋼板の内側に向かって10μmの長さを有し、且つ前記板厚方向に直交する方向に20mmの長さを有する領域を観察領域としたとき、前記観察領域に1μm以上の長さを有する針状介在物が存在しないものであり、前記針状介在物に、3Al2O3・2SiO2で表されるムライトが含まれる」のに対し、甲1発明は、「表面直下に析出物が無い」点。
(イ)判断
事案に鑑み、相違点3を検討する。
a 相違点3が実質的な相違点であるか否かについて
(a)甲第1号証の段落【0028】~【0032】には、冷間圧延工程までの珪素鋼帯の化学組成に関する記載がある。そして、段落【0031】には、他のインヒビター構成元素として、B等が列記されており、実施例1に明記されていないB等も列記されているところ、実施例1では、熱延珪素鋼帯が含有する成分とその含有量が記載され、含有しない成分と不純物は記載されていないと解するのが合理的である。
そして、実施例1には、Bは記載されていないから、甲1発明の熱延珪素鋼帯及び方向性珪素鋼板は、Bを不純物量を超えて含有するものとはいえない。
(b)そこで、不純物として含まれるBの含有量について検討すると、甲第5号証の段落[0034]には、無方向性電磁鋼板における不純物として、0.0050%以下のBが含まれ得ること、B含有量を0.0001%未満まで低下させるためには相当なコストを要することが記載されている。また、甲第6号証の段落【0038】には、「ミクロ合金化元素」としての「ボロン」を含め、「ミクロ合金化元素の合計は0.02%を超えない」こと記載され、表1には、Bの含有量が、0.000重量%の例と0.001重量%の例が記載されている。
上記の甲第5号証及び甲第6号証の記載を踏まえると、電磁鋼板には、通常、少なくとも数ppm程度のBが不純物として含有され得るものと解されるが、甲1発明において、不純物としてのBが実際に、「0.0005~0.0080%」存在するかどうかは不明である。
(c)以上のとおりであるから、相違点3は実質的な相違点である。
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。
b 相違点3の容易想到性について
(a)上記a(a)のとおり、甲第1号証の段落【0031】には、他のインヒビター構成元素として、B等が列記されている。
(b)一方、甲第3号証には、「Bは、Nと結合してBNとしてMnS又はMnSeと複合析出し、インヒビターとして機能する。B含有量が0.0005質量%~0.0080質量%の範囲内にある場合に二次再結晶が安定する。このため、B含有量は0.0005質量%以上0.0080質量%以下とする。また、B含有量は0.001%以上であることが好ましく、0.0015%以上であることが更に好ましい。また、B含有量は0.0040%以下であることが好ましく、0.0030%以下であることが更に好ましい。」(段落[0053])と記載され、甲第4号証には、「BはBN等の窒化物を作り、インヒビターを強化していると考えられており、0.0010~0.0060重量%が適している。」(段落【0019】)と記載されている。
(c)ここで、甲1発明の熱延珪素鋼帯及び方向性珪素鋼板はMn及びSを含むものであって、二次再結晶の安定化やインヒビターの強化は、通常の技術課題であるから、甲1発明の熱延珪素鋼帯及び方向性珪素鋼板において、二次再結晶の安定化やインヒビターの強化のために、Bを質量%で0.0005~0.0080%添加する動機付けが一応はあるといえる。
(d)一方、本件発明の効果は、「母材鋼板と張力絶縁被膜との間にフォルステライト系被膜が存在しない方向性電磁鋼板の鉄損を従来よりも低減することが可能である」ことである(段落【0016】)。
そこで、本願発明の上記効果が、当業者が予測し得ない顕著な効果であるかどうかを検討する。
(e)本件発明の方向性電磁鋼板と甲1発明の方向性珪素鋼板とは、共に、「母材鋼板と張力絶縁被膜との間にフォルステライト系被膜が存在しない」ものであるから、両者の鉄損を対比することとする。
甲1発明の方向性珪素鋼板の板厚は2.3mmであって、本件明細書の段落【0094】の実施例1に記載される最終板厚と同じである。そこで、甲1発明のSi含有量である3.3重量%と最も近いSi含有量を有する発明例B5(鋼A5、Si:3.33mass%)の鉄損と、甲1発明の鉄損とを比較する。
発明例B5の鉄損は、「コイル状の方向性電磁鋼板の最外周の幅方向中央部位から、20mm角の試験片を採取し、・・・JIS C 2550:2011に準じて、試験片の鉄損W17/50を測定した」もので、本件明細書の表3によると、その値は、0.84W/kgである。
一方、甲1発明の鉄損は、「張力コーティングを施した後、レーザーを照射して磁区細分化処理を行った」状態で、0.63W/kgである。
ここで、張力コーティング及び磁区細分化処理によって、鉄損が低減(改善)する度合いについて検討すると、下記に示す、参考文献1(鉄と鋼、1994年、第80巻、第2号、p.N59~N64)の図6には、□で表される、張力コーティング及び磁区細分化処理なしの鉄損W17/50の極小値Waが0.92W/kgであること、●で表される、張力コーティング及び磁区細分化処理ありの鉄損W17/50の極小値Wbが0.53W/kgであることが記載されている。これらの値から、張力コーティング及び磁区細分化処理による鉄損の低減率(%)を(Wa-Wb)/Wa×100から計算すると、鉄損の低減率は、(0.92-0.53)/0.92×100=42%となる。
そこで、甲1発明が、張力コーティング及び磁区細分化処理を施さなかった場合の鉄損を見積もると、0.63/(1-0.42)=1.09W/kg程度となる。
この値は、発明例B5の鉄損値0.84W/kgを大きく上回るものであるから、本件発明の鉄損低減効果は、当業者が予測し得ない顕著な効果であると認められる。
(f)そうすると、本件発明の効果が当業者が予測し得ない顕著な効果であることを踏まえると、甲1発明の熱延珪素鋼帯及び方向性珪素鋼板において、Bを質量%で0.0005~0.0080%添加することは、当業者が容易に想到することであるとはいえない。また、このことは、甲第2、7号証の記載を考慮しても、変わるものではない。
イ 小括
よって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明、甲第3、4号証に記載された事項及び甲第2、5~7号証に記載された技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
参考文献1の図6
「[図:0001411327000003.jpg]」
(4)本件発明2について
上記第2及び第3で述べたとおり、本件訂正により請求項2が削除されたため、請求項2に係る特許に対する申立理由1、2は、その対象となる請求項が存在しないものとなった。
(5)小括
以上のとおり、申立理由1、(新規性)、申立理由2(進歩性)、取消理由1(進歩性)によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由3(サポート要件)
(1)ア 申立人は、本件明細書の実施例において、所望の効果が得られることが具体的に実証されているのは、B含有量が0.0015%以上の範囲のみであるから、B含有量が0.0015%未満の範囲は、サポート要件を満たさない旨主張する。
イ 以下、検討する。
(ア)本件発明が解決しようとする課題は、「母材鋼板と張力絶縁被膜との間にフォルステライト系被膜が存在しない方向性電磁鋼板の鉄損を従来よりも低減すること」(段落【0011】)であると認められる。
(イ)そして、「母材鋼板の表層領域に多数の針状介在物が存在」し、この「針状介在物が磁壁の移動を妨げる原因、つまり鉄損に悪影響を及ぼす原因」(段落【0012】)との記載、「針状介在物には、ムライト(3Al2O3・2SiO2)が含まれる」(段落【0021】)との記載、母材鋼板に係る、「母材鋼板の化学組成は、方向性電磁鋼板に要求される磁気特性及び機械的特性を得ることができれば特定の組成に限定されないが、母材鋼板の化学組成の一例を挙げると以下の通りである。」(段落【0047】)との記載や、実施例(段落【0093】~【0113】)の記載を含む、本件明細書の記載を踏まえると、上記課題は、一般的な化学組成を有する母材鋼板と張力絶縁被膜との間にフォルステライト系被膜が存在しない方向性電磁鋼板において、「母材鋼板の圧延方向に直交する断面をみた場合に、前記母材鋼板の板厚方向において前記母材鋼板の表面から前記母材鋼板の内側に向かって10μmの長さを有し、且つ前記板厚方向に直交する方向に20mmの長さを有する領域を観察領域としたとき、前記観察領域に1μm以上の長さを有する針状介在物が存在しないものであり、前記針状介在物に、3Al2O3・2SiO2で表されるムライトが含まれる」ことで解決できるといえる。
(ウ)一方、本件明細書の発明の詳細な説明には、母材鋼板のB含有量について、以下の記載がある。
「B:0.0005~0.0080%Bは、Nと結合し、MnSと複合析出して、インヒビターとして機能するBNを形成する元素である。Bが0.0005%未満では、添加効果が十分に発現しないので、Bは0.0005%以上とする。Bは、好ましくは0.0010%以上、より好ましくは0.0015%以上である。一方、Bが0.0080%を超えると、BNの析出分散が不均一になり、所要の二次再結晶組織が得られず、磁束密度が低下するので、Bは0.0080%以下とする。Bは、好ましくは0.0060%以下、より好ましくは0.0040%以下である。」(段落【0060】、【0061】)
(エ)上記(ウ)のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明には、母材鋼板のB含有量が、0.0005%以上0.0015%未満であっても、Bがインヒビターとして機能することが記載される一方、母材鋼板のB含有量が0.0005%以上0.0015%未満の場合に、Bが上記針状介在物の存在に影響する旨の記載はないから、当業者はそのような場合に上記課題が解決できないと理解するとはいえない。また、申立人も、母材鋼板のB含有量が0.0005%以上0.0015%未満の場合に、上記課題が解決できないとする具体的根拠を示していない。
(オ)そうすると、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
(カ)よって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、本件発明1について、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものである。
(2)ア 申立人は、本件訂正前の請求項2に係る発明で規定する「針状介在物」が『ムライトを含む針状介在物』であると解釈すると、本件訂正前の請求項2に係る発明においては、『ムライトを含む針状介在物』は存在しない一方で、『ムライトを含まない針状介在物』の存在は許容されるが、本件明細書には、『ムライトを含まない針状介在物』が存在する具体例は何ら記載されていないから、サポート要件を満たさない旨主張する。
イ 以下、検討する。
上記(1)で検討したとおり、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
そして、本件発明1は、「ムライトを含まない針状介在物」が存在するか否かを問わない発明であるから、本件明細書の発明の詳細な説明に、「ムライトを含まない針状介在物」が存在する具体例が何ら記載されていないからといって、サポート要件を満たさないことにはならない。
よって、申立人の主張は採用できない。
(3)小括
以上のとおり、申立理由3(サポート要件)によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由4(明確性要件)
(1)ア 申立人は、本件訂正前の請求項2に係る発明は、「前記針状介在物に、3Al2O3・2SiO2で表されるムライトが含まれる」ことを規定するが、本件訂正前の請求項2に係る発明が引用する本件発明1は、「針状介在物が存在しない」ものであり、存在しない針状介在物の組成をどのように特定するのか不明である旨主張する。
イ 以下、検討する。
(ア)本件発明1の「観察領域に1μm以上の長さを有する針状介在物が存在しないものであり、前記針状介在物に、3Al2O3・2SiO2で表されるムライトが含まれる」との特定は、「1μm以上の長さを有する針状介在物」であって、当該「針状介在物に、3Al2O3・2SiO2で表されるムライトが含まれる」場合を単に除外する特定であるから、申立人の主張にかかわらず、その意味は明確である。
よって、申立人の主張は採用できない。
(2)小括
以上のとおり、申立理由4(明確性要件)によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した申立理由及び当審から通知した取消理由によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項2が本件訂正により削除されたことにより、申立人による請求項2に係る特許異議の申立てについては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700727