特許異議申立
2024-700858
無方向性電磁鋼板及びモータコア
- 審判番号
- 2024-700858
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-549890
- 登録番号
- 7448873
- 請求日
- 2024年09月09日
- 審決日
- 2025年01月31日
- 公報発行日
- 2025年03月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】日本製鉄株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人太陽国際特許事務所
- 【異議申立人】前田 洋志
- 審判長/審判官
- 審判長 粟野 正明
- 審判官 土屋 知久
- 審判官 相澤 啓祐
- 分類
- P1652.113-Y (C22C) / P1652.121-Y (C22C) / P1652.537-Y (C22C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7448873号発明「無方向性電磁鋼板及びモータコア」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7448873号の請求項1~3、5~9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7448873号の請求項1~3、5~9に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願(以下、「本件出願」という。)は、2023年(令和5年)3月28日(優先権主張 令和4年3月30日 日本国、令和4年8月23日 日本国)を国際出願日とする出願であって、令和6年3月5日にその特許権の設定登録がなされ、同年3月13日に特許掲載公報が発行された。
本件は、その後、同年9月9日に特許異議申立人前田洋志(以下、「申立人」という。)より請求項1~3、5~9に係る特許に対してなされた特許異議申立事件である。
第2 本件発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~3、5~9に係る発明(以下、請求項数に応じて、「本件発明1」などという。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1~3、5~9に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
質量%で、
C :0.006%以下、
Si:1.0%以上5.0%以下、
sol.Al:2.5%未満、
Mn:3.0%以下、
P :0.20%以下、
S :0.010%以下、
N :0.010%以下、
O :0.10%以下、
Sn:0~0.20%、
Sb:0~0.20%、
Ca:0~0.01%、
Cr:0~5.0%、
Ni:0~5.0%、
Cu:0~5.0%、
Ce:0~0.10%、
B :0~0.10%、
Mg:0~0.10%、
Ti:0~0.10%、
V :0~0.10%、
Zr:0~0.10%、
Nd:0~0.10%、
Bi:0~0.10%、
W :0~0.10%、
Mo:0~0.10%、
Nb:0~0.10%、
Y :0~0.10%、
残部:Feおよび不純物、
からなる化学組成を有し、
平均結晶粒径が30μm以上200μm以下であり、
鋼板の表面から板厚方向に板厚の1/4の位置において、{111}<011>集積度が2.00以上5.98以下である無方向性電磁鋼板。
【請求項2】
質量%で、
Sn:0.0010%以上0.20%以下、
Sb:0.0010%以上0.20%以下、
Ca:0.0003%以上0.01%以下、
Cr:0.0010%以上5.0%以下、
Ni:0.0010%以上5.0%以下、
Cu:0.0010%以上5.0%以下、
Ce:0.001%以上0.10%以下、
B :0.0001%以上0.10%以下、
Mg:0.0001%以上0.10%以下、
Ti:0.0001%以上0.10%以下、
V :0.0001%以上0.10%以下、
Zr:0.0002%以上0.10%以下、
Nd:0.002%以上0.10%以下、
Bi:0.002%以上0.10%以下、
W :0.002%以上0.10%以下、
Mo:0.002%以上0.10%以下、
Nb:0.0001%以上0.10%以下、及び
Y :0.002%以上0.10%以下、
からなる群から選択される1種又は2種以上を含む、請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項3】
前記鋼板の表面から板厚方向に板厚の1/4の位置において、{110}<001>集積度が1.00以上である請求項1又は請求項2に記載の無方向性電磁鋼板。」
「【請求項5】
前記鋼板の表面から板厚方向に板厚の1/4の位置において、{411}<148>集積度が2.00以下である請求項1又は請求項2に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項6】
前記鋼板の表面から板厚方向に板厚の1/4の位置において、{411}<011>集積度が2.00以下である請求項1又は請求項2に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項7】
板厚が0.10mm以上0.35mm以下である請求項1又は請求項2に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項8】
請求項1又は請求項2に記載の無方向性電磁鋼板が複数枚積層された構造を有するモータコア。
【請求項9】
前記鋼板の表面から板厚方向に板厚の1/4の位置において、
{110}<001>集積度が1.00以上、
{111}<112>集積度/{111}<011>集積度の値が1.00以下、
{411}<148>集積度が2.00以下、及び
{411}<011>集積度が2.00以下、
の少なくとも1つを満たす請求項1又は請求項2に記載の無方向性電磁鋼板。」
第3 特許異議申立理由
申立人は、証拠方法として次の甲第1~8号証を提出し、以下の特許異議申立理由により、請求項1~3、5~9に係る特許を取り消すべきである旨主張している。
(証拠方法)
甲第1号証:Jian Wang et al.,“Rapid heating effects on grain-size, texture and magnetic properties of 3% Si non-oriented electrical steel”, Bull. Mater. Sci., December 2011, Vol.34, No.7, p.1477-1482
甲第2号証:Haitao Jiao et al.,“Texture evolution in twin-roll strip cast non-oriented electrical steel with strong Cube and Goss texture”, Acta Materialia, August 2020, Vol.199 ,p.311-325
甲第3号証:特開2021-134383号公報
甲第4号証:国際公開第2020/085448号
甲第5号証:国際公開第2012/141206号
甲第6号証:国際公開第2011/105327号
甲第7号証:Hyunwoo Mun et al.,“In-situ Heating EBSD Study of Effects of Cold Reduction Ratio on Recrystallization and Grain Growth Behaviors in 3% Si Electrical Steels”, ISIJ International, 2017, Vol.57, No.7, p.1241-1245
甲第8号証:Yasuyuki Hayakawa,“Recent Developments in Non-Oriented Electrical Steels”, Tetsu-to-Hagane(当審注:「Hagane」の「e」には、アクサンテギュが付されている。), 2020, Vol.106, No.10, p.683-696
なお、以下、甲第1~8号証をそれぞれ「甲1」~「甲8」という。
1 申立理由1(甲1を主たる引用例とした新規性・進歩性)
本件発明1、6~9は、甲1に記載された発明であるため、また、本件発明2、8は、甲1に記載された発明及び甲3~甲6に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるため、同発明に係る特許は、特許法第29条第1項第3号または同法同条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由2(甲7を主たる引用例とした新規性・進歩性)
本件発明1、3、5、6、8、9は、甲7に記載された発明であるため、また、本件発明2、7、8は、甲7に記載された発明及び甲3~甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるため、同発明に係る特許は、特許法第29条第1項第3号または同法同条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
3 申立理由3(サポート要件)
本件発明1は、鋼板の結晶方位について、「鋼板の表面から板厚方向に板厚の1/4の位置において、{111}<011>集積度が2.00以上5.98以下である」ことしか特定されていないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
なお、特許異議申立書の表紙ページの3.の(1)には、「特許法第29条第2項(請求項1~3、5~9)」と記載されているが、特許異議申立書の本文を参照しても、請求項1、3、5、6、9についての特許法第29条第2項の証拠及び理由が不明であるから、特許異議申立理由は、上記のとおり認定した。
第4 特許異議申立理由の検討
当審においては、以下に示すとおり、上記第3の特許異議申立理由はいずれも採用できないと判断する。
1 申立理由1(甲1を主たる引用例とした新規性・進歩性)
1-1 甲1、甲2の記載事項及び甲1に記載された発明
(1)甲1の記載事項
甲1には次の記載がある。なお、和訳及び下線は申立人によるものである。
ア「
[図:0001420342000001.jpg]
[図:0001420342000002.jpg]
イ「
[図:0001420342000003.jpg]
ウ「
[図:0001420342000004.jpg]
[図:0001420342000005.jpg]
エ「
[図:0001420342000006.jpg]
[図:0001420342000007.jpg]
オ「
[図:0001420342000008.jpg]
カ「
[図:0001420342000009.jpg]
キ「
[図:0001420342000010.jpg]
ク「
[図:0001420342000011.jpg]
[図:0001420342000012.jpg]
ケ「
[図:0001420342000013.jpg]
コ「
[図:0001420342000014.jpg]
[図:0001420342000015.jpg]
(2)甲1に記載された発明
ア 上記(1)のアより、焼鈍時の加熱速度を15、50、100、150及び300℃/sとしたところ、上記(1)のキより、加熱速度15℃/sの場合、平均結晶粒径が概ね110μm程度であることが看取できる。
イ 上記(1)及びアより、甲1の焼鈍時の加熱速度15℃/sの無方向性電磁鋼板に注目すると、甲1(特に、上記(1)のア、イ、カ、キ参照。)には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「C:0.0023wt%、Mn:0.195wt%、Al:0.463wt%、Si:2.93wt%を含有し、80%の圧下率で冷間圧延された最終板厚が0.35mmの無方向性電磁鋼板の試験片であって、
300mm×600mm×0.35mmのサイズの試料を冷間圧延板から採取し、電気炉により30%H2-70%N2の乾燥雰囲気で940℃、加熱速度15℃/sで焼鈍を行い、水素気流中で炉冷し、
ミクロ組織を光学顕微鏡を用いて圧延方向に平行な断面領域にて観察し、標準的な直線切片法を用いてランダムに200以上のサイズを測定した際の平均結晶粒径が概ね110μm程度である試験片。」
(3)甲2の記載事項
甲2には次の記載がある。
ア「
[図:0001420342000016.jpg]
イ「
[図:0001420342000017.jpg]
1-2 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明は、「C:0.0023wt%、Mn:0.195wt%、Al:0.463wt%、Si:2.93wt%を含有」する「無方向性電磁鋼板の試験片」であるところ、これらの成分以外は、Fe及び不可避的不純物であると解されるから、甲1発明の「C:0.0023wt%、Mn:0.195wt%、Al:0.463wt%、Si:2.93wt%を含有」する事項は、本件発明1の「質量%で、C:0.006%以下、Si:1.0%以上5.0%以下、sol.Al:2.5%未満、Mn:3.0%以下、P:0.20%以下、S:0.010%以下、N:0.010%以下、O:0.10%以下、Sn:0~0.20%、Sb:0~0.20%、Ca:0~0.01%、Cr:0~5.0%、Ni:0~5.0%、Cu:0~5.0%、Ce:0~0.10%、B:0~0.10%、Mg:0~0.10%、Ti:0~0.10%、V:0~0.10%、Zr:0~0.10%、Nd:0~0.10%、Bi:0~0.10%、W:0~0.10%、Mo:0~0.10%、Nb:0~0.10%、Y:0~0.10%、残部:Feおよび不純物、からなる化学組成を有」する事項に相当する。
イ 本件発明1の「平均結晶粒径」は、「JIS G0551:2020に規定される切断法により測定」(【0044】)したものであると解されるのに対し、甲1発明の「平均結晶粒径」は、「ミクロ組織を光学顕微鏡を用いて圧延方向に平行な断面領域にて観察し、標準的な直線切片法を用いてランダムに200以上のサイズを測定した」ものであるところ、「直線切片法」の詳細が不明である。
そうすると、「平均結晶粒径」の測定方法が本件発明1と甲1発明とで一致するか否かは不明であるものの、本件発明1と甲1発明とは、「所定の測定方法による平均結晶粒径が30μm以上200μm以下であ」る限りにおいて共通する。
ウ 上記ア、イより、本件発明1と甲1発明とは、
「質量%で、
C :0.006%以下、
Si:1.0%以上5.0%以下、
sol.Al:2.5%未満、
Mn:3.0%以下、
P :0.20%以下、
S :0.010%以下、
N :0.010%以下、
O :0.10%以下、
Sn:0~0.20%、
Sb:0~0.20%、
Ca:0~0.01%、
Cr:0~5.0%、
Ni:0~5.0%、
Cu:0~5.0%、
Ce:0~0.10%、
B :0~0.10%、
Mg:0~0.10%、
Ti:0~0.10%、
V :0~0.10%、
Zr:0~0.10%、
Nd:0~0.10%、
Bi:0~0.10%、
W :0~0.10%、
Mo:0~0.10%、
Nb:0~0.10%、
Y :0~0.10%、
残部:Feおよび不純物、
からなる化学組成を有し、
所定の測定方法による平均結晶粒径が30μm以上200μm以下である無方向性電磁鋼板。」で一致し、次の相違点で相違する。
(相違点1)
所定の測定方法による「平均結晶粒径」の測定について、本件発明1は、「JIS G0551:2020に規定される切断法により測定」(【0044】)したものであるのに対し、甲1発明は、「ミクロ組織を光学顕微鏡を用いて圧延方向に平行な断面領域にて観察し、標準的な直線切片法を用いてランダムに200以上のサイズを測定した」ものであって、当該「直線切片法」の詳細が不明である点。
(相違点2)
「鋼板の表面から板厚方向に板厚の1/4の位置にお」ける「{111}<011>集積度」が、本件発明1は、「2.00以上5.98以下である」のに対し、甲1発明は、不明である点。
(2)判断
事案に鑑み、まず、上記相違点2について検討する。
ア 上記1-1の(1)のコの図4(a)には、甲1の焼鈍時の加熱速度15℃/sである無方向性電磁鋼板について、そのオイラー空間におけるφ2=45°断面が示されている。
イ そして、上記1-1の(1)のウによれば、上記アの図は、試料表面から厚さの約20%であり、表面に平行な断面において、XRD回折計で行い、結晶方位分布関数(ODF)を用いて算出したものである。
ウ 一方、甲2には、φ2=45°ODF断面で示された電磁鋼の典型的な集合組織成分が示されている(上記1-1の(3)のイ参照。)。
エ そして、上記ウの図における、{111}<110>方位は本件発明1の「{111}<011>」方位に相当するところ、上記アの図と上記ウの図を重ね合わせると次の参考図1のとおりである。
なお、次の参考図1は申立人が作成したものである(特許異議申立書第24頁参照。)。
(参考図1)
[図:0001420342000018.jpg]
オ また、上記エの図より、{111}<011>方位が2.0から3.0の間であって、2.0に近い値であることが看取できるから、甲1発明の無方向性電磁鋼板は、一見、本件発明1の「{111}<011>集積度が2.00以上5.98以下である」事項を有するものであるといえる。
カ しかしながら、鋼板の結晶組織の観察について、本件発明1は、「鋼板の表面から板厚方向に板厚の1/4の位置において」行っているのに対し、甲1発明は、上記イのとおり、試料表面から厚さの約20%であり、表面に平行な断面において行っており、観察を行った位置が異なっているから、これらの結晶方位が同一であるとはいえない。
キ しかも、上記エの図によれば、甲1発明の{111}<011>方位は、2.0から3.0の間であるものの、甲1発明の下限値である2.0に近い値である。
ク 上記カ、キからすると、甲1発明の「無方向性電磁鋼板」が、本件発明1の「鋼板の表面から板厚方向に板厚の1/4の位置において、{111}<011>集積度が2.00以上5.98以下である」との発明特定事項を充足するか否かは不明であって、必ず充足するとまでいいきれない。
ケ そうすると、上記相違点2は実質的な相違点である。
コ 次に、念のため、容易想到性について検討する。
サ 甲1発明は、無方向性電磁鋼板の焼鈍時の加熱速度により、鋼板の組織にどのような影響があるかを検討したもの(上記1-1の(1)のエ、キ、コ参照。)であるものの、特に、{111}<011>方位に注目したものではない。
シ そうすると、甲1発明において、「鋼板の表面から板厚方向に板厚の1/4の位置において、{111}<011>集積度」を「2.00以上5.98以下」とする動機がない。
ス そして、上記シの判断は甲3~甲6を参酌しても変わらない。
セ したがって、甲1発明において、上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
ソ 以上の検討により、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲3~甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
1-3 本件発明2、3、5~9について
(1)対比・判断
ア 本件発明2、3、5~9は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであり、甲1発明とは少なくとも上記相違点2で相違するから、上記1-2で検討した理由と同様の理由により、本件発明2、3、5~9は、甲1発明ではないし、本件発明2、3、5~9は、甲1発明及び甲3~甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
1-4 申立人の主張について
(1)申立人は、特許異議申立書(第23頁第8~18行)において、本件発明1と甲1発明との集合組織の測定位置は、それぞれ「鋼板の表面から板厚方向に板厚の1/4の位置」と、試料表面から厚さの約20%であり表面に平行な断面とであって、その測定位置の違いは板厚わずか5%程度であり、甲1の図2(a)によれば、板厚方向に存在する結晶粒は約2~3個であるから、板厚方向に5%の違いが測定結果に大きく影響することは考えられない旨主張している。
(2)確かに、本件発明1と甲1発明との集合組織の測定位置は、板厚5%違うだけであり、測定結果への影響は大きくはないかもしれない。
(3)しかしながら、板厚方向に5%の違いであっても、集合組織が同一であるとはいいがたく、また、上述したように、上記参考図1によれば、甲1発明の{111}<011>方位は、甲1発明の下限値である2.0に近い値であるから、甲1発明において、「鋼板の表面から板厚方向に板厚の1/4の位置」の集合組織を観察した場合、本件発明1の「{111}<011>集積度」の下限値である2.00を下回る可能性も否定できない。
(4)よって、申立人の主張は採用できない。
1-5 申立理由1のむすび
以上より、本件発明1、6~9は、甲1発明ではないし、また、本件発明2、8は、甲1発明及び甲3~甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
2 申立理由2(甲7を主たる引用例とした新規性・進歩性)
2-1 甲7の記載事項及び甲7に記載された発明
(1)甲7の記載事項
甲7には次の記載がある。なお、和訳及び下線は申立人によるものである。ただし、オ、カの和訳は当審によるものである。
ア「
[図:0001420342000019.jpg]
イ「
[図:0001420342000020.jpg]
[図:0001420342000021.jpg]
ウ「
[図:0001420342000022.jpg]
エ「
[図:0001420342000023.jpg]
オ「
[図:0001420342000024.jpg]
[図:0001420342000025.jpg]
」《和訳:加熱ステージ(図1)(TSLソリューションズ)には、FE-SEMの対物レンズへの熱衝撃を防ぐシールドプレートと、装置の過熱を防ぐ循環水冷却システムが含まれている。熱電対はヒーターと試料に取り付けられている。試料の温度はヒーターの温度を変えることで制御される。試料温度は1,000℃まで可能である。
実験はFEI FE-SEM(Quanta 3D FEG)を使用し、加速電圧20keV、ビーム電流16nAで行った。試料は、FE-SEM装置内の高真空(~10-5torr)下で加熱ステージを用いて加熱した。その場加熱は段階的に行った(図2)。各ステップのアニール時間は10秒で、EBSDは測定中のテクスチャー変化を避けるため300℃で測定した。》(第1241頁右欄第21行~第1242頁左欄第14行)
カ「
[図:0001420342000026.jpg]
」《和訳:図2 サンプル準備プロセスと加熱サイクル》(第1242頁 図2)
キ「
[図:0001420342000027.jpg]
ク「
[図:0001420342000028.jpg]
(2)甲7に記載された発明
ア 上記(1)のキの図6(a)より、冷間圧延時の圧下率が78%の場合、800℃に加熱した後の平均結晶粒径が概ね35μm程度であることが看取できる。
イ また、上記(1)のイには、無方向性電磁鋼について述べられているから、上記(1)のウで冷延圧延板から切り出された試験片は、無方向性電磁鋼板であるといえる。
ウ 上記(1)、及び、上記ア、イより、甲7の無方向性電磁鋼板であって、冷間圧延時の圧下率が78%、800℃に加熱した後の試験片に注目すると、甲7(特に、上記(1)のウ~オ参照。)には、次の発明(以下、「甲7発明」という。)が記載されていると認められる。
「Si:2.8wt%、Al:0.5wt%、Mn:0.3wt%、C:0.002wt%、S:0.001wt%、N:0.002wt%、残部がFeの組成を有する鋼のインゴットを1200℃に加熱し、厚さ2.3mmまで熱間圧延し、次に78%の圧下率に相当する厚さ0.5mmまで冷間圧延し、この冷間圧延板から7mm×5mmの試験片を切り出し、800℃でin-situ SEM/EBSD測定を行った無方向性電磁鋼板であって、
平均結晶粒径が概ね35μm程度である無方向性電磁鋼板の試験片。」
2-2 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲7発明とを対比する。
ア 甲7発明は、「Si:2.8wt%、Al:0.5wt%、Mn:0.3wt%、C:0.002wt%、S:0.001wt%、N:0.002wt%、残部がFeの組成を有する鋼のインゴットを1200℃に加熱し、厚さ2.3mmまで熱間圧延し、次に78%の圧下率に相当する厚さ0.5mmまで冷間圧延し、この冷間圧延板から7mm×5mmの試験片を切り出し、800℃でin-situ SEM/EBSD測定を行った無方向性電磁鋼板」であるところ、その組成はほぼ「インゴット」と同様であると解されるし、当然不可避的不純物も含むと解される。
そうすると、甲7発明の「Si:2.8wt%、Al:0.5wt%、Mn:0.3wt%、C:0.002wt%、S:0.001wt%、N:0.002wt%、残部がFeの組成を有する鋼のインゴット」を素材とする事項は、本件発明1の「質量%で、C:0.006%以下、Si:1.0%以上5.0%以下、sol.Al:2.5%未満、Mn:3.0%以下、P:0.20%以下、S:0.010%以下、N:0.010%以下、O:0.10%以下、Sn:0~0.20%、Sb:0~0.20%、Ca:0~0.01%、Cr:0~5.0%、Ni:0~5.0%、Cu:0~5.0%、Ce:0~0.10%、B:0~0.10%、Mg:0~0.10%、Ti:0~0.10%、V:0~0.10%、Zr:0~0.10%、Nd:0~0.10%、Bi:0~0.10%、W:0~0.10%、Mo:0~0.10%、Nb:0~0.10%、Y:0~0.10%、残部:Feおよび不純物、からなる化学組成を有」する事項に相当する。
イ 本件発明1の「平均結晶粒径」は、「JIS G0551:2020に規定される切断法により測定」(【0044】)したものであると解されるのに対し、甲7発明の「平均結晶粒径」は、その測定方法が不明である。
そうすると、その測定方法は共通するといえないものの、本件発明1と甲7発明とは、「所定の測定方法による平均結晶粒径が30μm以上200μm以下であ」る限りにおいて共通する。。
ウ 上記ア、イより、本件発明1と甲7発明とは、
「 質量%で、
C :0.006%以下、
Si:1.0%以上5.0%以下、
sol.Al:2.5%未満、
Mn:3.0%以下、
P :0.20%以下、
S :0.010%以下、
N :0.010%以下、
O :0.10%以下、
Sn:0~0.20%、
Sb:0~0.20%、
Ca:0~0.01%、
Cr:0~5.0%、
Ni:0~5.0%、
Cu:0~5.0%、
Ce:0~0.10%、
B :0~0.10%、
Mg:0~0.10%、
Ti:0~0.10%、
V :0~0.10%、
Zr:0~0.10%、
Nd:0~0.10%、
Bi:0~0.10%、
W :0~0.10%、
Mo:0~0.10%、
Nb:0~0.10%、
Y :0~0.10%、
残部:Feおよび不純物、
からなる化学組成を有し、
平均結晶粒径が30μm以上200μm以下である無方向性電磁鋼板。」で一致し、次の相違点で相違する。
(相違点3)
「所定の測定方法による平均結晶粒径」の測定方法について、本件発明1は、「JIS G0551:2020に規定される切断法により測定」(【0044】)したものであるのに対し、甲7発明は、不明である点。
(相違点4)
「鋼板の表面から板厚方向に板厚の1/4の位置において、{111}<011>集積度」が、本件発明1は、「2.00以上5.98以下である」のに対し、甲7発明は、不明である点。
(2)判断
事案に鑑み、まず、上記相違点4について検討する。
ア 上記2-1の(1)のクの図7(a)の800℃の列(図7の右から2番目の列)には、甲7の冷間圧延時の圧下率が78%、800℃に加熱した際のφ2=45°断面のODFマップが示されている。
イ しかしながら、上記アの図は、試料表面からどの程度の厚さの断面を観察したものであるかが不明である。
ウ ここで、甲2には、φ2=45°ODF断面で示された電磁鋼の典型的な集合組織成分が示されている(上記1の1-1の(3)のイ参照。)。
エ そして、上記ウの図における、{111}<110>方位は、本件発明1の「{111}<011>」方位に相当するところ、上記アの図と上記ウの図を重ね合わせると次の参考図2のとおりである。
なお、次の参考図2は申立人が作成したものである(特許異議申立書第34頁参照。)。
(参考図2)
[図:0001420342000029.jpg]
オ また、上記エの図より、{111}<011>方位が2.0から3.0の間であって、2.0に近い値であることが看取できるから、甲7発明の無方向性電磁鋼板は、本件発明1の「{111}<011>集積度が2.00以上5.98以下である」事項を有するものであるといえる。
カ しかしながら、鋼板の結晶組織の観察について、本件発明1は、「鋼板の表面から板厚方向に板厚の1/4の位置において」行っているのに対し、甲7発明は、上記イのとおり、試料表面からどの程度の厚さの断面を観察したものであるかが不明である。
キ しかも、上記エの図によれば、甲7発明の{111}<011>方位は、2.0から3.0の間であるものの、甲7発明の下限値である2.0に近い値である。
ク 上記カ、キからすると、甲7発明の「無方向性電磁鋼板」が、本件発明1の「鋼板の表面から板厚方向に板厚の1/4の位置において、{111}<011>集積度が2.00以上5.98以下である」との発明特定事項を充足するか否かは不明であって、必ず充足するとまでいいきれない。
ケ そうすると、上記相違点4は実質的な相違点である。
コ 次に、念のため、容易想到性について検討する。
サ 甲7発明は、無方向性電磁鋼板の冷間圧延時の圧下率及び焼鈍温度により、鋼板の組織にどのような影響があるかを検討したもの(上記2-1の(1)のア、ウ、オ、カ参照。)であるものの、特に、{111}<011>方位に注目したものではない。
シ そうすると、甲7発明において、「鋼板の表面から板厚方向に板厚の1/4の位置において、{111}<011>集積度」を「2.00以上5.98以下」とする動機がない。
ス そして、上記シの判断は甲3~甲6を参酌しても変わらない。
セ したがって、甲7発明において、上記相違点4に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
ソ 以上の検討により、相違点3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲7発明ではないし、甲7発明及び甲3~甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
2-3 本件発明2、3、5~9について
(1)対比・判断
ア 本件発明2、3、5~9は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであり、甲7発明とは少なくとも上記相違点4で相違するから、上記2-2で検討した理由と同様の理由により、本件発明2、3、5~9は、甲7発明ではないし、本件発明2、3、5~9は、甲7発明及び甲3~6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
2-4 申立人の主張について
(1)申立人は、特許異議申立書(第34頁第1~12行)において、甲7発明の集合組織は、「試験片の表面を機械的に研磨」したうえで測定しており、最表面から板厚方向にある程度入った位置で測定されているから、その測定位置は、本件発明1の「鋼板の表面から板厚方向に板厚の1/4の位置」に近い位置であると考えられる旨主張している。
(2)しかしながら、「試験片の表面を機械的に研磨」したうえで集合組織を測定しているからといって、その測定位置が、本件発明1の「鋼板の表面から板厚方向に板厚の1/4の位置」に近い位置であるかは不明であるし、その測定結果についても同一であるとまでいえない。
(3)そして、上述したように、上記参考図2によれば、甲1発明の{111}<011>方位は、本件発明1の「{111}<011>集積度」の下限値である2.0に近い値であるから、甲7発明において、「鋼板の表面から板厚方向に板厚の1/4の位置」の集合組織を観察した場合、甲7発明の下限値である2.0を下回る可能性も否定できない。
(4)よって、申立人の主張は採用できない。
2-5 申立理由2のむすび
以上より、本件発明1、3、5、6、8、9は、甲7発明ではないし、また、本件発明2、7、8は、甲7発明及び甲3~甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
3 申立理由3(サポート要件)
3-1 当審の検討
(1)本件発明の解決しようとする課題は、本件出願の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)の発明な詳細な説明の記載によれば、「例えばモータのステータ鉄心およびロータ鉄心の素材として好適であり、圧縮応力付与時における鉄損の劣化が小さい無方向性電磁鋼板及びモータコアを提供すること」(【0007】)であると認める。
(2)そして、本件明細書には、次の記載がある。なお、下線は当審で付した。
「【0038】
{111}<011>集積度が2.00以上8.00以下であることは本開示の無方向性電磁鋼板において、重要な特徴となる。{111}<011>方位は、応力付与時における磁気特性が良好な方位である。
さらに、本発明者らは、下記に示す通り、{111}<011>と同時に{110}<001>方位、{111}<112>方位、{411}<148>方位、及び{411}<011>方位の集積度の少なくともいずれか1つを適切に制御することで、通常時および応力付与時における磁気特性を高いレベルで両立させることに成功した。
{110}<001>方位は磁気特性に優れた方位であり、集積度を1.00以上とすることが好ましい。
{111}<112>方位は応力付与時の磁気特性の劣化を最大限に回避可能な方位であるものの、集積度が高すぎると圧縮応力を付与していない状態での磁気特性が劣位となる。そのため、面指数が同じであり、磁気特性に与える影響がほぼ同一の方位である{111}<011>との集積度のバランスに鑑みて{111}<112>集積度/{111}<011>集積度の値(集積度の比)を1.00以下とすることが望ましい。
{411}<148>方位は圧縮応力付与時に磁気特性が劣位になりやすい方位であり、集積度を2.00以下とすることが好ましい。
{411}<011>方位は圧縮応力付与時に磁気特性が劣位になりやすい方位であり、集積度を2.00以下とすることが好ましい。」
(3)上記(2)の記載によれば、「{111}<011>方位は、応力付与時における磁気特性が良好な方位である」から、当該方位の集積度を調整することにより、上記(1)の課題を解決し得ることが理解できる。
(4)また、本件明細書に記載された、本件発明1の発明特定事項を有する全ての実施例について、鉄損劣化が本件発明の目標値である8.50以下であり(表2-2、3-2、4-2、5-2参照。)、上記(1)の課題を解決することが理解できる。
(5)そうすると、本件発明1は、本件発明の解決しようとする課題を解決し得るものであるから、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものといえる。
(6)なお、申立人は特許異議申立書(第37頁最後から6行~第39頁最後から5行)において、次のア、イの点を主張し、本件発明1はサポート要件を満たさないと主張している。
ア 本件発明1は、φ2=45°における1つの方位のみを特定したものにすぎない。
そして、本件明細書の実施例には、本件発明1のみを満足する例は1例しかなく、他の61例は本件発明3~6の少なくともいずれかを満たすものであるところ、甲1、甲2、甲8を根拠として、本件発明1を満足する無方向性電磁鋼板は広く存在する蓋然性が高い。
イ 甲8を根拠として、{111}<011>方位が含まれるγ-ファイバー組織は磁気特性に不利な方位であることが知られている。
(7)以下、上記(6)のア、イの点について検討する。
ア 確かに、本件発明1は、φ2=45°における1つの方位のみを特定したものにすぎず、また、本件明細書の実施例には、本件発明1のみを満足する例は1例しかなく、他の61例は本件発明3~6の少なくともいずれかを満たすものである。
しかしながら、甲1、甲2、甲8には、集合組織としてγ-ファイバーが存在することが記載されているにすぎず、これらを根拠として、本件発明1を満足する無方向性電磁鋼板が広く存在する蓋然性が高いとまではいえない。
そして、上記(3)で検討したとおり、「{111}<011>方位は、応力付与時における磁気特性が良好な方位である」から、当該方位の集積度を調整することにより、上記(1)の課題を解決し得ることが理解できるし、本件発明1の発明特定事項を有する全ての実施例が上記(1)の課題を解決することが理解できる。
さらに、上記(2)の記載から、請求項3~6に記載された方位が、圧縮応力付与時に磁気特性に影響することは理解できるが、本件明細書の実施例におけるNo.xa7は、請求項3~6に記載された方位の特定がなくても上記(1)の課題を解決し得るものであるから、本件発明1は請求項3~6に記載された方位の特定がなくてもサポート要件を満たしているといえる。
イ 確かに、甲8には、γ-ファイバー組織は磁気特性に不利な方位であることが記載されているが、本件発明の課題は、上記(1)のとおり、「圧縮応力付与時における鉄損の劣化が小さい無方向性電磁鋼板及びモータコアを提供すること」であり、甲8は「圧縮応力付与時における鉄損」について記載されたものではなく、また、上記(3)で検討したとおり、「{111}<011>方位は、応力付与時における磁気特性が良好な方位である」から、当該方位の集積度を調整することにより、上記(1)の課題を解決し得ることが理解できるし、本件発明1の発明特定事項を有する全ての実施例が上記(1)の課題を解決することが理解できる。
(8)よって、申立人の主張は採用できない。
3-2 申立理由3のむすび
以上より、本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものといえる。
第5 むすび
以上のとおり、本件の請求項1~3、5~9に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできず、また、他に本件の請求項1~3、5~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700858