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特許異議申立

2022-700458

フィコシアニンを含む酸組成物

審判番号
2022-700458
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2018-515313外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
登録番号
6976933
請求日
2022年05月25日
審決日
2023年05月12日
公報発行日
2023年08月25日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.121-YAA(A23L) / P1651.536-YAA(A23L) / P1651.537-YAA(A23L)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6976933号発明「フィコシアニンを含む酸組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論
特許第6976933号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-20〕について訂正することを認める。
特許第6976933号の請求項1ないし9、11ないし20に係る特許を維持する。
特許第6976933号の請求項10に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

目次 ▾ 19項目
理 由

第1 手続の経緯

折りたたみ中(クリックで表示)

特許第6976933号(以下、この通知において「本件特許」という。)の請求項1ないし20に係る特許についての出願は、2016年(平成28年)9月22日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2015年9月25日、2016年4月21日 フランス)を国際出願日とする出願であって、令和3年11月12日にその特許権の設定登録(請求項の数20)がされ、同年12月8日に特許掲載公報が発行されたものである。

その後、その特許に対して、令和4年5月25日に特許異議申立人 松永 健太郎(以下、「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、同年9月22日付けで取消理由が通知されたところ、同年12月27日に特許権者 フェルメンタルより訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされるとともに意見書の提出がされ、令和5年1月13日付けで特許法第120条の5第5項に基づく訂正請求があった旨の通知を行ったところ、同年2月15日に特許異議申立人より意見書が提出されたものである。

第2 本件訂正請求について

1 請求の趣旨

本件訂正請求の請求の趣旨は、「特許第6976933号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~20について訂正することを求める。」というものである。

2 訂正の適否についての判断

(1) 訂正の内容

本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。)

ア 訂正事項1

特許請求の範囲の請求項1に、

「少なくとも1つの鉱物酸または有機酸と、少なくとも1つの酸性pH耐性フィコシアニンとを含んでなる酸性食品組成物であって、」

と記載されているのを、

「少なくとも1つの鉱物酸または有機酸と、少なくとも1つの酸性pH耐性フィコシアニンとを含んでなり、4以下のpHを有する酸性食品組成物であって、」

に訂正する。

請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項2ないし9及び11ないし20も同様に訂正する。

イ 訂正事項2

特許請求の範囲の請求項10を削除する。

ウ 訂正事項3

特許請求の範囲の請求項13に、

「請求項1~12のいずれか一項に記載の」

と記載されているのを、

「請求項1~9、11、12のいずれか一項に記載の」

に訂正する。

請求項13の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項16ないし20も同様に訂正する。

エ 訂正事項4

特許請求の範囲の請求項14に、

「請求項1~12のいずれか一項に記載の」

と記載されているのを、

「請求項1~9、11、12のいずれか一項に記載の」

に訂正する。

請求項14の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項16ないし20も同様に訂正する。

オ 訂正事項5

特許請求の範囲の請求項15に、

「請求項1~12のいずれか一項に記載の」

と記載されているのを、

「請求項1~9、11、12のいずれか一項に記載の」

に訂正する。

請求項15の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項16ないし20も同様に訂正する。

カ 訂正事項6

特許請求の範囲の請求項16に、

「「請求項1~15のいずれか一項に記載の」

と記載されているのを、

「請求項1~9、11~15のいずれか一項に記載の」

に訂正する。

請求項16の記載を引用して特定する請求項17も同様に訂正する。

キ 訂正事項7

特許請求の範囲の請求項18に、

「「請求項1~15のいずれか一項に記載の」

と記載されているのを、

「請求項1~9、11~15のいずれか一項に記載の」

に訂正する。

請求項18の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項19及び20も同様に訂正する。

ク 一群の請求項について

訂正前の請求項1ないし20について、請求項2ないし20は請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであるから、請求項1ないし20は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

(2) 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

ア 訂正事項1について

訂正事項1に係る請求項1の訂正は、酸性食品組成物について、「4以下のpHを有する」ことを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そして、訂正事項1に係る請求項1の訂正は、請求項10及び本件特許の明細書の【0009】の記載からみて、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかである。

請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項2ないし9及び11ないし20についても同様である。

イ 訂正事項2について

訂正事項2に係る請求項10の訂正は、請求項10を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そして、訂正事項2に係る請求項10の訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかである。

ウ 訂正事項3ないし7について

訂正事項3ないし7に係る請求項13ないし16及び18の訂正はいずれも、訂正事項2によって請求項10が削除されたことに伴い、引用先請求項のうち請求項10を削除するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

訂正事項3ないし7に係る請求項13ないし16及び18の訂正はいずれも、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかである。

3 訂正についてのまとめ

以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-20〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明

上記第2のとおり、訂正後の請求項〔1-20〕について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1ないし20に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明20」という。また、総称して「本件特許発明」という。)は、令和4年12月27日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし20に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
少なくとも1つの鉱物酸または有機酸と、少なくとも1つの酸性pH耐性フィコシアニンとを含んでなり、4以下のpHを有する酸性食品組成物であって、
前記フィコシアニンが、4以下の酸性pHで安定であり、
前記フィコシアニンが、フィコビリタンパク質であり、そのアポタンパク質が配列番号1のタンパク質または当該タンパク質と少なくとも90%の配列同一性を有し、青色を発色するその改変体、または配列番号2のタンパク質または当該タンパク質と少なくとも90%の配列同一性を有し、青色を発色するその改変体を含んでなるものであり、
続きを表示(全42行)
前記フィコシアニンが、イデユコゴメ(Cyanidiales)目の藻類または微細藻類から抽出されたフィコシアニンである、酸性食品組成物。
【請求項2】
前記フィコシアニンのα-サブユニットアポタンパク質が配列番号1のタンパク質または当該タンパク質と少なくとも90%の配列同一性を有し、青色を発色するその改変体を含み、前記フィコシアニンのβ-サブユニットアポタンパク質が配列番号2のタンパク質または当該タンパク質と少なくとも90%の配列同一性を有し、青色を発色するその改変体を含んでなるものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記α-サブユニットアポタンパク質が配列番号1のタンパク質または当該タンパク質と少なくとも90%の配列同一性を有し、青色を発色するその改変体からなり、前記β-サブユニットアポタンパク質が配列番号2のタンパク質または当該タンパク質と少なくとも90%の配列同一性を有し、青色を発色するその改変体からなる、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記フィコシアニンと組み合わせて、アロフィコシアニンをさらに含んでなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記アロフィコシアニンのα-サブユニットアポタンパク質が配列番号3のタンパク質または当該タンパク質と少なくとも89%の配列同一性を有し、青色を発色するその改変体を含み、前記アロフィコシアニンのβ-サブユニットアポタンパク質が配列番号4のタンパク質または当該タンパク質と少なくとも90%の配列同一性を有し、青色を発色するその改変体を含んでなる、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記アロフィコシアニンのα-サブユニットアポタンパク質が配列番号3のタンパク質または当該タンパク質と少なくとも89%の配列同一性を有し、青色を発色するその改変体からなり、β-サブユニットアポタンパク質が配列番号4のタンパク質または当該タンパク質と少なくとも90%の配列同一性を有し、青色を発色するその改変体からなる、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
フィコシアニンが、イデユコゴメ(Cyanidiaceae)科またはガルディエリア(Galdieriaceae)科の藻類または微細藻類から抽出されたフィコシアニンである、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記フィコシアニンが、シアニディオシゾン(Cyanidioschyzon)属、シアニジウム(Cyanidium)属またはガルディエリア(Galdieria)属の藻類または微細藻類から抽出されたフィコシアニンである、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記フィコシアニンが、Cyanidioschyzon merolae種、Cyanidioschyzon merolae種、Cyanidium caldarium種、Cyanidium daedalum種、Cyanidium maximum種、Cyanidium partitum種、Cyanidium rumpens種、Galdieria daedala種、Galdieria maxima種、Galdieria partita種、Galdieria sulphuraria種、優先的にはGaldieria sulphuraria種、Cyanidium caldarium種およびCyanidioschyzon merolae種の藻類または微細藻類から抽出されたフィコシアニンである、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】(削除)
【請求項11】
2~4のpHを有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
約2.5~3.5のpHを有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記フィコシアニンのα-サブユニットアポタンパク質が3未満の等電点を有する、請求項1~9、11、12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
前記フィコシアニンのα-サブユニットアポタンパク質が2.5未満の等電点を有する、請求項1~9、11、12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
前記フィコシアニンのα-サブユニットアポタンパク質が2.2未満の等電点を有する、請求項1~9、11、12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
固体である、請求項1~9、11~15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
フィコシアニン含有量が0.25mg/g~2.5mg/gである、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
液体である、請求項1~9、11~15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
フィコシアニン含有量が2.5mg/L~2,500mg/Lである、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
請求項18または19のいずれかに記載の液体酸性組成物を含んでなる炭酸または非炭酸の飲料。」

第4 特許異議申立人が主張する特許異議申立理由について

特許異議申立人が特許異議申立書において、請求項1ないし20に係る特許に対して申し立てた特許異議申立理由の要旨(下記1ないし6)は、次のとおりである。

1 申立理由1-1(進歩性) 本件特許の請求項1ないし20に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

2 申立理由1-2(進歩性) 本件特許の請求項1ないし20に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基いて、優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

3 申立理由1-3(進歩性) 本件特許の請求項1ないし15及び18ないし20に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第6号証に記載された発明に基いて、優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

4 申立理由1-4(進歩性) 本件特許の請求項1ないし17に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第7号証に記載された発明に基いて、優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

5 申立理由2(実施可能要件) 本件特許の請求項1ないし20に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

なお、申立理由2の具体的理由の概略は次のとおりである。

(1) 申立理由2-1:Cyanidium caldariumから単離されたフィコシアニンについて

本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、Galdieria sulphuraria(UTEX番号2919)株及びCyanidioschyzon merolae(ACUF199)株からフィコシアニンを抽出したこと(実施例2)、実施例2で抽出したフィコシアニンを用いてpHの関数としての安定性試験を行い酸性pH耐性を確認したこと(実施例3)が記載されている。

Cyanidioschyzon merolaeのフィコシアニンのαサブユニット及びβサブユニットのアミノ酸配列は、Galdieria sulphurariaのフィコシアニンのαサブユニット及びβサブユニットのアミノ酸配列と83%(αサブユニット)及び82%(βサブユニット)の配列同一性を有するものである。

一方、Cyanidium caldariumから単離されたフィコシアニンのαサブユニット及びβサブユニットのアミノ酸配列は、Galdieria sulphurariaのフィコシアニンのαサブユニット及びβサブユニットのアミノ酸配列と98%(αサブユニット)及び99%(βサブユニット)の配列同一性を有するものであり、一般的には、Cyanidioschyzon merolaeのフィコシアニンよりも、Galdieria sulphurariaのフィコシアニンとの特性の類似度が高いと予測されるものである。

しかしながら、Cyanidioschyzon merolaeのフィコシアニンは酸性pH耐性であり、Cyanidium caldariumのフィコシアニンが酸性pH耐性でないとすれば、本件明細書でいう“酸性pH耐性”という特性に関しては、アミノ酸配列の類似性には相関しないものであると解される。そうすると、本件特許発明で「前記フィコシアニンが、フィコビリタンパク質であり、そのアポタンパク質が配列番号1のタンパク質または当該タンパク質と少なくとも90%の配列同一性を有し、青色を発色するその改変体、または配列番号2のタンパク質または当該タンパク質と少なくとも90%の配列同一性を有し、青色を発色するその改変体を含んでなるものであり」と特定している技術的意義が不明であるし、また当該要件を満たしつつ、「4以下の酸性pHで安定である」フィコシアニンを見出すために、当業者に過度の試行錯誤を要求することとなる。

したがって、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件特許発明1ないし20を当業者が実施できるように記載されたものではないといえ、実施可能要件を満たしていないこととなる。

(2) 申立理由2-2:アロフィコシアニンについて

本件特許発明4ないし6は、組成物がフィコシアニンと組み合わせて、アロフィコシアニンをさらに含んでなることを特定するものである。

本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、Galdieria sulphuraria(UTEX番号2919)株及びCyanidioschyzon merolae(ACUF199)株からフィコシアニンを抽出したこと(実施例2)、実施例2で抽出したフィコシアニンを用いてpHの関数としての安定性試験を行い酸性pH耐性を確認したこと(実施例3)が記載されてるものの、アロフィコシアニンの酸性pH耐性を裏付ける記載は、全く存在しない。

アロフィコシアニンは、フィコシアニンと同様の吸収スペクトルを有し(甲第3号証:70頁Fig.4.9等)、青色の発色に寄与する(すなわち、酸性pH耐性に寄与する。)ものと解される。

したがって、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、組成物がフィコシアニンと組み合わせて、アロフィコシアニンをさらに含んでなることを特定する本件特許発明4ないし6を当業者が実施できるように記載されたものではなく、実施可能要件を満たしていない。

6 申立理由3(サポート要件) 本件特許の請求項4ないし6に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

なお、申立理由3の具体的理由の概略は次のとおりである。

本件特許発明4ないし6は、組成物がフィコシアニンと組み合わせて、アロフィコシアニンをさらに含んでなることを特定するものである。

本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、Galdieria sulphuraria(UTEX番号2919)株及びCyanidioschyzon merolae(ACUF199)株からフィコシアニンを抽出したこと(実施例2)、実施例2で抽出したフィコシアニンを用いてpHの関数としての安定性試験を行い酸性pH耐性を確認したこと(実施例3)が記載されてるものの、アロフィコシアニンの酸性pH耐性を裏付ける記載は、全く存在しない。

アロフィコシアニンは、フィコシアニンと同様の吸収スペクトルを有し(甲第3号証:70頁Fig.4.9等)、青色の発色に寄与する(すなわち、酸性pH耐性に寄与する。)ものと解される。

したがって、組成物がフィコシアニンと組み合わせて、アロフィコシアニンをさらに含んでなることを特定する本件特許発明4ないし6は、本件特許の明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではなく、サポート要件を満たしていない。

7 証拠方法

甲第1号証:Korean J.Chem.Eng.,2014年,Vol.31(3),pp.490-495
甲第2号証:Biochem.J.,1975年,Vol.147,pp.63-70
甲第3号証:The Structural Basis of Biological Energy Generation,Advances in Photosynthesis and Respiration 39,2014年,pp.59-76
甲第4号証:Photochemistry and Phothobiology,2001年,Vol.73(5),pp.556-563
甲第5号証:Appl.Microbiol.Biotechnol.,2008年,Vol.80,pp.1-14
甲第6号証:特開昭62-6691号公報
甲第7号証:特開昭54-23168号公報

なお、証拠の表記については、おおむね特許異議申立書における記載にしたがった。

第5 令和4年9月22日付けで特許権者に通知した取消理由の概要

請求項1ないし20に係る特許に対して、当審が令和4年9月22日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。

1 取消理由1 (甲第1号証を主たる引用例とする進歩性)

本件特許の請求項1ないし20に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明に基いて、優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

2 取消理由2 (甲第2号証を主たる引用例とする進歩性)

本件特許の請求項1ないし20に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明に基いて、優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

第6 当審の判断

1 令和4年9月22日付けで特許権者に通知した取消理由についての判断

当審は、次のとおり、令和4年9月22日付けで特許権者に通知した取消理由は、何れもその理由がないものと判断する。

(1) 取消理由1(甲第1号証を主たる引用例とする進歩性)について

ア 甲第1号証の記載事項等

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(ア) 甲第1号証の記載事項

本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第1号証には、「Isolation and characterization of thermostable phycocyanin from Galdieria sulphuraria」について、以下の記載がある。なお、当該刊行物は外国語文献であるので、抄訳のみ摘記する(以下、他の外国語文献についても同様。)。

「フィコシアニンは、その優れたスペクトル特性、安定性、高い吸収係数及び高い量子収量のため(これらは多くの合成染料よりも優れている)、有用な蛍光プローブとして機能する。それらは水に非常に溶けやすく、染色された物質の検出に非常に重要な大きなストークスシフトを示す[10,16,26]。したがって、フィコシアニン及び関連サブユニットは、食品、化粧品、バイオテクノロジー、診断及び医薬における多くの用途に利用されている[17-19]。それらの蛍光特性は、高感度の蛍光技術において有用な蛍光タグとして機能することを可能にする[2,20]。その結果、フィコビリタンパク質は、臨床及び免疫学の研究室で広く使用されており[21]、蛍光活性化細胞選別装置、免疫標識実験、蛍光顕微鏡及び診断において、抗体、受容体及び他の生物学的分子の標識として用いられている。加えて、フィコシアニンは無毒であり、外部に適用しても内部に適用しても健康リスクをもたらさない。この性質は、バイオテクノロジー、法医生物学、バイオテクノロジー、法医血清学、分子生物学及び組換え技術を含む法医科学の種々の分野で有用である。最後に、美的に魅力的なスペクトル挙動のために、フィコシアニンは染料産業及び化粧品において商業的に広く使用されている。スピルリナは、フィコシアニンの生産のために培養される主要な生物の一つである[22-25]。
Galdieria sulphurariaは好酸性及び好熱性の紅藻であり[6,14]、40℃以上及びpH 1-2の極端な環境条件に耐えることができる。この菌株は、種々のタイプの有機炭素源を用いて光栄養又は従属栄養条件下で培養することができる。G. sulphurariaは、フィコシアニンに富むことが知られているが、この菌株からのフィコシアニンの抽出と精製は実験的に示されていない。本研究の目的は、硫酸アンモニウム沈殿を利用したG. sulphurariaからの熱安定フィコシアニンの単離と特徴付けである。特に、抽出したフィコシアニンの安定性に及ぼす温度及び時間の影響を調べた。」(第490頁右欄第12行ないし第491頁左欄第13行)
「1.微生物培養及び増殖条件
紅藻のGaldieria sulphurariaは、テキサス大学オースティン校(米国、UTEX)の藻類培養コレクションから得られた。株番号はUTEX番号2919である。標準的な微生物学的技術を用いて、培養物の単離、濃縮及び精製を行った。G.sulphurariaの培養物の顕微鏡的形態と蛍光特性を図1に示す。培養はCyanidium培地(pH 2.7)で行い、培地は(1L当たり)1.00gの(NH4)2SO4、0.02gのK2HPO4、0.02gのMgSO4・7H2O及び30mLの土壌抽出物からなる。G.sulphuraria細胞を30℃で30~50μmol光子m-2s-1の下で250mLのCyanidium培地を含む500mLのバッフルフラスコ(DURAN(登録商標))中で増殖させた。
2.フィコシアニン粗抽出物の調製
フィコシアニン含有培養物を、8,000rpmで10分間4℃で遠心分離することにより回収した。細胞ペレットを蒸留水で2回洗浄した。洗浄した細胞塊(30グラム湿潤)を30mLの100mMリン酸緩衝液(pH 7.2)に懸濁し、-80℃及び4℃で凍結解凍した。凍結解凍ステップを三回繰り返して抽出を完了した。細胞デブリを10,000rpmで30分間4℃で遠心分離して除去し、PBP抽出物を含む青色上清を新しいチューブに収集した。この抽出物を粗抽出物と名付けた。
3.粗抽出物からのフィコシアニンの精製
青緑色の粗抽出物を、硫酸アンモニウムの固体粉末を用いた分別沈殿によりさらに精製した。最初の沈殿を飽和度25%で行い、次に固体硫酸アンモニウムを添加して飽和度50%で第二段階を行うという2サイクルプロセスを行った[27]。ボルテックスし、4℃で一晩インキュベートすることによって固体硫酸アンモニウムを溶解した。沈殿を10,000×gで30分間4℃で遠心分離することによって回収し、透明な無色の上清を廃棄し、青色の沈殿を、少量(10mL)の50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH 4.5)に溶解した。得られた試料の量(収率)と質(純度比)を250-800nmの吸収スペクトルを記録してモニタした。」(第491頁左欄第15行ないし同頁右欄第13行)
「6.異なる温度がフィコシアニンの安定性に及ぼす影響
フィコシアニンの安定性に対する種々の温度の影饗を調べるために、マイクロ遠心管中の1mLのフィコシアニン溶液を、Eppendorf Thermo mixer comfort (Eppendorf,Hamburg,Germany)中で350rpmで30分間、異なる温度(25,35,45,55,62,65,75,85±1℃)でインキュベートした。30分後、試料を遠心分離してデブリを除去し、620nmで分光光度計によって分析した。
フィコシアニンの熱安定性に対する時間依存性を決定するために、試料を62℃でインキュベートし、620nmでの吸光度を一定の間隔で測定した(0~150分)。初期濃度に対するフィコシアニンの残存濃度(CR,%)を次式を用いて計算した[3]。
CR(%)=C/C0×100;フィコシアニンの相対濃度(CR、%)は、初期濃度(C0)に対するパーセンテージとしてのフィコシアニンの残存濃度である。」(第492頁左欄第17ないし32行)
「
[図:0001400442000001.jpg]
」(第494頁左欄Fig.6)

(イ) 甲第1号証に記載された発明

上記(ア)の記載からみて、甲第1号証には次の発明が記載されているものと認める。

「Galdieria sulphuraria(UTEX番号2919)から抽出されたフィコシアニン。」(以下、「甲1発明」という。)

イ 対比・判断

(ア) 本件特許発明1について

本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明のフィコシアニンは、Galdieria sulphuraria(UTEX番号2919)から抽出されたものであるから、本件特許発明1の「フィコシアニンが、イデユコゴメ(Cyanidiales)目の藻類または微細藻類から抽出されたフィコシアニンである」との特定事項を満たす。

してみると、両者は、

「イデユコゴメ(Cyanidiales)目の藻類または微細藻類から抽出されたフィコシアニン」

で一致し、次の点で相違する。

・相違点1-1

本件特許発明1は、「少なくとも1つの鉱物酸または有機酸と、少なくとも1つの酸性pH耐性フィコシアニンとを含んでなり、4以下のpHを有する酸性食品組成物」であるのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。

・相違点1-2

「フィコシアニン」について、本件特許発明1は、「4以下の酸性pHで安定であり、」「前記フィコシアニンが、フィコビリタンパク質であり、そのアポタンパク質が配列番号1のタンパク質または当該タンパク質と少なくとも90%の配列同一性を有し、青色を発色するその改変体、または配列番号2のタンパク質または当該タンパク質と少なくとも90%の配列同一性を有し、青色を発色するその改変体を含んでなるものであり、」と特定されるのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。

上記相違点について検討する。

相違点1-1について検討するに、甲1発明の「フィコシアニン」は、甲第1号証にも記載されているように食品への適用も想定されているものであるが、甲第1号証には、食品のpHについては何ら記載も示唆もされていない。

一方、甲第6号証(応用例2)、甲第7号証(実施例4)によれば、鉱物酸又は有機酸を含む酸性食品にフィコシアニンを添加したものが、本件特許の優先日前において知られていることが窺えるが、当該酸性食品のpHが4以下であることが周知であるとまでいうことはできない(甲第7号証(実施例4)のアイスバーのpHは不明である。)。

そして、甲第1号証の記載及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲1発明の「フィコシアニン」を添加する食品(食品組成物)のpHを、4以下とする動機付けもない。

してみれば、甲1発明において、相違点1-1に係る本件特許発明1の特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たものとはいえない。

この点について、特許異議申立人は、令和5年2月15日に提出した意見書において、鉱物酸又は有機酸を含み、4以下のpHを有する酸性食品は、本件特許の優先日前において周知である(甲第6号証の応用例2及び甲第7号証の実施例4)旨主張する。

しかしながら、酸性食品のpHは様々な値のものが存在するところ、甲第1号証及び全ての証拠の記載を見ても、上記のとおり、フィコシアニンを添加した酸性食品について、そのpHが4以下であることが周知であるとまではいえず、また、「4以下のpHを有する」ものを選択する動機付けがあるともいえないから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

したがって、本件特許発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ) 本件特許発明2ないし9及び11ないし20について

本件特許発明2ないし9及び11ないし20はいずれも、本件特許発明1の全ての特定事項を有するものである。

そして、本件特許発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明2ないし9及び11ないし20もまた、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 取消理由1についてのまとめ

上記イのとおりであるから、取消理由1は、その理由がない。

(2) 取消理由2(甲第2号証を主たる引用例とする進歩性)について

ア 甲第2号証の記載事項等

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(ア) 甲第2号証の記載事項

本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第2号証には、「Physical-Chemical Properties of C-Phycocyanin Isolated from an Acido-Thermophilic Eukaryote, Cyanidium caldarium」について、以下の記載がある。

「好酸-好熱真核藻類Cyanidium ca1darium由来のC-フィコシアニンのサブユニット構造、吸収スペクトル及び蛍光特性の特徴付けを行い、中温性源由来のC-フィコシアニンと類似していることが分かった。」(第63頁要約部第1ないし3行)

(イ) 甲第2号証に記載された発明

上記(ア)の記載や実験に関する記載からみて、甲第2号証には次の発明が記載されているものと認める。

「Cyanidium ca1darium由来のフィコシアニン。」((以下、「甲第2発明」という。)

イ 対比・判断

(ア) 本件特許発明1について

本件特許発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明のフィコシアニンは、Cyanidium ca1darium由来であるから、本件特許発明1の「フィコシアニンが、イデユコゴメ(Cyanidiales)目の藻類または微細藻類から抽出されたフィコシアニンである」との特定事項を満たす。

してみると、両者は、

「イデユコゴメ(Cyanidiales)目の藻類または微細藻類から抽出されたフィコシアニン」

で一致し、次の点で相違する。

・相違点2-1

本件特許発明1は、「少なくとも1つの鉱物酸または有機酸と、少なくとも1つの酸性pH耐性フィコシアニンとを含んでなり、4以下のpHを有する酸性食品組成物」であるのに対し、甲2発明にはそのような特定がない点。

・相違点2-2

「フィコシアニン」について、本件特許発明1は、「4以下の酸性pHで安定であり、」「前記フィコシアニンが、フィコビリタンパク質であり、そのアポタンパク質が配列番号1のタンパク質または当該タンパク質と少なくとも90%の配列同一性を有し、青色を発色するその改変体、または配列番号2のタンパク質または当該タンパク質と少なくとも90%の配列同一性を有し、青色を発色するその改変体を含んでなるものであり、」と特定されるのに対し、甲2発明にはそのような特定がない点。

上記相違点について検討する。

相違点2-1は、上記(1)イ(ア)における相違点1-1と同旨であって、甲2発明においても、上記(1)イ(ア)と同様に判断される。

したがって、本件特許発明1は、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ) 本件特許発明2ないし9及び11ないし20について

本件特許発明2ないし9及び11ないし20はいずれも、本件特許発明1の全ての特定事項を有するものである。

そして、本件特許発明1は、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明2ないし9及び11ないし20もまた、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 取消理由2についてのまとめ

上記イのとおりであるから、取消理由2は、その理由がない。

2 令和4年9月22日付けで特許権者に通知した取消理由に採用しなかった特許異議申立理由について

令和4年9月22日付けで特許権者に通知した取消理由に採用しなかった特許異議申立理由は、申立理由1-3、申立理由1-4、申立理由2及び申立理由3である。

以下、順に検討する。

(1) 申立理由1-3(甲第6号証を主たる証拠とする進歩性)について

ア 甲第6号証の記載事項等

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(ア) 甲第6号証の記載事項

甲第6号証には、「藍藻からのフイコシアニン色素A、その製造方法及びその用途」に関し、次の記載がある。(なお、半角文字・記号を全角に直した上で摘記した部分がある。)

「1.下記性質を有するフィコシアニン色素A。
(A)性 状
610~620nmの所で吸収最大波長を持つ開環したテトラピロールとタンパク質が結合した構造を有する青色色素タンパク質で、45℃以上で生育する藍藻内に存在する。
(B)色素の安定温度範囲
続きを表示(全23行)
温度範囲:-5~80℃
(C)色素の安定pH範囲
pH範囲:2~9
至適pH:7
(D)色素タンパクの分子量
18000±1000のα及びβサブユニットから成立する。
(E)色素のアルコールに対する安定性
アルコール濃度:0~50%で安定である。
(F)色素の精製方法
DEAE-カラムクロマトグラフィーにより、0.1M NaClでは溶出されず、0.2M NaClにより溶出される。
(G)色素の変性
1%ドデシル硫酸ナトリウムによりタンパク変性が起こり、青色がなくなり透明となる。
(H)吸収波長スペクトル
図1に示す。
2.藍藻の内、45℃以上の温度で生育する好熱性藍藻を培養し採取した藻体からフィコシアニン色素を抽出することを特徴とするフィコシアニン色素の製造方法。
3.藍藻がシネココッカス(Synechococcus)属である特許請求の範囲第2項記載のフィコシアニン色素の製造方法。
4.藍藻がマスティゴクラディス(Mastigocladus)属である特許請求の範囲第2項記載のフィコシアニン色素の製造方法。
5.藍藻がプルロカプサ(Pleurocapsa)属である特許請求の範囲第2項記載のフィコシアニン色素の製造方法。
6.フィコシアニンAにより着色されてなることを特徴とする食品、化粧品及び医薬品。」(第1頁左下欄第6行ないし同頁右下欄末行)
「〔産業上の利用分野〕
本発明は、藍藻からの新規な耐熱性、pH安定性、耐アルコール性に優れたフィコシアニン色素A、その製造方法及びその用途に関する。」(第2頁左上欄第2ないし5行)

「しかしながら、これらフィコシアニン色素は、その構造の中に蛋白質部分を含むため、耐熱性、pH安定性、耐アルコール性が悪く、その食品、化粧品、薬品等への利用に限界があった。」(第2頁左上欄第21行ないし同頁右上欄第2行)

「フィコシアニン色素のpH安定性の測定は、以下の方法で行った。フィコシアニン色素をクエン酸-クエン酸ナトリウム緩衝液(pH3~6)又は、アスコルビン酸溶液(pH2)に溶解し、各pHで1時間室温で放置した後、吸光度(610nm)を測定する。比較対照として、燐酸緩衝液(pH7.0)に溶解したものの吸光度との比較により各pHでの安定性を検討した。」(第3頁右下欄第2ないし8行)

「〔効 果〕
本発明のフィコシアニン色素Aは、従来のフィコシアニン色素と比べて耐熱安定性、pH安定性、耐アルコール性に優れるので従来のフィコシアニン色素が通用できなかった加熱殺菌を必要とする食品、例えば乳製品(牛乳、チーズ、ヨーグルト等)、肉加工品(ハム等)、魚肉練り製品(ちくわ、はんぺん、かまぼこ等)、pHの低い食品例えば炭酸飲料、ジュース類、アルコールを含む食品例えば酒類(カクテル、リキュール、日本酒、ワイン、ビール、焼酎)、界面活性剤を含む食品例えば、アイスクリーム、マヨネーズ、ドレッシング、パン、クッキー、マーガリン等多くの種類の食品に適用できるばかりでなく、加熱する、pHの低い、アルコールを含む、界面活性剤を含む等の化粧品例えば香水、ヘアーリキッド、化粧水、口紅、アイシャドー等や医薬品例えば錠剤、コーティング剤、粉末薬剤、目薬、歯みがき剤、液状の薬剤等の着色剤として使用される。」(第4頁左上欄第4ないし19行)
「〔実施例〕
次に実施例により本発明を説明するが、以下の例に限定されるものではない。
実施例1及び比較例1
本発明の好熱性藍藻であるシネココッカス(Synechoco-ccus)ATCC27149のフィコシアニン色素Aの性質と、45℃以上の温度で生育しない常温性藍藻のスピルリナ プラテンシス(Spirulina platensis)ATCC29408のフィコシアニン色素とを比較検討した。前記の測定方法に基づき、フィコシアニン色素の耐熱性、pH安定性、耐アルコール性を検討し、結果を表1、表2、表3に示した。
・・・(略)・・・
pH安定性(表2参照)の場合、シネココッカスATCC27149及びスピルリナ プラテンシスATCC29408の吸光度は、pH5まではほぼ同じ吸光度を維持していたが、pH4の場合シネココッカスATCC27149が97%の吸光度を維持していたのにスピルリナ プラテンシスATCC29408は57%の吸光度まで低下していた。又、pH2においてもシネココッカスATCC27149が60%の吸光度であったのに対しスピルリナ プラテンシスATCC29408は、20%の吸光度であった。この様に、pH安定性においても好熱性藍藻シネココッカスATCC27149のフィコシアニン色素は優れたpH安定性を所有している。
[図:0001400442000002.jpg]
」(第4頁左上欄第20行ないし同頁右下欄第1行及び表2)
「応用例2
砂糖3.6g、ブドウ糖果糖液糖21.6g、クエン酸360mg、クエン酸ナトリウム19.8mg、サイダエッセンス225mg、フィコシアニン色素A(Synechococcus ATCC27149)0.36mgを炭酸水180mlで溶解する。得られたサイダー(pH3.5)は、さわやかな青色を有するpH安定性に優れたものであった。」(第6頁左上欄第19行ないし同頁右上欄第3行)

(イ) 甲第6号証に記載された発明

上記(ア)の記載、特に、応用例2の記載を中心に整理すると、甲第6号証には次の発明が記載されているものと認める。

「砂糖3.6g、ブドウ糖果糖液糖21.6g、クエン酸360mg、クエン酸ナトリウム19.8mg、サイダエッセンス225mg、フィコシアニン色素A(Synechococcus ATCC27149)0.36mgを炭酸水180mlで溶解し、得られたサイダー(pH3.5)。」(以下、「甲6発明」という。)

イ 対比・判断

(ア) 本件特許発明1について

本件特許発明1と甲6発明とを対比する。

甲6発明の「クエン酸」、「サイダー」は、それぞれ、本件特許発明1の「少なくとも1つの鉱物酸又は有機酸」、「酸性食品組成物」に相当する。

また、甲6発明の「サイダー」は「pH3.5」であるから、本件特許発明1の「4以下のpHを有する酸性食品組成物」との特定事項を満たす。

してみると、両者は、

「少なくとも1つの鉱物酸または有機酸と、少なくとも1つのフィコシアニンとを含んでなり、4以下のpHを有する酸性食品組成物。」

で一致し、次の点で相違する。

・相違点6

「フィコシアニン」に関し、本件特許発明1は「酸性pH耐性フィコシアニン」であって、「前記フィコシアニンが、4以下の酸性pHで安定であり、
前記フィコシアニンが、フィコビリタンパク質であり、そのアポタンパク質が配列番号1のタンパク質または当該タンパク質と少なくとも90%の配列同一性を有し、青色を発色するその改変体、または配列番号2のタンパク質または当該タンパク質と少なくとも90%の配列同一性を有し、青色を発色するその改変体を含んでなるものであり、
前記フィコシアニンが、イデユコゴメ(Cyanidiales)目の藻類または微細藻類から抽出されたフィコシアニンである」と特定するのに対し、甲6発明にはそのような特定がない点。

上記相違点6について検討する。

甲第6号証の記載及び他の証拠の全ての記載をみても、甲6発明の「フィコシアニン色素A」が、相違点6に係る本件特許発明1の特定事項を満たすものと推認する証拠はない。

そして、甲6発明は、「フィコシアニン色素A」を用いることを必須とするものであり、当該「フィコシアニン色素A」を他の「フィコシアニン」に変更することには動機付けがない(むしろ、阻害要因があるともいえる。)。

この点に関し、特許異議申立人は、甲6発明において、甲第1号証又は甲第2号証に記載されたフィコシアニンを採用することは当業者が容易になし得たことである旨主張する(特許異議申立書第38頁ないし39頁)。

しかしながら、上記のとおり、甲6発明は「フィコシアニン色素A」を用いることを必須とするものであって、他のフィコシアニンに変更する動機付けはないから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

したがって、本件特許発明1は、甲6発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ) 本件特許発明2ないし9、11ないし15及び18ないし20について

本件特許発明2ないし9、11ないし15及び18ないし20はいずれも、本件特許発明1の全ての特定事項を有するものである。

そして、本件特許発明1は、甲6発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の全ての特定事項を有するものである本件特許発明2ないし9、11ないし15及び18ないし20もまた、甲6発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 申立理由1-3についてのまとめ

上記イのとおりであるから、申立理由1-3は、その理由がない。

(2) 申立理由1-4(甲第7号証を主たる証拠とする進歩性)について

ア 甲第7号証の記載事項等

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(ア) 甲第7号証の記載事項

甲第7号証には、「着色冷菓類の製造法」に関し、次の記載がある。(なお、半角文字・記号を全角に直した上で摘記した部分がある。)

「スピルリナ属の藍藻から抽出した青色々素を用いた着色冷菓類の製造法」(第1頁左下欄第5ないし6行 「特許請求の範囲」)

「スピルリナ属の藍藻は種々あるが、人為的に培養し易いスピルリナプラテンシス(Spirulina platencis)、スピルリナマキシマ(Spirulina maxima)、スピルリナゲイトレリ(Spirulina geitleri)等から青色々素は抽出される。
スピルリナ属の曹藻から青色々素を抽出する方法としては次の様な方法がある。
即ち、pH4~7のリン酸緩衝液150ccに対し、スピルリナ乾燥藻体を最大限10gの割合で加え、遮光下で温度0~40℃に於て10分間以上保持することにより青色々素は抽出される。更に、青色々素を精製単離するには遠心分離によりスピルリナの残渣と、青色々素の抽出液とに分離した後、抽出液に硫酸アンモニウムを添加して塩析を行い、青色々素を沈澱させる。次いで遠心分離により沈澱物を得た後にこの沈澱物を水に溶解させて水溶液とし、セロフアン膜を使用して透析を行つてから濃縮する。
次いで、これを凍結乾燥又は噴霧乾燥することによつて目的の青色々素を得ることができる。
この青色々素はフイコシアニン(Phycocyanin)を主体とした色素(以下単に青色々素という)であり、該フイコシアニンの構造は次の通りである。」(第1頁右下欄第14行ないし第2頁右上欄第3行)
「実施例 4
砂糖1.5Kg、クエン酸0.1Kg、香料0.1Kg及び水8.4Lよりなるアイスバー原料に、青色々素0.6gを水0.1Lに溶解させたものを攪拌しながら添加した後、直径20m/m、長さ150m/mの合成樹脂製アイスバー容器に充填し、これをフリージングボツクス中で凍結させて透明性の高いブルーのアイスバーを製造した。」(第3頁左下欄第4ないし10行)

(イ) 甲第7号証に記載された発明

上記(ア)の記載、特に、「実施例 4」の記載を中心に整理すると、甲第7号証には次の発明が記載されていると認める。

「砂糖1.5Kg、クエン酸0.1Kg、香料0.1Kg及び水8.4Lよりなるアイスバー原料に、青色々素0.6gを水0.1Lに溶解させたものを攪拌しながら添加した後、直径20m/m、長さ150m/mの合成樹脂製アイスバー容器に充填し、これをフリージングボツクス中で凍結させて製造された、透明性の高いブルーのアイスバー。」

イ 対比・判断

(ア) 本件特許発明1について

本件特許発明1と甲7発明とを対比する。

甲7発明の「クエン酸」、「アイスバー」は、それぞれ、本件特許発明1の「少なくとも1つの鉱物酸又は有機酸」、「酸性食品組成物」に相当する。

また、甲7発明の「青色々素」は、フイコシアニン(Phycocyanin)を主体としたものであるから、本件特許発明1の「フィコシアニン」に相当する。

してみると、両者は、

「少なくとも1つの鉱物酸または有機酸と、少なくとも1つのフィコシアニンとを含んでなる、酸性食品組成物。」

で一致し、次の点で相違する。

・相違点7-1

酸性食品組成物に関し、本件特許発明1は「4以下のpHを有する」と特定されるのに対し、甲7発明にはそのような特定がない点。

・相違点7-2

「フィコシアニン」に関し、本件特許発明1は「酸性pH耐性フィコシアニン」であって、「前記フィコシアニンが、4以下の酸性pHで安定であり、
前記フィコシアニンが、フィコビリタンパク質であり、そのアポタンパク質が配列番号1のタンパク質または当該タンパク質と少なくとも90%の配列同一性を有し、青色を発色するその改変体、または配列番号2のタンパク質または当該タンパク質と少なくとも90%の配列同一性を有し、青色を発色するその改変体を含んでなるものであり、
前記フィコシアニンが、イデユコゴメ(Cyanidiales)目の藻類または微細藻類から抽出されたフィコシアニンである」と特定するのに対し、甲7発明にはそのような特定がない点。

事案に鑑み、相違点7-2について検討する。

甲7発明は、「フィコシアニン」を用いるものではあるものの、甲第7号証及び他の全ての証拠の記載をみても、甲7発明において、特に「4以下の酸性pHで安定」である「フィコシアニン」を選択し置き換える動機がない。

この点に関し、特許異議申立人は、甲7発明において、甲第1号証又は甲第2号証に記載されたフィコシアニンを採用することは当業者が容易になし得たことである旨主張する(特許異議申立書第43頁)。

しかしながら、上記のとおり、甲7発明において、「4以下の酸性pHで安定」である「フィコシアニン」に変更する動機付けはないから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

したがって、本件特許発明1は、甲7発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ) 本件特許発明2ないし9及び11ないし17について

本件特許発明2ないし9及び11ないし17はいずれも、本件特許発明1の全ての特定事項を有するものである。

そして、本件特許発明1は、甲7発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の全ての特定事項を有するものである本件特許発明2ないし9及び11ないし17もまた、甲7発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 申立理由1-4についてのまとめ

上記イのとおりであるから、申立理由1-4は、その理由がない。

(3) 申立理由2(実施可能要件)について

当合議体は、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載からみて、本件特許発明1ないし9及び11ないし20は、実施可能要件を満足するものと判断する。

そして、特許異議申立人の主張については次のとおり、いずれもその理由がないものと判断する。

ア 申立理由2-1について

特許異議申立人は、甲第2号証において単離されたフィコシアニンが、「仮に“4以下の酸性pHで安定であ”るとはいえない」とすれば、本件特許発明を実施するために当業者に過度の試行錯誤が要求される旨主張するが、当該主張は仮定に基づくものであって、本件特許の明細書の発明の詳細な説明において、当業者が本件特許発明を実施できるかどうかに影響するものではない。(なお、当該仮定が成立するのであれば、そもそも、甲第2号証に基づく進歩性の申立理由(申立理由1-2)は、成立しないものとなるともいえる。)

よって、特許異議申立人の上記主張は採用しない。

イ 申立理由2-2について

特許異議申立人は、アロフィコシアニンの酸性pH耐性を裏付ける記載がない旨主張するが、本件特許の【0093】の【表3】及び【表4】には、フィコシアニン及びアロフィコシアニンのサブユニットについて等電点の計算結果が示されている。

これらの記載に接した当業者であれば、フィコシアニン及びアロフィコシアニンの酸性pH耐性を認識できるものといえるから、特許異議申立人の上記主張は採用しない。

ウ 申立理由2についてのまとめ

上記ア及びイのとおりであるから、申立理由2は、その理由がない。

(4) 申立理由3(サポート要件)について

当合議体は、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載からみて、本件特許発明1ないし9及び11ないし20は、サポート要件を満足するものと判断する。

そして、特許異議申立人の主張については次のとおり、その理由がないものと判断する。

特許異議申立人は、アロフィコシアニンのpH耐性を裏付ける記載がない旨主張するが、この点については、上記(3)イで検討したとおりである。

よって、特許異議申立人の上記主張は採用しない。

したがって、申立理由3は、その理由がない。

第7 結語

以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし9及び11ないし20に係る特許を取り消すことはできない。

また、他に本件特許の請求項1ないし9及び11ないし20に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

請求項10に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項10に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

よって、結論のとおり決定する。

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2022-700458

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