特許異議申立
2022-700744
インセル型液晶パネルおよび液晶表示装置
- 審判番号
- 2022-700744
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-134437
- 登録番号
- 7018486
- 請求日
- 2022年08月01日
- 審決日
- 2024年03月08日
- 公報発行日
- 2024年07月26日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】日東電工株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
- 【異議申立人】松永 健太郎
- 審判長/審判官
- 審判長 秋田 将行
- 審判官 山村 浩
- 審判官 波多江 進
- 分類
- P1651.121-ZAA(G02F) / P1651.536-ZAA(G02F) / P1651.537-ZAA(G02F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第2号、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7018486号発明「インセル型液晶パネルに用いる粘着剤層付き偏光フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7018486号「インセル型液晶パネルに用いる粘着剤層付き偏光フィルム」の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正することを認める。
特許第7018486号の請求項1に係る特許を取り消す。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7018486号(以下「本件特許」という。)の請求項1に係る特許についての出願は、平成30年3月28日(優先権主張 平成29年3月28日)に出願した特願2019-509976号の一部を令和2年8月7日に新たな特許出願としたものであって、令和4年2月2日にその特許権の設定登録がされ、令和4年2月10日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和4年 8月 1日 :特許異議申立人松永健太郎(以下「申立人」という。)による特許異議の申立て
令和4年12月26日付け:取消理由通知書(以下、この取消理由通知書で通知した取消理由を「第1次取消理由」という。)
令和5年 3月 9日 :特許権者による意見書及び訂正請求書(以下、この訂正請求書による訂正を「本件第1次訂正」という。)の提出
令和5年 4月26日 :申立人による意見書の提出
令和5年 7月18日付け:取消理由通知書(決定の予告。以下、この取消理由通知書で通知した取消理由を「第2次取消理由」という。)
令和5年 9月13日 :特許権者による意見書及び訂正請求書(以下、この訂正請求書による訂正を「本件訂正」という。)の提出
令和5年10月27日 :申立人による意見書の提出
なお、本件第1次訂正に係る請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなされた。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正の内容は、次のとおりである。下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1(本件訂正に係る訂正請求書に記載された訂正事項1~5)
本件特許の登録時の請求項1に、
「電界が存在しない状態でホモジニアス配向した液晶分子を含む液晶層、前記液晶層を両面で挟持する第1透明基板および第2透明基板、並びに、前記第1透明基板と第2透明基板との間にタッチセンサーおよびタッチ駆動の機能に係るタッチセンシング電極部を有するインセル型液晶セルと、
前記インセル型液晶セルの視認側の第1透明基板の側に、導電層を介することなく第1粘着剤層を介して配置された粘着剤層付偏光フィルムを有するインセル型液晶パネルに用いる粘着剤層付き偏光フィルムであって、
表面処理層、第1偏光フィルム、アンカー層、第1粘着剤層をこの順で有し、
前記アンカー層、及び、前記第1粘着剤層は帯電防止剤を含有し、
前記アンカー層は、表面抵抗値が1×108~1×1011Ω/□であり、
前記第1粘着剤層は、前記帯電防止剤としてアルカリ金属塩及び/または有機カチオン-アニオン塩を含有し、前記第1粘着剤層の表面抵抗値が1×108~1×1011Ω/□であることを特徴とする粘着剤層付き偏光フィルム。」
と記載されているのを、
「液晶パネルに用いる粘着剤層付き偏光フィルムであって、
前記液晶パネルは、インセル型液晶セルを有するインセル型液晶パネルであり、
前記インセル型液晶セルは、電界が存在しない状態でホモジニアス配向した液晶分子を含む液晶層、前記液晶層を両面で挟持する第1透明基板および第2透明基板、並びに、前記第1透明基板と第2透明基板との間にタッチセンサーおよびタッチ駆動の機能に係るタッチセンシング電極部を有しており、
前記粘着剤層付き偏光フィルムは、表面処理層、第1偏光フィルム、アンカー層、第1粘着剤層をこの順で有し、
前記インセル型液晶セルの視認側の第1透明基板の側に、導電層を介することなく前記第1粘着剤層を介して配置されるものであり、
前記アンカー層、及び、前記第1粘着剤層は帯電防止剤を含有し、
前記アンカー層は、前記帯電防止剤として水溶性導電性ポリマーまたは水分散性導電性ポリマー、および、水溶性もしくは水分散性のバインダーを含有し、前記アンカー層は、表面抵抗率が1×108~1×1011Ω/□であり、
前記第1粘着剤層は、前記帯電防止剤としてアルカリ金属塩及び/または有機カチオン-アニオン塩を含有し、前記第1粘着剤層の表面抵抗率が1×108~1×1011Ω/□であることを特徴とするインセル型液晶パネルに用いる粘着剤層付き偏光フィルム。」に訂正する。
(2)訂正事項2(本件訂正に係る訂正請求書に記載された訂正事項6)
本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)の【発明の名称】に記載された「インセル型液晶パネルおよび液晶表示装置」を「インセル型液晶パネルに用いる粘着剤付き偏光フィルム」に訂正する。
(3)訂正事項3(本件訂正に係る訂正請求書に記載された訂正事項7)
本件明細書等の段落【0004】、【0013】、【0022】、【0024】、【0025】、【0026】、【0027】、【0028】、【0047】、【0052】、【0053】、【0064】、【0068】、【0069】、【0073】、【0077】、【0088】、【0119】及び【0123】の「表面抵抗値」の記載を、「表面抵抗率」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1に係る訂正は以下の内容からなるものである。
(i)訂正前の請求項1では、これが末尾の「粘着剤層付き偏光フィルム」に係るものと記載されている一方で、当該「粘着剤層付き偏光フィルム」が「電界が存在しない状態で・・・インセル型液晶セルと、」「前記インセル型液晶セルの・・・インセル型液晶パネルに用いる粘着剤層付き偏光フィルムであ」るとも記載されていることから、末尾の記載とその他の記載との間に不整合があって明瞭でなく、そこで、上記不整合の原因となる記載のうち後者の記載、つまり、「電界が存在しない状態で・・・インセル型液晶セルと、」「前記インセル型液晶セルの・・・インセル型液晶パネルに用いる粘着剤層付き偏光フィルムであって、」の記載を削除しつつ、「液晶パネルに用いる粘着剤層付き偏光フィルムであって、前記液晶パネルは、インセル型液晶セルを有するインセル型液晶パネルであり、」の記載を冒頭に追加することによって、当該請求項が末尾の「粘着剤層付き偏光フィルム」に係るものとされることを明らかにして上記不整合を解消させる訂正。
(ii)上記(i)の「液晶パネルに用いる粘着剤層付き偏光フィルムであって、前記液晶パネルは、インセル型液晶セルを有するインセル型液晶パネルであり、」の記載が冒頭に追加されたことに伴い、末尾の「粘着剤層付き偏光フィルム」を「インセル型液晶パネルに用いる粘着剤層付き偏光フィルム」に訂正して、冒頭の記載と末尾の記載との不整合を解消させる訂正。
(iii)上記(i)の「電界が存在しない状態で・・・インセル型液晶セルと、」の記載が削除されたことに伴い、上記削除された記載に代えて、「前記インセル型液晶セルは、電界が存在しない状態でホモジニアス配向した液晶分子を含む液晶層、前記液晶層を両面で挟持する第1透明基板および第2透明基板、並びに、前記第1透明基板と第2透明基板との間にタッチセンサーおよびタッチ駆動の機能に係るタッチセンシング電極部を有しており、」との記載を追加することによって、訂正後の請求項1が「インセル型液晶パネルに用いる粘着剤層付き偏光フィルム」に係るものとされたことと整合させるように表現ぶりを調整して明瞭にする訂正。
(iv)上記(i)の「前記インセル型液晶セルの・・・インセル型液晶パネルに用いる粘着剤層付き偏光フィルムであって、」の記載が削除されたことに伴い、訂正前の請求項1の「表面処理層、第1偏光フィルム、アンカー層、第1粘着剤層をこの順で有し、」の記載、及び、上記削除された記載のうち、「前記インセル型液晶セルの視認側の第1透明基板の側に、導電層を介することなく第1粘着剤層を配置された粘着剤層付き偏光フィルム」の記載に代えて、「前記粘着剤層付き偏光フィルムは、表面処理層、第1偏光フィルム、アンカー層、第1粘着剤層をこの順で有し、前記インセル型液晶セルの視認側の第1透明基板の側に、導電層を介することなく前記第1粘着剤層を介して配置されるものであり、」との記載を追加することによって、訂正後の請求項1が「インセル型液晶パネルに用いる粘着剤層付き偏光フィルム」に係るものとされたことと整合させるように表現ぶりを調整して明瞭にする訂正。
(v)訂正前の請求項1の「表面抵抗値」の記載と単位の「Ω/□」の記載とが整合しておらず明瞭でなかったのを、「表面抵抗値」を「表面抵抗率」と訂正することによって、両者を整合させて明瞭にする訂正。
(vi)訂正前の請求項1の「アンカー層」が「前記帯電防止剤として水溶性導電性ポリマーまたは水分散性導電性ポリマー、および、水溶性もしくは水分散性のバインダーを含有」するものであることを限定する訂正。
上記(i)~(v)に係る訂正は、いずれも、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、上記(vi)に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
上記(i)~(iv)に係る訂正は、単に表現ぶりを整理したにすぎないものであるから、新たな技術的事項を導入するものではない。
上記(v)に係る訂正は、一般に「Ω/□」という単位に誤りが入るとは考えにくく、また、本件明細書等の記載をみても、上記単位のとおりの理解を妨げる事情はないことから、訂正前の「表面抵抗値」の記載を上記単位に整合させるように訂正することによって、新たな技術的事項が導入されることはない。
上記(vi)に係る訂正は、本件明細書等の【0051】に、「アンカー層の形成材料」について「帯電防止剤が水溶性導電性ポリマーまたは水分散性導電性ポリマーの水系材料の場合には、水溶性もしくは水分散性のバインダー成分を用いる。」と記載されていることから、新たな技術的事項を導入するものではない。
よって、訂正事項1に係る訂正は、新規事項を追加するものではない。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記(i)に係る訂正は、上記アによれば、要するに、訂正前の請求項1が、「インセル型液晶セル」と「粘着剤層付き偏光フィルム」とを併せた構成に係るものではなく、末尾の「粘着剤層付き偏光フィルム」に係るものであることを明らかにする訂正であるところ、当業者であれば、一の請求項中にこのような不整合がある場合には、一般に、末尾の記載を優先して理解するといえることから、上記訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
上記(ii)~(iv)に係る訂正は、単に表現ぶりを整理したにすぎず、また、上記(v)に係る訂正は、上記イのとおり、誤りではないと解される単位の記載にそれを表す用語を整合させたにすぎないものである。
上記(vi)に係る訂正は、上記ア及びイに照らせば、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
よって、訂正事項1に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(2)訂正事項2
ア 訂正の目的の適否
訂正事項2に係る訂正は、訂正事項1に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と本件明細書等の発明の名称の記載との整合を図るための訂正である。
よって、訂正事項2に係る訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正事項2について、本件明細書等の【0024】には「インセル型液晶パネルの視認側に用いる粘着剤層付偏光フィルム」と記載されている。
よって、訂正事項2に係る訂正は、新規事項を追加するものではない。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2に係る訂正は、本件明細書等の発明の名称を訂正後の請求項1の記載に整合させるものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(3)訂正事項3
ア 訂正の目的の適否
訂正事項3に係る訂正は、訂正事項1に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と本件明細書等の記載との整合を図るための訂正であることから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
上記アによれば、訂正事項3に係る訂正は、新たな技術的事項を導入するものではない。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項3に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(4)小括
以上のとおり、訂正事項1~3に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法126条第5項及び第6項に適合する。なお、本件では、特許異議の申立てがされていない請求項は存在しないので、同条第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項所定の独立特許要件は課されない。
したがって、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正することを認める。
第3 本件訂正発明の認定
本件訂正は、上記第2のとおり認められたので、本件訂正後の請求項1に係る発明(以下「本件訂正発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定されるとおりのものであり、当該請求項1の記載は次のとおりである。
「液晶パネルに用いる粘着剤層付き偏光フィルムであって、
前記液晶パネルは、インセル型液晶セルを有するインセル型液晶パネルであり、
前記インセル型液晶セルは、電界が存在しない状態でホモジニアス配向した液晶分子を含む液晶層、前記液晶層を両面で挟持する第1透明基板および第2透明基板、並びに、前記第1透明基板と第2透明基板との間にタッチセンサーおよびタッチ駆動の機能に係るタッチセンシング電極部を有しており、
前記粘着剤層付き偏光フィルムは、表面処理層、第1偏光フィルム、アンカー層、第1粘着剤層をこの順で有し、
前記インセル型液晶セルの視認側の第1透明基板の側に、導電層を介することなく前記第1粘着剤層を介して配置されるものであり、
前記アンカー層、及び、前記第1粘着剤層は帯電防止剤を含有し、
前記アンカー層は、前記帯電防止剤として水溶性導電性ポリマーまたは水分散性導電性ポリマー、および、水溶性もしくは水分散性のバインダーを含有し、
前記アンカー層は、表面抵抗率が1×108~1×1011Ω/□であり、
前記第1粘着剤層は、前記帯電防止剤としてアルカリ金属塩及び/または有機カチオン-アニオン塩を含有し、前記第1粘着剤層の表面抵抗率が1×108~1×1011Ω/□であることを特徴とするインセル型液晶パネルに用いる粘着剤層付き偏光フィルム。」
第4 取消理由の概要及び証拠について
1 第2次取消理由(決定の予告)の概要
第2次取消理由は、次の内容からなるものである。以下、「甲第1号証」を「甲1」などのように表記する。
(1)新規性欠如
本件第1次訂正後の請求項1に係る発明は、その優先権主張の日(以下「優先日」という。)前日本国内または外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である甲2に記載された発明であるから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)進歩性欠如
本件第1次訂正後の請求項1に係る発明は、その優先日前日本国内または外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である(i)甲2に記載された発明及び必要に応じて引用文献Aに記載された技術的事項に基づいて、(ii)甲1に記載された発明及び甲2に記載された技術的事項並びに必要に応じて引用文献Aに記載された技術的事項に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
2 第1次取消理由(第2次取消理由に含まれていないもの)の概要
明確性要件違反
本件特許の登録時の請求項1に係る発明は、特許請求の範囲の記載が明確でないから、当該請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
3 証拠
(1)申立人が提出したもの
甲1:特表2014-532192号公報
甲2:特表2011-528447号公報
甲3:特許第6913435号公報
甲4:甲2に係る出願の優先権証明書(韓国出願番号:10-2009-0046491)
甲5:韓国公開特許第10-2010-0009510号公報
甲6:中谷健司著、「タッチパネルのいろは」、応用物理、第82巻、第10号、2013年、第886~890頁
甲7:「スマートフォン・タッチパネル部材の最新技術便覧」、技術情報協会、2013年6月28日発行、第4~7頁
甲8:「粘着剤(フィルム・テープ)の材料設計と機能性付与」、技術情報協会、2009年9月30日発行、第281頁、第292頁
甲9:特開2012-185513号公報
甲10:特開2014-177552号公報
(2)特許権者が提出したもの
乙1:特許第6714718号公報
(3)当審が示したもの
引用文献A:米国特許出願公開第2011/0285640号明細書
第5 第2次取消理由についての当審の判断
当審は、本件訂正発明に係る特許は、上記第4の1(2)の取消理由によって、取り消されるべきと判断する。
1 甲2、引用文献A及び甲1の記載事項
(1)甲2(特表2011-528447号公報)
ア 本件特許に係る出願の優先日前に頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である甲2には、以下の記載がある。(下線は当審が付した。以下同じ。)
(ア)「【特許請求の範囲】」
「【請求項1】
偏光フィルムまたは偏光素子;上記偏光フィルムまたは偏光素子の上部及び下部に形成された保護フィルム;及び上記下部保護フィルムの下部に形成された粘着剤層を含み、上記保護フィルムの上部または下部に静電気防止層が形成されている偏光板。」
「【請求項3】
前記静電気防止層は、表面抵抗が1010Ω/□以下である、請求項1に記載の偏光板。」
「【請求項4】
前記静電気防止層は、バインダー樹脂及び伝導性物質を含む、請求項1に記載の偏光板。」
「【請求項11】
前記静電気防止層は、バインダー樹脂100重量部に対して10重量部~80重量部の伝導性物質を含む、請求項4に記載の偏光板。」
「【請求項12】
前記粘着剤層は、表面抵抗が1012Ω/□以下の導電性粘着剤層である、請求項1に記載の偏光板。」
「【請求項14】
前記粘着剤層は、粘着性ベース樹脂及び帯電防止剤を含む組成物の硬化物である、請求項12に記載の偏光板。」
「【請求項17】
前記帯電防止剤は、有機塩または無機塩である、請求項14に記載の偏光板。」
「【請求項18】
上部基板と下部基板との間に形成された液晶層を有する液晶パネル;及び上記液晶パネルの上部基板に直接付着された請求項1~17のいずれか一項に記載の偏光板を含む液晶表示装置。」
「【請求項19】
前記液晶パネルが横電界型液晶パネルである、請求項18に記載の液晶表示装置。」
(イ)「【技術分野】」
「【0001】
本発明は、偏光板及び液晶表示装置に関する。」
(ウ)「【背景技術】」
「【0008】
前述のような液晶表示装置とともに、視野角特性を改善するためのものとして、マルチドメイン、補償フィルム、垂直配向液晶表示装置(VA-LCD;Vertical Alignment-LCD)及び横電界型液晶表示装置(IPS-LCD;In Plane Switching LCD)などが開発されている。」
「【0009】
これらのうち特に横電界方式(IPS mode)は、モニターなどの大面積表示装置に適していて、上下左右いずれにおいても視野角が広い長所がある。」
「【0010】
このような横電界方式において、液晶パネルは、カラーフィルタ基板である上部基板とアレイ基板である下部基板が互いに離隔されて対向していて、上記上部基板と下部基板との間に液晶層が介在されている。上記上部基板には、マトリクス形態で光漏れを遮断する役目をするブラックマトリクス及び画素領域に各々対応する領域に順次繰り返す赤色、緑色、青色層が形成され、その上には、通常オーバーコート層が形成されている。下部基板には、共通電極及び画素電極が形成されていて、これにより、液晶層は、上記共通電極及び画素電極による水平電界によって作動する。」
「【0011】
前述のような様々な液晶表示装置は、一般的に図1に示されたような構造を有する。具体的に、液晶表示装置は、液晶層1と上部及び下部基板(例えば、ガラス基板、カラーフィルタ基板、アレイ基板など))2-1、2-2とを含む液晶パネルを備え、上記液晶パネルの上部に形成された上部偏光板3及び下部に形成された下部偏光板(図示せず)を含む。」
「【0012】
上部または下部偏光板に含まれる偏光フィルム(または偏光素子)3-1は、一定の方向に配列されたヨード系化合物または二色性偏光物質を含み、上部及び下部に偏光フィルムを保護するための保護フィルム3-2、3-3が形成されている。また、偏光板には、反射防止フィルム3-4などの追加的な機能性フィルムが形成されてもよい。」
「【0014】
このように、液晶パネルと上部偏光板との間にITO薄膜aが形成される理由は、液晶表示装置の製造または使用過程で発生する静電気による機器の誤作動や静電気むらなどの問題を解決するためである。」
「【0015】
すなわち、偏光板を液晶パネルの外側面に付着するために、偏光板の粘着剤層上の離型フィルムを剥離する工程、その他、製造及び使用過程で静電気が多量発生する場合がある。このように発生した静電気は、液晶層の配向に影響を及ぼし、製品品質を悪化させるか、機器の誤作動などを誘発するので、これを防止するために、スパッタリング(sputtering)装備を利用した蒸着工程などによりITO層を形成し、このように形成されたITO層の上部に偏光板を付着することによって、静電気を防止している。」
「【0016】
このような静電気防止の必要性は、特に前述したような横電界型液晶パネルにおいて重要である。すなわち、横電界型液晶パネルでは、画素電極及び共通電極がいずれも下部基板であるアレイ基板にのみ形成されることによって、上部基板(カラーフィルタ基板)の外側面に偏光板を付着する工程で静電気の発生が特に問題になる。」
「【0017】
ところが、上記ITOに関連して、今後原資材枯渇による需給困難及び原価上昇などの問題が発生するおそれがあり、また、ITO薄膜の蒸着のための装備も高価なので、生産コストが上昇するという問題点がある。」
「【0018】
これにより、液晶パネルにITO層を全面に形成せずに、部分的に形成するなどの代案が提示されているが、窮極的には、上記ITO層を使用することなく、目的する帯電防止性能を得ることができるようにする技術の開発が要求されている。」
(エ)「【発明が解決しようとする課題】」
「【0019】
本発明の目的は、液晶パネルにITO薄膜層を形成することなく、静電気による機器の誤作動及び静電気むら発生などの問題を解決することができ、且つ高温または高湿条件での耐久信頼性及び光学的特性などの諸物性に優れた液晶表示装置を提供することにある。」
(オ)「【発明の効果】」
「【0022】
本発明においては、従来、帯電防止を目的に液晶パネルの上部ガラス基板と偏光板との間に計けられたITO層を使用することなく、製造または使用過程で発生する静電気による機器の誤作動や静電気むらなどを防止することができ、且つ高温または高湿条件での耐久信頼性及び光学的特性などの諸物性に優れた偏光板及び液晶表示装置を提供することができる。」
(カ)「【発明を実施するための形態】」
「【0024】
本発明は、偏光フィルムまたは偏光素子と;上記偏光フィルムまたは偏光素子の上部及び下部に形成された保護フィルムと;上記下部保護フィルムの下部に形成された粘着剤層と;を含み、上記保護フィルムの上部または下部に静電気防止層が形成されている偏光板を提供する。」
「【0025】
以下、本発明の偏光板についてさらに詳しく説明する。
本発明の偏光板は、図2~図7に示されたように、保護フィルム3-2、3-3の上部及び/または下部に形成された静電気防止層cを含む。」
「【0026】
この時、上記静電気防止層cは、図2~図4に示されたように、単一層で偏光板に含まれることができ、図5及び図6に示されたように、適切な箇所に2つ以上が形成されてもよく、場合によっては、図7に示されたように、上部及び下部保護フィルム3-2、3-3の上部及び下部に同時に形成されてもよい。本発明において上記静電気防止層cの形成個数及び形成場所は、特に限定されず、偏光板が適用される用途によって適宜選択されることができる。」
「【0031】
本発明の偏光板に含まれる静電気防止層は、表面抵抗が1010Ω/□以下、好ましくは109Ω/□以下、より好ましくは108Ω/□以下であることができる。上記静電気防止層の表面抵抗が1010Ω/□を超過すれば、帯電防止性能が低下するおそれがある。また、本発明において上記静電気防止層の表面抵抗の下限は、特に限定されず、例えば、104Ω/□以上の範囲で適宜調節されることができる。本発明において静電気防止層の表面抵抗が過度に低くなれば、静電気防止層に含まれる伝導性物質の含量の増加に起因して、高温または高湿条件での耐久信頼性、透明性及び光学的特性などが低下するか、偏光板を構成する他の層との付着力が低下するおそれがある。」
「【0032】
しかし、上記静電気防止層の表面抵抗は、本発明の1つの例示に過ぎない。すなわち、本発明においては、静電気防止層の形成個数または後述する導電性粘着剤層の表面抵抗数値などを考慮して、上記静電気防止層の表面抵抗数値を適宜制御することができる。」
「【0033】
本発明の静電気防止層は、バインダー樹脂及び伝導性物質を含むことができる。具体的に、本発明においては、バインダー樹脂を形成することができる組成物内に所定の伝導性物質を分散させて塗料を製造した後、上記塗料を目的する場所に塗布し、硬化させて、静電気防止層を形成することができる。」
「【0034】
本発明において使用することができるバインダー樹脂の種類は、硬化状態で優れた透明性を有し、偏光板に含まれる膜(例えば、偏光フィルムまたは偏光素子、保護フィルムなど)との付着力に優れていて、且つ内部に分散される伝導性物質を効果的に維持させることができるものなら特に限定されない。」「【0035】
本発明においては、例えば、上記バインダー樹脂として、アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン系樹脂、フェノール系樹脂またはポリエステル系樹脂などを使用することができ、これらのうちアクリル系樹脂を使用することがより好ましい。」
「【0036】
本発明においては、特に、上記バインダー樹脂として光硬化性(例えば、UV硬化性)バインダー樹脂を使用することが好ましい。」
「【0037】
このように光硬化タイプのバインダー樹脂を使用することによって、静電気防止層をさらにハード(hard)状態で形成することができ、これにより、内部に含まれた伝導性物質をさらに安定的に維持し、静電気防止層において経時的に表面抵抗の変化が生じる問題を防止することができる。また、光硬化型バインダー樹脂を使用することによって、静電気防止層の形成工程で粘度を容易に制御し、熟成(aging)工程などを省略することによって、作業性及び生産性を顕著に改善することができる。」
「【0038】
本発明において上記のような光硬化性バインダー樹脂は、例えば、多官能性モノマーまたはオリゴマーと;光開始剤と;を含む樹脂組成物を硬化させて製造することができる。」
「【0039】
多官能性モノマーまたはオリゴマーの種類は、特に限定されず、例えば、多官能性アクリレートを使用することができ、好ましくは3官能性以上の多官能性アクリレートを使用することができる。」
「【0044】
本発明において上記のようなバインダー樹脂とともに静電気防止層に含まれる伝導性物質の例として、ITO(tin-doped indium oxide)、AZO(antimony-doped zinc oxide)、ATO(antimony-doped tin oxide)、SnO、RuO2、IrO2、金、銀、ニッケル、銅及びパラジウムなどの金属、金属酸化物または合金物質;またはポリアニリン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリパラフェニレン(polyparaphenylene)、ポリジエニレン(polydienylene)、ポリフェニレンビニレン(polyphenylene vinylene)、ポリフェニレンサルファイド(polyphenylene sulfide)またはポリサルファーニトリド(polysulfurnitride)などの伝導性高分子を使用することができる。また、本発明においては、上記伝導性物質として高分子などで構成されるコア(core)の表面に、前述のような金属、金属酸化物または合金物質などが蒸着されてシェル(shell)を形成している伝導性物質を使用することもできる。本発明においては、上記様々な伝導性物質の1種または2種以上の混合を使用することができる。」
「【0046】
本発明の偏光板は、前述の成分とともに下部保護フィルムの下部に形成された粘着剤層を含み、これは、偏光板を液晶パネルに付着することができるようにする役目をする。特に限定されるものではないが、本発明においては、上記粘着剤層として導電性粘着剤層を使用することが好ましい。」
「【0047】
本発明の偏光板に含まれる上記導電性粘着剤は、表面抵抗が1012Ω/□以下、好ましくは1011Ω/□以下であることができる。上記粘着剤の表面抵抗が1012Ω/□を超過すれば、偏光板に付与される帯電防止性能が低下するおそれがある。本発明において、上記粘着剤の表面抵抗の下限は、特に限定されるものではなく、例えば、106Ω/□以上、好ましくは9.9×107Ω/□を超過する範囲で調節されることができる。本発明において導電性粘着剤層の表面抵抗を過度に低く設定する場合、粘着剤層に含まれる帯電防止剤含量の増加に起因して、液晶表示装置の耐久信頼性及び光学的特性などの物性が悪くなるおそれがある。」
「【0133】
本発明においては、前述のように、多層構造の偏光板を構成する保護フィルムの上部及び/または下部に静電気防止層を形成し、必要に応じて、偏光板及び液晶パネルの付着に使用される粘着剤層に帯電性を付与し、従来の液晶表示装置において必ず使用されたITO層薄膜を形成することなく、製造または使用過程で発生する静電気などによる機器の誤作動及びむら発生などの問題を解決すると共に、高温または高湿条件での耐久信頼性及び光学的特性などの諸物性に優れた液晶表示装置を提供することができる。」
「【0134】
すなわち、本発明において使用される用語「直接付着された偏光板」は、全面に静電気防止を目的にしたITO層などの導電性層が形成されていない液晶パネルの上部基板(例えば、カラーフィルタ基板)の上に本発明による偏光板が直接付着している場合を意味する。」
「【0135】
本発明の液晶表示装置に含まれる液晶パネルの種類は、特に限定されない。本発明においては、例えば、その種類に制限がなく、各種パッシブマトリクス方式、アクティブマトリクス方式、横電界型(IPS mode)及び垂直配向型(VA mode)液晶パネルが使用されることができ、好ましくは横電界型液晶パネルが使用されることができる。横電界型液晶パネルの場合、共通電極及び画素電極がいずれもパネルの下部基板に形成されていて、偏光板の付着工程などで静電気が特に問題になるが、本発明の場合、このような横電界型方式において、ITO層を形成することなく、静電気による各種問題を解決しながら、視野角特性、耐久信頼性及び光学的特性などの諸物性に優れた液晶表示装置を提供することができる。」
(キ)「(実施例)」
「【0136】
(実施例)
以下、本発明による実施例及び比較例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明の範囲が下記実施例によって限定されるものではない。」
「【0137】
製造例1:静電気防止層(AS1)の製造
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート100g、光開始剤(イルガキュア184、Ciba Specialty Chemicals社製)10g、メチルアルコール100g及びプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)100gを充分に配合し、均一に混合されるように撹拌器で約1時間撹拌した。次に、製造された撹拌液にAZO分散液40gを徐々に滴下しながら、充分に混合されるように約1時間撹拌し、コーティング液を製造した。その後、製造されたコーティング液をトリアセチルセルロースフィルム上に硬化後の厚さが5μmとなるようにバーコーターを用いてコーティングし、コーティングされたフィルムは、60℃オーブンで2分間乾燥した。次に、乾燥したフィルムに中圧水銀ランプ(UV源、光量:1J/cm2)を照射して硬化させることによって、静電気防止層(AS1)を製造した。」
「【0138】
製造例2:静電気防止層(AS2)の製造
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート100g、光開始剤(イルガキュア184)10g、メチルアルコール100g及びプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)100gを配合し、充分に混合されるように撹拌器で約1時間撹拌した。次に、撹拌液にAZO分散液20gを徐々に適下しながら、充分に混合されるように約1時間撹拌した。コーティング液をトリアセチルセルロースフィルム上に硬化後の厚さが5μmとなるようにバーコーティングを行い、60℃オーブンで2分間乾燥した後、中圧水銀ランプ(UV源、光量:1J/cm2)で照射し、静電気防止層(AS2)を形成した。」
「【0140】
上記で製造された静電気防止層について、下記提示された方法で物性を評価した。」
「【0141】
1.表面抵抗の測定
23℃の温度及び50%の相対湿度の環境下で製造された静電気防止層に500Vの電圧を1分間印加した後、HIRESTA-UP(MCP-HT450)(Mitsubishi Chemical社製)を利用して表面抵抗を測定した。」
「【0145】
【表2】
[図:0001412266000001.jpg]
」
「【0146】
製造例4:粘着剤層(PSA1)の製造
アクリル共重合体の製造
窒素ガスが還流され且つ温度調節が容易に冷却装置を設置した1L反応器に、n-ブチルアクリレート(BA)98.5重量部及びヒドロキシエチルメタアクリレート(2-HEMA)1.5重量部を含む単量体混合物を投入し、溶剤としてエチルアセテート(EAc)100重量部を投入した。次に、酸素除去のために、窒素ガスを用いて1時間パージングし、温度を62℃に維持した。混合物を均一にした後、反応開始剤としてエチルアセテートに50%の濃度に希釈させたアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.03重量部を投入し、反応を開始させた。その後、約8時間反応を進行し、重量平均分子量が150万であり、ガラス転移温度が-53℃であるアクリル系共重合体を製造した。」
「【0147】
コーティング液配合
上記製造されたアクリル系共重合体100重量部に対して、架橋剤(イソシアネート系トリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート付加物(TDI-1))0.5重量部、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド1.1重量部及びポリエチレングリコールジ-2-エチルヘキソネート(n=6)0.3重量部を投入し、コーティング性を考慮して適正の濃度に希釈し、均一に混合した。次に、製造されたコーティング液を離型紙にコーティング及び乾燥し、厚さ25ミクロンの均一な粘着剤層を得た。」
「【0148】
製造例5~7.粘着剤層の製造
粘着剤層の製造時に配合成分を下記表2に示されたように変更したことを除いて、上記製造例4と同一の方法で粘着剤層を製造した。また、下記表2で、粘着剤層の表面抵抗の測定方法は、上記静電気防止層の場合と同一である。」
「【0149】
【表3】
[図:0001412266000002.jpg]
」
「【0150】
実施例1
上記で製造された静電気防止層(AS2)、粘着剤層(PSA1)及び全面にITO薄膜が形成されていない液晶パネル(Aタイプ、横電界方式の液晶パネル)を使用して、図3に示されたような構造を有する液晶表示装置を構成した。」
「【0151】
実施例2~4及び比較例1
静電気防止層、粘着剤層及び液晶表示装置の構造を下記表3に示されたように変更したことを除いて、上記実施例1と同一に液晶表示装置を製造した。下記表3で、液晶パネルBは、液晶パネルの上部基板の上にITO薄膜が形成されている液晶パネル(Bタイプ、横電界方式)を意味する。」
「【0152】
【表4】
[図:0001412266000003.jpg]
」
「【0153】
上記製造された実施例について下記提示された方法で物性を評価した。」
「【0154】
1.耐久信頼性評価
製造された粘着偏光板を262mm×465mm(横×縦)のサイズに切断し、サンプルを製造した後、これをガラス基板(300mm×470mm×0.7mm=横×縦×高さ)の両面に光学吸収軸がクロスされた状態で付着させて試験片を製造した。付着時に加えられた圧力は、約5kg/cm2であり、気泡または異物が発生しないようにクリーンルームで作業を行った。製造された試験片の耐湿熱特性を把握するために、上記試験片を60℃の温度及び90%の相対湿度条件で1,000時間放置した後、気泡や剥離の発生有無を観察した。また、耐熱特性は、試験片を80℃の温度で1,000時間放置した後、同様に、気泡や剥離の発生有無を観察した。この時、試験片の状態を評価する直前に、これを常温で24時間放置した後に行った。」
「【0156】
2.静電気むら評価
液晶セル(32インチ)に粘着剤層がコーティングされた偏光板を32インチ(400mm×708mm)のサイズに付着する時または付着した後、静電気むらの発生有無を観察した。具体的には、上記偏光板から離型フィルムを剥離し、液晶セルに付着した時、静電気むら(白化現象)が発生するか否かをバックライトを利用して目視で観察した。
また、偏光板を付着した液晶セルをバックライトなどを備えたモジュールに装着し、駆動状態でイオンガン(+20kv、-25kv)を秒当たり25回走査しながら、静電気むら(白化現象)の発生有無を目視で観察した。」
(ク)「【符号の説明】」
「【0162】
1 液晶層
2-1 下部基板
2-2 上部基板
3-1 偏光フィルム
3-2、3-3 保護フィルム
3-4 反射防止フィルム」
(当審注:「2-1」及び「2-2」がそれぞれ「上部基板」及び「下部基板」と記載されているのは、図1に照らして、それぞれ「下部基板」及び「上部基板」の明らかな誤記と認められるので、誤記を正して摘記した。)
(ケ)図1及び3は次のとおりである。
[図:0001412266000004.jpg]
[図:0001412266000005.jpg]
イ 上記アによれば、図3に係る液晶表示装置の構造(後記ウで甲2発明1として認定する。)、又は、実施例1若しくは3に係る液晶表示装置の構造(後記ウで甲2発明2として認定する。)について、以下の点が認められる。
(ア)図3に係る液晶表示装置の構造について
a 図3からは、上部基板2-2上に、粘着剤層b、静電気防止層c、保護フィルム3-2、偏光フィルム3-1、保護フィルム3-3及び反射防止フィルム3-4が、この順に積層された構造が見て取れる。
b 図3に係る液晶表示装置の構造(上記a)は、甲2の請求項18に記載された液晶表示装置に該当すると解されるところ、当該請求項18の記載を、当該構造を表すように整理すると、「上部基板2-2及び下部基板2-1との間に形成された液晶層1を有する液晶パネル;及び上記液晶パネルの上部基板2-2に直接付着された偏光板を含む液晶表示装置」ということになる。
さらに、当該図3に係る液晶表示装置の構造は、甲2の請求項1に記載された偏光板を含むと解される(【0025】)ところ、当該請求項1の記載を、当該構造を表すように整理すると、「偏光フィルム3-1;偏光フィルム3-1の上部に形成された保護フィルム3-3及び偏光フィルム3-1の下部に形成された保護フィルム3-2;及び下部保護フィルム3-2の下部に形成された粘着剤層bを含み、下部保護フィルム3-2と粘着剤層bとの間に静電気防止層cが形成されている偏光板」ということになる。
(イ)実施例1又は3に係る液晶表示装置の構造について
a 実施例1又は3に係る液晶表示装置の構造に含まれる偏光板について検討するに当たり、各実施例及び比較例(【0150】~【0161】)において構成されている「液晶表示装置」(【0150】・【0151】)に含まれる偏光板がどのようなものであるかについて検討する。
(a)まず、上記の実施例1又は3に係る液晶表示装置の積層構造からみると、これは、図3に示されたような構造(【0150】・【0151】)とされることから、上記(ア)aのとおりである。次に、当該各液晶表示装置がどのように製造されたのかについてみると、「製造された粘着偏光板」(【0154】)及び「粘着剤層がコーティングされた偏光板」(【0156】)という記載が存在することに照らせば、当該各液晶表示装置は、当該「粘着剤層がコーティングされた偏光板」が製造された後に、これを「横電界方式の液晶パネル」(【0150】)に積層させることによって製造されたものと認められる。そして、上記(ア)aの上部基板2-2は、当該「横電界方式の液晶パネル」の上部基板であると解される。
そうすると、当該各液晶表示装置について、「横電界方式の液晶パネル」とは別個の概念として、当該「横電界方式の液晶パネル」の「上部基板2-2」に配置された「粘着剤層がコーティングされた偏光板」を観念することができる。そして、当該「粘着剤層がコーティングされた偏光板」は、上記(ア)aを踏まえれば、粘着剤層b、静電気防止層c、保護フィルム3-2、偏光フィルム3-1、保護フィルム3-3及び反射防止フィルム3-4が、この順に積層された構造である。
(b)当該「粘着剤層がコーティングされた偏光板」の粘着剤層b及び静電気防止層cは、次のとおりである。
実施例1では、静電気防止層c(AS2)は、その表面抵抗が4.0×109Ω/□であって、そのバインダー樹脂がジペンタエリストールヘキサアクリレートを硬化させた樹脂(製造時の溶媒がメチルアルコール及びプロピレングリコールモノメチルエーテルであって、上記硬化はコーティングされた後にされている(【0138】)。)であるとともに、その伝導性物質がAZOであり(【0152】・【0145】・【0138】)、粘着剤層b(PSA1)は、その表面抵抗が1.1×1010Ω/□であって、その帯電防止成分がリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド及びポリエチレングリコールジ-2-エチルヘキソネートである(【0152】・【0149】)。
また、実施例3では、静電気防止層c(AS1)は、その表面抵抗が2.0×108Ω/□であって、そのバインダー樹脂がジペンタエリストールヘキサアクリレートを硬化させた樹脂(製造時の溶媒がメチルアルコール及びプロピレングリコールモノメチルエーテルであって、上記硬化はコーティングされた後にされている(【0137】)。)であるとともに、その伝導性物質がAZOであり(【0152】・【0145】・【0137】)、粘着剤層b(PSA3)は、その表面抵抗が3.6×109Ω/□であって、その帯電防止成分がリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド及びジ-tert-ブチルオキサレートである(【0152】・【0149】)。
b 上記a(a)及び(b)によれば、実施例1及び3に係る液晶表示装置の構造に含まれる「横電界方式の液晶パネル」の「上部基板2-2」に配置された「粘着剤層がコーティングされた偏光板」は、それぞれ、次のとおりであると認められる。
実施例1:横電界方式の液晶パネルの上部基板2-2に配置された、粘着剤層b、静電気防止層c、保護フィルム3-2、偏光フィルム3-1、保護フィルム3-3及び反射防止フィルム3-4がこの順に積層された粘着剤層がコーティングされた偏光板であって、静電気防止層c(AS2)は、その表面抵抗が4.0×109Ω/□であって、そのバインダー樹脂がジペンタエリストールヘキサアクリレートを硬化させた樹脂(製造時の溶媒がメチルアルコール及びプロピレングリコールモノメチルエーテルであって、上記硬化はコーティングされた後にされている。)であるとともに、その伝導性物質がAZOであり、また、粘着剤層b(PSA1)は、その表面抵抗が1.1×1010Ω/□であって、その帯電防止成分がリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド及びポリエチレングリコールジ-2-エチルヘキソネートである、粘着剤層がコーティングされた偏光板。
実施例3:横電界方式の液晶パネルの上部基板2-2に配置された、粘着剤層b、静電気防止層c、保護フィルム3-2、偏光フィルム3-1、保護フィルム3-3及び反射防止フィルム3-4がこの順に積層された粘着剤層がコーティングされた偏光板であって、静電気防止層c(AS1)は、その表面抵抗が2.0×108Ω/□であって、そのバインダー樹脂がジペンタエリストールヘキサアクリレートを硬化させた樹脂(製造時の溶媒がメチルアルコール及びプロピレングリコールモノメチルエーテルであって、上記硬化はコーティングされた後にされている。)であるとともに、その伝導性物質がAZOであり、また、粘着剤層b(PSA3)は、その表面抵抗が3.6×109Ω/□であって、その帯電防止成分がリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド及びジ-tert-ブチルオキサレートである、粘着剤層がコーティングされた偏光板。
ウ 上記ア及びイによれば、甲2には、図3に係る液晶表示装置の積層構造に含まれる粘着剤層付き偏光板について、次の発明(以下「甲2発明1」という。)が記載されていると認められる。
さらに、甲2には、実施例1又は3に係る液晶表示装置の積層構造に含まれる「粘着剤層がコーティングされた偏光板」について、次の発明(以下「甲2発明2」という。)が記載されていると認められる(摘記の根拠箇所を括弧内に示した。以下同じ。)。
[甲2発明1]
「上部基板2-2と下部基板2-1との間に形成された液晶層1を有する液晶パネルを含む液晶表示装置の上記液晶パネルの上部基板2-2に直接付着された偏光板であって、(【請求項18】)
前記液晶パネルが横電界型液晶パネルであり、(【請求項19】)
前記偏光板は、偏光フィルム3-1;偏光フィルム3-1の上部に形成された保護フィルム3-3及び偏光フィルム3-1の下部に形成された保護フィルム3-2;及び下部保護フィルム3-2の下部に形成された粘着剤層bを含み、下部保護フィルム3-2と粘着剤層bとの間に静電気防止層cが形成されており、(上記イ(ア)b)
静電気防止層cは、表面抵抗が1010Ω/□以下、好ましくは109Ω/□以下、より好ましくは108Ω/□以下であり、上記静電気防止層の表面抵抗の下限は、特に限定されず、例えば、104Ω/□以上の範囲で適宜調節され、(【0031】)
前記静電気防止層cは、バインダー樹脂及び伝導性物質を含み、(【請求項4】)
バインダー樹脂を形成することができる組成物内に所定の伝導性物質を分散させて塗料を製造した後、上記塗料を目的する場所に塗布し、硬化させて、静電気防止層を形成することができるものであり、(【0033】)
例えば、上記バインダー樹脂として、アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン系樹脂、フェノール系樹脂またはポリエステル系樹脂などを使用することができ、これらのうちアクリル系樹脂を使用することがより好ましく、(【0035】)
上記のようなバインダー樹脂とともに静電気防止層に含まれる伝導性物質の例として、ITO(tin-doped indium oxide)、AZO(antimony-doped zinc oxide)、ATO(antimony-doped tin oxide)、SnO、RuO2、IrO2、金、銀、ニッケル、銅及びパラジウムなどの金属、金属酸化物または合金物質;またはポリアニリン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリパラフェニレン(polyparaphenylene)、ポリジエニレン(polydienylene)、ポリフェニレンビニレン(polyphenylene vinylene)、ポリフェニレンサルファイド(polyphenylene sulfide)またはポリサルファーニトリド(polysulfurnitride)などの伝導性高分子を使用することができ、(【0044】)
前記粘着剤層bは、表面抵抗が1012Ω/□以下の導電性粘着剤層であり、(【請求項12】)
前記導電性粘着剤は、表面抵抗が1012Ω/□以下、好ましくは1011Ω/□以下であり、粘着剤の表面抵抗の下限は、特に限定されるものではなく、例えば、106Ω/□以上、好ましくは9.9×107Ω/□を超過する範囲で調節され、(【0047】)
前記粘着剤層bは、粘着性ベース樹脂及び帯電防止剤を含む組成物の硬化物であり、(【請求項14】)
前記帯電防止剤は、有機塩または無機塩であり、(【請求項17】)
偏光板には、その上部に、反射防止フィルム3-4が形成されている、(【0012】・上記イ(ア)a)
偏光板。」
[甲2発明2]
「横電界方式の液晶パネルの上部基板2-2に配置された、粘着剤層b、静電気防止層c、保護フィルム3-2、偏光フィルム3-1、保護フィルム3-3及び反射防止フィルム3-4がこの順に積層された粘着剤層がコーティングされた偏光板であって、
静電気防止層c(AS2)は、その表面抵抗が4.0×109Ω/□であって、そのバインダー樹脂がジペンタエリストールヘキサアクリレートを硬化させた樹脂(製造時の溶媒がメチルアルコール及びプロピレングリコールモノメチルエーテルであって、上記硬化はコーティングされた後にされている。)であるとともに、その伝導性物質がAZOであり、また、粘着剤層b(PSA1)は、その表面抵抗が1.1×1010Ω/□であって、その帯電防止成分がリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド及びポリエチレングリコールジ-2-エチルヘキソネートであるか、(実施例1・【0150】)
又は、
静電気防止層c(AS1)は、その表面抵抗が2.0×108Ω/□であって、そのバインダー樹脂がジペンタエリストールヘキサアクリレートを硬化させた樹脂(製造時の溶媒がメチルアルコール及びプロピレングリコールモノメチルエーテルであって、上記硬化はコーティングされた後にされている。)であるとともに、その伝導性物質がAZOであり、また、粘着剤層b(PSA3)は、その表面抵抗が3.6×109Ω/□であって、その帯電防止成分がリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド及びジ-tert-ブチルオキサレートである、(実施例3・【0151】)
粘着剤層がコーティングされた偏光板。(上記イ(イ)b)」
(2)引用文献A(米国特許出願公開第2011/0285640号明細書)
ア 本件特許に係る出願の優先日前に頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である引用文献Aには、以下の記載がある(以下、当審の作成した訳文による。)。
(ア)「背景技術」
「[0006]典型的なタッチスクリーンは、タッチセンサー電極のアレイを有するタッチパネルを含む。タッチセンサー処理回路は、タッチセンサー電極上の静電容量変化を測定して、ユーザの指がタッチアレイに接触している位置を判定することができる。」
「[0007]ユーザの指などの外部物体がディスプレイに接触すると、ユーザの指上の静電荷がディスプレイ内に大きな電界を生成する可能性がある。これらの電界は、ディスプレイの動作を妨害し得る。例えば、静電荷からの電場は、薄膜トランジスタ層の電極によって生成される電場と干渉し得る。これは、スクリーン上にスポット又は他の視覚的アーチファクトを生成し得る。」
「[0008]タッチパネルを含む液晶ディスプレイの中には、タッチパネルが液晶層の上に配置されるものもある。このタイプの状況では、タッチセンサーアレイの電極は、電荷誘導電場が液晶層に到達することを防止し得る。」
「[0009]異なるタッチセンサー構成を有するディスプレイを構築することが望ましい場合がある。例えば、タッチセンサー電極を液晶層の下の位置でディスプレイに組み込むことが望ましい場合がある。このタイプのディスプレイは、インセルディスプレイと呼ばれることもある。しかしながら、注意が払われない場合、タッチセンサー電極は、電荷誘導電界が液晶層に到達することを妨げないため、ディスプレイは、静電荷による破壊を受けやすい。」
「[0010]したがって、改善された電界遮蔽層を有する液晶ディスプレイなどのディスプレイを提供することが望ましい。」
(イ)「要約」
「[0011]ディスプレイは、ユーザのために画像を表示するために電子デバイスにおいて使用され得る。ディスプレイは、液晶材料の層から形成される画像ピクセルを含み得る。カラーフィルタ素子を含むカラーフィルタ層を液晶層の上に配置して、画像に色を提供することができる。液晶層は、薄膜トランジスタ層内のトランジスタおよび電極を使用して生成される電界によって制御され得る。タッチセンサー能力は、タッチセンサー電極のアレイを使用してディスプレイに組み込まれ得る。タッチセンサー電極は、液晶層の下の薄膜トランジスタ層または他の層上に形成され得る。」
「[0012]ユーザまたは他の外部物体がディスプレイの表面に触れると、静電荷が電界を生じさせる。これらの電界が液晶層を妨害しないことを保証するために、1つ以上の透明な電界遮蔽層が、液晶層の上のディスプレイに組み込まれ得る。」
「[0013]遮蔽層は、導電性接着剤、金属酸化物、導電性ポリマー、カーボンナノチューブなどのナノ構造を含む材料、金属粒子を含む材料、導電性インク、または他の導電性材料から形成することができる。遮蔽層の抵抗率は、液晶層の破壊を防止するのに十分に小さく、タッチセンサー電極の動作の妨害を回避するのに十分に大きくてもよい。」
(ウ)「詳細な説明」
「[0046]ディスプレイ14において使用され得る例示的な液晶ディスプレイ構造32の斜視図が図4に示されている。図4に示すように、液晶ディスプレイ構造32は、カラーフィルタ(CF)層40及び薄膜トランジスタ(TFT)層36を含むことができる。・・・(中略)・・・液晶(LC)層38は、液晶材料を含み、カラーフィルタ層と薄膜トランジスタ層36との間に配置される。薄膜トランジスタ層36は、液晶層38に印加される電界を制御するための電極に結合されたトランジスタなどの電機部品44を含むことができる。必要に応じて、構成要素44は、タッチセンサー電極28および30などのタッチセンサー構成要素を含むことができる。」
(当審注:原文の「Liquid crystal layer 36」の「36」は、文脈に照らして「38」の明らかな誤記と認められるので、誤記を正して訳出した。)
「[0048]タッチセンサー構造は、(たとえば、図4の層36の構成要素44にタッチセンサー構成要素と薄膜トランジスタ構成要素との両方を含めることによって)ディスプレイ構造32の層に組み込まれ得る。このタイプの配置を図5に示す。図5に示されるように、薄膜トランジスタ層TFTは、層36Aおよび36Bを含み得る。層36Bは、ガラスまたはプラスチックの層などの誘電体基板から形成することができる。層36Aは、液晶層38内の電界を制御するためのトランジスタおよび電極などの薄膜トランジスタ構造と、タッチセンサー電極(たとえば、図3の電極28および30などの容量性電極)との両方を含むことができる。所望であれば、他の構成を使用してもよい。図5に示される、TFT構造とタッチ構造とを組み合わせてTFT層にするための例示的な配置は、単なる例示である。」
「[0049]ディスプレイ14がその液晶層の上にタッチパネルを有しないような状況では、ディスプレイのカバーガラス層に印加される静電荷が、ディスプレイの適切な動作を妨害する電界を液晶層に生成する危険性がある。このリスクは、ディスプレイ14に、液晶層38の上に1つ以上の電界遮蔽層を設けることによって対処することができる。」
「[0050]電界遮蔽層が、ディスプレイ14の表面上の静電荷が液晶層38の動作を妨害することを確実に防止するために、この遮蔽層は十分な導電性を有するべきである。同時に、遮蔽層は、タッチセンサーの静電容量感知機能を妨げるので、導電性が高すぎないように注意すべきである。好ましくは、遮蔽層の抵抗率は、10MΩ/□~10GΩ/□である。この範囲の抵抗率を有する遮蔽層フィルムは、時に、中高抵抗を有すると称され得る。遮蔽層は絶縁層ではない(これは、遮蔽層が静電荷の影響を遮断するのに有効であることを妨げるためである)。同時に、遮蔽層は、高導電性の導体は過度のシールドを提供しタッチセンサーを遮断するので、中程度の導電性を有するのみである。」
「[0056]図6に示される例では、電界遮蔽層(「遮蔽層」)46が偏光子42の上に形成されている。接着剤50を使用して、カバーガラス18を遮蔽層46、したがって上部偏光子42に取り付けることができる。導電性構造体62のような導電性構造体を使用して、遮蔽層46を接地パッド56のような端子に短絡させる電気経路を形成してもよい。接地パッド56は、薄膜トランジスタおよびタッチセンサー構造36(本明細書では「TFT層36」と呼ぶこともある)上の導電性トレースから形成することができる。接地トレース56およびドライバ集積回路58などのTFT層36上のコンポーネントは、トレース60などのトレースを使用して相互接続することができる。これらのトレースは、TFT層36上のトレースを使用して、1つまたは複数のフレックス回路(「ディスプレイフレックス」および「タッチフレックス」と呼ばれることもある)に接続することができる。これらのようなフレックス回路は、導電性接着剤(「異方性導電フィルム」またはACFと呼ばれることもある)を使用してTFT層36に取り付けることができる。TFT層36に取り付けられていないフレックス回路の端部は、プリント回路基板(例えば、メインロジックボード)に接続することができる。」
「[0061]所望により、図7に示すように、偏光子42の下に遮蔽層46を形成してもよい。図7の遮蔽層46は、例えば、(一例として)カラーフィルタ層40の上面に塗布された透明導電性接着剤の層から形成されてもよい。本明細書に示した他の例と同様に、遮蔽層46は、他の適切な材料(例えば、導電性ポリマー、金属酸化物、導電性インク、導電性ナノ材料、これらの層の組み合わせなど)から形成することもできる。」
(エ)図4~7は次のとおりである。
[図:0001412266000006.jpg]
[図:0001412266000007.jpg]
[図:0001412266000008.jpg]
[図:0001412266000009.jpg]
イ 上記アによれば、引用文献Aには、図7に記載された例について、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「液晶層38の上に設けられた電界遮蔽層について、ディスプレイ14がその液晶層の上にタッチパネルを有しておらず、インセルディスプレイといったタッチセンサー電極を液晶層の下の位置でディスプレイに組み込むような状況では、ディスプレイ14の表面上の静電荷が液晶層38の動作を妨害することを確実に防止するために十分な導電性を有するべきであり、同時に、タッチセンサーの静電容量感知機能を妨げるので、導電性が高すぎないように注意すべきであり、好ましくは、電界遮蔽層の抵抗率は10MΩ/□~10GΩ/□であり、([0049]・[0050]・[0008]・[0009])
電界遮蔽層は、上部偏光子42の下に形成してもよい([0061])
という技術的事項。」
(3)甲1(特表2014-532192号公報)
ア 本件特許に係る出願の優先日前に頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1には以下の記載がある。
(ア)「【技術分野】」
「【0001】
本開示は、概して電子ディスプレイに関し、より詳細にはタッチスクリーンセンサ構成要素と表示画素セル内又は表示画素セル上のブラックマトリックスとを有する電子ディスプレイに関する。」
(イ)「【背景技術】」
「【0003】
電子機器は、ボタン、マウス、タッチセンサパネル、タッチスクリーンなどを含む、種々のユーザー入力装置を使用することがある。タッチスクリーンは、詳細には、その操作し易さと汎用性により人気があることがある。従来、タッチスクリーンは、タッチパネルが上に重ねられた液晶ディスプレイ(LCD)又は有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイなどのフラットパネルディスプレイのことがある。そのようなタッチスクリーンは、概して、スクリーン上のタッチの発生と位置を認識して、電子機器の適切な応答を可能にすることがある。」
(ウ)「【発明が解決しようとする課題】」
「【0004】
多くのタッチスクリーンが、LCD全体の上に重ねられた容量性タッチセンサパネルから形成されることがある。そのような容量性タッチセンサパネルは、インジウムスズ酸化物(ITO)などの実質的に透明な導電体で作成されたタッチ駆動線及びタッチ感知線の何らかのマトリックスから形成されることがある。そのようなタッチ駆動線及びタッチ感知線は、実質的に透明な基板上に列及び行で配列されることが多い。ユーザーの指などの物体が、タッチ駆動線及びタッチ感知線の交差点の近くにあるときに、タッチ駆動線とタッチ感知線との間の容量が変化することがある。この容量の変化は、その場所でタッチが行われていることを示すことがある。LCDの上方に実質的に透明な容量性タッチセンサパネルを重ねることにより、LCDからの光が通過することできるが、容量性タッチセンサパネルは、LCDの輝度の低下をゼロにはできないことがある。更に、LCDの上に容量性タッチセンサパネルを重ねると、厚さ及び重量が増えることがある。個々の容量性タッチセンサパネルをLCD上に重ねるのを回避するためにタッチスクリーン構成要素がLCDの表示画素セルに一体化されたときに、一体化されたタッチ画面構成要素は、比較的高い抵抗を有し及び/又は他のディスプレイ構成要素に容量結合することがある。更に、ねじれネマチックモード(TNモード)電子ディスプレイにはカラーフィルタが組み込まれていると思われるが、そのようなTNモード電子ディスプレイの製造を、フリンジ電界スイッチングモード(FFSモード)電子ディスプレイの製造に適合させるのは困難なことがある。」
(エ)「【図面の簡単な説明】」
「【0010】
【図10】一実施形態に係るブラックマトリックスの構成要素が上ガラスアセンブリに配置されタッチセンサ構成要素として働く、FFSモードLCDの様々な層の側面概略図である。」
(オ)「【0028】
ディスプレイ18は、様々な層を含んでもよい。図4~図6は、ディスプレイ18内に出現することがある様々な層のブロック分解図を示す。図4~図6の実施形態は、インセル/オンセルタッチセンサ20の構成要素の様々な構成を示す。実際には、図4~図6は、バックライトアセンブリ60、下側偏光層62、下側基板(即ち、薄膜トランジスタ(TFT)ガラス基板64)、薄膜トランジスタ(TFT)層66、液晶層68、上側基板(即ち、上ガラス基板70)、ブラックマトリックス/タッチ感知電極80、タッチセンサ誘電体層88、タッチ駆動電極86、及び上側偏光フィルタ+高抵抗又は耐電防止膜90を有する実施形態を示す。図4では、ブラックマトリックス/タッチセンサ電極80、タッチセンサ誘電体層88、及びタッチ駆動電極86を含むインセル/オンセルタッチセンサ20の構成要素が、上ガラス基板60の内向きの側に形成されるように示される。」
「【0036】
光が液晶層68を通過した後、その光は、引き続きブラックマトリックス/タッチ感知電極80を含むブラックマトリックスの間を通り、誘電体層88及びタッチ駆動電極86を通り、上ガラス基板70を通り、高抵抗及び/又は耐電防止膜に結合された上側偏光層90まで進むことがある。後述するように、高抵抗及び/又は耐電防止膜は、上側偏光層90の上方又は下方に形成されてもよい。」
(カ)「【0048】
図9及び図10は、ディスプレイ18に使用されることがある様々な層の概略側面図を表し、図4の実施形態の実施例を概略的に表す。図9及び図10の実施例は、これらの様々な層がインセル/オンセルタッチセンサ20の構成要素を含むことがある様子を示す。図9及び図10の層は、TFT層66が上に形成されたTFTガラス基板層64、液晶層68、上ガラス基板70、及び高抵抗層72を含む。更に、タッチ駆動電極膜86、誘電体層88、及びブラックマトリックス/タッチ感知電極80が、上ガラス基板70の内向きの側に形成されるように示される。図9及び図10の様々な層は、これらの図にはブラックマトリックス/タッチ感知電極80によって表された、ブラックマトリックス材料138によって輪郭を描かれたように、赤色画素102a及び緑色画素102bを形成するように示される。図9及び図10のインセル/オンセルタッチセンサ20の構成要素が、上ガラス基板70の内向きの側に形成されるので、インセル/オンセルタッチセンサ20の構成要素と表示構成要素との間の容量結合は、TFTガラス基板64に形成されるものより低減されることがある。一方、個別のタッチセンサ機器ではなく上ガラス基板70に形成されることによって、インセル/オンセルタッチセンサ20は、普通なら存在する複雑さ及び/又は重量を低減することができる。」
「【0049】
図9及び図10の実施例は、図9では、上側偏光層90と高抵抗層72が、上ガラス基板70の外向きの側に形成されることがあり、図10では、耐電防止膜220が、高抵抗膜72の代わり又は追加として上ガラス基板70の外向きの側に形成されることがある点が互いに異なることに注意されたい。代替実施形態では、高抵抗層72及び/又は耐電防止膜220が、図9及び図10のそれぞれの配置と上側偏光層90の反対側に形成されてもよいことに注意されたい。」
(キ)図10は次のとおりである。
[図:0001412266000010.jpg]
イ 上記アによれば、図10の実施例の代替実施形態(【0049】)について、次の点が認められる。
(ア)当該代替実施形態に係るディスプレイ18は、フリンジ電界スイッチングモード(FFSモード)のものである(【0010】・【0004】)。
(イ)当該代替実施形態に係るディスプレイ18は、TFT層66が上に形成されたTFTガラス基板層64、液晶層68、上ガラス基板70を含んでおり、タッチ駆動電極膜86、誘電体層88、及びブラックマトリックス/タッチ感知電極80が、上ガラス基板70の内向きの側に形成されている(【0048】)。
(ウ)当該代替実施形態に係るディスプレイ18においては、耐電防止膜220と上側偏光層90が、上ガラス基板70の外向きの側に、この順で形成されている(【0049】)。すなわち、【0049】の末文の「代替実施形態では、・・・耐電防止膜220が、・・・図10のそれぞれの配置と上側偏光層90の反対側に形成されてもよいことに注意されたい。」の記載によれば、このように解される。
ウ 上記イによれば、甲1には、図10の実施例の代替実施形態に係るディスプレイ18の上ガラス基板70に設けられた耐電防止膜220と上側偏光層90とを含む構造について、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
[甲1発明]
「TFT層66が上に形成されたTFTガラス基板層64、液晶層68、上ガラス基板70を含んでおり、タッチ駆動電極膜86、誘電体層88、及びブラックマトリックス/タッチ感知電極80が、上ガラス基板70の内向きの側に形成されており、(上記イ(イ))、
耐電防止膜220と上側偏光層90が、上ガラス基板70の外向きの側に、この順で形成されている、(上記イ(ウ))
フリンジ電界スイッチングモード(FFSモード)のディスプレイ18の(上記イ(ア))
上ガラス基板70に設けられた、耐電防止膜220と上側偏光層90とを含む構造。」
2 甲2発明1を主引用発明とした場合の判断
(1)対比
ア 本件訂正発明の「液晶パネルに用いる粘着剤層付き偏光フィルムであって、前記液晶パネルは、インセル型液晶セルを有するインセル型液晶パネルであり、前記インセル型液晶セルは、電界が存在しない状態でホモジニアス配向した液晶分子を含む液晶層、前記液晶層を両面で挟持する第1透明基板および第2透明基板、並びに、前記第1透明基板と第2透明基板との間にタッチセンサーおよびタッチ駆動の機能に係るタッチセンシング電極部を有しており、」との特定事項について
(ア)甲2発明1の「液晶パネル」と本件訂正発明の「インセル型液晶セル」とは、「液晶セル」である点で共通する。
甲2発明1の「偏光板」は、「偏光フィルム3-1;偏光フィルム3-1の上部に形成された保護フィルム3-3及び偏光フィルム3-1の下部に形成された保護フィルム3-2;及び下部保護フィルム3-2の下部に形成された粘着剤層bを含み、下部保護フィルム3-2と粘着剤層bとの間に静電気防止層cが形成されて」いるから、「粘着剤層b」が付いたものである。したがって、当該「偏光板」は、本件訂正発明の「粘着剤層付き偏光フィルム」に相当する。
そして、当該「偏光板」は、「上記液晶パネルの上部基板2-2に直接付着された」ものであるから、甲2発明1の「液晶パネル」とそ「の上部基板2-2に直接付着された偏光板」とを併せた構造(つまり、「液晶表示装置」)は、本件訂正発明の「液晶パネル」に相当し、当該「偏光板」は、本件訂正発明でいう「液晶パネルに用いる粘着剤層付き偏光フィルム」であるといえる。
(イ)甲2発明1の「液晶層1」は、本件訂正発明の「液晶層」に相当する。そして、甲2発明1の「液晶層1を有する液晶パネル」は「横電界型液晶パネル」であるから、当該「液晶層1」は、本件訂正発明でいう「電界が存在しない状態でホモジニアス配向した液晶分子を含む」ものといえる。
甲2発明1は、「上部基板2-2と下部基板2-1との間に形成された液晶層1を有する液晶パネル」を備えるところ、当該「上部基板2-2」及び「下部基板2-1」は、それぞれ、本件訂正発明の「第1透明基板」及び「第2透明基板」に相当する。そして、甲2発明1の当該「上部基板2-2」及び「下部基板2-1」が、本件訂正発明でいう「前記液晶層を両面で挟持する」ことを満たすのは明らかである。
(ウ)よって、本件訂正発明と甲2発明1とは、
「液晶パネルに用いる粘着剤層付き偏光フィルムであって、前記液晶パネルは、」「液晶セルを有する」「液晶パネルであり、」前記「液晶セルは、電界が存在しない状態でホモジニアス配向した液晶分子を含む液晶層、前記液晶層を両面で挟持する第1透明基板および第2透明基板」「を有して」いる点で共通するが、「液晶セル」が、本件訂正発明では「第1透明基板と第2透明基板との間にタッチセンサーおよびタッチ駆動の機能に係るタッチセンシング電極部を有して」いる「インセル型液晶セル」であるのに対し、甲2発明1では「横電界型液晶パネル」であり、その結果、「液晶パネル」が、本件訂正発明では「インセル型液晶セルを有するインセル型液晶パネル」であるのに対し、甲2発明1では「横電界型液晶パネル」を有する液晶表示装置である。
イ 本件訂正発明の「前記粘着剤層付き偏光フィルムは、表面処理層、第1偏光フィルム、アンカー層、第1粘着剤層をこの順で有し、」との特定事項について
(ア)甲2発明1の「偏光板」(本件訂正発明の「粘着剤層付き偏光フィルム」に相当。)は、「偏光フィルム3-1;偏光フィルム3-1の上部に形成された保護フィルム3-3及び偏光フィルム3-1の下部に形成された保護フィルム3-2;及び下部保護フィルム3-2の下部に形成された粘着剤層bを含み、下部保護フィルム3-2と粘着剤層bとの間に静電気防止層cが形成されて」いるものであり、当該「偏光板」には、「その上部に、反射防止フィルム3-4が形成されている」から、当該「偏光板」は、「反射防止フィルム3-4」、「偏光フィルムの上部に形成された保護フィルム3-3」、「偏光フィルム3-1」、「偏光フィルムの下部に形成された保護フィルム3-2」、「静電気防止層c」及び「粘着剤層b」をこの順で有しているものである。
そうすると、甲2発明1の「反射防止フィルム3-4」、「偏光フィルム3-1」及び「粘着剤層b」は、それぞれ、本件訂正発明の「表面処理層」、「第1偏光フィルム」及び「第1粘着剤層」に相当し、これらの層を「この順で有し」ている。
(イ)本件訂正発明の「アンカー層」と甲2発明1の「静電気防止層c」とは、所定の層(以下「所定層」という。)である点で共通する。
(ウ)よって、本件訂正発明と甲2発明1とは、「前記粘着剤層付き偏光フィルムは、表面処理層、第1偏光フィルム」、所定層、「第1粘着剤層をこの順で有し」ている点で共通するが、所定層が、本件訂正発明では「アンカー層」であるのに対し、甲2発明1では「静電気防止層c」である。
ウ 本件訂正発明の(粘着剤層付き偏光フィルムは)「前記インセル型液晶セルの視認側の第1透明基板の側に、導電層を介することなく第1粘着剤層を介して配置されるものであり、」との特定事項について
(ア)甲2発明1の「偏光板」(本件訂正発明の「粘着剤層付き偏光フィルム」に相当。)は、「上記液晶パネルの上部基板2-2に直接付着された」ものであるところ、当該「上記液晶パネルの上部基板2-2」は、本件訂正発明でいう「視認側」にあるといえる。また、当該「偏光板」は、「偏光フィルム3-1;偏光フィルム3-1の上部に形成された保護フィルム3-3及び偏光フィルム3-1の下部に形成された保護フィルム3-2;及び下部保護フィルム3-2の下部に形成された粘着剤層bを含み、下部保護フィルム3-2と粘着剤層bとの間に静電気防止層cが形成されて」いるところ、「粘着剤層b」は、「偏光板」の中で「上部基板2-2」に最も近い層であることから、本件訂正発明の「第1粘着剤層」に相当する。
そして、甲2発明1の「偏光板」は、「液晶パネルの上部基板2-2に直接付着された」ものであるから、「粘着剤層b」と「液晶セルの上部基板2-2」(本件訂正発明の「第1透明基板」に相当。)との間に、本件訂正発明でいう導電層は存在しない。
そうすると、本件訂正発明と甲2発明1とは、(粘着剤層付き偏光フィルムは、)「前記」「液晶セルの視認側の第1透明基板の側に、導電層を介することなく第1粘着剤層を介して配置されるものであ」る点で共通するといえる。
(イ)よって、本件訂正発明と甲2発明1とは、(粘着剤層付き偏光フィルムは、)「前記」「液晶セルの視認側の第1透明基板の側に、導電層を介することなく第1粘着剤層を介して配置されるものであ」る点で共通するが、「液晶セル」が、本件訂正発明は「インセル型」であるのに対し、甲2発明1は「横電界型液晶パネル」であるが、「インセル型」ではない。
エ 本件訂正発明の「前記アンカー層、及び、前記第1粘着剤層は帯電防止剤を含有し、前記アンカー層は、前記帯電防止剤として水溶性導電性ポリマーまたは水分散性導電性ポリマー、および、水溶性もしくは水分散性のバインダーを含有し、前記アンカー層は、表面抵抗率が1×108~1×1011Ω/□であり、」との特定事項について
(ア)甲2発明1の「静電気防止層c」(本件訂正発明の「アンカー層」とは所定層である点で共通するもの)は、「バインダー樹脂及び伝導性物質を含」むところ、当該「伝導性物質」及び当該「バインダー樹脂」は、それぞれ、本件訂正発明の「帯電防止剤」及び「バインダー」に相当する。
甲2発明1の「粘着剤層b」(本件訂正発明の「第1粘着剤層」に相当。)は、「粘着性ベース樹脂及び帯電防止剤を含む組成物の硬化物」からなるところ、当該「帯電防止剤」は、本件訂正発明の「帯電防止剤」に相当する。
(イ)甲2発明1の「静電気防止層c」は、「表面抵抗が1010Ω/□以下、好ましくは109Ω/□以下、より好ましくは108Ω/□以下であり、上記静電気防止層の表面抵抗の下限は、特に限定されず、例えば、104Ω/□以上の範囲で適宜調節され」ているところ、当該「表面抵抗」は、本件訂正発明の「表面抵抗率」に相当する。
(ウ)よって、本件訂正発明と甲2発明1とは、前記所定層、「及び、前記第1粘着剤層は帯電防止剤を含有し、」前記所定層は、「前記帯電防止剤」及び「バインダーを含有」しており、「表面抵抗率が」所定の値である点で共通するが、上記イ(ウ)の所定層の点の相違に加えて、所定層の表面抵抗率が、本件訂正発明では、「1×108~1×1011Ω/□」であるのに対し、甲2発明1では、「1010Ω/□以下、好ましくは109Ω/□以下、より好ましくは108Ω/□以下であり、上記静電気防止層の表面抵抗の下限は、特に限定されず、例えば、104Ω/□以上の範囲で適宜調節され」ており、帯電防止剤及びバインダーが、それぞれ、本件訂正発明は「水溶性導電性ポリマーまたは水分散性導電性ポリマー」及び「水溶性もしくは水分散性のバインダー」であるのに対し、甲2発明1は、「伝導性物質」及び「バインダー樹脂」として挙げられた例にそれらを含んでいない。
オ 本件訂正発明の「前記第1粘着剤層は、前記帯電防止剤としてアルカリ金属塩及び/または有機カチオン-アニオン塩を含有し、」との特定事項について
(ア)甲2発明1の「粘着剤層」(本件訂正発明の「第1粘着剤層」に相当。)に含まれる「帯電防止剤」は、「有機塩または無機塩」であり、当該「有機塩または無機塩」は、本件訂正発明の「アルカリ金属塩及び/または有機カチオン-アニオン塩」とは、塩である点で共通する。
(イ)よって、本件訂正発明と甲2発明1とは、「前記第1粘着剤層は、前記帯電防止剤として」塩を「含有し」ている点で共通するが、前記塩が、本件訂正発明では、「アルカリ金属塩及び/または有機カチオン-アニオン塩」であるのに対し、甲2発明1では、「有機塩または無機塩」である。
カ 本件訂正発明の「前記第1粘着剤層の表面抵抗率が1×108~1×1011Ω/□である」との特定事項について
(ア)甲2発明1の「粘着剤層b」(本件訂正発明の「第1粘着剤層」に相当。)は、「表面抵抗が1012Ω/□以下の導電性粘着剤層」であり、「前記導電性粘着剤は、表面抵抗が1012Ω/□以下、好ましくは1011Ω/□以下であり、粘着剤の表面抵抗の下限は、特に限定されるものではなく、例えば、106Ω/□以上、好ましくは9.9×107Ω/□を超過する範囲で調節され」るものである。
(イ)よって、本件訂正発明と甲2発明1とは、「第1粘着剤層の表面抵抗率」が所定の値である点で共通するが、前記所定の値が、本件訂正発明では、「1×108~1×1011Ω/□」であるのに対し、甲2発明1では、「1012Ω/□以下、好ましくは1011Ω/□以下」であり、「下限は、特に限定されるものではなく、例えば、106Ω/□以上、好ましくは9.9×107Ω/□を超過する範囲で調節され」るものである。
キ 本件訂正発明の「インセル型液晶パネルに用いる粘着剤層付き偏光フィルム」との特定事項について
上記アと同様であり、本件訂正発明と甲2発明1とは、「液晶パネルに用いる粘着剤層付き偏光フィルム」である点で共通するが、「液晶パネル」が、本件訂正発明では「インセル型」であるのに対し、甲2発明1では「横電界型液晶パネル」を含む「液晶表示装置」であるが「インセル型」ではない。
(2)一致点及び相違点の認定
上記(1)によれば、本件訂正発明と甲2発明1とは、
「液晶パネルに用いる粘着剤層付き偏光フィルムであって、
前記液晶パネルは、液晶セルを有する液晶パネルであり、
前記液晶セルは、電界が存在しない状態でホモジニアス配向した液晶分子を含む液晶層、前記液晶層を両面で挟持する第1透明基板および第2透明基板を有しており、
前記粘着剤層付き偏光フィルムは、表面処理層、第1偏光フィルム、所定層、第1粘着剤層をこの順で有し、
前記液晶セルの視認側の第1透明基板の側に、導電層を介することなく第1粘着剤層を介して配置されるものであり、
前記所定層、及び、前記第1粘着剤層は帯電防止剤を含有し、
前記所定層は、前記帯電防止剤、および、バインダーを含有し、
前記所定層は、表面抵抗率が所定の値であり、
前記第1粘着剤層は、前記帯電防止剤として塩を含有し、
第1粘着剤層の表面抵抗率が所定の値である
液晶パネルに用いる粘着剤層付き偏光フィルム。」の点で一致し、下記の点で一応相違するか、又は、相違する。
<相違点1>「液晶パネルに用いる粘着剤層付き偏光フィルム」の「液晶パネルに用いる」が、本件訂正発明では、「インセル型液晶セルを有するインセル型液晶パネル」「に用いる」ものであり、当該「インセル型液晶パネル」に含まれる「インセル型液晶セル」が「第1透明基板と第2透明基板との間にタッチセンサーおよびタッチ駆動の機能に係るタッチセンシング電極部を有」するものであるのに対し、甲2発明1では、「上部基板2-2と下部基板2-1との間に形成された液晶層1を有する液晶パネルを含む液晶表示装置」に用いるものであり、当該「液晶パネル」が「横電界型液晶パネル」である点。
<相違点2>前記帯電防止剤、および、バインダーを含有する「所定層」が、本件訂正発明では「アンカー層」であり、「前記帯電防止剤として水溶性導電性ポリマーまたは水分散性導電性ポリマー、および、水溶性もしくは水分散性のバインダーを含有」するのに対し、甲2発明1では「静電気防止層c」であり、「伝導性物質」及び「バインダー樹脂」として挙げられた例にそれらが含まれていない点。
<相違点3>所定層の表面抵抗率が、本件訂正発明では、「1×108~1×1011Ω/□」であるのに対し、甲2発明1では、「1010Ω/□以下、好ましくは109Ω/□以下、より好ましくは108Ω/□以下であり、上記静電気防止層の表面抵抗の下限は、特に限定されず、例えば、104Ω/□以上の範囲で適宜調節され」ている点。
<相違点4>「第1粘着剤層」に含有される「塩」が、本件訂正発明では、「アルカリ金属塩及び/または有機カチオン-アニオン塩」であるのに対し、甲2発明1では、「有機塩または無機塩」である点。
<相違点5>「第1粘着剤層の表面抵抗率」が、本件訂正発明では、「1×108~1×1011Ω/□」であるのに対し、甲2発明1では、「1012Ω/□以下、好ましくは1011Ω/□以下」であり、「下限は、特に限定されるものではなく、例えば、106Ω/□以上、好ましくは9.9×107Ω/□を超過する範囲で調節され」るものである点。
(3)判断
以下、相違点1~5について検討する。
ア 本件訂正発明の技術的意義について
各相違点を判断するに先立ち、本件訂正発明の技術的意義を認定する。
本件訂正後の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件訂正明細書等」という。)の記載によれば、本件訂正発明の技術的意義は、従来、タッチセンシング機能付液晶表示装置において、表示不良や誤作動の発生を低減するため、表面抵抗率が1.0×109~1.0×1011Ω/□の帯電防止層を有する偏光フィルムを液晶層の視認側に配置することが提案されていた(【0004】)ところ、このような偏光フィルムは、(i)粘着剤層に帯電防止機能を付与する場合に比べて静電気発生の抑制が効果的でない、(ii)帯電防止層が薄いと側面の導通構造との接触面積が小さくなる、(iii)一方で、帯電防止層を厚くすると、タッチセンサー感度が低下する、(iv)偏光フィルムの外側に設けられた帯電防止層は加湿または加熱環境下において側面の導通構造との密着性が不良になる、という課題があり(【0006】)、これに対して、(帯電防止層を粘着剤層とは別に設けるのではなく)粘着剤層に帯電防止機能を付与すると、上記従来の偏光フィルムよりは静電気発生の抑制が有効となるが、(v)粘着剤層の導電機能を高めるとタッチセンサー感度が低下する、(vi)導電機能を高めるために粘着剤層に配合された帯電防止剤は、加湿環境下において、耐久性が十分でないという課題がある(【0007】)ことから、上記各課題を解決するために、第1偏光フィルムに設けたアンカー層及び第1粘着剤層に帯電防止剤を含有するようにすることによって、有効に導通を確保しながら、加湿環境下での導通信頼性を満足する(【0021】)とともに、当該アンカー層及び当該第1粘着剤層の表面抵抗率を所定範囲に制御することによって、タッチセンサー感度が低下したり、加湿環境下での耐久性が悪くなったりしないように制御しながら、所定の帯電機能を付与する(【0022】)ことにあると認められる。
イ 相違点1について
(ア)相違点1は、以下のとおり、実質的なものではない。
a 相違点1に係る本件訂正発明の構成は、「粘着剤層付き偏光フィルム」という物を所定の「インセル型液晶パネルに用いる」ことをもって特定しようとするものであるから、本件訂正発明は、いわゆる用途限定(以下、本件訂正発明に係る所定の「インセル型液晶パネル」「に用いる」との用途を「本件用途」という。)が付された物に係るものと解される。そして、用途限定が付された物に係る特定事項については、その用途に特に適した物を意味すると解すべきか、又は、いわゆる用途発明に係る物と解すべきかを検討し、それらのいずれにも当たらない場合は、その用途限定は物を特定するための意味を有していないと解するのが相当である。
(a)そこで、まず、本件用途に係る限定がその用途に特に適した物を意味するかについて検討する。「粘着剤層付き偏光フィルム」は、一般に、液晶パネルに用いられるのが技術常識であるところ、本件訂正発明に係る「粘着剤層付き偏光フィルム」の構造は、本件用途に供されることによって、他の液晶パネルに用いた場合と比べて、構造上、何らかの差異が生じるものではなく、本件訂正明細書等をみても、これを左右する記載を見いだせない。したがって、本件用途に係る限定を、その用途に特に適した物を意味すると解することはできない。
(b)そのため、次に、本件用途に係る限定が付された「粘着剤層付き偏光フィルム」という物の発明を、いわゆる用途発明と解すべきかが問題となるところ、ある物の未知の属性を発見したといえない場合や、未知の属性を発見したとしても、その技術分野の技術常識を考慮し、その物の用途として新たな用途を提供したといえない場合は、用途発明と解すべきではないというべきである。
これを本件訂正発明についてみると、用途発明という考え方は、一般に、物の構造又は名称からその物をどのように使用するかを理解することが比較的困難な技術分野において適用されるものであるところ、本件訂正発明に係る「粘着剤層付き偏光フィルム」の構造に接した当業者にとって、本件用途に関連するような何らかの未知の属性が存在するとはいえない。すなわち、上記当業者であれば、当該「粘着剤層付き偏光フィルム」の構造が、静電気発生を抑制しつつ静電容量センサ方式のタッチセンサー感度の低下を抑制できるという属性を有することを認識、理解することができるといえるのであり、このことは、静電気の発生を抑えるとともにタッチセンサとして静電容量センサを用いた場合の誤作動を防止するために、所定の表面抵抗率の帯電防止層を備えた偏光板が、本件訂正明細書等に先行技術文献(特開2013-105154号公報)をもって記載されている(【0004】)ことや、上記1(2)イで認定した引用文献Aに記載された技術的事項のとおり、「液晶層38の上に設けられた電界遮蔽層について、ディスプレイ14がその液晶層の上にタッチパネルを有しておらず、インセルディスプレイといったタッチセンサー電極を液晶層の下の位置でディスプレイに組み込むような状況では、ディスプレイ14の表面上の静電荷が液晶層38の動作を妨害することを確実に防止するために十分な導電性を有するべきであり、同時に、タッチセンサーの静電容量感知機能を妨げるので、導電性が高すぎないように注意すべきであ」るとともに「電界遮蔽層は、上部偏光子42の下に形成してもよい」ことが知られていること、さらには、これらのことから、偏光板と液晶セルとの間に設けた帯電防止層を、その表面抵抗率を大きすぎずかつ小さすぎないようすることによって、静電気の発生の抑制と静電容量センサ方式のタッチセンサーの誤動作防止を両立させることが技術常識といえること(上記の各文献のほか、特開2017-54141号公報の【0018】・図1、国際公開第2014/069377号の[0040]・[0038]・[0039]・[0069]・図1をも参照。)に照らせば明らかである。また、本件訂正発明に係る「粘着剤層付き偏光フィルム」の構造には、上記アで認定した技術的意義によれば、有効に導通を確保する、加湿環境下での導通信頼性を満足する、加湿環境下での耐久性が悪くなったりしないようにする、といった属性もあるといえるが、このような属性は、本件用途との関連性があるとはいえないし、いずれにせよ、当該構造が奏するものとして当業者が予想し得た程度のものにすぎない。
さらに、粘着剤層付き偏光フィルムが、上記のとおり、広く一般的な液晶パネル(本件訂正発明の「インセル型液晶パネル」も当然含まれる。)に適用されることが技術常識であることに照らせば、本件訂正発明は、仮に、その物に何らかの未知の属性があることを発見したことによるものだとしても、その属性により、その物の既存の用途を超える新たな用途を提供したものともいえない。
したがって、本件訂正発明は、用途発明と解すべきものでもない。
(c)そうすると、相違点1に係る本件訂正発明の構成は、物を特定するための意味を有していないというべきである。
b これに対し、特許権者は、相違点1に係る本件訂正発明の構成を無視すべきではない旨主張し、その根拠として、(i)「インセル型液晶パネル」「に用いる」の記載は、本件訂正発明の特定事項であるから、甲2発明1との実質的な相違点であること、(ii)本件訂正発明と甲2発明1とは、アンカー層に係る相違点2が明らかになっており、当該相違点2を有する「粘着剤層付き偏光フィルム」を「インセル型液晶セルに用いる」ことによって本件訂正発明の効果を奏していること、(iii)請求項に記載された用途の記載を考慮して進歩性の判断を行うべきとした裁判例があること、を挙げる。
しかしながら、上記(i)については、上記aの説示のとおりである。
上記(ii)については、上記aの説示は、本件訂正発明のクレーム解釈としてのものであることから、相違点2が存在することによって直ちに左右されるものではない。また、相違点2に係る本件訂正発明の構成の技術的意義は、本件訂正明細書等の【0048】に照らせば、塗布の際に非水系の有機溶剤を用いる必要がないため、当該有機溶剤による光学フィルム基材の変質を抑えることにあるのであり、そうである以上、本件用途との技術的関連性はなく、したがって、当該相違点の存在によって、本件用途に係る限定の解釈が相違することに合理性があるとはいえない。
上記(iii)については、特許権者は裁判例(令和2年(行ケ)第10001号判決)を指摘するが、具体的事案の判断は個別的にされるべきものであるし、いずれにせよ、本件とは事案が異なるものである。すなわち、当該裁判例は、用途限定が付された物のクレーム解釈につき判示したものではなく、相違点に係る構成の容易想到性を否定するに当たって、本件訂正発明と主引用発明との技術分野や課題が一致するものではないことを根拠付けるために、本件訂正発明の用途限定を考慮したにすぎないものである。この点、特許権者は、本件訂正発明と甲2発明1との間には相違点2の存在があることから、上記裁判例と同様の理由で、相違点2に係る構成の容易想到性を判断する際には、本件用途が考慮されるべきであるとも主張するが、本件訂正発明と甲2発明1との間には技術分野の相違は特段存在しないし、上記(ii)のところで説示したとおり、相違点2に係る本件訂正発明の構成は本件用途との技術的関連性がないことから、相違点2の判断に際して本件用途を考慮すべき必要性はない。
c したがって、相違点1は実質的なものではない。
(イ)仮に相違点1が実質的なものであるとしても、相違点1は格別のものではない。
a すなわち、甲2発明1においては、静電気防止層c及び粘着剤層bが、それぞれ、伝導性物質及び帯電防止剤を含んでいるところ、このように構成する技術的意義は、帯電防止性能の確保にある(甲2の【0031】・【0047】)。ここで、帯電防止性能は、液晶表示装置の製造または使用過程で発生する静電気による機器の誤作動や静電気むらなどの問題を解決するために必要とされており(同【0014】)、このような静電気防止の必要性は、特に横電界型液晶パネルにおいて重要である(同【0016】)とされている。そして、横電界方式としては、IPS modeが挙げられている(同【0009】)。
そして、甲2発明1を実施するに当たり、横電界型液晶パネルとして具体的にどのようなものを採用するかは、当業者が当然に設計すべきものであるところ、「横電界型液晶パネル」であっても、タッチパネルを用いることは例示するまでもなく技術常識であるし、横電界方式であるIPSモードの場合に、タッチパネルとして、静電容量方式のインセル型のもの(相違点1に係る本件訂正発明の構成と同様に、第1透明基板と第2透明基板の間にタッチセンサーおよびタッチ駆動の機能に係るタッチセンシング電極部を有していることになる。)を用いることは、例えば、Apple社のiPhone5で用いられている(例えば、日経エレクトロニクス2012年11月12日号、「iPhone 5から読み解く、Appleの独り勝ち戦略」、https://xtech.nikkei.com/dm/article/HONSHI/20121108/250144/を参照。)ように、周知技術(以下「周知技術1」という。)である。
そうすると、甲2発明1の「横電界型液晶パネル」として静電容量方式のインセル型のものを採用して、相違点1に係る本件訂正発明の構成に至ることは、当業者が適宜なし得たことである。
b これに対し、特許権者は、甲2発明1の「横電界型液晶パネル」において「インセル型」を選択することは技術常識に基づいて容易に想到できない旨主張するが、上記aで説示したとおりである。
c したがって、相違点1が実質的であるとしても、相違点1に係る本件訂正発明の構成は甲2発明1及び周知技術1に基づいて当業者が適宜なし得たことにすぎず、格別のものではない。
ウ 相違点2について
(ア)甲2発明1の「静電気防止層c」は、「バインダー樹脂及び伝導性物質を含」むものであるところ、当該「バインダー樹脂」は、「アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン系樹脂、フェノール系樹脂またはポリエステル系樹脂などを使用することができ、これらのうちアクリル系樹脂を使用することがより好まし」いとされている。そして、当該「静電気防止層c」は、「バインダー樹脂を形成することができる組成物内に所定の伝導性物質を分散させて塗料を製造した後、上記塗料を目的する場所に塗布し、硬化させて、静電気防止層を形成することができるもの」であることから、「下部保護フィルム3-2」に「バインダー樹脂を形成することができる組成物内に所定の伝導性物質を分散させ」た「塗料」を「塗布」して「硬化させて」形成されたものであるといえる。
他方、帯電防止層の形成材料について、塗布液として非水系の有機溶剤を用いる必要がなく、当該有機溶剤による光学フィルム基材の変質を抑えるために、帯電防止剤が水溶性導電性ポリマーまたは水分散性導電性ポリマーの水系材料を用いるとともに、その場合には、アクリル系樹脂などからなる水溶性もしくは水分散性のバインダー成分を用いることが周知技術(例えば、特開2011-252948号公報の【0029】・【0023】、特開2009-157363号公報の【0068】・【0063】、国際公開第2009/072467号の[0070]・[0065]を参照。以下「周知技術2」という。)である。
そうすると、甲2発明1に接した当業者であれば、「下部保護フィルム3-2」に「バインダー樹脂を形成することができる組成物内に所定の伝導性物質を分散させ」た「塗料」を「塗布」する際に、当該「下部保護フィルム3-2」の変質を抑えるために、周知技術2を採用することは、容易に想到し得たものである。
そして、このようにして得られた「静電気防止層c」は、アクリル系樹脂などからなる水溶性もしくは水分散性のバインダー成分に、水溶性導電性ポリマーまたは水分散性導電性ポリマーの水系材料の帯電防止剤が含まれるものであるところ、本件訂正発明の「アンカー層」の「バインダー成分」について、本件訂正明細書等の【0051】には、特にポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂が好ましいことが記載されており、さらに、同【0104】及び【0105】には、オキサゾリン基含有アクリルポリマーが記載されていることにも照らせば、当該「静電気防止層c」は、本件訂正発明の「アンカー層」に相当するといえる。
したがって、相違点2に係る本件訂正発明の構成は甲2発明1及び周知技術2に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。
(イ)これに対し、特許権者は、(i)甲2には「伝導性物質」及び「バインダー樹脂」として水溶性又は水分散性のものの開示はないことや、(ii)甲2に具体的に開示されている「静電気防止層c」(導電材料としてAZO分散液、バインダーとしてジペンタエリストールヘキサアクリレートを使用)では、加湿化の際にTSP感度の課題が生じること(乙1の【0114】)から、「タッチセンサー感度を満足する」という本件訂正発明の課題を解決できないことを主張する。
しかしながら、(i)については、上記(ア)で説示したとおりである。(ii)については、乙1に記載された内容は本件訂正明細書等に記載されていないことから、それに基づく主張は、本件訂正明細書等の記載に基づくものではないし、それを措くとしても、導電性ポリマーが加湿時での安定性に優れていることも周知であった(例えば、上記(ア)で提示した特開2011-252948号公報の【0023】、特開2009-157363号公報の【0063】、国際公開第2009/072467号の[0065]を参照。)ことから、当業者が予測できる程度の事項にすぎないといえる。
エ 相違点3~5について
甲2発明1では、「静電気防止層c」の表面抵抗が、「1010Ω/□以下、好ましくは109Ω/□以下、より好ましくは108Ω/□以下」であり、「下限は、特に限定されず、例えば、104Ω/□以上の範囲で適宜調節され」ており、「粘着剤層b」に含有される「塩」が、「有機塩または無機塩」であり、「粘着剤層b」の表面抵抗が、「1012Ω/□以下、好ましくは1011Ω/□以下」であり、「下限は、特に限定されるものではなく、例えば、106Ω/□以上、好ましくは9.9×107Ω/□を超過する範囲で調節され」るものである。
そして、当業者は、甲2発明1において、「静電気防止層c」及び「粘着剤層b」の表面抵抗値と「粘着剤層b」に含有される「塩」を、上記の範囲において適宜選択できるところ、実施例1又は3で選択された具体的な表面抵抗及び塩(甲2発明2で特定されたとおりのものであり、これは、後記3(1)のとおり、相違点3~5に係る本件訂正発明の構成、つまり、所定層の表面抵抗率、第1粘着剤層に含有される塩、及び第1粘着剤層の表面抵抗率に係る構成を満たしている。)にも照らせば、当業者は、相違点3~5を満たす本件訂正発明の構成に適宜至ることができるといえる。
オ 本件訂正発明の効果について
(ア)本件訂正発明の効果について、本件訂正明細書等の【0021】・【0022】には、(i)アンカー層及び粘着剤層の双方に帯電防止機能が付与されているため、インセル型液晶パネルにおいて、側面でより有効に導通構造と接触することができ、かつ、接触面積をより有効に確保することができること、(ii)アンカー層及び粘着剤層の表面抵抗率が所定範囲に制御されているので、タッチセンサー感度が低下したり、加湿環境下での耐久性が悪くなったりしないように制御しながら、粘着剤層付偏光フィルムにおける少なくとも1層の表面抵抗率を低下させて所定の帯電防止機能を付与することができること、であると記載されている。
そこで、このような効果が格別かについてみると、まず、(i)については、本件訂正発明と甲2発明1との一致点に係る構成に由来することから、甲2発明1も当然に奏するものにすぎない。
次に、(ii)については、表面抵抗率についての相違点3及び5に係る本件訂正発明の構成に由来するものであるところ、上記1(2)イで認定したとおり、引用文献Aには、ディスプレイがその液晶層の上にタッチパネルを有しておらず、インセルディスプレイといったタッチセンサー電極を液晶層の下の位置でディスプレイに組み込むような状況において、液晶層の上に設けられた電界遮蔽層の導電性を設定するときの観点として、ディスプレイの表面上の静電荷が液晶層の動作を妨害することを確実に防止するために十分なものとするとともに、同時に、タッチセンサーの静電感知機能を妨げるので高すぎないようにすることが記載されていることから、上記(ii)のうち、アンカー層及び粘着剤層の表面抵抗率を所定範囲に制御すると、タッチセンサー感度が低下しないようにできるという効果については、当業者は、甲2発明1及び引用文献Aに記載された技術的事項(上記イ(ア)a(b)で説示したとおり技術常識であるともいえる。)に基づき予測できるといえる。また、上記(ii)のうち、同じく所定範囲に制御すると、加湿環境下での耐久性が悪くならないようにできるというのは、バインダー中に分散された物の性質としては明らかである。
したがって、本件訂正発明の上記効果は、本件訂正発明の構成が奏するものとして当業者が予測できたものにすぎない。
(イ)これに対し、特許権者は、本件訂正発明の効果が格別である旨主張し、その根拠として、(i)引用文献A及び甲2のいずれにも、本件訂正発明の課題及び効果に係る「タッチセンサー感度」に関する記載がないこと、(ii)本件訂正明細書等の実施例及び比較例によって、本件訂正発明の「インセル型液晶パネルに用いる」粘着剤層付き偏光フィルムが、インセル型液晶パネルに適用した場合において、「タッチセンサー感度」に関して有利な効果を奏していることが理解できること、を挙げる。
しかしながら、上記(i)については、上記(ア)で説示したとおり、引用文献Aには、ディスプレイがその液晶層の上にタッチパネルを有しておらず、インセルディスプレイといったタッチセンサー電極を液晶層の下の位置でディスプレイに組み込むような状況において、液晶層の上に設けられた電界遮蔽層の導電性を、ディスプレイ14の静電荷が液晶層38の動作を妨害することの確実な防止と、タッチセンサーの静電容量感知機能を妨げないことの観点から定めることが記載されている。この点、本件訂正明細書等の【0003】には、静電気の発生要因として粘着剤層付き偏光フィルムの粘着剤層から離型フィルムを剥離することが記載されているが、このようなことは本件訂正発明の構成には反映されていないものであるし、それを措くとしても、粘着剤層付き偏光フィルムの粘着剤層に離型フィルムを設けること、さらには、当該離型フィルムを剥離することによって静電気が発生することは技術常識といえる(例えば、国際公開第2014/034630号の[0003]を参照。)ことから、この点を考慮しても、本件訂正発明の効果が格別であるとはいえない。
上記(ii)については、上記イ(ア)で説示したとおり、相違点1に係る本件訂正発明の構成が実質的な意味をもたないことから、請求項の記載を反映した主張とはいえないし、いずれにせよ、上記(ア)のとおり、本件訂正発明の効果は、本件訂正発明の構成が奏するものとして当業者が予測できたものにすぎない。また、仮に、特許権者が、本件訂正発明の粘着剤層付き偏光フィルムが、液晶パネルとして、単にタッチパネルを備えるものに用いたのではなく、インセル型のものに用いることによって、有利な効果を奏している旨主張しているとしても、本件訂正明細書等には、液晶パネルとしてインセル型を選択したことによる格別な効果が何かやその作用機序の説明はなく、しかも、実施例及び比較例は、いずれもインセル型液晶パネルを用いたものである(【0123】の表1において、評価パネルの種類に係る参照図は、図3又は2となっているが、これらは、【0023】のとおり、いずれもインセル型液晶パネルに係るものである。)ことから、本件訂正明細書等の記載からは、液晶パネルがインセル型か否かによる効果の差異は明らかではない。
カ 小括
したがって、本件訂正発明は、甲2発明1、周知技術2、並びに必要に応じて引用文献Aに記載された技術的事項及び周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
3 甲2発明2を主引用発明とした場合の判断
(1)対比
甲2発明2は、甲2発明1の下位概念に当たるといえることから、甲2発明1と同様に対比することができる。
そして、甲2発明2は、「静電気防止層c(AS2)は、その表面抵抗が4.0×109Ω/□」であるとともに「粘着剤層b(PSA1)は、その表面抵抗が1.1×1010Ω/□」であるか、又は、「静電気防止層c(AS1)は、その表面抵抗が2.0×108Ω/□」であるとともに、「粘着剤層b(PSA3)は、その表面抵抗が3.6×109Ω/□」であることから、本件訂正発明とは、「前記」所定層「は、表面抵抗率が1×108~1×1011Ω/□」であり、「前記第1粘着剤層の表面抵抗率が1×108~1×1011Ω/□」である点で共通する。
さらに、甲2発明2の「粘着剤層b」の「帯電防止成分」である「リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド」は、本件訂正発明の「アルカリ金属塩及び/または有機カチオン-アニオン塩」に相当する。
(2)一致点及び相違点の認定
上記(1)によれば、本件訂正発明と甲2発明2とは、
「液晶パネルに用いる粘着剤層付き偏光フィルムであって、
前記液晶パネルは、液晶セルを有する液晶パネルであり、
前記液晶セルは、電界が存在しない状態でホモジニアス配向した液晶分子を含む液晶層、前記液晶層を両面で挟持する第1透明基板および第2透明基板を有しており、
前記粘着剤層付き偏光フィルムは、表面処理層、第1偏光フィルム、所定層、第1粘着剤層をこの順で有し、
前記液晶セルの視認側の第1透明基板の側に、導電層を介することなく第1粘着剤層を介して配置されるものであり、
前記所定層、及び、前記第1粘着剤層は帯電防止剤を含有し、
前記所定層は、前記帯電防止剤、および、バインダーを含有し、前記所定層は、表面抵抗率が1×108~1×1011Ω/□であり、
前記第1粘着剤層は、前記帯電防止剤としてアルカリ金属塩及び/または有機カチオン-アニオン塩を含有し、前記第1粘着剤層の表面抵抗率が1×108~1×1011Ω/□である液晶パネルに用いる粘着剤層付き偏光フィルム。」である点で一致し、下記の点で一応相違するか、又は、相違する。
<相違点6>相違点1と同じ。
<相違点7>前記帯電防止剤、および、バインダーを含有する「所定層」が、本件訂正発明では「アンカー層」であり、「前記帯電防止剤として水溶性導電性ポリマーまたは水分散性導電性ポリマー、および、水溶性もしくは水分散性のバインダーを含有」するのに対し、甲2発明2では「静電気防止層c」であり、それに含まれる「伝導性物質」及び「バインダー樹脂」が甲2発明2で特定されたとおりのものである点。
(3)判断
ア 相違点6について
相違点1の判断(上記2(3)イ)と同様である。すなわち、相違点6は実質的なものではないし、仮に実質的であるとしても、相違点6に係る本件訂正発明の構成は甲2発明2及び周知技術1に基づいて当業者が適宜なし得たことにすぎない。
イ 相違点7について
相違点2の判断(上記2(3)ウ)と同様であり、相違点7に係る本件訂正発明の構成は甲2発明2及び周知技術2に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。
ウ 本件訂正発明の効果について
上記2(3)オと同様の理由が成り立つ。
エ 特許権者の主張について
特許権者は、相違点1及び2と同様の主張をするが、同様の説示が成り立つ。
オ 小括
よって、本件訂正発明は、甲2発明2、周知技術2、並びに必要に応じて引用文献Aに記載された技術的事項及び周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
4 甲1に記載された発明を主引用発明とした進歩性欠如
(1)対比
ア 本件訂正発明の「液晶パネルに用いる粘着剤層付き偏光フィルムであって、前記液晶パネルは、インセル型液晶セルを有するインセル型液晶パネルであり、前記インセル型液晶セルは、電界が存在しない状態でホモジニアス配向した液晶分子を含む液晶層、前記液晶層を両面で挟持する第1透明基板および第2透明基板、並びに、前記第1透明基板と第2透明基板との間にタッチセンサーおよびタッチ駆動の機能に係るタッチセンシング電極部を有しており、」との特定事項について
(ア)甲1発明の「耐電防止膜220と上側偏光層90とを含む構造」は、本件訂正発明の「粘着剤層付き偏光フィルム」とは、偏光手段含有構造である点で共通する。
甲1発明の「フリンジ電界スイッチングモード(FFSモード)のディスプレイ18」は、「TFT層66が上に形成されたTFTガラス基板層64、液晶層68、上ガラス基板70を含んで」いるところ、このうち、「TFTガラス基板層64」と「上ガラス基板70」とで挟まれた構造(以下「甲1挟持構造」という。)は、本件訂正発明の「液晶セル」に相当する。また、甲1発明の上記「耐電防止膜220と上側偏光層90とを含む構造」は「上ガラス基板70に設けられた」ものであるから、当該「耐電防止膜220と上側偏光層90とを含む構造」と甲1挟持構造を併せたものが、本件訂正発明の「液晶パネル」に相当する。
そして、甲1発明の「耐電防止膜220と上側偏光層90とを含む構造」は、本件訂正発明でいう「液晶パネルに用いる」ものといえる。
(イ)甲1挟持構造(本件訂正発明の「液晶セル」に相当。)は、「タッチ駆動電極膜86、誘電体層88、及びブラックマトリックス/タッチ感知電極80が、上ガラス基板70の内向きの側に形成されて」いるところ、「ブラックマトリックス」は、「TFTガラス基板層64」の内向きの側に形成されているといえることから、甲1発明の「タッチ駆動電極膜86」及び「タッチ感知電極80」は、いずれも、「上ガラス基板70」(本件訂正発明の「第1透明基板」に相当。)及び「TFTガラス基板層64」(本件訂正発明の「第2透明基板」に相当。)との間に存在するといえる。そうすると、甲1挟持構造は、本件訂正発明でいう「インセル型液晶セル」であるといえるし、当該「タッチ駆動電極膜86」及び「タッチ感知電極80」を併せたものは、本件訂正発明の「タッチセンサーおよびタッチ駆動の機能に係るタッチセンシング電極部」に相当する。
そして、甲1発明の「耐電防止膜220と上側偏光層90とを含む構造」と甲1挟持構造を併せたものは、本件訂正発明でいう「インセル型液晶パネル」であるといえる。
(ウ)甲1発明の「液晶表示装置」を構成する「液晶層68」は、本件訂正発明の「液晶層」に相当する。そして、甲1発明の「液晶表示装置」は「フリンジ電界スイッチングモード(FFSモード)」であるから、当該「液晶層68」は、本件訂正発明でいう「電界が存在しない状態でホモジニアス配向した液晶分子を含む」ものといえる。
(エ)甲1発明の「液晶表示装置」は、「TFT層66が上に形成されたTFTガラス基板層64、液晶層68、上ガラス基板70を含んで」いるところ、当該「上ガラス基板70」及び「TFTガラス基板層64」は、それぞれ、本件訂正発明の「第1透明基板」及び「第2透明基板」に相当する。そして、甲1発明の「上ガラス基板70」及び「TFTガラス基板層64」が、本件訂正発明でいう「前記液晶層を両面で挟持する」ものといえることは明らかである。
(オ)したがって、本件訂正発明と甲1発明は、「液晶パネルに用いる」偏光手段含有構造であって、「前記液晶パネルは、インセル型液晶セルを有するインセル型液晶パネルであり、前記インセル型液晶セルは、電界が存在しない状態でホモジニアス配向した液晶分子を含む液晶層、前記液晶層を両面で挟持する第1透明基板および第2透明基板、並びに、前記第1透明基板と第2透明基板との間にタッチセンサーおよびタッチ駆動の機能に係るタッチセンシング電極部を有して」いる点で共通するが、偏光手段含有構造が、本件訂正発明は「粘着剤層付き偏光フィルム」であるのに対し、甲1発明は「耐電防止膜220と上側偏光層90とを含む構造」である。
イ 本件訂正発明の「前記粘着剤層付き偏光フィルムは、表面処理層、第1偏光フィルム、アンカー層、第1粘着剤層をこの順で有し、前記インセル型液晶セルの視認側の第1透明基板の側に、導電層を介することなく第1粘着剤層を介して配置されるものであり、」との特定事項について
(ア)甲1発明の「上側偏光層90」は、本件訂正発明の「第1偏光フィルム」に相当する。
甲1発明の「耐電防止膜220」は、本件訂正発明の「アンカー層」とは、所定層である点で共通する。
甲1発明は、「耐電防止膜220と上側偏光層90が、上ガラス基板70の外向きの側に、この順で形成されている」から、「前記インセル型液晶セルの視認側の第1透明基板の側に」偏光手段含有構造を有している。
(イ)したがって、本件訂正発明と甲1発明とは、前記偏光手段含有構造は、「第1偏光フィルム、」所定層、「をこの順で有し、前記インセル型液晶セルの視認側の第1透明基板の側に」「配置されるものであ」る点で共通するが、偏光手段含有構造及び所定層の構造の相違のほか、本件訂正発明の「前記粘着剤層付き偏光フィルム」は、「前記インセル型液晶セルの視認側の第1透明基板の側に、導電層を介することなく第1粘着剤層を介して配置されるものであ」るのに対し、甲1発明の偏光手段含有構造は、粘着剤層を備えているかすら不明である。
ウ 本件訂正発明の「前記アンカー層、及び、前記第1粘着剤層は帯電防止剤を含有し、前記アンカー層は、前記帯電防止剤として水溶性導電性ポリマーまたは水分散性導電性ポリマー、および、水溶性もしくは水分散性のバインダーを含有し、前記アンカー層は、表面抵抗率が1×10 8~1×1011Ω/□であり、前記第1粘着剤層は、前記帯電防止剤としてアルカリ金属塩及び/または有機カチオン-アニオン塩を含有し、前記第1粘着剤層の表面抵抗率が1×10 8~1×1011Ω/□である」との特定事項について
甲1発明は、本件訂正発明の上記特定事項を備えていない。
(2)一致点及び相違点の認定
上記(1)によれば、本件訂正発明と甲1発明とは、
「液晶パネルに用いる偏光手段含有構造であって、
前記液晶パネルは、インセル型液晶セルを有するインセル型液晶パネルであり、
前記インセル型液晶セルは、電界が存在しない状態でホモジニアス配向した液晶分子を含む液晶層、前記液晶層を両面で挟持する第1透明基板および第2透明基板、並びに、前記第1透明基板と第2透明基板との間にタッチセンサーおよびタッチ駆動の機能に係るタッチセンシング電極部を有しており、
前記偏光手段含有構造は、第1偏光フィルム、所定層、をこの順で有し、前記インセル型液晶セルの視認側の第1透明基板の側に配置されるものである、
インセル型液晶パネルに用いる偏光手段含有構造。」
である点で一致し、下記の点で相違する。
<相違点8>
偏光手段含有構造が、本件訂正発明は、「粘着剤層付偏光フィルム」であって、「表面処理層、第1偏光フィルム、アンカー層、第1粘着剤層をこの順で有し」ており、「前記インセル型液晶セルの視認側の第1透明基板の側に、導電層を介することなく第1粘着剤層を介して配置されるものであ」るのに対し、甲1発明は、耐電防止膜220と上側偏光層90とを含む構造である点。
<相違点9>
所定層が、本件訂正発明は、「前記アンカー層」であり、「表面抵抗率が1×108~1×10 11Ω/□であ」り、「前記帯電防止剤として水溶性導電性ポリマーまたは水分散性導電性ポリマー、および、水溶性もしくは水分散性のバインダーを含有」するのに対し、甲1発明は、「耐電防止膜220」である点。
<相違点10>
本件訂正発明は、「前記第1粘着剤層は、前記帯電防止剤としてアルカリ金属塩及び/または有機カチオン-アニオン塩を含有し、前記第1粘着剤層の表面抵抗率が1×108~1×1011Ω/□」であるのに対し、甲1発明は、粘着剤層を備えているかすら不明である点。
(3)判断
相違点8~10について併せて検討する。
甲1発明から出発した当業者が相違点8~10に係る本件訂正発明の構成に至るためには、甲1発明の「耐電防止膜220と上側偏光層90とを含む構造」を、相違点8~10の本件訂正発明に係る構成を満たす粘着剤層付き偏光フィルムによって構成するとともに、当該粘着剤層付き偏光フィルムを液晶表示装置の「上ガラス基板70」に対して「導電層を介することなく」配置することを少なくとも要するといえる。
しかしながら、甲1発明の「耐電防止膜220と上側偏光層90とを含む構造」として、甲2発明2の「粘着剤層がコーティングされた偏光板」を採用するという変更を加えることが当業者にとって容易であるとしても、上記相違点8~10のうち相違点9を満たすためには、さらに、上記3(3)イ(相違点7について)及び上記2(3)ウ(相違点2について)と同様の理由での変更を要するのであり、このような変更をすることは、当業者といえども、容易に想到し得たものとはいえない。
そして、甲1、甲2及び引用文献Aの他の記載をみても、上記判断を左右しない。
したがって、本件訂正発明は、甲1に記載された発明、甲2に記載された技術的事項及び引用文献Aに記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
5 第2次取消理由についての当審の判断の小括
以上のとおり、本件訂正発明は、甲2発明1、周知技術2、並びに必要に応じて引用文献Aに記載された技術的事項及び周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。また、本件訂正発明は、甲2発明2、周知技術2、並びに必要に応じて引用文献Aに記載された技術的事項及び周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
他方、本件訂正発明は、甲1に記載された発明、甲2に記載された技術的事項及び引用文献Aに記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、本件訂正発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、第2次取消理由によって取り消されるべきものである。
第6 第1次取消理由(第2次取消理由に含まれていないもの)及び特許異議申立理由(第1次取消理由及び第2次取消理由に含まれていないもの)についての当審の判断
1 第1次取消理由(第2次取消理由に含まれていないもの)について
第1次取消理由は、本件特許の登録時の請求項1の記載が、(i)「インセル型液晶セル」及び「粘着剤層付き偏光フィルム」という2つの部材を結合した構造に係るものなのか、「粘着剤層付き偏光フィルム」に係るものなのかが明確でなく、(ii)「表面抵抗値」が単位「Ω/□」で表現されることが明確でない点で不備があるというものを含むものである。
本件訂正によって、(i)については「粘着剤層付き偏光フィルム」に係るものであることが明確にされるとともに、(ii)については「表面抵抗値」が「表面抵抗率」に訂正された。よって、上記の第1次取消理由は、いずれも解消した。
2 特許異議申立理由(第1次取消理由及び第2次取消理由に含まれていないもの)について
(1)実施可能要件違反
申立人は、当業者であっても、本件訂正発明の「粘着剤層」の表面抵抗率を特定された数値範囲内とすることに過度の試行錯誤を要する旨主張するが、本件訂正明細書等の【0069】には、表面抵抗率が、帯電防止剤の種類及び使用量に依存する旨記載されていることから、当業者であれば、これらを指針として、当該表面抵抗率を適宜設定できるといえる。この点、申立人は、本件訂正明細書等には、どのような帯電防止剤を用いると表面抵抗率にどのように影響するのか記載されていない旨主張するが、当業者であれば、実験的に容易にその影響を理解できるといえることから、そのような記載がないことによって、本件訂正明細書等の記載に実施可能要件違反があることにはならない。
(2)サポート要件違反
上記第5の2(3)アで認定した本件訂正発明の技術的意義によれば、本件訂正発明は、当業者がその課題を解決できると認識できる範囲を超えるものではないというべきであり、したがって、サポート要件を満たしている。
申立人は、本件訂正発明にはアンカー層の厚さが特定されていないところ、その厚さが80nmを超える場合は、表面抵抗率が特定された数値範囲の下限値よりも小さくなることをもって、本件訂正発明にサポート要件違反がある旨主張する。しかしながら、表面抵抗率が特定された数値範囲の下限値よりも小さくなる態様は、そもそも、本件訂正発明の範囲に含まれないことから、申立人の主張をもって、本件訂正発明にサポート要件違反があることにはならない。
申立人は、本件訂正発明に導通構造が特定されていないことをもって、本件訂正発明にサポート要件違反がある旨主張するが、粘着剤層付き偏光フィルムについての発明である本件訂正発明において、そのようにいうことはできない。
さらに、申立人は、本件訂正発明のアンカー層に含まれる帯電防止剤及びバインダーが広範にわたっており、表面抵抗率もその上限・下限の幅が1000倍にもわたっているなどとも主張するが、上記の本件訂正発明の技術的意義によれば、それをもって、本件訂正発明にサポート要件違反があることにはならない。
(3)先願要件違反
申立人は、甲3に係る出願の請求項4に係る発明(以下「甲3発明」という。)が本件訂正発明と同一である旨主張するが、甲3発明は「インセル型液晶パネル」に係る発明であるから、「粘着剤層付き偏光フィルム」に係る本件訂正発明と同一になることはない。
3 第1次取消理由(第2次取消理由に含まれていないもの)及び特許異議申立理由(第1次取消理由及び第2次取消理由に含まれていないもの)についての当審の判断の小括
以上によれば、第1次取消理由(第2次取消理由に含まれていないもの)及び特許異議申立理由(第1次取消理由及び第2次取消理由に含まれていないもの)によって、本件訂正発明についての特許を取り消すことはできない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、当該特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700744