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特許異議申立

2021-700623

ポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤、ポリオレフィン系樹脂の結晶性抑制方法およびポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法

審判番号
2021-700623
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-543954
登録番号
6824482
請求日
2021年07月02日
審決日
2023年08月08日
公報発行日
2023年11月24日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】株式会社ADEKA
  • 【権利者代理人】本多 一郎
  • 【権利者代理人】杉本 由美子
  • 【権利者代理人】渡耒 巧
  • 【権利者代理人】大田黒 隆
  • 【異議申立人】水野 智之
審判長/審判官
  • 審判長 ▲吉▼澤 英一
  • 審判官 藤井 勲
  • 審判官 海老原 えい子
分類
P1651.113-YAA(C08L) / P1651.121-YAA(C08L) / P1651.537-YAA(C08L) / P1651.536-YAA(C08L)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第9項、特許法第113条第2号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第1項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項
データ出所
審決公報(XML)

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特許第6824482号発明「ポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤、ポリオレフィン系樹脂の結晶性抑制方法およびポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6824482号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第6824482号の請求項1、4及び5に係る特許を維持する。 特許第6824482号の請求項2及び3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本件特許第6824482号に係る出願(特願2020-543954号)は、令和2年5月22日(パリ条約に基づく優先権主張:2019年5月24日)の国際出願日に出願人株式会社ADEKA(以下「特許権者」という。)によりされた特許出願であり、令和3年1月14日に特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、同年2月3日に特許掲載公報が発行されたものである。 その後、令和3年7月2日に、特許異議申立人である水野智之(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた(以下当該申立てを「申立て」という。)。 以後、本件特許異議の申立て以降の経緯は、次のとおりである。 令和3年11月30日付け 取消理由通知 令和4年 1月31日 意見書・訂正請求書(特許権者) 同年 2月10日付け 通知書(申立人宛て) 同年 3月11日 意見書(申立人) 同年 5月26日付け 取消理由通知書(決定の予告) 同年 7月29日 意見書・訂正請求書(特許権者) 同年 8月19日付け 通知書(申立人宛て) 同年 9月21日 意見書(申立人) 同年11月18日付け 訂正拒絶理由通知書 同年12月22日 意見書・手続補正書 令和5年 3月 3日 応対記録 同年 3月 7日付け 取消理由通知書(決定の予告) 同年 4月 6日 応対記録 同年 4月27日 意見書・訂正請求書(特許権者) 同年 5月 9日付け 通知書(申立人宛て) 同年 6月16日 意見書(申立人) 令和4年1月31日訂正請求については、同年7月29日訂正請求書が提出されたことから、また同年7月29日訂正請求については、令和5年4月27日訂正請求書が提出されたことから、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなされた。 第2 訂正の適否についての判断 特許権者は、令和5年3月7日付け取消理由通知に対して、特許法第120条の5第1項の規定により審判長が指定した期間内である同年4月27日に訂正請求書を提出し、下記「1 訂正の内容」に示す訂正事項により本件特許の特許請求の範囲及び明細書を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲及び明細書のとおり訂正後の請求項1~5について訂正することを求めた(以下「本件訂正」という。また、本件設定登録時の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲を「本件明細書等」という。)。 1 訂正の内容 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1の「下記一般式(2')で表されるアセタール化合物を含むことを特徴とするポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤。 [図:0001403608000001.jpg] (一般式(2’)中、R1は水素原子または炭素原子数1~4のアルキル基を表し、R2およびR4はそれぞれ独立に炭素原子数1~4のアルキル基を表し、R3およびR5はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素原子数1~4のアルキル基または炭素原子数1~4のアルコキシ基を表し、Xは単結合、-CH(OH)-基または-CH(OH)CH(OH)-基を表す。)」を、 「下記化合物No.60および下記化合物No.61からなる群より選ばれる少なくとも一種のアセタール化合物を含むポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤であって、 ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、フェノール系酸化防止剤0.001~5質量部と、リン系酸化防止剤0.001~10質量部と、脂肪酸金属塩0.001~10質量部と、を含むポリオレフィン系樹脂組成物におけるポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、前記化合物No.60および前記化合物No.61からなる群より選ばれる少なくとも一種のアセタール化合物が0.005質量部以上0.08質量部以下の範囲となるように使用することを特徴とするポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤。 [図:0001403608000002.jpg] [図:0001403608000003.jpg] 」に改める。 請求項1の記載を引用する請求項4および請求項5も同様に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3を削除する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4の「ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、前記一般式(2’)で表されるアセタール化合物の配合割合が0.005質量部以上0.08質量部以下となるように、請求項1~3のうちいずれか一項記載のポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤を配合することを特徴とするポリオレフィン系樹脂の結晶性抑制方法。」を、 「ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、フェノール系酸化防止剤0.001~5質量部と、リン系酸化防止剤0.001~10質量部と、脂肪酸金属塩0.001~10質量部と、を含むポリオレフィン系樹脂組成物におけるポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、前記化合物No.60および前記化合物No.61からなる群より選ばれる少なくとも一種のアセタール化合物の配合割合が0.005質量部以上0.08質量部以下となるように、請求項1記載のポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤を配合することを特徴とするポリオレフィン系樹脂の結晶性抑制方法。」に改める。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5の「ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、前記一般式(2’)で表されるアセタール化合物の配合割合が0.005質量部以上0.08質量部以下となるように、請求項1~3のうちいずれか一項記載のポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤を配合する工程を含むことを特徴とする樹脂成分の結晶性が抑制されたポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法。」を、 「ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、フェノール系酸化防止剤0.001~5質量部と、リン系酸化防止剤0.001~10質量部と、脂肪酸金属塩0.001~10質量部と、を含むポリオレフィン系樹脂組成物におけるポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、前記化合物No.60および前記化合物No.61からなる群より選ばれる少なくとも一種のアセタール化合物の配合割合が0.005質量部以上0.08質量部以下となるように、請求項1記載のポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤を配合する工程を含むことを特徴とする樹脂成分の結晶性が抑制されたポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法。」に改める。 (6)訂正事項6 願書に添付した明細書の段落【0008】に記載された「すなわち、本発明のポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤は、下記一般式(2’)で表されるアセタール化合物を含むことを特徴とするものである。 [図:0001403608000004.jpg] ここで、一般式(2’)中、R1は水素原子または炭素原子数1~4のアルキル基を表し、R2およびR4はそれぞれ独立に炭素原子数1~4のアルキル基を表し、R3およびR5はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素原子数1~4のアルキル基または炭素原子数1~4のアルコキシ基を表し、Xは単結合、-CH(OH)-基または-CH(OH)CH(OH)-基を表す。」を、 訂正事項1との整合性を図るために、「すなわち、本発明のポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤は、下記化合物No.60および下記化合物No.61からなる群より選ばれる少なくとも一種のアセタール化合物を含むポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤であって、 ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、フェノール系酸化防止剤0.001~5質量部と、リン系酸化防止剤0.001~10質量部と、脂肪酸金属塩0.001~10質量部と、を含むポリオレフィン系樹脂組成物におけるポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、前記化合物No.60および前記化合物No.61からなる群より選ばれる少なくとも一種のアセタール化合物が0.005質量部以上0.08質量部以下の範囲となるように使用することを特徴とするものである。 [図:0001403608000005.jpg] [図:0001403608000006.jpg] 」に訂正する。 (7)訂正事項7 願書に添付した明細書の段落【0009】を、訂正事項2および訂正事項3との整合性を図るために削除する。 (8)訂正事項8 願書に添付した明細書の段落【0010】に記載された「本発明のポリオレフィン系樹脂の結晶性抑制方法は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、前記一般式(2’)で表されるアセタール化合物の配合割合が0.005質量部以上0.08質量部以下となるように、本発明のポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤を配合することを特徴とするものである。また、本発明のポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、前記一般式(2’)で表されるアセタール化合物の配合割合が0.005質量部以上0.08質量部以下となるように、本発明のポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤を配合する工程を含むことを特徴とするものである。」を、 訂正事項4、5との整合性を図るために、「本発明のポリオレフィン系樹脂の結晶性抑制方法は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、フェノール系酸化防止剤0.001~5質量部と、リン系酸化防止剤0.001~10質量部と、脂肪酸金属塩0.001~10質量部と、を含むポリオレフィン系樹脂組成物におけるポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、前記化合物No.60および前記化合物No.61からなる群より選ばれる少なくとも一種のアセタール化合物の配合割合が0.005質量部以上0.08質量部以下となるように、本発明のポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤を配合することを特徴とするものである。また、本発明のポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、フェノール系酸化防止剤0.001~5質量部と、リン系酸化防止剤0.001~10質量部と、脂肪酸金属塩0.001~10質量部と、を含むポリオレフィン系樹脂組成物におけるポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、前記化合物No.60および前記化合物No.61からなる群より選ばれる少なくとも一種のアセタール化合物の配合割合が0.005質量部以上0.08質量部以下となるように、本発明のポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤を配合する工程を含むことを特徴とするものである。」に改める。 2 一群の請求項及び明細書の訂正と関係する請求項について 訂正前の請求項1~5について、請求項2~5は、請求項1の記載を直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~5に対応する訂正後の請求項1~5は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 そして、明細書の訂正である訂正事項6~8は、前記明細書の訂正に係る請求項1を含む一群の請求項の全てについて請求されたものといえるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合するものである。 3 判断 (1)訂正事項1について ア 訂正の目的 訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項1におけるアセタール化合物が下記一般式(2’) [図:0001403608000007.jpg] (式中の「R1」等の置換基の説明は省略する。) で表される化合物であるものを、この一般式(2’)の具体例である下記化合物No.60又はNo.61 [図:0001403608000008.jpg] [図:0001403608000009.jpg] に限定し、また、ポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤が使用されるポリオレフィン系樹脂組成物がポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、フェノール系酸化防止剤0.001~5質量部と、リン系酸化防止剤0.001~10質量部と、脂肪酸金属塩0.001~10質量部とを含み、さらにポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、上記アセタール化合物(No.60又はNo.61)を0.005質量部以上0.08質量部以下の範囲で使用することに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。 イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更 本件訂正前の請求項1を引用する本件訂正前の請求項2には、アセタール化合物が下記式で表される化合物No.60~No.62からなる群より選ばれる少なくとも一種であることが記載され、 [図:0001403608000010.jpg] また、本件訂正前の請求項3には、アセタール化合物が化合物No.60及びNo.61からなる群より選ばれる少なくとも一種であることが記載されている。 ついで、本件明細書等の段落【0064】には、「本発明の樹脂組成物において、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対する核剤の含有量は、0.005質量部以上0.1質量部未満である。」と記載され、「核剤の含有量は0.08質量部以下であることが好ましく」と記載されている。 そして、同【0065】には、「本発明の樹脂組成物には、上述したポリオレフィン系樹脂および核剤に加えて、さらにフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、・・・、脂肪酸金属塩、・・・等の添加剤が含まれていてもよい。これらの添加剤は1種が単独で含まれていても、2種以上が組み合わされて含まれていてもよい。」こと、同【0066】には、「フェノール系酸化防止剤の含有量は特に限定されるものではなく、例えば、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して0.001~5質量部であればよい。」こと、同【0067】には、「リン系酸化防止剤の含有量は特に限定されるものではなく、例えば、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して0.001~10質量部であればよい。」こと、同【0071】には、「脂肪酸金属塩の含有量は特に限定されるものではなく、例えば、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して0.001~10質量部であればよい。」ことが記載されている。 さらに、実施例1~4において、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、核剤4(上記「化合物No.60」に該当)又は核剤5(上記「化合物No.61」に該当)0.02又は0.05質量部、酸化防止剤1(フェノール系酸化防止剤)0.05質量部、酸化防止剤2(リン系酸化防止剤)0.1質量部、脂肪酸金属塩0.05質量部を含有するポリオレフィン系樹脂用組成物が例示されている。 してみると、訂正事項1による訂正は本件明細書等に記載した事項の範囲内であるといえ、また、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。 (2)訂正事項2及び3について 訂正事項2及び3による訂正は、本件訂正前の請求項2及び3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、本件明細書等に記載した事項の範囲内であるといえ、また、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。 (3)訂正事項4について ア 訂正の目的 訂正事項4による訂正は、ポリオレフィン系樹脂の結晶性抑制方法において、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、フェノール系酸化防止剤0.001~5質量部と、リン系酸化防止剤0.001~10質量部と、脂肪酸金属塩0.001~10質量部とを含むポリオレフィン系樹脂組成物に、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、特定のアセタール化合物を0.005質量部以上0.08質量部以下の範囲で使用することをまず限定し、ついで「前記一般式(2’)で表されるアセタール化合物」とあるのを、「前記化合物No.60」又は「前記化合物No.61」で表される化合物に限定し、そして引用する請求項として「請求項1~3のうちいずれか一項記載のポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤」とあるのを、請求項2~3が削除されたことに伴い請求項2~3の引用を削除し、「請求項1記載のポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤」に限定するものである。 してみると、これらの訂正は、いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。 イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更 上記(1)イ及び(2)で述べたとおり、訂正事項4による訂正は本件明細書等及び実施例に記載されているから、訂正事項4による訂正は本件明細書等に記載した事項の範囲内であるといえ、また、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。 (4)訂正事項5について ア 訂正の目的 訂正事項5による訂正は、ポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法において、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、フェノール系酸化防止剤0.001~5質量部と、リン系酸化防止剤0.001~10質量部と、脂肪酸金属塩0.001~10質量部とを含むポリオレフィン系樹脂組成物に、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、特定のアセタール化合物を0.005質量部以上0.08質量部以下の範囲で使用することをまず限定し、ついで「前記一般式(2’)で表されるアセタール化合物」とあるのを、「前記化合物No.60」又は「前記化合物No.61」で表される化合物に限定し、そして引用する請求項として「請求項1~3のうちいずれか一項記載のポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤」とあるのを、請求項2~3が削除されたことに伴い請求項2~3の引用を削除し、「請求項1記載のポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤」に限定するものである。 してみると、これらの訂正は、いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。 イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更 上記(1)イ及び(2)で述べたとおり、訂正事項5による訂正は本件明細書等及び実施例に記載されているから、訂正事項5による訂正は本件明細書等に記載した事項の範囲内であるといえ、また、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。 (5)訂正事項6~8について ア 訂正の目的 訂正事項6~8は、訂正前の明細書の段落【0008】~【0010】において、特許請求の範囲の訂正事項1~5と記載内容を整合させるために訂正するものであるから明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。 イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更 上記(1)イ、(2)、(3)イ及び(4)イで述べたように、訂正事項6~8は、本件明細書等に記載した事項の範囲内であるといえ、また、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。 4 独立特許要件 訂正前の全ての請求項1~5について特許異議の申立てがなされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する第126条第7項に規定する要件(いわゆる独立特許要件)は課されない。 5 申立人の主張について 申立人は、令和5年6月16日に提出された意見書において、訂正事項1における「使用する」は、用途と解釈したとしても、その意味は多義的であり、本件明細書等の開示の範囲を超えるものであり、訂正事項1における「含む」は、受け取りようによって、ポリオレフィン系樹脂用組成物の添加剤の含有量が変動するものとなり、本件明細書等の開示の範囲を超えるものであって、訂正事項4、5における「配合する」についても同様であると、主張する。 そこで、検討する。 訂正事項1、4、5は、上記3(1)、(3)、(4)に示したとおり、本件明細書等に記載した事項の範囲内で行われたものであり、当該主張は採用できない。 ちなみに、申立人は、訂正事項1における「使用する」が多義的であるとも主張するが、本件発明1では、「ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、フェノール系酸化防止剤0.001~5質量部と、リン系酸化防止剤0.001~10質量部と、脂肪酸金属塩0.001~10質量部と、を含むポリオレフィン系樹脂組成物におけるポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、前記化合物No.60および前記化合物No.61からなる群より選ばれる少なくとも一種のアセタール化合物が0.005質量部以上0.08質量部以下の範囲となるように使用する」ことが特定されているから、「ポリオレフィン系樹脂」100質量部に対して、「フェノール系酸化防止剤」、「リン系酸化防止剤」、「脂肪族金属塩」を特定量含有する「ポリオレフィン系樹脂組成物」に、特定の「アセタール化合物」を特定量で使用することが明らかである。 してみると、上記「使用する」が、「多義的である」という申立人の主張も採用できない。 そして、訂正事項1における「含む」や訂正事項4、5における「配合する」についても同様である。 6 訂正の適否についての判断のまとめ 以上のとおりであるから、訂正事項1~8は、特許法第120条の5第2項ただし書第1及び3号に掲げる目的に適合し、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第4ないし6項の規定に適合するから、本件訂正を認める。 第3 本件特許に係る請求項に記載された事項 上記のとおり、本件訂正は認められたので、特許第6824482号の特許請求の範囲の記載は、訂正後の特許請求の範囲である次のとおりのものである(以下、請求項1~5に記載された事項により特定される発明を「本件発明1」~「本件発明5」という。)。 「【請求項1】 下記化合物No.60および下記化合物No.61からなる群より選ばれる少なくとも一種のアセタール化合物を含むポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤であって、 ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、フェノール系酸化防止剤0.001~5質量部と、リン系酸化防止剤0.001~10質量部と、脂肪酸金属塩0.001~10質量部と、を含むポリオレフィン系樹脂組成物におけるポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、前記化合物No.60および前記化合物No.61からなる群より選ばれる少なくとも一種のアセタール化合物が0.005質量部以上0.08質量部以下の範囲となるように使用することを特徴とするポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤。 [図:0001403608000011.jpg] [図:0001403608000012.jpg] 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、フェノール系酸化防止剤0.001~5質量部と、リン系酸化防止剤0.001~10質量部と、脂肪酸金属塩0.001~10質量部と、を含むポリオレフィン系樹脂組成物におけるポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、前記化合物No.60および前記化合物No.61からなる群より選ばれる少なくとも一種のアセタール化合物の配合割合が0.005質量部以上0.08質量部以下となるように、請求項1記載のポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤を配合することを特徴とするポリオレフィン系樹脂の結晶性抑制方法。 【請求項5】 ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、フェノール系酸化防止剤0.001~5質量部と、リン系酸化防止剤0.001~10質量部と、脂肪酸金属塩0.001~10質量部と、を含むポリオレフィン系樹脂組成物におけるポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、前記化合物No.60および前記化合物No.61からなる群より選ばれる少なくとも一種のアセタール化合物の配合割合が0.005質量部以上0.08質量部以下となるように、請求項1記載のポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤を配合する工程を含むことを特徴とする樹脂成分の結晶性が抑制されたポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法。」 第4 特許異議申立書の申立理由と当審が通知した取消理由 1 特許異議申立書(以下「申立書」ということがある。)の申立理由 (1)申立理由1(新規性、進歩性) 本件訂正前の請求項1~5に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、又は甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許受けることができないものであるから、本件訂正前の請求項1~5に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)申立理由2(新規性、進歩性) 本件訂正前の請求項1、2、4、5に係る発明は、甲第4号証に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、又は甲第4号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許受けることができないものであるから、本件訂正前の請求項1、2、4、5に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (3)申立理由3(実施可能要件) 本件訂正前の発明の詳細な説明の記載が下記ア及びイの点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものである。 よって、本件訂正前の請求項1~5に係る特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (4)申立理由4(サポート要件) 本件訂正前の請求項1~5の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、下記ア~ウの点で発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。 よって、本件訂正前の請求項1~5に係る発明の特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 上記(3)及び(4)の具体的理由の概要は以下のとおり。 ア 本件訂正前の請求項1~3に係る発明において、ポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤の配合割合が特定されていないことについて 本件訂正前の請求項1~3に係る発明は、ポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤の配合割合は特定されていない。 一方、本件明細書等の段落【0064】には、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対する核剤の含有量が0.005質量部以上0.1質量部未満で使用し、核剤の含有量が0.005質量未満である場合、又は0.1質量部以上である場合、結晶性抑制剤として作用しないことが記載されており、同【0093】以降に記載の実施例及び比較例においても、核剤4(化合物No.60;DMDBS)をポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、0.02質量部及び0.05質量部用いた実施例1及び2では、核剤を含まない参照例1及び比較例7と比べて、結晶化温度が低くなっている一方、同核剤4を0.2質量部用いた実験例4及び0.1質量部用いた比較例3では、核剤を含まない参照例1及び比較例7と比べて結晶化温度が顕著に高くなっており、樹脂成分の結晶性が促進されることが示されており、これらの関係は核剤5(化合物No.61;TBPMN)においても同様である。 そうすると、本件発明の一般式(2’)で表されるアセタール化合物自体は公知の化合物であり、それを具体的な用途発明(結晶性抑制剤)として特定するならば、その用途としての機能を発揮する範囲(課題が解決でき且つ作用効果を奏する範囲)で剤を規定すべきである。 したがって、本件発明は、発明の詳細な説明において、本件発明の課題が解決できないことを含むことは明らかであるし、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない(申立書第31頁第23行~第33頁第16行)。 イ 本件訂正前の請求項1~5に係る発明において、甲2及び甲3の記載からの検討 甲2には、アイソタクチックポリプロピレンに1,2,3-トリデオキシ-4,6:5,7-ビス-O-[(4-プロピルフェニル)-メチレン]-ノニトール(本件訂正前の請求項2に記載のNo.61に相当する。)を0.1%w/w以下の量の添加することにより、ピーク結晶化温度は、ニートポリマーの結晶化温度(~113℃)とおよそ同じ値のままであることが記載されている。 甲3には、アイソタクチックポリプロピレンに1,2,3,4-ビス(3,4-ジメチルベンジリデンソルビトール)(本件訂正前の請求項2に記載のNo.60に相当する。)を0.025重量%から1.5重量%配合した場合には、核剤含有量が増加するにつれて結晶化の重要な増加が確認できることが記載されている。 そして、アイソタクチックポリプロピレンの結晶化温度(Tc10)について、甲3の表IIには、核剤を含まない場合は110.1℃であるのに対し、表IIIには、核剤であるMILLAD 3988を0.025重量%配合した場合は114.7℃、0.05重量%配合した場合は116.1℃であること、すなわち、結晶化温度が上昇していることが記載されており、核剤として機能することを表しているということができる。 このように、甲2及び甲3の記載によれば、本件訂正前の請求項1に係る発明の一般式(2’)で表されるアセタール化合物を同程度の少量含む場合でも、結晶化温度がおよそ同じ値か上昇するものであるといえ、本件訂正前の請求項1に係る発明の全ての範囲にわたって、本件訂正前の請求項1に係る発明の課題を解決できると認識することはできないといえるから、本件訂正前の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえないし、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない(申立書第33頁第17行~第35頁第20行)。 ウ 本件訂正前の請求項1、4、5に係る発明において、発明の詳細な説明に開示した内容を拡張ないし一般化できないことについて 本件訂正前の請求項1に係る発明は、「一般式(2’)で表されるアセタール化合物」を発明特定事項としているところ、そのR3として種々の置換基を規定し、また、結晶性を抑制する対象樹脂として「ポリオレフィン系樹脂」を発明特定事項としている。 一方、本件発明の課題が解決されることが実際に確認されているのが、実施例に示された「化合物No.60及び61で表されるアセタール化合物」のみであり、対象樹脂として「ポリオレフィン系樹脂:シリンダー温度230℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート7.7g/10minのホモプロピレン、融点160℃」のもののみである。 そうすると、出願時の技術常識に照らし、化合物No.60及び61とは化学構造が異なるアセタール化合物を用いた場合や、上記特定のメルトフローレート、融点を有するホモポリプロピレン以外のオレフィン系樹脂を用いた場合であっても、本件発明の課題を解決することが認識できない(申立書第35頁第21行~第37頁第10行)。 2 証拠方法 (1)特許異議申立書とともに提出された証拠方法 申立人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。 ・甲第1号証:Magnus Kristiansen 外5名著、The Binary System Isotactic Polypropylene/Bis(3,4-dimethylbenzylidene)sorbitol: Phase Behavior,Nucleation,and Optical Properties、Macromolecules、vol.36 No.14 2003年、第5150~5156頁、及び抄訳 ・甲第2号証:Karin Bernland 外2名著、Phase behavior and optical- and mechanical properties of the binary system isotactic polypropylene and the nucleating/clarifying agent 1,2,3-trideoxy-4,6:5,7-bis-O-[(4-propylphenyl)methylene]-nonitol、Polymer、50 2009年、第2460~2464頁、及び抄訳 ・甲第3号証:C.MARCO 外3名著、Comparative Study of the Nucleation Activity of Third-Generation Sorbitol-Based Nucleating Agents for Isotactic Polypropylene、Journal of Applied Polymer Science Vol.84 2002年、第2440~2450頁、及び抄訳 ・甲第4号証:Jun Zhou 外1名著、Relationship Between Molecular Structure and Nucleation of Benzylidene Acetals in Isotactic Polypropylene、POLYMER COMPOSITES、2012年、第371~378頁、及び抄訳 (2)令和4年3月11日付け意見書とともに提出された証拠方法 申立人が、令和4年3月11日付け意見書とともに提出した証拠方法は、以下のとおりである。 ・甲第5号証:特開2019-44063号公報 ・甲第6号証:特開平9-176407号公報 (3)令和4年9月21日付け意見書とともに提出された証拠方法 申立人が、令和4年9月21日付け意見書とともに提出した証拠方法は、以下のとおりである。 ・甲第7号証:プラスチック添加剤活用ノート 皆川源信編著 工業調査会 1996年7月15日 初版第1刷発行 ・甲第8号証:特開平9-165476号公報 ・甲第9号証:特開2004-43788号公報 (4)令和5年6月16日付け意見書とともに提出された証拠方法 申立人が、令和5年6月16日付け意見書とともに提出した証拠方法は、以下のとおりである。 ・甲第10号証:特表2009-507982号公報 なお、各甲号証の番号に応じて、甲第1号証を「甲1」などという。 3 当審が通知した令和5年3月7日付け取消理由通知(決定の予告)の理由 本件特許の請求項1~5に係る特許に対して、当審が令和5年3月7日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は次の(1)ないし(8)のとおりである。なお、取消理由1~6は、上記申立理由のうち、申立理由1、2を包含し、取消理由7は上記申立理由の一部である申立理由4ア、イを包含する。 (1)取消理由1(新規性1)本件の請求項1~5に係る発明は、本件出願前に日本国内または外国において頒布された甲第1号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 よって、本件の請求項1~5に係る発明の特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 (2)取消理由2(新規性2)本件の請求項1~5に係る発明は、本件出願前に日本国内または外国において頒布された甲第2号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 よって、本件の請求項1~5に係る発明の特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 (3)取消理由3(新規性3)本件の請求項1、2、4、5に係る発明は、本件出願前に日本国内または外国において頒布された甲第4号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 よって、本件の請求項1、2、4、5に係る発明の特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 (4)取消理由4(進歩性1)本件の請求項1~5に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第1号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、本件の請求項1~5に係る発明の特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 (5)取消理由5(進歩性2)本件の請求項1~5に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第2号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、本件の請求項1~5に係る発明の特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 (6)取消理由6(進歩性3)本件の請求項1、2、4、5に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第4号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、本件の請求項1、2、4、5に係る発明の特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 (7)取消理由7(サポート要件)本件の特許請求の範囲の請求項1~5の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、下記ア及びイの点で、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。 よって、本件の請求項1~5に係る発明の特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 具体的理由の概要は以下のとおり。 ア 本件発明1において、ポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤の配合割合が特定されていないことについて 本件発明1は、一般式(2')で表されるアセタール化合物を含むことを特徴とするポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤であることが特定されているが、該ポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤の配合割合は特定されていない。 一方、本件明細書等には、ポリオレフィン系樹脂100質量部に一般式(2')で表されるアセタール化合物を0.2質量部添加した場合に、ポリオレフィン系樹脂の結晶化温度を7℃以上向上させたとしても、該アセタール化合物を0.005質量部以上0.1質量部未満で添加した場合に、ポリオレフィン系樹脂の結晶性が抑制されること(【0020】)、実施例1~4ではポリオレフィン系樹脂100質量部に対して核剤4(化合物No.60)及び核剤5(化合物No.61)を0.02質量部又は0.05質量部含む組成物は、核剤を配合していない比較例7の組成物と比較して、結晶化温度が上昇していないことが示されている。 そうすると、上記アセタール化合物の配合割合によっては、本件発明の課題を解決できるとはいえず、本件発明1は本件発明の課題を解決し得ない場合を含むものといえる。 イ 甲2~甲4の記載からの検討 甲2、甲3によると、本件発明1の一般式(2’)で表されるアセタール化合物を、本件明細書等の実施例1~4と同程度の少量含む場合でも、結晶化温度がおおよそ同じとなり得ること、甲4によると、アイソタクチックポリプロピレンの結晶化が酸化防止剤などの添加剤により影響を受けやすいことを踏まえると、該アセタール化合物によってポリオレフィン系樹脂の結晶性を抑制する作用は、樹脂組成物中の上記アセタール化合物の配合量やその存在する環境によって影響を受けやすいといえる。そうであれば、上記実施例1~4における、「ポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤」と、「酸化防止剤1」、「酸化防止剤2」及び「脂肪族金属塩」とを特定量含有する「樹脂組成物」以外の場合であっても、本件発明の課題を解決できるとはいえず、本件発明1は本件発明の課題を解決し得ない場合を含むものといえる。 (8)取消理由8(明確性)本件の特許請求の範囲の請求項3の記載は、同項に記載された特許を受けようとする発明が、下記の点で明確とはいえないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものでない。 よって、本件の請求項3に係る発明の特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 具体的理由の概要は以下のとおり。 請求項3には、「前記アセタール化合物が、前記化合物No.60および前記化合物No.61からなる群より選ばれる少なくとも一種である請求項1記載のポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤。」と記載されているが、請求項3が引用する請求項1には、化合物No.60および化合物No.61の記載はないから、上記請求項3に係る発明は明確でない。 第6 当審の判断 1 取消理由1~6並びに申立理由1及び2について 取消理由1~6並びに申立理由1及び2を併せて検討する。 甲1、甲2、及び甲4の日本語訳は、申立書の証拠方法として提出された抄訳を当審訳として援用した。 (1)各甲号証に記載されている事項及び発明 ア 甲1に記載された事項及び甲1に記載された発明 (ア)甲1に記載された事項 甲1には、「二元系アイソタクチックポリプロピレン/ビス(3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトール:相挙動、核形成、及び光学特性」(第5150頁、表題)と題する論文であって、要約には、「市販の核剤及び透明化剤である1,3:2,4-ビス(3,4-ジメチルジベンジリデン)ソルビトール(DMDBS、Millad 3988)とアイソタクチックポリプロピレン(i-PP)とからなる二元系の相挙動を、示差走査熱量測定(DSC)、レオロジー及び光学顕微鏡を用いて、全濃度範囲にわたり、調べた。・・・DMDBSの核形成作用によるi-PPの結晶化温度の最大の増加は、後者(DMDBS)を0.2及び1wt%の間で含む組成物において観測された。」(第5150頁、ABSTRACTの第1~8行)と記載されている。 また、実験項には、「材料:用いたi-PPグレードは、Montell FLF20(Mn=5.45×l04g/mol、Mw=3.77×l05g/mol)であり、これは酸化防止剤イルガノックス1010を含む。(そのため、厳密に言えば、今回のi-PP/DMDBS系は、擬二元系である。)使用前に、ポリマーペレットはフリーザーミル(Retsch ZMlOO,Schieritz & Hauenstein AG,Switzerland)で粉砕された。核剤ビス(3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトール(DMDBS、Millad 3988,Milliken Chemical, Belgium)をそのまま用いた。 試料の調製:種々のドライブレンドした0.1から20wt%の範囲のDMDBSの含有量を有するi-PP及びDMDBSの混合物を、実験室で、15分間窒素雰囲気下に置いた後混合物を送り出し、230℃で同方向回転小型二軸押出機(Technical University Eindhoven, The Netherlands)により調合した。」(第5151頁左欄第6~21行)と記載され、熱分析方法については、「熱分析:熱分析は、特に明記しない限り窒素雰囲気下で10℃/分の標準的な昇温又は冷却速度で、Netzsch示差走査熱量計(DSC、モデル200)を用いて実施した。冷却及び加熱の運転を記録する前に、熱履歴を消去しかつi-PPの自己種晶(self-seeding) を避けるためサンプルを240℃で5分保持した。この後に報告される結晶化温度及び溶融温度は、対応するDSCサーモグラムにおけるピーク温度を参照する。」(第5151頁左欄第51~60行)と記載されている。 さらに、第5151頁右欄中段の「3.結果と考察」以降の「3.2.示差走査熱量測定」の項目には、「種々のi-PP/DMDBS混合物のDSC冷却サーモグラムを図2aに示す。DMDBSが非常に低い濃度のとき、i-PPの結晶化(ピーク)温度は、ニートポリマーの113℃から0.lwt%のDMDBSを含む混合物の110℃へわずかに低下した。従って、非常に低い濃度では、以前の観察17,18と一致して、核剤/透明化剤は有効ではないように見える。後の観察は、この特定サンプルの上述したヘイズの上昇と一致する。これは、全体の相図の中でこの後さらに議論される。DMDBSを0.1及びlwt%の間で含むi-PP/DMDBS組成物において、i-PPのピーク結晶化温度は、混合物中110から129℃付近まで大幅に上昇し、より高いDMDBS濃度では一定を維持していた。」(第5152頁左欄第1~17行)と記載され、図2aが以下のとおり示されている。 「 [図:0001403608000013.jpg] 図2.230℃で溶融混合した種々のi-PP/DMDBSの二元系混合物の示差走査熱量測定(DSC)のサーモグラム:(a)冷却及び(b)その後加熱、両方10℃/分。」(第5152頁左欄上段) (イ)甲1に記載された発明 甲1の要約等によれば、甲1には、アイソタクチックポリプロピレン(i-PP)に1,3:2,4-ビス(3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトール(DMDBS、Millad3988)を配合して、相挙動を、示差走査熱量測定(DSC)を用いて全濃度範囲にわたり調べたことが記載され、甲1の実験項によれば、アイソタクチックポリプレンに対し、1,3:2,4-ビス(3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトールを0.1から20wt%の範囲で配合することが記載され、3.2.示差走査熱量測定の項目によれば、DMDBSが非常に低い0.1wt%含むとき、i-PPの結晶化(ピーク)温度は、ニートポリマーの113℃から110℃へわずかに低下したことがデータと共に記載されている。 そうすると、甲1の記載のうち、DMDBSが非常に低い0.1wt%含むときに着目すると、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。 「アイソタクチックポリプロピレンに1,3:2,4-ビス(3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトール(DMDBS)を0.1wt%配合した組成物であって、結晶化(ピーク)温度が、ニートポリマーの113℃から110℃へわずかに低下した組成物。」(以下、「甲1発明」という。) イ 甲2に記載された事項及び甲2に記載された発明 (ア)甲2に記載された事項 甲2には、「二元系アイソタクチックポリプロピレン及び核剤/透明化剤である1,2,3-トリデオキシ-4,6:5,7-ビス-O-[(4-プロピルフェニル)メチレン]-ノニトールからなる二元系の相挙動、並びに光学及び機械特性」(第2460頁、表題)と題する論文であって、要約には、「二元系アイソタクチックポリプロピレン及び新しいソルビトール系核剤及び透明化剤である1,2,3-トリデオキシ-4,6:5,7-ビス-O-[(4-プロピルフェニル)メチレン]-ノニトール(TBPMN)からなる二元系の相挙動、並びに光学及び選択された機械特性を調べた。二元系の温度/組成物の図(diagram)は、単純な偏晶タイプであり、中でも以前に調べたi-PP/1,3:2,4-ビス(3,4-ジメチルジベンジリデン)ソルビトール(DMDBS)のそれらと同様であることが確認された。」(第2460頁、ABSTRACTの第1~5行)と記載されている。 また、第2460頁右欄下段の「2.実験」には、「2.1 材料用いたアイソタクチックポリプロピレンは、バーゼルからのMoplen HF 500Nであった。透明化剤1,2,3-トリデオキシ-4,6:5,7-ビス-O-[(4-プロピルフェニル)-メチレン]-ノニトール(TBPMN、CAS Registry Number:882073-43-0,図1)を参照文献[12]の一般手順に従い合成した。 2.2 混合調製 i-PPとTBPMNの混合物であって、添加剤を10%w/wまで含み、その後の射出成形に用いられる混合物が、実験室において、窒素雰囲気下で10分間静置し、230℃で100rpmで同方向小型二軸押 出機(Technical University Eindhoven,The Netherlands) により調合された。より高い添加物濃度を含む光学研究のための混合物は、ドライブレンド及び250℃で圧縮成形することにより調製した。ニートポリマーの参照サンプルは対応する手順に従い製造された。 2.3 熱分析 熱分析は、インジウムで校正された示差走査熱量計(DSC 822e, Mettler Toledo, Switzerland)を用いて実施した。DSCのサーモグラムは、窒素下、10℃/分の標準の昇温及び冷却速度で記録し:サンプル重量は約10mgであった。各ステップの間、サンプルは、ポリマーの完全な融解を確実にし、自己核形成を避けるために、冷却前に最も高い温度で5分間保持した。ここで報告される結晶化及び融解温度は、DSCサーモグラムのピーク温度に対応する。ポリマーの結晶化度は、吸熱ピークに由来する融解エンタルピーから計算し、100%結晶性のアイソタクチックポリプロピレンとして207.1J/gの値を採用した[15]。」(第2460頁右欄第10行~第2461頁左欄第21行)と記載され、図1には、TBPMNの化学構造が以下のとおり記載されている。 「 [図:0001403608000014.jpg] 図1.1,2,3-トリデオキシ-4,6:5,7-ビス-O-[(4-プロピルフェニル)メチレン]-ノニトール(TBPMN)の化学構造」(第2461頁左欄下段) そして、第2462頁左欄中段の「3.結果と考察」の「3.1 温度/組成の図」の項目には、「全組成範囲をカバーするi-PP/TBPMNの混合物の溶融及び結晶化の挙動を、示差走査熱量測定(DSC)及び光学顕微鏡を用いて調べた。この系では、TBPMNがポリマーと増強された相溶性を示すという顕著な相違と共に、二元系i-PP/DMDBS[6]と同様の単純な偏晶挙動を示すことが明らかとなった。これは、今回の系における、~5%w/wという液-液相分離の開始のための実質的により高い添加剤濃度により証明される。このことは、DMDBSの系では~2.5%w/wであるのに対し、この系では~5%w/wと、液液相分離の開始に必要な添加剤の濃度が大幅に高いことからもわかる(図2参照)。 DSC分析は次の点を明らかにした。i-PPのピーク結晶化温度、TCは、0.1%w/w以下の量の透明化剤の添加により、あまり影響を受けず、そしてニートのポリマーの温度(~113℃)とおよそ同じ値のままであるか、或いは、僅かに低下すらしていた。この濃度範囲では、添加剤は、単に高溶融点希釈剤として働くためである[6,17,18]。しかし、0.1%w/wを超えるTBPMNの量を添加すると、約0.4%w/wの濃度で達した130℃のプラトー値(グラフの平坦域)まで、ポリマーのピーク結晶化温度の急速な上昇を生じた。」(第2462頁左欄第21行~同頁右欄第6行)と記載されている。 (イ)甲2に記載された発明 甲2の要約によれば、甲2には、アイソタクチックポリプロピレンに新しいソルビトール系核剤及び透明化剤である1,2,3-トリデオキシ-4,6:5,7-ビス-O-[(4-プロピルフェニル)メチレン]-ノニトール(TBPMN)を配合して、相挙動を調べたことが記載され、甲2の実験によれば、アイソタクチックポリプロピレンに1,2,3-トリデオキシ-4,6:5,7-ビス-O-[(4-プロピルフェニル)-メチレン]-ノニトールを10%w/wまで混合したことが記載され、「3.1 温度/組成の図」の項目によれば、アイソタクチックポリプロピレンに1,2,3-トリデオキシ-4,6:5,7-ビス-O-[(4-プロピルフェニル)-メチレン]-ノニトールを0.1%w/w以下の量の添加することにより、ピーク結晶化温度は、ニートポリマーの結晶化温度(~113℃)より僅かに低下すらしていたことが記載されている。 そうすると、甲2の記載のうち、TBPMNが0.1%w/w以下の量添加するときに着目すると、甲2には、以下の発明が記載されていると認められる。 「アイソタクチックポリプロピレンに1,2,3-トリデオキシ-4,6:5,7-ビス-O-[(4-プロピルフェニル)-メチレン]-ノニトール(TBPMN)を0.1%w/w以下の量添加した組成物であって、結晶化温度が、ニートポリマーより僅かに低下した組成物。」(以下、「甲2発明」という。) ウ 甲4に記載された事項及び甲4に記載された発明 (ア)甲4に記載された事項 甲4には、「アイソタクチックポリプロピレン中のベンジリデンアセタール類の分子構造と核形成との関係」(第371頁、表題)と題する論文であって、第371頁左欄上段には、要約として「アイソタクチックポリプロピレン中のベンジリデンアセタールの分子構造と核形成の関係を、示差走査熱量計及び二次元相関赤外スペクトルにより調べた。その結果は、ベンジリデンアセタールは高温でアイソタクチックポリプロピレンに溶解することができ、核を形成して低温でアイソタクチックポリプロピレンの結晶化を促進することを示している。」(第371頁左欄第1~8行)と記載されている。 また、第371頁左欄下段の「イントロダクション」には、「ジ-(p-メチルベンジリデン)ソルビトール(DMBS)は、第2世代の透明化剤として、アイソタクチックポリプロピレン中で広く用いられている。」(第371頁左欄第23~26行)と記載され、第372頁左欄下段には、図1として、DMBSの化学構造式が以下のとおり示されている。 「 [図:0001403608000015.jpg] 図1.MMBS、DMBS、TMBS及びDMBPの分子構造」(第371頁図1) さらに、第372頁右欄中段には、「サンプル調製」の項目において、「アイソタクチックポリプロピレン粉末、ベンジリデンアセタールを高速ミキサー中、室温で5分間混合した。その後、混合物をSJSH-30二軸押出機でストランドダイを通して押出し、ペレタイズした。重要なことに、アイソタクチックポリプロピレンの結晶化が他の添加剤により影響を受けないようにするために、加工中は酸化防止剤を使用しなかった。」(第372頁右欄第20~27行)と記載され、第373頁左欄中段には、「結果と考察」の項目において「アイソタクチックポリプロピレン中の相挙動と核形成に関するベンジリデンアセタール類の分子構造の効果 アイソタクチックポリプロピレン中のMMBS、DMBS及びTMBSの核形成の効率を、示差走査熱量計により調べた。図3は異なる含有量のMMBS、DMBS及びTMBSを有するアイソタクチックポリプロピレンの結晶化温度を要約する。結果は、MMBS、DMBS及びTMBSは、アイソタクチックポリプロピレンの結晶化を促進し、アイソタクチックポリプロピレンの結晶化温度を上昇させたが、ベンジリデンアセタールの結晶化温度及び飽和濃度の上昇範囲は異なることを示した。」(第373頁左欄第14行~同頁右欄第9行)と記載され、図3が以下のように示されている。 「 [図:0001403608000016.jpg] 図3.示差走査熱量測定において、200℃から室温まで20℃/分の冷却速度で冷却したときの、MMBS、DMBS及びTMBSの濃度に対するアイソタクチックポリプロピレンのピーク結晶化温度」(第373頁左欄下段) そして、第374頁左欄中段には、「アイソタクチックポリプロピレンの結晶化温度は、非常に少ない添加剤の量のとき僅かに低下し、これは、Kristiansenらにより記載された、非常に低い濃度での、アイソタクチックポリプロピレン中のジ-(3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトールの現象と同様であること、は注目に値する。」(第374頁左欄第19~24行)と記載されている。 (イ)甲4に記載された発明 甲4の要約によれば、甲4には、アイソタクチックポリプロピレン中のベンジリデンアセタールの分子構造と核形成の関係を、示差走査熱量計により調べたことが記載され、甲4の結果と考察によれば、アイソタクチックポリプロピレン中のDMBSの核形成の効率を、示差走査熱量計により調べたことが記載され、アイソタクチックポリプロピレンの結晶化温度は、非常に少ない添加剤の量のとき僅かに低下したことが記載され、図3をみると、DMBSが0.1重量%より少なく配合したときに、アイソタクチックポリプロピレンの結晶化温度が低下したことが把握できる。 そうすると、甲4の記載のうち、DMBSを0.1重量%よりも少なく添加するときに着目すると、甲4には、以下の発明が記載されていると認められる。 「アイソタクチックポリプロピレンにDMBSを0.1重量%よりも少なく添加した組成物であって、結晶化温度が低下した組成物。」(以下、「甲4発明」という。) (2)対比・判断 (2-1)本件発明1について ア 甲1発明 (ア)対比 甲1発明の「1,3:2,4-ビス(3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトール(DMDBS)」、「アイソタクチックポリプロピレン」は、本件発明1の「化合物No.60」の「アセタール化合物」、「ポリオレフィン系樹脂」にそれぞれ相当する。 ここで、甲1発明は、「アイソタクチックポリプロピレン」に「1,3:2,4-ビス(3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトール」を0.1wt%以下配合した組成物であるところ、甲1発明における「1,3:2,4-ビス(3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトール」は「アイソタクチックポリプロピレン」へ配合するものであることから、その添加剤であるということができる。そして、本件発明1の「ポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤」は、「ポリオレフィン系樹脂組成物」に対して特定量で使用することにより、「ポリオレフィン系樹脂」の結晶化を抑制するものである。そうすると、甲1発明の「1,3:2,4-ビス(3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトール」と、本件発明1の「ポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤」とは、ポリオレフィン系樹脂に使用される剤である限りにおいて一致する。 そうすると、甲1発明と本件発明1とは、以下の点において一致し、以下の点で相違する。 <一致点> 「下記化合物No.60からなるアセタール化合物を含むポリオレフィン系樹脂に使用される剤。(化合物No.60の化合物式は省略する。)」 <相違点1-1> ポリオレフィン系樹脂に使用される剤が、本件発明1では「ポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤」であるのに対し、甲1発明では「結晶性抑制剤」であるか不明である点 <相違点1-2> 本件発明1では「ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、フェノール系酸化防止剤0.001~5質量部と、リン系酸化防止剤0.001~10質量部と、脂肪酸金属塩0.001~10質量部と、を含むポリオレフィン系樹脂組成物におけるポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、前記化合物No.60および前記化合物No.61からなる群より選ばれる少なくとも一種のアセタール化合物が0.005質量部以上0.08質量部以下の範囲となるように使用する」ものであるのに対し、甲1発明ではそのような特定がない点 (イ)検討 事案に鑑みて、<相違点1-2>から検討する。 甲1発明においては、甲1の実験項で、アイソタクチックポリプロピレンに酸化防止剤イルガノックス1010(当審注:本件実施例において、「酸化防止剤1」(フェノール系酸化防止剤)として使用)を含有することが記載されているものの、その含有量については記載されていない。そして、甲1には、リン系酸化防止剤、脂肪族金属塩について記載されていないし、またフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤及び脂肪族金属塩の添加剤をそれぞれ特定量で全て含有することも記載されていない。してみると、上記<相違点1-2>は実質的な相違点である。 よって、本件発明1は、甲1に記載された発明ではない。 ついで、<相違点1-2>の容易想到性について、さらに検討する。 甲1は、そもそも「DMDBS(本件発明1の「化合物No.60」の「アセタール化合物」に該当)」を用いて、アイソタクチックポリプロピレンの結晶化温度の上昇を抑えること(結晶化を抑制すること)は明記されていない。そして、上述のとおり、アイソタクチックポリプロピレンに酸化防止剤イルガノックス1010を含有することが記載されているにとどまり、結晶性との関係で該酸化防止剤をどの程度含有するか、さらには、リン系酸化防止剤、脂肪族金属塩を含有し、それらをどの程度含有するかなどについて、何ら記載されていない。 この点については、上述の甲2、甲4においても、ポリオレフィン系樹脂に「アセタール化合物」を使用する際に、酸化防止剤、リン系酸化防止剤、脂肪族金属塩を含有することについては記載がない。 そうすると、甲1には、特定の「アセタール化合物」(ポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤)を適用するポリオレフィン系樹脂組成物において、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤及び脂肪族金属塩(以下、「本件の添加剤」という。)をそれぞれ特定量含有すること、かつ、そのようなポリオレフィン系樹脂組成物に上記「アセタール化合物」を適切な使用量で用いることで結晶化を抑制することについて、動機付けとなる記載が何ら見あたらないし、甲2、甲4では、「アセタール化合物」におけるポリオレフィン系樹脂の結晶化を検討するものであるから、<相違点1-2>に係る構成とすることは、甲1に記載された発明に基づいて、甲1、甲2、甲4に記載された事項を考慮しても、当業者が容易に想到し得たことではない。 また、甲1には、上述の「ポリオレフィン系樹脂組成物」において、上記「DMDBS」が結晶性を抑制することについて記載されていないのであるから、当業者が甲1に基づいて本件発明1の効果を予測し得ないものである。 してみると、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、及び甲1、甲2、甲4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 (ウ)小括 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1に記載された発明ではない。さらに、本件発明1は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 イ 甲2発明 (ア)対比 甲2発明の「1,2,3-トリデオキシ-4,6:5,7-ビス-O-[(4-プロピルフェニル)-メチレン]-ノニトール(TBPMN)」、「アイソタクチックポリプロピレン」は、本件発明1の「化合物No.61」の「アセタール化合物」、「ポリオレフィン系樹脂」にそれぞれ相当する。 ここで、甲2発明は、アイソタクチックポリプロピレンに1,3:2,4-ビス(3,4-ジメチルジベンジリデン)ソルビトールを0.1wt%以下添加した組成物であることを踏まえると、甲2発明の「1,3:2,4-ビス(3,4-ジメチルジベンジリデン)ソルビトール」は「アイソタクチックポリプロピレン」へ添加されるものであることから、その添加剤であるということができる。そして、本件発明1の「ポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤」は、「ポリオレフィン系樹脂組成物」に対して特定量で使用することにより、「ポリオレフィン系樹脂」の結晶化を抑制するものである。そうすると、甲2発明の「1,3:2,4-ビス(3,4-ジメチルジベンジリデン)ソルビトール」と、本件発明1の「ポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤」とは、ポリオレフィン系樹脂に使用する剤である限りにおいて一致する。 そうすると、甲2発明と本件発明1とは、以下の点において一致し、以下の点で相違する。 <一致点> 「下記化合物No.61からなるアセタール化合物を含むポリオレフィン系樹脂に使用される剤。(化合物No.61の化合物式は省略する。)」 <相違点2-1> ポリオレフィン系樹脂に使用する剤が、本件発明1では「ポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤」であるのに対し、甲2発明では「結晶性抑制剤」であるか不明である点 <相違点2-2> 本件発明1では「ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、フェノール系酸化防止剤0.001~5質量部と、リン系酸化防止剤0.001~10質量部と、脂肪酸金属塩0.001~10質量部と、を含むポリオレフィン系樹脂組成物におけるポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、前記化合物No.60および前記化合物No.61からなる群より選ばれる少なくとも一種のアセタール化合物が0.005質量部以上0.08質量部以下の範囲となるように使用する」ものであるのに対し、甲2発明ではそのような特定がない点 (イ)検討 事案に鑑みて、<相違点2-2>から検討する。 甲2には、「本件の添加剤」について何ら記載されておらず、当然ながら、それらの含有量について何ら記載されていない。 そうすると、上記<相違点2-2>は実質的な相違点である。 よって、本件発明1は甲2に記載された発明ではない。 ついで、<相違点2-2>の容易想到性について、さらに検討する。 甲2には、そもそも「TBPMN(本件発明1の「化合物No.61」の「アセタール化合物」に該当)」を用いて、アイソタクチックポリプロピレンの結晶化温度の上昇を抑えること(結晶化を抑制すること)は明記されていない。そして、上述のとおり、「本件の添加剤」についてはもちろんのこと、それらをどの程度の含有量で配合するかについても、何ら記載されていない。 そして、甲1、甲4においては、上記ア(イ)に示したとおり、「本件の添加剤」を含有することについては記載がない。そうすると、甲2には、ポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤を適用するポリオレフィン系樹脂組成物において、「本件の添加剤」をそれぞれ特定量含有すること、かつ、そのようなポリオレフィン系樹脂組成物に上記「アセタール化合物」を適切な使用量で用いることで結晶化を抑制することについて、動機付けとなる記載がないし、甲1、甲4には「アセタール化合物」におけるポリオレフィン系樹脂の結晶化を検討するものであるから、<相違点2-2>に係る構成とすることは、甲2に記載された発明に基づいて、甲1、甲4に記載された事項を考慮しても、当業者が容易に想到し得たことではない。 また、甲2には、上述の「ポリオレフィン系樹脂組成物」において、上記「TBPMN」が結晶性を抑制する点について記載されていないのであるから、当業者が甲2に基づいて本件発明1の効果を予測し得ないものである。 してみると、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明、及び甲1、甲2、甲4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 (ウ)小括 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲2に記載された発明ではない。さらに、本件発明1は、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 ウ 甲4発明 (ア)対比 甲4発明の「DMBS」は、その化学構造式をみると、アセタール化合物であるが、これは、本件発明1の「化合物No.60および化合物No.61からなる群より選ばれる少なくとも一種のアセタール化合物」と、「アセタール化合物」である限りにおいて一致する。 甲4発明の「アイソタクチックポリプロピレン」は、本件発明1の「ポリオレフィン系樹脂」に相当する。 ここで、甲4発明は、アイソタクチックポリプロピレンに「DMBS」を0.1wt%よりも少なく添加した組成物であることを踏まえると、甲4発明における「DMBS」は「アイソタクチックポリプロピレン」へ添加されるものであることから、その添加剤であるということができる。そして、本件発明1の「ポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤」は、「ポリオレフィン系樹脂組成物」に対して特定量で使用することにより、「ポリオレフィン系樹脂」の結晶化を抑制するものである。そうすると、甲4発明の「DMBS」と、本件発明1の「ポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤」とは、ポリオレフィン系樹脂に使用する剤である限りにおいて一致する。 そうすると、甲4発明と本件発明1とは、以下の点において一致し、以下の点で相違する。 <一致点> 「アセタール化合物を含むことを特徴とするポリオレフィン系樹脂用添加剤。」 <相違点4-0> アセタール化合物について、本件発明1では「化合物No.60および化合物No.61からなる群より選ばれる少なくとも一種のアセタール化合物」であるのに対し、甲4発明では「DMBS」である点 <相違点4-1> ポリオレフィン系樹脂に使用する剤が、本件発明1では「ポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤」であるのに対し、甲4発明では「結晶性抑制剤」であるか不明である点 <相違点4-2> 本件発明1では「ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、フェノール系酸化防止剤0.001~5質量部と、リン系酸化防止剤0.001~10質量部と、脂肪酸金属塩0.001~10質量部と、を含むポリオレフィン系樹脂組成物におけるポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、前記化合物No.60および前記化合物No.61からなる群より選ばれる少なくとも一種のアセタール化合物が0.005質量部以上0.08質量部以下の範囲となるように使用する」ものであるのに対し、甲2発明ではそのような特定がない点 (イ)判断 <相違点4-0>について検討する。 本件発明1は、「化合物No.60および化合物No.61からなる群より選ばれる少なくとも一種のアセタール化合物」を含有するものであるのに対し、甲4発明は、「DMBS」である。 そうすると、上記<相違点4-0>は実質的な相違点である。 よって、本件発明1は甲4に記載された発明ではない。 ついで、<相違点4-0>の容易想到性について、さらに検討する。 甲4には、そもそも「DMBS」を用いて、アイソタクチックポリプロピレンの結晶化温度の上昇を抑えること(結晶化を抑制すること)は明記されていない。そして、甲4には、アセタール化合物として、「DMBS」のほか、「MMBS」、「TMBS」、「DMBP」が記載されているものの、いずれも本件発明1の「アセタール化合物」である「化合物No.60」、「化合物No.61」には該当しない。 そうすると、甲4には、本件発明1の「アセタール化合物」である「化合物No.60」又は「化合物No.61」を用いようとする動機付けがないものであるから、<相違点4-0>に係る構成、つまり「化合物No.60および化合物No.61からなる群より選ばれる少なくとも一種のアセタール化合物」を含むことは、当業者が容易に想到し得たことではない。 そして、甲1、甲2において、上記「化合物No.60および化合物No.61からなる群より選ばれる少なくとも一種のアセタール化合物」を用いてポリプロピレンを結晶化することが記載されていたとしても、あくまでも上記「アセタール化合物」とポリプロピレンとの結晶化に関するものであるから、甲4に加えて、甲1、甲2に接したとしても、「本件の添加剤」を含有するポリオレフィン系樹脂組成物に対して、上記「アセタール化合物」を特定量使用することによって結晶化温度を上昇させないことを、当業者は理解することができない。 してみると、甲4に記載された発明に基づいて、甲1、甲2、甲4に記載された事項を考慮しても、当業者が容易に想到し得たことではない。 また、本件発明1におけるポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤としての作用効果を当業者が予測し得ないものである。 してみると、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲4発明及び甲1、甲2、甲4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 (ウ)小括 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲4に記載された発明ではない。さらに、本件発明1は、甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (2-2)本件発明4、5について 本件発明4、5は、本件発明1を引用するものであるから、これらの発明も、本件発明1と同様に、甲1、甲2又は甲4に記載された発明ではないし、甲1、甲2又は甲4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)申立人の主張について 申立人は、令和5年6月16日に提出された意見書において、ポリプロピレン系樹脂(PP)を安定化等するために、所定量のフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤及び脂肪酸金属塩を適量配合することは、出願時の技術常識(甲7~10)であるから、甲1又は甲2に記載された発明に、上記技術常識を適用して、本件発明のように構成することは、当業者が容易に想到しうることであると主張する。 そこで、以下検討する。 申立人が主張するように、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂に、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、脂肪族金属塩を適量含有させることは、従来から周知技術であるといえる。 ここで、甲1発明では、フェノール系酸化防止剤のみを添加し、甲2発明では、上記添加剤を用いていないものであって、また甲4には、ポリプロピレンの結晶化が他の添加剤により影響を受けないようにするために、加工中は酸化防止剤を使用しなかったことが記載されている。 これらに基づくと、甲1発明、甲2発明は、ポリプロピレンの結晶化に着目しているものであり、いずれにおいても周知技術とされてきた「本件の添加剤」を全て含有させることなく、種々のアセタール化合物とその使用量を比較、検討しているものである。そして、甲4によれば酸化防止剤が少なからず結晶化に影響を与えることが理解できるものであるところ、甲1、甲2及び甲4には、ポリプロピレンとアセタール化合物以外に添加剤を含有することへの動機付けが記載されていない。それゆえ、たとえ「本件の添加剤」を使用することが従来から周知技術であったとしても、当業者であれば、ポリプロピレンの結晶化を検討する際に、「本件の添加剤」を積極的には使用しないと解するのが自然である。 そして、甲1発明及び甲2発明では、ポリプロピレンに微量の「アセタール化合物」を適用したときには、結晶化温度が上昇しない状態となっていると認められるところ、上記周知技術を適用して、つまり「本件の添加剤」を添加したとしても、結晶化温度が上昇しない状態を維持しえるのか否かが不明なものである。これに対し、本件発明1では、特定量の上述の「本件の添加剤」を含むポリオレフィン系樹脂組成物に、特定の「アセタール化合物」を特定量使用することで、結晶化温度を上昇させないという機能を有するものであって、単に上述の「本件の添加剤」を添加すればよいというものではない。 そうすると、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂に上述の「本件の添加剤」を添加することが周知技術であったとしても、ポリプロピレンの結晶化に注目している甲1発明及び甲2発明において、当該周知技術であるというだけの理由で、該結晶化に影響を与える可能性のある上述の添加剤をさらに適用しようとは一般的には想定しえないことといえるから、当業者が容易になし得たこととはいえない。 よって、申立人の主張は採用できない。 (4)取消理由1~6及び申立理由1、2のまとめ 本件発明1、4、5は、甲1、甲2又は甲4に記載された発明でないし、甲1、甲2又は甲4に記載された発明及び甲1、甲2又は甲4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでないから、本件の請求項1、4、5に係る発明の特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものではないから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものではない。 2 取消理由7及び申立理由4ア、イについて 取消理由7及び申立理由4ア、イを併せて検討する。 (1)特許請求の範囲の記載 上記「第3」に記載したとおりである。 (2)判断基準 特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。 同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (3)発明の詳細な説明の記載 本件の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。 「【背景技術】 【0002】 ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド樹脂等の結晶性樹脂を含む樹脂材料を加工して合成繊維またはフィルムを製造する場合、あるいはこのような樹脂材料を木質・繊維質材料等からなる基材に積層して積層体を製造する場合、樹脂成分の結晶性が十分に抑制されたものであることが望まれていた。 ・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 しかしながら、特許文献1に記載の樹脂組成物は、樹脂成分の結晶性を抑制するために多量のシリコーンオイルを含んでおり、その結果、この樹脂組成物から得られる成形品の物性が十分なものとならない場合があった。 【0006】 そこで、本発明の目的は、樹脂成分の結晶性を抑制することができるポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤、ポリオレフィン系樹脂の結晶性抑制方法および樹脂成分の結晶性が抑制されたポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法を提供することにある。 ・・・ 【0008】 すなわち、本発明のポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤は、下記一般式(2’)で表されるアセタール化合物を含むことを特徴とするものである。 [図:0001403608000017.jpg] ここで、一般式(2’)中、R1は水素原子または炭素原子数1~4のアルキル基を表し、R2およびR4はそれぞれ独立に炭素原子数1~4のアルキル基を表し、R3およびR5はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素原子数1~4のアルキル基または炭素原子数1~4のアルコキシ基を表し、Xは単結合、-CH(OH)-基または-CH(OH)CH(OH)-基を表す。 【0009】 本発明のポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤においては、前記アセタール化合物が、下記化合物No.60、下記化合物No.61および下記化合物No.62からなる群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。また、本発明のポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤においては、前記アセタール化合物が、前記化合物No.60および前記化合物No.61からなる群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。 [図:0001403608000018.jpg] 【0010】 本発明のポリオレフィン系樹脂の結晶性抑制方法は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、前記一般式(2’)で表されるアセタール化合物の配合割合が0.005質量部以上0.08質量部以下となるように、本発明のポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤を配合することを特徴とするものである。また、本発明のポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、前記一般式(2’)で表されるアセタール化合物の配合割合が0.005質量部以上0.08質量部以下となるように、本発明のポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤を配合する工程を含むことを特徴とするものである。 ・・・ 【発明の効果】 【0018】 本発明によれば、樹脂成分の結晶性を抑制することができるポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤およびポリオレフィン系樹脂の結晶性抑制方法を提供することができる。」 「【発明を実施するための形態】 【0020】 以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。 <樹脂組成物> 本発明の樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂と核剤とを含む。本発明の組成物においては、核剤が、ポリオレフィン系樹脂の融点よりも150℃高い温度において融解するもの、または、ポリオレフィン系樹脂の融点よりも150℃高い温度においてポリオレフィン系樹脂に溶解するものであり、かつ、核剤が、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して0.2質量部添加した場合、ポリオレフィン系樹脂の結晶化温度を7℃以上向上させるものである。また、本発明の樹脂組成物においては、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対する核剤の含有量が、0.005質量部以上0.1質量部未満である。かかる構成とすることで、本発明の樹脂組成物は、樹脂成分の結晶性が抑制されたものになる。その理由は以下のとおりであると考えられる。 【0021】 本発明の樹脂組成物に係る核剤を、ポリオレフィン系樹脂に従来の添加量(例えば、樹脂100質量部に対して0.2質量部)添加して得られる樹脂組成物を加熱可塑化すると、核剤は融解またはポリオレフィン系樹脂に溶解し、樹脂マトリックス中に拡散される。このようにして得られた樹脂溶融液を冷却すると、樹脂マトリックス中の核剤は自己組織化して微結晶となる。そして、この微結晶が結晶核となることにより、ポリオレフィン系樹脂の結晶化が促進される。 【0022】 一方、本発明の樹脂組成物を同様に加熱可塑化後、冷却した場合、樹脂マトリックス中の核剤濃度が十分に低いため、核剤は樹脂マトリックス中で自己組織化することができない。また、核剤分子が樹脂分子と強く相互作用することにより、樹脂分子の結晶ドメイン拡大が阻害される。以上の結果から、本発明の樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂の結晶化が抑制されたものになると推定される。以下、本発明の樹脂組成物に係る各成分について詳細に説明する。」 「【0028】 <核剤> 本発明の樹脂組成物に係る核剤は、ポリオレフィン系樹脂の融点よりも150℃高い温度において融解する核剤、またはポリオレフィン系樹脂の融点よりも150℃高い温度においてポリオレフィン系樹脂に溶解する核剤である。核剤がポリオレフィン系樹脂の融点よりも150℃高い温度において融解するものである場合、樹脂組成物の成形加工時に、核剤は融解して液体状態となり、可塑化したポリオレフィン系樹脂の溶融液中に拡散される。核剤がポリオレフィン系樹脂の融点よりも150℃高い温度においてポリオレフィン系樹脂に溶解するものである場合、樹脂組成物の成形加工時に、核剤は可塑化したポリオレフィン系樹脂の溶融液中に溶解し、溶融液中に拡散される。 【0029】 本発明の樹脂組成物に含まれる核剤は、ポリオレフィン系樹脂の融点よりも120℃高い温度において融解する、またはポリオレフィン系樹脂の融点よりも120℃高い温度においてポリオレフィン系樹脂に溶解する核剤であることが好ましく、ポリオレフィン系樹脂の融点よりも100℃高い温度において融解する、またはポリオレフィン系樹脂の融点よりも100℃高い温度においてポリオレフィン系樹脂に溶解する核剤であることがさらに好ましく、ポリオレフィン系樹脂の融点よりも70℃高い温度において融解する、またはポリオレフィン系樹脂の融点よりも70℃高い温度においてポリオレフィン系樹脂に溶解する核剤であることが特に好ましい。 【0030】 また、本発明の樹脂組成物に含まれる核剤の融点は150~300℃であることが好ましい。核剤の融点が150℃以上である場合、樹脂成分の結晶性はより効果的に抑制される。また、核剤の融点が300℃以下である場合、樹脂組成物の成形加工温度を十分に低くすることができ、成形品の着色や物性低下を抑制できる。核剤の融点は280℃以下であることがより好ましく、250℃以下であることがさらに好ましく、230℃以下であることが特に好ましい。また、核剤の融点は180℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることがさらに好ましい。 【0031】 さらに、上述したように本発明の樹脂組成物に係る核剤は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対し核剤を0.2質量部添加した場合に、ポリオレフィン系樹脂の結晶化温度を7℃以上向上させるものでもある。ポリオレフィン系樹脂100質量部に対し核剤を0.2質量部添加した場合にポリオレフィン系樹脂の結晶化温度の向上度が7℃未満である核剤の分子は、樹脂分子との相互作用が十分に強いものとはいえず、樹脂分子の結晶ドメイン拡大を効果的に阻害することができない。したがって、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対し核剤を0.2質量部添加した場合にポリオレフィン系樹脂の結晶化温度の向上度が7℃未満である核剤は、ポリオレフィン系樹脂の結晶化を十分に抑制することができない。すなわち、核剤が、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対し核剤を0.2質量部添加した場合にポリオレフィン系樹脂の結晶化温度の向上度が7℃未満であるものである場合、樹脂組成物は、樹脂成分の結晶性が十分に抑制されたものとならない。本発明の樹脂組成物に係る核剤は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対し核剤を0.2質量部添加した場合に、ポリオレフィン系樹脂の結晶化温度を9℃以上向上させるものであることが好ましく、11℃以上向上させるものであることがさらに好ましい。 【0032】 本発明の樹脂組成物に係る核剤に含まれる化合物としては、例えば、下記一般式(1)で表されるトリアジン化合物、下記一般式(2)で表されるアセタール化合物、メチレンビスフェニルアミド、トリスアミドベンゼン等のアミド化合物等が挙げられる。これらは樹脂組成物に単独で含まれていても、2種以上が組み合わされて含まれていてもよい。これらの中では、下記一般式(1)で表されるトリアジン化合物、下記一般式(2)で表されるアセタール化合物が特に好ましい。すなわち、核剤は、下記一般式(1)で表されるトリアジン化合物を含むことが特に好ましく、下記一般式(2)で表されるアセタール化合物を含むことも特に好ましい。 【0033】 ・・・ [図:0001403608000019.jpg] ・・・ 【0035】 また、一般式(2)中、R1は水素原子または炭素原子数1~4のアルキル基を表す。R2、R3、R4およびR5はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素原子数1~4のアルキル基または炭素原子数1~4のアルコキシ基を表し、あるいはR2およびR3またはR4およびR5が互いに連結して炭素原子数3~6のアルキレン基または炭素原子数1~4のアルキレンジオキシ基を表す。Xは単結合、-CH(OH)-基または-CH(OH)CH(OH)-基を表す。 ・・・ 【0060】 一般式(2)で表されるアセタール化合物の中では、R1、R2、R3、R4およびR5がそれぞれ独立に水素原子または炭素原子数1~4のアルキル基であり、Xが-CH(OH)-基であるものが好ましい。 【0061】 一般式(2)で表されるアセタール化合物の具体例としては、例えば、下記の化合物No.60~No.63等が挙げられる。これらの中では、化合物No.60、化合物No.61または化合物No.62で表されるアセタール化合物が特に好ましい。 【0062】 [図:0001403608000020.jpg] 【0063】 一般式(2)で表されるアセタール化合物の製造方法としては、例えば、ソルビトール等のアルジトール化合物とアリールアルデヒドとを、酸触媒の存在下、脱水縮合させる方法等が挙げられる。 【0064】 上述したように、本発明の樹脂組成物において、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対する核剤の含有量は、0.005質量部以上0.1質量部未満である。核剤の含有量が0.005質量未満である場合、樹脂成分の結晶性が十分に抑制されたものにならない。また、核剤の含有量が0.1質量部以上である場合、樹脂成分の結晶性が促進されてしまう。核剤の含有量は0.01質量部以上であることがより好ましく、0.02質量部以上であることがさらに好ましい。また、核剤の含有量は0.08質量部以下であることが好ましく、0.07質量部以下であることがより好ましく、0.05質量部以下であることがさらに好ましく、0.03質量部以下であることが特に好ましい。」 「【0065】 本発明の樹脂組成物には、上述したポリオレフィン系樹脂および核剤に加えて、さらにフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、脂肪酸金属塩、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン化合物、難燃剤、難燃助剤、滑剤、充填剤、ハイドロサルタイト類、帯電防止剤、蛍光増白剤、顔料および染料等の添加剤が含まれていてもよい。これらの添加剤は1種が単独で含まれていても、2種以上が組み合わされて含まれていてもよい。」 「【実施例】 【0093】 以下、本発明について実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。 【0094】 (実験例1~6および参照例1) <核剤をポリオレフィン系樹脂100質量部に対して0.2質量部添加した場合の結晶化温度の確認> 下記の核剤1~6をポリオレフィン系樹脂100質量部に対して0.2質量部添加した場合における、ポリオレフィン系樹脂の結晶化温度を確認した。下記のポリオレフィン系樹脂、核剤、酸化防止剤および脂肪酸金属塩を表1に示す割合で配合し、ヘンシェルミキサーを用いて混合した後、二軸押出機(日本製鋼所製 TEX-28V)を用いて230℃の押出温度で溶融混練し、造粒することにより、実験例1~6および参照例1の樹脂組成物ペレットを得た。表1において各成分の配合量の単位は質量部である。得られた樹脂組成物ペレットにつき、下記の手順で、結晶化温度を測定した。 【0095】 ポリオレフィン系樹脂:シリンダー温度230℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート7.7g/10minのホモポリプロピレン、融点160℃ 核剤1:化合物No.59のトリアジン化合物、融点202.7℃ 核剤2:化合物No.58のトリアジン化合物、融点189.3℃ 核剤3:化合物No.50のトリアジン化合物、融点217.7℃ 核剤4:化合物No.60のアセタール化合物、融点274.8℃ 核剤5:化合物No.61のアセタール化合物、融点244.7℃ 核剤6:リチウム2、2’-メチレンビス(4,6-ジ第三ブチルフェニル)ホスフェート、融点400℃以上(吸熱ピーク観測されず) 酸化防止剤1:テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ第三ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン 酸化防止剤2:トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト 脂肪酸金属塩:ステアリン酸カルシウム なお、核剤の「融点」は、示差走査熱量測定装置(パーキンエルマー社製ダイアモンド)にて窒素雰囲気下、核剤を50℃から400℃まで、10℃/分で昇温した際に観測される吸熱ピークの温度(℃)である。 【0096】 <結晶化温度> 得られた樹脂組成物ペレットを細かく破断して、その5mgをアルミパンに充填し、示差走査熱量測定装置(パーキンエルマー社製ダイアモンド)により結晶化温度を測定した。結晶化温度は、50℃から10℃/minの速度で230℃まで昇温し、5分間保持後、10℃/minで50℃まで冷却した際、冷却過程において観測された発熱ピークの温度(℃)として求めた。結果を表1に示す。 【0097】 【表1】 [図:0001403608000021.jpg] 【0098】 表1に示す結果より、実験例1~6の樹脂組成物の結晶化温度は、参照例1の樹脂組成物の結晶化温度よりも7℃以上高かった。したがって、核剤1~6は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対し0.2質量部添加した場合にポリオレフィン系樹脂の結晶化温度を7℃以上向上させる核剤であった。 【0099】 (実施例1~4、参考例1~6、比較例1~7) <樹脂組成物の調製および特性評価> ポリオレフィン系樹脂、核剤、酸化防止剤および脂肪酸金属塩を表2~4に示す割合で配合し、ヘンシェルミキサーを用いて混合した後、二軸押出機(日本製鋼所製 TEX-28V)を用いて230℃の押出温度で溶融混練し、造粒することにより、実施例1~4、参考例1~6、比較例1~7の樹脂組成物ペレットを得た。表2~4において各成分の配合量の単位は質量部である。また、得られた樹脂組成物ペレットについて、実験例1と同様の手順で結晶化温度を測定した。結果を表2~4に示す。 ・・・ 【0101】 【表3】 [図:0001403608000022.jpg] 【0102】 【表4】 [図:0001403608000023.jpg] 【0103】 (実施例5、6、比較例8) ポリオレフィン系樹脂、核剤、酸化防止剤および脂肪酸金属塩を表5に示す割合で配合し、ヘンシェルミキサーを用いて混合した後、二軸押出機(東洋精機製作所製 ラボプラストミルマイクロ)を用いて230℃の押出温度で溶融混練し、造粒することにより、実施例5、6、比較例8の樹脂組成物ペレットを得た。表5において各成分の配合量の単位は質量部である。得られた樹脂組成物ペレットを50tプレス機を用いて230℃、10MPa、5minの条件で溶融圧縮し、一辺の長さ10cm、厚み1.0mmの正方形シートを得た。得られたシートから直径25mmの円盤状の試験片を切り出し、この試片について、流動場結晶化温度を以下の手順で測定した。 【0104】 先ず、直径25mmのパラレルプレートを備えた回転式レオメーター(TAインスツルメント社製 DHR2)に上記の試験片を設置し、窒素雰囲気下、200℃で3分間加熱した後、ギャップを0.9mmに設定し、余剰の樹脂を除去した。続いて、装置をひずみ量1%、角速度1rad/s、開始温度200℃、冷却温度5℃/minの条件に設定して動的粘弾性測定を行った。そして、測定により得られた複素粘度の値η*(Pa・s)を測定温度(℃)に対してプロットした。実施例6の樹脂組成物について、η*(Pa・s)を測定温度(℃)に対してプロットしたグラフを図1に示す。ここで、図1において縦軸は常用対数目盛である。図1に示すように、グラフの接線の傾きは、樹脂成分が結晶化する温度の前後で大きく変化する。接線の傾きが大きく変化する直前の点および直後の点において接線を引き、これら2本の接線の交点に対応する温度を流動場結晶化温度TC(℃)として、流動場における樹脂成分の結晶性の指標とした。実施例5および比較例8の樹脂組成物についても同様のグラフを作成し、流動場結晶化温度TCを決定した。結果を表5に示す。 【0105】 【表5】 [図:0001403608000024.jpg] 【0106】 表2~4に示す結果より、実施例1~4、参考例1~6の樹脂組成物は、比較例7の樹脂組成物と比べて結晶化温度が低く、樹脂成分の結晶性が抑制されたものであった。一方、比較例1~6の樹脂組成物は、比較例7の樹脂組成物と比べて結晶化温度が高く、樹脂成分の結晶性が抑制されたものとはいえなかった。また、表5に示す結果より、実施例5、6の樹脂組成物は、比較例8の樹脂組成物と比べて流動場結晶化温度TCが低く、樹脂成分の結晶性が抑制されたものであった。 【0107】 以上より、本発明の樹脂組成物は、樹脂成分の結晶性が抑制されたものとなることが確認された。」 (4)本件発明が解決しようとする課題 本件明細書等の段落【0006】等の記載によれば、本件発明が解決しようとする課題(以下、「本件発明の課題」という。)は、樹脂成分の結晶性を抑制することができるポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤を提供することである。 (5)甲第3号証について 甲3には、以下の事項が記載されている。 甲3の日本語訳は、申立書の証拠方法として提出された抄訳を当審訳として援用した。 甲3は、「アイソタクチックポリプロピレンのための第3世代のソルビトール系核剤の核形成活性の比較研究」と題する論文であって、要約には、「1,2,3,4-ビス(3,4-ジメチルベンジリデンソルビトール)及びメチルジベンジリデンソルビトールの核形成活性が、アイソタクチックポリプロピレンの単斜晶系の結晶相のための従来の核剤であるタルクの核形成活性と比較される。その動的結晶化プロセスと関連付けられる熱パラメータは、示差走査熱量計測定により冷却速度の関数として研究され、核形成効率は、自己核形成と比較することにより評価される。最も高い値は、全濃度範囲に渡って、1,2,3,4-ビス(3,4-ジメチルベンジリデンソルビトール)において観測される。」(第2440頁アブストラクト第1~8行)と記載されている。 また、第2441頁左欄下段の「実験」の項目において、「材料及びサンプル調製 粘度平均分子量、Mvが164,700の商用グレードのポリプロピレンは REPSOL-YPF(Madrid,Spain)から供給され、先の研究21で説明されている。用いた核剤は、メチルジベンジリデンソルビトール、GENISET MDGOOl(日本、大阪、NJC-RIKAより)、1,2,3,4-ビス(3,4-ジメチルベンジリデンソルビトール)、MILLAD 3988(ベルギー、ヘント、ミリケンケミカルより)、及びタルク、STEAMIC OOS(フランス、トゥールーズ、Luzenacより)である。 iPP中の核剤が0.025重量%から1.5重量%の一連の組成物は、以前に記載した条件21を用いて、実験室用二軸スクリュ押出機内で溶融混練することにより調製した。」(第2441頁左欄下から4行~右欄第8行)と記載されている。 さらに、第2442頁左欄下段には、「結果と考察」が記載され、同頁右欄には、「結晶化の挙動」が記載され、同頁右欄下から2行には、「図1は、MILLAD 3988の組成物で有核化されたアイソタクチックポリプロピレンのための結晶化温度の変化を示す。ここで、採用したすべての冷却速度において、約0.3%のMILLAD 3988の値までの主に低濃度領域において、核剤含有量が増加するにつれて結晶化の重要な増加が確認できる。そして、結晶化温度は、より高濃度の核剤で水平になり、10℃min-1の冷却速度で、0.5%の組成物おいて約20℃の増加に達する傾向がある。(第2442頁右欄下から2行~第2443頁左欄第10行)と記載され、図1が以下のとおり示されている。 「 [図:0001403608000025.jpg] 図1.下記の冷却速度での、MILLAD 3988の濃度と結晶化温度の変化:20℃min-1(+);10℃min-1(○);5℃min-1(□);2℃min-1(△);及び1℃min-1(◇)。」 そして、第2447頁左欄中段には、「iPPの動的結晶化挙動についてα-改質の2つの核剤の存在の影響を分析するために、1.5%STEAMIC 00S及び0.5%MILLAD 3988を用いてサンプルを調製した。表IIでは、二つの核剤化合物に対応する結晶化の温度及びエンタルピーを、同様の濃度における両試薬の単独核形成の作用と比較する。」(第2447頁左欄第26行~右欄第4行)と記載され、表IIが以下のように記載され、 「表II STEAMIC OOS/MILLAD 3988系のための動的結晶化サイクル、結晶化の温度及びエンタルピー [図:0001403608000026.jpg] 」 また、第2448頁右欄下段には、「表IIIには、ソルビトール誘導体で有核化されたiPPの結晶化温度のいくつかの値が、結晶化条件と共に比較されている。」(第2448頁右欄下から2行~第2449頁左欄第2行)と記載され、表IIIが以下のように記載されている。 「表III iPP/ ソルビトール誘導体の核形成効率の比較 [図:0001403608000027.jpg] 」 (5)判断 ア 本件発明1において、ポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤の配合割合が特定されていることについて 本件発明1は、「ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、フェノール系酸化防止剤0.001~5質量部と、リン系酸化防止剤0.001~10質量部と、脂肪酸金属塩0.001~10質量部と、を含むポリオレフィン系樹脂組成物」において、「ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、前記化合物No.60および前記化合物No.61からなる群より選ばれる少なくとも一種のアセタール化合物が0.005質量部以上0.08質量部以下の範囲となる」ように使用することを特定したものである。 そこで、上記特定を有することにより、本件発明の課題を解決するものであるか否か検討する。 本件明細書等の段落【0020】には、本発明の樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂と核剤とを含み、核剤が、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して0.2質量部添加した場合、ポリオレフィン系樹脂の結晶化温度を7℃以上向上させるものであるところ、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対する核剤の含有量が、0.005質量部以上0.1質量部未満であるときには、本発明の樹脂組成物は、樹脂成分の結晶性が抑制されたものになること、同【0064】には、本発明の樹脂組成物に置いて、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対する核剤の含有量が0.005質量部以上0.1質量部未満であること、核剤の含有量が0.08質量部以下であることが好ましいこと、同【0065】には、本発明の樹脂組成物には、上述したポリオレフィン系樹脂および核剤に加えて、さらにフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、脂肪族金属塩等の添加剤が含まれていてもよいこと、同【0066】には、フェノール系酸化防止剤の含有量が、例えばポリオレフィン系樹脂100質量部に対して0.001~5質量部であればよいこと、同【0067】には、リン系酸化防止剤の含有量が、例えばポリプロピレン系樹脂100質量部に対して0.001~10質量部であればよいこと、同【0071】には、脂肪族金属塩の含有用が、例えばポリプロピレン系樹脂100質量部に対して0.001~10質量部であればよいことが記載され、同【0093】以降に記載の実施例では、「核剤4」及び「核剤5」が本件発明1の化合物No.60及び化合物No.61で表されるアセタール化合物であり、同【0097】の表1をみると、実験例4及び5では、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、酸化防止剤1(フェノール系酸化防止剤)0.05質量部、酸化防止剤2(リン系酸化防止剤)0.1質量部、脂肪族金属塩0.05質量部を含む組成物に、核剤4及び核剤5を0.2質量部含むときには、核剤を配合していない参照例1の同様の組成物と比較して、結晶化温度が7℃以上高いことが具体的なデータと共に記載されており、また、同【0101】及び【0102】の表3及び表4をみると、実施例1~4では、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、酸化防止剤1(フェノール系酸化防止剤)0.05質量部、酸化防止剤2(リン系酸化防止剤)0.1質量部、脂肪族金属塩0.05質量部を含む組成物に、核剤4及び核剤5を0.02質量部又は0.05質量部含む組成物は、核剤を配合していない比較例7の同様の組成物と比較して、結晶化温度が上昇していないことが具体的なデータと共に記載されている。 そうすると、本件明細書等から、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、フェノール系酸化防止剤0.001~5質量部、リン系酸化防止剤0.001~10質量部、脂肪族金属塩0.001~10質量部を含むポリオレフィン系樹脂組成物に、核剤を0.005質量部以上0.1質量部未満で使用することで、核剤がポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤として機能して、本件発明の課題を解決することが理解できるところ、本件発明1における特定は、核剤をアセタール化合物No.60及び同No.61からなる群より選ばれる少なくとも一種のアセタール化合物であるとし、該核剤の使用量を0.005質量部以上0.08質量部以下であるとして、さらに限定したものであるから、本件発明の課題を解決できることが示されているといえる。 また、本件発明1を引用する本件発明4、5も、上記と同様の理由により、発明の詳細な説明に記載された発明である。 イ 甲2~甲4の記載からの検討 本件発明1は、「ポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤」という発明であって、これは、ポリオレフィン樹脂に配合した際に、配合していないポリオレフィン系樹脂と比較して、結晶化温度を上昇させない添加剤であると一応解釈することができる。 そして、本件明細書等の実施例では、核剤4(化合物No.60)又は核剤5(化合物No.61)を配合した、酸化防止剤1、酸化防止剤2、脂肪族金属塩を特定量含有するポリオレフィン系樹脂組成物である実施例1~4の方が、上記核剤を配合していない同様のポリオレフィン系樹脂組成物である比較例7よりも、結晶化温度が低下しており、ポリオレフィン系樹脂の結晶性が抑制されたことを示している。 より詳細に実施例1~4及び比較例7を見ると、いずれもポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、核剤4(化合物No.60)又は核剤5(化合物No.61)を0.02質量部又は0.05質量部或いは上記核剤を含有せず、さらに酸化防止剤1(フェノール系酸化防止剤)0.05質量部、酸化防止剤2(リン系酸化防止剤)0.1質量部、脂肪酸金属塩0.05質量部を配合したポリオレフィン系樹脂組成物において、結晶化温度が測定されたものである。 すなわち、本件明細書等の実施例1~4では、「ポリオレフィン系樹脂結晶性抑制剤」を特定量使用することにより、「本件の添加剤」を特定量配合された「ポリオレフィン系樹脂組成物」中の「ポリオレフィン系樹脂」の結晶性を抑制していると解される。 他方、上記甲2及び甲3の記載にあるように、本件発明1の「化合物No.60および化合物No.61からなる群より選ばれる少なくとも一種のアセタール化合物」を、上記実施例1~4と同程度の少量含む場合でも、結晶化温度がおおよそ同じ値となりうること、及び上記甲4の記載にあるように、アイソタクチックポリプロピレンの結晶化が酸化防止剤などの添加剤により影響を受けやすいことを踏まえると、該アセタール化合物によってポリオレフィン系樹脂の結晶性を抑制する作用は、樹脂組成物中の上記アセタール化合物の配合量やその存在する環境によって影響を受けやすいことが窺える。 この点について、本件発明1の発明特定事項を確認すると、「本件の添加剤」を特定量含有する「ポリオレフィン系樹脂組成物」に、「ポリオレフィン系樹脂結晶性抑制剤」である「アセタール化合物」を特定量使用すると、上記アで示したように、本件明細書等の実施例1~4では、本願発明1が、本件発明の課題を解決することが開示されている。 そうすると、甲2~甲4に記載されたポリオレフィン系樹脂組成物は、本件発明1の「ポリオレフィン系樹脂組成物」とは「本件の添加剤」を含まない点で基本的に異なるものであることに加えて、本件発明1の「ポリオレフィン系樹脂組成物」は「本件の添加剤」の組成を含めて確定しているものであるから、甲4に示されたような、特定の添加剤による影響は織り込み済みであるといえる。 よって、本件発明1は、本件発明の課題を解決できるものと認識できる。 また、本件発明1を引用する本件発明4、5も、上記と同様の理由により、発明の詳細な説明に記載された発明である。 (6)取消理由7及び申立理由4ア、イのまとめ 以上から、本件発明1、4、5は、本件明細書等に記載された発明である。 よって、本件特許の請求項1、4、5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものではない。 3 取消理由通知に採用しなかった申立理由について (1)申立理由3(実施可能要件)について 申立理由3として、以下の2点により、サポート要件と同様の具体的理由により、実施可能要件に違反すると主張している。 ア 一般式(2’)で表されるアセタール化合物を含めばポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤たりうるとしているが、本件明細書等の段落【0064】には、樹脂成分の結晶性を抑制するには、該アセタール化合物の使用量に特徴があること。 イ 一般式(2’)で表されるアセタール化合物であっても、甲2、甲3に見られるように、結晶性を抑制しない場合もあること。 (2)判断基準 特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明には、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果を記載しなければならない旨規定するところ、発明の詳細な説明の記載が、実施可能要件に適合するか否かは、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があるか否かという観点から判断されるべきであると解される。 (3)検討 本件発明1は、「ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、フェノール系酸化防止剤0.001~5質量部と、リン系酸化防止剤0.001~10質量部と、脂肪酸金属塩0.001~10質量部と、を含むポリオレフィン系樹脂組成物」において、「ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、前記化合物No.60および前記化合物No.61からなる群より選ばれる少なくとも一種のアセタール化合物が0.005質量部以上0.08質量部以下の範囲となる」ように使用することで、本件明細書等の実施例1~4に見られるように、ポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤としての作用効果を奏するものである。 この点を踏まえて、上記ア、イを併せて検討すると、本件発明1では、アセタール化合物が「化合物No.60」、「化合物No.61」であって、かつその使用量も特定されており、そうすることにより、ポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤としての作用効果を奏することが実施例において示されている。 してみると、本件特許の発明の詳細な説明は、過度な試行錯誤をすることなく、本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえる。 また、本件発明1を引用する本件発明4、5も、上記と同様の理由により、発明の詳細な説明に記載された発明である。 よって、本件特許の請求項1、4、5に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものではない。 (2)申立理由4(サポート要件)ウについて 申立理由4として、ウ、つまり本件訂正前の請求項1、4、5に係る発明まで発明の詳細な説明に開示した内容を拡張ないし一般化できないことにより、サポート要件に違反すると主張している。 まず、サポート要件の判断基準は、上記2(2)に示したとおりである。 ここで、本件発明1の解決しようとする課題は、再掲すると、樹脂成分の結晶性を抑制することができるポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤、ポリオレフィン系樹脂の結晶性抑制方法および樹脂成分の結晶性が抑制されたポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法を提供することである(【0006】)。 そして、本件発明1は、「ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、フェノール系酸化防止剤0.001~5質量部と、リン系酸化防止剤0.001~10質量部と、脂肪酸金属塩0.001~10質量部と、を含むポリオレフィン系樹脂組成物」において、「ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、前記化合物No.60および前記化合物No.61からなる群より選ばれる少なくとも一種のアセタール化合物が0.005質量部以上0.08質量部以下の範囲となる」ように使用することで、本件明細書等の実施例1~4に見られるように、ポリオレフィン系樹脂用結晶性抑制剤としての作用効果を奏するものである。 ここで、上記ポリオレフィン系樹脂として、実施例では、「ポリオレフィン系樹脂:シリンダー温度230℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート7.7g/10minのホモポリプロピレン、融点160℃」(【0095】)を用いているところ、申立人は、上記「ポリプロピレン」以外である場合には、課題を解決し得ないポリオレフィン系樹脂を含むものであるとも主張する。 しかしながら、申立人は、実施例で用いた特定のポリオレフィンでないと課題を解決しえないことを主張するだけであり、それ以外のポリオレフィンを用いた場合に、本件発明の課題を解決しないという具体的な技術的証拠を何ら示していないことから、先に判断したサポート要件の判断には影響しない。 よって、本件発明1における特許請求の範囲の記載は、本件特許の発明の詳細な説明に記載された発明であり、本件特許の発明の詳細な説明により当業者が発明の課題を解決できると認識できるものである。 また、本件発明1を引用する本件発明4、5も、上記と同様の理由により、サポート要件に適合する発明の詳細な説明に記載された発明である。 第7 むすび 以上のとおり、本件特許に対する訂正は適法であるから、これを認める。 そして、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、4、5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1、4、5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 さらに、本件特許の請求項2、3は、本件訂正により削除され、請求項2、3に係る特許についての申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2021-700623

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