特許異議申立
2025-700329
熱伝導性樹脂組成物、放熱構造体及び熱伝導性樹脂組成物の製造方法
- 審判番号
- 2025-700329
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-199622
- 登録番号
- 7594419
- 請求日
- 2025年03月21日
- 審決日
- 2025年11月21日
- 公報発行日
- 2025年12月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】イビデン株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人WisePlus
- 【異議申立人】柏木 里実
- 審判長/審判官
- 審判長 細井 龍史
- 審判官 辰己 雅夫
- 審判官 加藤 幹
- 分類
- P1651.113-Y (C08L) / P1651.121-Y (C08L) / P1651.536-Y (C08L) / P1651.537-Y (C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7594419号発明「熱伝導性樹脂組成物、放熱構造体及び熱伝導性樹脂組成物の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7594419号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7594419号(以下「本件特許」という。)の請求項1~10に係る特許は、令和2年12月1日を出願日とする特願2020-199622号に係る特許であって、令和6年11月26日に特許権の設定登録(請求項の数10)がされ、同年12月4日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対し、令和7年3月21日に特許異議申立人 柏木 里実(以下「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1~10)がされ、当審において、同年8月22日付けで取消理由を通知し、特許権者から同年10月9日に意見書が提出された。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~10に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明10」といい、これらを総称して「本件発明」ともいう。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
樹脂と、前記樹脂中に含まれるアルミナ粒子と、からなる熱伝導性樹脂組成物であって、
平均粒子径が互いに異なる少なくとも3種類のアルミナ粒子を含み、かつ、いずれの種類のアルミナ粒子の平均粒子径も30μm以下であり、
前記少なくとも3種類のアルミナ粒子は、第1のアルミナ粒子と、前記第1のアルミナ粒子よりも平均粒子径が小さい第2のアルミナ粒子と、前記第2のアルミナ粒子よりも平均粒子径が小さい第3のアルミナ粒子と、を含み、
前記第1のアルミナ粒子の平均粒子径が10~30μmであり、
前記第2のアルミナ粒子の平均粒子径が1.5~5μmであり、
前記第3のアルミナ粒子の平均粒子径が0.1~1μmであり、
前記第1のアルミナ粒子の形状が、球状又は丸み状であり、
前記第2のアルミナ粒子の形状が、不定形であり、
前記第3のアルミナ粒子の形状が、不定形であり、
前記第1のアルミナ粒子、前記第2のアルミナ粒子及び前記第3のアルミナ粒子の含有割合を体積比でそれぞれR1、R2及びR3とすると、R1≧(R2+R3)、R1>R2>R3、及び、R1≧2×R3の関係をすべて満たし、
R1が50~65体積%であり、R2が26~30体積%であり、R3が5~24体積%であることを特徴とする熱伝導性樹脂組成物。
【請求項2】
前記少なくとも3種類のアルミナ粒子の充填率が80体積%以上、95体積%以下である請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項3】
熱伝導率が3.5W/m・K以上である請求項1又は2に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項4】
前記少なくとも3種類のアルミナ粒子が分散剤で表面処理されたものである請求項1~3のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項5】
更に、アルミナ繊維を含む請求項1~4のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項6】
熱源と、放熱部材と、前記熱源と前記放熱部材との間に配置された請求項1~5のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物と、からなることを特徴とする放熱構造体。
【請求項7】
樹脂と、前記樹脂中に含まれるアルミナ粒子と、からなる熱伝導性樹脂組成物の製造方法であって、
平均粒子径が互いに異なり、かつ、いずれの種類のアルミナ粒子の平均粒子径も30μm以下である少なくとも3種類のアルミナ粒子と、樹脂材料とを混合する混合工程を含み、
前記少なくとも3種類のアルミナ粒子は、第1のアルミナ粒子と、前記第1のアルミナ粒子よりも平均粒子径が小さい第2のアルミナ粒子と、前記第2のアルミナ粒子よりも平均粒子径が小さい第3のアルミナ粒子と、を含み、
前記第1のアルミナ粒子の平均粒子径が10~30μmであり、
前記第2のアルミナ粒子の平均粒子径が1.5~5μmであり、
前記第3のアルミナ粒子の平均粒子径が0.1~1μmであり、
前記第1のアルミナ粒子の形状が、球状又は丸み状であり、
前記第2のアルミナ粒子の形状が、不定形であり、
前記第3のアルミナ粒子の形状が、不定形であり、
前記第1のアルミナ粒子、前記第2のアルミナ粒子及び前記第3のアルミナ粒子の配合割合を体積比でそれぞれR1、R2及びR3とすると、R1≧(R2+R3)、R1>R2>R3、及び、R1≧2×R3の関係をすべて満たし、
R1が50~65体積%であり、R2が26~30体積%であり、R3が5~24体積%であることを特徴とする熱伝導性樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
前記少なくとも3種類のアルミナ粒子と前記樹脂とを含む熱伝導性樹脂組成物中における前記少なくとも3種類のアルミナ粒子の充填率が80体積%以上、95体積%以下である請求項7に記載の熱伝導性樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
前記少なくとも3種類のアルミナ粒子が分散剤で表面処理されたものである請求項7又は8に記載の熱伝導性樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
前記混合工程において、前記少なくとも3種類のアルミナ粒子及び前記樹脂に加えて、更に、アルミナ繊維を混合する請求項7~9のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物の製造方法。」
第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要、取消理由の概要、証拠方法
1 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
申立人が提出した特許異議申立書(以下「申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由1(甲第1号証を主引例とする新規性)
本件特許の請求項1~4、6~9に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~10に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由2(甲第1号証を主引例とする進歩性)
本件特許の請求項1~10に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~10に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(3)申立理由3(実施可能要件)
本件特許の請求項1~10に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件特許の願書に添付された明細書(以下「本件明細書」という。)の段落[0061]に記載の「分散剤:シラン系エトキシ型分散剤」とはいかなるものか当業者には容易に理解できず、実施可能要件を満たさない。
(4)申立理由4(明確性)
本件特許の請求項1~10に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件明細書の表2の実施例1及び実施例6の「第2のアルミナ粒子」の欄には「球状」と記載されているが、本件発明1では「不定形」と限定されており、明確でない。
2 取消理由通知に示した取消理由の概要
当審において通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
(1)取消理由1(甲第1号証を主引例とする進歩性)
本件特許の請求項1~10に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~10に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)取消理由2(実施可能要件)
本件特許の請求項1~10に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件明細書の段落【0061】に記載の「分散剤:シラン系エトキシ型分散剤」について、具体的にいかなるものか当業者には理解できず、本件発明1~6を生産することができず、本件発明7~10の製造方法を実施できない。
3 証拠方法
(1)申立人が特許異議申立書に添付して提出した証拠方法
申立人が、特許異議申立書に添付して提出した証拠方法は、以下のとおりである。
・甲第1号証:特開2010-6923号公報
・甲第2号証:特開2008-13759号公報
・項第3号証:特開2012-31401号公報
以下「甲第1号証」~「甲第3号証」を、それぞれ、「甲1」~「甲3」という。
(2)特許権者が令和7年10月9日付け意見書に添付して提出した証拠方法
特許権者が令和7年10月9日付け意見書に添付して提出した証拠方法は、以下のとおりである。
・乙第1号証:平成28年(行ケ)第10001号、第10018号、第10082号、葉酸代謝拮抗薬組合せ療法事件_判決文の抜粋
・乙第2号証:信越化学工業株式会社のシランカップリング剤カタログ(2017年12月時点)の抜粋
・乙第3号証:特許第3290127号公報
以下「乙第1号証」~「乙第3号証」を、それぞれ、「乙1」~「乙3」という。
第4 当審の判断
1 申立理由1、申立理由2、取消理由1(甲1を主引例とする新規性、進歩性)について
申立理由1、申立理由2、取消理由1は、いずれも甲1を主引例とするものであるので、これらについてまとめて判断する。
(1)甲1に記載された事項
甲1には、以下のとおり記載されている。
「【請求項1】
(A)23℃における粘度が10~100mPa・sであり、下記一般式で表されるアルケニル基含有シロキサンオリゴマー100重量部と、
【化1】
[図:0001430019000001.jpg]
(式中、Zはアルケニル基、mは0~20の整数、nは10~40の整数であり、m+nは10~40である。)
(B)(B1)平均粒径が10μm以上、50μm未満のアルミニウム粉末または酸化アルミニウム、(B2)平均粒径が1μm以上、10μm未満のアルミニウム粉末または酸化アルミニウムおよび(B3)平均粒径が0.1μm以上、1μm未満の酸化アルミニウムをそれぞれ含む熱伝導性充填剤1000~3000重量部(但し、(B1)は(B)成分全体の50~70容量%(vol%)となる量、(B2)は(B)成分全体の10~30vol%となる量、(B3)は(B)成分全体の10~30vol%となる量である。)と、
(C)白金系触媒の触媒量と、
(D)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を3個以上有するポリオルガノハイドロジェンシロキサンを、(A)成分のアルケニル基1個に対してケイ素原子に結合した水素原子が0.5~2.0個となる量、および
(E)接着性付与剤1.0~10重量部
を含有することを特徴とする熱伝導性シリコーン組成物。」
「【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、(A)トリメトキシシリル基とアルケニル基を有する低粘度のシロキサンオリゴマーと、(B)異なる平均粒径を有する充填剤の3種をそれぞれの配合比を規定して併用した熱伝導性充填剤と、(E)接着性付与剤とを配合し、(D)架橋剤を特定量配合することによって、(B)熱伝導性充填剤を高充填しても低粘度で作業性に優れ、さらに接着性に優れた硬化物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。」
「【0017】
(B1)成分の平均粒径は10μm以上、50μm未満であり、好ましくは10~30μmである。平均粒径が50μmを超えると、組成物の安定性が悪化し、オイル分離が起こりやすい。(B1)の最大粒径は60μm以下であって、粒径10~30μmの粒子を(B1)成分全体の90重量%以上含むことが好ましい。平均粒径が上記範囲であれば、粒径もしくは粒度分布の異なるものを混合して用いてもよい。平均粒径および最大粒径は、レーザ回折法により測定した値である。(B1)の形状は限定されず、例えば球状、不定形状のいずれでもよい。
【0018】
(B2)成分の平均粒径は1μm以上、10μm未満であり、好ましくは2~7μmである。(B2)の最大粒径は10μm以下であって、粒径2~7μmの粒子を(B2)成分全体の90重量%以上含むことが好ましい。平均粒径が上記範囲であれば、粒径もしくは粒度分布の異なるものを混合して用いてもよい。(B2)の形状は限定されず、例えば球状、不定形状のいずれでもよい。
【0019】
(B3)成分の平均粒径は0.1μm以上、1μm未満であり、好ましくは0.2~0.8μmである。平均粒径が0.1μm未満であると、所望の低粘度の組成物を得ることが難しい。(B3)の最大粒径は3μm以下であって、粒径0.2~0.8μmの粒子を(B3)成分全体の60重量%以上含むことが好ましい。平均粒径が上記範囲であれば、粒径もしくは粒度分布の異なるものを混合して用いてもよい。(B3)の形状は限定されず、例えば球状、不定形状のいずれでもよい。」
「【0021】
(B)成分を構成する(B1)~(B3)の各成分の配合割合は、(B1)成分が(B)成分全体に対して50~70vol%(容量%)となる量、好ましくは55~65vol%となる量である。なお、アルミニウムの比重は2.70であり、酸化アルミニウム(アルミナ)の比重は3.97である。(B1)成分の配合割合が前記範囲を外れた場合には、(B)成分と(A)成分を混練した際に(B)成分が分散せずに粉状になりやすく、他成分の配合が不可能になる。
【0022】
また、(B2)成分の配合割合は、(B)成分全体に対して10~30vol%となる量、好ましくは15~25vol%となる量である。(B2)成分の配合割合が前記範囲を外れた場合には、組成物の粘度が上昇し、良好な作業性が得られない。
【0023】
(B3)成分の配合割合は、(B)成分全体に対して10~30vol%となる量、好ましくは15~25vol%となる量である。(B3)成分の配合割合が(B)成分全体の30vol%を超えると、(B)成分と(A)成分を混練した際に(B)成分が分散せずに粉状になりやすく、他成分の配合が不可能になる。一方、(B)成分全体の10vol%未満であると、組成物の粘度が上昇し、良好な作業性が得られない。」
「【0039】
[熱伝導性シリコーン組成物の製造方法]
本発明の熱伝導性シリコーン組成物を製造する場合において、各成分の添加順序は特に限定されるものではないが、例えば(A)成分であるアルケニル基含有シロキサンオリゴマーと(B)成分である熱伝導性充填剤を後述する混練機で混練した後、(C)白金系触媒と架橋剤である(D)ポリオルガノハイドロジェンシロキサン、および必要に応じてその他の任意成分を添加して混練することが好ましい。混練機としては、加熱手段および冷却手段を備えたプラネタリーミキサー、3本ロール、ニーダー、品川ミキサー等が挙げられる。これらを単独でまたは組み合わせて使用することができる。」
「【0042】
硬化物の23℃における熱伝導率(熱線法で測定)は、3.0W/(m・K)以上であり、さらに4.5W/(m・K)まで熱伝導率を高めることも可能である。熱伝導率が3.0W/(m・K)未満であると、用途によっては熱伝導性能が不十分になる場合があり、用途が限定されるため好ましくない。
【0043】
このように本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、低粘度で塗布作業性に優れ、接着性に優れ熱伝導性が良好な硬化物を形成する。したがって、発熱性電子部品と放熱部材との間に介在される熱伝導性材料として好適している。」
「【0052】
実施例1
まず、(A-1)23℃における粘度が0.050Pa・sであり、下記式:
【化8】
[図:0001430019000002.jpg]
で表されるビニル基含有シロキサンオリゴマー(式中、Viはビニル基を意味する。ビニル基量0.68mmol/g)100重量部と、(B1-1)平均粒径18μmの丸み状の酸化アルミニウム1140重量部と、(B2)平均粒径3μmの丸み状の酸化アルミニウム380重量部、および(B3)平均粒径0.4μmの丸み状の酸化アルミニウム380重量部を、プラネタリーミキサーで150℃に加熱して120分間混練した後、30℃まで冷却した。次いで、(C)塩化白金酸のビニルシロキサン錯体化合物(白金量2.0重量%)0.2重量部(白金元素量として0.5ppm)と、(D)23℃における粘度が0.1Pa・sであり、
式:(CH3)3SiO[SiH(CH3)O]23[Si(CH3)2O]16Si(CH3)3
で表されるポリオルガノハイドロジェンシロキサン(Si-H基の含有量8.4mmol/g)8.1重量部と、(E-1)γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン2重量部と、(E-2)γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン2重量部、および反応調節剤としてトリアリルイソシアヌレート0.5重量をそれぞれプラネタリーミキサーに添加し、常温(23℃)で30分間均一に混練して、熱伝導性シリコーン組成物を得た。この組成物の特性を測定し、結果を表1に示した。」
「【表1】
[図:0001430019000003.jpg]
」
(2)甲1に記載された発明
ア 上記(1)のうち、特に実施例1に着目すると、甲1には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「(A-1)23℃における粘度が0.050Pa・sであり、下記式:
【化8】
[図:0001430019000004.jpg]
で表されるビニル基含有シロキサンオリゴマー(式中、Viはビニル基を意味する。ビニル基量0.68mmol/g)100重量部と、(B1-1)平均粒径18μmの丸み状の酸化アルミニウム1140重量部と、(B2)平均粒径3μmの丸み状の酸化アルミニウム380重量部、および(B3)平均粒径0.4μmの丸み状の酸化アルミニウム380重量部を、プラネタリーミキサーで150℃に加熱して120分間混練した後、30℃まで冷却し、次いで、(C)塩化白金酸のビニルシロキサン錯体化合物(白金量2.0重量%)0.2重量部(白金元素量として0.5ppm)と、(D)23℃における粘度が0.1Pa・sであり、
式:(CH3)3SiO[SiH(CH3)O]23[Si(CH3)2O]16Si(CH3)3
で表されるポリオルガノハイドロジェンシロキサン(Si-H基の含有量8.4mmol/g)8.1重量部と、(E-1)γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン2重量部と、(E-2)γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン2重量部、および反応調節剤としてトリアリルイソシアヌレート0.5重量部をそれぞれプラネタリーミキサーに添加し、常温(23℃)で30分間均一に混練して得られた熱伝導性シリコーン組成物」
イ また、同様に実施例1の製造方法に着目すると、甲1には以下の発明(以下「甲1製造発明」という。)が記載されている。
「(A-1)23℃における粘度が0.050Pa・sであり、下記式:
【化8】
[図:0001430019000005.jpg]
で表されるビニル基含有シロキサンオリゴマー(式中、Viはビニル基を意味する。ビニル基量0.68mmol/g)100重量部と、(B1-1)平均粒径18μmの丸み状の酸化アルミニウム1140重量部と、(B2)平均粒径3μmの丸み状の酸化アルミニウム380重量部、および(B3)平均粒径0.4μmの丸み状の酸化アルミニウム380重量部を、プラネタリーミキサーで150℃に加熱して120分間混練した後、30℃まで冷却し、次いで、(C)塩化白金酸のビニルシロキサン錯体化合物(白金量2.0重量%)0.2重量部(白金元素量として0.5ppm)と、(D)23℃における粘度が0.1Pa・sであり、
式:(CH3)3SiO[SiH(CH3)O]23[Si(CH3)2O]16Si(CH3)3
で表されるポリオルガノハイドロジェンシロキサン(Si-H基の含有量8.4mmol/g)8.1重量部と、(E-1)γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン2重量部と、(E-2)γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン2重量部、および反応調節剤としてトリアリルイソシアヌレート0.5重量部をそれぞれプラネタリーミキサーに添加し、常温(23℃)で30分間均一に混練する熱伝導性シリコーン組成物の製造方法」
(3)本件発明1について
ア 対比
甲1発明における「(A-1)23℃における粘度が0.050Pa・sであり、下記式:(化学式略)で表されるビニル基含有シロキサンオリゴマー」は本件発明1における「樹脂」に相当する。また、甲1発明における「(B1-1)平均粒径18μmの丸み状の酸化アルミニウム」、「(B2)平均粒径3μmの丸み状の酸化アルミニウム」、「(B3)平均粒径0.4μmの丸み状の酸化アルミニウム」の3種類の酸化アルミニウムは、それらの平均粒径から、本件発明1における「平均粒子径が互いに異なる少なくとも3種類のアルミナ粒子を含み、かつ、いずれの種類のアルミナ粒子の平均粒子径も30μm以下であり、前記少なくとも3種類のアルミナ粒子は、第1のアルミナ粒子と、前記第1のアルミナ粒子よりも平均粒子径が小さい第2のアルミナ粒子と、前記第2のアルミナ粒子よりも平均粒子径が小さい第3のアルミナ粒子」に相当し、さらに、「(B1-1)平均粒径18μmの丸み状の酸化アルミニウム」は本件発明1における「第1のアルミナ粒子の平均粒子径が10~30μm」及び「第1のアルミナ粒子の形状が、球状又は丸み状」に相当し、甲1発明における「(B2)平均粒径3μmの丸み状の酸化アルミニウム」は本件発明1における「第2のアルミナ粒子の平均粒子径が1.5~5μm」に相当し、甲1発明における「(B3)平均粒径0.4μmの丸み状の酸化アルミニウム」は本件発明1における「第3のアルミナ粒子の平均粒子径が0.1~1μm」に相当する。加えて、甲1発明の「熱伝導性シリコーン組成物」は、本件発明1の「熱伝導性樹脂組成物」に相当する。
以上より、本件発明1と甲1発明とは
「樹脂と、前記樹脂中に含まれるアルミナ粒子と、からなる熱伝導性樹脂組成物であって、平均粒子径が互いに異なる少なくとも3種類のアルミナ粒子を含み、かつ、いずれの種類のアルミナ粒子の平均粒子径も30μm以下であり、
前記少なくとも3種類のアルミナ粒子は、第1のアルミナ粒子と、前記第1のアルミナ粒子よりも平均粒子径が小さい第2のアルミナ粒子と、前記第2のアルミナ粒子よりも平均粒子径が小さい第3のアルミナ粒子と、を含み、
前記第1のアルミナ粒子の平均粒子径が10~30μmであり、
前記第2のアルミナ粒子の平均粒子径が1.5~5μmであり、
前記第3のアルミナ粒子の平均粒子径が0.1~1μmであり、
前記第1のアルミナ粒子の形状が、球状又は丸み状である、
ことを特徴とする熱伝導性樹脂組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1の第2のアルミナ粒子の形状は不定形であるのに対し、甲1発明の(B2)の酸化アルミニウムは丸み状である点
<相違点2>
本件発明1の第3のアルミナ粒子の形状は不定形であるのに対し、甲1発明の(B3)の酸化アルミニウムは丸み状である点
<相違点3>
本件発明1では、「前記第1のアルミナ粒子、前記第2のアルミナ粒子及び前記第3のアルミナ粒子の含有割合を体積比でそれぞれR1、R2及びR3とすると、R1≧(R2+R3)、R1>R2>R3、及び、R1≧2×R3の関係をすべて満たし、R1が50~65体積%であり、R2が26~30体積%であり、R3が5~24体積%」であるのに対し、甲1発明において、(B1-1)の酸化アルミニウムは1140重量部、(B2)の酸化アルミニウムは380重量部、(B3)の酸化アルミニウムは380重量部配合されている点
イ 検討
(ア)相違点3について
事案に鑑み、まず相違点3について検討する。
a 甲1発明において、(B1-1)の酸化アルミニウムは1140重量部、(B2)の酸化アルミニウムは380重量部、(B3)の酸化アルミニウムは380重量部配合されていることから、これらの配合比は重量基準で(B1-1):(B2):(B3)=60:20:20であり、いずれも酸化アルミニウムであることから、この比は体積基準としても、同様である。そうすると、甲1発明は、本件発明1における「R1≧(R2+R3)」、「R1≧2×R3」、「R1が50~65体積%」、「R3が5~24体積%」は満たすものの、「R1>R2>R3」、「R2が26~30体積%」は満たさない、と認められる。
そうすると、相違点3は実質的な相違点である。
b 次に、上記(1)に示したとおり、甲1の段落【0022】、【0023】には、
「【0022】
また、(B2)成分の配合割合は、(B)成分全体に対して10~30vol%となる量・・・
【0023】
(B3)成分の配合割合は、(B)成分全体に対して10~30vol%となる量・・・」
と記載されている。
しかしながら、甲1発明における3種の酸化アルミニウムの体積比を、(B1-1):(B2):(B3)=60:20:20から、「(B1-1)≧((B2)+(B3))」、「(B1-1)≧2×(B3)」、「(B1-1)が50~65体積%」、「(B3)が5~24体積%」を満たしたまま、「(B1-1)>(B2)>(B3)」、「(B2)が26~30体積%」を満たすように変更する具体的な動機付けはない。特に、(B1-1)の配合量は減らしつつ、(B2)の配合量を増やすこと、その際、(B2)の配合量を26~30体積%といったごく限られた範囲内のものとすること、についての動機付けはない。
そうすると、甲1発明において、相違点3に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
したがって、相違点1、2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものでない。
(イ)本件発明1の効果について
本件明細書には、本願発明の効果について
「【0018】
本発明の熱伝導性樹脂組成物の製造方法では、平均粒子径が互いに異なり、かつ、いずれの種類のアルミナ粒子の平均粒子径も30μm以下である少なくとも3種類のアルミナ粒子と、樹脂材料とを混合し、更に、第1~第3の3種類のアルミナ粒子の配合割合(体積%)をR1≧(R2+R3)とすることから、作製された熱伝導性樹脂組成物におけるアルミナ粒子の充填率が向上する。そのため、高い熱伝導率を有する熱伝導性樹脂組成物を作製することができる。」
「【0030】
本発明の熱伝導性樹脂組成物では、第1のアルミナ粒子、上記第2のアルミナ粒子及び上記第3のアルミナ粒子の含有割合を体積比でそれぞれR1、R2及びR3とすると、R1≧(R2+R3)の関係を満たす。
平均粒子径の大きい第1のアルミナ粒子の割合が多いので、熱伝導性樹脂組成物におけるアルミナ粒子の占める体積が大きく、熱伝導性が高くなる。そして、第1のアルミナ粒子の粒子間の空間を平均粒子径が中程度である第2のアルミナ粒子が埋める。さらに、第2のアルミナ粒子の粒子間の空間を平均粒子径が小さい第3のアルミナ粒子が埋める。
このように平均粒子径が異なる3種類の粒子を使用することにより、アルミナ粒子の粒子間の空間がより小さいアルミナ粒子により埋められることになり、熱伝導性樹脂組成物におけるアルミナ粒子の充填率が向上する。その結果、高い熱伝導率を有する熱伝導性樹脂組成物とすることができる。
【0031】
熱伝導性樹脂組成物中に平均粒子径の小さいアルミナ粒子を大量に配合してアルミナ粒子の充填率を向上させようとするとアルミナ粒子間の界面が大量に生じて、粒子間の界面の存在による熱伝導率の低下が生じるが、平均粒子径の大きい第1のアルミナ粒子の割合を高くすることにより粒子間の界面を減らすことができるので、高い熱伝導率を有する熱伝導性樹脂組成物とすることができる。
【0032】
また、熱伝導性樹脂組成物中の第1のアルミナ粒子、第2のアルミナ粒子及び第3のアルミナ粒子の含有割合を体積比でそれぞれR1、R2及びR3とすると、R1>R2>R3の関係を満たすことが好ましい。R2とR3を比較したときにR2がR3より大きいと、粒子間の界面を減らすことができるので、熱伝導性樹脂組成物の熱伝導率をより向上させることができる。
【0033】
また、熱伝導性樹脂組成物中の第1のアルミナ粒子及び第3のアルミナ粒子の含有割合を体積比でそれぞれR1及びR3とすると、R1≧2×R3の関係を満たすことが好ましい。R1がR3の2倍より大きいということは、相対的にR3が少ないことを意味しており、R3が少ないと粒子間の界面を減らすことができるので、熱伝導性樹脂組成物の熱伝導率をより向上させることができる。
【0034】
熱伝導性樹脂組成物中の各アルミナ粒子の含有割合は、R1≧(R2+R3)の関係を満たすことを前提として、第1のアルミナ粒子の含有割合(R1)が、全アルミナ粒子中で50~65体積%であることが好ましく、第2のアルミナ粒子の含有割合(R2)が、全アルミナ粒子中で26~30体積%であることが好ましく、第3のアルミナ粒子の含有割合(R3)が、全アルミナ粒子中で5~24体積%であることが好ましい。」
と記載されており、本件明細書の実施例により、本件発明1の要件を満たす特定の3種類のアルミナ粒子を特定の関係を満たし、特定の割合で含む熱伝導性樹脂組成物が、アルミナ粒子の高い充填率と優れた熱伝導性を示すことも示されている。一方、甲1には、そのような特定の3種類のアルミナ粒子を、特定の関係を満たし、特定の割合で組み合わせることにより、アルミナ粒子の高い充填率と優れた熱伝導性が得られることは記載も示唆もされていないし、そのようなことを当業者が予測できたともいえない。
ウ 申立人の主張について
申立人は、申立書において、
「(B1)成分50vol%,(B2)成分30vol%,(B3)成分20vol%を採用すると、本件発明1の構成要件Jと共通する。」と主張し、当該主張を前提として、「本件発明1と甲第1号証発明とを対比すると、本件発明1の構成要件A~Kは甲第1号証発明の構成a~kと共通する。
したがって、本件発明1は甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。万一相違点があるとしても些細な相違点であり、甲第1号証に記載された発明に基づいて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」
と主張している。
しかしながら、甲1には(B1)成分50vol%,(B2)成分30vol%,(B3)成分20vol%とすることは具体的に記載されておらず、上記イに示したとおり、申立人が主張する本件発明1の構成要件Jは、甲1発明との実質的な相違点であり、当該相違点を有する甲1発明から本件発明1をなすことは、当業者にとって容易ではないから、申立人の主張は採用できない。
エ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(4)本件発明7について
本件発明7と甲1製造発明とを対比すると、甲1製造発明における「混練」は、本件発明7における「混合する混合工程」に相当し、その他の一致点、相違点は、上記(3)アに示したのと同様である。
その上で、上記(3)イ、ウに示したのと同様の理由により、本件発明7は、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(5)本件発明2~6、8~10について
本件発明2~6、8~10は、それぞれ、本件発明1、本件発明7を直接ないし間接的に引用して、さらに特定するものであるから、上記(3)、(4)で本件発明1、7について検討したのと同様の理由により、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(6)申立理由1、申立理由2、取消理由1についてのまとめ
上記(3)及び(4)のとおりであるから、申立理由1、申立理由2、取消理由1はその理由がない。
2 申立理由3、取消理由2(実施可能要件)について
申立理由3と取消理由2とは同趣旨であるため、まとめて判断する。
(1)実施可能要件違反の判断基準
本件発明1~6は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
また、本件発明7~10は製造方法の発明であるところ、物を生産する方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産する方法の使用をし、その方法により生産した物の使用をすることができる程度の記載があることを要する。
そこで、以下この考え方に基づいて検討する。
(2)本件発明の実施可能要件について
ア 本件明細書には、以下のとおり記載されている。
「【0060】
[実施例]
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
[原料の準備]
表1に示す配合に従い、分散剤をエタノールと混合し、その混合液を原材料アルミナ粉末に撹拌しながら滴下した。その後、乾燥機で100℃10時間で乾燥することで、分散剤で表面処理を施したアルミナ粒子を得た。
表1に示す原材料アルミナ粉末及び分散剤としては以下のものを使用した。
【0061】
原材料アルミナ粉末:
平均粒子径(d50)39μm、丸み状
平均粒子径(d50)18μm、丸み状
平均粒子径(d50)22μm、丸み状
平均粒子径(d50)16μm、球状
平均粒子径(d50)2.0μm、球状
平均粒子径(d50)2.2μm、不定形
平均粒子径(d50)4.0μm、不定形
平均粒子径(d50)0.26μm、不定形
分散剤:シラン系エトキシ型分散剤」
当該記載より、本件明細書に示された実施例において、分散剤として使用された化合物が、シラン系エトキシ型分散剤であることが理解できる。
イ その上で、乙2や乙3などからも明らかなとおり、本件特許の出願時において、シラン系エトキシ型分散剤は種々の化合物が知られており、かつ、それらは市販されていたのであるから、本件発明1~6を生産しようとした当業者は、それらを入手し、使用することにより、本件発明1~6を生産可能であったと認められる。
ウ 以上より、本件明細書の【0061】に記載された「分散剤:シラン系エトキシ型分散剤」がいかなるものか当業者が容易に理解できるか否かにかかわらず、本件発明1~6を生産することは可能であり、本件発明を生産した具体的な実施態様も開示されていると認められる。
エ 同様の理由により、本件発明7~10の製造方法により、当業者は熱伝導性樹脂組成物を生産することが可能であると認められる。
オ そうすると、本件特許の発明の詳細な説明には、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1~6に係る物を生産し、本件発明7~10に係る製造方法を使用することができる程度の記載があるといえる。
(3)申立人の主張について
申立人は、上記第3の1(3)に示したとおり主張するが、上記(2)に示したとおり、当該主張は採用できない。
(4)申立理由3、取消理由2についてのまとめ
上記(2)及び(3)のとおりであるから、申立理由3、取消理由2はその理由がない。
3 申立理由4(明確性)について
(1)明確性の判断基準
特許法第36条第6項第2号は、特許請求の範囲の記載に関し、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。この趣旨は、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり、第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るため、そのような不都合な結果を防止することにある。そして、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(2)本件発明1について
ア 本件の特許請求の範囲の請求項1の記載につき、それ単独では不明確な点はない。
イ 次に、本件明細書の記載により、本件請求項1の記載が不明確となるか否かについて検討する。
ウ 本件明細書の実施例1及び実施例6の「第2のアルミナ粒子」の欄には「球状」と記載されているが、本件発明1では「不定形」と限定されており、「球状」は含まれないにも関わらず、「実施例」と表記されている点において、一応、本件請求項1の記載と整合しない。
エ しかしながら、実施例1及び実施例6が、本件発明1の範囲に含まれないことは明らかであり、当業者はそのことを理解し得る。
オ そうすると、「第2のアルミナ粒子」として「球状」のものを使用した例を「実施例」と表記していることが、本件発明1を、第三者に不測の不利益を及ぼす程度に不明確なものとしているとは認められない。
カ 以上より、本件発明1は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
(3)本件発明7について
本件発明7についても、上記(2)に示したのと同様の理由により、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
(4)本件発明2~6、8~10について
本件発明2~6、8~10は、本件発明1、7を直接ないし間接的に引用するものであるが、上記(2)、(3)に示したとおり、本件発明1、7は不明確ではなく、その他に、本件発明2~6、8~10を不明確なものとする事情も存在しないことから、本件発明2~6、8~10についても、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
(5)申立人の主張について
申立人は、上記第3の1(4)に示したとおり主張するが、上記(2)~(4)に示したとおり、当該主張は採用できない。
(6)申立理由4についてのまとめ
上記(2)~(5)のとおりであるから、申立理由4はその理由がない。
第5 結語
上記第4のとおり、本件特許の請求項1~10に係る特許は、申立書に記載した申立ての理由、及び、当審において通知した取消理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700329