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特許異議申立

2021-701016

長期間保存可能な生鮮食材の製造方法。

審判番号
2021-701016
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-190692外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
登録番号
6863621
請求日
2021年10月21日
審決日
2022年12月28日
公報発行日
2023年04月28日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.113-YAA(A23L) / P1651.121-YAA(A23L) / P1651.537-YAA(A23L) / P1651.536-YAA(A23L)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第120条の8第1項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6863621号発明「長期間保存可能な生鮮食材の製造方法。」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論
特許第6863621号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8〕について訂正することを認める。
特許第6863621号の請求項2、4、6~8に係る特許を維持する。
特許第6863621号の請求項1、3、5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

目次 ▾ 19項目
理 由

第1 手続の経緯

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特許第6863621号の請求項1ないし8に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、令和元年10月18日に特許出願され、令和3年4月5日に特許権の設定登録がされ、同年同月21日にその特許掲載公報が発行され、その後、同年10月21日に、特許異議申立人 森田 弘潤(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

そして、令和4年1月7日付けで取消理由通知が通知され(発送日:令和4年1月14日)、取消理由通知において指定された期間(発送の日から60日以内)経過後の令和4年3月17日に訂正請求書及び意見書が提出されたため、該訂正請求書に対して、令和4年3月31日付けで却下理由通知が通知され、令和4年5月20日に特許法第120条の8第1項において準用する同法第133条の2第1項の規定により手続却下の決定がされたものである(送達日令和4年6月1日)。

なお、特許権者は、上記訂正請求に関する訂正請求料の返還請求を行っている。

その後、令和4年6月27日付けで当審合議体から取消理由通知(決定の予告)が通知され、同年8月26日に訂正請求書及び意見書が提出され、該訂正請求書に関し、令和4年9月29日付けで特許異議申立人に対して訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)をしたところ、特許異議申立人から令和4年11月4日に意見書が提出されたものである。

第2 訂正の許否についての判断

1 令和4年8月26日に提出された訂正請求書による訂正請求について

令和4年8月26日に提出された訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書により令和4年8月26日に特許権者が行った訂正の請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。

2 請求の趣旨

本件訂正請求に係る請求の趣旨は、「特許第6863621号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~8について訂正することを求める。」というものである。

3 訂正の内容

本件訂正の内容は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。)

(1)訂正事項1

特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2

訂正前の請求項1を引用する請求項2を独立形式にあらためた上で、訂正後に「

長期間保存可能な生鮮食材の製造方法であって、

調理方法に応じて、1以上の生鮮食材のそれぞれに下ごしらえを行う工程と、

前記1以上の生鮮食材を区分し、前記各区分の生鮮食材を計量する工程と、

前記生鮮食材を、58℃乃至100℃で0.5分間乃至60分間加熱し、水で急冷する加熱急冷工程と、

前記生鮮食材を圧力が均一に伝わる耐熱性の容器に詰める工程と、

前記容器を真空密閉する工程と、

前記下ごしらえされ、前記区分され、前記計量され、前記加熱急冷され、前記容器に詰められ、真空密閉された前記生鮮食材を、400MPa乃至600MPaで2分間乃至6分間加圧したのち大気圧に減圧する高圧処理工程と、

を有し、

前記生鮮食材は、豆類、葉菜類、及び果菜類を含む野菜、並びに牛、豚、羊、及び家禽類を含む食肉、卵、魚介類、及び魚卵を含む動物性食品であり、

前記加熱急冷工程は、前記野菜は、80℃乃至100℃で加熱し、前記動物性食品のうち、前記牛肉は58℃乃至70℃、前記魚介類及び前記家禽類は65℃乃至70℃、及び、前記豚肉は68℃乃至70℃で加熱し、水で急冷し、

前記高圧処理工程を2回行うことを特徴とする長期間保存可能な生鮮食材の製造方法。」と訂正する。

また、請求項2の記載を直接又は間接的に引用する請求項4、6~8も同様に訂正する。

(3)訂正事項3

特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(4)訂正事項4

特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(5)訂正事項5

請求項6に関し、訂正前の「請求項1乃至3のいずれか1項に記載の長期保存可能な生鮮食材の製造方法。」との記載を、訂正後に「請求項2記載の長期保存可能な生鮮食材の製造方法。」と訂正する。

(6)訂正事項6

請求項7に関し、訂正前の「請求項1乃至4のいずれか1項記載の長期保存可能な生鮮食材の製造方法。」との記載を、訂正後に「請求項2又は4記載の長期保存可能な生鮮食材の製造方法。」と訂正する。

4 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1、3及び4について

ア 訂正の目的の適否について

訂正事項1、3及び4に係る、それぞれ請求項1、3及び5の訂正は、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。

よって、訂正事項1、3及び4は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当する。

イ 新規事項の追加の有無について

訂正事項1、3及び4は、請求項を削除する訂正であり、本件特許登録時の本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であることが明らかであるから、いずれも特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について

訂正事項1、3及び4は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、カテゴリーを変更するものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、いずれも特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項2による訂正について

ア 訂正の目的の適否について

訂正事項2に係る請求項2の訂正は、本件訂正前の請求項1を引用する請求項2を独立形式に記載した上で請求項2における発明特定事項である「長期保存可能な食材の製造方法であって」を「長期保存可能な生鮮食材の製造方法であって」と限定し、「生鮮食材」を「前記生鮮食材は、豆類、葉菜類、及び果菜類を含む野菜、並びに牛、豚、羊、及び家禽類を含む食肉、卵、魚介類、及び魚卵を含む動物性食品であり、」と限定し、「加熱急冷工程」を「前記加熱急冷工程は、前記野菜は、80℃乃至100℃で加熱し、前記動物性食品のうち、前記牛肉は58℃乃至70℃、前記魚介類及び前記家禽類は65℃乃至70℃、及び、前記豚肉は68℃乃至70℃で加熱し、水で急冷し、」とそれぞれ限定して特定するものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を引用しないものとすること及び特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。

したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものに該当する。

また、請求項2の上記訂正に連動する請求項4、6~8の訂正は、同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

イ 新規事項の追加の有無について

本件特許明細書の【0005】には、「生鮮食材にレトルト殺菌を行うと、例えば野菜は風味や食感が変化して軟らかくなり、食肉、卵、魚介類、魚卵等の動物性食品はタンパク質の変性が起こり、旨味エキスが流失し、肉質が硬くなる。」との記載、【0024】には、「下ごしらえを行う工程及び加熱操作に於いては、生鮮食品のうち、食肉、卵、魚介類、魚卵等は、過度の加熱によるタンパク質の変性によりエキスが流失し肉質が硬くなることを考慮すると、加熱温度は、牛肉は58℃以上、魚介類や家禽類は65℃以上、豚肉は68℃以上に短時間加熱し急冷却することが好ましい。

より好ましくは、牛肉は58~70℃、魚介類や家禽類は65~70℃、豚肉は68~70℃の範囲に短時間加熱し急冷却することができる。

なお、0.5分間加熱するという操作は、所定の温度で短時間加熱し急冷するブランチング操作であることが出来る。」との記載、【0032】には、「加熱操作と、高圧処理工程2回と、を組み合わせる工程においても、加熱操作は、牛肉は58~70℃、魚介類や家禽類は65~70℃、豚肉は68~70℃で加熱操作することが好ましい。また、野菜の中で、豆類、果菜類、及び葉菜類の加熱操作は、80~100℃で0.5~5分程度加熱し急速冷却する事が好ましい。」との記載及び【0037】には、「このような加熱操作-真空密封-高圧処理工程の順序が適している生鮮食材として、例えば大豆、黒豆、小豆、エンドウ豆などを含む豆類、キャベツ、白菜、小松菜を含む葉菜類、及びピーマン、茄子、瓜を含む果菜類を含む野菜、並びに牛、豚、羊を含む食肉類、鶏、家鴨、鴨を含む家禽類及びその卵、ぶり、海老、イカ、たこ、鯖、等を含む魚介類、及び魚卵を実例として挙げることができる」(下線は当審合議体にて追加。以下同様。)との記載があるため、生鮮食材に関する例示及び加熱急冷工程における加熱温度に関する訂正を含めた訂正事項2の訂正は、登録時の明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「本件特許明細書等」という。)の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係で、新たな技術的事項の導入をするものとはいえない。

したがって、訂正事項2は、本件訂正前の本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について

上記アのとおり、訂正事項2による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、カテゴリーを変更するものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ また、請求項2の上記訂正に連動する請求項4、6~8の訂正は、同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で行われるものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項5による訂正について

ア 訂正の目的の適否について

訂正事項5に係る請求項6の訂正は、請求項6が「請求項1乃至3のいずれか1項」を引用していたところ、訂正後に「請求項2」のみを引用するように引用する請求項を減少させる訂正である。

これは、引用する請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。

よって、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当する。

イ 新規事項の追加の有無について

訂正事項5に係る請求項6についての訂正により、請求項6は請求項2を引用するものとなったが、引用する請求項を減少させるだけの訂正であり、登録時の本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であることが明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について

訂正事項5に係る請求項6についての訂正により、請求項6は請求項2を引用するものとなったが、上記のとおり、これは特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、引用する請求項を減少させるだけの訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ また、請求項6の上記訂正に連動する請求項7、8も、同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で行われるものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するものである。

(4)訂正事項6による訂正について

ア 訂正の目的の適否について

訂正事項6に係る請求項7の訂正は、請求項7が「請求項1乃至4のいずれか1項」を引用していたところ、訂正後に「請求項2又は4」を引用するように引用する請求項を減少させる訂正である。

これは、引用する請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。

よって、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当する。

イ 新規事項の追加の有無について

訂正事項6に係る請求項7についての訂正により、請求項7は請求項2又は4を引用するものとなったが、引用する請求項を減少させるだけの訂正であり、登録時の本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であることが明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について

訂正事項6に係る請求項7についての訂正により、請求項7は請求項2又は4を引用するものとなったが、上記のとおり、これは特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、引用する請求項を減少させるだけの訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ また、請求項7の上記訂正に連動する請求項8も、同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で行われるものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するものである。

なお、独立特許要件について、特許異議申立人による特許異議の申立ては、本件訂正前のすべての請求項に対してされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

(5)一群の請求項について

本件訂正前の請求項1~8について、請求項2~8はそれぞれ請求項1を直接または間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって請求項1が削除され、訂正前の請求項1を引用する請求項2の記載が訂正されるのに連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1~8は一群の請求項であり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してされたものである。

5 小括

以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~8〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の特許請求の範囲の記載

上記第2のとおり、本件訂正は認められるので、本件訂正により訂正された特許請求の範囲の請求項2、4、6~8に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明2」「本件特許発明4」「本件特許発明6」~「本件特許発明8」という。まとめて、「本件特許発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項2、4、6~8に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(なお、令和4年9月27日付け取消理由通知(決定の予告)の対象となった特許登録時の特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明を、「本件訂正前の本件特許発明1」~「本件訂正前の本件特許発明8」といい、まとめて、「本件訂正前の本件特許発明」ということもある。)。

「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
長期間保存可能な生鮮食材の製造方法であって、
続きを表示(全26行)
調理方法に応じて、1以上の生鮮食材のそれぞれに下ごしらえを行う工程と、
前記1以上の生鮮食材を区分し、前記各区分の生鮮食材を計量する工程と、
前記生鮮食材を、58℃乃至100℃で0.5分間乃至60分間加熱し、水で急冷する加熱急冷工程と、
前記生鮮食材を圧力が均一に伝わる耐熱性の容器に詰める工程と、
前記容器を真空密閉する工程と、
前記下ごしらえされ、前記区分され、前記計量され、前記加熱急冷され、前記容器に詰められ、真空密閉された前記生鮮食材を、400MPa乃至600MPaで2分間乃至6分間加圧したのち大気圧に減圧する高圧処理工程と、
を有し、
前記生鮮食材は、豆類、葉菜類、及び果菜類を含む野菜、並びに牛、豚、羊、及び家禽類を含む食肉、卵、魚介類、及び魚卵を含む動物性食品であり、
前記加熱急冷工程は、前記野菜は、80℃乃至100℃で加熱し、前記動物性食品のうち、前記牛肉は58℃乃至70℃、前記魚介類及び前記家禽類は65℃乃至70℃、及び、前記豚肉は68℃乃至70℃で加熱し、水で急冷し、
前記高圧処理工程を2回行うことを特徴とする長期間保存可能な生鮮食材の製造方法。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記下ごしらえされ、前記区分され、前記計量され、前記加熱急冷され、前記容器に詰められ、真空密閉された前記生鮮食材を、60℃乃至70℃で前記高圧処理工程を行い、次いで常温で前記高圧処理工程を行うことを特徴とする請求項2に記載の長期間保存可能な生鮮食材の製造方法。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
前記下ごしらえされ、前記区分され、前記計量された前記生鮮食材を、酸性食品添加物を添加してpH3.7以下に調整した58℃乃至100℃の水中で0.5分間乃至60分間加熱したのち急冷し、前記生鮮食材を前記容器に詰め、真空密封し、次いで前記高圧処理工程を行うことを特徴とする請求項2に記載の長期間保存可能な生鮮食材の製造方法。
【請求項7】
前記下ごしらえされ、前記区分され、前記計量された前記生鮮食材を、前記容器に詰め、前記高圧処理後の前記容器内の液のpHが4.5乃至5.7になるよう前記酸性食品添加物を添加した溶液を、前記生鮮食材の質量に対して5質量%乃至20質量%添加し、前記容器を真空密封し、58℃乃至100℃で0.5分間乃至60分間加熱し、常温に急冷後、前記高圧処理工程を行うことを特徴とする請求項2又は4に記載の長期間保存可能な生鮮食材の製造方法。
【請求項8】
前記酸性食品添加物が、ビタミンC、醸造酢、又は果汁から選ばれる1以上であることを特徴とする請求項6又は7に記載の長期間保存可能な生鮮食材の製造方法。」

第4 特許異議申立人が申し立てた理由及び取消理由(決定の予告)で提示した取消理由

1 特許異議申立人が申し立てた理由

異議申立理由1:請求項1~8に係る特許に関して、本件訂正前の本件特許発明においては、1以上の生鮮食材に下ごしらえを行うことが規定されている一方、本件特許明細書には、その定義がなく、甲第5号証、甲第6号証の下ごしらえという用語の意味からみて、準備をどこまで行なうかは、食材の種類や調理の目的で大きく異なり、概念自体が曖昧であるから、請求項1~8に係る発明は明確ではなく、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合するものではないので、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

異議申立理由2-1:請求項1~8に係る特許に関して、官能評価のパネラーの情報や、パネラー間の評価基準の調整法が示されず、不適切な評価手法で評価がなされているから、請求項1~8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明ではなく、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないので、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

異議申立理由2-2:請求項1~8に係る特許に関して、本件訂正前の本件特許発明の課題は、耐熱性の強い耐熱性芽胞菌の芽胞子を含む全ての殺菌をしてレトルト殺菌と同等の殺菌ができることが課題であるところ、本件特許明細書の実施例においては、一般生菌の生菌のみが評価されており、発育し得るあらゆる微生物を死滅させるのに十分な効力を有することの裏付けにならないから、請求項1~8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明ではなく、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないので、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

異議申立理由2-3:請求項1、4~8に係る特許に関して、実施例には、600MPa以上の加圧を含む2回以上の圧力工程によって、殺菌を行った例があるだけであるから、甲第3号証や甲第4号証の第1加圧工程と第2加圧工程を有する殺菌の記載を考慮すると、それらの加圧回数や条件の規定のない請求項1、4~8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明ではなく、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないので、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

異議申立理由2-4:請求項1~8に係る特許に関して、生鮮食品には、あらゆる食品が含まれており、実施例では、それぞれの処理方法は異なっており、食品の種類に応じて適宜他の手段や圧力の調整が必要なのは明らかであるから、請求項1~8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明ではなく、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないので、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

異議申立理由3:請求項1~8に係る特許に関して、規定する「下ごしらえ」の定義が不明確であるから、具体的にどのような工程を経て加熱処理、高圧処理などがなされた「生鮮食材」が上記本件特許発明の範囲に含まれるのか判断できないから、請求項1~8に係る発明を当業者が実施できるように記載されておらず、その発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

異議申立理由4-1:請求項1~8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2~8号証を参照すれば、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1~9に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

異議申立理由4-2:請求項1~8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明及び甲第2~8号証に記載された技術的事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

記

甲第1号証:特表2016-525369号公報
甲第2号証:高圧処理による食品加工の研究と米飯開発、J.Appl.Glycosci.、2003年、Vol.50、No.1、p.89~96、インターネット<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jag1999/50/1/50_1_89/_article/-char/ja/>
甲第3号証:特開2000-83633号公報
甲第4号証:特開2001-245641号公報
甲第5号証:新村 出 編、広辞苑 第七版、株式会社岩波書店、2018年1月12日、1293頁「したごしらえ」の項目
甲第6号証:「味の決めては『下ごしらえ』にあり!野菜・魚・肉・・・【27食材の基本下処理リスト】」、2018年5月2日作成、

インターネット<URL : https://kinarino.jp.cat4->

甲第7号証:「食品別の規格基準(容器包装詰加圧加熱殺菌食品)」、2016年、インターネット<URL : https://www.forth.go.jp/keneki/osaka/syokuhin-kanshi/foodstandard_youkihousoudumekaatsukanetsusakkinshokuhin.html>

甲第8号証:「【野菜の保存期間を劇的に延ばす!】ブランチング処理とは?」、2016年9月5日、インターネット<URL : https://shunkashutou.com/market/column/blanching/

なお、特許異議申立人は、令和4年11月4日に意見書と同時に、甲第9~12号証を、記載要件に関する新たな証拠として提出しているが、参考資料として扱い、その摘記を省略した。

2 取消理由の概要

本件訂正前の請求項1~8に係る発明の特許に対して、当審が令和4年6月27日付け取消理由通知(決定の予告)で特許権者に通知した取消理由の要旨は、以下のとおりである。

理由1:(サポート要件)本件特許は、本件訂正前の請求項1~8に係る発明に関して、耐熱性の強い耐熱性芽胞菌の芽胞子を含む全ての殺菌をしてレトルト殺菌と同等の殺菌ができることが、本件特許明細書の実施例の一般生菌数の検査のみでは、全ての細菌の殺菌を裏付けられないから、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

理由2:(新規性)本件訂正前の請求項1及び5に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった電子的技術情報2を参照すれば、本件特許出願前に日本国内で頒布された刊行物である引用文献1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件訂正前の請求項1及び5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

理由3:(進歩性)本件訂正前の請求項1及び5に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献1に記載された発明及び電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった電子的技術情報2記載の技術的事項から当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件訂正前の請求項1及び5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

記

引用文献1:特表2016-525369号公報(特許異議申立人の提出した甲第1号証)

電子的技術情報2:山崎 彬(決定注:「崎」は、原文では、「たつさき」) 外1名,高圧処理による食品加工の研究と米飯開発,J.Appl.Glycosci.,2003年,第50巻,p.89~96,インターネット<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jag1999/50/1/50_1_89/_article/-char/ja/>(特許異議申立人の提出した甲第2号証)

なお、電子的技術情報2は、本願出願時点の技術常識を示す引用例である。

第5 当審合議体の判断

当審合議体は、請求項2、4、6~8に係る特許は、当審合議体の通知した取消理由及び特許異議申立人が申し立てた理由によっては、取り消すことはできないと判断する。

理由は以下のとおりである。

I 取消理由(決定の予告)の判断

1 理由1(サポート要件)について

(1)本件特許発明に関する特許法第36条第6項第1号の判断の前提

特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)本件特許発明の課題

本件特許の発明の詳細な説明の記載の【背景技術】の「【0002】

従来より、一品の料理を調理するために適切にカットされ計量され下ごしらえされた野菜、食肉、卵、魚介類、魚卵などの生鮮食材と、調味料と、を別々の容器にパッケージし、場合によっては調理方法のレシピがセットされて梱包された食材のキットがある。食材キットは、所定の手順で簡単に調理するだけで生鮮食品を用いた本格的な料理を提供できるが、調理ゴミはでない。食材キットは、特に高齢化や単身者に愛用されており、将来は家庭料理の主流になると予測されている。

【0003】

しかし、既存の食材キットは、生の野菜、食肉、卵、魚介類、魚卵等を食材に使用しているために賞味期限が製造後2~3日間しかなく、また、誤った保管や調理を行うと食中毒に罹る心配がある。このため、食中毒を防止し、食材のキットの賞味期限を例えば10℃以下(冷蔵庫保存)で長期間安全に保存することが出来れば、食材キットの欠点が解決できる。

【0004】

食中毒のリスクを防ぐためには、食中毒の原因菌であるクロストリジウムボツリヌスや、バチルスセレウ等の耐熱性の強い耐熱性芽胞細菌の芽胞子を不活化し、増殖を抑える必要がある。

【0005】

食中毒のリスクを防いだ食材の一つとして、密封して100℃以上で加圧加熱殺菌(以下レトルト殺菌と記す)したレトルト食品がある。レトルト殺菌は、食材を、例えば100~130℃(0.101~0.270MPa)で加熱殺菌するものであって、耐熱性芽胞細菌の芽胞子を不活化することが出来る。

しかし、生鮮食材にレトルト殺菌を行うと、例えば野菜は風味や食感が変化して軟らかくなり、食肉、卵、魚介類、魚卵等の動物性食品はタンパク質の変性が起こり、旨味エキスが流失し、肉質が硬くなる。そうなると、そのような食品を容器から取り出し調理しても、調理したての生鮮食品の美味しさを提供することができない。

【0006】

過剰な加熱を必要としない殺菌方法として、高圧殺菌(例えば引用文献1、2を参照)が知られている。高圧殺菌は、常温状態で食材を数百MPa以上の超高圧に加圧した後に、急激に常圧に減圧することによって細菌を破壊して殺菌する方法であって、通常は400MPa以上の高圧処理が必要であり、特に耐熱性芽胞菌の芽胞子は600MPa以上に加圧することが必要であると言われている。

【0007】

そこで、実際に追試してみたところ、食材を600MPaの高圧を4分間維持し、その後大気圧下に減圧するという高圧処理工程を3回以上繰り返した食材は、レトルト殺菌した缶詰の常温保存性を検査する保存検査方法に適合する事を見いだした。しかし、高圧殺菌は、生鮮食品の組織内の複数の自己分解酵素群を不活性化できず、しかも高圧処理操作で細胞が損傷する事により酵素活性が上昇し、生鮮食品の変色、異臭、軟化等が急速に進行して、寧ろ食材の品質悪化を加速させる欠点がある事がわかった。」との記載、【発明が解決しようとする課題】の

「【0009】 本発明は、生鮮食材の殺菌方法として、高圧殺菌によって、耐熱性の強い耐熱性芽胞菌の芽胞子を含む全ての細菌を殺菌してレトルト殺菌と同等の殺菌ができる高圧処理工程を確立すると共に、生鮮食品の細胞内の自己分解酵素群を不活性化して生鮮食材の新鮮さを維持させ、生鮮食材としての風味を保ったままで冷蔵庫(10℃以下)に長時間保存することが出来る、長期保存可能な生鮮食材及び その食材キットの殺菌及び自己分解酵素の不活性化方法を提供することを課題とする。
【0010】
また本発明は、食材の殺菌及び自己分解酵素の不活性化工程を通じて、下ごしらえされて容器にパッケージされた生鮮食材のキットを提供し、容器を開封し生鮮食材を取り出して直ちに調理でき、簡単な操作で調理し立ての一品の料理を提供できる、長期保存可能な生鮮食材及びその食材キットを提供することを他の課題とする。」(下線は、当審合議体にて追加。以下同様。)との記載、および本件明細書全体の記載を参酌して、本件特許発明は、食材の殺菌及び自己分解酵素の不活性化工程を通じて、下ごしらえされて容器にパッケージされた生鮮食材のキットを提供し、容器を開封し生鮮食材を取り出して直ちに調理でき、簡単な操作で調理し立ての一品の料理を提供できる、長期保存可能な生鮮食材の製造方法を提供することも課題としていると認める。

(3) 特許請求の範囲の記載

請求項2、4、6~8には、前記第2のとおりの発明特定事項が特定され、「下ごしらえを行う工程」「区分し、」「計量する工程」「加熱急冷工程」「容器に詰める工程」「真空密閉する工程」「高圧処理工程」を有し、生鮮食材の種類の特定事項、加熱急冷工程の生鮮食材の種類毎の温度条件の特定事項を有し、「高圧処理工程を2回行うこと」ことを特定した、長期間保存可能な食材の製造方法の発明が記載されている。

(4) 発明の詳細な説明の記載

ア 本件特許の発明の詳細な説明には、特許請求の範囲に記載された発明に対応した記載として、上記(2)の背景技術や課題に関する記載、および実質的な繰り返し記載を除いて以下のような記載がある。

イ 効果に関する記載

「【0017】
また、本発明の容器にパッケージされ殺菌された生鮮食材は、請求項1~12のいずれか1項に記載の生鮮食材の殺菌及び自己分解酵素の不活性化方法で殺菌され自己分解酵素が不活性化され下ごしらえされた状態の生鮮食材であって、生鮮食材が10℃以下で90日間保存可能で、生鮮食材の品質が低下せず、容器を開封し直ちに調理して料理を提供できる状態であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の殺菌及び自己分解酵素の不活性化方法によれは、生鮮食材を、圧力が均一に伝わる耐熱性の容器に詰め容器を真空密封し加熱する加熱操作と、容器を400~600MPaで2~6分間加圧した後大気圧に減圧する高圧処理工程と、を組わせることによってレトルト殺菌と同等の殺菌と食材の自己分解酵素の不活性化とを行うので、生鮮食品を、生鮮食品としての味覚及び食感を保ったまま10℃以下で長期間保存することができる。
また、本発明の殺菌及び自己分解酵素の不活性化方法は、高圧処理工程と加熱操作とを組み合わせることによって高圧処理工程の圧力及び/又は回数を減少させる協奏効果を有する。
【0019】
また、本発明の殺菌及び自己分解酵素の不活性化方法は、前処理工程を通じて、生鮮食材それぞれを切り分け、調理方法に応じて区分し、各区分の生鮮食材を計量して圧力が均一に伝わる耐熱性の容器に別個に詰め、出来上がりの火の通りを揃えるよう下ごしらえを行うことが出いるので、容器を開封して直ちに調理でき、簡単な操作で調理し料理できる生鮮食材のキットを提供することができる。」

ウ 発明の技術的思想に関する記載

「【0020】
以下に本発明を詳細に説明する。
前記したように、食材は、600MPaの高圧を4分間維持しその後大気圧下に減圧するという高圧処理工程を3回以上繰り返すことによって完全に殺菌できるが、高圧殺菌は食品の組織内の自己分解酵素群を不活性化できないために酵素活性が上昇し、自己の所有する分解酵素による食材の変色、異臭、軟化等が急速に進行する。
【0021】
本発明者らは、更に鋭意検討した結果、生鮮食材を圧力が均一に伝わる耐熱性の容器に詰める工程と、容器を真空密封する工程と、生鮮食材を58~100℃で0.5~60分間加熱操作する工程と、容器を400~600MPaで2~6分間加圧した後大気圧に減圧する高圧処理工程と、を組み合わせて殺菌及び自己分解酵素の不活性化を行うことによって、生鮮食材を、風味を損なわずに長期間保存できることを見出し、本発明に到達した。
【0022】
本発明は、1以上の生鮮食材を含む食材に下ごしらえを行う工程と、生鮮食材を調理方法に応じて区分し、各区分の食材を計量して容器に別個に詰める下ごしらえの工程と、を有することができる。本発明は、下ごしらえの操作を組み合わせることによって、殺菌効果、及び/又は自己分解酵素の不活性化の効果を上げるという協奏効果を示す。」

エ 発明の実施形態に関する記載

【0023】~【0047】には、生鮮食材の容器(【0023】)、下ごしらえ(【0024】~【0027】)、区分・計量(【0028】)、高圧処理の回数や加熱操作と真空密封との順序等(【0030】~【0042】)、酸性の食用添加物を用いた処理(【0043】~【0046】)の記載がある。

オ 具体的記載について

特許請求の範囲に対応する実施例として、実施例1~10には、(麻婆ナス用茄子の食材)(きんぴら牛蒡用牛蒡と人参の食材)(ぶり大根の大根の食材)(回鍋肉用のキヤベツとピーマンの食材)(回鍋肉用の豚肉の食材)(筑前煮用の鶏もも肉の食材)(ぶり大根のぶりの食材)(大学芋のサツマイモの食材)(里芋煮の野菜食材)(筑前煮用の野菜食材)を得たことが記載されている。

また、【0060】~【0062】の[細菌検査]においては、「 実施例1~10の生鮮食材の一般細菌検査を行った。

賞味期限は、10℃以下の保存で賞味期限90日間に設定しているので、安全率75%を加味して、120日間の細菌検査を実施した。細菌検査は、殺菌及び自己分解酵素の不活性化処理後の食材を10℃以下に120日間保存し、その間20日毎に一般細菌検査を実施した。

検査結果を表1に示す。

<検査方法>

一般生菌数を検査した。検査方法は標準寒天培地を用いた混釈法で検査を行い37℃で48時間培養し、シャーレー表面の細菌集落数を計測した。

・・・

【表1】

[図:0001396259000001.jpg]

・・・

表1に示すように、実施例1~10の全サンプルとも一般細菌検査による菌数は、120日後まで検出限界の30cfu以下であり、生鮮食材が殺菌されていることが示された。」との記載や表1の結果が示されている。

そして、【0063】~【0064】には、[官能検査]の内容が、【0065】~【0078】には、実施例1、実施例2、実施例5、実施例3、実施例8、実施例9、実施例6の食材を用いて調理した[調理例1]~[調理例7]の内容と官能検査結果、および官能検査結果の考察のまとめの記載が示されている。

(5) 対比・判断

ア 本件特許発明の課題は、上記(2)に述べたように、食材の殺菌及び自己分解酵素の不活性化工程を通じて、下ごしらえされて容器にパッケージされた生鮮食材のキットを提供でき、容器を開封し生鮮食材を取り出して直ちに調理でき、簡単な操作で料理を提供できる長期保存可能な生鮮食材の製造方法、つまり高圧殺菌によって、生鮮食品の細胞内の自己分解酵素群を不活性化して生鮮食材の新鮮さを維持させ、生鮮食材としての風味を保ったままで冷蔵庫(10℃以下)に長時間保存することが出来る、長期保存可能な生鮮食材の製造方法を提供すること、であるといえる。

イ そして、上記(3)に記載のとおり、特許請求の範囲には、「下ごしらえを行う工程」「区分し、」「計量する工程」「加熱急冷工程」「容器に詰める工程」「真空密閉する工程」「高圧処理工程」を有し、生鮮食材の種類の特定事項、加熱急冷工程の生鮮食材の種類毎の温度条件の特定事項を有し、「高圧処理工程を2回行うこと」ことを特定した、長期間保存可能な食材の製造方法の発明が記載されている。

そして、発明の詳細な説明においては、【0017】【0018】に真空密封し加熱する加熱操作と、容器を400~600MPaで2~6分間加圧した後大気圧に減圧する高圧処理工程と、を組合わせることによってレトルト殺菌と同等の殺菌と食材の自己分解酵素の不活性化とを行うので、生鮮食品を、生鮮食品としての味覚及び食感を保ったまま10℃以下で長期間保存することができるという効果に関する記載があり、上記(4)オのとおり、細菌検査を殺菌及び自己分解酵素の不活性化処理後の食材を10℃以下に120日間保存し、その間20日毎に一般細菌検査を実施し、標準寒天培地を用いた混釈法で検査を行い37℃で48時間培養し、シャーレー表面の細菌集落数を計測し、実施例1~10の全サンプルとも一般細菌検査による菌数は、120日後まで検出限界の30cfu以下であったことが示されている。

ウ 本件特許発明の課題が、高圧殺菌によって、生鮮食品の細胞内の自己分解酵素群を不活性化して生鮮食材の新鮮さを維持させ、生鮮食材としての風味を保ったままで冷蔵庫(10℃以下)に長時間保存することが出来る、長期保存可能な生鮮食材の製造方法を提供することであることを考慮すれば、発明の詳細な説明において、実際に細菌検査を殺菌及び自己分解酵素の不活性化処理後の食材を10℃以下に120日間保存し、その間20日毎に一般細菌検査を実施し、培養し、シャーレー表面の細菌集落数を計測し、120日後まで検出限界以下の菌数であることを確かめているのであるから、【0017】【0018】の真空密封し加熱する加熱操作と、容器を400~600MPaで2~6分間加圧した後大気圧に減圧する高圧処理工程と、を組合わせることによってレトルト殺菌と同等の殺菌と食材の自己分解酵素の不活性化とを行うので、生鮮食品を、生鮮食品としての味覚及び食感を保ったまま10℃以下で長期間保存することができるという効果および技術的思想の記載もあわせて考慮すれば、上記本件特許発明の課題が解決できることは当業者が認識できるといえる。

エ 特許異議申立人は、特許異議申立書22~24頁において、耐熱性の強い耐熱性芽胞菌の芽胞子を含む全ての細菌を殺菌してレトルト殺菌と同等の殺菌ができることの検証のためには、一般生菌数の測定では不十分であることや、【0006】【0007】の記載によれば、600MPaの高圧加圧による、高圧殺菌を3回繰り返すことで、芽胞子を含む全ての細菌を殺菌してレトルト殺菌と同等の殺菌ができることが記載されており、本件訂正前の本件特許発明1の構成では本件特許発明1の課題が解決できると認識できない旨主張している。

しかしながら、本件特許発明の課題は、上述のとおり、耐熱性の強い耐熱性芽胞菌の芽胞子を含む全ての細菌を完全に殺菌してレトルト殺菌と同等の殺菌ができることに限られないから、高圧殺菌によって、生鮮食品の細胞内の自己分解酵素群を不活性化して生鮮食材の新鮮さを維持させ、生鮮食材としての風味を保ったままで冷蔵庫(10℃以下)に長時間保存することが出来る、長期保存可能な生鮮食材の製造方法を提供することをその一つであり、上記本件特許発明の課題であれば、上記の効果及び技術的思想の記載、並びに実施例の一般生菌試験の結果から、上記課題は解決できると当業者が認識できるといえる。

また、【0006】【0007】の背景技術の記載を前提とした、600MPaの高圧加圧による、高圧殺菌を3回繰り返すことが課題解決に必要である旨の特許異議申立人の主張に関しては、【0030】に「更に本発明は、下ごしらえ及び加熱操作を行うことによって、高圧処理工程の加圧条件を緩和させることが可能である。より詳しくは、高圧処理工程のみで殺菌するには、高圧処理を3回行うことが必要であったが、生鮮食材を58℃~100℃で0.5分~60分間加熱する加熱操作と、容器にパッキングされた生鮮食材を400~600MPaで2~6分間加圧した後大気圧に減圧する高圧処理工程を2回と、を組み合わせることにより、10℃以下で90日間以上の長期保存ができ、自己分解酵素による食材の変色、異臭、軟化等を防止できる。下ごしらえ及び加熱操作によって加熱殺菌され、或は細菌や芽胞子が洗い流されたものと考えられる。」と記載されるように、下ごしらえ及び加熱操作と2回の高圧処理が組み合わされたことにより、上記本件特許発明1の課題が解決できたことが示されているのであるから、上記主張も採用できない。

オ 本件特許発明4、6~8の長期間保存可能な生鮮食材の製造方法についても、本件特許発明1を高圧処理工程の温度範囲、酸性食品添加物を添加してpH3.7以下に調整すること、高圧処理後の容器内の液のpH範囲や酸性食品添加物を添加した溶液の生成食材の質量に対する添加質量%範囲、真空密封後、高圧処理工程を行う間の加熱急冷工程の温度と時間、酸性食品添加物の特定事項をさらに特定したものにすぎず、それぞれの追加特定事項についても、【0030】、【0043】~【0047】、【0021】及び【0030】、【0045】及び【0046】の記載もあわせて検討すれば、当業者が本件特許発明4、6~8の課題についても解決できることを認識できるといえる。

カ よって、請求項2、4、6~8の特許を受けようとする発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえ、取消理由1には、理由がない。

2 理由2(新規性)、理由3(進歩性)について

請求項1、5について

2-1 引用例の記載

(1)引用文献1の記載

(1a)「【請求項1】

(a)野菜原料を選別するステップと、

(b)前記選別された野菜原料を包装するステップと、

(c)前記包装された野菜原料に超高圧を用いて常温下で3~60分間200~900MPaの圧力を加える殺菌ステップと、

を含む野菜類食品の製造方法。

【請求項2】

(a)野菜原料を選別するステップと、

(b)前記選別された野菜原料を包装するステップと、

(c)前記包装された野菜原料に超高圧を用いて70~100℃において3~60分間500~900MPaの圧力を加える殺菌ステップと、

を含む野菜類食品の製造方法。

【請求項3】

前記ステップ(b)前に、前記選別された野菜原料の水気の一部を取り除く半乾燥ステップをさらに含み、且つ、

前記ステップ(b)後に、前記包装された野菜原料をブランチングした後に冷却させる熱湯および冷却ステップをさらに含む請求項1または請求項2に記載の野菜類食品の製造方法。

【請求項4】

前記(b)包装ステップを行う前に、天然抗菌剤を添加するステップをさらに含む請求項1または請求項2に記載の野菜類食品の製造方法。

【請求項5】

前記天然抗菌剤は、総重量を基準として0.05~3%(w/w)添加することを特徴とする請求項4に記載の野菜類食品の製造方法。

【請求項6】

前記天然抗菌剤は、有機酸およびニシンのうちの少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項4に記載の野菜類食品の製造方法。

【請求項7】

前記有機酸は、乳酸、酢酸、クエン酸およびコハク酸よりなる群から選ばれることを特徴とする請求項6に記載の野菜類食品の製造方法。

【請求項8】

前記有機酸は、乳酸であることを特徴とする請求項6に記載の野菜類食品の製造方法。

【請求項9】

前記天然抗菌剤を用いてpH4~5に調整することを特徴とする請求項4に記載の野菜類食品の製造方法」

(1b)「【技術分野】

【0001】

本発明は、超高圧・非加熱殺菌工法を用いて生野菜および調理野菜に生育しているかび、酵母、病原性菌および胞子型微生物の胞子などを効率よく殺菌する野菜類食品の製造方法に関する。

【背景技術】

【0002】

韓国の代表的な健康志向食品であるビビンバ(「ビビンバ」は、朝鮮・韓国料理であり、ナムル、肉、卵などの具と、コチュジャンやゴマ油などの調味料を乗せたご飯を混ぜて食べる、いわば混ぜご飯である)、韓食の世界化を先導するメニューであり、米国、ヨーロッパ、中国、日本などの種々のグローバル市場において売上げが拡大されている。しかしながら、主原料である野菜および各種の調理野菜の貯蔵性の限界により加工食品化に多種多様な問題があるが故に、グローバル市場の拡大には限界があるのが現状である。この理由から、加工適性に優れた最適な製造方案を確保することが何よりも重要であるといえる。

【0003】

現在、加工野菜の製造工法は、官能品質損傷を極力抑える弱り加熱および乾燥、冷凍処理に限定されている。加熱殺菌方法としては、100℃における数十秒間のブランチング(湯通し)または85℃における約10分間の後殺菌があるが、マイルドな条件であるが、熱に弱い野菜の特性からみて、加熱による品質の低下が起こり、且つ、耐熱性菌の場合には効率よく減菌されないのが現状である。

【0004】

現在、野菜ベースの加工食品の最も普遍的な長期貯蔵法として広く用いられている方法は乾燥法であり、商業的な乾燥法の代表例は熱風乾燥である。熱風乾燥は、乾燥後に風味、香り、組織感および色相などの官能品質の低下が急激に起こり、且つ、水における加熱調理による復元を必要とする場合が多いため使用に多くの制限が伴われる。

【0005】

凍結乾燥は、熱風乾燥の欠点であるといわれる香り成分の揮発または分解、高温における酸化作用による褐変反応および繊維質、ペクチン質の相互結合による表面の変化などの化学的、物理的な変化を極力抑える乾燥法であるが、水における復元を必ず必要とするため使い勝手が悪く、製造コストも高いという欠点がある。冷凍野菜の場合にも解凍過程を必要とするため、解凍時に品質の低下が伴われ、運搬および保管などに際しても使い勝手が悪いという欠点がある。

【0006】

その他の方法としては、アルコール、有機酸、界面活性剤、バクテリオシンおよびカルシウム剤など様々な天然抗菌剤を用いた浸漬、噴霧などによる野菜微細物の減菌および殺菌法が挙げられるが、これらの微生物の制御効果は比較的に低く、風味、香り、色相などの官能品質の低下を招くため、使用に多くの制限が伴われる。

【0007】

この理由から、現在の加工および殺菌工程では、野菜加工食品の微生物を効率よく制御して流通期限を延ばすことができないため、野菜加工食品の微生物を効率よく制御する新規な殺菌方法が望まれる。

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0008】

本発明者らは、上記の理由からその使用が制限されている各種の生野菜を加工食品の主な原料として幅広く活用できるようにし、野菜ベースの加工食品の品質を向上させるための効果的且つ新規な殺菌方法として、超高圧を用いた野菜内の微生物の死滅技術および工程を開発した。

超高圧技術は、非加熱殺菌技術であり、処理後食品の香味、色相、栄養など化学的な反応に最小限の影響を与えながら効率よく微生物を制御して飲料、ソース、ジャム、肉加工、水産加工などの冷蔵流通製品群のプレミアム化に主として用いられているが、野菜加工食品の分野においては未だ盛んに適用されていないのが現状である。

そこで、本発明の目的は、超高圧・非加熱殺菌工法を用いて生野菜および調理野菜の病原性菌および胞子型微生物の胞子を効率よく死滅させることを特徴とする野菜類食品の製造方法を提供するところにある。

本発明の他の目的は、超高圧・非加熱殺菌工法および天然抗菌剤を併用処理して病原性菌および胞子型微生物の胞子を死滅させることを特徴とする野菜類食品の製造方法を提供するところにある。」

(1c)「【課題を解決するための手段】

【0009】

前記目的を達成するために、本発明は、超高圧を用いて常温下で3~60分間200~900MPaの圧力を加えて、酵母、カビ、病原性菌を死滅させることを特徴とする野菜類食品の製造方法を提供する。

【0010】

また、本発明は、超高圧殺菌工法および天然抗菌剤を併用処理して病原性菌および胞子型微生物の胞子を死滅させることを特徴とする野菜類食品の製造方法を提供する。

【発明の効果】

【0011】

本発明の常温および加熱条件下における超高圧と有機酸および天然抗菌剤の組み合わせを用いた病原性菌および胞子型微生物の胞子に対する新規な殺菌法は、生野菜および様々な野菜加工食品において熱による品質の損傷を極力抑え、野菜内の衛生および品質の低下に関する様々な微生物を効率よく殺菌させる商業的な殺菌技術として多種多様に使用可能である。

【図面の簡単な説明】

【0012】

【図1】図1は、超高圧・非加熱殺菌工程を含む調理野菜に対する殺菌工程を示す図である。」

(1d)「【0019】

・・・

実施例1-2:調理野菜食品の製造

超高圧・非加熱殺菌を行った調理野菜の代表的な製造工程は下記の通りであり、その工程を図1に示す。野菜原料としては、ほうれん草およびにんじんを使用した。

(1)洗浄および脱水、選別工程

野菜原料の表面に付いているホコリ、異物などの汚染物質を除去するために、まず、清水で約3回洗浄した後、脱水機を用いて700rpmにて1分間回転脱水した。

脱水後に、損傷を受けたり病害虫を受けたりした原料は除去して野菜原料を選別した。

(2)半乾燥工程

真空包装および加熱調理を行った後に冷蔵保管をする場合に発生する離水現象を極力抑えるために、55℃において20分間半乾燥させて野菜原料内の水気の一部を取り除いた。

(3)真空包装工程

半乾燥の終わった野菜原料は、透明なビニル袋に入れて真空包装した。

(4)熱湯および冷却工程

95℃において5分間ブランチングして大腸菌など野菜原料内の微生物の一部を死滅させ、風味、香り、色相、組織感など官能品質を向上させる基本的な加熱調理工程を行う。熱湯において基本的な加熱調理工程が終わると、直ちに冷却させて熱による品質の損傷を極力抑える。

通常、野菜のブランチングは、熱水に浸漬して行うが、本実施例においては、包装重量を50g以内にして真空包装することにより、ブランチング工程を適用しても熱の伝達が十分に行われて微生物の一部の死滅および官能品質の向上など目的とする条件に達するため、半乾燥した野菜を袋に真空包装した後にブランチングを行った。

(5)超高圧殺菌工程

真空包装および加熱調理の行われた野菜原料を500MPaの超高圧で3~10分間処理して調理野菜食品を製造した。」

(1e)「【図1】

[図:0001396259000002.jpg]

」

(1f)「【0023】

実施例5:超高圧・非加熱殺菌処理を行った生野菜および調理野菜の貯蔵性の実験

超高圧・非加熱殺菌処理を行った野菜類の性状および成分含量の変化を観察し、冷蔵における貯蔵性を調べるための実験を様々な条件下でにんじんおよびほうれん草を対象として行った。

貯蔵性実験の場合、加熱調理(熱処理)のみを行った野菜と、ここに超高圧殺菌をさらに行った野菜を製造して、10℃および15℃において0~30日間保管しながら好気性および嫌気性の微生物に対する生育有無を点検した。

様々な圧力条件(対照群、加熱調理(熱処理)、非熱処理・超高圧殺菌100MPa、300MPa、500MPa)下で20分間超高圧・非加熱殺菌処理を行った野菜類のアスコルビン酸およびカロチノイド含量の変化を観察し、その結果を図9に示す。図9に示すように、にんじん(■)およびほうれん草(□)は両方とも熱処理により破壊され易い代表的な抗酸化成分であるアスコルビン酸およびカロチノイドも超高圧処理(100MPa、300MPa、500MPa)を行ったときに比較的に多量残存することから、野菜の大きなメリットである機能性成分の維持面からみてもメリットがあるといえる。

また、500MPaの圧力で20分間超高圧・非加熱殺菌処理を行った野菜類の性状を細部的に調べるために、各工程条件別(A~H)に電子走査顕微鏡(SEM)を用いて観察を行い、その結果を図10に示す。

実験したところ、500MPaの超高圧・非加熱殺菌処理を行った実験区と、無処理対照群との間の風味、香り、色相、組織感などの官能的な品質差は大きくないことから、衛生的な処理だけではなく、品質の向上のための最適な製造方法としての超高圧の適用可能性が最終的に確認された。

さらに、加熱調理済み野菜類に対して超高圧・非加熱殺菌処理を行った後、冷蔵条件下での貯蔵性の実験を行い、その結果を下記表1~4に示す。

超高圧を適用しなかった単純な加熱調理対照群に比べて、加熱調理後に500MPaで3分間処理を行った実験区は、10℃~15℃の温度において2~3週間保管したときに平均的に103CFU/g以内の減菌効果が現れて、貯蔵期間も延びることが確認される。」

(2)電子的技術情報2の記載

(2a)「「熱」と「圧力」は,それぞれ独立した物質の状態変換因子でありながら,近年まで食品の加工には圧倒的に「熱」が利用されてきた. 高圧処理は,食品の成分を構成する共有結合を開裂させず,安全性を脅かす異常物質が生じない.また,熱に比べて,栄養素の破壊,異臭の発生,エネルギーの消費が小さく,容器内の全ての部位で,均一な処理が保証されることも未来の食品加工に適している1).」(90頁左欄1~7行)

2-2 引用文献1記載の発明

引用文献1は、超高圧・非加熱殺菌工法を用いて生野菜および調理野菜に生育しているかび、酵母、病原性菌および胞子型微生物の胞子などを効率よく殺菌する野菜類食品の製造方法に関するものであるが(摘記(1b))、請求項2を引用する請求項3の(a)野菜原料を選別するステップと、前記選別された野菜原料の水気の一部を取り除く半乾燥ステップと、その後(b)前記選別された野菜原料を包装するステップと、前記包装された野菜原料をブランチングした後に冷却させる熱湯および冷却ステップと、(c)前記包装された野菜原料に超高圧を用いて70~100℃において3~60分間500~900MPaの圧力を加える殺菌ステップと、を含む野菜類食品の製造方法(摘記(1a))、に対応する実施例1-2の調理野菜食品の製造として、「超高圧・非加熱殺菌を行った調理野菜の代表的な製造工程は下記の通りであり、その工程を図1に示す。野菜原料としては、ほうれん草およびにんじんを使用した。

(1)洗浄および脱水、選別工程

野菜原料の表面に付いているホコリ、異物などの汚染物質を除去するために、まず、清水で約3回洗浄した後、脱水機を用いて700rpmにて1分間回転脱水した。

脱水後に、損傷を受けたり病害虫を受けたりした原料は除去して野菜原料を選別した。

(2)半乾燥工程

真空包装および加熱調理を行った後に冷蔵保管をする場合に発生する離水現象を極力抑えるために、55℃において20分間半乾燥させて野菜原料内の水気の一部を取り除いた。

(3)真空包装工程

半乾燥の終わった野菜原料は、透明なビニル袋に入れて真空包装した。

(4)熱湯および冷却工程

95℃において5分間ブランチングして大腸菌など野菜原料内の微生物の一部を死滅させ、風味、香り、色相、組織感など官能品質を向上させる基本的な加熱調理工程を行う。熱湯において基本的な加熱調理工程が終わると、直ちに冷却させて熱による品質の損傷を極力抑える。

通常、野菜のブランチングは、熱水に浸漬して行うが、本実施例においては、包装重量を50g以内にして真空包装することにより、ブランチング工程を適用しても熱の伝達が十分に行われて微生物の一部の死滅および官能品質の向上など目的とする条件に達するため、半乾燥した野菜を袋に真空包装した後にブランチングを行った。

(5)超高圧殺菌工程

真空包装および加熱調理の行われた野菜原料を500MPaの超高圧で3~10分間処理して調理野菜食品を製造した。」との記載があり(摘記(1d))、実施例1-2の工程を図示した図1には、「熱湯および冷却」工程の条件として、「95℃において5分/流水で5分間」と記載され、【背景技術】の【0004】の記載、実施例5で超高圧・非加熱殺菌処理を行った調理野菜の貯蔵性の実験を行っているので(摘記(1b)摘記(1e)摘記(1f))、実施例1-2および図1に関する記載から以下の発明が認定できるといえる。

「野菜の製造方法として、
(1)ほうれん草およびにんじんを野菜原料として表面の洗浄した後、脱水し、脱水後に、野菜原料を選別する洗浄および脱水、選別工程、(2)55℃において20分間半乾燥させて野菜原料内の水気の一部を取り除く半乾燥工程、(3)半乾燥の終わった野菜原料を透明なビニル袋に入れて真空包装する真空包装工程、(4)95℃において5分間ブランチングして大腸菌など野菜原料内の微生物の一部を死滅させ、風味、香り、色相、組織感など官能品質を向上させる基本的な加熱調理工程、熱湯において基本的な加熱調理工程後、流水で5分間、直ちに冷却させて熱による品質の損傷を極力抑える熱湯および冷却工程、(5)真空包装および加熱調理の行われた野菜原料を500MPaの超高圧で3~10分間処理して調理野菜食品を製造した超高圧殺菌工程を有する方法。」(以下「引用文献1発明」という。)

2-3 対比・判断

本件訂正によって、取消理由2、3の対象となった本件訂正前の本件特許発明1及び本件訂正前の本件特許発明5は、削除されたので、取消理由2、3は解消している。

3 取消理由(決定の予告)の判断のまとめ

以上のとおり、取消理由(決定の予告)において通知した取消理由1~3は、いずれも本件訂正により解消しており、理由がない。

II 取消理由に採用しなかった特許異議申立人が申し立てた理由について(異議申立理由1(明確性)、異議申立理由2-1、異議申立理由2-3及び異議申立理由2-4(サポート要件)、理由3(実施可能要件)、理由4-1(新規性)、理由4-2(進歩性))

なお、異議申立理由2-2については、取消理由として採用されている。

1 特許異議申立人が申し立てた理由(異議申立理由1(第36条第6項第2号・明確性))

請求項2、4、6及び7の「下ごしらえ」という用語について、特許異議申立人は、甲第5号証及び甲第6号証を提示して、甲第5号証には、「あらかじめ準備すること。下準備。」「ざっと大まかにこしらえておくこと」との記載があり、準備はどこまで行うかは、食材の種類や調理の目的で大きく異なることや下ごしらえの定義が決まらないことから不明確であることや甲第6号証に「下ごしらえ」に関する記事として、「できているようで、実はほとんどの人が自己流だったり曖昧だったりする料理の基本。一般的に料理を美味しくするといわれる『下ごしらえ(下処理・下準備)』のコツを、まとめておさらいしてみましょう。」との記載があることを指摘して、「下ごしらえ」概念があいまいで、一義的かつ客観的な定義がない旨主張している。

しかしながら、請求項2の「下ごしらえされる工程」や請求項4、6及び7の「下ごしらえされ」との記載は、甲第5号証にもあるように用語としての記載の技術的意味は明確であり(甲第6号証でも「下ごしらえ」は、「下処理・下準備」との用語で併記して意味を示している。)、生鮮食材の種類や調理の目的によって、具体的な下ごしらえの内容は異なっていたとしても、本件特許明細書の【0019】の「また、本発明の殺菌及び自己分解酵素の不活性化方法は、前処理工程を通じて、生鮮食材それぞれを切り分け、調理方法に応じて区分し、各区分の生鮮食材を計量して圧力が均一に伝わる耐熱性の容器に別個に詰め、出来上がりの火の通りを揃えるよう下ごしらえを行うことが出いるので、容器を開封して直ちに調理でき、簡単な操作で調理し料理できる生鮮食材のキットを提供することができる。」や【0022】の「本発明は、1以上の生鮮食材を含む食材に下ごしらえを行う工程と、生鮮食材を調理方法に応じて区分し、各区分の食材を計量して容器に別個に詰める下ごしらえの工程と、を有することができる。本発明は、下ごしらえの操作を組み合わせることによって、殺菌効果、及び/又は自己分解酵素の不活性化の効果を上げるという協奏効果を示す。」との記載も考慮すれば、生鮮食材の種類や調理方法に応じて区分する工程等と相まって生鮮食材をそれぞれ切り分ける等の準備をして、出来上がりの火の通りを揃えることや、直ちに調理でき、簡単な操作で調理し料理できることや、殺菌効果、及び/又は自己分解酵素の不活性化の効果を上げるという協奏効果をも目的する工程であるとの範囲で理解すればよく、一義的な定義がないからといって、第三者の不測の不利益を生じるほどに不明確であるとはいえない。

したがって、上記異議申立理由1には、理由がない。

2 特許異議申立人が申し立てた理由(異議申立理由2-1、異議申立理由2-3、特許異議申立理由2-4(第36条第6項第1号・サポート要件))

(1)異議申立理由2-1について

ア 特許異議申立人は、特許異議申立書19~21頁において、本件訂正前の請求項1~8に係る特許に関して、官能評価のパネラーの情報や、パネラー間の評価基準の調整法が示されず、不適切な評価手法で評価がなされているから、請求項1~8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明ではなく、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないので、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである旨主張している。

イ しかしながら、本件特許明細書には、【0063】に官能検査の内容として、パネラー数、調理した各食材の購入、保存、調理、実施の方法の記載があり、各食材毎の調理方法が具体的に記載されていること、評価項目が調理された食材の官能検査として特殊な項目ではないことを考慮すれば、パネラーの情報や、パネラー間の評価基準の調整法の記載がないからといって、不適切な評価手法で評価がなされているとはいえず、上記特許異議申立人の主張は採用できない。

ウ したがって、異議申立理由2-1には、理由がない。

(2)異議申立理由2-3について

ア 特許異議申立人は、特許異議申立書25~27頁において、本件訂正前の請求項1、4~8に係る特許に関して、実施例には、600MPa以上の加圧を含む2回以上の圧力工程によって、殺菌を行った例があるだけであるから、甲第3号証や甲第4号証の第1加圧工程と第2加圧工程を有する殺菌の記載を考慮すると、それらの加圧回数や条件の規定のない請求項1、4~8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明ではなく、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないので、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである旨主張している。

イ しかしながら、本件訂正によって、本件特許発明2、4、6~8は、実施例で課題が解決できることが裏付けられた400~600MPaの高圧処理工程を2回行う工程を含む生鮮食材の製造方法に限定されたのであるから、上記特許異議申立人の主張は採用できない。

ウ したがって、異議申立理由2-3には、理由がない。

(3)異議申立理由2-4について

ア 特許異議申立人は、特許異議申立書27~28頁において、本件訂正前の請求項1~8に係る特許に関して、生鮮食品には、あらゆる食品が含まれており、実施例では、それぞれの処理方法は異なっており、食品の種類に応じて適宜他の手段や圧力の調整が必要なのは明らかであるから、本件訂正前の請求項1~8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明ではなく、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないので、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである旨主張している。

イ しかしながら、本件訂正によって、生鮮食品の種類は限定されている上に、食品の種類に応じて適宜他の手段や圧力の調整が必要であることが技術常識であったとしても、当業者であれば、そのような生鮮食品毎の技術常識に応じて適宜他の手段や圧力の一定程度の調整を行えばよく、本件特許発明2、4、6~8は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものであり、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしているので、上記特許異議申立人の主張は採用できない。

ウ したがって、異議申立理由2-4には、理由がない。

3 特許異議申立人が申し立てた理由(異議申立理由3(第36条第4項第1号・実施可能要件))

ア 特許異議申立人は、特許異議申立書29頁において、本件訂正前の請求項1~8に係る特許に関して、規定する「下ごしらえ」の定義が不明確であるから、具体的にどのような工程を経て加熱処理、高圧処理などがなされた「生鮮食材」が上記本件特許発明の範囲に含まれるのか判断できないから、本件訂正前の請求項1~8に係る発明を当業者が実施できるように記載されておらず、その発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである旨主張している。

イ しかしながら、異議申立理由1で検討したのと同様に、「下ごしらえ」という用語については、「あらかじめ準備すること。下準備。」「ざっとおおまかにこしらえておくこと」(甲第5号証)、『下ごしらえ(下処理・下準備)』(甲第6号証)と技術的意味を理解した上で、当業者であれば、具体的な下ごしらえの定義がないからといって、本件特許明細書の【0019】の「また、本発明の殺菌及び自己分解酵素の不活性化方法は、前処理工程を通じて、生鮮食材それぞれを切り分け、調理方法に応じて区分し、各区分の生鮮食材を計量して圧力が均一に伝わる耐熱性の容器に別個に詰め、出来上がりの火の通りを揃えるよう下ごしらえを行うことが出いるので、容器を開封して直ちに調理でき、簡単な操作で調理し料理できる生鮮食材のキットを提供することができる。」や【0022】の「本発明は、1以上の生鮮食材を含む食材に下ごしらえを行う工程と、生鮮食材を調理方法に応じて区分し、各区分の食材を計量して容器に別個に詰める下ごしらえの工程と、を有することができる。本発明は、下ごしらえの操作を組み合わせることによって、殺菌効果、及び/又は自己分解酵素の不活性化の効果を上げるという協奏効果を示す。」との記載も考慮すれば、生鮮食材の種類や調理方法に応じて区分する工程等と相まって生鮮食材をそれぞれ切り分ける等の準備をして、出来上がりの火の通りを揃えることや、直ちに調理でき、簡単な操作で調理し料理できることや、殺菌効果、及び/又は自己分解酵素の不活性化の効果を上げるという協奏効果をも目的する工程であるとの範囲で理解すればよく、本件特許発明を実施するのに過度な試行錯誤を必要とするとはいえない。

したがって、上記特許異議申立人の主張は採用できない。

ウ よって、異議申立理由3には、理由がない。

4 特許異議申立人が申し立てた理由(異議申立理由4-1(第29条第1項3号・新規性)、異議申立理由4-2(第29条第2項・進歩性))

(1)甲号証の記載

ア 甲第1号証及び甲第2号証の記載

甲第1号証(引用文献1)及び甲第2号証(電子的技術情報2)の記載については、I 取消理由(決定の予告)の判断の2 2-1を参照。

また、引用文献1発明を以下、「甲1発明」ともいう。

イ 甲第3号証の記載

「【0021】本発明の方法によれば、まず食品を、初期温度が70℃(158°F)以上、好ましくは少なくとも85℃、より好ましくは90℃(194°F)~100℃(212°F)又はそれ以上となるように予備加熱する。次いで、第1加圧工程は、食品の予備加熱温度又はそれ以上の温度、好ましくは初期温度(予備加熱温度)に断熱温度を加えた温度に加熱された耐圧容器内にて、50000~140000psi又はそれ以上、好ましくは約60000~120000psiの加圧下に、少なくとも約1秒未満~200分、好ましくは10秒~10分、最も好ましくは1~5分実施される。食品への予備加熱と加圧とを組合せることにより、食品の温度は瞬間的に均一に殺菌温度まで上昇し、この状態が一定時間保持される。次いで、圧力を緩め、第1加圧工程で加えられた圧力よりも低い圧力、好ましくは大気圧とすることにより、食品を瞬間的且つ均一に予備加熱温度付近まで冷却する。この加圧を緩める休止工程を瞬時~5分又はそれ以上、好ましくは5秒~1分で終了した後、引き続いて該食品を第2加圧工程で加圧する。該工程は、50000~140000psi、好ましくは60000~120000psiの圧力下に少なくとも1秒未満~200分、好ましくは10秒~10分、最も好ましくは1~5分行われる。第2加圧工程の後、再び圧力を緩め、該食品を常温まで冷却する。第1加圧工程、加圧を緩める工程及び第2加圧工程に要する時間を合計すると、通常30分未満、好ましくは5分未満、より好ましくは1分以下とするのがよく、これに別途圧力の上昇及び下降に要する約2分を含む。加圧下に発生する瞬間的な断熱圧縮及び断熱冷却によって、食品への熱の暴露を最小限にとどめるにもかかわらず(食品が長時間熱に晒されると、その香気、食感及び色調が劣化する)、2つの加圧工程とその間の加圧を緩める休止工程を含む殺菌を実施する場合には、商業的な殺菌が充分に達成される。食品は、耐圧容器に設置される前に、例えば湯浴中で予備加熱される。また、プレート式熱交換器や表面掻き取り式熱交換器で予備加熱することもできる。更に、耐圧容器に装備された加熱器で予備加熱することもできる。耐圧容器として使用できる、加熱及び冷却機能を備えた加圧装置としては、例えば、アーベーベー・オートクレーブ・システム社やエンジニアード・プレッシャー・システム社等の加圧装置等を挙げることができる。」

ウ 甲第4号証

「【0021】本発明の方法によれば、まず食品を、初期温度が70℃(158°F)以上、好ましくは少なくとも85℃、より好ましくは90℃(194°F)~100℃(212°F)又はそれ以上となるように予備加熱する。次いで、第1加圧工程は、食品の予備加熱温度又はそれ以上の温度、好ましくは初期温度(予備加熱温度)に断熱温度を加えた温度に加熱された耐圧容器内にて、50000~140000psi又はそれ以上、好ましくは約60000~120000psiの加圧下に、少なくとも約1秒未満~200分、好ましくは10秒~10分、最も好ましくは1~5分実施される。食品への予備加熱と加圧とを組合せることにより、食品の温度は瞬間的に均一に殺菌温度まで上昇し、この状態が一定時間保持される。次いで、圧力を緩め、第1加圧工程で加えられた圧力よりも低い圧力、好ましくは大気圧とすることにより、食品を瞬間的且つ均一に予備加熱温度付近まで冷却する。この加圧を緩める休止工程を瞬時~5分又はそれ以上、好ましくは5秒~1分で終了した後、引き続いて該食品を第2加圧工程で加圧する。該工程は、50000~140000psi、好ましくは60000~120000psiの圧力下に少なくとも1秒未満~200分、好ましくは10秒~10分、最も好ましくは1~5分行われる。第2加圧工程の後、再び圧力を緩め、該食品を常温まで冷却する。第1加圧工程、加圧を緩める工程及び第2加圧工程に要する時間を合計すると、通常30分未満、好ましくは5分未満、より好ましくは1分以下とするのがよく、これに別途圧力の上昇及び下降に要する約2分を含む。加圧下に発生する瞬間的な断熱圧縮及び断熱冷却によって、食品への熱の暴露を最小限にとどめるにもかかわらず(食品が長時間熱に晒されると、その香気、食感及び色調が劣化する)、2つの加圧工程とその間の加圧を緩める休止工程を含む殺菌を実施する場合には、商業的な殺菌が充分に達成される。食品は、耐圧容器に設置される前に、例えば湯浴中で予備加熱される。また、プレート式熱交換器や表面掻き取り式熱交換器で予備加熱することもできる。更に、耐圧容器に装備された加熱器で予備加熱することもできる。耐圧容器として使用できる、加熱及び冷却機能を備えた加圧装置としては、例えば、アーベーベー・オートクレーブ・システム社やエンジニアード・プレッシャー・システム社等の加圧装置等を挙げることができる。」

エ 甲第5号証

「○1(決定注:原文は丸数字、以下同様。)あらかじめ準備すること。下準備。「祭りの-」○2ざっと大まかにこしらえておくこと。「料理の-」」(1293頁「したごしらえ」の項目)

オ 甲第6号証

「味の決めては「下ごしらえ」にあり!野菜・魚・肉・・・【27食材の基本下処理リスト】
できているようで、実はほとんどの人が自己流だったり曖昧だったりする料理の基本。一般的に料理を美味しくするといわれる『下ごしらえ(下処理・下準備)』のコツを、まとめておさらいしてみましょう。ちょっとしたカットの技術やひと手間で、断然美味しさにさがつきますよ。2018年05月02日作成」(表題、表題下説明文)

カ 甲第7号証

(7a)「《容器包装詰加圧加熱殺菌食品》とは、食品(清涼飲料水、食肉製品、鯨肉製品及び魚肉ねり製品を除く。)を気密性のある容器包装に入れ、密封した後、加圧加熱殺菌したものをいいます。いわゆるレトルトパウチ食品*1もこの項に含まれます。」(表題下《容器包装詰加圧加熱殺菌食品》の説明文)

1p

(7b)「(6)製造の際に行ラ加圧加熱殺薗は、次の二つの条件に適合するように加圧加熱殺薗の方法を定め、その定めた方法により行わなければならない。

○1原材料等に由来して当該食品中に存在し、かつ、発育し得る微生物を死滅させるのに十分な効力を有する方法であること。

○2そのpHが4.6を超え、かつ、水分活性が0.94を超える容器包装詰加圧加熱殺菌食品にあっては、中心部の温度を120°で4 分間加熱する方法又はこれと同等以上の効力を 有する方法であること。」(2 製造基準における(6)の説明文)

キ 甲第8号証

「酵素の働きが抑えられる
野菜はポリフェノールや酸化酵素などが含まれており、貯蔵中に酸化することで切断面の変色を引き起こします。
加熱処理(ブランチング)をするとこれらの酵素の働きが抑えられ、保存している間に野菜が変色するのを防げます。変色しやすい野菜としてはジャガイモやレンコン、ゴボウなどがあります。」(「ブランチング処理の効果」項目における、「酵素の働きが抑えられる」の説明文)

(2)本件特許発明2と甲1発明(引用文献1発明)との対比・判断

ア 対比

本件特許発明2と甲1発明とを対比すると、野菜は生鮮食材であるから、引用文献1発明の「野菜の製造方法」は、本件特許発明2の「長期間保存可能な生鮮食材の製造方法」と「生鮮食材の製造方法」という点で共通している。

また、甲1発明の「(1)ほうれん草およびにんじんを野菜原料として表面の洗浄した後、脱水し、脱水後に、野菜原料を選別する洗浄および脱水、選別工程、(2)55℃において20分間半乾燥させて野菜原料内の水気の一部を取り除く半乾燥工程」は、後に続く真空包装や加熱調理をするためには何らかの計量をしていることは明らかであるので、本件特許発明1の「調理方法に応じて、1以上の生鮮食材のそれぞれに下ごしらえを行う工程と、前記1以上の生鮮食材を区分し、前記各区分の生鮮食材を計量する工程に相当するといえる。

そして、甲1発明の「(3)半乾燥の終わった野菜原料を透明なビニル袋に入れて真空包装する真空包装工程」は、甲第2号証(電子的技術情報2)摘記(2a)の「高圧処理は,食品の成分を構成する共有結合を開裂させず,安全性を脅かす異常物質が生じない.また,熱に比べて,栄養素の破壊,異臭の発生,エネルギーの消費が小さく,容器内の全ての部位で,均一な処理が保証されることも未来の食品加工に適している」との記載や本件特許明細書【0023】の「生鮮食材の容器は、加熱に耐え、圧力が均一に伝わるものであることが好ましく、袋状または、トレー状の容器である事ができる。」との記載、袋状の容器に圧力をかけた場合に圧力が均一にかかることや、その後の加熱処理を考慮すれば一定の耐熱性を袋が有していることは技術常識であることを考慮すると、本件特許発明2の「生鮮食材を圧力が均一に伝わる耐熱性の容器に詰める工程」に相当するといえる。

さらに、甲1発明の「(4)95℃において5分間ブランチングして大腸菌など野菜原料内の微生物の一部を死滅させ、風味、香り、色相、組織感など官能品質を向上させる基本的な加熱調理工程、熱湯において基本的な加熱調理工程後、流水で5分間、直ちに冷却させて熱による品質の損傷を極力抑える熱湯および冷却工程」は、本件特許発明2の「生鮮食材を、58℃乃至100℃で0.5分間乃至60分間加熱し、水で急冷する加熱急冷工程」に該当する。

また、本件特許発明2の「前記下ごしらえされ、前記区分され、前記計量され、前記加熱急冷され、前記容器に詰められ、真空密閉された」という特定事項は、最終的な高圧処理工程の前に、それらの工程が行われることを特定するだけで、それらの工程の順序まで特定していないと理解でき、最終工程としての高圧処理工程において、高圧処理が行われた後に大気圧に減圧しなければ被処理物を扱えないのは当然であるので、甲1発明の「(5)真空包装および加熱調理の行われた野菜原料を500MPaの超高圧で3~10分間処理して調理野菜食品を製造した超高圧殺菌工程」は、本件特許発明2の「前記下ごしらえされ、前記区分され、前記計量され、前記加熱急冷され、前記容器に詰められ、真空密閉された前記生鮮食材を、400MPa乃至600MPaで2分間乃至6分間加圧したのち大気圧に減圧する高圧処理工程」に相当するといえる。

そして、ほうれん草は葉菜類の野菜であるから甲1発明の「ほうれん草及びにんじんを野菜原料として」「95℃において5分間ブランチングして大腸菌など野菜原料内の微生物の一部を死滅させ、風味、香り、色相、組織感など官能品質を向上させる基本的な加熱調理工程、熱湯において基本的な加熱調理工程後、流水で5分間、直ちに冷却させて熱による品質の損傷を極力抑える熱湯および冷却工程」は、本件特許発明2の「生鮮食材は、豆類、葉菜類、及び果菜類を含む野菜、並びに牛、豚、羊、及び家禽類を含む食肉、卵、魚介類、及び魚卵を含む動物性食品であり、

前記加熱急冷工程は、前記野菜は、80℃乃至100℃で加熱し、前記動物性食品のうち、前記牛肉は58℃乃至70℃、前記魚介類及び前記家禽類は65℃乃至70℃、及び、前記豚肉は68℃乃至70℃で加熱し、水で急冷」することに相当する。

したがって、本件特許発明2と甲1発明とは、

「生鮮食材の製造方法であって、
調理方法に応じて、1以上の生鮮食材のそれぞれに下ごしらえを行う工程と、
前記1以上の生鮮食材を区分し、前記各区分の生鮮食材を計量する工程と、
前記生鮮食材を、58℃乃至100℃で0.5分間乃至60分間加熱し、水で
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急冷する加熱急冷工程と、
前記生鮮食材を圧力が均一に伝わる耐熱性の容器に詰める工程と、
前記容器を真空密閉する工程と、
前記下ごしらえされ、前記区分され、前記計量され、前記加熱急冷され、前記
容器に詰められ、真空密閉された前記生鮮食材を、400MPa乃至600MP
aで2分間乃至6分間加圧したのち大気圧に減圧する高圧処理工程と、
を有し、
前記生鮮食材は、豆類、葉菜類、及び果菜類を含む野菜、並びに牛、豚、羊、及び家禽類を含む食肉、卵、魚介類、及び魚卵を含む動物性食品であり、
前記加熱急冷工程は、前記野菜は、80℃乃至100℃で加熱し、前記動物性食品のうち、前記牛肉は58℃乃至70℃、前記魚介類及び前記家禽類は65℃乃至70℃、及び、前記豚肉は68℃乃至70℃で加熱し、水で急冷する生鮮食材の製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1:本件特許発明2が「長期間保存可能な生鮮食材」の製造方法であることを特定しているのに対して、甲1発明では、「生鮮食材」に相当する「野菜」の製造方法との特定はあるものの、「長期間保存可能な」との特定をしていない点。
相違点2:高圧処理工程に関して、本件特許発明2が「高圧処理工程を2回行うことを」特定しているのに対して、甲1発明では、超高圧殺菌工程(本願発明の高圧処理工程に相当)の回数を2回行うことの特定はない点。

イ 相違点の判断

(ア)相違点1の判断

a 甲第1号証の【背景技術】の【0004】の記載、実施例5で超高圧・非加熱殺菌処理を行った調理野菜の貯蔵性の実験を行っている(摘記(1b)摘記(1e))ことを考慮すれば、甲1発明の調理野菜が、長期間保存可能な食材を目的としていることは明らかであるので、甲1発明に長期間保存可能なとの特定がないことは記載されているに等しい事項にすぎない。

したがって、相違点1は、実質的な相違点とはいえない。

b 上記相違点1が実質的相違点であるとしても、甲第1号証の【背景技術】の【0004】の記載、実施例5で超高圧・非加熱殺菌処理を行った調理野菜の貯蔵性の実験を行っている(摘記(1b)摘記(1e))ことの記載があるのであるから、甲1発明において、野菜の製造方法を長期間保存可能なとの特定をすることは、当業者が容易なし得る技術的事項である。

(イ)相違点2の判断

a 甲1発明を認定した甲第1号証には、本件特許発明2の「高圧処理工程」に相当する、甲1発明の「超高圧殺菌工程」に関して、特許請求の範囲の(c)の殺菌ステップに関連した記載として【0014】【0016】【0019】等の記載が存在する。しかしながら、それらの記載及び甲第2~8号証の記載を検討しても、「超高圧殺菌工程」を複数回行うことの記載も示唆もなく、本件特許の出願時の技術常識でもないので、甲1発明において、本件特許発明2の「高圧処理工程」に相当する「超高圧殺菌工程」を2回行うことが甲第1号証に記載されているに等しい事項であるとはいえない。

したがって、相違点2は、実質的相違点である。

b また、熱処理の代替処理として高圧処理の利用に着目した甲第2号証、少なくとも50000psi(50000/14≒3571atm≒35710MPa)という本件特許明細書における超高圧処理(甲第1号証における「超高圧」との用語の使い方が異なり、概念が異なる。)を対象とした第1加圧工程と第2加圧工程の記載があるだけの甲第3号証及び甲第4号証、「下ごしらえ」という用語に関する甲第5号証及び甲第6号証、容器包装詰加圧加熱殺菌食品の定義及び加圧加熱殺菌の方法の記載があるだけの甲第7号証、加熱処理(ブランチング)により酵素の働きが抑えられることに関する記載があるだけの甲第8号証を検討しても、甲1発明において、「超高圧殺菌工程」を複数回行うように製造方法をわざわざ変更する動機付けはなく、相違点2は、甲1発明及び甲第2~8号証に記載された技術的事項から当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

(ウ)本件特許発明2の効果について

本件特許発明2は、本件特許明細書の実施例等の記載を参酌すると、下ごしらえ、区分、計量、生鮮食材ごとの条件による加熱急冷、真空密閉を、2回の高圧処理が組み合わされたことを特定することで、本件特許発明2の構成全体により、【0018】【0019】や実施例に記載された、甲1発明及び本願出願時の技術常識からは、当業者が予測し得ない程顕著な効果を奏している。

ウ 本件特許発明2のまとめ

以上のように、本件特許発明2は、甲第2~8号証の記載を参照しても甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第1号証に記載された発明及び甲第2~8号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件特許発明4と甲1発明との対比・判断

ア 対比

本件特許発明4は、本件特許発明2において、「高圧処理を2回行うこと」に関して、「60℃乃至70℃で前記高圧処理工程を行い、次いで常温で前記高圧処理工程を行う」ことに限定して特定したものである。

本件特許発明4と甲1発明とを対比すると、本件特許発明2と甲1発明との同様の対比により、相違点1及び以下の相違点2-4があるといえる。

相違点2-4:高圧処理工程に関して、本件特許発明4が「60℃乃至70℃で前記高圧処理工程を行い、次いで常温で前記高圧処理工程を行う」ことを特定しているのに対して、甲1発明では、超高圧殺菌工程(本願発明の高圧処理工程に相当)の回数を2回行うことの特定はない点。

イ 相違点の判断

本件特許発明2と甲1発明との対比・判断における相違点2の判断と同様に、本件特許発明4と甲1発明との対比における相違点2-4は、本件特許発明4の「高圧処理工程」に相当する「超高圧殺菌工程」を「60℃乃至70℃で前記高圧処理工程を行い、次いで常温で前記高圧処理工程を行う」ことが甲第2~8号証の記載を参照しても、甲第1号証に記載されているに等しい事項であるとはいえないし、甲1発明及び甲第2~8号証に記載された技術的事項から当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

ウ 本件特許発明4の効果は、本件特許発明4の構成全体により、【0018】【0019】や実施例に記載された、甲1発明及び本願出願時の技術常識からは、当業者が予測し得ない程顕著な効果を奏している。

エ 本件特許発明4のまとめ

以上のように、本件特許発明4は、甲第2~8号証の記載を参照しても甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第1号証に記載された発明及び甲第2~8号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件特許発明6~8と甲1発明との対比・判断

ア 対比

本件特許発明6、7又は8は、それぞれ、本件特許発明2において、「生鮮食材を、酸性食品添加物を添加してpH3.7以下に調整した」こと、本件特許発明2又は4において「高圧処理後の前記容器内の液のpHが4.5乃至5.7になるよう前記酸性食品添加物を添加した溶液を、前記生鮮食材の質量に対して5質量%乃至20質量%添加」すること、本件特許発明6又は7において、「酸性食品添加物が、ビタミンC、醸造酢、又は果汁から選ばれる1以上であること」をさらに限定して特定したものである。

本件特許発明6、7又は8と甲1発明とを対比すると、本件特許発明2と甲1発明との対比と同様に、両者は、相違点1並びに、相違点2(請求項2を引用する場合)又は相違点2-4(請求項4を引用する場合)のほかに、それぞれ以下の相違点があるといえる。

本件特許発明6について

相違点3-6:本件特許発明6は、「生鮮食材を、酸性食品添加物を添加してpH3.7以下に調整した」ことを特定しているのに対して、甲1発明においては、超高圧殺菌工程(本願発明の高圧処理工程に相当)後の酸性食品添加物を添加してpH調整をしたことの特定はない点。

本件特許発明7について

相違点3-7:本件特許発明7は、「高圧処理後の前記容器内の液のpHが4.5乃至5.7になるよう前記酸性食品添加物を添加した溶液を、前記生鮮食材の質量に対して5質量%乃至20質量%添加」することを特定しているのに対して、甲1発明においては、超高圧殺菌工程(本願発明の高圧処理工程に相当)後の酸性食品添加物を添加した溶液のpH範囲や生鮮食材の質量に対しての上記溶液の添加割合の特定がない点。

本件特許発明8について

相違点3-6又は相違点3-7に加えて、

相違点4-8:本件特許発明8は、「酸性食品添加物が、ビタミンC、醸造酢、又は果汁から選ばれる1以上であること」が特定されているのに対して、甲1発明においては、酸性食品添加物の種類について特定のない点。

イ 相違点の判断

本件特許発明2と甲1発明との対比・判断における相違点2の判断、又は本件特許発明4と甲1発明との対比・判断における相違点2-4の判断と同様に、本件特許発明6、7又は8と甲1発明との対比における相違点2又は相違点2-4は、本件特許発明2又は4の「高圧処理工程」に相当する甲1発明の「超高圧殺菌工程」を、それぞれ、「2回行うこと」又は「60℃乃至70℃で前記高圧処理工程を行い、次いで常温で前記高圧処理工程を行う」ことが甲第2~8号証の記載を参照しても、甲第1号証に記載されているに等しい事項であるとはいえないし、甲1発明及び甲第2~8号証に記載された技術的事項から当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

ウ 本件特許発明6、7又は8の効果は、本件特許発明6、7又は8の構成全体により、【0018】【0019】や実施例に記載された、甲1発明及び本件特許の出願時の技術常識からは、当業者が予測し得ない程顕著な効果を奏している。

エ 本件特許発明6、7又は8のまとめ

以上のように、本件特許発明6、7又は8は、相違点3-6、相違点3-7、相違点4-8に関して検討するまでもなく、甲第2~8号証の記載を参照しても甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第1号証に記載された発明及び甲第2~8号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

オ 以上のとおり、異議申立理由4-1及び異議申立理由4-2には、理由がない。

5 特許異議申立人の意見書における主張について

(1)サポート要件について

特許異議申立人は、令和4年11月4日提出の意見書2~6頁において、参考資料9~11を提出して、本件特許発明において、本件訂正によって、根菜類が含まれないことは特定されていないし、ボツリヌス菌やバチルスセレウ(セレウス菌)等の耐熱性の強い芽胞細菌が問題となる食材は根菜類に限られないので、70℃程度の加熱条件で殺菌できないのは明らかであり、本件特許発明の課題が解決できない旨主張している。

しかしながら、ボツリヌス菌やバチルスセレウ(セレウス菌)等の耐熱性の強い芽胞細菌が問題となる食材は根菜類に限られないことが知られているとしても、本件特許発明の課題の一つは、取消理由1の判断で検討したように、高圧殺菌によって、生鮮食品の細胞内の自己分解酵素群を不活性化して生鮮食材の新鮮さを維持させ、生鮮食材としての風味を保ったままで冷蔵庫(10℃以下)に長時間保存することが出来る、長期保存可能な生鮮食材の製造方法を提供することにあり、ボツリヌス菌やバチルスセレウ(セレウス菌)等の耐熱性の強い芽胞細菌を含めた全ての細菌を殺菌できなければ本件特許発明の課題が解決できないとまではいえない。

したがって、本件特許発明に関し、本件特許明細書で、下ごしらえ、区分、計量、生鮮食材ごとの条件による加熱急冷、真空密閉を、2回の高圧処理と組み合わせる解決手段によって、上記長期保存可能な生鮮食材の製造方法を提供するという課題が実施例を伴って示されている以上、ボツリヌス菌やバチルスセレウ(セレウス菌)等の耐熱性の強い芽胞細菌を含めた全ての細菌を殺菌することが本件特許発明の課題であることを前提とした特許異議申立人の主張は採用できない。

(2)進歩性について

特許異議申立人は、令和4年11月4日提出の意見書6~10頁において、参考資料12を提出して、実際には、レトルト殺菌と同等の殺菌ができないものをできるかのように表示することの問題点や甲第3号証及び甲第4号証を参照すれば甲第1号証の高圧殺菌を行うことは当業者が容易になし得る旨主張している。

しかしながら、甲第12号証には、ボツリヌス菌による食中毒の予防のポイントに関して述べている個所でまぎらわしい形態の缶詰食品に関して記載されているだけで、本件特許発明の長期保存可能な生鮮食材の製造方法との関係は不明であるし、取消理由2の判断において検討したように、甲第3号証及び甲第4号証は、本件特許発明の高圧処理とも、甲第1号証の超高圧処理とも全く異なる極めて高い圧力下での処理を前提とする文献であるから、甲第1号証の高圧殺菌に採用する動機付けがあるとはいえない。

したがって、上記特許異議申立人の主張は採用できない。

5 まとめ

本願の請求項2、4及び6~8に係る特許に関して、請求項2、4及び6~8に係る発明は、明確であり、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合し、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものであり、発明の詳細な説明に記載された発明であるので、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合し、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。

そして、請求項2、4及び6~8に係る特許に関して、その発明の詳細な説明の記載が請求項2,4及び6~8に係る発明を当業者が実施できるように明確かつ十分に記載されており、特許法第36条第4項第1号に適合し、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。

さらに、本件特許発明2、4及び6~8は、本件特許出願前に日本国内又は外国で頒布された、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2~8号証を参照しても、本件特許出願前に日本国内又は外国で頒布された甲第1号証に記載された発明とはいえないので、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえず、本件特許の請求項2、4及び6~8に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものとはいえない。

また、本件特許発明2、4及び6~8は、本件特許出願前に日本国内又は外国で、頒布された甲第1号証に記載された発明及び本件特許出願前に日本国内又は外国で頒布された、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2~8号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明することができたものとはいえず、本件特許の請求項2、4及び6~8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。

第6 むすび

以上のとおり、本件請求項2、4、6~8に係る発明の特許は、取消理由通知に記載した取消理由並びに特許異議申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、取り消されるべきものとはいえない。

そして、請求項1、3及び5に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項1、3及び5に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

また、ほかに本件請求項2、4、6~8に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

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2021-701016

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