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特許異議申立

2021-700646

貴金属スパッタリングターゲット材

審判番号
2021-700646
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-153473外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
登録番号
6810824
請求日
2021年07月06日
審決日
2022年08月30日
公報発行日
2022年11月25日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.113-YAA(C23C) / P1651.121-YAA(C23C) / P1651.536-YAA(C23C)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第29条第1項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6810824号発明「貴金属スパッタリングターゲット材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6810824号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 特許第6810824号の請求項3ないし6に係る特許を維持する。 特許第6810824号の請求項1及び2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第6810824号の請求項1~6に係る特許についての出願は、令和2年9月14日(優先権主張 同年8月17日)を出願日とする出願であり、同年12月15日にその特許権の設定登録がされ、令和3年1月6日に特許掲載公報が発行され、その後、全請求項(請求項1~6)に係る特許について、同年7月6日に特許異議申立人中川賢治(以下、「異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがなされ、同年9月7日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年11月15日に特許権者より意見書の提出があり、同年同月30日付けで異議申立人に対して審尋がされ、その指定期間内である同年12月28日に異議申立人より回答書の提出がなされ、令和4年4月12日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である同年6月7日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求があったものである。 第2 訂正の適否 1 訂正事項 上記令和4年6月7日になされた訂正の請求は、本件明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求めるものであって、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の具体的な訂正事項は次のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1を削除する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3に「白金の鋳造インゴットからなり、水素含有量が5wtppm未満、燐含有量が1wtppm以下、硫黄含有量が1wtppm以下であり、ビッカース硬度が37~55Hvであることを特徴とする請求項1に記載の貴金属スパッタリングターゲット材。」とあるのを、「白金の鋳造インゴットからなる貴金属スパッタリングターゲット材であって、水素含有量が5wtppm未満、燐含有量が1wtppm以下、硫黄含有量が1wtppm以下であり、ビッカース硬度が37~55Hvであることを特徴とする貴金属スパッタリングターゲット材。」に訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4に「パラジウムの鋳造インゴットからなり、水素含有量が5wtppm未満、燐含有量が1wtppm以下、硫黄含有量が1wtppm以下であり、ビッカース硬度が45~140Hvであることを特徴とする請求項1に記載の貴金属スパッタリングターゲット材。」とあるのを、「パラジウムの鋳造インゴットからなる貴金属スパッタリングターゲット材であって、水素含有量が5wtppm未満、燐含有量が1wtppm以下、硫黄含有量が1wtppm以下であり、ビッカース硬度が45~140Hvであることを特徴とする貴金属スパッタリングターゲット材。」に訂正する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5に「銀の鋳造インゴットからなり、水素含有量が5wtppm未満、燐含有量が1wtppm以下、硫黄含有量が1wtppm以下であり、ビッカース硬度が25~55Hvであることを特徴とする請求項1に記載の貴金属スパッタリングターゲット材。」とあるのを、「銀の鋳造インゴットからなる貴金属スパッタリングターゲット材であって、水素含有量が5wtppm未満、燐含有量が1wtppm以下、硫黄含有量が1wtppm以下であり、ビッカース硬度が25~55Hvであることを特徴とする貴金属スパッタリングターゲット材。」 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項6に「水素含有量が1wtppm以下であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の貴金属スパッタリングターゲット材。」とあるのを、「水素含有量が1wtppm以下であることを特徴とする請求項3~5のいずれか一項に記載の貴金属スパッタリングターゲット材。」に訂正する。 (7)訂正事項7 明細書の【0013】に「押付荷重:200kgf」とあるのを、「押付荷重:200gf」に訂正する。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1及び2について 訂正事項1及び2は、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。 (2)訂正事項3~5について 訂正事項3~5は、それぞれ、訂正前の請求項1を引用し、「・・・の鋳造インゴットからなり・・・貴金属スパッタリングターゲット材。」とされていた訂正前の請求項3~5の記載を、訂正前の請求項1の「鋳造インゴットからなるスパッタリングターゲット材であって・・・貴金属スパッタリングターゲット材。」との記載形式に合わせることにより、訂正前の請求項3~5が訂正前の請求項1を引用する記載であったものを、それぞれ、請求項間の引用関係を解消し、請求項1を引用しない独立形式の請求項に改める訂正であるから、訂正事項3~5は、それぞれ、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。 また、訂正事項3~5は、それぞれ、訂正前の請求項1を引用していた訂正前の請求項3~5を、請求項1を引用しない独立形式の請求項に改める訂正であり、その実質的な内容に変わりはないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。 (3)訂正事項6について 訂正事項6は、訂正前の請求項6が「請求項1~5のいずれか一項」を引用していたのを、訂正事項1及び2の訂正により請求項1及び2が削除されたことに伴い、これに整合させるため引用する請求項を「請求項3~5のいずれか一項」と引用請求項数を減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 また、訂正事項6は、訂正前の請求項6が引用していた請求項数が減少するものであり、訂正後の請求項6の内容は、訂正前の請求項6の範囲内のものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。 (4)訂正事項7について ア 訂正事項7は、本件明細書の【0013】に「押付荷重:200kgf」とあるのを「押付荷重:200gf」とするものであるが、同【0013】の記載によれば、この「200kgf」とは、本件明細書に記載される貴金属スパッタリングターゲット材のビッカース硬度を、測定装置として、「微小硬さ試験機(株式会社 ミツトヨ)、型式:HM-221」を用いて測定する際の押付荷重の条件である。ここで、令和4年6月7日に提出された意見書に添付された乙第7号証(硬さ試験機総合 HARDNESS TESTING MACHINES, CATALOG No.17001, Mitutoyo, 1~2、7~10頁、以下、「乙7」という。後記エにてその内容を摘示)を参照すると、後記エ(ア)の記載によれば、微小硬さ試験機HM-200シリーズのコードNo.810-353のHM-221の試験力範囲が0.4903~19610mNであり、後記同(イ)の「最新の電磁力(フォースモータ)方式の負荷機構を採用することで・・・最小試験力0.4903mN(0.05gf)~19610mN(2kgf)のワイドレンジを実現しました。」との記載によれば、微小硬さ試験機HM-221の試験力範囲は0.05gf~2kgfであること、さらに、後記(ウ)の「■仕様」に関する記載によれば、微小硬さ試験機HM-221の幾つかの「固定試験力」の中で、具体的に「200gf」が中心的な数値として記載されている。そして、乙7に示されるように、微小硬さ試験機HM-221の試験力範囲の上限は高々数kgfであり、この微小硬さ試験機におけるビッカース硬度の測定において、幾つかの「固定試験力」中で中心的な値が「200gf」とされているようにgfのレベルでの測定が普通であることは、当業者の技術的な常識であるといえるから、同【0013】の「押付荷重:200kgf」は、「押付荷重:200gf」の誤記であることが明らかである。 そうすると、訂正事項7は、誤記の訂正を目的とするものである。 イ 訂正事項7は、「押付荷重:200gf」であったことが明らかな記載を、本来の内容に訂正するものであるから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。 ウ 訂正事項7は、訂正前の請求項1~6に係る発明の実施例における誤記を訂正するものであり、訂正前の請求項1~6に対応する明細書の記載を訂正するものであるといえるから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するものである。 エ 乙7の記載事項 (ア)「 [図:0001390551000001.jpg] 」(7頁) (イ)「 [図:0001390551000002.jpg] ・・・ [図:0001390551000003.jpg] 」(8頁) (ウ)「 [図:0001390551000004.jpg] 」(10頁) 3 小括 本件訂正は、特許法第120条の5第4項及び同法第126条第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項〔1ないし6〕について訂正することを求めるものであるところ、上記2のとおり、訂正事項1~7は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、訂正後の請求項〔1ないし6〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の請求項1ないし6に係る発明(以下、各請求項に係る発明及び特許を項番に対応させて「本件発明3」、「本件特許3」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。)の記載は、次のとおりである。 「【請求項1】 (削除) 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 白金の鋳造インゴットからなる貴金属スパッタリングターゲット材であって、水素含有量が5wtppm未満、燐含有量が1wtppm以下、硫黄含有量が1wtppm以下であり、ビッカース硬度が37~55Hvであることを特徴とする貴金属スパッタリングターゲット材。 【請求項4】 パラジウムの鋳造インゴットからなる貴金属スパッタリングターゲット材であって、水素含有量が5wtppm未満、燐含有量が1wtppm以下、硫黄含有量が1wtppm以下であり、ビッカース硬度が45~140Hvであることを特徴とする貴金属スパッタリングターゲット材。 【請求項5】 銀の鋳造インゴットからなる貴金属スパッタリングターゲット材であって、水素含有量が5wtppm未満、燐含有量が1wtppm以下、硫黄含有量が1wtppm以下であり、ビッカース硬度が25~55Hvであることを特徴とする貴金属スパッタリングターゲット材。 【請求項6】 水素含有量が1wtppm以下であることを特徴とする請求項3~5のいずれか一項に記載の貴金属スパッタリングターゲット材。」 第4 令和4年4月12日付けで通知した取消理由通知(予告)の理由及び取消理由通知(予告)で採用しなかった令和3年9月7日付けで通知した取消理由及び特許異議の申立理由の概要 1 取消理由(予告)の概要 (1)特許法第29条第1項3号所定の規定違反(新規性欠如)(取消理由1) 訂正前の請求項1、2及び6(訂正前の請求項1、2を引用するもの)に係る発明は、下記3(1)に記載の引用例1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 (2)特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)(取消理由2) 訂正前の請求項1、2及び6(訂正前の請求項1、2を引用するもの)に係る発明は、下記3(1)に記載の引用例1に記載された発明及び引用例1、2に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 2 取消理由(予告)で採用しなかった令和3年9月7日付けで通知した取消理由の概要 ・特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)(取消理由3) 訂正前の請求項1~6に係る発明の貴金属スパッタリングターゲット材を製造する方法について、本件明細書の例えば【0016】には「(Auスパッタターゲット) 純度4NのAu原料を高純度カーボン坩堝にて大気溶解した後、Au溶湯を鋳型に注湯し、その後、水中で急速冷却してAu鋳造インゴット(スパッタリングターゲット材)を作製した。大気溶解の際、微量の水蒸気又は水素ガスを適当量溶湯中に吹き込むことで、インゴット中の水素含有量を調整した。また、硫黄、燐についても、溶湯中に微量添加することで硫黄含有量、燐含有量を調整した。」と記載されている。この記載によれば、貴金属スパッタリングターゲット材において「水素含有量が5wtppm未満(1wtppm未満)、燐含有量が1wtppm以下、硫黄含有量が1wtppm以下」との条件を達成するには、溶融した純度4Nの貴金属原料に、微量の水蒸気又は水素ガスを適当量溶湯中に吹き込むと共に硫黄、燐についても、溶湯中に微量添加することが理解できる。しかしながら、水素、硫黄及び燐を微量添加して、「水素含有量が5wtppm未満、燐含有量が1wtppm以下、硫黄含有量が1wtppm以下」の条件が満たされるのであれば、水素、硫黄及び燐が添加される前の純度4Nの貴金属原料における水素含有量、燐含有量及び硫黄含有量は、さらに小さく、必然的に、前記の条件を満たすはずである。しかしながら、上記【0016】等に記載される純度4Nの貴金属原料が、実際、訂正前の請求項1~6に係る発明の条件を満たしている材料であるのか明らかでないし、純度4Nの貴金属原料が既に、訂正前の請求項1~6に係る発明の条件を満たしているのであれば、微量の水蒸気又は水素ガスを適当量溶湯中に吹き込むと共に硫黄、燐についても、溶湯中に微量添加する工程が、訂正前の請求項1~6に係る発明の貴金属スパッタリングターゲット材を製造する上で、必ず行うべき工程であるのか否か明らかでない。 さらに、水素、硫黄及び燐は、不可避的な不純物として含まれるものとも理解されるところ、純度4Nの貴金属原料すなわち、99.99%の純度の貴金属では、0.01%(100ppm)程度の不純物元素を含むことになり、訂正前の請求項1~6に係る発明の条件を満たすには、むしろ、水素、硫黄及び燐含有量を低減させることが必要であることも考えられるが、前記【0016】等の記載では、その点について明らかでない。そして、これら製造方法において不明な点は、本件優先日当時の技術常識を考慮したとしても明らかでない。 そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明の【0016】等の記載では、「水素含有量が5wtppm未満(1wtppm未満)、燐含有量が1wtppm以下、硫黄含有量が1wtppm以下」との条件を満たす貴金属スパッタリングターゲット材の製造方法が明らかでないから、訂正前の請求項1~6に係る発明の鋳造インゴットからなる貴金属スパッタリングターゲット材を製造するには過度の試行錯誤を要するものであり、訂正前の請求項1~6に係る発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件に適合しているとはいえない。 3 令和4年4月12日付けで通知した取消理由(予告)及び令和3年9月7日付けで通知した取消理由において採用しなかった特許異議の申立理由の概要 (1)特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)(申立理由1) 訂正前の請求項3~5に係る発明は、下記に記載の引用例1に記載された発明及び引用例1~6に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。(なお、引用例2は、当審で引用した文献であるが、取消理由2で引用しているため念のため引用例2も含めて検討する。) 記 引用例1:特開2019-99891号公報(異議申立人の提出した甲第1号証) 引用例2:特開2002-275561号公報(当審で新たに引用) 引用例3:特開2007-239089号公報(異議申立人の提出した甲第2号証) 引用例4:特開2013-1956号公報(異議申立人の提出した甲第3号証) 引用例5:特開2016-20526号公報(異議申立人の提出した甲第4号証) 引用例6:特開平10-60632号公報(異議申立人の提出した甲第5号証) (2)特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)(申立理由2) 訂正前の請求項2~5に係る発明では、ビッカース硬度が特定され、本件明細書の【0013】には、ビッカース硬度の測定方法が以下のように記載されている。 「ビッカース硬度の測定に使用した装置を以下に示す。 測定装置:微小硬さ試験機(株式会社 ミツトヨ) 型式:HM-221 押付荷重:200kgf」と記載されている。 しかしながら、金や白金等の軟らかい貴金属に対して、押付荷重200kgfのような大きな押付荷重ではビッカース硬度の正確な測定はできないのであるから、本件明細書の表1~表4に記載されたビッカース硬度が本当にこの測定方法で測定されたものであるのか不明である。 そうすると、本件明細書は当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえないものである。 第5 当審の判断 1 取消理由1、2について 本件訂正により、取消理由1、2の対象となる訂正前の請求項1、2及び6(訂正前の請求項1、2を引用するもの)に係る発明は削除されたため、取消理由1、2については、理由がない。 2 取消理由3について (1)取消理由3の内容は、要するに、訂正前の請求項1~6に係る発明の「水素含有量が5wtppm未満(訂正前の請求項6に係る発明では、1wtppm未満)、燐含有量が1wtppm以下、硫黄含有量が1wtppm以下」である貴金属スパッタリングターゲット材に関する製造方法として、例えば、本件明細書の【0016】等に「(Auスパッタターゲット) 純度4NのAu原料を高純度カーボン坩堝にて大気溶解した後、Au溶湯を鋳型に注湯し、その後、水中で急速冷却してAu鋳造インゴット(スパッタリングターゲット材)を作製した。大気溶解の際、微量の水蒸気又は水素ガスを適当量溶湯中に吹き込むことで、インゴット中の水素含有量を調整した。また、硫黄、燐についても、溶湯中に微量添加することで硫黄含有量、燐含有量を調整した。」と記載されているが、訂正前の請求項1~6に係る発明の条件を満たすには、むしろ、純度4NのAu原料で、水素含有量、硫黄含有量及び燐含有量を低減させなければならないと考えられるところ、上記製造方法では、水素含有量、硫黄含有量及び燐含有量を増加させている点で、実際、訂正前の請求項1~6に係る発明の貴金属スパッタリングターゲット材を製造することができるのか明らかでなく、その製造には、過度の試行錯誤を要するため、訂正前の請求項1~6に係る発明に対応する発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たしていない、というものである。 (2)これに対し、令和3年11月15日に特許権者から提出された意見書で、上記の製造方法について、「これは実施例と比較するために、意図的に水素、燐、硫黄を添加して、濃度の高いサンプルを作製するためです。実施例では、純度4N以上の原料を用い、高純度カーボン坩堝、あるいは高純度ジルコニア坩堝を使用することで、「水素含有量が5wtppm未満(1wtppm未満)、燐含有量が1wtppm以下、硫黄含有量が1wtppm以下」の条件を達成しています。」(6頁末行~7頁6行)との釈明がなされたが、この釈明によれば、上記【0016】等における「大気溶解の際、微量の水蒸気又は水素ガスを適当量溶湯中に吹き込むことで、インゴット中の水素含有量を調整した」とは、例えば、比較例等、意図的に水素、燐及び硫黄の含有量の高いサンプルを作製する場合の操作であることが理解できる。 一方で、「水素含有量が5wtppm未満(1wtppm未満)、燐含有量が1wtppm以下、硫黄含有量が1wtppm以下」の条件を満足する貴金属スパッタリングターゲット材をどの様に製造するかについて、同意見書の「一般に貴金属スパッタリングターゲットを製造する場合、市販の貴金属のスポンジやインゴットを溶解して、揮発性元素やガス不純物などを揮発、除去した後、これを鋳型に注湯して、インゴットを作製します(乙第4号証)。」(第5頁3~6行)、「溶解時に使用する坩堝(焼結体)には、坩堝の構成材料や焼結助剤に含まれる燐や硫黄の酸化物が含まれること、また、これらの不純物の混入を防止することで、ターゲット形状に加工する際にマイクロクラックの発生を抑制することができ、製品の歩留まりを著しく改善することができました。」(第5頁15~19行)、及び「本件明細書の段落[0016]、[0019]、[0022]、[0025]に記載される通り、本件では、貴金属原料を高純度カーボン坩堝や高純度ジルコニア坩堝を用いて溶解しています。一方、引用文献1は、段落[0032]に記載されるように「黒鉛るつぼまたはセラミックスるつぼ」を用いて溶解しています。黒鉛るつぼや、セラミックスるつぼは、比較的不純物が少ないですが、それでも燐や硫黄などの不純物の混入が見られます。黒鉛坩堝やセラミックス坩堝の場合、燐:0.16~2.3%程度、硫黄:2~11wtppm程度、混入するという分析結果があります。さらに坩堝は多孔質であることから保管時に空気中の水分を吸収して、坩堝使用時に水素が混入するということがあります。一方、本件で使用する高純度カーボン坩堝はハロゲン雰囲気下で熱処理されるので、坩堝内に含まれる上記不純物が十分に少ないものとなっています。そして、このような高純度坩堝を使用することで、原料溶解時の水素、燐、硫黄の混入を防止しています。」(第5頁20行~6頁7行)の記載によれば、一般に貴金属スパッタリングターゲットを製造する場合、インゴットを作製する際の貴金属原料の高温での溶解により、水素、燐及び硫黄等の揮発性元素やガス不純物などは、揮発、除去されるものの、貴金属の溶解時に使用する坩堝、例えば、引用例1の後記3(1)ア(オ)に記載される黒鉛るつぼまたはセラミックスるつぼを用いると、貴金属溶解時に水素、燐及び硫黄等の不純物の混入が生じてしまう。しかしながら、本件明細書の上記製造方法に記載されている高純度カーボン坩堝を使用すれば、坩堝内に含まれる不純物が十分に少ないものとなっていることにより、貴金属溶解時における水素、燐及び硫黄の混入を防止することができることが、技術常識として理解できる。 上記の理解に基づけば、本件明細書の【0016】等の記載から、まず、純度4NのAu原料を用いること、Au原料を、高純度カーボン坩堝にて大気溶解することにより、水素、燐及び硫黄等の揮発性元素やガス不純物を除去する(さらにこれらの元素の坩堝からの混入がない)ことにより、「水素含有量が5wtppm未満(1wtppm未満)、燐含有量が1wtppm以下、硫黄含有量が1wtppm以下」の条件を満足する貴金属スパッタリングターゲット材を製造することが理解できる。 そうすると、本件明細書の【0016】等の記載により、本件発明3~6(本件訂正により、訂正前の請求項1、2に係る発明は、削除された。)の「水素含有量が5wtppm未満(1wtppm未満)、燐含有量が1wtppm以下、硫黄含有量が1wtppm以下」との条件を満足する貴金属スパッタリングターゲット材をどの様にすれば製造できるかが理解でき、それらを製造するのに過度の試行錯誤を要するということはないから、本件発明3~6に対応する発明の詳細な説明の記載は実施可能要件に適合している。 したがって、取消理由3については、理由がない。 3 申立理由1について (1)各引用例の記載事項 ア 引用例1の記載事項 (ア)「【請求項1】 99.999%以上の金純度を有する金スパッタリングターゲットであって、 ビッカース硬さの平均値が20以上40未満であり、 平均結晶粒径が15μm以上200μm以下であり、 スパッタされる表面に金の{110}面が優先配向している、金スパッタリングターゲット。 ・・・ 【請求項7】 99.999%以上の金純度を有し、ビッカース硬さの平均値が20以上40未満であり、平均結晶決勝晶粒径が15μm以上200μm以下であり、スパッタされる表面に金の{110}面が優先配向している金スパッタリングターゲットを製造する工程を具備する金スパッタリングターゲットの製造方法。 ・・・ 【請求項11】 前記金スパッタリングターゲットの製造工程は、 99.999%以上の金純度を有する金インゴットを用意する工程と、 前記金インゴットを加工して所望の板状または円筒状の金ビレットを形成する第1の加工工程と、 前記金ビレットを加圧下で板厚を減少させつつ加工して所望のプレート状または円筒状のターゲット素材を形成する第2の加工工程と、 前記ターゲット素材を熱処理する熱処理工程と を具備する、請求項7ないし請求項10のいずれか1項に記載の金スパッタリングターゲットの製造方法。」 (イ)「【0008】 このような状況下において、Au膜の膜厚バラツキに基づく質量バラツキを低減することが可能になれば、周波数の調整に要する手間を大幅に削減することができる。特に、水晶振動子が小型化するほど、膜厚バラツキの影響が大きくなるため、質量がばらつきやすくなる。このような点からも、Auスパッタ膜の膜厚バラツキを小さくすることが求められている。さらに、Au膜の使用用途によっては、より高純度のAu膜が求められることがある。例えば、Auの純度が99.999%以上というようなAu膜をスパッタリング法により形成する場合、Auの純度が99.999%以上のスパッタリングターゲットが用いられるが、そのような場合にAu膜の膜厚バラツキが生じやすくなる。このような点から、より高純度のAuスパッタリングターゲットを用いた場合において、Auスパッタ膜の膜厚バラツキを小さくすることが求められている。 ・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0010】 本発明は、高純度のAu膜の膜厚分布の均一性を高めることを可能にした金スパッタリングターゲットおよびその製造方法を提供することを目的とする。」 (ウ)「【0014】 以下、本発明を実施するための形態について説明する。実施形態のスパッタリングターゲットは、金(Au)および不可避不純物からなる。スパッタリングターゲットにおけるAuの純度は、99.999%以上に設定される。99.999%以上のAu純度を有するスパッタリングターゲットを用いることによって、高純度のAu膜を得ることができる。なお、Auスパッタリングターゲットに含まれるAu以外の不可避不純物は、特に限定されるものではなく、上記したAu純度を満足していればよい。また、AuスパッタリングターゲットのAu純度の上限値は、特に限定されるものではなく、Auスパッタ膜に求められる純度に応じて設定されるものであるが、Auスパッタリングターゲットの製造工程や製造コスト等を考慮すると99.9999%以下が一般的であり、実用的には99.9990%以上99.9998%以下が好ましい。」 (エ)「【0016】 実施形態のAuスパッタリングターゲットは、20以上40未満のビッカース硬さを有することが好ましい。このようなビッカース硬さを有するAu純度が99.999%以上のAuスパッタリングターゲットを用いて、スパッタ成膜を行うことによって、膜厚分布の均一性に優れる高純度のAu膜を成膜することができる。すなわち、Auスパッタリングターゲットのビッカース硬さが40HV以上であるということは、Au純度が99.999%以上のAuスパッタリングターゲット内に製造時に生じた歪が残存していることを意味する。このような場合、スパッタリング時にターゲットからの粒子の飛翔が不均一になり、膜厚分布の均一性が損なわれることになる。Auスパッタリングターゲットのビッカース硬さは35HV以下がより好ましく、30HV以下がさらに好ましい。一方、ビッカース硬さが20HV未満のAuスパッタリングターゲットは、それ自体の製造が困難であることに加えて、結晶の粒成長の発生に伴う結晶配向が崩れ始めると思われ、これにより膜厚分布の均一性が損なわれる。Auスパッタリングターゲットのビッカース硬さは23HV以上がより好ましく、26HV以上がさらに好ましい。」 (オ)「【0032】 Au原料の鋳造工程は、真空雰囲気または不活性雰囲気中にて黒鉛るつぼまたはセラミックスるつぼ内で溶解するか、あるいは大気溶解炉を用いて溶湯表面に不活性ガスを吹き付けながら、または炭素系固体シール材で溶湯表面を覆いながら黒鉛るつぼまたはセラミックスるつぼ内で溶解し、黒鉛または鋳鉄製の鋳型内に鋳造することにより実施することが好ましい。Au原料の鋳造工程は、AuインゴットのAu純度が99.999%以上(5N以上)となるように調整する。なお、AuインゴットのAu純度の上限値は、特に限定されるものではなく、Auスパッタ膜に求められる純度に応じて設定されるものであるが、Auインゴットの製造工程やAuスパッタリングターゲットの製造コスト等を考慮すると99.9999%以下とすることが一般的である。」 イ 引用例2の記載事項 (ア)「【請求項1】 4N以上の純度を有する金からなり、金の比率がモル比で50%を超える金又は金合金であって、揮発性金属不純物の含有量が1重量ppm以下、水素及び窒素の含有量が1重量ppm以下、並びに酸素の含有量が5重量ppm以下であることを特徴とする薄膜形成用金又は金合金材料。」 (イ)「【0003】このような状況下で、Au蒸着において従来問題とならなかった1~10数ミクロンの欠陥、つまりスプラッシュとか金ボールの発生が問題となっている。例えば、蒸着膜に雲形の波ができたり、1μm程度のボール状の金が付着してしまう現象であり、蒸着肌を悪くする。また、Auスパッタの場合も、Au蒸着の場合と同様に、スパッタ膜にボール状の金が付着するという現象がある(この場合、異常放電を起こす)。Au蒸着の場合に生じる現象の原因の大部分は、金材料中に含まれる揮発性金属不純物やガス不純物が蒸着中に噴き出して、スプラッシュとなったり、噴き出したガス成分と蒸着中のAu粒子とが衝突を起こし、Au粒子がエネルギーを失って金ボールが形成されるものであると考えられる。・・・ 【0005】 【発明が解決しようとする課題】上記したように、蒸着膜、スパッタ膜の表面におけるスプラッシュ、金ボールの形成という現象は、金又は金合金材料に含まれる揮発性金属不純物及びガス不純物により生じると共に、金又は金合金材料の表面に付着した金属不純物及びガス不純物によっても生じるものである。 【0006】本発明は、上記従来技術の問題点を解決するものであり、内部に含まれる不純物及び外表面に付着する不純物を最小限にした金又は金合金材料及びその製造方法、並びにハースインゴット及びその製造方法を提供することを課題とする。 【0007】 【課題を解決するための手段】本発明者らは、Au蒸着やAuスパッタ中に発生するスプラッシュや金ボールが金又は金合金材料中の揮発性金属不純物やガス不純物に起因することから、これら不純物を減少せしめればよいことに気が付き、また、インゴット等の金材料のミクロな表面積を小さくすることにより、金又は金合金材料表面の付着ガスを最小限にすることができることから、例えばインゴットの中央部を盛り上げる形状にし、かつ機械加工面の無い平滑な鋳肌とすればよいことに気が付き、本発明を完成するに至った。」 (ウ)「【0014】本発明の金又は金合金材料中に含まれる不揮発性金属不純物やガス不純物には、金の原材料としての金鉱石の種類や精錬方法等に応じてその種類や量は異なるが、一般に、周期表Ia族の金属としてLi、Na、K、周期表IIa族の金属としてBe、Mg、Ca、周期表Va族の金属としてP、As、Sb、周期表IIa族の金属としてS、Se、Te等があり、また、水素ガス、窒素ガス、酸素ガス等がある。 【0015】本発明の金又は金合金材料の形状は特に制限されるものではないが、例えばインゴット、ペレット、ショット、ワイヤー、ロッド、ターゲット形状等が好ましい。 【0016】本発明によれば、ゾーンメルト精製法を利用して棒状の金材料を作製し、この材料中の揮発性金属不純物やガス不純物の含有量を所定の量以下にし、この棒状材料をるつぼ等の容器内に入れ、1×10-3Pa以下の高真空中で所定の時間加熱溶解し、次いで固化物中に空洞が生じないようにこの溶解物を冷却し、上記したような所望の形状に成形し、これを用いて真空蒸着、スパッタを行い、所望の薄膜を形成できる。また、ゾーンメルト精製法を利用し、かつ1×10-3Pa以下の高真空中で加熱溶解して棒状の金材料を製造し、この材料中の揮発性金属不純物及びガス不純物の含有量を所定の量以下にし、これを用いて真空蒸着、スパッタを行い、所望の薄膜を形成できる。あるいはまた、上記のようにして作製された棒状の金材料を加熱溶融してインゴット等を製造し、これを用いて蒸着膜を形成してもよい。」 (エ)「【0023】・・・ (実施例2)電解精製して得た10mmφ×1000mmLのロッド形状の金材料を、1×10-3Pa以下の高真空中で、ゾーンメルト精製方法に従い、8時間かけて溶融精製した。かくして得られた金材料中の不純物は、Li、Na、K、Be、Mg、Ca、P、As、Sb、S、Se、Teの各々の含有量が1重量ppm以下であった。また、ゾーンメルトという特殊溶解であったので、水素、窒素ガスの含有量が各々1重量ppm以下、及び酸素ガスの含有量が5重量ppm以下であった。 【0024】次いで、上記のようにして得られた金材料を使用して公知の条件で真空蒸着を行い、基板上にAu薄膜を形成したところ、スプラッシュが生じることなく、また、蒸着膜表面にボール状の金の発生も見いだせなかった。」 ウ 引用例3の記載事項 (ア)「【請求項1】 純白金に燐、硫黄、ベリリウムから選ばれる一種以上を0.002~1.0重量%添加して白金の高強度、高硬度化のため白金の純度を98.90~99.94重量%に調整したことを特徴とする高品位白金合金。」 (イ)「【0003】 純白金(Pt=99.95重量%)は柔らかい(ビッカース硬度、Hv=40)ため、この製品では表面が傷つきやすく、また変形もしやすいので、このことに起因して実用面でのトラブルが起きやすい。そのため、白金製品の多くはパラジウム、イリジウム、ルテニウム、金、銅、コバルト、タングステンの添加により前記の欠点を改善したPt950、Pt900、Pt850の宝飾品市場で多く取り扱われている。これらの品位についての合金例は非特許文献1に記載されており、パラジウム添加のPt950,Pt900,Pt850、イリジウム添加のPt950,Pt900,Pt850、ルテニウム添加のPt950,Pt900、金を添加したPt950,Pt900、銅を添加したPt950、コバルト添加のPt950、タングステン添加のPt950、コバルトとパラジウムを添加したPt900及びPt850等が開示されている。」 エ 引用例4の記載事項 (ア)「【0008】 ところで、本発明者達は、パラジウム合金において、内部もビッカース硬度が80Hv以上となるパラジウム合金を得るために種々検討した結果、パラジウム合金においてビッカース硬度を高くするには、ホウ素やケイ素を含有すれば良いことが分った。しかし、ホウ素は購入価格が高く、ケイ素はホウ素よりは購入価格が安い反面、同じ含有量だとホウ素に比べてパラジウム合金のビッカース硬度が高くならず、かつケイ素の含有量が多くなると合金が脆くなる傾向を示すことが判り、パラジウム合金にホウ素とケイ素を含有することを思いつき、本発明に至った。 【0009】 本発明の課題は、表面のみならず内部においても加工に好適な硬度を有する、パラジウム合金の製造方法及びパラジウム合金を提供することである。」 (イ)「【0060】 【表2】 [図:0001390551000005.jpg] 」 オ 引用例5の記載事項 (ア)「【請求項1】 999(スリーナイン)の純度を有すると共に、幅4.00mm、厚み1.50mmの平内リングのビッカーズ硬度が75Hv以上である金合金。 ・・・ 【請求項9】 999(スリーナイン)の純度を有すると共に、幅4.00mm、厚み1.50mmの平内リングのビッカーズ硬度が50Hv以上である銀合金。」 (イ)「【0028】 (4)ビッカーズ硬度の測定 ・・・ 表3に測定結果を示す。 表中(b)及び(c)は、Ag9999、100重量部に、Alを0.05又は0.09重量部配合した合金を表す。 【0029】 【表3】 [図:0001390551000006.jpg] 」 カ 引用例6の記載事項 (ア)「【請求項1】 銅を主成分とするスパッタリングターゲットであって、0.001重量ppm以上、0.03重量ppm以下の酸素(O)を含有することを特徴とするスパッタリングターゲット。 【請求項2】 銅を主成分とするスパッタリングターゲットであって、0.001重量ppm以上、0.05重量ppm以下の硫黄(S)を含有することを特徴とするスパッタリングターゲット。」 (イ)「【0050】スパッタリングターゲットの不純物分析はグロー放電質量分析法により行った。このときの不純物金属とガス不純物の分析結果を・・・表に併せて示した。 ・・・ [図:0001390551000007.jpg] 」 (2)引用例1に記載された発明 引用例1の上記(1)ア(ア)の請求項7を引用する請求項11には、「99.999%以上の金純度を有する金インゴットを用意する工程と、 前記金インゴットを加工して所望の板状または円筒状の金ビレットを形成する第1の加工工程と、 前記金ビレットを加圧下で板厚を減少させつつ加工して所望のプレート状または円筒状のターゲット素材を形成する第2の加工工程と、 前記ターゲット素材を熱処理する熱処理工程と を具備する、99.999%以上の金純度を有し、ビッカース硬さの平均値が20以上40未満であり、平均結晶粒径が15μm以上200μm以下であり、スパッタされる表面に金の{110}面が優先配向している金スパッタリングターゲット金スパッタリングターゲットの製造方法。」が記載されているところ、上記金インゴットについて、上記同(オ)の【0032】には、「Au原料の鋳造工程は、AuインゴットのAu純度が99.999%以上(5N以上)となるように調整する。なお、AuインゴットのAu純度の上限値は、特に限定されるものではなく、Auスパッタ膜に求められる純度に応じて設定されるものであるが、Auインゴットの製造工程やAuスパッタリングターゲットの製造コスト等を考慮すると99.9999%以下とすることが一般的である。」との記載がなされているから、引用例1には、Auインゴットに関する以下の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているといえる。 「99.999%以上の金純度を有する金インゴットを用意する工程と、 前記金インゴットを加工して所望の板状または円筒状の金ビレットを形成する第1の加工工程と、 前記金ビレットを加圧下で板厚を減少させつつ加工して所望のプレート状または円筒状のターゲット素材を形成する第2の加工工程と、 前記ターゲット素材を熱処理する熱処理工程と を具備する、99.999%以上の金純度を有し、ビッカース硬さの平均値が20以上40未満であり、平均結晶粒径が15μm以上200μm以下であり、スパッタされる表面に金の{110}面が優先配向している金スパッタリングターゲットの製造方法に用いる、Au原料の鋳造工程によりAu純度が99.999%以上(5N以上)となるように調整されたAuインゴット」 (3)本件発明3について ア 対比 本件発明3と引用例1発明を対比する。 (ア)引用例1発明の「Au原料の鋳造工程により・・・調整されたAuインゴット」は、本件発明3の「白金の鋳造インゴット」と、「貴金属の鋳造インゴット」との点で共通している。 (イ)本件明細書の【0006】に記載されるように、「本願の明細書において、スパッタリングターゲット材とは、鋳造や圧延等の塑性加工によって、スパッタリングターゲット形状にする前の鋳造インゴットの状態を意味する」のであり、引用例1発明の「前記金インゴットを加工して所望の板状または円筒状の金ビレットを形成する第1の加工工程と、前記金ビレットを加圧下で板厚を減少させつつ加工して所望のプレート状または円筒状のターゲット素材を形成する第2の加工工程」は、金インゴットを塑性加工によって、スパッタリングターゲット形状にしている工程であるから、引用例1発明の「99.999%以上の金純度を有する金インゴットを用意する工程と、 前記金インゴットを加工して所望の板状または円筒状の金ビレットを形成する第1の加工工程と、 前記金ビレットを加圧下で板厚を減少させつつ加工して所望のプレート状または円筒状のターゲット素材を形成する第2の加工工程と、 前記ターゲット素材を熱処理する熱処理工程と を具備する、99.999%以上の金純度を有し、ビッカース硬さの平均値が20以上40未満であり、平均結晶粒径が15μm以上200μm以下であり、スパッタされる表面に金の{110}面が優先配向している金スパッタリングターゲットの製造方法に用いる、Au原料の鋳造工程によりAu純度が99.999%以上(5N以上)となるように調整されたAuインゴット」は、本件発明3の「貴金属スパッタリングターゲット材」に相当する。 そうすると、本件発明3と引用例1発明は、「貴金属の鋳造インゴットからなる貴金属スパッタリングターゲット材」の点で一致し、以下の点で相違している。 <相違点1> 鋳造インゴットからなる貴金属スパッタリングターゲット材について、本件発明3は、白金であって、水素含有量が5wtppm未満、燐含有量が1wtppm以下、硫黄含有量が1wtppm以下であり、ビッカース硬度が37~55Hvであるのに対し、引用例1発明は、金であって、鋳造インゴットの純度について、99.999%以上(5N以上)とされ、ビッカース硬度の値は明らかでない点。 イ 相違点に対する判断 引用例1発明は、上記(1)ア(イ)の【0008】の「例えば、Auの純度が99.999%以上というようなAu膜をスパッタリング法により形成する場合、Auの純度が99.999%以上のスパッタリングターゲットが用いられるが、そのような場合にAu膜の膜厚バラツキが生じやすくなる。」、及び同(イ)の【0010】の「本発明は、高純度のAu膜の膜厚分布の均一性を高めることを可能にした金スパッタリングターゲットおよびその製造方法を提供することを目的とする。」との記載によれば、Au膜をスパッタリングで形成する際に生じやすくなる膜厚バラツキを防ぎ、膜厚分布の均一性を高めることを発明の課題としている。すなわち、Au膜をスパッタリング法により形成する場合を前提とし、その際に生じる問題を解決しようとするものである。そうすると、引用例1発明には、インゴットの金属を、金以外の白金等の金属にする動機付けはない。また、引用例2に記載される事項も、Auスパッタの際に生じるスプラッシュや膜への金ボールの析出を防ぐためのものであり、Auスパッタを前提とするものであるから、引用例1と同じく、白金等の金以外の金属に適用できる技術的事項であるとはいえない。 さらに、引用例3~6には、上記(1)ウ~カに摘記した事項が記載されているが、上述のように、引用例1発明には、Auインゴットを、白金等の他の金属にする動機付けはないのであるから、引用例3~6の記載によらず、引用例3~6に記載の事項を、引用例1発明に適用できるとはいえない。 そうすると、引用例1発明において、鋳造インゴットからなる貴金属スパッタリングターゲット材を白金からなるものとすることは当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないのであるから、上記相違点1に係る、鋳造インゴットからなる貴金属スパッタリングターゲット材について、水素含有量が5wtppm未満、燐含有量が1wtppm以下、硫黄含有量が1wtppm以下であり、ビッカース硬度が37~55Hvであるか否かを検討するまでもなく、上記相違点1に係る本件発明3の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。 ウ 小括 本件発明3は、引用例1発明及び引用例1~6に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。 (4)本件発明4及び5について ア 本件発明4及び5と引用例1発明との対比 本件発明4は、パラジウムの鋳造インゴットからなる貴金属スパッタリングターゲット材であり、本件発明5は、銀の鋳造インゴットからなる貴金属スパッタリングターゲット材であり、本件発明4及び5は、本件発明3と同様に、水素含有量、燐含有量、硫黄含有量及びビッカース硬度が特定されている。 そして、本件発明4及び5は、本件発明3と貴金属スパッタリングターゲット材を構成する金属及びビッカース硬度の範囲のみで異なるから、上記(3)アで述べた本件発明3と引用例1発明の対応関係も考慮し、本件発明4及び5と引用例1発明を対比すると、本件発明4及び5と引用例1発明は、それぞれ以下の相違点2及び相違点3で相違している。 <相違点2> 鋳造インゴットからなる貴金属スパッタリングターゲット材について、本件発明4は、パラジウムであって、水素含有量が5wtppm未満、燐含有量が1wtppm以下、硫黄含有量が1wtppm以下であり、ビッカース硬度が45~140Hvであるのに対し、引用例1発明は、金であって、鋳造インゴットの純度について、99.999%以上(5N以上)とされ、ビッカース硬度の値は明らかでない点。 <相違点3> 鋳造インゴットからなる貴金属スパッタリングターゲット材について、本件発明5は、銀であって、水素含有量が5wtppm未満、燐含有量が1wtppm以下、硫黄含有量が1wtppm以下であり、ビッカース硬度が25~55Hvであるのに対し、引用例1発明は、金であって、鋳造インゴットの純度について、99.999%以上(5N以上)とされ、ビッカース硬度の値は明らかでない点。 イ 相違点に対する判断 本件発明4及び5は、鋳造インゴットからなる貴金属スパッタリングターゲット材を構成する貴金属が、金以外の貴金属である点で本件発明3と共通するものであるから、上記(3)イで、白金の鋳造インゴットからなる貴金属スパッタリングターゲット材である本件発明3について述べたのと同様に、少なくともインゴットの金属が金であることを前提とする引用例1発明において、鋳造インゴットからなる貴金属スパッタリングターゲット材を構成する貴金属をパラジウムや銀とすることは当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。 そうすると、上記相違点2及び3に係る、鋳造インゴットからなる貴金属スパッタリングターゲット材について、水素含有量、燐含有量、硫黄含有量及びビッカース硬度の範囲について検討するまでもなく、上記相違点2及び3に係る本件発明4及び5の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。 ウ 小括 本件発明4及び5は、引用例1発明及び引用例1~6に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。 (5)本件発明6について 本件発明6は、本件発明3~5を引用し、本件発明3~5の水素含有量の範囲をさらに限定するものであるから、本件発明3~5と同様に、本件発明6は、引用例1発明及び引用例1~6に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。 (6)申立理由1に関するまとめ 以上のとおり、申立理由1には、理由がない。 4 申立理由2について (1)申立理由2の内容は、要するに、訂正前の請求項2~5に係る発明では、ビッカース硬度が特定されているが、そのビッカース硬度の測定方法として、「押付荷重:200kgf」は、金や白金等の軟らかい貴金属に対して大き過ぎ、実際、ビッカース硬度の正確な測定はできないのであるから、本件明細書の表1~表4に記載されたビッカース硬度が本当にこの測定方法で測定されたものであるのか不明である、というものである。 (2)しかしながら、上記第2の2(4)アで述べたように、「押付荷重:200kgf」の記載は、「押付荷重:200gf」の誤記であり、本件訂正によって「押付荷重:200gf」に訂正されたのであるから、ビッカース硬度の測定方法において、押付荷重の値が大き過ぎるということはなく、本件発明3~5における白金、パラジウム及び銀に対してビッカース硬度の正確な測定ができないということはない。 そうすると、上記の理由で、本件発明3~6に対応する本件明細書の記載が、実施可能要件を満たしていないとすることはできず、申立理由2については、理由がない。 第6 むすび 本件特許1及び2は、訂正により削除され、本件特許1及び2に対する特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 また、上記第5で検討したとおり、本件特許3~6は、同法第29条の規定に違反してされたものであるとも、同法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるともいうことはできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記第4に記載の取消理由及び申立理由によっては取り消すことはできない。 また、他に本件特許3~6を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2021-700646

番号・当事者・条文・審決分類・商標の称呼が一致(または近い)審決を機械的に集めた候補です。判断内容は各審決の本文でご確認ください。

同じ当事者の審決159件(中川 賢治、松田産業株式会社)
  • 2026-700010異議申立 / 2026-06-19 / 訂正認容ポリシリコンロッドの製造方法
    同じ当事者: 中川 賢治
  • 2026-700142異議申立 / 2026-06-08 / 維持クロロシラン類の製造方法
    同じ当事者: 中川 賢治
  • 2025-700667異議申立 / 2026-05-20 / 訂正認容塗工剤および積層体
    同じ当事者: 中川 賢治
  • 2025-700665異議申立 / 2026-04-07 / 訂正認容多結晶シリコンロッドおよびその製造方法
    同じ当事者: 中川 賢治
  • 2023-700091異議申立 / 2026-03-25 / 維持ビールテイスト飲料
    同じ当事者: 中川 賢治
同じ根拠条文の審決3,095件(特許法113条2号、特許法113条4号、特許法120条の8第1項 ほか)
  • 2018-701019異議申立 / 2020-03-25 / 請求成立(取消)ホスト化合物およびドーパント化合物の新規組み合わせおよびそれを含む有機エレクトロ…
    共通の条文: 特許法113条2号、特許法113条4号、特許法120条の8第1項、特許法135条 ほか1件
  • 2018-700469異議申立 / 2020-02-06 / 訂正認容制振材用エマルション及び制振材配合物
    共通の条文: 特許法113条2号、特許法113条4号、特許法120条の8第1項、特許法135条 ほか1件
  • 2018-700667異議申立 / 2019-05-15 / 訂正認容紫外線硬化型インクジェット組成物及び収容体
    共通の条文: 特許法113条2号、特許法113条4号、特許法120条の8第1項、特許法135条 ほか1件
  • 2017-701174異議申立 / 2019-05-10 / 訂正認容HFCとHFOとを含有する組成物
    共通の条文: 特許法113条2号、特許法113条4号、特許法120条の8第1項、特許法135条 ほか1件
  • 2023-700018異議申立 / 2024-02-19 / 訂正認容蒸着マスク中間体、蒸着マスク、および、蒸着マスクの製造方法
    共通の条文: 特許法113条2号、特許法113条4号、特許法120条の8第1項、特許法135条
同じ論点・分野の審決(審決分類)529件(113・C23C、121・C23C、536・C23C)
  • 2026-700183異議申立 / 2026-06-29 / 維持成膜装置、成膜方法、酸化ガリウム膜および積層体
    共通の審決分類: 113・C23C、121・C23C、536・C23C
  • 2026-700094異議申立 / 2026-06-19 / 維持金属材料、金属材料の製造方法、半導体処理装置のパッシベーション方法、半導体デバイ…
    共通の審決分類: 113・C23C、121・C23C、536・C23C
  • 2026-700061異議申立 / 2026-06-05 / 維持プラズマエッチング装置用部材等に好適な成膜材料およびその製造方法
    共通の審決分類: 113・C23C、121・C23C、536・C23C
  • 2025-700519異議申立 / 2026-02-02 / 訂正認容防錆処理方法、および防錆処理された物品
    共通の審決分類: 113・C23C、121・C23C、536・C23C
  • 2025-700036異議申立 / 2025-12-02 / 訂正認容堆積マスク並びに堆積マスクを製造及び使用する方法
    共通の審決分類: 113・C23C、121・C23C、536・C23C

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