2021-700494
炭素材、及び、非水系二次電池
- 審判番号
- 2021-700494
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-156384外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 6794614
- 請求日
- 2021年05月21日
- 審決日
- 2022年08月01日
- 公報発行日
- 2022年11月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】三菱ケミカル株式会社
- 【権利者代理人】重野 剛
- 【異議申立人】前田 洋志
- 分類
- P1651.113-YAA(H01M) / P1651.121-YAA(H01M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第126条第5項、特許法第120条、特許法第126条第6項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 21項目
第1 手続の経緯
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特許第6794614号(「本件特許」という。)の請求項1~7に係る特許についての出願は、平成27年 8月 6日を出願日として特許出願され、令和 2年11月16日にその特許権の設定登録がされ、同年12月 2日に特許掲載公報が発行されたものであり、本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
人」という。)による請求項1~7(全
請求項)に係る特許に対する特許異議の
申立て
同年 9月27日付 : 取消理由通知
同年 3月 7日差出 : 特許権者による手続補正書及び意見書
同年 5月19日差出 : 申立人による意見書(以下、「申立人意
見書」という。)
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正請求書に対する手続補正の適否について
令和4年3月7日差出の手続補正書による訂正請求書の手続補正は、同年2月4日付け訂正拒絶理由通知で、請求項4について訂正する訂正事項3に対して訂正要件が満たされていないとの指摘がなされたことに対し、訂正事項3を、請求項4を削除する新たな内容の訂正事項3に変更するとともに、請求項4の削除に伴う整合をとるため、新たな訂正事項6(請求項4の削除に伴う請求項7の引用請求項からの請求項4の削除)を追加するものとなっている。
そして、令和4年3月7日差出の手続補正書による訂正請求書の手続補正は、訂正請求の要旨を変更するものとはいえず、特許法120条の5第9項において準用する同法131条の2第1項の規定に適合しており、また、訂正拒絶理由も解消している。
なお、令和4年3月7日差出の手続補正書により補正された訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。
2 訂正の内容
本件訂正の内容は以下のとおりである。なお、下線は、当審が付したものであり、「・・・」は記載の省略を表す。以下同じ。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「タップ密度が0.85g/cm3以上である」と記載されているのを「タップ密度が0.85g/cm3以上であり、真密度が1.97g/cm3よりも高い」と訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「下記式(3)を満たす」と記載されているのを「下記式(3)を満たし、炭素材の表面の少なくとも一部が非晶質炭素によって被覆されている」と訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1乃至4の何れか一項に記載の非水系二次電池用炭素材。」と記載されているのを「請求項1又は3に記載の非水系二次電池用炭素材。」と訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1乃至4の何れか一項に記載の非水系二次電池用炭素材。」と記載されているのを「請求項1乃至3の何れか一項に記載の非水系二次電池用炭素材。」
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1乃至6の何れか一項に記載の非水系二次電池用炭素材。」と記載されているのを、「請求項1、2、3、5、及び6の何れか一項に記載の非水系二次電池用炭素材。」と訂正する。
3 訂正の適否
本件訂正請求の適否について検討する。
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1に係る請求項1についての訂正は、訂正前の請求項1おいて特定されていた「炭素材」について、「真密度が1.97g/cm3よりも高い」ことを新たに特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の有無
訂正事項1に係る請求項1についての訂正は、特開2007-220670号公報(先の取消理由通知における甲1)、特開2007-227368号公報(先の取消理由通知における甲2)、及び特開2007-180025号公報(先の取消理由通知における甲3)に記載された発明に係る炭素材の真密度の数値を、いわゆる「除くクレーム」と同様の趣旨により除外しようとするものである。
そして、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)を参照しても、上記甲1~3に記載された発明に係る炭素材の真密度の数値(1.91g/cm3、1.93g/cm3、1.97g/cm3、1.92g/cm3)を除外するために「真密度が1.97g/cm3よりも高い」ことを特定した本件訂正後の請求項1は、新たな技術的事項を導入するものではないと認められる。
したがって、訂正事項1に係る請求項1についての訂正は、本件明細書等に記載されたものであると認められ、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1に係る請求項1についての訂正は、訂正前の請求項1おいて特定されていた炭素材について「真密度が1.97g/cm3よりも高い」ことを新たに特定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(2)訂正事項2
ア 訂正の目的の適否
訂正事項2に係る請求項2についての訂正は、訂正前の請求項2において特定されていた炭素材について、「炭素材の表面の少なくとも一部が非晶質炭素によって被覆されている」ことを新たに特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の有無
本件明細書等の特許請求の範囲には、
「【請求項5】炭素材の表面の少なくとも一部が非晶質炭素によって被覆されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の非水系二次電池用炭素材。」
と記載されている。
したがって、訂正事項2に係る請求項2についての訂正は、本件明細書等に記載されたものであると認められ、本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2に係る請求項2についての訂正は、訂正前の請求項2において特定されていた炭素材について、「炭素材の表面の少なくとも一部が非晶質炭素によって被覆されている」ことを新たに特定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(3)訂正事項3
ア 訂正の目的の適否
訂正事項3は特許請求の範囲の請求項4を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の有無
訂正事項3は請求項の削除であり、新規事項を追加するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項3は請求項の削除であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。
(4)訂正事項4
ア 訂正の目的の適否
訂正事項4に係る請求項5の訂正は、引用する請求項から請求項2、4を削除するものである。
ここで、引用する請求項から請求項2を削除する訂正は、上記訂正事項2の訂正に伴い、訂正後の請求項2において、文言が重複して不明瞭となることを回避するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえ、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
また、引用する請求項から請求項4を削除する訂正は、上記訂正事項3の訂正に伴い、削除された請求項を引用するという明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえ、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の有無
引用する請求項から一部の請求項を削除することは、新規事項を追加するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
引用する請求項から一部の請求項を削除することは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(5)訂正事項5~6
ア 訂正の目的の適否
訂正事項5~6は、上記訂正事項3の訂正に伴い、引用する請求項から請求項4を削除するものであるから、削除された請求項を引用するという明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえ、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の有無
引用する請求項から一部の請求項を削除することは、新規事項を追加するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
引用する請求項から一部の請求項を削除することは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(6)一群の請求項について
ア 訂正前の請求項3~7は、それぞれ訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるから、請求項1、3~7は一群の請求項である。
イ また、訂正前の請求項3~7は、それぞれ訂正前の請求項2を直接又は間接的に引用するものであって、請求項2の訂正に連動して訂正されるから、請求項2、3~7は一群の請求項である。
ウ そして、請求項3~7は請求項1と請求項2を引用するので、上記ア~イの一群の請求項は組み合わされて、一群の請求項になるため、最終的に、本件訂正前の請求項1~7は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
エ そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、訂正後の請求項〔1~7〕を訂正単位として訂正の請求をするものである。
(7)独立特許要件について
特許異議の申立ては、訂正前の全ての請求項である請求項1~7に対してされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
4 訂正の適否についての結言
上記のとおり、本件訂正による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項乃至第6項の規定に適合するものである。
したがって、特許請求の範囲を、手続補正書に添付された特許請求の範囲の記載のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2で検討したとおり、本件訂正は適法になされたものであるから、本件訂正請求により訂正された請求項1~7に係る発明(以下、「本件発明1~7」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、手続補正書に添付された特許請求の範囲の請求項1~7に記載された次のとおりのものである。
「
【請求項1】
下記式(1)を満たし、
下記の方法で測定されるタップ密度が0.85g/cm3以上であり、真密度が1.97g/cm3よりも高いことを特徴とする非水系二次電池用炭素材。
式(1)
10.914>5x - y - 0.0087a
(式中、xは炭素材の真密度[g/cm3]、yは下記式(2)より求められる数値、aは炭素材の体積基準平均粒径[μm]である)
式(2)
y=(炭素材に1軸方向から100kgf/3.14cm2の荷重をかけた時の炭素材の密度[g/cm3])-(下記の方法で測定される炭素材のタップ密度[g/cm3])
<タップ密度>
粉体密度測定器を用い、直径1.6cm、体積容量20cm3の円筒状タップセルに、目開き300μmの篩を通して本発明の炭素材を落下させて、セルに満杯に充填した後、ストローク長10mmのタップを1000回行なって、その時の体積と試料の質量から求めた密度として定義する。
【請求項2】
下記式(3)を満たし、炭素材の表面の少なくとも一部が非晶質炭素によって被覆されていることを特徴とする非水系二次電池用炭素材。
式(3)
10.990> 5x - y
(式中、xは炭素材の真密度[g/cm3]、yは下記式(2)より求められる数値である)
式(2)
y=(炭素材に1軸方向から100kgf/3.14cm2の荷重をかけた時の粉体の密度[g/cm3])-(下記の方法で測定される炭素材のタップ密度[g/cm3])
<タップ密度>
粉体密度測定器を用い、直径1.6cm、体積容量20cm3の円筒状タップセルに、目開き300μmの篩を通して本発明の炭素材を落下させて、セルに満杯に充填した後、ストローク長10mmのタップを1000回行なって、その時の体積と試料の質量から求めた密度として定義する。
【請求項3】
真密度が2.20g/cm3以上、2.262g/cm3未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の非水系二次電池用炭素材。
【請求項4】(削除)
【請求項5】
炭素材の表面の少なくとも一部が非晶質炭素によって被覆されていることを特徴とする請求項1又は3に記載の非水系二次電池用炭素材。
【請求項6】
炭素材が球状黒鉛粒子を含有することを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の非水系二次電池用炭素材。
【請求項7】
リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極及び負極、並びに、電解質を備えると共に、該負極が集電体と該集電体上に形成された負極活物質層とを備えると共に、該負極活物質層が請求項1、2、3、5及び6の何れか一項に記載の炭素材を含有することを特徴とする非水系二次電池。
第4 特許異議申立について
1 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として下記2に示す甲第1~3号証(以下、「甲1」~「甲3」という。)を提出し、以下の申立理由により、請求項1~7に係る本件特許を取り消すべきものである旨主張している。
(1)申立理由1(新規性)
本件訂正前の請求項1~2、4、7に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(新規性)
本件訂正前の請求項1~2、4、7に係る発明は、甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(新規性)
本件訂正前の請求項1~2、4、7に係る発明は、甲3に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(4)申立理由4(進歩性)
本件訂正前の請求項3、5~6に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲1に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(5)申立理由5(進歩性)
本件訂正前の請求項3、5~6に係る発明は、甲2に記載された発明及び甲1、甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(6)申立理由6(進歩性)
本件訂正前の請求項3、5~6に係る発明は、甲3に記載された発明及び甲1に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 証拠方法
甲第1号証(甲1):特開2007-220670号公報
甲第2号証(甲2):特開2007-227368号公報
甲第3号証(甲3):特開2007-180025号公報
第5 取消理由について
1 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1~7に係る特許に対して、令和 3年 9月27日付けで通知した取消理由通知により、当審が特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1)取消理由1(新規性)
本件訂正前の請求項1~2、4、7に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(申立理由1を採用)。
(2)取消理由2(新規性)
本件訂正前の請求項1~2、4、7に係る発明は、甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(申立理由2を採用)。
(3)取消理由3(新規性)
本件訂正前の請求項1~2、4、7に係る発明は、甲3に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(申立理由3を採用)。
第6 当審の判断
当審は、本件訂正請求により訂正された本件発明について、当審による取消理由はいずれも解消し、また、申立人が主張するその余の申立理由によっても、本件特許は取り消すことができないと判断する。
1 取消理由1(新規性)について
(1)甲1の記載、及び甲1に記載された発明
ア 甲1の記載
甲1には、「リチウムイオン二次電池」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(ア)「【請求項1】非水溶媒とリチウム塩とを含有する非水系電解液、正極活物質を含有する正極及び負極活物質を含有する負極を有するリチウムイオン二次電池であって、・・・該負極が、タップ密度が0.1g/cm3以上、かつ、水銀ポロシメトリーにおける、直径0.01μm~1μmの範囲に相当する粒子の細孔容積が0.01mL/g以上である負極活物質を含有するものであることを特徴とするリチウムイオン二次電池。」
(イ)「【0007】これまでの使用法である携帯電話等の比較的小型の電池での使用が主であるが、今後、更に電気自動車用電源としてリチウムイオン二次電池の使用が期待される。このような大型電池では、特に出力と寿命が要求されており、従来の小型電池を単純に大きくしただけでは、性能として十分ではない。【0008】続きを表示(全11行)そこでこれまで、リチウムイオン二次電池の入出力特性を改善するための手段として、正極や負極の活物質を始めとする様々な電池の構成要素について、数多くの技術が検討されている。・・・【0011】しかしながら、これらの方法でも、サイクル維持率とサイクル後の出力は十分とはいえなかった。・・・【0012】本発明は、かかる背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、電池をより大型にした際にも、良好な寿命と高い出力とを兼ね備えたリチウムイオン二次電池を提供することにある。」
(ウ)「【0060】[[タップ密度]]本発明のリチウムイオン二次電池の負極に含有される負極活物質のタップ密度は、好ましくは0.1g/cm3以上、より好ましくは0.5g/cm3以上、更に好ましくは0.7g/cm3以上、特に好ましくは0.9g/cm3以上である。また上限は、好ましくは2g/cm3以下、更に好ましくは1.8g/cm3以下、特に好ましくは1.6g/cm3以下である。タップ密度がこの範囲を下回ると、高出力の効果が特に達成できなくなる。一方、この範囲を上回ると、電極中の粒子間の空隙が少なくなり過ぎ、非水系電解液の流路が減少することで、出力自体が減少する場合がある。【0061】本発明においてタップ密度は、目開き300μmの篩を通過させて、20cm3のタッピングセルに試料を落下させてセルの上端面まで試料を満たした後、粉体密度測定器(例えば、セイシン企業社製タップデンサー)を用いて、ストローク長10mmのタッピングを1000回行なって、その時の体積と重量から密度を計算し、タップ密度と定義する。」
(エ)「【0069】[[体積平均粒径]]本発明のリチウムイオン二次電池の負極に含有される負極活物質の体積平均粒径は、レーザー回折・散乱法により求めた体積基準の平均粒径(メジアン径)で定義され、1μm以上が好ましく、特に好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上、更に好ましくは7μm以上である。また、上限は、通常50μm以下、好ましくは40μm以下、より好ましくは30μm以下、更に好ましくは25μm以下である。上記範囲を下回ると、不可逆容量が増大して、初期の電池容量の損失を招くことになる場合がある。また上記範囲を上回ると、電極極板化時に、不均一な塗面になりやすく、電池製作工程上望ましくない場合がある。【0070】本発明において体積基準平均粒径は、界面活性剤であるポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートの0.2質量%水溶液(約1mL)に炭素粉末を分散させて、レーザー回折式粒度分布計(例えば、堀場製作所社製LA-700)を用いて測定したメジアン径で定義する。」
(オ)「【0077】[[真密度]]本発明のリチウムイオン二次電池の負極に含有される負極活物質の真密度は、通常1.5g/cm3以上、好ましくは1.7g/cm3以上、より好ましくは1.8g/cm3以上、更に好ましくは1.85g/cm3以上であり、上限としては2.26g/cm3以下である。上限は黒鉛の理論値である。この範囲を下回ると炭素の結晶性が低すぎて不可逆容量が増大する場合がある。本発明においては、真密度は、ブタノールを使用した液相置換法(ピクノメータ法)によって測定したもので定義する。」
(カ)「【0089】[負極の物性、構成]以下に、態様Bのリチウムイオン二次電池に使用される負極の物性と構成について説明する。負極は、集電体の上に負極活物質層を有してなるものである。」
(キ)「【0164】(負極活物質の作製4)キノリン不溶分が0.05質量%以下のコールタールピッチを、反応炉にて460℃で10時間熱処理し、軟化点385℃の、溶融性のある塊状の炭化処理前駆体を得た。得られた塊状の炭化処理前駆体を金属製の容器に詰め、箱形の電気炉で窒素ガス流通下、1000℃で2時間、熱処理を行なった。得られた非晶質の塊を粗砕機(吉田製作所製ロールジョークラッシャー)で粉砕、更に、微粉砕機(マツボー社製ターボミル)を用いて微粉砕し、体積基準平均径17μmの非晶質粉末を得た。得られた粉末を粗大粒子の混入を防ぐため、ASTM400メッシュの篩いを5回繰り返した。ここで得られた負極活物質を炭素質物(D)とした。続きを表示(全18行)【0165】作製した炭素質物(A)、炭素質物(B)、炭素質物(C)、炭素質物(D)について、前記した方法で、その形状や物性を測定した。結果を表1に示す。【表1】[図:0001390545000001.jpg]【0166】〔電池の作製〕・・・【0167】《負極の作製1》負極活物質を98重量部に、増粘剤、バインダーとしてそれぞれ、カルボキシメチルセルロースナトリウムの水性ディスパージョン(カルボキシメチルセルロースナトリウムの濃度1質量%)100重量部、及び、スチレン・ブタジエンゴムの水性ディスパージョン(スチレン・ブタジエンゴムの濃度50質量%)2重量部を加え、ディスパーザーで混合してスラリー化した。得られたスラリーを、集電体である厚さ10μmの圧延銅箔の両面に塗布して乾燥し、プレス機で厚さ75μmに圧延したものを、負極活物質層のサイズとして幅104mm、長さ104mm及び幅30mmの未塗工部を有する形状に切り出し、負極とした。【0168】このときの負極の負極活物質層の密度は、1.33~1.36g/cm3の範囲であった(それぞれ、表2の最右欄に示す)。なお、上記より、負極活物質層のバインダーであるスチレン・ブタジエンゴムの含有量は、負極活物質層全体に対して1質量%である。また、[(片面の負極活物質層の厚さ)/(集電体の厚さ)]の値は、75μm/10μm=7.5である。【0169】《非水系電解液の作製1》乾燥アルゴン雰囲気下、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)及びエチルメチルカーボネート(EMC)の混合物(体積比3:3:4)に、1mol/Lの濃度で、充分に乾燥したヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を溶解させた。更に、ジフルオロリン酸リチウム塩(LiPO2F2)を0.3質量%となるように含有させた。」
(ク)「【0173】《電池の作製1》正極32枚と負極33枚は交互となるように配置し、各電極の間に多孔性ポリエチレンシートのセパレータ(厚さ25μm)が挟まれるよう積層した。この際、正極活物質面が負極活物質面内から外れないよう対面させた。この正極と負極それぞれについての未塗工部同士を溶接して集電タブを作製し、電極群としたものを電池缶(外寸:120×110×10mm)に封入した。その後、電極群を装填した電池缶に非水系電解液を20mL注入して、電極に充分浸透させ、密閉し角型電池を作製した。この電池の定格放電容量は約6アンペアーアワー(Ah)であり、10kHz交流法で測定される直流抵抗成分は約5ミリオーム(mΩ)である。電池の外装表面積の和に対する、正極の電極面積の総和の比は20.6であった。【0174】実施例1《負極の作製1》項の負極活物質を炭素質物(A)として作製した負極と、《正極の作製1》項で作製した正極と、《非水系電解液の作製1》項で作製した非水系電解液を用いて、《電池の作製1》項の手法で電池を作製した。この電池について、下記の《電池の評価》の項で述べる方法で測定を実施した。結果を表2に示す。」
(ケ)「【0186】実施例10実施例1の《負極の作製1》項の負極活物質に炭素質物(D)を用いた以外は同様にして電池を作製し、実施例1と同様の方法にて電池を作製し、同様に評価を実施した。結果を表2に示す。」
(コ)「【0193】・・・上記実施例及び比較例のリチウムイオン二次電池の、出力測定結果、容量測定結果、サイクル維持率、並びに前記した対向インピーダンス測定にて求めた反応抵抗及び二重層容量の測定結果を、まとめて表2に示す。」
(サ)「【0194】【表2】[図:0001390545000002.jpg]」
イ 甲1に記載された発明
上記ア(ア)~(サ)の記載、特に、上記ア(キ)、(ケ)のリチウムイオン二次電池用負極活物質である炭素質物(D)に着目すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「真密度が1.91g/cm3であり、体積平均粒径が16.6μmであり、タップ密度が0.91g/cm3であり、非水系電解液を用いたリチウムイオン二次電池用負極活物質である炭素質物(D)。」
(2)本件発明1と甲1発明の対比及び判断
ア 甲1発明の「タップ密度」は、上記(1)ア(ウ)より、粉体密度測定器を用い、20cm3のタッピングセルに目開き300μmの篩を通過させて試料を落下させてセルの上端面まで試料を満たした後、ストローク長10mmのタッピングを1000回行なって、その時の体積と重量から計算した密度として定義したものである。
一方、本件明細書等の段落【0105】~【0106】のタップ密度の測定方法についての記載を参照すれば、甲1発明の「タップ密度」が、本件発明1と同様の方法で測定・評価されたものであると認められる。
したがって、甲1発明の「タップ密度が0.91g/cm3であ」ることは、本件発明1の「タップ密度が0.85g/cm3以上であ」ることに相当する。
イ 甲1発明の「真密度」は、上記(1)ア(オ)より、ブタノールを使用した液相置換法(ピクノメータ法)によって測定したものである。
一方、本件明細書等の段落【0103】~【0104】の真密度についての測定方法についての記載を参照すれば、甲1発明の「真密度」が、本件発明1と同様の方法で測定・評価されたものであると認められる。
したがって、甲1発明の「真密度」は、本件発明1の「真密度」に相当する。
ウ 甲1発明の「体積平均粒径」は、上記(1)ア(エ)より、界面活性剤であるポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートの0.2質量%水溶液に炭素粉末を分散させて、レーザー回折式粒度分布計を用いて測定した体積基準のメジアン径である。
一方、本件明細書等の段落【0101】~【0102】の体積基準平均粒径についての記載を参照すれば、甲1発明の「体積基準平均粒径」が、本件発明1と同様の方法で測定・評価されたものであると認められる。
したがって、甲1発明の「体積平均粒径」は、本件発明1の「炭素材の体積基準平均粒径」「a」に相当する。
エ 甲1発明の「非水系電解液を用いたリチウムイオン二次電池用負極活物質である炭素質物(D)」は、本件発明1の「非水系二次電池用炭素材」に相当する。
オ そうすると、本件発明1と甲1発明は次の点で一致する。
<一致点>
「タップ密度が0.85g/cm3以上であることを特徴とする非水系二次電池用炭素材。」
カ そして、本件発明1と甲1発明は次の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1では、真密度が1.97g/cm3よりも高いのに対し、甲1発明では、真密度が1.91g/cm3である点。
<相違点2>
本件発明1の「炭素材」は、式(1)を満たすのに対し、甲1発明の「炭素質物(D)」は、式(1)を満たすことが特定されていない点。
キ ここで、上記相違点1は、明らかに、実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲1発明ではない。
(3)本件発明2と甲1発明の対比及び判断
ア 上記(2)アで検討したとおり、甲1発明の「タップ密度」は、本件発明2のタップ密度と同様の方法で測定したものであるから、本件発明2の「タップ密度」に相当する。
イ また、上記(2)イで検討したとおり、甲1発明の「真密度」は、本件発明2の真密度と同様に、ブタノールを使用した液相置換法(ピクノメータ法)によって測定したものであるから、本件発明2の「真密度」に相当する。
ウ さらに、甲1発明の「非水系電解液を用いたリチウムイオン二次電池用負極活物質である炭素質物(D)」は、本件発明2の「非水系二次電池用炭素材」に相当する。
エ そうすると、本件発明2と甲1発明は、次の点で一致する。
<一致点>
「非水系二次電池用炭素材。」
オ そして、本件発明2と甲1発明は、次の点で相違する。
<相違点3>
本件発明2では、「炭素材の表面の少なくとも一部が非晶質炭素によって被覆されている」のに対し、甲1発明では、炭素質物(D)の表面の少なくとも一部が非晶質炭素によって被覆されていない点。
<相違点4>
本件発明2の「炭素材」は、式(3)を満たすのに対し、甲1発明の「炭素質物(D)」は、式(3)を満たすことが特定されていない点。
カ 上記相違点3は、明らかに、実質的な相違点であるから、本件発明2は、甲1発明ではない。
(4)訂正前の請求項4に係る発明について
訂正前の請求項4に係る発明は、本件訂正により削除され、同請求項に係る取消理由は、その対象が存在しない。
(5)本件発明7と甲1発明の対比及び判断
ア 本件発明7は、本件発明1又は2を直接もしくは間接的に引用するものであり、本件発明1又は2をさらに減縮したものである。
イ そうすると、上記(2)~(3)より、本件発明7と甲1発明には、上記相違点1又は3が存在するから、本件発明7は、甲1発明ではない。
(6)小括
以上から、本件発明1~2、7は、甲1に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しないものであるから、上記取消理由1は、解消した。
2 取消理由2(新規性)について
(1)甲2の記載、及び甲2に記載された発明
ア 甲2の記載
甲2には、「リチウムイオン二次電池」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(ア)「【請求項1】非水溶媒とリチウム塩を含有する非水系電解液、正極活物質及び負極活物質を有するリチウムイオン二次電池であって、…該負極活物質が、広角X線回折法による(002)面の面間隔(d002)が0.337nm以上であり、結晶子の大きさ(Lc)が80nm以下であり、アルゴンイオンレーザーラマンスペクトル法における1580cm-1のピーク強度に対する1360cm-1のピーク強度の比として定義されるラマンR値が0.2以上である非晶質炭素質を含有するものであることを特徴とするリチウムイオン二次電池。」
(イ)「【0007】更に、電気自動車用電源としてリチウムイオン二次電池を使用するためには、加速と減速を頻繁に繰り返す状態が続くような、市街地の走行が想定され、電池には、高電流密度の短時間の充放電が繰り返されることになる。このような、短時間高電流密度充放電特性は電気自動車用電源として用いる上では、必要事項となるが、現状まだ十分な性能が得られているとはいえなかった。【0008】続きを表示(全11行)そこでこれまで、リチウムイオン二次電池の入出力特性を改善するための手段として、正極や負極の活物質を始めとする様々な電池の構成要素について、数多くの技術が検討されている。・・・【0011】しかしながら、この方法でも、短時間高電流密度充放電特性の向上効果は十分とはいえなかった。・・・【0012】本発明は、かかる背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、短時間高電流密度充放電特性が良好であるリチウムイオン二次電池を提供することにある。」
(ウ)「【0064】[[真密度]]非晶質炭素質の真密度は、通常2.22g/cm3以下、好ましくは2.2g/cm3以下、より好ましくは2.1g/cm3以下、更に好ましくは2.0g/cm3以下であり、下限としては通常1.4g/cm3以上であり、好ましくは1.5g/cm3以上、より好ましくは、1.6g/cm3以上であり、更に好ましくは1.7g/cm3以上、特に好ましくは1.8g/cm3以上の範囲である。この範囲を下回ると炭素の結晶性が低すぎて初期不可逆容量が増大する場合がある。この範囲を上回ると、炭素の結晶性が高すぎて短時間高電流密度充放電の向上効果が得にくくなる場合がある。【0065】本発明においては、真密度は、ブタノールを使用した液相置換法(ピクノメータ法)によって測定したもので定義する。」
(エ)「【0071】[[タップ密度]]本発明のリチウムイオン二次電池の負極活物質として用いられる非晶質炭素質のタップ密度は、好ましくは0.1g/cm3以上、より好ましくは0.2g/cm3以上、更に好ましくは0.5g/cm3以上、特に好ましくは0.7g/cm3以上である。また上限は、好ましくは1.4g/cm3以下、更に好ましくは1.2g/cm3以下、特に好ましくは1.1g/cm3以下である。タップ密度がこの範囲を下回ると、負極として用いた場合に充填密度が上がり難く、粒子間の接触面積が減少するため、粒子間の抵抗が増加し、短時間高電流密度充放電特性が低下する場合がある。一方、この範囲を上回ると、電極中の粒子間の空隙が少なくなり過ぎ、非水系電解液の流路が減少することで、短時間高電流密度充放電特性が減少する場合がある。【0072】本発明においてタップ密度は、目開き300μmの篩を通過させて、20cm3のタッピングセルに試料を落下させてセルの上端面まで試料を満たした後、粉体密度測定器(例えば、セイシン企業社製タップデンサー)を用いて、ストローク長10mmのタッピングを1000回行なって、その時の体積と試料の重量から求めた密度をタップ密度として定義する。」
(オ)「【0075】[[体積平均粒径]]本発明のリチウムイオン二次電池の負極活物質として用いられる非晶質炭素質の体積平均粒径は、レーザー回折・散乱法により求めた体積基準の平均粒径(メジアン径)で定義され、1μm以上が好ましく、特に好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上、更に好ましくは7μm以上である。また、上限は、通常50μm以下、好ましくは40μm以下、より好ましくは30μm以下、更に好ましくは25μm以下である。上記範囲を下回ると、不可逆容量が増大して、初期の電池容量の損失を招くことになる場合がある。また上記範囲を上回ると、電極の極板化時に、不均一な塗面になりやすく、電池製作工程上望ましくない場合がある。」
(カ)「【0102】[電極作製]負極の製造は、常法によればよい。例えば、負極活物質に、バインダー、溶媒、必要に応じて、増粘剤、導電材、充填材等を加えてスラリーとし、これを集電体に塗布、乾燥した後にプレスすることによって形成することができる。電池の非水系電解液注液工程直前の段階での片面あたりの負極活物質層の厚さは、通常15μm以上、好ましくは20μm以上、より好ましくは30μm以上であり、また上限は、通常150μm以下、好ましくは120μm以下、より好ましくは100μm以下である。この範囲を上回ると、非水系電解液が集電体界面付近まで浸透しにくいため、短時間高電流密度充放電特性が低下する場合がある。またこの範囲を下回ると、負極活物質に対する集電体の体積比が増加し、電池の容量が減少する場合がある。また、負極活物質をロール成形してシート電極としたり、圧縮成形によりペレット電極としても良い。」
(キ)「【0171】(負極活物質の作製1)キノリン不溶分が0.05質量%以下のコールタールピッチを、反応炉にて460℃で10時間熱処理し、得られた塊状炭素質を、粉砕機(セイシン企業社製オリエントミル)を用いて粉砕し、更に微粉砕機(マツボー社製ターボミル)を用いて微粉砕して、メジアン径18μmに微細化した。この粒子を金属製の容器に詰め、箱形の電気炉で窒素ガス流通下、540℃で2時間、熱処理を行なった。得られた塊を粗砕機(吉田製作所製ロールジョークラッシャー)で粉砕、更に微粉砕機(マツボー社製ターボミル)を用いて微粉砕し、得られた粉末を容器に入れ、電気炉にて窒素雰囲気下、1000℃で1時間焼成した。しかる後に、焼結物を分級処理することにより非晶質炭素質(A)を得た。分級処理に際しては、粗大粒子の混入を防ぐため、ASTM400メッシュの篩いを5回繰り返した。【0172】(負極活物質の作製2)キノリン不溶分が0.05質量%以下のコールタールピッチを、反応炉にて460℃で10時間熱処理し、得られた塊状炭素質を金属製の容器に詰め、箱形の電気炉で窒素ガス流通下、1000℃で2時間、熱処理を行なった。得られた非晶質塊を粗砕機(吉田製作所製ロールジョークラッシャー)で粉砕、更に微粉砕機(マツボー社製ターボミル)を用いて微粉砕し、非晶質粉末を得た。得られた粉末を粗大粒子の混入を防ぐため、ASTM400メッシュの篩いを5回繰り返した。ここで得られた負極活物質を非晶質炭素質(B)とした。」
(ク)「【0176】負極活物質の作製1~5で得られた負極活物質について、物性、形状等を上記した方法で測定した。結果を表1に示す。【0177】続きを表示(全14行)【表1】[図:0001390545000003.jpg]【0178】〔電池の作製〕・・・【0179】《負極の作製1》負極活物質を98重量部に、増粘剤、バインダーとしてそれぞれ、カルボキシメチルセルロースナトリウムの水性ディスパージョン(カルボキシメチルセルロースナトリウムの濃度1質量%)100重量部、及び、スチレン-ブタジエンゴムの水性ディスパージョン(スチレン-ブタジエンゴムの濃度50質量%)2重量部を加え、ディスパーザーで混合してスラリー化した。得られたスラリーを厚さ10μmの圧延銅箔の両面に塗布して乾燥し、プレス機で厚さ75μmに圧延したものを、活物質層のサイズとして幅104mm、長さ104mm及び幅30mmの未塗工部を有する形状に切り出し、負極とした。このときの負極の活物質の密度は1.35g/cm3であった。【0180】《非水系電解液の作製1》乾燥アルゴン雰囲気下、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)及びエチルメチルカーボネート(EMC)の混合物(体積比3:3:4)に、1mol/Lの濃度で、充分に乾燥したヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を溶解させた。更に、ジフルオロリン酸リチウム塩(LiPO2F2)を0.3質量%となるように含有させた。」
(ケ)「【0184】《電池の作製1》正極32枚と負極33枚は交互となるように配置し、各電極の間に多孔性ポリエチレンシートのセパレータ(厚さ25μm)が挟まれるよう積層した。この際、正極活物質面が負極活物質面内から外れないよう対面させた。この正極と負極それぞれについての未塗工部同士を溶接して集電タブを作製し、電極群としたものを電池缶(外寸:120×110×10mm)に封入した。その後、電極群を装填した電池缶に非水系電解液を20mL注入して、電極に充分浸透させ、密閉し角型電池を作製した。この電池の定格放電容量は約6アンペアーアワー(Ah)であり、10kHz交流法で測定される直流抵抗成分は約5ミリオーム(mΩ)であった。電池の外装表面積の和に対する、正極の電極面積の総和の比は20.6であった。【0185】実施例1《負極の作製1》項の負極活物質を非晶質炭素質(A)として作製した負極と、《正極の作製1》項で作製した正極と《非水系電解液の作製1》項で作製した非水系電解液を用いて、《電池の作製1》項の手法で電池を作製した。この電池について、下記の《電池の評価》項記載の電池評価を実施した。結果を表2に示す。【0186】実施例2実施例1の《負極の作製1》項の負極活物質に非晶質炭素質(B)を用いた以外は同様にして電池を作製し、《電池の評価》項記載の電池評価を実施した。結果を表2に示す。」
(コ)「【0197】【表2】[図:0001390545000004.jpg]」
イ 甲2に記載された発明
(ア)上記ア(ア)~(コ)の記載、特に、上記ア(キ)~(コ)の電池用負極活物質である非晶質炭素質(A)に着目すると、甲2には、次の発明(以下、「甲2発明A」という。)が記載されているといえる。
「真密度が1.93g/cm3であり、体積平均粒径が12.4μmであり、タップ密度が1.1g/cm3であり、非水系電解液を用いたリチウムイオン二次電池用負極活物質である非晶質炭素質(A)。」
(イ)また、上記ア(ア)~(コ)の記載、特に、上記ア(キ)~(コ)の電池用負極活物質である非晶質炭素質(B)に着目すると、甲2には、次の発明(以下、「甲2発明B」という。)が記載されているといえる。
「真密度が1.97g/cm3であり、体積平均粒径が14.6μmであり、タップ密度が0.9g/cm3であり、非水系電解液を用いたリチウムイオン二次電池用負極活物質である非晶質炭素質(B)。」
(2)本件発明1と甲2発明Aの対比及び判断
ア 甲2発明Aの「タップ密度」は、上記(1)ア(エ)より、粉体密度測定器を用い、20cm3のタッピングセルに目開き300μmの篩を通過させて試料を落下させてセルの上端面まで試料を満たした後、ストローク長10mmのタッピングを1000回行なって、その時の体積と試料の重量から求めた密度として定義したものである。
一方、本件明細書等の段落【0105】~【0106】のタップ密度の測定方法についての記載を参照すれば、甲2発明Aの「タップ密度」が、本件発明1と同様の方法で測定・評価されたものであると認められる。
したがって、甲2発明Aの「タップ密度が1.1g/cm3であ」ることは、本件発明1の「タップ密度が0.85g/cm3以上であ」ることに相当する。
イ 甲2発明Aの「真密度」は、上記(1)ア(ウ)より、ブタノールを使用した液相置換法(ピクノメータ法)によって測定したものである。
一方、本件明細書等の段落【0103】~【0104】の真密度についての測定方法についての記載を参照すれば、甲2発明Aの「真密度」が、本件発明1と同様の方法で測定・評価されたものであると認められる。
したがって、甲2発明Aの「真密度」は、本件発明1の「真密度」に相当する。
ウ 甲2発明Aの「体積平均粒径」は、上記(1)ア(オ)より、界面活性剤であるポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートの0.2質量%水溶液に炭素粉末を分散させて、レーザー回折式粒度分布計を用いて測定した体積基準のメジアン径である。
一方、本件明細書等の段落【0101】~【0102】の体積基準平均粒径についての記載を参照すれば、甲1発明の「体積基準平均粒径」が、本件発明1と同様の方法で測定・評価されたものであると認められる。
したがって、甲2発明Aの「体積平均粒径」は、本件発明1の「炭素材の体積基準平均粒径」「a」に相当する。
エ 甲2発明Aの「非水系電解液を用いたリチウムイオン二次電池用負極活物質である非晶質炭素質(A)」は、本件発明1の「非水系二次電池用炭素材」に相当する。
オ そうすると、本件発明1と甲2発明Aは次の点で一致する。
<一致点>
「タップ密度が0.85g/cm3以上であることを特徴とする非水系二次電池用炭素材。」
カ そして、本件発明1と甲2発明Aは次の点で相違する。
<相違点5>
本件発明1では、真密度が1.97g/cm3よりも高いのに対し、甲2発明Aでは、真密度が1.91g/cm3である点。
<相違点6>
本件発明1の「炭素材」は、式(1)を満たすのに対し、甲2発明Aの「非晶質炭素質(A)」は、式(1)を満たすことが特定されていない点。
キ ここで、上記相違点5は、明らかに、実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲2発明Aではない。
(3)本件発明2と甲2発明Aの対比及び判断
ア 上記(2)アで検討したとおり、甲2発明Aの「タップ密度」は、本件発明2のタップ密度と同様の方法で測定したものであるから、本件発明2の「タップ密度」に相当する。
イ また、上記(2)イで検討したとおり、甲2発明Aの「真密度」は、本件発明2の真密度と同様に、ブタノールを使用した液相置換法(ピクノメータ法)によって測定したものであるから、本件発明2の「真密度」に相当する。
ウ さらに、甲2発明Aの「非水系電解液を用いたリチウムイオン二次電池用負極活物質である非晶質炭素質(A)」は、本件発明2の「非水系二次電池用炭素材」に相当する。
エ そうすると、本件発明2と甲2発明Aは、次の点で一致する。
<一致点>
「非水系二次電池用炭素材。」
オ そして、本件発明2と甲2発明Aは、次の点で相違する。
<相違点7>
本件発明2では、「炭素材の表面の少なくとも一部が非晶質炭素によって被覆されている」のに対し、甲2発明Aでは、非晶質炭素質(A)の表面の少なくとも一部が非晶質炭素によって被覆されていない点。
<相違点8>
本件発明2の「炭素材」は、式(3)を満たすのに対し、甲2発明Aの「非晶質炭素質(A)」は、式(3)を満たすことが特定されていない点。
カ 上記相違点7は、明らかに、実質的な相違点であるから、本件発明2は、甲2発明Aではない。
(4)訂正前の請求項4に係る発明について
訂正前の請求項4に係る発明は、本件訂正により削除され、同請求項に係る取消理由は、その対象が存在しない。
(5)本件発明7と甲2発明Aの対比及び判断
ア 本件発明7は、本件発明1又は2を直接もしくは間接的に引用するものであり、本件発明1又は2をさらに減縮したものである。
イ そうすると、上記(2)~(3)より、本件発明7と甲2発明Aには、上記相違点5又は7が存在するから、本件発明7は、甲2発明Aではない。
(6)本件発明1と甲2発明Bの対比及び判断
ア 上記(2)ア~エと同様に検討すると、
(ア)甲2発明Bの「タップ密度が0.9g/cm3」であることは、本件発明1の「タップ密度が0.85g/cm3以上であること」に相当し、
(イ)甲2発明Bの「真密度」は本件発明1の「真密度」に相当し、
(ウ)甲2発明Bの「体積平均粒径」は本件発明1の「体積基準平均粒径」「a」に相当し、
(エ)甲2発明Bの「非水系電解液を用いたリチウムイオン二次電池用負極活物質である非晶質炭素質(B)」は、本件発明1の「非水系二次電池用炭素材」に相当する。
イ そうすると、本件発明1と甲2発明Bは、次の点で一致する。
<一致点>
「タップ密度が0.85g/cm3以上であることを特徴とする非水系二次電池用炭素材。」
ウ そして、本件発明1と甲2発明Bは、次の点で相違する。
<相違点9>
本件発明1では、真密度が1.97g/cm3よりも高いのに対し、甲2発明Bでは、真密度が1.97g/cm3である点。
<相違点10>
本件発明1の「炭素材」は、式(1)を満たすのに対し、甲2発明Bの「非晶質炭素質(B)」は、式(1)を満たすことが特定されていない点。
エ ここで、上記相違点9は、明らかに、実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲2発明Bではない。
(7)本件発明2と甲2発明Bの対比及び判断
上記(3)ア~ウと同様に検討すると、本件発明2と甲2発明Bは、次の点で一致する。
<一致点>
「非水系二次電池用炭素材。」
オ そして、本件発明2と甲2発明Bは、次の点で相違する。
<相違点11>
本件発明2では、「炭素材の表面の少なくとも一部が非晶質炭素によって被覆されている」のに対し、甲2発明Bでは、非晶質炭素質(B)の表面の少なくとも一部が非晶質炭素によって被覆されていない点。
<相違点12>
本件発明2の「炭素材」は、式(3)を満たすのに対し、甲2発明Bの「非晶質炭素質(B)」は、式(3)を満たすことが特定されていない点。
カ 上記相違点11は、明らかに、実質的な相違点であるから、本件発明2は、甲2発明Bではない。
(8)訂正前の請求項4に係る発明について
訂正前の請求項4に係る発明は、本件訂正により削除され、同請求項に係る取消理由は、その対象が存在しない。
(9)本件発明7と甲2発明Bの対比及び判断
ア 本件発明7は、本件発明1又は2を直接もしくは間接的に引用するものであり、本件発明1又は2をさらに減縮したものである。
イ そうすると、上記(6)~(7)より、本件発明7と甲2発明Bには、上記相違点9又は11が存在するから、本件発明7は、甲2発明Bではない。
(10)小括
以上から、本件発明1~2、7は、甲2に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しないものであるから、上記取消理由2は、解消した。
3 取消理由3(新規性)について
(1)甲3の記載、及び甲3に記載された発明
ア 甲3の記載
甲3には、「リチウムイオン二次電池」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(ア)「【請求項1】非水溶媒とリチウム塩を含有する非水系電解液、正極活物質及び負極活物質を有するリチウムイオン二次電池であって、…該負極活物質が、円形度0.85以上であり、広角X線回折法による(002)面の面間隔(d002)が0.337nm未満であり、アルゴンイオンレーザーラマンスペクトル法における1580cm-1のピーク強度に対する1360cm-1のピーク強度の比として定義されるラマンR値が0.12以上0.8以下である黒鉛質炭素粒子を含有するものであることを特徴とするリチウムイオン二次電池。」
(イ)「【0007】更に電気自動車用電源としてリチウムイオン二次電池を使用する場合、屋外での使用時に、低温状態で保管された車載されたリチウムイオン二次電池も低温になることが想定される。現在、自動車の始動直後の低温時では、電池の出力が常温時より低下し、十分な性能が発揮できない問題があり、この低出力状態から高出力状態まで回復するのに要する時間が短いことも重要な性能となる。【0008】続きを表示(全11行)そこでこれまで、リチウムイオン二次電池の入出力特性を改善するための手段として、正極や負極の活物質を始めとする様々な電池の構成要素について、数多くの技術が検討されている。・・・【0011】しかしながら、これらの方法でも、低温状態からの出力の回復の早さは十分とは言えなかった。・・・【0012】本発明は、かかる背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、低温時の低出力状態からの出力の回復が早いリチウムイオン二次電池を提供することにある。」
(ウ)「【0067】[[タップ密度]]本発明のリチウムイオン二次電池の負極活物質として用いられる黒鉛質炭素粒子のタップ密度は、好ましくは0.55g/cm3以上、より好ましくは0.7g/cm3以上、更に好ましくは0.8g/cm3以上、特に好ましくは1g/cm3以上である。また上限は、好ましくは2g/cm3以下、更に好ましくは1.8g/cm3以下、特に好ましくは1.6g/cm3以下である。タップ密度がこの範囲を下回ると、負極として用いた場合に充填密度が上がり難く、粒子間の接触面積が減少するため、熱伝導性が低くなる場合がある。一方、この範囲を上回ると、電極中の粒子間の空隙が少なくなり過ぎ、非水系電解液の流路が減少することで、出力自体が減少する場合がある。【0068】本発明においてタップ密度は、目開き300μmの篩を通過させて、20cm3のタッピングセルに試料を落下させてセルの上端面まで試料を満たした後、粉体密度測定器(例えば、セイシン企業社製タップデンサー)を用いて、ストローク長10mmのタッピングを1000回行なって、その時の体積と試料の重量から求めた密度をタップ密度と定義する。」
(エ)「【0071】[[体積平均粒径]]本発明のリチウムイオン二次電池の負極活物質として用いられる黒鉛質炭素粒子の体積平均粒径は、レーザー回折・散乱法により求めた体積基準の平均粒径(メジアン径)で定義され、1μm以上が好ましく、特に好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上、更に好ましくは7μm以上である。また、上限は、通常50μm以下、好ましくは40μm以下、より好ましくは30μm以下、更に好ましくは25μm以下である。上記範囲を下回ると、不可逆容量が増大して、初期の電池容量の損失を招くことになる場合がある。また上記範囲を上回ると、電極極板化時に、不均一な塗面になりやすく、電池製作工程上望ましくない場合がある。」
(オ)「【0077】[[真密度]]黒鉛質炭素粒子の真密度は、通常2.0g/cm3以上、好ましくは2.1g/cm3以上、より好ましくは2.2g/cm3以上、更に好ましくは2.22g/cm3以上であり、上限としては2.26g/cm3以下である。上限は黒鉛の理論値である。この範囲を下回ると炭素の結晶性が低すぎて初期不可逆容量が増大する場合がある。本発明においては、真密度は、ブタノールを使用した液相置換法(ピクノメータ法)によって測定したもので定義する。」
(カ)「【0121】[電極作製]負極の製造は、常法によればよい。例えば、負極活物質に、バインダー、溶媒、必要に応じて、増粘剤、導電材、充填材等を加えてスラリーとし、これを集電体に塗布、乾燥した後にプレスすることによって形成することができる。電池の電解液注液工程直前の段階での片面あたりの負極活物質層の厚さは通常15μm以上、好ましくは20μm以上、より好ましくは30μm以上であり、上限は150μm以下、好ましくは120μm以下、より好ましくは100μm以下である。この範囲を上回ると、非水系電解液が集電体界面付近まで浸透しにくいため、高電流密度充放電特性が低下する場合がある。またこの範囲を下回ると、負極活物質に対する集電体の体積比が増加し、電池の容量が減少する場合がある。また、負極活物質をロール成形してシート電極としたり、圧縮成形によりペレット電極としても良い。」
(キ)「【0192】(負極活物質の作製5)キノリン不溶分が0.05質量%以下のコールタールピッチを、反応炉にて460℃で10時間熱処理し、軟化点385℃の、溶融性のある塊状の炭化処理前駆体を得た。得られた塊状の炭化処理前駆体を金属製の容器に詰め、箱形の電気炉で窒素ガス流通下、1000℃で2時間、熱処理を行なった。得られた非晶質の塊を粗砕機(吉田製作所製ロールジョークラッシャー)で粉砕、更に微粉砕機(マツボー社製ターボミル)を用いて微粉砕し、体積基準平均径18μmの非晶質粉末を得た。得られた粉末を粗大粒子の混入を防ぐため、ASTM400メッシュの篩いを5回繰り返した。ここで得られた負極活物質を炭素質物(H)とした。」
(ク)「【0197】炭素質物(B)(D)(E)(G)(H)(I)(J)(L)(N)について、上記した方法で、その形状や物性を測定した。結果を表1に示す。【0198】続きを表示(全14行)【表1】[図:0001390545000005.jpg]【0199】〔電池の作製〕・・・【0200】《負極の作製1》負極活物質を98重量部に、増粘剤、バインダーとしてそれぞれ、カルボキシメチルセルロースナトリウムの水性ディスパージョン(カルボキシメチルセルロースナトリウムの濃度1質量%)100重量部、及び、スチレン-ブタジエンゴムの水性ディスパージョン(スチレン-ブタジエンゴムの濃度50質量%)2重量部を加え、ディスパーザーで混合してスラリー化した。得られたスラリーを厚さ10μmの圧延銅箔の両面に塗布して乾燥し、プレス機で厚さ75μmに圧延したものを、活物質層のサイズとして幅104mm、長さ104mm及び幅30mmの未塗工部を有する形状に切り出し、負極とした。このときの負極の活物質の密度は1.35g/cm3であった。【0201】《非水系電解液の作製1》乾燥アルゴン雰囲気下、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)及びエチルメチルカーボネート(EMC)の混合物(体積比3:3:4)に、1mol/Lの濃度で、充分に乾燥したヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を溶解させた。更に、ジフルオロリン酸リチウム塩(LiPO2F2)を0.3質量%となるように含有させた。」
(当審注:表1は本来の記載では左に90度回転しているが、ここでは、右に90度回転させて記載した。)
(ケ)「【0205】《電池の作製1》正極32枚と負極33枚は交互となるように配置し、各電極の間に多孔性ポリエチレンシートのセパレータ(厚さ25μm)が挟まれるよう積層した。この際、正極活物質面が負極活物質面内から外れないよう対面させた。この正極と負極それぞれについての未塗工部同士を溶接して集電タブを作製し、電極群としたものを電池缶(外寸:120×110×10mm)に封入した。その後、電極群を装填した電池缶に非水系電解液を20mL注入して、電極に充分浸透させ、密閉し角型電池を作製した。この電池の定格放電容量は約6アンペアーアワー(Ah)であり、10kHz交流法で測定される直流抵抗成分は約5ミリオーム(mΩ)である。電池の外装表面積の和に対する、正極の電極面積の総和の比は20.6であった。【0206】実施例1《負極の作製1》項の負極活物質を炭素質物(D)として作製した負極と、《正極の作製1》項で作製した正極と《非水系電解液の作製1》項で作製した非水系電解液を用いて、《電池の作製1》項の手法で電池を作製した。この電池について、下記の《電池の評価》の項で述べる方法及び上記した測定方法で、測定を実施した。結果を表2に示す。」
(コ)「【0217】比較例5実施例1の《負極の作製1》項の負極活物質に炭素質物(H)を用いた以外は同様にして電池を作製し、《電池の評価》項記載の電池評価を実施した。結果を表2に示す。」
(サ)「【0230】【表2】[図:0001390545000006.jpg]」
イ 甲3に記載された発明
上記ア(ア)~(サ)の記載、特に、上記ア(キ)~(サ)のリチウムイオン二次電池用負極活物質である炭素質物(H)に着目すると、甲3には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。
「真密度が1.92g/cm3であり、粒径が15.4μmであり、タップ密度が0.94g/cm3であり、非水系電解液を用いたリチウムイオン二次電池用負極活物質である炭素質物(H)。」
(2)本件発明1と甲3発明の対比及び判断
ア 甲3発明の「タップ密度」は、上記(1)ア(ウ)より、粉体密度測定器を用い、20cm3のタッピングセルに目開き300μmの篩を通過させて試料を落下させてセルの上端面まで試料を満たした後、ストローク長10mmのタッピングを1000回行なって、その時の体積と試料の重量から求めた密度として定義したものである。
一方、本件明細書等の段落【0105】~【0106】のタップ密度の測定方法についての記載を参照すれば、甲3発明の「タップ密度」が、本件発明1と同様の方法で測定・評価されたものであると認められる。
したがって、甲3発明の「タップ密度が0.94g/cm3であ」ることは、本件発明1の「タップ密度が0.85g/cm3以上であ」ることに相当する。
イ 甲3発明の「真密度」は、上記(1)ア(オ)より、ブタノールを使用した液相置換法(ピクノメータ法)によって測定したものである。
一方、本件明細書等の段落【0103】~【0104】の真密度についての測定方法についての記載を参照すれば、甲3発明の「真密度」が、本件発明1と同様の方法で測定・評価されたものであると認められる。
したがって、甲3発明の「真密度」は、本件発明1の「真密度」に相当する。
ウ 甲3発明の「粒径」は、上記(1)ア(エ)より、レーザー回折・散乱法により求めた体積基準の平均粒径(メジアン径)である。
一方、本件明細書等の段落【0101】~【0102】の体積基準平均粒径についての記載を参照すれば、甲3発明の「体積基準平均粒径」が、本件発明1と同様の方法で測定・評価されたものであると認められる。
したがって、甲3発明の「粒径」は、本件発明1の「炭素材の体積基準平均粒径」「a」に相当する。
エ 甲3発明の「非水系電解液を用いたリチウムイオン二次電池用負極活物質である炭素質物(H)」は、本件発明1の「非水系二次電池用炭素材」に相当する。
オ そうすると、本件発明1と甲3発明は次の点で一致する。
<一致点>
「タップ密度が0.85g/cm3以上であることを特徴とする非水系二次電池用炭素材。」
カ そして、本件発明1と甲3発明は次の点で相違する。
<相違点13>
本件発明1では、真密度が1.97g/cm3よりも高いのに対し、甲3発明では、真密度が1.92g/cm3である点。
<相違点14>
本件発明1の「炭素材」は、式(1)を満たすのに対し、甲3発明の「炭素質物(H)」は、式(1)を満たすことが特定されていない点。
キ ここで、上記相違点13は、明らかに、実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲3発明ではない。
(3)本件発明2と甲3発明の対比及び判断
ア 上記(2)アで検討したとおり、甲3発明の「タップ密度」は、本件発明2のタップ密度と同様の方法で測定したものであるから、本件発明2の「タップ密度」に相当する。
イ また、上記(2)イで検討したとおり、甲3発明の「真密度」は、本件発明2の真密度と同様に、ブタノールを使用した液相置換法(ピクノメータ法)によって測定したものであるから、本件発明2の「真密度」に相当する。
ウ さらに、甲3発明の「非水系電解液を用いたリチウムイオン二次電池用負極活物質である炭素質物(H)」は、本件発明2の「非水系二次電池用炭素材」に相当する。
エ そうすると、本件発明2と甲3発明は、次の点で一致する。
<一致点>
「非水系二次電池用炭素材。」
オ そして、本件発明2と甲3発明は、次の点で相違する。
<相違点15>
本件発明2では、「炭素材の表面の少なくとも一部が非晶質炭素によって被覆されている」のに対し、甲3発明では、炭素質物(H)の表面の少なくとも一部が非晶質炭素によって被覆されていない点。
<相違点16>
本件発明2の「炭素材」は、式(3)を満たすのに対し、甲3発明の「炭素質物(H)」は、式(3)を満たすことが特定されていない点。
カ 上記相違点15は、明らかに、実質的な相違点であるから、本件発明2は、甲3発明ではない。
(4)訂正前の請求項4に係る発明について
訂正前の請求項4に係る発明は、本件訂正により削除され、同請求項に係る取消理由は、その対象が存在しない。
(5)本件発明7と甲1発明の対比及び判断
ア 本件発明7は、本件発明1又は2を直接もしくは間接的に引用するものであり、本件発明1又は2をさらに減縮したものである。
イ そうすると、上記(2)~(3)より、本件発明7と甲3発明には、上記相違点13又は15が存在するから、本件発明7は、甲3発明ではない。
(6)小括
以上から、本件発明1~2、7は、甲3に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しないものであるから、上記取消理由3は、解消した。
4 申立理由4(進歩性)について
(1)甲1を主たる引用文献とする本件発明1の進歩性について
ア 相違点1について
(ア)上記1(1)ア(オ)には、真密度を2.26g/cm3以下まで変更できることが示唆されている。
(イ)そうすると、上記(ア)の示唆に基づいて、甲1発明において、真密度を、1.97g/cm3よりも高い値とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
イ 相違点2について
(ア)甲1発明において、真密度を2.26g/cm3以下で任意に制御する場合、上記式(1)を満たさなくなる値となる可能性が生じる。
例として、甲1発明において、真密度が2.26g/cm3である場合について検討する。
a 上記式(1)中のyは、本件発明1の式(2)より求められる数値であり、上記式(2)は「y=(炭素材に1軸方向から100kgf/3.14cm2の荷重をかけた時の粉体の密度[g/cm3])-(炭素材のタップ密度[g/cm3])」であるから、上記式(1)中のyに「y=(炭素材に1軸方向から100kgf/3.14cm2の荷重をかけた時の粉体の密度[g/cm3])-(炭素材のタップ密度[g/cm3])」を代入すると、上記式(1)は以下のようになる。
10.914>5x-(炭素材に1軸方向から100kgf/3.14cm2の荷重をかけた時の炭素材の密度[g/cm3])+(炭素材のタップ密度[g/cm3])-0.0087a
b 上記式中のxは炭素材の真密度[g/cm3]であり、aは炭素材の体積基準平均粒径[μm]であるから、甲1発明の炭素質物(D)の真密度2.26g/cm3と体積平均粒径16.6μmをそれぞれ代入し、甲1発明の炭素質物(D)のタップ密度0.91g/cm3も代入すると、上記式(1)は以下のようになる。
10.914>5×2.26-(炭素材に1軸方向から100kgf/3.14cm2の荷重をかけた時の炭素材の密度[g/cm3])+0.91-0.0087×16.6
c 上記式の右辺の「5×2.26+0.91-0.0087×16.6」の値を計算すると、12.06558になる。
d そうすると、上記bの式は、
10.914>12.06558-(炭素材に1軸方向から100kgf/3.14cm2の荷重をかけた時の炭素材の密度[g/cm3])
すなわち、
(炭素材に1軸方向から100kgf/3.14cm2の荷重をかけた時の炭素材の密度[g/cm3])>1.15158
となる。
e そのため、(炭素材に1軸方向から100kgf/3.14cm2の荷重をかけた時の炭素材の密度[g/cm3])が1.15158より小さな値となる場合には、上記式(1)を満たさないことになる。
(イ)そうすると、上記アで、甲1発明において、真密度を2.26g/cm3以下まで変更することが容易に想到できるからといって、そこから直ちに、本件発明1の式(1)を満たしつつ、真密度が1.97g/cm3よりも高い範囲とできるとは限らない。
(ウ)そして、上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項とすること、すなわち、上記式(1)を満たすように真密度やタップ密度等を調整することを動機付ける記載はいずれの甲号証にも認められないから、甲1発明において、上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
(エ)さらに、本件明細書等の、特に段落【0009】~【0010】、及び【実施例】の記載によれば、本件発明1は、式(1)を満たすことにより、高容量且つ良好な低温入出力特性が得られるという優れた効果を奏する。
(オ)そうすると、本件発明1は甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)甲1を主たる引用文献とする本件発明2の進歩性について
ア 相違点3について
(ア)上記1(1)ア(キ)に記載されているように、甲1発明における炭素質物(D)は非晶質炭素である。そして、いずれの甲号証にも、非晶質炭素である炭素質物(D)をわざわざ非晶質炭素によって被覆する動機は認められない。
(イ)そうすると、甲1発明において、上記相違点3に係る本件発明2の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
イ 相違点4について
上記アから、相違点4について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1発明及び甲1の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)甲1を主たる引用文献とする本件発明3、5~7の進歩性について
ア 本件発明3、5~7は、本件発明1又は2を直接もしくは間接的に引用するものであり、本件発明1又は2の発明特定事項を全て含むものである。
イ ここで、上記(1)~(2)で検討したとおり、本件発明1又は2は、甲1発明及び甲1の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ そうすると、上記ア~イから、本件発明3、5~7は、新たな一致点及び相違点の検討を行うまでもなく、甲1発明及び甲1の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)小括
以上から、本件発明1~3、5~7は、甲1発明及び甲1の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当しないものであり、取り消すことはできない。
5 申立理由5(進歩性)について
(1)甲2を主たる引用文献とする本件発明1の進歩性について
ア 本件発明1と甲2発明Aの相違点についての判断
(ア) 相違点5について
a 上記2(1)ア(ウ)には、非晶質炭素質の真密度は、通常2.22g/cm3以下であることが記載されている。
b そうすると、上記aに基づいて、甲2発明Aにおいて、真密度を、1.97g/cm3よりも高い値とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
(イ)相違点6について
上記相違点2の検討と同内容の理由で、本件発明1は甲2発明A、及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件発明1と甲2発明Bの相違点についての判断
(ア)相違点9について
上記相違点5の検討と同内容の理由で、甲2発明Bにおいて、真密度を、1.97g/cm3よりも高い値とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
(イ)相違点10について
上記相違点2の検討と同内容の理由で、本件発明1は甲2発明B、及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)甲2を主たる引用文献とする本件発明2の進歩性について
ア 本件発明2と甲2発明Aの相違点についての判断
(ア)相違点7について
a 甲2発明Aにおける非晶質炭素(A)を、わざわざ非晶質炭素によって被覆する動機は、いずれの甲号証にも認められない。
b そうすると、甲2発明Aにおいて、上記相違点7に係る本件発明2の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
(イ)相違点8について
上記(ア)から、相違点8について検討するまでもなく、本件発明2は、甲2発明A及び甲2の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 本件発明2と甲2発明Bの相違点についての検討
(ア)相違点11について
a 甲2発明Bにおける非晶質炭素(B)を、わざわざ非晶質炭素によって被覆する動機は、いずれの甲号証にも認められない。
b そうすると、甲2発明Bにおいて、上記相違点11に係る本件発明2の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
(イ)相違点12について
上記(ア)から、相違点12について検討するまでもなく、本件発明2は、甲2発明B及び甲2の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)甲2を主たる引用文献とする本件発明3、5~6の進歩性について
ア 本件発明3、5~6は、本件発明1又は2を直接もしくは間接的に引用するものであり、本件発明1又は2の発明特定事項を全て含むものである。
イ ここで、上記(1)~(2)で検討したとおり、本件発明1又は2は、甲2発明A又は甲2発明B、及び甲2の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ そうすると、上記ア~イから、本件発明3、5~6は、新たな一致点及び相違点の検討を行うこと、及び前記新たな相違点の判断に際し用いられる甲1、甲3の内容を検討するまでもなく、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
エ したがって、本件発明3、5~6は、甲2発明A又は甲2発明B、及び甲1、甲3の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)小括
以上から、本件発明1~3、5~6は、甲2発明及び甲1、甲3の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当しないものであり、取り消すことはできない。
6 申立理由6(進歩性)について
(1)甲3を主たる引用文献とする本件発明1の進歩性について
ア 相違点13について
(ア)上記3(1)ア(オ)には、黒鉛質炭素粒子の真密度を2.26g/cm3以下まで変更できることが示唆されている。
(イ)そうすると、上記(ア)の示唆に基づいて、甲3発明において、真密度を、1.97g/cm3よりも高い値とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
イ 相違点14について
上記相違点2の検討と同内容の理由で、本件発明1は甲3発明、及び甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)甲3を主たる引用文献とする本件発明2の進歩性について
ア 相違点15について
(ア)上記3(1)ア(キ)に記載されているように、甲3発明における炭素質物(H)は非晶質炭素である。そして、いずれの甲号証にも、非晶質炭素である炭素質物(H)をわざわざ非晶質炭素によって被覆する動機は認められない。
(イ)そうすると、甲3発明において、上記相違点15に係る本件発明2の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
イ 相違点16について
上記アから、相違点16について検討するまでもなく、本件発明2は、甲3発明及び甲3の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)甲3を主たる引用文献とする本件発明3、5~6の進歩性について
ア 本件発明3、5~6は、本件発明1又は2を直接もしくは間接的に引用するものであり、本件発明1又は2の発明特定事項を全て含むものである。
イ ここで、上記(1)~(2)で検討したとおり、本件発明1又は2は、甲3発明及び甲3の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ そうすると、上記ア~イから、本件発明3、5~6は、新たな一致点及び相違点の検討を行うこと、及び前記新たな相違点の判断に際し用いられる甲1の内容を検討するまでもなく、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
エ したがって、本件発明3、5~6は、甲3発明及び甲1の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)小括
以上から、本件発明1~3、5~6は、甲3発明及び甲1の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当しないものであり、取り消すことはできない。
7 申立人意見書における申立人の主張についての検討
(1)特開2011-029408号公報(以下、「参考1」という。)に基づく主張について
ア 申立人は、以下の主張を行っている。
(ア)参考1の段落【0060】には、「SCMG-AR:昭和電工社製;二次粒子径15.5μm、比表面積1.39m2/g、真密度2.2g/cm3、タップ密度(400回)1.28g/cm3;石炭コークス系炭素材料を3000℃以上で熱処理して得たもの」との記載がある。
(イ)ここで、上記(ア)における「タップ密度(400回)」は、本件発明1のタップ回数(1000回)よりも少ないのにもかかわらず、「0.85g/cm3以上」であるから、上記(ア)における「SCMG-AR」では、タップを1000回行って得られるタップ密度は「0.85g/cm3以上」である蓋然性が高い。
(ウ)そして、上記(ア)における「二次粒子径」及び「真密度」の値を本件発明1の式(1)に代入すると、10.914>10.87-yとなる。
yは、「(・・・荷重をかけた時の・・・密度・・・)-(・・・タップ密度・・・)」であり、「タップ密度」は荷重をかけていないから、「(・・・荷重をかけた時の・・・密度・・・)」が大きくなり、yは正の値になる。
(エ)したがって、上記(ア)における「SCMG-AR」は、本件発明1の式(1)を満たすから、本件発明1、3は、参考1に記載された発明であるか、又は同発明から当業者が容易に発明できたものである。
イ しかし、参考1の段落【0054】に記載されている「二次粒子径」の測定条件は、本件明細書等の段落【0101】~【0102】に記載されている本件発明1、3の「a:体積基準平均粒径(d50)」の測定条件と異なる。特に、本件発明1、3の「a:体積基準平均粒径(d50)」は、本件明細書等の段落【0102】の記載によれば、測定サンプルに28kHzの超音波を出力60Wで1分間照射した後に体積基準のメジアン径を測定した値である。
ウ そうすると、本件発明1、3の「a:体積基準平均粒径(d50)」は、二次粒子径を測定していない可能性(例えば、超音波によって二次粒子が一次粒子となっていることが想定される)があるため、参考1の「二次粒子径15.5μm」は、本件発明1、3の「a:体積基準平均粒径(d50)」と同じものとはいえない。
エ したがって、本件発明1、3が参考1の段落【0060】における「SCMG-AR」であると直ちにいえないから、申立人の主張は、採用できない。
(2)特開2003-031220号公報(以下、「参考2」という。)に基づく主張について
ア 申立人は、以下の主張を行っている。
(ア)参考2の段落【0011】には、「難黒鉛化性炭素粒子の表面をさらにアモルファス度の高い乱層構造の発達した炭素により被覆する」ことが記載されている。
(イ)参考2の例1~2(段落【0019】、【0021】)のd(002)は「0.380nm」であり、特開2006-236752号公報(以下、「参考5」という。)の【表1】から得られるグラフを参照すると、d(002)の真比重は1.6であるといえるから、参考2の例1~2の真密度は1.6(g/cm3)であるといえる。
(ウ)そして、上記(イ)の「真密度」の値を本件発明2の式(3)に代入すると、10.990>8-yとなる。
yは、「(・・・荷重をかけた時の・・・密度・・・)-(・・・タップ密度・・・)」であり、「タップ密度」は荷重をかけていないから、「(・・・荷重をかけた時の・・・密度・・・)」が大きくなり、yは正の値になる。
(エ)したがって、上記(イ)の「例1~2」は、本件発明2の式(3)を満たすから、本件発明2は、参考2に記載された発明であるか、又は同発明から当業者が容易に発明できたものである。
イ しかし、上記参考5の【表1】における各試料は、参考5の段落【0031】~【0046】、特に段落【0031】に記載されているように、コールタールを熱処理して得られる石炭系コークスを窒素ガス雰囲気下1300℃で焼成して得られたニードルコークスの塊を粉砕、熱処理、分球したものであり、参考2の「例1~2」のような、難黒鉛化性炭素粒子の表面をさらにアモルファス度の高い乱層構造の発達した炭素により被覆したものとは異なる。
ウ そのため、上記参考資料の【表1】の試料におけるd(002)と真比重(真密度)の関係が、参考2の「例1~2」に直ちに適用できるとはいえず、その結果、参考2における「例1~2」の「真密度」が「1.6(g/cm3)」であると直ちにはいうことができない。
エ したがって、申立人の主張は、採用できない。
(3)特開2004-031038号公報(以下、「参考3」という。)に基づく主張について
ア 申立人は、以下の主張を行っている。
(ア)本件明細書等の段落【0025】、【0043】、【0051】~【0052】、実施例1、3には、例えば、「鱗片状天然黒鉛」を「エチルセルロース」などの造粒剤を用いて造粒することが記載されている。
(イ)参考3の段落【0031】には、「鱗片状天然黒鉛・・・にバインダーとしてエチルセルロース・・・を用いて造粒成形」することや、造粒成形により得られた造粒成形体を「コールタールピッチ」で被覆することが記載されている。
(ウ)したがって、参考3において得られる炭素材は、その製法が共通しているから、本件発明1~3の発明特定事項を満たす蓋然性が高い。
よって、本件発明1~3、及びその従属項である本件発明5~7は、参考3に記載された発明であるか、又は同発明から当業者が容易に発明できたものである。
イ しかし、参考3の段落【0031】に記載される製法と、本件明細書等の実施例1、3の製法(段落【0157】、【0164】)とを比較すると、鱗片状黒鉛を使用することは共通するものの、その他の条件、例えば、鱗片状黒鉛に含まれる水分量、造粒剤の種類(本件明細書等の実施例1、3では和光純薬工業社製の流動パラフィン、参考3ではダウケミカル社製のエチルセルロース)、球形化処理の有無、黒鉛とコールタールピッチの混合物の焼成条件等、が異なる。
ウ そのため、参考3に記載された製法と本件明細書等に記載された製法が共通しているとはいえないから、参考3において得られる炭素材の特性が、本件発明1~3の発明特定事項を満たす蓋然性が高いとはいえない。
エ したがって、申立人の主張は、採用できない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、当審の取消理由及び異議申立理由によっては、本件特許の請求項1~3、5~7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~3、5~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許の請求項4は、本件訂正により削除され、同請求項に係る特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-700494