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特許異議申立

2023-700262

粘着剤組成物、粘着剤、粘着テープ並びに気密防水用粘着テープ

審判番号
2023-700262
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2018-513393外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
登録番号
7147559
請求日
2023年03月09日
審決日
2024年11月21日
公報発行日
2025年02月28日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.113-YAA(C09J) / P1651.121-YAA(C09J)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7147559号発明「粘着剤組成物、粘着剤、粘着テープ並びに気密防水用粘着テープ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論
特許第7147559号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕〔6、7〕〔9、10〕、11、12について訂正することを認める。
特許第7147559号の請求項1~7、9~12に係る特許を維持する。
特許第7147559号の請求項8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

目次 ▾ 21項目
理 由

第1 手続の経緯

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特許第7147559号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし10に係る特許についての出願は、2018年(平成30年)3月9日(優先権主張 平成29年3月17日)を国際出願日とする出願であって、令和4年9月27日に特許権の設定登録がされ、同年10月5日に特許掲載公報が発行された。その後、令和5年3月9日に特許異議申立人である前田 洋志(以下「申立人」という。)により、請求項1~10に係る特許について特許異議の申立てがされた。

本件特許異議申立て後の手続の経緯は、以下のとおりである。

令和5年 6月22日付け:取消理由通知書

同年 8月28日 :意見書及び訂正請求書(特許権者)

同年 9月 5日付け:訂正請求があった旨の通知

同年10月10日 :意見書(申立人)
同年10月31日付け:訂正拒絶理由通知

同年12月 5日 :意見書及び手続補正書(特許権者)

令和6年 2月 8日付け:取消理由通知書(決定の予告)

同年 4月15日 :意見書及び訂正請求書(特許権者)

同年 4月25日付け:訂正請求があった旨の通知

なお、令和6年4月25日の通知書に対して、申立人からの応答はなかった。

また、令和5年8月28日に提出された訂正請求書は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたとみなす。

第2 訂正の適否

1 訂正の内容

令和6年4月15日にされた訂正の請求は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~12について訂正することを求めるものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下の訂正事項1~11を含むものである(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。)。

(1)訂正事項1

特許請求の範囲の請求項1に、

「・・・アクリル系樹脂(A)〔・・・〕を含有することを特徴とする粘着剤組成物。」と記載されているのを、

「・・・アクリル系樹脂(A)〔・・・〕及び溶媒を含有し、
上記溶媒として、有機溶媒を含み、かつ、水を含まないことを特徴とする粘着剤組成物。」

に訂正する。

(2)訂正事項2

特許請求の範囲の請求項2に、

「・・・アクリル系樹脂(A)を含有することを特徴とする粘着剤組成物。」と記載されているのを

「・・・アクリル系樹脂(A)及び有機溶媒を含有し、かつ、界面活性剤、及び不飽和二重結合を有する界面活性剤を共重合成分として含むアクリル系樹脂のいずれも含まないことを特徴とする粘着剤組成物。」

に訂正する。

(3)訂正事項3

特許請求の範囲の請求項3に、

「・・・アクリル系樹脂(A)を含有することを特徴とする粘着剤組成物。」と記載されているのを

「・・・アクリル系樹脂(A)及び有機溶媒を含有する粘着剤組成物が、架橋剤により架橋されてなる粘着剤であって、
上記架橋剤が、イソシアネート系架橋剤(ただし、ブロックイソシアネート架橋剤を除く)を含むことを特徴とする粘着剤。」

に訂正する。

(4)訂正事項4

特許請求の範囲の請求項4に、

「・・・アクリル系樹脂(A)を含有することを特徴とする粘着剤組成物。」と

記載されているのを

「・・・アクリル系樹脂(A)及び有機溶媒を含有する粘着剤組成物が、架橋剤により架橋されてなる粘着剤であって、
上記架橋剤が、イソシアネート系架橋剤(ただし、ブロックイソシアネート架橋剤を除く)を含むことを特徴とする粘着剤。」

に訂正する。

(5)訂正事項5

特許請求の範囲の請求項5に、

「・・・アクリル系樹脂(A)を含有することを特徴とする粘着剤組成物。」と

記載されているのを

「・・・アクリル系樹脂(A)及び有機溶媒を含有する粘着剤組成物が、架橋剤により架橋されてなる粘着剤であって、
上記架橋剤が、イソシアネート系架橋剤(ただし、ブロックイソシアネート架橋剤を除く)を含むことを特徴とする粘着剤。」

に訂正する。

(6)訂正事項6

特許請求の範囲の請求項6に、

「上記炭素数4~7のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2-1)の炭素数8~24のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2-2)に対する含有割合が、重量比で、(a2-1)/(a2-2)=1/99~85/15であることを特徴とする請求項4記載の粘着剤組成物。
」と記載されているのを、
「炭素数1~3のアルキル基を有する(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種(a1)1~20重量%、
t-ブチル(メタ)アクリレートを除く、炭素数4~7のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2-1)及び炭素数8~24のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2-2)を含有する炭素数4~24のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2)55~97重量%、
下記一般式(1)で示される末端カルボキシル基含有モノマー(a3)1~20重量%、
及び(メタ)アクリル酸(a4)0.1~5重量%、
を含む共重合成分(a)を共重合してなるアクリル系樹脂(A)を含有し、
上記炭素数4~7のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2-1)の炭素数8~24のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2-2)に対する含有割合が、重量比で、(a2-1)/(a2-2)=15/85~40/60であることを特徴とする粘着剤組成物。
〔式〕CH2=CR1-CO-O-(C2H4-COO-)nH・・・(1)
ここで、R1は水素またはメチル基、nは1以上の正数を示す。」

に訂正する。(請求項6の記載を引用する請求項7も同様に訂正する。)

(7)訂正事項7

特許請求の範囲の請求項7に、

「・・・特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の粘着剤組成物。」と記載されているのを、

「・・・特徴とする請求項6記載の粘着剤組成物。」

に訂正する。

(8)訂正事項8

特許請求の範囲の請求項8を削除する。

(9)訂正事項9

特許請求の範囲の請求項9に、

「基材と、上記基材上に形成された請求項8記載の粘着剤とを備えることを特徴とする粘着テープ。」と記載されているのを、

「基材と、上記基材上に形成された粘着剤とを備える粘着テープであって、
上記粘着剤は、
炭素数1~3のアルキル基を有する(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種(a1)1~20重量%、
t-ブチル(メタ)アクリレートを除く、炭素数4~24のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2)55~97重量%、
続きを表示(全11行)
下記一般式(1)で示される末端カルボキシル基含有モノマー(a3)1~20重量%、
及び(メタ)アクリル酸(a4)0.1~5重量%、
を含む共重合成分(a)を共重合してなるアクリル系樹脂(A)〔ただし、(a1)としてメチルアクリレート19.61重量%、(a2)としてブチルアクリレート73.53重量%、(a3)としてアクリル酸2-カルボキシエチル0.78重量%、アクリル酸の三量体以上のオリゴマー0.78重量%、(a4)としてアクリル酸0.39重量%を含む共重合成分を共重合してなるアクリル系樹脂を除く〕及び有機溶媒を含有する粘着剤組成物が、架橋剤により架橋されてなるものであり、
上記架橋剤が、イソシアネート系架橋剤(ただし、ブロックイソシアネート架橋剤を除く)を含み、
上記粘着テープのSUS304鋼の試験板に対するJIS Z0237に準じた180゜剥離強度が、25N以上/25mmであることを特徴とする粘着テープ。
〔式〕CH2=CR1-CO-O-(C2H4-COO-)nH・・・(1)
ここで、R1は水素またはメチル基、nは1以上の正数を示す。」

に訂正する(請求項9の記載を引用する請求項10も同様に訂正する)。

(10)訂正事項10

特許請求の範囲の請求項8に、

「請求項1~7のいずれか一項に記載の粘着剤組成物が架橋されてなることを特徴とする粘着剤。」とあるうち、請求項4を引用するものについて独立形式に改めた上、

「基材と、上記基材上に形成された粘着剤とを備える粘着テープであって、
上記粘着剤は、
炭素数1~3のアルキル基を有する(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種(a1)1~20重量%、
t-ブチル(メタ)アクリレートを除く、炭素数4~7のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2-1)及び炭素数8~24のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2-2)を含有する炭素数4~24のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2)55~97重量%、
下記一般式(1)で示される末端カルボキシル基含有モノマー(a3)1~20重量%、
及び(メタ)アクリル酸(a4)0.1~5重量%、
を含む共重合成分(a)を共重合してなるアクリル系樹脂(A)及び有機溶媒を含有する粘着剤組成物が架橋されてなり、
上記粘着テープのSUS304鋼の試験板に対するJIS Z0237に準じた180゜剥離強度が、25N以上/25mmであることを特徴とする粘着テープ。
〔式〕CH2=CR1-CO-O-(C2H4-COO-)nH・・・(1)
ここで、R1は水素またはメチル基、nは1以上の正数を示す。」

と記載し、新たな請求項11とする。

(11)訂正事項11

特許請求の範囲の請求項8に、

「請求項1~7のいずれか一項に記載の粘着剤組成物が架橋されてなることを特徴とする粘着剤。」とあるうち、請求項5を引用するものについて独立形式に改めた上、

「基材と、上記基材上に形成された粘着剤とを備える粘着テープであって、
上記粘着剤は、
炭素数1~3のアルキル基を有する(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種(a1)1~20重量%、
t-ブチル(メタ)アクリレートを除く、炭素数4~24のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2)55~97重量%、
続きを表示(全11行)
下記一般式(1)で示される末端カルボキシル基含有モノマー(a3)1~20重量%、
(メタ)アクリル酸(a4)0.1~5重量%、
及び水酸基含有モノマー(a5)〔ただし、1-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸ナトリウムを除く〕0.01~5重量%、
を含む共重合成分(a)を共重合してなるアクリル系樹脂(A)を含有する粘着剤組成物が架橋されてなり、
上記粘着テープのSUS304鋼の試験板に対するJIS Z0237に準じた180゜剥離強度が、25N以上/25mmであることを特徴とする粘着テープ。
〔式〕CH2=CR1-CO-O-(C2H4-COO-)nH・・・(1)
ここで、R1は水素またはメチル基、nは1以上の正数を示す。」

と記載し、新たな請求項12とする。

(12)一群の請求項及び別の訂正単位とする求め

訂正前の請求項1~10において、請求項7は請求項1~6を引用する形式で記載され、請求項8~10は、それぞれ直前の請求項を引用する形式で記載されたものであるから、訂正前の請求項1~10は一群の請求項であり、これらに対応する訂正後の請求項1~12も一群の請求項である。そして、特許権者は、一群の請求項である訂正前の請求項1~10に対応する訂正後の請求項1~7、9~12に関し、訂正後の請求項6及び7、9及び10、11、12については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別の訂正単位とすることを求めている。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1について

訂正事項1に係る請求項1の訂正は、訂正前の請求項1の粘着剤組成物が「有機溶媒を含み、かつ、水を含まない」「溶媒」を含有することを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

また、願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の段落【0086】に「・・・上記粘着剤組成物を、酢酸エチル等の溶媒に溶解させて、・・・」と記載されると共に、同【0115】~【0125】のいずれの実施例も酢酸エチルを含み、水を含まないものであるから、当該訂正は、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項との関係において新たな技術的事項を導入するものとはいえず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について

訂正事項2に係る請求項2の訂正は、訂正前の請求項2の粘着組成物が「・・・アクリル系樹脂(A)及び有機溶媒を含有し、かつ、界面活性剤、及び不飽和二重結合を有する界面活性剤を共重合成分として含むアクリル系樹脂のいずれも含まない」ことを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

また、本件明細書の段落【0086】及び【0115】~【0125】の実施例等の記載に基づき、有機溶媒を含有することを特定すると共に、下記第6 2の甲第1号証の段落【0015】の「PSAポリマーは、・・・界面活性剤の存在下で・・・」との記載、同【0016】の「好ましくは、界面活性剤の二重結合を介してPSAポリマーの主鎖に化学的に結合する反応性界面活性剤をモノマー重量に基づいて約0.5-2重量%の量で重合配合物に使用する。」、及び、甲第3号証の段落【0004】の「・・・乳化剤として界面活性剤を用い、水媒体中で乳化重合して製造される」との記載に鑑み、界面活性剤を含む態様と、不飽和二重結合を有する界面活性剤を共重合成分として含むアクリル系樹脂を含む態様を請求項2の粘着組成物から除くことにより、下記第6 3(1)及び(2)の甲1発明と甲3発明との相違を明らかにするものであり、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3、4及び5について

訂正事項3、4及び5に係る請求項3~5の訂正は、訂正前の請求項3、4及び5の粘着剤組成物が、有機溶媒を含有することを特定すると共に、「イソシアネート系架橋剤(ただし、ブロックイソシアネート架橋剤を除く)」「により架橋されてなる粘着剤」であることを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

また、本件明細書の段落【0086】及び【0115】~【0125】の実施例等の記載に基づき、有機溶媒を含有することを特定すると共に、本件明細書の段落【0085】及び【0065】に「また、この粘着剤組成物が架橋されることにより、本発明の粘着剤が得られる。」及び「・・・イソシアネート系架橋剤を用いることが好ましい。」と記載される一方、甲第3号証の【0036】に「こうして得られる水分散型アクリル系粘着剤は、・・・ブロックイソシアネート系などの架橋剤を添加して使用することができる」と記載されていることから、イソシアネート系架橋剤により架橋されてなることを特定する上で「イソシアネート系架橋剤」から「ブロックイソシアネート架橋剤」を除くことにより、甲3発明との相違を明らかにするものであり、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項6について

訂正事項6に係る請求項6の訂正は、訂正前の請求項4の記載を引用する訂正前の請求項6を独立形式に改めると共に、「炭素数4~7のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2-1)の炭素数8~24のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2-2)に対する含有割合」の「重量比」「(a2-1)/(a2-2)」について、訂正前の請求項6の「1/99~85/15」を「15/85~40/60」に減縮するものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること、及び、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

また、訂正事項6は、本件明細書の段落【0034】の「上記(a2-1)成分の上記(a2-2)成分に対する含有割合は、重量比で、(a2-1)/(a2-2)=1/99~85/15、特には5/95~80/20、さらには10/90~70/30、殊には15/85~40/60であることが好ましい。」との記載に基づき(a2-1)/(a2-2)の重量比の範囲を特定するものであるから、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項との関係において新たな技術的事項を導入するものとはいえず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)訂正事項7について

訂正事項7に係る請求項7の訂正は、「請求項1~6のいずれか一項」の引用形式で記載される訂正前の請求項7を、請求項6のみの引用形式とするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(6)訂正事項8について

訂正事項8に係る請求項8の訂正は、訂正前の請求項8を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(7)訂正事項9について

訂正事項9に係る請求項9の訂正は、訂正前の請求項1の記載を引用する請求項8をさらに引用する請求項9を独立形式に改め、粘着剤組成物が、有機溶媒を含有すること(以下「9-1」という。)、「イソシアネート系架橋剤(ただし、ブロックイソシアネート架橋剤を除く)」「により架橋されてなる粘着剤」であること(以下「9-2」という。)、及び、「粘着テープのSUS304鋼の試験板に対するJIS Z0237に準じた180゜剥離強度が、25N以上/25mmである」(以下「9-3」という。)ことを特定するものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること、及び、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

前記9-3は、本件明細書の段落【0102】の「中でも、比較的極性が高い被着体としてSUS304鋼の試験板を使用した場合は、JIS Z0237に準じた180゜剥離強度が、25N以上/25mmであることが好ましく・・・」との記載から、粘着テープの剥離強度を特定するものであり、前記9-1及び9-2は、前記(3)と同様の訂正であるから、いずれも、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(8)訂正事項10について

訂正事項10に係る請求項8の訂正は、訂正前の請求項4を引用する請求項8を独立形式に改めると共に、接着剤組成物が有機溶媒を含有すること(以下「10-1」という。)、粘着剤組成物が架橋されてなる「基材と、上記基材上に形成された粘着剤とを備える粘着テープであ」ること(以下「10-2」という。)、及び、「粘着テープのSUS304鋼の試験板に対するJIS Z0237に準じた180゜剥離強度が、25N以上/25mmである」こと(以下「10-3」という。)を特定するものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること、及び、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

前記10-2は、本件明細書の段落【0085】及び【0086】の「また、この粘着剤組成物が架橋されることにより、本発明の粘着剤が得られる。」及び「本発明の粘着テープは、上記粘着剤組成物を架橋(硬化)することにより得られた粘着剤を、粘着剤層として含有するものである。」との記載から、基材と、前記基材上に形成された、粘着剤組成物が架橋されてなる粘着剤とを備える粘着テープであることを特定するものであり、前記10-1及び10-3は、前記(7)の9-1及び9-3と同様の訂正であるから、いずれも、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(9)訂正事項11について

訂正事項11に係る請求項8の訂正は、訂正前の請求項5を引用する請求項8を独立形式に改めると共に、粘着剤組成物が架橋されてなる「基材と、上記基材上に形成された粘着剤とを備える粘着テープであ」ること(以下「11-1」という。)、水酸基含有モノマー(a5)は、「1-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸ナトリウムを除く」こと(以下「11-2」という。)、及び、「粘着テープのSUS304鋼の試験板に対するJIS Z0237に準じた180゜剥離強度が、25N以上/25mmである」こと(以下「11-3」という。)を特定するものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること、及び、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

前記11-2は、下記第6 3(1)の甲1発明その相違を明らかにするために、水酸基含有モノマー(a5)は、「1-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸ナトリウムを含まないことを特定するものであり、前記11-1及び11-3は、前記(8)の10-2及び10-3と同様であるから、いずれも、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 独立特許要件について

本件訂正においては、訂正前の全ての請求項である請求項1~10に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定は課されない。

4 訂正についてのまとめ

以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕〔6、7〕〔9、10〕、11、12について訂正することを認める。

第3 本件訂正発明

上記第2のとおり、本件訂正が認められることから、本件特許の請求項1~12に係る発明は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲に請求項1~12に記載された以下のとおりのものと認める(以下、請求項の番号に従い、「本件訂正発明1」などといい、まとめて「本件訂正発明」ということもある。)。

「【請求項1】
炭素数1~3のアルキル基を有する(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種(a1)1~20重量%、
t-ブチル(メタ)アクリレートを除く、炭素数4~24のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2)55~97重量%、
下記一般式(1)で示される末端カルボキシル基含有モノマー(a3)1~20重量%、
続きを表示(全94行)
及び(メタ)アクリル酸(a4)0.1~5重量%、
を含む共重合成分(a)を共重合してなるアクリル系樹脂(A)〔ただし、(a1)としてメチルアクリレート19.61重量%、(a2)としてブチルアクリレート73.53重量%、(a3)としてアクリル酸2-カルボキシエチル0.78重量%、アクリル酸の三量体以上のオリゴマー0.78重量%、(a4)としてアクリル酸0.39重量%を含む共重合成分を共重合してなるアクリル系樹脂を除く〕及び溶媒を含有し、
上記溶媒として、有機溶媒を含み、かつ、水を含まないことを特徴とする粘着剤組成物。
〔式〕 CH2=CR1-CO-O-(C2H4-COO-)nH・・・(1)
ここで、R1は水素またはメチル基、nは1以上の正数を示す。
【請求項2】
炭素数1~3のアルキル基を有する(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種(a1)1~18重量%、
t-ブチル(メタ)アクリレートを除く、炭素数4~24のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2)55~97重量%、
下記一般式(1)で示される末端カルボキシル基含有モノマー(a3)1~20重量%、
及び(メタ)アクリル酸(a4)0.1~5重量%、
を含む共重合成分(a)を共重合してなるアクリル系樹脂(A)及び有機溶媒を含有し、かつ、界面活性剤、及び不飽和二重結合を有する界面活性剤を共重合成分として含むアクリル系樹脂のいずれも含まないことを特徴とする粘着剤組成物。
〔式〕 CH2=CR1-CO-O-(C2H4-COO-)nH・・・(1)
ここで、R1は水素またはメチル基、nは1以上の正数を示す。
【請求項3】
炭素数1~3のアルキル基を有する(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種(a1)1~20重量%、
t-ブチル(メタ)アクリレートを除く、炭素数4~24のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2)80~97重量%、
下記一般式(1)で示される末端カルボキシル基含有モノマー(a3)1~20重量%、
及び(メタ)アクリル酸(a4)0.1~5重量%、
を含む共重合成分(a)を共重合してなるアクリル系樹脂(A)及び有機溶媒を含有する粘着剤組成物が、架橋剤により架橋されてなる粘着剤であって、
上記架橋剤が、イソシアネート系架橋剤(ただし、ブロックイソシアネート架橋剤を除く)を含むことを特徴とする粘着剤。
〔式〕 CH2=CR1-CO-O-(C2H4-COO-)nH・・・(1)
ここで、R1は水素またはメチル基、nは1以上の正数を示す。
【請求項4】
炭素数1~3のアルキル基を有する(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種(a1)1~20重量%、
t-ブチル(メタ)アクリレートを除く、炭素数4~7のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2-1)及び炭素数8~24のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2-2)を含有する炭素数4~24のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2)55~97重量%、
下記一般式(1)で示される末端カルボキシル基含有モノマー(a3)1~20重量%、
及び(メタ)アクリル酸(a4)0.1~5重量%、
を含む共重合成分(a)を共重合してなるアクリル系樹脂(A)及び有機溶媒を含有する粘着剤組成物が、架橋剤により架橋されてなる粘着剤であって、
上記架橋剤が、イソシアネート系架橋剤(ただし、ブロックイソシアネート架橋剤を除く)を含むことを特徴とする粘着剤。
〔式〕 CH2=CR1-CO-O-(C2H4-COO-)nH・・・(1)
ここで、R1は水素またはメチル基、nは1以上の正数を示す。
【請求項5】
炭素数1~3のアルキル基を有する(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種(a1)1~20重量%、
t-ブチル(メタ)アクリレートを除く、炭素数4~24のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2)55~97重量%、
下記一般式(1)で示される末端カルボキシル基含有モノマー(a3)1~20重量%、
(メタ)アクリル酸(a4)0.1~5重量%、
及び水酸基含有モノマー(a5)
を含む共重合成分(a)を共重合してなるアクリル系樹脂(A)及び有機溶媒を含有する粘着剤組成物が、架橋剤により架橋されてなる粘着剤であって、
上記架橋剤が、イソシアネート系架橋剤(ただし、ブロックイソシアネート架橋剤を除く)を含むことを特徴とする粘着剤。
〔式〕 CH2=CR1-CO-O-(C2H4-COO-)nH・・・(1)
ここで、R1は水素またはメチル基、nは1以上の正数を示す。
【請求項6】
炭素数1~3のアルキル基を有する(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種(a1)1~20重量%、
t-ブチル(メタ)アクリレートを除く、炭素数4~7のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2-1)及び炭素数8~24のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2-2)を含有する炭素数4~24のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2)55~97重量%、
下記一般式(1)で示される末端カルボキシル基含有モノマー(a3)1~20重量%、
及び(メタ)アクリル酸(a4)0.1~5重量%、
を含む共重合成分(a)を共重合してなるアクリル系樹脂(A)を含有し、
上記炭素数4~7のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2-1)の炭素数8~24のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2-2)に対する含有割合が、重量比で、(a2-1)/(a2-2)=15/85~40/60であることを特徴とする粘着剤組成物。
〔式〕 CH2=CR1-CO-O-(C2H4-COO-)nH・・・(1)
ここで、R1は水素またはメチル基、nは1以上の正数を示す。
【請求項7】
上記一般式(1)で示される末端カルボキシル基含有モノマー(a3)100重量部に対する上記(メタ)アクリル酸(a4)の含有量が10~400重量部であることを特徴とする請求項6記載の粘着剤組成物。
【請求項8】(削除)
【請求項9】
基材と、上記基材上に形成された粘着剤とを備える粘着テープであって、
上記粘着剤は、
炭素数1~3のアルキル基を有する(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種(a1)1~20重量%、
t-ブチル(メタ)アクリレートを除く、炭素数4~24のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2)55~97重量%、
下記一般式(1)で示される末端カルボキシル基含有モノマー(a3)1~20重量%、
及び(メタ)アクリル酸(a4)0.1~5重量%、
を含む共重合成分(a)を共重合してなるアクリル系樹脂(A)〔ただし、(a1)としてメチルアクリレート19.61重量%、(a2)としてブチルアクリレート73.53重量%、(a3)としてアクリル酸2-カルボキシエチル0.78重量%、アクリル酸の三量体以上のオリゴマー0.78重量%、(a4)としてアクリル酸0.39重量%を含む共重合成分を共重合してなるアクリル系樹脂を除く〕及び有機溶媒を含有する粘着剤組成物が、架橋剤により架橋されてなるものであり、
上記架橋剤が、イソシアネート系架橋剤(ただし、ブロックイソシアネート架橋剤を除く)を含み、
上記粘着テープのSUS304鋼の試験板に対するJIS Z0237に準じた180゜剥離強度が、25N以上/25mmであることを特徴とする粘着テープ。
〔式〕CH2=CR1-CO-O-(C2H4-COO-)nH・・・(1)
ここで、R1は水素またはメチル基、nは1以上の正数を示す。
【請求項10】
請求項9記載の粘着テープからなることを特徴とする気密防水用粘着テープ。
【請求項11】
基材と、上記基材上に形成された粘着剤とを備える粘着テープであって、
上記粘着剤は、
炭素数1~3のアルキル基を有する(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種(a1)1~20重量%、
t-ブチル(メタ)アクリレートを除く、炭素数4~7のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2-1)及び炭素数8~24のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2-2)を含有する炭素数4~24のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2)55~97重量%、
下記一般式(1)で示される末端カルボキシル基含有モノマー(a3)1~20重量%、
及び(メタ)アクリル酸(a4)0.1~5重量%、
を含む共重合成分(a)を共重合してなるアクリル系樹脂(A)及び有機溶媒を含有する粘着剤組成物が架橋されてなり、
上記粘着テープのSUS304鋼の試験板に対するJIS Z0237に準じた180゜剥離強度が、25N以上/25mmであることを特徴とする粘着テープ。
〔式〕CH2=CR1-CO-O-(C2H4-COO-)nH・・・(1)
ここで、R1は水素またはメチル基、nは1以上の正数を示す。
【請求項12】
基材と、上記基材上に形成された粘着剤とを備える粘着テープであって、
上記粘着剤は、
炭素数1~3のアルキル基を有する(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種(a1)1~20重量%、
t-ブチル(メタ)アクリレートを除く、炭素数4~24のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2)55~97重量%、
下記一般式(1)で示される末端カルボキシル基含有モノマー(a3)1~20重量%、
(メタ)アクリル酸(a4)0.1~5重量%、
及び水酸基含有モノマー(a5)〔ただし、1-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸ナトリウムを除く〕0.01~5重量%、
を含む共重合成分(a)を共重合してなるアクリル系樹脂(A)を含有する粘着剤組成物が架橋されてなり、
上記粘着テープのSUS304鋼の試験板に対するJIS Z0237に準じた180゜剥離強度が、25N以上/25mmであることを特徴とする粘着テープ。
〔式〕CH2=CR1-CO-O-(C2H4-COO-)nH・・・(1)
ここで、R1は水素またはメチル基、nは1以上の正数を示す。」

第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要

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特許異議申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。

1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性)

本件特許の請求項1~4、7及び9に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~4、7及び9に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

2 申立理由2(甲第1号証及び甲第3号証に基づく進歩性)

本件特許の請求項1~10に係る発明は、甲第1号証及び甲3号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~10に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

3 証拠方法

(1)特許異議申立人が提出した証拠

甲第1号証:特表2002-508414号公報
甲第2号証:特開2008-106189号公報
甲第3号証:特開平6-145623号公報

以下、「甲第1号証」ないし「甲第3号証」を、「甲1」ないし「甲3」ともいう。

(2)特許権者が提出した証拠

乙第1号証:日本粘着テープ工業会編、アクリル系粘着剤”粘着ハンドブック第3版”、第26、27頁(2005)
乙第2号証:阿部正彦他、改訂版 界面活性剤の機能創製・素材開発・応用技術、第1~5頁(2011)
乙第3号証:(財)日本規格協会、JIS工業用語大辞典【第4版】、第1397頁

以下、「乙第1号証」ないし「乙第3号証」を、「乙1」ないし「乙3」ともいう。

第5 令和6年2月8日付けで特許権者に通知した取消理由の概要

理由2:(進歩性)令和5年12月5日付け手続補正書により補正された令和5年8月28日付け訂正請求により訂正された本件特許の請求項2~8に係る発明は、本件出願の優先権主張の基礎となる出願の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明、甲1及び甲3の記載並びに周知技術に基いて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

また、令和5年12月5日付け手続補正書により補正された令和5年8月28日付け訂正請求により訂正された本件特許の請求項2、3、7~10に係る発明は、本件出願の優先権主張の基礎となる出願の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3に記載された発明、甲1及び甲3の記載並びに周知技術に基いて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

第6 当審の判断

1 取消理由及び申立理由2について

申立理由2は、甲1及び甲3に基づく進歩性に関するものであるから、取消理由と併せて検討する。

2 甲号証及び乙号証の記載について

(1)甲1には、次の記載がある。

「【請求項1】 本質的に、(i)アルキル基に4-8個の炭素原子を含む1種または複数のアルキルアクリレートを55-90重量%の量で含み、(ii)アクリル酸と混合物重量に基づいて少なくとも約50重量%のアクリル酸オリゴマーとのモノマー混合物を4-20重量%の量で含み、更に、(iii)0-15重量%のビニルエステルと、(iv)0-30重量%のアクリル酸メチルと、(v)0-5重量%の共重合性界面活性剤と、(vi)0-5重量%の連鎖移動剤とを含む出発材料から得られるアルカリ分散性、固有粘着性、感圧接着性エマルジョンポリマー。
・・・
【0002】
感圧接着剤(PSA)は室温(約25℃)で固有粘着性であり、指で軽く押さえる程度で多様な範囲の表面に容易に結合し得る。接着特性の所望のバランスを有するPSAは多くの用途で広く使用されている。
続きを表示(全71行)
・・・
【0009】
(詳細な説明)
本発明のPSAエマルジョンポリマーは、本質的に、(i)アルキル基に4-8個の炭素原子を含む1種または複数のアルキルアクリレート(例えば、n-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、イソオクチルアクリレートなど)を55-90重量%の量で含み、(ii)アクリル酸と混合物重量に基づいて少なくとも約50重量%のアクリル酸オリゴマーとのモノマー混合物を4-20重量%の量で含み、更に、(iii)0-15重量%のビニルエステル(例えば、酢酸ビニル、酪酸ビニル、プロピオン酸ビニル、イソ酪酸ビニル、吉草酸ビニルなど)と、(iv)0-30重量%好ましくは20-30重量%のアクリル酸メチルと、(v)0-5重量%の共重合性界面活性剤(後述)と、(vi
)0-5重量%の連鎖移動剤(後述)とを含む出発材料から製造される。
・・・
【0016】
好ましくは、界面活性剤の二重結合を介してPSAポリマーの主鎖に化学的に結合する反応性界面活性剤をモノマー重量に基づいて約0.5-2重量%の量で重合配合物に使用する。これによってエマルジョンの安定性が強化され、また界面活性剤がポリマー自体の構成部分となるので、支持体を製造するためにPSA組成物を塗布して乾燥したときに界面活性剤が乾燥接着面に移行しない。界面活性剤が乾燥接着面に存在するとき、この界面活性剤は水分を吸引し高湿度条件下の接着性能を損傷する。好ましい重合性界面活性剤は、RhodiaからCOPS1として市販されている1-アリルオキシ-2-ヒドロキシスルホン酸ナトリウム(当審注:特許第5647605号の【0054】の記載から、「1-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロピルスルホン酸ナトリウム」の誤記と認められる。)である。他の有用な反応性界面活性剤としては、HenkelからTREM(登録商標)-LF40として市販されているアルキルアリルスルホスクシネート及びBASF CorpからSAM-211として市販されているアルキレンポリアルコキシアンモニウムスルフェートがある。
・・・
【0026】
以下の実施例は本発明の代表例であり、異なる指示がない限り、記載の部及びパーセンテージはすべて重量に基づく。
【0027】
実施例C1、C2、C3及び1、2、3
A.PSAポリマーの製造
(a)高速撹拌機を備えたタンクに周囲温度で以下の成分を導入し、粘性ゲルが形成されるまで撹拌する:
[図:0001419304000001.jpg]
[図:0001419304000002.jpg]
【0028】
(b)撹拌した重合反応器に以下の成分:
[図:0001419304000003.jpg]
を別々に充填し、次いで78℃に加熱する。次に、上記(a)の粘性ゲルを一定流量で200分にわたって連続的に充填する。添加中に温度を82℃まで徐々に上昇させ、この温度に維持する。(a)の添加後、反応器の内容物を82℃で30分間維持し、次いで55℃に冷却する。次に、0.51gのAkzo NobelのTriganox(登録商標)A-W70(tert-ブチルヒドロペルオキシド)と、0.41gのHenkel Corp.のParolite(登録商標)(亜鉛スルホキシレートホルムアルデヒド還元剤)と、3gの脱泡剤(WitcoのBalab 3056A)と0.14gの殺生剤(Rohm & HassのKathon LX)とを充填し、内容物を55℃で30分間維持した後、室温に冷却する。エマルジョンポリマーのガラス転移温度の測定値は-35℃である。(充填モノマーに基づいて)ポリマーは以下の組成である:
[図:0001419304000004.jpg]
【0029】
B.配合PSA組成物の調製
100重量%のAに記載のポリマーのエマルジョンに撹拌しながら以下の成分
(重量%)を添加する。
【0030】
[図:0001419304000005.jpg]
【0031】
C.特性試験用ラミネートの製造
上記の配合PSA組成物をフィルターバッグ(篩目約75ミクロン)で濾過する。検定済み引抜きバーを使用してシリコーン処理表面に濾過エマルジョンを付着させ、次に、先ず室温(約20℃)(15分間)次いで90℃の強制熱風(5分間)で乾燥することによって、組成物の1ミル(0.025mm)厚みの乾燥薄膜をシリコーン処理(Darbert)剥離性裏紙支持体に形成する。剥離接着、剪断及び粘着試験用のマイラー(ポリエステル)フィルム及び永久性と再分散性試験用の紙(米国郵政省規格P-1238Cに適合するWestvaco Co.,Richard VAの感圧接着性切手用紙,坪量85.8-97.7g/m2)を、種々の乾燥薄膜標本に載せ、貼合せ機で3つの層を合わせて室温で押圧してラミネートを形成し、得られたラミネートの性能特性を上記手順で測定する。商業的にはラミネートの紙層をインク印刷した(即ち、一方の面にインク印刷し他方の面をPSA被覆した)郵便切手が製造されるが、PSAの性能評価試験にはこのような印刷は不要なので以下の試験では行わなかった。
【0032】
PSA組成物の評価
実施例では以下の略号を使用する:
BA=アクリル酸ブチル
EHA=アクリル酸2-エチルヘキシル
MA=アクリル酸メチル
AA=アクリル酸
MAA=メタクリル酸
MMA=メタクリル酸メチル
CEA=アクリル酸オリゴマー混合物;Rhone PoulencのSipomer β-CEA
Vac=酢酸ビニル
TDM=tert-ドデシルメルカプタン
DDM=n-ドデシルメルカプタン
Redisp=再分散性試験
P=合格(再分散性試験)
F=不合格(再分散性試験)
PL20=20分間の保持時間後の剥離試験
A=接着層破損モード(剥離試験)
C=凝集破壊モード(剥離試験)
C1、C2、C3=本発明でない対照実施例
実施例で試験したPSAポリマーの製造に使用したモノマーの含量(充填モノマー基準の%)を以下の表に示す:
【0033】
【表1】
[図:0001419304000006.jpg]
【0034】
【表2】
[図:0001419304000007.jpg]
【0035】
【表3】
[図:0001419304000008.jpg]
【0036】
【表4】
[図:0001419304000009.jpg]
・・・
【0042】
また、本発明ポリマーは上記のような再分散性及びリサイクル適性を示すことに加えて、表1に例示したような広い範囲の望ましい接着特性を示す。」

(2)甲2には、次の記載がある。

「【0114】
メタクリル酸2-エチルヘキシル/アクリル酸n-ブチル/「β-CEA」(酸性官能基含有単量体混合物、ローヌ・プーラン(株)のモノマー)(下記構造式において、R1=H、m=0(20%)、m=1(40%)、m=2およびm=3(40%)の単量体混合物)
【0115】
【化11】
[図:0001419304000010.jpg]
」

(3)甲3には、次の記載がある。

「【請求項1】 アルキル基の炭素数が4~14の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とし、これと共重合可能な下記の一般式(A)又は(B)又は(C)で表される少なくとも一種のカルボキシル基含有モノマーとの混合モノマーを、水媒体中で乳化重合してなる水分散型アクリル系粘着剤。
CH2=CHCOO-(CH2-CH2-COO)n-H (A)
(但し、nの平均は1~2)
CH2=CHCOO-(C5H10-COO)n-H (B)
続きを表示(全47行)
(但し、nの平均は1~3)
CH2=CR1COO-C2H4-OOC-R2-COOH (C)
(但し、R1は水素又はメチル基、R2はエチレン基又はアリーレン基)
・・・
【0012】この発明において、アルキル基の炭素数が4~14の(メタ)アクリル酸エステルとしては、n-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチルアクリレート、ラウリルメタクリレートの一種又は二種以上のモノマーが好適である。
・・・
【0015】また、一般式(A)で表されるカルボキシル基含有モノマーは、アクリル酸のオリゴマーであり、nが平均で1~2のものが使用される。このようなモノマーとしては、例えば、アクリル酸ダイマーと呼ばれる東亜合成社製の商品名M-5600、Interez社製の商品名Novamer β-CEA等が挙げられる。
・・・
【0020】なお、本発明においては、必要に応じて共重合可能な他のビニル系モノマーを併用してもよい。このようなビニル系モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、酢酸ビニル、アクリロニトリル、スチレン、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、N-ブトキシメチルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノエチルメタクリレート、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、アクリロイルモルホリン等の一種又は二種以上のモノマーが用いられる。
・・・
【0025】界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩等のポリオキシエチレン鎖を有するアニオン系界面活性剤が、重合安定性等の点で好ましい。特に、このようなポリオキシエチレン鎖を有するアニオン系界面活性剤に、(メタ)アクリロイル基、プロペニル基、アリル基等を付加した共重合性二重結合を有するものがさらに好ましい。
・・・
【0036】こうして得られる水分散型アクリル系粘着剤は、そのままでも使用できる。また、耐クリープ性を向上させるために、アジリジン系、エポキシ系、ブロックイソシアネート系などの架橋剤を添加して使用することができる。
【0037】また、接着性を向上させるために、粘着付与剤やエチレン-酢酸ビニル共重合体などの水性分散体を添加して使用することができる。なお、これ等の水性分散体は、混合モノマーに添加しておいて、乳化重合を行うようにしてもよい。
・・・
【0039】この水分散型アクリル系粘着剤は、主に、粘着テープもしくはシートの製造に使用される。すなわち、粘着テープもしくはシートは、紙、不織布、ポリエステルやポリプロピレンなどの合成樹脂フィルム、金属箔等からなる基材の少なくとも一面に、上記の水分散型アクリル系粘着剤を塗布し乾燥することにより製造される。
【0044】
【実施例】以下、この発明の実施例及び比較例を示す。
実施例1
温度計、攪拌機、還流冷却管及び窒素導入管を備えた反応器内に、過硫酸アンモニウム0.1重量部を溶解したイオン交換水50重量部を投入し、窒素雰囲気下で70℃に加温した。
【0045】モノマー組成として、2-エチルヘキシルアクリレート20重量部、n-ブチルアクリレート74重量部、前記一般式(A)のモノマーとして、アクリル酸ダイマー(nの平均が1.4)(M-5600:東亜合成社製)6重量部を用いた。
【0046】また、アニオン系界面活性剤として、プロペニル基付加ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸アンモニウム(酸化エチレン付加モル数10)(アクアロンHS-10:第一工業製薬社製)0.6重量部を用い、ノニオン系界面活性剤として、プロペニル基付加ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(酸化エチレン付加モル数20)(アクアロンRN-20:第一工業製薬社製)0.3重量部を用いた。
【0047】上記のモノマー組成100重量部、アニオン系界面活性剤0.6重量部、ノニオン系界面活性剤0.3重量部、イオン交換水30重量部を、混合攪拌して乳化モノマーを調製し、滴下漏斗に仕込んだ。
【0048】この乳化モノマーを、前記の過硫酸アンモニウムを溶解したイオン交換水に3時間かけて滴下し乳化重合を行った。乳化重合中は、反応器内の温度を70℃に保持した。
【0049】その後、滴下漏斗をイオン交換水1重量部で洗浄して滴下し、70℃で1時間保持して乳化重合を行い、その後90℃に昇温して1時間保持熟成した。重合転化率は99%以上であった。
【0050】乳化重合液を30℃以下に冷却し、これを25重量%のアンモニア水で中和した。これに、ウレタン系増粘剤(アデカノールUH-438:旭電化社製)0.4重量部を混合攪拌した後濾過して、水分散型アクリル系粘着剤を製造した。
・・・
【0054】さらに、上記の水分散型アクリル系粘着剤を、離型処理したポリエステルフィルム(PET)の一面に、糊厚が60μmとなるように塗布し乾燥し、これを坪量14g/m2のセルロース系不織布の両面に転写して、両面粘着テープ(架橋剤添加なし)を作製した。【0055】上記の両面粘着テープについて、JIS Z 1528に準拠して、ステンレス板及びポリプロピレン板に対する粘着力(g/20mm幅)(180°剥離、20℃×65%RH)を測定した。
・・・
【0058】実施例2
実施例1において、モノマー組成を、2-エチルヘキシルアクリレート50重量部、n-ブチルアクリレート44重量部、メチルメタクリレート3重量部、前記一般式(A)のモノマーとして、アクリル酸ダイマー(nの平均が1.0)(Novamer β-CEA:Interez社製)3重量部に変更した。
・・・
【0061】実施例3
実施例1において、モノマー組成を、2-エチルヘキシルメタクリレート85重量部、メチルメタクリレート10重量部、前記一般式(A)のモノマーとして、アクリル酸ダイマー(nの平均が1.0)(Novamer β-CEA:Interez社製)5重量部に変更した。
・・・
【0064】
さらに、この実施例で得られた水分散型アクリル系粘着剤に、アジリジン化合物からなる架橋剤(DZ-22E:日本触媒社製)を、粘着剤層のゲル分率(テトラヒドロフランに溶解させた時の不溶解分)が約60重量%となるように添加し、同様にして両面粘着テープ(架橋剤添加あり)を作製し、粘着力と保持力を測定した。その結果も表1に併記した。
・・・
【0075】
【表1】
[図:0001419304000011.jpg]
・・・
【0080】したがって、このような水分散型アクリル系粘着剤を用いて、粘着テープもしくはシートを製造する際には、能率よく製造することができる。そして、得られる粘着テープもしくはシートは、耐水性がよく接着性能に優れ、包装用、事務用、電気絶縁用、医療用、表示用、その他広汎な用途に好適に使用することができる。」

(4)乙1には、次の記載がある。

ア 26頁 表10

[図:0001419304000012.jpg]

イ 27頁 表11

[図:0001419304000013.jpg]

(5)乙3には、次の記載がある。

[図:0001419304000014.jpg]

3 甲号証に記載された発明

(1)甲1に記載された発明

ア 甲1の請求項1には、「アルキル基に4-8個の炭素原子を含む1種または複数のアルキルアクリレート」と、「アクリル酸と混合物重量に基づいて少なくとも約50重量%のアクリル酸オリゴマーとのモノマー混合物」とを含む「出発材料から得られるアルカリ分散性、固有粘着性、感圧接着性エマルジョンポリマー」が記載されている。

イ 同【0026】~【0028】には、PSAポリマーの製造において、所定量の「アクリル酸2-エチルヘキシル」、「アクリル酸メチル」、「アクリル酸オリゴマー(CEA)」等を充填モノマー成分として用いること、および、前記充填モノマー成分とともに重合性界面活性剤である「1-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸ナトリウム」を導入することが記載されている。ここで、同【0016】より、重合性界面活性剤は「界面活性剤の二重結合を介してPSAポリマーの主鎖に化学的に結合する」ことから、PSAポリマーは上記充填モノマー成分及び「1-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸ナトリウム」を共重合させたものといえる。そして、同【0032】、【0033】【表1】には、前記PSAポリマーの製造に使用した実施例1~3、対照実施例C1~C3の充填モノマー成分および充填モノマー成分の含量(充填モノマー基準の%)が記載されており、実施例3として、充填モノマー基準の%で「アクリル酸2-エチルヘキシル」を70重量%、「アクリル酸メチル」を15重量%、「アクリル酸オリゴマー混合物」である「β-CEA」を15重量%含有するPSAポリマーが記載されている。

ウ 同【0002】には、「感圧接着剤(PSA)は室温(約25℃)で固有粘着性であり」、「接着特性の所望のバランスを有するPSAは多くの用途で広く使用されている」ことが記載されており、同【0029】~【0031】には、実施例に用いられる「配合PSAの調製」において「Aに記載のポリマーのエマルジョンに撹拌しながら」、「水、中和剤、界面活性剤、粘着付与剤」の「成分を添加する」こと、「特性試験用ラミネートの製造」において「配合PSA組成物」を用いることが記載されていることから、実施例に記載されたPSAポリマーを含有する配合PSA組成物が感圧接着剤(PSA)組成物として用いられることが記載されているといえる。

エ 以上のことから、甲1には、実施例3に記載されたPSAポリマーを含有する感圧接着剤(PSA)組成物から、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。

(甲1発明)

「充填モノマー基準の%で、アクリル酸2-エチルヘキシル70重量%、アクリル酸メチル15重量%、アクリル酸オリゴマー混合物であるβ-CEA15重量%、及び、重合性界面活性剤である1-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸ナトリウムを共重合させた、アルカリ分散性、固有粘着性、感圧接着性エマルジョンPSAポリマーを含有する感圧接着剤(PSA)組成物」

(2)甲3に記載された発明

ア 甲3の請求項1には、「アルキル基の炭素数が4~14の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とし、これと共重合可能な下記の一般式(A)・・・で表される少なくとも一種のカルボキシル基含有モノマーとの混合モノマーを、水媒体中で乳化重合してなる水分散型アクリル系粘着剤。」が記載されており、同【0012】、【0015】には、「アルキル基の炭素数が4~14の(メタ)アクリル酸アルキルエステル」として、「n-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、・・・の一種又は二種以上のモノマーが好適である」こと、「一般式(A)」で表される「カルボキシル基含有モノマー」として「Interez社製の商品名Novamer β-CEA」を用いることが記載されている。

イ 同【0044】~【0050】、【0058】、【0075】【表1】には、実施例2のモノマー組成として、「2-エチルヘキシルアクリレート50重量部、n-ブチルアクリレート44重量部、メチルメタクリレート3重量部、前記一般式(A)のモノマーとして、アクリル酸ダイマー(nの平均が1.0)(Novamer β-CEA:Interez社製)3重量部」を用いること、界面活性剤としてプロペニル基付加ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(アクアロンRN-40)及びプロペニル基付加ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸アンモニウム(アクアロンHS-20)を用いることが記載されている。

ウ 同【0044】~【0050】、【0061】、【0064】、【0075】【表1】には、実施例3のモノマー組成として、2-エチルヘキシルメタクリレート85重量部、メチルメタクリレート10重量部、前記一般式(A)のモノマーとして、アクリル酸ダイマー(nの平均が1.0)(Novamer β-CEA:Interez社製)5重量部」を用いること、界面活性剤としてプロペニル基付加ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(アデカリアソープNB-10)及びプロペニル基付加ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸アンモニウム(アデカリアソープ(SE-10N)を用いること、実施例3で得られた水分散型アクリル系粘着剤に「アジリジン化合物からなる架橋剤」を添加すること、が記載されている。

エ 同【0039】には、「この水分散型アクリル系粘着剤は、主に、粘着テープもしくはシートの製造に使用される」こと、「粘着テープもしくはシート」は「基材の少なくとも一面に、上記の水分散型アクリル系粘着剤を塗布し乾燥することにより製造される」ことが記載されている。

オ 以上のことから、甲3には、実施例2、3に記載された水分散型アルリル系粘着剤、及び、当該水分散型アクリル系粘着剤を塗布した粘着テープから、次の発明(以下「甲3A発明」、「甲3B発明」、「甲3C発明」という。)が記載されているものと認められる。

(甲3A発明)

「モノマー組成として、2-エチルヘキシルアクリレート50重量部、n-ブチルアクリレート44重量部、メチルメタクリレート3重量部、アクリル酸ダイマー(nの平均が1.0)(Novamer β-CEA:Interez社製)3重量部を用い、界面活性剤としてプロペニル基付加ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(アクアロンRN-40)及びプロペニル基付加ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸アンモニウム(アクアロンHS-20)を用いて、水媒体中で乳化重合してなる水分散型アクリル系粘着剤」

(甲3B発明)

「モノマー組成として、2-エチルヘキシルメタクリレート85重量部、メチルメタクリレート10重量部、アクリル酸ダイマー(nの平均が1.0)(Novamer β-CEA:Interez社製)5重量部を用い、界面活性剤としてプロペニル基付加ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(アデカリアソープNB-10)及びプロペニル基付加ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸アンモニウム(アデカリアソープ(SE-10N)を用いて、水媒体中で乳化重合するとともに、アジリジン化合物からなる架橋剤を添加してなる水分散型アクリル系粘着剤」

(甲3C発明)

「甲3A発明または甲3B発明の水分散型アクリル系粘着剤を基材の少なくとも一面に塗布し乾燥することにより製造される粘着テープ」

4 甲1を主引用例とした検討

(1)本件訂正発明1について

ア 対比

本件訂正発明1と甲1発明を対比する。

甲1発明の「アクリル酸メチル15重量%」及び「充填モノマー基準の%で、アクリル酸2-エチルヘキシル70重量%」は、本件訂正発明1の「炭素数1~3のアルキル基を有する(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種(a1)1~20重量%」及び「t-ブチル(メタ)アクリレートを除く、炭素数4~24のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2)55~97重量%」に相当し、これらの重合物である甲1発明の「PSAポリマー」は、本件訂正発明1の「アクリル系樹脂」に相当する。

また、甲1発明は、「(a1)としてメチルアクリレート19.61重量%、(a2)としてブチルアクリレート73.53重量%、(a3)としてアクリル酸2-カルボキシエチル0.78重量%、アクリル酸の三量体以上のオリゴマー0.78重量%、(a4)としてアクリル酸0.39重量%を含む共重合成分を共重合してなるアクリル系樹脂」を含むものではない。

そうすると、本件訂正発明1と甲1発明は、

「炭素数1~3のアルキル基を有する(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種(a1)1~20重量%、
t-ブチル(メタ)アクリレートを除く、炭素数4~24のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2)55~97重量%、
を含む共重合成分(a)を共重合してなるアクリル系樹脂(A)(A)〔ただし、(a1)としてメチルアクリレート19.61重量%、(a2)としてブチルアクリレート73.53重量%、(a3)としてアクリル酸2-カルボキシエチル0.78重量%、アクリル酸の三量体以上のオリゴマー0.78重量%、(a4)としてアクリル酸0.39重量%を含む共重合成分を共重合してなるアクリル系樹脂を除く〕を含有することを特徴とする組成物。」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-1

本件訂正発明1は、共重合成分(a)として「下記一般式(1)で示される末端カルボキシル基含有モノマー(a3)1~20重量%、

及び(メタ)アクリル酸(a4)0.1~5重量%

〔式〕 CH2=CR1-CO-O-(C2H4-COO-)nH・・・(1)

ここで、R1は水素またはメチル基、nは1以上の正数を示す。」を含むのに対し、

甲1発明は、共重合成分(a)として「アクリル酸オリゴマー混合物であるβ-CEA15重量%」及び「重合性界面活性剤である1-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸ナトリウム」を含む点

相違点1-2

本件訂正発明1は「粘着剤組成物」であるのに対し、甲1発明は「感圧接着剤(PSA)組成物」である点

相違点1-3

本件訂正発明1は「溶媒を含有し、上記溶媒として、有機溶媒を含み、かつ、水を含まない」のに対し、甲1発明は溶媒について特定されていない点。

イ 検討

事案に鑑み、はじめに相違点1-3について検討する。

(ア)本件優先日当時の技術常識について

アクリル系粘着剤には、有機溶媒中で重合される溶剤型粘着剤と、乳化重合により製造されアクリル系樹脂が水中に分散しているエマルジョン型粘着剤があることは、本件優先日当時の技術常識である(要すれば、乙1の27頁表11等参照)。

(イ)甲1の記載について

甲1の段落【0015】及び【0008】には、「PSAポリマーは、典型的には0.1-0.8ミクロンの平均粒度をエマルジョン粒子に与えるために有効な量のイオン性及び非イオン性の界面活性剤の存在下で水溶性または油溶性のフリーラジカルまたはレドックス開始剤系を使用する慣用の乳濁重合によって製造される。」及び「PSA組成物は上記のPSAエマルジョンポリマーと本文中に後述するような1種または複数の改質剤とからなる。」と記載され、段落【0027】~【0029】の実施例はいずれも乳化重合により得られたPSAポリマーのエマルジョンに他の成分を添加してPSA組成物を調製するものであり、甲1はこのようにして得られたPSA組成物が粘着性等に優れていることを開示するものであるところ、甲1にはPSAポリマーを乳化重合以外の重合により製造することは、記載も示唆もされていない。

そうすると、甲1の記載に接した当業者が、甲1発明を、有機溶媒を含み、水を含まないものとすること、すなわち、PSAポリマーがエマルジョン粒子として存在できない状態とすることを、動機づけられたとはいえない。

(ウ)小括

したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明1は甲1に記載された発明、甲1及び甲3に記載された技術事項、並びに、周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件訂正発明2について

ア 対比

本件訂正発明2と甲1発明を対比すると、両者は少なくとも以下の点(以下、「相違点2」という。)で相違する。

本件訂正発明2は、粘着剤組成物が「界面活性剤、及び不飽和二重結合を有する界面活性剤を共重合成分として含むアクリル系樹脂のいずれも含まない」のに対し、甲1発明は、「重合性界面活性剤である1-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸ナトリウムを共重合させた」「エマルジョンPSAポリマーを含有する」点

イ 検討

(ア)本件優先日当時の技術常識について

アクリル系粘着剤には、有機溶媒中で重合される溶剤型粘着剤と、乳化重合により製造されアクリル系樹脂が水中に分散しているエマルジョン型粘着剤があり(要すれば、乙1の27頁表11等参照)、エマルジョン型アクリル系粘着剤は、一般的に、界面活性剤の一種である乳化剤(乙3の「乳化剤」の項参照)を使用して製造されることは、本件優先日当時の技術常識である。

(イ)検討

甲1には、界面活性剤を用いて乳化重合を行い、エマルジョンポリマーを製造することが記載されており(【0015】【0016】、実施例等)、このような製法で得られたポリマーを含む組成物が、粘着性等に優れることが記載されている。

前記(ア)のとおり、界面活性剤を使用する乳化重合によりエマルジェンポリマーを製造することは、当該分野における技術常識であるところ(要すれば、甲3の【0004】も参照)、甲1にはPSAポリマーを乳化重合以外の重合により製造することは、記載も示唆もされていないことは、前記(1)イ(イ)のとおりである。

してみれば、甲1の記載に接した当業者が、乳化重合により製造されたエマルジョンポリマーを含む甲1発明の粘着剤組成物を「界面活性剤、及び不飽和二重結合を有する界面活性剤を共重合成分として含むアクリル系樹脂のいずれも含まない」ものとすることを容易に想到し得たとはいえない。

(ウ)小括

したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明2は、甲1に記載された発明、甲1及び甲3に記載された事項、並びに、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件訂正発明3~5について

ア 本件訂正発明3について

(ア)対比

本件訂正発明3と甲1発明を対比すると、両者は少なくとも以下の点(以下「相違点3」という。)において相違する。

本件訂正発明3は、粘着剤組成物が、有機溶媒を含有し、イソシアネート系架橋剤(ただし、ブロックイソシアネート架橋剤を除く)を含む架橋剤により架橋されてなる粘着剤であるのに対し、甲1発明は、架橋について特定されていない点。

(イ)検討

甲1には、架橋剤を用いることは記載されていない。

甲1及び甲3はいずれも、乳化重合により製造されアクリル系樹脂が水中に分散しているエマルジョン型粘着剤に係る発明であるところ、甲3(【0036】)には、架橋剤としてブロックイソシアネート系架橋剤を用いることができることが記載されており、イソシアネートがブロック化されていることにより水とイソシアネート系架橋剤との反応が抑制されることは当業者にとって明らかである。

してみれば、甲1及び甲3の記載に接した当業者が、乳化重合により製造されたエマルジョンポリマーを含む粘着組成物に係る甲1発明について、仮にイソシアネート系架橋剤により架橋されてなるものとすることを想起したとしても、ブロックイソシアネート架橋剤以外のイソシアネート系架橋剤により架橋することを容易に想到し得たとはいえない。

(ウ)小括

したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明3は甲1に記載された発明、甲1及び甲3に記載された技術事項、並びに、周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件訂正発明4及び5について

前記アと同様の理由から、本件訂正発明4及び5は、は甲1に記載された発明、甲1及び甲3に記載された技術事項、並びに、周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件訂正発明6~7について

ア 本件訂正発明6について

(ア)対比

本件訂正発明6と甲1発明を対比すると、両者は、少なくとも以下の点で相違する。

本件訂正発明6は「上記炭素数4~7のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2-1)の炭素数8~24のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2-2)に対する含有割合が、重量比で、(a2-1)/(a2-2)=15/85~40/60である」のに対し、甲1発明はそのように特定されていない点(以下「相違点4」という。)。

(イ)検討

甲3の段落【0075】~【0077】には実施例として、n-ブチルアクリレートと2-エチルヘキシルアクリレートを47/53~79/21の重量比で用いることが記載されているが、それ以外の重量比で用いることについては記載されていない。

そうすると、甲1発明において、甲1及び甲3の記載に接した当業者が前記重量比(a2-1)/(a2-2)を15/85~40/60とすることをただちに動機づけられたとはいえない。

本件特許明細書には表1~表3には実施例の記載がなされており、前記(a2-1)/(a2-2)=63.4/25.5であるA-8について、当該比率以外が完全に合致する他の実施例の記載はないものの、(a2-1)/(a2-2)の重量比が本件訂正発明6の範囲である他の実施例と比較して、90°剥離強度(N/25mm)(対OSB)が低いこと、すなわち、粗面に対する接着性が劣っていることが記載されている。

してみれば、甲1の記載に接した当業者が、甲1発明の粘着組成物について、(a2-1)/(a2-2)の重量比を15/85~40/60とすることを容易に想到し得たとはいえない。

(ウ)小括

したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明6は、甲1に記載された発明、甲1及び甲3に記載された事項、並びに、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件訂正発明7について

本件訂正発明7は、本件訂正発明6の従属形式で記載されるものであり、甲1発明と少なくとも以下の点で相違する。

本件訂正発明7は「上記炭素数4~7のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2-1)の炭素数8~24のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2-2)に対する含有割合が、重量比で、(a2-1)/(a2-2)=15/85~40/60である」のに対し、甲1発明はそのように特定されていない点。

そして、当該相違点は前記アにおいて検討した相違点4と実質的に同じであるから、前記アで検討した理由から、本件訂正発明7は、甲1に記載された発明、甲1及び甲3に記載された事項、並びに、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)本件訂正発明9~10について

ア 対比

本件訂正発明9及び10と甲1発明を対比すると、両者は、少なくとも以下の点で相違する。

本件訂正発明9及び10は、粘着剤を備える粘着テープのSUS304鋼の試験板に対するJIS Z0237に準じた180゜剥離強度(以下「剥離強度」という。)が、25N以上/25mmであることが特定されているのに対し、甲1発明は、前記3(1)のとおり実施例3に基づいて認定された発明であるところ、甲1の段落【0034】の【表2】及び【0021】には、実施例3の組成物について、ステンレススチールに対する180°剥離強度が、2.83ポンド/インチ(1ポンド=4.448N、1インチ=25.4mmとして換算すると約12.38N/25mm)であることが記載されている点(以下「相違点5」という。)、及び、

本件訂正発明9及び10は、有機溶媒を含有し、イソシアネート系架橋剤(ただし、ブロックイソシアネート架橋剤を除く)を含む架橋剤により架橋されてなる粘着剤を備える粘着テープが、であるのに対し、甲1発明は、架橋について特定されていない点(以下「相違点6」という。)で相違するものである。

イ 検討

相違点6について

相違点6は、前記(3)で検討した相違点3と実質的に同じであるから、前記(3)で検討した理由から、甲1発明について、イソシアネート系架橋剤(ただし、ブロックイソシアネート架橋剤を除く)を含む架橋剤により架橋されてなるものとすることを容易に想到し得たとはいえない。

ウ 小括

以上のとおりであるから、その余の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明9及び10は、甲1に記載された発明、甲1及び甲3に記載された事項、並びに、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(6)本件訂正発明11及び12について

ア 対比

本件訂正発明11及び12と甲1発明を対比すると、本件訂正発明11及び12は「剥離強度」が特定されているのに対し、甲1発明は、前記3(1)のとおり実施例3に基づいて認定された発明であるところ、甲1の段落【0034】の【表2】及び【0021】には、実施例3の組成物について、ステンレススチールに対する180°剥離強度が、2.83ポンド/インチ(1ポンド=4.448N、1インチ=25.4mmとして換算すると約12.38N/25mm)であることが記載されている点(以下「相違点7」という。)で少なくとも相違するものである。

イ 検討

相違点7は、前記(5)で検討した相違点5と実質的に同じであるから、前記(5)イ(ア)で検討した理由から、甲1発明において、粘着剤組成物を備える粘着テープの剥離強度を25N以上/25mmとすることを当業者が容易に想到し得たとはいえない。

エ 小括

以上のとおりであるから、その余の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明11及び12は、甲1に記載された発明、甲1及び甲3に記載された事項、並びに、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

6 甲3を主引用例とした検討

(1)本件訂正発明1について

ア 甲3A発明を主引用例とした場合

(ア)対比

本件訂正発明1と甲3A発明を対比すると、甲3A発明における「2-エチルヘキシルメタクリレート」と「n-ブチルアクリレート」は、本件訂正発明1の「t-ブチル(メタ)アクリレートを除く、炭素数4~24のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2)」に相当し、甲3A発明における「メチルメタクリレート」は、本件訂正発明2の「炭素数1~3のアルキル基を有する(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種(a1)」に相当する。そして、甲3A発明における「2-エチルヘキシルアクリレート50重量部、n-ブチルアクリレート44重量部、メチルメタクリレート3重量部」は、甲3A発明を認定した実施例2のモノマー組成の全量が100重量部であることから、重量%で表すと、「2-エチルヘキシルアクリレート50重量%、n-ブチルアクリレート44重量%、メチルメタクリレート3重量%」であり、本件訂正発明1の「(a2)55~97重量%」、「(a1)1~20重量%」を充足する。

また、甲3A発明における「水分散型アクリル系粘着剤」は、本件訂正発明1の「アクリル系樹脂を含有する粘着剤組成物」に相当する。

してみると、本件訂正発明1と甲3A発明は、

「炭素数1~3のアルキル基を有する(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種(a1)1~20重量%、
t-ブチル(メタ)アクリレートを除く、炭素数4~24のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2)55~97重量%、
を含む共重合成分(a)を共重合してなるアクリル系樹脂(A)を含有することを特徴とする粘着剤組成物。」の点で一致し、以下の点で相違するものである。

<相違点A>

共重合成分(a)として、本件訂正発明1は、「一般式(1)で示される末端カルボキシル基含有モノマー(a3)1~20重量%、及び(メタ)アクリル酸(a4)0.1~5重量%

〔式〕 CH2=CR1-CO-O-(C2H4-COO-)nH ・・・(1)

ここで、R1は水素またはメチル基、nは1以上の正数を示す。」を含むのに対し、甲3A発明は、「アクリル酸ダイマー(nの平均が1.0)(Novamer β-CEA:Interez社製)3重量部」を含む点

<相違点B>

本件訂正発明1は、粘着剤組成物が、有機溶媒を含み、かつ、水を含まないのに対し、甲3A発明は、水媒体中で乳化重合してなる水分散型アクリル系粘着剤である点。

(イ)検討

事案に鑑み、はじめに相違点Bについて検討する。

アクリル系粘着剤には、有機溶媒中で重合される溶剤型粘着剤と、乳化重合により製造されアクリル系樹脂が水中に分散しているエマルジョン型粘着剤があることは、本件優先日当時の技術常識である(要すれば、乙1の27頁表11等参照)。

甲3A発明は、水媒体中で乳化重合してなる水分散型アクリル系粘着剤に係る発明であり、甲3の段落【0003】及び【0036】も、乳化重合及び水分散型アクリル系粘着剤について記載するものであり、水分散型アクリル系接着剤を乳化重合以外の重合により製造することは、記載も示唆もされていない。

そうすると、甲3の記載に接した当業者が、甲3A発明を、有機溶媒を含み、水を含まないものとすることを、動機づけられたとはいえない。

イ 甲3B発明を主引用例とした場合

甲3B発明は、甲3A発明同様に水媒体中で乳化重合してなる水分散型アクリル系粘着剤に係る発明であるから、少なくとも、本件訂正発明1は、粘着剤組成物が、有機溶媒を含み、かつ、水を含まないのに対し、甲3B発明は、水媒体中で乳化重合してなる水分散型アクリル系粘着剤である点で相違するものである。

そして、前記ア(イ)と同様の理由から、甲3の記載に接した当業者が、甲3B発明を、有機溶媒を含み、水を含まないものとすることを、動機づけられたとはいえない。

ウ 小括

したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明2は、甲3に記載された発明、甲3に記載された事項、及び、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件訂正発明2について

ア 甲3A発明を主引用発明とした場合

(ア)対比

本件訂正発明2と甲3A発明を対比すると、両者は少なくとも以下の点(以下、「相違点C」という。)で相違する。

本件訂正発明2は、粘着剤組成物が「界面活性剤、及び不飽和二重結合を有する界面活性剤を共重合成分として含むアクリル系樹脂のいずれも含まない」のに対し、甲3A発明は、「界面活性剤としてプロペニル基付加ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(アクアロンRN-40)及びプロペニル基付加ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸アンモニウム(アクアロンHS-20)を用いて、水媒体中で乳化重合」されたものである点。

(イ)検討

アクリル系粘着剤には、有機溶媒中で重合される溶剤型粘着剤と、乳化重合により製造されアクリル系樹脂が水中に分散しているエマルジョン型粘着剤があり(要すれば、乙1の27頁表11等参照)、エマルジョン型アクリル系粘着剤は、一般的に、界面活性剤の一種である乳化剤(乙3の「乳化剤」の項参照)を使用して製造されることは、本件優先日当時の技術常識である。

前記のとおり、界面活性剤を使用する乳化重合によりエマルジェンポリマーを製造することは、当該分野における技術常識であるところ(要すれば、甲3の【0004】も参照)、甲3には水分散型アクリル系接着剤を乳化重合以外の重合により製造することは、記載も示唆もされていないことは、前記(1)ア(イ)のとおりである。

してみれば、甲3の記載に接した当業者が、界面活性剤を用いて水媒体中で乳化重合された甲3A発明を、「界面活性剤、及び不飽和二重結合を有する界面活性剤を共重合成分として含むアクリル系樹脂のいずれも含まない」ものとすることを容易に想到し得たとはいえない。

イ 甲3B発明を主引用例とした場合

甲3B発明は、甲3A発明同様に水媒体中で乳化重合してなる水分散型アクリル系粘着剤に係る発明であるから、本件訂正発明2は、少なくとも、前記ア(ア)の点でと甲3発明Bと相違するものであり、前記ア(イ)と同様の理由から、甲3の記載に接した当業者が、甲3B発明を、有機溶媒を含み、水を含まないものとすることを「界面活性剤、及び不飽和二重結合を有する界面活性剤を共重合成分として含むアクリル系樹脂のいずれも含まない」ものとすることを、動機づけられたとはいえない。

(ウ)小括

したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明2は、甲3に記載された発明、甲3に記載された事項、及び、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件訂正発明3~5について

ア 本件訂正発明3について

(ア)対比

本件訂正発明3と甲3A発明又は甲3B発明を対比すると、両者は少なくとも以下の点(以下「相違点D」という。)において相違する。

本件訂正発明3は、粘着剤組成物が、有機溶媒を含有し、イソシアネート系架橋剤(ただし、ブロックイソシアネート架橋剤を除く)を含む架橋剤により架橋されてなる粘着剤であるのに対し、甲3A発明又は甲3B発明は、架橋について特定されていない点。

(イ)検討

甲3(【0036】)には、架橋剤としてブロックイソシアネート系架橋剤を用いることができることが記載されており、イソシアネートがブロック化されていることにより水とイソシアネート系架橋剤との反応が抑制されることは当業者にとって明らかである。

してみれば、甲3の記載に接した当業者が、水媒体中で乳化重合してなる水分散型アクリル系粘着剤に係る甲3A発明又は甲3B発明について、イソシアネート系架橋剤(ただし、ブロックイソシアネート架橋剤を除く)を含む架橋剤により架橋されてなるものとすることを容易に想到し得たとはいえない。

(ウ)小括

したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明5は、甲3に記載された発明、甲3に記載された事項、及び、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件訂正発明4及び5について

前記アと同様の理由から、本件訂正発明4及び5は、甲3に記載された発明、甲3に記載された事項、及び、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件訂正発明6~7について

ア 本件訂正発明6について

(ア)対比

本件訂正発明6と甲3A発明又は甲3B発明を対比すると、両者は、少なくとも以下の点で相違する。

本件訂正発明6は「上記炭素数4~7のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2-1)の炭素数8~24のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2-2)に対する含有割合が、重量比で、(a2-1)/(a2-2)=15/85~40/60である」のに対し、甲3A発明又は甲3B発明はそのように特定されていない点(以下「相違点E」という。)。

(イ)検討

甲3の段落【0075】~【0077】には実施例として、n-ブチルアクリレートと2-エチルヘキシルアクリレートを47/53~79/21の重量比で用いることが記載されているが、それ以外の重量比で用いることについては記載されていない。

そうすると、甲3の記載に接した当業者が、甲3A発明又は甲3B発明において、前記重量比(a2-1)/(a2-2)を5/85~40/60とすることをただちに動機づけられたとはいえない。

本件特許明細書には表1~表3には実施例の記載がなされており、前記(a2-1)/(a2-2)=63.4/25.5であるA-8について、当該比率以外が完全に合致する他の実施例の記載はないものの、(a2-1)/(a2-2)の重量比が本件訂正発明6の範囲である他の実施例と比較して、90°剥離強度(N/25mm)OSBが低いこと、すなわち、粗面に対する接着性が劣っていることが記載されている。

してみれば、甲3の記載に接した当業者が、甲3A発明又は甲3B発明の粘着剤について、(a2-1)/(a2-2)の重量比を15/85~40/60とすることを容易に想到し得たとはいえない。

(ウ)小括

したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明6は、甲3に記載された発明、甲3に記載された事項、及び、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件訂正発明7について

本件訂正発明7は、本件訂正発明6の従属形式で記載されるものであり、甲3A発明又は甲3B発明と少なくとも以下の点で相違する。

本件訂正発明7は「上記炭素数4~7のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2-1)の炭素数8~24のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(a2-2)に対する含有割合が、重量比で、(a2-1)/(a2-2)=15/85~40/60である」のに対し、甲3A発明又は甲3B発明はそのように特定されていない点。

そして、当該相違点は前記ア(ア)の相違点Eと実質的に同じであるから、前記ア(イ)で検討した理由から、本件訂正発明7は、甲3に記載された発明、甲3に記載された事項、及び、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)本件訂正発明9~10について

ア 対比

本件訂正発明9及び10と甲3C発明を対比すると、両者は、少なくとも以下の点で相違する。

本件訂正発明9及び10は、「粘着テープのSUS304鋼の試験板に対するJIS Z0237に準じた180゜剥離強度が、25N以上/25mmである」のに対し、甲3C発明の粘着テープのステンレス板に対する180°剥離強度は、【表1】の実施例2及び3の記載から1000g/20mm又は980g/20mmである点(以下「相違点F」という。)、及び、

本件訂正発明9及び10は、有機溶剤を含有し、イソシアネート系架橋剤(ただし、ブロックイソシアネート架橋剤を除く)を含む架橋剤により架橋されてなる粘着剤を備える粘着テープであるのに対し、甲3C発明は、粘着剤の架橋について特定されていない点(以下「相違点G」という。)

イ 検討

相違点Gは、前記(3)の相違点3と実質的に同じであるから、前記(3)で検討した理由から、当業者が甲3に記載された発明に基づいて容易に想到し得たものではない。

ウ 小括

したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明9及び10は、甲3に記載された発明、甲3に記載された事項、及び、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(6)本件訂正発明11及び12について

ア 対比

本件訂正発明11及び12と甲3C発明を対比すると、本件訂正発明11及び12は剥離強度が、25N以上/25mmであることが特定されているのに対し、甲3C発明の粘着テープのステンレス板に対する180°剥離強度は、【表1】の実施例2及び3の記載から1000g/20mm又は980g/20mmである点(以下「相違点H」という。)という点で、両者は少なくとも相違する。

イ 検討

相違点Hは、前記(5)アの相違点Fと実質的に同じであるから、前記(5)イで検討した理由から、当業者が甲3に記載された発明に基づいて容易に想到し得たものではない。

ウ 小括

したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明11及び12は、甲3に記載された発明、甲3に記載された事項、及び、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

7 申立理由2(甲1または甲3を主引用例とする進歩性欠如)についてのまとめ

以上によれば、本件訂正発明1~7及び9~12は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないか、本件特許の請求項1~7及び9~12に係る特許は、申立理由2によっては取り消すことはできない。

第7 取消理由(決定の予告)で採用されなかった特許異議申立書に記載した申立理由について

取消理由で採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由は、申立理由1(甲1に基づく新規性欠如)である。

前記第6で検討したとおり、本件訂正発明1~7及び9~12は、甲1に記載された発明との間に相違点を有するものであるから、本件訂正発明1~7及び9~12は、特許法第29条第1項3号の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。

したがって、本件特許の請求項1~7及び9~12に係る特許は、申立理由1によって取り消すことはできない。

第8 むすび

前記第6及び第7のとおり、本件特許の請求項1~7及び9~12に係る特許は、当審が通知した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。

また、他に本件特許の請求項1~7及び9~12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

本件特許の請求項8に係る特許についての特許異議の申立ては、請求項8が訂正により削除されたことにより申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

よって、結論のとおり決定する。

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2023-700262

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