特許異議申立
2021-700442
もやし入り包装体
- 審判番号
- 2021-700442
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-079608外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 6786851
- 請求日
- 2021年05月10日
- 審決日
- 2022年04月12日
- 公報発行日
- 2022年07月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】住友ベークライト株式会社
- 【権利者代理人】速水 進治
- 【異議申立人】茂田 郁
- 分類
- P1651.121-YAA(B65D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6786851号発明「もやし入り包装体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6786851号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕、8について訂正することを認める。
特許第6786851号の請求項1~7に係る特許を維持する。
特許第6786851号の請求項8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6786851号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~8に係る特許についての出願は、平成28年4月12日の出願であって、令和2年11月2日にその特許権の設定がされ、同年11月18日に特許掲載公報が発行された。
本件特許についての異議申立の経緯は、次のとおりである。
令和3年5月10日 :特許異議申立人茂田郁(以下、「申立人」という。)による特許異議申立て
同年10月1日付け :取消理由通知書
同年12月2日 :特許権者による意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)
令和4年1月14日 :申立人による意見書の提出
第2 訂正の適否について
1 訂正の内容
本件訂正は、特許第6786851号の明細書、特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1乃至8について訂正することを求める、というものであって、その内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1について、「前記合成樹脂フィルムが無延伸フィルムであり、」という記載を追加し、
「脱気状態にある合成樹脂フィルムからなる包装袋の内部空間にもやしが収容されているもやし入り包装体であって、
前記合成樹脂フィルムが無延伸フィルムであり、
当該もやし入り包装体の23℃、60%RHにおけるもやし100gあたりの酸素透過量が、83cc/100g・day・atm以上223cc/100g・day・atm以下であり、
もやし入り包装体の23℃、60%RHにおけるもやし100gあたりの酸素透過量をToとし、もやし入り包装体の23℃、60%RHにおけるもやし100gあたりの二酸化炭素透過量をTcとしたとき、Tc≧Toの関係が成り立つ、もやし入り包装体。」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2について、請求項1との引用関係を解消して独立形式に改め、
「脱気状態にある合成樹脂フィルムからなる包装袋の内部空間にもやしが収容されているもやし入り包装体であって、
当該もやし入り包装体の23℃、60%RHにおけるもやし100gあたりの酸素透過量が、83cc/100g・day・atm以上223cc/100g・day・atm以下であり、
もやし入り包装体の23℃、60%RHにおけるもやし100gあたりの二酸化炭素透過量が、217cc/100g・day・atm以上942cc/100g・day・atm以下であり、
もやし入り包装体の23℃、60%RHにおけるもやし100gあたりの酸素透過量をToとし、もやし入り包装体の23℃、60%RHにおけるもやし100gあたりの二酸化炭素透過量をTcとしたとき、Tc≧Toの関係が成り立つ、もやし入り包装体。」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項7について、請求項1、3~6との引用関係を解消して「請求項2に記載のもやし入り包装体」に訂正する。
(4)訂正事項4
明細書の【0008】の記載を、
「本発明によれば、脱気状態にある合成樹脂フィルムからなる包装袋の内部空間にもやしが収容されているもやし入り包装体であって、
前記合成樹脂フィルムが無延伸フィルムであり、
当該もやし入り包装体の23℃、60%RHにおけるもやし100gあたりの酸素透過量が、83cc/100g・day・atm以上223cc/100g・day・atm以下であり、
もやし入り包装体の23℃、60%RHにおけるもやし100gあたりの酸素透過量をToとし、もやし入り包装体の23℃、60%RHにおけるもやし100gあたりの二酸化炭素透過量をTcとしたとき、Tc≧Toの関係が成り立つ、もやし入り包装体が提供される。
また本発明によれば、
脱気状態にある合成樹脂フィルムからなる包装袋の内部空間にもやしが収容されているもやし入り包装体であって、
当該もやし入り包装体の23℃、60%RHにおけるもやし100gあたりの酸素透過量が、83cc/100g・day・atm以上223cc/100g・day・atm以下であり、
もやし入り包装体の23℃、60%RHにおけるもやし100gあたりの二酸化炭素透過量が、217cc/100g・day・atm以上942cc/100g・day・atm以下であり、
もやし入り包装体の23℃、60%RHにおけるもやし100gあたりの酸素透過量をToとし、もやし入り包装体の23℃、60%RHにおけるもやし100gあたりの二酸化炭素透過量をTcとしたとき、Tc≧Toの関係が成り立つ、もやし入り包装体が提供される。」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項8を削除する。
(6)訂正事項6
明細書の【発明の名称】が「もやし入り包装体およびもやしの鮮度保持方法」であったものを、「もやし入り包装体」に訂正する。
(7)訂正事項7
明細書の【0009】を削除する。
2 一群の請求項
訂正事項1は、訂正前に引用関係を有する請求項1~7に対して、また、訂正事項5は、訂正前に独立形式で記載された請求項8に対して請求されたものである。
よって、本件訂正請求は、一群の請求項ごとに請求されている。
3 訂正要件の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1における「合成樹脂フィルム」について、「無延伸フィルムであ」ることを特定するものであって、発明を特定するための事項の直列的付加に該当するから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1は、本件特許の願書に添付された明細書又は特許請求の範囲(以下、「本件明細書等」という。)の請求項7、【0037】に記載された事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2が訂正前の請求項1を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるための訂正であって、請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
また、訂正事項2は、何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項7が「請求項1乃至6のいずれか一項」を引用していたものを、「請求項2」のみを引用するものに訂正するものであって、多数項を引用している請求項の引用請求項数の削減に該当するから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項3は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正事項1に係る訂正により、特許請求の範囲の請求項1が訂正されたこと、および、訂正事項2に係る訂正により、特許請求の範囲の請求項2が独立形式請求項に訂正されたことに伴って、明細書の記載を特許請求の範囲の記載と整合させるためにしたものであって、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項4は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
また、訂正事項4は、明細書の訂正に係る請求項を含む一群の請求項〔1~7〕の全てについて行うものである。
(5)訂正事項5について
訂正事項5は、特許請求の範囲の請求項8を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(6)訂正事項6について
訂正事項6は、訂正事項5により、特許請求の範囲の請求項8に係る「もやしの鮮度保持方法」が削除されたことに伴って、【発明の名称】の記載を特許請求の範囲の記載と整合させるためにしたものであって、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項6は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
また、訂正事項6は、発明の名称を訂正するものであり、全請求項について行うものである。
(7)訂正事項7について
訂正事項7によって削除された事項は、特許請求の範囲の請求項8に係る事項である。そうすると、訂正事項7は、訂正事項5により、特許請求の範囲の請求項8が削除されたことに伴って、明細書の記載を特許請求の範囲の記載と整合させるためにしたものであって、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項7は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
また、訂正事項4は、明細書の訂正に係る請求項8について行うものである。
4 小括
上記のとおり、訂正事項1~7に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲とおり、訂正後の請求項〔1~7〕、8について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1~7に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
脱気状態にある合成樹脂フィルムからなる包装袋の内部空間にもやしが収容されているもやし入り包装体であって、
前記合成樹脂フィルムが無延伸フィルムであり、
当該もやし入り包装体の23℃、60%RHにおけるもやし100gあたりの酸素透過量が、83cc/100g・day・atm以上223cc/100g・day・atm以下であり、
もやし入り包装体の23℃、60%RHにおけるもやし100gあたりの酸素透過量をToとし、もやし入り包装体の23℃、60%RHにおけるもやし100gあたりの二酸化炭素透過量をTcとしたとき、Tc≧Toの関係が成り立つ、もやし入り包装体。
【請求項2】
脱気状態にある合成樹脂フィルムからなる包装袋の内部空間にもやしが収容されているもやし入り包装体であって、
当該もやし入り包装体の23℃、60%RHにおけるもやし100gあたりの酸素透過量が、83cc/100g・day・atm以上223cc/100g・day・atm以下であり、
もやし入り包装体の23℃、60%RHにおけるもやし100gあたりの二酸化炭素透過量が、217cc/100g・day・atm以上942cc/100g・day・atm以下であり、
もやし入り包装体の23℃、60%RHにおけるもやし100gあたりの酸素透過量をToとし、もやし入り包装体の23℃、60%RHにおけるもやし100gあたりの二酸化炭素透過量をTcとしたとき、Tc≧Toの関係が成り立つ、もやし入り包装体。
【請求項3】
前記包装袋の内表面に対する水の接触角が、3°以上60°以下である、請求項1または2に記載のもやし入り包装体。
【請求項4】
前記合成樹脂フィルムが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン及びエチレン-酢酸ビニル共重合樹脂からなる群より選択される1種以上の樹脂を含む樹脂層を有する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のもやし入り包装体。
【請求項5】
前記樹脂層が防曇剤をさらに含む、請求項4に記載のもやし入り包装体。
【請求項6】
前記樹脂の融点が75℃以上170℃以下である、請求項4または5に記載のもやし入り包装体。
【請求項7】
前記合成樹脂フィルムが無延伸フィルムである、請求項2に記載のもやし入り包装体。」
第4 取消理由通知書に記載した取消理由について
当審が令和3年10月1日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(進歩性)本件特許の請求項1、4~5、6、8に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、本件特許の請求項3に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献5に記載された事項及び周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
引用文献1:再公表特許99/51665号(甲第1号証)
引用文献2:特開2005-230004号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3:特開2005-178855号公報(甲第2号証、周知技術を示す文献)
引用文献4:特開2009-185238号公報(周知技術を示す文献)
引用文献5:特開2013-193759号公報(甲第7号証)
第5 当審の判断
1 引用文献の記載
引用文献1には、次の事項が記載されている。
「本発明は、上記延伸PPフィルムの欠点を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、青果物の包装に適したフィルムを提供することにあり、青果物の生理作用に関連する気体の制御と蒸散の適度の抑制が可能なフィルムを提案することである。さらに詳細には、野菜包装や果実包装で、水蒸気、酸素、及びエチレン等の気体が好適に透過し、これを制御することができるため、従来行われていた穴開け工程を省略できることによる生産性と採算性に優れ、しかも透明性、光沢性、更に、本来フィルムが有する優秀な機械強度を保持しうる、特に青果物の包装に適するフィルムを提供することを課題とする。」(第7頁第18~25行)
「(4)酸素の透過度:T02(単位:nmol(STP)/m2・s・100kPa)
JIS法K-7126Aに準拠して測定した。」(第23頁第4~5行)
「[PP-3]
ポリプロピレンホモポリマー成分と、エチレンとプロピレンとのコポリマー成分を含む、ポリプロピレン系樹脂組成物であって、・・・」(第26頁第23~25行)
「[PP-4]
ポリプロピレンホモポリマー成分と、エチレンとプロピレンとのコポリマー成分を含む、ポリプロピレン系樹脂組成物であって、・・・」(第27頁第4~6行)
「[PP-5]
ポリプロピレンホモポリマー成分と、エチレンとプロピレンとのコポリマー成分を含む、ポリプロピレン系樹脂組成物であって、・・・」(第27頁第14~16行)
「次に該シートをパンタグラフ式二軸延伸試験機を用いて、 PP-1~PP-7の組成物から得られたシートについては、まず158℃で 120秒間予熱した後、またPP-8の組成物から得られたシートについては、5℃で120秒間予熱した後、10m/minの延伸速度で縦方向に4. 5倍、横方向に8.0倍逐次延伸して、表 1に示したような各二軸延伸フィルムを得た。」
「表1
[図:0001386115000001.jpg]
」
「・・・表3には20×30cmの袋に200gのもやしを包装して、温度が10℃、湿度が50%で保存したときの例、・・・」(第30頁第2~4行)
「表3
[図:0001386115000002.jpg]
」
「表2~4において、気体の透過度が良好である本発明の延伸ポリプロピレンフィルム(実施例1~6)を用いた包装袋は、穴あけ加工を施した比較例5の包装袋に比べて、青果物の瑞々しさが良好に維持された。また、穴あけ加工をしていない従来のポリプロピレン包装袋に比べ、3日以上鮮度の保持期間が延びた。」(第33頁第1~4行)
「本発明における延伸ポリプロピレンフィルムは、主に、用いられるポリプロピレン系樹脂組成物中のエチレンとプロピレンとのコポリマー成分の重量%を調製することで、得られる延伸フィルムの気体の透過量やフィルムの透明性、機械的特性(剛性等)を制御することができる。
さらに、得られる延伸フィルムは、包装工程で物理的に穴を開ける工程を省略できる生産性と採算性に優れた延伸ポリプロピレンフィルムであり、青果物等の包装材料として有効である。」(第34頁第8行~第35頁第1行)
「本発明のフィルムは、青果物の包装用に好適な気体透過性を有するフィルムであり、主に、用いるポリプロピレン系樹脂組成物中のエチレンとプロピレンとのコポリマー成分の重量%を制御することで、得られる延伸ポリプロピレンフィルムの気体の通過量やフィルムの機械的特性(剛性および透明性等)を調整することができる。」(第35頁第5~9行)
以上の記載から、実施例1~3に着目すると、引用文献1には、次の発明が記載されている(以下、「引用発明」という)。
(引用発明)
「ポリプロピレンホモポリマー成分と、エチレンとプロピレンとのコポリマー成分を含む、ポリプロピレン系樹脂組成物からなる延伸ポリプロピレンフィルムを用いたもやしの包装袋であって、
JIS法K-7126Aに準拠して測定した該延伸ポリプロピレンフィルムの酸素の透過度が、1250、1650、1550nmol(STP)/m2・s・100kPaであり、
20×30cmの袋に200gのもやしを包装する、もやしの包装袋。」
2 本件発明について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「ポリプロピレン系樹脂組成物からなる延伸ポリプロピレンフィルム」は、本件発明1の「合成樹脂フィルム」に相当し、同様に、「もやし」が包装された「もやしの包装袋」は、「包装袋の内部空間にもやしが収容されている」「もやし入り包装体」に相当する。
また、引用発明の「酸素の透過度」は、調整される気体の通過量を示すものであり、本件発明1の「酸素透過量」と、“酸素通過量”という限りで一致し、両者は、包装体の酸素の通過を特定の範囲とする点でも共通する。
したがって、本件発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
<一致点>
「合成樹脂フィルムからなる包装袋の内部空間にもやしが収容されているもやし入り包装体であって、
当該もやし入り包装体の酸素通過量を特定の範囲に調整した、
もやし入り包装体。」
<相違点1>
本件発明1は、もやしが収容される包装袋の内部空間が「脱気状態にある」のに対して、引用発明は包装袋の内部空間を脱気状態にすることについて特定されていない点。
<相違点2>
本件発明1の「合成樹脂フィルム」が「無延伸フィルムであ」るのに対し、引用発明は「ポリプロピレン系樹脂組成物からなる延伸ポリプロピレンフィルム」である点。
<相違点3>
特定の範囲に調整される酸素通過量について、本件発明1のもやし入り包装体は、「23℃、60%RHにおけるもやし100gあたりの酸素透過量を83cc/100g・day/atm以上223cc/100g・day/atm以下」と規定するのに対し、引用発明のもやしの包装袋は、「JIS法K-7126Aに準拠して測定した」「酸素透過度が、1250、1650、1550nmol(STP)/m2・s・100kPa」であって、測定条件及び単位が異なり、本件発明1は、「もやし入り包装体の23℃、60%RHにおけるもやし100gあたりの酸素透過量をToとし、もやし入り包装体の23℃、60%RHにおけるもやし100gあたりの二酸化炭素透過量をTcとしたとき、Tc≧Toの関係が成り立つ」のに対し、引用発明は、酸素透過量と二酸化炭素透過量の大小関係が不明な点。
イ 判断
事案に鑑みて、相違点2から検討する。
引用発明を開示する引用文献1には、フィルムの延伸に関して「・・・延伸倍率を調節することによって気体透過性の制御が可能であるという、青果物包装用として極めて好適な性能を有するフィルムである。」(第13頁第6~8行)こと、実施例1~6のいずれにおいても「二軸延伸フィルム」(第28頁第28行~第29頁第9行)を使用することが記載されており、引用発明のもやし入り包装体の気体透過性、すなわち、「酸素透過量」は、ポリプロピレン系樹脂組成物を延伸したことによって得られたものである。そうすると、引用発明の延伸ポリプロピレンフィルムを無延伸フィルムに置換すると、包装体としての「酸素透過量」が変化することとなり、引用文献1の各実施例における酸素透過度を得ることはできなくなるから、引用発明において、延伸ポリプロピレンフィルムを無延伸フィルムに置換することは、当業者に動機付けられることではない。
したがって、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は引用発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
なお、仮に、引用発明において無延伸フィルムに置換するとしても、相違点3に係る本件発明1の構成と対比して検討すべき引用発明の酸素透過量は不明となるから、この観点からも、本件発明1は引用発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
(2)本件発明3、4、6について
本件発明3、4、6は、いずれも、本件発明1の発明特定事項を全て含み、それに他の発明特定事項を付加したものといえるから、上記(1)イに示した理由と同様の理由により、引用発明に記載された事項に基いて当業者が容易に発明できたものではない。
第6 取消理由通知に採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知に採用しなかった特許異議申立理由の概要
申立人は、本件特許の請求項2、7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基いて、本件特許の請求項1~8に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明することができたものである旨主張する。
甲第1号証:再公表特許99/51665号
甲第2号証:特開2005-178855号公報
甲第6号証:特開2008-138035号公報
(1)甲第1号証に基づく理由について
ア 甲第1号証の記載
甲第1号証は、上記第4に示した引用文献1であって、その記載及び引用発明は、上記第5 1に示したとおりである。
イ 本件発明2との対比
本件発明2と引用発明を対比すると、両者は上記第5 2(1)の本件発明1と同様の一致点を有し、以下の点で相違する。
<相違点4>
本件発明2は、もやしが収容される包装袋の内部空間が「脱気状態にある」のに対して、引用発明は包装袋の内部空間を脱気状態にすることについて特定されていない点。
<相違点5>
特定の範囲に調整される酸素通過量について、本件発明2のもやし入り包装体は、「23℃、60%RHにおけるもやし100gあたりの酸素透過量を83cc/100g・day/atm以上223cc/100g・day/atm以下」と規定するのに対し、引用発明のもやしの包装袋は、「JIS法K-7126Aに準拠して測定した」「酸素透過度が、1250、1650、1550nmol(STP)/m2・s・100kPa」であって、測定条件及び単位が異なり、本件発明2は、「もやし入り包装体の23℃、60%RHにおけるもやし100gあたりの酸素透過量をToとし、もやし入り包装体の23℃、60%RHにおけるもやし100gあたりの二酸化炭素透過量をTcとしたとき、Tc≧Toの関係が成り立つ」のに対し、引用発明は、酸素透過量と二酸化炭素透過量の大小関係が不明な点。
<相違点6>
本件発明2は、「もやし入り包装体の23℃、60%RHにおけるもやし100gあたりの二酸化炭素透過量が、217cc/100g・day・atm以上942cc/100g・day・atm以下」と規定するのに対し、引用発明の包装袋は、二酸化炭素透過量が不明な点。
ウ 判断
(ア)事案に鑑みて、相違点6から検討する。
引用文献1には、もやしを含む青果物の包装に適したフィルムとして、「水蒸気、酸素及びエチレン等の気体が好適に透過し、これを制御することができる」(第7頁第21~22行)ことは記載されているものの、「二酸化炭素透過量」を制御する点は記載も示唆もない。
また、引用発明の包装体を構成する「ポリプロピレンホモポリマー成分と、エチレンとプロピレンとのコポリマー成分を含む、ポリプロピレン系樹脂組成物」の二酸化炭素透過量が本件発明2に規定された範囲内であることを示す証拠もない。
そうすると、上記相違点6に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
(イ)相違点5について
上記(ア)で述べたとおり、引用文献1には、「二酸化炭素透過量」を制御する点についての記載も示唆もないことから、酸素透過量と二酸化炭素透過量の大小関係についても導き出すことはできないといえる。
そうすると、上記相違点5に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
(ウ)したがって、相違点4について検討するまでもなく、本件発明2は、引用発明に基づき当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
エ 申立人の主張について
申立人は、上記相違点6に関して、特許異議申立書において、「甲第1号証の実施例のフィルム」は、「本願及び甲第6号証の実施例と同じ未延伸ポリプロピレンフィルム及び化学構造の近いポリエチレンフィルム」が使用され、「本願及び甲第6号証の実施例」に記載された「フィルムの二酸化炭素透過度Ty、酸素透過度Tx」から推定される「甲第1号証の実施例2、3の包装体の二酸化炭素透過量Tcは要件Eの範囲である蓋然性が高い」旨、主張する。
以下、上記主張について検討する。
(ア)本件明細書に記載された実施例との比較
本件明細書には、以下の樹脂組成物からなる合成樹脂フィルムが記載されている(【0048】~【0053】)。
(実施例1)線状低密度ポリエチレン樹脂と防曇剤マスターバッチの混合物
(実施例2)低密度ポリエチレン樹脂と防曇剤マスターバッチの混合物
(実施例3)高密度ポリエチレン樹脂と防曇剤マスターバッチの混合物
(実施例4)ポリプロピレン樹脂と防曇剤マスターバッチの混合物
(実施例5)ポリプロピレン樹脂と防曇剤マスターバッチとプロピレン-1-ブテン共重合体の混合物からなる樹脂層と、低密度ポリエチレン樹脂からなる中間層を積層したもの
他方、引用発明の「ポリプロピレン系樹脂組成物」は「ポリプロピレンホモポリマー成分」と「エチレン及びプロピレンとのコポリマー成分」を含むものであって、両者を対比すると、樹脂組成物の化学構造が一致しないから、両者の二酸化炭素透過量が同等である蓋然性が高いとは認められない。
(イ)甲第6号証の実施例との比較
甲第6号証には、ガス透過制御フィルムを作製するために用いる樹脂組成物について、、以下の樹脂組成物からなるガス透過制御フィルムが記載されている(【0034】~【0037】)。
(実施例1)エチレンを含有するアイソタクチックポリプロピレンと、エチレン-1-オクテンランダム共重合体と、ジグリセリンオレイン酸エステルを含有するマスターバッチの混合物
(実施例2)エチレンを含有するアイソタクチックポリプロピレンと、エチレン-1-オクテンランダム共重合体と、グリセリンオレイン酸エステルを含有するマスターバッチの混合物
(実施例3)エチレンを含有するアイソタクチックポリプロピレンと、エチレン-1-オクテンランダム共重合体と、ひまし油エチレンオキサイド付加物を含有するマスターバッチの混合物
他方、引用発明の「ポリプロピレン系樹脂組成物」は「ポリプロピレンホモポリマー成分」と「エチレン及びプロピレンとのコポリマー成分」を含むものであって、両者を対比すると、樹脂組成物の化学構造は一致しないから、両者の二酸化炭素透過量が同等である蓋然性が高いとは認められない。
オ 本件発明7との対比
本件発明7に係る発明特定事項である「合成樹脂フィルムが無延伸フィルムである」点は、訂正事項1により本件発明1に追加された事項であって、上記第5 2(1)イに示した理由により、当業者が容易に発明できたものではない。
(2)甲第2号証に基づく理由について
ア 甲第2号証の記載
「【技術分野】
【0001】
本発明は、青果物の鮮度保持用包装体に関するものである。」
「【0007】
包装袋の材質としては、合成樹脂フィルムが好ましく、更に好ましくは、電子レンジ等の加熱時の耐熱性、保存に際して密封性に優れている、ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロン、ポリスチレン、防湿セロハン、ポリ乳酸の中から選ばれる少なくとも1種又はその組合せ、あるいはエチレン-酢酸ビニル共重合体との組合せ等である。
包装袋の包装形態としては、例えば、三方シール袋、溶断シール袋、合掌背張り、スタンディングパウチ、容器にトップシールをした形態などがある。また、これらフィルムには陳列時の見栄えの為防曇処理が施されていることが望ましく、防曇剤は衛生上問題なければどんなものでも良く、表面に塗布しても、練りこんでも良い。」
「【0020】
≪実施例2≫
もやしを水道水で洗浄し、脱水機に掛けて水気を切り、もやし300gを準備した。子袋として市販のキムチソース10gを40×50mmの背張り包装(市販の25μmの延伸ポリプロピレンで、シール部分の全部に大日本インキ化学工業のディックシールA-812Pを2μmコートした。シールしたときのシール強度は1.1N/15mm)を準備した。25μmの防曇延伸ポリプロピレン製で内寸200×240mmに対し0.0008mm2の孔を10個開けた溶断シール袋に、もやし、小袋を入れ、開口部をヒートシールして密封包装した(酸素透過量:9000cc/m2・day・atm、二酸化炭素透過量:9300cc/m2・day・atm、ヘッドスペース:810cc)。10℃で3日間保存したところ、24時間後の酸素濃度は2%、二酸化炭素濃度は19%で変色も無く、嫌気臭の発生も無かった。その後電子レンジで5分間加熱したところ、調味料は包装袋から漏れ出ることなくもやしにからみ食味は良好であった。」
上記の記載から甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。
(甲2発明)
「25μmの防曇延伸ポリプロピレン製で内寸200×240mmに対し0.0008mm2の孔を10個開けた溶断シール袋に、もやし300gとキムチソースの入った小袋を入れ、開口部をヒートシールして密封包装したもやし入りの包装袋であって、
包装袋の酸素透過量が9000cc/m2・day・atm、二酸化炭素透過量:9300cc/m2・day・atm、ヘッドスペース:810ccであるもやし入りの包装袋。」
イ 申立人の主張について
申立人は、本件発明1と甲第2号証に記載された発明とは、包装袋が「脱気状態であるかどうか不明である」点で相違することを認めたうえで、当該相違点について、甲第3~5号証から、もやしを鮮度保持するために真空包装することが従来、周知であること、及び包装体の酸素透過量と二酸化炭素透過量が同等レベルであることから、微細孔を設けた包装体であっても脱気包装が可能であることは明白であるから、甲2発明に脱気状態の構成を適用することは、当業者が容易に発明することができた旨主張する。
しかしながら、甲第2号証には、ヘッドスペースについて「包装体のヘッドスペースすなわち包装体内の青果物を除いた空間の体積は、特に限定されないが、例えば、内容物重量(内容物の比重を1とする)の2~5倍が良い。内容物重量の2倍未満では、袋と青果物に殆ど隙間が無い状態であり、青果物を入れ難い」(【0017】)ことが記載されており、当該ヘッドスペースは必須であるところ、脱気包装はヘッドスペースを排除する方向の技術であるから、当該脱気包装を採用する動機付けがない。
よって、申立人の主張は採用できない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、当審が通知した取消理由及び特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許の請求項8に係る特許は、以上のとおり、本件訂正により削除され、同請求項に係る特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-700442