特許異議申立
2024-700032
再パルプ化可能な包装材料
- 審判番号
- 2024-700032
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-569138
- 登録番号
- 7315589
- 請求日
- 2024年01月17日
- 審決日
- 2025年09月02日
- 公報発行日
- 2025年12月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ストラ エンソ オーワイジェイ
- 【権利者代理人】弁理士法人浅村特許事務所
- 【異議申立人】渋谷 都
- 審判長/審判官
- 審判長 金丸 治之
- 審判官 藤井 眞吾
- 審判官 長清 吉範
- 分類
- P1651.113-YAA(B65D) / P1651.121-YAA(B65D) / P1651.537-YAA(B65D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7315589号発明「再パルプ化可能な包装材料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7315589号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~15〕について訂正することを認める。
特許第7315589号の請求項1~3、7~15に係る特許を維持する。
特許第7315589号の請求項4~6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7315589号(以下「本件特許」という。)の請求項1~15に係る特許についての出願は、2019年(令和元年)6月12日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2018年6月12日 (SE)スウェーデン)を国際出願日とする出願であって、令和5年7月18日にその特許権の設定登録がなされ、同月26日に特許掲載公報が発行された。その特許についての異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和6年 1月17日 :特許異議申立人 渋谷都(以下「申立人」と
いう。)による請求項1~15に係る特許に
対する特許異議の申立て
同年 5月10日付け:取消理由通知
同年 8月 1日 :特許権者による訂正の請求及び意見書の提出
同年 9月18日 :申立人による意見書の提出
令和7年 3月27日付け:取消理由通知(決定の予告)
同年 6月20日 :特許権者による訂正の請求(以下「本件訂正
請求」という。)及び意見書の提出
なお、当審から令和7年7月1日付けで申立人に対して訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)を、期間を指定して行ったが、当該期間内に申立人からは応答がなかった。
また、令和6年8月1日の訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正請求は、「特許第7315589号の特許請求の範囲を本請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~15について訂正することを求める。」ものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。また、下線は、当審が訂正箇所に付したものである。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「包装材料であって、第1の面および第2の面を含む板紙基材、前記基材の第1の面上に適用された少なくとも1つのバリア層であって、ポリビニルアルコール、エチレンとポリビニルアルコールとのコポリマー、デンプン、カルボキシメチルセルロース、およびそれらの組み合わせの群から選択される水溶性ポリマーを、このバリア層の乾燥重量に基づいて少なくとも50重量%の量で含むバリア層、前記バリア層上のポリオレフィンの押出コーティング層、ならびに、前記基材の第2の面上に適用された少なくとも1つの分散液バリア層であって、包装材料の印刷面を形成している少なくとも1つの分散液バリア層を含む、包装材料。」とあるのを、「包装材料であって、第1の面および第2の面を含む板紙基材、前記基材の第1の面上に適用された少なくとも1つのバリア層であって、デンプンまたはカルボキシメチルセルロースである水溶性ポリマーを、このバリア層の乾燥重量に基づいて少なくとも50重量%の量で含むバリア層、前記バリア層上のポリオレフィンの押出コーティング層、ならびに、前記基材の第2の面上に適用された少なくとも1つの分散液バリア層であって、包装材料の印刷面を形成している少なくとも1つの分散液バリア層を含み、ここで、前記バリア層の水溶性ポリマーがデンプンであり、前記バリア層の坪量が2g/m2以上10g/m2以下の範囲内であるか、または、前記バリア層の水溶性ポリマーがカルボキシメチルセルロースであり、前記バリア層の坪量が4g/m2以上6g/m2以下の範囲内である、包装材料。」と訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2、3、7~15も同様に訂正する。)。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6を削除する。
(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7に「前記分散液バリア層が、分散液バリア層の乾燥重量100重量%に基づくパーセント割合として、40重量%以上100重量%以下の範囲の量でラテックスを含み、かつ0重量%以上60重量%以下の範囲の量で顔料を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の包装材料。」とあるのを、「前記分散液バリア層が、分散液バリア層の乾燥重量100重量%に基づくパーセント割合として、40重量%以上100重量%以下の範囲の量でラテックスを含み、かつ0重量%以上60重量%以下の範囲の量で顔料を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の包装材料。」と訂正する(請求項7の記載を直接的又は間接的に引用する請求項9~15も同様に訂正する。)。
(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項8に「前記分散液バリア層が、デンプンを含み、かつ、ワックス、スチレンマレイン酸無水物(SMA)および/もしくはアルキルケテンダイマー(AKD類)の群から選択される少なくとも1種の疎水性ポリマー、またはエチレンとポリビニルアルコールとのコポリマーを含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の包装材料。」とあるのを、「前記分散液バリア層が、デンプンを含み、かつ、ワックス、スチレンマレイン酸無水物(SMA)および/もしくはアルキルケテンダイマー(AKD類)の群から選択される少なくとも1種の疎水性ポリマー、またはエチレンとポリビニルアルコールとのコポリマーを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の包装材料。」と訂正する(請求項8の記載を直接的又は間接的に引用する請求項9~15も同様に訂正する。)。
(7) 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項9に「前記包装材料が、ASTM D3985に従って23℃、50%相対湿度(RH)で測定された5cc/m2*日*atm未満の酸素移動速度(OTR)、および/またはASTM F1249に従って測定された1日あたり10g/m2未満の水蒸気移動速度(WVTR)、および/またはCOBB1800を使用して測定された1g/m2未満の吸水率を示す、請求項1~8のいずれか1項に記載の包装材料。」とあるのを、「前記包装材料が、ASTM D3985に従って23℃、50%相対湿度(RH)で測定された5cc/m2*日*atm未満の酸素移動速度(OTR)、および/またはASTM F1249に従って測定された1日あたり10g/m2未満の水蒸気移動速度(WVTR)、および/またはCOBB1800を使用して測定された1g/m2未満の吸水率を示す、請求項1~3、7および8のいずれか1項に記載の包装材料。」と訂正する(請求項9の記載を直接的又は間接的に引用する請求項10~15も同様に訂正する。)。
(8) 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項10に「前記包装材料の再パルプ化から入手された拒絶品が、前記包装材料の乾燥重量100重量%に基づいて、15重量%未満である、請求項1~9のいずれか1項に記載の包装材料。」とあるのを、「前記包装材料の再パルプ化から入手された拒絶品が、前記包装材料の乾燥重量100重量%に基づいて、15重量%未満である、請求項1~3、7、8および9のいずれか1項に記載の包装材料。」と訂正する(請求項10の記載を直接的又は間接的に引用する請求項11~15も同様に訂正する。)。
(9) 訂正事項9
特許請求の範囲の請求項11に「請求項1~10のいずれか1項に記載の包装材料を製造する方法であって、第1の面および第2の面を含む板紙基材を提供するステップ、前記基材の第1の面上に少なくとも1つのバリア層を適用するステップであって、このバリア層が、ポリビニルアルコール、エチレンとポリビニルアルコールとのコポリマー、デンプン、カルボキシメチルセルロース、およびそれらの組み合わせの群から選択される水溶性ポリマーを、前記バリア層の乾燥重量に基づいて少なくとも50重量%の量で含むステップ、前記バリア層上にポリオレフィンの層を適用するステップ、ならびに前記基材の第2の面上に、少なくとも1つの分散液バリア層を適用するステップであって、この少なくとも1つの分散液バリア層が、包装材料の印刷面を形成するステップを含み、前記ポリオレフィンの層がチルロールを使用した押出コーティングによって適用され、このチルロールの温度が10℃以上25℃以下の範囲内である、製造方法。」とあるのを、「請求項1~3、7、8、9および10のいずれか1項に記載の包装材料を製造する方法であって、第1の面および第2の面を含む板紙基材を提供するステップ、前記基材の第1の面上に少なくとも1つのバリア層を適用するステップであって、このバリア層が、デンプンまたはカルボキシメチルセルロースである水溶性ポリマーを、前記バリア層の乾燥重量に基づいて少なくとも50重量%の量で含むステップ、前記バリア層上にポリオレフィンの層を適用するステップ、ならびに前記基材の第2の面上に、少なくとも1つの分散液バリア層を適用するステップであって、この少なくとも1つの分散液バリア層が、包装材料の印刷面を形成するステップを含み、前記ポリオレフィンの層がチルロールを使用した押出コーティングによって適用され、このチルロールの温度が10℃以上25℃以下の範囲内である、製造方法。」と訂正する(請求項11の記載を直接的又は間接的に引用する請求項12~15も同様に訂正する。)。
(9) 訂正事項10
特許請求の範囲の請求項15に「請求項1~10のいずれか1項に記載の包装材料を含むか、または請求項1~10のいずれか1項に記載の包装材料から形成された包装。」とあるのを、「請求項1~3、7、8、9および10のいずれか1項に記載の包装材料を含むか、または請求項1~3、7、8、9および10のいずれか1項に記載の包装材料から形成された包装。」と訂正する。
2 一群の請求項
本件訂正請求は、訂正前の請求項2~15が訂正の対象である請求項1を直接的又は間接的に引用する関係にあるから、一群の請求項〔1~15〕に対して請求されたものである。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1
訂正事項1に係る請求項1についての訂正は、バリア層が含む水溶性ポリマーの選択肢から「ポリビニルアルコール」及び「エチレンとポリビニルアルコールとのコポリマー」を削除するとともに、バリア層が含む水溶性ポリマーの選択肢である「デンプン」について訂正前の請求項5の発明特定事項、及び「カルボキシメチルセルロース」について訂正前の請求項6の発明特定事項を、それぞれ直列的に付加する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、新規事項の追加に該当せず、カテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2) 訂正事項2~4
訂正事項2~4は、特許請求の範囲の請求項4~6を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3) 訂正事項5~8
訂正事項5~8は、引用請求項数を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、訂正事項2~4によって削除された請求項4~6を引用しているという不明瞭な状態を解消させるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものでもある。また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4) 訂正事項9
訂正事項9に係る請求項11についての訂正は、バリア層が含む水溶性ポリマーの選択肢から「ポリビニルアルコール」及び「エチレンとポリビニルアルコールとのコポリマー」を削除するとともに、バリア層が含む水溶性ポリマーの選択肢である「デンプン」について訂正前の請求項5の発明特定事項、及び「カルボキシメチルセルロース」について訂正前の請求項6の発明特定事項を、それぞれ直列的に付加し、さらに、引用請求項数を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、新規事項の追加に該当せず、カテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(5) 訂正事項10
訂正事項10は、引用請求項数を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、訂正事項2~4によって削除された請求項4~6を引用しているという不明瞭な状態を解消させるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものでもある。また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
4 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~15〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められたから、本件訂正請求により訂正された請求項1~3、7~15に係る発明(以下「本件発明○」等という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~3、7~15に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
包装材料であって、
第1の面および第2の面を含む板紙基材、
前記基材の第1の面上に適用された少なくとも1つのバリア層であって、デンプンまたはカルボキシメチルセルロースである水溶性ポリマーを、このバリア層の乾燥重量に基づいて少なくとも50重量%の量で含むバリア層、
前記バリア層上のポリオレフィンの押出コーティング層、ならびに、
前記基材の第2の面上に適用された少なくとも1つの分散液バリア層であって、
包装材料の印刷面を形成している少なくとも1つの分散液バリア層を含み、
ここで、
前記バリア層の水溶性ポリマーがデンプンであり、前記バリア層の坪量が2g/m2以上10g/m2以下の範囲内であるか、
または、
前記バリア層の水溶性ポリマーがカルボキシメチルセルロースであり、前記バリア層の坪量が4g/m2以上6g/m2以下の範囲内である、
包装材料。
【請求項2】
前記押出コーティング層のポリオレフィンが、ポリエチレンおよびポリプロピレンの群から選択される、請求項1に記載の包装材料。
【請求項3】
前記バリア層が、バリア層の乾燥重量に基づいて、50重量%以上100重量%以下の範囲の量で前記水溶性ポリマーを含む、請求項1または2に記載の包装材料。」
「【請求項7】
前記分散液バリア層が、分散液バリア層の乾燥重量100重量%に基づくパーセント割合として、40重量%以上100重量%以下の範囲の量でラテックスを含み、かつ0重量%以上60重量%以下の範囲の量で顔料を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の包装材料。
【請求項8】
前記分散液バリア層が、デンプンを含み、かつ、ワックス、スチレンマレイン酸無水物(SMA)および/もしくはアルキルケテンダイマー(AKD類)の群から選択される少なくとも1種の疎水性ポリマー、またはエチレンとポリビニルアルコールとのコポリマーを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の包装材料。
【請求項9】
前記包装材料が、ASTM D3985に従って23℃、50%相対湿度(RH)で測定された5cc/m2*日*atm未満の酸素移動速度(OTR)、および/またはASTM F1249に従って測定された1日あたり10g/m2未満の水蒸気移動速度(WVTR)、および/またはCOBB1800を使用して測定された1g/m2未満の吸水率を示す、請求項1~3、7および8のいずれか1項に記載の包装材料。
【請求項10】
前記包装材料の再パルプ化から入手された拒絶品が、前記包装材料の乾燥重量100重量%に基づいて、15重量%未満である、請求項1~3、7、8および9のいずれか1項に記載の包装材料。
【請求項11】
請求項1~3、7、8、9および10のいずれか1項に記載の包装材料を製造する方法であって、
第1の面および第2の面を含む板紙基材を提供するステップ、
前記基材の第1の面上に少なくとも1つのバリア層を適用するステップであって、このバリア層が、デンプンまたはカルボキシメチルセルロースである水溶性ポリマーを、前記バリア層の乾燥重量に基づいて少なくとも50重量%の量で含むステップ、
前記バリア層上にポリオレフィンの層を適用するステップ、ならびに
前記基材の第2の面上に、少なくとも1つの分散液バリア層を適用するステップであって、この少なくとも1つの分散液バリア層が、包装材料の印刷面を形成するステップを含み、
前記ポリオレフィンの層がチルロールを使用した押出コーティングによって適用され、
このチルロールの温度が10℃以上25℃以下の範囲内である、
製造方法。
【請求項12】
前記ポリオレフィンの層がポリエチレン層および/またはポリプロピレン層を含み、前記ポリエチレン層の押出が300℃以上330℃以下の範囲の溶融温度で実施され、および/または前記ポリプロピレン層の押出が295℃以上320℃以下の範囲の溶融温度で実施される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記バリア層が適用された板紙基材が、前記ポリオレフィン層で押出コーティングされる前に、コロナ処理または火炎処理によって処理される、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
前記ポリオレフィンの押出コーティング層が、押出ステップでオゾン処理される、請求項11~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1~3、7、8、9および10のいずれか1項に記載の包装材料を含むか、または請求項1~3、7、8、9および10のいずれか1項に記載の包装材料から形成された包装。」
第4 先の取消理由通知(決定の予告)の概要
1 取消理由の概要
令和7年3月27日付けで当審が通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
取消理由:(進歩性)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
記
[証拠一覧]
申立人が提出した甲第1~6号証
甲第1号証:特開2009-184138号公報
甲第2号証:特開2015-227517号公報
甲第3号証:特開平8-118568号公報
甲第4号証:特開平10-48778号公報
甲第5号証:「食品包装用語辞典」、株式会社サイエンスフォーラム、第1版、平成5年7月25日、217ページ
甲第6号証:「新ラミネート加工便覧」、加工技術研究会、昭和58年11月30日、627~629ページ
[取消理由と対象請求項及び証拠の関係]
・請求項1~4、7、9、10、15
・甲1、甲2
・請求項11
・甲1~甲3
・請求項12
・甲1~甲4
・請求項13、14
・甲1~甲6
2 当審の判断
(1) 甲号証の記載事項及び甲号証に記載された発明等
ア 甲1
(ア) 甲1の記載事項
甲1には、次の事項が記載されている(下線部は当審で付与した。以下、同様。)。
「【請求項1】
紙支持体上にエチレン変性ポリビニルアルコール樹脂と無機層状化合物を含む第1のガスバリア層と、エチレン変性ポリビニルアルコールからなる第2のガスバリア層を順次設けたことを特徴とするガスバリア性積層体。
【請求項2】
第1のガスバリア層のエチレン変性ポリビニルアルコールと無機層状化合物の質量比が100/5~100/50であることを特徴とする請求項1に記載のガスバリア性積層体。」
「【0001】
本発明は、食品類を包装する包装用素材であり、特に酸素と反応して酸化や劣化を引き起こす可能性のある内容物を包装するための包装材料であり、なおかつ、金属探知機が使用でき、使用後に紙として分別処理可能な包装材料を提供するものである。」
「【0003】
しかし、アルミ箔やアルミ蒸着層を有するフィルムと紙基材を貼合すると、金属を含むため、食品包装後の異物検査のための金属探知機が使用できないといった問題がある。また、金属を含むため紙として焼却処理できず、古紙としても再利用できない。・・・」
「【0007】
本発明によって、ヒートシール層との密着強度に優れ、包装袋としての酸素バリア性に優れ、金属探知機の使用が可能であり、紙として廃棄可能なガスバリア積層体を得ることが可能となった。」
「【0010】
本発明におけるエチレン変性ポリビニルアルコールとは、エチレンモノマーと酢酸ビニルモノマーを共重合させてケン化して得られるポリビニルアルコールである。エチレン単位の含有量は1~20モル%のものが好ましく、2~15モル%がさらに好ましく、3~10モル%が特に好ましい。エチレン変性PVAのエチレン単位の含有量が1モル%未満になると、PVAの延伸性が十分でなくなるおそれがある。またエチレン単位の含有量が20モル%を超えると、水への溶解性が低下し水性塗料とすることが困難であるため好ましくない。なお、エチレン単位の含有量は、モノマー単位全体(エチレン単位+ビニルアルコール単位)に対するモル%で表すものとする(ビニルアルコール単位には、ケン化されていない酢酸ビニル単位も含むものとする)。」
「【0013】
第1のガスバリア層には、無変性のポリビニルアルコールや変性ポリビニルアルコールが含まれてもかまわない。変性ポリビニルアルコールとしてはシラノール基(-Si(OH)3)、アミノ基、カルボキシル基、1,2グリコール基等の官能基で変性されたポリビニルアルコールが挙げられる。また、スチレン-ブタジエンラテックスやアクリル-スチレンエマルジョンなどの合成樹脂が含まれてもかまわない。さらに、デンプンなどの多糖類、カゼイン、ポリアクリル酸、ポリエチレンイミンなどの水溶性高分子が含まれてもかまわない。
【0014】
第2のガスバリア層は、前述のとおり、ポリオレフィン系基材との密着性に優れるエチレン変性ポリビニルアルコールを主体として構成されるが、その効果を妨げない範囲で、必要に応じて各種水溶性高分子や合成樹脂等を添加することが可能である。添加して使用可能な水溶性高分子や合成樹脂としては、前述の第1のガスバリア層で使用可能なものが同様に使用できる。なお、本発明において、無機層状化合物は、ポリオレフィン系基材との密着を妨げるので、第2のガスバリア層には添加しない。」
「【0018】
第1のガスバリア層の塗工量は0.1~3.0g/m2が好ましく、0.5~2.5g/m2がさらに好ましい。第1のガスバリア層の塗工量が3.0g/m2より超えると塗膜強度が大幅に低下するおそれがあり、0.1g/m2未満だと酸素バリア性が不十分となるおそれがある。
また、第2のガスバリア層の塗工量は0.1~3.0g/m2が好ましく、0.5~2.5g/m2がさらに好ましい。第2のガスバリア層の塗工量が3.0g/m2を超えると塗膜強度が低下するおそれがあり、0.1g/m2未満だとシーラント層との密着強度が不十分となり、酸素バリア性も低下するおそれがある。
また、第1のガスバリア層と第2のガスバリア層の塗工量の合計は、0.5~5g/m2が好ましい。塗工量の合計が0.5g/m2未満だと、酸素バリア性が低下したり、塗膜強度が低下するおそれがある。また、5g/m2を超えると密着強度や塗膜強度が低下するおそれがあり好ましくない。」
「【0034】
また、紙支持体と防湿層の間に防湿層の塗工適性や塗工量減のために、顔料と樹脂を含む顔料層を設けてもよい。あるいはガスバリア層とは反対側の紙支持体の表面に、印刷適性を向上させるために顔料と樹脂を含む顔料層を設けてもかまわない。
顔料としては炭酸カルシウム、カオリン、クレー。焼成クレー、タルク、硫酸バリウムなどが好適に使用される。樹脂としては、スチレン-ブタジエン系共重合体やアクリル-スチレン系共重合体、ポリビニルアルコール、デンプンなどが好適に使用される。
顔料と樹脂の配合比率は質量換算で顔料/樹脂=50/50~99/1が好適である。」
「【0036】
また、本発明のガスバリア性積層体の第2のガスバリア層にポリエチレンやポリプロピレンなどのシーラント層を設けて、包装用積層体となる。シーラントは溶融押出ラミ法やドライラミ法、あるいは、塗工などの方法で積層できる。また、ガスバリア層とシーラント層の間に密着性を向上させるために、アンカー層を設けてもよい。アンカー層はウレタン系樹脂やポリエステル系樹脂が好適であり、イソシアネートのような硬化剤が含まれてもよい。」
「【0058】
【表1】
[図:0001429970000001.jpg]
」
(イ) 甲1の認定事項
【0013】の「第1のガスバリア層には、・・・さらに、デンプンなどの多糖類・・・が含まれてもかまわない。」との記載と、【0014】の「第2のガスバリア層は、・・・エチレン変性ポリビニルアルコールを主体として構成されるが、その効果を妨げない範囲で、必要に応じて各種水溶性高分子や合成樹脂等を添加することが可能である。添加して使用可能な水溶性高分子や合成樹脂としては、前述の第1のガスバリア層で使用可能なものが同様に使用できる。」との記載から、甲1には、第1のガスバリア層及び第2のガスバリア層にデンプンを含むことが実質的に記載されているものと認められる。
(ウ) 甲1に記載された発明
以上を踏まえると、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
[甲1発明]
「紙支持体上にエチレン変性ポリビニルアルコール樹脂と無機層状化合物を含む第1のガスバリア層と、エチレン変性ポリビニルアルコールからなる第2のガスバリア層を順次設けたガスバリア性積層体と、
前記ガスバリア性積層体における前記第2のガスバリア層に溶融押出ラミ法で設けられたポリエチレンやポリプロピレンなどのシーラント層と、
前記第1のガスバリア層及び前記第2のガスバリア層とは反対側の紙支持体の表面に、印刷適性を向上させるために設けられた顔料と樹脂を含む顔料層と、
を含む包装用積層体であって、
前記第1のガスバリア層のエチレン変性ポリビニルアルコールと無機層状化合物の質量比が100/5~100/50であり、
前記第2のガスバリア層はエチレン変性ポリビニルアルコールを主体として構成され、
さらに、第1のガスバリア層及び第2のガスバリア層にデンプンを含む、
包装用積層体。」
イ 甲2
甲2には、次の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は、各種製品の包装材に使用する塗料または容器やカップなど用いられる水蒸気及びガスバリア性を有する紙製の包装材料に関する。」
「【0026】
2.水蒸気バリア層
1)バインダー樹脂
水蒸気バリア層に含有させるバインダー樹脂としては、スチレン・ブタジエン系、スチレン・アクリル系、エチレン・酢酸ビニル系、ブタジエン・メチルメタクリレート系、酢酸ビニル・ブチルアクリレート系等の各種共重合体、ポリオレフィン・無水マレイン酸共重合体、アクリル酸・メチルメタクリレート系共重合体等を例示することができる。これらを単独あるいは2種類以上混合して使用することができる。特に、スチレン・ブタジエン系共重合体が水蒸気バリア性の点から好ましい。
・・・
【0030】
2)顔料
本発明において、水蒸気バリア層に顔料を含有させることにより、水蒸気バリア性を向上させることができる。また、顔料を含有させることにより、水蒸気バリア層とガスバリア層の密着性が向上する。」
「【0049】
3.ガスバリア層
本発明において、ガスバリア層にアスペクト比100以上の顔料、ポリビニルアルコール及びセルロース誘導体を含有することが重要である。ポリビニルアルコールと無機層状化合物からなるガスバリア層において、アスペクト比が大きな顔料を用いる方が高いガスバリア性を発現する傾向となるが、顔料のアスペクト比が大きくなりすぎるとポリビニルアルコールと相溶性が不十分となる。例えば、アスペクト比が100以上のマイカとポリビニルアルコールの水溶液を混合したガスバリア層用の塗工液を調整した場合、塗工液中にマイカ由来の凝集物が発生する。このため、この塗工液を塗工して形成させたガスバリア層は、均一な塗工層とならないため、期待するガスバリア性を得ることができない。一方、ポリビニルアルコール、アスペクト比が大きな顔料、セルロース誘導体を混合したガスバリア層用の塗工液を調整した場合には、塗工液中に凝集物は発生しないため、この塗工液を塗工して形成させたガスバリア層は、均一な層となり、期待通りのガスバリア性が発現する。
・・・
【0051】
本発明において、セルロース誘導体とは、セルロースを出発原料とするフィルム上になった場合にガスバリア性を有する材料であり、カルボキシメチルセルロース及びその塩、アニオン変性(カルボキシメチル化、カルボキシル化)したセルロースナノファイバーなどを例示することができる。なお、アニオン変性セルロースナノファイバーは、パルプなどのセルロース原料をアニオン変性し、得られたアニオン変性セルロースを解繊して得られることができる、平均繊維長50~10000nm、平均繊維幅1~1000nmであるセルロース繊維である。」
「【0064】
本発明において、ガスバリア層の塗工量は、乾燥重量で0.2~10g/m2とすることが好ましい。塗工量が0.2/m2未満であると均一なガスバリア層を形成することができないため、十分なガスバリア性が得られない問題がある。一方、10g/m2より多いと、塗工時の乾燥負荷が大きくなり、操業面、コスト面の両方の観点より好ましくない。」
「【0069】
・・・
(水蒸気バリア層用塗工液Aの調製)
上記で調整した顔料スラリー(大粒径エンジニアードカオリン、固形分濃度55%)に、スチレン・ブタジエン系ラテックス(日本ゼオン社製PNT7868)を前記顔料100質量部(固形分)に対して100質量部(固形分)となるように配合し、固形分濃度50%の塗工液Aを得た。・・・」
ウ 甲3
甲3には、次の事項が記載されている。
「【0032】本発明の積層体は、基材上にプロピレン系重合体組成物を押出ラミネートすることにより得られる。また該プロピレン系重合体組成物からなる層上にさらに他の合成樹脂フィルムを積層し、多層積層体を形成することも可能である。このような多層積層体を形成させるには共押出法を用いることもできる。」
「【0036】このような押出ラミネート成形は通常のポリオレフィン用の押出ラミネート成形機によっておこなわれる。この時の成形条件は特に限定はないが、一般的には樹脂温度240~310℃、エアギャップ60~200mm、冷却ロール温度10~50℃、成形温度50~300mm/分である。」
エ 甲4
甲4には、次の事項が記載されている。
「【0038】
【実施例】
実施例1~3
図2、3に示す金属ローラーを用いた。
【0039】表1に示す原紙に、押出しラミネート法を用いてLDPE(MI=3、密度0.94)とHDPE(MI=20、密度0.95)とを1:1でブレンドした樹脂を吐出温度310℃で裏ラミし、次いで、LDPE(MI=3、密度0.94)樹脂を300℃で表ラミした。この写真印画紙用ラミネート紙を用いて耳シール処理を行なった。ラミネーション及び耳シール処理条件を下記に示す。」
オ 甲5
甲5には、次の記載がある。
「コロナ放電処理
高圧の放電によりフィルムあるいは紙などの基材の表面を処理することにより、濡れ性を高め、印刷や貼合せ性を高める方法である。・・・(中略)・・・また貼合せにおいては、無極性フィルムであるポリエチレンやポリプロピレンの表面をコロナ処理することにより、同様にカルボニル基などの極性基が導入され、接着剤との密着性が高くなり、良好な接着強度が得られる。紙とポリエチレンの貼合せにおいても紙にコロナ処理を行うことにより、未処理紙よりも接着強度が大きくなる。」(第217ページ左欄下から4行~右欄第10行)
カ 甲6
甲6には、次の事項が記載されている。
「第8章 コロナ放電処理装置
1.概要
プラスチック業界および包装業界で広く利用されているポリオレフィン樹脂の印刷、接着性の目的に、なぜ処理をしなければならないか。ポリオレフィンすなわちポリエチレン、ポリプロピレン樹脂は化学構造上極性基が少なく、結晶化度も高いため、インキや接着剤に対して親和性のない構造をしているからである。このためあらかじめ前処理を施し樹脂表面を改善し親和性を向上させることを目的にしたもので、印刷、接着性改善に次の3つの要件がある。
(1)無極性プラスチックの表面に極性基を作り接着力を増す。
(2)プラスチック表面の接着性阻害物を取り除く。
(3)プラスチック表面に凹凸を作り物理的接着力を増す。」(第627ページタイトル及び本文左欄第1~12行(空白行含まず))
「3.各種の前処理法
〇1(当審注:〇の中に数字が入る記号を表す。以下同様。) プライマー処理法
〇2 オゾン処理法
〇3 プラズマ処浬法
〇4 電子照射処理法
〇5 フレーム処理法
〇6 コロナ放電処理法
〇7 薬品処理法
以上のような処理法があるが、ポリオレフィン樹脂、紙等に使用されている一般的な処理法は、コロナ放電処理法、フレーム処理法、プライマー処理法と一部オゾン処理法が使用されている。
・・・(中略)・・・
3.2 オゾン処理法
この処理法は、従来、薬品処理を用いて処理してきた医療器具等が公害の問題からこの処理法に変わったことによるものである。
また最近ではエクストルージョンコーティング業界のスピードアップに伴ないこの分野にも使用されている。」(第627ページ右欄第5~28行(空白行含まず))
(2) 先の取消理由通知(決定の予告)における取消理由(進歩性)について
ア 本件発明1について
(ア) 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
a 「層構成」について
後者の「紙支持体」は前者の「板紙基材」に相当し、以下同様に、「第1のガスバリア層」及び「第2のガスバリア層」からなる層は「バリア層」に、「シーラント層」は溶融押出ラミ法で設けられるから「押出コーティング層」に、「包装用積層体」は「包装材料」に、それぞれ相当する。
b 「板紙基材」について
紙が表裏2つの面を含むことは明らかであるから、後者の「紙支持体」は前者の「第1の面及び第2の面を含む板紙基材」に相当する。
c 「バリア層」について
後者において、第1のガスバリア層及び第2のガスバリア層が、「紙支持体上に」「順次設け」られる構成は、前者のバリア層が「前記基材の第1の面上に適用された」構成に相当する。
後者の「デンプン」は、前者の「デンプンまたはカルボキシメチルセルロースである水溶性ポリマー」に相当する。
そうすると、後者の「紙支持体上にエチレン変性ポリビニルアルコール樹脂と無機層状化合物を含む第1のガスバリア層と、エチレン変性ポリビニルアルコールからなる第2のガスバリア層を順次設け」、「さらに、第1のガスバリア層及び第2のガスバリア層にデンプンを含む」構成は、前者の「前記基材の第1の面上に適用された少なくとも1つのバリア層であって、デンプンまたはカルボキシメチルセルロースである水溶性ポリマーを、このバリア層の乾燥重量に基づいて少なくとも50重量%の量で含むバリア層」の構成と、「前記基材の第1の面上に適用された少なくとも1つのバリア層であって、デンプンまたはカルボキシメチルセルロースである水溶性ポリマーを含むバリア層」の限りにおいて一致する。
d 「押出コーティング層」について
後者の「前記ガスバリア性積層体における前記第2のガスバリア層に溶融押出ラミ法で設けられたポリエチレンやポリプロピレンなどのシーラント層」は、前者の「前記バリア層上のポリオレフィンの押出コーティング層」の構成に相当する。
e 「分散液バリア層」について
後者の顔料層が設けられる「前記第1のガスバリア層及び前記第2のガスバリア層とは反対側の紙支持体の表面」は、前者の「前記基材の第2の面上」に相当し、後者の顔料層における「印刷適性を向上させる」との構成は、前者の「包装材料の印刷面を形成している」構成に相当する。そうすると、後者の「前記第1のガスバリア層及び前記第2のガスバリア層とは反対側の紙支持体の表面に、印刷適性を向上させるために設けられた顔料と樹脂を含む顔料層」は、前者の「前記基材の第2の面上に適用された少なくとも1つの分散液バリア層であって、包装材料の印刷面を形成している少なくとも1つの分散液バリア層を含む」構成と、「前記基材の第2の面上に適用された少なくとも1つの層であって、包装材料の印刷面を形成している少なくとも1つの層を含む」限りにおいて一致する。
以上をまとめると、本件発明1と甲1発明は次の点で一致する。
「包装材料であって、
第1の面および第2の面を含む板紙基材、
前記基材の第1の面上に適用された少なくとも1つのバリア層であって、デンプンまたはカルボキシメチルセルロースである水溶性ポリマーを含むバリア層、
前記バリア層上のポリオレフィンの押出コーティング層、ならびに、
前記基材の第2の面上に適用された少なくとも1つの層であって、包装材料の印刷面を形成している少なくとも1つの層を含む、
包装材料。」
また、両者は次の点で、相違する。
・相違点1
水溶性ポリマーについて、本件発明1は「デンプンまたはカルボキシメチルセルロース」を「バリア層の乾燥重量に基づいて少なくとも50重量%の量で含む」のに対し、甲1発明はデンプンを含むものであるものの、乾燥重量で50重量%以上の量で含むとの特定がない点。
・相違点2
基材の第2の面上に適用された層について、本件発明1は「分散液バリア層」であるのに対し、甲1発明では、そのような特定がない点。
・相違点3
本件発明1は、「前記バリア層の水溶性ポリマーがデンプンであり、前記バリア層の坪量が2g/m2以上10g/m2以下の範囲内であるか、または、前記バリア層の水溶性ポリマーがカルボキシメチルセルロースであり、前記バリア層の坪量が4g/m2以上6g/m2以下の範囲内である」のに対し、甲1発明は、そのような特定がない点。
(イ) 判断
上記相違点1について検討する。
甲1発明におけるデンプンは、第1のガスバリア層及び第2のガスバリア層におけるエチレン変性ポリビニルアルコールに添加されるものである。そして、第1のガスバリア層では、エチレン変性ポリビニルアルコールと無機層状化合物の質量比が100/5~100/50あり、第2のガスバリア層は主にエチレン変性ポリビニルアルコールからなるから、甲1発明の第1のガスバリア層と第2のガスバリア層について、エチレン変性ポリビニルアルコールの量は、乾燥重量に基いて少なくとも50重量%の量で含むものといえる。そうすると、ここにデンプンが添加されたとしても、そのデンプンの量はわずかであって、乾燥重量に基いて50重量%以上とはできない。
ここで、甲1発明はガスバリア層にエチレン変性ポリビニルアルコールを用いる構成を必須としており、デンプンは添加されるものにすぎないから、甲1発明におけるエチレン変性ポリビニルアルコールをデンプンに置き換える、あるいは主成分として相当量含めることもできない。
また、甲2には、ガスバリア層にアスペクト比100以上の顔料、ポリビニルアルコール及びセルロース誘導体を含有する事項が記載され、セルロース誘導体として、カルボキシメチルセルロースが例示されているが、カルボキシメチルセルロースで例示されるセルロース誘導体の添加は、ガスバリア層にアスペクト比100以上の顔料を含むという前提のもとでの技術であるから、そのような顔料を含まない甲1発明にカルボキシメチルセルロースを添加する動機はないし、仮に、甲2の当該記載事項から、甲1発明のポリビニルアルコールにカルボキシルメチルセルロースを添加できたとしても、甲1発明はガスバリア層にエチレン変性ポリビニルアルコールを用いる構成を必須としているから、カルボキシルメチルセルロースを乾燥重量に基いて50重量%以上とはできない。
さらに、他の証拠には、デンプンやカルボキシルメチルセルロースを含有するバリア層は記載されていない。
してみると、甲1発明において、上記相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者といえども容易に想到し得たことではない。
(ウ) 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲1発明と少なくとも相違点1で相違するから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2~3、7~15について
本件発明2~3、7~15は、本件発明1の発明特定事項を全て備え、さらに限定を付したものであるから、上記アと同様の理由により、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、先の取消理由通知(決定の予告)における取消理由は解消した。
第5 先の取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立理由の概要
先の取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由の概要は次のとおりである。
理由1(新規性)本件発明1~5、7、8、15は甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1~5、7、8、15に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
理由3(サポート要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載の分散液バリア層について、本件明細書に具体的な分散液バリア層を設けた構成が記載されておらず、分散液バリア層の存在によって本件発明の課題が解決できるとは当業者が認識できないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 当審の判断
(1) 理由1(新規性)について
本件発明1は、上記第4の2(2)アのとおり、甲1発明と実質的に相違するから、新規性を有する。
また、本件発明2、3、7、8、15は、本件発明1の発明特定事項を全て備え、さらに限定を付したものであるから、同様の理由により新規性を有する。
(2) 理由3(サポート要件)について
ア 本件発明1について
本件特許は、【0004】にあるように、再パルプ化を困難とする要因のうち、板紙からプラスチックコーティングを分離する際の問題に着目している。そして、「分散液バリア層」を設け、印刷面となる板紙基材の第2の面上にはポリオレフィンコーティングが存在しないものとし、ポリオレフィンコーティングが存在する板紙基材の第1の面側には水溶性ポリマーを乾燥重量で50重量%以上含むバリア層を介在させる構成としているから、板紙基材とプラスチックコーティングの分離についての課題が生じるのは、第1の面側のみであり、この第1の面側は板紙基材とプラスチックコーティングとの間に水溶性ポリマーを乾燥重量で50重量%以上含むバリア層を介在させることで、課題解決しているといえる。
申立人は、特許異議申立の理由において、分散液バリア層が存在することで本件発明の課題が解決できるかは不明であると主張する。しかしながら、分散液バリア層が存在する第2の面側にはプラスチックコーティングがそもそも存在しないから、「分散液バリア層」を設けることでプラスチックコーティングと板紙基材との分離が困難になるとはいえない。
してみると、申立人の主張は採用できない。
イ 本件発明2~3、7~15について
本件発明2~3、7~15は、本件発明1にさらに限定を付加したものであり、本件発明1と同様である。
ウ 小括
したがって、本件発明1~3、7~15は、発明の詳細な説明に記載された範囲内のものであるから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合する。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1~3、7~15に係る特許を取り消すことはできない。
他に本件請求項1~3、7~15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項4~6に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、請求項4~6に係る特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-700032