2021-700132
金属ハロゲン化物ペロブスカイト及び不動態化剤を含む光起電力デバイス
- 審判番号
- 2021-700132
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-009000外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 6734412
- 請求日
- 2021年02月05日
- 審決日
- 2023年03月31日
- 公報発行日
- 2023年07月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】オックスフォード ユニヴァーシティ イノヴェーション リミテッド
- 【権利者代理人】弁理士法人平木国際特許事務所
- 【異議申立人】鈴木 佐知子
- 分類
- P1651.113-YAA(H01L) / P1651.121-YAA(H01L) / P1651.536-YAA(H01L) / P1651.537-YAA(H01L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 18項目
第1 手続の経緯
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特許第6734412号(以下「本件特許」という。)の請求項1~14に係る特許についての出願は、平成26年12月17日に出願した特願2016-539967号の一部を平成31年1月23日に新たな特許出願としたものであって、令和2年7月13日にその特許権の設定登録がされ、令和2年8月5日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
という。)による請求項1~14に係る特許
に対する特許異議の申立て
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和4年12月28日にされた訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、次のとおりである(下線は、訂正箇所として特許権者が付したものである。)。
なお、本件訂正は、一群の請求項である訂正後の請求項〔1~15〕に対して請求されたものと解され、また、訂正後の請求項11~15について別の訂正単位とする求めがなされたものと解される。
(1)訂正事項1(請求項1について)
ア 訂正事項1-1
特許請求の範囲の請求項1に「有機化合物である不動態化剤」と記載されているのを「多環式芳香族炭化水素の分子である不動態化剤の分子」に訂正する。
イ 訂正事項1-2
特許請求の範囲の請求項1に「不動態化剤の分子が金属ハロゲン化物ペロブスカイト内の粒界に配置されている」と記載されているのを、「不動態化剤の分子が、金属ハロゲン化物ペロブスカイトの表面に開放されていない金属ハロゲン化物ペロブスカイト内の内部における粒界に配置されており、粒界が、金属ハロゲン化物ペロブスカイト内の異なる結晶配向の領域を分離させる平面欠陥である」に訂正する。
(2)訂正事項2(請求項3について)
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(3)訂正事項3(請求項4について)
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(4)訂正事項4(請求項5について)
特許請求の範囲の請求項5に「不動態化剤が、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン及びフルオランテンから選択される化合物を含む」と記載されているのを、「不動態化剤の分子が、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン及びフルオランテンから選択される化合物の分子である」に訂正するとともに、「請求項4に記載の光起電力デバイス」と記載されているのを、「請求項1又は2に記載の光起電力デバイス」に訂正するものと解される。
(5)訂正事項5(請求項6について)
特許請求の範囲の請求項6を削除する。
(6)訂正事項6(請求項7について)
特許請求の範囲の請求項7を削除する。
(7)訂正事項7(請求項8について)
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1から7のいずれか一項に記載の光起電力デバイス」と記載されているのを、「請求項1、2、及び5のいずれか一項に記載の光起電力デバイス」に訂正する。
(8)訂正事項8(請求項11について)
ア 訂正事項8-1
特許請求の範囲の請求項11に「有機化合物である不動態化剤」と記載されているのを「多環式芳香族炭化水素の分子である不動態化剤の分子」に訂正する。
イ 訂正事項8-2
特許請求の範囲の請求項11に「不動態化剤の分子が金属ハロゲン化物ペロブスカイト内の粒界に配置されている」と記載されているのを、「不動態化剤の分子が、金属ハロゲン化物ペロブスカイトの表面に開放されていない金属ハロゲン化物ペロブスカイト内の内部における粒界に配置されており、粒界が、金属ハロゲン化物ペロブスカイト内の異なる結晶配向の領域を分離させる平面欠陥である」に訂正する。
ウ 訂正事項8-3
特許請求の範囲の請求項11に「有機化合物である不動態化剤で、金属ハロゲン化物ペロブスカイトを処理することを含む」と記載されているのを、「多環式芳香族炭化水素の分子である不動態化剤の分子で、金属ハロゲン化物ペロブスカイトを処理することを含み、不動態化剤の分子で、金属ハロゲン化物ペロブスカイトを処理することが、(i)溶媒中に溶解させた前記金属ハロゲン化物ペロブスカイト及び不動態化剤を含む前駆体溶液を基板上に配置すること、並びに(ii)溶媒を除去して、不動態化金属ハロゲン化物ペロブスカイトの固体層を生成することを含む、」に訂正する。
(9)訂正事項9(請求項12について)
特許請求の範囲の請求項12に「不動態化剤が、請求項2から5のいずれか一項に定義されている通りである、」とあると記載されているのを、訂正前の請求項2に記載された「不動態化剤の分子が、粒界で金属ハロゲン化物ペロブスカイト中のアニオンとカチオンとの間の相互作用を遮断する、」に訂正するとともに、「請求項2から5のいずれか一項」のうち、請求項5を引用するものについて、独立形式に改め、「不動態化剤の分子が、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン及びフルオランテンから選択される化合物を含む、請求項11に記載の方法。」と記載し、新たに請求項15とする。
(10)訂正事項10(請求項13について)
特許請求の範囲の請求項13を削除する。
(11)訂正事項11(請求項14について)
特許請求の範囲の請求項14を削除する。
2 訂正要件の判断
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的
(ア)訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に対して、次の内容からなるものである。
(i)「不動態化剤」及び「不動態化剤の分子」との記載があり、一貫していなかったのを、「不動態化剤の分子」と明瞭とする訂正
(ii)「有機化合物」を「多環式芳香族炭化水素」に限定する訂正
(iii)上記(i)に伴い、「有機化合物」を、「多環式芳香族炭化水素の分子」であると平仄を合わせ明瞭とする訂正
(iv)「不動態化剤の分子が金属ハロゲン化物ペロブスカイト内の粒界に配置されて」いるとの記載が、「不動態化剤の分子」の配置されている「金属ハロゲン化物ペロブスカイト内の粒界」が、ペロブスカイトの表面に開放されていない場所に存在する態様に限定されているのか、それとも、ペロブスカイトの表面に開放されている孔の中に係る態様であってもよいのか、それ以外なのかが明らかでなかったものを、「金属ハロゲン化物ペロブスカイトの表面に開放されていない」金属ハロゲン化物ペロブスカイト内の「内部における」「粒界」として明瞭にする訂正
(v)「粒界」を「金属ハロゲン化物ペロブスカイト内の異なる結晶配向の領域を分離させる平面欠陥」に限定する訂正
(イ)したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮、及び、同第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項追加の有無
(ア)上記(i)~(iii)について、本件特許の特許登録時の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)には、「不動態化剤は、金属ハロゲン化物ペロブスカイト内の粒界に配置されるとともに金属ハロゲン化物ペロブスカイト中のアニオン又はカチオンに化学的に結合しない有機化合物である。好ましくは、こうした有機不動態化剤は、多環式芳香族炭化水素などの非極性有機分子を含む」(【0013】)と記載されている。
(イ)上記(iv)及び(v)について、本件明細書等の【0040】には、「「粒界」という用語は、本明細書で使用される場合、結晶性固体内の異なる結晶配向の領域(即ち、結晶粒)を分離させる平面欠陥を指す。」と記載されており、当該「粒界」は、「結晶性固体内の」「平面欠陥」であるから、結晶性固体の「内部」にあるものと理解できる。また、当該「粒界」が、結晶性固体の「表面に開放されていない」との事項は、本件明細書等の上記記載からみて、自明なことである。
(ウ)これに対し、申立人は、上記(iv)及び(v)に係る技術的事項は、本件明細書等に明確性をもって具体的に記載されているものではないから、新規事項を含むものである旨を主張するが、上記(イ)に説示のとおりである。
(エ)よって、訂正事項1は、新規事項を追加するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の有無
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
エ 訂正事項1の小括
よって、訂正事項1は、訂正要件を満たす。
(2)訂正事項2
ア 訂正の目的
訂正事項2は、本件訂正前の請求項3を削除するものである。
そうすると、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項追加の有無
訂正事項2は、本件訂正前の請求項3を削除するものであるから、新規事項を追加するものではない。
そうすると、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の有無
上記ア及びイに照らせば、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
エ 訂正事項2の小括
よって、訂正事項2は、訂正要件を満たす。
(3)訂正事項3
ア 訂正の目的
訂正事項3は、本件訂正前の請求項4を削除するものである。
そうすると、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項追加の有無
訂正事項3は、本件訂正前の請求項4を削除するものであるから、新規事項を追加するものではない。
そうすると、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の有無
上記ア及びイに照らせば、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
エ 訂正事項3の小括
よって、訂正事項3は、訂正要件を満たす。
(4)訂正事項4
ア 訂正の目的
(ア)訂正事項4は、本件訂正前の請求項5に対して、次の内容からなるものである。
(i)「不動態化剤」の記載を、訂正事項1の(i)と同様の理由で、「不動態化剤の分子」と明瞭にする訂正
(ii)「請求項4に記載の光起電力デバイス」の記載を、請求項4が削除されて引用できなくなったことに伴い、訂正前の請求項4に記載された「不動態化剤が多環式芳香族炭化水素を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の光起電力デバイス」として明瞭にする訂正
(iii)上記(ii)に加えて、訂正前の請求項4に記載された「不動態化剤が多環式芳香族炭化水素を含む」の部分は、当該請求項5が引用する請求項1に既に特定されていることから、重複を排除するために、これを削除して明瞭にする訂正
(iv)上記(ii)に加えて、「請求項1から3のいずれか一項」の記載を「請求項1又は2」に限定する訂正
(イ)したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮、及び、同第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項追加の有無
上記アによれば、訂正事項4は、新規事項を追加するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の有無
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
エ 訂正事項4の小括
よって、訂正事項4は、訂正要件を満たす。
(5)訂正事項5
ア 訂正の目的
訂正事項5は、本件訂正前の請求項6を削除するものである。
そうすると、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項追加の有無
訂正事項5は、本件訂正前の請求項6を削除するものであるから、新規事項を追加するものではない。
そうすると、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の有無
上記ア及びイに照らせば、訂正事項5は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
エ 訂正事項5の小括
よって、訂正事項5は、訂正要件を満たす。
(6)訂正事項6
ア 訂正の目的
訂正事項6は、本件訂正前の請求項7を削除するものである。
そうすると、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項追加の有無
訂正事項6は、本件訂正前の請求項7を削除するものであるから、新規事項を追加するものではない。
そうすると、訂正事項6は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の有無
上記ア及びイに照らせば、訂正事項6は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項6は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
エ 訂正事項6の小括
よって、訂正事項6は、訂正要件を満たす。
(7)訂正事項7
ア 訂正の目的
訂正事項7は、本件訂正前の請求項8が引用していた請求項のうち、請求項3、4、6及び7を削除するものである。
そうすると、訂正事項7は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項追加の有無
訂正事項7は、本件訂正前の請求項8が引用していた請求項のうち、請求項3、4、6及び7を削除するものであるから、新規事項を追加するものではない。
そうすると、訂正事項7は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の有無
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項7は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項7は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
エ 訂正事項7の小括
よって、訂正事項7は、訂正要件を満たす。
(8)訂正事項8
ア 訂正の目的
(ア)訂正事項8は、本件訂正前の請求項11に対して、次の内容からなるものである。
(i)訂正事項1の(i)~(v)と同様の訂正
(ii)「有機化合物である不動態化剤で、金属ハロゲン化物ペロブスカイトを処理すること」を、上記(i)の訂正と整合させて、「多環式芳香族炭化水素の分子である不動態化剤の分子で、金属ハロゲン化物ペロブスカイトを処理すること」とする訂正
(iii)上記(ii)に加えて、「不動態化剤の分子で、金属ハロゲン化物ペロブスカイトを処理すること」が、「(i)溶媒中に溶解させた前記金属ハロゲン化物ペロブスカイト及び不動態化剤を含む前駆体溶液を基板上に配置すること、並びに(ii)溶媒を除去して、不動態化金属ハロゲン化物ペロブスカイトの固体層を生成することを含む」と限定する訂正
(イ)したがって、訂正事項8は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮、及び同第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項追加の有無
上記(i)~(ii)については、上記(1)イと同様である。
上記(iii)については、訂正前の請求項14に記載されている。
よって、訂正事項8は、新規事項を追加するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の有無
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項8は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項8は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
エ 訂正事項8の小括
よって、訂正事項8は、訂正要件を満たす。
(9)訂正事項9
ア 訂正の目的
訂正事項9は、訂正前の請求項12の記載が訂正前の請求項2~5の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項2~5の記載を引用しないものとし、請求項2の記載を引用するものを訂正後の請求項12とし、請求項3及び4の記載を引用するものを削除し、請求項5の記載を引用するものを訂正後の請求項15とする訂正である。
そうすると、訂正事項9は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮、及び、同第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正である。
イ 新規事項追加の有無
訂正事項9は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとするとともに、引用する請求項を削減するものであるから、新規事項を追加するものではない。
そうすると、訂正事項9は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の有無
上記ア及びイに照らせば、訂正事項9は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項9は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
エ 訂正事項9の小括
よって、訂正事項9は、訂正要件を満たす。
(10)訂正事項10
ア 訂正の目的
訂正事項10は、本件訂正前の請求項13を削除するものである。
そうすると、訂正事項10は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項追加の有無
訂正事項10は、本件訂正前の請求項13を削除するものであるから、新規事項を追加するものではない。
そうすると、訂正事項10は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の有無
上記ア及びイに照らせば、訂正事項10は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項10は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
エ 訂正事項10の小括
よって、訂正事項10は、訂正要件を満たす。
(11)訂正事項11
ア 訂正の目的
訂正事項11は、本件訂正前の請求項14を削除するものである。
そうすると、訂正事項11は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項追加の有無
訂正事項11は、本件訂正前の請求項14を削除するものであるから、新規事項を追加するものではない。
そうすると、訂正事項11は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の有無
上記ア及びイに照らせば、訂正事項11は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項11は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
エ 訂正事項11の小括
よって、訂正事項11は、訂正要件を満たす。
第3 本件訂正後の請求項
本件訂正は上記第2のとおり認められたので、本件訂正後の請求項1~15に係る発明(以下「本件訂正発明1」~「本件訂正発明15」といい、これらを総称して「本件訂正発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~15に記載された次のとおりのものである。
【本件訂正発明1】
(a)金属ハロゲン化物ペロブスカイト、及び
(b)多環式芳香族炭化水素の分子である不動態化剤の分子
を含み、不動態化剤の分子が、金属ハロゲン化物ペロブスカイトの表面に開放されていない金属ハロゲン化物ペロブスカイト内の内部における粒界に配置されており、粒界が、金属ハロゲン化物ペロブスカイト内の異なる結晶配向の領域を分離させる平面欠陥である半導体を含み、
不動態化剤の分子が金属ハロゲン化物ペロブスカイト中のアニオン又はカチオンに化学的に結合していない、光起電力デバイス。
【本件訂正発明2】
不動態化剤の分子が、粒界で金属ハロゲン化物ペロブスカイト中のアニオンとカチオンとの間の相互作用を遮断する、請求項1に記載の光起電力デバイス。
【本件訂正発明3】
(削除)
【本件訂正発明4】
(削除)
【本件訂正発明5】
不動態化剤が、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン及びフルオランテンから選択される化合物を含む、請求項1又は2に記載の光起電力デバイス。
【本件訂正発明6】
(削除)
【本件訂正発明7】
(削除)
【本件訂正発明8】
前記半導体の層を含む、請求項1、2、及び5のいずれか一項に記載の光起電力デバイス。
【本件訂正発明9】
半導体の層に開放多孔性がない、請求項8に記載の光起電力デバイス。
【本件訂正発明10】
半導体の層が、少なくとも100nmの厚さを有する、請求項8又は9に記載の光起電力デバイス。
【本件訂正発明11】
(a)金属ハロゲン化物ペロブスカイト、及び
(b)多環式芳香族炭化水素の分子である不動態化剤の分子
を含み、不動態化剤の分子が、金属ハロゲン化物ペロブスカイトの表面に開放されていない金属ハロゲン化物ペロブスカイト内の内部における粒界に配置されており、粒界が、金属ハロゲン化物ペロブスカイト内の異なる結晶配向の領域を分離させる平面欠陥である半導体を含み、不動態化剤の分子が金属ハロゲン化物ペロブスカイト中のアニオン又はカチオンに化学的に結合していない、光起電力デバイスを製造するための方法であって、
多環式芳香族炭化水素の分子である不動態化剤の分子で、金属ハロゲン化物ペロブスカイトを処理することを含み、
不動態化剤の分子で、金属ハロゲン化物ペロブスカイトを処理することが、
(i)溶媒中に溶解させた前記金属ハロゲン化物ペロブスカイト及び不動態化剤を含む前駆体溶液を基板上に配置すること、並びに
(ii)溶媒を除去して、不動態化金属ハロゲン化物ペロブスカイトの固体層を生成することを含む、方法。
【本件訂正発明12】
不動態化剤の分子が、粒界で金属ハロゲン化物ペロブスカイト中のアニオンとカチオンとの間の相互作用を遮断する、請求項11に記載の方法。
【本件訂正発明13】
(削除)
【本件訂正発明14】
(削除)
【本件訂正発明15】
不動態化剤の分子が、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン及びフルオランテンから選択される化合物を含む、請求項11に記載の方法。
第4 令和4年9月30日付け取消理由通知書(決定の予告)で通知した取消理由の概要
令和3年9月21日付け訂正請求書(令和4年1月12日付け手続補正書によって補正されたもの)による訂正(以下「先の訂正」という。)後の請求項1~5、8~12及び15~17に係る特許に対して、当審が令和4年9月30日付け取消理由通知書(決定の予告。以下、単に「決定の予告」という。)により特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
1(明確性要件違反) 先の訂正後の請求項1~5、8~12及び15~17は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2(実施可能要件違反) 先の訂正後の請求項1~5、8~12及び15~17に記載された発明は、発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
3(サポート要件違反) 先の訂正後の請求項1~5、8~12及び15~17に記載された発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
4(新規性欠如及び進歩性欠如) 先の訂正後の請求項1~5、8~12及び15~17に係る発明は、本件特許出願の最先の優先日(以下「本件優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の文献に記載された発明であるか、当該文献に記載された発明に基いて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
第5 当審の判断
1 特許法第36条第6項第2号(明確性要件違反)について
決定の予告は、訂正前の請求項のうち、独立項に係る請求項1及び請求項11には、「不動態化剤の分子が金属ハロゲン化物ペロブスカイト内の粒界に配置されている」と記載されているところ、当該記載では、「不動態化剤の分子」の配置されている「金属ハロゲン化物ペロブスカイト内の粒界」が、どこになるのか明らかではない旨説示した。
これに対し、本件訂正により、請求項1及び11につき、「不動態化剤の分子」の配置されている「金属ハロゲン化物ペロブスカイト内の粒界」は、「金属ハロゲン化物ペロブスカイトの表面に開放されて」おらず、「金属ハロゲン化物ペロブスカイト内の内部に」「配置されており」、「金属ハロゲン化物ペロブスカイト内の異なる結晶配向の領域を分離させる平面欠陥」となり、どこになるのか明らかとなった。
よって、上記取消理由は解消した。
2 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件違反)について
決定の予告は、先の訂正後の明細書、特許請求の範囲又は図面の発明の詳細な説明の記載が、実施可能要件を充足していない旨説示し、その根拠として、(i)不動態化剤とされる「有機化合物」の分子が、金属ハロゲン化物ペロブスカイト内の「粒界に配置される」とともに、当該分子が金属ハロゲン化物ペロブスカイト中のアニオン又はカチオンに化学的に結合していない構造を製造することができるとはいえないこと、(ii)「有機化合物」を「不動態化剤」として使用することができるとはいえないことを挙げたところである。
これに対し、特許権者は、本件訂正後の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件訂正明細書等」)の発明の詳細な説明が実施可能要件を充足する旨主張するので、以下検討する。
(1)不動態化剤とされる「多環式芳香族炭化水素」の分子が、金属ハロゲン化物ペロブスカイト内の「粒界に配置される」とともに、当該分子が金属ハロゲン化物ペロブスカイト中のアニオン又はカチオンに化学的に結合していない構造を製造することができるかについて
ア 本件訂正により、「有機化合物」は「多環式芳香族炭化水素の分子」に訂正されたところ、当該「多環式芳香族炭化水素の分子」について、本件訂正明細書等の【0139】には、「不動態化剤は、多環式芳香族炭化水素などの非極性有機化合物であってよい。例として、不動態化剤は、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン及びフルオランテンのいずれかを含むことができる。」と記載されていることから、本件訂正発明の「多環式芳香族炭化水素」とは、ヘテロ原子や置換基を含まない芳香環が縮合した炭化水素を意味していると解される(なお、特許権者も、「多環式芳香族炭化水素」が、分子形状が実質的に平面であり、厚さが1原子分であり、非極性有機分子であり、比局在化電子構造を有しており、全体での電荷量はゼロであり中性である旨主張している。)。
「多環式芳香族炭化水素の分子」(以下「本件分子」という。)の意味は上記のとおりであることから、本件分子が金属ハロゲン化物ペロブスカイトのアニオン又はカチオンに化学的に結合しないことの意味を当業者は理解できる。また、本件分子が金属ハロゲン化物ペロブスカイト内の「粒界に配置される」ことのメカニズムも当業者は理解できるのであり、このことは、(i)本件訂正明細書等の【0218】及び【0233】には、金属ハロゲン化物ペロブスカイト固体の形成の前に、金属ハロゲン化物ペロブスカイトの溶液に不動態化剤を添加することが記載されていること、(ii)一般に物質が結晶化するプロセスが、エネルギー的に安定な状態が形成されながら進んでいくプロセスであるのが技術常識であり、金属ハロゲン化物ペロブスカイトの結晶化のプロセスであっても、不動態化剤をそれに取り込むよりは排出した方が有利であると考えられること、(iii)本件分子は、その分子形状が実質的に平面であって、厚さが1原子分であるため、金属ハロゲン化物ペロブスカイトの隣接する粒子間の粒界に容易に入り込めると考えられること、(iv)参考資料1(P. de Mierry et al. , "Yellow Luminescence and Hydrocarbon Contamination in MOVPE Grown GaN", Phys. Stat. Sol. (a) 158, 587 (1996))には、金属ハロゲン化物ペロブスカイトとは異なるものの、結晶性無機固体の一種であるGaN半導体において、当該半導体の前駆体に含まれる炭化水素が当該半導体内の粒界に配置されるのが記載されていることからみて、そのようにいえる。そして、上記メカニズムが、本件分子と金属ハロゲン化物ペロブスカイト内の粒界との関係において妥当しないことを裏付ける証拠はない。よって、上記メカニズムは実現可能とみるのが相当である。
このように、本件分子が金属ハロゲン化物ペロブスカイトのアニオン又はカチオンに化学的に結合しないことの意味を当業者が理解でき、しかも、本件分子が金属ハロゲン化物ペロブスカイト内の「粒界に配置される」ことのメカニズムも当業者が理解できるとともに実現可能であることに照らせば、当業者は、これを指針として、金属ハロゲン化物ペロブスカイト及び多環式芳香族炭化水素の分子を具体的に選択して、製造条件等も具体的に選択することができると認められる。よって、当業者であれば、「多環式芳香族炭化水素」の分子が、金属ハロゲン化物ペロブスカイト内の「粒界に配置される」とともに、当該分子が金属ハロゲン化物ペロブスカイト中のアニオン又はカチオンに化学的に結合していない構造を、過度の試行錯誤を有することなく製造することができるといえる。
イ これに対し、申立人は、本件訂正発明を実施することができない旨主張し、その根拠として、(i)製造する際の因子が多数存在し、日常的な実験によって簡単に決定できるものではないこと、(ii)本件訂正明細書等には実施例が存在しないこと、(iii)上記参考資料は、GaNという2種類のイオン性の低い元素からなる無機化合物であって、金属ハロゲン化物ペロブスカイトのようなイオンを含むものとは基本的に異なること、(iv)本件訂正発明の「多環式芳香族炭化水素」は、実質的に平面であり、1原子分の厚さしか有していないとは解することができないこと、を挙げる。
しかしながら、上記(iv)については、上記アで説示したとおりである(なお、申立人が主張するアセトナフテンは、それが粒界に配置できないのであれば、それらは単に本件訂正発明を実施するものではないということにとどまり、それによって、本件訂正発明の実施可能性が否定されるわけではない。)。また、上記(iii)については、物質系として異なるとしても、結晶化の過程の中で粒界に不純物が取り込まれるという現象としては共通しているのであり、申立人が主張するイオン性の高低という事情によって、上記の現象に相違が生じることを裏付ける証拠はない。そして、上記(i)及び(ii)は、上記アで説示したとおり、本件分子が金属ハロゲン化物ペロブスカイト内の「粒界に配置される」ことのメカニズムを、当業者が理解できるとともにこれが実現可能である以上、失当である。
(2)「多環式芳香族炭化水素」を「不動態化剤」として使用することができるかについて
本件訂正により、「粒界」は、「金属ハロゲン化物ペロブスカイト内の異なる結晶配向の領域を分離させる平面欠陥」に訂正されたところ、当該「平面欠陥」に隣接するそれぞれの結晶(結晶粒)は、異なる結晶配向で隣接しているところ、平面欠陥であることを踏まえると、それぞれの結晶(結晶粒)の隣接する表面には、金属ハロゲン化物ペロブスカイトのアニオン又はカチオンが、無秩序に存在しているものと理解できるから、当該平面欠陥には、結晶配向の乱れとアニオン又はカチオンの存在による斥力又は引力が生じており、当該斥力又は引力に起因した欠陥部位の誘発が生じることは、技術常識に照らして理解できるところといえる。
また、本件訂正により、「有機化合物」は「多環式芳香族炭化水素の分子」に訂正され、当該多環式芳香族炭化水素の分子は、分子形状が実質的に平面であり、非極性有機分子であることが技術常識であることを踏まえると、上記のとおり、粒界に配置された多環式芳香族炭化水素の分子が、それぞれの表面に存在するアニオン又はカチオンの間に配置され、上記斥力又は引力を遮断する状態となることも、当業者にとって理解できる。そして、多環式芳香族炭化水素の分子が金属ハロゲン化物ペロブスカイト内の粒界に配置されていない構造に比すれば、多環式芳香族炭化水素の分子が粒界に配置されることにより、上記の効果は、その程度はあるとしても生じるものといえるのであり、この現象が生じないことを裏付ける証拠はない。
よって、当業者であれば、「多環式芳香族炭化水素」を「不動態化剤」として使用することができるといえる。
(3)小括
よって、上記取消理由は成り立たない。
3 特許法第36条第6項第1号(サポート要件違反)について
決定の予告は、先の訂正後の特許請求の範囲の記載が、サポート要件を充足していない旨説示し、その根拠として、(i)不動態化剤とされる「有機化合物」の分子が、金属ハロゲン化物ペロブスカイト内の「粒界に配置される」とともに、当該分子が金属ハロゲン化物ペロブスカイト中のアニオン又はカチオンに化学的に結合していない構造を製造することができるとはいえないこと、(ii)「有機化合物」を「不動態化剤」として使用することができるとはいえないことを挙げたところであるが、上記2(1)及び(2)で説示したとおりであるから、この取消理由は成り立たない。
4 特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項(新規性欠如及び進歩性欠如)について
(1)本件訂正発明の認定
本件訂正発明は、上記第3で認定したとおりである。
(2)甲号証
甲第1号証:Jun-Yuan Jeng, et al., “CH3NH3PbI3 Perovskite/Fullerene Planar-Heterojunction Hybrid Solar Cells”, Advanced Materials, 2013年6月17日, Vol. 25, pp. 3727-3732(以下「甲1という。」)
(3)甲1に記載された事項及び甲1に記載された発明
本件優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1には、図面と共に、以下の事項が記載されている(下線は当審が付した。以下同じ。)。
ア(ア)「CH3NH3PbI3 Perovskite/Fullerene Planar-Heterojunction Hybrid Solar Cells」(タイトル)
(当審訳:CH3NH3PbI3 ペロブスカイト/フラーレン プレーナーヘテロ接合ハイブリッド太陽電池)」
(イ)「Figure 5e,f present the HR-SEM images of the film formed by spin-casting (8000 rpm) the CH3NH3PbI3 perovskite N, N-dimethylformamide (DMF) solution (equimolar CH3NH3I and PbI2) on the preheated glass/ITO/PEDOT:PSS substrate (60 ° C for 5min). The results show distinguishing features compared to those in Figure 5a-d. In Figure 5e, the CH3NH3PbI3 perovskite film exhibits densely interconnected crystalline strips on the glass/ITO/PEDOT:PSS substrate at a magnification of 20 000 × . As shown in Figure 5f at a magnification of 100 000 × , the crystal sizes are approximately 150~200 nm in diameter, that is, larger than those in Figure 5d. The height AFM image (Figure 5h) exhibits a surface morphology distinct from that in Figure 5g. The CH3NH3PbI3 perovskite film has a higher contact area in the PHJ and a suitable channel to transport charge carriers configured as interconnected crystalline strips.」(第3731頁左欄第11行~第25行)
(当審訳:図5e,fは、CH3NH3PbI3ペロブスカイトN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)溶液(等モルのCH3NH3IとPbI2)を予熱したガラス/ITO/PEDOT:PSS基板(60℃、5分)にスピンキャスト(8000rpm)することにより形成した膜のHR-SEM画像を示している。この結果は、図5a-dのものと比較して、際立った特徴を示している。図5eでは、CH3NH3PbI3ペロブスカイト膜は、倍率20000×でガラス/ITO/PEDOT:PSS基板上で密に相互接続した結晶性ストリップを示した。図5fに示すように、結晶の大きさは直径約150~200nmであり、図5dよりも大きい。高さ方向のAFM像(図5h)は、図5gとは異なる表面形状を示している。CH3NH3PbI3ペロブスカイト膜は、PHJにおける接触面積が高く、結晶ストリップが相互に接続された電荷キャリアの輸送に適したチャネルを有していることがわかる。)
(ウ)「CH3NH3PbI3 was synthesized by mixing CH3NH3I and lead iodide (PbI2)(Showa Chemical Industry Co. , Ltd.) at 1:1(0.8:2.3g) equimolar ratio in γ-butyrolactone(Aldrich)(15.8mL, 14.9wt% solution) or anhydrous N,N-dimethylformamide(DMF)(Aldrich)(17.2wt% solution) at 60℃, stirring for 12h inside a nitrogen-filled glove box with oxygen and moisture levels<1 ppm.」(3732頁左欄19~24行)
(当審訳:CH3NH3PbI3は、酸素及び湿分1ppm未満の窒素充填されたグローブボックス内で、γ-ブチロラクトン(15.8mL,14.9wt%溶液)あるいは無水のN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)(Aldrich)(17.2wt%溶液)中、CH3NH3I及びヨウ化鉛(PbI2)(昭和化学工業株式会社)を1:1(0.8:2.3g)等モルで60℃において12時間混合することにより合成された。)
(エ)「Figure 2 a illustrates the device configuration and Figure 2 b shows the energy levels of the layers. Prior to the device fabrication, the ITO/glass substrates were sequentially cleaned by ultrasonic treatment in detergent, deionized water, acetone, and isopropyl alcohol. The glass/ITO/PEDOT:PSS substrates were preheated at 60 ° C for 5 min prior to spin-casting CH3NH3PbI3 γ-butyrolactone solution (14.9 wt%) at 6000 rpm for 30 s. The preheating treatment of the substrate ensures the solvent evaporation is fast and inhibits coarsening of the crystals. The film becomes darker after annealing at 100 ° C for 15 min.」(第3732頁左欄第33行~第42行)
(当審訳:図2aにデバイスの構成を、図2bに各層のエネルギー準位を示す。デバイス作製に先立ち、ITO/ガラス基板を洗剤、脱イオン水、アセトン、イソプロピルアルコール中で超音波処理し、順次洗浄した。ガラス/ITO/PEDOT:PSS基板は、CH3NH3PbI3γ-ブチロラクトン溶液(14.9wt%)を6000rpmで30秒間スピンキャストする前に60°Cで5分間予熱処理した。100℃で15分間アニールすると、膜の色が濃くなる。
(オ)「The C60 (30 nm) ( > 99.5%, Aldrich), PCBM (25 nm) ( > 99.5%, Solenne, Netherlands), ICBA (30 nm) ( > 99.5%, Solenne, Netherlands), BCP (10 nm) (Aldrich), and Al (100 nm) were thermally deposited on the substrate inside a vacuum chamber (10-6 Torr).」 (第3732頁左欄第45行~第49行。なお、「PCBM)」の「)」は明らかな誤記であると認められるので、省いて摘記した。)
(当審訳:C60(30nm)(>99.5%,Aldrich),PCBM)(25nm)(>99.5%,Solenne,Netherlands),ICBA(30nm)(>99.5%,Solenne,Netherlands),BCP(10nm)(Aldrich),Al(100nm)を、真空チャンバー(10-6Torr)内で基板上に熱蒸着した。)
(カ)「図2(a)[図:0001399309000001.jpg]」
(キ)「図5(e)~(h)[図:0001399309000002.jpg]」
(ク)「CH3NH3PbI3ペロブスカイト」が「半導体」として機能することは、原出願の最先の優先日前に技術常識であったから、上記「CH3NH3PbI3ペロブスカイト」は、「半導体」といえる。
イ 甲1に記載された技術的事項
(ア)上記ア(カ)(図2(a))より、(ドナー)及びC60(アクセプタ)を含み、ペロブスカイト/フラーレンのプレーナーヘテロ接合を備える太陽電池が、みてとれる。
また、上記ア(オ)及び(カ)(図2(a))から、当該図中の「C60(アクセプタ)」は、「C60(30nm)、PCBM(25nm)及びICBA(30nm)」より構成されるもの、と理解できる。
(イ)上記ア(イ)の記載を踏まえて、上記ア(キ)の図5(f)を見ると、
a CH3NH3PbI3(ドナー)の表面(ヘテロ接合界面)及び内部には、CH3NH3PbI3(ドナー)結晶の結晶粒が多数存在すること。
b 当該CH3NH3PbI3(ドナー)結晶の結晶粒の間に隙間があること。
がみてとれる。
また、上記ア(イ)によれば、当該CH3NH3PbI3(ドナー)結晶の結晶粒の大きさは、直径約150nm~200nmであると認められる。
(ウ)上記ア(オ)より、「CH3NH3PbI3(ドナー)」上に、「C60(アクセプタ)」を熱蒸着する工程を、理解できる。
ウ 甲1に記載された発明
上記ア及びイより、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」及び「甲1方法発明」という。)が記載されていると認められる。なお、参考までに、甲1発明の認定に用いた甲1の記載等に係る段落番号等を括弧内に付してある。
<甲1発明>
「CH3NH3PbI3(ドナー)及びC60(アクセプタ)を含み、ペロブスカイト/フラーレンのプレーナーヘテロ接合ハイブリッド太陽電池であって、(上記ア(ア))CH3NH3PbI3は、酸素及び湿分1ppm未満の窒素充填されたグローブボックス内で、γ-ブチロラクトン(15.8mL,14.9wt%溶液)中、CH3NH3I及びヨウ化鉛(PbI2)を1:1(0.8:2.3g)等モルで60℃において12時間混合することにより合成され、(上記ア(エ))C60(アクセプタ)は、C60(30nm)、PCBM(25nm)及びICBA(30nm)より構成され、(上記イ(ア))CH3NH3PbI3γ-ブチロラクトン溶液(14.9wt%)を6000rpmで30秒間スピンキャストし、(上記ア(エ))CH3NH3PbI3(ドナー)上に、C60(アクセプタ)を熱蒸着し、(上記イ(エ))CH3NH3PbI3(ドナー)の表面(ヘテロ接合界面)及び内部には、CH3NH3PbI3(ドナー)結晶の結晶粒が多数存在し、当該CH3NH3PbI3(ドナー)結晶の結晶粒の間に隙間があり、(上記イ(イ))前記結晶粒の大きさは、直径約150~200nmである、(上記イ(ウ))プレーナーヘテロ接合ハイブリッド太陽電池。(上記イ(ア))」
(4)対比・判断
ア 本件訂正発明1について
(ア)本件訂正発明1と甲1発明との対比
a 「(a)金属ハロゲン化物ペロブスカイト、及び(b)多環式芳香族炭化水素の分子である不動態化剤の分子を含み、不動態化剤の分子が、金属ハロゲン化物ペロブスカイトの表面に開放されていない金属ハロゲン化物ペロブスカイト内の内部における粒界に配置されており、粒界が、金属ハロゲン化物ペロブスカイト内の異なる結晶配向の領域を分離させる平面欠陥である半導体を含み、」との特定事項について
(a)甲1発明の「CH3NH3PbI3(ドナー)」は、金属ハロゲン化物ペロブスカイト材料であり、有機半導体材料であるから、本件訂正発明1の「(a)金属ハロゲン化物ペロブスカイト」を含む「半導体」に相当する。
(b)甲1発明の「CH3NH3PbI3(ドナー)」は、「内部に」「結晶の結晶粒が多数存在し」、「結晶粒の間に隙間」があるから、甲1発明の「結晶粒の間」の「隙間」は、本件訂正発明1の「粒界」に相当する。また、技術常識に照らしてみれば、甲1発明の「結晶粒の間」の「隙間」は、本件訂正発明1の「金属ハロゲン化物ペロブスカイト内の異なる結晶配向の領域を分離させる平面欠陥である」との事項を満たすといえる。
b 甲1発明は、「プレーナーヘテロ接合ハイブリッド太陽電池」であるから、本件訂正発明1の「光起電力デバイス」に相当する。
c 上記a及びbのとおりであるから、本件訂正発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「金属ハロゲン化物ペロブスカイト、を含み、粒界が、金属ハロゲン化物ペロブスカイト内の異なる結晶配向の領域を分離させる平面欠陥である半導体を含む、光起電力デバイス。」
<相違点>
本件訂正発明1は、「半導体」が、「多環式芳香族炭化水素の分子である不動態化剤の分子」を含み、当該「不動態化剤の分子」は、「金属ハロゲン化物ペロブスカイトの表面に開放されていない金属ハロゲン化物ペロブスカイト内の内部における粒界に配置されており」、「金属ハロゲン化物ペロブスカイト中のアニオン又はカチオンに化学的に結合していない」のに対し、甲1発明の「CH3NH3PbI3(ドナー)」は、そのような構成を満たしているか不明である点。
(イ)判断
甲1発明の「CH3NH3PbI3(ドナー)」は、その「表面(ヘテロ接合界面)及び内部」に、「CH3NH3PbI3(ドナー)結晶の結晶粒が多数存在し、「CH3NH3PbI3(ドナー)結晶の結晶粒の間に隙間があ」るところ、当該「CH3NH3PbI3」は、「γ-ブチロラクトン(15.8mL,14.9wt%溶液)中、CH3NH3I及びヨウ化鉛(PbI2)を1:1(0.8:2.3g)等モルで60℃において12時間混合することにより合成され」、「スピンキャスト」されたものであることを踏まえると、「多環式芳香族炭化水素の分子」をその内部に含むものではないと解することが自然である。
このように、甲1発明の「CH3NH3PbI3(ドナー)」はその内部に「多環式芳香族炭化水素の分子」を含まないのであるから、その結晶の内部にある結晶粒の間の隙間にも、「多環式芳香族炭化水素の分子」は存在しないといえる。そして、甲1発明の「CH3NH3PbI3(ドナー)」の内部に「多環式芳香族炭化水素の分子」を添加する特段の動機もない。
よって、甲1発明から出発した当業者は、相違点に係る構成に至らない。
これに対し申立人は、本件訂正発明1の効果は、不動態化剤の分子が、金属ハロゲン化物ペロブスカイトの表面に開放されている粒界に配置されていても同様の効果が得られるのであり、顕著な効果が得られるというものではない旨主張するが、上記のとおり、相違点に係る構成に至らない以上、採用できない。
したがって、本件訂正発明1は、甲1発明ではなく、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件訂正発明2、5、8~10について
本件訂正発明2、5、8~10は、本件訂正発明1の構成を全て具備するものであるから、本件訂正発明2、5、8~10も本件訂正発明1と同じ理由により、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
ウ 本件訂正発明11について
本件訂正発明11は、本件訂正発明1の構成を全て具備する光起電力デバイスを製造するための方法であるから、本件訂正発明11も本件訂正発明1と同じ理由により、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
エ 本件訂正発明12及び15について
本件訂正発明12及び15は、本件訂正発明11の構成を全て具備するものであるから、本件訂正発明12及び15も本件訂正発明11と同じ理由により、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
(5)小括
以上より、当該理由は解消した。
第6 決定の予告において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許法第36条第6項第2号(明確性要件違反)について
(1)申立人は、請求項1の「不動態化剤」の定義が明確でない旨主張する。
しかしながら、請求項1の記載には、当該「不動態化剤」が「多環式芳香族炭化水素」であって、「金属ハロゲン化物ペロブスカイト中のアニオン又はカチオンに化学的に結合していない」ものであることが特定されているし、また、上記第5の2(2)のとおり、多環式芳香族炭化水素の分子が粒界に配置されることにより、多環式芳香族炭化水素の分子が金属ハロゲン化物ペロブスカイト内の粒界に配置されていない構造に比すれば、斥力等の遮断効果がその程度はあるとしても生じるものといえる。
よって、「不動態化剤」の記載は明確である。
(2)申立人は、請求項1の不動態化剤の分子が金属ハロゲン化物ペロブスカイト中のアニオン又はカチオンに「化学的に結合」していないときの「化学的な結合」がどのようなものであるかが明確でない旨主張するが、当該請求項1には「不動態化剤」が「多環式芳香族炭化水素」であることが特定されていることから、その意味は当業者にとって理解できる。
(3)申立人は、特許登録時の請求項7の引用する請求項に不備がある旨主張するが、本件訂正によって解消した。
2 小括
よって、決定の予告において採用しなかった特許異議申立理由は、理由がない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、2、5、8~12及び15に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項1、2、5、8~12及び15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項3、4、6、7、13及び14に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、請求項3、4、6、7、13及び14に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-700132