特許異議申立
2024-701160
封止用樹脂シート、封止用多層樹脂シートおよび電子素子パッケージ
- 審判番号
- 2024-701160
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-117109
- 登録番号
- 7494032
- 請求日
- 2024年12月02日
- 審決日
- 2025年03月24日
- 公報発行日
- 2025年04月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】日東電工株式会社
- 【権利者代理人】岡本 寛之
- 【権利者代理人】宇田 新一
- 【異議申立人】渡辺 伸子
- 審判長/審判官
- 審判長 梶尾 誠哉
- 審判官 松永 稔
- 審判官 綿引 隆
- 分類
- P1651.537-Y (H01L) / P1651.536-Y (H01L) / P1651.113-Y (H01L) / P1651.121-Y (H01L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7494032号発明「封止用樹脂シート、封止用多層樹脂シートおよび電子素子パッケージ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7494032号の請求項1~8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7494032号の請求項1~8に係る特許についての出願は、令和2年7月7日(優先権主張 令和1年7月12日)に出願され、令和6年5月24日にその特許権の設定登録がされ、同年6月3日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、同年12月2日に特許異議申立人 渡辺 伸子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
その後、申立人は、令和6年12月18日付け手続補正指令書(方式)に対して、同年同月27日提出の手続補正書(方式)により特許異議申立書を補正した。
以下、令和6年12月27日提出の手続補正書(方式)により補正された特許異議申立書を「申立書」という。
第2 本件発明
特許第7494032号の請求項1~8に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明8」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
熱硬化性樹脂を含有し、素子を封止するための封止用樹脂シートであり、
下記の<試験1>により求められる第1進入長さX1、および、下記の<試験2>により求められる第2進入長さX2が、下記式(1)を満足することを特徴とする、封止用樹脂シート。
0.7≦|X2/X1|≦1 (1)
<試験1>
ステップA:前記封止用樹脂シートから、縦10mm、横10mm、厚み260μmのサンプルシートを形成する。
ステップB:縦3mm、横3mm、厚みT200μmの複数のダミー素子が、互いに間隔L150μmを隔てて、厚み20μmのバンプを介してガラス基板に実装されたダミー素子実装基板を準備する。
ステップC:前記サンプルシートによって、前記ダミー素子実装基板における前記複数のダミー素子を、真空平板プレスにより、温度65℃、圧力0.1MPa、真空度1.6kPa、プレス時間1分で封止して、前記サンプルシートから封止体を形成する。
ステップD:前記ステップCの後に、前記封止体を、150℃、大気圧下、1時間加熱により熱硬化させて、前記封止体から硬化体を形成する。
ステップE:前記ステップDの後に、前記複数のダミー素子のうち一の前記ダミー素子の側端縁を基準として、前記側端縁から前記ダミー素子と前記ガラス基板との間に前記硬化体が進入する前記進入長さX1を測定する。
<試験2>
複数の前記ダミー素子の間隔Lを150μmから1,500μmに変更する以外は、前記試験1と同様にステップBを実施し、続いて、前記ステップC~前記ステップEを実施して、前記側端縁から前記硬化体が進入する前記第2進入長さX2を測定する。
【請求項2】
熱硬化性樹脂を含有し、素子を封止するための封止用樹脂シートであり、
下記の<試験3>により求められる第3進入長さX3、および、下記の<試験4>により求められる第4進入長さX4が、下記式(2)を満足することを特徴とする、封止用樹脂シート。
0.9≦|X4/X3|≦1.1 (2)
<試験3>
ステップA:前記封止用樹脂シートから、縦10mm、横10mm、厚み260μmのサンプルシートを形成する。
ステップB:縦3mm、横3mm、厚みT130μmのダミー素子が、厚み20μmのバンプを介してガラス基板に実装されたダミー素子実装基板を準備する。
ステップC:前記サンプルシートによって、前記ダミー素子実装基板における前記ダミー素子を、真空平板プレスにより、温度65℃、圧力0.1MPa、真空度1.6kPa、プレス時間1分で封止して、前記サンプルシートから封止体を形成する。
ステップD:前記ステップCの後に、前記封止体を、150℃、大気圧下、1時間加熱により熱硬化させて、前記封止体から硬化体を形成する。
ステップE:前記ステップDの後に、前記ダミー素子の側端縁を基準として、前記側端縁から前記ダミー素子と前記ガラス基板との間に前記硬化体が進入する前記第3進入長さX3を測定する。
<試験4>
前記ダミー素子の厚みTを130μmから200μmに変更する以外は、前記試験1と同様にステップBを実施し、続いて、前記ステップC~前記ステップEを実施して、前記側端縁から前記硬化体が進入する前記第4進入長さX4を測定する。
【請求項3】
前記素子が、複数であることを特徴とする、請求項1または2に記載の封止用樹脂シート。
【請求項4】
前記素子を封止するときに、前記素子に接触する請求項1~3のいずれか一項に記載の封止用樹脂シートと、
前記素子を封止するときに、前記封止用樹脂シートに対して前記素子の反対側に位置し、熱硬化性樹脂を含有する第2封止用樹脂シートと
を厚み方向に順に備えることを特徴とする、封止用多層樹脂シート。
【請求項5】
厚み方向における一方面を有する基板と、
前記基板の前記一方面に実装され、第1厚みT1を有する第1電子素子であって、前記基板の前記一方面に対して隙間が隔てられる第1電子素子と、
前記基板の前記一方面に実装され、前記第1厚みT1より厚い第2厚みT2を有する第2電子素子であって、前記基板の前記一方面に対して隙間が隔てられる第2電子素子と、
前記基板の前記一方面に配置され、前記第1電子素子と前記第2電子素子とを封止する、請求項1~3のいずれか一項に記載の封止用樹脂シートの硬化体と、
を備えることを特徴とする、電子素子パッケージ。
【請求項6】
厚み方向における一方面を有する基板と、
前記基板の前記一方面に実装され、第1厚みT1を有する第1電子素子であって、前記基板の前記一方面に対して隙間が隔てられる第1電子素子と、
前記基板の前記一方面に実装され、前記第1厚みT1より厚い第2厚みT2を有する第2電子素子であって、前記基板の前記一方面に対して隙間が隔てられる第2電子素子と、
前記基板の前記一方面に配置され、前記第1電子素子と前記第2電子素子とを封止する、請求項4に記載の封止用多層樹脂シートの硬化体と、
を備えることを特徴とする、電子素子パッケージ。
【請求項7】
前記第1厚みT1に対する前記第2厚みT2の比(T2/T1)の下限は、1.1であることを特徴とする、請求項5または6に記載の電子素子パッケージ。
【請求項8】
前記第1厚みT1に対する前記第2厚みT2の比(T2/T1)の上限は、100であることを特徴とする、請求項5~7のいずれか一項に記載の電子素子パッケージ。」
第3 申立理由の概要
申立書に記載された申立理由の次のとおりである。
1 申立理由1(サポート要件・明確性違反)
本件発明1~8は、特許法第36条第6項第1、2号に規定する要件を満たしていないから、本件の請求項1~8に係る特許は、同法第113条第4号により取消されるべきものである。
2 申立理由2(実施可能要件違反)
本件特許の願書に添付した明細書(以下「明細書」という。)の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、同法第113条第4号により取消されるべきものである。
3 申立理由3(新規性・進歩性欠如)
(1) 本件発明1~6は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、本件発明1~8は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件の請求項1~8に係る特許は、同法第113条第2号により取消されるべきものである。
(2) 本件発明1~3は、甲第2号証~甲第4号証のいずれかに記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、本件発明4は、甲第2号証~甲第4号証のいずれかに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件の請求項1~4に係る特許は、同法第113条第2号により取消されるべきものである。
[証拠]
甲第1号証: 国際公開第2019/065977号
甲第2号証: 特開2016-175972号公報
甲第3号証: 特開2016-175975号公報
甲第4号証: 特開2016-175976号公報
第4 申立理由の検討
1 申立理由1(サポート要件・明確性違反)
申立理由1は、次のとおりである。
「請求項1及び2に記載の本件特許発明、及び、それらの請求項に従属する請求項3以降の発明は、課題が解決されたことを客観的に確認できないため、明細書においてサポートされているとは言えないから、特許法第36条第6項第1号の規定に違反する。
また、式(1)及び式(2)を満たすことにより、本件特許発明の課題が解決されるか否か不明確な部分を含むから、式(1)及び式(2)の規定は発明全体を特定したことにはならず、特許法第36条第6項第2号(明確性要件)の規定にも違反する。」(申立書の16ページ1~7行)
(1) サポート要件について
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
ア 本件発明1について
(ア) 明細書の段落0011には、発明が解決しようとする課題として「本発明は、異なる間隔で隔てられる複数の素子の隙間における硬化体の進入長さを揃えることができ、複数の素子への影響を精度よくコントロールできながら、複数の素子への封止性を向上できる封止用樹脂シートを提供する。」との記載がある。
一方、本件発明1の封止用樹脂シートは、特定の試験条件下において、異なる間隔L(<試験1>では150μm、<試験2>では1500μm)を隔ててガラス基板に実装される複数のダミー素子とガラス基板との間における硬化体の進入長さ(<試験1>ではX1、<試験2>ではX2)の比が「0.7≦|X2/X1|≦1 (1)」を満足するものである。
そして、式(1)を満足するものは、「異なる間隔で隔てられる複数の素子の隙間における硬化体の進入長さ」が揃ったものといえるから、本件発明1は、「複数の素子への影響を精度よくコントロールできながら、複数の素子への封止性を向上できる封止用樹脂シートを提供する。」という、明細書の段落0011に記載した発明の課題を解決するものといえる。
したがって、請求項1の記載は、明細書のサポート要件に適合する。
(イ) 申立人は、申立書13ページ下から10行~下から7行で、明細書の段落0120~0121の記載に基づいて、「ダミー素子を用いた10倍の間隔の違いでの試験からは、実際の素子の問隔の違いが10倍程度までは、隙間における硬化体の侵入長さを揃えることが可能であると言い得るとしても、10,000倍の違いがあっても、隙間における硬化体の侵入長さを揃えることができるのか、常識的には疑問である。」と主張する。
しかしながら、特許請求の範囲の請求項1には、上記(ア)のとおり、間隔Lは<試験1>では150μm、<試験2>では1500μmと記載されているように、素子の間隔の違いは10倍であって、申立人の主張するような10,000倍の違いは記載されていない。
したがって、申立人の主張は、特許請求の範囲の記載に基づくものではなく、前提において誤りであるから、採用できない。
イ 本件発明2について
(ア) 明細書の段落0012には、発明が解決しようとする課題として「本発明は、厚みが異なる複数の素子の隙間における硬化体の進入長さを揃えることができ、複数の素子への影響を精度よくコントロールできながら、複数の素子への封止性を向上できる封止用樹脂シートを提供する。」との記載がある。
一方、本件発明2の封止用樹脂シートは、特定の試験条件下において、ガラス基板に実装された厚みが異なるダミー素子(<試験3>では130μm、<試験4>では200μm)の、ガラス基板との間における硬化体の進入長さ(<試験3>ではX3、<試験4>ではX4)の比が「0.9≦|X4/X3|≦1.1 (2)」を満足するものである。
そして、式(2)を満足するものは、「厚みが異なる複数の素子の隙間における硬化体の進入長さ」が揃ったものといえるから、本件発明2は、「複数の素子への影響を精度よくコントロールできながら、複数の素子への封止性を向上できる封止用樹脂シートを提供する。」という、明細書の段落0012に記載した発明の課題を解決するものといえる。
したがって、請求項2の記載は、明細書のサポート要件に適合する。
(イ) 申立人は、申立書14ページ10~13行で、明細書の段落0189の記載に基づいて、「ダミー素子を用いた1.5倍の厚みの違いでの試験からは、実際の素子の厚みの違いが1.5倍程度までは隙間における硬化体の侵入長さを揃えることが可能であると言えるとしても、100倍の違いがあっても、隙間における硬化体の侵入長さを揃えることができるのか、常識的には疑問である。」と主張する。
しかしながら、特許請求の範囲の請求項2には、上記(ア)のとおり、素子の厚みは、<試験3>では130μm、<試験4>では200μmと記載されているように、申立人の主張するような100倍の違いは記載されていない。
したがって、申立人の主張は、特許請求の範囲の記載に基づくものではなく、前提において誤りであるから、採用できない。
ウ その他の申立人の主張について
申立人は、申立書14ページ20~24行で「しかしながら、評価は、式(1)及び/又は式(2)を満たすか否かを行っただけであり、式(1)及び/又は式(2)を満たす場合には、異なる間隔で隔てられる複数の素子の隙間における硬化体の侵入長さを揃えることができる、及び/又は、厚みが異なると複数の素子の隙間における硬化体の侵入長さを揃えることができるという効果が、全く示されていない。」と主張する。
しかしながら、上記ア、イのとおり、式(1)を満足するものは、「異なる間隔で隔てられる複数の素子の隙間における硬化体の進入長さ」が揃ったものといえ、また、式(2)を満足するものは、「厚みが異なる複数の素子の隙間における硬化体の進入長さ」が揃ったものといえ、本件発明1、2は、それぞれ、明細書の段落0011、0012に記載された発明の課題を解決し得ると認識できる範囲のものといえるから、申立人の主張は採用できない。
エ 小括
以上のとおり、本件発明1及び本件発明2、並びに、本件発明1及び本件発明2の構成を全て含む、本件発明3~本件発明8は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、サポート要件に適合する。
(2) 明確性要件
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そして、申立人は、「式(1)及び式(2)を満たすことにより、本件特許発明の課題が解決されるか否か不明確な部分を含むから、式(1)及び式(2)の規定は発明全体を特定したことにはならず、特許法第36条第6項第2号(明確性要件)の規定にも違反する。」と主張するところ、本件発明1及び本件発明2に係る封止用樹脂シートは、試験方法を含めて、その侵入長さについての条件が明示されているから、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確とはいえない。
また、本件発明1及び本件発明2と、発明の課題との関係については、上記(1)のとおりであって、本件発明1及び本件発明2が、発明の課題を解決できるか否か不明確な部分を含むとはいえない。
したがって、本件発明1及び本件発明2、並びに、本件発明1及び本件発明2の構成を全て含む、本件発明3~本件発明8は明確である。
2 申立理由2(実施可能要件違反)
物の発明について実施をすることができるとは、その物を作れ、かつ、その物を使用できることである。
そして、明細書の段落0211~0224には、本件発明1、2に対応する、実施例1~3の封止用樹脂シートの成分及び配合割合、及び、同段落0116~0146、段落0186~0204には使用例といえる電子素子パッケージを製造する方法が記載されているから、発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。
これに対し、申立人は、申立書16ページ8~12行で、「特許請求の範囲に記載の封止用樹脂シートは、熱硬化性樹脂を必須成分とするのみで、層状ケイ酸塩化合物を必須成分としていないから、層状ケイ酸塩化合物を使用しない場合であっても式(1)又は(2)を満たす必要があるが、層状ケイ酸塩化合物を使用しない場合に、どのような成分を使用すればよいか発明の詳細な説明からは不明であり、実施するには過大な試行錯誤を要する」と主張する。
しかしながら、明細書の段落0084には、層状ケイ酸塩化合物の含有割合の下限について最低でも2質量%であることが記載されており、また、本件発明1~8も、層状ケイ酸塩化合物の使用を排除するものではなく、申立人の主張は、その前提を欠くものであるから、採用できない。
3 申立理由3(新規性・進歩性欠如)
(1) 甲第1号証を主引用例とする場合
ア 本件発明1、3~6についての新規性
上記1(1)ア(ア)のとおり、本件発明1の封止用樹脂シートは、特定の試験(<試験1>、<試験2>)条件下において、異なる間隔L(<試験1>では150μm、<試験2>では1500μm)を隔ててガラス基板に実装される複数のダミー素子とガラス基板との間における硬化体の進入長さ(<試験1>ではX1、<試験2>ではX2)の比が「0.7≦|X2/X1|≦1 (1)」を満足するものであって、式(1)を満足するものは、「異なる間隔で隔てられる複数の素子の隙間における硬化体の進入長さ」が揃ったものといえるから、本件発明1は、「複数の素子への影響を精度よくコントロールできながら、複数の素子への封止性を向上できる封止用樹脂シートを提供する。」という、明細書の段落0011に記載した発明の課題を解決するものといえる。
それに対して、甲第1号証には、「中空部材を含み、様々な間隔で配置された複数の回路部材を、内部空間を維持しながら一括して封止すること」(段落0005、0008)との課題を解決する、「エポキシ樹脂(熱硬化性樹脂)を含む樹脂組成物(流動制御樹脂X1)を用いて作製したシートX1(厚み250μm)」(段落0086、0087)であって、作製した実装構造体において「すべてのSAWチップとガラス基板との間に十分な内部空間が形成されているが、SAWチップA、SAWチップB、SAWチップCとの間で、内部空間の大きさのバラツキ(樹脂の侵入量のバラツキ)が認められる。」(段落0091)ものが記載されている。
しかしながら、甲第1号証には、本件発明1における課題を解決する手段に対応する、上記特定の試験条件下において、異なる間隔を隔ててガラス基板に実装される複数の素子とガラス基板との間における硬化体の進入長さの比を所定の範囲内とする構成については、記載も示唆もされていない。
そうすると、本件発明1、及び本件発明1の構成を全て含む本件発明3~6は、甲第1号証に記載された発明と、実質的に相違するといえるから、甲第1号証に記載された発明ではない。
イ 本件発明2、3~6についての新規性
甲第1号証には、「高さが大きく異なる場合であっても、シート4Pによれば、これら第2回路部材2を一括して封止することができる。」(段落0070)との記載もある。
しかしながら、甲第1号証には、上記1(1)イ(ア)のとおり、本件発明2における課題を解決する手段に対応する、上記特定の試験(<試験3>、<試験4>)条件下において、ガラス基板に実装された厚みが異なる素子とガラス基板との間における硬化体の進入長さの比を所定の範囲内とする構成については、記載も示唆もされていない。
そうすると、本件発明2、及び本件発明2の構成を全て含む本件発明3~6は、甲第1号証に記載された発明と実質的に相違するといえるから、甲第1号証に記載された発明ではない。
ウ 申立人の主張
申立人は申立書30ページ5~13行で次の主張をする。
「エ) 甲第1号証に記載されている蓋然性が高い
上記のとおり、
ア)エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を含有する熱硬化性組成物から得られる封止用シートが記載され、
イ)素子が異なる間隔、異なる高さで配置された場合でも、一括して封止することができることが記載され、加えて、
ウ)実施例では、中空部の樹脂の侵入量のバラッキのないものが得られている
ことから、甲第1号証には、請求項1及び2に記載の本件特許発明が記載されている蓋然性が高い。」
しかしながら、上記ア、イのとおり、甲第1号証には、本件発明1又は本件発明2における課題を解決する手段に対応する、特定の試験条件下において、異なる間隔を隔ててガラス基板に実装される複数の素子とガラス基板との間における硬化体の進入長さの比を所定の範囲内とする構成、又は、ガラス基板に実装された厚みが異なる素子とガラス基板との間における硬化体の進入長さの比を所定の範囲内とする構成については、記載も示唆もされておらず、甲第1号証に、本件発明1、2が記載されている蓋然性が高いとはいえないから、申立人の主張は採用できない。
エ 進歩性
本件発明1又は本件発明2における課題を解決する手段に対応する、特定の試験条件下において、異なる間隔を隔ててガラス基板に実装される複数の素子とガラス基板との間における硬化体の進入長さの比を所定の範囲内とする構成、又は、ガラス基板に実装された厚みが異なる素子とガラス基板との間における硬化体の進入長さの比を所定の範囲内とする構成については、申立人が提出した他の証拠(甲第2号証~甲第4号証)にも、記載も示唆もされていない。
そうすると、本件発明1及び本件発明2、並びに、本件発明1又は本件発明2の構成を全て含む本件発明3~8は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(2) 甲第2号証~甲第4号証を主引用例とする新規性・進歩性欠如
ア 新規性
甲第2号証~甲第4号証のいずれにも、本件発明1又は本件発明2における課題を解決する手段に対応する、特定の試験条件下において、異なる間隔を隔ててガラス基板に実装される複数の素子とガラス基板との間における硬化体の進入長さの比を所定の範囲内とする構成、又は、ガラス基板に実装された厚みが異なる素子とガラス基板との間における硬化体の進入長さの比を所定の範囲内とする構成については、記載も示唆もされていない。
したがって、本件発明1、及び本件発明2、並びに、本件発明1又は本件発明2の構成を全て含む本件発明3は、甲第2号証~甲第4号証に記載した発明と実質的に相違するから、甲第2号証~甲第4号証に記載された発明ではない。
イ 申立人の主張
申立人は、申立書31ページ下から6行~32ページ9行で次の主張をする。
「本件特許発明は、層状ケイ酸塩化合物(有機べントナイト)を使用することは必須ではないこと、しかも、甲第3及び4号証においては、SAWチップとセラミック基板との間の中空部の樹脂の浸入量が150μm以下の〇判定を示しているから、甲第2~4号証、とりわけ、甲第3及び4号証に記載の封止用シートは本件特許発明の式(1)及び/又は式(2)を満たす蓋然性が高い。
異議申立理由1において説明したとおり、甲第4号証である特開2016-175976号公報の実施例1に類似する組成(注)の追試を行ったところ、X2/X1=1.14、X4/X3=1.49であり、式(1)及び式(2)の上限値に近い数値を示した。
(注) 追試において使用したエポキシ樹脂及びアクリルポリマー
が、甲第4号証の実施例1で使用されているエポキシ樹脂及
びアクリルポリマーと同じ物ではない。
このことから、甲第4号証の実施例1の原料と同じものを使用すれば、式(1)や式(2)の範囲内となる可能性がある。
したがって、請求項1及び2は、甲第2~4号証に記載されているものと同じである蓋然性が高いから、新規性が欠如する。」
しかしながら、上記2のとおり、本件発明1及び本件発明2は、層状ケイ酸塩化合物の使用を排除するものではないから、申立人の主張は、その前提を欠くものである。
そして、申立人が追試を行った結果は、式(1)又は式(2)を充足するものではなく、甲第2号証~甲第4号証に記載された封止用シートが式(1)又は式(2)を満足する蓋然性が高いとはいえない。
したがって、申立人の主張は採用できない。
ウ 進歩性
本件発明1又は本件発明2における課題を解決する手段に対応する、特定の試験条件下において、異なる間隔を隔ててガラス基板に実装される複数の素子とガラス基板との間における硬化体の進入長さの比を所定の範囲内とする構成、又は、ガラス基板に実装された厚みが異なる素子とガラス基板との間における硬化体の進入長さの比を所定の範囲内とする構成については、申立人が提出した他の証拠(甲第1号証)にも、記載も示唆もされていない。
そうすると、本件発明1又は本件発明2の構成を全て含む本件発明4は、甲第2号証~甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-701160