2020-700583
二次電池用正極活物質、及びこれを含む二次電池
- 審判番号
- 2020-700583
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-517624外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 6644135
- 請求日
- 2020年08月12日
- 審決日
- 2022年03月25日
- 公報発行日
- 2022年06月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
- 【権利者代理人】実広 信哉
- 【権利者代理人】渡部 崇
- 【異議申立人】金澤 毅
- 分類
- P1651.537-YAA(H01M) / P1651.536-YAA(H01M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第184条の19、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 17項目
第1 手続の経緯
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特許第6644135号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~18に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、2016年(平成28年)11月30日(優先権主張外国庁受理2015年11月30日、韓国(KR)、2016年11月29日、韓国(KR))を国際出願日とする特願2018-517624号であって、令和 2年 1月 9日にその特許権の設定登録がなされ、同年 2月12日にその特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許について、令和 2年 8月12日付けで、特許異議申立人金澤毅(以下、「申立人」という。)により、請求項1~18(全請求項)に係る本件特許に対して特許異議の申立てがなされ、同年11月 4日付けで取消理由が通知され、これに対して、特許権者により令和 3年 2月 5日に意見書と訂正請求書が提出され、これに対して、申立人により同年 6月14日付けで意見書が提出され、さらに、同年 9月13日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、これに対して、特許権者により同年11月25日に意見書と訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」といい、当該請求書による訂正請求を「本件訂正請求」という。)が提出されたものである。
なお、本件訂正請求は、令和 3年 9月13日付けの取消理由通知(決定の予告)で通知された取消理由に応答してなされた訂正事項が、下記第2の2(8)~(15)に記載のとおり、誤訳の訂正を目的とする軽微なものであったため、申立人には意見書の提出を求めなかった。
第2 訂正請求について
1 訂正請求の趣旨、及び、訂正の内容
(1)訂正請求の趣旨
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、特許第6644135号の明細書及び特許請求の範囲を、令和 3年 11月25日提出の訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~18について訂正を求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。なお、下線は訂正した箇所を表す。
なお、令和 3年 2月 5日になされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなされる。
(2)訂正の内容
ア 訂正事項1
請求項1に、
「前記表面処理層は、リチウム;及び、B、W、Hf、Nb、Ta、Mo、Si、Sn及びZrでなる群より選択されるいずれか一つまたは二つ以上の金属を含むリチウム酸化物を含むものである」と記載されているのを
「前記表面処理層は、リチウム;及び、B及びWでなる群より選択されるいずれか一つまたは二つの金属を含むリチウム酸化物を含むものである」と訂正する。
請求項1を引用する請求項2~18も同様に訂正する。
イ 訂正事項2
請求項2に、
「Meは、B、W、Hf、Nb、Ta、Mo、Si、Sn及びZrでなる群より選択されるいずれか一つまたは二つ以上の元素であり」と記載されているのを
「Meは、B及びWでなる群より選択されるいずれか一つまたは二つの元素であり」と訂正する。
請求項2を引用する請求項3~4も同様に訂正する。
ウ 訂正事項3
請求項13を削除する。
エ 訂正事項4
請求項14を削除する。
オ 訂正事項5
請求項15を削除する。
カ 訂正事項6
請求項16を削除する。
キ 訂正事項7
明細書の段落【0154】に
「主ピーク(main peak)または3個以上のピークの半値幅」と記載されているのを
「主ピーク(main peak)の半値幅」と訂正する。
ク 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項1に「平均粒径」と記載されているのを、「平均結晶サイズ」と訂正する。
請求項1を引用する請求項2~18も同様に訂正する。
ケ 訂正事項9
明細書の段落【0013】に「平均粒径」と記載されているのを、「平均結晶サイズ」と訂正する。
コ 訂正事項10
明細書の段落【0020】に「平均粒径」と記載されているのを、「平均結晶サイズ」と訂正する。
サ 訂正事項11
明細書の段落【0053】に
「具体的に、前記多結晶リチウム複合金属酸化物をなす1次粒子の平均粒径は50nmから200nmであり、粒径の制御による出力特性の改善効果の著しさを考慮するとき、1次粒子の平均粒径は、より具体的には80nmから120nmであってよい。」と記載されているのを
「具体的に、前記多結晶リチウム複合金属酸化物をなす1次粒子の平均結晶サイズは50nmから200nmであり、粒径の制御による出力特性の改善効果の著しさを考慮するとき、1次粒子の平均結晶サイズは、より具体的には80nmから120nmであってよい。」と訂正する。
シ 訂正事項12
明細書の段落【0054】に
「本発明において、平均粒径は、前記リチウム複合金属酸化物粒子をX線回折分析を利用して定量的に分析することができる。例えば、前記多結晶リチウム複合金属酸化物粒子をホルダーに入れ、X線を前記粒子に照射して出る回折格子を分析することにより、1次粒子の平均粒径を定量的に分析することができる。」と記載されているのを
「本発明において、平均結晶サイズは、前記リチウム複合金属酸化物粒子をX線回折分析を利用して定量的に分析することができる。例えば、前記多結晶リチウム複合金属酸化物粒子をホルダーに入れ、X線を前記粒子に照射して出る回折格子を分析することにより、1次粒子の平均結晶サイズを定量的に分析することができる。」と訂正する。
ス 訂正事項13
明細書の段落【0056】に
「前記1次粒子の平均粒径は80nmから120nmであり、」と記載されているのを
「前記1次粒子の平均結晶サイズは80nmから120nmであり、」と訂正する。
セ 訂正事項14
明細書の段落【0154】に
「平均粒径を求めた。」と記載されているのを
「平均結晶サイズを求めた。」と訂正する。
ソ 訂正事項15
明細書の段落【0155】の【表3】に
「平均粒径」と記載されているのを
「平均結晶サイズ」と訂正する。
2 本件訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された、リチウム酸化物が含むリチウム以外の金属の種類について、「B、W、Hf、Nb、Ta、Mo、Si、Sn及びZrでなる群より選択されるいずれか一つまたは二つ以上の金属」とされていたものを、「B及びWでなる群より選択されるいずれか一つまたは二つの金属」のみに限定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ 訂正事項1は、リチウム酸化物が含むリチウム以外の金属の種類を、訂正前の請求項1に記載されたものから限定するものである。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 上記アのとおり、訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(2)訂正事項2について
ア 訂正事項2は、訂正前の請求項2に記載された、リチウム酸化物が含むMeの種類について、「B、W、Hf、Nb、Ta、Mo、Si、Sn及びZrでなる群より選択されるいずれか一つまたは二つ以上の金属」とされていたものを、「B及びWでなる群より選択されるいずれか一つまたは二つの金属」に限定するものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ 訂正事項2は、リチウム酸化物が含むMeの種類を、訂正前の請求項2に記載されたものから限定するものである。
したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 上記アのとおり、訂正事項2による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、請求項13を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しており、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しており、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(4)訂正事項4について
訂正事項4は、請求項14を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しており、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しており、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(5)訂正事項5について
訂正事項5は、請求項15を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しており、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しており、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(6)訂正事項6について
訂正事項6は、請求項16を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しており、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しており、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(7)訂正事項7について
ア 訂正前の明細書には
「【0154】具体的に検討してみると、実施例1-1から1-3、比較例1-1及び比較例1-2の多結晶リチウム複合金属酸化物粒子をそれぞれホルダーに5g程度入れ、X線を粒子に照射して出る回折格子を分析したあと、主ピーク(main peak)または3個以上のピークの半値幅から平均粒径を求めた。その結果を下記表3に示した。【0155】【表3】[図:0001385119000001.jpg]」
と記載されており、実施例と比較例の多結晶リチウム複合金属酸化物粒子の平均粒径の算出方法として、X線回折の主ピークの半値幅から求める方法と、3個以上のピークの半値幅から求める方法が並列的に記載されていたところ、訂正事項7は、上記2通りの方法のうち、複数のピークからの特定のピークの選出方法など算出方法の詳細が不明である、3個以上のピークの半値幅から求める方法を削除し、主ピークの半値幅から求める方法のみを残すものである。
したがって、訂正事項7は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
イ 訂正事項7は、訂正前の段落【0154】に記載されていた、多結晶リチウム複合金属酸化物粒子の平均粒径についての2通りの算出方法のうち、一方のみに限定するものである。
したがって、訂正事項7は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 訂正事項7は、訂正前の明細書に記載されていた多結晶リチウム複合金属酸化物粒子の平均粒径の算出方法を、X線回折の主ピークの半値幅から求める方法に限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
エ なお、申立人が令和 3年 6月14日付けで提出した意見書において、令和 3年 2月 5日になされた訂正請求における訂正事項7(本件訂正の訂正事項7と同様の訂正)が、新規事項を追加する訂正であると主張しているが、この主張は次の理由により採用できない。
訂正前の段落【0155】の表3には、実施例1-1から1-3、比較例1-1及び比較例1-2の多結晶リチウム複合金属酸化物粒子の平均粒径(以下、単に「平均粒径」という。)が記載されており、これら平均粒径は、段落【0154】の記載によれば、X線回折の主ピークの半値幅から求める方法と、3個以上のピークの半値幅から求める方法のいずれかによって求められたものである。
訂正事項7によって、平均粒径の算出方法が、X線回折の主ピークの半値幅から求める方法に限定されることに伴って、表3の平均粒径も、X線回折の主ピークの半値幅から求めたものと解されるものとなったが、本件訂正前においても、表3の平均粒径は、X線回折の主ピークの半値幅から求めたものであると解され得るものであったし、訂正事項7によって、表3の平均粒径が訂正前の粒径とは異なるものに変更されたということもできないから、表3の平均粒径の値が主ピークを用いる方法によって算出されるものに限定的に解釈されるようになったことが、新規事項の追加にあたるとまではいえない。
(8)訂正事項8について
ア 訂正事項8は、訂正前の請求項1に記載された「平均粒径」を、「平均結晶サイズ」に訂正するものである。
これは、本件特許に係る国際出願日における国際出願の請求の範囲(以下、「国際出願の請求の範囲」という。)の請求項1に記載された
[図:0001385119000002.jpg]
が、その翻訳文において「平均粒径」と翻訳されたものを、本来の正しい翻訳である「平均結晶サイズ」に訂正するものである。
したがって、訂正事項8は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる誤記又は誤訳の訂正を目的とするものに該当する。
イ 訂正事項8は、国際出願の請求の範囲の翻訳文における誤訳を正しい翻訳に訂正するものである。
また、「平均粒径」との翻訳が誤訳であり、「平均結晶サイズ」が正しい翻訳であることは、本件訂正前の明細書の次の記載(下線は当審が付した)からも理解される。
「【0054】本発明において、平均粒径は、前記リチウム複合金属酸化物粒子をX線回折分析を利用して定量的に分析することができる。例えば、前記多結晶リチウム複合金属酸化物粒子をホルダーに入れ、X線を前記粒子に照射して出る回折格子を分析することにより、1次粒子の平均粒径を定量的に分析することができる。」
「【0153】[実験例2:正極活物質の粒径の観察]実施例1-1から1-3、比較例1-1及び比較例1-2の多結晶リチウム複合金属酸化物粒子に対し、XRD結晶分析によって粒子の結晶の大きさを測定した。【0154】具体的に検討してみると、実施例1-1から1-3、比較例1-1及び比較例1-2の多結晶リチウム複合金属酸化物粒子をそれぞれホルダーに5g程度入れ、X線を粒子に照射して出る回折格子を分析したあと、主ピーク(main peak)または3個以上のピークの半値幅から平均粒径を求めた。その結果を下記表3に示した。【0155】【表3】[図:0001385119000003.jpg]」
上記下線部の記載によれば、一次粒子の「平均粒径」とは、X線を粒子に照射して観測される回折格子のピークの半値幅から求めるものであり、このような方法で求めることのできる大きさとは、シェラーの式を用いて表される結晶子の大きさのことであることは技術常識である。
したがって、国際出願の請求の範囲に記載された
[図:0001385119000004.jpg]
との表記が、正しくは「平均結晶サイズ」と翻訳されることは、本件訂正前の明細書の記載に整合している。
よって、訂正事項8は、国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第184条の19の規定によって読み替える、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 上記アのとおり、訂正事項8による訂正は、誤記又は誤訳の訂正を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(9)訂正事項9について
ア 訂正事項9は、訂正前の明細書の段落【0013】に記載された「平均粒径」を、「平均結晶サイズ」に訂正するものである。
これは、本件特許に係る国際出願日における国際出願の明細書(以下、「国際出願の明細書」という。)の段落[17]に記載された
[図:0001385119000005.jpg]
が、その翻訳文において「平均粒径」と翻訳されたものを、本来の正しい翻訳である「平均結晶サイズ」に訂正するものである。
したがって、訂正事項9は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる誤記又は誤訳の訂正を目的とするものに該当する。
イ 訂正事項9は、国際出願の明細書の翻訳文における誤訳を正しい翻訳に訂正するものである。
また、「平均粒径」が誤訳であり、「平均結晶サイズ」が正しい翻訳であることは、上記(8)のイで検討したとおり、本件訂正前の明細書の記載に整合している。
したがって、訂正事項9は、国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第184条の19の規定によって読み替える、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 上記アのとおり、訂正事項9による訂正は、誤記又は誤訳の訂正を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(10)訂正事項10について
ア 訂正事項10は、本件訂正前の明細書の段落【0020】に記載された「平均粒径」を、「平均結晶サイズ」に訂正するものである。
これは、国際出願の明細書の段落[31]に記載された
[図:0001385119000006.jpg]
が、その翻訳文において「平均粒径」と翻訳されたものを、本来の正しい翻訳である「平均結晶サイズ」に訂正するものである。
したがって、訂正事項10は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる誤記又は誤訳の訂正を目的とするものに該当する。
イ 訂正事項10は、国際出願の明細書の翻訳文における誤訳を正しい翻訳に訂正するものである。
また、「平均粒径」が誤訳であり、「平均結晶サイズ」が正しい翻訳であることは、上記(8)のイで検討したとおり、本件訂正前の明細書の記載に整合している。
したがって、訂正事項10は、国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第184条の19の規定によって読み替える、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 上記アのとおり、訂正事項10による訂正は、誤記又は誤訳の訂正を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(11)訂正事項11について
ア 訂正事項11は、本件訂正前の明細書の段落【0053】の2箇所に記載された「平均粒径」を、「平均結晶サイズ」に訂正するものである。
これは、国際出願の明細書の段落[98]の2箇所に記載された
[図:0001385119000007.jpg]
が、その翻訳文において「平均粒径」と翻訳されたものを、本来の正しい翻訳である「平均結晶サイズ」に訂正するものである。
したがって、訂正事項11は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる誤記又は誤訳の訂正を目的とするものに該当する。
イ 訂正事項11は、国際出願の明細書の翻訳文における誤訳を正しい翻訳に訂正するものである。
また、「平均粒径」が誤訳であり、「平均結晶サイズ」が正しい翻訳であることは、上記(8)のイで検討したとおり、本件訂正前の明細書の記載に整合している。
したがって、訂正事項11は、国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第184条の19の規定によって読み替える、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 上記アのとおり、訂正事項11による訂正は、誤記又は誤訳の訂正を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(12)訂正事項12について
ア 訂正事項12は、本件訂正前の明細書の段落【0054】の2箇所に記載された「平均粒径」を、「平均結晶サイズ」に訂正するものである。
これは、国際出願の明細書の段落[100]の2箇所に記載された
[図:0001385119000008.jpg]
が、その翻訳文において「平均粒径」と翻訳されたものを、本来の正しい翻訳である「平均結晶サイズ」に訂正するものである。
したがって、訂正事項12は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる誤記又は誤訳の訂正を目的とするものに該当する。
イ 訂正事項12は、国際出願の明細書の翻訳文における誤訳を正しい翻訳に訂正するものである。
また、「平均粒径」が誤訳であり、「平均結晶サイズ」が正しい翻訳であることは、上記(8)のイで検討したとおり、本件訂正前の明細書の記載に整合している。
したがって、訂正事項12は、国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第184条の19の規定によって読み替える、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 上記アのとおり、訂正事項12による訂正は、誤記又は誤訳の訂正を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(13)訂正事項13について
ア 訂正事項13は、本件訂正前の明細書の段落【0056】に記載された「平均粒径」を、「平均結晶サイズ」に訂正するものである。
これは、国際出願の明細書の段落[103]に記載された
[図:0001385119000009.jpg]
が、その翻訳文において「平均粒径」と翻訳されたものを、本来の正しい翻訳である「平均結晶サイズ」に訂正するものである。
したがって、訂正事項13は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる誤記又は誤訳の訂正を目的とするものに該当する。
イ 訂正事項13は、国際出願の明細書の翻訳文における誤訳を正しい翻訳に訂正するものである。
また、「平均粒径」が誤訳であり、「平均結晶サイズ」が正しい翻訳であることは、上記(8)のイで検討したとおり、本件訂正前の明細書の記載に整合している。
したがって、訂正事項13は、国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第184条の19の規定によって読み替える、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 上記アのとおり、訂正事項13による訂正は、誤記又は誤訳の訂正を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(14)訂正事項14について
ア 訂正事項14は、本件訂正前の明細書の段落【0154】に記載された「平均粒径」を、「平均結晶サイズ」に訂正するものである。
これは、国際出願の明細書の段落[277]に記載された
[図:0001385119000010.jpg]
が、その翻訳文において「平均粒径」と翻訳されたものを、本来の正しい翻訳である「平均結晶サイズ」に訂正するものである。
したがって、訂正事項14は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる誤記又は誤訳の訂正を目的とするものに該当する。
イ 訂正事項14は、国際出願の明細書の翻訳文における誤訳を正しい翻訳に訂正するものである。
また、「平均粒径」が誤訳であり、「平均結晶サイズ」が正しい翻訳であることは、上記(8)のイで検討したとおり、本件訂正前の明細書の記載に整合している。
したがって、訂正事項14は、国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第184条の19の規定によって読み替える、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 上記アのとおり、訂正事項14による訂正は、誤記又は誤訳の訂正を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(15)訂正事項15について
ア 訂正事項15は、本件訂正前の明細書の段落【0155】の【表3】に記載された「平均粒径」を、「平均結晶サイズ」に訂正するものである。
これは、国際出願の明細書の段落[278]に記載された
[図:0001385119000011.jpg]
が、その翻訳文において「平均粒径」と翻訳されたものを、本来の正しい翻訳である「平均結晶サイズ」に訂正するものである。
したがって、訂正事項15は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる誤記又は誤訳の訂正を目的とするものに該当する。
イ 訂正事項15は、国際出願の明細書の翻訳文における誤訳を正しい翻訳に訂正するものである。
また、「平均粒径」が誤訳であり、「平均結晶サイズ」が正しい翻訳であることは、上記(8)のイで検討したとおり、本件訂正前の明細書の記載に整合している。
したがって、訂正事項15は、国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第184条の19の規定によって読み替える、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 上記アのとおり、訂正事項15による訂正は、誤記又は誤訳の訂正を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(16)一群の請求項について
本件訂正によって、本件訂正前の請求項1を引用する請求項2~18が連動して訂正されるから、本件訂正前の請求項1~18は一群の請求項であるところ、本件訂正請求は、上記一群の請求項についてされたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1~18〕を訂正単位として訂正の請求をするものである。
(17)明細書の訂正に係る請求項
本件訂正のうち訂正事項7、9~15は、本件訂正前の明細書の記載を訂正する訂正事項であり、これら訂正事項は、本件訂正前の請求項1に記載された「平均粒径」に関係するものであるところ、本件訂正前の請求項2~18は請求項1を引用しているので、全ての請求項(請求項1~18)に係るものである。
そして、本件訂正は、上記(16)のとおり一群の請求項である本件訂正前の請求項1~18についてされたものでもあるから、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第4項の規定に適合する。
(18)独立して特許を受けることができるかについて
本件特許異議の申立ては、全請求項(請求項1~18)を対象に申し立てられたものであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されず、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの要件は課されない。
(19)小括
以上のとおりであるから、令和 3年11月25日に特許権者によって請求された本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号~第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~18〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2で検討したとおり、本件訂正は適法になされたものであるから、請求項1~18に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明18」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~18に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。なお、下線は訂正された箇所を表す。
「【請求項1】コア、及び前記コアの表面上に位置する表面処理層を含み、前記コアは、複数個の1次粒子を含む2次粒子であり、前記1次粒子は、平均結晶サイズが80から120nmである、下記化学式(1)の多結晶リチウム複合金属酸化物を含み、そして、続きを表示(全49行)前記表面処理層は、リチウム;及び、B及びWでなる群より選択されるいずれか一つまたは二つの金属を含むリチウム酸化物を含むものである二次電池用正極活物質。[化学式(1)]LiaNi1-x-yCoxM1yM3zM2wO2前記化学式(1)中、M1は、Al及びMnでなる群より選択される少なくともいずれか一つであり、M2は、Zr、Ti、Mg、Ta及びNbでなる群より選択されるいずれか一つまたは二つ以上の元素であり、M3は、W、Mo及びCrでなる群より選択されるいずれか一つまたは二つ以上の元素であり、1.0≦a≦1.5、0<x≦0.5、0<y≦0.5、0.002≦z≦0.03、0≦w≦0.02、0<x+y≦0.7である。【請求項2】前記リチウム酸化物が下記化学式(2)の化合物を含むものである請求項1に記載の二次電池用正極活物質。[化学式(2)]LimMenO(m+B)/2前記化学式(2)中、Meは、B及びWでなる群より選択されるいずれか一つまたは二つの元素であり、1≦m≦10で、1≦n≦10であり、BはMeの酸化数である。【請求項3】前記リチウム酸化物がLiBO2、Li2B4O7、Li2WO4、Li4WO5及びLi6WO6でなる群より選択されるいずれか一つまたは二つ以上の混合物を含むものである請求項2に記載の二次電池用正極活物質。【請求項4】前記コアの内部に前記リチウム酸化物のMeがドープされ、前記Meは、コアの表面から内部に行くほど減少する濃度勾配を示すものである請求項2に記載の二次電池用正極活物質。【請求項5】前記ニッケル、M1及びコバルトのうち少なくともいずれか一つの金属元素は、前記コア内で変化する濃度勾配を示すものである請求項1に記載の二次電池用正極活物質。【請求項6】前記ニッケル、M1及びコバルトは、コア全体にかけてそれぞれ独立して変化する濃度勾配を示し、前記ニッケルの濃度は、コアの中心から表面の方向に濃度勾配を有しながら減少し、そして、前記コバルト及びM1の濃度は、それぞれ独立してコアの中心から表面の方向に濃度勾配を有しながら増加するものである請求項1に記載の二次電池用正極活物質。【請求項7】前記M1はマンガン(Mn)であるものである請求項1に記載の二次電池用正極活物質。【請求項8】前記表面処理層は、コアの全体表面積のうち25%以上100%未満の表面積に形成されるものである請求項1に記載の二次電池用正極活物質。【請求項9】前記表面処理層は、コアの半径に対して0.01から0.1の平均厚さ比を有するものである請求項1に記載の二次電池用正極活物質。【請求項10】前記正極活物質は、平均粒径(D50)が2μmから20μmであるものである請求項1に記載の二次電池用正極活物質。【請求項11】前記正極活物質は、BET比表面積が0.5m2/gから1.9m2/gであるものである請求項1に記載の二次電池用正極活物質。【請求項12】前記正極活物質は、1.7g/ccから2.5g/ccのタップ密度を有するものである請求項1に記載の二次電池用正極活物質。【請求項13】(削除)【請求項14】(削除)【請求項15】(削除)【請求項16】(削除)【請求項17】請求項1から請求項12のうちいずれか一項に記載の正極活物質を含む二次電池用正極。【請求項18】請求項17に記載の正極を含むリチウム二次電池。」
第4 申立理由の概要
1 申立人は、以下の申立理由1-1~申立理由3により、請求項1~18に係る本件特許を取り消すべきものである旨主張している。
(1)申立理由1-1(サポート要件)
本件訂正前の本件特許に係る発明(以下、「本件訂正前発明」という。)の課題を解決するためには、コアの表面に表面処理層を形成し、コアの1次粒子の平均粒径を所定の範囲にすることが必須であるが、このことのみで本件訂正前発明の課題を解決できるか明らかでない。そして、本件訂正前発明の課題を解決することができる実施例として開示されているのは実施例1-1~1-3のみであり、いずれも元素M3としてWが選択され、元素M1としてMnが選択され、元素M2が添加されないものであるから、これら実施例以外の場合にまで、元素M3の添加によりコアの1次粒子の平均粒径を制御できるかは明らかではない。
したがって、元素M1としてMnを用い、元素M3としてWを用い、元素M2を添加していないことが特定されていない、本件訂正前発明1及びこれを引用する本件訂正前発明2~18は、本件訂正前の明細書に開示された発明の範囲を超えているので、これら本件訂正前発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
(2)申立理由1-2(サポート要件)
本件訂正前発明の課題を解決できることが示されたのは実施例1-1~1-3のみであるところ、これら実施例において、表面処理層内の生成物質として、LiBO2及びLi2B4O7を含有する例、またはLi2WO4及びLi4WO5及を含有する例が開示されているのみであり、これらのBまたはWを含有する表面処理層を備えた実施例の記載に基いて、表面処理層としてB、W以外の各種元素を含むリチウム酸化物を含有する本件訂正前発明1の場合にまで拡張ないし一般化できない。
したがって、本件訂正前発明1及びこれを引用する本件訂正前発明2~18は、本件訂正前の明細書に開示された発明の範囲を超えているので、これら本件訂正前発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
(3)申立理由1-3(サポート要件)
製造方法の発明である本件訂正前の請求項13に係る発明(以下、「本件訂正前発明13」という。以下同様。)には、「前記遷移金属水酸化物粒子と、M3原料物質及びリチウム原料物質を反応させ、下記化学式(1)の多結晶リチウム複合金属酸化物を含むコアを準備する段階」を行うことが特定されているが、本件訂正前の明細書には、上記「コアを準備する段階」においてM3原料物質であるタングステン酸を添加する方法について記載されていないから本件訂正前発明13は発明の詳細な説明に記載された発明ではない。また、M3原料物質を添加する段階により目的物の構造等が変化することは技術常識であるから、本件訂正前の明細書に記載されていない本件訂正前発明13の製造方法によって、本件訂正前発明の課題を解決することができる正極活物質が得られるかは明らかではない。
したがって、本件訂正前発明13及びこれを引用する本件訂正前発明14~16は、本件訂正前の明細書に開示された発明の範囲を超えているので、これら本件発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
(4)申立理由2-1(明確性)
本件訂正前発明1には「1次粒子は、平均粒径が80から120nmである」と特定されているところ、段落【0154】には、平均粒径の測定方法について記載されているが、当該記載のみでは、測定された複数のピークのうち、「主ピーク」または「3個以上のピーク」として、どのピークを選択するかが明らかではなく、また、ピークの半値幅からどのような手順で1次粒子の平均粒径を求めたのかも明らかでない。
したがって、本件訂正前発明1及びこれを引用する本件訂正前発明2~18は、「平均粒径」がどのようにして求めた数値であるか明らかではないから、これら本件訂正前発明に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
(5)申立理由2-2(明確性)
本件訂正前発明13には、「多結晶リチウム複合金属酸化物を含むコア」が「[化学式(1)]LiaNi1-x-yCoxM1yM3zM2wO2」で表されていることから、M2元素を含むものであるが、製造工程において、M2元素を添加することについて何ら規定されていないので、本件訂正前発明13の特定事項が整合しておらず、本件訂正前発明13は不明確である。
したがって、本件訂正前発明13及びこれを引用する本件訂正前発明14~16は、M2元素の添加工程が不明であるから、これら本件訂正前発明に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
(6)申立理由3(実施可能要件)
本件訂正前発明1において、「コア」の「2次粒子」を構成する「複数個の1次粒子」は、「[化学式(1)]LiaNi1-x-yCoxM1yM3zM2wO2、0≦w≦0.02」の「多結晶リチウム複合金属酸化物を含」むものであるから、元素M2が添加されるものであるが、本件訂正前の明細書には、元素M2を添加した実施例については開示されていない。また、本件訂正前の明細書の段落【0065】には、金属原料を混合して前駆体を調製するときに元素M2を添加する場合と、前駆体とリチウム原料物質とを混合する際に元素M2を添加する場合があると記載されているが、どちらの場合かによって元素M2の分布は異なり、そのため、コアの1次粒子の平均粒径も影響を受けるものといえる。
そうすると、元素M2の添加とコアの1次粒子の平均粒径の変化について記載されていない本件訂正前の明細書の記載からは、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)といえども、本件訂正前発明の正極活物質を作ることができないし、本件訂正前発明13についても同様の理由によって、本件訂正前の明細書の記載からは、当業者といえども正極活物質を製造することができない。
したがって、本件訂正前発明1、13及びこれらを引用する本件訂正前発明2~12、14~18については、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、その特許は取り消されるべきものである。
第5 取消理由の概要
1 令和 2年11月 4日付けで通知した取消理由は、上記第4の申立理由に基いて通知された、次の4つの取消理由である。
BまたはWを含有する表面処理層を備えた実施例の記載に基いて、表面処理層としてB、W以外の各種元素を含むリチウム酸化物を含有する本件訂正前発明1の場合にまで、本件訂正前発明の課題を解決し得るということはできない。
したがって、本件訂正前発明1及びこれを引用する本件訂正前発明2~18は、本件訂正前の明細書に開示された発明の範囲を超えているので、これら本件訂正前発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
本件訂正前発明13及びこれを引用する本件訂正前発明14~16は、工程3と工程4について、本件訂正前の明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないから、これら本件訂正前発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
本件訂正前発明1の「平均粒径」について、段落【0154】の記載を参照しても、X線回折の主ピークの半値幅と3個以上のピークの半値幅から求める方法の2つの方法で求める結果、平均粒径が一義的に求められるものであるとはいえないし、また、後者の方法について、3個以上のピークをどのように特定するかも不明であることから、本件訂正前発明1は不明確である。
したがって、本件訂正前発明1及びこれを引用する本件訂正前発明2~18は、「平均粒径」がどのようにして求めた数値であるか明らかではないから、これら本件発明に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
本件訂正前発明13には、「多結晶リチウム複合金属酸化物を含むコア」が「[化学式(1)]LiaNi1-x-yCoxM1yM3zM2wO2」で表されていることから、M2元素を選択的に含むものであるが、製造工程において、M2元素を添加することについて何ら規定されていないので、本件訂正前発明13の特定事項が整合しておらず、本件訂正前発明13は不明確である。
したがって、本件訂正前発明13及びこれを引用する本件訂正前発明14~16は、M2元素の添加工程が不明であるから、これら本件訂正前発明に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
2 令和 2年11月 4日付けで通知した取消理由(決定の予告)は、上記取消理由2-1は、令和 3年 2月 5日に提出された訂正請求書によっては解消されていないと判断されたことにより再度通知された、次のものである。
令和 3年 2月 5日になされた訂正請求によって訂正された請求項1に係る発明の「1次粒子」の「平均粒径」は、技術常識によれば、X線回折の主ピークの半値幅からシェラーの式を用いて導出される結晶子の大きさではあり得ず、「平均粒径」がどのようにして得られた数値であるか依然として不明であるから、本件訂正前発明1は明確であるとはいえない。
また、本件訂正前発明1を引用する本件訂正前発明2~18も同様に明確であるとはいえない。
第6 当審の判断
1 取消理由について
(1)取消理由1-1(サポート要件)について
ア 本件訂正前の明細書(以下「訂正前明細書」という。)の段落【0011】~【0012】によれば、本件発明が解決しようとする課題の一つ(以下、単に「課題」という。)は、「多結晶リチウム複合金属酸化物を含むコアに対する表面処理を介し、優れた容量及び寿命特性を示すことができる二次電池用正極活物質、及びその製造方法を提供すること」であると認められる。
イ そして、訂正前明細書の【0141】の【表1】の「表面処理層内生成物質」の欄には、実施例1-1~1-3の正極活物質に形成される表面処理層について、リチウム酸化物である、LiBO2、Li2B4O7、Li2WO4、Li4WO5を含むものが記載されている。これら実施例1-1~1-3の正極活物質を利用して製造されたコインセルを充放電した際の各種測定結果が示されている【0157】の【表4】では、上記コインセルは、いずれも容量特性が改善されることが確認されており、また、上記実施例1-1~1-3の正極活物質を用いたリチウム二次電池の電池特性の測定結果が示されている【0163】の【表5】では、上記リチウム二次電池は、いずれもサイクル特性が優れていることが確認されている。
したがって、表面処理層が、B又はWを含むリチウム酸化物を含む場合には、上記課題が解決し得ることが確認される
ウ しかしながら、表面処理層がBとW以外の、「Hf、Nb、Ta、Mo、Si、Sn及びZrでなる群より選択されるいずれか一つまたは二つ以上の元素」を含むリチウム酸化物を含むものである場合に、正極活物質の表面性状等(表面粗さ、摩擦係数、粒子形状や粒度分布など)がどのようになるかについては、推定の手段がなく、そのため、正極活物質のタップ密度が増加するか不明であるから、その結果として圧延密度が増加するか不明であるので、表面処理層がBとW以外の、「Hf、Nb、Ta、Mo、Si、Sn及びZrでなる群より選択されるいずれか一つまたは二つ以上の元素」を含むリチウム酸化物を含むものである場合には、優れた容量を示すものとなるということはできない。
エ 以上の検討から、BまたはWを含有する表面処理層を備えた実施例の記載に基いて、表面処理層としてB、W以外の各種元素を含むリチウム酸化物を含むものである、本件訂正前の請求項1に係る発明と、請求項1を引用する請求項2~18に係る発明が、上記課題を解決し得るものではないから、これら発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである旨の取消理由1-1を通知した。
オ しかしながら、本件訂正によって、本件発明1は「前記表面処理層は、リチウム;及び、B及びWでなる群より選択されるいずれか一つまたは二つの金属を含むリチウム酸化物を含むものである」と訂正されて、表面処理層としてB、W以外の各種元素を含むリチウム酸化物を含むものが排除されたことにより、上記イの実施例の記載に基いて、本件発明1は、上記課題を解決し得るものとなったから、本件発明1と本件発明1を引用する本件発明2~12、17~18は、本件訂正後の明細書に開示された発明の範囲を超えているとはいえないものとなった。
カ よって、取消理由1-1(申立理由1-2)は解消された。
(2)取消理由1-2(サポート要件)について
ア 本件訂正前の請求項13に係る発明の製造方法は、次の5つの段階(工程)を含むものであった。
・ニッケル原料物質、コバルト原料物質及びM1原料物質(このとき、M1は、Al及びMnでなる群より選択される少なくともいずれか一つの元素である)を混合して金属含有溶液を準備する段階(以下「工程1」という。)、
・前記金属含有溶液にアンモニウム陽イオン含有錯体形成剤及び塩基性化合物を添加し反応させて前駆体を準備する段階(以下「工程2」という。)、
・前記前駆体をリチウム原料物質と混合し、500℃から700℃での1次焼成及び700℃から900℃での2次焼成を行って遷移金属水酸化物粒子を製造する段階(以下「工程3」という。)、
・前記遷移金属水酸化物粒子と、M3原料物質及びリチウム原料物質を反応させ、下記化学式(1)の多結晶リチウム複合金属酸化物を含むコアを準備する段階(このとき、M3は、W、Mo及びCrでなる群より選択されるいずれか一つまたは二つ以上の元素である)(以下「工程4」という。)、
・前記コアをリチウム酸化物の前駆体と混合した後、500℃から1200℃で熱処理する段階(以下「工程5」という。)
イ そして、本件訂正前の請求項13に係る発明と、請求項13を引用する請求項14~16は、上記工程3と工程4を含む点について、訂正前明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないから、これら本件発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである旨の取消理由1-2を通知した。
ウ しかしながら、本件訂正によって、請求項13~16は削除されたので、取消理由1-2の対象となる請求項に係る特許は存在しないものとなった。
よって、取消理由1-2(申立理由1-3)は解消された。
(3)取消理由2-1、3(明確性要件)について
ア 本件訂正前の請求項1には「1次粒子は、平均粒径が80から120nmである」と記載されているところ、上記「平均粒径」の測定方法については、訂正前明細書の段落【0154】に「実施例1-1から1-3、比較例1-1及び比較例1-2の多結晶リチウム複合金属酸化物粒子をそれぞれホルダーに5g程度入れ、X線を粒子に照射して出る回折格子を分析したあと、主ピーク(main peak)または3個以上のピークの半値幅から平均粒径を求めた。その結果を下記表3に示した。」と記載されている。
イ 上記段落【0154】の記載について、
(ア)ピークの半値幅からどのような手順で1次粒子の平均粒径を求めたのか不明であり、
(イ)「主ピーク」とは強度の最も高いピークを意味していると推定されるところ、試料ホルダーへの充填条件等により、常に同じ結晶面からの回折ピークが最大強度となるか不明であるし、異なる結晶面からの回折ピークが最大値となる場合には、1次粒子の結晶が等方的な形状であるとは言えないから、異なる結晶面からのピークに基いて平均粒径を算出すると、同一の1次粒子に対して異なる粒径が算出されるおそれがあり、
(ウ)「3個以上のピーク」とはどの結晶面からの回折ピークを選択するのか明らかでなく、3個のピークの選択によっては、同一の1次粒子に対して異なる粒径が算出されるおそれがある。
ウ そうすると、本件訂正前の請求項1に係る発明と、請求項1を引用する請求項2~18に係る発明は、請求項1に記載された「平均粒径」が、上記イの(ア)~(ウ)の点でどのようにして求めた数値であるか明らかではないから、これら発明に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである旨の取消理由2-1を通知した。
エ 上記イ(イ)の点については、令和 3年 2月 5日提出の意見書の第7頁において、本件特許におけるX線回折は粉末多結晶試料に対して行われる粉末X線回折分析であるので、最大強度となる回折ピークは同じ結晶面に起因するものとなる旨の説明があり、この説明は妥当なものと判断されるので、「主ピーク」に基づく平均粒径の測定方法が不明確であるとの取消理由1-2は解消された。
オ また、上記イ(ウ)の点については、本件訂正によって、訂正前明細書の段落【0154】の「主ピーク(main peak)または3個以上のピークの半値幅から平均粒径を求めた。」との記載は、「主ピーク(main peak)の半値幅から平均粒径を求めた。」と訂正されたことによって、「3個以上のピーク」に基づく粒径の測定方法が削除されたことにより、「3個以上のピーク」に基づく粒径の測定方法が不明確であるとの取消理由1-2は解消された。
カ さらに、上記イ(ア)の点については、令和 3年 2月 5日提出の意見書の第6頁において、訂正前明細書の段落【0154】に記載された「ピークの半値幅から平均粒径を求める」とは、X線回折の主ピークの半値幅からシェラーの式を用いて導出される結晶子の大きさであるとの説明がなされた。
キ しかしながら、令和 3年 2月 5日になされた訂正請求によって訂正された請求項1に記載された「1次粒子」の「平均粒径」は、技術常識によれば、X線回折の主ピークの半値幅からシェラーの式を用いて導出される結晶子の大きさではあり得ず、「平均粒径」がどのようにして得られた数値であるか依然として不明であるから、上記カの説明によっては、取消理由1-2のうち上記(ア)の点については解消されていないと当審は判断した。
ク そこで、令和 3年 9月13日付け取消理由(決定の予告)において、令和 3年 2月 5日になされた訂正請求によって訂正された請求項1に係る発明と、請求項1を引用する請求項2~12、17~18に係る発明は、上記イ(ア)の点で不明確であるから、これら発明に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである旨の取消理由3を通知した。
ケ すると、取消理由3に対して本件訂正がなされ、誤訳であることを根拠として、請求項1と、段落【0013】、【0020】、【0053】、【0054】、【0056】、【0154】、【0155】に記載された「平均粒径」は全て「平均結晶サイズ」に訂正された。この「平均結晶サイズ」は上記カで説明された、X線回折の主ピークの半値幅からシェラーの式を用いて導出される結晶子の大きさであるとの説明とも整合するものと判断されるから、取消理由3は解消された。
コ 以上から、上記イの(ア)~(ウ)の点からなる取消理由2-1(申立理由2-1)と取消理由3は解消された。
(4)取消理由2-2(明確性要件)について
ア 本件訂正前の請求項13に係る発明には、「多結晶リチウム複合金属酸化物を含むコア」が「[化学式(1)]LiaNi1-x-yCoxM1yM3zM2wO2」で表されていることから、M2元素を選択的に含むものであるが、請求項13に記載された製造工程において、M2元素を添加することについて何ら規定されていないので、請求項13に記載された事項が整合していない。
したがって、本件訂正前の請求項13に係る発明と、請求項13を引用する請求項14~16に係る発明は、M2元素の添加工程が不明であるから、これら発明に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである旨の取消理由2-1を通知した。
イ しかしながら、本件訂正によって、請求項13~16は削除されたので、取消理由2-2の対象となる請求項に係る特許は存在しないものとなった。
よって、取消理由2-2(申立理由2-2)は解消された。
2 取消理由として採用しなかった申立て理由について
(1)申立理由1-1(サポート要件)について
ア 申立人の主張は次のとおりである。
本件訂正前発明の課題を解決するためには、コアの表面に表面処理層を形成し、コアの1次粒子の平均粒径を所定の範囲にすることが必須であるが、このことのみで本件特許発明の課題を解決できるか明らかでない。そして、本件訂正前発明の課題を解決することができる実施例として開示されているのは実施例1-1~1-3のみであり、いずれも元素M3としてWが選択され、元素M1としてMnが選択され、元素M2が添加されないものであるから、これら実施例以外の場合にまで、元素M3の添加によりコアの1次粒子の平均粒径を制御できるかは明らかではない。
したがって、元素M1としてMnを用い、元素M3としてWを用い、元素M2を添加していないことが特定されていない、本件訂正前発明1及びこれを引用する本件訂正前発明2~18は、訂正前明細書に開示された発明の範囲を超えているので、これら本件訂正前発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
なお、本件訂正によって、「1次粒子」の「平均粒径」は「1次粒子」の「平均結晶サイズ」に訂正されたので、上記主張における「平均粒径」を「平均結晶サイズ」に読み替えて以下検討する。
イ そこで、本件発明1において、コアの1次粒子の組成式は
「[化学式(1)]LiaNi1-x-yCoxM1yM3zM2wO2」
で表されるところ、元素M3としてWが選択され、元素M1としてMnが選択され、元素M2が添加されていない実施例1-1~1-3以外の場合にまで、元素M3の添加によりコアの1次粒子の平均結晶サイズを制御できるかについて以下検討する。
ウ 本件訂正後の明細書には次の記載がある(下線は当審が付した。また、「…」は記載の省略を表す。以下同様。)。
(ア)「【0033】具体的に、前記化学式(1)において、M3は、周期律表の6族(VIB族)に該当する元素であって、活物質粒子の製造の際、焼成工程中の粒子の成長を抑制する役割を担う。前記M3は、正極活物質の結晶構造において、Ni、CoまたはM1の一部を置換し、これらの元素が存在しなければならない位置に存在することもでき、または、リチウムと反応してリチウム酸化物を形成することもできる。これに伴い、M3の含量及び投入時期の調節を介して結晶粒の大きさを制御することができる。具体的に、前記M3は、W、Mo及びCrでなる群より選択されるいずれか一つまたは二つ以上の元素であってよく、より具体的には、W及びCrのうち少なくともいずれか一つの元素であってよい。この中でも、M3がWの場合は出力特性の面で優れ、Crの場合は、構造的安定性の改善効果の面でより優れることができる。」
(イ)「【0038】また、前記化学式(1)のリチウム複合金属酸化物において、M1は、Al及びMnでなる群より選択される少なくともいずれか一つであってよい。前記M1がAlの場合、活物質の平均酸化数を維持するようにして電池の寿命特性を向上させることができる。また、前記M1がMnの場合、活物質の構造安定性を改善することにより、結果として電池の安定性を向上させることができる。【0039】前記M1は、yに該当する含量、0<y≦0.5の含量で含まれてよい。yが0であれば、M1の包含による改善の効果を得ることができず、0.5を超過すれば、却って電池の出力特性及び容量特性が低下する恐れがある。M1元素の包含による電池特性の改善効果の著しさを考慮するとき、前記M1は、より具体的に0.1<y≦0.3の含量で含まれてよい。」
(ウ)「【0040】また、前記化学式(1)のリチウム複合金属酸化物または前記リチウム複合金属酸化物におけるNi、Co及びM1の元素は、活物質内の金属元素の分布の調節を通じた電池特性の改善のため、また他の元素、即ち、M2によって一部置換されるかドープされてもよい。前記M2は、具体的にZr、Ti、Mg、Ta及びNbでなる群より選択されるいずれか一つまたは二つ以上の元素であってよく、より具体的にはTiまたはMgであってよい。【0041】前記M2の元素は、正極活物質の特性を低下させない範囲内で、wに該当する量、即ち、0≦w≦0.02の含量で含まれてよい。」
(エ)「【0134】[実施例1-1:正極活物質の製造]…結果として形成されたニッケルマンガンコバルト系複合金属水酸化物の粒子を、リチウム原料物質としてのリチウム水酸化物と1:1.07のモル比で混合したあと、酸素雰囲気(酸素分圧20%)下で、500℃で20時間1次熱処理し、850℃で20時間2次熱処理してコア(LiNi0.6Co0.2Mn0.2W0.005O2)を製造した。」
(オ)「【0136】[実施例1-2:正極活物質の製造]…【0138】結果として形成されたニッケルマンガンコバルト系複合金属水酸化物の粒子を、リチウム原料物質としてのリチウム水酸化物と1:1.07のモル比で混合したあと、酸素雰囲気(酸素分圧20%)下で、500℃で20時間1次熱処理し、850℃で20時間2次熱処理してコア(LiNi0.6Co0.2Mn0.2W0.005O2)を製造した。結果として製造されたコアは、粒子の中心から表面に行くほどニッケルの濃度は減少し、コバルトとマンガンの濃度は増加する濃度勾配を含んでいた。」
(カ)「【0140】[実施例1-3から1-7:正極活物質の製造]前記実施例1-1で、H3BO3の代りに下記表1に記載された物質を記載の含量で用いることを除き、前記実施例1-1と同様の方法で行って正極活物質を製造した。」
「【0142】(キ)[比較例1-1:正極活物質の製造]…【0143】結果として形成されたニッケルマンガンコバルト系複合金属水酸化物の粒子を、リチウム原料物質としてのリチウム水酸化物と1:1.07のモル比で混合したあと、酸素雰囲気(酸素分圧20%)下で、500℃で20時間1次熱処理し、950℃で20時間2次熱処理して正極活物質(LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2)を製造した。」
(ク)「【0144】[比較例1-2:正極活物質の製造]ニッケルスルフェート、コバルトスルフェート、マンガンスルフェート、及びタングステン含有原料物質としてタングステン酸を水中で0.6:0.2:0.2:0.05のモル比で混合して用い、形成されたニッケルマンガンコバルト系複合金属水酸化物の粒子を、リチウム原料物質としてのリチウム水酸化物と1:1.07のモル比で混合したあと、酸素雰囲気下で、500℃で20時間1次熱処理し、800℃で20時間2次熱処理してコア(LiNi0.6Co0.2Mn0.2W0.05O2)を製造した点を除き、実施例1と同様の方法で正極活物質を製造した。」
(ケ)「【0153】[実験例2:正極活物質の粒径の観察]実施例1-1から1-3、比較例1-1及び比較例1-2の多結晶リチウム複合金属酸化物粒子に対し、XRD結晶分析によって粒子の結晶の大きさを測定した。【0154】具体的に検討してみると、実施例1-1から1-3、比較例1-1及び比較例1-2の多結晶リチウム複合金属酸化物粒子をそれぞれホルダーに5g程度入れ、X線を粒子に照射して出る回折格子を分析したあと、主ピーク(main peak)の半値幅から平均結晶サイズを求めた。その結果を下記表3に示した。【0155】【表3】[図:0001385119000012.jpg]」
(コ)「【0156】[実験例3:正極活物質の評価]前記実施例1-1から1-3、比較例1-1及び1-2で製造した正極活物質を利用して製造したコインセル(Li金属の負極を使用)を、25℃で0.1Cの定電流(CC)4.25Vになるまで充電し、以後、4.25Vの定電圧(CV)で充電し、充電電流が0.05mAhになるまで1回目の充電を行った。以後、20分間放置したあと、0.1Cの定電流で3.0Vになるまで放電して1サイクル目の放電容量を測定した。以後、2Cで放電条件を異にして充放電容量、充放電効率及びレート特性をそれぞれ評価した。その結果を下記表4に示した。【0157】【表4】[図:0001385119000013.jpg]【0158】実験の結果、実施例1-1から1-3の正極活物質を含むリチウム二次電池は、比較例1-1及び比較例1-2の正極活物質を含むリチウム二次電池と比べて充放電効率及びレート特性、そして容量特性の面では一層改善された効果を示した。」
(サ)「【0159】[実験例4:リチウム二次電池の電池特性の評価]前記実施例1-1から1-3、比較例1-1及び1-2での正極活物質をそれぞれ含むリチウム二次電池(実施例2-1から2-3、比較例2-1及び比較例2-2)に対して下記のような方法で電池特性を評価した。続きを表示(全15行)【0160】詳しくは、前記リチウム二次電池に対して25℃で2.8Vから4.15Vの駆動電圧の範囲内で1C/2Cの条件で充放電を300回実施した。【0161】また、出力特性を評価するため、常温(25℃)で充放電した電池をSOC 50%を基準に充電して抵抗を測定し、低温(-30℃)ではSOC 50%を基準に電流を印加する時に電圧が降下される幅を測定した。【0162】その結果として、常温(25℃)及び低温(-30℃)での抵抗、そして常温での充放電800回実施後の初期容量に対する300サイクル目の放電容量の比率であるサイクル容量維持率(capacity retention)をそれぞれ測定し、下記表5に示した。【0163】【表5】[図:0001385119000014.jpg]【0164】実験の結果、実施例2-1から2-3で製造した正極活物質を利用したリチウム二次電池の場合、比較例2-1及び比較例2-2と比べて常温及び低温での出力特性、そしてサイクル特性に優れることを確認することができた。」
エ 最初に、元素M3がMoとCrである場合に、元素M3の添加によりコアの1次粒子の平均結晶サイズを制御できるかについて検討する。
上記ウ(ア)の記載によれば、元素M3に含まれるW、Mo、Crは、いずれも、周期律表の6族(VIB族)に該当する元素であって、正極活物質の結晶構造において、Ni、CoまたはM1の一部を置換するものであり、活物質粒子の製造の際、焼成工程中の粒子の成長を抑制する役割を担っており、M3の含量及び投入時期の調節を介して結晶粒の大きさを制御することができる元素であると説明されている。
このことは、上記ウ(エ)~(ク)の記載において、実施例1-1、1-2、1-3と比較例1-1、1-2のコアの1次粒子の組成に注目すると、Ni,Co,Mnの組成比は全て同じであるが、Wの組成比については、実施例はいずれも0.005、比較例1-1は0、比較例1-2は0.05と異なっており、また、上記イ(ケ)の表3によれば、1次粒子の平均結晶サイズは、実施例が100~120の範囲であるのに対して、比較例1-1は当該範囲より大きい221nm、比較例1-2が当該範囲より小さい45nmであることが見て取れる。
したがって、元素M3のうちWを添加した場合には、その添加量が多くなるほど1次粒径の平均結晶サイズが小さくすることができることは、そのメカニズムは不明ながら、実験事実として示されているといえる。
そして、元素M3がMo、Crである場合の実施例は記載されてはいないが、MoとCrはWと同じ6族元素であって、化学的に同様の性質を備えているものであることはよく知られているし、第4周期のCrと第5周期のMoは、第6周期のWよりも原子サイズが小さいので、Wよりも1次粒子の結晶構造中に侵入し易い原子であるといえるから、MoとCrは、Wと同様に、添加されるとNi、CoまたはM1の一部を置換して1次粒径の平均結晶サイズを小さくすることができる元素であると合理的に理解される。
一方、申立人は、MoとCrは、Wと同様に、コアの1次粒子の平均結晶サイズを制御できない原子であるか不明であると主張しているのみであって、MoとCrによっては、1次粒子の平均結晶サイズを制御できないことについて、実験事実や理論上の根拠を示していない。
してみると、元素M3のうちMoとCrが、1次粒径の平均結晶サイズを小さくすることができない元素であるということはできず、MoとCrは、Wと同様に、コアの1次粒子の平均結晶サイズを制御できる原子であるといえる。
オ 次に、元素M1がAlである場合に、元素M3の添加によりコアの1次粒子の平均結晶サイズを制御できるかについて検討する。
元素M1については、上記ウ(イ)に記載されているように、M1がAlの場合は、活物質の平均酸化数を維持するようにして電池の寿命特性を向上させることができ、また、M1がMnの場合は、活物質の構造安定性を改善することにより、結果として電池の安定性を向上させることができると説明されており、電池の安定性が向上するということは電池として機能する期間が長くなることを意味するものと解されるから、AlとMnはいずれも、寿命特性を向上させる元素である点で共通している。
M1がMnである場合に寿命特性が向上する点については、上記ウ(サ)の表5の、実施例2-1、2-2、2-3と比較例2-1、2-2の「常温(25℃)での300回サイクルの容量維持率(%)」(以下、「サイクル特性」という。)に注目すると、上記実施例は上記比較例よりもサイクル特性が優れていることによって確認することができる。そして、元素M1がAlである場合について、その実施例は記載されていないが、上記イ(イ)で説明されているとおり、Mnと同様に電池の寿命特性を向上させることができるものであるといえる。
そして、元素M1がAlである場合に、元素M3の添加によってコアの1次粒子の平均結晶サイズを制御できるかについて検討するに、上記エで検討したように、元素M1がMnである場合には、元素M3の添加によってコアの1次粒子の平均結晶サイズを制御できることが示されており、添加された元素M3は、1次粒子中のNi、CoまたはM1の一部を置換することによって1次粒径の平均結晶サイズを小さくすることができる元素であることも踏まえると、元素M1がAlである場合にも元素M3はNi、CoまたはM1(Al)の一部を置換するという点で特に相違しないものと考えられる。したがって、元素M1がAlである場合にも、元素M3の添加によって、コアの1次粒子の平均結晶サイズを制御できるということは合理的に理解できる。
一方、申立人は、元素M3の添加によってコアの1次粒子の平均結晶サイズを制御できるかは明らかではないと主張しているのみであって、元素M1がAlである場合に、元素M3の添加によってコアの1次粒子の平均結晶サイズを制御できないことについて、実験事実や理論上の根拠などの具体的な根拠を示してはいない。
してみると、元素M1がAlである場合には、元素M3の添加によってコアの1次粒子の平均結晶サイズを制御できないということはできず、元素M1がAlであっても、元素M3の添加によってコアの1次粒子の平均結晶サイズを制御できるといえる。
カ 最後に、元素M2の添加量が0より大きい場合に、元素M3の添加によりコアの1次粒子の平均結晶サイズを制御できるかについて検討する。
上記ウ(ウ)に記載されているように、元素M2は、添加することによって、Ni、Co及び元素M1が一部置換されるかドープされ、活物質内の金属元素の分布が調節されて、電池特性が改善されるものであり、元素M2は、正極活物質の特性を低下させない範囲、具体的には「0≦w≦0.02」の範囲で添加することができるものであると説明されている。
そして、本件訂正後の明細書に記載された、実施例1-1、1-2、1-3と比較例1-1、1-2は、いずれもM2が添加されていない1次粒子であるところ、上記エで検討したように、元素M3の添加量によって1次粒子の平均結晶サイズを制御することができることが示されているが、M2が添加された実施例については開示されていない。
しかしながら、元素M2の添加量が極微量にとどまるときには、元素M2の影響は小さいと考えられるので、添加量が0のときと同様に、元素M3の添加量によって1次粒子の平均結晶サイズを制御することができると考えられるし、「w≦0.02」の範囲であれば、正極活物質の特性を低下させないと説明されていることから、正極活物質の特性を低下させない当該範囲内においてであれば、元素M3の添加量によって1次粒子の平均結晶サイズを制御できるということは合理的に理解できる。
一方、申立人は、元素M2を添加したときには、元素M3の添加によってコアの1次粒子の平均結晶サイズを制御できるかは明らかではないと主張しているのみであって、元素M2の添加量が「0<w≦0.02」である場合に、元素M3の添加によってコアの1次粒子の平均結晶サイズを制御できないことについて、実験事実や理論上の根拠などの具体的な根拠を示してはいない。
してみると、元素M2を「0≦w≦0.02」の範囲で添加した場合には、元素M3の添加によってコアの1次粒子の平均結晶サイズを制御できない、ということはできず、元素M2を「0≦w≦0.02」の範囲で添加した場合であっても、元素M3の添加によってコアの1次粒子の平均結晶サイズを制御できるといえる。
キ よって、本件発明は、実施例以外の場合においても、元素M3の添加によってコアの1次粒子の平均結晶サイズを制御できるものであるといえるから、申立人の上記アの主張は採用できない。
(2) 申立理由3(実施可能要件)について
ア 本件訂正後の明細書には、M2元素が添加された実施例については記載されていないが、M2元素を添加する場合の製法について、次の記載がある。
「【0062】また、本発明の一実施形態に係る正極活物質は、ニッケル原料物質、コバルト原料物質、M1原料物質、M3原料物質及びリチウム原料物質を反応させ、前記化学式(1)の多結晶リチウム複合金属酸化物を含むコアを準備する段階(このとき、M1は、Al及びMnでなる群より選択される少なくともいずれか一つであり、M3は、W、Mo及びCrでなる群より選択されるいずれか一つまたは二つ以上の元素である)(段階1);及び、前記コアを、リチウム酸化物を含む組成物を利用して表面処理するか、または前記コアをリチウム酸化物の前駆体と混合した後で熱処理する段階(段階2)を含む製造方法によって製造されてよい。このとき、前記正極活物質がM2(このとき、M2は、Zr、Ti、Mg、Ta及びNbでなる群より選択されるいずれか一つまたは二つ以上の元素である)をさらに含む場合、前記段階1での各金属元素の原料物質を混合する時にM2原料物質が添加されてもよい。これに伴い、本発明の他の一実施形態によれば、前記正極活物質の製造方法が提供される。【0063】以下、各段階別に詳しく説明する。前記正極活物質の製造のための製造方法において、段階1は、ニッケル原料物質、コバルト原料物質、M1原料物質、M3原料物質、及び選択的にM2原料物質を利用してコアを準備する段階である。【0064】具体的に、前記コアは、M3原料物質の投入時点に従い、ニッケル原料物質、コバルト原料物質及びM1原料物質(このとき、M1は、Al及びMnでなる群より選択される少なくともいずれか一つの元素である)を反応させて複合金属の水酸化物を製造したあと、これをリチウム原料物質及びM3原料物質と混合して焼成する方法(方法1)、または、ニッケル原料物質、コバルト原料物質、M1原料物質及びM3原料物質を反応させて複合金属の水酸化物を製造したあと、これをリチウム原料物質と混合して焼成する方法(方法2)によって製造されてよい。【0065】先ず、方法1(当審注:「方法2」の誤記と認められる。)の場合、ニッケル原料物質、コバルト原料物質、M1原料物質及びM3原料物質を混合して製造した金属含有溶液に、アンモニウム陽イオン含有錯体形成剤及び塩基性化合物を添加して反応させ、前駆体として複合金属の水酸化物またはオキシ水酸化物を製造し、次に前記前駆体をリチウム原料物質と混合したあと、500℃から700℃での1次焼成及び700℃から900℃での2次焼成によって行われてよい。このとき、前記正極活物質がM2(このとき、M2は、Zr、Ti、Mg、Ta及びNbでなる群より選択されるいずれか一つまたは二つ以上の元素である)をさらに含む場合、各金属元素の原料物質と混合する時にM2原料物質が添加されてもよく、または、以後の段階であるリチウム原料物質との混合時にM2原料物質が添加されてもよい。」
イ 上記アの記載によれば、M2元素の添加方法は、ニッケル原料物質、コバルト原料物質、M1原料物質及びM3原料物質を反応させて複合金属の水酸化物を製造したあと、これをリチウム原料物質と混合して焼成する方法2において、各金属元素の原料物質と混合する時にM2原料物質が添加されてもよく、または、以後の段階であるリチウム原料物質との混合時にM2原料物質が添加されてもよいとされている。したがって、M2元素を添加する方法については記載されているので、M2元素を添加する方法自体が不明ということはできない。
ウ また、本件訂正後の明細書には、M2元素の添加量とコアの1次粒子の平均結晶サイズの変化について記載されていないけれども、上記(1)のカで検討したように、M2元素の組成比wについて「w≦0.02」の範囲であれば、正極活物質の特性を低下させないと説明されていることから、正極活物質の特性を低下させない当該範囲内においてであれば、元素M3の添加量によって1次粒子の平均結晶サイズを制御できるということは合理的に理解できる。
エ したがって、本件発明1及びこれらを引用する本件発明2~12、17~18については、M2元素を「0≦w≦0.02」の範囲において添加する場合においても、発明の詳細な説明の記載を参照すれば、本件発明の正極活物質を製造することができるといえるから、申立請求人の上記アの主張は採用できない 。
第7 まとめ
以上のとおり、令和 2年11月 4日付け及び令和 3年 9月13日付け取消理由通知書に記載した取消理由、及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件訂正後の請求項1~12、17~18に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件訂正後の請求項1~12、17~18に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項13~16に係る発明は、本件訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項13~16に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2020-700583