2020-700509
ポリイミド系光学フィルム、その製造方法及び有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ
- 審判番号
- 2020-700509
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-508162外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2020年07月20日
- 審決日
- 2021年02月19日
- 公報発行日
- 2021年05月28日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】コニカミノルタ株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人光陽国際特許事務所
- 【異議申立人】笠原 佳代子
- 分類
- P1651.537-ZC (C08J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法113条2号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
結論
理由
目次 ▾ 10項目
第1 手続の経緯
折りたたみ中(クリックで表示)
特許6635110号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、2016年(平成28年)3月4日(優先権主張 2015年(平成27年)3月24日)を国際出願日とする特許出願であって、令和1年12月27日にその特許権の設定登録(請求項の数6)がされ、令和2年1月22日に特許掲載公報が発行され、その後、同年7月20日に特許異議申立人 笠原佳代子(以下、「特許異議申立人」という。)により請求項1ないし6(全請求項)を対象として特許異議の申立てがされ、同年9月14日付けで本件特許の請求項2、3及び5に係る特許に対して取消理由が通知され、それに対し、特許権者 コニカミノルタ株式会社からは何ら応答がなかったものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし6に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、本件特許発明1ないし6を総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】イミド構造を有する透明耐熱性樹脂を含有する溶液が流延製膜されたポリイミド系光学フィルムであって、前記イミド構造を有する透明耐熱性樹脂が、下記式(1)で表される構造を有するポリイミド、下記式(2)又は下記式(3)で表される構造を有するポリイミド、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド及びポリエーテルイミドから選択され、かつ、前記ポリイミド系光学フィルムの投影画像から切り取った所定の矩形エリアにおいて、続きを表示(全24行)グレースケールの標準偏差σが、0.50~1.10の範囲内であり、かつ前記矩形エリアの二値化画像における黒部分の占める面積が、50%以下に調整されたことを特徴とするポリイミド系光学フィルム。【化1】【化2】(式(3)中、Xは炭素数が2~39の2価の脂肪族基、炭素数が3~39の2価の脂環族基、炭素数が6~39の2価の芳香族基又はこれらの組み合わせからなる2価の基であり、Xの主鎖には、-O-、-SO2-、-CH2-、-C(CH3)2-、-OSi(CH3)2-、-C2H4O-及び-S-からなる群から選ばれた少なくとも1種の結合基が介在していてもよく、Xはカルボキシ基、ヒドロキシ基又はカルボニル基からなる群から選ばれた少なくとも1種の官能基を有していてもよい。)【請求項2】イミド構造を有する透明耐熱性樹脂を含有するポリイミド系光学フィルムを製造するポリイミド系光学フィルムの製造方法であって、前記イミド構造を有する透明耐熱性樹脂とジクロロメタンとを含有するドープを調製し、溶液流延製膜法によって製膜し、前記ポリイミド系光学フィルムの投影画像から切り取った所定の矩形エリアにおいて、グレースケールの標準偏差σが、0.50~1.10の範囲内であり、かつ前記矩形エリアの二値化画像における黒部分の占める面積を、50%以下に調整することを特徴とするポリイミド系光学フィルムの製造方法。【請求項3】イミド構造を有する透明耐熱性樹脂を含有するポリイミド系光学フィルムを製造するポリイミド系光学フィルムの製造方法であって、前記イミド構造を有する透明耐熱性樹脂が、下記式(1)で表される構造を有するポリイミド、下記式(2)又は下記式(3)で表される構造を有するポリイミド、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド及びポリエーテルイミドから選択され、かつ、前記イミド構造を有する透明耐熱性樹脂とジクロロメタンとを含有するドープを調製し、溶液流延製膜法によって製膜し、前記ポリイミド系光学フィルムの投影画像から切り取った所定の矩形エリアにおいて、グレースケールの標準偏差σが、0.50~1.10の範囲内であり、かつ前記矩形エリアの二値化画像における黒部分の占める面積を、50%以下に調整することを特徴とするポリイミド系光学フィルムの製造方法。【化3】【化4】(式(3)中、Xは炭素数が2~39の2価の脂肪族基、炭素数が3~39の2価の脂環族基、炭素数が6~39の2価の芳香族基又はこれらの組み合わせからなる2価の基であり、Xの主鎖には、-O-、-SO2-、-CH2-、-C(CH3)2-、-OSi(CH3)2-、-C2H4O-及び-S-からなる群から選ばれた少なくとも1種の結合基が介在していてもよく、Xはカルボキシ基、ヒドロキシ基又はカルボニル基からなる群から選ばれた少なくとも1種の官能基を有していてもよい。)【請求項4】前記製膜する過程において、フィルムを長手方向又は幅手方向の少なくとも一方向に1.05倍以上の倍率で延伸し、次いでフィルムの(ガラス転移温度Tg-150)~(ガラス転移温度Tg-30)℃の範囲内の乾燥温度で、ローラー搬送しながらベンディング処理を150回以上行うことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のポリイミド系光学フィルムの製造方法。【請求項5】膜厚を、25~100μmの範囲内に調整することを特徴とする請求項2から請求項4までのいずれか一項に記載のポリイミド系光学フィルムの製造方法。【請求項6】請求項1に記載のポリイミド系光学フィルムを具備することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ。」
第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
折りたたみ中(クリックで表示)
令和2年7月20日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由(以下、「申立理由」という。)の概要は次のとおりである。
1 申立理由(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし6についての特許は、以下の理由で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(1) 本件特許発明1及び3に特定される「下記式(1)で表される構造を有するポリイミド」に関し、本件特許明細書は「式(1)で表される構造の繰り返し単位のみで構成されるポリイミド」のみ開示するにとどまるから、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
(2) 本件特許発明2に特定される「イミド構造を有する透明耐熱性樹脂」に関し、本件特許明細書は「式(1)で表される構造の繰り返し単位のみで構成されるポリイミド」、「式(2)又は式(3)で表される構造を有するポリイミド」、「ポリエステルイミド」、「ポリアミドイミド」及び「ポリエーテルイミド」のみ開示するにとどまるから、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
(3) 本件特許の請求項1ないし3を引用する請求項4ないし6に係る特許は、上記(1)及び(2)と同様に、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
2 証拠方法
以下、順に「甲1」及び「甲2」という。
第4 令和2年9月14日付け取消理由通知の概要
令和2年9月14日付けで通知した取消理由(以下、「取消理由」という。)の概要は次のとおりである。
取消理由(サポート要件)
本件特許の請求項2、3及び5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が以下の理由で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・本件特許の請求項2には、当業者が本件特許の課題解決手段と認識する「ローラー搬送しながら所定の回数でベンディング処理を施す」ことが特定されていないから、本件特許発明2は、発明の詳細な説明において、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えたものである。
また、請求項3及び5の記載も同様である。
第5 当審の判断
当審は、以下に述べるように、本件特許の請求項2、3及び5に係る特許は、上記取消理由によって、取り消すべきものであり、本件特許の請求項1、4及び6に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立理由によっては、取り消すことはできないと判断する。
1 取消理由について
本件特許の請求項2、3及び5に係る特許について、令和2年9月14日付けで取消理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者は応答しなかった。
したがって、本件特許の請求項2、3及び5に係る特許は、この取消理由によって取り消すべきものである。
2 取消理由において採用しなかった申立理由について
上記1のとおり、本件特許の請求項2、3及び5に係る特許は取り消されることから、以下、請求項1、4及び6に係る申立理由(サポート要件)について検討する。
(1) 本件特許明細書の記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)には、以下の記載がある。なお、下線は、合議体が記した。
ア 「【技術分野】【0001】本発明は、ポリイミド系光学フィルム、その製造方法及び有機エレクトロルミネッセンスディスプレイに関する。より詳しくは、本発明は、平面性が改善され、有機エレクトロルミネッセンス表示装置の表面に用いた場合に、偏光サングラスを通して見たときのフィルムのムラが目立たず、視認性に優れるポリイミド系光学フィルムに関する。」
イ 「【発明が解決しようとする課題】【0005】本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、平面性が改善され、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイの表面に用いた場合に、偏光サングラスを通して見たときのフィルムのムラが目立たず、視認性に優れるポリイミド系光学フィルム、その製造方法及びそれを用いた有機エレクトロルミネッセンスディスプレイを提供することである。」
ウ 「【課題を解決するための手段】【0006】本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において、光学フィルムの投影画像から切り取った矩形エリアにおいて、グレースケールの標準偏差σ及び前記矩形エリアの二値化画像における黒部分の占める面積が、特定の範囲内に調整されたポリイミド系光学フィルムによって、平面性が改善され、有機エレクトロルミネッセンス表示装置の表面に用いた場合に、偏光サングラスを通して見たときのフィルムのムラが目立たないポリイミド系光学フィルムが得られることを見出した。」
エ 「【0018】前記視認性の解析において、白色光源を用いて当該ポリイミド系光学フィルムを投影し画像を観察したところ、例えば汎用のトリアセチルセルロース(TAC)フィルムに比べて、横段や斑点などのムラが多いことが分かった。すなわち、ムラの多いポリイミド系光学フィルムは、前記投影画像を所定の矩形エリアに切り取り、当該エリアのグレースケールの標準偏差σをとると、当該σ値が大きく、かつ当該エリアの画像を二値化したときの黒部分の面積が大きいことが分かった。【0019】本発明では、ポリイミド系光学フィルムを作製する際に、イミド構造を有する化合物を低沸点溶剤(例えば、ジクロロメタン等)を用いて溶液流延製膜し、さらにローラー搬送しながら所定の回数でベンディング処理を施すことによって、前記グレースケールの標準偏差σ及び二値化したときの黒部分の面積を小さくすることができ、その結果ポリイミド系光学フィルムの平面性が改善され、当該フィルムを最表面に用いた有機ELディスプレイを偏光サングラス越しで見てもムラが目立たなくできることを見出したものである。」
オ 「【0045】<本発明のポリイミド系光学フィルムの構成>本発明のポリイミド系光学フィルムは、イミド構造を有する化合物を含有し、当該イミド構造を有する透明耐熱性樹脂が、下記式(1)で表される構造を有するポリイミド、下記式式(2)又は下記式(3)で表される構造を有するポリイミド、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド及びポリエーテルイミドから選択されることが好ましい。【0046】続きを表示(全23行)〔1〕イミド構造を有する透明耐熱性樹脂〔1.1〕式(1)で表される構造を有するポリイミド本発明に係るイミド構造を有する透明耐熱性樹脂(以下、ポリイミド樹脂ともいう。)は、ポリイミド前駆体を化学イミド化することにより得られる下記式(1)で表されるポリイミド樹脂であることが好ましい。【0047】【化3】・・・【0055】〔1.2〕式(2)又は式(3)で表される構造を有するポリイミド 本発明に係る透明耐熱性樹脂は、下記式(2)で表される繰り返し単位を有するポリイミド(以下、ポリイミドPと称する。)又は当該式(2)で表される繰り返し単位と下記式(3)で表される繰り返し単位とからなるポリイミドが好ましい。【0056】【化4】(式(3)中、Xは炭素数が2~39の2価の脂肪族基、炭素数が3~39の2価の脂環族基、炭素数が6~39の2価の芳香族基又はこれらの組み合わせからなる2価の基であり、Xの主鎖には、-O-、-SO2-、-CH2-、-C(CH3)2-、-OSi(CH3)2-、-C2H4O-及び-S-からなる群から選ばれた少なくとも1種の結合基が介在していてもよく、Xはカルボキシ基、ヒドロキシ基又はカルボニル基からなる群から選ばれた少なくとも1種の官能基を有していてもよい。)前記ポリイミド樹脂は、前記式(2)で表される繰り返し単位、又は前記式(2)で表される繰り返し単位と前記式(3)で表される繰り返し単位からなり、式(2)で表される繰り返し単位の割合が全繰り返し単位の50モル%を超え、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上(それぞれ100モル%を含む)である。式(2)で表される繰り返し単位の割合が全繰り返し単位の50モル%を超えると低吸水性を達成できるが、50モル%以下であると、式(3)の構造によっては吸水率が高くなる。前記ポリイミドPは、ブロックコポリマー又はランダムコポリマーのどちらでも良い。【0057】上記式(3)中のXは下記式(4);【化5】とは異なり、炭素数2~39の2価の脂肪族基、炭素数3~39の2価の脂環族基、炭素数6~39の2価の芳香族基又はこれらの組み合わせからなる2価の基である。Xの主鎖には、-O-、-SO2-、-CH2-、-C(CH3)2-、-OSi(CH3)2-、-C2H4O-、及び-S-からなる群から選ばれた少なくとも1の結合基が介在していてもよい。また、Xはカルボキシ基、ヒドロキシ基及びカルボニル基(Xの主鎖に含まれる)からなる群から選ばれた少なくとも一つの官能基を有していてもよい。Xの具体例としては、ポリアルキレン、ポリオキシアルキレン、キシリレン及びそれらのアルキル置換体、ハロゲン置換体、カルボキシ置換体及びヒドロキシ置換体などの2価の脂肪族基;シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタン、ジメチルシクロヘキサン、イソフォロン、ノルボルナン及びそれらのアルキル置換体、ハロゲン置換体、カルボキシ置換体及びヒドロキシ置換体等から誘導される2価の脂環族基;及び、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、ジフェニルメタン、ジフェニルエーテル、ジフェニルスルホン、ベンゾフェノン及びそれらのアルキル置換体、ハロゲン置換体、カルボキシ置換体及びヒドロキシ置換体等から誘導される2価の芳香族基が挙げられる。また、式(4)で表される構造は、樹脂強度の観点から、下記式(5)で表される構造であるのが好ましい。【0058】【化6】」
カ 「【0170】〔4〕イミド構造を有する透明耐熱性樹脂を用いた光学フィルムの製造方法本発明のポリイミド系光学フィルム(以下、ポリイミドフィルムともいう。)の製造方法の具体例について以下説明する。【0171】本発明に係るイミド構造を有する透明耐熱性樹脂を、後述するジクロロメタンを50質量%以上含有する混合溶媒に溶解してドープを調製する工程(ドープ調製工程)と、前記ドープを支持体上に流延して流延膜を形成する工程(流延工程)と、支持体上で流延膜から溶媒を蒸発させる工程(溶媒蒸発工程)、流延膜を支持体から剥離する工程(剥離工程)、得られたフィルムを乾燥させる工程(第1乾燥工程)、フィルムを延伸する工程(延伸工程)、延伸後のフィルムを更に乾燥させながらベンディング処理を行う工程(第2乾燥工程)、得られたポリイミドフィルムを巻き取る工程(巻取り工程)、フィルムを加熱処理してイミド化させる工程(加熱工程)等により行われることが好ましい。」
キ 「【0198】〔4.6〕延伸工程金属支持体から剥離されたフィルムを延伸することで、フィルムの膜厚や平坦性、配向性等を制御することができる。・・・続きを表示(全12行)【0205】本発明のポリイミドフィルムの製造方法では、支持体から剥離された自己支持性を有するフィルムを、延伸ローラーで走行速度を規制することにより長手方向に延伸することができる。長手方向の延伸倍率は、30~250℃の温度範囲で1.05~1.90倍が好ましく、より好ましくは1.10~1.60倍、更に好ましくは1.10~1.50倍である。・・・【0207】長手方向に延伸されたフィルムは、クリップに幅方向両端部を把持された状態にてテンターへ導入され、テンタークリップとともに走行しながら、幅方向へ延伸されることが好ましい。幅方向の延伸倍率は、特に限定されないが、30~300℃の温度範囲で1.05~1.90倍が好ましく、より好ましくは1.10~1.60倍、更に好ましくは1.10~1.50倍である。【0215】[ベンディング処理]本発明のポリイミドフィルムは、ドライヤーゾーンで乾燥する第2乾燥工程において、当該ドライヤーゾーンが、フィルムの(ガラス転移温度Tg-150)~(ガラス転移温度Tg-30)℃の範囲内の乾燥温度で、ローラー搬送しながらベンディング処理を150回以上行うことが、グレースケールの標準偏差σを所定の範囲内に調整し、かつ二値化画像における黒部分の占める面積を10~50%の範囲内に調整して、フィルムの平滑性を向上する観点から好ましい製造方法である。」
ク 「【実施例】【0244】以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」又は「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」又は「質量%」を表す。【0245】続きを表示(全34行)実施例1最初に実施例に用いたポリイミド樹脂の作製方法について述べる。・・・【0264】〈乾燥工程〉延伸したフィルムを、図2で示すベンディングゾーン106にて、乾燥温度220℃で、多数の搬送ローラーによって、400回のベンディング処理を行った。搬送張力は100N/m、乾燥時間20分間として、残留溶媒量が0.1質量%未満となるように乾燥させて、乾燥膜厚80μmのフィルムを得た。得られたフィルムを巻き取って、ポリイミドフィルム101を得た。・・・【0266】<ポリイミドフィルム106~109の作製>上記ポリイミドフィルム101の作製において、ポリイミド樹脂A~Dを用い、溶媒として、γ-ブチロラクトン(表中、GBLと表記。)及びジメチルアセトアミド(表中、DMAcと表記。)を用い、延伸及びベンディング処理を行わなかった以外は、同様にして比較のポリイミドフィルム106~109を作製した。・・・【0290】<偏光サングラスによる視認性評価>上記作製した有機ELディスプレイ101~109を、偏光サングラス越しに観察する。その時の表示ムラを10名の観察者によって下記5段階で目視評価した。実用上は4以上が問題ない。【0291】5:観察者10名とも表示ムラが目立たないと判断する4:観察者8名が表示ムラが目立たないと判断する3:観察者5名が表示ムラが目立つと判断する2:観察者8名が表示ムラが目立つと判断する1:観察者全員が表示ムラが目立つと判断する【表1】【0292】表1から、ポリイミド樹脂を本発明の好ましい製造方法で作製したポリイミドフィルム101~105は、グレースケールの標準偏差σ、及び二値化画像の黒部分の面積比率が、本発明で規定する範囲を満たし、それを用いた有機ELディスプレイを偏光サングラスによって観察したときに、表示ムラが目立たず、視認性が良好なことが分かった。【0293】実施例2<ポリイミドフィルム201~204の作製> 実施例1のポリイミドフィルム101の作製において、ベンディング処理の回数を表2に記載のように変えた以外は同様にして、ポリイミドフィルム201~204を作製した。【0294】作製したポリイミドフィルム201~204を用いて、実施例1と同様な評価を実施した。【0295】」
(2)本件特許発明の解決課題について
本件特許明細書の発明の詳細な説明の、特に段落【0005】の記載から、本件特許発明の解決課題は、「平面性が改善され、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイの表面に用いた場合に、偏光サングラスを通して見たときのフィルムのムラが目立たず、視認性に優れるポリイミド系光学フィルム、その製造方法及びそれを用いた有機エレクトロルミネッセンスディスプレイを提供すること」にあると認められる。
(3) 請求項1について
ア 検討
発明の詳細な説明の段落【0018】には「ムラの多いポリイミド系光学フィルムは、前記投影画像を所定の矩形エリアに切り取り、当該エリアのグレースケールの標準偏差σをとると、当該σ値が大きく、かつ当該エリアの画像を二値化したときの黒部分の面積が大きい」という、ムラと当該σ値との因果関係が記載されており、段落【0027】ないし【0044】には、フィルム投影画像の解析手法、また、段落【0045】ないし【0153】には、式(1)で表される構造を有するポリイミド、式(2)又は式(3)で表される構造を有するポリイミド、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド及びポリエーテルイミドを得る手段が記載されている。
そして、具体的に実施例として、段落【0245】ないし【0304】には、式(1)で表される構造を有するポリイミド、式(2)又は式(3)で表される構造を有するポリイミド、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド及びポリエーテルイミドをそれぞれ得て、それらから作製した「ポリイミド系光学フィルムの投影画像から切り取った所定の矩形エリアにおいて、グレースケールの標準偏差σが、0.50~1.10の範囲内であり、かつ前記矩形エリアの二値化画像における黒部分の占める面積が、50%以下に調整された」ものが、偏光サングラスによるムラ評価において4又は5であって、表示ムラが目立たず、視認性が良好である効果が確認できたことが記載されている。
そうすると、上記記載を参照することで当業者は、本件特許発明1に特定されるポリイミド系光学フィルムが、物の発明として本件特許発明1の発明の課題を解決するものと認識できる。
よって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載は、いわゆるサポート要件を満たす。
イ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、甲1及び甲2を参照しつつ、概略ポリイミドフィルムにおいて、TFMBと6FDAとの2成分のものと、TFMBと6FDAと他のモノマーとの3成分であるか等に応じて、物性は大きく異なり、出願時の技術常識に照らしても、式(1)で表される構造に対してさらに他の構造を有しているポリイミドを用いた場合であっても、視認性の改善が達成できるとは、当業者は認識できず、本件特許発明はいわゆるサポート要件を満たしていない旨主張する(特許異議申立書第12ページ)。
甲1には、6FDAとTFMBとの2成分のポリイミド樹脂フィルム(比較例1)は、複屈折の値が0.036であるのに対し、6FDAとTFMBとその他のモノマーとの3成分のポリイミド樹脂フィルム(実施例1ないし7)では、複屈折の値が0.050~0.072であり、モノマー成分が2成分のものに対して3成分のものは、複屈折の値が約1.4倍から2倍に異なるものが示されている。
「[0091] [表1]」
また、甲2の段落【0047】の【表1】には、合成例1として6FDAとPMDAとTFMBとの3成分のポリアミド酸(溶液)Aが開示され、合成例2として6FDAとTFMBとの2成分のポリアミド酸(溶液)Bが開示されており、【0050】の【表2】には、参考例1として、ポリアミド酸Aから合成されたポリイミドフィルムのCTE(熱膨張係数)が18ppm/Kであるのに対し、参考例2として、ポリアミド酸Bから形成されたポリイミドフィルムのCTEが71ppm/Kであり、モノマー成分が2成分のものに対して3成分のものはCTEの値が3.9倍に異なるものが示されている。
「【0047】【表1】」
「【0050】【表2】」
しかしながら、上記「複屈折率」及び「熱膨張係数」が大きく相違するからといって、本件特許発明1に特定される光学特性が大きく相違すると一概にいえるものでなく、例えば、甲2の参考例1及び2における「500nm 光透過率」は、参考例1で84%、参考例2で86.5%であり、大きく相違するものでもない。また、特許異議申立人は、これらの相関関係を特許異議申立書において示していない。
そして、少なくとも、本件特許発明1における式(1)の構造のものが上記(1)で述べた課題を解決することは、発明の詳細な説明に具体的な実施例によって示されているし、式(1)以外の構造を有するポリイミド系樹脂を用いたポリイミドフィルムNo.102ないし105であっても、グレースケールの標準偏差σと矩形エリアの二値化画像における黒部分の占める面積が本件特許発明1の所定の範囲内であるものが、偏光サングラスムラ評価において4であって、表示ムラが目立たず、視認性が良好である効果が確認できている(【表1】)ことから、基本骨格として本件特許発明1における式(1)の構造を有するものが、本件特許発明の課題を解決することが当業者にとって認識できることは明らかである。
そうすると、本件特許発明1に係るサポート要件違反についての特許異議申立人の主張は採用することができない。
(3) 請求項4について
ア 検討
上記(2)で述べたように、発明の詳細な説明には、段落【0018】に、ポリイミド系光学フィルムにおけるムラと所定の矩形エリアのグレースケールの標準偏差σ値との因果関係が記載されており、また、【0019】には、「本発明では、ポリイミド系光学フィルムを作製する際に、イミド構造を有する化合物を低沸点溶剤(例えば、ジクロロメタン等)を用いて溶液流延製膜し、さらにローラー搬送しながら所定の回数でベンディング処理を施すことによって、前記グレースケールの標準偏差σ及び二値化したときの黒部分の面積を小さくすることができ、その結果ポリイミド系光学フィルムの平面性が改善され、当該フィルムを最表面に用いた有機ELディスプレイを偏光サングラス越しで見てもムラが目立たなくできることを見出したものである。」と記載されている。
そして、発明の詳細な説明において、実際にポリイミド系光学フィルムを製造したものは、【表1】及び【表2】におけるポリフィルムNo.101ないし105並びに同No.201及び202に係る製造方法であって、いずれも200℃でMD倍率及びTD倍率を1.1にする延伸処理、及び、ローラー搬送しながらのベンディング処理を200ないし220℃にて150ないし400回行った場合であって、いずれもフィルムの視認性の性能評価、すなわち、偏光サングラスムラ評価において、比較例より優れ、実用上問題がない4以上が得られている。
そうすると、これらの実施例及び他の発明の詳細な説明の記載から、当業者が上記(1)で述べた解決課題を解決できると認識するポリイミド系光学フィルムを得る解決手段は、「イミド構造を有する透明耐熱性樹脂とジクロロメタンとを含有するドープを調製し、溶液流延製膜法によって製膜し、前記製膜する過程において、フィルムを長手方向又は幅手方向の少なくとも一方向に1.05倍以上の倍率で延伸し、次いでフィルムの(ガラス転移温度Tg-150)~(ガラス転移温度Tg-30)℃の範囲内の乾燥温度で、ローラー搬送しながらベンディング処理を150回以上行うことによって、前記ポリイミド系光学フィルムの投影画像から切り取った所定の矩形エリアにおいて、グレースケールの標準偏差σが、0.50~1.10の範囲内であり、かつ前記矩形エリアの二値化画像における黒部分の占める面積を、50%以下に調整するポリイミド系光学フィルムの製造方法。」であると当業者は認識できる。
そこで、上記解決手段を請求項4の記載と対比すると、請求項4の記載は、請求項2を引用した場合、及び、請求項3を引用した場合いずれにおいても、上記解決手段を特定事項に有するものであるから、本件特許発明4に特定されるポリイミド系光学フィルムが、本件特許発明4の発明の課題を解決できると当業者が認識できる。
よって、本件特許の特許請求の範囲の請求項4の記載は、いわゆるサポート要件を満たすと判断される。
イ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、請求項4について、請求項2又は3を引用する従属項であって、「イミド構造を有する透明耐熱性樹脂」又は「式(1)で表される構造を有するポリイミド」を限定しないから、本件特許明細書の内容を請求項4の特定事項に拡張ないし一般化できるとはいえないから、本件特許発明はいわゆるサポート要件を満たしていない旨主張する(特許異議申立書第14ページ)。
しかしながら、上記アで述べたとおり、本件特許発明4は、本件特許の課題解決手段を特定事項に有するものであるから、本件特許発明4に係るサポート要件違反についての特許異議申立人の主張は採用することができない。
(4) 請求項6について
本件特許発明6は、本件特許発明1に係るポリイミド系光学フィルムを具備する有機エレクトロルミネッセンスディスプレイに係るものであるから、本件特許発明1と同様の理由で発明の課題を解決できると当業者が認識できるものである。
(5) 小括
よって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1、4及び6の記載は、いわゆるサポート要件を満たすと判断されるから、特許異議申立人が主張する申立理由によっては、本件特許の請求項1、4及び6に係る特許を取り消すことはできない。
第6 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項2、3及び5に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
また、本件特許の請求項1、4及び6に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。
そして、他に本件特許の請求項1、4及び6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
2020-700509