特許異議申立
2025-701057
繊維強化樹脂成形体及びその製造方法
- 審判番号
- 2025-701057
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-050456
- 登録番号
- 7689505
- 請求日
- 2025年11月10日
- 審決日
- 2026年06月15日
- 公報発行日
- 2026年07月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】フクビ化学工業株式会社
- 【権利者代理人】戸川 委久子
- 【権利者代理人】岩堀 圭吾
- 【異議申立人】弁理士法人 朝日奈特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 柴田 昌弘
- 審判官 宮久保 博幸
- 審判官 加藤 友也
- 分類
- P1651.121-Y (C08J) / P1651.537-Y (C08J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7689505号発明「繊維強化樹脂成形体及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7689505号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7689505号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、令和4年3月25日を出願日とする出願であって、令和7年5月29日にその特許権の設定登録(請求項の数8)がされ、同年6月6日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年11月10日に特許異議申立人 弁理士法人朝日奈特許事務所(以下、「特許異議申立人」という。)から特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし8)がされ、令和8年3月13日付けで取消理由が通知され、同年5月20日に特許権者 フクビ化学工業株式会社(以下、「特許権者」という。)から意見書が提出されたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし8に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
熱可塑性樹脂であるマトリックス樹脂と前記マトリックス樹脂を含浸させた強化繊維とを備え、シート状の繊維強化樹脂からなるプリプレグが圧縮成形されて構成される立体的な繊維強化樹脂成形体において、
少なくとも平板状の板状部と前記板状部から略垂直に設けられた複数の筒状部とを有し、前記複数の筒状部においては、筒状部同士が連結されている部分を有するとともに、前記板状部側の底部から先端部に亘って前記強化繊維が充填され、
前記板状部及び前記筒状部の前記先端部における前記強化繊維は、何れの位置においても薄層開繊された強化繊維のみがランダムな方向に配向した状態であり、
前記筒状部の先端部における横断面の二値化画像解析において、個々の筒状部における前記強化繊維の面積率の平均値が圧縮成形前の前記プリプレグの繊維体積含有率に対して-5%以上となっていることを特徴とする、繊維強化樹脂成形体。
【請求項2】
前記強化繊維は炭素繊維であり、
前記筒状部の先端部における横断面の二値化画像解析において、繊維強化樹脂成形体全体における最も外周側に位置する筒状部と中央に位置する筒状部との前記炭素繊維の面積率の差が10%以内であることを特徴とする、請求項1に記載の繊維強化樹脂成形体。
【請求項3】
前記筒状部は平面充填された正六角柱からなるハニカム形状を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の繊維強化樹脂成形体。
【請求項4】
前記板状部の厚さは1mm以上であり、前記筒状部の高さは4mm以上であることを特徴とする、請求項1から3の何れか1項に記載の繊維強化樹脂成形体。
【請求項5】
前記強化繊維は前記板状部及び前記筒状部において繊維方向が擬似等方性を有するように複数積層されていることを特徴とする、請求項1から4の何れか1項に記載の繊維強化樹脂成形体。
【請求項6】
前記板状部及び前記筒状部は短冊状に切断された複数のチョップドプリプレグが複数積層されるとともに、前記強化繊維の方向が擬似等方性を有し、
前記チョップドプリプレグは薄層開繊された前記強化繊維が単一方向に引き揃えられるとともに、前記強化繊維に前記マトリックス樹脂を含浸させて構成されるUDシート材からなることを特徴とする、請求項5に記載の繊維強化樹脂成形体。
【請求項7】
前記筒状部の先端部中央に圧子を押し付ける曲げ試験における破断時の圧子荷重と、
前記板状部の前記筒状部が設けられていない方の面の中央に圧子を押し付ける曲げ試験における破断時の圧子荷重との差において、
何れか小さい圧子荷重が大きい方の圧子荷重の50%以上であることを特徴とする、請求項1から6の何れか1項に記載の繊維強化樹脂成形体。
【請求項8】
熱可塑性樹脂であるマトリックス樹脂と前記マトリックス樹脂を含浸させた強化繊維とを備える立体的な繊維強化樹脂成形体の製造方法において、
薄層開繊された前記強化繊維が単一方向に引き揃えられるとともに、前記強化繊維に前記マトリックス樹脂を含浸させて構成されるUDシートを短冊状に切断して複数のチョップドプリプレグとし、
前記複数のチョップドプリプレグを前記強化繊維の方向が擬似等方性を有するように複数積層して前記マトリックス樹脂を溶融固化することでチョップドプリプレグシートとし、平板状の板状部と前記板状部から略垂直に設けられた複数の筒状部とを有するとともに、前記筒状部には筒状部同士が連結されている部分を有する形状に基づく金型内に前記チョップドプリプレグシートを複数積層配置し、
複数積層した前記チョップドプリプレグシートを前記金型で熱プレスすることによって、複数積層した前記チョップドプリプレグシートの前記マトリックス樹脂を溶融させるとともに、前記強化繊維と前記溶融したマトリックス樹脂を前記筒状部における前記板状部側の底部から先端部に亘って充填させ、
充填においては、前記板状部及び前記筒状部の前記先端部における前記強化繊維が、何れの位置においても開繊された強化繊維のみがランダムな方向に配向した状態となり、
成形後の繊維強化樹脂成形体の前記筒状部の先端部における横断面の二値化画像解析において、個々の筒状部における前記強化繊維の面積率の平均値が圧縮成形前の前記プリプレグの繊維体積含有率に対して-5%以上となっていることを特徴とする、繊維強化樹脂成形体の製造方法。」
第3 特許異議申立書に記載された特許異議申立ての理由の概要等
令和7年11月10日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載された特許異議申立ての理由の概要及び証拠方法は次のとおりである。
1 申立理由1(明確性要件)
本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(1)1点目
本件特許発明1に関する繊維強化樹脂成形体は、以下の構成要件を必須の発明特定事項とする。
「前記筒状部の先端部における横断面の二値化画像解析において、個々の筒状部における前記強化繊維の面積率の平均値が圧縮成形前の前記プリプレグの繊維体積含有率に対して-5%以上となっていること」
すなわち、本件特許発明1は、繊維強化樹脂成形体に関するものであり、発明の対象は「圧縮成形後」の成形体であるにもかかわらず、構成要件として、「圧縮成形前のプリプレグの繊維体積含有率」を基準として規定されている。
このような圧縮成形前のパラメータは、圧縮成形後の繊維強化樹脂成形体からは把握し得ない。
そうすると、上記構成要件は、本件特許発明1を特定する発明特定事項として不適であり、そのような構成要件が規定された本件特許発明1は、発明の技術的範囲を客観的に判断できないため、明確でない。
また、「圧縮成形前のプリプレグの繊維体積含有率」を基準として規定する場合において、成形条件(たとえば圧力、温度、時間等)が異なれば、圧縮成形前のプリプレグの繊維体積含有率が同じであっても、最終製品たる本件特許発明1の繊維強化樹脂成形体が異なることは充分にあり得る。
このような観点からも、上記構成要件は、本件特許発明1を特定する発明特定事項として不適であり、そのような構成要件が規定された本件特許発明1は明確でない。
本件特許発明1に従属する本件特許発明2ないし7に関しても同様である。
(2)2点目
1点目に関連して、本件特許発明1は、以下の構成要件を必須の発明特定事項とする。
「前記筒状部の先端部における横断面の二値化画像解析において、個々の筒状部における前記強化繊維の面積率の平均値が圧縮成形前の前記プリプレグの繊維体積含有率に対して-5%以上となっていること」
この構成要件は、圧縮成形前のパラメータに対する圧縮成形後のパラメータの比率を規定しているのであるから、本件特許発明1は、製造方法によって生産物を特定した、いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームに相当するとも考えられる。
しかしながら、プロダクト・バイ・プロセス・クレームにおいて、発明が明確であるというためには、出願時においてその物をその構造または特性により直接特定することが不可能であるか、またはおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られ、そうでない場合には、当該物の発明は不明確であると判断される。
これらの点について、本件特許発明1においては、繊維強化樹脂成形体の「筒状部の先端部における横断面の二値化画像解析において、個々の筒状部における前記強化繊維の面積率の平均値」が算出できるのであるから、その物の構造を直接特定することが可能であることは明らかである。出願時において物の構造または特性を解析することが技術的に不可能であったこと、特許出願の性質上、迅速性等を必要とすることに鑑みて、物の構造または特性を特定する作業を行うことに著しく過大な経済的支出又は時間を要すること、といった事情は見受けられない。
その結果、上記構成要件によって規定された本件特許発明1は、明確ではない。
本件特許発明1に従属する本件特許発明2ないし7に関しても同様である。
2 申立理由2(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許発明1ないし8は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 証拠方法
甲第1号証:特開2021-41557号公報
甲第2号証:特開2011-11362号公報
証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。
4 特許権者が提出した証拠方法
特許権者は令和8年5月20日に提出した意見書に添付して次の証拠方法を提出した。
乙第1号証:特開2021-119253号公報
乙第2号証:特開2020-114931号公報
証拠の表記は、上記意見書の記載におおむね従った。
第4 取消理由の概要
令和8年3月13日付けで通知された取消理由(以下、「取消理由」という。)の概要は次のとおりである。
取消理由(明確性要件)
本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。なお、該取消理由は申立理由1(明確性要件)(2)とおおむね同旨である。
本件特許発明1は「繊維強化樹脂成形体」という物の発明であるが、「前記筒状部の先端部における横断面の二値化画像解析において、個々の筒状部における前記強化繊維の面積率の平均値が圧縮成形前の前記プリプレグの繊維体積含有率に対して-5%以上となっている」という発明特定事項を有するものである。
上記発明特定事項は、「圧縮成形前」のプリプレグの繊維体積含有率に対する「圧縮成形後」の個々の筒状部における強化繊維の面積率の平均値がどうなっているかを規定しているものであるから、請求項1に製造に関して技術的な特徴や条件が付された記載がある場合に該当し、本件特許発明1は、製造方法によって物を特定した発明に相当するといえる。
ここで、物の発明に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、本件特許の出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(以下、「不可能・非実際的事情」という。)が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号、平成24年(受)第2658号)。
しかしながら、本件特許の願書に添付した明細書又は図面には不可能・非実際的事情について何ら記載がなく、当業者にとって不可能・非実際的事情が明らかであるともいえない。
そうすると、本件特許発明1に関して、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書又は図面の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるといえる。
また、本件特許発明2ないし7は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有する発明であるから、本件特許発明1と同様に、本件特許発明2ないし7に関して、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるといえる。
したがって、本件特許発明1ないし7は明確であるとはいえない。
第5 取消理由(明確性要件)についての当審の判断
取消理由(明確性要件)(申立理由1(明確性要件)(2)と同旨である。)と申立理由1(明確性要件)(1)は同じ明確性要件の理由であるから、併せて検討する。なお、事案に鑑み、申立理由1(明確性要件)(1)から検討する。
1 明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書又は図面の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。
2 明確性要件の判断
(1)申立理由1(1)について
ア 判断
本件特許の請求項1ないし7の記載は、上記第2のとおりであり、本件特許の請求項1ないし7の記載には、それら自体に不明確な記載はなく、また、発明の詳細な説明の記載とも整合している。
したがって、本件特許発明1ないし7に関して、特許請求の範囲の記載は、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
イ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の上記第3 1における主張について検討する。
まず、下記(2)アのとおり、「繊維強化樹脂成形体」という物の発明である本件特許発明1を、その構造又は特性により直接特定することには、不可能・非実際的事情があるといえる。
また、ある製品が本件特許発明1の技術的範囲に属するかどうかを判断する際に、当該製品の「圧縮成形前のプリプレグの繊維体積含有率」の値は、第三者は第三者自身が製造していれば当然知っているし、第三者自身が製造していない場合は当該製品を製造している者に確認することによって知ることができ、当該製品が本件特許発明1の技術的範囲に属するかどうかを客観的に判断できるし、特許権者が当該製品の「圧縮成形前のプリプレグの繊維体積含有率」の値がわからず、当該製品が本件特許発明1の技術的範囲に属するかどうかを客観的に判断できなかったとしても、特許権者は第三者ではないから、第三者の利益が不当に害されることにはならない。
さらに、仮に、成形条件(例えば、圧力、温度又は時間等)によって、圧縮成形前のプリプレグの繊維体積含有率が同じで、最終製品たる本件特許発明1の繊維強化樹脂成形体が異なることがあり得たとしても、本件特許発明1の発明特定事項を全て有していれば、本件特許発明1の技術的範囲に属すると判断するから、本件特許発明1が不明確ということにはならない。
したがって、本件特許発明1の対象が「圧縮成形後」の成形体であるにもかかわらず、構成要件として、「圧縮成形前のプリプレグの繊維体積含有率」を基準として規定されているとしても、また、成形条件(例えば、圧力、温度又は時間等)によって、圧縮成形前のプリプレグの繊維体積含有率が同じであっても、最終製品たる本件特許発明1の繊維強化樹脂成形体が異なることは充分にあり得るとしても、本件特許発明1を不明確とすることはできない。
よって、特許異議申立人の上記第3 1における主張は採用できない。
ウ 申立理由1(1)についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由1(1)によっては取り消すことはできない。
(2)取消理由について
ア 判断
上記(1)アのとおり、本件特許の請求項1ないし7の記載には、それら自体に不明確な記載はなく、また、発明の詳細な説明の記載とも整合している。
そして、上記第2のとおり、本件特許発明1は「繊維強化樹脂成形体」という物の発明であるが、「前記筒状部の先端部における横断面の二値化画像解析において、個々の筒状部における前記強化繊維の面積率の平均値が圧縮成形前の前記プリプレグの繊維体積含有率に対して-5%以上となっている」という発明特定事項を有するものである。
上記発明特定事項は、「圧縮成形前」のプリプレグの繊維体積含有率に対する「圧縮成形後」の個々の筒状部における強化繊維の面積率の平均値がどうなっているかを規定しているものであるから、請求項1に製造に関して技術的な特徴や条件が付された記載がある場合に該当し、本件特許発明1は、製造方法によって物を特定した発明に相当するといえる。
ここで、物の発明に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、本件特許の出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(以下、「不可能・非実際的事情」という。)が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号、平成24年(受)第2658号)。
そこで、不可能・非実際的事情が存在するか否かについて、令和8年5月20日に特許権者から提出された意見書における主張を踏まえて、検討する。
本件特許発明1における「前記筒状部の先端部における横断面の二値化画像解析において、個々の筒状部における前記強化繊維の面積率の平均値」を「圧縮成形前の前記プリプレグの繊維体積含有率」に対してではなく、「圧縮成形後」の成形体全体の繊維体積含有率に対して規定する場合、繊維体積含有率の測定は、一般的に、JISK7075による燃焼法、硝酸分解法及び硫酸分解法のいずれかを用いて行うことになるが、これらは所定の大きさの試験片の繊維体積含有率を求めるものであり、評価対象が試験片で代表されるように一様なものであることを前提としており、筒状部及び板状部という具体的な形状を備える成形体全体の繊維体積含有率を算出することは、成形体全体を無数の試験片に分割して評価する必要があり、およそ現実的ではない。すなわち、本件特許発明1における「前記筒状部の先端部における横断面の二値化画像解析において、個々の筒状部における前記強化繊維の面積率の平均値」を「圧縮成形後」の成形体全体の繊維体積含有率に対して規定することはおよそ現実的ではない。
したがって、「繊維強化樹脂成形体」という物の発明である本件特許発明1を、その構造又は特性により直接特定することには、不可能・非実際的事情があるといえる。
そうすると、本件特許発明1に関して、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書又は図面の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
また、本件特許発明2ないし7に関しても、本件特許発明1と同様に、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
したがって、本件特許発明1ないし7は明確である。
イ 取消理由についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、取消理由によっては取り消すことはできない。
第6 取消理由として採用しなかった特許異議申立書に記載された特許異議申立ての理由について
取消理由として採用しなかった特許異議申立書に記載された特許異議申立ての理由は申立理由1(明確性要件)(1)及び申立理由2(甲1に基づく進歩性)である。
申立理由1(明確性要件)(1)については上記第5 2(1)のとおりである。
以下、申立理由2(甲1に基づく進歩性)について検討する。
1 甲1に記載された事項等
(1)甲1に記載された事項
甲1には、「炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材およびその製造方法」に関しておおむね次の事項が記載されている。
・「【0049】
繊維強化樹脂複合材10において、リブ部14の高さHは、10mm以上100mm以下であることが好ましい。リブ部14の高さHを上記範囲にすることにより、繊維強化樹脂複合材10を高い生産性で得ることができる。リブ部14の高さHは、より好ましくは2mm以上80mm以下、更に好ましくは5mm以上50mm以下であり、特に好ましくは8mm以上30mm以下である。」
・「【0051】
繊維強化樹脂複合材10において、ベース部12の厚さKは、0.01mm以上40mm以下であることが好ましい。リブ部14の高さHと同様に、ベース部12の厚さKを上記範囲にすることにより、繊維強化樹脂複合材10を高い生産性で得ることができる。ベース部12の厚さKは、より好ましくは0.1mm以上10mm以下であり、更に好ましくは0.2mm以上5mm以下であり、特に好ましくは0.3mm以上2mm以下である。」
・「【0065】
一枚のプリプレグ20の厚みは、製造すべき繊維強化樹脂複合材10に応じて種々選択することができ、リブ部14の高さH及びベース部12の厚さKにも依存するが、0.03mm以上0.60mm以下とすることができる。プリプレグ20の厚さの上限値は、好ましくは0.50mm以下であり、より好ましくは0.40mm以下である。一方、プリプレグ20の厚さの下限値は、好ましくは0.04mm以上であり、より好ましくは0.05mm以上である。」
・「【0111】
[実施例1]
次のようにして実施例1に係る炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材を作製した。
【0112】
フィラメント数24000本の炭素繊維束(台湾プラスチックス社製、製品名:TC-35)に、塩化ビニル樹脂(ロンシール社製、製品名:ロンエースNP)を含浸した一軸方向性炭素繊維プリプレグを、平面視形状を210mm×210mmとして、合計で12枚用意した。用意した12枚のプリプレグを順に積層していくことで、積層体を作製した。12枚のプリプレグは、積層方向に沿って隣り合うプリプレグにおける炭素繊維の配列方向が直交するようにして、積層した。次に、積層体の各辺を七等分するようにしてプレス裁断機で切断して、積層体を49個の積層体小片に分断した。各積層体小片は、30mm×30mmの平面形状を有するようにした。ただし、49個の積層体小片の位置や向きは変更せずに維持した。すなわち、各積層体小片のその他の積層体小片に対する位置や向きは、積層体の切断前後で変化しないようにした。その後、195℃に設定した金型を用いて7分間の加熱プレス成形を行い、図1~図3と同様の炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材を作製した。
【0113】
製造対象とした炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材の形状は以下の通りとした。ベース部の平面形状は214mm×214mmの正方形状とし、厚みは0.8mmとした。リブ部は、ベース部の一辺と平行な第1配列方向に50mmの離間間隔で配列された三つの第1リブ部と、第1配列方向に直交してベース部の他の一辺と平行な第2配列方向に50mmの離間間隔で配列された三つの第2リブ部とを有するようにした。各第1リブ部は第1配列方向に直交する第1長手方向に直線状に延び、各第2リブ部14Bは第2配列方向に直交する第2長手方向に直線状に延びるようにした。リブ部は、その長手方向に直交する断面において、両側面が法線方向に対して1°傾斜するようにして、先細りする形状とした。リブ部のベース部から最も離間する先端(末端)での幅を1mmとした。」
・「【0119】
[比較例2]
次のようにして比較例2に係る炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材を作製した。
【0120】
実施例1と同様のプリプレグを12枚用意した。用意した12枚のプリプレグを順に積層していくことで、積層体を作製した。この積層体において、12枚のプリプレグにおける炭素繊維の配列方向が平行となるようにした。次に、積層体の各辺を七等分するようにして切断して、49個の積層体小片にプレス裁断機で分断した。588(=49×12)個に分断されたプリプレグ片を含む積層体を、高さ30cmの位置から落としてプリプレグ片をランダムに配置した後、手動で厚みが均一となるようにプリプレグ片の配置を均し、ランダム配列された多数のプリプレグ片を含む被加工体を作製した。以上のようにして得られた被加工体を、実施例1と同様に加熱プレス成形して、炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材を作製した。」
・「【0122】
[評価2:目視による外観評価]
得られた炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材に対し、リブ部の末端(先端)まで樹脂によって十分に成形されているか、及び、炭素繊維が充填されずに樹脂特有の色が残る部位が存在しているかの二点で目視確認を行った。塩ビ樹脂特有の乳白色のみの箇所が確認された場合、炭素繊維の含浸不十分と判断した。実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2のそれぞれの外観評価が、次の「○」、「△」および「×」のいずれに該当するかを確認した結果を、表1の「外観評価」の欄に示す。
○:リブ部の末端まで炭素繊維を含む樹脂が含浸されている。リブ部にワレ、カケ等が無く、樹脂のみの色も確認されない。
△:リブ部の末端まで樹脂が含浸されているが、一部炭素繊維の含浸が不十分な箇所が確認される。
×:リブ部にワレ、カケが確認される。
【0123】
【表1】
[図:0001437406000001.jpg]
」
・「
[図:0001437406000002.jpg]
」
(2)甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を、特に比較例2に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1物発明」及び「甲1製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1物発明>
「フィラメント数24000本の炭素繊維束(台湾プラスチックス社製、製品名:TC-35)に、塩化ビニル樹脂(ロンシール社製、製品名:ロンエースNP)を含浸した一軸方向性炭素繊維プリプレグを、平面視形状を210mm×210mmとして、合計で12枚用意し、用意した12枚のプリプレグを順に積層していくことで、積層体を作製し、この積層体において、12枚のプリプレグにおける炭素繊維の配列方向が平行となるようにし、次に、積層体の各辺を七等分するようにして切断して、49個の積層体小片にプレス裁断機で分断し、588(=49×12)個に分断されたプリプレグ片を含む積層体を、高さ30cmの位置から落としてプリプレグ片をランダムに配置した後、手動で厚みが均一となるようにプリプレグ片の配置を均し、ランダム配列された多数のプリプレグ片を含む被加工体を作製し、以上のようにして得られた被加工体を、その後、195℃に設定した金型を用いて7分間の加熱プレス成形を行い、作成したリブ部の末端まで炭素繊維を含む樹脂が含浸されている図1~図3と同様の炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材。」(当審注:「図1~3」については、上記(1)参照。以下、同様。)
<甲1製法発明>
「フィラメント数24000本の炭素繊維束(台湾プラスチックス社製、製品名:TC-35)に、塩化ビニル樹脂(ロンシール社製、製品名:ロンエースNP)を含浸した一軸方向性炭素繊維プリプレグを、平面視形状を210mm×210mmとして、合計で12枚用意し、用意した12枚のプリプレグを順に積層していくことで、積層体を作製し、この積層体において、12枚のプリプレグにおける炭素繊維の配列方向が平行となるようにし、次に、積層体の各辺を七等分するようにして切断して、49個の積層体小片にプレス裁断機で分断し、588(=49×12)個に分断されたプリプレグ片を含む積層体を、高さ30cmの位置から落としてプリプレグ片をランダムに配置した後、手動で厚みが均一となるようにプリプレグ片の配置を均し、ランダム配列された多数のプリプレグ片を含む被加工体を作製し、以上のようにして得られた被加工体を、その後、195℃に設定した金型を用いて7分間の加熱プレス成形を行い、リブ部の末端まで炭素繊維を含む樹脂が含浸されている図1~図3と同様の炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材を作成する方法。」
2 本件特許発明1について
(1)対比
本件特許発明1と甲1物発明を対比する。
甲1物発明における「フィラメント数24000本の炭素繊維束(台湾プラスチックス社製、製品名:TC-35)」は本件特許発明1における「強化繊維」に相当し、以下、同様に、「塩化ビニル樹脂(ロンシール社製、製品名:ロンエースNP)」は「熱可塑性樹脂であるマトリックス樹脂」に、「一軸方向性炭素繊維プリプレグを、平面視形状を210mm×210mmとして、合計で12枚用意し、用意した12枚のプリプレグを順に積層していくことで、積層体を作製し、この積層体において、12枚のプリプレグにおける炭素繊維の配列方向が平行となるようにし、次に、積層体の各辺を七等分するようにして切断して、49個の積層体小片にプレス裁断機で分断し、588(=49×12)個に分断されたプリプレグ片を含む積層体を、高さ30cmの位置から落としてプリプレグ片をランダムに配置した後、手動で厚みが均一となるようにプリプレグ片の配置を均し、ランダム配列された多数のプリプレグ片を含む被加工体を作製し、以上のようにして得られた被加工体」は「シート状の繊維強化樹脂からなるプリプレグ」に、「その後、195℃に設定した金型を用いて7分間の加熱プレス成形を行い作成した、リブ部の末端まで炭素繊維を含む樹脂が含浸されている図1~図3と同様の炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材」は「圧縮成形されて構成される立体的な繊維強化樹脂成形体」に、それぞれ相当する。
また、甲1物発明における「リブ部の末端まで炭素繊維を含む樹脂が含浸されている図1~図3と同様の炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材」は本件特許発明1における「少なくとも平板状の板状部と前記板状部から略垂直に設けられた複数の筒状部とを有し、前記複数の筒状部においては、筒状部同士が連結されている部分を有するとともに、前記板状部側の底部から先端部に亘って前記強化繊維が充填されている、繊維強化樹脂成形体」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「熱可塑性樹脂であるマトリックス樹脂と前記マトリックス樹脂を含浸させた強化繊維とを備え、シート状の繊維強化樹脂からなるプリプレグが圧縮成形されて構成される立体的な繊維強化樹脂成形体において、
少なくとも平板状の板状部と前記板状部から略垂直に設けられた複数の筒状部とを有し、前記複数の筒状部においては、筒状部同士が連結されている部分を有するとともに、前記板状部側の底部から先端部に亘って前記強化繊維が充填されている、繊維強化樹脂成形体。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1a>
本件特許発明1においては「前記板状部及び前記筒状部の前記先端部における前記強化繊維は、何れの位置においても薄層開繊された強化繊維のみがランダムな方向に配向した状態であり」と特定されているのに対し、甲1物発明においてはそのようには特定されていない点。
<相違点1b>
本件特許発明1においては「前記筒状部の先端部における横断面の二値化画像解析において、個々の筒状部における前記強化繊維の面積率の平均値が圧縮成形前の前記プリプレグの繊維体積含有率に対して-5%以上となっている」と特定されているのに対し、甲1物発明においてはそのようには特定されていない点。
(2)判断
事案に鑑み、相違点1bについて検討する。
甲1には、甲1物発明において、相違点1bに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、甲2にもない。
したがって、甲1物発明において、甲1及び2に記載された事項を考慮しても、相違点1bに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1は「軽量で強度や剛性に優れるだけでなく、同等の重量または同等の強度の平板と比較して、より厚いものとすることができ、断熱性や座屈荷重等の面においても優れるという効果がある。また、曲げ方向によらない優れた強靭性と騒音に対する高い透過損失を有する繊維強化樹脂成形体とすることができるという効果がある。」(本件特許の発明の詳細な説明の【0062】)という本件特許発明1の構成から当業者が予測することのできた範囲の効果を超える顕著な効果を奏するものである。
(3)特許異議申立人の主張について
ア 特許異議申立人の主張の概要
特許異議申立人は、特許異議申立書の第33及び34ページにおいて、おおむね次のとおり主張する。
「甲第1号証には、甲第1号証の比較例2の炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合体が、構成要件1Gを具備しているか否かについて明記されていない。
しかしながら、申立ての理由1(明確性要件違反)に関連して上記したとおり、構成要件1Gは、圧縮成形後の繊維強化樹脂成形体において、圧縮成形前の状態を基準として規定されており、何ら本件特許発明1の繊維強化樹脂成形体を特定する構成要件ではない。
そして、甲第1号証の比較例2において、構成要件1Gを具備させることは、以下のとおり、当業者の設計的事項である。
すなわち、・・・(略)・・・
そうすると、甲2発明の実施例3において、リブ先端部における強化繊維の面積率の平均値は、圧縮成形前のプリプレグの繊維体積含有率に対して、0体積%(=100×(40-40)/40)と算出されるから、-5%以上であり、構成要件1Gを具備する。
そうすると、当業者は、甲第1号証の比較例2において、圧縮成形前のプリプレグの繊維体積含有率に対する、リブ部における強化繊維の面積率の平均値を、甲2発明と同様の値(たとえば0%)とし、構成要件1Gを具備させることについて、何ら困難ではない。」(当審注:「構成要件1G」は「前記筒状部の先端部における横断面の二値化画像解析において、個々の筒状部における前記強化繊維の面積率の平均値が圧縮成形前の前記プリプレグの繊維体積含有率に対して-5%以上となっている」という事項のことである。)
イ 特許異議申立人の主張についての判断
上記主張について検討する。
「前記筒状部の先端部における横断面の二値化画像解析において、個々の筒状部における前記強化繊維の面積率の平均値が圧縮成形前の前記プリプレグの繊維体積含有率に対して-5%以上となっている」という事項は、上記第5 2(2)アのとおり、物の発明である本件特許発明1をその構造又は特性により直接特定することには不可能・非実際的事情が存在するから、「何ら本件特許発明1の繊維強化樹脂成形体を特定する構成要件ではない」とはいえない。
また、仮に、甲2の実施例3において、「リブ先端部における強化繊維の面積率の平均値は、圧縮成形前のプリプレグの繊維体積含有率に対して、0体積%(=100×(40-40)/40)と算出され」、甲2の実施例3が「前記筒状部の先端部における横断面の二値化画像解析において、個々の筒状部における前記強化繊維の面積率の平均値が圧縮成形前の前記プリプレグの繊維体積含有率に対して-5%以上となっている」という事項を有するといえたとしても、甲2の実施例3はガラス繊維にポリプロピレンを含浸させたプリプレグをスタンピング成形したものであり、炭素繊維に塩化ビニル樹脂を含浸させたプリプレグを加熱プレス成形した甲1物発明とは、マトリックス樹脂の種類及び強化繊維の種類が異なるものであるし、また、甲2の実施例3の成形品と甲1物発明の形状も異なるものであるから、甲1物発明に甲2の実施例3として記載された事項を適用する動機付けがあるとはいえず、「甲第1号証の比較例2において、構成要件1Gを具備させることは、以下のとおり、当業者の設計的事項である。」とはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(4)本件特許発明1についてのまとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1物発明並びに甲1及び2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
3 本件特許発明2ないし7について
本件特許発明2ないし7はいずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1物発明並びに甲1及び2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
4 本件特許発明8について
(1)対比
本件特許発明8は本件特許発明1を製造する方法の発明に相当し、甲1製法発明は甲1物発明を製造する方法の発明に相当する。
このことを踏まえて、本件特許発明8と甲1製法発明を対比するに、両者は少なくとも次の点で相違する。
<相違点8a>
本件特許発明8においては「充填においては、前記板状部及び前記筒状部の前記先端部における前記強化繊維が、何れの位置においても開繊された強化繊維のみがランダムな方向に配向した状態となり」と特定されているのに対し、甲1製法発明においてはそのようには特定されていない点。
<相違点8b>
本件特許発明8においては「成形後の繊維強化樹脂成形体の前記筒状部の先端部における横断面の二値化画像解析において、個々の筒状部における前記強化繊維の面積率の平均値が圧縮成形前の前記プリプレグの繊維体積含有率に対して-5%以上となっている」と特定されているのに対し、甲1製法発明においてはそのようには特定されていない点。
(2)判断
事案に鑑み、相違点8bについて検討する。
相違点8bは相違点1bと実質的に同じであるから、それについての判断も同じである。すなわち、甲1製法発明において、甲1及び2に記載された事項を考慮しても、相違点8bに係る本件特許発明8の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明8は「軽量で強度や剛性に優れるだけでなく、同等の重量または同等の強度の平板と比較して、より厚いものとすることができ、断熱性や座屈荷重等の面においても優れるという効果がある。また、曲げ方向によらない優れた強靭性と騒音に対する高い透過損失を有する繊維強化樹脂成形体とすることができるという効果がある。」という本件特許発明8の構成から当業者が予測することのできた範囲の効果を超える顕著な効果を奏するものである。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の特許異議申立書の第45及び46ページにおける主張は、上記2(3)アと実質的に同様の主張であるから、それについての判断は上記2(3)イと同様である。
すなわち、特許異議申立人の第45及び46ページにおける主張は採用できない。
(4)本件特許発明8についてのまとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明8は甲1製法発明並びに甲1及び2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
5 むすび
したがって、本件特許発明1ないし8は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は同法同条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当せず、申立理由2によっては取り消すことはできない。
第7 結語
上記第5及び6のとおり、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立ての理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-701057