特許異議申立
2023-701090
構造体の製造方法
- 審判番号
- 2023-701090
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-505128
- 登録番号
- 7256481
- 請求日
- 2023年10月12日
- 審決日
- 2024年08月26日
- 公報発行日
- 2025年01月31日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】コニカミノルタ株式会社
- 【権利者代理人】福田 充広
- 【異議申立人】小松 一枝
- 【異議申立人】前田 知子
- 審判長/審判官
- 審判長 神谷 健一
- 審判官 宮澤 浩
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.121-ZDA(B29C) / P1651.537-ZDA(B29C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条特許法36条6項1号特許法113条2項特許法113条4項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第126条第5項、特許法第126条第6項、特許法第29条、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第113条第2項、特許法第113条第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7256481号発明「構造体の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7256481号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、〔1-15〕について訂正することを認める。
特許第7256481号の請求項1ないし3、5ないし15に係る特許を取り消す。
同請求項4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続等の経緯
特許第7256481号の請求項1~15に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願(特願2020-505128号)は、2019年(平成31年)3月8日(先の出願に基づく優先権主張 2018年(平成30年)3月9日)を国際出願日とする出願であって、令和5年4月4日に特許権の設定の登録がされ、同月12日に特許掲載公報が発行された。
本件特許について、その特許掲載公報発行の日から6月以内である令和5年10月12日に、特許異議申立人 小松一枝、及び、前田知子(両者をあわせて以下「申立人」という。)から全請求項に対して特許異議の申立てがされた。その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
なお、令和6年5月27日付けの取消理由通知に対し、特許権者からの意見書等の提出はなされなかった。
令和5年12月22日付け:取消理由通知
令和6年 3月11日 :訂正請求書(この訂正請求書による訂正の
請求を、以下「本件訂正請求」という。)
令和6年 3月11日 :意見書(特許権者)
令和6年 4月26日 :意見書(申立人)
令和6年 5月27日付け:取消理由通知<決定の予告>
第2 本件訂正請求
1 請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、特許第7256481号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~15について訂正することを求める、というものである。
2 訂正の内容
本件訂正請求により特許権者が求める訂正の内容は、以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「積層された構造体」と記載されているのを、「積層され、前記第1部材の線膨張係数と、前記第2部材の線膨張係数とは異なる構造体」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2、3及び5~15も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4に「前記第1部材を形成する材料は、無機材料である、請求項1から3までのいずれか一項に記載の構造体の製造方法。」と記載されているのを、「基材としての第1部材と、前記第1部材に対向し前記第1部材とは異なる樹脂材料で形成され表面に形状を有する第2部材とが積層された構造体の製造方法であって、前記第1部材と前記第2部材との接合のために、少なくとも前記第2部材の表面を活性化状態にする活性化処理を行う表面活性化工程と、前記第2部材を少なくとも前記第2部材の樹脂材料の荷重撓み温度から30℃引いた基準温度以上ガラス転移温度以下の温度下で加圧して、前記第1部材に密着接合する接合工程と、を備え、前記第1部材を形成する材料は、無機材料である、構造体の製造方法。」に訂正する(請求項4の記載を引用する請求項6~15も同様に訂正する。)。
(3)一群の請求項であること
本件訂正請求による訂正前の請求項1~3及び5~15について、請求項2、3及び5~15は、請求項1の記載を引用しているものであり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。また、本件訂正請求による訂正前の請求項4及び6~15について、請求項6~15は、請求項4の記載を引用しているものであり、訂正事項2によって記載が訂正される請求項4に連動して訂正されるものである。
したがって、本件訂正請求による訂正は、一群の請求項1~15に対して請求されたものである。
3 訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の請求項1に記載の「第1部材」と、「第2部材」とが積層された「構造体」について、「前記第1部材の線膨張係数と、前記第2部材の線膨張係数とは異なる」との要件を付加する訂正である。訂正事項1による訂正により、「第1部材」と、「第2部材」との組み合わせが限定されることになる。
そうすると、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。請求項1の記載を引用する請求項2、3及び5~15についても同様である。
イ 新規事項の有無
本件特許明細書の段落【0039】には、「以上説明した構造体の製造方法によれば、第1部材である基板10と第2部材である第1及び第2レンズアレイ21,22とを表面活性化状態で直接接合させることにより、第1部材と第2部材とが異なる材料で形成されていても、表面に形状を有する第2部材の線膨張の特性を第1部材と同等にすることができる。」と記載されている。当該記載に基づけば、本件特許明細書には、第1部材の線膨張係数と第2部材の線膨張係数とが異なることが記載されていたといえる。
そうすると、訂正事項1による訂正は、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。請求項1の記載を引用する請求項2、3及び5~15についても同様である。
ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の有無
前記アに記載したとおり、訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲を減縮するものである。
したがって、訂正事項1による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。請求項1の記載を引用する請求項2、3及び5~15についても同様である。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2による訂正は、本件訂正請求による訂正前の請求項4が請求項1から3までのいずれか一項の記載を引用していたところ、請求項1の記載を追加するとともに他の請求項の記載を引用しないものとするものである。
そうすると、訂正事項2による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正に該当する。請求項4の記載を引用する請求項6~15についても同様である。
イ 新規事項の有無
前記アに記載したとおり、訂正事項2による訂正は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとするものである。
したがって、訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であることは明らかであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。請求項4の記載を引用する請求項6~15についても同様である。
ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の有無
前記アに記載したとおり、訂正事項2による訂正は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとするものである。
したがって、訂正事項2による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。請求項4の記載を引用する請求項6~15についても同様である。
4 まとめ
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、結論に記載のとおり、特許第7256481号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~15について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
本件特許の請求項1~15に係る発明(以下「本件特許発明1」~「本件特許発明15」という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~15に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。
「【請求項1】
基材としての第1部材と、前記第1部材に対向し前記第1部材とは異なる樹脂材料で形成され表面に形状を有する第2部材とが積層され、前記第1部材の線膨張係数と、前記第2部材の線膨張係数とは異なる構造体の製造方法であって、
前記第1部材と前記第2部材との接合のために、少なくとも前記第2部材の表面を活性化状態にする活性化処理を行う表面活性化工程と、
前記第2部材を少なくとも前記第2部材の樹脂材料の荷重撓み温度から30℃引いた基準温度以上ガラス転移温度以下の温度下で加圧して、前記第1部材に密着接合する接合工程と、
を備える、構造体の製造方法。
【請求項2】
前記接合工程後、前記ガラス転移温度より高い温度で加熱する加熱工程を備える、請求項1に記載の構造体の製造方法。
【請求項3】
前記第2部材を形成する樹脂材料は、熱可塑性樹脂である、請求項1及び2のいずれか一項に記載の構造体の製造方法。
【請求項4】
基材としての第1部材と、前記第1部材に対向し前記第1部材とは異なる樹脂材料で形成され表面に形状を有する第2部材とが積層された構造体の製造方法であって、
前記第1部材と前記第2部材との接合のために、少なくとも前記第2部材の表面を活性化状態にする活性化処理を行う表面活性化工程と、
前記第2部材を少なくとも前記第2部材の樹脂材料の荷重撓み温度から30℃引いた基準温度以上ガラス転移温度以下の温度下で加圧して、前記第1部材に密着接合する接合工程と、
を備え、
前記第1部材を形成する材料は、無機材料である、構造体の製造方法。
【請求項5】
前記加熱工程と同時に、前記第2部材に立体形状を転写させる転写工程を備える、請求項2に記載の構造体の製造方法。
【請求項6】
前記接合工程後に、前記第2部材に立体形状を転写させる転写工程を備える、請求項1から4までのいずれか一項に記載の構造体の製造方法。
【請求項7】
前記接合工程前に、前記第2部材に立体形状を転写させる転写工程を備える、請求項1から4までのいずれか一項に記載の構造体の製造方法。
【請求項8】
前記第2部材は、前記第1部材の両面に接合される、請求項1から7までのいずれか一項に記載の構造体の製造方法。
【請求項9】
前記接合工程後、又は前記接合工程後に行われる加熱工程と同時に、前記第1部材の両面に前記第2部材に立体形状を転写させる転写工程を行う、請求項8に記載の構造体の製造方法。
【請求項10】
前記加熱工程は、170℃以上の環境下で行う、請求項2、5及び9のいずれか一項に記載の構造体の製造方法。
【請求項11】
前記転写工程において、10MPa以下の圧力で加圧する、請求項5、6、7及び9のいずれか一項に記載の構造体の製造方法。
【請求項12】
前記接合工程において、10MPa以下の圧力で加圧する、請求項1から11までのいずれか一項に記載の構造体の製造方法。
【請求項13】
前記表面活性化工程前に、前記第1部材の前記第2部材に対向する表面上にシランカップリング剤を有する接着層を形成する、請求項1から12までのいずれか一項に記載の構造体の製造方法。
【請求項14】
前記表面活性化工程で、前記第1部材の表面を活性化状態にする活性化処理を行う、請求項1から12までのいずれか一項に記載の構造体の製造方法。
【請求項15】
前記表面活性化工程において、前記第1部材及び前記第2部材に対して紫外線照射及びプラズマ処理、コロナ処理、オゾン処理のいずれかを用いて表面を活性化する、請求項1から14までのいずれか一項に記載の構造体の製造方法。」
第4 取消理由(決定の予告)の概要
本件特許の特許請求の範囲の請求項に係る発明に対して、令和6年5月27日付けで特許権者に通知した取消しの理由、及び、引用文献は、次のとおりである。
1 取消理由1(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の請求項1~3、5~13の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
2 取消理由2(進歩性)
本件特許は、請求項1、3、7、8、11、12、14、15に係る発明が、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
甲1:特開2017-217617号公報
甲2:「デルペットTM(光学グレード)の物性」という表題が付され
た文献
URL:https://www.akchem.com/pmma/products/pdf/
be1866519c0c3470bcccbb25128385af_3.pdf
甲3:竹村健二, "成形材料(29) -成形材料の現状と展望-",
成形加工, 第15巻 第8号, 第562~566頁, 2003
甲4:特開2013-28747号公報
甲5:国際公開第2007/119552号
甲6:「ZEONEX(R) 690R Product Data Sheet」という表題が付された
文献
URL:https//:www.zeonex.com/downloads/datasheets/
pharmaceuticals/ZEONEX_690R.pdf
甲7:「ZEONEX(R) 330R Product Data Sheet」という表題が付された
文献
URL:https//:www.zeonex.com/downloads/datasheets/
optics/ZEONEX_330R.pdf
甲8:「ZEONEX(R) 480R Product Data Sheet」という表題が付された
文献
URL:https//:www.zeonex.com/downloads/datasheets/
optics/ZEONEX_480R.pdf
甲9:特開2010-47676号公報
甲10:特開2013-37007号公報
甲11:特開2005-103399号公報
甲12:国際公開第03/016365号
甲13:特開2015-199144号公報
甲14:特開2014-177123号公報
第5 取消理由1(サポート要件)についての当合議体の判断
本件特許の発明の詳細な説明の段落【0007】の記載に基づけば、本件特許発明が解決しようとする課題は、「線膨張の影響を抑制しつつ、低コスト、高機能、及び高生産性を兼ね備えた積層型の構造体の製造方法を提供すること」にあるといえる。ここで、「線膨張の影響」に関し、背景技術について記載された段落【0002】には、「高精度な寸法精度を要する比較的長い形状を有するデバイスを作製する場合、環境温度による線膨張の影響が大きな問題となっている。これに対し、低線膨張係数の材料を加工して上記のようなデバイスを作製することが考えられるが、低コスト、高機能、高生産性の全てを達成することは難しい。」との記載があることから、本件特許の明細書における「線膨張の影響」とは、作製された構造体の線膨張が大きくなることを意味すると理解できる。
本件特許の発明の詳細な説明の段落【0013】には、「基板10は、例えば可視域で光透過性を有する板状部材であり、無機材料であるガラスで形成されたガラス基板である。無機材料の線膨張は比較的小さいため、第1及び第2レンズアレイ21,22上の立体形状の線膨張による変化をより抑えることができる。」と記載され、また、段落【0039】には、「以上説明した構造体の製造方法によれば、第1部材である基板10と第2部材である第1及び第2レンズアレイ21,22とを表面活性化状態で直接接合させることにより、第1部材と第2部材とが異なる材料で形成されていても、表面に形状を有する第2部材の線膨張の特性を第1部材と同等にすることができる。」と記載されている。これらの記載によれば、「線膨張の影響」を抑制するためには、線膨張が比較的小さいとされる「無機材料」からなる第1部材を用いることが必要であると理解できる。
しかし、本件特許発明1~3は、第1部材及び第2部材について、「前記第1部材の線膨張係数と、前記第2部材の線膨張係数とは異なる」と特定するのみであり、第1部材について、線膨張が比較的小さいとされる「無機材料」に特定されているものでもない。そうすると、第1部材として線膨張が比較的大きい材料をも含むもの、すなわち、発明が解決しようとする課題を解決できないものを含むものであることは明らかである。また、請求項1~3のいずれかの記載を引用して特定する本件特許発明5~15についても同様である。
特許権者は、令和6年3月11日付けの意見書において、「線膨張係数が相対的に異なる2つの部材を接合する場合であっても、上記課題を解決する」(第3頁第31~32行)、「第1部材が無機材料である場合に限らず発明が解決しようとする課題を解決できる」(第4頁第1~2行)と主張している。しかし、上記のとおり、本件特許発明が解決しようとする課題は、「線膨張の影響を抑制しつつ、低コスト、高機能、及び高生産性を兼ね備えた積層型の構造体の製造方法を提供すること」であり、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の【背景技術】(特に【0002】)の項や【発明を実施するための形態】(特に【0013】)の項の記載を見るに、本件特許における「線膨張の影響」とは、作製された構造体の線膨張が大きくなることを意味するものと解される。そして、第1部材の線膨張係数が第2部材の線膨張係数より大きい場合や、第2部材の立体形状の線膨張による変化を抑えることができる程度に第1部材の線膨張が比較的小さいといえるものでない場合に、課題を解決できないことは明らかである。
したがって、本件特許発明1~3、5~15は、当業者が発明が解決しようとする課題を解決できるように特定されているということができないから、本件特許発明1~3、5~15に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
第6 取消理由2(進歩性)についての当合議体の判断
1 引用文献
(1)甲1
ア 甲1の記載事項
特許異議申立人が甲第1号証として引用し、本件特許において優先権主張された先の出願前に公開された引用文献である、特開2017-217617号公報(以下「甲1」という。)には、以下の記載事項がある。なお、合議体が発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。以下の引用文献についても同様である。
(ア)技術分野
「【0001】
本発明は、流路デバイスに関する。」
(イ)発明が解決しようとする課題
「【0005】
流路内で気泡が発生しにくい流路デバイスの実現が望まれている。」
(ウ)課題を解決するための手段
「【0006】
発明者らは、鋭意研究の結果、溝を有する基材とその溝を覆う被覆材とを接合して作製される流路デバイスにおいて、被覆材における溝に対向する部分の接触角と基材の溝部分の接触角との差を所定範囲内とすることで、流路内での気泡の発生を抑制できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいてなされたものである。
【0007】
本発明に係る流路デバイスは、
溝を有する基材と、
前記溝を覆うように前記基材に一体化される被覆材と、を備え、
前記被覆材における前記溝に対向する部分の純水に対する接触角(θ1)と、前記基材の溝部分の純水に対する接触角(θ2)との差(θ1-θ2)が、-30°以上30°以下である。」
(エ)発明の効果
「【0008】
この構成によれば、溝によって区画される流路内で気泡が発生しにくい流路デバイスを提供することができる。」
(オ)発明を実施するための形態
「【0022】
流路デバイスの実施形態について、図面を参照して説明する。図1及び図2に示すように、流路デバイス1は、溝23を有する基材2と、溝23を覆うように基材2に一体化される被覆材3とを備えている。基材2と被覆材3との間に、流路28が形成されている。流路28は、基材2における溝23の内面と、被覆材3における溝23に対向する部分の内面とによって区画形成されている。」
合議体注:図1及び図2は次のものである。
[図:0001418218000001.jpg]
「【0023】
基材2は、例えば1mm~5mm程度の厚みを有する数cm角の板状に形成されている。本実施形態では、基材2は、第一貫通孔21と、第二貫通孔22と、溝23と、凹部24とを含む。…
【0025】
基材12は、例えば基材形成用樹脂組成物を用いて作製することができる。…
【0032】
なお、基材2は、上述した基材形成用樹脂組成物を用いて作製する以外に、市販の板状樹脂材をそのまま又は加工して用いても良い。また、基材12は、樹脂製に限定されることなく、例えばガラス製又はシリコン製等であっても良い。
【0033】
図1及び図2に示すように、基材2に一体化される被覆材3は、本実施形態の第一態様によれば、フィルム材31と当該フィルム材31に積層された接着層32とを含む。この第一態様では、基材2とフィルム材31とが接着層32を介して一体化されて流路デバイス1が構成されている。…
【0035】
フィルム材31は、例えばフィルム材形成用樹脂組成物を用いて作製することができる。…
【0042】
接着層32は、例えば接着層形成用樹脂組成物を用いて作製することができる。接着層形成用樹脂組成物に含まれる樹脂としては、特に限定されないが、例えば(メタ)アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリビニルエーテル系樹脂、及びウレタン系樹脂(粘着剤)を例示することができる。中でも、耐熱性、入手容易性、及び原料コストの観点から、接着層形成用樹脂組成物は、(メタ)アクリル系樹脂を含むことが好ましい。…
【0046】
図3に示すように、基材2に一体化される被覆材3は、本実施形態の第二態様として、単層の流体非透過性のフィルム材31から構成されても良い。すなわち、被覆材3は、フィルム材31だけで構成されても良い。この第二態様では、上述した第一態様とは異なり、接着層32を介することなく、基材2とフィルム材31とが直接一体化されて流路デバイス1が構成される。」
合議体注:図3は次のものである。
[図:0001418218000002.jpg]
「【0047】
フィルム材31の厚みや、当該フィルム材31を作製するためのフィルム材形成用樹脂組成物は、第一態様の被覆材3におけるフィルム材31と同様であって良い。本態様のように被覆材3が単層のフィルム材31で構成されて基材2とフィルム材31とが直接一体化される場合には、フィルム材形成用樹脂組成物は、基材形成用樹脂組成物と同一又は同種であることが好ましい。すなわち、基材2とフィルム材31とが同一又は類似の材質で構成されることが好ましい。このようにすれば、得られる流路デバイス1において、流路28全体の内面を実質的に同じ材質で構成することができ、流路28内での流体の流れを容易に均一化することができる。…
【0049】
流路デバイス1の製造方法は、基材準備工程と、被覆材準備工程と、一体化工程とを含む。基材準備工程と被覆材準備工程とは、順不同で実行されて良い。一体化工程は、基材準備工程及び被覆材準備工程の両方が完了した後に実行される。また、流路デバイス1の製造方法は、必要に応じて、表面処理工程(後述する第一表面処理工程及び第二表面処理工程の少なくとも一方)をさらに含んでも良い。
【0050】
基材準備工程は、一方の主面に溝23を有する基材2を準備する工程である。基材準備工程では、例えば基材形成用樹脂組成物からなる板状母材又は市販の板状樹脂材に対して、切削加工、エッチング加工、フォトリソグラフィー、レーザーアブレーション、及びホットエンボス等の手法で溝23を形成する。或いは、所定の金型と基材形成用樹脂組成物とを用い、射出成形等の手法により、溝23が形成された基材2を直接的に作製しても良い。基材準備工程では、溝23と共に、第一貫通孔21、第二貫通孔22、及び凹部24をも同様にして形成する。
【0051】
基材準備工程の後、一体化工程の前に、溝23を有する基材2に対して表面処理を施す表面処理工程(第一表面処理工程)を実行しても良い。表面処理は、基材2の、溝23が形成された主面に対して施される。表面処理としては、例えばプラズマ処理、コロナ放電処理、エキシマ処理、親水性ポリマーによる表面コート処理等を例示することができる。親水性ポリマーとしては、ポリエチレングリコール(PEG)、エバール(EVOH)、ポバール(PVOH)、又はホスホリルコリン基を有するポリマーを成分とするもの等を例示することができる。これらの表面処理を施すことで、流路28の内面(両側面及び底面)を親水化して、流体の流れを良くすることができる。また、少なくとも、流路28の内面の濡れ性や帯電性を調整することができる。よって、例えば流路デバイス1を微小電気泳動デバイスとして用いる場合に、電気浸透流(Electroosmotic Flow;EOF)の制御を容易に行うことができる。
【0052】
被覆材準備工程は、被覆材3を準備する工程である。被覆材準備工程では、第一態様においては、フィルム材31の片面に接着層32を形成して、フィルム材31と接着層32との積層体からなる被覆材3を準備する。…
【0053】
第二態様においては、例えばフィルム材形成用樹脂組成物を用いて薄膜状のフィルム材31を形成して、単層のフィルム材31からなる被覆材3を準備する。
【0054】
被覆材準備工程の後、一体化工程の前に、被覆材3に対して表面処理を施す表面処理工程(第二表面処理工程)を実行しても良い。表面処理は、被覆材3の、一方の主面(第一態様においては接着層32の表面)に対して施される。表面処理としては、上述した各手法を同様に適用することができる。このような表面処理を施すことで、流路28の内面(天井面)を親水化して、流体の流れを良くすることができる。また、少なくとも、被覆材3における溝23に対向する部分(第一態様においては接着層32/第二態様においてはフィルム材31のうち、平面視で溝23と重なる部分)の濡れ性を調整することができる。
【0055】
一体化工程は、溝23を有する基材2と被覆材3とを重ね合わせて一体化する工程である。一体化工程では、第一態様においては、基材2の一方の主面と被覆材3の接着層32とを対向させ、接着層32が溝23を覆うように、基材2と被覆材3とを重ね合わせて接着する。この場合、ヒーター等の加熱手段を用いることなく、常温条件下(例えば15℃~40℃、好ましくは20℃~30℃の温度条件下)で基材2と被覆材3とを接着することができる。その際、基材2と被覆材3との積層体を、例えば0.3MPa~4MPa、好ましくは0.5MPa~2MPaの圧力で加圧して接着しても良い。このような温度条件及び圧力条件であれば、流路形状の変形を抑制できるとともに、製造効率の向上を図ることができる。
【0056】
第二態様においては、基材2の一方の主面とフィルム材31からなる被覆材3とを対向させ、フィルム材31が溝23を覆うように、基材2と被覆材3とを重ね合わせて熱圧着する。この場合、ヒーター等の加熱手段を用いて例えば50℃~200℃、好ましくは70℃~160℃に加熱した状態で、例えば1MPa~4MPa、好ましくは1.5MPa~2.5MPaの圧力で加圧して、基材2とフィルム材31とを熱圧着することができる。また、熱圧着以外に、例えば溶剤接着や超音波貼り合わせ等の他の手法で、基材2とフィルム材31とを一体化させても良い。」
(カ)試験例
「【0068】
以下、本実施形態の流路デバイス1について、複数の試験例を示してより詳細に説明する。但し、以下の試験例によって本発明の範囲が限定される訳ではない。
【0069】
[実施例1]
以下の手順に従い、流路デバイス1を作製した。まず、アクリル系樹脂(デルペット70NH、旭化成株式会社製)を用いて50mm×50mm×1.5mm厚のアクリル製基板を作製し、切削機を用いて幅100μm、深さ30μmの複数本の溝23を形成して基材2とした。この基材2に純水を滴下し、自動接触角計(品番CA-Vシリーズ、協和界面科学株式会社製)を用いて接触角を測定したところ、70°であった。メタクリル酸メチル99.0重量部とアクリル酸ブチル1.0重量部とを含む樹脂を厚さ125μmのフィルム状に成型して、アクリルフィルムを得た。このアクリルフィルムの一方の主面に粘着剤(6LQ-002、大成ファインケミカル株式会社製)を塗布し、オーブンで乾燥させた。続いて、24℃の環境下で1週間静置してエイジングさせ、フィルム材31と接着層32との積層体からなる被覆材3を得た。この被覆材3の接着層32側の面に純水を滴下し、上記自動接触角計を用いて接触角を測定したところ、96°であった。その後、基材2の溝23が形成された面と被覆材3の接着層32の露出面とが対向するように両者を積層し、25℃、1MPaで3秒間加圧して接着一体化させ、マルチチャンネルの流路デバイス1を得た。
【0070】
[実施例2]
メタクリル酸メチル90.0重量部とアクリル酸ブチル10.0重量部とを含む樹脂からなるアクリルフィルムを用い、粘着剤を除いた被覆材と実施例1記載の基材を77度、4MPa、40秒間加圧して一体化させたマルチチャンネルの流路デバイス1を得た。なお、基材2に対する純水の接触角は70°であり、フィルム材31に対する純水の接触角は85°であった。
【0071】
[実施例3]
アクリルフィルムをメタクリル酸メチル99.5重量部とアクリル酸ブチル0.5重量部に変更した以外は実施例2と同様にして流路デバイス1を得た。なお、基材2に対する純水の接触角は70°であり、フィルム材31に対する純水の接触角は66°であった。」
イ 甲1に記載された技術的事項
前記アの記載事項(オ)の特に段落【0051】及び【0054】の記載に基づけば、甲1には、次の技術的事項が記載されているといえる。
「一体化工程の前に、基材の溝が形成された主面及び被覆材の一方の主面又は接着層の表面に対して、プラズマ処理、コロナ放電処理、エキシマ処理、親水性ポリマーによる表面コート処理等の表面処理を施す表面処理工程を実行してもよいこと。」
ウ 甲1に記載された発明
前記アの記載事項(カ)の記載に基づけば、甲1には、実施例2及び実施例3として、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「アクリル系樹脂(デルペット70NH、旭化成株式会社製)を用いてアクリル製基板を作製し、複数本の溝を形成して基材とし、
メタクリル酸メチル90.0重量部とアクリル酸ブチル10.0重量部とを含む樹脂からなるアクリルフィルム、又は、メタクリル酸メチル99.5重量部とアクリル酸ブチル0.5重量部とを含む樹脂からなるアクリルフィルムを用い、粘着剤を除いた被覆材とし、
基材の溝が形成された面と被覆材とが対向するように両者を積層し、77度、4MPa、40秒間加圧して一体化させてマルチチャンネルの流路デバイスを得る方法。」
(2)甲5
ア 甲5の記載事項
特許異議申立人が甲第5号証として引用し、本件特許において優先権主張された先の出願前に公開された引用文献である、国際公開第2007/119552号(以下「甲5」という。)には、以下の記載事項がある。
(ア)技術分野
「[0001] 本発明は、接着剤を使用することなく、脂環式構造含有重合体を含有する樹脂Aからなる成形体と樹脂Bからなる成形体とを接着して、接着強度に優れる樹脂複合成形体を製造する方法に関する。」
(イ)発明が解決しようとする課題
「[0011] 本発明は、上述した従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、接着剤による汚染や加熱融着に伴う変形などがなく接着強度に優れる、脂環式構造含有重合体を含有する樹脂Aからなる成形体と樹脂Bからなる成形体とからなる樹脂複合成形体を製造する方法を提供することを課題とする。」
(ウ)課題を解決するための手段
「[0012] 本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、脂環式構造含有重合体樹脂からなり、中央部に十字型の凹部を有する樹脂板の接着面にプラズマもしくはエキシマ紫外線照射、またはコロナ放電し、次いでシランカップリング剤で処理し、ポリビニルアルコールからなる樹脂フィルムの接着面にプラズマもしくはエキシマ紫外線照射、またはコロナ放電し、次いで、樹脂板および樹脂フィルムの接着面同士を重ね合わせ、圧着することにより、均一な微細凹部を有し、接着強度に優れる樹脂複合成形体を製造することができることを見出した。そして、この知見を一般化することにより、本発明を完成するに至った。」
(エ)発明の効果
「[0016] 本発明によれば、接着剤を使用することなく、接着強度に優れる樹脂複合成形体を効率よく製造することができる。
また本発明によれば、成形体(A)および成形体(B)の少なくとも一方に凹部が形成されたものを使用することにより、内部に均一で微細な空間を有する樹脂複合成形体を効率よく製造することができる。」
(オ)発明を実施するための最良の形態
「[0019] 以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の樹脂複合成形体の製造方法は、脂環式構造含有重合体を含有する樹脂Aからなる成形体(A)と、樹脂Bからなる成形体(B)とを接着して樹脂複合成形体を製造する方法であって、
前記接着が、
工程1:成形体(A)の接着面に、プラズマ照射、エキシマ紫外線照射、およびコロナ放電から選ばれる少なくとも一種の活性化処理を行い、次いでシランカップリング剤(A)で処理する工程、
工程2:成形体(B)の接着面に、プラズマ照射、エキシマ紫外線照射、およびコロナ放電から選ばれる少なくとも一種の活性化処理を行う工程、ならびに
工程3:成形体(A)の接着面、および成形体(B)の接着面を重ね合わせ、圧着する工程、を含むことを特徴とする。
[0020] 本発明の樹脂複合成形体の製造方法は、脂環式構造含有重合体を含有する樹脂Aからなる成形体(A)と、樹脂Bからなる成形体(B)とを接着して樹脂複合成形体を製造する方法である。
[0021] 成形体(A)
成形体(A)は、脂環式構造含有重合体を含有する樹脂Aからなる。…
[0028] また、樹脂Aのガラス転移温度は,特に制限されないが、好ましくは100℃以上、より好ましくは130℃以上である。…
[0030] 成形体(B)
成形体(B)を構成する樹脂Bとしては、種々の形状を有する成形体に形成可能なものであれば特に限定されない。具体的には、ポリビエルアルコールなどのビエルアルコール樹脂;脂環式構造含有重合体を含有する樹脂;ポリエチレンおよびポリプロピレンなどの鎖状のポリオレフイン樹脂;ポリスチレンなどの芳香族ビニル重合体樹脂;ナイロンなどのポリアミド樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネートおよびポリアリレートなどのポリエステル樹脂;ポリイミド樹脂;ポリメチ ルメタタリレートなどのアクリル樹脂;などが挙げられる。…
[0032] 本発明に用いる成形体(A)、成形体(B)の形状としては特に制限されず、各種目的に応じた形状とすればよい。例えば、フィルム状、シート状、板状、直方体状、円柱状、多角柱状などが挙げられる。
成形体(A)、(B)の大きさや厚みも特に限定されず、用途などに応じて適宜なものとすることができる。
[0033] また、成形体(A)と成形体(B)は、両者を接着させる面の形状・大きさが同じであれば、成形体全体の形状・大きさは同じであっても、異なっていてもよい。例えば、成形体(A)および成形体(B)が共にフィルムである場合、成形体(A)および成形体(B)が共にシートである場合、成形体(A)が板状体であり、成形体(B)がフィルムである場合、成形体(A)がフィルムであり、成形体(B)が板状体である場合、等が挙げられる。
[0034] 樹脂Aを成形して成形体(A)を得る方法、樹脂Bを成形して成形体(B)を得る方法は特に制限されず、公知の成形方法を採用することができる。例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、プレス成形法、押出成形法、ブロー成形法、真空成形法等が挙げられる。フィルム状に成形する場合は、Tダイを用いた押出成形法、カレンダー成形法、インフレーション成形法、また溶液キャスト法を用いることもできる。…
[0038]接着
本発明の樹脂複合成形体の製造方法は、成形体(A)と成形体(B)とを接着して樹脂複合成形体を製造する方法であり、前記接着が、下記の工程1~3を含むことを特徴とする。
[0039]工程1:成形体(A)の接着面に、プラズマ照射、エキシマ紫外線照射、およびコロナ放電から選ばれる少なくとも一種の活性化処理を行い、次いでシランカップリング剤(A)で処理する工程。
工程2:成形体(B)の接着面に、プラズマ照射、エキシマ紫外線照射、およびコロナ放電ら選ばれる少なくとも一種の活性化処理を行う工程。
工程3:成形体(A)の接着面、および成形体(B)の接着面を重ね合わせ、圧着する工程。
[0040](工程1)
工程1は、成形体(A)の接着面に、プラズマ照射、エキシマ紫外線照射、およびコロナ放電から選ばれる少なくとも一種の活性化処理を行い、次いでシランカップリング剤(A)で処理する工程である。…
[0047] 成形体(A)の接着面の活性化処理を行った後、次いでシランカップリング剤(A)で処理を行う。
上記表面処理された成形体(A)の接着面をシランカップリング剤で処理することで、成形体(A)と成形体(B)との密着力が高く、耐水性にも優れる樹脂複合成形体を得ることができる。…
[0051](工程2)
工程2は、成形体(B)の接着面に、プラズマ照射、エキシマ紫外線照射、およびコロナ放電から選ばれる少なくとも一種の活性化処理を行う工程である。
成形体(B)の接着面に、プラズマ照射、エキシマ紫外線照射、およびコロナ放電から選ばれる少なくとも一種の活性化処理を行う方法としては、上述した成形体(A)の接着面に、プラズマ照射、エキシマ紫外線照射、およびコロナ放電から選ばれる少なくとも一種の活性化処理を行う方法と同様のものが挙げられる。
本発明においては、工程1及び工程2の少なくとも一方において、成形体の接着面に常圧プラズマ照射することが好ましい。
[0052] 本発明においては、成形体(B)の接着面に活性化処理を行った後、次いでシランカップリング剤(B)で処理を行うのが、より高い接着強度を有する樹脂複合成形体を得る上で好ましい。…
[0056](工程3)
工程3は、:成形体(A)の接着面、および成形体(B)の接着面を重ね合わせ、圧着する工程である。
成形体(A)の接着面、および成形体(B)の接着面を重ね合わせ、圧着する方法は特に限定されず、公知の方法をいずれも採用できる。例えば、成形体(A)の接着面と成形体(B)の接着面とを重ね合わせ、加圧ラミネータ、プレス、真空ラミネータ、真空プレス、ロールラミネータなどの加圧機を使用して加圧し、圧着する方法が挙げられる。加圧時の圧力は、通常0.1~10MPa、好ましくは0.5~3MPaである。加圧の時間は、通常1~30分、好ましくは5~10分である。
[0057] 圧着は、加熱下に行うことが好ましい。加圧と同時に加熱することで、成形体(A)と成形体(B)との密着力をさらに高めることができる。加圧時の温度は、通常70~150℃、好ましくは100~120℃である。
[0058] 本発明においては、前記圧着を、樹脂Aのガラス転移温度よりも低い温度で行うことが好ましく、樹脂Aおよび樹脂Bのいずれのガラス転移温度よりも低い温度で行うことがより好ましい。なお、樹脂Bが脂環式構造含有重合体を含有する樹脂である場合には、加圧時の温度は、少なくとも一方のガラス転移温度より低いことが好ましく、いずれのガラス転移温度よりも低いことがより好ましい。このようにすることにより、加熱圧着時における成形体(A)と成形体(B)の熱変形を防止することができる。特に、成形体(A)および成形体(B)の少なくとも一方に凹部が形成されており、内部に空間を有する樹脂複合成形体を製造する場合に、均一で微細な内部空間を有する樹脂複合成形体を得ることができる。
[0059] 以上のようにして得られる樹脂複合成形体は、成形体(A)と成形体(B)とが強固に接着しており、水に長時間浸漬した後であっても、剥がれなどが生じることがないものである。
また、成形体(A)および成形体(B)の少なくとも一方に凹部が形成されているものを用いる場合には、均一で微細な内部空間を有する樹脂複合成形体を得ることができる。」
(カ)実施例
「[0063] 以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例における部および%は、特に断りのない限り重量基準である。
[0064](製造例1)
脂環式構造含有重合体(ゼオノア1430R、ガラス転移温度138℃;日本ゼオン社製)のペレットを、温度240℃の短軸押出機で溶融し、温度240℃のT型ダイから溶融押出しして、厚さ188μmの樹脂フィルムを得た。
この樹脂フィルムを幅30mm×長さ150mmの矩形に切り出した後、常圧プラズマ表面処理装置(AP-T03-L;積水化学社製)を用いて出力1.5kw、周波数25kHz、窒素ガス流量50L/分、照射速度30cm/分で大気圧プラズマ照射を行ってフィルム試料Aを得た。…
[0066](製造例3)
シランカップリング剤として3-アミノプロピルトリエトキシシラン(KE903;信越化学社製)を密閉容器内に少量入れ、容器内をシランカップリング剤の蒸気で飽和状態にした。ここに、製造例1で得られたフィルム試料Aを入れ、シランカップリング剤の液面がフィルム試料に触れないようにして、25℃で5分間保持した。こうしてベーパー処理法によりシランカップリング剤で処理されたフィルム試料Cを得た。
[0067](製造例4)
3-アミノプロピルトリエトキシシランに代えて、シランカップリング剤として3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM-403;信越化学社製)を用いた他は、製造例3と同様にしてフィルム試料Dを得た。…
[0075](製造例6)
脂環式構造含有重合体(ゼオノア1430R;日本ゼオン社製)のペレットを、樹脂温度330℃、金型温度130℃、射出圧180MPaで射出成形して、幅30mm、長さ85mm、厚さ1mmの矩形の樹脂板を得た。次いで、この樹脂板の中心部にエンボス加工により幅50μm、深さ30μmの凹部を十字型に形成した。凹部の長さは、樹脂板の幅方向の凹部が20mm、長さ方向の凹部が70mmとなるようにした。この樹脂板の凹部を形成した側の面に、製造例1と同様にして大気圧プラズマ照射を行って樹脂板試料Aを得た。
[0076](製造例7)
フィルム試料Aに代えて、樹脂板試料Aを用いた他は、製造例3と同様にしてシランカップリング剤で処理された樹脂板試料Bを得た。
[0077](実施例12)
フィルム試料Dの一部を切断し、幅30mm×長さ85mmとした。次いで、樹脂板試料Bの凹部の端部の4箇所に直径50μmの貫通孔を開けて樹脂板試料B’とした。樹脂板試料B’とフィルム試料Dとを両者のプラズマ照射された面同士が重なるように積層し、真空ラミネータ(名機製作所社製)を用いて温度120℃、圧力0.9MPaで5分間加熱圧着を行い、十字型形状の流路(内部空間)を有するマイクロチップである樹脂複合成形体Mを得た。得られた樹脂複合成形体Mを図1に示す。図1中、(a)は樹脂複合成形体Mの上面図であり、(b)は、樹脂複合成形体MのX-Y方向の断面図である。図1に示す樹脂複合成形体Mは、幅50μm、深さ30μmの十字型の流路1と、流路1の4箇所の端部に貫通孔2が設けられた形状を有するものである。」
イ 甲5に記載された技術的事項
前記アの記載事項(ウ)の記載に基づけば、甲5には、次の技術的事項が記載されているといえる。
「脂環式構造含有重合体樹脂からなり、中央部に十字型の凹部を有する樹脂板の接着面にプラズマもしくはエキシマ紫外線照射、またはコロナ放電し、次いでシランカップリング剤で処理し、ポリビニルアルコールからなる樹脂フィルムの接着面にプラズマもしくはエキシマ紫外線照射、またはコロナ放電し、次いで、樹脂板および樹脂フィルムの接着面同士を重ね合わせ、圧着することにより、均一な微細凹部を有し、接着強度に優れる樹脂複合成形体を製造すること。」
ウ 甲5に記載された発明
前記アの記載事項(カ)の記載に基づけば、甲5には、実施例12として、次の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されているといえる。
「脂環式構造含有重合体(ゼオノア1430R;日本ゼオン社製)のペレットを射出成形して矩形の樹脂板を得て、この樹脂板の中心部にエンボス加工により凹部を十字型に形成し、この樹脂板の凹部を形成した側の面に大気圧プラズマ照射を行って得た樹脂板試料Aを用い、シランカップリング剤として3-アミノプロピルトリエトキシシランを用いてベーパー処理法によりシランカップリング剤で処理された樹脂板試料Bを得て、樹脂板試料Bの凹部の端部の4箇所に直径50μmの貫通孔を開けて樹脂板試料B’とし、
脂環式構造含有重合体(ゼオノア1430R、ガラス転移温度138℃;日本ゼオン社製)のペレットを溶融押出しして樹脂フィルムを得て、この樹脂フィルムを矩形に切り出した後、大気圧プラズマ照射を行ってフィルム試料Aを得て、シランカップリング剤として3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを用いてベーパー処理法によりシランカップリング剤で処理されたフィルム試料Dを得て、
樹脂板試料B’とフィルム試料Dとを両者のプラズマ照射された面同士が重なるように積層し、真空ラミネータを用いて温度120℃、圧力0.9MPaで5分間加熱圧着を行う、十字型形状の流路(内部空間)を有するマイクロチップである樹脂複合成形体Mを得る方法。」
(3)周知技術(基板の両面にマイクロ流路を設けること)
ア 甲10の記載事項
特許異議申立人が甲第10号証として引用し、本件特許において優先権主張された先の出願前に公開された引用文献である、特開2013-37007号公報(以下、「甲10」という。)には、以下の記載事項がある。
(ア)技術分野
「【0001】
本発明は、マイクロ流路プレートに関し、特にプレート部材と、該プレート部材の表面に積層されたシート部材とを備え、プレート部材の表面に形成された凹部内の空間で試薬と検体とが混合されるマイクロ流路プレートに関する。」
(イ)発明が解決しようとする課題
「【0005】
しかしながら、特許文献1(合議体注:実用新案登録第3056680号公報)に記載のマイクロ流路プレートでは、該マイクロ流路プレート内に試薬が収容されておらず、試薬を収容するための空間も設けられていないので、検体の検査(検体と試薬との混合)を行うためには、試薬をマイクロ流路プレートとは別に用意しておく必要があった。このため、特許文献1に記載のマイクロ流路プレートでは、検体の検査を行なうのに多くの手間と時間を要していた。
【0006】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、簡単かつ迅速に検体の検査を行うことができるマイクロ流路プレートを提供することを課題とする。」
(ウ)課題を解決するための手段
「【0007】
上記の課題を解決するために、本発明に係るマイクロ流路プレートは、表面に凹部が形成された硬質の第1プレート部材と、該第1プレート部材の表面に積層された第1シート部材と、該第1シート部材の表面に積層された、厚さ方向に貫通する少なくとも1つの貫通穴および表裏面に形成された凹部を有する硬質の第2プレート部材と、該第2プレート部材の表面に積層された第2シート部材とを備え、第1プレート部材に形成された凹部内の第1空間と、第2プレート部材に形成された貫通穴内および凹部内の第2空間とを含む空間で試薬と検体とが混合されるマイクロ流路プレートであって、第1シート部材は、第1空間と第2空間とを連通する連通穴を有し、第2空間は、液体状の試薬が封入された試薬容器が収容される試薬収容空間と、検体が収容されるとともに該検体と試薬とが混合される混合空間と、試薬収容空間と混合空間とを連結する試薬流路と、混合空間と連通穴とを連結する上流側廃液流路とを含み、第1空間は、混合空間から上流側廃液流路および連通穴を通って流出してきた試薬を含む廃液が貯溜される廃液溜空間と、連通穴と廃液溜空間とを連結する下流側廃液流路とを含み、第2シート部材は、試薬収容空間に収容された試薬容器を直接押圧可能にする押圧穴を有することを特徴とする。なお、上記試薬容器は、ブリスターパックとすることができる。
【0008】
この構成によれば、第1プレート部材に試薬が収容される試薬収容空間が設けられているため、あらかじめ該試薬収容空間に試薬を収容しておくことができる。また、この構成によれば、第1プレート部材の第1空間と第2プレート部材の第2空間とが連結されているため、プレート部材の面積を大きくすることなく、試薬収容空間、廃液溜空間等の数や体積を増やすことができるとともに、より複雑な流路を形成することができる。さらに、この構成によれば、試薬収容空間に収容された試薬容器を直接押圧することができる。したがって、本発明に係るマイクロ流路プレートによれば、簡易かつ迅速に検体の検査を行うことができる。」
(エ)発明を実施するための形態
「【0045】
[第3の実施形態]
図7は、本発明の第3の実施形態に係るマイクロ流路プレートであって、(a)は斜視図、(b)は分解斜視図である。同図に示すように、本実施形態に係るマイクロ流路プレート300は、表面に凹部が形成された硬質の第1プレート部材310と、該第1プレート部材310の表面に積層された第1シート部材320と、該第1シート部材320の表面に積層された、厚さ方向に貫通する少なくとも1つの貫通穴および表裏面に形成された凹部を有する硬質の第2プレート部材330と、該第2プレート部材330の表面に積層された第2シート部材340と、該第2シート部材340の表面に積層されたバックプレート部材350とを備え、第1プレート部材310に形成された凹部内の第1空間と、第2プレート部材330に形成された貫通穴内および凹部内の第2空間とを含む空間で試薬と検体とが混合されるよう構成されている。」
合議体注:図7は次のものである。
[図:0001418218000003.jpg]
「【0046】
第2プレート部材330は、幅20.0mm、長さ80.0mm、厚さ2.5mmのプラスチックからなる。図8に示すように、第2プレート部材330に形成された貫通穴内および凹部内の第2空間には、混合空間331と、試薬収容空間332、333と、ポンプ空間334と、上部廃液溜空間335と、複数の流路336a~336eとが含まれている。また、第2プレート部材330は、凹部が端部まで延びて形成された空気吸込口337を有する。
【0047】
複数の流路336a~336eには、図8に示すように、貫通穴内の空間からなる試薬流路336a、336bおよび上流側廃液流路336cと、凹部内の空間からなる空気吸込流路336dおよび空気吐出流路336eとが含まれている。…」
合議体注:図8は次のものである。
[図:0001418218000004.jpg]
「【0055】
第1シート部材320は、幅20.0mm、長さ80.0mm、厚さ0.7mmに成形されたエラストマーからなる。図10に示すように、第1シート部材320には、第2プレート部材330の上流側廃液流路336cと連通する、直径0.5mmの連通穴321と、第2プレート部材330の上部廃液溜空間335と連通する、直径12.0mmの連通穴325とが形成されている。
【0056】
第1プレート部材310は、幅20.0mm、長さ80.0mm、厚さ1.0mmのプラスチックからなる。図11に示すように、第1プレート部材310に形成された凹部内の第1空間には、下部廃液溜空間315と、下流側廃液流路316とが含まれている。下部廃液溜空間315は、第2プレート部材330の上部廃液溜空間335および第1シート部材320の連通穴325と連通する、直径12.0mm、深さ0.5mmの円環状の凹部内の空間である。下流側廃液流路316は、一端が第1シート部材320の連通穴321と連通するとともに他端が下部廃液溜空間315と連結する、幅2.0mm、深さ0.3mmの凹部内の空間である。また、第1プレート部材310には、第1シート部材320のポンプ空間334下方部分を押圧可能にする、直径12.0mmの押圧穴314が形成されている。」
合議体注:図10及び図11は次のものである。
[図:0001418218000005.jpg]
「【0057】
第2シート部材340は、幅20.0mm、長さ80.0mm、厚さ0.7mmに成形されたエラストマーからなる。図12に示すように、第2シート部材340には、観察穴341と、押圧穴342、343と、連通穴345とが形成されている。観察穴341は、顕微鏡を用いて検体を観察するために第2プレート部材330の混合空間331上方に設けられた、平面視の形状が混合空間331の形状と同じ貫通穴である。押圧穴342、343は、第2プレート部材330の試薬収容空間332、333上方に設けられた、直径10.0mmの貫通穴である。連通穴345は、第2プレート部材330の上部廃液溜空間335と連通する、直径12.0mmの貫通穴である。また、第2シート部材340の裏面には、試薬や空気が逆流するのを防ぐために、幅2.0mm、高さ0.4mmの逆流防止弁346a、346bが設けられている。逆流防止弁346aは、混合空間331の試薬がポンプ空間334に逆流するのを防ぐために、混合空間331と空気吐出流路336eとの境界に設けられている。逆流防止弁346bは、ポンプ空間334内の空気が空気吸込口337から吐出されるのを防ぐために、空気吸込口337近傍に設けられている。
【0058】
バックプレート部材350は、幅20.0mm、長さ80.0mm、厚さ0.7mmの透明なプラスチックからなる。図13に示すように、バックプレート部材350には、厚さ方向に貫通する円環状の複数の押圧穴352~354および廃液排出口355が形成されている。押圧穴352、353は、第2シート部材340の押圧穴342、343と連通し、試薬収容空間332、333に収容されたブリスターパック360を直接押圧可能にする、直径10.0mmの貫通穴である。押圧穴354は、第2シート部材340のポンプ空間334上方を押圧可能にする、直径12.0mmの貫通穴である。廃液排出穴355は、第2シート部材340の連通穴345と連通する、直径1.0mmの貫通穴である。」
合議体注:図12及び図13は次のものである。
[図:0001418218000006.jpg]
イ 甲11の記載事項
特許異議申立人が甲第11号証として引用し、本件特許において優先権主張された先の出願前に公開された引用文献である、特開2005-103399号公報(以下、「甲10」という。)には、以下の記載事項がある。
(ア)技術分野
「【0001】
本発明は、燃料の触媒燃焼により発した熱で反応物を反応させる反応装置及び反応方法に関する。」
(イ)発明が解決しようとする課題
「【0004】
ところで、ケミカルマイクロリアクタの流路に反応物を流せば、反応物が反応することにより、目的とする生成物又は中間生成物が生成される。反応物の反応が常温で起こりにくいため、ケミカルマイクロリアクタを加熱する必要がある。ケミカルマイクロリアクタを加熱する方法は特許文献1に記載されているが、その加熱方法は加熱した金属をケミカルリアクタの外面に接触させるだけである。これでは、加熱した金属の熱がケミカルリアクタ以外にも伝導・伝達してしまうので、反応物の反応に要する熱量を効率よく供給することができない上、加熱した金属の熱量を有効利用することができない。
そこで、本発明は、上記のような問題点を解決しようとしてなされたものであり、流路を流れる反応物の反応に対して、発生させた熱量を効率よく用いることができる反応装置及び反応方法を提供することを目的とする。」
(ウ)課題を解決するための手段
「【0005】
以上の課題を解決するために、本発明の反応装置は、本体と、燃料を燃焼させる燃焼触媒と、を有し、反応物が流れる第一の流路及び燃料が流れる第二の流路が前記本体を通った所定の面に関して互いに面対称となるように前記本体の内部に形成され、前記燃焼触媒が前記第二の流路の壁面に形成されていることを特徴とする。」
(エ)発明を実施するための最良の形態
「【0033】
次に、本発明の反応装置を適用した実施形態における第二の反応装置14について図2~図6を用いて説明する。ここで、図2は第二の反応装置14の斜視図であり、図3は図2の切断線III-IIIに沿った断面図であり、図4は図3の切断線IV-IVに沿った断面図であり、図5は図3の切断線V-Vに沿った断面図であり、図6は図5、図6の切断線VI-VIに沿った断面図である。」
合議体注:図2~6は次のものである。
[図:0001418218000007.jpg]
「【0034】
図2、図3、図6に示すように、第二の反応装置14はシリコン結晶、アルミニウム、ガラス等の中から選択された一又は複数の材料で形成された三枚の基板21,22,23を備え、これら三枚の基板21~23が積み重ねて接合されたものが第二の反応装置14の本体となる。ここで、第二の燃焼器6の本体は、下側の下基板21と、挟持された中基板22とから構成され、改質器9の本体は、上側の上基板23と、中基板22とから構成され、中基板22が第二の燃焼器6と改質器9に共通している。…
【0035】
図3~図6に示すように、上基板23との中基板22との接合部には、接合面に沿った葛折り状の第一マイクロ流路24が形成されており、下基板21と中基板22との接合部には、接合面に沿った葛折り状の第二マイクロ流路25が形成されている。…
【0046】
第一の反応装置13は、第二の反応装置14とほぼ同様の構成となっている。つまり、第一の反応装置13は、下基板121、中基板122及び上基板123をこの順に積み重ねて接合した本体を有する。第一の反応装置13と第二の反応装置14の異なる点としては、第二の反応装置14では第一マイクロ流路24の壁面に改質触媒30が形成されているのに対し、第一の反応装置13では、上基板123と中基板122との接合部に形成された第一マイクロ流路124の壁面には触媒が形成されていないことである。この第一マイクロ流路124が第一の気化器3の流路であり、下基板121と中基板122との接合部に形成された第二マイクロ流路125が第一の燃焼器5の流路である。更には、第一マイクロ流路124の一端部に通じる入口用の貫通孔は、管を介して第一の燃料ポンプ7に通じており、第一マイクロ流路124の他端部に通じる出口用の貫通孔は、別の管を介して第二の反応装置14の入口用の貫通孔26に通じている。以上のことを除いて、第一の反応装置13は第二の反応装置14と同じに構成されており、第一の反応装置13においては、第二の反応装置14のいずれかの部分と対応する部分についての説明は省略する。」
ウ まとめ
前記アの記載事項(エ)には、図面とともに「表面に凹部が形成された硬質の第1プレート部材310と、該第1プレート部材310の表面に積層された第1シート部材320と、該第1シート部材320の表面に積層された、厚さ方向に貫通する少なくとも1つの貫通穴および表裏面に形成された凹部を有する硬質の第2プレート部材330と、該第2プレート部材330の表面に積層された第2シート部材340と、該第2シート部材340の表面に積層されたバックプレート部材350とを備え」た「マイクロ流路プレート300」が記載されており、さらに、「第2プレート部材330に形成された貫通穴内および凹部内の第2空間には、…複数の流路336a~336eとが含まれている」こと、「第1プレート部材310に形成された凹部内の第1空間には、…下流側廃液流路316とが含まれている」ことが記載されている。また、記載事項(ウ)には、「この構成によれば、第1プレート部材の第1空間と第2プレート部材の第2空間とが連結されているため、プレート部材の面積を大きくすることなく、試薬収容空間、廃液溜空間等の数や体積を増やすことができるとともに、より複雑な流路を形成することができる」ことも記載されている。これらの記載に基づけば、甲10には、第1シート部材の両面に第1プレート部材及び第2プレート部材を設けることにより、両面に流路が設けられたマイクロ流路プレートが開示されているといえる。また、前記イの記載事項(ウ)には、「反応物が流れる第一の流路及び燃料が流れる第二の流路が前記本体を通った所定の面に関して互いに面対称となるように前記本体の内部に形成され、前記燃焼触媒が前記第二の流路の壁面に形成されている」、「反応装置」が記載されており、記載事項(エ)に「三枚の基板21,22,23を備え、これら三枚の基板21~23が積み重ねて接合されたものが第二の反応装置14の本体となる」ことも記載されている。これらの記載に基づけば、甲11には、三枚の基板を積み重ねて接合することにより第一の流路及び第二の流路が面対称となるように内部に形成された装置が開示されているといえる。甲10及び甲11の記載を総合すれば、「基板の両面に流路が形成された基板を設けること」は、周知技術であるといえる。
(4)周知技術(エンボス加工する際の圧力範囲)
ア 甲12
特許異議申立人が甲12号証として引用し、本件特許において優先権主張された先の出願前に公開された引用文献である、国際公開第03/016365号(以下「甲12」という。)には、以下の記載事項がある。
(ア)技術分野
「本発明は、環状共役ジエン系共重合体に関する。…本発明の環状共役ジエン系共重合体は、優れた耐熱性、透明性、非吸湿性、耐薬品性および優れた成形加工性を有する。」(明細書第1頁第4行~第2頁第2行)
(イ)実施例
「実施例7
実施例1と同様な方法で、水素化環状共役ジエン系共重合体を製造した後、溶媒キャスト法で厚さ100μmのフィルムを作成した。このフィルムを温度190℃、圧力10MPaでエンボス加工を行い、長さ40mm、幅100μm、深さ40μmの流路を形成し下部基板を作成した。上部基板として厚さ0.03mmのPETフィルムを用い、接着層として厚さ0.03mmのPEフィルムを用いて、接着層を挟んで上部基板と下部基板を積層し、温度120℃、圧力1MPaで熱圧着してマイクロチップを得た。上記の方法で電気浸透流を測定した結果、5.11×10-8m2s-1V-1の値を示した。」(明細書第105頁第13行~第106頁第3行)
イ 甲13
特許異議申立人が甲13号証として引用し、本件特許において優先権主張された先の出願前に公開された引用文献である、特開2015-199144号公報(以下「甲13」という。)には、以下の記載事項がある。
(ア)技術分野
「【0001】
本発明は、低圧[例えば、2.5psi(17kPa)以下]での研磨加工に利用される研磨パッド[例えば、化学的機械的研磨(CMP)用研磨パッド]及びその製造方法に関する。」
(イ)発明を実施するための形態
「【0031】
発泡ウレタンシートの表面には、エンボス凹部を形成してもよい。エンボス凹部は、ランダムに形成してもよいが、規則的(例えば、格子状、同心円状、放射状、ハニカム状)に形成してもよい。エンボス凹部の幅は、例えば、0.5~1.5mm、好ましくは0.8~1.2mmである。隣り合うエンボス凹部の平均中心間距離は、例えば、1~5mm、好ましくは2~4mmである。
…
【0048】
本発明の研磨パッドの製造方法は、さらに、基材上で凝固して得られた発泡ウレタンシートを、必要により基材から剥離した後、表面処理する工程(e)を含んでいてもよい。表面処理としては、研削処理、エンボス加工などが挙げられる。…
【0050】
エンボス加工において、加工温度及び加工圧力は特に制限されるものではないが、加工温度は、例えば、100~200℃、好ましくは120~180℃であり、加工圧力は、例えば、3~6MPa、好ましくは4~5MPaである。加工時間も特に制限されないが、例えば、30~300秒、好ましくは60~180秒である。」
ウ 甲14
特許異議申立人が甲第14号証として引用し、本件特許において優先権主張された先の出願前に公開された引用文献である、特開2014-177123号公報(以下「甲14」という。)には、以下の記載事項がある。
(ア)技術分野
「【0001】
本開示は、転写テープ及びラベルを包含する接着物品に関する。接着物品は、高摩擦係数の剥離面を有するミクロ構造化剥離ライナー上に低弾性率の接着剤を包含している。」
(イ)実施例
「【0027】
ライナー上にミクロ構造をエンボス加工した。ピッチ(P)は、あるミクロ構造から、それと隣接するミクロ構造上の同点までの距離である。幾つかの実施形態では、1000マイクロメートル未満、例えば500マイクロメートル未満、又は更に300マイクロメートル未満のピッチが望ましい場合がある。深さ(D)は、ミクロ構造の最大陥凹部である。幾つかの実施形態では、少なくとも5マイクロメートル、例えば少なくとも10マイクロメートルの深さが望ましい場合がある。幾つかの実施形態では、50マイクロメートル以下、例えば35マイクロメートル以下、又は更に30マイクロメートル以下の深さが望ましい場合がある。…
【0030】
プレス機を、PCKライナーの剥離層とその下にある低密度ポリエチレン(LD)層とをエンボス加工するために100℃の温度まで予熱し、又はPCKライナーの剥離層とその下にある高密度ポリエチレン(HD)層とをエンボス加工するために110℃まで予熱した。積み重ね体を上部プラテンと下部プラテンとの間に配置し、プラテンを引き寄せて、積み重ね体を0.34メガパスカル(MPa)(50psi)で3分間プリプレスした。その後、圧力を、LD面をエンボス加工するために2MPa(300psi)まで、及びHD面をエンボス加工するために5.5MPa(800psi)まで増強させた。積み重ね体を高圧下で3分間保持した後、試料をプレス機から取り出すまで高圧を維持しながら、プレス温度よりも少なくとも20℃低い温度まで冷却した。」
エ まとめ
前記アの記載事項(イ)の「水素化環状共役ジエン系共重合体を製造した後、溶媒キャスト法で厚さ100μmのフィルムを作成した」、「このフィルムを…圧力10MPaでエンボス加工を行い…流路を形成し下部基板を作成した」との記載に基づけば、甲12には、樹脂フィルムに対して流路を形成する際に、圧力10MPaでエンボス加工を行ったことが開示されているといえる。また、前記イの記載事項(イ)の「発泡ウレタンシートの表面には、エンボス凹部を形成してもよい」、「エンボス加工において、…加工圧力は、例えば、3~6MPa、好ましくは4~5MPaである」との記載に基づけば、甲13には、樹脂シートに対して凹部を形成する際に、圧力3~6MPaでエンボス加工を行うことが示唆されているといえる。さらに、前記ウの記載事項(イ)の「PCKライナーの剥離層とその下にある低密度ポリエチレン(LD)層とをエンボス加工するために…予熱した」、「圧力を、LD面をエンボス加工するために2MPa(300psi)まで、及びHD面をエンボス加工するために5.5MPa(800psi)まで増強させた」との記載に基づけば、甲14には、樹脂層にエンボス加工するために、2MPa及び5.5MPaの圧力を加えたことが開示されているといえる。
これらの記載を総合すると、「樹脂表面にエンボス加工により凹部を形成する際に、2MPa~10MPaの圧力を加えること」は周知技術であったといえる。
2 甲1発明に基づく取消理由
(1)本件特許発明1
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)第1部材
甲1発明の「メタクリル酸メチル90.0重量部とアクリル酸ブチル10.0重量部とを含む樹脂からなるアクリルフィルム」及び「メタクリル酸メチル99.5重量部とアクリル酸ブチル0.5重量部とを含む樹脂からなるアクリルフィルム」は、他の部材と対向するように積層して用いられるものであるから、本件特許発明1の「基材としての第1部材」に相当する。
(イ)第2部材
甲1発明の「基材」を形成する「アクリル系樹脂(デルペット70NH、旭化成株式会社製)」は、「アクリルフィルム」を構成する「メタクリル酸メチル90.0重量部とアクリル酸ブチル10.0重量部とを含む樹脂」及び「アクリルフィルムをメタクリル酸メチル99.5重量部とアクリル酸ブチル0.5重量部とを含む樹脂」とは異なる樹脂からなるものである。そして、甲1発明の「基材」は「アクリルフィルム」(本件特許発明1における「基材としての第1部材」)と対向するように積層して用いられるものである。そうすると、甲1発明の「基材」は、本件特許発明1の「第2部材」に相当するとともに、「前記第1部材に対向し前記第1部材とは異なる樹脂材料で形成され」たとする要件を満たすものといえる。
また、甲1発明の「基材」は、「複数本の溝」が形成されたものであるから、本件特許発明1の「表面に形状を有する」との要件を備えている。
(ウ)構造体
甲1発明の「マルチチャンネルの流路デバイス」は、「基材の溝が形成された面と被覆材とが対向するように両者を積層」して得られたものである。したがって、甲1発明の「マルチチャンネルの流路デバイス」は、本件特許発明1の第1部材と、第2部材とが「積層」された「構造体」に相当する。
(エ)接合工程
甲1発明の「基材の溝が形成された面と被覆材とが対向するように両者を積層し、77度、4MPa、40秒間加圧して一体化させ」る工程によって、基材の溝が形成された面と被覆材とは、一体化したことにより密着接合しているといえる。したがって、本件特許発明1の「前記第2部材を少なくとも前記第2部材の樹脂材料の荷重撓み温度から30℃引いた基準温度以上ガラス転移温度以下の温度下で加圧して、前記第1部材に密着接合する接合工程」と、甲1発明の「基材の溝が形成された面と被覆材とが対向するように両者を積層し、77度、4MPa、40秒間加圧して一体化させ」る工程とは、「前記第2部材を加圧して、前記第1部材に密着接合する接合工程」である点で共通する。
(オ)構造体の製造方法
甲1発明の「マルチチャンネルの流路デバイス」は、前記(ウ)に記載したとおり、「積層」された「構造体」に相当する。そうすると、甲1発明の「マルチチャンネルの流路デバイスを得る方法」は、本件特許発明1の「構造体の製造方法」に相当するといえる。
(カ)一致点及び相違点
以上より、本件特許発明1と甲1発明とは、
「基材としての第1部材と、前記第1部材に対向し前記第1部材とは異なる樹脂材料で形成され表面に形状を有する第2部材とが積層された構造体の製造方法であって、
前記第2部材を加圧して、前記第1部材に密着接合する接合工程と、
を備える、構造体の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。
[相違点1-1]本件特許発明1は、「前記第1部材の線膨張係数と、前記第2部材の線膨張係数とは異なる」のに対し、甲1発明は、「メタクリル酸メチル90.0重量部とアクリル酸ブチル10.0重量部とを含む樹脂からなるアクリルフィルム」又は「メタクリル酸メチル99.5重量部とアクリル酸ブチル0.5重量部とを含む樹脂からなるアクリルフィルム」の線膨張係数と、「アクリル系樹脂(デルペット70NH、旭化成株式会社製)」の線膨張係数とが異なるものであるかが明らかでない点。
[相違点1-2]本件特許発明1は、「前記第1部材と前記第2部材との接合のために、少なくとも前記第2部材の表面を活性化状態にする活性化処理を行う表面活性化工程」を備えるのに対し、甲1発明は、表面活性化工程を備えていない点。
[相違点1-3]接合工程が、本件特許発明1では、「少なくとも前記第2部材の樹脂材料の荷重撓み温度から30℃引いた基準温度以上ガラス転移温度以下の温度下」で実施されるのに対し、甲1発明では、「77度」で実施されるものであるものの、77度が「アクリル系樹脂(デルペット70NH、旭化成株式会社製)」の荷重撓み温度から30℃引いた基準温度以上ガラス転移温度以下であるのかが明らかでない点。
イ 判断
(ア)[相違点1-1]について
線膨張係数は、材料の種類によって異なり、材料が高分子である場合には、分子間力や、分子の配向の程度の影響を受けることは明らかである。甲1発明の「アクリル系樹脂(デルペット70NH、旭化成株式会社製)」と、「メタクリル酸メチル90.0重量部とアクリル酸ブチル10.0重量部とを含む樹脂からなるアクリルフィルム」又は「メタクリル酸メチル99.5重量部とアクリル酸ブチル0.5重量部とを含む樹脂からなるアクリルフィルム」は、同じアクリル系樹脂からなる部材であるものの、その組成からして異なるため、両者の線膨張係数が同じであるとはいえない。
したがって、[相違点1-1]は、実質的な相違点ではない。
(イ)[相違点1-2]
前記1(1)イに記載したとおり、甲1には、「一体化工程の前に、基材の溝が形成された主面及び被覆材の一方の主面又は接着層の表面に対して、プラズマ処理、コロナ放電処理、エキシマ処理、親水性ポリマーによる表面コート処理等の表面処理を施す表面処理工程を実行してもよいこと。」という技術的事項が開示されている。そして、表面処理が施された面は、一体化工程によって密着することになるため、第1部材と第2部材との接合のためのものということができる。
甲1に記載された上記技術的事項に基づいて、少なくとも甲1発明の「基材」の溝が形成された面に対して表面処理を施す表面処理工程を実行することにより、本件特許発明1の上記[相違点1-2]に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
特許権者は、令和6年3月11日付けの意見書において、「甲1において、流路28の内面に親水化するための表面処理をしているのであって、接合面での接合のための表面処理をしているのではありません。加えて、・・・場合によっては接合面の接合性を下げる可能性もあります。」(第4頁第27~30行)と主張している。
しかし、上記のとおり、表面処理が施された面は、一体化工程によって密着することになるから、第1部材と第2部材との接合のためのものということができる。一体化工程によって密着する面になされる表面処理に、接着性を下げる表面処理が含まれるとは考えがたい。また、表面処理が接合面の接合性を下げるとする特許権者の主張の根拠を見いだせない。
したがって、特許権者の主張を採用できない。
(ウ)[相違点1-3]について
特許異議申立人が提示する甲第2号証「デルペットTM(光学グレード)の物性」には、表中に「良流動70NH」の荷重たわみ温度が、「97℃」であることが記載されている。また、特許異議申立人が甲第4号証として引用した特開2013-28747号公報の段落【0061】には、「熱可塑性樹脂としてポリメチルメタクリレートのデルペット70NH(旭化成ケミカルズ株式会社製)(以下、PMMA)を用いた」との記載があり、特許異議申立人が甲第3号証として引用した成形材料 第15巻 第8号 第563頁の表1には、PMMAのガラス転移温度が「115℃」、荷重たわみ温度(負荷の圧力1.82MPa)が「102℃」であることが記載されている。これらの記載に基づけば、甲1発明における「アクリル系樹脂(デルペット70NH、旭化成株式会社製)」の荷重たわみ温度が概略「97℃」ないし「102℃」の範囲にあり、ガラス転移温度が概略「115℃」であるといえる。
合議体注:甲第2号証の表及び甲第3号証の表は、次のものである。
[図:0001418218000008.jpg]
上記のとおり、甲第2号証~甲第4号証の記載を参酌すれば、甲1発明において、本件特許発明1の「第2部材」に相当する「基材」に用いられる「アクリル系樹脂(デルペット70NH、旭化成株式会社製)」の荷重たわみ温度は、「97℃」~「102℃」であり、ガラス転移温度は115℃であると推認できるから、甲1発明は、本件特許発明1における「基材の溝が形成された面と被覆材とが対向するように両者を積層し、77度、4MPa、40秒間加圧して一体化させ」る工程は、本件特許発明1における「前記第2部材の樹脂材料の荷重撓み温度から30℃引いた基準温度」である67℃~72℃以上、「ガラス転移温度」である112℃以下とする要件を満たしているといえる。
したがって、[相違点1-3]は実質的な相違点とはいえない。
ウ 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲1発明及び甲1に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。
(2)本件特許発明3
本件特許発明3と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「アクリル系樹脂(デルペット70NH、旭化成株式会社製)」は、技術的にみて「熱可塑性樹脂」であるといえる(なお、特許異議申立人が甲第4号証として引用した特開2013-28747号公報の段落【0061】には、「熱可塑性樹脂としてポリメチルメタクリレートのデルペット70NH(旭化成ケミカルズ株式会社製)(以下、PMMA)を用いた」との記載がある。当該記載からも、甲1発明の「アクリル系樹脂(デルペット70NH、旭化成株式会社製)」が「熱可塑性樹脂」であるといえる)。を用いて作製されたものである。
したがって、本件特許発明3と甲1発明とは、上記相違点で相違し、その余の点で一致している。そして、上記相違点についての判断は、すでに記載したとおりである。
よって、本件特許発明3は、甲1発明及び甲1に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。
(3)本件特許発明8
ア 対比
本件特許発明8と甲1発明とを対比すると、上記相違点に加えて以下の点で相違し、その余の点で一致している。
[相違点1-4]本件特許発明8の第2部材は、「第1部材の両面に接合される」のに対し、甲1発明の「基材」は、「被覆材」の一方の面に接合される点。
イ 判断
流路デバイスにおいて、流路をどのように配置するかは、用途や使用環境に応じて当業者が適宜設計し得る事項である。また、前記1(3)ウに記載したとおり、「基板の両面に流路が形成された基板を設けること」は、周知技術であったといえる。そうすると、甲1発明において、流路を両面に配置するように構成することは、当業者が容易になし得たことであるといえる。
ウ 小括
以上のとおり、[相違点1-4]も、当業者が容易になし得たことであるから、本件特許発明8は、甲1発明、甲1に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。
(4)本件特許発明12
本件特許発明12と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「一体化させ」る工程は、「4MPa」で加圧するものである。したがって、甲1発明の「一体化させ」る工程は、本件特許発明12の「接合工程において、10MPa以下の圧力で加圧する」とする要件を満たしている。
以上より、本件特許発明12と甲1発明とは、上記相違点で相違し、その余の点で一致している。そして、上記相違点についての判断は、すでに記載したとおりである。
よって、本件特許発明12は、甲1発明及び甲1に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。
(5)本件特許発明14
ア 対比
本件特許発明14と甲1発明とを対比すると、上記相違点に加えて以下の点で相違し、その余の点で一致している。
[相違点1-5]本件特許発明14は、前記[相違点1-2]の「前記第1部材と前記第2部材との接合のために、少なくとも前記第2部材の表面を活性化状態にする活性化処理」について、さらに「前記第1部材の表面を活性化状態にする」、「表面活性化工程」を備えるのに対し、甲1発明は、表面活性化工程を備えていない点。
イ 判断
前記1(1)イに記載したとおり、甲1には、「一体化工程の前に、基材の溝が形成された主面及び被覆材の一方の主面又は接着層の表面に対して、プラズマ処理、コロナ放電処理、エキシマ処理、親水性ポリマーによる表面コート処理等の表面処理を施す表面処理工程を実行してもよいこと。」という技術的事項が開示されている。
甲1に記載された上記技術的事項に基づいて、甲1発明の「基材」の溝が形成された面、及び、「被覆材」の対向する面に対して表面処理を施す表面処理工程を実行することにより、本件特許発明14の上記[相違点1-5]に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
ウ 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明14は、甲1発明及び甲1に記載された技術的事項等に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。
(6)本件特許発明15
ア 対比
本件特許発明15と甲1発明とを対比すると、上記相違点に加えて以下の点で相違し、その余の点で一致している。
[相違点1-6]本件特許発明15は、前記[相違点1-2]の「前記第1部材と前記第2部材との接合のために、少なくとも前記第2部材の表面を活性化状態にする活性化処理」について、さらに「前記第1部材及び前記第2部材に対して紫外線照射及びプラズマ処理、コロナ処理、オゾン処理のいずれかを用いて表面を活性化する」、「表面活性化工程」を備えるのに対し、甲1発明は、表面活性化工程を備えていない点。
イ 判断
前記1(1)イに記載したとおり、甲1には、「一体化工程の前に、基材の溝が形成された主面及び被覆材の一方の主面又は接着層の表面に対して、プラズマ処理、コロナ放電処理、エキシマ処理、親水性ポリマーによる表面コート処理等の表面処理を施す表面処理工程を実行してもよいこと。」という技術的事項が開示されている。
甲1に記載された技術的事項に基づいて、プラズマ処理、コロナ放電処理等から選択される表面処理工程を実行するように構成することは、当業者が容易になし得たことである。
ウ 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明15は、甲1発明及び甲1に記載された技術的事項等に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。
3 甲5発明に基づく取消理由
(1)本件特許発明1
ア 対比
本件特許発明1と甲5発明とを対比する。
(ア)第1部材
甲5発明の「フィルム試料D」は、他の部材と、両者のプラズマ照射された面同士が重なるように積層して用いられるものであるから、本件特許発明1の「基材としての第1部材」に相当する。
(イ)第2部材
甲5発明の「樹脂板試料B’」は、フィルム試料Dと、両者のプラズマ照射された面同士が重なるように積層して用いられるものである。そうすると、甲5発明の「樹脂板試料B’」は、本件特許発明1の「第2部材」に相当し、「前記第1部材に対向」するとの要件を満たしている。
また、甲5発明の「樹脂板試料B’」は、「中心部にエンボス加工により凹部」が形成されているから、本件特許発明1の「表面に形状を有する」との要件を備えている。
(ウ)構造体
甲5発明の「樹脂複合成形体M」は、「樹脂板試料B’とフィルム試料Dとを両者のプラズマ照射された面同士が重なるように積層」させて得られたものである。したがって、甲5発明の「樹脂複合成形体M」は、本件特許発明1の第1部材と、第2部材とが「積層」された「構造体」に相当する。
(エ)表面活性化工程
甲5発明の「樹脂板の凹部を形成した側の面に大気圧プラズマ照射を行って」樹脂板試料Aを得る工程、及び、「大気圧プラズマ照射を行ってフィルム試料Aを得」る工程は、それぞれ、本件特許発明1の「活性化処理を行う表面活性化工程」に相当し、「少なくとも前記第2部材の表面を活性化状態にする」との要件を満たしている。また、甲5の段落[0047]における「上記表面処理された成形体(A)の接着面をシランカップリング剤で処理することで、成形体(A)と成形体(B)との密着力が高く、耐水性にも優れる樹脂複合成形体を得ることができる。」、段落[0052]における「成形体(B)の接着面に活性化処理を行った後、次いでシランカップリング剤(B)で処理を行うのが、より高い接着強度を有する樹脂複合成形体を得る上で好ましい。」との記載に基づけば、甲5発明の「大気圧プラズマ照射」を行う工程は、本件特許発明1の「前記第1部材と前記第2部材との接合のため」とする要件も満たしている。
(オ)接合工程
甲5発明の「樹脂板試料B’」を構成する「脂環式構造含有重合体(ゼオノア1430R;日本ゼオン社製)」のガラス転移温度は、「フィルム試料D」と同じ樹脂からなることから、「138℃」であるといえる。そうすると、甲5発明の「加熱圧着」する際の「温度120℃」は、「樹脂板試料B’」の樹脂材料のガラス転移温度以下であるといえる。
したがって、本件特許発明1の「前記第2部材を少なくとも前記第2部材の樹脂材料の荷重撓み温度から30℃引いた基準温度以上ガラス転移温度以下の温度下で加圧して、前記第1部材に密着接合する接合工程」と、甲5発明の「樹脂板試料B’とフィルム試料Dとを両者のプラズマ照射された面同士が重なるように積層し、真空ラミネータを用いて温度120℃、圧力0.9MPaで5分間加熱圧着を行う」工程とは、「前記第2部材を少なくとも前記第2部材の樹脂材料のガラス転移温度以下の温度下で加圧して、前記第1部材に密着接合する接合工程」である点で共通する。
(カ)構造体の製造方法
甲5発明の「樹脂複合成形体M」は、前記(ウ)に記載したとおり、「積層」された「構造体」に相当する。そうすると、甲5発明の「樹脂複合成形体Mを得る方法」は、本件特許発明1の「構造体の製造方法」に相当するといえる。
(キ)一致点及び相違点
以上より、本件特許発明1と甲5発明とは、
「基材としての第1部材と、前記第1部材に対向し表面に形状を有する第2部材とが積層された構造体の製造方法であって、
前記第1部材と前記第2部材との接合のために、少なくとも前記第2部材の表面を活性化状態にする活性化処理を行う表面活性化工程と、
前記第2部材を少なくとも前記第2部材の樹脂材料のガラス転移温度以下の温度下で加圧して、前記第1部材に密着接合する接合工程と、
を備える、構造体の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点2-1]本件特許発明1の第2部材は、「第1部材とは異なる樹脂材料で形成」され、「前記第1部材の線膨張係数と、前記第2部材の線膨張係数とは異なる」のに対し、甲5発明の「樹脂板試料B’」は、「フィルム試料D」と同じ「脂環式構造含有重合体(ゼオノア1430R;日本ゼオン社製)」で形成されており、両者の線膨張係数は同じである点。
[相違点2-2]接合工程における温度が、本件特許発明1では「第2部材の樹脂材料の荷重撓み温度から30℃引いた基準温度以上」であるのに対し、甲5発明の「温度120℃」が、「樹脂板試料B’」の樹脂材料である「脂環式構造含有重合体(ゼオノア1430R;日本ゼオン社製)」の荷重撓み温度から30℃引いた基準温度以上であるかが明らかでない点。
イ 判断
(ア)[相違点2-1]について
前記1(2)イに記載したとおり、甲5には、「脂環式構造含有重合体樹脂からなり、中央部に十字型の凹部を有する樹脂板の接着面にプラズマもしくはエキシマ紫外線照射、またはコロナ放電し、次いでシランカップリング剤で処理し、ポリビニルアルコールからなる樹脂フィルムの接着面にプラズマもしくはエキシマ紫外線照射、またはコロナ放電し、次いで、樹脂板および樹脂フィルムの接着面同士を重ね合わせ、圧着することにより、均一な微細凹部を有し、接着強度に優れる樹脂複合成形体を製造すること。」という技術的事項が開示されている。また、前記1(2)アの記載事項(ウ)には、「この知見を一般化することにより、本発明を完成するに至った。」との記載もあることから、甲5発明は、上記技術的事項を一般化したものにあたると理解できる。
上記技術的事項では、「脂環式構造含有重合体樹脂」からなる「樹脂板」が、「ポリビニルアルコールからなる樹脂フィルム」とは異なる樹脂材料で形成されている。甲5に開示された上記技術的事項に基づけば、甲5発明の「フィルム試料D」の樹脂材料として、一般化する元となった「ポリビニルアルコール」を含む「脂環式構造含有重合体樹脂」とは異なる樹脂材料が選択できることは、当業者であれば容易に理解できることである。
そして、「脂環式構造含有重合体樹脂」と「ポリビニルアルコール」などの脂環式構造含有重合体樹脂以外の樹脂とは、線膨張係数が異なることは明らかであるから、「フィルム試料D」の樹脂材料として、一般化する元となった「ポリビニルアルコール」を含む「脂環式構造含有重合体樹脂」とは異なる樹脂材料を選択したことにより、「前記第1部材の線膨張係数と、前記第2部材の線膨張係数とは異なる」とする要件も満たすことになる。
したがって、甲5発明の甲5発明の「フィルム試料D」の樹脂材料を、「脂環式構造含有重合体樹脂」とは異なる樹脂材料に変更し、本件特許発明1の[相違点2-1]に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
特許権者は、令和6年3月11日付けの意見書において、「仮に『脂環式構造含有重合体』とは異なる樹脂を選択したとしても、当業者であれば当然同じ線膨張係数の樹脂を選択するものです。」(第5頁第19~21行)、「甲5には、本発明のように異なる材料を選択していることは開示されていません。したがって、第1部材とは異なる樹脂材料で形成され表面に形状を有する第2部材を積層する構造体を前提とする本発明は、甲5発明等から容易になし得るものではありません。」(第5頁第28~31行)
しかし、甲5には、「線膨張係数」に基づいて樹脂を選択することについて記載がない。また、上記のとおり、甲5発明は、脂環式構造含有重合体樹脂からなる樹脂板と、ポリビニルアルコールからなる樹脂フィルムの樹脂複合成形体における知見を一般化したものである。甲5発明においても、異なる樹脂材料が選択できることは、当業者であれば容易に理解できることである。
したがって、特許権者の主張を採用できない。
(イ)[相違点2-2]について
甲5発明の「樹脂板試料B’」の樹脂材料である「脂環式構造含有重合体(ゼオノア1430R;日本ゼオン社製)」は、「ガラス転移温度」が138℃であるものの、「荷重撓み温度」が明らかでない。しかし、技術的にみて、「ガラス転移温度」を超えると、樹脂材料は「ゴム状態」となる(「ガラス転移温度」はガラス状態からゴム状態に変化する温度である。)。「ゴム状態」では、荷重により撓むことになるため、「荷重撓み温度」が「ガラス転移温度」よりも高い温度であることはない(特許異議申立人が提出する甲第6号証~甲第8号証の記載も、このことを裏付けている。)。そうすると、「脂環式構造含有重合体(ゼオノア1430R;日本ゼオン社製)」の、「荷重撓み温度から30℃引いた基準温度」は、高くても「108℃」(=138℃-30℃)であるといえる。
そうすると、甲5発明において加熱圧着を行う際の「温度120℃」は、「樹脂板試料B’」の樹脂材料である「脂環式構造含有重合体(ゼオノア1430R;日本ゼオン社製)」の荷重撓み温度から30℃引いた基準温度以上であることは明らかである。
したがって、上記[相違点2-2]は、実質的な相違点ではない。
ウ 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲5発明及び甲5に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。
(2)本件特許発明3
本件特許発明3と甲5発明とを対比する。
甲5発明の「樹脂板試料B’」を構成する「脂環式構造含有重合体(ゼオノア1430R;日本ゼオン社製)」は、技術的にみて「熱可塑性樹脂」であるといえる(なお、特許異議申立人が甲第9号証として引用した特開2010-47676号公報の段落【0118】には、「米粒状のペレット形状のオレフィン系樹脂からなる熱可塑性樹脂(日本ゼオン(株)ZEONOR1430R)」との記載がある。当該記載からも、甲5発明の「脂環式構造含有重合体(ゼオノア1430R;日本ゼオン社製)が「熱可塑性樹脂」であるといえる。)。
したがって、本件特許発明3と甲5発明とを対比すると、上記相違点で相違し、その余の点で一致している。そして、上記相違点についての判断は、すでに記載したとおりである。
よって、本件特許発明3は、甲5発明及び甲5に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。
(3)本件特許発明7
本件特許発明7と甲5発明とを対比する。
甲5発明の「樹脂板の中心部にエンボス加工により凹部を十字型に形成」する工程は、本件特許発明7の「前記第2部材に立体形状を転写させる転写工程」に相当する。また、甲5発明の上記「エンボス加工により凹部を十字型に形成」する工程は、「加圧圧着を行う」工程の前に行われるものであるから、本件特許発明7の「前記接合工程前に、」とする要件を満たしている。
したがって、本件特許発明7と甲5発明とは、上記相違点で相違し、その余の点で一致している。そして、上記相違点についての判断は、すでに記載したとおりである。
よって、本件特許発明7は、甲5発明及び甲5に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。
(4)本件特許発明8
ア 対比
本件特許発明8と甲5発明とを対比すると、上記相違点に加えて以下の点で相違し、その余の点で一致している。
[相違点2-3]本件特許発明8の第2部材は、「第1部材の両面に接合される」のに対し、甲5発明の「樹脂板試料B’」は、「フィルム試料D」の一方の面に接合される点。
イ 判断
マイクロリアクターやマイクロアナリシスシステムにおいて、流路をどのように配置するかは、用途や使用環境に応じて当業者が適宜設計し得る事項である。また、前記1(3)ウに記載したとおり、「基板の両面に流路が形成された基板を設けること」は、周知技術であったといえる。そうすると、甲5発明において、流路を両面に配置するように構成することは、当業者が容易になし得たことであるといえる。
ウ 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明8は、甲5発明、甲5に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。
(5)本件特許発明11
ア 対比
本件特許発明11と甲5発明とを対比すると、上記相違点に加えて以下の点で相違し、その余の点で一致している。
[相違点2-4]転写工程において、本件特許発明11は「10MPa以下の圧力」で加圧するのに対し、甲5発明はエンボス加工を行う際の圧力が明らかでない点。
イ 判断
エンボス加工を行う際の圧力をどの程度とするかは、エンボス加工を行う対象の硬度・弾性率等に応じて当業者が適宜最適し得る事項である。また、前記1(4)エに記載したとおり、「樹脂表面にエンボス加工により凹部を形成する際に、2MPa~10MPaの圧力を加えること」は周知技術であったといえる。また、10MPa以下とすることにより、格別な効果の差異が生じるということもできない。
そうすると、甲5発明において、エンボス加工を行う際の圧力を、2MPa~10MPaとし、本件特許発明11の[相違点2-4]に係る構成とすることは、当業者が適宜なし得たことである。
ウ 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明11は、甲5発明、甲5に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものである。
(6)本件特許発明12
本件特許発明12と甲5発明とを対比する。
甲5発明の「加熱圧着を行う」工程は、「圧力0.9MPa」で加圧するものである。したがって、甲5発明の「加熱圧着を行う」工程は、本件特許発明12の「接合工程において、10MPa以下の圧力で加圧する」とする要件を満たしている。
したがって、本件特許発明12と甲5発明とは、上記相違点で相違し、その余の点で一致している。そして、上記相違点についての判断は、すでに記載したとおりである。
よって、本件特許発明12は、甲5発明及び甲5に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。
(7)本件特許発明14
本件特許発明14と甲5発明とを対比する。
甲5発明の「樹脂板の凹部を形成した側の面に大気圧プラズマ照射を行って」樹脂板試料Aを得る工程、及び、「大気圧プラズマ照射を行ってフィルム試料Aを得」る工程は、本件特許発明14の「前記表面活性化工程で、前記第1部材の表面を活性化状態にする活性化処理を行う」との要件を満たしている。
したがって、本件特許発明14と甲5発明とは、上記相違点で相違し、その余の点で一致している。そして、上記相違点についての判断は、すでに記載したとおりである。
よって、本件特許発明14は、甲5発明及び甲5に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。
(8)本件特許発明15
甲5発明の「大気圧プラズマ照射」は、本件特許発明15の「プラズマ処理」に相当する。したがって、甲5発明は、本件特許発明15の「前記表面活性化工程において、前記第1部材及び前記第2部材に対して紫外線照射及びプラズマ処理、コロナ処理、オゾン処理のいずれかを用いて表面を活性化する、」との要件を満たしている。
したがって、本件特許発明15と甲5発明とを対比すると、上記相違点で相違し、その余の点で一致している。そして、上記相違点についての判断は、すでに記載したとおりである。
よって、本件特許発明15は、甲5発明及び甲5に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。
4 まとめ
以上のとおり、本件特許発明1、3、8、12、14、15は、甲1発明、甲1に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものであり、また、本件特許発明1、3、7、8、11、12、14、15は、甲5発明、甲5に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。
したがって、本件特許発明1、3、7、8、11、12、14、15に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してなされたものである。
第7 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
上記第5及び第6のとおり、本件特許発明1~3及び5~15に係る特許は取り消すべきものと判断されるため、本件特許発明4に対して取消理由通知(決定の予告)で採用しなかった異議申立理由について検討する。
申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲に関し、「前記第1部材と前記第2部材との接合のために、少なくとも前記第2部材の表面を活性化状態にする活性化処理を行う表面活性化工程」には、どのような範囲・条件の活性化処理が含まれるのか、その外縁が不明確であり、請求項1及び請求項1を引用する請求項2~15に係る発明は、発明の範囲が不明確であると主張している。
しかし、本件特許の段落【0020】には、「活性化状態とは、例えば樹脂が持つメチル基やフェニル基が切断された状態の他、この未結合手や部材の材料表面の元素にOH基(水酸基)、CHO基(アルデヒド基)等の極性基が接続された状態をいう。」と記載されている。当該記載に基づけば、表面活性化工程は、第2部材の表面を、その樹脂が持つメチル基やフェニル基が切断された状態や、この未結合手や部材の材料表面の元素に極性基が接続された状態とする処理である。そして、表面活性化工程によって活性化された表面に、第1部材を接合した場合、本件特許の段落【0027】に記載されるように、「レンズ部材20及び基板10が水素結合によって仮固定された状態」となる。そうすると、第2部材の表面を活性化状態にする活性化処理を行う表面活性化工程であって、第1部材との接合面に対して実施される処理であれば、「前記第1部材と前記第2部材との接合のために、少なくとも前記第2部材の表面を活性化状態にする活性化処理を行う表面活性化工程」に該当することは明らかである。
したがって、本件特許の請求項4の記載は明確であるから、本件特許発明4に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。
第8 むすび
以上のとおり、本件特許発明1、3、7、8、11、12、14、15に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してなされたものであるから、特許法第113条第2項に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件特許発明1~3、5~15は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4項に該当し、取り消されるべきものである。
そして、本件特許発明4は、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701090