2020-700198
包装用紙
- 審判番号
- 2020-700198
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-521839外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 6580291
- 請求日
- 2020年03月24日
- 審決日
- 2021年11月09日
- 公報発行日
- 2022年02月25日
- 結論
- 訂正認容
- 分類
- P1651.113-YAA(D21H) / P1651.121-YAA(D21H) / P1651.537-YAA(D21H)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第113条第4号、特許法第113条第2号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の8第1項、特許法第135条
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 11項目
第1 手続の経緯
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特許第6580291号(以下「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、平成31年1月21日に国際出願され、令和1年9月6日にその特許権の設定登録(特許掲載公報発行日:令和1年9月25日)がされたものであり、その特許について、令和2年3月24日に、特許異議申立人佐々木香織(以下「申立人1」という。)、特許異議申立人岡本正義(以下「申立人2」という。)より、それぞれ特許異議の申立てがされ、令和2年7月14日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である令和2年9月11日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求がされ、令和2年10月21日に申立人1より、令和2年10月28日に申立人2より、それぞれ意見書の提出がされ、令和3年2月24日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である令和3年4月26日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)がされ、令和3年6月8日に申立人2より意見書の提出がされたものである。
なお、令和2年9月11日の訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の請求について
1.訂正の内容
本件訂正請求は、特許第6580291号の明細書、特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりのものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に、
「前記アイオノマーがエチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩であることを特徴とする請求項1又は2に記載の包装用紙。」と記載されているのを、
「紙基材の少なくとも一方の面に少なくとも1層のヒートシール層を有する包装用紙であって、前記ヒートシール層がアイオノマーのみからなり、前記ヒートシール層の乾燥塗工量が全層で紙基材の片面あたり2~10g/m2であり、前記ヒートシール層が少なくとも一方の面に2層以上形成されており、透気度が10000秒を超え、前記アイオノマーがエチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩であることを特徴とする包装用紙。」と訂正する。(請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4~6も同様に訂正する)
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に、
「アイオノマーエマルジョンを含有するヒートシール層用塗工液を調製する工程と、紙基材の少なくとも一方の面に、前記ヒートシール層用塗工液を固形分換算で2~10g/m2の範囲で塗工する工程とを有する、請求項1~3のいずれか一つに記載の包装用紙の製造方法。」と記載されているのを、
「エチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩であるアイオノマーエマルジョンのみからなるヒートシール層用塗工液を調製する工程と、紙基材の少なくとも一方の面に、前記ヒートシール層用塗工液を固形分換算で2~10g/m2の範囲で塗工する工程とを有する、請求項3に記載の包装用紙の製造方法。」に訂正する。(請求項4の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5、6も同様に訂正する)
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に、「前記紙基材の平滑度が10秒以上である面に、前記ヒートシール層用塗工液を塗工することを特徴とする請求項4に記載の包装用紙の製造方法。」と記載されているのを、「前記紙基材の平滑度が100秒以上である面に、前記ヒートシール層用塗工液を塗工することを特徴とする請求項4に記載の包装用紙の製造方法。」に訂正する。(請求項5の記載を直接的に引用する請求項6も同様に訂正する)
(6)訂正事項6
願書に添付した明細書の段落【0030】、【0034】~【0039】、【0041】、【0042】、【0044】~【0055】及び【0062】~【0064】の、「実施例1」、「実施例2」、「実施例3」、「実施例4」、「実施例5」、「実施例6」、「実施例7」、「実施例8」、「実施例9」、「実施例10」、「実施例16」及び「実施例17」を、「参考例1」、「参考例2」、「参考例3」、「参考例4」、「参考例5」、「参考例6」、「参考例7」、「参考例8」、「参考例9」、「参考例10」、「参考例16」及び「参考例17」に、それぞれ訂正する。
2.訂正の適否
(1)一群の請求項について
訂正前の請求項2~6は、訂正前の請求項1を、直接又は間接に引用するものであって、請求項1に連動して訂正されるものであり、本件訂正請求による訂正は、一群の請求項ごとにされたものである。
(2)訂正事項1、2について
訂正事項1、2は、それぞれ訂正前の請求項1、2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項1、2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであることは明らかである。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項3が、請求項1又は請求項2を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消して独立形式請求項に改め、訂正前の請求項1で「前記ヒートシール層がアイオノマーを含み」としていたものを、「前記ヒートシール層がアイオノマーのみからなり」と成分を限定し、さらに、訂正前の請求項1で「前記ヒートシール層の乾燥塗工量が全層で2~10g/m2である」としていたものを、「前記ヒートシール層の乾燥塗工量が全層で紙基材の片面あたり2~10g/m2であり」と、乾燥塗工量について限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項3は、上記のように、訂正前の請求項3の発明特定事項をさらに限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。
そして、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書」という。)には、段落【0017】に「ヒートシール層の塗工量は、紙基材の片面あたり、固形分換算で2~10g/m2であり」と、段落【0018】に「本実施形態においては、ヒートシール層用塗工液がアイオノマーエマルジョンのみからなることが好ましい。」と記載されていることから、訂正事項3は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものである。
(4)訂正事項4について
訂正事項4は、請求項1及び請求項2の削除に伴い、訂正前の請求項4で「請求項1~3のいずれか一つに記載の包装用紙の製造方法」としていたものを、「請求項3に記載の包装用紙の製造方法」と引用請求項番号を削除し、「アイオノマーエマルジョンを含有するヒートシール層用塗工液」としていたものを、「エチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩であるアイオノマーエマルジョンのみからなるヒートシール層用塗工液」と成分を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項4は、上記のように、訂正前の請求項4の発明特定事項をさらに限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。
そして、本件特許明細書には、段落【0016】に「前記アイオノマーがエチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩である自己乳化型エマルジョンであることが好ましい。」と、段落【0018】に「本実施形態においては、ヒートシール層用塗工液がアイオノマーエマルジョンのみからなることが好ましい。」と記載されていることから、訂正事項4は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものである。
(5)訂正事項5について
訂正事項5は、訂正前の請求項5で「前記紙基材の平滑度が10秒以上である面」と記載されているのを、「前記紙基材の平滑度が100秒以上である面」と平滑度の範囲を限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項5は、上記のように、訂正前の請求項5の発明特定事項をさらに限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。
そして、本件特許明細書の段落【0045】~【0049】の実施例11~15では、「紙基材の平滑度」の下限が「100秒」であることから、訂正事項5は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものである。
(6)訂正事項6について
訂正事項6は、訂正事項5で請求項5を「紙基材の平滑度が100秒以上」と訂正することに伴い、発明の詳細な説明中の「紙基材の平滑度が100秒以上」ではない実施例を参考例と記載して、請求項5の記載との整合をとるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、訂正事項6は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであることは明らかである。
さらに、訂正事項6は、一群の請求項1~6の全てに係る訂正である。
3.小括
したがって、訂正事項1~6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正を認める。
第3 特許異議の申立てについて
1.本件特許発明
上記のとおり、本件訂正請求が認められるから、本件特許の請求項3~6に係る発明(以下「本件発明3」等といい、また、本件発明3~6を「本件発明」ともいう。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項3~6に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項1】(削除)【請求項2】(削除)続きを表示(全13行)【請求項3】紙基材の少なくとも一方の面に少なくとも1層のヒートシール層を有する包装用紙であって、前記ヒートシール層がアイオノマーのみからなり、前記ヒートシール層の乾燥塗工量が全層で紙基材の片面あたり2~10g/m2であり、前記ヒートシール層が少なくとも一方の面に2層以上形成されており、透気度が10000秒を超え、前記アイオノマーがエチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩であることを特徴とする包装用紙。【請求項4】エチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩であるアイオノマーエマルジョンのみからなるヒートシール層用塗工液を調製する工程と、紙基材の少なくとも一方の面に、前記ヒートシール層用塗工液を固形分換算で2~10g/m2の範囲で塗工する工程とを有する、請求項3に記載の包装用紙の製造方法。【請求項5】前記紙基材の平滑度が100秒以上である面に、前記ヒートシール層用塗工液を塗工することを特徴とする請求項4に記載の包装用紙の製造方法。【請求項6】前記アイオノマーエマルジョンが自己乳化型エマルジョンであることを特徴とする請求項4又は5に記載の包装用紙の製造方法。」
2.取消理由(決定の予告)の要旨
本件発明に対して、特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は以下のとおりである。
(1)サポート要件に係る取消理由
本件発明には、1)アイオノマーがどのような重合体(共重合であるならば、その共重合比)なのか、及び、2)アイオノマーの含有量について特定されていないが、発明の詳細な説明の記載からは、アイオノマーがどのような重合体でもよく、あるいは、どのような含有量でも、課題を解決し得るものとは認識でないから、本件発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
(2)進歩性に係る取消理由
本件発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された引用文献1~9に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3.取消理由(決定の予告)についての判断
(1)サポート要件に係る取消理由について
ア 特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定される要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。以下、本件特許の特許請求の範囲の記載について検討する。
イ 本件特許の発明の詳細な説明には、次のように記載されている。
(ア)「【技術分野】【0001】本発明は、プラスチックの使用量を低減した包装用紙に関する。【背景技術】【0004】即効性のある対策手段として、プラスチックを紙に代替することが提案されているが、紙を袋や容器に加工する際には、ヒートシール剤として、ポリエチレンやポリプロピレンが多量にラミネートされて使用される。これらプラスチックのラミネート量は、商品コンセプトによって様々だが、概ね20~50g/m2であり、300g/m2と多量になる場合もある。従って、プラスチックを紙に代替した包装容器においても、依然としてプラスチックの使用量は十分に低減されないという問題があり、早急に、直接的にプラスチックの使用を低減する手段が必要である。」
(イ)「【発明が解決しようとする課題】【0006】本発明の目的は、プラスチックの使用量を低減することができる包装用紙を提供することにある。」
(ウ)「【発明の効果】【0014】本発明により、プラスチック使用量が低減された包装用紙を製造することが可能である。本発明の包装用紙を用いた容器製品であれば、仮に自然界にゴミとして不適切に放出された場合であっても、自然環境に与えるプラスチックゴミとしての悪影響を小さくすることが可能であり、プラスチックゴミ問題の解決の一助となる。なお、本発明における包装用紙は、例えば、袋、アイスクリーム等の食糧カップ、コーヒー等の飲料用コップ、ホットスナック等の食糧容器及びトレイ、箱、ケース、器、封筒等の包装容器全般に加工可能である。」
(エ)「【発明を実施するための形態】・・・・【0016】本実施形態において、アイオノマーとは、金属イオンによる凝集力を利用し高分子を凝集体とした合成樹脂の総称であり、アクリル酸またはメタクリル酸をエチレンなどと組み合わせた樹脂である。すなわち、エチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩、エチレン・アクリル系共重合物の金属塩、エチレン・ウレタン系共重合物の金属塩、エチレン・フッ素系高分子共重合物の金属塩、などは全てアイオノマーと呼ばれる。塩を形成する金属としては、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、具体的には、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛の各イオンなどである。本発明においては、前記アイオノマーがエチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩である自己乳化型エマルジョンであることが好ましい。ヒートシール層の塗工量が比較的少なくとも、十分なヒートシール強度を有するヒートシール層を設けることができる。【0017】本実施形態においては、紙基材の少なくとも一方の面に、アイオノマーエマルジョンを含有するヒートシール層用塗工液を塗工し、乾燥することでヒートシール層を設けることができる。アイオノマーエマルジョンを用いることにより、塗工量を比較的低くコントロールすることが可能であり、更に水系のアイオノマーエマルジョンを用いることによりVOC排出が無くなり自然環境に対する負荷を小さくすることができる。ヒートシール層の塗工量は、紙基材の片面あたり、固形分換算で2~10g/m2であり、好ましくは3~8g/m2である。2g/m2未満の場合は十分なヒートシール強度を満足できない。逆に10g/m2を超える場合は、ヒートシール強度の面からは過剰品質であり、かつプラスチック削減効果に乏しくなる。なお、本発明の包装用紙において、ヒートシール層は、紙基材の表面の一部分のみに設けられているのではなく、全面に設けられていることが通常である。すなわち、ヒートシール層は、例えば網状、島状、線状など、ヒートシールによる接着に必要な部分にのみ設けられているのではなく、紙基材の表面の全面を覆うように設けられていると良い。」
(オ)「【0020】本実施形態においては、前記ヒートシール層が2層以上で形成されていることが好ましい。2層以上とすることにより、包装用紙の透気度を高くすることができ、さらに、撥水性と撥油性を付与することができ、プラスチックフィルムラミネート紙と同様かそれ近い特性を得ることができるからである。ヒートシール層が2層以上の場合、紙基材に最も近い最下層のヒートシール層の塗工量が、他のヒートシール層の合計塗工量よりも多い方が好ましい。包装用紙の透気度をさらに改善することができ、撥水性と撥油性が更に向上するからである。【0021】本実施形態においては、包装用紙の透気度が10000秒を超える事が好ましい。より好ましくは12000秒以上であり、更に好ましくは15000秒以上である。包装用紙の透気度を10000秒以上とすることにより、空気を遮断する意味でのバリア性が更に高くなり、撥水性と撥油性が更に向上する。包装用紙の透気度を10000秒以上とする方法については、特に限定するものではないが、例えば、紙基材に透気度の高いものを使用することで達成できる。さらに、ヒートシール塗工液を塗工する面の平滑度を高くすることによっても、包装用紙の透気度を高くすることができる。その後形成されるヒートシール層においてピンホールやヒビ割れなどをより減少させることができるからである。例えば、顔料塗工層を設け、その後キャレンダー処理等を行うことにより、ヒートシール塗工液を塗工する面の平滑度を高くすることができる。他には、ヒートシール層を2層以上塗工することも透気度を高める効果がある。ヒートシール層の2層塗工は、1層目の塗工層(下層)に存在する微細なピンホールやヒビを、1層目の上に設けられた2層目の塗工層(上層)が覆うことで透気度が高まると考えられる。また、ヒートシール層の塗工量を増加させることも透気度の向上に効果がある。ヒートシール層の造膜の面では、ヒートシール層用塗工液の塗工後の乾燥温度を、アイオノマーの融点以上の温度とすることで透気度が向上しやすい。【0022】本実施形態においては、紙基材のヒートシール塗工液を塗工する面の平滑度が10秒以上であることが好ましい。より好ましくは20秒以上である。紙基材の平滑度が高い方が塗工して設けたヒートシール層の膜厚が均一となりやすく(微細な凹凸が生じ難く)、結果としてヒートシール強度のバラツキが生じ難くすることができ、平面上に均一なヒートシール強度を付与することができる。紙基材の平滑度を高める方法は、特に限定するものではなく、例えば、スーパーキャレンダー、グロスキャレンダー、シューニップキャレンダー、ソフトキャレンダーなどの公知のキャレンダー装置によるキャレンダー処理が挙げられる。また、片艶クラフト紙などのヤンキードライヤーの鏡面を転写した紙も平滑度の高い紙基材として好適である。なお、ヒートシール層には肉眼では見えないピンホールやヒビ割れが存在する場合があるが、その程度であるならばヒートシール性に悪影響を与えない。また、本発明の効果を損なわない限り、ヒートシール層塗工液中にピンホール防止を目的としたレベリング剤を添加することもできる。」
(カ)「【0042】(実施例9)(紙基材の作製)カナディアンスタンダードフリーネス580mlcsfの広葉樹晒クラフトパルプ100部、軽質炭酸カルシウム(商品名:TP-121、奥多摩工業社製)5部、カチオン化澱粉(商品名:ネオタック30T、日本食品加工社製)0.2部、中性ロジンサイズ(サイズパインNT-78:荒川化学工業社製)0.2部に水を加えて紙料を調製し、三層長網多筒式抄紙機を用いて坪量298g/m2の原紙(三層抄き)を作製した。この原紙にサイズプレスによって、酸化澱粉(商品名:MS3800、日本食品化工社製)を両面あたりの乾燥塗布量が2g/m2となるように塗布し、乾燥、ソフトキャレンダー処理して坪量300g/m2の紙基材を得た。紙基材の表面(後工程でヒートシール層を設ける面)の平滑度は100秒であった。【0043】(包装用紙の作製)上記で得られた紙基材の片面に、水系アイオノマーエマルジョン(商品名:ケミパールS-500、三井化学社製、組成:エチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩、自己乳化型エマルジョン、マイクロトラック法平均粒子径0.7μm)を乾燥塗工量4g/m2になるようにエアーナイフコーターを用いて塗工し、乾燥してヒートシール層を設け、包装用紙を作製した。」
(キ)「【0045】(実施例11)実施例9で得られた紙基材の片面に、水系アイオノマーエマルジョン(商品名:ケミパールS-300、三井化学社製、組成:エチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩、自己乳化型エマルジョン、マイクロトラック法平均粒子径0.5μm)を乾燥塗工量が5g/m2となるようにエアーナイフコーターを用いて塗工し、乾燥してヒートシール層(下層)を設けた。次いで、同水系アイオノマーエマルジョンをヒートシール層(下層)の表面に、乾燥塗工量が2g/m2となるようにエアーナイフコーターを用いて塗工し、乾燥してヒートシール層(上層)を設け、包装用紙を作製した。」
(ク)「【0046】(実施例12)実施例10で作製した紙基材の非塗工面(紙基材の顔料塗工層が設けられていない面)に、水系アイオノマーエマルジョン(商品名:MYE-30ER、丸芳化学社製、組成:エチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩、自己乳化型エマルジョン、マイクロトラック法平均粒子径0.2μm)を乾燥塗工量が3g/m2となるようにエアーナイフコーターを用いて塗工し、乾燥してヒートシール層(下層)を設けた。次いでヒートシール層(下層)の表面に、水系アイオノマーエマルジョン(商品名:MYE-30MAZ、丸芳化学社製、組成:エチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩、自己乳化型エマルジョン、マイクロトラック法平均粒子径0.3μm)を乾燥塗工量1g/m2となるようにエアーナイフコーターを用いて塗工し、乾燥してヒートシール層(上層)を設け、包装用紙を作製した。」
(ケ)「【0047】(実施例13)実施例10で作製した紙基材の非塗工面(紙基材の顔料塗工層が設けられていない面)に、水系アイオノマーエマルジョン(商品名:ケミパールS-300、三井化学社製、組成:エチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩、自己乳化型エマルジョン、マイクロトラック法平均粒子径0.5μm)を、乾燥塗工量が5g/m2となるようにエアーナイフコーターを用いて塗工し、乾燥してヒートシール層(下層)を設けた。次いで、同水系アイオノマーエマルジョンをヒートシール層(下層)の表面に、乾燥塗工量が1g/m2となるようにエアーナイフコーターを用いて塗工し、乾燥してヒートシール層(上層)を設け、包装用紙を作製した。」
(コ)「【0048】(実施例14)実施例10で作製した紙基材の非塗工面(紙基材の顔料塗工層が設けられていない面)に、水系アイオノマーエマルジョン(商品名:ケミパールS-300、三井化学社製、組成:エチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩、自己乳化型エマルジョン、マイクロトラック法平均粒子径0.5μm)を、乾燥塗工量が1g/m2となるようにエアーナイフコーターを用いて塗工し、乾燥してヒートシール層(下層)を設けた。次いで、同水系アイオノマーエマルジョンをヒートシール層(下層)の表面に、乾燥塗工量が9g/m2となるようにエアーナイフコーターを用いて塗工し、乾燥してヒートシール層(上層)を設け、包装用紙を作製した。」
(サ)「【0049】(実施例15)実施例10で作製した紙基材の非塗工面(紙基材の顔料塗工層が設けられていない面)に、水系アイオノマーエマルジョン(商品名:ケミパールS-300、三井化学社製、組成:エチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩、自己乳化型エマルジョン、マイクロトラック法平均粒子径0.5μm)を、乾燥塗工量が9g/m2となるようにエアーナイフコーターを用いて塗工し、乾燥してヒートシール層(下層)を設けた。次いで、同水系アイオノマーエマルジョンをヒートシール層(下層)の表面に、乾燥塗工量が1g/m2となるようにエアーナイフコーターを用いて塗工し、乾燥してヒートシール層(上層)を設け、包装用紙を作製した。」
(シ)「【0052】(比較例1)実施例1で作製した紙基材の片面に、エクストリュージョンコーター(溶融押出し機)にて低密度ポリエチレン(東ソー社製、ペトロセンDLZ19A)を塗工量が30g/m2になるようにラミネートしてヒートシール層を設け、包装用紙を作製した。【0053】続きを表示(全12行)(比較例2)実施例1で作製した紙基材の片面に、エクストリュージョンコーター(溶融押出し機)にてポリプロピレン(日本ポリプロ社製、ノバテックFL03H)を塗工量が30g/m2になるようにラミネートしてヒートシール層を設け、包装用紙を作製した。【0054】(比較例3)実施例1において、水系アイオノマーエマルジョンを水系ポリエチレンエマルジョン(サンノプコ社製、SNコート287)に変更した以外は実施例1と同様にして包装用紙を作製した。【0055】(比較例4)実施例1において、水系アイオノマーエマルジョンを水系ポリプロピレンエマルジョン(東邦化学工業社製、ハイテックP-5300)に変更した以外は実施例1と同様にして包装用紙を作製した。」
(ス)「【0056】各実施例及び比較例で得られた包装用紙について、以下に示す方法により評価を行った。得られた結果を表1~3に示す。なお、ヒートシール層が1層のみの場合は、便宜上、塗工量をヒートシール層上層の塗工量欄に記載した。」
(セ)「【0062】[図:0001381631000001.jpg]」
(ソ)「【0063】[図:0001381631000002.jpg]」
(タ)「【0064】[図:0001381631000003.jpg]」
ウ 発明の詳細な説明には、「プラスチックの使用量を低減すること」(【0006】)、「透気度が高く、撥水性と撥油性を有する包装用紙を得ること」(【0008】)、「ヒートシール適性により優れた包装用紙を得ること」(【0010】)という本件発明の課題の解決のために、「アイオノマーがエチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩である自己乳化型エマルジョンであることが好ましい。ヒートシール層の塗工量が比較的少なくとも、十分なヒートシール強度を有するヒートシール層を設けることができる」こと(【0016】)、「ヒートシール層の塗工量は、紙基材の片面あたり、固形分換算で2~10g/m2であり、好ましくは3~8g/m2である。2g/m2未満の場合は十分なヒートシール強度を満足できない。逆に10g/m2を超える場合は、ヒートシール強度の面からは過剰品質であり、かつプラスチック削減効果に乏しくなる」こと(【0017】)、「ヒートシール層用塗工液には、アイオノマーエマルジョンの他に、各種助剤を添加してもよい。例えば、粘度調整剤、消泡剤、界面活性剤やアルコールなどのレベリング剤、着色顔料、着色染料などである。しかしながら、これらの助剤の添加は、ヒートシール強度の低下を招きやすいことから、添加する場合には少量であることが好ましい。本実施形態においては、ヒートシール層用塗工液がアイオノマーエマルジョンのみからなることが好ましい」こと(【0019】)、「前記ヒートシール層が2層以上で形成されていることが好ましい。2層以上とすることにより、包装用紙の透気度を高くすることができ、さらに、撥水性と撥油性を付与することができ、プラスチックフィルムラミネート紙と同様かそれ近い特性を得ることができるからである」こと(【0020】)、「包装用紙の透気度が10000秒を超える事が好ましい。より好ましくは12000秒以上であり、更に好ましく15000秒以上である。包装用紙の透気度を10000秒以上とすることにより、空気を遮断する意味でのバリア性が更に高くなり、撥水性と撥油性が更に向上する」こと(【0021】)が記載されている。
エ 上記記載からみて、本件発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、本件発明において、1)アイオノマーがどのような重合体(共重合であるならば、その共重合比)なのか、及び、2)アイオノマーの含有量についてまで、特定することは要しないものである。
オ 以上より、本件特許の特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号の規定に違反するものではないから、本件発明に係る特許は、特許法第113条第4号に該当せず、取り消すべきものではない。
(2)進歩性に係る取消理由について
ア 引用文献1には、以下の記載がある。
(ア)特許請求の範囲
「(1) エチレンとα、β-エチレン系不飽和カルボン酸、あるいはエチレンとα、β-エチレン系不飽和カルボン酸および該不飽和カルボン酸の一部がアルキルエステルであるものとからなるエチレン系共重合体であつて、前記不飽和カルゲン酸の少くとも10%が金属イオンおよび/またはアンモニウムイオンで中和され、しかも中和された該共重合体の融解熱が2.0~10.0cal/gであるエチレン系共重合体を含有する樹脂が、紙の片面、両面あるいは全体に均一に設けられてなる加工紙。・・・・(5) 樹脂を、3~20g/m2均一に設けたものである特許請求の範囲第1項ないし第4項のいずれかに記載の加工紙。」
(イ)明細書第1頁右下欄12行~第2頁左上欄19行
「本発明は良好なヒートシール性、耐油性を有し、かつ耐ブロツキング性に優れた加工紙に関する。・・・・例えば、紙加工用エマルジョンとしてポリビニルアセテートエマルジヨン、エチレン/ビニルアセテート共重合体エマルジヨン、ポリアクリル酸エステルエマルジヨン等多くのものが知れているが、これらのものはヒートシール性が劣つていたり、耐油性に劣つていたり、粘着性が著しく大きいため加工紙としての取り扱いが極めて困難である。又エチレン系アイオノマーよりなる水性分散体を紙に塗工又は含浸して加工紙をつくることも知られている。しかしながら、かかる水性分散体を紙に塗工した場合、紙の表面層の平滑性が乏しいためにピンホールの発生やひび割れ現象を防止することが極めて難しく、特に耐油性、耐水性を必要とする加工紙には応用できなかつた。」
(ウ)第3頁左上欄1行~同左下欄5行
「本発明で用いられるエチレン系重合体は、96~85モル%、好しくは94~90モル%のエチレンと、4~15モル%、好しくは6~10モル%のα、β-エチレン系不飽和カルボン酸、場合によりその一部がアルキルエステルからなり、かつα、β-エチレン系カルボン酸の少くとも10%が金属イオンおよび/またはアンモニウムイオンによって中和されたエチレン系共重合体である。・・・・α、β-エチレン系不飽和カルボン酸の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、イタコン酸、マレイン酸等がある。又、α、β-エチレン系不飽和カルボン酸アルキルエステルの例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、フマル酸ジメチル、マレイン酸モノエチル等がある。酸を中和する金属としては、ナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属がある。・・・・このようにしてえられたエチレン系共重合体を紙の表面又は全体に均一に設けるには、水分散液として用いるのがよく、水に分散化する方法としては数多く提案されているが、例えば特開昭51-62890号公報、その他公知の中和、水性分散化法で製造される。・・・・この水性分散体には機械的安定性および凍結安定性の向上および塗工時の紙とのぬれをよくする目的で少量の陰イオン性または非イオン性界面活性剤を添加することは塗工面のヒートシール性、耐油性、耐ブロツキング性を損うことはないが、添加量が分散体の重量に対して5%をこえると耐水性に悪影響をおよぼすので好しくない。」
(エ)第3頁左下欄6行~同右下欄5行
「紙の片面、両面あるいは全体に均一に設ける樹脂量は3~20g/m2好ましくは4~15g/m2である。樹脂量が3g/m2未満になると、例えばラテツクスを塗工する場合、紙への吸収のために均一な塗膜が得られずにピンホールを生ずる。20g/m2を越える量は2回塗りが必要となるし、物性面でもその必要性に乏しい。エチレン系共重合体よりなる水性分散体を紙に塗工させる方法としては、エアーナイフコート法、リバースロールコート法、バーコート法等があるが、特に限定されることはない。・・・・本発明において用いられる紙とは、JIS P00001-1969に規定されている紙、例えば板紙、白板紙、クラフト紙、上質紙、合成紙、グラシン紙、硫酸紙等を含むが、目的によってはこれらの紙に限定されることはない。」
(オ)第3頁右下欄8行~第5頁左上欄末行
「実施例1表1に示す特性を有する実験番号1~11のエチレン系共重合体を、水と耐圧容器中130℃、3時間加熱攪拌し、表1に示す水性分散体を得た。これら11種類の水性分散体を紙に塗工し、塗工面の塗膜状態、耐油性、ヒートシール強度及び耐ブロツキング性を測定し、測定結果は表2にまとめて記した。・・・・(2)ヒートシール性及び耐ブロツキング性の試験方法坪量75g/m2の上質紙の片面にナンバー8番のメイヤーバーで水性分散体を塗工し、熱風乾燥機で120℃、1分間乾燥し塗膜を形成させたものを試験サンプルとした。ヒートシール強度は塗膜面同士を重ね合わせた試験サンプルをセンチネルヒートシーラーでヒートシールした。・・・・[図:0001381631000004.jpg][図:0001381631000005.jpg]」
(カ)第5頁右上欄15行~同左下欄末行
「実施例3実施例1の実験番号1の融解熱4.0ca1/gの共重合体80gに水125gを加え耐圧容器中で140℃、3時間加熱攪拌し乳白色の安定した水性分散体をえた。この水性分散体の固形分濃度は40重量%で、粘度は130cps、分散体の平均粒子径は0.25μであつた。なおこの水性分散体には分散体固形分濃度に対して0.2重量%のオレイン酸ソーダを含むようにした。この水性分散体を坪量75g/m2の上質紙の片面にメイヤーバーNo.4で塗工し、熱風乾燥機で120℃、1分間乾燥し塗膜を形成させた。しかる後に更に塗膜面にメイヤーバーNo.4又は20又は30で水性分散体を塗工し熱風乾燥機で120℃、1分間乾燥し試料D、E、Fを作成した。これらの試料の塗膜状態・耐油性を前述の試験方法に従い測定した。測定結果は表3に示す。[図:0001381631000006.jpg]」
(キ)第5頁右下欄1~14行
「以上の説明で明らかなように、耐油性に優れた被膜形成能を有し、良好なヒートシール性、耐ブロツキング性に優れた加工紙は本文に示した如き特定の組成を有するエチレン系共重合体で、かつ該共重合体の融解熱が2.0~10.0cal/g、好ましくは3.0~7.0cal/gの範囲のものを含有する樹脂を紙の片面又は両面あるいは全体に3~20g/m2均一に設けることによりはじめて達成することができる。本発明に係る加工紙は、例えばペツトフ-ドの包装材、油性食品の包装材、油性食品の紙器、清涼飲料水等のカップ、チヨコレート台紙、剥離紙等数多くの用途があるが、もちろんこれらの用途例に限定されるものではない。」
イ 引用文献1には、包装材等に用いられる加工紙について、特に実施例3の試料Dをみると、以下の「引用発明1」が記載されている。
「エチレンとメタクリル酸からなり、メタクリル酸がNaイオンで中和されたエチレン系共重合体と、オレイン酸ソーダを含む水性分散体を、坪量75g/m2の上質紙の片面に塗工して塗膜を形成した後、更に塗膜面に水性分散体を塗工して、水性分散体の塗膜の塗工量を8g/m2とした、包装材等に用いられる加工紙。」
また、引用文献1には、上記加工紙の製造方法に係る「引用発明2」も記載されている。
「エチレンとメタクリル酸からなり、メタクリル酸がNaイオンで中和されたエチレン系共重合体を含む水性分散体に水を加え耐圧容器中で加熱攪拌して、乳白色の安定した水性分散体を調製し、この水性分散体にはオレイン酸ソーダが含まれ、この水性分散体を坪量75g/m2の上質紙の片面に塗工して塗膜を形成した後、更に塗膜面に水性分散体を塗工して乾燥させて、水性分散体の塗膜の塗工量を8g/m2とした、包装材等に用いられる加工紙の製造方法。」
ウ 本件発明3について
(ア)本件発明3と引用発明1を対比する。
引用発明1の「上質紙」、「包装材等に用いられる加工紙」は、それぞれ、本件発明3の「紙基材」、「包装用紙」に相当する。
引用発明1の「エチレンとメタクリル酸からなり、メタクリル酸がNaイオンで中和されたエチレン系共重合体」は、本件発明3の「エチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩である」「アイオノマー」に相当する。
引用発明1の「エチレンとメタクリル酸からなり、メタクリル酸がNaイオンで中和されたエチレン系共重合体と、オレイン酸ソーダを含む水性分散体を」「塗工して」形成した「塗膜」と、本件発明3の「エチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩」の「アイオノマーのみからな」る「ヒートシール層」は、「アイオノマーを含むヒートシール層」という限りで一致する。
引用発明1の「坪量75g/m2の上質紙の片面に塗工して塗膜を形成した後、更に塗膜面に水性分散体を塗工して、水性分散体の塗膜の塗工量を8g/m2とした」ことは、本件発明3の「前記ヒートシール層の乾燥塗工量が全層で紙基材の片面あたり2~10g/m2であり、前記ヒートシール層が少なくとも一方の面に2層以上形成されて」いることに相当する。
(イ)そうすると、本件発明3と引用発明1は、
「紙基材の少なくとも一方の面に少なくとも1層のアイオノマーを含むヒートシール層を有する包装用紙であって、前記ヒートシール層の乾燥塗工量が全層で2~10g/m2であり、前記ヒートシール層が少なくとも一方の面に2層以上形成されており、前記ヒートシール層のアイオノマーがエチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩である、包装用紙」で一致し、次の相違点1で相違する。
《相違点1》
アイオノマーを含むヒートシール層を有する包装用紙に関して、本件発明3の包装用紙は、「ヒートシール層がアイオノマーのみからなり」、「透気度が10000秒を超え」るのに対し、引用発明1の加工紙は、塗膜を形成する水性分散体がアイオノマーのみからなるとは特定されておらず、オレイン酸ソーダを含み、透気度についても特定されていない点。
(ウ)上記相違点1について検討する。
引用発明1の水性分散体に含有させた「オレイン酸ソーダ」は、引用文献1の上記記載(ア(ウ))にある、「機械的安定性および凍結安定性の向上および塗工時の紙とのぬれをよくする目的」で添加される「少量の陰イオン性または非イオン性界面活性剤」に該当し、「添加することは塗工面のヒートシール性、耐油性、耐ブロツキング性を損うことはないが、添加量が分散体の重量に対して5%をこえると耐水性に悪影響をおよぼすので好しくない」とされるものであるから、この「オレイン酸ソーダ」を全く含まないようにして、水性分散体をアイオノマーのみから構成する動機付けがない。
また、引用発明1の加工紙は、「ペットフードの包装材、油性食品の包装材」に用いることが想定されるが、そのような包装材を「透気度が10000秒を超え」るものとする動機付けもない。
申立人2は、令和2年10月28日の意見書に添付して提出した甲13(特開昭57-160636号公報(第2頁右上欄4行~左下欄6行))、甲14(特開昭58-156096号公報(第1頁右下欄14行~第2頁左上欄2行))及び甲15(特開2018-89980号公報(【0002】、【0003】))には、食品包装材は高い透気度が求められることが記載されていると主張する。しかし、これら甲13、甲14及び甲15の食品包装材は、引用発明1の加工紙とは別の紙であり、引用発明1の加工紙の透気度を10000秒を超えるものとする根拠を示すものではないし、引用発明1の加工紙を「透気度が10000秒を超え」るものとする動機付けを示すものでもない。
また、引用文献3や引用文献6に、透気度が10000秒を超える紙が記載されているものの、引用文献3や引用文献6の透気度が10000秒を超える紙を、引用発明1の加工紙に採用する動機付けもなく、他に、引用発明1の加工紙の透気度を10000秒を超えるものとする根拠を示す証拠はない。
そのため、相違点1に係る本件発明3の構成は、引用発明1に基いて、当業者が容易に想到することができたものではない。
(エ)よって、本件発明3は、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明4について
(ア)引用発明2の「エチレンとメタクリル酸からなり、メタクリル酸がNaイオンで中和されたエチレン系共重合体を含む水性分散体に水を加え耐圧容器中で加熱攪拌して、乳白色の安定した水性分散体を調製し、この水性分散体にはオレイン酸ソーダが含まれ」ることと、本件発明4の「エチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩であるアイオノマーエマルジョンのみからなるヒートシール層用塗工液を調製する工程」とは、「エチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩であるアイオノマーエマルジョンを含有するヒートシール層用塗工液を調製する工程」という限りで一致する。
引用発明2の「この水性分散体を上質紙の片面に塗工して塗膜を形成した後、更に塗膜面に水性分散体を塗工して乾燥させて、水性分散体の塗膜の塗工量を8g/m2とした」ことは、本件発明4の「紙基材の少なくとも一方の面に、前記ヒートシール層用塗工液を固形分換算で2~10g/m2の範囲で塗工する工程」に相当する。
(イ)そうすると、本件発明4と引用発明2とは、
「紙基材の少なくとも一方の面に少なくとも1層のアイオノマーを含むヒートシール層を有する包装用紙であって、前記ヒートシール層の乾燥塗工量が全層で2~10g/m2であり、前記ヒートシール層が少なくとも一方の面に2層以上形成されており、前記ヒートシール層のアイオノマーがエチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩である、包装用紙」について、
「エチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩であるアイオノマーエマルジョンを含有するヒートシール層用塗工液を調製する工程」と、「紙基材の少なくとも一方の面に、前記ヒートシール層用塗工液を固形分換算で2~10g/m2の範囲で塗工する工程」を有する包装用紙の製造方法で一致し、上記相違点1で相違するほか、次の相違点2で相違する。
《相違点2》
エチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩であるアイオノマーエマルジョンを含有するヒートシール層用塗工液を調製する工程に関して、本件発明4が調製するヒートシール層用塗工液がアイオノマーエマルジョンのみからなるのに対し、引用発明2の水性分散体がアイオノマーのみからなるとは特定されておらず、オレイン酸ソーダを含む点。
(ウ)相違点1は、上記ウ(ウ)で述べたとおり、相違点1に係る本件発明3の構成は、引用発明1に基いて当業者が容易に想到することができたものではないから、本件発明4の相違点1に係る構成も、引用発明2に基いて、当業者が容易に想到することができたものではない。
(エ)よって、本件発明4は、相違点2について検討するまでもなく、引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 本件発明5、6は、いずれも本件発明4の発明特定事項を全て含み、上記エで述べたように、本件発明4は、引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明5、6も、引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
カ 以上より、本件発明3~6は、特許法第29条第2項の規定に違反するものではないから、本件発明に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消すべきものではない。
(3)申立人2の令和3年6月8日の意見書の主張について
ア 申立人2は、本件訂正請求により訂正された、本件発明4の「エチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩であるアイオノマーエマルジョンのみからなるヒートシール層用塗工液を調製する工程」の「アイオノマーエマルジョン」に、エチレン・メタクリル酸共重合物のアイオノマー以外の副成分が含まれることは文言上否定されておらず、特許法第36条第6項第2号の明確性要件を満たさない旨主張する(意見書11頁「(4)本件特許発明4について」)。
イ しかし、本件発明4は、本件発明3の「包装用紙」の製造方法に係る発明であって、本件発明4の「エチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩であるアイオノマーエマルジョンのみからなるヒートシール層用塗工液を調製する工程」の後、塗工されて、本件発明3の、エチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩であるアイオノマーのみからなるヒートシール層が形成されるから、本件発明4の「アイオノマーエマルジョン」が、エチレン・メタクリル酸共重合物のアイオノマー以外の副成分を含まないことは明らかである。
ウ よって、申立人2の意見書における上記主張は採用できない。
4.取消理由通知(決定の予告)に採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立人1、申立人2が提出した証拠は以下のとおりである。なお、申立人1が提出した甲第1号証を「甲1-1」、申立人2が提出した甲第1号証を「甲2-1」のようにいう。
《申立人1が提出した証拠》
《申立人2が提出した証拠》
(2)申立人1は次のアの理由、申立人2は次のイ~カの理由を申立てている。
ア 甲1-1に基づく新規性・進歩性に係る申立理由
イ 甲2-1に基づく新規性に係る申立理由
ウ 甲2-2に基づく新規性・進歩性に係る申立理由
エ 甲2-3~甲2-5の周知技術に基づく新規性・進歩性に係る申立理由
オ 実施例11~15に開示された内容を、本件発明の範囲まで拡張ないし一般化できない。(サポート要件に係る申立理由)
カ ヒートシール層が一方の面に2層以上形成されている場合でも、透気度が10000秒を超えるとの要件を満たしていない場合があり、要件を満たす包装用紙を作製するために過度の試行錯誤を要する。(実施可能要件に係る申立理由)
(3)以下、上記申立理由について検討する。
ア 本件発明3~6の各発明と、甲2-1(引用文献1)に記載された発明とは、少なくとも上記相違点1で相違し、この相違点1は、上記3.(2)ウ(ウ)で述べたように実質的な相違点である。
よって、申立人2の、上記イの新規性に係る申立理由には理由がない。
イ 上記(2)ア、ウ及びエの新規性・進歩性に係る申立理由について
甲1-1、甲2-2、甲2-3~甲2-5のいずれにも、高い透気度を必要とする課題は記載されておらず、「透気度が10000秒を超え」る包装用紙について、記載も示唆もされていない。また、他に、甲1-1、甲2-2、甲2-3~甲2-5の紙を、「透気度が10000秒を超え」る包装用紙とする動機付けについて記載する証拠は提出されていない。
よって、申立人1及び2の、上記(2)ア、ウ及びエの新規性・進歩性に係る申立理由には理由がない。
ウ 上記(2)オのサポート要件に係る申立理由について
実施例11~15の紙基材、樹脂及び塗布の仕方に限らず、上記3.(1)で述べたように、本件発明に特定される技術的事項を備えた包装用紙は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり、本件発明において、実施例11~15の紙基材、樹脂及び塗布の仕方についてまで、特定することは要しないものである。
よって、申立人2の、上記(2)オのサポート要件に係る申立理由には理由がない。
エ 上記(2)カの実施可能要件に係る申立理由について
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「包装用紙の透気度を10000秒以上とする方法については、特に限定するものではないが、例えば、紙基材に透気度の高いものを使用することで達成できる。さらに、ヒートシール塗工液を塗工する面の平滑度を高くすることによっても、包装用紙の透気度を高くすることができる。その後形成されるヒートシール層においてピンホールやヒビ割れなどをより減少させることができるからである。例えば、顔料塗工層を設け、その後キャレンダー処理等を行うことにより、ヒートシール塗工液を塗工する面の平滑度を高くすることができる。他には、ヒートシール層を2層以上塗工することも透気度を高める効果がある。ヒートシール層の2層塗工は、1層目の塗工層(下層)に存在する微細なピンホールやヒビを、1層目の上に設けられた2層目の塗工層(上層)が覆うことで透気度が高まると考えられる。また、ヒートシール層の塗工量を増加させることも透気度の向上に効果がある。ヒートシール層の造膜の面では、ヒートシール層用塗工液の塗工後の乾燥温度を、アイオノマーの融点以上の温度とすることで透気度が向上しやすい。」(【0021】)と記載されており、当業者であれば、この記載に基づき、透気度が10000秒を超える包装用紙を得ることができ、過度の試行錯誤を要するとはいえない。
よって、申立人2の、上記(2)カの実施可能要件に係る申立理由には理由がない。
5.むすび
以上のとおりであるから、本件発明3~6に係る特許は、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件発明3~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正請求に係る訂正により、請求項1及び2に係る特許は削除されたため、請求項1及び2に対して申立人1及び2がした特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであることから、特許法第120条の8第1項で準用する特許法第135条の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2020-700198