特許異議申立
2025-700870
ナノセルロース及びその分散液並びにその製造方法
- 審判番号
- 2025-700870
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-539519
- 登録番号
- 7649459
- 請求日
- 2025年09月04日
- 審決日
- 2026年03月30日
- 公報発行日
- 2026年08月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】東亞合成株式会社
- 【権利者代理人】稲葉 良幸
- 【権利者代理人】大貫 敏史
- 【権利者代理人】江口 昭彦
- 【権利者代理人】内藤 和彦
- 【権利者代理人】岩崎 正路
- 【異議申立人】成川 哲次
- 審判長/審判官
- 審判長 岩間 直純
- 審判官 坂庭 剛史
- 審判官 米倉 明日香
- 分類
- P1651.113-YAA(D21H) / P1651.121-YAA(D21H) / P1651.537-YAA(D21H)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第5項、特許法第126条第7項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7649459号発明「ナノセルロース及びその分散液並びにその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7649459号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
特許第7649459号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7649459号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、令和3年7月28日(優先権主張 令和2年7月28日)の出願であって、令和7年3月12日にその特許権の設定登録がされ、令和7年3月21日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和7年9月4日に特許異議申立人成川哲次(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、令和7年10月28日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和7年12月25日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)を行った。
なお、当審は、令和8年1月13日付けで申立人に特許法第120条の5第5項の規定に基づく通知を行ったが、この通知に対し、申立人は、その指定期間内に意見書を提出しなかった。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求は、「特許第7649459号の特許請求の範囲を、本請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求める。」ものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次の訂正事項1のとおりである。なお、下線は、当審が訂正箇所に付したものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1における
「平均繊維長が100nm以上500nm以下であり、平均繊維幅が2.0nm以上4.5nm以下であるナノセルロースであって、下記条件Aを満たし、カルボキシル化ナノセルロースを含む、ナノセルロース。
条件A:繊維長の標準偏差が600nm以下である」
との記載を、
「平均繊維長が100nm以上500nm以下であり、平均繊維幅が2.0nm以上4.5nm以下であるナノセルロースであって、下記条件A及びEを満たし、カルボキシル化ナノセルロースを含む、ナノセルロース。
条件A:繊維長の標準偏差が600nm以下である
条件E:繊維幅の標準偏差が0.5nm以上1.5nm以下である」
に補正する。
(2)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2~6は、直接的又は間接的に請求項1を引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正後の請求項〔1~6〕は、一群の請求項である。
2 訂正の適否について
(1)訂正事項1は、請求項1に条件E(すなわち、「繊維幅の標準偏差が0.5nm以上1.5nm以下である」)という発明特定事項を追加し、ナノセルロースを限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
(2)訂正事項1は、本件明細書の段落【0035】の「本発明のナノセルロースに関して、繊維幅の標準偏差は1.5nm以下であり、好ましくは0.5nm以上1.5nm以下の範囲であり、・・・」との記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合する。
(3)訂正事項1は、発明特定事項を直列的に付加するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正には該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合する。
(4)本件においては、訂正前の全ての請求項について特許異議申立てがされているから、訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 小括(本件訂正請求についてのまとめ)
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件訂正後の請求項〔1~6〕について訂正を認める。
第3 訂正後の本件発明
上記のとおり、本件訂正請求が認められるから、本件特許の請求項1~6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明6」といい、総称して「本件発明」ともいう。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項1】
平均繊維長が100nm以上500nm以下であり、平均繊維幅が2.0nm以上4.5nm以下であるナノセルロースであって、下記条件A及びEを満たし、カルボキシル化ナノセルロースを含む、ナノセルロース。
条件A:繊維長の標準偏差が600nm以下である
条件E:繊維幅の標準偏差が0.5nm以上1.5nm以下である
【請求項2】
繊維長の標準偏差が10nm以上500nm以下である、請求項1に記載のナノセルロース。
【請求項3】
N-オキシル化合物を実質的に含まない、請求項1又は2に記載のナノセルロース。
【請求項4】
セルロース系原料を次亜塩素酸またはその塩で酸化して得られる酸化セルロースを解繊処理して作製する請求項1~3のいずれか1項に記載のナノセルロース。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のナノセルロースが分散媒に分散されたナノセルロース分散液。
【請求項6】
セルロース系原料を次亜塩素酸またはその塩で酸化して得られる酸化セルロースを解繊処理して作製する工程を含む請求項1~4のいずれか1項に記載のナノセルロースの製造方法。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
(1)取消理由1(新規性欠如)
本件特許の請求項1-2,5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、これらの請求項に係る発明の特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)取消理由2(進歩性欠如)
本件特許の請求項1-6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の既定により特許を受けることができないものであるから、これらの請求項に係る発明の特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
<引用刊行物>
甲第1号証:Reina, TANAKA et al., Influence of Flexibility and Dimensions of Nanocelluloses on the Flow Properties of Their Aqueous Dispersions, Biomacromolecules 2015, 16, 2027-2131 and Supporting Information S1-S5
甲第2号証:Reina, TANAKA et al., Determination of nanocellulose fibril length by shearviscosity measurement, Cellulose, 2014, 21, 1581-1589 and Supplemeatary Material 1-3
甲第3号証:国際公開第2020/027307号
甲第4号証:特開2017-193814号公報
2 取消理由1(新規性欠如)及び取消理由2(進歩性欠如)について
(1)甲第1号証、甲1発明
ア 甲第1号証には、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は当審による。以下同様)。
(ア)「All of the nanocellulose dispersions were prepared from the native celluloses via 2,2,6,6-tetramethylpiperidine-1-oxyl (TEMPO)-mediated oxidation. Four TEMPO-oxidized cellulose nanofibrils (TOCN-D, -E, -F, and -G) with different average lengths and nearly uniform widths were prepared from SBKP with the TEMPO/NaBr/NaClO system in water at pH 10 or the TEMPO/NaClO/NaClO2 system in water at pH 5 according to a previously reported method,19 and used as NFCs. Three NCCs were prepared from cotton linters, SBKP, and Cladophora cellulose by TEMPO-mediated oxidation and subsequent hydrolysis with hydrochloric acid.22 First, these starting materials were oxidized with the TEMPO/NaBr/NaClO system in water at pH 10 with 10 mmol NaClO per gram of cellulose. The oxidized celluloses were then hydrolyzed in 2.5 M HCl at 105 °C for 4 h, and centrifuged at 12 000g for 5 min to yield the hydrolysates. After dialysis of the hydrolysates for 5 days, the purified products were sonicated in distilled water at 0.1% w/v for 1-8 min using a Nihon Seiki US-300T ultrasonic homogenizer (300 W, 19.5 kHz) at about 10% output power. The resulting NCC dispersions from cotton linters, SBKP, and Cladophora cellulose are called acid-hydrolyzed TOCN (AhTOCN)-A, -B, and -C, respectively. The concentrations of these NCC samples were adjusted to 0.005%-5% w/v by dilution with distilled water and/or condensation using a rotary evaporator. Because the shear viscosities of the AhTOCN-C dispersions were too low to be accurately detected, glycerol was added to the dispersions at a 1:1 ratio by weight to increase their viscosities.23 The glycerol-mixed AhTOCN-C dispersions were well-homogenized in an ultrasonic bath for 1 min, and then shaken at 150 rpm overnight using a rotary shaker (see Figure S1 in the Supporting Information for the dispersibility of AhTOCN-C in the water/glycerol mixture). The density and viscosity of the water/glycerol mixture at 25 °C were 1.14 g/mL and 4.44 mPa s, respectively.」(第2128頁左欄の「Preparation of Nanocellulose Dispersions.」の項)
(当審訳:全てのナノセルロース分散液は、天然セルロースから2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPO)を介した酸化反応によって調製した。平均長さが異なり、ほぼ均一な幅を有する4種類のTEMPO酸化セルロースナノフィブリル(TOCN-D、-E、-F、および-G)を、以前に報告された方法19に従って、pH 10の水中TEMPO/NaBr/NaClO系、またはpH 5の水中TEMPO/NaClO/NaClO2系を用いてSBKPから調製し、NFCとして使用した。3種類のNCCは、コットンリンター、SBKP、シオグサ属セルロースから、TEMPOを介した酸化とそれに続く塩酸による加水分解によって調製された22。まず、これらの出発物質を、セルロース1グラムあたり10 mmolのNaClOを含むpH 10の水中、TEMPO/NaBr/NaClO系で酸化した。次に、酸化セルロースを2.5M HCl中で105℃で4時間加水分解し、12,000gで5分間遠心分離して加水分解物を得た。加水分解物を5日間透析した後、精製物を日本精機US-300T超音波ホモジナイザー(300W、19.5kHz)を用いて、蒸留水中、0.1% w/vで1~8分間、約10%の出力で超音波処理した。コットンリンター、SBKP、シオグサ属セルロースから得られたNCC分散液は、それぞれ酸加水分解TOCN(AhTOCN)-A、-B、-Cと呼ばれる。これらのNCCサンプルの濃度は、蒸留水で希釈するか、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮することにより、0.005%~5% w/vに調整した。AhTOCN-C分散液の剪断粘度は低すぎて正確に検出できなかったため、粘度を高めるために、グリセロールを重量比1:1で分散液に添加した23。グリセロールを混合したAhTOCN-C分散液を超音波浴で1分間よく均質化した後、ロータリーシェーカーを用いて150 rpmで一晩振盪した(水/グリセロール混合液中のAhTOCN-Cの分散性については、補足情報の図S1を参照)。水/グリセロール混合液の25℃における密度および粘度は、それぞれ1.14 g/mLおよび4.44 mPa・sであった。)
(イ)「The lengths of isolated ~200 nanocellulose elements were measured using a transmission electron microscope (TEM) (JEOL JEM 2000-EXII, Tokyo, Japan) at an accelerating voltage of 200 kV.19The weight-average length Lw values of the nanocelluloses were calculated from their length distribution histograms (see eq S1 and Figure S2 in the Supporting Information). Then, the widths of isolated ~30 nanocellulose elements were measured by atomic force microscopy (AFM) according to a previously reported method (see Supporting Information, Figure S3),24 and the weightaverage width dw values of the nanocelluloses were calculated in a similar manner to the Lw values.」(第2128頁左欄の「Length and Width of the Nanocelluloses.」の項)
(当審訳:約200個の孤立ナノセルロース要素の長さは、透過型電子顕微鏡(TEM)(JEOL JEM 2000-EXII、東京、日本)を用いて、加速電圧200 kVで測定した19。ナノセルロースの重量平均長さLw値は、長さ分布ヒストグラムから算出した(補足情報の式S1および図S2を参照)。次に、約30個の孤立ナノセルロース要素の幅を、以前に報告された方法(補足情報の図S3を参照)24に従って原子間力顕微鏡(AFM)で測定し、Lw値と同様の方法でナノセルロースの重量平均幅dw値を算出した。)
(ウ)「
[図:0001438294000001.jpg]
」(第2128頁右欄の表1)
(エ)上記(イ)及び(ウ)からみて、AhTOCN-Bの重量平均長さLw値は168 nmで、重量平均幅dw値は3.8 nmである。
(オ)「
[図:0001438294000002.jpg]
」(補足情報の第S3頁の図S2)
(カ)上記(イ)及び(オ)からみて、AhTOCN-Bの重量平均長さLw値を算出するために用いた長さ分布ヒストグラムは、その値が0 nmから500 nmまでの範囲に内在しているといえる。
イ 甲1発明
上記アからみて、甲第1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
「ナノセルロース分散液であって、
前記ナノセルロース分散液は、天然セルロースからTEMPO酸化反応によって調製され、ほぼ均一な幅を有し、超音波ホモジナイザーを用いて超音波処理したものであって、酸加水分解TOCN(AhTOCN)-Bと呼ばれ、
AhTOCN-Bの重量平均長さLw値は168 nmで、重量平均幅dw値は3.8 nmであり、
AhTOCN-Bの重量平均長さLw値を算出するために用いた長さ分布ヒストグラムは、その値が0 nmから500 nmまでの範囲に内在している、
ナノセルロース分散液。」
(2)甲第2号証、甲2発明
ア 甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
(ア)「In the preset study, we evaluated the average lengths of completely isolated cellulose nanofibrils using shear viscosity measurements. Aqueous dispersions of completely isolated, long cellulose nanofibrils with a uniform width of ~3 nm were prepared from wood cellulose by 2,2,6,6-tetramethylpiperidine-1-oxyl (TEMPO)-mediated oxidation and successive mechanical treatment in water. We prepared 10 types of TEMPO-oxidized cellulose nanofibrils (TOCNs) with different average lengths by controlling the conditions of the oxidation reaction or mechanical treatment. The average lengths of the TOCNs were evaluated using the equation for the flow behavior of rod-like polymer molecules in the dilute region defined by Doi and Edwards (1986). This equation has previously been used in the calculation of the average lengths of single-walled carbon nanotubes (Parra-Vasquez et al. 2007).」(第1582頁左欄第35行~同頁右欄第3行)
(当審訳:本研究では、せん断粘度測定を用いて完全に単離されたセルロースナノフィブリルの平均長さを評価した。約3 nmの均一な幅の完全に単離された長いセルロースナノフィブリルの水分散液は、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPO)媒介酸化とそれに続く水中での機械的処理によって木材セルロースから調製された。酸化反応または機械的処理の条件を制御することで、平均長さの異なる10種類のTEMPO酸化セルロースナノフィブリル(TOCN)を調製した。TOCNの平均長さは、Doi and Edwards(1986)によって定義された希薄領域における棒状ポリマー分子の流動挙動に関する式を用いて評価した。この式は、以前に単層カーボンナノチューブの平均長さの計算に使用されている(Parra-Vasquez et al. 2007)。)
(イ)「Ten TOCN dispersions (from A to J) were prepared following the previously reported methods (Shinoda et al. 2012; Tanaka et al. 2012). The oxidation conditions of each of the dispersions are shown in Table S1 in Supplementary file. TEMPO-mediated oxidation under alkaline conditions was conducted as follows (Shinoda et al. 2012). Softwood cellulose (1 g) was suspended in water (100 mL) containing TEMPO (0.1 mmol) and sodium bromide (1 mmol). The TEMPO-mediated oxidation was started by adding 1.8 M NaClO (10, 5, and 3.8 mmol g-1-cellulose) to the cellulose slurry. The pH of the slurry was maintained at 10 by adding 0.5 M NaOH using a pH stat (AUT-501, TOADKK, Japan) at room temperature. After a designated time (1-5 h), the oxidized celluloses were thoroughly washed with water by filtration, and further treated with 1% NaClO2 (100 mL) at pH 4.8 and room temperature for 2 days to oxidize residual C6-aldehydes to carboxyls. The fully-oxidized celluloses were thoroughly washed with distilled water. A 0.1% w/v slurry of the oxidized cellulose was sonicated using a Nihon Seiki US-300T (300 W, 19.5 kHz) ultrasonic homogenizer for 8-80 min. The unfibrillated fraction was then removed by centrifugation at 12,000×g for 20 min to yield four transparent aqueous TOCN dispersions (A, B, C, and D). 10 mM NaCl solution was added to the aqueous 0.1% w/v TOCN-A and TOCN-D dispersions to produce dispersions having NaCl concentrations of 0, 0.5, 1, 2, and 5 mM. The dispersions were shaken at 150 rpm overnight using an automatic rotary shaker (ROTAMAX 120, Heidolph, Germany).
TEMPO-mediated oxidation under neutral or weakly acidic conditions was conducted as follows (Tanaka et al. 2012). Softwood cellulose (1 g) was suspended in 0.1 M sodium phosphate buffer (100 mL, pH 6.8) or 0.1 M acetate buffer (100 mL, pH 4.8) containing 4-AcNH-TEMPO (0.1 mmol) and NaClO2 (10 mmol) in an airtight flask. 1.8 M NaClO (0.5 mL, 1.0 mmol) was added to the flask in one step. The flask was immediately stoppered, and the slurry was stirred at 40°C for a designated time(48-120 h). After cooling the slurry to room temperature, the oxidized celluloses were thoroughly washed with distilled water by filtration. A 0.1% w/v slurry of the oxidized cellulose was sonicated using the Nihon Seiki US-300T (300 W, 19.5 kHz) for 8-80 min. Centrifugation of the dispersions at 12,000×g for 20 min to remove unfibrillated fractions yielded six transparent aqueous TOCN dispersions (E, F, G, H, I, and J).
Excluding the TOCN-B and TOCN-H dispersions, the 0.1% w/v TOCN dispersions and the 0.1% w/v TOCN-A and TOCN-D dispersions with NaCl were diluted to 0.006-0.09% w/v by adding distilled water. The TOCN-B and TOCN-H dispersions were carefully concentrated to 0.6% w/v using a rotary evaporator (Rotavapor R-210, BUCHI Labortechnil AG, Switzerland) and then diluted to 0.11-0.55% w/v by adding distilled water.」(第1582頁右欄-第1583頁右欄の「Preparation of aqueous TOCN dispersions and those with NaCl」の項)
(当審訳:これまでに報告された方法(Shinoda et al. 2012; Tanaka et al. 2012)に従って、10種類のTOCN分散液(AからJ)を調製した。各分散液の酸化条件を補足ファイルの表S1に示す。アルカリ条件下でのTEMPO媒介酸化は次のように実施した(Shinoda et al. 2012)。針葉樹セルロース(1g)をTEMPO(0.1mmol)および臭化ナトリウム(1mmol)を含む水(100mL)に懸濁した。TEMPO媒介酸化は、セルローススラリーに1.8M NaClO(10、5、および3.8mmol g-1-セルロース)を加えることによって開始した。スラリーのpHは、pHスタット(AUT-501、TOADKK、日本)を使用して室温で0.5M NaOHを加えることによって10に維持した。所定時間(1~5時間)後、酸化セルロースを濾過により水で十分に洗浄し、さらに1% NaClO2(100mL)を用いてpH 4.8で室温で2日間処理し、残留C6-アルデヒドをカルボキシル基に酸化した。完全に酸化されたセルロースを蒸留水で十分に洗浄した。酸化セルロースの0.1% w/vスラリーを、日本精機US-300T(300W、19.5kHz)超音波ホモジナイザーを用いて8~80分間超音波処理した。その後、12,000×gで20分間遠心分離することにより、未フィブリル化画分を除去し、4種類の透明なTOCN水性分散液(A、B、C、D)を得た。0.1% w/v TOCN-AおよびTOCN-D水溶液に10mM NaCl溶液を加え、NaCl濃度0、0.5、1、2、5 mMの分散液を調製した。これらの分散液を自動ロータリーシェーカー(ROTAMAX 120、Heidolph、ドイツ)を用いて150rpmで一晩振盪した。
中性または弱酸性条件下でのTEMPO酸化は以下のように実施した(Tanaka et al. 2012)。気密フラスコ中で、針葉樹セルロース(1g)を4-AcNH-TEMPO(0.1mmol)およびNaClO2(10mmol)を含む0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(100mL、pH 6.8)または0.1M酢酸緩衝液(100mL、pH 4.8)に懸濁した。1. M NaClO(0.5mL, 1.0mmol)をフラスコに一度に加えた。フラスコを直ちに栓で閉め、スラリーを40℃で指定時間(48~120時間)撹拌した。スラリーを室温まで冷却した後、酸化セルロースを蒸留水で濾過し、十分に洗浄した。酸化セルロースの0.1% w/vスラリーを、日本精機US-300T(300W、19.5kHz)を用いて8~80分間超音波処理した。分散液を12,000×gで20分間遠心分離し、未フィブリル化画分を除去し、6種類の透明なTOCN水性分散液(E、F、G、H、I、J)を得た。TOCN-B および TOCN-H 分散液を除き、0.1% w/v TOCN 分散液および NaCl を含む 0.1% w/v TOCN-A および TOCN-D 分散液は、蒸留水を加えて 0.006~0.09% w/v に希釈した。TOCN-B および TOCN-H 分散液は、ロータリーエバポレーター (Rotavapor R-210、BUCHI Labortechnil AG、スイス) を使用して 0.6% w/v に慎重に濃縮し、次に蒸留水を加えて 0.11~0.55% w/v に希釈した。)
(ウ)「
[図:0001438294000003.jpg]
」(第1583頁の表1)
(エ)上記(ウ)からみて、B行の「Number average Length,Ln(nm)」の欄に「208±111」と記載されているから、TOCN-Bの平均長さLnの値は208 nmで、その標準偏差は111 nmであるといえる。
イ 甲2発明
上記アからみて、甲第2号証には、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。
「約3 nmの均一な幅のセルロースナノフィブリルの分散液であって、
前記分散液は、針葉樹セルロースをTEMPO媒介酸化した酸化セルロースのスラリーを超音波ホモジナイザーを用いて超音波処理して得たTOCN-B分散液であり、
TOCN-Bの平均長さLnの値は208 nmで、その標準偏差は111 nmである、
セルロースナノフィブリルの分散液。」
(3)甲第1号証を主引例とした場合の本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「ナノセルロース分散液」は、ナノセルロースの分散液であって、甲1発明の前記ナノセルロースは、「天然セルロースからTEMPO酸化反応によって調製され」た酸化セルロースを「超音波ホモジナイザーを用いて超音波処理」して得たものであって、TEMPO酸化によりセルロースがカルボキシル化されることは明らかであるから、それは、本件発明1の「カルボキシル化ナノセルロースを含む、ナノセルロース」と一致している。
(イ)甲1発明の「AhTOCN-Bの重量平均長さLw値は168 nmで、」は、本件発明1の「平均繊維長が100nm以上500nm以下であり、」という範囲に含まれる。
(ウ)甲1発明の「重量平均幅dw値は3.8 nmであり、」は、本件発明1の「平均繊維幅が2.0nm以上4.5nm以下である」という範囲に含まれる。
(エ)甲1発明の「AhTOCN-Bの重量平均長さLw値を算出するために用いた長さ分布ヒストグラムは、その値が0 nmから500 nmまでの範囲に内在している、」は、本件発明1の「条件A:繊維長の標準偏差が600nm以下である」という条件を満たす。
イ 上記アの対比を踏まえると、本件発明1と甲1発明は、次の(ア)の点で一致し、次の(イ)の点で相違する。
(ア)一致点
「平均繊維長が100nm以上500nm以下であり、平均繊維幅が2.0nm以上4.5nm以下であるナノセルロースであって、下記条件Aを満たし、カルボキシル化ナノセルロースを含む、ナノセルロース。
条件A:繊維長の標準偏差が600nm以下である」
(イ)相違点
本件発明1のナノセルロースは、「条件E:繊維幅の標準偏差が0.5nm以上1.5nm以下である」という条件も満たしているのに対して、甲1発明は、ほぼ「均一な幅」を有しているものの、そのような条件Eを満たしていることを特定していない点。
ウ 相違点についての判断
(ア)「繊維幅の標準偏差が0.5nm以上1.5nm以下である」ナノセルロースは、いずれの甲号証にも記載されていない。
(イ)そして、本件明細書の【0035】に「繊維幅の標準偏差が1.5nmを超えると、ナノセルロースを使用したスラリーは、スラリー中のナノセルロース濃度の不均一な部分が生じ易くなり、スラリーの状態、特に粘度安定性が低下する傾向にある。そのため、標準偏差は小さいほど好ましい。」と記載されていることからみて、少なくとも「繊維幅の標準偏差が1.5nm以下である」ナノセルロースを使用したスラリーは、「スラリー中のナノセルロース濃度の不均一な部分が生じにくくなり、スラリーの状態、特に粘度安定性が低下しない」という格別顕著な効果が得られると理解できる。
(ウ)上記(ア)及び(イ)を踏まえると、条件Eに係る上記相違点は、実質的な相違点であると認められるところ、本件発明1は、甲1発明ではなく、甲1発明及び甲第1号証~甲第4号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)甲第2号証を主引例とした場合の本件発明1について
ア 本件発明1と甲2発明とを対比する。
(ア)甲2発明の「セルロースナノフィブリル」は、「ナノセルロース」である点で本件発明1と共通しており、甲2発明の前記セルロースナノフィブリルの分散液は、「針葉樹セルロースをTEMPO媒介酸化した酸化セルロースのスラリーを超音波ホモジナイザーを用いて超音波処理して得た」ものであるから、甲2発明の前記セルロースナノフィブリルは、本件発明1の「カルボキシル化ナノセルロースを含む、ナノセルロース」と一致している。
(イ)甲2発明の「約3 nmの均一な幅」は、本件発明1の「平均繊維幅が2.0nm以上4.5nm以下である」という範囲に含まれる。
(ウ)甲2発明の「TOCN-Bの平均長さLnの値は208 nmで、その標準偏差は111 nmである、」は、本件発明1の「平均繊維長が100nm以上500nm以下であり、」という範囲に含まれるとともに、本件発明1の「条件A:繊維長の標準偏差が600nm以下である」という条件を満たす。
イ 上記アの対比を踏まえると、本件発明1と甲2発明は、少なくとも上記相違点と同じ点で相違し、上記説示したとおりである。
ウ よって、本件発明1は、甲2発明ではなく、甲2発明及び甲第1号証~甲第4号証に記載された事項に基いて当業者が容易に想到し得たものではない。
(5)本件発明2~6について
本件発明2~6は、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、上記(3)及び(4)と同様の理由により、新規性及び進歩性が肯定される。
(6)小括
以上から、令和7年10月28日付け取消理由通知における取消理由はすべて解消した。
第5 取消理由通知に採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立人が主張する理由(サポート要件)の概要
申立人は、訂正前の特許請求の範囲に関し、サポート要件に係る理由も申し立てており、その理由は、概略以下のとおりである(特許異議申立書第35ページ)。
ア 本件発明の解決しようとする課題(以下、「本件課題」という。)は、「ナノセルロースを含むスラリーの粘度安定性に優れたナノセルロースを提供すること」にある。
イ 本件特許明細書には、ナノセルロースを含むスラリーの粘度安定性に8つの要因(繊維長の標準偏差、繊維長の尖度、繊維長の歪度、繊維長の範囲、繊維幅の標準偏差、繊維幅の尖度、繊維幅の歪度、繊維幅の範囲)がそれぞれ個別に影響を与えることが記載されている。
ウ 本件実施例・比較例は、これら8つの要因がバラバラに変動しており、繊維長の標準偏差のみを比較したデータとはなっていない。
エ このようなデータからは、粘度安定性と標準偏差の関係を明確に読み取ることが不可能であり、「600nm」という境界値前後において臨界的意義があるなどの特段の技術的意義を有することも示されていない。
オ 他の要因がどうであれ、繊維長の標準偏差が600nm以下でありさえすれば所望の課題を解決できるとは当業者は理解できず、そのような範囲まで拡張ないし一般化することは許されない。あるいは、課題の解決に各種要因があることを考慮すれば、発明の課題を解決するための手段が請求項に反映されていないというべきである。
2 当審の判断(サポート要件について)
(1)サポート要件の判断枠組み
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも、当業者が本件特許の出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
以下、この観点により検討する。
(2)サポート要件の判断
ア 本件発明が解決しようとする課題及びその解決手段について、本件特許明細書の発明の詳細な説明の欄には次の記載がある。
(ア)「【0006】
しかしながら、特許文献1は、低ずり領域で高粘度である酸型のカルボキシル化CNFに関する技術であり、また、平均繊維長が50~500nmであり、300nm以下の繊維長を有する割合が50%以上、600nm以上の繊維長の割合が20%未満のCNFが記載されているが、このCNFを含むスラリーの粘度安定性に問題がある。
また、特許文献2は、マイクロメートル単位の繊維長のCNFについてのみ記載されており、ナノメートル単位の繊維長分布である微細セルロースに関する技術については記載されていない。
【0007】
本発明は、上記の状況を鑑み、ナノセルロースを含むスラリーの粘度安定性に優れたナノセルロースを提供することを目的とする。」
(イ)「【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、ナノセルロースの繊維長分布または繊維幅分布を示す指標として標準偏差、尖度、歪度、または範囲を特定の範囲にすることで、ナノセルロースを含むスラリーの粘度安定性が優れることを見出し、本発明を完成するに至った。」
(ウ)「【0031】
本発明のナノセルロースに関して、繊維長の標準偏差が600nm以下であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましく、10nm以上500nm以下の範囲がさらに好ましい。
繊維長の標準偏差が600nmを超える場合、そのナノセルロースを使用したスラリーは、ナノセルロース濃度の不均一な部分が生じ易くなり、スラリーの状態、特に粘度安定性が低下する。そのため、標準偏差は小さいほど好ましい。・・・」
イ 上記ア(ア)からみて、本件発明が解決しようとする課題は、「ナノセルロースを含むスラリーの粘度安定性に優れたナノセルロースを提供する」こと(以下「本件課題」という。)にあると認められ、上記ア(イ)も踏まえれば、ナノセルロースの繊維長分布を示す指標として、背景技術のような「平均」ではなく、「標準偏差」を特定の範囲にすることで、ナノセルロースを含むスラリーの粘度安定性が優れることを見出したとされている。
ウ 上記ア(ウ)からみて、ナノセルロースの繊維長の標準偏差が600nmを超える場合、そのナノセルロースを使用したスラリーは、ナノセルロース濃度の不均一な部分が生じ易くなり、スラリーの状態、特に粘度安定性が低下するとされているのだから、ナノセルロースの繊維長の標準偏差が600nm以下であれば、そのナノセルロースを使用したスラリーは、ナノセルロース濃度の不均一な部分が生じにくくなり、スラリーの状態、特に粘度安定性が低下しないと理解できる。
エ そして、本件特許明細書の記載を総合しても、ナノセルロースの繊維長の標準偏差が600nm以下であっても、その余の指標の値次第によって、そのナノセルロースを使用したスラリーの粘度安定性が低下した事実は認められず、申立人においても、客観的な証拠を示していない。
オ 上記エからみて、申立人の主張は、ナノセルロースの繊維長の標準偏差が600nm以下であれば、本件課題を解決できるとした上記ウの理解を覆すに足りるものではないところ、この条件を満たす構成を特定した本件発明は、本件課題を解決できるものと推認される。
カ したがって、申立人のサポート要件に係る上記主張は採用できない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議の申立ての理由によっては、請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700870