特許異議申立
2025-701037
板紙
- 審判番号
- 2025-701037
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-134213
- 登録番号
- 7673342
- 請求日
- 2025年10月31日
- 審決日
- 2026年02月10日
- 公報発行日
- 2026年03月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】日本製紙株式会社
- 【権利者代理人】山田 泰之
- 【権利者代理人】中村 理弘
- 【異議申立人】赤松 智信
- 【異議申立人】遠藤 弘忠
- 審判長/審判官
- 審判長 篠塚 隆
- 審判官 梅本 章子
- 審判官 坂庭 剛史
- 分類
- P1651.113-Y (D21H) / P1651.121-Y (D21H) / P1651.536-Y (D21H) / P1651.537-Y (D21H)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7673342号発明「板紙」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7673342号の請求項1~8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7673342号(以下「本件特許」という。)の請求項1~8に係る特許についての出願は、令和3年8月19日に出願され、令和7年4月28日に特許権の設定登録がされ、令和7年5月9日に特許掲載公報が発行された。
その後、令和7年10月31日に特許異議申立人 赤松 智信(以下「申立人A」という。)により、特許異議の申立てがなされ、また、令和7年11月4日に特許異議申立人 遠藤 弘忠(以下「申立人B」という。)により、特許異議の申立てがなされた。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~8に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明8」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
多層抄きされた板紙であって、全パルプに占める古紙パルプの配合率が65質量%以上であり、坪量が350g/m2以上であり、テーバーこわさが縦20~55mN・m、横8~23mN・mであり、抄紙方向に対して直角の横方向の破断伸びが2.8%以上であることを特徴とする板紙。
【請求項2】
比圧縮強さが180N・m2/g以上であることを特徴とする請求項1に記載の板紙。
【請求項3】
抄紙方向に対して平行な縦方向の破断伸びが1.3%以上であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の板紙。
【請求項4】
透気抵抗度が150秒以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の板紙。
【請求項5】
4層以上の多層抄きされた板紙であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の板紙。
【請求項6】
段ボール用のライナであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の板紙。
【請求項7】
製函用の板紙であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の板紙。
【請求項8】
積層合紙用の板紙であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の板紙。」
第3 申立人Aによる申立ての理由の検討
1 申立理由の概要
申立人Aが申し立てた理由は、概略以下のとおりである。(以下、理由の番号は当審が付与。)
(1)理由A1(新規性)
本件発明1~8は、甲第1号証に記載された発明であるから、請求項1~8に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号により取り消すべきものである。
(2)理由A2(進歩性)
本件発明1~8は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証~甲第6号証、甲第9号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号により取り消すべきものである。
(3)理由A3(サポート要件)
本件発明1~8は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、請求項1~8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号により取り消すべきものである。(甲第2号証、甲第4号証、甲第7号証、甲第8号証を参照のこと。)
[証拠方法]
甲第1号証:特開2020-20065号公報
甲第2号証:門屋 卓「包装分野から見た紙の物性」、紙パ技協誌、第46巻第6号、1992年6月発行、711~719頁
甲第3号証:特開2020-133079号公報
甲第4号証:「ペーパーセールスエンジニアリング・シリーズ2 白板紙・紙器」、株式会社紙業タイムス社、昭和54年12月20日発行、139~145頁
甲第5号証:特開2012-77414号公報
甲第6号証:特開2003-211614号公報
甲第7号証:「ペーパー・セールス・エンジニアリング・シリーズ4 段ボール」、株式会社紙業タイムス社、1996年7月20日発行、322~328頁
甲第8号証:「最新 紙加工便覧」、株式会社テックタイムス、昭和63年8月20日発行、197~204頁、1169~1174頁
甲第9号証:(ミスミの総合Webカタログ)ABSORPTION COMPONENTS GUIDE「吸着部品 概要」の項 [online] 株式会社ミスミグループ本社 [令和7年10月22日検索] インターネット https://jp.misumi-ec.com/linked/pdf/fa/ABSORPTION_COMPONENTS_GUIDE.pdf
(以下、申立人Aが提出した「甲第1号証」~「甲第9号証」をそれぞれ「甲A1」~「甲A9」という。)
2 甲号証の記載
以下では、特に、本件発明1に対する証拠である甲A1~甲A4について検討する。
(1)甲A1の記載、甲A1発明
ア 甲A1の記載
甲A1には、以下の記載がある(下線は当審付与。以下同様。)。
「【請求項1】
多層抄きされた板紙であって、全パルプに占める古紙パルプの配合率が70質量%以上であり、坪量が350g/m2以上であり、透気抵抗度が25秒以上であることを特徴とする板紙。
【請求項2】
比圧縮強さが188N・m2/g以上であることを特徴とする請求項1に記載の板紙。
【請求項3】
抄紙方向に対して直角の横方向の破断伸びが2.8%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の板紙。
【請求項4】
抄紙方向に対して平行な縦方向の破断伸びが1.3%以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の板紙。
【請求項5】
4層以上の多層抄きされた板紙であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の板紙。
【請求項6】
紙力増強剤が0.5質量%以上含有されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の板紙。
【請求項7】
段ボール用のライナーであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の板紙。
【請求項8】
製函用の板紙であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の板紙。
【請求項9】
積層合紙用の板紙であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の板紙。」
「【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、古紙パルプを使用しながらも、強度に優れていて重量物を梱包した場合でも潰れ難く、また、真空吸引方式による搬送に適した板紙を提供することを課題とする。」
「【0027】
[実施例]
段ボール古紙と針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)を使用して、6層抄きで坪量440g/m2となるよう板紙を抄造した。この6層抄きの板紙は、表層において段ボール古紙とNUKPの配合率を75質量%、25質量%とし、他の各層、すなわち、裏層、中層(中層2(裏層に隣接する中層)~中層5(表層に隣接する中層)の4層)においては段ボール古紙のみを使用した。また、各層を抄造するための紙料に含有される段ボール古紙、NUKPについて、叩解した後のカナダ標準濾水度が表1に示す数値となるように調整した。
【0028】
また、各層を抄造するための紙料には、紙力増強剤としてポリアクリルアミド(PAM)を0.67質量%、硫酸バンドを固形分換算にて1.5質量%添加した。また、サイズ剤を、表層用の紙料には1.0質量%、中層5と中層2には0.3質量%、裏層には0.7質量%添加した。
【0029】
【表1】
[図:0001433129000001.jpg]
」
「【0035】
(破断伸び)
JIS P8113:2006に従い、抄紙方向に対して直角の横方向、抄紙方向に対して平行な縦方向の破断伸びを測定した。
【0036】
【表2】
[図:0001433129000002.jpg]
」
イ 甲A1発明
【0027】より、実施例として、甲A1には、6層抄きの板紙であって、表層において段ボール古紙と針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)の配合率を75質量%、25質量%とし、他の各層においては段ボール古紙のみを使用することが記載されている。
【0035】、【0036】の表2より、実施例として、甲A1には、坪量が447g/m2であり、抄紙方向に対して直角の横方向の破断伸びが4.0%であることが記載されている。
以上から、実施例に係るものに着目すると、甲A1には、次の発明(以下「甲A1発明」という。)が記載されていると認められる。
「6層抄きの板紙であって、表層において段ボール古紙と針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)の配合率を75質量%、25質量%とし、他の各層においては段ボール古紙のみを使用し、坪量が447g/m2であり、抄紙方向に対して直角の横方向の破断伸びが4.0%である板紙。」
(2)甲A2
甲A2には、以下の記載がある。
「一方、包装の分野は分類の一つに軟包装と剛性包装という区分があり、紙・板紙は剛性包装として使用される比率は極めて高い。剛性包装における紙・板紙の基準は厚手の紙が対象で、当然ながら高坪量・高剛性であって剛性容器としての形状を保持させる役割が与えられている。さらに、上記と同じく適切な加工作業適性も具えなければならない。(・・・中略・・・)
紙は本来粘弾性的性質を持っているが、紙のこわさにこれを配慮することは極めて複雑であり、試料は殆ど弾性体と考え、基本的にはいわゆる曲げこわさ、すなわち材料のヤング率(E)と断面2次モーメント(I)との積E×Iで表され、この測定のために紙・板紙の分野ではクラーク、テーバー、ガーレ等の試験機が用いられている。」(716頁右欄7~22行)
「紙の曲げこわさはこのような包装形態の形状保持に重要であるばかりでなく、紙容器の積載性、けい線加工適性などにも関連し、」(718頁左欄11~13行)
(3)甲A3
甲A3には、以下の記載がある。
「【請求項1】
85℃以上の温度で古紙スラリーを加温分散して製造した古紙パルプを含み、破裂強度試験機を用いて測定した層間剥離強度が1560kPa以下である多層板紙。
【請求項2】
坪量が、100g/m2以上700g/m2以下である、請求項1に記載の多層板紙。」
「【0050】
本発明に係る多層板紙は、流れ方向(MD方向)と幅方向(CD方向)の異方性を一定の範囲に調整することが好ましい。一般に、抄紙機を用いて製造した紙は、MD方向とCD方向で引張強度が大きく異なる。一方で、罫割れトラブルは、折り加工時に表層へ引張強度が過度にかかることで発生するため、多層板紙の引張強度を高めることが望ましい。そのため、MD方向およびCD方向のいずれの折り加工にも耐えうる紙を得るためには、MD方向およびCD方向のいずれの引張強度も一定以上に保つことが必要となる。そのため、縦横比を一定の範囲に調整することが有効である。圧縮強度であれば、MD方向の圧縮強度とCD方向の圧縮強度の比(MD方向の圧縮強度/CD方向の圧縮強度)が1.34以下であることが好ましい。引張強度であれば、MD方向の引張強度とCD方向の引張強度の比(MD方向の引張強度/CD方向の引張強度)が2.12以下であることが好ましい。テーパー剛度であれば、MD方向のテーパー剛度とCD方向のテーパー剛度の比(MD方向のテーパー剛度/CD方向のテーパー剛度)が2.20以下であることが好ましい。」
(当審注:「テーパー」は、「テーバー」の誤記と考えられるので、以下「テーバー」と記載する。)
「【0057】
本発明の原紙表層における古紙パルプの配合量は、全パルプ中90重量部以上、さらに好ましくは95重量%以上とできる。全量古紙パルプでもよい。また、使用する古紙パルプのISO白色度は、コストの面などから、65%以下が好ましく、さらに好ましくは60%以下である。また、低白色度の古紙パルプとしては、雑誌古紙パルプが好ましく、さらに白色度の低い未晒の古紙パルプを使用してもよい。加熱分散処理した古紙パルプを使用しうることは当然である。」
「【0083】
実験1:多層板紙の製造と評価(1)
7層抄きの多層塗工白板紙(設定坪量:約270g/m2)を、下記の手順にしたがって製造した。
【0084】
表層(1層目)に針葉樹クラフトパルプ100%、表下層(2層目)に(加温分散処理をしていない)脱墨した古紙パルプ100%、中層(3層目~6層目)に前述の雑誌古紙から加温分散処理工程を経て得られた古紙パルプ100%、裏層(7層目)に雑誌古紙から加温分散処理工程を経ずに得られた古紙パルプ100%を使用して、7層抄きで板紙原紙を製造した。各層をそれぞれ抄造して抄き合わせ、プレス、乾燥処理を行って、多層板紙原紙を得た(原紙坪量:約251g/m2、原紙白色度:54%)。抄紙速度は約300m/分であり、各層の坪量は下表のとおりである。なお、2層目~7層目の紙料には、対パルプ固形重量で0.1~0.3重量%の濾水性向上剤を配合した。また、1層目~5層目の間に層間バインダーをスプレーし、剥離強度の異なる原紙を製造した(層間バインダーの合計塗布量:2.4~3.5g/m2)。
【0085】
次いで、多層板紙原紙の表層の上に顔料塗工層を設けて塗工白板紙を得た(設定塗工量:約19g/m2)。顔料塗工層は、顔料として炭酸カルシウムを使用し、顔料100重量部に対して15重量部のラテックス(バインダー)を使用した。
【0086】
【表1】
[図:0001433129000003.jpg]
【0087】
実験2:多層板紙の製造と評価
7層抄きの多層塗工白板紙(設定坪量:約315g/m2)を、実験1と同様にして製造した。ただし、各層の坪量は下記のとおりである。
【0088】
【表2】
[図:0001433129000004.jpg]
【0089】
実験3:多層板紙の製造と評価
7層抄きの多層塗工白板紙(設定坪量:約600g/m2)を、実験1と同様にして製造した。ただし、各層の坪量は下記のとおりである。
【0090】
【表3】
[図:0001433129000005.jpg]
」
(4)甲A4
甲A4には、以下の記載がある。
「
[図:0001433129000006.jpg]
」(141頁5~19行)
3 理由A1(新規性)及び理由A2(進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲A1発明を対比する。
(ア)甲A1発明の「6層抄きの板紙」は、本件発明1の「多層抄きされた板紙」に相当する。
(イ)甲A1発明では、「表層において段ボール古紙と針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)の配合率を75質量%、25質量%」とするから、表層におけるパルプに占める古紙パルプの配合率は75%といえる。そして、甲A1発明では、「他の各層においては段ボール古紙のみを使用」するから、他の各層におけるパルプに占める古紙パルプの配合率は100%といえる。そうすると、甲A1発明の「板紙」における全パルプに占める古紙パルプの配合率が75質量%を上回ることは明らかであり、本件発明1の「全パルプに占める古紙パルプの配合率」として特定される「65質量%以上」の範囲に含まれる。
(ウ)甲A1発明の「板紙」における「坪量」は「447g/m2」であるから、本件発明1で特定する「350g/m2以上」の範囲に含まれる。
(エ)甲A1発明の「板紙」における「抄紙方向に対して直角の横方向の破断伸び」は「4.0%」であるから、本件発明1で特定する「2.8%以上」の範囲に含まれる。
(オ)以上から、本件発明1と甲A1発明とは、以下の点で一致及び相違する。
(一致点A)
「多層抄きされた板紙であって、全パルプに占める古紙パルプの配合率が65質量%以上であり、坪量が350g/m2以上であり、抄紙方向に対して直角の横方向の破断伸びが2.8%以上である板紙。」
(相違点A)
本件発明1では「テーバーこわさが縦20~55mN・m、横8~23mN・mであ」るのに対し、甲A1発明ではそのように特定されていない点。
イ 判断
(ア)理由A1(新規性)
上記ア(オ)のとおり、本件発明1と甲A1発明とでは相違点Aが存在するから、本件発明1は甲A1に記載された発明ではない。
(イ)理由A2(進歩性)
上記相違点Aについて検討する。
甲A1には、甲A1発明において、テーバーこわさに着目し、テーバーこわさを縦20~55mN・m、横8~23mN・mの範囲に特定することを示唆する記載もなく、また、甲A2~甲A6、甲A9にもそのような記載はない。そうすると、甲A1発明において、相違点Aに係る構成とすることは、当業者が容易に想到できたとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲A1発明及び甲A2~甲A6、甲A9に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 申立人Aの主張について
(ア)申立人Aは、新規性及び進歩性について、概略以下のように主張する。(特許異議申立書 14頁2行~16頁10行)
a 板紙におけるテーバーこわさに関し、甲A2によれば、紙の曲げこわさは剛性包装に使用する場合の包装形態の形状保持、けい線加工適性等に影響する特性であることが知られている。そして、甲A3の記載に鑑みれば、坪量とテーバー剛度の間にはある程度の相関があると認められ、甲A1発明に係る多層板紙の坪量が350g/m2以上(甲A1記載の実施例では坪量447g/m2)であることからみて、甲A1発明に係る多層板紙が本件発明1で特定される縦、横のテーバーこわさを満足する蓋然性は高い。
b 本件の実施例5と甲A1の実施例を対比すると、いずれも6層抄きで坪量440g/m2の板紙を製造しており、両者の配合、層構成、さらには製造方法も殆ど同じであり、得られた板紙の厚み、密度もほぼ同等である。そして、例えば、甲A4に示されているとおり、板紙の剛度(テーバーこわさ)は「板紙の重量、厚さに関係があ」り、「板紙の重量は大きいほど剛度が高い」ことが当業者に知られていることを考慮すれば、上記甲A1実施例の板紙における縦方向、横方向のテーバーこわさは、本件の実施例5と略同等の値を示すものである。破裂強さ、比圧縮強さ、引張破断伸び(縦、横)、透気抵抗度も略同じ値を示していることからしても縦方向、及び横方向のテーバーこわさも同等である。
c 仮に相違するとしても、甲A2に記載されるように、紙の曲げこわさが包装形態の形状保持やけい線加工適性に影響するのは周知であるところ、甲A1発明において、縦・横方向のテーバーこわさを適切な範囲に調整することは、当業者にとって容易になし得ることである。
(イ)上記主張について検討する。
上記aの主張について検討すると、当該主張は、そもそも甲A1の実施例とは層構成、配合、坪量等が相違する、甲A3の実施例の実験1~3の記載からの推定に基づく主張にとどまり、甲A1発明における縦、横のテーバーこわさが実際に本件発明1で特定する範囲内であることを、客観的な証拠に基づき立証するものではない。
上記bの主張について検討すると、本件の実施例5と甲A1の実施例とは、少なくとも、表層の原料パルプ配合率、各層のCSF、各層の紙力増強剤サイズ剤の配合率で相違していることから、たとえ甲A1の実施例における厚み、密度、破裂強さ等の特性値が同等であるとしても、そのことをもって甲A1発明における縦、横のテーバーこわさが、本件の実施例5と同等の値を示すと推認することはできない。
上記cの主張について検討すると 上記イ(イ)のとおり、甲A1及び他の証拠の記載をみても、甲A1発明において、縦、横のテーバーこわさを本件発明1で特定する範囲に調整する動機はなく、当業者が容易に想到できたとはいえない。
したがって、申立人Aの上記主張は採用できない。
(2)本件発明2~8について
本件発明2~8は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を追加したものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲A1に記載された発明ではなく、また、甲A1発明及び甲A2~甲A6、甲A9に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)小括
以上から、申立人Aが主張する理由A1及び理由A2は理由がない。
4 理由A3(サポート要件)について
(1)申立人Aの主張について
ア 申立人Aは、板紙を使用するに際して、本件発明1~8が課題とする罫線割れの抑制のために、縦及び横のテーバーこわさの範囲についてのみ特定すれば足り、他の特性について何らの特定を要しないことを当業者が理解できるとはいえず、明細書の記載から、直ちに、上記両テーバーこわさの範囲と罫線割れとの関係の技術的な意味について当業者が理解できるともいえないから、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものであるとはいえない旨、主張する。(特許異議申立書 20頁14~25行)
イ 上記主張について検討する。
本件発明1~8の解決しようとする課題は、「古紙パルプを使用しながらも、強度に優れていて重量物を梱包した場合でも潰れ難く、また、折り曲げ加工を行った際に罫線割れが発生しにくく真空吸引方式による搬送にも適した板紙を提供すること」(【0007】)である。
テーバーこわさについて、本件明細書の【0027】~【0030】、【0035】には、テーバーこわさが縦20~55mN・m、横8~23mN・mである場合の実施例1~5が記載され、これらの実施例は課題を解決できるものである。
したがって、本件発明1~8は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものであり、発明の詳細な説明に記載したものといえる。
よって、申立人Aの上記主張は採用できない。
(2)小括
以上から、申立人Aが主張する理由A3は理由がない。
5 申立人Aの申立理由についての結論
以上のとおり、申立人Aによる特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~8に係る特許を取り消すことはできない。
第4 申立人Bによる申立ての理由の検討
1 申立理由の概要
申立人Bが申し立てた理由は、概略以下のとおりである。(以下、理由の番号は当審が付与。)
(1)理由B1(進歩性)
ア 理由B1-1
本件発明1~8は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号により取り消すべきものである。
イ 理由B1-2
本件発明1、3は、甲第3号証に記載された発明、又は甲第3号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号により取り消すべきものである。
ウ 理由B1-3
本件発明1~8は、甲第4号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号により取り消すべきものである。
(2)理由B2(明確性)
本件発明1~8は、明確でないから、請求項1~8に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号により取り消すべきものである。
(3)理由B3(実施可能要件)
本件発明1~8は、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1~8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、請求項1~8に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号により取り消すべきものである。
(4)理由B4(サポート要件)
本件発明1~8は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、請求項1~8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号により取り消すべきものである。
[証拠方法]
甲第1号証:特開2020-20065号公報
甲第2号証:長谷川久著、「白板紙・紙器-その特性と加工技法-」、日本食品包装研究会、昭和43年10月30日、p.61-65
甲第3号証:Explicit FEM analysis of the deep drawing of paperboard、Mechanics of Materials、平成27年7月
甲第4号証:特開2020-133079号公報
(以下、申立人Bが提出した「甲第1号証」~「甲第4号証」をそれぞれ「甲B1」~「甲B4」という。)
2 甲号証の記載
(1)甲B1の記載、甲B1発明
甲B1は甲A1と同じであり、その記載事項は、上記第3の2(1)アで述べたとおりである。
そして、甲B1には、上記第3の2(1)イで述べた「甲A1発明」と同じ構成である発明(以下「甲B1発明」という。)が記載されている。
(2)甲B2
甲B2には、以下の記載がある。
「
[図:0001433129000007.jpg]
」(63頁2行~64頁5行)
(3)甲B3の記載、甲B3発明
ア 甲B3の記載
甲B3には、以下の記載がある。
「Abstract
An explicit finite element model of the deep-drawing of paperboard has been developed utilizing a custom yet simple material model which describes the anisotropy and plasticity of paperboard. The model was verified with a variety of tests and was then utilized to compare the punch force that was measured during the deep-drawing experiments to the punch force that was calculated during the deep-drawing simulations.」(1頁8~14行)
(当審訳:
抄録
板紙の深絞り加工の明示的有限要素モデルを、板紙の異方性と塑性を記述するカスタムでありながら単純な材料モデルを利用して開発した。モデルを種々の試験で検証し、それから、深絞り実験中に測定したパンチカを深絞りシミュレーション中に計算したパンチ力と比較するために利用した。)
「2. Experimental Setup and Method
All experiments for the underlying paper have been performed on the deep-drawing equipment at TU Dresden. Detailed descriptions of the equipment are presented in (Hauptmann, 2010). Process parameters are given in Table 1. The geometrical parameters for the tools that were utilized are descibed in Section3.1. StoraEnso Trayforma Natura 350 has been utilized for all experiments in this publication. Trayforma is a fresh fiber, triple layer, uncoated paperboard. The top and bottom layer consist of sulphate pulp, and the middle layer consists of sulphate pulp and CTMP. Specifications for Trayforma Natura 350 are given in Table 2. Environmental conditions during the experiments were kept as constant as possible. All experiments were performed in room temperatures between 20℃ and 23℃, and the ambient relative humidity was between 45% and 55%.」(8頁19行~9頁8行)
(当審訳:
2.実験のセットアップと方法
TUドレスデンの深絞り装置で、基礎となる紙に対するすべての実験を行った。装置の詳細な説明は(Hauptmann,2010)に示されている。プロセスパラメータを表1に示す。使用したツールの幾何学的パラメータは、セクション3.1に記載される。StoraEnso Trayforma Natura 350は、この刊行物のすべての実験に利用されている。Trayformaは、フレッシュファイバーを使用した三層構造の非塗工板紙です。上層と下層は硫酸塩パルプ、中層は硫酸塩パルプとCTMPで構成されています。Trayforma Natura 350の仕様を表2に示す。実験中の環境条件は、可能な限り一定に維持した。全ての実験は、20℃から23℃の間の室温で行った。周囲湿度は45%~55%であった。)
「
[図:0001433129000008.jpg]
」
(当審訳:
[図:0001433129000009.jpg]
)
イ 甲B3発明
甲B3には、StoraEnso Trayforma Natura 350は、フレッシュファイバーを使用した三層構造の非塗工の板紙であり、上層と下層は硫酸塩パルプ、中層は硫酸塩パルプとCTMPで構成されていることが記載されている。
表2より、甲B3には、StoraEnso Trayforma Natura 350は、坪量が350g/m2であり、DIN 53121に従って測定した曲げ剛性MDが46.7Nmmであり、曲げ剛性CDが18.8Nmmであり、ISO 1924-2に従って測定した伸びCDが5.1%であることが記載されている。
以上から、甲B3には、次の発明(以下「甲B3発明」という。)が記載されていると認められる。
「フレッシュファイバーを使用した三層構造の非塗工の板紙であり、上層と下層は硫酸塩パルプ、中層は硫酸塩パルプとCTMPで構成され、坪量が350g/m2であり、DIN 53121に従って測定した曲げ剛性MDが46.7Nmmであり、曲げ剛性CDが18.8Nmmであり、ISO 1924-2に従って測定した伸びCDが5.1%である、StoraEnso Trayforma Natura 350。」
(4)甲B4の記載、甲B4発明
ア 甲B4の記載
甲B4は甲A3と同じであり、その記載事項は、上記第3の2(3)で述べたとおりである。
イ 甲B4発明
【0083】~【0085】、【0089】、【0090】の表3より、実験3のサンプル3-1として、甲B4には、7層抄きの多層塗工白板紙であって、表層(1層目)に針葉樹クラフトパルプ100%、表下層(2層目)、中層(3層目~6層目)、裏層(7層目)に古紙パルプ100%を使用することが記載されている。
【0090】の表3より、実験3のサンプル3-1として、甲B4には、多層塗工白板紙の坪量が606.9g/m2であり、MD方向のテーバー剛度が86.0mN・mであり、CD方向のテーバー剛度が40.2mN・mであることが記載されている。
以上から、実験3のサンプル3-1に係るものに着目すると、甲B4には、次の発明(以下「甲B4発明」という。)が記載されていると認められる。
「7層抄きの多層塗工白板紙であって、表層(1層目)に針葉樹クラフトパルプ100%、表下層(2層目)、中層(3層目~6層目)、裏層(7層目)に古紙パルプ100%を使用し、坪量が606.9g/m2であり、MD方向のテーバー剛度が86.0mN・mであり、CD方向のテーバー剛度が40.2mN・mである、多層塗工白板紙。」
3 理由B1(進歩性)について
(1)理由B1-1(甲B1を主引例とした進歩性)
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲B1発明を対比する。
上記2(1)で述べたように、甲B1発明は甲A1発明と同じ構成であることから、上記第3の3(1)ア(オ)を踏まえれば、本件発明1と甲B1発明とは、以下の点で一致及び相違する。
(一致点B1)
「多層抄きされた板紙であって、全パルプに占める古紙パルプの配合率が65質量%以上であり、坪量が350g/m2以上であり、抄紙方向に対して直角の横方向の破断伸びが2.8%以上である板紙。」
(相違点B1)
本件発明1では「テーバーこわさが縦20~55mN・m、横8~23mN・mであ」るのに対し、甲B1発明ではそのように特定されていない点。
(イ)判断
上記相違点B1について検討する。
甲B1には、甲B1発明において、テーバーこわさに着目し、テーバーこわさを縦20~55mN・m、横8~23mN・mの範囲に特定することを示唆する記載もなく、また、甲B2にもそのような記載はない。そうすると、甲B1発明において、相違点B1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到できたとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲B1発明及び甲B2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(ウ)申立人Bの主張について
申立人Bは、概略以下のように主張する。(特許異議申立書 32頁3行~33頁12行)
甲B1の実施例で得られた板紙と本件発明の実施例5で得られた板紙を比較すると、層の数及び使用する原材料などの組成が同等であり、坪量、厚さ、密度も同等であり、破裂強さ、比圧縮強さ、引張破断伸び、透気抵抗度といった特性値も同等である。特に、両者の板紙は厚さがほぼ同じであることに着目すれば、板紙の剛度は厚さに大きく依存することは公知であるから、甲B1の実施例で得られた板紙はテーバーこわさも本願実施例5の板紙と同等の縦51.7mN・m、横21.3mN・mに近い値であり、縦20~55mN・m、横8~23mN・mに入る蓋然性が高い。
仮にそうではないとしても、板紙の剛度は厚さに大きく依存することは公知であるから、甲B1の板紙の厚さを調整することによってテーバーこわさを前記範囲に設計することは当業者が容易に実施できる事項である。
(エ)上記主張について検討する。
本件の実施例5と甲B1の実施例とは、少なくとも、表層の原料パルプ配合率、各層のCSF、各層の紙力増強剤サイズ剤の配合率で相違していることから、たとえ甲B1の実施例における坪量、厚み、密度、破裂強さ等特性値が同等であるとしても、そのことをもって甲B1発明における縦、横のテーバーこわさが、本件の実施例5と同等の値を示すと推認することはできない。
また、上記(イ)のとおり、甲B1及び他の証拠の記載をみても、甲B1発明において、縦、横のテーバーこわさを本件発明1で特定する範囲に調整する動機はなく、当業者が容易に想到できたとはいえない。
したがって、申立人Bの上記主張は採用できない。
イ 本件発明2~8について
本件発明2~8は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を追加したものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲B1発明及び甲B2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)理由B1-2(甲B3を主引例とした進歩性)
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲B3発明を対比する。
a 甲B3発明の「StoraEnso Trayforma Natura 350」は、「三層構造の板紙」であるから、本件発明1の「多層抄きされた板紙」に相当する。
b 甲B3発明の「StoraEnso Trayforma Natura 350」における「坪量」は「350g/m2」であるから、本件発明1で特定する「350g/m2以上」の範囲に含まれる。
c 甲B3発明の「伸びCD」の測定方法である「ISO 1924-2」は、本件発明1の「破断伸び」の測定方法として本件明細書の【0034】に記載された「JIS P8113」に対応・一致する国際規格であることは明らかである。また、「CD」が、「抄紙方向に対して直角の横方向」であることも明らかである。したがって、甲B3発明の「StoraEnso Trayforma Natura 350」における「伸びCDが5.1%」であることは、本件発明1の「抄紙方向に対して直角の横方向の破断伸び」が5.1%であり、本件発明1で特定する「2.8%以上」の範囲に含まれる。
d 以上から、本件発明1と甲B3発明とは、以下の点で一致及び相違する。
(一致点B2)
「多層抄きされた板紙であって、坪量が350g/m2以上であり、抄紙方向に対して直角の横方向の破断伸びが2.8%以上である板紙。」
(相違点B2-1)
本件発明1では「全パルプに占める古紙パルプの配合率が65質量%以上であ」るのに対し、甲B3発明ではそのように特定されていない点。
(相違点B2-2)
本件発明1では「テーバーこわさが縦20~55mN・m、横8~23mN・mであ」であるのに対し、甲B3発明ではそのように特定されていない点。
(イ)判断
事案に鑑み、上記相違点B2-1について検討する。
甲B3には、甲B3発明において古紙パルプを使用することについて記載も示唆もなく、また、甲B2にもそのような記載はない。そうすると、甲B3発明において、相違点B2-1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到できたとはいえない。
したがって、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲B3発明、又は、甲B3発明及び甲B2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(ウ)申立人Bの主張について
申立人Bは、本件発明1において、全パルプに占める古紙パルプの配合率の数値範囲に臨界的意義は認められず、全パルプに占める古紙パルプの配合率が65質量%以上とすることは当業者が適宜調整する設計事項である旨、主張する。(特許異議申立書 36頁3行~15行)
(エ)上記主張について検討する。
上記(イ)のとおり、そもそも甲B3には古紙パルプを使用することについて記載も示唆もないから、甲B3発明において古紙パルプの配合率を調整する動機もない。
したがって、申立人Bの上記主張は採用できない。
イ 本件発明3について
本件発明3は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を追加したものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲B3発明、又は、甲B3発明及び甲B2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)理由B1-3(甲B4を主引例とした進歩性)
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲B4発明を対比する。
a 甲B4発明の「7層抄きの多層塗工白板紙」は、本件発明1の「多層抄きされた板紙」に相当する。
b 甲B4発明では、「表層(1層目)に針葉樹クラフトパルプ100%、表下層(2層目)、中層(3層目~6層目)、裏層(7層目)に古紙パルプ100%を使用」するから、甲B4発明の「多層塗工白板紙」と本件発明1の「板紙」とは、「古紙パルプ」が「配合」されている点で共通する。
c 甲B4発明の「多層塗工白板紙」における「坪量」は「606.9g/m2」であるから、本件発明1で特定する「350g/m2以上」の範囲に含まれる。
d 甲B4発明の「MD方向のテーバー剛度」、「CD方向のテーバー剛度」は、それぞれ、本件発明1の「縦」の「テーバーこわさ」、「横」の「テーバーこわさ」に相当する。ただし、甲B4発明の「多層塗工白板紙」における「テーバー剛度」は、「MD方向」で「86.0mN・m」、「CD方向」で「40.2mN・m」であり、本件発明1で特定する「縦20~55mN・m、横8~23mN・m」の範囲外である点で相違する。
e 以上から、本件発明1と甲B4発明とは、以下の点で一致及び相違する。
(一致点B3)
「多層抄きされた板紙であって、古紙パルプが配合され、坪量が350g/m2以上である板紙。」
(相違点B3-1)
本件発明1では「全パルプに占める古紙パルプの配合率が65質量%以上であ」るのに対し、甲B4発明では、古紙パルプは配合されているものの、「全パルプに占める古紙パルプの配合率が65質量%以上」であるか不明である点。
(相違点B3-2)
「テーバーこわさ」について、本件発明1では「縦20~55mN・m、横8~23mN・m」であるのに対し、甲B4発明では、縦86.0mN・m、横40.2mN・mである点。
(相違点B3-3)
本件発明1では、「抄紙方向に対して直角の横方向の破断伸びが2.8%以上であ」るのに対し、甲B4発明ではそのように特定されていない点。
(イ)判断
事案に鑑み、相違点B3-2について検討する。
甲B4には、甲B4発明において「多層塗工白板紙」のテーバーこわさを「縦20~55mN・m、横8~23mN・m」とすることを示唆する記載もなく、甲B1にもそのような記載はない。そうすると、甲B4発明において、相違点B3-2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到できたとはいえない。
したがって、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲B4発明及び甲B1に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(ウ)申立人Bの主張について
申立人Bは、概略以下のように主張する。(特許異議申立書 38頁20行~40頁16行)
甲B4の実施例に示された、坪量の値とテーバーこわさの値との記載を基に、坪量の値とテーバーこわさの値とをパワー関数でカーブフィッティングし、そのフィッティング結果から、甲B4は、坪量が315~600g/m2の数値範囲内では、MD方向のテーバーこわさは、14.5~86.5mN・mの数値範囲内にあり、CD方向のテーバーこわさは、6.8~40.0mN・mの数値範囲内にあることを教示している。
本件発明1の坪量は、350g/m2以上であって、甲B4の実施例の315~600g/m2の数値範囲内にあり、当業者であれば、本件特許の板紙の縦のテーバーこわさ及び横のテーバーこわさは甲B4が教示する数値範囲内にあると理解し、本件発明1のテーバーこわさは、縦(MD方向)が20~55mN・m、横(CD方向)が8~23mN・mであり、甲B4が教示する数値範囲内に含まれる。したがって、本件発明1のようにテーバーこわさを縦20~55mN・m、横8~23mN・mに定めることは、当業者が適宜なし得る数値範囲の最適化又は好適化にすぎない。
(エ)上記主張について検討する。
上記主張は、甲B4の実験1~3の記載からの推定に基づく主張にとどまり、甲B4発明における「多層塗工白板紙」が実際に、坪量が350g/m2以上の範囲で、MD方向のテーバーこわさが14.5~86.5mN・m、CD方向のテーバーこわさが6.8~40.0mN・mの範囲内であることを、客観的な証拠に基づき立証するものではない。よって、甲B4発明において、相違点B3-2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到できたとはいえない。
イ 本件発明2~8について
本件発明2~8は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を追加したものであるから、本件発明1と同様に、甲B4発明及び甲B1に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4) 小括
以上から、申立人Bが主張する理由B1は理由がない。
4 理由B2(明確性)について
(1)申立人Bの主張について
申立人Bは、本件発明1では、抄紙方向に対して直角の横方向の破断伸びの数値範囲の上限が記載されていないため、抄紙方向に対して直角の横方向の破断伸びが非常に大きな板紙も発明の範囲に含むこととなり、下限だけを示す数値範囲限定がある結果、発明の範囲は明確でない旨、主張する。(特許異議申立書 44頁19~26行)
(2)上記主張について検討すると、本件発明1において、抄紙方向に対して直角の横方向の破断伸びの上限が特定されていないとしても、抄紙方向に対して直角の横方向の破断伸びが本件発明1で特定される下限値2.8%以上であれば、本件発明1に含まれることは明らかであるから、本件発明1は明確である。
また、本件発明1を引用する本件発明2~8についても同様である。
したがって、申立人Bの上記主張は採用できない。
(3)小括
以上から、申立人Bが主張する理由B2は理由がない。
5 理由B3(実施可能要件)について
(1)申立人Bの主張について
申立人Bは、概略以下のように主張する。(特許異議申立書 45頁5~46頁17行)
ア 本件発明1では、「抄紙方向に対して直角の横方向の破断伸びが2.8%以上である」ことが限定されているが、本件特許の発明の詳細な説明において、横方向の破断伸びは、最大で5.6%であり(実施例1)、5.6%よりも大きな板紙を製造する方法は記載されておらず、さらに、本件特許の発明の詳細な説明には、横方向の破断伸びの数値範囲を調整するための指針が何ら記載されていないため、数値範囲を満たす板紙を製造するためには、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要があると認められる。したがって、本件特許の詳細な説明は、横方向の破断伸びが5.6%よりも大きな値である場合に、当業者が本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
イ 本件発明1では、「坪量が350g/m2以上であり」、「テーバーこわさが縦20~55mN・m、横8~23mN・mであ」ることが限定されており、本件特許の発明の詳細な説明において、本件発明1で限定された縦横のテーバーこわさの数値範囲を満たす板紙として具体的に記載されているのは、坪量が最大で440g/m2であるもののみであるが、テーバーこわさは、紙の厚さに大きく依存することは技術常識であり、さらに、一般的に、坪量は、紙の厚さと同様な意味でも使用されており、また、本件特許の発明の詳細な説明には、テーバーこわさの数値範囲を調整するための指針が何ら記載されていない。よって、坪量が440g/m2よりも大きな値である場合に、本件発明1で限定された縦横のテーバーこわさの数値範囲を満たす板紙を製造するためには、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要があると認められ、本件特許の詳細な説明は、坪量が440g/m2よりも大きな値である場合に、当業者が本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
(2)上記主張について検討する。
上記アの主張について検討すると、本件発明1には「抄紙方向に対して直角の横方向の破断伸びが2.8%以上」と記載されているところ、本件明細書(【0027】~【0030】、【0035】)には、抄紙方向に対して直角の横方向の破断伸びが本件発明1に記載された範囲に該当する実施例1~実施例5が記載されていることから、当該実施例1~5の記載に基づいて、当業者は本件発明1に該当する板紙を製造することができないとはいえない。
また、本件発明1を引用する本件発明2~8についても同様である。
上記イの主張について検討すると、本件発明1には「坪量が350g/m2以上」であり、「テーバーこわさが縦20~55mN・m、横8~23mN・m」であると記載されているところ、本件明細書(【0027】~【0030】、【0035】)には、坪量、及び縦・横のテーバーこわさが本件発明1に記載された範囲に該当する実施例1~実施例5が記載されていることから、当該実施例1~5の記載に基づいて、当業者は本件発明1に該当する板紙を製造することができないとはいえない。
また、本件発明1を引用する本件発明2~8についても同様である。
したがって、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1~8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないとはいえない。
よって、申立人Bの上記主張は採用できない。
(3)小括
以上から、申立人Bが主張する理由B3は理由がない。
6 理由B4(サポート要件)について
(1)申立人Bの主張について
申立人Bは、本件発明1では、「坪量が350g/m2以上であり」、「テーバーこわさが縦20~55mN・m、横8~23mN・mであ」ることが限定されているが、本件発明1では坪量の上限値がないところ、坪量の値が実施例で示されたものより大きくなった場合に、当業者が課題を解決できると認識できたとはいえず、また、甲B4によれば、坪量がある程度よりも大きくなると、本件発明1で限定されたテーバーこわさの数値範囲から外れてしまうことが出願時の技術常識であると認められ、出願時の技術常識に照らしても、本件発明1の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない旨、主張する。(特許異議申立書 46頁22行~49頁15行)
(2)上記主張について検討する。
板紙の坪量が無限に大きい値を取り得るものではないことは当業者に自明であり、申立人Bの上記主張は、客観的な証拠を示して、本件発明1で特定された坪量の範囲では、本件発明の課題を解決することができないことを指摘するものでもない。
よって、申立人Bの主張は採用できない。
(3)小括
以上から、申立人Bが主張する理由B4は理由がない。
7 申立人Bの申立理由についての結論
以上のとおり、申立人Bによる特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~8に係る特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許1~8を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1~8を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2025-701037