特許異議申立
2024-700383
防湿性紙およびその製造方法
- 審判番号
- 2024-700383
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-066897
- 登録番号
- 7366567
- 請求日
- 2024年04月22日
- 審決日
- 2026年01月13日
- 公報発行日
- 2026年04月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日本製紙株式会社
- 【権利者代理人】齋藤 晴男
- 【権利者代理人】齋藤 貴広
- 【異議申立人】赤松 智信
- 審判長/審判官
- 審判長 神山 茂樹
- 審判官 藤井 眞吾
- 審判官 田口 傑
- 分類
- P1651.113-YAA(D21H) / P1651.121-YAA(D21H) / P1651.537-YAA(D21H)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7366567号発明「防湿性紙およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7366567号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕、6について訂正することを認める。
特許第7366567号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7366567号(以下「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、平成31年3月29日を出願日とするものであって、令和5年10月13日にその特許権の設定登録(特許掲載公報令和5年10月23日発行)がされ、その後、その特許について、令和6年4月22日に特許異議申立人赤松智信(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、令和6年11月29日付けで取消理由が通知され、令和7年1月31日に特許権者から意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)がされ、令和7年4月9日に、この本件訂正請求について、申立人から意見書が提出されたものである。
第2 本件訂正請求について
1 訂正の内容
本件訂正請求は、「特許第7366567号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求める。」ものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、次の訂正事項を含むものである。なお、下線は、当審が訂正箇所に付したものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「紙基材と、該紙基材の少なくとも一方の面に位置する塗工層と、を備え、透湿度が50g/m2・24h以下であり、前記塗工層はスチレン系樹脂、アクリル系樹脂の少なくとも1種類の合成樹脂およびワックスを含有し、前記塗工層の表面における直径50μm以上のブリスターの存在頻度が30個/cm2以下であることを特徴とする防湿性紙。」と記載されるのを、「紙基材と、該紙基材の少なくとも一方の面に位置する塗工層と、を備え、透湿度が50g/m2・24h以下であり、前記塗工層はスチレン系樹脂およびアクリル系樹脂と、パラフィンを含む炭化水素系ワックスと、を含有し、前記塗工層の表面における直径50μm以上のブリスターの存在頻度が30個/cm2以下であることを特徴とする防湿性紙。」に訂正する。(請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2~5も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項6に「紙基材の少なくとも一方の面に、輪郭塗工方式により塗工剤を塗工する塗工工程と、塗工された前記塗工剤を乾燥して塗工層とする乾燥工程と、を有し、前記塗工剤はスチレン系樹脂、アクリル系樹脂の少なくとも1種類の合成樹脂およびワックスを含有し、前記塗工工程では、塗工量が20g/m2以下となるように前記塗工剤を塗工し、前記乾燥工程では、乾燥工程出口の塗工層温度が75℃以上、100℃以下となるように調整して、透湿度が50g/m2・24h以下である防湿性紙とすることを特徴とする防湿性紙の製造方法。」と記載されるのを、「紙基材の少なくとも一方の面に、輪郭塗工方式により塗工剤を塗工する塗工工程と、塗工された前記塗工剤を乾燥して塗工層とする乾燥工程と、を有し、前記塗工剤はスチレン系樹脂およびアクリル系樹脂と、パラフィンを含む炭化水素系ワックスと、を含有し、前記塗工工程では、塗工量が20g/m2以下となるように前記塗工剤を塗工し、前記乾燥工程では、乾燥工程出口の塗工層温度が75℃以上、100℃以下となるように調整して、透湿度が50g/m2・24h以下である防湿性紙とすることを特徴とする防湿性紙の製造方法。」に訂正する。
(3)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2~5は、直接的又は間接的に請求項1を引用するものであるから、訂正後の請求項〔1~5〕は、一群の請求項である。
2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1に係る発明の塗工層に含有される合成樹脂とワックスについて、それぞれ具体的に特定し限定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
この訂正は、本件明細書の段落【0058】の「溶媒中にスチレン系樹脂およびアクリル系樹脂とパラフィンを含む炭化水素系ワックスが混合分散された防湿剤」との記載に基づくものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項6に係る発明の塗工剤に含有される合成樹脂とワックスについて、それぞれ具体的に特定し限定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
この訂正は、訂正事項1と同様に、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
3 本件訂正請求についてのまとめ
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件訂正後の請求項〔1~5〕、6について訂正を認める。
第3 本件特許発明
上記のとおり、本件訂正請求が認められるから、本件特許の請求項1~6に係る発明(以下「本件発明1」等といい、総称して「本件発明」ともいう。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項1】
紙基材と、該紙基材の少なくとも一方の面に位置する塗工層と、を備え、透湿度が50g/m2・24h以下であり、前記塗工層はスチレン系樹脂およびアクリル系樹脂と、パラフィンを含む炭化水素系ワックスと、を含有し、前記塗工層の表面における直径50μm以上のブリスターの存在頻度が30個/cm2以下であることを特徴とする防湿性紙。
【請求項2】
前記紙基材は、単層紙であることを特徴とする請求項1に記載の防湿性紙。
【請求項3】
前記紙基材は、多層抄きされた紙基材であることを特徴とする請求項1に記載の防湿性紙。
【請求項4】
前記塗工層の塗工量は、20g/m2以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の防湿性紙。
【請求項5】
前記紙基材の坪量は、10g/m2以上、750g/m2以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の防湿性紙。
【請求項6】
紙基材の少なくとも一方の面に、輪郭塗工方式により塗工剤を塗工する塗工工程と、塗工された前記塗工剤を乾燥して塗工層とする乾燥工程と、を有し、前記塗工剤はスチレン系樹脂およびアクリル系樹脂と、パラフィンを含む炭化水素系ワックスと、を含有し、前記塗工工程では、塗工量が20g/m2以下となるように前記塗工剤を塗工し、前記乾燥工程では、乾燥工程出口の塗工層温度が75℃以上、100℃以下となるように調整して、透湿度が50g/m2・24h以下である防湿性紙とすることを特徴とする防湿性紙の製造方法。」
第4 取消理由通知書に記載した取消理由について
1 取消理由の要旨
(1)理由1(明確性)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)理由2、3(甲第1号証を主引用例とする新規性、進歩性)
本件特許の請求項1、4~6に係る発明は、その出願前に日本国内または外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
本件特許の請求項1~6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
<引用刊行物>
甲第1号証:後藤英雄、「古紙回収可能な防湿・防水紙の開発」、包装技術、社団法人日本包装技術協会、第20巻、第9号、1982年9月、42~46頁
甲第2号証:「最新コーティング技術<増補版>」、株式会社総合技術センター、昭和59年9月15日、376~385頁
甲第3号証:特開2001-288695号公報
甲第4号証:特開平10-175674号公報
甲第5号証:「防湿包装材料の透湿度試験方法(カップ法) Z0208-1976」、JISハンドブック □63(当審注:四角内に63の数字)包装、財団法人日本規格協会、2008年6月23日、1165~1167頁
甲第6号証:特開2003-49397号公報
甲第7号証:特開2009-24288号公報
以下、甲第1号証を「甲1」といい、他も同様にいう。
2 理由1(明確性)について
(1)理由1(明確性)の概要
明確性に係る理由1は、請求項1及び請求項6の「透湿度が50g/m2・24h以下」との記載は、測定時の周囲の温度及び湿度が特定されていないため、本件発明は明確でないというものである。
以下、上記記載を含む本件発明が、明確であるか否か検討する。
(2)判断
ア 特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
イ そこで、請求項1及び請求項6の「透湿度が50g/m2・24h以下」との記載についてみると、「透湿度」は、「一定時間に単位面積の膜状物質を通過する水蒸気の量」(甲5の「2.定義」の項)をいうから、この記載は、24時間に防湿性紙1平方メートルを通過する水蒸気が50g以下であることを意味すると理解できる。
ウ 他方、本件明細書の記載をみると、「透湿度」は「JIS Z 0208に準拠して測定する。」(段落【0061】)とされている。そして、日本産業規格の「防湿包装材料の透湿度試験方法(カップ法)」として規定される「JIS Z 0208」(甲5)には、測定装置(「3.装置」の項)、試料の形成方法(「5.試験片」の項)、試験方法(「6.操作」の項)等のほか、「この規格では、温度25℃又は40℃において防湿包装材料を境界面とし、一方の側の空気を相対湿度90%、他の側の空気を吸湿剤によって乾燥状態に保ったとき、24時間にこの境界面を通過する水蒸気の質量(g)を,その材料1m2当たりに換算した値をその材料の透湿度と定める。」(「2.定義」の項)と記載され、測定時の温湿度条件を、条件A「温度25±0.5℃ 相対湿度90±2%」か、条件B「温度40±0.5℃ 相対湿度90±2%」のいずれかとして(「3.3恒温恒湿装置」の項)、試験結果を報告する際には、「使用したふん囲気の温湿度条件(A、Bの区分)を報告」(「8.報告」の項)することが規定されている。
エ そうすると、請求項1及び請求項6の「透湿度が50g/m2・24h以下」との記載は、24時間に防湿性紙1平方メートルを通過する水蒸気が50g以下であることを意味すると理解される一方、本件明細書の記載及び出願時の技術常識を踏まえると、透湿度は、「温度25℃ 湿度90%」と「温度40℃ 湿度90%」のどちらかの条件で測定されたものと判断される。その上で、請求項1及び請求項6には、どちらの条件で測定されたものか測定条件が付されていないから、「透湿度が50g/m2・24h以下」との記載は、「温度25℃ 湿度90%」と「温度40℃ 湿度90%」のどちらの条件で測定しても、「透湿度」が「50g/m2・24h以下」を満たす防湿性紙であると理解するのが相当である。
この理解は、特許権者の令和7年1月31日の意見書での説明(「6-4-1 理由1に対する意見」)とも整合する。
オ そして、第三者は、防湿性紙を、「JIS Z 0208」に準拠して、条件A「温度25±0.5℃ 相対湿度90±2%」と条件B「温度40±0.5℃ 相対湿度90±2%」の下で測定し、「透湿度が50g/m2・24h以下」であるか否かを試験することにより、当該構成要件を充足するか否かを判断できるから、本件特許の特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
カ よって、本件発明1~6は明確である。
3 理由2、3(甲1を主引用例とする新規性、進歩性)について
以下、取消理由通知書において新規性の欠如について通知していないものの、新規性の欠如について特許異議の申立てがされている請求項についても併せて検討を行った。
当審合議体は以下のとおり、理由2(新規性)、理由3(進歩性)によっては、本件発明1~6に係る特許は取り消されるべきものではないと判断する。
(1)甲1の記載事項、甲1に記載された発明
ア 甲1の記載事項
甲1には、以下の記載がある。(下線は当審で付した。「・・・」は摘記の省略を示す。)
(ア)「3.古紙回収可能な防湿・防水紙の開発
3-1 製造法の概要
この製造法の基本は、原紙に対してある種の合成ゴム系ラテックスとワックス系エマルジョンを混合した塗工液を塗工するものである。
・・・
塗工後の乾燥処理の温度は、得られる製品の防湿・防水性を左右する重要な因子である。すなわち、原紙に塗工液の所定量を塗工した後、常温以上50℃以下で乾燥する場合には、防湿性は充分ではないが、それ以上の温度-エマルジョン中のワックスの融点またはそれ以上の温度、好ましくは70~120℃-で乾燥する時は、充分な防湿性が発現する・・・
上述のような合成ゴム系ラテックスとワックス系エマルジョンの混合塗工液を原紙上に塗工した場合の皮膜の電子顕微鏡的観察によると、微晶状のワックス粒子が合成ゴム系ラテックスの形成する皮膜層中にブリードして、一部合成ゴム系の皮膜表面を被覆すると共に、一部は紙層を形成する繊維を被覆し、さらに繊維間に充填することが推論される。」
(イ)「3-2 製造の実施例
次に,製造の実施例について説明する。合成ゴム系ラテックスとしてメチルメタクリレート-ブタジエン系ラテックス(ラテックス-(A))及び変性ラテックス(ラテックス-(B))を使用し、ワックス系エマルジョンとしてパラフィンと石油樹脂を主体としたワックス系エマルジョン(エマルジョン-(A))を使用し、坪量50g/m2の片艶クラフ卜紙に対して塗工を施こし、得られた試料について塗工量・透湿度・離解度・耐水性などを測定した。その結果を表1に示す。
表1中、透湿度は40℃、相対湿度90%におけるカップ法による水蒸気透過度試験法の測定結果であり、離解度は古紙の離解性を判断するために、実験室的に小型ミキサーを用い、試料を5%濃度で離解し、完全に単繊維のパルプ状になる迄の離解時間を示したもので、離解時間が200秒以下ではフロック形成がないが、200秒を越えるとフロック形成が生じるので実用的でない。また、耐水性については++>+>±>-の順に優れていることを表わす。実験番号5~7は小型コーターによる塗工例を示すが、実験番号7は実験番号6で得られた試料を、荷重2kgのもとで強制的に十文字型の折り目をつけて透湿度を測定したものであるが、若千の透湿度低下はあるものの、基本的には透湿度の低下による実用上の問題点はほとんどない。」
(ウ)表1
「
[図:0001434100000001.jpg]
」
イ 甲1に記載された発明
(ア)甲1には、特に実験番号5の防湿・防水紙に着目すると、次の「甲1発明1」が記載されている。
「坪量50g/m2の片艶クラフト紙に、メチルメタクリレート-ブタジエン系ラテックスと、パラフィンと石油樹脂を主体としたワックス系エマルジョンを混合した塗工液を塗工して形成した皮膜を備え、塗工量は6.2g/m2であり、40℃、相対湿度90%における透湿度が45g/m2/24hrである、防湿・防水紙。」
(イ)また、甲1には、実験番号5の防湿・防水紙の製造方法について、次の「甲1発明2」も記載されている。
「片艶クラフト紙に、メチルメタクリレート-ブタジエン系ラテックスと、パラフィンと石油樹脂を主体としたワックス系エマルジョンを混合した塗工液を、エアーナイフ方式塗工により塗工し、塗工された前記塗工液を乾燥ゾーン温度90℃で乾燥させて皮膜とし、塗工量は6.2g/m2であり、40℃、相対湿度90%における透湿度が45g/m2/24hrである、防湿・防水紙の製造方法。」
(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明1を対比する。
甲1発明1の「片艶クラフト紙」は、本件発明1の「紙基材」に相当する。
甲1発明1の「片艶クラフト紙」に「塗工液を塗工して形成した皮膜」は、本件発明1の「紙基材の少なくとも一方の面に位置する塗工層」に相当する。
甲1発明1の「メチルメタクリレート-ブタジエン系ラテックス」はアクリル系樹脂であり、甲1発明1の「パラフィンと石油樹脂を主体としたワックス系エマルジョン」はパラフィンを含むワックスであるから、甲1発明1の「メチルメタクリレート-ブタジエン系ラテックスと、パラフィンと石油樹脂を主体としたワックス系エマルジョンを混合した塗工液を塗工して形成した皮膜」は、本件発明1の「スチレン系樹脂およびアクリル系樹脂と、パラフィンを含む炭化水素系ワックスと、を含有」する「塗工層」と、「アクリル系樹脂と、パラフィンを含むワックスと、を含有する」「塗工層」という限りで一致する。
甲1発明1の「40℃、相対湿度90%における透湿度が45g/m2/24hr」であることは、本件発明1の「透湿度が50g/m2・24h以下」に相当する。
甲1発明1の「防湿・防水紙」は、本件発明1の「防湿性紙」に相当する。
イ そうすると、本件発明1と甲1発明1は、
「紙基材と、該紙基材の少なくとも一方の面に位置する塗工層と、を備え、透湿度が50g/m2・24h以下であり、前記塗工層はアクリル系樹脂と、パラフィンを含むワックスと、を含有する、防湿性紙。」で一致し、次の相違点で相違する。
《相違点1-1》
塗工層に関し、本件発明1が、「スチレン系樹脂およびアクリル系樹脂と、パラフィンを含む炭化水素系ワックスと、を含有」するのに対し、甲1発明1は、メチルメタクリレート-ブタジエン系ラテックスと、パラフィンと石油樹脂を主体としたワックス系エマルジョンを混合したものからなる点。
《相違点1-2》
本件発明1が、「前記塗工層の表面における直径50μm以上のブリスターの存在頻度が30個/cm2以下である」のに対し、甲1発明1は、そのように特定されていない点。
ウ 上記相違点1-1について検討する。
甲1発明1は、塗工液にスチレン系樹脂を含んでおらず、相違点1-1は実質的な相違点である。
また、甲1に、塗工液にスチレン系樹脂を含むことは記載も示唆もされておらず、甲1発明1の塗工液に、メチルメタクリレート-ブタジエン系ラテックスに加えてスチレン系樹脂を含有させる動機付けはない。他の証拠にも動機付けは記載されておらず、本件発明1の相違点1-1に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものではない。
エ よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明1ではなく、甲1発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2~5について
本件発明2~5は、本件発明1の発明特定事項をすべて備えるものであるところ、上記(2)エで述べたように、本件発明1は、甲1発明1ではなく、甲1発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2~5は、甲1発明1ではなく、甲1発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件発明6について
ア 本件発明6と甲1発明2を対比する。
甲1発明2の「片艶クラフト紙」は、本件発明6の「紙基材」に相当する。
甲1発明2の「メチルメタクリレート-ブタジエン系ラテックス」はアクリル系樹脂であり、甲1発明2の「パラフィンと石油樹脂を主体としたワックス系エマルジョン」はパラフィンを含むワックスであるから、甲1発明2の「メチルメタクリレート-ブタジエン系ラテックスと、パラフィンと石油樹脂を主体としたワックス系エマルジョンを混合した塗工液」は、本件発明6の「スチレン系樹脂およびアクリル系樹脂と、パラフィンを含む炭化水素系ワックスと、を含有」する「塗工剤」と、「アクリル系樹脂と、パラフィンを含むワックスと、を含有する」「塗工剤」という限りで一致する。
甲1発明2の「エアーナイフ方式塗工」は、本件明細書(段落【0044】)の記載からも明らかなように、輪郭塗工方式に該当するものであり、甲1発明2の「片艶クラフト紙に、メチルメタクリレート-ブタジエン系ラテックスと、パラフィンと石油樹脂を主体としたワックス系エマルジョンを混合した塗工液を、エアーナイフ方式塗工により塗工」することは、本件発明6の「紙基材の少なくとも一方の面に、輪郭塗工方式により塗工剤を塗工する塗工工程」に相当する。
甲1発明2の「塗工された前記塗工液」の「塗工量は6.2g/m2であ」ることは、本件発明6の「塗工量が20g/m2以下となるように前記塗工剤を塗工」することに相当する。
甲1発明2で、皮膜の温度が乾燥ゾーンの入口より徐々に上昇しても、出口において乾燥ゾーンの温度よりも高くならないはずであるから、甲1発明2の「塗工された前記塗工液を乾燥ゾーン温度90℃で乾燥させて皮膜」とすることは、本件発明6の「塗工された前記塗工剤を乾燥して塗工層とする乾燥工程」であって、「前記乾燥工程では、乾燥工程出口の塗工層温度が75℃以上、100℃以下となるように調整」することに相当する。
甲1発明2の「40℃、相対湿度90%における透湿度が45g/m2/24hr」であることは、本件発明6の「透湿度が50g/m2・24h以下である」ことに相当する。
甲1発明2の「防湿・防水紙」は、本件発明6の「防湿性紙」に相当する。
イ そうすると、本件発明6と甲1発明2は、
「紙基材の少なくとも一方の面に、輪郭塗工方式により塗工剤を塗工する塗工工程と、塗工された前記塗工剤を乾燥して塗工層とする乾燥工程と、を有し、前記塗工剤はアクリル系樹脂と、パラフィンを含むワックスと、を含有し、前記塗工工程では、塗工量が20g/m2以下となるように前記塗工剤を塗工し、前記乾燥工程では、乾燥工程出口の塗工層温度が75℃以上、100℃以下となるように調整して、透湿度が50g/m2・24h以下である防湿性紙とする防湿性紙の製造方法。」で一致し、次の相違点で相違する。
《相違点2》
塗工剤に関し、本件発明6が、「スチレン系樹脂およびアクリル系樹脂と、パラフィンを含む炭化水素系ワックスと、を含有」するのに対し、甲1発明2は、メチルメタクリレート-ブタジエン系ラテックスと、パラフィンと石油樹脂を主体としたワックス系エマルジョンを混合したものからなる点。
ウ 上記相違点2について検討する。
上記(2)ウで述べた理由と同様に、相違点2は実質的な相違点である。また、本件発明6の相違点2に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものでもない。
エ よって、本件発明6は、甲1発明2ではなく、甲1発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第5 取消理由通知に採用しなかった特許異議申立理由について
申立人は、本件明細書の記載には、合成樹脂による作用機序や、その好ましい理由について開示されておらず、実施例において特定の防湿剤が例示されるのみであり、また、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂及びワックスの配合割合も示されていないから、本件発明はサポート要件を満たしていない旨(特許異議申立書16~17ページ)主張する。
しかし、本件発明の解決しようとする課題は、「防湿性と防水性を兼ね備える防湿性紙とその製造方法を提供すること」(本件明細書の段落【0008】)であるところ、本件明細書の記載を参照すると、「塗工剤を塗工して形成した塗工層の表面に微細な膨れ、気泡(以下、「ブリスター」とも記す)が存在すると防湿性、防水性に影響を及ぼすこと」(同じく段落【0009】)を見出したことを踏まえて、「塗工層の表面における直径50μm以上のブリスターの存在頻度が30個/cm2以下」である要件と「透湿度が50g/m2・24h以下」である要件とにより、優れた防湿性を具備するとともに優れた防水性も具備する(同じく段落【0023】)のであるから、この要件を特定する本件発明は、上記課題を解決できるものと理解できる。
したがって、申立人のサポート要件に係る上記主張は採用できない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議の申立ての理由によっては、請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700383