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特許異議申立

2023-700796

ヒートシール紙

審判番号
2023-700796
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2022-187273
登録番号
7217832
請求日
2023年08月01日
審決日
2024年03月11日
公報発行日
2024年06月28日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】日本製紙株式会社
  • 【権利者代理人】山田 泰之
  • 【権利者代理人】中村 理弘
  • 【異議申立人】砂川 幸子
審判長/審判官
  • 審判長 一ノ瀬 覚
  • 審判官 藤井 眞吾
  • 審判官 ▲高▼橋 杏子
分類
P1651.113-YAA(D21H) / P1651.121-YAA(D21H) / P1651.537-YAA(D21H)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7217832号発明「ヒートシール紙」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7217832号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。 特許第7217832号の請求項1、3、4に係る特許を維持する。 特許第7217832号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7217832号の請求項1~4に係る特許についての出願は、令和2年7月28日に出願した特願2020-127383号の一部を令和4年11月24日に新たな特許出願(特願2022-187273号)としたものであって、令和5年1月26日にその特許権の設定登録がされ、令和5年2月3日に特許掲載公報が発行された。 本件特許異議の申立ての手続の経緯の概略は、次のとおりである。 令和5年 8月 1日 :特許異議申立人砂川幸子(以下「申立人」という。)による請求項1~4に係る特許に対する特許異議の申立て 令和5年 9月26日付け:取消理由通知書 令和5年11月22日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出(以下、当該訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。) 令和6年 1月 9日 :申立人による意見書の提出 第2 本件訂正の適否 1 本件訂正の内容 本件訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。 (1)訂正事項1 本件訂正前の請求項1に記載された「前記塗工層が、アンチブロッキング剤として少なくともワックスを含み、」を、「前記塗工層が、アンチブロッキング剤としてワックスと顔料との両方を含み、」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3、4も同様に訂正する)。 (2)訂正事項2 本件訂正前の請求項1に記載された「前記塗工層におけるワックスの配合量が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、1.2質量部以上15質量部以下であり、」を、「前記塗工層におけるワックスの配合量が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、1.2質量部以上15質量部以下、かつ、乾燥重量で顔料100質量部に対して、1質量部以上200質量部以下であり、」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3、4も同様に訂正する)。 (3)訂正事項3 本件訂正前の請求項2を削除する。 (4)訂正事項4 本件訂正前の請求項3に記載された「請求項1または2に記載」を、「請求項1に記載」に訂正する(請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4も同様に訂正する)。 (5)訂正事項5 本件訂正前の請求項4に記載された「請求項1~3のいずれか一項」を、「請求項1または3」に訂正する。 2 一群の請求項について 本件訂正前の請求項1~4は、請求項2~4が、本件訂正前の請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正請求は、一群の請求項〔1~4〕について請求されたものである。 3 訂正の目的、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の適否について (1)訂正事項1について 訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の「塗工層」における「アンチブロッキング剤」について限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項1は、本件特許の明細書の【0019】の記載に基づくものであるから、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものである。 また、訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項をさらに限定するものであり、また、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、本件訂正前の請求項1の「塗工層におけるワックスの配合量」について限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項2は、本件特許の明細書の【0023】の記載に基づくものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。 また、訂正事項2は、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項をさらに限定するものであり、また、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (3)訂正事項3について 訂正事項3は、本件訂正前の請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (4)訂正事項4、5について 訂正事項4、5は、本件訂正前の請求項3、4について、訂正事項3によって請求項2が削除されたことに伴い、引用する請求項の数を減少させ、また、訂正事項3によって削除された請求項2を引用しているという不明瞭な状態を解消させるものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 また、訂正事項4、5は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 4 本件訂正の適否のまとめ 以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおり本件訂正が認められたことから、本件特許の請求項1、3、4に係る発明(以下「本件発明1」等という。また、本件発明1、3、4を「本件発明」と総称することもある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、3、4に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1、3、4の記載は、次のとおりである。 「【請求項1】 紙基材の少なくとも一方の面上に、熱可塑性樹脂を含む塗工層を有し、 前記塗工層が、アンチブロッキング剤としてワックスと顔料との両方を含み、 前記塗工層におけるワックスの配合量が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、1.2質量部以上15質量部以下、かつ、乾燥重量で顔料100質量部に対して、1質量部以上200質量部以下であり、 前記塗工層に含まれる熱可塑性樹脂が、エチレンアクリル酸共重合樹脂であることを特徴とするヒートシール紙(ただし、紙基材が、JIS P 8113:2006に準拠して測定される縦方向の引張エネルギー吸収量をX1、JIS P 8113:2006に準拠して測定される横方向の引張エネルギー吸収量をY1、JIS P 8113:2006に準拠して測定される縦方向の比引張エネルギー吸収量をX2、JIS P 8113:2006に準拠して測定される横方向の比引張エネルギー吸収量をY2としたとき、X1およびY1の相乗平均が120J/m2以上であり、Y1に対するX1の比(X1/Y1)が0.5以上2.0以下であり、X2およびY2の相乗平均が2.0J/g以上であるものを除く)。」 「【請求項3】 前記塗工層が、ガラス転移温度が100℃以下の熱可塑性樹脂を含むことを特徴とする請求項1に記載のヒートシール紙。 【請求項4】 前記塗工層が、カルナバワックスを含むことを特徴とする請求項1または3に記載のヒートシール紙。」 第4 取消理由通知に記載した取消理由について 1 取消理由の概要 本件訂正前の請求項1~4に係る特許に対して、当審が令和5年9月26日付けで通知した取消理由の概要は、次のとおりである。 取消理由1(新規性) 本件特許の請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 取消理由2(進歩性) (1)本件特許の請求項1~4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (2)本件特許の請求項1~4に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (3)本件特許の請求項1~4に係る発明は、甲第3号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (4)本件特許の請求項1~4に係る発明は、甲第4号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 <引用文献等一覧> 甲第1号証:特表2003-529624号公報 甲第2号証:特開昭55-21456号公報 甲第3号証:安井慶宜著『ザイクセン及び水系エマルジョンの機能紙への展開とその応用』、機能紙研究会誌、平成28(2016)年10月、No.55、第31~36ページ 甲第4号証:『ペーパー・セールス・エンジニアリング・シリーズ〇5(○の中に5を代用。以下同様)特殊機能紙』第2刷、紙業タイムス社発行、発行日1997年9月10日、第354~361ページ 甲第5号証:『自己乳化型ポリオレフィンザイクセン○R』力タログ、住友精化株式会社、2001年8月31日 甲第6号証:国際公開第2019/089113号 甲第7号証:『接着便覧第12版』、株式会社高分子刊行会発行、発行日1980(昭和55年)年9月20日、第57~59ページ、第124~131ページ 甲第8号証:『Additive Product Portfolio』、MICHELMAN社カタログ、2017年7月 以下、甲第1号証を「甲1」という。他も同じ。 2 当審の判断 特許異議申立書において、申立人は、本件特許の請求項1~3に係る発明は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、本件特許の請求項1、3に係る発明は、甲2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当する旨を述べているため、これらの申立理由についても併せて検討する。 (1)引用文献に記載された発明等 ア 甲1 (ア)甲1の記載 甲1には、次の記載がある。 「【請求項1】 アクリル酸10から30重量%とエチレン70から90重量%とを含み、メルトフローインデックスが10から100(g/10分:190℃、2.16kgにおいて)、融点が75°から90℃の範囲、酸基の隣接率が2~15%の範囲、多分散度が2~7の範囲、分岐パラメータが少なくとも0.6であるが1未満である分岐エチレンアクリル酸インターポリマーを含んでなり、前記アクリル酸のカルボン酸基がアンモニアによって中和されていることを特徴とするコーティング組成物。」 「【請求項11】 請求項1から8のいずれかに記載のコーティング組成物でコーティングされていることを特徴とする基材ポリマーフィルム。」 「【0001】 (発明の分野) 本発明は、酸分が少なくメルトフローインデックス(MFI)が低いエチレン-アクリル酸(EAA)コポリマーを含有する、低温でヒートシール可能な改良されたコーティング組成物に関する。このコーティング組成物は、可撓性包装用基材等の基材ポリマーフィルムをコーティングするのに特に好適である。」 「【0024】 (発明の詳細) 上述したように、本発明によるコポリマーは、エチレン70から90%とアクリル酸10から30%とを含む。アクリル酸の量がこれより少ないとコポリマーを分散させることができなくなる。アクリル酸の量がこれより多いと、食品グレードのポリマーとしては不適当となる。好ましくは、コポリマーはエチレン80から85%とアクリル酸15から20%とを含む。」 「【0039】 本発明のさらなる態様は、本発明によるコーティング組成物を製造する方法を含む。この方法は、アクリル酸10から30重量%とエチレン70から90重量%とを含有し、メルトフローインデックスが100以下(g/10分:190℃、2.16kg)、融点が75°から90℃の範囲、酸基の隣接率が2~15%の範囲、多分散度が2~7の範囲、分岐パラメータが少なくとも0.6であるが1未満である分岐エチレンアクリル酸インターポリマーを、大気圧下、コポリマーの融点よりも高く100℃を超えない温度でアンモニア含有水性媒質に接触させることを含む。 【0040】 コーティング組成物は、コポリマーの水溶液、水分散液、または水乳化液であってもよいが、好ましくは水分散液である。 【0041】 さらなる態様によれば、本発明によるコーティング組成物を用いて基材ポリマーフィルムをコーティングする。このフィルムとして、例えば、ポリオレフィン(特にポリプロピレン、中でも二軸延伸ポリプロピレン)フィルム等の可撓性包装用フィルムが挙げられる。他の好適なポリマーフィルムは、ポリプロピレン以外のポリオレフィン、例えばポリエチレン、ならびにポリエステルおよびポリアミドフィルムから構成されるものである。これは、例えば、当業者に知られている、紙、板紙、金属箔を含むが、それだけに限らない、他の種類の可撓性包装基材にも用いることができる。 【0042】 さらに、本発明によるコーティング組成物を当業者が配合することによって、フィルム上で使用するのにより好適なものとすることができる。例えば、コーティング組成物の最終用途に応じて通常の添加剤を添加することもできる。好ましい添加剤は、抗ブロッキング剤として作用すると同時に最終的なフィルムの摩擦係数を向上させる、ミクロクリスタリンワックスまたはポリエチレンワックス等のワックスである。他の種類の添加剤としては、室温下でコーティングの粘着性を低下させるヒュームドシリカ、炭酸カルシウム、タルク、架橋剤、および帯電防止剤がある。 【0043】 本発明のコーティング組成物を使用する基材ポリマーフィルムの厚さは、通常、従来技術により従来用いられているものと同様、10から100μmであろう。」 「【0046】 実施例1 冷却器とU字型スターラーとを備えたガラス製反応容器内に、酸分が20重量%、MFIが60(g/10分:190℃、2.16kg)のエチレン-アクリル酸コポリマーのペレット90gと、脱塩水360gと、水酸化アンモニウム(29.5重量%、NH3水)11.5gとを同時に仕込んだ。この反応容器を、シリコーン油を含む加熱浴に浸け、浴の温度を115℃に設定した。速度制御式らせん型攪拌装置によりスターラーの攪拌速度を600rpmに設定した。攪拌は周囲圧力下で実施した。反応容器混合物の上面の温度を測定したところ、90℃であった。約4時間後、均一な分散液が形成された。この時点で反応容器から加熱浴を取り除き、反応容器を室温まで放冷した。分散液を0.5mmのふるいでろ過したところ、フィルタ上に残留物は残らなかった。このことは、ペレットが完全に分散したことを示す。得られた分散液は固形分20重量%の白色液体であり、コポリマー酸基の80%がアンモニウムによって中和されていた。この分散液は調製後6カ月経過しても安定である。 【0047】 コポリマーの分子分析の結果、隣接率は3.4%、Mn値は19455g/モル、Mw値は96930g/モルで多分散度は4.98、分岐パラメータ(g’)は0.72であった。融点は82℃であり、結晶化度は35.3J/gであった。 【0048】 実施例2 酸分が18重量%、MFIが60(g/10分:90℃、2.16kg)のエチレン-アクリル酸コポリマーのペレット112.5gと、脱塩水337.5gと、水酸化アンモニウム(29.5重量%、濃アンモニア水)32.9gとをガラス製反応容器内に同時に仕込んだ。分散プロセスは、実施例1に記載したものと同様にした。得られた分散液は非常に粘性が高かった。この分散液に水112.5gを加え、この混合物を室温下で1時間攪拌した。この分散液を0.5mmのふるいでろ過したところ、フィルタ上に残留した残留物は2重量%未満であった。このことは、分散液の収率が高いことを示す。得られた分散液は固形分20重量%のやや白色がかった半透明の液体で、コポリマー酸基の200%がアンモニウムで中和されていた。この分散液は調製後1カ月経過しても安定であった。 【0049】 コポリマーの分子分析の結果、隣接率は3.2%、Mn値は22679g/モル、Mw値は117498g/モルで多分散度は5.2、分岐パラメータ(g’)は0.70であった。融点は82℃であり、結晶化度は43.7J/gであった。 【0050】 この分散液はAquaseal(登録商標)1211と称される。」 「【0061】 実施例8 実施例2に従って調製した固形分20重量%の微細分散液(Aquaseal(登録商標)1211)に、量を変化させた水酸化ナトリウム(NaOH)、パラメルト(Paramelt)よりAquaseal(登録商標)1205として販売されている高密度ポリエチレン(HDPE)ワックス、および抗ブロッキング剤(シリカ、炭酸カルシウムまたはポリマー抗ブロッキング剤等)を加えることによりコーティング組成物を調製した。ゼネカレジンズ(Zeneca Resins)から市販の平均粒径が3μmのDiakon(登録商標)API1には試料11から14を使用した。 【0062】 さらに、実施例1の分散液およびマイケルマン(Michelman)よりPrimacor(登録商標)4983として販売されている、エチレン80重量%、アクリル酸20重量%のコポリマーのアンモニア塩を25重量%含有する水溶液または微細分散液に、量を変化させた水酸化ナトリウム(NaOH)、マイケルマンより41540Paraloid(登録商標)として販売されている、平均サイズが約0.12から0.2μmのミクロクリスタリンワックス、およびSyloid72として販売されている平均粒径が3から5μmのヒュームドシリカを加えることによりコーティング組成物を調製した。 【0063】 表1にさらに詳細を示す。 【0064】 【表1】 [図:0001411332000001.jpg] 【0065】 米国特許第5,419,960号の教示内容と比較するため、中和を実施した。特にこの文書は、エチレン/アクリル酸コポリマーのアンモニウム塩を中和することを教示している。 【0066】 次いで水を加え、固形分約13%(12から14%の間)の最終組成物とした。各組成物を、全体の厚さが約30μmの、共押出しされた3層の二軸延伸ポリプロピレンフィルム試料の片面に塗布した。このフィルムのコア層のポリマーはポリプロピレンホモポリマーであり、外側層のポリマーはポリプロピレンとエチレンとのランダムコポリマーであった。 【0067】 標準的なグラビアコーティング用の器具と技法、すなわちDixonコーター164Mk2型を用いてコーティングを塗布した。コーティング前に、フィルムの両面を放電処理し、処理された面に下塗りを施す処理を行った。フィルム乾燥後のコーティング全体の重量はフィルム1m2当たり約0.7から1.0gであった。 【0068】 実施例9 実施例8のフィルムに関し、ヒートシール、ホットタック、24時間後と水浸後のシールについて試験を行った。Qシーラーを用いて、5psi(0.35kg/cm2)および2秒間の停留時間で、温度を50℃から120℃まで変化させて作製したシールについて、Qプラー(Q puller)を用いてヒートシール強度を測定した。 【0069】 MST-200g/25mmシール強度に達する温度(℃) ヒートシール閾値300g/25mm:300g/25mmシール強度に達する温度(℃) ヒートシール閾値400g/25mm:400g/25mmシール強度に達する温度(℃) DELTA-シール強度を200から400g/25mmに上昇させる温度 SS-100、110、および120℃で測定したシール強度の平均値 【0070】 ホットタック ホットタックは以下の条件下で試験した。 ホットタック試験機であるThellerにて、0.5秒、15PSI(1.05kg/cm2)(ピーク) 0.5秒、5PSI(0.35kg/cm2)、120gスプリング、両チャック加熱 【0071】 以下のデータは、Thellerホットタックに関する記述である。 MHHT-ホットタック強度が200g/25mmに達する温度(℃) HTS-110、120、および130℃で測定したホットタック強度の平均値 【0072】 以下のデータはスプリングホットタックに関する記述である。 RANGE-ホットタックの結果が、開口10%未満となる温度範囲 【0073】 試験を実施したすべての試料は、同等かつ許容範囲内のスリップ性、乾燥時のブロッキング性、湿時のブロッキング性、ヘイズ、および透明性を示した。得られたホットタックおよびヒートシールの測定値は表2に示す。これらの結果は、本発明によるコーティング組成物が良好なホットタック性を示しながら、非常に低いヒートシール温度を維持することを示し、一方、従来技術による組成物(実施例1から4)は、水酸化ナトリウムで中和すると最低ヒートシール温度が上昇することを示す。 【0074】 【表2】 [図:0001411332000002.jpg] 」 (イ)甲1に記載された発明 上記(ア)の記載からみて、特に試料番号7のコーティング組成物を二軸延伸ポリプロピレンフィルム試料の片面に塗布したフィルムに着目すると、甲1には以下の発明(以下「甲1発明」という。他も同じ。)が記載されていると認められる。 「エチレン-アクリル酸コポリマーを分散させた分散液に、4phrのミクロクリスタリンワックス、および0.3%のヒュームドシリカを加えた、低温でヒートシール可能な改良されたコーティング組成物を、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの片面に塗布した、フィルム。」 イ 甲2に記載された発明 甲2の特許請求の範囲、1ページ左下欄14行~2ページ右下欄20行、実施例1、3の記載からみて、甲2には以下の発明が記載されていると認められる。 「エチレン-アクリル酸共重合樹脂100重量部、ロジン誘導体10重量部、ワックス10重量部からなる接着剤を、80g/m2の原紙の片面に塗布して得た感熱接着紙。」 ウ 甲3に記載された発明 甲3の31ページ右欄3行~32ページ左欄8行、33ページ右欄19行~34ページ左欄6行、表1、2の記載からみて、甲3には以下の発明が記載されていると認められる。 「ヒートシール接着に用いる、ワックス系のブロッキング防止剤が添加されたザイクセンのAタイプのAC-HW-10を基材(紙)に塗工したもの。」 エ 甲4に記載された発明 甲4の355ページ7~13行、360ページ10~23行の記載からみて、甲4には以下の発明が記載されていると認められる。 「低温ヒートシール性の熱可塑性樹脂(主にポリオレフィン)を微細粒子化したエマルションを紙などの基材に塗工したヒートシール紙で、低温ヒートシール性の熱可塑性樹脂を微細粒子化し水に分散させたエマルションとして住友精化のザイクセンを用いた、ヒートシール紙。」 (2)本件発明1について ア 甲1を主引例とした理由(新規性、進歩性)について (ア)対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明の「エチレン-アクリル酸コポリマー」は、「ヒートシール可能」であるから熱可塑性であることは自明であって、本件発明1の「熱可塑性樹脂」である「エチレンアクリル酸共重合樹脂」に相当する。 甲1発明の「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」は、「基材」である限りにおいて、本件発明1の「紙基材」に一致する。したがって、甲1発明の「コーティング組成物を、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの片面に塗布した」ことは、「基材の少なくとも一方の面上に、熱可塑性樹脂を含む塗工層を有」する限りにおいて、本件発明1の「紙基材の少なくとも一方の面上に、熱可塑性樹脂を含む塗工層を有」することに一致する。 甲1の「抗ブロッキング剤として作用すると同時に最終的なフィルムの摩擦係数を向上させる、ミクロクリスタリンワックスまたはポリエチレンワックス等のワックス」(【0042】)との記載から、甲1発明の「ミクロクリスタリンワックス」は、本件発明1の「アンチブロッキング剤」としての「ワックス」に相当する。 また、甲1発明の「ミクロクリスタリンワックス」の量は「4phr」であるところ、当該事項は「樹脂100部当たりの重量部」を示す(【0064】表外の「**」)から、「ワックスの配合量が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、1.2質量部以上15質量部以下」である。 甲1発明の「エチレン-アクリル酸コポリマーを分散させた分散液に、4phrのミクロクリスタリンワックス、および0.3%のヒュームドシリカを加えた」ことと、本件発明1の「前記塗工層が、アンチブロッキング剤としてワックスと顔料との両方を含」み、「前記塗工層におけるワックスの配合量」が「乾燥重量で顔料100質量部に対して、1質量部以上200質量部以下であ」ることとは、塗工層が、アンチブロッキング剤として少なくともワックスを含む限りにおいて一致する。 甲1発明の「フィルム」は「ヒートシール可能」であるから、本件発明1の「ヒートシール紙」と「ヒートシール材」である限りにおいて一致する。 そうすると、両者は以下の点で一致し、相違する。 <一致点1> 「基材の少なくとも一方の面上に、熱可塑性樹脂を含む塗工層を有し、 前記塗工層が、アンチブロッキング剤として少なくともワックスを含み、 前記塗工層におけるワックスの配合量が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、1.2質量部以上15質量部以下であり、 前記塗工層に含まれる熱可塑性樹脂が、エチレンアクリル酸共重合樹脂であるヒートシール材。」 <相違点1-1> 塗工層が、アンチブロッキング剤として少なくともワックスを含むことに関して、本件発明1は「前記塗工層が、アンチブロッキング剤としてワックスと顔料との両方を含」み、「前記塗工層におけるワックスの配合量」が「乾燥重量で顔料100質量部に対して、1質量部以上200質量部以下であ」るのに対して、甲1発明は「エチレン-アクリル酸コポリマーを分散させた分散液に、4phrのミクロクリスタリンワックス、および0.3%のヒュームドシリカを加えた」点。 <相違点1-2> 「基材」、「ヒートシール材」について、本件発明1は「紙基材」であり、「ヒートシール紙」であり、「紙基材が、JIS P 8113:2006に準拠して測定される縦方向の引張エネルギー吸収量をX1、JIS P 8113:2006に準拠して測定される横方向の引張エネルギー吸収量をY1、JIS P 8113:2006に準拠して測定される縦方向の比引張エネルギー吸収量をX2、JIS P 8113:2006に準拠して測定される横方向の比引張エネルギー吸収量をY2としたとき、X1およびY1の相乗平均が120J/m2以上であり、Y1に対するX1の比(X1/Y1)が0.5以上2.0以下であり、X2およびY2の相乗平均が2.0J/g以上であるものを除く」のに対し、甲1発明では「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」であり、「ヒートシール紙」ではなく、その「縦方向の引張エネルギー吸収量」と「横方向の引張エネルギー吸収量」の相乗平均及び比、「縦方向の比引張エネルギー吸収量」と「横方向の比引張エネルギー吸収量」の相乗平均が不明である点。 (イ)新規性についての判断 相違点1-1について検討する。 甲1の「他の種類の添加剤としては、室温下でコーティングの粘着性を低下させるヒュームドシリカ、炭酸カルシウム、タルク、架橋剤、および帯電防止剤がある。」(【0042】)、「抗ブロッキング剤(シリカ、炭酸カルシウムまたはポリマー抗ブロッキング剤等)」(【0061】)の記載から、甲1発明の「ヒュームドシリカ」は、本件発明1の「アンチブロッキング剤」としての「顔料」に相当する。 しかしながら、甲1発明における「ヒュームドシリカ」の配合量は、約0.313質量部(=0.3×(100+4)÷(100-0.3))と計算でき、「ヒュームドシリカ」100質量部に対する「ミクロクリスタリンワックス」の配合量は、約1278質量部(=4×100÷0.313)と計算できるから、相違点1-1は実質的な相違点である。 (ウ)進歩性についての判断 引き続き、相違点1-1について検討する。 甲1には、「コーティング組成物の最終用途に応じて通常の添加剤を添加することもできる」(【0042】)ことについては記載されているものの、甲1発明における「ヒュームドシリカ」100質量部に対する「ミクロクリスタリンワックス」の配合量を1質量部以上200質量部以下とすることについて記載も示唆もされていない。 また、熱可塑性樹脂がエチレンアクリル酸共重合体であって、アンチブロッキング剤としてワックスと顔料との両方を含む塗工層において、ワックスの配合量を乾燥重量で顔料100質量部に対して、1質量部以上200質量部以下とすることは、申立人が提出したいずれの証拠にも記載も示唆もされていない。 したがって、甲1発明において、相違点1-1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものではない。 (エ)申立人の主張について 申立人は、令和6年1月9日提出の意見書において、製造時の塗工層の厚みや加熱条件、保管状況等によって、ブロッキングの程度が異なることは技術常識であることから、甲1発明においても、各々の状況に応じて、必要な耐ブロッキング性を得るために、塗工層中のミクロクリスタリンワックス等のワックス、及びヒュームドシリカ等の顔料の含有量(配合量)を適宜調整することは、当業者にとって単なる設計事項である旨を述べている。 しかしながら、甲1発明のフィルムを試験した実施例9の試料7を含めて、「試験を実施したすべての試料は、同等かつ許容範囲内のスリップ性、乾燥時のブロッキング性、湿時のブロッキング性、ヘイズ、および透明性を示した。得られたホットタックおよびヒートシールの測定値は表2に示す。これらの結果は、本発明によるコーティング組成物が良好なホットタック性を示しながら、非常に低いヒートシール温度を維持することを示し」(甲1の【0073】)たものであるところ、甲1の【0042】には、ミクロクリスタリンワックスが抗ブロッキング性や摩擦係数を向上させること、ヒュームドシリカがコーティングの粘着性を低下させることが記載されていることから、甲1発明においてこれらの配合量を大幅に変更する動機付けはない。 したがって、申立人の上記主張は採用することができない。 (オ)小括 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基いて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 イ 甲2を主引例とした理由(新規性、進歩性)について (ア)対比 本件発明1と甲2発明とを対比する。 甲2発明の「エチレン-アクリル酸共重合樹脂」は、「感熱接着」に用いるものであるから熱可塑性であることは自明であって、本件発明1の「熱可塑性樹脂」である「エチレンアクリル酸共重合樹脂」に相当する。 甲2発明の「原紙」は、本件発明1の「紙基材」に相当する。そして、甲2発明の「エチレン-アクリル酸共重合樹脂100重量部、ロジン誘導体10重量部、ワックス10重量部からなる接着剤を、原紙の片面に塗布」することは、本件発明1の「紙基材の少なくとも一方の面上に、熱可塑性樹脂を含む塗工層を有」することに相当する。 甲2には「ワックスをブレンドさせると、・・・それ以上の昇温をよく抑制して耐ブロッキング性の悪化もなく、むしろ後者の点で対(b)良好効果を得ることができる」(甲2第2ページ右下欄第9行から第14行、「・・・」は文章の省略を表す。)と記載されているから、甲2発明の「ワックス」は、本件発明1の「アンチブロッキング剤」としての「ワックス」に相当する。 甲2発明の「接着剤」は「エチレン-アクリル酸共重合樹脂100重量部、ロジン誘導体10重量部、ワックス10重量部からなる」から、「ワックスの配合量が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、1.2質量部以上15質量部以下」である。 甲2発明の「接着剤」が「エチレン-アクリル酸共重合樹脂100重量部、ロジン誘導体10重量部、ワックス10重量部からなる」ことと、本件発明1の「前記塗工層が、アンチブロッキング剤としてワックスと顔料との両方を含」み、「前記塗工層におけるワックスの配合量」が「乾燥重量で顔料100質量部に対して、1質量部以上200質量部以下であ」ることとは、塗工層が、アンチブロッキング剤として少なくともワックスを含む限りにおいて一致する。 甲2発明の「感熱接着紙」は、本件発明1の「ヒートシール紙」に相当する。 そうすると、両者は以下の点で一致し、相違する。 <一致点2> 「紙基材の少なくとも一方の面上に、熱可塑性樹脂を含む塗工層を有し、 前記塗工層が、アンチブロッキング剤として少なくともワックスを含み、 前記塗工層におけるワックスの配合量が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、1.2質量部以上15質量部以下であり、 前記塗工層に含まれる熱可塑性樹脂が、エチレンアクリル酸共重合樹脂であるヒートシール紙。」 <相違点2-1> 塗工層が、アンチブロッキング剤として少なくともワックスを含むことに関して、本件発明1は「前記塗工層が、アンチブロッキング剤としてワックスと顔料との両方を含」み、「前記塗工層におけるワックスの配合量」が「乾燥重量で顔料100質量部に対して、1質量部以上200質量部以下であ」るのに対して、甲2発明は「接着剤」が顔料を含まない点。 <相違点2-2> 本件発明1の「紙基材」が、「JIS P 8113:2006に準拠して測定される縦方向の引張エネルギー吸収量をX1、JIS P 8113:2006に準拠して測定される横方向の引張エネルギー吸収量をY1、JIS P 8113:2006に準拠して測定される縦方向の比引張エネルギー吸収量をX2、JIS P 8113:2006に準拠して測定される横方向の比引張エネルギー吸収量をY2としたとき、X1およびY1の相乗平均が120J/m2以上であり、Y1に対するX1の比(X1/Y1)が0.5以上2.0以下であり、X2およびY2の相乗平均が2.0J/g以上であるものを除く」のに対し、甲2発明の「原紙」は、その「縦方向の引張エネルギー吸収量」と「横方向の引張エネルギー吸収量」の相乗平均及び比、「縦方向の比引張エネルギー吸収量」と「横方向の比引張エネルギー吸収量」の相乗平均が不明である点。 (イ)新規性についての判断 相違点2-1について検討する。 甲2発明の「接着剤」には顔料が含まれていないため、相違点2-1は実質的な相違点である。 (ウ)進歩性についての判断 引き続き、相違点2-1について検討する。 甲2には、「接着剤」に顔料を含むことは記載も示唆もされていない。 また、熱可塑性樹脂がエチレンアクリル酸共重合体であって、アンチブロッキング剤としてワックスと顔料との両方を含む塗工層において、ワックスの配合量を乾燥重量で顔料100質量部に対して、1質量部以上200質量部以下とすることは、申立人が提出したいずれの証拠にも記載も示唆もされていない。 したがって、甲2発明において、相違点2-1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものではない。 (エ)申立人の主張について 申立人は、令和6年1月9日提出の意見書において、各々の状況に応じて必要な耐ブロッキング性を得るために、ワックスと顔料の配合量及び配合比を調整することは、当業者が適宜なし得る設計事項で、甲2発明において、所望の耐ブロッキング性を得るために、甲1の記載に基づき、エチレン-アクリル酸共重合樹脂(ザイクセンA)に対して、ワックスと顔料を配合し、さらにその配合比を本件発明1の範囲とすることは、当業者が容易に想到し得るものである旨を述べている。 しかしながら、甲2発明である実施例3は、「接着温度測定と耐ブロッキング性の良否を判定したが、いずれも・・・実用的な結果を示した」(甲2の3ページ右下欄1~3行)ものであるから、甲2発明において、さらに顔料を加えて接着剤の組成を変更する動機付けはない。 したがって、申立人の上記主張は採用することができない。 (オ)小括 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明ではなく、また、甲2発明に基いて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 ウ 甲3を主引例とした理由(進歩性)について (ア)対比 本件発明1と甲3発明とを対比する。 甲3発明の「基材(紙)」は、本件発明1の「紙基材」に相当する。 甲3発明の「ザイクセンのAタイプのAC-HW-10」は、「ヒートシール接着に用いる」ものであり、甲2の第3ページ右上欄第4行から5行を参照すれば、「エチレン-アクリル酸共重合樹脂」であるから、本件発明1の「熱可塑性樹脂」である「エチレンアクリル酸共重合樹脂」に相当する。 甲3発明の「ワックス系のブロッキング防止剤」は、本件発明1の「アンチブロッキング剤」としての「ワックス」に相当する。 甲3発明の「ヒートシール接着に用いる」、「ザイクセンのAタイプを基材(紙)に塗工」したことは、本件発明1の「紙基材の少なくとも一方の面上に、熱可塑性樹脂を含む塗工層を有」することに相当する。 甲3発明の「ザイクセンのAタイプのAC-HW-10」に「ワックス系のブロッキング防止剤が添加された」ことと、本件発明1の「前記塗工層が、アンチブロッキング剤としてワックスと顔料との両方を含み、前記塗工層におけるワックスの配合量が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、1.2質量部以上15質量部以下、かつ、乾燥重量で顔料100質量部に対して、1質量部以上200質量部以下であ」ることとは、塗工層が、アンチブロッキング剤として少なくともワックスを含む限りにおいて一致する。 甲3発明の「ヒートシール接着に用いる」、「ザイクセンのAタイプを基材(紙)に塗工したもの」は、本件発明1の「ヒートシール紙」に相当する。 そうすると、両者は以下の点で一致し、相違する。 <一致点3> 「紙基材の少なくとも一方の面上に、熱可塑性樹脂を含む塗工層を有し、 前記塗工層が、アンチブロッキング剤として少なくともワックスを含み、 前記塗工層に含まれる熱可塑性樹脂が、エチレンアクリル酸共重合樹脂であるヒートシール紙。」 <相違点3-1> 塗工層が、アンチブロッキング剤として少なくともワックスを含むことに関して、本件発明1は「前記塗工層が、アンチブロッキング剤としてワックスと顔料との両方を含み、前記塗工層におけるワックスの配合量が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、1.2質量部以上15質量部以下、かつ、乾燥重量で顔料100質量部に対して、1質量部以上200質量部以下であ」るのに対して、甲3発明は「ザイクセンのAタイプのAC-HW-10」に「ワックス系のブロッキング防止剤が添加された」ものである点。 <相違点3-2> 本件発明1の「紙基材」が、「JIS P 8113:2006に準拠して測定される縦方向の引張エネルギー吸収量をX1、JIS P 8113:2006に準拠して測定される横方向の引張エネルギー吸収量をY1、JIS P 8113:2006に準拠して測定される縦方向の比引張エネルギー吸収量をX2、JIS P 8113:2006に準拠して測定される横方向の比引張エネルギー吸収量をY2としたとき、X1およびY1の相乗平均が120J/m2以上であり、Y1に対するX1の比(X1/Y1)が0.5以上2.0以下であり、X2およびY2の相乗平均が2.0J/g以上であるものを除く」のに対し、甲3発明の「基材(紙)」は、その「縦方向の引張エネルギー吸収量」と「横方向の引張エネルギー吸収量」の相乗平均及び比、「縦方向の比引張エネルギー吸収量」と「横方向の比引張エネルギー吸収量」の相乗平均が不明である点。 (イ)判断 相違点3-1について検討する。 甲3には、「ザイクセンのAタイプのAC-HW-10」に顔料を添加することは記載も示唆もされていない。 また、熱可塑性樹脂がエチレンアクリル酸共重合体であって、アンチブロッキング剤としてワックスと顔料との両方を含む塗工層において、ワックスの配合量を乾燥重量で顔料100質量部に対して、1質量部以上200質量部以下とすることは、申立人が提出したいずれの証拠にも記載も示唆もされていない。 したがって、甲3発明において、相違点3-1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものではない。 (ウ)小括 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明に基いて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 エ 甲4を主引例とした理由(進歩性)について (ア)対比 本件発明1と甲4発明とを対比する。 甲4発明の「紙などの基材」は、本件発明1の「紙基材」に相当する。 甲4発明の「低温ヒートシール性の熱可塑性樹脂(主にポリオレフィン)を微細粒子化したエマルションを紙などの基材に塗工した」たことは、本件発明1の「紙基材の少なくとも一方の面上に、熱可塑性樹脂を含む塗工層を有」することに相当する。 甲4発明の「ザイクセン」は、甲2の第3ページ右上欄第4行から5行を参照すれば、「エチレン-アクリル酸共重合樹脂」であるから、本件発明1の「エチレンアクリル酸共重合樹脂」に相当する。 したがって、甲4発明の「前記感熱性粘着剤は、熱可塑性樹脂として低温ヒートシール性の熱可塑性樹脂を微細粒子化し水に分散させたエマルジョンとしてザイクセンを用い」たことは、本件発明1の「前記塗工層に含まれる熱可塑性樹脂が、エチレンアクリル酸共重合樹脂である」ことに相当する。 甲4発明の「ヒートシール紙」は、本件発明1の「ヒートシール紙」に相当する。 そうすると、両者は以下の点で一致し、相違する。 <一致点4> 「紙基材の少なくとも一方の面上に、熱可塑性樹脂を含む塗工層を有し、 前記塗工層に含まれる熱可塑性樹脂が、エチレンアクリル酸共重合樹脂であるヒートシール紙。」 <相違点4-1> 本件発明1は「前記塗工層が、アンチブロッキング剤としてワックスと顔料との両方を含み、 前記塗工層におけるワックスの配合量が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、1.2質量部以上15質量部以下、かつ、乾燥重量で顔料100質量部に対して、1質量部以上200質量部以下であ」るのに対し、甲4発明は「エマルション」がアンチブロッキング剤としてワックスと顔料を含むか不明である点。 <相違点4-2> 本件発明1の「紙基材」が、「JIS P 8113:2006に準拠して測定される縦方向の引張エネルギー吸収量をX1、JIS P 8113:2006に準拠して測定される横方向の引張エネルギー吸収量をY1、JIS P 8113:2006に準拠して測定される縦方向の比引張エネルギー吸収量をX2、JIS P 8113:2006に準拠して測定される横方向の比引張エネルギー吸収量をY2としたとき、X1およびY1の相乗平均が120J/m2以上であり、Y1に対するX1の比(X1/Y1)が0.5以上2.0以下であり、X2およびY2の相乗平均が2.0J/g以上であるものを除く」のに対し、甲4発明の「上質紙、コート紙、アート紙などの印刷適性の良い紙」は、その「縦方向の引張エネルギー吸収量」と「横方向の引張エネルギー吸収量」の相乗平均及び比、「縦方向の比引張エネルギー吸収量」と「横方向の比引張エネルギー吸収量」の相乗平均が不明である点。 (イ)判断 相違点4-1について検討する。 甲4には、「エマルション」にアンチブロッキング剤としてワックスと顔料を添加することは記載も示唆もされていない。 また、熱可塑性樹脂がエチレンアクリル酸共重合体であって、アンチブロッキング剤としてワックスと顔料との両方を含む塗工層において、ワックスの配合量を乾燥重量で顔料100質量部に対して、1質量部以上200質量部以下とすることは、申立人が提出したいずれの証拠にも記載も示唆もされていない。 したがって、甲4発明において、相違点4-1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものではない。 (ウ)小括 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲4発明に基いて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 (3)本件発明3、4について 本件発明3、4は、本件発明1の特定事項を全て含む発明であるから、上記(2)と同様の理由により、甲1発明又は甲2発明ではなく、また、甲1発明、甲2発明、甲3発明又は甲4発明に基いて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 第5 取消理由通知に採用しなかった特許異議申立理由について 1 申立理由(サポート要件)の概要 本件特許は、特許請求の範囲の記載が次の点で不備であり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (1)請求項1における塗工層の塗工量及び熱可塑性樹脂に対するワックスの配合量に関して、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 (2)請求項2における顔料の配合量に関して、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 (3)請求項3における熱可塑性樹脂のガラス転移温度に関して、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 2 当審の判断 (1)本件発明が解決しようとする課題 本件発明が解決しようとする課題(以下「本件課題」という。)は、「包装材、袋、容器、箱、カップ、蓋材など、包装用途に好適に用いられる、ヒートシール適性を有すると共にブロッキング耐性が良好なヒートシール紙を提供すること」(【0005】)である。 (2)本件課題を解決するための手段 本件課題に関して発明の詳細な説明には次の記載がある。 「【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明の課題を解決するための手段は、以下の通りである。 1.紙基材の少なくとも一方の面上に、熱可塑性樹脂を含む塗工層を有し、 前記塗工層が、アンチブロッキング剤として少なくとも顔料を含み、 前記塗工層における顔料の配合量が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、200質量部未満であることを特徴とするヒートシール紙。 2.紙基材の少なくとも一方の面上に、熱可塑性樹脂を含む塗工層を有し、 前記塗工層が、アンチブロッキング剤として少なくともワックスを含み、 前記塗工層におけるワックスの配合量が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、1.2質量部以上であることを特徴とするヒートシール紙。 3.アンチブロッキング剤として、ワックスと顔料との両方を含むことを特徴とする1.または2.に記載のヒートシール紙。 ・・・ 6.前記塗工層に含まれる熱可塑性樹脂が、エチレンアクリル酸共重合樹脂であることを特徴とする1.~5.のいずれか一項に記載のヒートシール紙。 【発明の効果】 【0007】 本発明によれば、包装用途に好適に用いられる、ヒートシール適性を有すると共に、良好なブロッキング耐性を有するヒートシール紙を提供することができる。アンチブロッキング剤として、顔料とワックスを併用することにより、状況に応じて必要なブロッキング耐性を付与することができる。」 「【0017】 (塗工層) 塗工層は、熱可塑性樹脂と、ワックス又は顔料から選ばれる1種以上のアンチブロッキング剤を含む。塗工層は、ヒートシール紙の両面に設けることもできるが、少なくとも片面に有する。 塗工層は、ヒートシール適性を有する。ヒートシール適正を有するとは、加熱、加圧することで接着対象に接着できることを意味する。ヒートシール適性を有することにより、特に食品などの包装材、袋、容器、箱、カップ、蓋材など、包装用途において、包装形態への成形や形状の維持、密封性の確保などが容易となる。 【0018】 ・熱可塑性樹脂 本発明で使用する熱可塑性樹脂は、製紙分野においてヒートシール層の形成に用いられているものを特に制限することなく使用することができ、・・・。これらの中で、ヒートシール適性の高いエチレンアクリル酸共重合樹脂が好ましい。 【0019】 ・アンチブロッキング剤 本発明のヒートシール紙は、アンチブロッキング剤として、顔料、またはワックスを含む。アンチブロッキング剤として、顔料とワックスの両方を含むこともできる。」 (3)判断 発明の詳細な説明の上記(2)の記載を参照すると、本件課題の解決は、紙基材の少なくとも一方の面上に、熱可塑性樹脂としてのエチレンアクリル酸共重合樹脂を含む塗工層を有しつつ、塗工層が、アンチブロッキング剤として顔料とワックスの両方を含むことによるものと理解できる。 そうすると、本件発明1は、「紙基材の少なくとも一方の面上に、熱可塑性樹脂を含む塗工層を有し、前記塗工層が、アンチブロッキング剤としてワックスと顔料との両方を含み」、「前記塗工層に含まれる熱可塑性樹脂が、エチレンアクリル酸共重合樹脂である」との構成を有しており、当該構成により、ヒートシール適性を有すると共にブロッキング耐性が良好なものとなると認識できる。 したがって、本件発明1、及び本件発明1の特定事項を全て含む本件発明3、4は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件課題を解決することができると認識できる範囲のものである。 よって、申立人の上記主張は採用できない。 (4)小括 よって、本件発明1、3、4は、発明の詳細な説明に記載されたものである。 第6 むすび 以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、請求項1、3、4に係る特許を取り消すことはできない。また、他に請求項1、3、4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 請求項2に係る特許は、本件訂正により削除された。これにより、特許異議の申立てについて、請求項2に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-700796

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