審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許異議申立

2024-700652

紙コップ用原紙

審判番号
2024-700652
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-171154外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
登録番号
7412115
請求日
2024年07月11日
審決日
2026年02月20日
公報発行日
2026年05月29日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.121-YAA(D21H) / P1651.537-YAA(D21H)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7412115号発明「紙コップ用原紙」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7412115号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。 特許第7412115号の請求項1~5に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7412115号の請求項1~5に係る特許についての出願は、令和元年9月20日を出願日とするものであって、令和5年12月28日に特許権の設定登録がされ、令和6年1月12日に特許掲載公報が発行された。 その後の特許異議申立てに関する手続の概要は、以下のとおりである。 令和6年 7月11日 :特許異議申立人佐々木香織(以下「申立人」という。)による請求項1~5に係る特許に対する特許異議の申立て 11月22日付け:取消理由通知書 令和7年 1月24日 :特許権者による意見書の提出 3月28日 :申立人による上申書の提出 6月17日付け:取消理由通知書(決定の予告) 8月20日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 なお、申立人に対する訂正請求があった旨の通知に対し、その指定期間内に意見書の提出はなかった。 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 令和7年8月20日の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。なお、下線は、訂正箇所を示すため、当審で付与したものである。 (1)訂正事項 特許請求の範囲の請求項1に「紙基材の少なくとも一方の面に少なくとも1層以上のヒートシール層を有する紙コップ用原紙であって、前記ヒートシール層がアイオノマーを含み、」とあるのを、「紙基材の一方の面のみに少なくとも1層以上のヒートシール層を有する紙コップ用原紙であって、前記ヒートシール層がアイオノマーのみからなり、」に訂正する。 (請求項1を引用する請求項2~5も同様に訂正する。) (2)一群の請求項について 訂正前の請求項2~5は、訂正請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項〔1~5〕について請求されたものである。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 上記訂正事項は、訂正前の請求項1に記載の「ヒートシール層」について、「紙基材の一方の面のみ」に設けられていること、及び「アイオノマーのみ」からなるものであることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、この訂正事項のうち、「ヒートシール層」が「紙基材の一方の面のみ」に設けられている点は、本件特許の明細書【0033】の「上記で得られた紙基材の片面に水系アイオノマーエマルジョン・・・を」「塗工し乾燥してヒートシール層を設け」という記載に基づくものであり、また、「アイオノマーのみ」からなる点は、当該記載に加え、【0017】の「・・・本実施形態においては、ヒートシール層用塗工液がアイオノマーエマルジョンのみからなることが好ましい」との記載に基づくものであるから、いずれも新規事項の追加には該当しない。さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものに該当しないことも明らかである。 3 小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合する。 よって、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記のとおり、本件訂正は認められるから、本件訂正後の請求項1~5に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 紙基材の一方の面のみに少なくとも1層以上のヒートシール層を有する紙コップ用原紙であって、前記ヒートシール層がアイオノマーのみからなり、前記ヒートシール層の乾燥塗工量が全層で2~10g/m2であり、前記紙コップ用原紙の坪量が80g/m2~400g/m2であり、前記紙コップ用原紙の横方向のテーバー曲げ抵抗(JIS P-8125-2)が1mN・m~10mN・mであり、前記紙コップ用原紙の水分が3%~10%であることを特徴とする前記紙コップ用原紙。 【請求項2】 紙コップ用原紙の坪量が180g/m2~300g/m2であることを特徴とする、請求項1に記載の紙コップ用原紙。 【請求項3】 前記紙コップ用原紙の比容が0.8~1.8cm3/gであることを特徴とする、請求項1または2に記載の紙コップ用原紙。 【請求項4】 前記紙基材がパルプを主成分とし、当該パルプの叩解度がカナダ標準ろ水度(フリーネス)(JIS P 8121:1995「パルプのろ水度試験方法」)で、350~420mlCSFであることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一つに記載の紙コップ用原紙。 【請求項5】 前記紙基材がパルプを主成分とし、パルプとして針葉樹パルプのみを含むか、または、全パルプ中、針葉樹パルプを50~95質量部および広葉樹パルプを5~50質量部含むことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一つに記載の紙コップ用原紙。」 第4 取消理由の概要 取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由は、概略、以下のとおりである。 (進歩性)本件発明1~5は、下記刊行物に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件の請求項1~5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 <引用文献一覧> 以下、申立人の提出した各甲号証を「甲1」等という。 甲1:特表2016-520671号公報(申立人の甲第1号証) 甲2:桜井広明ほか3名、「PEラミネート系加工紙の接着性評価-PEと紙との熱圧接着-」、紙パ技協誌、紙パルプ技術協会、1994年7月1日、第48巻、第7号、P.899-907(同甲第2号証) 甲4:特開2000-51043号公報(同甲第4号証) 甲5:特開平9-158089号公報(同甲第5号証) 甲6:特開2012-219381号公報(同甲第6号証、技術水準を示す文献) 第5 当審における判断 当審合議体は、以下のとおり、上記取消理由で通知した理由によっては、訂正後の請求項1~5に係る特許は取り消されるべきものではないと判断する。 1 引用文献の記載事項等について (1)甲1について ア 甲1の記載事項 甲1には、以下の記載がある。なお、下線は当審において付与した。また、「・・・」は記載の省略である。 ・「【特許請求の範囲】 【請求項1】 エチレン-アクリル酸またはエチレン-メタアクリル酸共重合体のそれぞれ、あるいはこれらの重合体の混合物にアミン類、アルカリ金属水酸化物、及びアンモニア水を混合使用し、これを水性媒体中で中和することで製造された水性分散液の製造方法。」 ・「【技術分野】 【0001】 本発明は、エチレン-アクリル酸またはエチレン-メタアクリル酸共重合体のそれぞれ、あるいはこれらの重合体の混合物にアルカリ金属水酸化物、アミン類、アンモニア水などを混合使用し、これを中和することで製造された水分散した樹脂液に、米国でFDA認証された消光剤、スリップ剤、消泡剤などを混合して製造された水分散コーティング液を紙類にコーティングして作られるもので、耐水性、耐油性、熱接着性、アルカリ水解離性などに優れた食品包装用の環境にやさしい紙成形物の製造に関する。」 ・「【発明が解決しようとする課題】 【0017】 本発明は、上記の問題点を解決し、上記の必要性に応じて案出されたもので、本発明の目的は、天然パルプを使用する板紙に耐水、耐油性機能を付与し、成形を必要とする後加工において、熱接着が可能であり、ロールブロッキングがなく、現在の紙容器の製作工程で使用しているポリエチレンと同一の効果を有し、また、リサイクル可能な水分散性樹脂を製造し、これを利用して食品包装用途に適合した環境にやさしい紙コーティング剤を提供する。」 ・「【0083】 食品包装用の紙成形物の用途は、水、炭酸飲料、コーヒー、ビールなどの用途で使用される紙コップと、カップ麺、チキンボックス、弁当容器などの耐水性、耐油性、熱接着性などを必要とする全ての食品包装容器に適用可能である。 【発明の効果】 【0084】 本発明によると、悪臭を最大限抑制し、塗膜形成時に揮発可能なアミン類を使用することで、アンモニアを単独で使用することと比べて、分散性に優れ、分散粒子の均一性が高く、フィルター後に残った残物の少ない、低粘度の水性分散液の製造方法を提供することができる。また、このような水性分散液に消光剤、スリップ剤、消泡剤などの添加剤を使用して紙コップの製造に必要な様々な性能などを向上させて紙にコーティングすることで、食品包装用容器として適合な耐水性、耐油性、熱接着性、アルカリ解離性に優れた環境にやさしい紙コップ成形物を製造することができる。」 ・「【0103】 また、実施例1~8で製造した水分散性樹脂に、消光剤、スリップ剤、消泡剤などを添加して、環境にやさしい紙コップの製造に適合するようにコーティング液を以下のように2次製造した。 【0104】 1)紙面に吸湿防止用バリアコーティング溶液 実施例で製造された水性分散液100.00(単位kg) 酸化デンプン:0.3-1.0(分散液固形分の1wt%使用) シリコーン系消泡剤:0.10 水:30~50%を加えて製造 【0105】 2)熱接着、耐水、耐油、撥水、耐ブロッキングコーティング溶液 実施例で製造された水性分散液:100.00(単位kg) シリカ系消光剤:1.25(分散液固形分の5wt%使用) ポリエーテルシロキサンスリップ剤:0.30(分散液固形分の1.2wt%使用) シリコーン系消泡剤:0.10 シロキサン系撥水剤:0.05 水:10~30%を加えて製造 【0106】 3)スリップ、カール(防止)、印刷適性の向上、結露防止用のコーティング溶液 実施例で製造された水性分散液:100.00(単位kg) シリカ系消光剤:2.50(分散液固形分の10wt%使用) ポリエーテルシロキサンスリップ剤:0.30(分散液固形分の1.2wt%使用) シリコーン系結露防止剤:0.01 水:50~70%を加えて製造 【0107】 上記の配合液を均一に混合して分散(温度摂氏40~50度、RPM500~1500、2~3時間)した後、このような水相分散コーティング液を天然パルプ紙に塗布することができるように作った後、天然パルプ紙(160g/m2-360g/m。2)の全面に上記1)及び2)コーティング液を、そして後面に上記3)コーティング液を同時にコーティング乾燥されるコーティング装置を使用してコーティング液を塗布、熱風乾燥した後、用紙を裁断、コップの型にあわせて裁断、成形加工を順に実施して紙容器の一種である紙コップを製造した。」 ・「【0112】 上記方法でコーティングされた紙の塗工量及び物性を表2に示した。 【0113】 【表2】 [図:0001435158000001.jpg] 」 ・「【図1】 [図:0001435158000002.jpg] 」 イ 甲1の記載に基づく認定事項 (ア)甲1の【0017】、【0103】に記載された「水分散性樹脂」は、請求項1に記載された「水性分散液」を意味するものと認められる。 (イ)甲1の【0105】、【0107】、【図1】の記載からみて、【図1】の「耐水、耐油撥水、耐ブロッキング性の熱接着機能のトップコーティング」は、【0105】の「2)熱接着、耐水、耐油、撥水、耐ブロッキングコーティング溶液」により、「天然パルプ紙」の一方の面のみに設けられたものと認められる。 ウ 甲1に記載の発明 上記アの記載事項からみて、特に【表2】の試料1に着目すると、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。なお、括弧内の段落は、理解促進のために特に参照すべき箇所を付したものである。 「エチレン-アクリル酸またはエチレン-メタアクリル酸共重合体のそれぞれ、あるいはこれらの重合体の混合物にアミン類、アルカリ金属水酸化物、及びアンモニア水を混合使用し、これを水性媒体中で中和することで製造された水性分散液を用い、(【請求項1】) 当該水性分散液に、消光剤、スリップ剤、消泡剤などを添加し(【0103】)、 1)吸湿防止用バリアコーティング溶液、2)熱接着、耐水、耐油、撥水、耐ブロッキングコーティング溶液、3)スリップ、カール(防止)、印刷適性の向上、結露防止用のコーティング溶液を作成し、(【0104】~【0106】) 170g/m2の天然パルプ紙に上記1)及び2)の溶液を全面に、上記3)の溶液を後面に塗布し、熱風乾燥した後、裁断、整形加工して製造された紙コップであって、(【表2】の試料1、【0107】) 上記1)の溶液の塗工量をTop(1次)として1.5g/m2、上記2)の溶液の塗工量をTop(2次)として2.5g/m2、上記3)の溶液の塗工量をBack(3次)として1.5g/m2とし、(【表2】の試料1) 上記2)の溶液により、熱接着、耐水、耐油、撥水、耐ブロッキングコーティングを天然パルプ紙の一方の面のみに設けた、(上記イ(イ))、 紙コップ。」 2 本件発明1について (1)対比及び一致点 本件発明1と甲1発明とを対比すると、以下のとおりである。 ア 甲1発明の「天然パルプ紙」は、本件発明1の「紙基材」に相当する。 イ 甲1発明は、「2)熱接着、耐水、耐油、撥水、耐ブロッキングコーティング溶液」は、「熱接着」、すなわち、ヒートシールに供されるものである。そうすると、甲1発明における「上記2)の溶液により、熱接着、耐水、耐油、撥水、耐ブロッキングコーティングを天然パルプ紙の一方の面のみに設けた」という事項は、本件発明1の「紙基材の一方の面のみに少なくとも1層以上のヒートシール層を有する」という事項に相当する。 ウ 甲1発明では、「2)熱接着、耐水、耐油、撥水、耐ブロッキングコーティング溶液」を「天然パルプ紙」に塗工し、熱風乾燥するものであるから、「2)の溶液の塗工量をTop(2次)として2.5g/m2」とは、乾燥塗工量にほかならない。そうすると、当該事項は、本件発明1の「前記ヒートシール層の乾燥塗工量が全層で2~10g/m2であり」という事項を満たす。 エ 甲1発明では、「170g/m2の天然パルプ紙」に1)~3)の溶液を塗布、乾燥させるものであるところ、「天然パルプ紙」に当該各溶液を塗布、乾燥させたものは、本件発明1の「紙コップ用原紙」に相当する。また、当該1)~3)の溶液の乾燥塗工量は、合計5.5g/m2(=1.5+2.5+1.5)であるから、甲1発明における紙コップの原紙の坪量は、175.5g/m2(=170+5.5)である。してみれば、本件発明1の「紙コップ原紙の坪量が80g/m2~400g/m2であ」るという条件を満たしている。 そうすると、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致する。 <一致点> 「紙基材の一方の面のみに少なくとも1層以上のヒートシール層を有する紙コップ用原紙であって、前記ヒートシール層の乾燥塗工量が全層で2~10g/m2であり、前記紙コップ用原紙の坪量が80g/m2~400g/m2である、前記紙コップ用原紙。」 (2)相違点 一方、両発明は、以下の点で相違している。 <相違点1> 本件発明1では、「ヒートシール層がアイオノマーのみからな」るものであるのに対し、甲1発明における「熱接着、耐水、耐油、撥水、耐ブロッキングコーティング」を形成する「2)熱接着、耐水、耐油、撥水、耐ブロッキングコーティング溶液」は、「エチレン-アクリル酸またはエチレン-メタアクリル酸共重合体のそれぞれ、あるいはこれらの重合体の混合物にアミン類、アルカリ金属水酸化物、及びアンモニア水を混合使用し、これを水性媒体中で中和することで製造された水性分散液を用い」たものであるから、アイオノマーではあるものの、「当該水性分散液に、消光剤、スリップ剤、消泡剤などを添加し」たものであるから、アイオノマーのみからなるものとは言えない点。 <相違点2> 本件発明1では、「前記紙コップ用原紙の横方向のテーバー曲げ抵抗(JIS P-8125-2)が1mN・m~10mN・mであり、前記紙コップ用原紙の水分が3%~10%である」のに対し、甲1発明では、当該パラメーターが不明である点。 (3)相違点の検討 相違点1について検討するに、甲1発明は、ヒートシール層を形成する「2)」の溶液において、アイオノマーだけでなく、「消光剤、スリップ剤、消泡剤などを添加」するものであるところ、これにより、上記1(1)アの【0084】に記載されるとおり、甲1において志向する「食品包装用容器として適合な耐水性、耐油性、熱接着性、アルカリ解離性に優れた環境にやさしい紙コップ成形物」を製造できるとするものである。そうすると、甲1発明における「2)」の溶液において、これら添加剤を廃し、アイオノマーのみで構成することは、当業者が想到し得たことではない。 してみれば、甲1発明におけるヒートシール層をアイオノマーのみとすることは、動機づけがない、ないし阻害事由があり、当該相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、甲1その他各証拠を検討しても、当業者にとって容易に想到し得たものではない。 (4)小括 以上のとおりであるから、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 3 本件発明2~5について 本件発明2~5は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加える発明であるから、上記2(3)と同様の理由により、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 第6 取消理由通知(決定の予告)で採用しなかった申立理由について 1 申立理由の概要 (1)申立理由1(甲6を主引例とする進歩性) 本件特許の請求項1~5に係る発明は、甲6に記載された発明、甲1、3~5、7及び8に記載された事項に基づいて当業者が要に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 <証拠一覧(ただし、甲1、4、5、6は上記第4の引用文献一覧参照)> 甲3:食品包装辞典食品包装 解説編「5紙器」、株式会社産業調査会出版部、昭和62年7月1日、初版、P.161~168 甲7:特開2001-254293号公報 甲8:特開2003-336192号公報 (2)申立理由2(サポート要件) 請求項1~5に係る特許は、以下の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない発明に対しされたものである。 ア 当該請求項に係る発明は、アイオノマーの含有量を規定していないから、課題を解決できない発明を包含している。 イ 当該請求項に係る発明は、アイオノマーがどのような重合体であるのか特定していないところ、実施例ではエチレン・メタクリル酸共重合体の金属塩のみであり、これをアイオノマーに拡張ないし一般化することはできない。 ウ 当該請求項に係る発明では、紙コップ用原紙のテーバー曲げ抵抗の上限を10mN・mと規定しているところ、比較例2の11mN・mはその値に近い。そうすると、本件発明は、その上限において効果を奏するか不明であるため、当該上限を10mN・mまで拡張できない。 エ 当該請求項に係る発明は、紙コップ用原紙の水分が3%~10%であると規定するが、実施例では5%、2.5%であり、当該数値範囲の上限近傍の実施例及び比較例が記載されていない。そうすると、当該水分の上限を10%まで拡張できない。 (3)申立理由3(明確性要件) 請求項1~5に係る発明は、ヒートシール層が紙基材の両面に存在する場合も含み得るところ、ヒートシール層の全層での塗工量は、紙基材の一方の面についてであるのか、両面についてであるのか明確ではない。そのため、当該請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を見たさない発明に対しされたものである。 2 当審における判断 (1) 申立理由1について ア 各証拠に記載の事項、発明 (ア)甲6に記載の発明 甲6の【0023】、【0026】、【0034】、【0055】【表1】からみて、特に実施例1に着目すると、甲6には、次の発明(以下「甲6発明」という。)が記載されていると認める。 「5層により構成された米坪220g/m2の紙カップ用原紙であって、当該紙カップ用原紙のJIS P 8125に従って測定した横方向のテーバーこわさが4.9であり、当該紙カップ用原紙にポリエチレンラミネートを施した紙カップの原紙。」 (イ)甲1に記載の事項 甲1の【請求項1】、【0103】~【0109】の記載からみて、甲1には、次の事項(以下「甲1記載事項」という。)が記載されていると認める。 「アイオノマーである水性分散液に、消光剤、スリップ剤、消泡剤などを添加した熱接着、耐水、耐油、撥水、耐ブロッキングコーティング溶液を天然パルプ紙に塗布、熱風乾燥した後、裁断、整形加工して製造された紙コップ。」 (ウ)甲7に記載の事項 甲7の【0004】、【0021】~【0024】の記載からみて、甲7には、次の事項(以下「甲7記載事項」という。)が記載されていると認める。 「耐油耐水紙の片面にアイオノマーエマルジョン(三井石油化学工業株式会社製ナトリウムで架橋したアイオノマーエマルジョン、商品名ケミパールS-100)を塗工、乾燥して得られたヒートシール性耐油耐水性紙。」 (エ)甲8に記載の事項 甲8の【0001】、【0048】~【0050】の記載からみて、甲8には、次の事項(以下「甲8記載事項」という。)が記載されていると認める。 「耐水性、耐油性に優れた紙コップに用いる積層紙であって、エチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA)にイオン交換水と水酸化ナトリウムを投入、撹拌することでディスパージョン〇2(当審注:〇の中に2)を調製し、上質紙の表面に塗工、乾燥して得られた積層紙。」 イ 本件発明1について (ア)対比及び一致点 本件発明1と甲6発明とを対比すると、以下のとおりである。 ア 甲6発明の「コップ用原紙」に相当する。 イ 甲6発明の「ポリエチレンラミネート」は、その材質も加味すると、ヒートシール層であると理解できる。そうすると、甲1発明の「当該紙カップ用原紙にポリエチレンラミネートを施した紙カップの原紙」は、本件発明1の「紙基材の一方の面に少なくとも1層以上のヒートシール層を有する紙コップ用原紙」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲6発明とは、以下の点で一致する。 <一致点> 「紙基材の一方の面のみに少なくとも1層以上のヒートシール層を有する紙コップ用原紙」 (イ)相違点 一方、両発明は、以下の点で相違している。 <相違点6-1> 本件発明1では、「前記ヒートシール層がアイオノマーのみからなり、前記ヒートシール層の乾燥塗工量が全層で2~10g/m2であ」るものであるのに対し、甲6発明では、そもそもアイオノマーではなく、「ポリエチレンラミネート」によるものである点。 <相違点6-2> 本件発明1では、「紙基材の一方の面のみに少なくとも1層以上のヒートシール層を有する紙コップ用原紙」において、「前記紙コップ用原紙の坪量が80g/m2~400g/m2であり、前記紙コップ用原紙の横方向のテーバー曲げ抵抗(JIS P-8125-2)が1mN・m~10mN・mであり、前記紙コップ用原紙の水分が3%~10%である」のに対し、甲6発明では、「ポリエチレンラミネート」が施されていない「紙カップ用原紙」それ自体において、「米坪220g/m2」、「横方向のテーバーこわさが4.9」とされている点。 (ウ)相違点の検討 相違点6-1について検討するに、甲1、7、8には、それぞれ紙コップに用いる紙基材において、アイオノマーを塗布することが記載されている。しかし、甲1は、上記第5の2(3)で検討したとおり、ヒートシール層を形成するアイオノマーに「消光剤、スリップ剤、消泡剤などを添加」することが前提となっており、本件発明1のようにヒートシール層を「アイオノマーのみ」とすることは動機づけがない、ないし阻害事由がある。 また、甲7においても、ヒートシール層をアイオノマーのみから形成するのかについては、判然としない。さらに、甲8における「ディスパージョン〇2」は、アイオノマーではあるものの、耐水性、耐油性を付与するために塗布しているものであって、ヒートシール層であるか不明であるし、仮にヒートシール層であるとしても、甲7と同様、アイオノマーのみから形成するものであるか不明である。 そして、アイオノマーでヒートシール層を形成するにあたり、アイオノマーのみで形成することは他の証拠にも記載ないし示唆はないし、技術常識であるといった事情もない。 してみれば、当該相違点6-1に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、甲6その他各証拠を検討しても、当業者にとって容易に想到し得たものではない。 (エ)小括 以上のとおりであるから、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲6発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 本件発明2~5について 本件発明2~5は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加える発明であるから、上記イ(ウ)と同様の理由により、甲6発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ 小括 よって、請求項1~5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。 (2)申立理由2(サポート要件)について ア 発明の詳細な説明の記載事項 発明の詳細な説明には、以下の記載がある。 ・「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 本発明の目的は、プラスチックの使用量を低減することができ、特に、ヒートシール性及びトップカール加工適性を有する紙コップ用原紙を提供することにある。」 ・「【課題を解決するための手段】 【0007】 本発明においては、従来のプラスチックラミネート紙(以降、ポリラミ紙と略称する場合がある)のポリエチレンやポリプロピレンの使用量を低減するために、アイオノマーを使用する。すなわち、本発明による紙コップ用原紙は、紙基材の少なくとも一方の面に少なくとも一層以上のヒートシール層を有する紙コップ用原紙であって、前記ヒートシール層がアイオノマーを含み、前記ヒートシール層の塗工量が2~10g/m2であることを特徴とする。従来のポリラミ紙のヒートシール層に使用されているポリエチレンやポリプロピレンのラミネート量が20g/m2を超えることと比較すると、ヒートシール層用のプラスチックの使用量を従来の約10~50%にまで削減することができる。・・・。 【0008】 また、本発明においては、前記紙コップ用原紙の横方向のテーバー曲げ抵抗(JIS P -8125-2)が1mN・m~10mN・mである。アイオノマーのホットタックがポリエチレンより低いので、前記テーバー曲げ抵抗が10mN・mを超えると、ヒートシール時に接着不良が生じる(一旦接着しても紙の剛性で接着部が剥がれてしまう)。また1mN・m未満では、紙コップとして軟らかすぎる。 【0009】 また、坪量が80g/m2~400g/m2であることが好ましい。これにより、特に紙コップ(アイスクリーム用の紙カップも含む)の加工時のトップカール割れが生じにくくなる。」 ・「【発明の効果】 【0013】 本発明により、プラスチック使用量が低減された紙コップ用原紙を製造することが可能である。本発明の紙コップ用原紙であれば、仮に自然界にゴミとして不適切に放出された場合であっても、自然環境に与えるプラスチックゴミとしての悪影響を小さくすることが可能であり、プラスチックゴミ問題の解決の一助となる。・・・。」 イ サポート要件についての判断 上記アのとおり、発明の詳細な説明における記載に照らせば、本件発明は、プラスチックの使用量を低減しつつ、ヒートシール性及びトップカール加工適性を有する紙コップ用原紙を提供することを課題として、1)ヒートシール層を塗工量が2~10g/m2のアイオノマーとしてプラスチックの使用量を低減しつつ、2)当該紙コップ用原紙の横方向のテーバー曲げ抵抗(JIS P -8125-2)を1mN・m~10mN・m、坪量を80g/m2~400g/m2とすることで、紙コップとしての強度を保ち、また、加工時のトップカール割れが生じにくくしたものであることが理解できる。 そうすると、これらの事項を含む本件発明1~5は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。 ウ 申立人の主張について 申立人が主張する、アイオノマーの含有量及びどのような重合体であるかが本件発明1~5において特定されていない旨(上記1(2)ア、イ)について検討するに、本件発明の課題及び解決手段は、上記ア、イのとおりであって、アイオノマーの含有量やどのような重合体であるかは、本件発明の課題ないし解決手段を特段左右しない。してみれば、申立人の当該主張は、本件発明の課題及び解決手段を正解しないものである。 また、本件発明1では、紙コップ用原紙のテーバー曲げ抵抗の上限を10mN・mと規定しているところ、比較例2の11mN・mはその値に近く、本件発明1~5において当該上限を10mN・mまで拡張できない旨の主張(上記1(2)ウ)について検討するに、当該比較例2は、側面接着性が劣る(【表1】において「×」とされている。)ものと評価されており、【0008】の記載と整合するものである。すなわち、10mN・m程度においてしきい値が存在するものと理解され、当該数値が課題解決に寄与していることがむしろ理解できるものである。 さらに、本件発明1~5において紙コップ用原紙の水分が3%~10%であると規定する点(上記1(2)エ)について、当該数値範囲内である実施例は、いずれもトップカール割れ及び側面接着性が優れているものと評価されている。 以上により、申立人の主張は採用できない。 エ 小括 よって、請求項1~5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない発明に対しされたものではない。 (3)申立理由3(明確性)について 今般の訂正により、本件発明1~5において、ヒートシール層が「紙基材の一方の面のみ」に設けられることが明らかとなったため、申立人の当該主張は当たらなくなった。また、その他、本件発明1~5において、発明が不明確であるというべき事情も見いだせない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、請求項1~5に係る特許は、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由並びに特許異議申立書に記載した特許異議申立理由及び証拠によっては取り消すことはできない。 また、他に請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2024-700652

番号・当事者・条文・審決分類・商標の称呼が一致(または近い)審決を機械的に集めた候補です。判断内容は各審決の本文でご確認ください。

同じ当事者の審決29件(佐々木 香織、北越コーポレーション株式会社)
  • 2025-701014異議申立 / 2026-06-26 / 維持紙コップ用原紙
    同じ当事者: 佐々木 香織、北越コーポレーション株式会社
  • 2020-700198異議申立 / 2021-11-09 / 訂正認容包装用紙
    同じ当事者: 佐々木 香織、北越コーポレーション株式会社
  • 2025-700974異議申立 / 2026-06-16 / 訂正認容離型フィルム付き粘着シート
    同じ当事者: 佐々木 香織
  • 2025-700566異議申立 / 2026-03-31 / 訂正認容粘着剤層付き光学積層フィルム及び画像表示装置
    同じ当事者: 佐々木 香織
  • 2025-700449異議申立 / 2026-03-18 / 訂正認容補強用積層フィルム
    同じ当事者: 佐々木 香織
同じ論点・分野の審決(審決分類)123件(121・D21H、537・D21H)
  • 2025-701014異議申立 / 2026-06-26 / 維持紙コップ用原紙
    共通の審決分類: 121・D21H、537・D21H
  • 2025-700366異議申立 / 2026-04-30 / 訂正認容ヒートシール紙
    共通の審決分類: 121・D21H、537・D21H
  • 2025-700169異議申立 / 2026-04-28 / 訂正認容ピッチコントロール剤
    共通の審決分類: 121・D21H、537・D21H
  • 2025-701060異議申立 / 2026-03-30 / 維持防水紙およびその製造方法
    共通の審決分類: 121・D21H、537・D21H
  • 2025-700870異議申立 / 2026-03-30 / 訂正認容ナノセルロース及びその分散液並びにその製造方法
    共通の審決分類: 121・D21H、537・D21H

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存