特許異議申立
2020-700019
電解質膜の製造方法
- 審判番号
- 2020-700019
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-156552外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2020年01月14日
- 審決日
- 2021年03月26日
- 公報発行日
- 2021年09月24日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】国立研究開発法人物質・材料研究機構
- 【異議申立人】特許業務法人 朝日奈特許事務所
- 分類
- P1651.113-ZDA(C08J) / P1651.121-ZDA(C08J) / P1651.537-ZDA(C08J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法36条6項1号特許法113条2号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第113条第4号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6567359号発明「電解質膜の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6567359号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項3、4、5、6について訂正することを認める。
特許第6567359号の請求項1及び2に係る特許を取り消す。
特許第6567359号の請求項3ないし6に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 主な手続の経緯
特許第6567359号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成27年8月7日に出願され、令和1年8月9日にその特許権の設定登録(請求項の数4)がされ、同年同月28日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和2年 1月14日 :特許異議申立人 特許業務法人朝日奈特許事務 所(以下、「特許異議申立人」という。)によ る請求項1ないし4に係る特許に対する特許異 議の申立て
同年 5月22日付け:取消理由通知
同年 7月20日 :特許権者による意見書の提出及び訂正請求
同年 8月26日 :特許異議申立人による意見書の提出
同年10月30日付け:取消理由通知(決定の予告)
なお、令和2年10月30日付け取消理由通知(決定の予告)に対して、特許権者は何ら応答していない。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和2年7月20日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下の訂正事項1ないし4のとおりである。なお、下線は、訂正箇所について付したものである。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項3について、請求項1及び2との引用関係を解消し、請求項1のみを引用するものについて、独立形式に改め、更に、塩基性分子が「1,2,4-トリアゾール、ウンデシルイミダゾール、1,2,3-トリアゾール、ベンズイミダゾール、ピラゾール、及びイミダゾールからなる群から選択される」ことを特定し、以下の事項により特定されるとおりの請求項3として訂正する。
「【請求項3】 スルホン基を有し、以下の化学構造式からなる群から選択される構造を有する炭化水素ポリマーである、酸性ポリマーと、塩基性分子と、を含有する溶解液を調製し、酸―塩基による伝導パスが形成された膜状物を得て、前記膜状物を希硫酸中で保持して、前記膜状物から前記塩基性分子を除去して電解質膜を得る、電解質膜の製造方法であって、
前記塩基性分子は1,2,4-トリアゾール、ウンデシルイミダゾール、1,2,3-トリアゾール、ベンズイミダゾール、ピラゾール、及びイミダゾールからなる群から選択される複素環式化合物である電解質膜の製造方法。
【化3】
【化4】
」
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4について、請求項3との引用関係を解消し、請求項1のみを引用する請求項3を引用するものについて、独立形式に改め、更に、塩基性分子が「1,2,4-トリアゾールである」ことを特定し、以下の事項により特定されるとおりの請求項4として訂正する。
「【請求項4】
スルホン基を有し、以下の化学構造式からなる群から選択される構造を有する炭化水素ポリマーである、酸性ポリマーと、塩基性分子と、を含有する溶解液を調製し、酸-塩基による伝導パスが形成された膜状物を得て、前記膜状物を希硫酸中で保持して、前記膜状物から前記塩基性分子を除去して電解質膜を得る、電解質膜の製造方法であって、
前記塩基性分子は複素環式化合物であって、
前記複素環式化合物は1,2,4-トリアゾールである電解質膜の製造方法。
【化5】(省略。上記【化3】と同一。)
【化6】(省略。上記【化4】と同一。)」
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3について、請求項1及び2との引用関係を解消し、請求項2のみを引用するものについて、独立形式に改め、更に、塩基性分子が「1,2,4-トリアゾール、ウンデシルイミダゾール、1,2,3-トリアゾール、ベンズイミダゾール、ピラゾール、及びイミダゾールからなる群から選択される」ことを特定し、以下の事項により特定されるとおりの請求項5として訂正する。
「【請求項5】
スルホン基を有する炭化水素ポリマーである、酸性ポリマーと、塩基性分子と、を含有する溶解液を調製し、酸―塩基による伝導パスが形成された膜状物を得て、前記膜状物を希硫酸中で保持して、前記膜状物から前記塩基性分子を除去して電解質膜を得る、電解質膜の製造方法であって、前記炭化水素ポリマーはポリアリールサルファイド(polyarylsulfide)、ポリアリールエーテル(polyarylether)、ポリアリールスルホン(polyarylsulfone)、ポリアリールケトン(polyarylketone)、及びポリアリールヘキサフルオロイソプロピリデン(polyaryhexafluoroisopropylidene)からなる群から選択される骨格構造を含む重合体または共重合体であり、
前記塩基性分子は1,2,4-トリアゾール、ウンデシルイミダゾール、1,2,3-トリアゾール、ベンズイミダゾール、ピラゾール、及びイミダゾールからなる群から選択される複素環式化合物である電解質膜の製造方法。」
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4について、請求項3との引用関係を解消し、請求項2のみを引用する請求項3を引用するものについて、独立形式に改め、更に、塩基性分子が「1,2,4-トリアゾールである」ことを特定し、以下の事項により特定されるとおりの請求項6として訂正する。
「【請求項6】
スルホン基を有する炭化水素ポリマーである、酸性ポリマーと、塩基性分子と、を含有する溶解液を調製し、酸-塩基による伝導パスが形成された膜状物を得て、前記膜状物を希硫酸中で保持して、前記膜状物から前記塩基性分子を除去して電解質膜を得る、電解質膜の製造方法であって、前記炭化水素ポリマーはポリアリールサルファイド(polyarylsulfide)、ポリアリールエーテル(polyarylether)、ポリアリールスルホン(polyarylsulfone)、ポリアリールケトン(polyarylketone)、及びポリアリールヘキサフルオロイソプロピリデン(polyaryhexafluoroisopropylidene)からなる群から選択される骨格構造を含む重合体または共重合体であり、
前記塩基性分子は複素環式化合物であって、
前記複素環式化合物は1,2,4-トリアゾールである、電解質膜の製造方法。」
(5)一群の請求項について
訂正前の請求項3及び4は、訂正前の請求項1又は2を、直接又は間接的に引用するものであるから、訂正前の請求項1ないし4は、一群の請求項に該当するものである。そして、訂正事項1ないし4は、それらについてされたものであるから、一群の請求項に対してされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
また、特許権者は、訂正後の請求項3ないし6に係る訂正について、本件訂正が認められるときには、別の訂正単位とすることを求めている。
2 訂正の適否についての検討
(1) 請求項3に係る訂正について
請求項3に係る本件訂正は、請求項1及び2との引用関係を解消し、請求項1のみを引用するものについて、いわゆる独立形式に改めるとともに、塩基性分子に係る特定事項に関し、「複素環式化合物またはアミノ基を含む界面活性剤である」との記載を、「1,2,4-トリアゾール、ウンデシルイミダゾール、1,2,3-トリアゾール、ベンズイミダゾール、ピラゾール、及びイミダゾールからなる群から選択される複素環式化合物」に限定するものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとする訂正であって、かつ、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、請求項3に係る本件訂正は、新規事項の追加ではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2) 請求項4に係る訂正について
請求項4に係る本件訂正は、請求項3との引用関係を解消し、請求項1のみを引用する請求項3を引用するものについて、いわゆる独立形式に改めるとともに、塩基性分子に係る特定事項に関し、「複素環式化合物またはアミノ基を含む界面活性剤」との記載を、「複素環式化合物」に限定するとともに、「複素環式化合物は1,2,4-トリアゾール、ウンデシルイミダゾール、1,2,3-トリアゾール、ベンズイミダゾール、ピラゾール、及びイミダゾールからなる群から選択される」としていたものを、「複素環式化合物は、1,2,4-トリアゾールである」と限定するものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとする訂正であって、かつ、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、請求項4に係る本件訂正は、新規事項の追加ではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3) 請求項5に係る訂正について
請求項5に係る本件訂正は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3について、請求項1及び2との引用関係を解消し、請求項2のみを引用するものについて、独立形式に改めるとともに、塩基性分子に係る特定事項に関し、「複素環式化合物またはアミノ基を含む界面活性剤である」との記載を、「1,2,4-トリアゾール、ウンデシルイミダゾール、1,2,3-トリアゾール、ベンズイミダゾール、ピラゾール、及びイミダゾールからなる群から選択される複素環式化合物」に限定するものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとする訂正であって、かつ、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、請求項5に係る本件訂正は、新規事項の追加ではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4) 請求項6に係る訂正について
請求項6に係る本件訂正は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4について、請求項3との引用関係を解消し、請求項2のみを引用する請求項3を引用するものについて、いわゆる独立形式に改めるとともに、塩基性分子に係る特定事項に関し、「複素環式化合物またはアミノ基を含む界面活性剤」との記載を、「複素環式化合物」に限定するとともに、「複素環式化合物は1,2,4-トリアゾール、ウンデシルイミダゾール、1,2,3-トリアゾール、ベンズイミダゾール、ピラゾール、及びイミダゾールからなる群から選択される」としていたものを、「複素環式化合物は、1,2,4-トリアゾールである」と限定するものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとする訂正であって、かつ、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、請求項6に係る本件訂正は、新規事項の追加ではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項3、4、5、6について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、訂正後の本件特許の請求項1ないし6に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」ないし「本件特許発明6」といい、まとめて「本件特許発明」という。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
スルホン基を有し、以下の化学構造式からなる群から選択される構造を有する炭化水素ポリマーである、酸性ポリマーと、塩基性分子と、を含有する溶解液を調製し、酸―塩基による伝導パスが形成された膜状物を得て、前記膜状物を希硫酸中で保持して、前記膜状物から前記塩基性分子を除去して電解質膜を得る、電解質膜の製造方法。
【化1】
【化2】
【請求項2】
スルホン基を有する炭化水素ポリマーである、酸性ポリマーと、塩基性分子と、を含有する溶解液を調製し、酸―塩基による伝導パスが形成された膜状物を得て、前記膜状物を希硫酸中で保持して、前記膜状物から前記塩基性分子を除去して電解質膜を得る、電解質膜の製造方法であって、前記炭化水素ポリマーはポリアリールサルファイド(polyarylsulfide)、ポリアリールエーテル(polyarylether)、ポリアリールスルホン(polyarylsulfone)、ポリアリールケトン(polyarylketone)、及びポリアリールヘキサフルオロイソプロピリデン(polyaryhexafluoroisopropylidene)からなる群から選択される骨格構造を含む重合体または共重合体である、電解質膜の製造方法。
【請求項3】 スルホン基を有し、以下の化学構造式からなる群から選択される構造を有する炭化水素ポリマーである、酸性ポリマーと、塩基性分子と、を含有する溶解液を調製し、酸―塩基による伝導パスが形成された膜状物を得て、前記膜状物を希硫酸中で保持して、前記膜状物から前記塩基性分子を除去して電解質膜を得る、電解質膜の製造方法であって、
前記塩基性分子は1,2,4-トリアゾール、ウンデシルイミダゾール、1,2,3-トリアゾール、ベンズイミダゾール、ピラゾール、及びイミダゾールからなる群から選択される複素環式化合物である電解質膜の製造方法。
【化3】(省略。上記【化1】と同一。)
【化4】(省略。上記【化2】と同一。)
【請求項4】
スルホン基を有し、以下の化学構造式からなる群から選択される構造を有する炭化水素ポリマーである、酸性ポリマーと、塩基性分子と、を含有する溶解液を調製し、酸-塩基による伝導パスが形成された膜状物を得て、前記膜状物を希硫酸中で保持して、前記膜状物から前記塩基性分子を除去して電解質膜を得る、電解質膜の製造方法であって、
前記塩基性分子は複素環式化合物であって、
前記複素環式化合物は1,2,4-トリアゾールである電解質膜の製造方法。
【化5】(省略。上記【化1】と同一。)
【化6】(省略。上記【化2】と同一。)
【請求項5】
スルホン基を有する炭化水素ポリマーである、酸性ポリマーと、塩基性分子と、を含有する溶解液を調製し、酸―塩基による伝導パスが形成された膜状物を得て、前記膜状物を希硫酸中で保持して、前記膜状物から前記塩基性分子を除去して電解質膜を得る、電解質膜の製造方法であって、前記炭化水素ポリマーはポリアリールサルファイド(polyarylsulfide)、ポリアリールエーテル(polyarylether)、ポリアリールスルホン(polyarylsulfone)、ポリアリールケトン(polyarylketone)、及びポリアリールヘキサフルオロイソプロピリデン(polyaryhexafluoroisopropylidene)からなる群から選択される骨格構造を含む重合体または共重合体であり、
前記塩基性分子は1,2,4-トリアゾール、ウンデシルイミダゾール、1,2,3-トリアゾール、ベンズイミダゾール、ピラゾール、及びイミダゾールからなる群から選択される複素環式化合物である電解質膜の製造方法。
【請求項6】
スルホン基を有する炭化水素ポリマーである、酸性ポリマーと、塩基性分子と、を含有する溶解液を調製し、酸-塩基による伝導パスが形成された膜状物を得て、前記膜状物を希硫酸中で保持して、前記膜状物から前記塩基性分子を除去して電解質膜を得る、電解質膜の製造方法であって、前記炭化水素ポリマーはポリアリールサルファイド(polyarylsulfide)、ポリアリールエーテル(polyarylether)、ポリアリールスルホン(polyarylsulfone)、ポリアリールケトン(polyarylketone)、及びポリアリールヘキサフルオロイソプロピリデン(polyaryhexafluoroisopropylidene)からなる群から選択される骨格構造を含む重合体または共重合体であり、
前記塩基性分子は複素環式化合物であって、
前記複素環式化合物は1,2,4-トリアゾールである、電解質膜の製造方法。」
第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
特許異議申立人が提出した特許異議申立書において主張する特許異議申立理由の概要は、次のとおりである。
1 申立理由1(甲1に基づく新規性)
本件特許の訂正前の請求項1ないし3に係る発明は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由2(甲1に基づく進歩性)
本件特許の訂正前の請求項1ないし3に係る発明は、甲1に記載された発明に基づいて、その特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
3 申立理由3(サポート要件)
本件特許の訂正前の請求項1ないし4に係る発明についての特許は、以下の理由で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
本件特許の訂正前の請求項1における「塩基性分子」に関し、本件特許明細書には、本件特許の訂正前の請求項1に係る発明の課題を解決し得ることが具体的に実施例によって確認されている例は、「1,2,4-トリアゾール」に過ぎず、該化合物以外の「塩基性分子」を用いた場合であっても、同様に課題が解決されることに関して何ら開示も示唆もなく、出願時の技術常識であるともいえない。
また、請求項2ないし4の記載も同様である。
4 証拠方法
甲1:特開2013-131490号公報
第5 令和2年10月30日付け取消理由(決定の予告)の概要
当審が令和2年10月30日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。
1 取消理由1(新規性欠如)
本件特許の訂正前の請求項1及び2に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当する発明に対してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
・引用文献等:甲1
2 取消理由2(サポート要件違反)
本件特許の訂正前の請求項1ないし4に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
第6 当審の判断
当審は、以下に述べるように、請求項1及び2に係る特許について、上記取消理由1及び2には理由があり、令和2年7月20日にされた訂正請求によって訂正された請求項3ないし6に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立理由によっては、取り消すことはできないと判断する。
1 取消理由1について
・対象となる発明:本件特許発明1及び2
・引用文献等:甲1
(1) 甲1の記載事項等
ア 甲1の記載事項
甲1には、「高分子電解質膜の製造方法」に関し、以下の事項が記載されている(下線は当審において付与した。以下同様。)。
(ア) 「【請求項1】
脱塩重縮合で得られる、加水分解性可溶性付与基かつイオン性基密度が1.0mmol/g以上の高分子電解質の重合溶液から、重縮合時に生成した塩分および塩残渣の一部を直接、遠心分離および/またはフィルター濾過で除去して塗液を得る工程(A)、該塗液を基材上に流延塗工し溶媒の一部を除去して、基材上に膜状物を得る工程(B)、該基材上の膜状物を酸性水溶液と接触させ、プロトン交換を行う工程(C)、該基材上の膜状物を溶媒と接触させ、重縮合時の分子量1000以上、30000以下の低分子量体の少なくとも一部を除去する工程(D)をこの順に有することを特徴とする高分子電解質膜の製造方法。
【請求項2】
工程(B)と工程(C)の間に、該基材上の膜状物を水と接触させ、重縮合時に生成した塩分および塩残渣の残りを除去する工程(E)を有する請求項1記載の高分子電解質膜の製造方法。」
(イ) 「【0082】
[合成例1]
4,4’-ジフルオロベンゾフェノン109.1gを発煙硫酸(50%SO3)150mL中、100℃で10h反応させた。その後、多量の水中に少しずつ投入し、NaOHで中和した後、食塩200gを加え合成物を沈殿させた。得られた沈殿を濾別し、エタノール水溶液で再結晶し、ジソジウム3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノンを得た。
【0083】
[合成例2]
撹拌機、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた1000mL三口フラスコに、炭酸カリウム24.5g、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキサン12.9g、4-4'-ビフェノール9.3g、前記合成例1で得たジソジウム3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノン25.8g、4,4'-ジフルオロベンゾフェノン8.9gを入れ、窒素置換後、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)306g、トルエン64.4gを加え、還流しながら175℃で脱水後、昇温してトルエン全量とNMP153gを留去し、200℃で脱塩重縮合を行った。次に重合原液の粘度が2poiseになるようにNMPを添加し重合原液Aを得た。」
(ウ) 「【0090】
[実施例1]
工程(A):2poiseの重合原液Aを久保田製作所製インバーター・コンパクト高速冷却遠心機 型番6930 にアングルローターRA-800をセットし、25℃、30分間、遠心力20000Gで固液分離を行った。ケーキと上澄み液(塗液)がきれいに分離できたので、上澄み液を回収した。上澄み液のみを1μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製フィルターで加圧濾過して、セパラブルフラスコに移した。次に、撹拌しながら90℃で減圧蒸留し、上澄み液の粘度が30poiseになるまでNMPを留去し、塗液Aを得た。
【0091】
工程(B):塗液Aを基材として125μmのPETフィルム(東レ製“ルミラー(登録商標)”)を用い、スリットダイで流延塗工し、150℃で30分間乾燥した。
【0092】
工程(E)次に25℃の純水に30分間浸漬し残存塩、残存モノマー、残存炭酸カリウム、残存NMP等を洗浄した。
【0093】
工程(C)その後、60℃の10重量%の硫酸に30分間浸漬し、加水分解性可溶性基の加水分解とイオン性基のプロトン交換を実施した。次にこの膜状物を洗浄液が中性になるまで純水で洗浄した。
【0094】
工程(D):次にこの膜状物を95℃の純水に1時間浸漬し、低分子量体の除去を実施した。その後、60℃で30分間乾燥し膜厚30μmの電解質膜Aを得た。前記、低分子量体除去溶液のTOCは1.8mgであり、GPC重量平均分子量は1500~3000であった。また、この電解質膜のイオン性基密度は2.5mmol/gであった。この電解質膜Aを95℃の純水に1時間浸漬後の耐熱水性重量保持率は100%であった。さらに95℃の純水に1000時間浸漬後の耐熱水性重量保持率は99%であり、浸漬溶液のTOCは0.1mg以下であった。」
イ 甲1に記載された発明
・ 甲1発明
甲1には、特に[実施例1]に関する記載から、以下の発明が記載されていると認める。
「工程(A)として、2poiseの重合原液Aを久保田製作所製インバーター・コンパクト高速冷却遠心機型番6930にアングルローターRA-800をセットし、25℃、30分間、遠心力20000Gで固液分離を行い、回収した上澄み液のみを1μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製フィルターで加圧濾過して、セパラブルフラスコに移し、撹拌しながら90℃で減圧蒸留し、上澄み液の粘度が30poiseになるまでNMPを留去し、塗液Aを得、
工程(B)として、塗液Aを基材として125μmのPETフィルム(東レ製“ルミラー(登録商標)”)を用い、スリットダイで流延塗工し、150℃で30分間乾燥し、
工程(E)として、次に25℃の純水に30分間浸漬し残存塩、残存モノマー、残存炭酸カリウム、残存NMP等を洗浄し、
工程(C)として、その後、60℃の10重量%の硫酸に30分間浸漬し、加水分解性可溶性基の加水分解とイオン性基のプロトン交換を実施し、次にこの膜状物を洗浄液が中性になるまで純水で洗浄し、
工程(D)として、次にこの膜状物を95℃の純水に1時間浸漬し、低分子量体の除去を実施し、その後、60℃で30分間乾燥し膜厚30μmの電解質膜Aを得る、電解質膜の製造方法。
但し、上記重合原液Aは、
合成例1として、4,4’-ジフルオロベンゾフェノン109.1gを発煙硫酸(50%SO3)150mL中、100℃で10h反応させ、その後、多量の水中に少しずつ投入し、NaOHで中和した後、食塩200gを加え合成物を沈殿させ、得られた沈殿を濾別し、エタノール水溶液で再結晶し、ジソジウム3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノンを得、
合成例2として、撹拌機、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた1000mL三口フラスコに、炭酸カリウム24.5g、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキサン12.9g、4-4'-ビフェノール9.3g、前記合成例1で得たジソジウム3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノン25.8g、4,4'-ジフルオロベンゾフェノン8.9gを入れ、窒素置換後、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)306g、トルエン64.4gを加え、還流しながら175℃で脱水後、昇温してトルエン全量とNMP153gを留去し、200℃で脱塩重縮合を行い、次に重合原液の粘度が2poiseになるようにNMPを添加して得られた重合原液Aである。」(以下、「甲1発明」という。)
(2) 対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア) 甲1発明との対比・判断
甲1発明における重合原液Aに含まれる共重合体は、合成例1で得たジソジウム3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノンを単量体として含む脱塩重縮合によって得られたものであるから、該共重合体は、下記c由来のスルホン基を有する酸性ポリマーといえる。
a 2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキサン由来の骨格
b 4-4'-ビフェノール由来の骨格
c ジソジウム3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノン由来の骨格
d 4,4'-ジフルオロベンゾフェノン由来の骨格
また、上記合成例2によって、上記(ア)ないし(エ)のモノマー由来の骨格を有する共重合体が得られるから、本件特許発明1の【化1】のうち、以下の4種類の部分骨格を有する。
そして、甲1発明における、上記共重合体と、脱塩重縮合に用いた「塩基性分子」である「炭酸カリウム」が含有された重合原液は、本件特許発明1の「溶解液」に相当する。
甲1発明は、工程(B)におけるスリットダイによる塗液Aの流延塗工を行っていることから、塗液Aの流延塗工したものが得られており、この時点で酸―塩基による伝導パスは形成されているものと認められるから、この塗液Aを流延塗工したものは、本件特許発明1の「酸―塩基による伝導パスが形成された膜状物」に相当する。
また、工程(C)において、「60℃の10重量%の硫酸に30分間浸漬」するため、この工程で塩基性分子である炭酸カリウムが除去される。
そうすると、本件特許発明1と甲1発明とは、
「スルホン基を有し、以下の化学構造式からなる群から選択される構造を有する炭化水素ポリマーである、酸性ポリマーと、塩基性分子と、を含有する溶解液を調製し、酸―塩基による伝導パスが形成された膜状物を得て、前記膜状物を希硫酸中で保持して、前記膜状物から前記塩基性分子を除去して電解質膜を得る、電解質膜の製造方法。
」
の点で一致し、実質的な相違点は認められない。
よって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明である。
イ 本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1における、「炭化水素ポリマー」が、「ポリアリールサルファイド(polyarylsulfide)、ポリアリールエーテル(polyarylether)、ポリアリールスルホン(polyarylsulfone)、ポリアリールケトン(polyarylketone)、及びポリアリールヘキサフルオロイソプロピリデン(polyaryhexafluoroisopropylidene)からなる群から選択される骨格構造を含む重合体または共重合体である」ことを更に限定するものである。
そして、甲1発明は、ポリアリールエーテル(polyarylether)又はポリアリールケトン(polyarylketone)の骨格構造を有するものである。
そうすると、本件特許発明2は、甲1発明と相違しない。
(3) 取消理由1についてのまとめ
したがって、本件特許の請求項1及び2に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるから、これら発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 取消理由2(特許法第36条第6項第1号)
・対象となる発明:本件特許発明1及び2
(1) 本件特許明細書の記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明はPEMFC(proton exchangemembrane fuel cell、固体高分子形燃料電池)用電解質膜等に適するパーフルオロスルホン酸ポリマー膜の製造方法、及びこれらの膜を電解質膜として使用したPEMFCに関する。
【背景技術】
【0002】
水素ガス及び酸素ガスを使用するPEMFCはクリーンなエネルギーシステムであり、高いエネルギー密度を有するとともに、変換効率が高いことから、次世代の電力発生機器として注目を浴びてきた。過去数10年間に亘ってナフィオン(Nafion)(イーアイデュポンドゥヌムールアンドカンパニーの登録商標)などのパーフルオロスルホン酸(perfluorosulfonic)イオン交換ポリマー(疎水性のパーフルオロカーボン骨格とスルホン酸基を持つパーフルオロ側鎖とから構成されるパーフルオロカーボン材料であり、tetrafluoroethyleneとperfluoro[2-(fluorosulfonylethoxy)propylvinyl ether]との共重合体である。本願ではこの共重合体を「パーフルオロスルホン酸(perfluorosulfonic acid、PFSA)ポリマー」と称する)がPEMFCの電解質として使用されてきた。
【0003】
これらの膜のプロトン輸送性はそれらの含水量によって強く規定されるが、含水量が少ない環境下でも高プロトン伝導性を有する燃料電池が求められ、広い領域温度で高効率で動作し、また含水量によらない高プロトン伝導度を有する電解質膜の開発研究が行われている。高プロトン伝導度を付与するには、プロトンの濃度を高くする手法やプロトンの移動度を高くする手法がある。一般に、プロトン濃度を高くする手法としては、ポリマーユニットへのスルホン基の導入量を多くする手法があり、ほとんどの研究はこちらに属する(例えば非特許文献1)。一方、プロトンの移動度を高くする手法としてポリマーの伝導パスを制御することがある。しかし、後者の手法による高プロトン伝導膜の開発研究はあまり行われていない。
【0004】
ポリマーユニットのスルホン化度を高くし、高含水率条件下で高プロトン伝導度を有するポリマーの報告は多い。しかし、広温領域や低含水量状態でも高プロトン伝導度を示す電解質膜の開発報告例はほとんどない。実用化に当たっては低含水量での性能低下の問題を解決できる、広温度領域や低含水量状態でも高プロトン伝導度が発揮できる高温PEMFC用の電解質膜として使用可能な代替材料を見出すことが求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解消し、広温度領域や低含水量状態でも高プロトン伝導度が発揮できる高温PEMFC用の電解質膜として使用可能な膜を提供することにある。」
イ 「【課題を解決するための手段】
【0006】
・・・(中略)・・・
本発明の他の側面によれば、前記酸性ポリマーに塩基性分子を添加した後、前記塩基性分子を前記酸性ポリマーから除去する、上記いずれかの電解質膜の製造方法が与えられる。
ここで、前記塩基性分子は複素環式化合物またはアミノ基を含む界面活性剤であってよい。
また、前記複素環式分子は1,2,4-トリアゾール、ウンデシルイミダゾール、1,2,3-トリアゾール、ベンズイミダゾール、ピラゾール、及びイミダゾールからなる群から選択されてよい。
前記塩基性分子の除去は、膜状になった、前記塩基性分子を添加した前記酸性ポリマーに水中での加熱、過酸化水素中での保持及び希硫酸中での保持からなる群から選択される少なくとも一の処理を施すことであってよい。
本発明の更に他の側面によれば、上記何れかの電解質膜を使用した固体高分子形燃料電池が与えられる。」
ウ 「【発明を実施するための形態】
【0009】
フッ素系ポリマーであるNafionやAquivion電解質は高プロトン伝導度や高安定性を有している。しかし、低加湿条件下では何れの電解質も電導度の低下が大きい。本発明ではこれらの問題を解決するために、酸性ポリマーに塩基性分子を導入することによって酸-塩基結合による良好なプロトン伝導性を有する伝導パスを形成させてから塩基性分子を除去する。このようにして作製された伝導パスによりプロトン伝導性が向上し、低温あるいは低加湿下でも高プロトン伝導度を発揮する電解質膜を提供することができる。塩基性分子は良好な伝導パスを形成するために使用するが、この伝導パスの形成後に除去するのは、この処理によってプロトン伝導度が向上するからである。また、塩基性分子が残留すると、電解質膜として使用する際に問題を引き起こす可能性もある。ここで、上で説明したように、PFSAポリマーはスルホン基を有するので、酸性ポリマーの一種として使用できる。なお、プロトン酸度は一般にスルホン基が一番強いが、ポリマーを酸性にする基をスルホン基以外とすることもできる。」
エ 「【0013】
なお、上で述べたフッ素系ポリマーだけではなく、炭化水素系ポリマーでもスルホン酸基のような酸性の基を有するものであれば、同じように低加湿下で高プロトン伝導性を示すようにできる。また、塩基性分子としては1,2,4-トリアゾール、ウンデシルイミダゾール、1,2,3-トリアゾール、ベンズイミダゾール、ピラゾール、イミダゾール等の複素環式化合物やアミノ基を含む界面活性剤を使用できる。界面活性剤を使用した場合には、これが伝導パス形成時の一種の型として機能する。更に、シリカ系酸化物材料、特にそのナノ粒子も使用可能である。」
オ 「【0021】
[ナフィオン系改質電解質膜の製造]
ナフィオンポリマーに5%1,2,4-トリアゾールを投入し、更に溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン (N-methylpyrrolidone、NMP) を投入して撹拌することにより、NMPに溶解させた。この溶解液を容器に入れ、80℃で24時間保持し、その後130℃で24時間保持することにより膜を得た。得られた膜を沸騰水で2時間煮沸した後、1M H2O2中に80℃で2時間、更に1M H2SO4中に80℃で2時間保持し、沸騰水で2時間煮沸を行った。当初の膜作製後の上記処理により、その膜中から塩基性分子(ここでは1,2,4-トリアゾール)を除去することで、ナフィオン系改質電解質膜を完成させた。
【0022】
[アクイヴィオン系改質電解質膜の製造]
アクイヴィオンポリマーに5%1,2,4-トリアゾールを投入し、更に溶媒であるNMPを投入して攪拌することにより、NMPに溶解させた。この溶解液を容器に入れ、80℃で24時間保持し、その後150℃で24時間保持することにより膜を得た。得られた膜を沸騰水で2時間煮沸した後、1M H2O2中に80℃で2時間保持し、1M H2SO4中に80℃で2時間保持し、沸騰水で2時間煮沸を行うことによって、上と同じく当初の膜中から塩基性分子を除去することで、アクイヴィオン改質電解質膜を完成させた。
【0023】
[ナフィオン系及びアクイヴィオン系改質電解質膜の特性の測定]
上述のようにして作製した両改質電解質膜のプロトン伝導度特性を、市販のナフィオン212膜(イーアイデュポンドゥヌムールアンドカンパニー製)及びアクイヴィオンE87-05S膜(Solvay製)とともに測定した。その結果を図1に示す。
【0024】
更に、両改質電解質膜を使用した単セルの電流密度-電圧特性を、市販のナフィオン115膜とともに測定した。その結果を図2に示す。これ以外に、図2においては測定された電流密度-電圧特性から電流密度-電力密度特性を計算してプロットしてある。なお、図中、これらの膜名の右側のかっこ内に示された数値は当該膜の厚さを示す。
【0025】
図1に示された結果からわかるように、電解質膜の材料としてナフィオン、アクイヴィオンの何れを使用した場合でも、塩基性分子(ここでは1,2,4-トリアゾール)を一旦導入してから除去した改質電解質膜の方が、対応する未改質電解質膜に比べて、広い相対湿度範囲(20%~90%)及び広い温度範囲(40℃~120℃)の両方ではるかに高い伝導度を示し、特に相対湿度の高い領域では0.3S/cmという非常に高い値を達成できた。この高い伝導度によってセルの内部抵抗が減少するため、図2に示すように、改質電解質膜の方が大電流を取り出すことができ、従って、改質電解質膜を使用したセルの方が1.5倍から2倍を超える電力を取り出すことができることが確認された。図2からわかるように、この傾向は特に高温・低湿度の場合に顕著であった。」
カ 「【0026】
ナフィオンに代表されるPFSAポリマーが高いプロトン伝導度を示す理由は、これらのポリマーが有するスルホン基によってポリマー中により良いプロトン伝導パスが形成されるためであると信じられている。ただし、このプロトン伝導パスが実際にどのような態様で存在しているかを直接的に観測することは極めて困難であり、未だに実現できていない。
【0027】
従って、本発明の改質電解質膜が上述したようなプロトン伝導度の顕著な改善を示したのは、先に述べたように、酸-塩基結合による伝導パスの形成、更にそこからの塩基の除去によってよりよく形成された伝導パスがプロトン伝導性に寄与したと考えるべきである。なお、スルホン基を有する炭化水素ポリマーによりPFSAポリマーを代替する研究が進められているが、このようなスルホン基を有する炭化水素ポリマーにおいてもPFSAポリマーと同様なプロトン伝導パスが形成されると考えることでそのプロトン伝導性が十分に説明できる。このことから見て、この種の炭化水素ポリマーにおけるスルホン基の機能がPFSAポリマーにおけるそれと同じであることは確実であると考えるべきである。従って、本発明においてPFSAポリマーの代わりに、既に例を列挙したスルホン基を有する炭化水素ポリマーを使用することも可能である。」
キ 「【図1】
【図2】
」
(2) 本件特許発明1について
ア 本件特許発明の解決課題
上記1アないしキの記載、特に段落【0005】の記載から、本件特許発明の解決課題は、少なくとも「広温度領域や低含水量状態でも高プロトン伝導度が発揮できる高温PEMFC用の電解質膜として使用可能な膜を提供すること」にあると認められる。
イ 判断
本件特許明細書には、広温度領域や低含水量状態でも高プロトン伝導度が発揮できる高温PEMFC用の電解質膜を得る手段について、実際に広温度領域や低含水量状態における高プロトン伝導が確認できたものは、上記(1)オのとおり、いずれも塩基性分子として「1,2,4-トリアゾール」を一旦導入してから除去した改質電解質膜のみである。
そして、当業者は、本件特許明細書中の実施例で確認された1,2,4-トリアゾールを用いたプロトン伝導は、プロトンホッピングによるプロトン伝導であって、当該機構はアゾ-ル構造を有する塩基性分子を前提として発揮されるものであると、本件特許明細書(例えば、実施例及び段落【0013】)の記載、あるいは技術常識(要すれば、特許権者が8月26日に提出した乙第3、5ないし9号証参照。)から認識する。
よって、上記課題の解決ができるとはいえないアゾ-ル構造を有しない塩基性分子を採用する場合をも包含する本件特許発明1の範囲にまで発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化することは認められない。
ウ 小括
よって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明において、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えたものであるから、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明とすることはできない。
(3) 本件特許発明2について
本件特許発明2は、上記2で述べた課題解決手段以外の物質を特定事項に含むものであるから、上記2での検討と同様に、本件特許発明2は、発明の詳細な説明に記載された発明とすることはできない。
(4) 取消理由2についてのまとめ
したがって、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
3 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
令和2年7月20日にされた訂正請求によって訂正された請求項3ないし6に係る特許について、訂正前の請求項との関係は以下のとおりである。
・訂正後の請求項3:訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項4。
・訂正後の請求項4:訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項4のうち 塩基性物質である複素環式化合物が「1,2,4 -トリアゾール」であ るもの。
・訂正後の請求項5:訂正前の請求項2を引用する訂正前の請求項4。
・訂正後の請求項6:訂正前の請求項2を引用する訂正前の請求項4のうち 塩基性物質である複素環式化合物が「1,2,4 -トリアゾール」であ るもの。
そうすると、訂正後の請求項3ないし6は、いずれも訂正前の請求項4に包含される特定事項を有するものである。
よって、取消理由通知(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立理由は、申立理由3(サポート要件)のうち、訂正前の請求項4に対するもののみとなる。
以下検討するに、上記2(2)イで述べたように、当業者は、本件特許明細書中の実施例で確認された1,2,4-トリアゾールを用いたプロトン伝導は、プロトンホッピングによるプロトン伝導であって、当該機構はアゾ-ル構造を有する塩基性分子を前提として発揮されるものであると、本件特許明細書から認識する。
してみると、アゾ-ル構造を含む複素環式化合物が塩基性物質であることを特定事項とする本件特許発明3ないし6は、いずれも、いわゆるサポート要件を充足するといえるから、申立理由3には理由がない。
第7 むすび
上記第6のとおり、本件特許発明1及び2に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当する特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
また、本件特許発明1及び2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
そして、本件特許発明3ないし6に係る特許は、特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては取り消すことはできないし、他に取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2020-700019