特許異議申立
2024-700298
多孔質セラミックス焼結体およびそれを用いた用途
- 審判番号
- 2024-700298
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-172371
- 登録番号
- 7374530
- 請求日
- 2024年04月01日
- 審決日
- 2024年09月17日
- 公報発行日
- 2024年10月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】国立研究開発法人物質・材料研究機構
- 【異議申立人】鶴亀 國康
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 尚之
- 審判官 小野 久子
- 審判官 増山 淳子
- 分類
- P1651.121-Y (C04B) / P1651.537-Y (C04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7374530号発明「多孔質セラミックス焼結体およびそれを用いた用途」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7374530号の請求項1~7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7374530号の請求項1~7に係る特許(以下、それぞれ「本件特許1」などといい、まとめて「本件特許」という。)についての出願は、令和4年10月27日に出願され、令和5年10月27日にその特許権の設定登録がされ、同年11月7日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許1~7に対して、令和6年4月1日に特許異議申立人鶴亀國康(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
第2 本件特許請求の範囲の記載(本件発明)
本件特許請求の範囲の記載は、次のとおりである。そして、本件特許の請求項1~7に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)は、その記載事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
ランタンストロンチウムマンガン酸化物(LSM)、ランタンストロンチウム鉄酸化物(LSF)、ランタンストロンチウムコバルト酸化物(LSC)、ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物(LSCF)、サマリウムストロンチウムコバルト酸化物(SSC)、ビスマステルニウム酸化物、バリウムストロンチウムコバルト鉄酸化物(BSCF)、ランタンストロンチウムガリウムコバルト酸化物、ランタンストロンチウムガリウム鉄酸化物、ランタンストロンチウムガリウムニッケル酸化物、カルシウムチタン鉄酸化物、セリウムプラセオジム酸化物、ガトリニウムセリウムプラセオジム酸化物、イットリウム安定化ビスマス-銀(BYS/Ag)、エルビウム安定化ビスマス-金(ESB/Au)、ビスマスカルシウム酸化物、ビスマスイットリウム銅酸化物、ビスマスイットリウムサマリウム酸化物、および、ビスマスエルビウム酸化物からなる群から選択される酸化物イオン・電子混合伝導体からなり、
連通する気孔を有し、
50%以上75%以下の範囲を満たす開気孔率を有し、
0.05%以上4.0%以下の範囲を満たす閉気孔率を有し、
23%以上50%以下の範囲を満たす相対密度を有し、
0.5μm以上20μm以下の範囲を満たす気孔径を有する、多孔質セラミックス焼結体。
【請求項2】
前記酸化物イオン・電子混合伝導体は、バリウムストロンチウムコバルト鉄酸化物(BSCF)である、請求項1に記載の多孔質セラミックス焼結体。
【請求項3】
1.5×10-3S・cm-1以上の電気伝導率を有する、請求項2に記載の多孔質セラミックス焼結体。
【請求項4】
酸化物イオン・電子混合伝導体を含有する固体酸化物型燃料電池用の空気極であって、
前記酸化物イオン・電子混合伝導体は、請求項1~3のいずれかに記載の多孔質セラミックス焼結体である、空気極。
【請求項5】
支持体と、支持体上に位置する酸素分離活性層とを備えた酸素透過膜であって、
前記支持体は、請求項1~3のいずれかに記載の多孔質セラミックス焼結体からなり、
前記酸素分離活性層は、前記多孔質セラミックス焼結体を構成する酸化物イオン・電子混合伝導体と同じ酸化物イオン・電子混合伝導体からなる、酸素透過膜。
【請求項6】
前記支持体は、500μm以上1500μm以下の範囲の厚さを有する、請求項5に記載の酸素透過膜。
【請求項7】
前記酸素分離活性層は、10μm以上500μm以下の範囲の厚さを有する、請求項5または6に記載の酸素透過膜。」
第3 特許異議の申立について
1 特許異議申立理由の概要
申立人が主張する特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。
ここで、申立人が提出した証拠方法は、次のものである。
甲第1号証 特開2008-234915号公報
甲第2号証 特開2018-70394号公報
甲第3号証 特開平8-119771号公報
(1)申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とした進歩性欠如)
本件発明1、4は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許1、4は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2(甲第2号証を主たる証拠とした進歩性欠如)
本件発明1は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許1は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)申立理由3(サポート要件違反)
本件特許1~7は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(4)申立理由4(明確性要件違反)
本件特許1~7は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 各甲号証の記載事項
(1)甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、「固体酸化物形燃料電池の集電体材料、空気極集電体及び固体酸化物形燃料電池」(発明の名称)に関して、次の事項が記載されている(なお、下線は当審が付した。以下、同様。)。
ア「【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池(以下、適宜、SOFCと略す)において空気極(カソード)の上に形成する集電体は、集電性能から高い導電性が必要である一方、反応用空気(酸素含有ガス)を空気極に透過させる構造上、気孔率を高くする必要がある。すなわち、実質的な断面積を大きくして導電率を高くするために集電体の気孔率を低くすると、反応用空気が空気極の反応場に供給されにくくなるので、反応過電圧が上昇し、電池性能が低下するからである。」
イ「【0027】
本発明に係る集電体材料は、一般式ABO3で表され、AがLa(ランタン)及び希土類元素及びアルカリ土類金属の群から選ばれる1つ以上の元素と、Sr(ストロンチウム),Ca(カルシウム)及びBa(バリウム)の群から選ばれる1つ以上の元素とからなり、Bが、Co(コバルト),Fe(鉄),Ni(ニッケル)及びCu(銅)の群から選ばれる1つ以上の元素からなるペロブスカイト複合酸化物粉体にドープセリア粉体を複合化した複合粉体である。
【0028】
上記ペロブスカイト複合酸化物粉体は、例えばランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物(LaSrCoFeO3、以下、LSCFと略す)、ランタンストロンチウムコバルト酸化物(LSC)、サマリウムストロンチウムコバルト酸化物(SmSrCoO3)等の粉体である。ここで、上記ABO3のBサイトにコバルトを含むと導電性が高くなり特に好ましい。因みに、公表されたデータの一例を示すと、LSC:La0.5Sr0.5CoO3の導電率は1448(S/cm、T=1063K)、熱膨張係数は18.4(10-6/℃)であり、LSCF:La0.5Sr0.5Co0.2Fe0.8O3の導電率は200~300(S/cm)、多孔質の場合は100(S/cm)未満であり、熱膨張係数は13~14(10-6/℃)程度である。」
ウ「【実施例】
【0035】
実施例1では、以下の工程により試料を作製した。
(1)市販のLSC(粒度D50:2.46μm、BET値3.9(m2/g)、組成La0.6Sr0.4CoO3)粉体70vol%に対し市販のGDC(粒度D50:0.22μm、BET値11(m2/g)、組成Ce0.9Gd0.1O2)粉体30vol%をホソカワミクロン(株)製ノビルタNOB-130を用い、ローター回転速度3500rpm、ローターと容器内壁との間隙1.5mm、処理時間10minの条件で複合化処理し、LSC-GDC複合粉体を作製した。
(2)得られたLSC-GDC複合粉体に対し、造孔材としてPVB(ポリビニルブチラール)を体積比50%となるよう乳鉢で混合した。
(3)加圧成形機により1軸加圧2kN/cm2で直径11mm、長さ5~10mmの円柱状に成形した。
(4)箱型電気炉により1200℃、4hで焼結を行った。
(5)得られた焼結体を島津製作所製比重測定装置SGM-300Pを用いアルキメデス法により気孔率を測定し、SIIナノテクノロジー(株)製TMA/SS6300により熱膨張係数の測定を行った。
(6)直流4端子法(自作装置)により導電率の測定を行った。
【0036】
実施例2、3では、上記実施例1と同様の工程で実施したが、(1)のLSCとGDCの体積比(vol%)のみ、それぞれ60:40、40:60として実施した。
また、比較例1,2も同様に(1)のLSCとGDCの体積比(vol%)のみ、それぞれ90:10、30:70として実施した。なお、比較例3,4,5についてはそれぞれ表1記載の組成の単一材料について試料を作製した。
【0037】
気孔率、熱膨張係数、導電率の測定結果を表1に示し、GDC添加率(vol%)に対する熱膨張係数と導電率の変化を図4のグラフに示す。また、図5に実施例2のLSC+GDC複合粉体を用いて作製した集電体の多孔質構造を示し、図6に比較例5のLSC粉体を用いて作製した集電体の多孔質構造を示す。
・・・
【0039】
【表1】
[図:0001415316000001.jpg]
」
(2)甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、「低温作動可能なペロブスカイト型酸化物およびその製造法」(発明の名称)に関して次の事項が記載されている。
ア「【0001】
本発明は、300~400℃の低作動温度で酸素混合ガスから酸素分離が可能な酸素分離用吸着材として用いるペロブスカイト型酸化物の粒子集合体、およびそのペロブスカイト型酸化物を低熱処理温度で合成するための製造法に関する。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、従来技術におけるペロブスカイト型酸化物の製造法における課題および酸素製造プロセスにおける課題を解決する、ペロブスカイト型酸化物の粒子集合体およびその製造法を提供する。
【0021】
ペロブスカイト型酸化物の製造法における課題は、酸素吸着特性の優れるSrおよびCoを高い割合で含む組成のペロブスカイト型酸化物を製造するために、700℃を超える高温での熱処理が必要なことである。更にこうして出来上がった従来のペロブスカイト型酸化物は、酸素分離用吸着剤として用いる際、酸素分離作動温度も400℃を超える高温とする必要があった。
・・・
【0023】
これらの検討に基づき、本発明は、SrおよびCoを高い割合で含む組成で、かつ、立方晶ペロブスカイト相の割合が高く、高比表面積であり、結晶子径が小さく、なおかつ気孔率が大きくガス拡散性の高い形状を有する粒子集合体とするため、従来のペロブスカイト型酸化物を用いた酸素分離作動温度と比較して非常に低い300~400℃という作動温度で酸素分離可能なペロブスカイト型酸化物粒子集合体を提供し、さらにそのペロブスカイト型酸化物を低熱処理温度(600~700℃)で製造する方法をも提供するものである。」
イ「【0065】
気孔率の算出は、水銀ポロシメータ測定により行った。測定したいペロブスカイト型酸化物粉末に水銀を圧力0.007~414MPaの範囲で圧入し、圧入した水銀の体積からかさ密度、見掛け密度を算出し、以下の式を用いて気孔率を求めた。尚、本発明のペロブスカイト型酸化物の粒子集合体は、結晶子が集まってなる一次粒子がさらにいくつか集まって集合体となった粉末である。
気孔率={1-(かさ密度/見掛け密度)}×100」
ウ「【実施例】
【0114】
(実施例1~14、発明例)
硝酸ランタン六水和物、硝酸ストロンチウム、硝酸カルシウム四水和物、硝酸コバルト六水和物、硝酸鉄九水和物を、実施例1~14それぞれについて表1に示した質量で秤量し、イオン交換水約50mLに溶解し混合した。また実施例1~14それぞれについて、キレート剤として、EDTA-OH(ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸)、GEDTA(グリコールエーテルジアミン四酢酸)、DTPA(ジエチレントリアミン五酢酸)、Methyl-EDTA(メチルエチレンジアミン四酢酸)、CyDTA(1,2-シクロヘキサンジアミン四酢酸)を表1に示した質量秤量し、イオン交換水約100mLに溶解した。溶解しなかったものについては、キレート剤が完全に溶解するまで該キレート剤とイオン交換水の混合液体にアンモニア水を加えることにより溶解させた。これら二種類の水溶液を混合し、約150mLの混合水溶液を作成した(第一工程)。
【0115】
この混合水溶液をエバポレータで減圧しながら80℃の油浴中で約2時間かけて蒸発乾固させた。また、得られた固体を角サヤに入れて空気雰囲気中で180~300℃の温度範囲で2時間仮焼した(第二工程)。仮焼を行った温度は、実施例1~14のそれぞれについて、表1に示す通りであった。
【0116】
仮焼した固体を粉末にした後、角サヤに入れて空気雰囲気中で600~700℃の温度範囲で4時間本焼成した(第三工程)。本焼成を行った温度は、実施例1~14のそれぞれについて、表1に示す通りであった。
【0117】
これにより、実施例1~14に記載のペロブスカイト型酸化物の粒子集合体を製造した。実施例1~14それぞれの組成は、表1に記載の通りである。
【0118】
(比較例1~16)
実施例1~14と同様にして、表1に示す組成の比較例1~16のペロブスカイト型酸化物の集合体を製造した。用いたキレート剤は表1に示す通りで、比較例1~16それぞれについて、EDTA-OH(ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸)、NTA(ニトリロ三酢酸)、TTHA(トリエチレンテトラミン六酢酸)を用いた。第二工程における仮焼温度、第三工程における本焼成温度は、比較例1~16のそれぞれについて、表1に示す通りであった。
【0119】
【表1】
[図:0001415316000002.jpg]
【0120】
各実施例、比較例について、TG-DTAによる300℃における酸素吸着速度測定を行った。これらの結果を表2に示す。
【0121】
【表2】
[図:0001415316000003.jpg]
」
(3)甲第3号証の記載事項
甲第3号証には、次の事項が記載されている。
ア「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、医療用診断装置や魚群探知機或いはソナー等に用いる圧電複合材料及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来より、生体や水を対象とした医療用診断装置や魚群探知機或いはソナー等の圧電性セラミックス素子材料として、チタン酸ジルコン酸鉛系セラミックスをはじめとする種々の圧電性セラミックス材料が使用されている。しかし、これらの材料は音響インピーダンスが約30×106kg/m2S であり、生体や水の音響インピーダンス(約1.5×106kg/m2S )に比べると著しく高いため、水中を伝わる音波が素子界面で反射し、送受信に支障をきたすという問題がある。そのため、圧電性セラミックスと樹脂を複合化することにより音響インピーダンスを低減させ、生体や水との整合性をとることが行われている。
・・・
【0007】
【問題点を解決するための手段】上述の目的の材料は、気孔径が0.05~5mm、且つ、気孔率が50~85%の球状連通気孔を有する多孔質圧電性セラミックス、及び、その連通気孔部が樹脂で置換された形状の圧電複合材料により達成され、上述の材料の製造方法は、気孔径が0.05~5mm、且つ、気孔率が50~85%の球状連通気孔を有する多孔質圧電性セラミックスを準備し、その連通気孔部に液状の樹脂を浸透させ、そのままの状態で液状樹脂を硬化させることを特徴とする圧電複合材料の製造方法により達成される。
・・・
【0013】本発明の材料の骨格部を形成する多孔質圧電セラミックスは、連通気孔を有する。連通気孔とすることによりその気孔部を樹脂で置換でき、完全に複合化できる。連通気効率(開気孔率)は95%以上、換言すれば、閉気孔率が5%未満であるのが好ましい。
【0014】これら気孔径及び気孔率は、複合される樹脂の粘性、誘電率、弾性率、剛性率、音速、その他圧電性能等を鑑み、最終製品である本発明の圧電複合材料の各物性値が所望の値となるよう適宜決定する。
【0015】本発明の圧電性セラミックスの素材としては、チタン酸鉛、ジルコン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛、マグネシウムニオブ酸鉛、チタン酸バリウム、ニオブ酸コバルト、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム等が挙げられる。これらの内キュリー温度が高く、圧電性の高いチタン酸ジルコン酸鉛が特に好ましい。」
イ「【0036】以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【実施例】
実施例1
先ず、多孔質圧電性セラミックスを作製する。本実施例では材質としてチタン酸ジルコン酸鉛(以下PZTと表記)を用いた。各種品番の発泡スチロール原料(エスレンビーズ、積水化成品工業(株)製)を105℃で10分間発泡した。次いで、発泡スチロ-ル球(発泡倍率10倍)に流動パラフィン(和光試薬)を表面にコーティングした。次いで、50×100×100mm寸法のポリプロピレン製メス型容器に振動充填した後、中央に注入口を有するオス型にて、40×100×100mm寸法に圧縮して発泡スチロール成形体を用意した。
・・・
【0043】以上の結果を表1に示す。
【表1】
[図:0001415316000004.jpg]
※印は比較例
11※:比較例 ウレタンフォ-ムを利用し、作製した多孔質圧電性セラミックス素子
12※:比較例 棒状の圧電性セラミックスを三次元的に組み上げて作製した多孔質圧電性セラミックス素子
表1の結果より、気孔径の適正範囲は、0.05~5mm気孔率の適正範囲は、50~85%である。又、連通球状気孔であることが肝要であった。」
3 当審の判断
(1)申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とした進歩性欠如)について
ア 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、前記2(1)ウによれば、比較例4として、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3の組成の単一材料について、気孔率が51%の焼結体を作製したことが記載され(【0035】~【0037】、表1)、さらに前記2(1)イによれば、ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物は、ペロブスカイト複合酸化物であることも記載されている(【0027】、【0028】)。
これらの記載事項を、前記2(1)ウに摘記した比較例4の「焼結体」に注目して整理すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3の組成のペロブスカイト複合酸化物の単一材料を用いて作製した、
気孔率が51%である、焼結体。」
イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明との対比
a 本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者の対応関係は、次のとおりに解することができる。
(a)甲1発明の「ペロブスカイト複合酸化物」は、本件の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)の【0016】の「酸化物イオン・電子混合伝導体110は・・・ペロブスカイト型混合伝導体・・・が知られている。具体的には、・・・ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物(LSCF)・・・は、酸化物イオン・電子混合伝導体として公知の材料であり」との記載からみて、本件発明1の「酸化物イオン・電子混合伝導体」に相当する。
(b)上記(a)の対応関係を踏まえると、甲1発明の「La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3の組成のペロブスカイト複合酸化物の単一材料を用いて作製した」「焼結体」は、本件発明1の「ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物(LSCF)」「から選択される酸化物イオン・電子混合伝導体からな」る「セラミックス焼結体」に相当する。
(c)甲1発明の「気孔率が51%である」ことは、本件発明1の「多孔質」に相当するとともに、前記気孔率の値から、相対密度が49%(=100-51%)と算出されるから、本件発明1の「23%以上50%以下の範囲を満たす相対密度を有」することに相当する。
b 上記aの対応関係に照らすと、本件発明1と甲1発明とは、
「ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物(LSCF)から選択される酸化物イオン・電子混合伝導体からなり、
23%以上50%以下の範囲を満たす相対密度を有する、多孔質セラミックス焼結体。」
の点で一致し、次の点で相違している。
<相違点1>
多孔質セラミックス焼結体について、本件発明1では、「連通する気孔を有」するのに対して、甲1発明では、連通する気孔を有することが明らかでない点。
<相違点2>
多孔質セラミックス焼結体について、本件発明1では、「50%以上75%以下の範囲を満たす開気孔率を有し、0.05%以上4.0%以下の範囲を満たす閉気孔率を有」するのに対して、甲1発明では、開気孔率及び閉気孔率が明らかでない点。
<相違点3>
多孔質セラミックス焼結体について、本件発明1では、「0.5μm以上20μm以下の範囲を満たす気孔径を有する」のに対して、甲1発明では、気孔径の範囲が明らかでない点。
(イ)相違点についての検討
事案に鑑み、上記相違点2について検討する。
a まず、上記相違点2が、実質的な相違点であるかについて検討すると、甲第1号証には、甲1発明の焼結体の開気孔率及び閉気孔率の値が何ら記載されておらず、甲1発明の焼結体の開気孔率及び閉気孔率が、上記相違点2に係る本件発明1の特定事項を満たすことを示す証拠もないから、上記相違点2は、実質的な相違点である。
b 次に、上記相違点2に係る本件発明1の特定事項の容易想到性について検討すると、甲1発明は、そもそも、甲第1号証において比較例として示されているものであって、当該比較例の焼結体の開気孔率及び閉気孔率を調整することを想定することができない。
c また、仮に、甲1発明の焼結体の開気孔率及び閉気孔率を調整することを想定するとして、上記相違点2に係る本件発明1の特定事項の容易想到性について検討すると、甲第1号証には、上記2(1)アによれば、甲1発明の焼結体が、固体酸化物形燃料電池の空気極集電体に用いられるものであり、空気極集電体は、反応用空気を空気極に透過させる構造上、気孔率を高くする必要があることが記載されている(【0002】)。
d 一方、甲第3号証には、上記2(3)ア、イによれば、医療用診断装置や魚群探知機或いはソナー等に用いる圧電複合材料に関する発明について、チタン酸ジルコン酸鉛などの多孔質圧電性セラミックスと樹脂を複合化するために、前記多孔質圧電性セラミックスの連通気孔を樹脂で置換すること、及び、前記多孔質圧電性セラミックスの開気孔率が、実施例において99%であったことが記載されている(【0001】、【0002】、【0007】、【0013】、表1)。
e すなわち、甲1発明のペロブスカイト複合酸化物の焼結体と、甲第3号証に記載された多孔質圧電性セラミックスとは、対象とする用途が異なり、それに応じた構成材料も、気孔を形成する目的も異なるものであるといえる。
そうすると、甲第1号証の上記cの記載に接した当業者が、甲1発明の焼結体の開気孔率及び閉気孔率を調整することを想定したとしても、甲第3号証に記載された多孔質圧電性セラミックスの開気孔率の値を、甲1発明の焼結体に適用する動機付けが生じるとはいえない。
f よって、上記b~eで検討したとおり、甲1発明において、相違点2に係る本件発明1の特定事項とすることは、当業者にとって容易想到の事項といえない。
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲第3号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(ウ)申立人の主張について
a 申立人の主張の概要
上記相違点2について、申立人は、概略、以下のように主張している。
甲第1号証には、空気極の上に形成する集電体は、反応用空気を空気極に透過させる構造上、気孔率を高くする必要があることが記載されており(【0002】)、この記載から、甲第1号証には、多孔質焼結体の気孔が外部(=反応用空気)と接続している割合が高いことが好ましいこと、すなわち、開気孔率が高く、閉気孔率が低いことが好ましいことが記載されているといえる。
そして、甲第3号証には、多孔質セラミックス焼結体の気孔は外部と接続している割合が高いことが好ましく、開気孔率は例えば99%であることが記載されている(【0013】、表1)。
そのため、甲1発明において、多孔質焼結体の気孔が外部と接続している割合を高くするために、甲第3号証に記載された開気孔率の値である99%(閉気孔率1%)を適用し、甲1発明の気孔率51%の焼結体の開気孔率を50.5%(=51%×99%)、同焼結体の閉気孔率を0.51%(=51%×1%)とすること、すなわち本件発明1に規定された数値範囲の値とすることは当業者が容易になし得ることである。
b 申立人の主張の検討
上記(イ)bで述べたように、甲1発明は、そもそも、甲第1号証において比較例として示されているものであって、当該比較例の焼結体の開気孔率及び閉気孔率を調整することを想定することができない。
そして、上記(イ)c~eで述べたように、仮に、甲1発明の焼結体の開気孔率及び閉気孔率を調整することを想定したとしても、甲第3号証に記載された多孔質圧電性セラミックスの開気孔率の値を甲1発明に適用する動機付けが生じるとはいえない。
c 小括
よって、申立人の上記主張は採用できない。
ウ 本件発明4について
本件発明4は、本件発明1を引用するものであって、本件発明1の特定事項を全て含むものであるから、上記イに示した理由と同様の理由により、甲1発明及び甲第3号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
エ 申立理由1についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立理由1に理由はない。
(2)申立理由2(甲第2号証を主たる証拠とした進歩性欠如)について
ア 甲第2号証に記載された発明
甲第2号証の記載事項を、前記2(2)ウに摘記した比較例12の「ペロブスカイト型酸化物の粒子集合体」に注目して整理すると、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「(La0.6Sr0.4)(Co0.2Fe0.8)O3-δの組成のペロブスカイト型酸化物の粒子集合体。」
イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲2発明との対比
a 本件発明1と甲2発明とを対比すると、両者の対応関係は、次のとおりに解することができる。
(a)甲2発明の「(La0.6Sr0.4)(Co0.2Fe0.8)O3-δの組成」は、本件発明1の「ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物(LSCF)」に相当する。
(b)甲2発明の「ペロブスカイト型酸化物」は、本件特許明細書の【0016】の「酸化物イオン・電子混合伝導体110は・・・ペロブスカイト型混合伝導体・・・が知られている。具体的には、・・・ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物(LSCF)・・・は、酸化物イオン・電子混合伝導体として公知の材料であり」との記載からみて、本件発明1の「酸化物イオン・電子混合伝導体」に相当する。
b 上記aの対応関係に照らすと、本件発明1と甲2発明とは、
「ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物(LSCF)から選択される酸化物イオン・電子混合伝導体。」
の点で一致し、次の点で相違している。
<相違点4>
本件発明1は、「連通する気孔を有し、50%以上75%以下の範囲を満たす開気孔率を有し、0.05%以上4.0%以下の範囲を満たす閉気孔率を有し、23%以上50%以下の範囲を満たす相対密度を有し、0.5μm以上20μm以下の範囲を満たす気孔径を有する、多孔質セラミックス焼結体」であるのに対して、甲2発明は、「粒子集合体」である点。
(イ)相違点4についての検討
a まず、上記相違点4が実質的な相違点であるかについて検討すると、甲2発明の「粒子集合体」について、上記2(2)イによれば、甲第2号証には、「結晶子が集まってなる一次粒子がさらにいくつか集まって集合体となった粉末」(【0065】)であることが記載されている。
さらに、上記2(2)ウによれば、甲第2号証には、上記「粒子集合体」の製造方法について、硝酸ランタン六水和物、硝酸ストロンチウム、硝酸カルシウム四水和物、硝酸コバルト六水和物、硝酸鉄九水和物をイオン交換水に溶解し混合した水溶液、及び、所定のキレート剤をイオン交換水に溶解した水溶液を混合し、この混合水溶液をエバポレータで減圧しながら80℃の油浴中で約2時間かけて蒸発乾固させ、得られた固体を角サヤに入れて空気雰囲気中で180~300℃の温度範囲で2時間仮焼し、仮焼した固体を粉末にした後、角サヤに入れて空気雰囲気中で600~700℃の温度範囲で4時間本焼成することが記載されているところ(【0114】~【0117】)、本焼成の前に粉末を成形して成形体とすることは記載されていない。すなわち、製造方法の点からみても、上記「粒子集合体」は、粉末であると理解できる。
b 一方、本件特許明細書には、セラミックス粒子、デンプン、分散媒、及びバインダを混合した混合物を種々の条件で処理し、成形体を得、処理後の成形体を焼成し、焼結体を得たことが記載されているところ(【0053】~【0055】)、本件発明1の「焼結体」は、成形体を焼成して得られたものであるから、所定の形状に焼き固められた物体であるといえる。
c そうすると、甲2発明の「粒子集合体」は、上記aで検討したとおり粉末であり、上記bで検討した、所定の形状に焼き固められた物体である「焼結体」とは明らかに異なるから、前記相違点4は実質的な相違点である。
d 次に、前記相違点4に係る本件発明1の特定事項の容易想到性について検討すると、甲2発明は、そもそも、甲第2号証において比較例として示されているものであって、当該比較例の粒子集合体を、焼結体に変更することを想定することができない。
e また、念のため、甲第2号証の他の記載を見てみると、上記2(2)アによれば、「300~400℃の低作動温度で酸素混合ガスから酸素分離が可能な酸素分離用吸着材として用いるペロブスカイト型酸化物の粒子集合体、およびそのペロブスカイト型酸化物を低熱処理温度で合成するための製造法」を提供するという課題を解決するために、「SrおよびCoを高い割合で含む組成で、かつ、立方晶ペロブスカイト相の割合が高く、高比表面積であり、結晶子径が小さく、なおかつ気孔率が大きくガス拡散性の高い形状を有する粒子集合体とする」ことが記載されており(【0001】、【0021】、【0023】)、この記載からみて、甲2発明は、「粒子集合体」という形態とすることが必須の発明であるといえる。そうすると、甲2発明において、「粒子集合体」を、上記bで検討したような「焼結体」に変更する動機付けは存在しない。そして、甲第3号証に、当該動機付けとなるような記載も見当たらない。
f よって、上記d及びeで検討したとおり、甲2発明において、相違点4に係る本件発明1の特定事項とすることは、当業者にとって容易想到の事項といえない。
したがって、本件発明1は、甲2発明及び甲第3号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(ウ)申立人の主張について
a 申立人の主張の概要
申立人は、特許異議申立書において、概略、以下のとおり主張している。
甲第2号証の「仮焼した固体を粉末にした後、角サヤに入れて空気雰囲気中で600~700℃の温度範囲で4時間本焼成した」(【0116】)、及び「これにより、実施例1~14に記載のペロブスカイト型酸化物の粒子集合体を製造した。」(【0117】)との記載より、甲第2号証には、ペロブスカイト型酸化物の焼結体の発明が記載されているといえ、比較例12、15の気孔率の数値から、当該焼結体は、多孔質であるといえる。
そして、本件発明1の多孔質セラミックス焼結体は、「50%以上75%以下の範囲を満たす開気孔率を有し、0.05%以上4.0%以下の範囲を満たす閉気孔率を有」するのに対して、甲第2号証に記載された上記焼結体は、開気孔率及び閉気孔率が明らかでない点で、少なくとも相違するものの、甲第3号証に記載された開気孔率の値を上記(1)イ(ウ)aと同様に適用し、本件発明1に規定された数値範囲の値とすることは当業者が容易になし得ることである。
b 申立人の主張の検討
上記(イ)aで検討したように、甲2発明の「粒子集合体」は粉末であり、上記(イ)bで検討した、所定の形状に焼き固められた物体である「焼結体」とは、明らかに異なるものであるから、甲第2号証に焼結体の発明が記載されているとはいえない。
よって、申立人の上記主張は、甲2発明の認定から誤っており、採用できない。
c 小括
よって、申立人の上記主張は採用できない。
ウ 申立理由2についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立理由2に理由はない。
(3)申立理由3(サポート要件)について
ア サポート要件適合性の判断
(ア)サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲で特定された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
以下、この観点に立って検討する。
(イ)本件発明の課題について
発明の詳細な説明の【0003】~【0008】の記載からして、本件発明の課題は、「連通性に優れた酸化物イオン・電子混合伝導体からなる多孔質セラミックス焼結体およびそれを用いた用途を提供すること」といえる。
(ウ)発明の詳細な説明の記載について
a まず、実施例に係る具体例に目を向けると、発明の詳細な説明の実施例(【0053】~【0060】、表5)には、開気孔率59.0~74.0%、相対密度25.8~40.6%、及び閉気孔率が0.1~0.4%である、例13、14、21の多孔質セラミックス焼結体が記載され、当該実施例の多孔質セラミックス焼結体が、比較例である例24~26の多孔質セラミックス焼結体に比べて、連通した気孔を多く示したことが、走査型電子顕微鏡による顕微鏡観察によって確認されたことが記載されており(【0061】、【0067】、図6)、当該実施例の多孔質セラミックス焼結体は、本件発明の課題を解決できるといえる。
b 次に、発明の詳細な説明の発明を実施するための形態を見てみると、次の記載を認めることができる。
(a)「本発明の多孔質セラミックス焼結体100は、連通する気孔120(気孔連通構造とも呼ぶ)を有する。気孔連通構造120を有することにより通気性を向上できる。気孔連通構造120は、走査型電子顕微鏡等による顕微鏡観察によって確認される」こと(【0017】)。
(b)「本発明の多孔質セラミックス焼結体100は、上述する気孔連通構造120を有するが、気孔径130は、0.5μm以上100μm以下の範囲を満たす。・・・この範囲の気孔径を有すれば、通気性に優れる」こと(【0020】)。
(c)「本発明の多孔質セラミックス焼結体100は、好ましくは、50%以上75%以下の範囲を満たす開気孔率を有し、23%以上50%以下の範囲を満たす相対密度を有し、0.5μm以上20μm以下の範囲を満たす気孔径を有する。これにより、さらに通気性に優れつつ、取り扱いに優れる」こと(【0022】)。
(d)「本発明の多孔質セラミックス焼結体100は、好ましくは、0.05%以上4.0%以下の範囲を満たす閉気孔率を有する。これにより、気孔連通構造が確実となるので、通気性に特に優れる」こと(【0023】)。
c 上記bの記載によれば、多孔質セラミックス焼結体が、気孔連通構造を有し、50%以上75%以下の範囲を満たす開気孔率を有し、0.05%以上4.0%以下の範囲を満たす閉気孔率を有し、23%以上50%以下の範囲を満たす相対密度を有し、0.5μm以上20μm以下の範囲を満たす気孔径を有することで、上記aの実施例と同様に、本件発明の課題を解決できると認識できる。
(エ)特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との対比・検討
本件発明1は、上記第2に示したとおり、「連通する気孔を有し、50%以上75%以下の範囲を満たす開気孔率を有し、0.05%以上4.0%以下の範囲を満たす閉気孔率を有し、23%以上50%以下の範囲を満たす相対密度を有し、0.5μm以上20μm以下の範囲を満たす気孔径を有する」ことが特定された「多孔質セラミックス焼結体」の発明であって、前記(ウ)cで検討した多孔質セラミックス焼結体であるから、本件発明1は、当業者において、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に照らして、前記(イ)に示した本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり、発明の詳細な説明に記載された発明といえる。
本件発明1に係る請求項1の記載を引用する本件発明2~7についても同様である。
イ 申立人の主張について
(ア)申立人の主張の概要
申立人の主張は、概略、以下のとおりである。
a 造孔剤としてデンプンを使用することについて(特許異議申立書第11~14頁)
発明の詳細な説明では、本件発明の多孔質セラミックス焼結体を製造する際に、造孔剤としてデンプンを使用することを必須の構成要素としているが、本件発明1~7には、造孔剤としてデンプンを使用することが何ら規定されていないため、本件発明1~7は、本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであり、サポート要件を満たさない。
b 酸化物イオン・電子混合伝導体の構成材料について(特許異議申立書第14~16頁)
発明の詳細な説明では、酸化物イオン・電子混合伝導体の構成材料としてバリウムストロンチウムコバルト酸化物(BSCF)を用いた場合に本件発明の課題を解決できることを実施例において示しているが、酸化物イオン・電子混合伝導体の構成材料としてBSCF以外の材料を用いた場合に課題を解決できることを示した実施例がない。そして、本件特許明細書の【0016】の「本発明の多孔質セラミックス焼結体100は、酸化物イオン・電子混合伝導体110からなる。・・・用途に応じて選択されるが、例えば、本発明の多孔質セラミックス焼結体を酸素透過膜や燃料電池の空気極に使用する場合には、酸素透過性に優れたBSCFが好ましい。中でも、Ba 0.5Sr 0.5Co 0.8Fe 0.2O 3-δ(δは電気的中性を示すための数値であり、0.2<δ<0.6)がよい。」との記載に鑑みれば、多孔質セラミックス焼結体の特性(通気性等)は、酸化物イオン・電子混合伝導体の構成材料としてどの材料を用いるかに応じて変動することは当業者の技術常識であるから、酸化物イオン・電子混合伝導体の構成材料として、BSCF以外の材料を用いた場合に本件発明の課題を解決できるか否かが不明である。そのため、酸化物イオン・電子混合伝導体の構成材料としてBSCFを用いることを限定していない本件発明1、4~7は、本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであり、サポート要件を満たさない。
c 多孔質セラミックス焼結体の強度について(特許異議申立書第16~18頁)
発明の詳細な説明では、本件発明の多孔質セラミックス焼結体が解決すべき課題として、支持体として自立できるだけの強度を確保する、という課題を示しているが、本件発明1~4には、多孔質セラミックス焼結体が支持体として自立できるだけの強度を有することが限定されていないから、本件発明1~4は、本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであり、サポート要件を満たさない。
(イ)申立人の主張の検討
a 造孔剤としてデンプンを使用することについて
(a)発明の詳細な説明には、本件発明の多孔質セラミックス焼結体の製造方法について、「酸化物イオン・電子混合伝導体であるセラミックスの粒子と、デンプンとを、少なくとも水を含有する分散媒中で混合するステップと、その混合物を50℃以上150℃以下の温度範囲で加熱し、デンプンを糊化させるステップと、その糊化体を-5℃以上10℃以下の温度範囲を満たす第1の条件で保持し、次いで、-10℃以下の温度範囲を満たす第2の条件で保持し、デンプンを老化させるステップと、その老化体を乾燥させ、分散媒を除去するステップと、その成形体を焼成するステップとを包含する。このようなステップにより、デンプンが造孔剤として機能し、デンプンの糊化および老化現象を利用し、連通した気孔を有する多孔質セラミックスを製造できる。」と記載されている(【0011】)。
(b)すなわち、造孔剤としてデンプンを使用することは、多孔質セラミックス焼結体の製造方法において、気孔連通構造を形成するための製造条件であって、本件発明の多孔質セラミックス焼結体という「物」の発明における必須の構成要素ではない。
よって、申立人の上記(ア)aの主張を採用することはできない。
b 酸化物イオン・電子混合伝導体の構成材料について
(a)発明の詳細な説明の【0050】には、「酸素透過膜400の動作を説明する。支持体410を構成する多孔質セラミックス焼結体100中の気孔連通構造120を通った酸素を含有する空気が、酸素分離活性層420に到達すると、酸素は電子を受け取り、O2+4e-→2O2-の反応により酸化物イオンとなる。生成した酸化物イオンは、酸素分離活性層420中を拡散し、420の反対側の表面で互いに結合し、O2-+O2-→O2+4e-の反応により、酸素となって、酸素分圧の小さい酸素分離活性層420の支持体410と対向する側に放出される。このようにして空気から純酸素を分離できる。」と記載されており、酸素透過膜中の酸素の酸化・還元反応によって、酸素透過性を示すことが説明されている。
そうすると、発明の詳細な説明の【0016】の「本発明の多孔質セラミックス焼結体を酸素透過膜や燃料電池の空気極に使用する場合には、酸素透過性に優れたBSCFが好ましい。」との記載における「酸素透過性」とは、酸素と接触する材料中の酸素の酸化・還元反応に影響を受けるものであって、材料の化学的性質によるものと理解できる。
(b)一方、本件発明の課題における「通気性」とは、上記ア(ウ)b(a)に記載のとおり、走査型電子顕微鏡等による顕微鏡観察によって確認される気孔連通構造を有することにより向上するものであるから、材料の物理的な構造によるものと認識できる。したがって、多孔質セラミックス焼結体の通気性が、酸化物イオン・電子混合伝導体の構成材料としてどの材料を用いるかに応じて変動するのかどうかを検討するには、上記(a)のような酸素透過性ではなく、前記気孔連通構造という物理的な構造が変動するかどうかを検討するべきであるといえる。
(c)そこで、上記(b)の気孔連通構造をどのように形成するかについて見てみると、発明の詳細な説明には、上記a(a)の記載に加えて、次の記載を認めることができる。
「【0032】
さらに、ステップS210において、セラミックス粒子310とデンプン320とは、100重量部のセラミックス粒子310に対して、20重量部以上75重量部以下の範囲のデンプン320を満たすように、混合される。デンプン320が20重量部未満の場合、気孔連通構造が十分形成されないため、酸素透過性が期待できない場合がある。・・・」
「【0034】
ステップS220:ステップS210で得られた混合物340を、50℃以上150℃以下の温度範囲で加熱し、デンプン320を糊化させる。図3に糊化したデンプン350を示す。50℃未満の場合、デンプン320の糊化現象が進まない場合がある。150℃を超えると、デンプン320の糊化現象が急速に進み、良好な気孔連通構造とならない場合がある。
【0035】
好ましくは、混合物340を、100℃以上130℃以下の温度範囲で30分以上2時間以下の時間、攪拌しながら加熱すればよい。これにより、全体に均一にデンプン320の糊化現象が進行するため、形状制御された気孔連通構造となる。・・・」
「【0069】
気孔径に着目すると、図6(A)~(C)に示されるように、大気圧乾燥を行えば、均一かつ小さな気孔径(0.5μ~1μm)を有する連通した気孔が得られることが分かった。一方、図6(F)~(H)に示されるように、真空凍結乾燥を行えば、デンプンに加えて分散媒も造孔剤として機能することから、均一かつ比較的大きな気孔径(1μm~5μm)を有する連通した気孔が得られることが分かった。
【0070】
図7(A)~(C)はいずれも焼結温度は同じ(900℃)であるが、分散媒中のエタノールの含有量が異なる。同様に、図7(D)~(F)はいずれも焼結温度は同じ(1100℃)であるが、分散媒中のエタノールの含有量が異なる。図7(A)および(D)によれば、分散媒が水を含有しない場合、連通した気孔を有しないことが分かった。このことから、デンプンの糊化・老化現象を利用する場合には、分散媒は少なくとも水を含有する必要があることが示された。」
(d)上記(c)の記載から、多孔質セラミックス焼結体の製造方法において、造孔剤としてデンプンを使用するとともに、デンプンの混合量、分散媒の種類や量、デンプンの糊化条件、及び乾燥条件を制御することによって、上記(b)で検討した気孔連通構造が形成されると理解できる。
しかしながら、発明の詳細な説明には、酸化物イオン・電子混合伝導体の構成材料の種類が、上記(b)で検討した気孔連通構造の形成に影響を及ぼすことは何ら記載されていないし、そのような技術常識も存在しない。
そうすると、多孔質セラミックス焼結体の通気性が、酸化物イオン・電子混合伝導体の構成材料としてどの材料を用いるかに応じて変動するとはいえないから、上記申立人の(ア)bの主張は採用できない。
c 多孔質セラミックス焼結体の強度について
上記ア(イ)のとおり、本件発明の課題は、「連通性に優れた酸化物イオン・電子混合伝導体からなる多孔質セラミックス焼結体およびそれを用いた用途を提供すること」であり、「支持体として自立できるだけの強度を確保する」ことではない。
したがって、上記申立人の(ア)cの主張は、発明の課題の認定から誤っており、採用できない。
ウ 申立理由3についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立理由3に理由はない。
(4)申立理由4(明確性)について
ア 具体的な指摘事項
申立人の主張する申立理由4は、概略、以下のとおりである。
(ア)数値範囲相互の整合性について(特許異議申立書第18~19頁)
本件発明1には、「50%以上75%以下の範囲を満たす開気孔率を有し」、「0.05%以上4.0%以下の範囲を満たす閉気孔率を有し」、及び「23%以上50%以下の範囲を満たす相対密度を有し」との発明特定事項が規定されているところ、多孔質セラミックス焼結体において、気孔率(開気孔率+閉気孔率)と相対密度を足し合わせた値は100%となるはずである。しかしながら、前記発明特定事項において、例えば、相対密度の数値範囲の最大値(50%)と、他の2つの要素の数値範囲の最大値(開気孔率の最大値:50%、閉気孔率の最小値:0.05%)との和が、100%を超えているため、本件発明1は、技術的に正しくない記載を含んでいることが明らかである。したがって、本件発明1~7は、発明特定事項に規定された数値範囲が相互に整合しておらず、発明特定事項の内容に技術的な欠陥があるため、不明確である。
(イ)多孔質セラミックス焼結体の「気孔径」について(特許異議申立書第19~21頁)
本件発明1には、「0.5μm以上20μm以下の範囲を満たす気孔径を有する」との発明特定事項が規定されているところ、本件特許明細書の「本発明の多孔質セラミックス焼結体100は、上述する気孔連通構造120を有するが、気孔径130は、0.5μm以上100μm以下の範囲を満たす。ここで、本明細書における気孔径130とは、連通した気孔120の短手方向の長さを意図し、吸脱着等温線から細孔径分布を求めてもよいが、簡易的には、顕微鏡観察によって得られた画像から気孔径を100個ほど算出し、平均してもよい。この範囲の気孔径を有すれば、通気性に優れる。」(【0020】)との記載によれば、本件発明1における「気孔径」の定義は、「連通した気孔の短手方向の長さ」であると解される。
さらに上記記載から、「気孔径」は、以下の2つの方法により特定できると解される。
(方法1)吸脱着等温線から細孔径分布を求める方法
(方法2)顕微鏡観察によって得られた画像から気孔径を100個ほど算出し、平均する方法
しかしながら、上記方法2に関し,顕微鏡観察によって得られた画像には、連通した気孔の一断面(のみ)が表れるため、該画像において、該一断面から、「連通した気孔の短手方向」を特定することは不可能である。そうすると、本件特許明細書の各実施例において、顕微鏡写真のどの部分の長さをもって気孔径として認定しているのか不明である。
また、本件発明1の上記気孔径の数値範囲が、気孔径の分布(方法1)を意味しているのか、気孔径の平均値の数値範囲(方法2)を意味しているのかも理解できない。
したがって、本件発明1~7は、多孔質セラミックス焼結体の「気孔径」の特定方法や「気孔径」の数値範囲が意味するところが不明確である。
イ 明確性要件適合性の判断
(ア)数値範囲相互の整合性について
本件特許明細書の表5には、例1~27、31~33の開気孔率、閉気孔率、及び相対密度が示されており、各数値を足し合わせた値は、いずれの例においても100%になっている。また、多孔質セラミックス焼結体において、開気孔率、閉気孔率、及び相対密度を足し合わせた値が100%となることは技術常識である。
以上のことを踏まえると、本件発明1に特定された「50%以上75%以下の範囲を満たす開気孔率」、「0.05%以上4.0%以下の範囲を満たす閉気孔率」、及び「23%以上50%以下の範囲を満たす相対密度」との発明特定事項は、各数値範囲から、合計が100%を超えないように各数値を選択するものと解するのが自然であるから、本件発明1の前記発明特定事項が、第三者に不測の不利益を生じさせるほどに不明確であるとはいえない。
(イ)多孔質セラミックス焼結体の「気孔径」について
本件特許明細書には、「本明細書における気孔径130とは、連通した気孔120の短手方向の長さを意図し、吸脱着等温線から細孔径分布を求めてもよいが、簡易的には、顕微鏡観察によって得られた画像から気孔径を100個ほど算出し、平均してもよい。」(【0020】)と記載されているものの、実施例を見てみると、「焼成前の成形体および焼結体の微細構造を、走査型電子顕微鏡(SEM、JEOL製JSM-6510)によって観察した」(【0061】)ことが記載され、図6~図8には、各実施例の焼結体の破断面のSEM像が示されるとともに、表5には、各実施例の焼結体の気孔径(μm)が、数値範囲(例えば表5の例1では「0.5~15.0」)として示されている。そうすると、前記数値範囲は、各実施例の焼結体の破断面の顕微鏡観察によって得られる気孔径の分布であると理解できる。
よって、本件発明1の「0.5μm以上20μm以下の範囲を満たす気孔径」との発明特定事項は、多孔質セラミックス焼結体の破断面の顕微鏡観察によって得られる気孔径の分布を意味しているということを、上記実施例の記載に基づいて理解することができるから、本件発明1の前記発明特定事項が、第三者に不測の不利益を生じさせるほどに不明確であるとはいえない。
(ウ)そして、本件発明1~7のその余の発明特定事項をみても、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確な記載も見当たらない。
したがって、本件請求項1~7の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定された要件に適合する。
ウ 申立理由4についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立理由4に理由はない。
第4 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700298