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特許異議申立

2019-700819

液晶ポリエステル組成物

審判番号
2019-700819
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2018-047607外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2019年10月10日
審決日
2020年11月27日
公報発行日
2021年04月30日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.537-YAA(C08J) / P1651.536-YAA(C08J) / P1651.113-YAA(C08J) / P1651.121-YAA(C08J)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第113条第4号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6500140号発明「液晶ポリエステル組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第6500140号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-12〕について訂正することを認める。 特許第6500140号の請求項1ないし5及び8ないし12に係る特許を維持する。 特許第6500140号の請求項6及び7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 特許第6500140号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし12に係る特許についての出願は、平成24年2月17日(優先権主張:平成23年2月28日)になされた特許出願(特願2012-32524号)の一部を、平成28年11月30日に新たに特許出願したもの(特願2016-232969号)の一部を、平成30年3月15日に新たに特許出願したものであり、平成31年3月22日に特許権の設定登録(請求項の数12)がされ、同年4月10日に特許掲載公報が発行されたものである。 本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和1年10月10日   :特許異議申立人森田弘潤(以下、「特許異議              申立人」という。)による、全請求項に係る              特許に対する特許異議の申立て 令和2年 1月14日付け: 取消理由通知 同年 3月12日  : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 同年 4月23日  : 特許異議申立人による意見書の提出 同年 5月22日付け: 特許権者に対する審尋 同年 6月15日  : 特許権者による回答書の提出 同年 7月13日付け: 取消理由通知(決定の予告) 同年 9月 8日  : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 なお、令和2年3月12日にされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。 また、令和2年9月8日にされた訂正請求における訂正は、既に特許異議申立人によって、同年4月23日に意見書が提出されており、かつ下記「第2 訂正の適否について」にあるように、該訂正請求によって特許請求の範囲が相当程度減縮され、事件において提出された全ての証拠や意見等を踏まえて更に審理を進めたとしても特許を維持すべきとの結論となると当審が判断したため、特許法第120条の5第5項ただし書における特別の事情と認め、同条第5項の通知を行っていない。 第2 訂正の適否について 1 訂正の内容 特許権者により、令和2年9月8日になされた訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下の訂正事項1ないし4のとおりである。なお、下線は、訂正箇所について当審が付したものである。 (1) 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1の、 「繊維状充填材と板状充填材との配合比率(質量)が1.0を超え1.6以下である液晶ポリエステル組成物の製造方法。」との記載を、 「繊維状充填材と板状充填材との配合比率(質量)が1.0を超え1.6以下であり、板状充填材がマイカ及び/又はタルクであり、 板状充填材が体積平均粒径10~30μmの板状充填材である液晶ポリエステル組成物の製造方法。」に訂正する。 請求項1の記載を引用する請求項2ないし5及び8ないし12も同様に訂正する。 (2) 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項6及び7を削除する。 (3) 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項8の、 「請求項1~7のいずれかに記載の」との記載を、 「請求項1~5のいずれかに記載の」に訂正する。 請求項8の記載を引用する請求項9ないし12も同様に訂正する。 (4) 訂正事項4 特許請求の範囲の請求項11の、 「請求項1~10のいずれかに記載の」との記載を、 「請求項1~5、8~10のいずれかに記載の」に訂正する。 請求項11の記載を引用する請求項12も同様に訂正する。 (5) 一群の請求項について 本件訂正請求は、訂正前の請求項1ないし12について、請求項2ないし12は、それぞれ請求項1を、直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。 したがって、訂正前の請求項1ないし12に対応する訂正後の請求項1ないし12は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 2 訂正の適否についての検討 (1) 訂正事項1に係る請求項1等の訂正について 訂正事項1に係る請求項1の訂正は、「繊維状充填材と板状充填材との配合比率(質量)が1.0を超え1.6以下である液晶ポリエステル組成物の製造方法」を、「繊維状充填材と板状充填材との配合比率(質量)が1.0を超え1.6以下であり、板状充填材がマイカ及び/又はタルクであり、 板状充填材が体積平均粒径10~30μmの板状充填材である液晶ポリエステル組成物の製造方法。」として、液晶ポリエステル組成物の製造方法に用いる「板状充填材」に関し、さらに限定することにより、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 また、上記「板状充填材」に係る訂正事項は、訂正前の請求項6の「板状充填材がマイカ及び/又はタルクである」との記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 そして、請求項1の記載を引用する請求項2ないし5及び8ないし12に対する訂正事項1に係る訂正も請求項1に係る訂正事項1に伴う訂正であって同様に適法である。 (2) 訂正事項2に係る請求項6及び7の訂正について 訂正事項2は、訂正前の請求項6及び7を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、変更するものではない。 (3) 訂正事項3に係る請求項8等の訂正について 訂正事項3に係る請求項8の訂正は、訂正前の請求項8が、訂正前の請求項1ないし7を引用する記載であったのを、前記訂正事項2により請求項6及び7を削除したことに伴い、これらの請求項を引用しないものとするためのものであり、しかも、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正がされた訂正後の請求項1を引用するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、変更するものではない。 そして、請求項8の記載を直接又は間接的に引用する請求項9ないし12に対する訂正事項3に係る訂正も請求項8に係る訂正事項3に伴う訂正であって同様に適法である。 (4) 訂正事項4に係る請求項11等の訂正について 訂正事項4に係る請求項11の訂正は、訂正前の請求項11が、訂正前の請求項1ないし10を引用する記載であったのを、前記訂正事項2により請求項6及び7を削除したことに伴い、これらの請求項を引用しないものとするためのものであり、しかも、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正がされた訂正後の請求項1を引用するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、変更するものではない。 そして、請求項11の記載を引用する請求項12に対する訂正事項4に係る訂正も請求項11に係る訂正事項4に伴う訂正であって同様に適法である。 3 小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で読み替えて準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-12〕について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるので、本件特許の請求項1ないし12に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」ないし「本件特許発明12」といい、これらを総称して「本件特許発明」ともいう。)は、令和2年9月8日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定される、以下に記載のとおりのものである。 「【請求項1】 液晶ポリエステル100質量部と、数平均繊維径が5~15μmであって数平均アスペクト比が100以上である繊維状充填材および板状充填材の合計65~100質量部とを溶融混練する工程からなる、液晶ポリエステル100質量部と、数平均繊維径が5~15μmであって数平均アスペクト比が20~40である繊維状充填材および板状充填材の合計65~100質量部とを含有し、繊維状充填材と板状充填材との配合比率(質量)が1.0を超え1.6以下であり、板状充填材がマイカ及び/又はタルクであり、 板状充填材が体積平均粒径10~30μmの板状充填材である液晶ポリエステル組成物の製造方法。 【請求項2】 液晶ポリエステルが、下式(1)で表される繰返し単位と、下式(2)で表される繰返し単位と、下式(3)で表される繰返し単位とを含有する液晶ポリエステルである請求項1記載の製造方法: (1)-O-Ar1-CO- (2)-CO-Ar2-CO- (3)-X-Ar3-Y- (4)-Ar4-Z-Ar5- 式中、Ar1はフェニレン基、ナフチレン基またはビフェニリレン基を表し;Ar2及びAr3はそれぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基または上式(4)で表される基を表し;X及びYはそれぞれ独立に、酸素原子またはイミノ基(-NH-)を表し;Ar4及びAr5はそれぞれ独立に、フェニレン基またはナフチレン基を表し;Zは酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはアルキリデン基を表し;Ar1、Ar2又はAr3に係る水素原子はそれぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。 【請求項3】 Ar1がp-フェニレン基または2,6-ナフチレン基であり、Ar2がp-フェニレン基、m-フェニレン基または2,6-ナフチレン基であり、Ar3がp-フェニレン基または4,4’-ビフェニリレン基であり、X及びYがそれぞれ酸素原子である請求項2に記載の製造方法。 【請求項4】 液晶ポリエステルが、式(1)で表される繰返し単位30~80モル%と、式(2)で表される繰返し単位10~35モル%と、式(3)で示される繰返し単位10~35モル%とからなる液晶ポリエステルである請求項2又は3に記載の製造方法(これら繰返し単位の合計を100モル%とする)。 【請求項5】 繊維状充填材がガラス繊維、ウォラストナイトウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー及びチタン酸カリウムウィスカーからなる群から選ばれる1つ又は2つ以上の組合せである請求項1~4のいずれかに記載の製造方法。 【請求項6】 (削除) 【請求項7】 (削除) 【請求項8】 液晶ポリエステル100質量部に対し、さらに粒状充填材5~10質量部を溶融混練する請求項1~5のいずれかに記載の製造方法。 【請求項9】 粒状充填材がガラスビーズである請求項8に記載の製造方法。 【請求項10】 粒状充填材が体積平均粒径5~50μmの粒状充填材である請求項8又は9に記載の製造方法。 【請求項11】 請求項1~5、8~10のいずれかに記載の製造方法によって製造される液晶ポリエステル組成物を射出成形する工程からなる成形体の製造方法。 【請求項12】 成形体がコネクターである請求項11に記載の製造方法。」 第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由及び取消理由の概要 令和1年10月10日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は、次のとおりである。 1 申立理由1(明確性要件違反) 本件特許の訂正前の請求項1ないし12に係る発明についての特許は、以下の理由で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 ・ 本件特許の訂正前の請求項1の記載において、「数平均繊維径」という用語の意味が明確に理解できない。 2 申立理由2(実施可能要件違反) 本件特許の訂正前の請求項1ないし12に係る発明についての特許は、以下の理由で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 ・ 本件特許の訂正前の請求項1に係る発明における繊維状充填材の「数平均繊維径」が明確に特定されない以上、それを基に算出される繊維状充填材の「数平均アスペクト比」が所期の条件を充足するか否かを判断するのには、本件特許明細書の記載では当業者の過度の試行錯誤を要する。 3 申立理由3(サポート要件違反) 本件特許の訂正前の請求項1ないし12に係る発明についての特許は、以下の理由で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (1) 申立理由3-1 本件特許の訂正前の請求項1に係る発明の特定事項である「数平均アスペクト比が20~40である繊維状充填材」について、本件特許明細書の【表2】に示された実施例7ないし10におけるウエルド部の破壊エネルギーが、【表1】に示された本件発明の課題を解決できない比較例の場合に比して同等あるいは劣るため、本件特許発明1が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、発明の解決課題が解決できることを当業者において認識できるように記載していない。 (2) 申立理由3-2 本件特許の訂正前の請求項1に係る発明の特定事項である「繊維状充填材と板状充填材との配合比率(質量)が1.0を超え1.6以下」について、本件特許明細書の【表1】に示された実施例1ないし6における「ガラス繊維/タルク」の質量比は1.10ないし1.50の範囲であって、この質量比が大きいほどウエルド部の破壊エネルギーが大きい(優れる)ことから、更に質量比が小さくなる1.0を越え1.10未満の実施例が存在しない範囲は、いわゆるサポート要件を満たしていない。 また、実施例3ないし5は、本件特許発明1の特定事項に含まれないガラスビーズの配合によって課題解決するものとして、実施例3ないし5のものとして示された条件は不適切なものである。 (3) 申立理由3-3 本件特許の訂正前の請求項1に係る発明は、「板状充填材」の形状及び密度について特定するものではないため、出願時の技術常識に照らしても、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 4 申立理由4 (甲第1号証を主引用例とする進歩性欠如) 本件特許の訂正前の請求項1ないし12に係る発明は、甲第1号証に記載された発明を主たる引用発明とし、それに基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 5 申立理由5-1(甲第2号証を根拠とする新規性欠如) 本件特許の訂正前の請求項1ないし7及び11に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 6 申立理由5-2(甲第2号証を主引用例とする進歩性欠如) 本件特許の訂正前の請求項1ないし12に係る発明は、甲第2号証に記載された発明を主たる引用発明とし、それに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 7 証拠方法 特許異議申立人は、証拠として、以下の文献等を提出する。文献の表記は、特許異議申立書の記載に基づく。以下、甲各号証の番号に応じて、甲第1号証を「甲1」などという。 ・ 甲第1号証:特開平4-76049号公報 ・ 甲第2号証:特開2007-254717号公報 ・ 甲第3号証:特開2009-215530号公報 ・ 甲第4号証:特開2009-242454号公報 ・ 甲第5号証:特開平3-220260号公報 ・ 甲第6号証:炭素繊維の径方向熱膨張係数の測定 https://www.jstage.jst.go.jp/article/tanso1949/1991/146/1991_146_22/_pdf ・ 甲第7号証:繊維方向に直径変化を伴う炭素繊維の引張強度分布の推定 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsms1963/47/7/47_7_719/_pdf ・ 甲第8号証:日東紡のホームページ https://www.nittobo.co.jp/business/glassfiber/frtp/hisff.htm ・ 甲第9号証:ワラストナイトによるミクロレベルのひび割れ架橋が超高強度高靭性複合材料の引張特性に及ぼす影響 ・ 甲第10号証:日本タルク株式会社のホームページ http://www.nippon-talc.co.jp/products/micro-ace/ ・ 甲第11号証:片倉コープアグリ株式会社のホームページ http://www.katakuraco-op.com/business/inorganic.html ・ 甲第12号証:株式会社ヤマグチマイカのカタログ なお、甲第8ないし12号証は、令和2年4月23日に提出された意見書に添付されたものである。 第5 令和2年7月13日付け取消理由(決定の予告)の概要 本件特許の本件訂正前の請求項1ないし5及び7ないし12に係る特許に対して、当審が令和2年7月13日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。 1 取消理由1(明確性) 本件特許の訂正前の請求項1ないし5及び7ないし12に係る発明についての特許は、以下の理由で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 ・ 本件特許の訂正前の請求項1の記載において、「数平均繊維径」という用語の意味が明確に理解できない。 2 取消理由2(サポート要件) 本件特許の訂正前の請求項1ないし5及び7ないし12に係る発明についての特許は、以下の理由で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 ・ 本件特許の訂正前の請求項1に係る発明は、「板状充填材」の形状及び密度について特定するものではないため、出願時の技術常識に照らしても、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 第6 当審の判断 当審は、以下に述べるように、上記取消理由1、取消理由2及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできないと判断する。 1 取消理由1(特許法第36条第6項第2号) (1) 明確性要件の判断基準 特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 (2) 明確性要件の判断 本件特許の請求項1の記載は、本件訂正により、「板状充填材がマイカ及び/又はタルクであり、板状充填材が体積平均粒径10~30μmの板状充填材である」ことが特定された。そして、訂正後の請求項1には、それ自体不明確な記載はないし、明細書の記載及び図面にも沿うものである。 また、本件特許の請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし5及び8ないし12においても同様である。 (3) 特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、請求項1の記載において、「数平均繊維径」という用語の意味が一義的明確に理解できない旨主張する。 しかしながら、繊維の長さ方向に垂直な断面を電子顕微鏡で観察した際に得られる繊維径の「数平均」としたものが、「数平均繊維径」として当業者が明確に理解できるから、請求項1の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。 (4) 取消理由1についてのまとめ したがって、本件特許の請求項1ないし5及び8ないし12に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしているから、取消理由1には理由がない。 2 取消理由2(特許法第36条第6項第1号) (1) サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、本願明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明が解決しようとする課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か、また、その記載がなくとも、当業者が出願時の技術常識に照らし、当該発明が解決しようとする課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断されるべきである。 (2) 本件特許明細書の記載 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。 (ア) 「【発明が解決しようとする課題】 【0004】 しかしながら、これらの液晶ポリエステル組成物は、その成形体のウエルド強度が必ずしも十分ではない。本発明の目的は、ウエルド強度に優れる成形体を与える液晶ポリエステル組成物を提供することである。」 (イ) 「【0023】 本発明の製造方法で用いられる繊維状充填材は、数平均繊維径が5~15μmであり、数平均繊維長が1~3mmであり、数平均アスペクト比(数平均繊維長/数平均繊維径)が100以上、好ましくは200以上であって、通常500以下、好ましくは400以下の繊維状充填材である。このようなアスペクト比を有する繊維状充填材を用い(すなわち、繊維長の比較的長い繊維状充填材を用い)、液晶ポリエステル組成物中の繊維状充填材の数平均アスペクト比を20~40、好ましくは30~40にすることによって(すなわち、液晶ポリエステル組成物中の繊維状充填材の繊維長を比較的長くすることによって)、得られる液晶ポリエステル組成物からなる成形体のウエルド強度を向上させることができる。」 (ウ) 「【0024】 本発明に係る板状充填材は通常、無機充填材である。板状無機充填材として、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、ガラスフレーク、硫酸バリウム及び炭酸カルシウム、ならびにこれらの2以上の組合せを例示することができる。中でも、タルク及び/またはマイカが好ましく、タルクがより好ましい。 本発明の製造方法で用いられる板状充填材の体積平均粒径は、液晶ポリエステル組成物からなる成形体のウエルド強度向上の観点から、好ましくは10~30μm、より好ましくは10~20μmである。板状充填材の体積平均粒径は、レーザー回折法により測定できる。本発明の製造方法で用いられる板状充填材の体積平均粒径は、溶融混練によって実質上変化しないので、該体積平均粒径は、得られる液晶ポリエステル組成物に含有される板状充填材の体積平均粒径と実質同一である。 【0025】 繊維状充填材と板状充填材との合計の配合量は、液晶ポリエステル100質量部あたり、65~100質量部、好ましくは70~100質量部、より好ましくは80~100質量部である。該配合量が65質量部未満であると、液晶ポリエステル組成物からなる成形体のウエルド強度向上効果や反り低減効果が不十分になり、100質量部を超えると、液晶ポリエステル組成物の溶融流動性が不十分になる。 【0026】 繊維状充填材と板状充填材との配合比率(質量)は、液晶ポリエステル組成物からなる成形体のウエルド強度向上の観点から、1.0を超え1.6以下、好ましくは1.1~1.6、より好ましくは1.1~1.5である。」 (エ) 「【0036】 実施例1~6、比較例1~5 上記の液晶ポリエステル(1)および(2)と、繊維状充填材として旭ファイバーグラス(株)製の数平均繊維径10μm、数平均繊維長3mmおよび数平均アスペクト比300なるチョップドガラス繊維1(CS03JAPX-1)と、板状充填材としての日本タルク(株)の体積平均粒径14.2μmのタルク(MS-KY)と、粒状充填材としてのポッターズ・バロティーニ(株)の体積平均粒径18μmのガラスビーズ(EGB731)とを、表1に示す割合で、池貝鉄工(株)の同方向2軸押出機(PCM-30HS)を用いて、330℃で溶融混練し、ペレット化した。 その際、液晶ポリエステルの全量を、押出機の上流部供給口から供給し、繊維状充填材の全量と、板状充填材の全量と、粒状充填材の全量とを、押出機の下流側供給口から供給した。 得られたペレットの一部を、600℃の電気炉で3時間加熱することにより、繊維状充填材を得た後、顕微鏡を用いて繊維長を測定し、数平均アスペクト比を算出した。 また、得られたペレットを、日精樹脂工業(株)の射出成形機(PS40E5ASE型)を用いて、シリンダー温度340℃、金型温度130℃、射出率30cm3/sで射出成形し、縦64mm、横64mm、厚さ0.5mmで、直径10mmの円形開口部を2つ有する図1に示す成形体を得た。この成形体を、点線で示すラインで切断して、幅30mm、長さ64mm、厚さ0.5mmのウエルド部を含む試験片を切り出し、3点曲げ試験を行った。破断点までの曲げ応力を曲げ歪量で積分した値をウエルド部の破壊エネルギーとした。この破壊エネルギーが大きいほどウエルド強度が大である。結果を表1に示した。 【0037】 【表1】 【0038】 実施例7~10、比較例6~9 上記の液晶ポリエステル(1)および(2)と、繊維状充填材として旭ファイバーグラス(株)製の数平均繊維径10μm、数平均繊維長3mmおよび数平均アスペクト比300なるチョップドガラス繊維1(CS03JAPX-1)または日東紡績(株)製の数平均繊維径6μm、数平均繊維長3mmおよび数平均アスペクト比500なるチョップドガラス繊維2と、板状充填材としての日本タルク(株)の体積平均粒径14.2μmのタルク(MS-KY)とを、表2に示す割合で、池貝鉄工(株)の同方向2軸押出機(PCM-30HS)を用いて、330℃で溶融混練し、ペレット化した。 その際、液晶ポリエステルの全供給量のうち55重量% と、繊維状充填材の全供給量のうち15重量%とを、押出機の上流部供給口から供給し、液晶ポリエステルの残量と繊維状充填材の残量と、板状充填材の全量とを、押出機の下流側供給口から供給した。 得られたペレットの一部を、600℃の電気炉で3時間加熱することにより、繊維状充填材を得た後、顕微鏡を用いて繊維長を測定し、数平均アスペクト比を算出した。 また、得られたペレットを、日精樹脂工業(株)の射出成形機(PS40E5ASE型)を用いて、シリンダー温度340℃、金型温度130℃、射出率30cm3/sで射出成形し、縦64mm、横64mm、厚さ0.5mmで、直径10mmの円形開口部を2つ有する図1に示す成形体を得た。この成形体を、点線で示すラインで切断して、幅30mm、長さ64mm、厚さ0.5mmのウエルド部を含む試験片を切り出し、3点曲げ試験を行った。破断点までの曲げ応力を曲げ歪量で積分した値をウエルド部の破壊エネルギーとした。この破壊エネルギーが大きいほどウエルド強度が大である。結果を表2に示した。 【00397】 【表2】 」 (オ) 「【図1】 」 (3) サポート要件の判断 ア 本件特許発明1について 上記1(ア)ないし(オ)の記載、特に、(ア)の記載から、本件特許発明の解決課題は、少なくとも「ウエルド強度に優れる成形体を与える液晶ポリエステル組成物を提供すること」と認められる。 液晶ポリエステル成形体のウエルド強度を向上させる手段として、本件特許明細書には、以下の記載がなされている。 (ア) 充填材の形状について 繊維状充填材は、「数平均繊維径が5~15μmであり、数平均繊維長が1~3mmであり、数平均アスペクト比(数平均繊維長/数平均繊維径)が100以上」とすること(段落【0023】)とされ、 板状充填材は、「体積平均粒径は、液晶ポリエステル組成物からなる成形体のウエルド強度向上の観点から、好ましくは10~30μm、より好ましくは10~20μm」であること(段落【0024】)。 (イ) 充填材の量について 「繊維状充填材と板状充填材との合計の配合量は、液晶ポリエステル100質量部あたり、65~100質量部」にし(段落【0025】)、 繊維状充填材と板状充填材との配合比率(質量)は、「1.0を超え1.6以下」にすること(段落【0026】)。 射出成形する樹脂に添加する繊維状充填材について、甲3の段落【0044】に、重量平均繊維長を調整することにより、成形体の機械的強度やウエルド強度が変化すること、及び段落【0058】に、非繊維状充填材としての黒鉛の平均粒径が成形体への機械的物性への影響を与えることが記載されているように、繊維状、非繊維状を問わず、一般に射出成形する樹脂に添加する充填材の形状が、成型体の強度に影響することは、当業者にとって明らかである。 また、繊維状充填材と板状充填材との配合比率(質量)によって、ウエルド部強度に影響があることは、実施例からも読み取れること、そして組成物中に占める充填材の体積が成形体の強度に影響するとの技術常識からも、板状充填材の形状と密度が、本件特許発明の課題解決に影響することは自明である。 そして、上記(1)エ及びオの記載から、「体積平均粒径14.2μmのタルク(MS-KY)」を用いたものが、液晶ポリエステル成形体のウエルド強度が得られることが、実際に確認されている。 そうすると、タルクやマイカの密度の取り得る範囲は、当業者が技術常識として知るものであること、そして、タルクやマイカからなる板状充填材の体積平均粒径が実施例で14.2μmのものが所期の効果を有することが示され、また段落【0024】に好ましい範囲として10~30μmであることが記載されていることから、「繊維状充填材と板状充填材との配合比率(質量)が1.0を超え1.6以下であり、板状充填材がマイカ及び/又はタルクである」こと、及び「板状充填材がマイカ及び/又はタルクであり、板状充填材が体積平均粒径10~30μmの板状充填材である」ことによって、本件特許発明の課題が解決することを当業者が認識できるといえる。 よって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明において、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえるから、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明である。 イ 本件特許発明2ないし5及び8ないし12について 本件特許の請求項1の従属項に係る本件特許発明2ないし5及び8ないし12についての特許は、請求項1の特定事項をすべて含み、さらに限定するものであるから、上記アでの請求項1に対する検討と同様、本件特許発明の課題を解決できることを当業者が認識できる特定事項を有する。 よって、本件特許発明2ないし5及び8ないし12は、発明の詳細な説明に記載された発明である。 (4) 特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、令和2年4月23日提出の意見書において、本件特許発明1は、「体積平均粒径14.2μmのタルク(MS-KY)」の一例のみを以って、その効果を「板状充填材がマイカ及び/又はタルクである」という範囲にまで一般化・抽象化できるとは到底認められない」旨主張している。 しかしながら、本件訂正によって、「板状充填材がマイカ及び/又はタルクである」こと及び「板状充填材が体積平均粒径10~30μmの板状充填材である」ことが発明特定事項として含まれる本件特許発明の請求項の記載は、上記(3)で述べた理由により、いわゆるサポート要件を充足する。 したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 (5) 取消理由2についてのまとめ したがって、本件特許の請求項1ないし5及び8ないし12に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているから、取消理由2には理由がない。 3 取消理由(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について 特許異議申立人が主張する申立理由1は、取消理由1と同旨であり、申立理由3-3は、取消理由2と同旨である。 そうすると、取消理由(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立ての理由は、上記第4で示した申立理由2(実施可能要件違反)、申立理由3-1及び3-2(サポート要件違反)、申立理由4(甲第1号証を主引用例とする進歩性欠如)、申立理由5-1(甲第2号証を根拠とする新規性欠如)及び申立理由5-2(甲第2号証を主引用例とする進歩性欠如)である。 (1) 申立理由2(実施可能要件違反) 特許異議申立人は、概略、本件特許発明1における繊維状充填材の「数平均繊維径」が明確に特定されない以上、それを基に算出される繊維状充填材の「数平均アスペクト比」が所期の条件を充足するか否かを判断するのには当業者の過度の試行錯誤を要する旨主張する(異議申立書第32ないし33ページ)。 そこで検討するに、方法の発明の実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法を使用することができる程度の記載があることを要する。 これを踏まえて検討すると、上記1(3)(取消理由1(明確性)において検討したとおり、繊維の長さ方向に垂直な断面を電子顕微鏡で観察した際に得られる繊維径の「数平均」としたものが「数平均繊維径」として当業者が明確に理解できるものであり、その実施も過度の試行錯誤を要するものとはいえない。 よって、特許異議申立人が主張する申立理由2にはその前提において理由がない。 (2) 申立理由3(サポート要件違反) 取消理由2と同旨の理由以外のサポート要件違反に係る特許異議申立人による特許異議申立理由については、以下のア及びイのとおりである。 ア 本件特許発明1の特定事項である「数平均アスペクト比が20~40である繊維状充填材」について 特許異議申立人は、本件特許明細書の【表2】に示された実施例7ないし10におけるウエルド部の破壊エネルギーが、【表1】に示された本件発明の課題を解決できない比較例の場合に比して同等あるいは劣る点をもって、 本件特許発明1が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、発明の解決課題が解決できることを当業者において認識できるように記載していない旨を主張する(特許異議申立書(4-4-2))。 しかしながら、【表1】に係る実施例1ないし6及び比較例1ないし5は、「液晶ポリエステルの全量を、押出機の上流部供給口から供給し、繊維状充填材の全量と、板状充填材の全量と、粒状充填材の全量とを、押出機の下流側供給口から供給」する条件で行うのに対し、【表2】に係る実施例7ないし10及び比較例6ないし9は、「液晶ポリエステルの全供給量のうち55重量%と、繊維状充填材の全供給量のうち15重量%とを、押出機の上流部供給口から供給し、液晶ポリエステルの残量と繊維状充填材の残量と、板状充填材の全量とを、押出機の下流側供給口から供給」する条件で行うものである。 そして、【表1】記載の実施例1ないし6及び【表2】記載の実施例7ないし10は、それぞれの前提条件において、本件特許発明1の特定事項を充足し、かつ成形品のウエルド部の破壊エネルギーの絶対値に現れる本件特許の課題が解決することが認識できる。 また、特許異議申立人の主張は、前提条件の点で異なる【表1】に記載の比較例の成形品のウエルド部の破壊エネルギーの絶対値と【表2】に記載の実施例の当該ウエルド部の破壊エネルギーの絶対値とを直接対比して、本件発明に係る課題解決の可否を論じるものであり、不適当であるというべきであって採用できない。 イ 本件特許発明1の特定事項である「繊維状充填材と板状充填材との配合比率(質量)が1.0を超え1.6以下」について 特許異議申立人は、本件特許明細書の【表1】に示された実施例1ないし6における「ガラス繊維/タルク」の質量比は1.10ないし1.50の範囲であって、この質量比が大きいほどウエルド部の破壊エネルギーが大きい(優れる)ことから、更に質量比が小さくなる1.0を越え1.10未満の実施例が存在しない範囲は、サポート要件を満たしていないこと、そして、実施例3ないし5は、本件特許発明1の特定事項に含まれないガラスビーズの配合によって課題解決するものとして、実施例3ないし5のものとして示された条件は不適切なものである旨を主張する(特許異議申立書(4-4-3))。 しかしながら、前者について、「ガラス繊維/タルク」の質量比が、1.10より小さく1.0を越える範囲の実施例の記載が無くとも、実施例5における1.10と、比較例9における1.00の間に課題解決の可否の境界値があることは技術常識から理解できるし、その値が、比較例9を含まない1.00を越えるところに存在することを否定できる合理的な理由も存在しないし、特許異議申立人はその証拠を示すものでもない。 また、後者について、本件特許明細書の実施例を通じてみても、本件特許発明1の特定事項を全て具備することによって、成形品のウエルド部の破壊エネルギーで表される課題解決できることを示すものであることは当業者にとって明らかであって、実施例3ないし5は、本件特許発明1の特定事項を全て具備し、課題解決を認識できるウエルド部の破壊エネルギーの結果が得られている以上、その他の条件が実施例3ないし5に具備されないことをもって、本件特許発明1の発明特定事項のみでは上記課題を解決できないとすべき事由又は技術常識は存しない。 ウ 申立理由3のまとめ よって、特許異議申立人が主張する申立理由3にはいずれも理由がない。 (3) 申立理由4(甲第1号証を主引用例とする進歩性欠如) ア 甲1発明 甲1の特許請求の範囲、第4ページ左上欄第6ないし8行及び第4ページ左下欄第6ないし12行に記載された事項を、整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。 「溶融成形可能な液晶ポリエステル樹脂100重量部に対して、平均粒径が2.5~3.5μmのタルク10~150重量部と平均繊維径が3~9μmのガラス繊維10~150重量部を充填して得られる液晶ポリエステル樹脂組成物であって、前記ガラス繊維の長さは30~104μmであって、前記組成物を二軸押出機などを用い、200~380℃の温度で溶融混練する、液晶ポリエステルの製造方法。」 イ 本件特許発明1について (ア) 甲1発明との対比・判断 甲1発明の「タルク」及び「ガラス繊維」は充填材として用いられることから、本件特許発明1の「板状充填材」としての「タルク」及び「繊維状充填材」に相当する。そうすると、本件特許発明1と甲1発明は次の点で一致する。 「液晶ポリエステルと、繊維状充填材および板状充填材とを溶融混練する工程からなる、繊維状充填材および板状充填材とを含有し、板状充填材がマイカ及び/又はタルクである液晶ポリエステル組成物の製造方法。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点1> 本件特許発明1における、溶融混練前の繊維状充填材は、「数平均繊維径が5~15μmであって数平均アスペクト比が100以上」であり、液晶ポリエステル100質量部に対して、板状充填材との合計で「65~100質量部」を液晶ポリエステル組成物に含有するのに対し、甲1発明におけるガラス繊維は、「平均繊維径が3~9μm」であって、その長さは「30~104μm」であって、液晶ポリエステル樹脂100重量部に対して、ガラス繊維10~150重量部を充填して得られるものと特定される点。 <相違点2> 本件特許発明1においては、板状充填材が「体積平均粒径10~30μm」と特定されているのに対し、甲1発明において、「平均粒径が2.5~3.5μmのタルク」と特定される点。 <相違点3> 本件特許発明1における、溶融混練後の繊維状充填材は、「数平均繊維径が5~15μmであって数平均アスペクト比が20~40」と特定されているのに対し、甲1発明においては、溶融混練後の繊維状充填材の形状について特定されていない点。 そこで、事案に鑑み、相違点3から検討する。 甲1発明は、二軸押出機などを用い、200~380℃の温度で溶融混練する方法であるから、本件特許明細書の実施例1ないし10で、330℃で同方向2軸押出機によって溶融混練する操作と条件において重複するところがあるが、甲1には、溶融混練後の繊維状充填材の形状、特に繊維状充填材のアスペクト比に着目し、その値を特定の範囲に調整する記載も示唆もなされていないし、当業者にとって、この特定は自明なものでもない。 そして、本件特許発明の実施例1と実施例7との違いからわかるように、溶融混練材料の二軸押出機への投入方法や温度以外の混練条件によって、溶融混練後の繊維状充填材のアスペクト比並びにウエルド部の破壊エネルギーに現れるウエルド強度という本件特許発明の作用効果が相違することは明らかであるから、相違点3によって奏せられる効果は当業者が予想し得るものともいえない。 したがって、甲1発明において、少なくとも相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえず、また、本件特許発明1は「ウエルド強度に優れる成形体を与える液晶ポリエステル組成物を提供する」という甲1発明からみて格別顕著な効果を奏するものである。 (イ) 特許異議申立人の主張の検討 特許異議申立人は、特許異議申立書において、上記相違点3について、甲2及び甲3を証拠方法として提出して、甲1に記載された発明への適用が想到容易であること、そして、「数平均アスペクト比が20~40である」という数値範囲において、その技術的課題が解決しないから顕著な作用効果を奏しない旨主張する(特許異議申立書第51ないし52ページ)。 しかしながら、上記2(3)にて述べたように、本件特許発明の発明特定事項によって課題が解決することが当業者が認識でき、そして、上記(ア)で示したように、溶融混練後の繊維状充填材に係る発明特定事項によって、当業者が予想し得ない顕著な効果を奏するものであるから、上記特許異議申立人の主張は採用できるものではない。 (ウ) 小括 よって、相違点1及び2の検討をするまでもなく、本件特許発明1は甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ 本件特許発明2ないし5及び8ないし12について 本件特許発明2ないし5及び8ないし12は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 エ 申立理由4のまとめ よって、特許異議申立人が主張する申立理由4にはいずれも理由がない。 (4) 申立理由5-1及び5-2(甲第2号証を主引用例とする新規性又は進歩性欠如) ア 甲2発明 甲2の【請求項3】、【0008】、【0038】、【0041】ないし【0043】及び【0050】に記載された事項を、整理すると、甲2には次の発明が記載されていると認める。 <甲2発明> 「(A)液晶性樹脂、(B)繊維状充填材、(C)鱗片状充填材および(D)オレフィン系重合体を配合してなる組成物であって、(A)液晶性樹脂100重量部に対して、(B)繊維状充填材および(C)鱗片状充填材を合わせて50~150重量部、(D)オレフィン系重合体を5~30重量部配合してなる液晶性樹脂組成物の製造方法であって、 (A)液晶性樹脂として、異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステル、 (B)繊維状充填材の数平均繊維径は9~30μm、数平均繊維長さが55~1000μm、 (C)鱗片状充填材は、マイカやタルクであって、数平均粒子径は8~100μmのものであって、 (B)繊維状充填材の配合量(重量)>(C)鱗片状充填材の配合量(重量)の配合比率となるように配合され、 上記液晶性樹脂組成物を、溶融混練により製造する方法。」 イ 甲2実施例2発明 甲2の【0054】ないし【0061】及び【表1】等に記載される実施例2を整理すると、甲2にはさらに次の発明が記載されていると認める。 <甲2実施例2発明> 「液晶性ポリエステル(A3)100重量部と、平均繊維径が10.5μmであって長さ3mmである繊維状充填材(B1)および鱗片状充填材(C2)の合計68(=53+15)重量部並びにグリシジルメタクリレート(D)5重量部とを溶融混練する工程からなる、液晶ポリエステル100重量部と、数平均繊維長が346μmである繊維状充填材(B1)および鱗片状充填材(C2)の合計68重量部とを含有し、繊維状充填材(B1)と鱗片状充填材(C2)との配合比率(質量)が3.5(=53/15)であり、鱗片状充填材(C2)がマイカであり、 鱗片状充填材が平均粒子径30μmの鱗片状充填材である液晶性ポリエステル組成物の製造方法。」 ウ 本件特許発明1について (ア) 甲2発明との対比・判断 甲2発明の「鱗片状充填材」は、本件特許発明1の「板状充填材」に相当する。そうすると、本件特許発明1と甲2発明は次の点で一致する。 「液晶ポリエステルと、繊維状充填材および板状充填材を溶融混練する工程からなる、液晶ポリエステルと繊維状充填材および板状充填材を含有し、板状充填材がマイカ及び/又はタルクである液晶ポリエステル組成物の製造方法。 」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点4> 溶融混練前の液晶ポリエステル組成物における繊維状充填材の形状に関し、本件特許発明1は「数平均繊維径が5~15μmであって数平均アスペクト比が100以上である」ものを配合することを特定するのに対し、甲2発明は、溶融混練前の繊維状充填材の形状(数平均繊維径、繊維長あるいは数平均アスペクト比等)を特定しない点。 <相違点5> 溶融混練後の液晶ポリエステル組成物における繊維状充填材の形状に関し、本件特許発明1は「数平均繊維径が5~15μmであって数平均アスペクト比が20~40である」ものの含有を特定するのに対し、甲2発明は、溶融混練後の繊維状充填材の形状として「(B)数平均繊維径は9~30μm、数平均繊維長さが55~1000μm」であるものの含有を特定する点。 <相違点6> 板状充填材の形状に関し、本件特許発明1は「体積平均粒径10~30μm」と特定するのに対し、甲1発明は「数平均粒子径は8~100μm」と特定する点。 <相違点7> 繊維状充填材に対する板状充填材の配合に関し、本件特許発明1は「繊維状充填材と板状充填材との配合比率(質量)が1.0を超え1.6以下」であるのに対し、甲2発明は「繊維状充填材の配合量(重量)>(C)鱗片状充填材の配合量(重量)の配合比率となるように配合」することを特定する点。 <相違点8> 液晶ポリエステル組成物の成分構成に関し、本件特許発明1は「液晶ポリエステル100質量部」に「繊維状充填材および板状充填材の合計65~100質量部」を配合するのに対し、甲2発明は「(A)液晶性樹脂100重量部に対して、(B)繊維状充填材および(C)鱗片状充填材を合わせて50~150重量部、(D)オレフィン系重合体を5~30重量部配合してなる」ものである点。 そこで、相違点4について検討すると、溶融混練前のポリエステル組成物における繊維状充填材の数平均アスペクト比は、溶融混練後の繊維状充填材の形状や量比から、溶融混練時の温度、剪断力や時間等の条件なくして一義的に100以上であると特定できるものではないから、実質的な相違点である。 次に、相違点5ないし8について検討する。 相違点5に関し、甲2発明における溶融混練後の繊維状充填材の数平均繊維径は9~30μmであって、本件特許発明1における繊維状充填材の数平均繊維径である5~15μmに対して一部において重複する。また、甲2発明における繊維状充填材の数平均アスペクト比を数平均繊維径と数平均繊維長さから取り得る上下限を計算すると、1.7(=55÷30)ないし111(=1000÷9)となり、本件特許発明1で特定する20~40の範囲を包含する。 また、相違点6に関し、甲2発明における溶融混練後の板状充填材の数平均繊維径は9~30μmであって、本件特許発明1における繊維状充填材の数平均繊維径である5~15μmを包含する。 相違点7に関し、甲2発明における繊維状充填材と鱗片状充填材との配合比率は1.0を超えるという下限のみを特定するから、本件特許発明1における1.0を超え1.6以下の範囲を包含する。 相違点8に関し、甲2発明における(A)液晶性樹脂100重量部に対して、(B)繊維状充填材および(C)鱗片状充填材を合わせて50~150重量部であって、本件特許発明1で特定する65~100質量部の範囲を包含する。 そうすると、相違点5ないし8それぞれについて甲2発明の特定事項の数値範囲が本件特許発明1の数値範囲の全体を包含するあるいは一部が重複するものであるし、本件特許発明1の数値範囲を逸脱する範囲が存在する。 一方、発明の解決課題に関し、甲2には、その段落【0004】に「本発明は、液晶性樹脂の流動性を維持し、かつ優れたエポキシ及びシリコーン接着性、耐コロナ性、絶縁破壊強さを示す材料を含有する液晶樹脂組成物およびそれからなる成形品を提供することを課題とする。」と記載されるのに対して、本件特許の「本発明の目的は、ウエルド強度に優れる成形体を与える液晶ポリエステル組成物を提供することである。」(段落【0004】)と相違するものである。そうすると、甲2の上記課題に照らして、相違点5ないし8に係る特定事項それぞれを本件特許発明1の範囲にすべて収まるようにする動機付けが存在しない。 そして、本件特許発明1は、実施例及び比較例の記載からも、その発明特定事項を全て具備した場合、いずれかの事項が欠けた場合に比して、成形品のウエルド部の破壊エネルギーで表されるウエルド強度を改良するという格別顕著な効果を奏するものである。 したがって、相違点4ないし8は実質的な相違点であって、当該相違点に係る本件特許発明1の発明特定事項に、甲2発明においてすべて採用することは当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 (イ) 甲2実施例2発明との対比・判断 甲2実施例2発明の「平均繊維径が10.5μmであって長さ3mmである繊維状充填材(B1)」の数平均アスペクト比は285.7となるから100以上である。そして溶融混練前後で、繊維状充填材(B1)の平均繊維径は実質的に変化しないから、甲2実施例2発明の溶融混練後における、数平均繊維長が346μmである繊維状充填材(B1)の数平均アスペクト比は33.9となり、20~40の範囲に包含される。 そこで、甲2発明と同様に検討すると、本件特許発明1と甲2実施例2発明は次の点で一致する。 「液晶ポリエステル100質量部と、数平均繊維径が5~15μmであって数平均アスペクト比が100以上である繊維状充填材および板状充填材の合計65~100質量部とを溶融混練する工程からなる、液晶ポリエステル100質量部と、数平均繊維径が5~15μmであって数平均アスペクト比が20~40である繊維状充填材および板状充填材の合計65~100質量部とを含有板状充填材がマイカ及び/又はタルクであり、 板状充填材が体積平均粒径10~30μmの板状充填材である液晶ポリエステル組成物の製造方法。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点9> 繊維状充填材に対する板状充填材の配合に関し、本件特許発明1は「繊維状充填材と板状充填材との配合比率(質量)が1.0を超え1.6以下」であるのに対し、甲2実施例2発明における「繊維状充填材(B1)と鱗片状充填材(C1)との配合比率(質量)が3.5(=53/15)である点。 そこで相違点9について検討する。 甲2の段落【0043】には、以下の記載がなされている(下線は、当審が記した。)。 「さらに、本発明で用いる(B)繊維状充填材および(C)鱗片状充填材の特性を最大限に発揮するために、(A)液晶性樹脂100重量部に対して、合計50~150重量部用いられ、好ましくは合計65~100重量部用いられる。上記の範囲よりも少なすぎると成形品の表面が平滑になってエポキシ接着性が得られず、多すぎると薄肉成形性が阻害されることになるため好ましくない。より好ましくは(B)繊維状充填剤の配合量(重量)>(C)鱗片状充填剤の配合量(重量)の配合比率となるように配合するのが好ましく、(B)繊維状充填剤の配合量(重量)が(C)鱗片状充填剤の配合量(重量)の2倍以上となる配合比率が好ましい。さらに、(B)繊維状充填剤の配合量(重量)が(C)鱗片状充填剤の配合量(重量)の3倍以上となる配合比率がさらに好ましい。」 そこで、甲2においては、本件特許発明1と異なる課題であるエポキシ接着性と薄肉成形性の観点から、「(B)繊維状充填剤の配合量(重量)が(C)鱗片状充填剤の配合量(重量)の3倍以上となる配合比率がさらに好ましい。」として、甲2実施例1発明において「維状充填材(B1)と鱗片状充填材(C1)との配合比率(質量)は3.5」である状態から、さらに前記配合比率を1.6以下に低減させる動機付けもないし、阻害要因が存在するというべきものである。 また、配合比率の特定によって、本件特許発明1は、成形体のウエルド強度向上という格別顕著な効果を奏するものである。 したがって、甲2実施例2発明において、相違点9に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえず、また、本件特許発明1は「ウエルド強度に優れる成形体を与える液晶ポリエステル組成物を提供する」という甲2実施例2発明からみて格別顕著な効果を奏するものである。 (ウ) 特許異議申立人の主張の検討 特許異議申立人は、本件特許発明1と甲2に記載された発明との間に相違点は存在せず、仮に存在しても溶融混練後の繊維状充填材の数平均アスペクト比や繊維状充填材と板状充填材の配合比率は本件特許明細書にサポートされているとは認められないから顕著な作用効果を主張し得ないものと主張している(特許異議申立書第66ページ)。 しかしながら、本件特許発明は、その発明特定事項を全て具備することによって、いずれかの事項が欠けた場合に比して、成形品のウエルド部の破壊エネルギーで表されるウエルド強度を改良するという格別顕著な効果を奏するものであるから、上記特許異議申立人の主張は採用できるものではない。 (エ) 本件特許発明1についてのまとめ したがって、本件特許発明1は甲2発明及び甲2実施例2発明、すなわち甲2に記載された発明であるとはいえないし、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 エ 本件特許発明2ないし5及び8ないし12について 本件特許発明2ないし5及び8ないし12は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲2に記載された発明であるとはいえないし、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 オ 申立理由5-1及び5-2のまとめ よって、特許異議申立人が主張する申立理由5-1及び5-2にはいずれも理由がない。 (5) 取消理由(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立理由まとめ したがって、取消理由(決定の予告)で採用しなかったいずれの特許異議申立理由は理由がない。 第7 むすび 上記第6のとおり、本件特許の請求項1ないし5及び8ないし12に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1ないし5及び8ないし12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 そして、本件特許の請求項6及び7に係る特許は、上記のとおり、本件訂正請求により削除された。これにより、請求項6及び7に係る特許に対する特許異議申立人による特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2019-700819

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