特許異議申立
2024-700099
ポリエステルフィルムおよびこれを含むフレキシブルディスプレイ装置
- 審判番号
- 2024-700099
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-081790
- 登録番号
- 7341944
- 請求日
- 2024年02月06日
- 審決日
- 2025年03月28日
- 公報発行日
- 2025年07月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】エスケーマイクロワークス 株式会社
- 【権利者代理人】SK弁理士法人
- 【権利者代理人】奥野 彰彦
- 【権利者代理人】伊藤 寛之
- 【異議申立人】岩崎 千鶴子
- 審判長/審判官
- 審判長 植前 充司
- 審判官 加藤 友也
- 審判官 磯貝 香苗
- 分類
- P1651.113-YAA(C08J) / P1651.121-YAA(C08J) / P1651.536-YAA(C08J) / P1651.537-YAA(C08J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項特許法113条2項特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第5項、特許法第113条第4号、特許法第126条第6項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第7項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7341944号発明「ポリエステルフィルムおよびこれを含むフレキシブルディスプレイ装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7341944号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし10〕について訂正することを認める。
特許第7341944号の請求項1、3、4及び6ないし10に係る特許を維持する。
特許第7341944号の請求項2及び5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7341944号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし10に係る特許についての出願は、
令和 2年 5月 7日(パリ条約による優先権主張 2019年 5月 8日、韓国)を出願日とする出願であって、
令和 5年 9 月 1日にその特許権の設定登録(請求項の数10)がされ、
令和 5年 9月11日に特許掲載公報が発行され、
その後、当該特許に対し、
令和 6年 2月 6日に特許異議申立人 岩崎 千鶴子(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、
令和 6年 5月10日付けで取消理由が通知され、
令和 6年 8月 8日に特許権者 エスケーマイクロワークス 株式会社(以下、「特許権者」という。)から訂正請求がされると共に意見書が提出され、
令和 6年 9月27日付けで手続補正指令(方式)が通知され、
令和 6年10月18日に特許権者から手続補正書(方式)が提出され、
令和 6年11月 8日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされたが、特許異議申立人からは何ら応答がなかったものである。
第2 本件訂正について
1 訂正の内容
令和 6年 8月 8日に提出され、令和 6年10月18日に提出された手続補正書(方式)により補正された訂正請求書における訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「下記式(1)を満足し、」と記載されているのを、
「下記式(1)を満足し、式(1)のV2が0.7mm以下であり、」に訂正する。
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項3、4、6ないし10も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に、
「前記式において、V1およびV2は、それぞれ面内第1方向および前記第1方向に垂直な面内第2方向に対して、初期に比べて2mm引っ張って10秒間維持した後、弛緩して10秒間維持する過程を10回繰り返した後、初期に比べて変形された寸法(mm)である。」と記載されているのを、
「前記式において、V1およびV2は、それぞれ面内第1方向および前記第1方向に垂直な面内第2方向に対して、初期に比べて2mm引っ張って10秒間維持した後、弛緩して10秒間維持する過程を10回繰り返した後、初期に比べて変形された寸法(mm)であり、前記第1方向がフィルムの長さ方向であり、前記第2方向がフィルムの幅方向である。」に訂正する。
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項3、4、6ないし10も同様に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3に、
「前記V2/V1比率が1.1以下である、請求項2に記載のポリエステルフィルム。」と記載されているのを、
「前記V2/V1比率が1.1以下である、請求項1に記載のポリエステルフィルム。」に訂正する。
(4)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項4に、
「前記V1が0.5mm以下である、請求項2に記載のポリエステルフィルム。」と記載されているのを、
「前記V1が0.5mm以下である、請求項1に記載のポリエステルフィルム。」に訂正する。
(4)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(5)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項6に、
「3.5~3.8の幅方向延伸比とで二軸延伸された、請求項5に記載のポリエステルフィルム。」と記載されているのを、
「3.5~3.8の幅方向延伸比とで二軸延伸された、請求項1に記載のポリエステルフィルム。」に訂正する。
(6)一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし10について、請求項2ないし9は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、訂正前の請求項1ないし10に対応する訂正後の請求項1ないし10は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
2 訂正の目的、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内か否か、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1及び2に係る請求項の訂正について
訂正事項1に係る請求項1の訂正は、訂正前の請求項1の「式(1)」の「V2」を「0.7mm以下」に特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項1に係る請求項1の訂正は、本件特許明細書【0029】、【0031】の記載からみて、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
また、訂正事項2に係る請求項1の訂正は、「式(1)」における「V1およびV2」の「面内第1方向および前記第1方向に垂直な面内第2方向」について、「第1方向がフィルムの長さ方向であり、前記第2方向がフィルムの幅方向である」ことを特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項2に係る請求項1の訂正は、本件特許明細書【0034】、【0035】、【0083】、【0085】の記載からみて、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
そして、訂正事項1及び2に係る請求項1の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項3、4、6ないし10も同様である。
(2)訂正事項3に係る請求項2の訂正、及び、訂正事項6に係る請求項5の訂正について
訂正事項3に係る請求項2の訂正、及び、訂正事項6に係る請求項5の訂正は、それぞれ、請求項2、及び、請求項5を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
そして、訂正事項3に係る請求項2の訂正、及び、訂正事項6に係る請求項5の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
(3)訂正事項4に係る請求項3の訂正、及び、訂正事項5に係る請求項4の訂正について
訂正事項4に係る請求項3の訂正、及び、訂正事項5に係る請求項4の訂正は、いずれも、訂正事項1に係る請求項1の訂正により訂正前請求項2の特定事項が請求項1に組み込まれ、請求項2が削除されたことに伴って、引用先請求項を請求項2から請求項1に変更したものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
そして、訂正事項4に係る請求項3の訂正、及び、訂正事項5に係る請求項4の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
(4)訂正事項7に係る請求項6の訂正について
訂正事項7に係る請求項6の訂正は、訂正事項2に係る請求項1の訂正により訂正前請求項5の特定事項が請求項1に組み込まれ、請求項5が削除されたことに伴って、引用先請求項を請求項5から請求項1に変更したものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
そして、訂正事項7に係る請求項6の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
(5)独立特許要件について
本件特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし10に対してされているから、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
3 小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号を目的とし、かつ、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項、第6項の規定に適合するものである。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし10〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし10に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明10」といい、これらをまとめて「本件特許発明」という。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
下記式(1)を満足し、式(1)のV2が0.7mm以下であり、厚さ方向位相差(Rth)が5000nm~16000nmである、ポリエステルフィルム:
V2/V1≦1.2...(1)
前記式において、V1およびV2は、それぞれ面内第1方向および前記第1方向に垂直な面内第2方向に対して、初期に比べて2mm引っ張って10秒間維持した後、弛緩して10秒間維持する過程を10回繰り返した後、初期に比べて変形された寸法(mm)であり、前記第1方向がフィルムの長さ方向であり、前記第2方向がフィルムの幅方向である。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記V2/V1比率が1.1以下である、請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項4】
前記V1が0.5mm以下である、請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項5】(削除)
【請求項6】
前記ポリエステルフィルムが、
3.3~3.5の長さ方向延伸比と、
3.5~3.8の幅方向延伸比とで二軸延伸された、請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項7】
前記ポリエステルフィルムが、破断が発生するまでの135°角度の繰り返しフォールディング回数が10万回以上である、請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項8】
フレキシブルディスプレイ装置用透明カバーと、前記透明カバー上に配置される請求項1に記載のポリエステルフィルムとを含む、積層体。
【請求項9】
前記透明カバーがポリイミド系フィルムまたは超薄型ガラス(UTG)であり、
前記透明カバーが、破断が発生するまでの135°角度の繰り返しフォールディング回数が10万回以上である、請求項8に記載の積層体。
【請求項10】
請求項1に記載のポリエステルフィルムをカバーに含む、フレキシブルディスプレイ装置。」
第4 特許異議申立書に記載した特許異議申立理由の概要
令和 6年 2月 6日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1ないし7及び10は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件特許発明1ないし10は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
具体的理由はおおむね次のとおりである。
・本件特許明細書の発明の詳細な説明における本件特許の実施例において、「厚さ方向位相差(Rth)」が示されていないから、厚さ方向位相差(Rth)が5000nm~16000nmであれば発明の課題を解決することを当業者は認識できない。
・本件特許の特許請求の範囲にはV1又はV2の絶対値の要件がないから、発明の課題を解決することを当業者は認識できない。
・本件特許明細書の発明の詳細な説明における本件特許の実施例において、透明カバーの破断が発生するまでの135°角度の繰り返しフォールディング回数が示されていないから、透明カバーの破断が発生するまでの135°角度の繰り返しフォールディング回数が10万回以上であれば発明の課題を解決することを当業者は認識できない。
3 申立理由3(明確性要件)
本件特許の請求項1ないし4及び7ないし10に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
具体的理由はおおむね次のとおりである。
・第1方向をTD方向とした場合には、本件特許明細書の発明の詳細な説明において本件特許の比較例1~4として記載された実験例が本件特許の範囲内となるから、不明瞭である。
4 証拠方法
甲第1号証:国際公開第2018/159285号公報
甲第2号証:特開2018-55098号公報
証拠の表記は特許異議申立書の記載におおむね従った。
以下、順に「甲1」等という。
第5 取消理由の概要
令和 6年 5月10日付けで通知された取消理由(以下、「取消理由」という。)の概要はおおむね次のとおりである。
1 取消理由1(明確性要件)
本件特許の請求項1ないし4及び7ないし10に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・本件特許の請求項1、3における「V2/V1≦1.2」、「V2/V1≦1.1」に関し、「V1およびV2は、それぞれ面内第1方向および前記第1方向に垂直な面内第2方向」と特定されているから、V1、V2は、フィルムの長さ・幅方向に対し、任意な面内2垂直方向である。
しかしながら、V1、V2をフィルムの長さ・幅方向に対して特定しない場合、「初期に比べて2mm引っ張って10秒間維持した後、弛緩して10秒維持する過程を10回繰り返した後、初期に比べて変形された寸法(mm)」を任意な面内2垂直方向に対して測定した測定値を(V’、V”)とすると、大きい数値の方をV1とし、小さい数値の方をV2とすることにより、常時V2/V1≦1.0を満たすことができる。
このため、本件特許の請求項1、請求項3において、V1、V2をフィルムの長さ・幅方向に対して特定していない、「V2/V1≦1.2」、ないしは、「V2/V1比率が1.1以下」を満たすフィルムとは、どのようなフィルムを特許請求の範囲とするものか明りょうでない。
よって、フィルムの長さ・幅方向に対するV1、V2の関係が特定されていない請求項1、3の記載は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確である。
また、請求項1、3を直接又は間接的に引用する請求項2、4、7ないし10も同様である。
(取消理由1は申立理由3とおおむね同旨である。)
2 取消理由2(サポート要件)
本件特許の請求項1、3及び5ないし10に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
・本件特許の発明の詳細な説明の【0008】の記載から、本件特許発明1ないし10の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、フィルムを引張および弛緩するサイクルによる変形寸法を調節することにより、フレキシブルディスプレイのカバーに求められる特性を実現したポリエステルフィルムおよびその製造方法を提供すること、及び、多数の繰り返しフォールディングの際にも、元の特性を維持できる透明カバーとポリエステルフィルムの積層体およびこれを含むフレキシブルディスプレイ装置を提供すること、である。
当該発明の課題に関し、本件特許の発明の詳細な説明の【0082】ないし【0092】にはポリエステルフィルムの具体的な製造例において、10回引張サイクル後の変形寸法をMD・TD方向にて測定し、変形寸法比率TD/MDと、これらポリエステルフィルムを用いた135°フォールディングテストによるクラックや破断が発生するまでの繰り返しフォールディング回数について記載されており、変形寸法比率TD/MDが1.2以下であるポリエステルフィルムは、135°フォールディング回数が10万回を超えることが確認されている。
しかしながら、TD/MDが1.2以下であり、つまり、V2/V1≦1.2を満たすポリエステルフィルムであったとしても、V1とV2が共に大きな値であった場合には(例えば、V1、V2が引張長さとほぼ同じ2mmであれば、V2/V1=約1となり、V2/V1≦1.2の要件は満たすが)、引張った後にほとんど元に戻らない。
このようなポリエステルフィルムは、「フレキシブルディスプレイのカバーに求められる特性を実現」し、「多数の繰り返しフォールディングの際にも、元の特性を維持できる透明カバーとポリエステルフィルムの積層体およびこれを含むフレキシブルディスプレイ装置を提供する」ことはできない。
したがって、V2/V1≦1.2を満たしたとしても、V1とV2が大きいポリエステルフィルムは、発明の課題を解決することができない。
そうすると、V1とV2の数値範囲に関し特定がない本件特許発明1、3及び5ないし10は、本件特許の発明の詳細な説明の記載により、発明の課題を解決できると認識できるポリエステルフィルム、積層体、フレキシブルディスプレイ装置ではなく、本件特許の発明の詳細な説明に記載された発明ではない。
よって、本件特許の請求項1、3及び5ないし10に関し、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合しない。
(取消理由2は申立理由2とおおむね同旨である。)
第6 取消理由についての当審の判断
当審は、以下に述べるように取消理由1ないし2は、いずれも理由がないと判断する。
以下順に検討する。
1 取消理由1(明確性要件)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。
(2)明確性要件の判断
本件特許の請求項1、3、4及び6ないし10の記載は、上記第3のとおりであり、それ自体に不明確な記載はなく、本件特許の明細書の記載及び図面とも整合する。
したがって、本件特許発明1、3、4及び6ないし10に関して、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の上記第4 3の主張について検討する。
本件訂正により、本件特許の請求項1において、第1方向がフィルムの長さ方向(当審注:MD方向)であり、第2方向がフィルムの幅方向(当審注:TD方向)であることが特定された。
そして、本件特許の発明の詳細な説明に記載された比較例1ないし4は本件特許の範囲外であることが明確となった。
よって、特許異議申立人の主張は採用し得ない。
(4)取消理由1についてのまとめ
以上のとおり、本件特許の請求項1、3、4及び6ないし10に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、特許法第113条第4項に該当しない。
よって、本件特許の請求項1、3、4及び6ないし10に係る特許は、取消理由1によって取り消すことはできない。
2 取消理由2(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)サポート要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明の【0008】「したがって、実現例の課題は、フィルムを引張および弛緩するサイクルによる変形寸法を調節することにより、フレキシブルディスプレイのカバーに求められる特性を実現したポリエステルフィルムおよびその製造方法を提供することである。」との記載、及び、【0009】「実現例の他の課題は、多数の繰り返しフォールディングの際にも、元の特性を維持できる透明カバーとポリエステルフィルムの積層体およびこれを含むフレキシブルディスプレイ装置を提供することである。」との記載によると、本件特許発明1、3、4及び6ないし10の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、フィルムを引張および弛緩するサイクルによる変形寸法を調節することにより、フレキシブルディスプレイのカバーに求められる特性を実現したポリエステルフィルムおよびその製造方法を提供すること、及び、多数の繰り返しフォールディングの際にも、元の特性を維持できる透明カバーとポリエステルフィルムの積層体およびこれを含むフレキシブルディスプレイ装置を提供すること、である。
また、本件特許の発明の詳細な説明の【0010】ないし【0016】には、課題を解決するための手段として、式(1)を満足するポリエステルフィルムにより、フィルムを引張および弛緩するサイクルにおいて初期に比べて変形された寸法を調整し、特に、面内の垂直な2方向に対する変形寸法間の比率を特定範囲に調節することにより、フレキシブルディスプレイ装置のカバーに適用され、多数の繰り返しフォールディングにも元の特性が維持され得ること、このようなポリエステルフィルムは、フレキシブルディスプレイ装置、特にフォルダブルディスプレイ装置のカバーに適用され、優れた特性を発揮することができることが記載されている。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0021】ないし【0027】には式(1)について、【0028】にはV1の数値範囲について、【0029】にはV2の数値範囲について、【0030】にはV2/V1について、【0032】ないし【0035】にはV1及びV2における第1方向及び第2方向について、【0036】ないし【0042】には厚さ方向位相差(Rth)について、【0043】ないし【0049】にはフィルム組成について、【0050】にはフィルムの厚さについて、【0051】には延伸フィルムについて、【0052】ないし【0053】には破断が発生するまでの135°角度の繰り返しフォールディング回数について、【0054】ないし【0066】にはポリエステルフィルムの製造方法について、【0067】ないし【0074】には積層体について、【0075】ないし【0081】にはディスプレイ装置について、それぞれ記載されている。
さらに、本件特許の発明の詳細な説明の【0082】ないし【0092】にはポリエステルフィルムの製造例において、各方向別10回引張サイクル後の変形寸法をMD(第1方向)・TD(第2方向)方向にて測定し、変形寸法比率TD/MDの結果と、これらポリエステルフィルムを用いた135°フォールディングテストによるクラックや破断が発生するまでの繰り返しフォールディング回数について記載されており、MD方向(第1方向)の変形寸法が0.44~0.49、TD(第2方向)の寸法変形が0.51~0.55であり、変形寸法比率TD/MDが1.2以下を満たすポリエステルフィルムの135°フォールディング回数が10万回を超えることが確認されている。
そうすると、当業者はこれらの記載事項から、式(1)を満足し、式(1)のV2が0.7mm以下であるポリエステルフィルム、及び、フレキシブルディスプレイ装置用透明カバーと前記透明カバー上に配置され、式(1)を満足し、式(1)のV2が0.7mm以下であるポリエステルフィルムとを含む、積層体、並びに、式(1)を満足し、式(1)のV2が0.7mm以下であるポリエステルフィルムをカバーに含む、フレキシブルディスプレイ装置により、発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1、3、4及び6ないし10は上記発明の課題を解決できると認識できるポリエステルフィルム、積層体、フレキシブルディスプレイ装置を、厚さ方向位相差(Rth)の数値範囲によって更に限定したものであるから、本件特許発明1、3、4及び6ないし10は、本件特許の発明の詳細な説明に記載された発明であって、本件特許の発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明1、3、4及び6ないし10に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合するといえる。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の第3 2の主張について検討する。
ア 厚さ方向位相差(Rth)について
上記(2)において検討したとおり、発明の課題は式(1)を満足し、式(1)のV2が0.7mm以下であるポリエステルフィルム、及び、フレキシブルディスプレイ装置用透明カバーと前記透明カバー上に配置され、式(1)を満足し、式(1)のV2が0.7mm以下であるポリエステルフィルムとを含む、積層体、並びに、式(1)を満足し、式(1)のV2が0.7mm以下であるポリエステルフィルムをカバーに含む、フレキシブルディスプレイ装置によって解決することができる。
そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明における本件特許の実施例において、「厚さ方向位相差(Rth)」が示されていないことは、サポート要件の判断に影響しない。
よって、特許異議申立人の主張は採用し得ない。
イ V1又はV2の絶対値の要件について
本件訂正により、本件特許の請求項1は、「式(1)のV2が0.7mm以下」に訂正された。よって、特許異議申立人の主張は根拠がないものとなった。
ウ 透明カバーの破断が発生するまでの135°角度の繰り返しフォールディング回数について
上記(2)において検討したとおり、発明の課題は式(1)を満足し、式(1)のV2が0.7mm以下であるポリエステルフィルム、及び、フレキシブルディスプレイ装置用透明カバーと前記透明カバー上に配置され、式(1)を満足し、式(1)のV2が0.7mm以下であるポリエステルフィルムとを含む、積層体、並びに、式(1)を満足し、式(1)のV2が0.7mm以下であるポリエステルフィルムをカバーに含む、フレキシブルディスプレイ装置、によって解決することができる。
そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明における本件特許の実施例において、透明カバーの135°角度の繰り返しフォールディング回数が記載されていないことは、サポート要件の判断には影響しない。
以上アないしウのとおりであるから、特許異議申立人の主張はいずれも採用し得ない。
(4)取消理由2についてのまとめ
以上のとおり、本件特許の請求項1、3、4及び6ないし10に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、特許法第113条第4号に該当しない。
よって、本件特許の請求項1、3、4及び6ないし10に係る特許は、取消理由2によって取り消すことはできない。
第7 取消理由に採用しなかった特許異議申立書に記載した異議申立理由について
取消理由に採用しなかった特許異議申立書に記載した異議申立理由は、
・申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)である。
以下、検討する。
1 申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)について
(1)主な証拠に記載された事項
ア 甲1に記載された事項等
甲1には、「折りたたみ型ディスプレイの表面保護フィルム用ポリエステルフィルムとその用途」に関し、次の事項が記載されている。
「[0001] 本発明は折りたたみ型ディスプレイの表面保護フィルム用ポリエステルフィルム、折りたたみ型ディスプレイの表面保護フィルム用ハードコートフィルム、折りたたみ型ディスプレイ、及び携帯端末機器に関し、繰り返し折りたたんでも、表面に位置しているフィルムの変形による画像の乱れの起こり難い折りたたみ型ディスプレイ及び携帯端末機器、及び前記の折りたたみ型ディスプレイの表面保護フィルム用ポリエステルフィルム及びハードコートフィルムに関する。」
「[0045] 具体的には、例えば、PETのペレットを十分に真空乾燥した後、押出し機に供給し、約280℃でシート状に溶融押し出し、冷却固化させて、未延伸PETシートを形成する。得られた未延伸シートを80~130℃に加熱したロールで長手方向に1.0~3.4倍延伸して、一軸配向PETフィルムを得る。さらに、フィルムの端部をクリップで把持して、80~180℃に加熱された熱風ゾーンに導き、乾燥後、幅方向に2.5~5.0倍に延伸する。引き続き、180~250℃の熱処理ゾーンに導き、1~60秒間の熱処理を行い、結晶配向を完了させる。この熱処理工程中で、必要に応じて、幅方向または長手方向に1~12%の弛緩処理を施しても良い。」
「[0057](5)繰り返し耐屈曲性
幅方向50mm×流れ方向100mmの大きさのサンプルを用意する。無負荷U字伸縮試験機(ユアサシステム機器社製、DLDMLH-FS)を用いて、屈曲半径3mmを設定し、1回/秒の速度で、5万回屈曲させた。その際、サンプルは長辺側両端部10mmの位置を固定して、屈曲する部位は50mm×80mmとした。屈曲処理終了後、サンプルの屈曲内側を下にして平面に置き、目視検査を行った。
○ :サンプルの変形がないか又は変形があっても、水平に置いた際、浮き上がり最大高さが3mm未満。
△:サンプルに変形があり、水平に置いた際、浮き上がり最大高さが3mm以上5mm未満。
× :サンプルに折跡があるか、水平に置いた際、浮き上がり最大高さが5mm以上。」
「[0064](実施例1)
上記のポリエチレンテレフタレートマスターペレットBを150℃で8時間減圧乾燥(3Torr)した後、押出機に、ポリエチレンテレフタレートのペレットBを押出機にそれぞれ供給し、285℃で融解した。このポリマーを、ステンレス焼結体の濾材(公称濾過精度10μm粒子95%カット)で濾過し、口金よりシート状にして押し出した後、静電印加キャスト法を用いて表面温度30℃のキャスティングドラムに接触させ冷却固化し、未延伸フィルムを作った。この未延伸フィルムを加熱ロールを用いて75℃に均一加熱し、非接触ヒーターで100℃に加熱して3.4倍のロール延伸(縦延伸)を行った。得られた一軸延伸フィルムをテンターに導き、140℃に加熱して4.0倍に横延伸し、幅固定して240℃で5秒間の熱処理を施し、さらに210℃で幅方向に4%緩和させることにより、厚み50μmポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。
[0065](実施例2~6)
表1に記載した延伸倍率と熱処理温度に変更したこと以外は上記実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
[0066](実施例7、8)
表1に記載した厚みに変更したこと以外は、上記実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
[0067](実施例9)
表1のようにポリエチレン-2,6-ナフタレートペレットCを用い、温度調整を実施したこと以外は上記実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
[0068](実施例10)
ポリエチレンテレフタレートマスターペレットAに変更したこと以外は実施例1と同様
にしてポリエステルフィルムを得た。」
「[0071] 上記の実施例1~10及び比較例1~3で得たポリエステルフィルムの一方の面にマイヤーバーを用いて、ハードコート層形成用塗布液1を乾燥後の膜厚が5.0μmになるように塗布し、80℃で1分間乾燥させた後、紫外線を照射し(高圧水銀ランプ、積算光量200mJ/cm2)、ハードコートフィルムを得た。実施例11においては、実施例1で得たポリエステルフィルムについて、乾燥後の膜厚が10.0μmになるように塗布した他は実施例1と同様にしてハードコートフィルムを得た。実施例12においては、実施例1で得たポリエステルフィルムについて、ハードコート層形成用塗布液2を塗布した他は実施例1と同様にしてハードコートフィルムを得た。
[0072] それらのハードコートフィルムを、25μm厚の粘着層を介して有機ELモジュールに貼合し、図1における屈曲半径の相当する半径が3mmの全体の中央部で二つ折りにできるスマートフォンタイプの折りたたみ型ディスプレイを作成した。ハードコートフィルムは折りたたみ部分を介して連続した1枚のディスプレイの表面に配され、ハードコート層をそのディスプレイの表面に位置するように配されている。各実施例のハードコートフィルムを用いたものは、中央部で二つ折りに折りたたんで携帯できるスマートフォンとして動作及び視認性を満足するものであった。一方、各比較例のハードコートフィルムを使用した折りたたみ型ディスプレイは、使用頻度が増えるに従って、ディスプレイの折りたたみ部で画像の歪を生じてきたように感じ、あまり好ましいものではなかった。
[0073]
[表1]
[図:0001424565000001.jpg]
」
「[図1]
[図:0001424565000002.jpg]
」
イ 甲1に記載された発明
上記アより、甲1の[0045]を中心に整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1発明>
「PETのペレットを十分に真空乾燥した後、押出し機に供給し、約280℃でシート状に溶融押し出し、冷却固化させて、未延伸PETシートを形成し、得られた未延伸シートを80~130℃に加熱したロールで長手方向に1.0~3.4倍延伸して、一軸配向PETフィルムを得て、さらに、フィルムの端部をクリップで把持して、80~180℃に加熱された熱風ゾーンに導き、乾燥後、幅方向に2.5~5.0倍に延伸し、引き続き、180~250℃の熱処理ゾーンに導き、1~60秒間の熱処理を行い、結晶配向を完了させ、熱処理工程中で、幅方向または長手方向に1~12%の弛緩処理を施したポリエチレンテレフタレートフィルム。」
ウ 甲2の記載事項
甲2には、「表示装置用ウィンドウおよび表示装置」に関し、次の事項が記載されている。
「【請求項1】
高分子基材と、
前記高分子基材の下部に位置し、7MPa乃至30MPaの弾性モジュラスを有する第1バッファー層と、
前記高分子基材と前記第1バッファー層の間に位置する第1透明粘着層と、
前記高分子基材の上部に位置する保護層と、
を含む表示装置用ウィンドウ。」
「【請求項7】
前記高分子基材は、ポリイミド、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、これらの共重合体またはこれらの組み合わせを含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の表示装置用ウィンドウ。」
「【請求項17】
前記表示パネルは、ベンダブル表示パネル、フォールダブル表示パネルまたはローラブル表示パネルである、請求項15または16に記載の表示装置。」
「【0035】
基材11は、例えば約85%以上の光透過率および約3.0以下の黄色度(yellow index、YI)を有することができる。」
「【0122】
動的屈曲テストは、二つのステンレス板の間に実施例1および2によるサンプルを曲率半径(r)1mmになるように折りたたんだり/広げたりる動作を20万回繰り返して行った後、フォールディング部分を外観検査する。」
「【0125】
[図:0001424565000003.jpg]
」
(2)検討
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「ポリエチレンテレフタレートフィルム」は、本件特許発明1における「ポリエステルフィルム」に相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲1発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「ポリエステルフィルム。」
<相違点1>
本件特許発明1は、「厚さ方向位相差(Rth)が5000nm~16000nm」との特定を有するのに対し、甲1発明は、そのような特定がない点。
<相違点2>
本件特許発明1は、「下記式(1)を満足し、式(1)のV2が0.7mm以下であり」「V2/V1≦1.2...(1)」「前記式において、V1およびV2は、それぞれ面内第1方向および前記第1方向に垂直な面内第2方向に対して、初期に比べて2mm引っ張って10秒間維持した後、弛緩して10秒間維持する過程を10回繰り返した後、初期に比べて変形された寸法(mm)であり、前記第1方向がフィルムの長さ方向であり、前記第2方向がフィルムの幅方向である。」との特定を有するのに対し、甲1発明は、そのような特定がない点。
事案に鑑み、相違点2について検討する。
甲1には、甲1発明において、「V2」の大きさ、及び、「V2/V1」比率に関する記載はなく、不明である。したがって、相違点2は実質的な相違点である。
そして、甲1及び他の全ての証拠をみても、甲1発明において、「V2」を「0.7mm以下」とし、「V2/V1」比率を調製して「V2/V1≦1.2...(1)」を満たすものとする動機となる記載はない。
よって、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
特許異議申立人は特許異議申立書(第16頁下から6行~第17頁第12行)において、「甲第1号証に記載されたポリエステルフィルムは、本件特許に係るポリエステルと同様の製造方法により製造されているので、本件特許発明のポリエステルと同様の特性を有するし、本件特許の請求項1のRthとV2/V1の要件を満たしているはずである。」と主張している。
しかしながら、甲1発明のポリエステルフィルムの製造条件が、本件特許明細書の発明の詳細な説明【0057】ないし【0066】に記載のポリエステルフィルムの製造条件の数値範囲、及び、同【0083]に記載の本件特許の実施例のポリエステルフィルムの製造条件の数値範囲と一部重複するからといって、両者は同一の製造条件ではなく、甲1発明のポリエステルフィルムにおいて「V2が0.7mm以下であり」「V2/V1≦1.2...(1)」を満たす蓋然性が高いとまではいえない。
よって、特許異議申立人の主張は採用し得ない。
イ 本件特許発明2及び5について
請求項2及び5は削除された。
ウ 本件特許発明3、4及び6ないし10について
本件特許発明3、4及び6ないし10は、請求項1を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するから、本件特許発明1と同様に判断される。
よって、本件特許発明3、4、6、7及び10は、甲1発明でなく、本件特許発明3、4及び6ないし10は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)申立理由1についてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明1、3、4、6、7及び10は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、本件特許発明1、3、4及び6ないし10は、特許法第29条第2項により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1、3、4及び6ないし10に係る特許は、特許法第113条第2項に該当しない。
よって、本件特許の請求項1、3、4及び6ないし10に係る特許は、申立理由1によって取り消すことはできない。
第8 結語
以上のとおり、本件特許の請求項1、3、4及び6ないし10に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によって取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1、3、4及び6ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許の請求項2及び5に係る特許は、訂正により削除されたため、特許異議申立人による請求項2及び5に係る特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する特許法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-700099