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特許異議申立

2024-700692

炭素繊維含有ポリプロピレン組成物

審判番号
2024-700692
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-173997
登録番号
7422637
請求日
2024年07月23日
審決日
2026年01月30日
公報発行日
2026年04月24日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】住友化学株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人浅村特許事務所
  • 【異議申立人】山田 友則
審判長/審判官
  • 審判長 細井 龍史
  • 審判官 ▲吉▼澤 英一
  • 審判官 松本 直子
分類
P1651.537-YAA(C08L) / P1651.113-YAA(C08L) / P1651.121-YAA(C08L)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
データ出所
審決公報(XML)

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特許第7422637号発明「炭素繊維含有ポリプロピレン組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7422637号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第7422637号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7422637号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、令和2年10月15日を出願日(優先権主張 令和2年3月30日)とする特願2020-173997号であって、令和6年1月18日にその特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、同年同月26日に特許掲載公報が発行され、その後、本件特許に対し、令和6年7月23日に特許異議申立人 山田 友則(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1~5)がされたものである。 特許異議の申立てにおける手続の経緯は、次のとおりである。 令和6年11月28日付け:取消理由通知書 令和7年 1月31日 :意見書(特許権者) 同年 4月30日付け:取消理由通知書(決定の予告) 同年 7月 4日 :訂正請求書及び意見書(特許権者) 同年 8月 7日付け:通知書(申立人宛て)(再発送日:令和7年9月1日) 同年 9月30日 :意見書(申立人) 第2 訂正の適否について 1 訂正の内容 令和7年7月4日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「 ポリプロピレン(成分1)と炭素繊維(成分2)と変性ポリプロピレン(成分3)を含み、以下の要件の全てを充足する炭素繊維含有ポリプロピレン組成物: 要件1:成分1と成分2と成分3のそれぞれの重量の合計を100重量%として、成分1の含有量が30~98重量%の範囲であり、成分2の含有量が1~50重量%の範囲であり、成分3の含有量が1~20重量%の範囲であり; 要件2-1:成分2は、C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合を含み、C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合のそれぞれのスペクトル面積の合計を100%として、C-O結合のスペクトル面積が1~24%の範囲であり、 ここで、前記スペクトル面積は、Al Kαを用いたX線光電子分光法分析により測定される。」とあるのを、 「 ポリプロピレン(成分1)と炭素繊維(成分2)と変性ポリプロピレン(成分3)を含み、以下の要件の全てを充足する炭素繊維含有ポリプロピレン組成物: 要件1:成分1と成分2と成分3のそれぞれの重量の合計を100重量%として、成分1の含有量が30~98重量%の範囲であり、成分2の含有量が1~50重量%の範囲であり、成分3の含有量が1~20重量%の範囲であり; 要件2-1:成分2は、C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合を含み、C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合のそれぞれのスペクトル面積の合計を100%として、C-O結合のスペクトル面積が1~24%の範囲であり、 ここで、前記スペクトル面積は、Al Kαを用いたX線光電子分光法分析により測定され、バックグラウンドを除去した炭素1sスペクトルに対して、Lorentz関数の割合を30%としたGauss-Lorentz複合関数を用い、Composites: Part A 90 (2016) 653-661(Bo Gao et al.)に記載されている方法に従い、各結合成分に由来するピークにそれぞれ波形分離されたものである。」に訂正する。 本訂正に伴い、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項3~5も連動して同様に訂正される。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に「 ポリプロピレン(成分1)と炭素繊維(成分2)と変性ポリプロピレン(成分3)を含み、以下の要件の全てを充足する炭素繊維含有ポリプロピレン組成物: 要件1:成分1と成分2と成分3のそれぞれの重量の合計を100重量%として、成分1の含有量が30~98重量%の範囲であり、成分2の含有量が1~50重量%の範囲であり、成分3の含有量が1~20重量%の範囲であり; 要件2-3:成分2は、C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合を含み、C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合のそれぞれのスペクトル面積の合計を100%として、C-O結合の含有量が1~24%の範囲であり、かつ、C=O結合及びO-C=O結合のそれぞれのスペクトル面積の合計が4~15%の範囲であり、 ここで、前記スペクトル面積とは、Al Kαを用いたX線光電子分光法分析により測定されるものを意味する。」とあるのを、 「 ポリプロピレン(成分1)と炭素繊維(成分2)と変性ポリプロピレン(成分3)を含み、以下の要件の全てを充足する炭素繊維含有ポリプロピレン組成物: 要件1:成分1と成分2と成分3のそれぞれの重量の合計を100重量%として、成分1の含有量が30~98重量%の範囲であり、成分2の含有量が1~50重量%の範囲であり、成分3の含有量が1~20重量%の範囲であり; 要件2-3:成分2は、C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合を含み、C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合のそれぞれのスペクトル面積の合計を100%として、C-O結合のスペクトル面積が1~24%の範囲であり、かつ、C=O結合及びO-C=O結合のそれぞれのスペクトル面積の合計が4~15%の範囲であり、 ここで、前記スペクトル面積は、Al Kαを用いたX線光電子分光法分析により測定され、バックグラウンドを除去した炭素1sスペクトルに対して、Lorentz関数の割合を30%としたGauss-Lorentz複合関数を用い、Composites: Part A 90 (2016) 653-661(Bo Gao et al.)に記載されている方法に従い、各結合成分に由来するピークにそれぞれ波形分離されたものである。」に訂正する。 本訂正に伴い、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項3~5も連動して同様に訂正される。 (3)一群の請求項についての説明 訂正前の請求項3~5はそれぞれ請求項1又は2を直接又は間接的に引用しているものであって、上記訂正事項1又は2によって記載が訂正される請求項1又は2に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1~5に対応する訂正後の請求項1~5は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 2 訂正の適否について (1)訂正事項1について 訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載の「C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合のそれぞれのスペクトル面積」について、さらに「バックグラウンドを除去した炭素1sスペクトルに対して、Lorentz関数の割合を30%としたGauss-Lorentz複合関数を用い、Composites: Part A 90 (2016) 653-661(Bo Gao et al.)に記載されている方法に従い、各結合成分に由来するピークにそれぞれ波形分離されたものである」ことを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項1は、本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の【0148】の記載に基づくものであるから、新規事項の追加に該当せず、また、特許請求の範囲が減縮されているから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、訂正前の請求項2に記載の「C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合のそれぞれのスペクトル面積」について、さらに「バックグラウンドを除去した炭素1sスペクトルに対して、Lorentz関数の割合を30%としたGauss-Lorentz複合関数を用い、Composites: Part A 90 (2016) 653-661(Bo Gao et al.)に記載されている方法に従い、各結合成分に由来するピークにそれぞれ波形分離されたものである」ことを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、訂正前の請求項2に記載の「C-O結合の含有量」を「C-O結合のスペクトル面積」に訂正するものであり、訂正前の請求項2に記載の「それぞれのスペクトル面積」と整合させるものであるとともに、訂正前の請求項2に記載の「前記スペクトル面積とは」を「前記スペクトル面積は」に訂正するものであり、訂正により生じた日本語としての不明瞭さを正すものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 そして、訂正事項2は、本件明細書の【0147】~【0149】の記載に基づくものであるから、新規事項の追加に該当せず、また、特許請求の範囲が減縮されているから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 3 訂正の適否についてのまとめ 以上のとおりであるから、訂正事項1及び2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1及び3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。 よって、本件訂正を認める。 第3 本件発明 上記第2のとおり、上記訂正請求書による訂正は認められるから、本件特許の請求項1~5に係る発明(以下、「本件発明1」、「本件発明2」のよういにいい、まとめて「本件発明」ということもある。)は、令和7年7月4日提出の訂正請求書に添付した特許請求の範囲の請求項1~5に記載された次の事項のとおりのものである。 「【請求項1】 ポリプロピレン(成分1)と炭素繊維(成分2)と変性ポリプロピレン(成分3)を含み、以下の要件の全てを充足する炭素繊維含有ポリプロピレン組成物: 要件1:成分1と成分2と成分3のそれぞれの重量の合計を100重量%として、成分1の含有量が30~98重量%の範囲であり、成分2の含有量が1~50重量%の範囲であり、成分3の含有量が1~20重量%の範囲であり; 要件2-1:成分2は、C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合を含み、C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合のそれぞれのスペクトル面積の合計を100%として、C-O結合のスペクトル面積が1~24%の範囲であり、 ここで、前記スペクトル面積は、Al Kαを用いたX線光電子分光法分析により測定され、バックグラウンドを除去した炭素1sスペクトルに対して、Lorentz関数の割合を30%としたGauss-Lorentz複合関数を用い、Composites: Part A 90 (2016) 653-661(Bo Gao et al.)に記載されている方法に従い、各結合成分に由来するピークにそれぞれ波形分離されたものである。 【請求項2】 ポリプロピレン(成分1)と炭素繊維(成分2)と変性ポリプロピレン(成分3)を含み、以下の要件の全てを充足する炭素繊維含有ポリプロピレン組成物: 要件1:成分1と成分2と成分3のそれぞれの重量の合計を100重量%として、成分1の含有量が30~98重量%の範囲であり、成分2の含有量が1~50重量%の範囲であり、成分3の含有量が1~20重量%の範囲であり; 要件2-3:成分2は、C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合を含み、C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合のそれぞれのスペクトル面積の合計を100%として、C-O結合のスペクトル面積が1~24%の範囲であり、かつ、C=O結合及びO-C=O結合のそれぞれのスペクトル面積の合計が4~15%の範囲であり、 ここで、前記スペクトル面積は、Al Kαを用いたX線光電子分光法分析により測定され、バックグラウンドを除去した炭素1sスペクトルに対して、Lorentz関数の割合を30%としたGauss-Lorentz複合関数を用い、Composites: Part A 90 (2016) 653-661(Bo Gao et al.)に記載されている方法に従い、各結合成分に由来するピークにそれぞれ波形分離されたものである。 【請求項3】 成分1が、MFR(230℃、荷重21.2N)が23g/10分~100g/10分であるポリプロピレン単独重合体である、請求項1又は2に記載の炭素繊維含有ポリプロピレン組成物。 【請求項4】 成分3が、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、エポキシ変性ポリプロピレン及びカルボジイミド変性ポリプロピレンからなる群から選ばれる少なくとも1種の変性ポリプロピレンである、請求項1~3のいずれかに記載の炭素繊維含有ポリプロピレン組成物。 【請求項5】 請求項1~4のいずれかに記載の炭素繊維含有ポリプロピレン組成物を含む成形体。」 第4 特許異議申立書に記載された証拠方法、申立理由の概要及び取消理由の概要 1 申立人が提出した特許異議申立書に記載した証拠方法及び特許異議申立ての理由の概要 特許異議申立書(以下「申立書」という。)に記載した証拠方法及び特許異議申立ての理由の概要は次のとおりである。 (1)証拠方法 ・甲第1号証:特開2018-145245号公報 ・甲第2号証:杉俣悦郎ら,サイジング材の熱処理がCFRTP複合材料の機械的強度に及ぼす影響, Journal of Fiber Science and Technology, Vol.76, No.2 (2020) p.88-94 ・甲第3号証:サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社ホームページ、K-AlPhaTM X線光電子分光(XPS)システム、https://www.thermofisher.com/order/catalog/product/jp/ja/IQLAADGAAFFACVMAHV、出力日:2024年7月19日 ・甲第4号証:Composites: Part A 90 (2016) p.653-661 ・甲第5号証:JXTG Technical Review、第60巻、第2号(2018年7月)18~22頁 ・甲第6号証:NIST X-ray Photoelectron Spectroscopy Database (SRD 20), Version 5.0, https://srdata.nist.gov/xps/QueryByElmType/C/PE、出力日:2024年7月11日 ・甲第7号証:G. Beamson and D. Briggs, High Resolution XPS of Organic Polymers, The Scienta ESCA300 Database, JOHN WILEY&SONS (1992) p.226-227 ・甲第8号証:X線光電子分光装置(XPS)簡易マニュアル解析編、光電子分光分析研究室、北海道大学、2022年5月26日更新、 https://xpslab.eng.hokudai.ac.jp/wp-content/uploads/2022/05/71d083943478199f4e6ec98920919a63-1.pdf ・甲第9号証:特開2021-191843号公報 ・甲第10号証:鷹林 将ら, X線光電子分光法によるダイヤモンドライクカーボン薄膜の表面化学構造解析, Journal of Surface Analysis, Vol.20, No.1 (2013) p.25-54 ・甲第11号証:飯島善時ら, X線光電子分光法におけるC1sスペクトル波形解析によるダイヤモンド薄膜の評価, 分析化学, 公益社団法人 日本分析化学会発行, Vol.42, No.3 (1993) p.133-140 以下、「甲第1号証」~「甲第11号証」を「甲1」~「甲11」という。 (2)申立理由1(甲1を主引例とする新規性・進歩性) 本件特許の請求項1、2、4及び5に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1~5に係る発明は、甲1に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (3)申立理由2(甲2を主引例とする進歩性) 本件特許の請求項1~5に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (4)申立理由3(明確性要件) 本件特許の請求項1及び2に係る特許は、以下の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 本件発明1及び2に関し、各結合のスペクトル面積を求めるにあたり、本件明細書及び本件出願時の技術常識を考慮しても、得られた炭素繊維(成分2)のXPSスペクトルに対してどのように波形分離すればよいのか当業者は理解できず、波形分離する際に用いるパラメータ等の条件によって、各スペクトル面積の値も変わる。そうすると、上記各スペクトル面積を求めるための具体的な要件が不明であり、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに、発明の範囲の外縁が不明確である。 2 取消理由通知書(決定の予告)で通知した取消理由の概要 令和7年4月30日付け取消理由通知書(決定の予告)で通知した取消理由の概要は次のとおりである。 取消理由1(明確性要件) 本件特許の請求項1~5に係る特許は、以下のア~ウの点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 ア 本件発明1の「炭素繊維(成分2)」が、 (1)要件2-1の条件を満たす炭素繊維を、当該要件2-1の条件を満たした状態、すなわちX線光電子分光法分析による測定後のサイジング剤を除去した状態で、ポリプロピレン組成物に含まれたものであるのか、それとも、 (2)要件2-1の条件を満たす炭素繊維を、X線光電子分光法分析による測定前の状態、すなわちサイジング剤を除去していない状態で、ポリプロピレン組成物に含まれたものであるのか、 のどちらを意味するのかを、当業者といえども理解することができず、本件発明1の「炭素繊維(成分2)」が上記(1)であるか(2)であるかのどちらを意味するのかが判然としないことは、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確といえる。 イ 本件発明1は、「炭素繊維表面における結合成分の算出方法」が何ら特定されていないことから、それにより「C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合を含み、C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合のそれぞれのスペクトル面積」の値を一義的に特定することができず、本件発明1の要件2-1における「C-O結合のスペクトル面積が1~24%の範囲」が不明確となっている。 ウ 本件発明2の「炭素繊維(成分2)」について、上記アと同様の理由により不明確であり、本件発明2の要件2-3における「C-O結合の含有量が1~24%の範囲であり、かつ、C=O結合及びO-C=O結合のそれぞれのスペクトル面積の合計が4~15%の範囲」が、上記イと同様の理由により不明確である。 取消理由2(サポート要件) 本件特許の請求項1~5に係る特許は、以下のア~ウの点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 ア 本件発明1は、「炭素繊維(成分2)」について、「C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合を含み、C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合のそれぞれのスペクトル面積の合計を100%として、C-O結合のスペクトル面積が1~24%の範囲であり、ここで、前記スペクトル面積は、Al Kαを用いたX線光電子分光法分析により測定される」ことを発明特定事項として備えるものであるが、実施例1~8のポリプロピレン組成物中の炭素繊維1~3は、「C-O結合のスペクトル面積」が炭素繊維表面における結合成分の算出方法で算出した値であるとは直ちにいえず、「C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合を含み、C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合のそれぞれのスペクトル面積の合計を100%として、C-O結合のスペクトル面積が1~24%の範囲」とはいえないことから、実施例1~8の結果から、本件発明1の上記発明特定事項を備えることにより本件発明の課題を解決すると、当業者は認識することができない。 イ 本件発明1は、「炭素繊維(成分2)」について、上記アのとおり、発明特定事項として備えるものであるが、本件明細書に記載の炭素繊維表面における結合成分の算出方法以外の算出方法で測定した場合に、本件発明1の上記発明特定事項を備えることにより本件発明の課題を解決すると、当業者は認識することができない。 ウ 本件発明2は、「炭素繊維(成分2)」について、「C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合を含み、C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合のそれぞれのスペクトル面積の合計を100%として、C-O結合のスペクトル面積が1~24%の範囲であり、ここで、前記スペクトル面積は、Al Kαを用いたX線光電子分光法分析により測定される」ことを発明特定事項として備えるものであるが、上記ア及びイと同様の理由により、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明2の上記発明特定事項を備えることにより本件発明の課題を解決すると、当業者は認識することができない。 第5 当審の判断 以下に述べるように、当審において通知した取消理由通知(決定の予告)の取消理由及び申立書の申立理由によっては、本件発明1~5に係る特許を取り消すことはできない。 1 取消理由1及び申立理由3(明確性要件)について 取消理由1及び申立理由3は、いずれも明確性要件についてのものであるので、まとめて検討する。 (1)明確性要件の判断基準 特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 そこで、検討する。 (2)本件明細書に記載された事項 本件明細書には次の事項が記載されている。 ア「【0027】 炭素繊維(成分2) 炭素繊維(成分2)は、従来公知の種々の炭素繊維を使用することができる。具体的には、ポリアクリルニトリル系、レーヨン系、ピッチ系、ポリビニルアルコール系、再生セルロース系、メゾフェーズピッチから製造されたピッチ系等の炭素繊維が挙げられる。 【0028】 成分2の繊維径は特に限定されないが、繊維の強化、強化繊維束の生産性の向上、ペレットの連続製造の際の繊維束をつなぐ手間の低減及び生産性の向上のためには、好ましくは3μm以上、より好ましくは8μm以上である。また、ペレット長が決まっている場合における繊維のアスペクト比の向上のためには、前記繊維径は、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下である。 【0029】 成分2のアスペクト比は特に限定されないが、繊維の強化のためには、5以上が好ましい。また、成形性の向上のためには、前記アスペクト比は6000以下が好ましい。成分2のアスペクト比は、平均繊維径と平均繊維長から、(平均繊維長)÷(平均繊維径)によって求めることができる。 【0030】 成分2の原料としては、連続状繊維束が用いられ、これはトウとして市販されている。通常、その平均繊維径は3~30μm、フィラメント集束本数は500~24,000本である。好ましくは平均繊維径4~10μm、集束本数6,000~15,000本である。 【0031】 他に、(成分2として、チョップドストランドを用いることもできる。このチョップドストランドの長さは、通常1~20mm、繊維の径は3~30μm程度、好ましくは4~10μmのものである。 【0032】 本発明の炭素繊維含有ポリプロピレン組成物を構成する成分2の繊維長は、通常、0.05~200mm、好ましくは0.2~50mm、より好ましくは4~20mmである。 【0033】 平均アスペクト比(繊維長/繊維径)は、通常、5~6000、好ましくは10~3000、より好ましくは15~2000である。 【0034】 成分2の表面は、酸化エッチングや被覆などで表面処理を行ったものが好ましい。酸化エッチング処理としては、空気酸化処理、酸素処理、酸化性ガスによる処理、オゾンによる処理、コロナ処理、火炎処理、(大気圧)プラズマ処理、酸化性液体(硝酸、次亜塩素酸アルカリ金属塩の水溶液、重クロム酸カリウム-硫酸、過マンガン酸カリウム-硫酸)等が挙げられる。炭素繊維を被覆する物質としては、炭素、炭化珪素、二酸化珪素、珪素、プラズマモノマー、フェロセン、三塩化鉄等が挙げられる。 【0035】 また、必要に応じてウレタン系、オレフィン系(ポリプロピレンなど)、アクリル系、ナイロン系、ブタジエン系及びエポキシ系(特殊エポキシ含む)、ポリエステル系等のサイジング剤を使用してもよい。」 イ「【0137】 炭素繊維表面 本発明の炭素繊維含有ポリプロピレン組成物に含まれる炭素繊維(成分2)はその表面に、前記ポリプロピレン組成物の力学強度が高まるように、C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合、及びC-N結合を所定の量で含む。なお、前記及び下記態様のいずれでも、「C-O結合」は「O-C=O結合」中のC-O結合を含めず、「C=O結合」は「O-C=O結合」中のC=O結合を含めない。 【0138】 一態様において、成分2は、C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合を含み、C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合のそれぞれのスペクトル面積の合計を100%として、C-O結合の含有量が1~24%、好ましくは3~20%、より好ましくは5~15%の範囲である。 【0139】 一態様において、成分2は、C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合を含み、C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合のそれぞれのスペクトル面積の合計を100%として、C=O結合及びO-C=O結合のそれぞれの含有量の合計が4~15%、好ましくは5~12%、より好ましくは5~8%の範囲である。」 ウ「【0141】 炭素繊維表面における結合成分の算出方法 炭素繊維表面の各結合量は、X線光電子分光法装置により測定され得る。必要に応じ、測定前に、未反応のサイジング剤を除去する等の前処理を行ってもよい。 励起源として、単色化したAl Kα線(1486.6eV)やMg Kα線(1253.6eV)などの特性X線を用いることができる。 得られるスペクトルは、公知の方法で各結合に波形分離できる。 例えば、実施例に記載の方法で炭素繊維表面における各結合成分量を算出できる。」 エ「【0145】 炭素繊維表面における結合成分の算出方法 【0146】 サイジング剤の除去 ダイオネクス社製の高速溶媒抽出装置ASE-200の設定温度を80℃とし、炭素繊維0.2gを容積が11mlの抽出セル容器にいれて、高速溶媒抽出装置ASE-200に設置した。テトラヒドロフラン(関東化学、特級、安定剤不含)11mlを抽出セル容器に注入後、抽出セル容器内の圧力を1000psiに加圧し、15分間保持した。窒素を用いて、抽出セル容器の排出口からテトラヒドロフランを約半分ほど追い出し、再び抽出セル容器内のテトラヒドロフランが11mlになるまで注入後、抽出セル容器内の圧力を1000psiに加圧し、10分間保持した。さらにもう一度、窒素を用いて、抽出セル容器の排出口からテトラヒドロフランを約半分ほど追い出し、再び抽出セル容器内のテトラヒドロフランが11mlになるまで注入後、抽出セル容器内の圧力を1000psiに加圧し、10分間保持した。その後、抽出セル容器に窒素を2分間注入し、抽出セル容器の排出口からテトラヒドロフランを追い出した。抽出セル容器から炭素繊維を取り出し、40℃で少なくとも15時間真空乾燥した。 【0147】 X線光電子分光法(XPS)分析 次いで、上述の作業を施した炭素繊維をX線光電子分光法装置(島津/KRATOS社製AXIS ULTRA DLD)に設置した。X線源として、単色化したAl Kα(1486.6eV)を用いてこれを励起光とした。出力は、管電流を10mA、管電圧を15 kVにそれぞれ設定し、試料法線と光電子取り出し方向とのなす角度で定義される光電子取り出し角度を0°として測定した。得られた炭素1sスペクトルのバックグラウンドをShirley法により除去した。 【0148】 バックグラウンドを除去した炭素1sスペクトルに対して、Lorentz関数の割合を30%としたGauss-Lorentz複合関数を用い、Composites: Part A 90 (2016) 653-661 (Bo Gao et al.)に記載されている方法に従い、C-C結合成分、C-N結合成分、C-O結合成分、C=O結合成分、O-C=O結合成分に由来するピークにそれぞれ波形分離した。 【0149】 波形分離により得られたC-C結合成分、C-N結合成分、C-O結合成分、C=O結合成分、O-C=O結合成分それぞれのスペクトル面積を求め、C-C結合成分、C-N結合成分、C-O結合成分、C=O結合成分、O-C=O結合成分の合計量100%に対する、C-O結合成分のスペクトルの面積が占める割合及びC=O結合成分のスペクトルの面積とO-C=O結合成分のスペクトルの面積の合計量が占める割合を算出した。」 オ「【0150】 変性ポリプロピレンの合成例 【0151】 無水マレイン酸変性ポリプロピレン-1 WO2020/009090に記載の合成例2を用いた。 【0152】 カルボジイミド変性ポリプロピレン-1 上記で合成した無水マレイン酸変性ポリプロピレン-1を100重量%と、カルボジイミド基含有化合物(日清紡社製、商品名カルボジライト(登録商標)HMV-15CA(カルボジイミド当量262g/モル)を1.7重量%と、酸化防止剤1(住友化学株式会社製 スミライザーGA80)を0.2重量%と、酸化防止剤2(住友化学株式会社製 スミライザーGP)を0.2重量%混合し、二軸混練機(株式会社テクノベル製、KZW-15、スクリュー径15mm、L/D=45、シリンダー温度250℃、回転数300rpm、吐出2kg/hr)にて真空ベントから脱気しながら、溶融混練し、カルボジイミド変性ポリプロピレン-1を得た。得られたカルボジイミド変性ポリプロピレン-1のMFR(230℃、2.16kg荷重)は18g/10分であった。 【0153】 エポキシ変性ポリプロピレン-1 上記で合成した無水マレイン酸変性ポリプロピレン-1を100重量%と、エポキシ基含有化合物(日産化学工業株式会社製、商品名TEPIC―S(エポキシ当量105g/eq)を0.67重量%と、酸化防止剤1を0.2重量%と、酸化防止剤2を0.2重量%混合し、二軸混練機(株式会社テクノベル製、KZW-15、スクリュー径15mm、L/D=45、シリンダー温度250℃、回転数300rpm、吐出2kg/hr)にて真空ベントから脱気しながら、溶融混練し、エポキシ変性ポリプロピレン-1を得た。得られたエポキシ変性ポリプロピレン-1のMFR(230℃、2.16kg荷重)は69g/10分であった。 【0154】 炭素繊維2 カーボンファイバーリサイクル工業社製CFRI T8S103Cを100mLの磁性るつぼに約10g量り取り、電気炉(株式会社東京技術研究所製TFD-20C-Z)内に入れた。電気炉を室温から500℃まで約65℃/minで昇温し、500℃下で1時間静置し、炭素繊維2を得た。 得られた炭素繊維2を上述に記載の方法でサイジング剤の除去を行い、上述に記載の方法でC-O結合の含有量とC=O結合及びO-C=O結合のそれぞれの含有量の合計を測定したところ、C-O結合の含有量は19.3%であり、C=O結合及びO-C=O結合のそれぞれの含有量の合計は11.3%であった。 【0155】 使用した材料 実施例及び比較例では、以下の材料を使用した。 【0156】 1.ポリプロピレン(成分1) ポリプロピレン単独重合体1(住友化学株式会社製ノーブレンHR100EG) MFR(230℃、荷重21.2N):23g/10分 融点:164℃ ポリプロピレン単独重合体2(住友化学株式会社製ノーブレンHU100EG) MFR(230℃、荷重21.2N):100g/10分 融点:164℃ 【0157】 2.炭素繊維(成分2) 炭素繊維1(カーボンファイバーリサイクル工業社製CFRI T8S103C) C-O結合:5.2%、C=O結合及びO-C=O結合の合計:5.8% 炭素繊維2(炭素繊維-1を500℃で1時間加熱処理) C-O結合:19.3%、C=O結合及びO-C=O結合の合計:11.3% 炭素繊維3(帝人株式会社製Tenax-A PCS171200) C-O結合:14.2%、C=O結合及びO-C=O結合の合計:7.3% 炭素繊維4(帝人株式会社製Tenax-J IM C443) C-O結合:24.7%、C=O結合及びO-C=O結合の合計:2.7% 炭素繊維5(SGLカーボンジャパン株式会社製SIGRAFIL C C6―4.0/240-T130) C-O結合:27.4%、C=O結合及びO-C=O結合の合計:3.1% 【0158】 3.変性ポリプロピレン(成分3) 変性ポリプロピレン1 上記合成例の無水マレイン酸変性ポリプロピレン 変性ポリプロピレン2 上記合成例のカルボジイミド変性ポリプロピレン 変性ポリプロピレン3 上記合成例のエポキシ変性ポリプロピレン 【0159】 4.その他の材料 酸化防止剤3:BASFジャパン株式会社製 イルガノックス1010 酸化防止剤4:BASFジャパン株式会社製 イルガフォス168」 カ「【0160】溶融混錬及び射出成形体の製造 【0161】 実施例1 ポリプロピレン単独重合体1 70重量%と、変性ポリプロピレン1 10重量%と、炭素繊維1 20重量%と、ポリプロピレン単独重合体1と変性ポリプロピレン1と炭素繊維1の合計100重量部に対して、酸化防止剤3 0.2重量部と、酸化防止剤4 0.2重量部とを混合し、混合物を得た。混合物を40mm単軸押出機(VS40-28型ベント式押出機、田辺プラスチックス社製)により、シリンダー温度220℃、スクリュー回転数100rpmにて溶融混錬を行い、ペレット化し、炭素繊維含有ポリプロピレン組成物を得た。得られた炭素繊維含有ポリプロピレン組成物を、射出成形機(株式会社名機製作所製M-70CSJ)を用いて、シリンダー温度220℃、金型温度50℃、射出速度20mm/秒の条件で射出成形を行い、ISO試験片の射出成形体を得た。 【0162】 実施例2~8及び比較例1~4 表1に示した材料を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例2~8及び比較例1~4の炭素繊維含有ポリプロピレン組成物を製造した。 【0163】 物性の評価 1.メルトマスフローレイト(単位:g/10分) JIS K 7210に規定された方法に従って、測定温度230℃で、荷重2.16kgで、メルトマスフローレイトを測定した。 【0164】 2.密度(単位:g/cm3) 上記の「溶融混錬及び射出成形体の製造」に記載の成形方法によって成形された成形体を80mm×10mm×4mmのサイズに切り出したものを試験片として用いて、JIS K7112に規定のA法である水中置換法に従って、密度を測定した。 【0165】 3.引張り破断強度(単位:MPa) 上記の「溶融混錬及び射出成形体の製造」に記載の成形方法によって成形された厚みが4mmである試験片を用いて、ISO 527-2に規定された方法に従って、引張り速度50mm/分で、引張り破断強度(US)を測定した。 【0166】 4.曲げ強度(単位:MPa) 上記の「溶融混錬及び射出成形体の製造」に記載の成形方法によって成形された厚みが4mmである試験片を用いて、ISO 178に規定された方法に従って、荷重速度2.0mm/分で、曲げ強度(FS)を測定した。【0167】 【表1】 [図:0001434111000001.jpg] 」 (3)本件発明1について 本件特許の請求項1の記載は、上記第3のとおりであり、「C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合のそれぞれのスペクトル面積」の測定方法が、「Al Kαを用いたX線光電子分光法分析により測定され、バックグラウンドを除去した炭素1sスペクトルに対して、Lorentz関数の割合を30%としたGauss-Lorentz複合関数を用い、Composites: Part A 90 (2016) 653-661(Bo Gao et al.)に記載されている方法に従い、各結合成分に由来するピークにそれぞれ波形分離されたものである。」と特定されている。 一方、本件明細書には、「C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合のそれぞれのスペクトル面積」の測定方法について、摘記(2)エには、サイジングの除去について具体的な方法が記載されており(【0146】)、サイジングの除去を施した炭素繊維に対してX線光電子分光装置(島津/KRATOS社製AXIS ULTRA DLD)で測定し、得られた炭素1sスペクトルのバックグラウンドを除去することが記載され(【0147】)、バックグラウンドを除去した炭素1sスペクトルに対して、Composites: Part A 90 (2016) 653-661(Bo Gao et al.)(以下「甲4」という。)に記載されている方法に従い、波形分離することが記載され(【0148】)、波形分離によりC-C結合成分、C-N結合成分、C-O結合成分、C=O結合成分、O-C=O結合成分それぞれのスペクトル面積を求めることが記載されている(【0149】)。 そして、甲4(Table2(657ページ))には、炭素繊維の成分のC1sスペクトルを分離するために使用されたピークフィッティングパラメータが記載されている(当審注:甲4は英語で記載されているため、日本語訳の記載で示す)。 「表2 [図:0001434111000002.jpg] 」 そうすると、本件明細書及び甲4の記載から、請求項1で特定された「C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合のそれぞれのスペクトル面積」の測定方法により「C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合のそれぞれのスペクトル面積」を求められることは明らかである。 さらに、上記測定方法について、摘記(2)ウには、「必要に応じ、測定前に、未反応のサイジング剤を除去する等の前処理を行ってもよい。」(【0141】)ことが記載されているから、炭素繊維に未反応のサイジング剤が存在しない場合はサイジング剤の除去を行わず、炭素繊維に未反応のサイジング剤が存在する可能性がある場合は本件明細書の【0146】に記載のサイジング剤の除去方法によりサイジング剤を除去し、炭素繊維の「C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合のそれぞれのスペクトル面積」を測定することを、当業者であれば理解できる。 したがって、請求項1で特定された「C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合のそれぞれのスペクトル面積」の測定方法は明確であるから、当該測定方法により測定されたものである請求項1で特定された「要件2-1:成分2は、C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合を含み、C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合のそれぞれのスペクトル面積の合計を100%として、C-O結合のスペクトル面積が1~24%の範囲」は明確である。 さらに、上記で検討した発明特定事項以外の本件特許の請求項1の記載は、それ自体に不明確な記載はなく、明細書の記載とも整合する。 よって、本件発明1に関して、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。 (4)本件発明2について 本件特許の請求項2の記載は、上記第3のとおりであり、「C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合のそれぞれのスペクトル面積」の測定方法が、「Al Kαを用いたX線光電子分光法分析により測定され、バックグラウンドを除去した炭素1sスペクトルに対して、Lorentz関数の割合を30%としたGauss-Lorentz複合関数を用い、Composites: Part A 90 (2016) 653-661(Bo Gao et al.)に記載されている方法に従い、各結合成分に由来するピークにそれぞれ波形分離されたものである。」と特定されているところ、上記(3)で検討したのと同様の理由により、請求項2で特定された「C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合のそれぞれのスペクトル面積」の測定方法は明確であるから、当該測定方法により測定されたものである請求項2で特定された「要件2-3:成分2は、C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合を含み、C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合のそれぞれのスペクトル面積の合計を100%として、C-O結合のスペクトル面積が1~24%の範囲であり、かつ、C=O結合及びO-C=O結合のそれぞれのスペクトル面積の合計が4~15%の範囲」は明確である。 さらに、上記で検討した発明特定事項以外の本件特許の請求項2の記載は、それ自体に不明確な記載はなく、明細書の記載とも整合する。 よって、本件発明2に関して、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。 (5)本件発明3~5について 本件発明3~5は、本件発明1又は2を直接又は間接的に引用するものであり、上記(3)及び(4)と同様の理由により、本件発明3~5に関して、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。 (6)申立人の主張について 申立人は令和7年9月30日提出の意見書(以下「申立人意見書」という。)において、以下のア~カの主張をしている。 ア 反応により炭素繊維の表面と化学結合することを主目的とするサイジング剤が、本件発明におけるサイジング剤の定義であるとする根拠はなく、本件明細書段落【0004】に記載のサイジング剤の定義や、一般的な「収束性を付与し、取り扱いしやすくする作用を有する剤」とする定義とも齟齬する。したがって、本件発明における「サイジング剤の除去」とは「炭素繊維の表面に余っている可能性のある未使用のサイジング剤だけ」の除去であるとの主張は、その意味内容が理解できない。(3頁14~20行) イ 直径が5~10μm程度の炭素繊維において、表面とバルクとの性状は大きく異なる中で、XPS分析による分析深さは一般に数nm程度とされている(甲第10号証、第29頁参考)。そうである以上、深さ数nm程度の分析手段であるXPS分析は「試料全体の組成を分析するための代替手段」とはなり得ない。・・・各結合の含有量を意味するスペクトル面積の分母が、炭素繊維ではなく、炭素繊維含有ポリプロピレン組成物における5種の結合のスペクトル面積であるといった説明も理解できず、齟齬がある。(3頁29行~4頁2行) ウ 特許権者は、炭素繊維含有ポリプロピレン組成物における炭素繊維について、サイジング剤での処理がなされているものと、当該処理がなされていないものの双方の存在を認めているところ、取消理由1の「炭素繊維(成分2)について不明確であると判断された事項は、なんら解消されていない。(4頁9~18行) エ サイジング剤の含有割合(付着量)が0.1%とは、サイジング剤が付着した状態での炭素繊維の直径が10μmである場合、サイジング剤の厚みは2.5nmとなる。ここで、XPS分析の分析対象(分析深さ)が表面から数nmであることを踏まえれば、XPS分析の結果は、0.1%のサイジング剤の存在により大きな影響を受けるものであることは容易に理解できる。・・・したがって、少量のサイジング剤の存在では、「炭素繊維中のC-O結合等の含有量への影響はほとんどない」との主張は失当である。(5頁18~30行) オ 令和7年7月4日に特許権者が提出した意見書に表で示された結果に対する考察についても、炭素繊維1の重量減少率を根拠として、炭素繊維3~5について「未反応のサイジング剤がごく少量であるということが一層理解できる」であるとか、「実施例は、前記サイジング剤の有無とは直接的な関係はなく、C-O結合等の含有量が本件特許発明の規定を満たすか否かという点が重要であることを実証している」とかいった主張は、理解できない。(6頁10~14行) カ 「Composites:Part A 90(2016) 653-661 (BoGao et al.)では、ディサイズ化及びグラフト化された炭素繊維のXPS分析で得られたC1sスペクトルを波形解析する際に用いるピークフィッティングパラメータとして、Thostensonらの報告が引用された上で、各パラメータが記載されている」ものである。そうすると、訂正後の請求項1,2において、ディサイズ化及びグラフト化が前提とされている上記論文を引用して、各結合のスペクトル面積を求めることが規定されていること自体、本件発明における成分2である炭素繊維について、サイジング剤の影響を除去できていないことを暗に認めており、特許権者の主張には一貫性がない。上記に加え、本件明細書における実施例では、サイジング剤で処理されていない炭素繊維1を採用した例も含まれる。しかしながら、上記考え方に基づけば、サイジング剤が付与されていない炭素繊維1に対しても、上記のような、ディサイズ化及びグラフト化が前提とされている方法を適用して波形分離するのは不適切であり、妥当性に欠ける。(6頁24~36行) (ア)上記アの主張について 上記(3)で検討したとおり、炭素繊維に未反応のサイジング剤が存在しない場合はサイジング剤の除去を行わず、炭素繊維に未反応のサイジング剤が存在する可能性がある場合は本件明細書の【0146】に記載のサイジング剤の除去方法によりサイジング剤を除去し、炭素繊維のスペクトル面積を測定することは明らかである。 また、本件明細書には、申立人が主張するような、サイジング剤が「反応により炭素繊維の表面と化学結合することを「主目的とする」」ものであるとの記載はなく、一般的な「収束性を付与し、取り扱いしやすくする作用を有する剤」である定義から外れるものではない。 したがって、サイジング剤の除去により何が除去されているかは、上記(3)~(5)の判断に影響しない。 (イ)上記イ及びオの主張について 上記イ及びオの主張は、特許権者の主張が理解できないというものであるが、上記(ア)で検討したとおり、炭素繊維のスペクトル面積を測定することは明らかであるから、特許権者の主張を採用するか否かにかかわらず、上記イ及びオの主張が上記(3)~(5)の判断に影響するものではない。 (ウ)上記ウの主張について 上記(ア)で検討したのと同様の理由により、サイジング剤での処理がなされているものと、当該処理がなされていないものの双方存在することが、上記(3)~(5)の判断に影響するものではない。 (エ)上記エの主張について 上記(ア)で検討したのと同様の理由により、サイジング剤の付着量が、上記(3)~(5)の判断に影響するものではない。 (オ)上記カの主張について 摘記(2)エの【0148】には、波形分離する際に、甲4に記載されている方法に従うことが記載されていることから(【0148】)、甲4に記載されている炭素繊維の成分のC1sスペクトルを分離するために使用されたピークフィッティングパラメータが、ディサイズ化及びグラフト化された炭素繊維を前提としているとしても、甲4に記載されている方法に従い波形分離するに際し、ディサイズ化及びグラフト化された炭素繊維以外の炭素繊維(例えば、サイジング剤で処理されていない炭素繊維1)にも適用できることは本件出願時の技術常識であるといえるし、適用できない特段の事情があるともいえない。 以上のとおりであるから、申立人の上記ア~カの主張はいずれも採用できない。 (7)取消理由1についてのまとめ 上記(3)~(6)のとおりであるから、取消理由1はその理由がない。 2 取消理由2(サポート要件)について (1)サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 そこで、検討する。 (2)サポート要件の判断 ア 本件発明の課題 本件明細書には、「本発明は、繊維強化ポリプロピレン組成物の軽量化を図りさらに力学強度を向上させるという課題を解決しようとするものである。」と記載されている(【0007】)。 そうすると、本件発明が解決しようとする課題(以下「本件発明の課題」という。)は、繊維強化ポリプロピレン組成物の軽量化を図りさらに力学強度を向上させることである。 イ 本件発明1について 本件発明1は上記第3のとおりであり、「炭素繊維(成分2)」について、「要件2-1:成分2は、C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合を含み、C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合のそれぞれのスペクトル面積の合計を100%として、C-O結合のスペクトル面積が1~24%の範囲であり、 ここで、前記スペクトル面積は、Al Kαを用いたX線光電子分光法分析により測定され、バックグラウンドを除去した炭素1sスペクトルに対して、Lorentz関数の割合を30%としたGauss-Lorentz複合関数を用い、Composites: Part A 90 (2016) 653-661(Bo Gao et al.)に記載されている方法に従い、各結合成分に由来するピークにそれぞれ波形分離されたものである。」との特定事項(以下「特定事項1」という。)を備えるものである。 そして、特定事項1に関して、本件明細書には、使用する炭素繊維について記載され(摘記1(2)ア)、炭素繊維表面について記載され(摘記1(2)イ)、炭素繊維表面における結合成分の算出方法について記載され(摘記1(2)ウ及びエ)、さらに、実施例において、炭素繊維1~3を用いた実施例1~8が、炭素繊維4及び5を用いた比較例1~4に比べて、引張強度及び曲げ強度が向上し、本件発明の課題を解決することが記載されている(摘記1(2)オ及びカ)。 ここで、摘記1(3)で検討したとおり、炭素繊維表面における結合成分の算出方法においては、炭素繊維に未反応のサイジング剤が存在しない場合はサイジング剤の除去を行わず、炭素繊維に未反応のサイジング剤が存在する可能性がある場合は本件明細書の【0146】に記載のサイジング剤の除去方法によりサイジング剤を除去し、炭素繊維のスペクトル面積を測定することを、当業者であれば理解できるが、摘記1(2)オ及びカから、実施例において、炭素繊維1~3は、上記サイジング剤の除去方法によりサイジング剤を除去した炭素繊維ではなく、市販品の状態で他の成分と配合していると解される。 そうすると、本件発明1の「炭素繊維(成分2)」として、サイジング剤が存在する炭素繊維を用いる場合は、X線光電子分光法分析により測定後の炭素繊維と、ポリプロピレン組成物に配合する炭素繊維とは、上記サイジング剤の除去方法によりサイジング剤を除去したか否かで異なることとなる。 この点に関して、特許権者が令和7年7月4日に提出した意見書に添付した2025年6月30日付け実験成績証明書には、以下の記載がある。 「 [図:0001434111000003.jpg] 」(1頁) 「 [図:0001434111000004.jpg] [図:0001434111000005.jpg] 」(2頁) 「 [図:0001434111000006.jpg] 」(3頁) 上記記載から、炭素繊維が、上記5.1に記載のサイジング剤の除去方法によりサイジング剤を除去したか否かで異なる以外は、樹脂組成物の成分が同じである実施例6及び追加実施例は、引張強度及び曲げ強度の値が同程度であるといえ、上記5.1に記載のサイジング剤の除去方法による質量変化率(1.5wt%)が、本件明細書の【0146】に記載のサイジング剤の除去方法による質量変化率(0.6wt%)より大きく、より多くのサイジング剤が除去されていることを考慮すれば、X線光電子分光法分析により測定後の炭素繊維と、ポリプロピレン組成物に配合する炭素繊維とが、本件明細書の【0146】に記載のサイジング剤の除去方法によりサイジング剤を除去したか否かで異なることは、本件発明の課題を解決するか否かへは影響しないと解されるし、炭素繊維のサイジング剤の除去の有無により、本件発明の課題を解決するか否かに影響することが本件出願時の技術常識であるともいえない。 したがって、当業者は、上述した実施例の結果から、特定事項1を備えることにより、本件発明の課題を解決できると認識でき、本件発明1は、炭素繊維含有ポリプロピレン組成物として、さらに限定したものである。 よって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により当業者が上記発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件発明1に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。 ウ 本件発明2について 本件発明2は上記第3のとおりであり、「炭素繊維(成分2)」について、「要件2-3:成分2は、C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合を含み、C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合のそれぞれのスペクトル面積の合計を100%として、C-O結合のスペクトル面積が1~24%の範囲であり、かつ、C=O結合及びO-C=O結合のそれぞれのスペクトル面積の合計が4~15%の範囲であり、 ここで、前記スペクトル面積は、Al Kαを用いたX線光電子分光法分析により測定され、バックグラウンドを除去した炭素1sスペクトルに対して、Lorentz関数の割合を30%としたGauss-Lorentz複合関数を用い、Composites: Part A 90 (2016) 653-661(Bo Gao et al.)に記載されている方法に従い、各結合成分に由来するピークにそれぞれ波形分離されたものである。」との特定事項(以下「特定事項2」という。)を備えるものである。 そして、特定事項2に関して、本件明細書には、上記イのとおりの記載があり、上記イで検討したとおり、当業者は、実施例の結果から、特定事項2を備えることにより、本件発明の課題を解決できると認識でき、本件発明2は、炭素繊維含有ポリプロピレン組成物として、さらに限定したものである。 よって、本件発明2は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により当業者が上記発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件発明2に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。 エ 本件発明3~5について 本件発明3~5は、本件発明1又は2を直接又は間接的に引用するものであるから、上記イ及びウと同様の理由により、本件発明3~5に関して、特許請求の範囲はサポート要件に適合する。 オ 申立人の主張について 申立人は申立人意見書において、上記1(6)ア~カと同様の理由によりサポート要件違反の取消理由が解消していない旨の主張をしている。 上記1(6)ア~カの主張について 上記イで検討したとおり、X線光電子分光法分析により測定後の炭素繊維と、ポリプロピレン組成物に配合する炭素繊維とが、上記サイジング剤の除去方法によりサイジング剤を除去したか否かで異なることは、本件発明の課題を解決するか否かへは影響しないと解される。 そして、申立人は上記主張において、上記サイジング剤の除去方法によりサイジング剤を除去したか否かで異なることにより、引張強度及び曲げ強度が大きく異なり、本件発明の課題を解決するか否かに影響することについて、具体的な技術的根拠を何ら示していないし、申立人の上記主張から、上記サイジング剤の除去方法によりサイジング剤を除去したか否かで異なることにより、本件発明の課題を解決するか否かに影響するとまではいえない。 したがって、上記1(6)ア~カの主張は、上記イ~エの判断に影響するものではない。 以上のとおりであるから、申立人の上記1(6)ア~カの主張はいずれも採用できない。 カ 取消理由2についてのまとめ 上記イ~オのとおりであるから、取消理由2はその理由がない。 3 申立理由1(甲1を主引例とする新規性・進歩性) (1)甲1に記載された発明 甲1には、【0040】及び【0042】の【表1】における炭素繊維複合材料についての記載、【0044】における相溶化剤の記載、【0048】における炭素繊維複合材料の製造方法についての記載、並びに、【0049】の【表2】のEntry7のペレットに着目すると、以下の発明が記載されている。 「ポリプロピレン(日本ポリプロピレン(株)製:NOVATEC-PP:FY6,MFR:2.5,Mn:776000)95質量%、補強材である炭素繊維5質量%、相溶化剤である無水マレイン化ポリプロピレン(MAPP)(三洋化成(株)製:ユーメックス1010 酸化度52%Mn:42000)3質量%とを、二軸押出機(テクノベル(株)製:KZW20TW-45MG-NH、L/D=45 スクリュー径20mm:同方向回転)を用いて射出部190℃、混合180℃、回転数150rpmにて、溶解、混練してストランドを作製し、ストランドペレタイザ(テクノベル(株)製)を用いて加工したペレット。 ここで、上記炭素繊維は、東レ(株)製:T700/12Kを使用し、炭素繊維表面のサイジング剤は、アセトンにて超音波処理を40℃、20分にて2回行い、その後、エタノールと蒸留水にてリンスし、乾燥させて、炭素繊維表面から取り除き、X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)(テルモ(株)製:K-ALPHA KA1148)の測定結果が以下のものである。 [図:0001434111000007.jpg] 」(以下「甲1発明」という。) (2)本件発明1について ア 対比・判断 本件発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明の「ポリプロピレン(日本ポリプロピレン(株)製:NOVATEC-PP:FY6,MFR:2.5,Mn:776000)」、「炭素繊維」及び「無水マレイン化ポリプロピレン(MAPP)(三洋化成(株)製:ユーメックス1010酸化度52%Mn:42000)」は、本件発明1の「ポリプロピレン(成分1)」、「炭素繊維(成分2)」及び「変性ポリプロピレン(成分3)」に相当する。 また、甲1発明は、ポリプロピレン95質量%、炭素繊維5質量%及び無水マレイン化ポリプロピレン(MAPP)3質量%からなり、各成分の合計を100重量%としたときの割合は、それぞれ約92.2質量%、約4.85質量%、約2.91%であるから、本件発明1の「要件1:成分1と成分2と成分3のそれぞれの重量の合計を100重量%として、成分1の含有量が30~98重量%の範囲であり、成分2の含有量が1~50重量%の範囲であり、成分3の含有量が1~20重量%の範囲であ」るとの特定事項を満たす。 さらに、甲1発明の「ペレット」は、ポリプロピレンと炭素繊維を含むものであるから、本件発明1の「炭素繊維含有ポリプロピレン組成物」に相当する。 そうすると、両者は次の点で一致する。 「ポリプロピレン(成分1)と炭素繊維(成分2)と変性ポリプロピレン(成分3)を含み、以下の要件を充足する炭素繊維含有ポリプロピレン組成物: 要件1:成分1と成分2と成分3のそれぞれの重量の合計を100重量%として、成分1の含有量が30~98重量%の範囲であり、成分2の含有量が1~50重量%の範囲であり、成分3の含有量が1~20重量%の範囲である。」 そして、両者は以下の点で一応相違する。 ・相違点1-1 炭素繊維に関して、本件発明1は、「要件2-1:成分2は、C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合を含み、C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合のそれぞれのスペクトル面積の合計を100%として、C-O結合のスペクトル面積が1~24%の範囲であり、 ここで、前記スペクトル面積は、Al Kαを用いたX線光電子分光法分析により測定され、バックグラウンドを除去した炭素1sスペクトルに対して、Lorentz関数の割合を30%としたGauss-Lorentz複合関数を用い、Composites: Part A 90 (2016) 653-661(Bo Gao et al.)に記載されている方法に従い、各結合成分に由来するピークにそれぞれ波形分離されたものである。」と特定されているのに対し、甲1発明はそのような特定がない点 上記相違点1-1について検討する。 甲1発明は、X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)(テルモ(株)製:K-ALPHA KA1148)により測定されるものであるが、波形分離の方法については何ら記載されていないことから、本件発明1の「Al Kαを用いたX線光電子分光法分析により測定され、バックグラウンドを除去した炭素1sスペクトルに対して、Lorentz関数の割合を30%としたGauss-Lorentz複合関数を用い、Composites: Part A 90 (2016) 653-661(Bo Gao et al.)に記載されている方法に従い、各結合成分に由来するピークにそれぞれ波形分離されたものである。」の特定事項を満たしていない。 そして、波形分離の方法により、「C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合のそれぞれのスペクトル面積」が異なることが、本件優先日時点における技術常識であり、特許異議申立書の70ページの参考図1及び参考表1、同71ページの参考図2及び参考表2、同72ページの参考図3及び参考表3の結果、さらに、令和7年1月31日に特許権者が提出した意見書の12ページの表と甲1の【0042】の【表1】を比較した結果からもこのことが裏付けられているといえる。 そうすると、甲1発明は、「X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)(テルモ(株)製:K-ALPHA KA1148)の測定結果が以下のものである。 [図:0001434111000008.jpg] 」との特定事項から、相違点1-1に係る特定事項を満たしているとはいえないし、満たしている蓋然性が高いともいえないことから、相違点1-1は実質的な相違点である。 また、甲1には、炭素繊維に関して、「C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合のそれぞれのスペクトル面積の合計を100%として、C-O結合のスペクトル面積」については記載されていないから、「C-O結合のスペクトル面積が1~24%の範囲」とする動機付けとなる記載はないし、甲3~甲8にも当該動機付けとなる記載はない。 そうすると、甲1及び甲3~甲8の記載を参酌しても、甲1発明において、炭素繊維に関して「C-O結合のスペクトル面積が1~24%の範囲」とする動機付けはない。 したがって、相違点1-1に係る発明特定事項は、甲1発明ではないし、甲1発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものでもない。 そして、本件発明1は、実施例1~8及び比較例1~4(本件明細書の【0144】~【0167】)の結果から、「繊維強化ポリプロピレン組成物及びその組成物を含む成形体の軽量化及び力学強度の向上に成功した。」(本件明細書の【0011】)という効果を奏するものである。 イ 本件発明1についてのまとめ 上記アのとおりであるから、本件発明1は、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (3)本件発明2について ア 対比・判断 本件発明2と甲1発明とを対比すると、上記(2)アと同様の相当関係が成り立つ。 そうすると、両者は上記(2)アと同様の点で一致し、以下の点で一応相違する。 ・相違点1-2 炭素繊維に関して、本件発明2は、「要件2-3:成分2は、C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合を含み、C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合のそれぞれのスペクトル面積の合計を100%として、C-O結合のスペクトル面積が1~24%の範囲であり、かつ、C=O結合及びO-C=O結合のそれぞれのスペクトル面積の合計が4~15%の範囲であり、 ここで、前記スペクトル面積は、Al Kαを用いたX線光電子分光法分析により測定され、バックグラウンドを除去した炭素1sスペクトルに対して、Lorentz関数の割合を30%としたGauss-Lorentz複合関数を用い、Composites: Part A 90 (2016) 653-661(Bo Gao et al.)に記載されている方法に従い、各結合成分に由来するピークにそれぞれ波形分離されたものである。」と特定されているのに対し、甲1発明はそのような特定がない点 上記相違点1-2について検討する。 上記(2)アと同様の理由により、相違点1-2は実質的な相違点である。 また、甲1には、炭素繊維に関して、「C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合のそれぞれのスペクトル面積の合計を100%として、C-O結合のスペクトル面積」及び「C=O結合及びO-C=O結合のそれぞれのスペクトル面積の合計」については記載されていないから、「C-O結合のスペクトル面積が1~24%の範囲であり、かつ、C=O結合及びO-C=O結合のそれぞれのスペクトル面積の合計が4~15%の範囲」とする動機付けとなる記載はないし、甲3~甲8にも当該動機付けとなる記載はない。 そうすると、甲1及び甲3~甲8の記載を参酌しても、甲1発明において、炭素繊維に関して「C-O結合のスペクトル面積が1~24%の範囲であり、かつ、C=O結合及びO-C=O結合のそれぞれのスペクトル面積の合計が4~15%の範囲」とする動機付けはない。 したがって、相違点1-2に係る発明特定事項は、甲1発明ではないし、甲1発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものでもない。 そして、本件発明2は、上記(2)アで検討したとおり、「繊維強化ポリプロピレン組成物及びその組成物を含む成形体の軽量化及び力学強度の向上に成功した。」(本件明細書の【0011】)という効果を奏するものである。 イ 本件発明2についてのまとめ 上記アのとおりであるから、本件発明2は、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (4)本件発明3~5について 本件発明3~5は、請求項1又は2を直接又は間接的に引用して特定するものであり、上記(2)及び(3)と同様の理由により、本件発明3~5は、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (5)申立理由1についてのまとめ 以上のとおりであるから、申立理由1はその理由がない。 4 申立理由2(甲2を主引例とする進歩性) (1)甲2に記載された事項 甲2には以下の事項が記載されている。 ア 「2.1 材 料 炭素繊維にT700SC-12000-50C(東レ(株)製,密度1.8g/cm3)を用い,小型サンプル織機織華((株)トヨシマビジネスシステム製)により平織り(織密度5.9本/5cm,目付230g/cm2)で製織し,180mm×180mmに切断したものをCFRTPの基材として使用した.また,マトリックス用の樹脂としてポリプロピレン(PP)には、SA-08(日本ポリプロ(株)製),ポリアミド6(PA6)にはCM1006アミラン(東レ(株)製),ポリヒドロキシポリエーテル(PHPE)にはPKHP-200(Gabriel社製)を使用した.そして,プレス成形用の樹脂フィルムとして各樹脂原料から作製した厚さ100μmの樹脂フィルムをCFRTPの基材として使用した.」(89頁左欄38行~右欄2行) イ 「炭素繊維に塗布されているサイジング剤の熱処理条件は,大気中240℃8hおよび400℃10min[9-10]とした.」(89頁右欄15~17行) ウ 「2.3 CFRTP板の作製 評価試験用のCFRTP板は高温型プレス機(テスター産業(株)製SA-401-S)にて,フィルムスタッキング法での熱プレス成形により作製した.プレス成形はサイジング剤の熱処理後もしくは未処理の炭素繊維平織物(180mm×180mm)10枚と熱可塑性樹脂フィルム11枚を交互に積層したものをCF基材として,厚さ2mmのCFRTP板を作製した.」(89頁右欄28~35行) エ 「2.8 X線光電子分光分析 熱処理前後における炭素繊維表面の組成の変化を調べるためにX線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy: XPS)によるスペクトル分析を行った.XPS装置にはアルバック・ファイ(株)製のVersa Plobe IIIを用い,X線源をAl-Kαとして,C1sスペクトルについて波形分離を行い,結合成分の構成比を求めた.」(90頁右欄20~26行) オ 「次に,サイジング剤熱処理による炭素繊維表面の組成の変化を評価するためにXPSによる炭素繊維表面の分析を行った.サイジング剤の熱処理条件を未処理,240℃8h,400℃10minとした場合のC1sのピークスペクトルをFig.6に示す.」(92頁左欄4~8行) カ 「 [図:0001434111000009.jpg] 」(92頁のFig.6) キ 「Fig.7は波形分離後の各スペクトルから算出した各サイジング剤処理条件におけるC-Cピークに対するO-C=Oピークの面積比(O-C=O/C-C)を表したものである.」(92頁右欄4~7行) ク 「 [図:0001434111000010.jpg] 」(92頁のFig.7) (1)甲2に記載された発明 甲2には、摘記アの炭素繊維平織物、及び、摘記アのポリプロピレン(PP)であるSA-08(日本ポリプロ(株)製)から作製した厚さ100μmの樹脂フィルムを用い、摘記ウの方法でCFRTP板を作製することが記載されている。 また、甲2には、サイジング剤の熱処理条件が240℃8hである炭素繊維表面について、X線光電子分光法によるスペクトル分析を行うこと(摘記エ)、XPS装置にはアルバック・ファイ(株)製のVersa Plobe IIIを用い,X線源をAl-Kαとして,C1sスペクトルについて波形分離を行うこと(摘記エ)が記載されており、さらに、波形分離後の各スペクトルから算出した各サイジング剤処理条件におけるC-Cピークに対するO-C=Oピークの面積比(O-C=O/C-C)が、サイジング剤の熱処理条件が240℃8hである場合、約0.105と解される(摘記キ及びク)。 以上の記載を踏まえ、サイジング剤の熱処理条件が240℃8hである炭素繊維平織物(180mm×180mm)とポリプロピレン(PP)であるSA-08(日本ポリプロ(株)製)から作製した熱可塑性樹脂フィルムを交互に積層したものをCF基材として,作製した厚さ2mmのCFRTP板に着目すると、以下の発明が記載されている。 「サイジング剤の熱処理条件が240℃8hであり、炭素繊維にT700SC-12000-50C(東レ(株)製,密度1.8g/cm3)を用い,小型サンプル織機織華((株)トヨシマビジネスシステム製)により平織り(織密度5.9本/5cm,目付230g/cm2)で製織し,180mm×180mmに切断した炭素繊維平織物(180mm×180mm)10枚とポリプロピレン(PP)であるSA-08(日本ポリプロ(株)製)から作製した厚さ100μmの熱可塑性樹脂フィルム11枚を交互に積層したものをCF基材として、高温型プレス機(テスター産業(株)製SA-401-S)にて,フィルムスタッキング法での熱プレス成形により作製した厚さ2mmのCFRTP板であって、炭素繊維について、X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy: XPS)によるスペクトル分析を行い、XPS装置にはアルバック・ファイ(株)製のVersa Plobe IIIを用い、X線源をAl-Kαとして,C1sスペクトルについて波形分離を行い、波形分離後の各スペクトルから算出した各サイジング剤処理条件におけるC-Cピークに対するO-C=Oピークの面積比(O-C=O/C-C)が約0.105である、CFRTP板。」(以下「甲2発明」という。) (2)本件発明1について ア 対比・判断 本件発明1と甲2発明とを対比する。 甲2発明の「ポリプロピレン(PP)であるSA-08(日本ポリプロ(株)製)」及び「炭素繊維平織物(180mm×180mm)」は、本件発明1の「ポリプロピレン(成分1)」及び「炭素繊維(成分2)」に相当する。 また、甲2発明の「CFRTP板」は、熱プレス成形によりポリプロピレンと炭素繊維を含むものになるのは明らかであるから、本件発明1の「炭素繊維含有ポリプロピレン組成物」に相当する。 そうすると、両者は次の点で一致する。 「ポリプロピレン(成分1)と炭素繊維(成分2)を含む、炭素繊維含有ポリプロピレン組成物。」 そして、両者は以下の点で相違する。 ・相違点2-1 本件発明1は、「変性ポリプロピレン(成分3)」を含むのに対し、甲2発明は含んでいない点 ・相違点2-2 本件発明1は、「要件1:成分1と成分2と成分3のそれぞれの重量の合計を100重量%として、成分1の含有量が30~98重量%の範囲であり、成分2の含有量が1~50重量%の範囲であり、成分3の含有量が1~20重量%の範囲」であるのに対し、甲2発明はそのような特定がない点 ・相違点2-3 炭素繊維に関して、本件発明1は、「要件2-1:成分2は、C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合を含み、C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合のそれぞれのスペクトル面積の合計を100%として、C-O結合のスペクトル面積が1~24%の範囲であり、 ここで、前記スペクトル面積は、Al Kαを用いたX線光電子分光法分析により測定され、バックグラウンドを除去した炭素1sスペクトルに対して、Lorentz関数の割合を30%としたGauss-Lorentz複合関数を用い、Composites: Part A 90 (2016) 653-661(Bo Gao et al.)に記載されている方法に従い、各結合成分に由来するピークにそれぞれ波形分離されたものである。」と特定されているのに対し、甲2発明はそのような特定がない点 事案に鑑み、相違点2-3について検討する。 甲2発明は、X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy: XPS)によるスペクトル分析を行い、XPS装置にはアルバック・ファイ(株)製のVersa Plobe IIIを用い、X線源をAl-Kαとして,C1sスペクトルについて波形分離を行うものであるが、波形分離の方法については何ら記載されていないことから、本件発明1の「Al Kαを用いたX線光電子分光法分析により測定され、バックグラウンドを除去した炭素1sスペクトルに対して、Lorentz関数の割合を30%としたGauss-Lorentz複合関数を用い、Composites: Part A 90 (2016) 653-661(Bo Gao et al.)に記載されている方法に従い、各結合成分に由来するピークにそれぞれ波形分離されたものである。」の特定事項を満たしていない。 そして、上記3(2)アと同様の理由により、甲2発明は、「波形分離後の各スペクトルから算出した各サイジング剤処理条件におけるC-Cピークに対するO-C=Oピークの面積比(O-C=O/C-C)が約0.105である」との特定事項から、相違点2-3に係る特定事項を満たしているとはいえないし、満たしている蓋然性が高いともいえない。 また、甲2には、炭素繊維に関して、「C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合のそれぞれのスペクトル面積の合計を100%として、C-O結合のスペクトル面積」については記載されていないから、「C-O結合のスペクトル面積が1~24%の範囲」とする動機付けとなる記載はないし、甲1及び甲9にも当該動機付けとなる記載はない。 そうすると、甲2、甲1及び甲9の記載を参酌しても、甲2発明において、炭素繊維に関して「C-O結合のスペクトル面積が1~24%の範囲」とする動機付けはない。 したがって、相違点2-3に係る発明特定事項は、甲2発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。 そして、本件発明1は、上記3(2)アで検討したとおり、「繊維強化ポリプロピレン組成物及びその組成物を含む成形体の軽量化及び力学強度の向上に成功した。」(本件明細書の【0011】)という効果を奏するものである。 イ 本件発明1についてのまとめ 上記アのとおりであるから、相違点2-1及び相違点2-2について検討するまでもなく、本件発明2は、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)本件発明2について ア 対比・判断 本件発明2と甲2発明とを対比すると、上記(2)アと同様の相当関係が成り立つ。 そうすると、両者は上記(2)アと同様の点で一致し、以下の点で一応相違する。 ・相違点2-4 本件発明2は、「変性ポリプロピレン(成分3)」を含むのに対し、甲2発明は含んでいない点 ・相違点2-5 本件発明2は、「要件1:成分1と成分2と成分3のそれぞれの重量の合計を100重量%として、成分1の含有量が30~98重量%の範囲であり、成分2の含有量が1~50重量%の範囲であり、成分3の含有量が1~20重量%の範囲」であるのに対し、甲2発明はそのような特定がない点 ・相違点2-6 炭素繊維に関して、本件発明2は、「要件2-3:成分2は、C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合を含み、C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合のそれぞれのスペクトル面積の合計を100%として、C-O結合のスペクトル面積が1~24%の範囲であり、かつ、C=O結合及びO-C=O結合のそれぞれのスペクトル面積の合計が4~15%の範囲であり、 ここで、前記スペクトル面積は、Al Kαを用いたX線光電子分光法分析により測定され、バックグラウンドを除去した炭素1sスペクトルに対して、Lorentz関数の割合を30%としたGauss-Lorentz複合関数を用い、Composites: Part A 90 (2016) 653-661(Bo Gao et al.)に記載されている方法に従い、各結合成分に由来するピークにそれぞれ波形分離されたものである。」と特定されているのに対し、甲2発明はそのような特定がない点 事案に鑑み、相違点2-6について検討する。 上記(2)アと同様の理由により、甲2発明は、「波形分離後の各スペクトルから算出した各サイジング剤処理条件におけるC-Cピークに対するO-C=Oピークの面積比(O-C=O/C-C)が約0.105である」との特定事項から、相違点2-6に係る特定事項を満たしているとはいえないし、満たしている蓋然性が高いともいえない。 また、甲2には、炭素繊維に関して、「C-O結合、C=O結合、O-C=O結合、C-C結合及びC-N結合のそれぞれのスペクトル面積の合計を100%として、C-O結合のスペクトル面積」及び「C=O結合及びO-C=O結合のそれぞれのスペクトル面積の合計」については記載されていないから、「C-O結合のスペクトル面積が1~24%の範囲であり、かつ、C=O結合及びO-C=O結合のそれぞれのスペクトル面積の合計が4~15%の範囲」とする動機付けとなる記載はないし、甲1及び甲9にも当該動機付けとなる記載はない。 そうすると、甲2、甲1及び甲9の記載を参酌しても、甲2発明において、炭素繊維に関して「C-O結合のスペクトル面積が1~24%の範囲であり、かつ、C=O結合及びO-C=O結合のそれぞれのスペクトル面積の合計が4~15%の範囲」とする動機付けはない。 したがって、相違点2-6に係る発明特定事項は、甲2発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。 そして、本件発明2は、上記(2)アで検討したとおり、「繊維強化ポリプロピレン組成物及びその組成物を含む成形体の軽量化及び力学強度の向上に成功した。」(本件明細書の【0011】)という効果を奏するものである。 イ 本件発明2についてのまとめ 上記アのとおりであるから、相違点2-4及び相違点2-5について検討するまでもなく、本件発明2は、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)本件発明3~5について 本件発明3~5は、請求項1又は2を直接又は間接的に引用して特定するものであり、上記(2)及び(3)と同様の理由により、本件発明3~5は、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (5)申立理由2についてのまとめ 以上のとおりであるから、申立理由2はその理由がない。 第5 結語 特許第7422637号の請求項1~5に係る特許は、取消理由通知(決定の予告)及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-700692

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