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特許異議申立

2019-700817

塗料組成物、塗膜及び塗装方法

審判番号
2019-700817
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2018-089406外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2019年10月10日
審決日
2020年12月01日
公報発行日
2021年04月30日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.113-YAA(C09D) / P1651.121-YAA(C09D) / P1651.536-YAA(C09D) / P1651.537-YAA(C09D)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第7項、特許法第126条第5項、特許法第126条第7項、特許法第36条第6項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6498817号発明「塗料組成物、塗膜及び塗装方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】
特許第6498817号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕、8、9について訂正することを認める。
特許第6498817号の請求項1、3~9に係る特許を維持する。
特許第6498817号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

目次 ▾ 13項目
【理 由】

第1 手続の経緯

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特許第6498817号(以下「本件特許」という。)の請求項1~9に係る特許についての出願は、平成30年5月7日に特願2018-89406号として特許出願され、平成31年3月22日に特許権の設定登録がされ、同年4月10日に特許掲載公報が発行され、その請求項1~9に係る発明の特許に対し、令和元年10月10日に加藤浩志(以下「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。

特許異議の申立て後の手続の経緯は次のとおりである。

令和元年12月10付け  取消理由通知

令和2年 2月10日   意見書・訂正請求書の提出(特許権者)

同年 2月12日付け 訂正請求があった旨の通知

同年 3月16日   意見書の提出(特許異議申立人)

同年 6月 4日付け 取消理由通知(決定の予告)

同年 8月13日   意見書・訂正請求書の提出(特許権者)

同年 8月18日付け 訂正請求があった旨の通知

同年 9月18日   意見書の提出(特許異議申立人)

第2 訂正の適否

1 本件訂正請求の内容

令和2年2月10日になされた訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたとみなされるところ、同年8月13日になされた訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の「請求の趣旨」は、「特許第6498817号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~9について訂正することを求める。」というものであり、その内容は、以下の訂正事項1~10からなるものである。

訂正事項1

特許請求の範囲の請求項1に「線膨張係数が2.5×10-5/K~5.4×10-5/Kであり」と記載されているのを、「線膨張係数が2.5×10-5/K~3.6×10-5/Kであり」に訂正する。

当該請求項1を直接又は間接的に引用する請求項3~7についても同様に訂正する。

訂正事項2

特許請求の範囲の請求項1に「樹脂成分及び顔料を含む塗料組成物であって、」と記載されているのを、「樹脂成分及び顔料を含む塗料組成物であって、前記樹脂成分が、エポキシ樹脂を含み、前記顔料が、平均粒径が5~600μmである鱗片状顔料を含み、」に訂正する。

当該請求項1を直接又は間接的に引用する請求項3~7についても同様に訂正する。

訂正事項3

特許請求の範囲の請求項2を削除する。

訂正事項4

特許請求の範囲の請求項3に「請求項2に記載の塗料組成物」と記載されているのを、「請求項1に記載の塗料組成物」に訂正する。

訂正事項5

特許請求の範囲の請求項4に「請求項1~3のいずれか一項に記載の塗料組成物」と記載されているのを、「請求項1又は3に記載の塗料組成物」に訂正する。

訂正事項6

特許請求の範囲の請求項6に「請求項1~5のいずれか一項に記載の塗料組成物」と記載されているのを、「請求項1及び3~5のいずれか一項に記載の塗料組成物」に訂正する。

訂正事項7

特許請求の範囲の請求項8に「線膨張係数が2.5×10-5/K~5.4×10-5/Kであり」と記載されているのを、「線膨張係数が2.5×10-5/K~3.6×10-5/Kであり」に訂正する。

訂正事項8

特許請求の範囲の請求項8に「樹脂及び顔料を含む塗膜であって、」と記載されているのを、「樹脂及び顔料を含む塗膜であって、前記樹脂が、エポキシ樹脂を含み、前記顔料が、平均粒径が5~600μmである鱗片状顔料を含み、」に訂正する。

訂正事項9

特許請求の範囲の請求項9に「線膨張係数が2.5×10-5/K~5.4×10-5/Kであり」と記載されているのを、「線膨張係数が2.5×10-5/K~3.6×10-5/Kであり」に訂正する。

訂正事項10

特許請求の範囲の請求項9に「塗膜を形成させる工程を含むことを特徴とする」と記載されているのを、「塗膜を形成させる工程を含み、前記樹脂成分が、エポキシ樹脂を含み、前記顔料が、平均粒径が5~600μmである鱗片状顔料を含むことを特徴とする」に訂正する。

2 検討

(1) 一群の請求項などについて

訂正事項1~6に係る本件訂正前の請求項1~7について、請求項2~7は請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件訂正前の請求項1~7に対応する本件訂正後の請求項1~7は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。

また、訂正事項7、8に係る請求項8、及び、訂正事項9、10に係る請求項9は、独立形式請求項であり、これらを引用する請求項はない。

したがって、訂正事項1~10による本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項ごと、及び、同条第3項に規定する請求項ごとになされたものである。

(2) 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

ア 訂正事項1について

訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の「線膨張係数が2.5×10-5/K~5.4×10-5/Kであり」との記載における「線膨張係数」の上限値を、本件特許の願書に添付した明細書の段落【0098】の【表2】に記載されている実施例4の線膨張係数α1の値が3.6×10-5/Kであることに基づいて、「3.6×10-5/K」に変更することにより、線膨張係数の数値範囲をより狭い範囲に限定するものである。

また、訂正事項1は、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項3~7についても同様に、線膨張係数の数値範囲をより狭い範囲に限定するものである(請求項2は、訂正事項3により、削除される。)。

したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5、6項の規定に適合する。

イ 訂正事項2について

訂正事項2は、本件訂正前の請求項1の「樹脂成分及び顔料を含む塗料組成物」との記載における「樹脂成分」を、本件特許の願書に添付した明細書の段落【0045】の「樹脂成分として使用できる樹脂・・特に限定されるものではなく・・エポキシ樹脂・・が挙げられる。」という記載や、実施例1~7(段落【0095】~【0099】)においてエポキシ樹脂(JER1001X75)を用いていることに基づいて、「前記樹脂成分が、エポキシ樹脂を含み」と特定することにより、樹脂成分を限定するとともに、「顔料」を、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項2の記載に基づいて、「前記顔料が、平均粒径が5~600μmである鱗片状顔料を含み」と特定することにより、顔料を限定するものである。

また、訂正事項2は、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項3~7についても同様に限定するものである(請求項2は、訂正事項3により、削除される。)。

したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5、6項の規定に適合する。

ウ 訂正事項3について

訂正事項3は、本件訂正前の請求項2の記載を削除するものである。

したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないため、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

エ 訂正事項4~6について

訂正事項4~6は、それぞれ、本件訂正前の請求項3、4、6が、請求項2を引用する記載を含むものであったところ、訂正事項3によって請求項2が削除されることにともなって、その引用する請求項から2を削除することを目的とするものである。

したがって、訂正事項4~6は、いずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてするものであって、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5、6項の規定に適合する。

オ 訂正事項7、8について

訂正事項7は、本件訂正前の請求項8の「線膨張係数が2.5×10-5/K~5.4×10-5/Kであり」との記載を、「線膨張係数が2.5×10-5/K~3.6×10-5/Kであり」に訂正するものであるから、訂正事項1と実質的に同じ内容の訂正である。

したがって、訂正事項1と同様の理由により、訂正事項7は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5、6項の規定に適合する。

また、訂正事項8は、本件訂正前の請求項8の「樹脂及び顔料を含む塗膜であって、」との記載を、「樹脂及び顔料を含む塗膜であって、前記樹脂が、エポキシ樹脂を含み、前記顔料が、平均粒径が5~600μmである鱗片状顔料を含み、」に訂正するものであるから、訂正事項2と実質的に同じ内容の訂正である。

したがって、訂正事項2と同様の理由により、訂正事項8は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5、6項の規定に適合する。

オ 訂正事項9、10について

訂正事項9は、本件訂正前の請求項9の「線膨張係数が2.5×10-5/K~5.4×10-5/Kであり」との記載を、「線膨張係数が2.5×10-5/K~3.6×10-5/Kであり」に訂正するものであるから、訂正事項1と実質的に同じ内容の訂正である。

したがって、訂正事項1と同様の理由により、訂正事項9は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5、6項の規定に適合する。

また、訂正事項10は、本件訂正前の請求項9の「樹脂及び顔料を含む塗膜であって、」との記載を、「樹脂及び顔料を含む塗膜であって、前記樹脂が、エポキシ樹脂を含み、前記顔料が、平均粒径が5~600μmである鱗片状顔料を含み、」に訂正するものであるから、訂正事項2と実質的に同じ内容の訂正である。

したがって、訂正事項2と同様の理由により、訂正事項10は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5、6項の規定に適合する。

(3) 特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであること

本件訂正においては、訂正前の全ての請求項である請求項1~9に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定は課されない。

3 まとめ

以上総括するに、訂正事項1~10は、いずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5、6項の規定に適合するものである。

したがって、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕、8、9について訂正することを認める。

第3 本件発明

本件訂正は上記のとおり認められたところ、特許第6498817号の請求項1~9に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明9」ともいい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】

樹脂成分及び顔料を含む塗料組成物であって、

前記樹脂成分が、エポキシ樹脂を含み、

前記顔料が、平均粒径が5~600μmである鱗片状顔料を含み、

前記塗料組成物中に含まれる不揮発分のガラス転移温度以下の温度における線膨張係数が2.5×10-5/K~3.6×10-5/Kであり、

前記塗料組成物から厚さ200μmの塗膜を形成させた場合の該塗膜の水蒸気透過度が0.1~1.4g/m2・dayであることを特徴とする塗料組成物。

【請求項2】(削除)

【請求項3】

前記不揮発分中における鱗片状顔料の含有量が15~60質量%であることを特徴とする請求項1に記載の塗料組成物。

【請求項4】

前記樹脂成分の一部が変性樹脂であり、前記不揮発分中における変性樹脂の含有量が0.1~15質量%であることを特徴とする請求項1又は3のいずれか一項に記載の塗料組成物。

【請求項5】

前記変性樹脂が液状変性樹脂であることを特徴とする請求項4に記載の塗料組成物。

【請求項6】

前記塗料組成物が、構造物の塗装に使用されることを特徴とする請求項1及び3~5のいずれか一項に記載の塗料組成物。

【請求項7】

前記構造物が、鋼構造物であることを特徴とする請求項6に記載の塗料組成物。

【請求項8】

樹脂及び顔料を含む塗膜であって、

前記樹脂成分が、エポキシ樹脂を含み、

前記顔料が、平均粒径が5~600μmである鱗片状顔料を含み、

該塗膜のガラス転移温度以下の温度における線膨張係数が2.5×10-5/K~3.6×10-5/Kであり、該塗膜の厚さが200μmである場合の水蒸気透過度が0.1~1.4g/m2・dayであることを特徴とする塗膜。

【請求項9】

被塗装物を、樹脂成分及び顔料を含む塗料組成物で塗装し、ガラス転移温度以下の温度における線膨張係数が2.5×10-5/K~3.6×10-5/Kであり、厚さが200μmである場合の水蒸気透過度が0.1~1.4g/m2・dayである塗膜を形成させる工程を含み、

前記樹脂成分が、エポキシ樹脂を含み、

前記顔料が、平均粒径が5~600μmである鱗片状顔料を含むことを特徴とする塗装方法。

第4 取消理由の概要

本件訂正前の請求項1~9に係る特許に対して、当審が令和元年12月10日付け及び令和2年6月4日付けで特許権者に通知した取消理由は、下記の理由1~4である。

また、理由3、4で引用する刊行物は、下記のとおりである。

<取消理由>

理由1

本願は、その明細書の発明の詳細な説明の記載が、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

理由2

本願は、その特許請求の範囲の記載が、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

理由3

本件特許の特許請求の範囲の請求項1~3、6~9に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

理由4

本件特許の特許請求の範囲の請求項1~9に係る発明は、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、その出願前日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

<刊行物>

国際公開第2017/138168号(特許異議申立人が提出した甲第1号証。以下、「甲1」という。)

国際公開第2016/42840号(特許異議申立人が提出した甲第2号証。以下、「甲2」という。)

第5 当審の判断

1 理由1について

(1) 検討手法

特許法第36条第4項第1号は、明細書の発明の詳細な説明の記載は、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定めるところ、この規定にいう「実施」とは、物の発明においては、その物を作ることができ、かつ、その物を使用できることである。また、明細書の記載が実施可能要件を満たすといえるためには、明細書にその物を生産する方法及び使用する方法についての具体的な記載が必要であるが、そのような記載がなくても、明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき、当業者がその物を作ることができ、かつ、その物を使用できるのであれば、上記の実施可能要件を満たすということができる。また、「使用できる」といえるためには、特許発明に係る物について、例えば発明が目的とする作用効果等を奏する態様で用いることができることを要するというべきである。

以下、上記観点に沿って検討する。

(2) 本件特許の願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の記載

本件特許の願書に添付した明細書の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。

)には以下の事項が記載されている。

「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、防食性及び耐剥離性に優れる塗膜を形成可能な塗料組成物を提供することにある。また、本発明の他の目的は、防食性及び耐剥離性に優れる塗膜と、該塗膜を形成する塗装方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
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【0010】
屋外構造物用の塗料組成物に変性エポキシ樹脂を用いる理由として、変性エポキシ樹脂は、変性樹脂の効果で硬化密度や弾性率が小さく、塗膜の内部応力を小さくすることができるため、耐剥離性に優れる塗膜を提供できることが挙げられる。しかしながら、硬化密度や弾性率の小さい塗膜は、腐食性物質に対する遮断性が低く、防食性が悪化する傾向にある。このような傾向は、例えば橋梁等の鋼構造物に対して、防食性の面から望ましくない結果である。
【0011】
そこで、本発明者は、硬化密度とは異なる特性によって塗膜の内部応力を小さくすることについて検討し、塗膜の線膨張係数に着目した。線膨張係数は、下記関係式(1)に示されるように、その値を小さくすることで応力を小さくすることができる。
【数1】
関係式(1)において、σは応力であり、αは線膨張係数であり、Eは弾性率であり、T1は低温側の温度であり、T2は高温側の温度である。
【0012】
なお、特定の線膨張係数を有する塗膜を金属製構造物の表面に形成させる防食工法が提案されているが、かかる防食工法では、金属製部材の荷重や熱膨張収縮による動きに対して追従性を持たせるため、塗膜の線膨張係数が規定されている。このように被塗装物である金属との熱膨張係数の差を小さくさせることによって、塗膜の耐久性を向上させる手法は知られているものの、塗膜の内部応力を小さくする観点からの線膨張係数の検討については十分に行われていない。
【0013】
線膨張係数はガラス転移温度を境にして変化するため、関係式(1)を下記関係式(2)として表すことができる。また、一般には、α1<α2の関係があるものの、E1>>E2の関係があるため、関係式(2)の右辺におけるガラス転移温度から高温側(右辺第2項)はガラス転移温度から低温側(右辺第1項)に比べてその影響力は小さい。
【数2】
関係式(2)において、σは応力であり、α1はガラス転移温度から低温側の線膨張係数であり、α2はガラス転移温度から高温側の線膨張係数であり、E1はガラス転移温度から低温側の弾性率であり、E2はガラス転移温度から高温側の弾性率であり、Tgはガラス転移温度であり、T1は低温側の温度であり、T2は高温側の温度である。
【0014】
本発明者は更に検討したところ、ガラス転移温度から低温側の線膨張係数α1を特定の範囲にまで低下させ、塗膜の内部応力を小さくすることで、塗膜の剥離を十分に防ぐことができることを見出した。また、線膨張係数に基づき塗膜の内部応力を小さくすることで、特定の樹脂に限定されず、広範な樹脂が使用可能となるため、塗膜の防食性を左右する遮断性の目安となる水蒸気透過度を同時に低下させることができ、防食性及び耐剥離性に優れる塗膜を提供できることも見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
さらに、本発明者は、上記のように線膨張係数α1を特定の範囲にまで低下させた塗膜について、上記線膨張係数α2も特定の範囲に低下させると、剥離防止効果がより向上することも見出した。」
「【0030】
本発明の塗料組成物において、不揮発分とは、水や有機溶剤等の揮発する成分を除いた成分を指し、最終的に塗膜を形成することになる成分である。当然ながら、樹脂成分や顔料は不揮発分である。なお、本発明においては、揮発分が残存すると線膨張係数が高く出るので塗料組成物を150℃で10時間乾燥させた際に残存する成分を不揮発分として取り扱う。
【0031】
上記不揮発分の線膨張係数α1が低いほど、塗膜の内部応力も低くなることから、本発明の塗料組成物において、上記線膨張係数α1の下限は特に制限されるものではないが、例えば、線膨張係数α1を下げるために多量に顔料を添加すると、防食性、塗装作業性および塗膜の外観などが低下するという理由から、2.5×10-5/K以上であることが好ましく、3.2×10-5/K以上であることが更に好ましい。また、例えば、経年劣化により塗膜の付着性が著しく低下した構造物において、超長期にその塗膜の付着性を確保するという観点から、上記線膨張係数α1は、3.2×10-5/K以下であることが好ましい。
【0032】
本発明者は、上記線膨張係数α1が特定の範囲(具体的には3.2×10-5/K以下)にまで低下した塗膜では、膜厚が大きいほど、剥離防止効果も大きくなることも見出した。このような効果が得られる明確な理由は現段階では不明であるが、塗膜が厚くなるほど塗膜の剛性が高くなっていることに起因しているのではないかと、考えられる。
【0033】
また、不揮発分のガラス転移温度以上の温度における線膨張係数は8.0×10-5/K以下であることを例示することができるが、剥離防止効果をより向上させる観点から、不揮発分のガラス転移温度以上の温度における線膨張係数は3.9×10-5/K以下であることが好ましく、2.5×10-5/K以下であることがより好ましい。なお、ガラス転移温度以上の温度における線膨張係数を線膨張係数α2ともいう。不揮発分のガラス転移温度以上の温度における線膨張係数が低いほど、塗膜の内部応力も低くなることから、本発明の塗料組成物において、上記線膨張係数α2の下限は特に制限されるものではないが、例えば、線膨張係数α2を下げるために多量に顔料を添加すると、防食性、塗装作業性および塗膜の外観などが低下するという理由から、1.0×10-5/K以上であることが好ましい。」
「【0034】
本発明の塗料組成物において、不揮発分の線膨張係数は、以下のように測定される。
参考文献1:島津熱機械分析装置TMA-60/60H取扱説明書 島津製作所、2014年5月
参考文献2:島津熱分析ワークステーションTA-60WS取扱説明書 島津製作所、2014年2月
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線膨張係数測定方法
表面が清浄なブリキ板(0.3mm×75mm×150mm)に測定する塗料を塗装し、塗膜を作製する。この作業を乾燥膜厚が約6mm以上になるまで1日1回行う。その際、均一な塗膜を作製するため、塗装する方向は1回ごとに交差させる。
乾燥膜厚が6mm以上に達した塗膜をブリキ板から剥がし、約6mm×6mm×20mmの角柱になるよう紙やすり等を用いて整形した後、その質量を精秤する。その後、150℃の恒温槽に10時間加温養生した後再び精秤して、150℃恒温槽に10時間加温養生した前後の質量減量率を次式により算出する。加温養生前後の質量減少率が1%以内になるまで加温養生を繰り返す。
【数3】
加温養生した約6mm×6mm×20mmの角柱を、紙やすり(#240)を用いて、4mm×4mm×15mmの角柱に整形する。この際ノギス等を用いて計測しながら研磨作業を行い、測定用試料の誤差を4mm±0.5mm、15mm±1mm以内とする。
線膨張係数の測定は島津製作所製の島津熱機械分析装置TMA-60で行った。-50℃からの測定を行うため、低温炉LTB-60を付属品として使用した。-50℃から+120℃までの試料の温度上昇に伴う試料長の変化(線膨張量)をサンプリング間隔1秒で測定する。得られたグラフから、温度上昇と膨張率の間に比例関係が認められる区間において2点を指定し、その区間の勾配から線膨張係数α1および線膨張係数α2を得る。
なお、本明細書において不揮発分のガラス転移温度は勾配がα1である直線領域と勾配がα2である直線領域の交点となる温度をいう。」
「【0036】
本発明の塗料組成物においては、樹脂成分の種類や顔料の種類にかかわらず、不揮発分中に占める顔料の割合を増加させることで、不揮発分のガラス転移温度以下の温度での線膨張係数を低下させることができる。この理由としては、塗料組成物に使用される樹脂と顔料を比較すると、顔料の線膨張係数の方が樹脂よりも小さいことが挙げられる。以下に、不揮発分中に占める顔料の割合と線膨張係数α1の関係について、表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
表1から分かるように、不揮発分中に占める顔料の割合を増加させることで、不揮発分の線膨張係数α1を低下させることができる。また、線膨張係数α1は顔料の種類にも影響されることがわかる。即ち、顔料形状が球状よりも鱗片状の方が少量で線膨張係数α1を低下させる効果が大きく、更に同じ鱗片状顔料の場合でも、粒径の大きい方が線膨張係数α1を低下させる効果が大きいことが分かる。
なお、線膨張係数α2も同様の手法により低下させることが可能であるが、線膨張係数α1と比べて、顔料の粒径の影響が大きい。このため、粒径の大きな顔料による線膨張係数α2を低下させる効果は、線膨張係数α1を低下させる効果よりも大きい。」
「【0041】
本発明の塗料組成物においては、例えば、鱗片状の顔料、好ましくは大きな鱗片状の顔料を用いたり、鱗片状顔料や樹脂成分の割合を調整したりすることで、上記特定した範囲を満たす線膨張係数を維持しつつ、水蒸気透過度を低下させることができる。
また、変性樹脂は、水蒸気透過度を低下させる効果が低いと考えられていたが、本発明者が検討したところ、樹脂成分の一部に変性樹脂を用いる場合、好ましくは樹脂成分の一部である変性樹脂と鱗片状顔料とを併用する場合、より好ましくは該変性樹脂が液状である場合に、水蒸気透過度の低減効果が大きくなることを見出した。
変性樹脂と鱗片状顔料の併用によって奏される相乗的な水蒸気透過度の低減効果は、鱗片状顔料の濡れ性の向上と関係があると思われ、特に液状変性樹脂である場合により相乗的な効果が得られることを見出した。
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【0042】
本発明の塗料組成物において、不揮発分中に占める樹脂成分と顔料の合計含有量は、95質量%以上であることが好ましく、98~100質量%であることが更に好ましい。不揮発分中に占める樹脂成分と顔料の合計含有量が95質量%以上であれば、線膨張係数及び水蒸気透過度の調整が容易である。
【0043】
本発明の塗料組成物中において、不揮発分の含有量は特に制限されるものではないが、塗装作業性や塗膜の仕上がり外観を向上させる観点から、不揮発分の含有量は40~100質量%であることが好ましく、50~85質量%であることが更に好ましい。
【0044】
本発明の塗料組成物において、樹脂成分には、樹脂そのものの他、塗装時の硬化により樹脂を形成する物質も含まれる。例えば、塗料組成物が1液型であれば、多くの場合、後述するような樹脂それ自体を含む塗料組成物が使用されるが、2液型の塗料組成物には、ポリオール化合物を含む主剤と、イソシアネート化合物を含む硬化剤とから構成される塗料組成物であって、塗装時の硬化によりウレタン樹脂を形成する塗料組成物等も知られている。このような塗料組成物においては、ウレタン樹脂を形成する物質であるポリオール化合物及びイソシアネート化合物が、塗装時の硬化により樹脂を形成する物質に相当する。また、紫外線硬化型塗料組成物には、アクリレートモノマーやオリゴマーを含む塗料組成物であって、塗装時の硬化によりアクリル樹脂を形成する塗料組成物等も知られている。このような塗料組成物においては、アクリル樹脂を形成する物質であるアクリレートモノマーやオリゴマーが、塗装時の硬化により樹脂を形成する物質に相当する。
【0045】
本発明の塗料組成物において、樹脂成分として使用できる樹脂や塗装時の硬化により樹脂成分から形成される樹脂としては、特に限定されるものではなく、水系、溶剤系、無溶剤系を問わず、塗料業界において通常使用されている樹脂を例示することができ、具体的には、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、スチレンアクリル共重合樹脂、ポリエステル樹脂、ふっ素樹脂、ロジン樹脂、石油樹脂、クマロン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、セルロース樹脂、キシレン樹脂、アルキッド樹脂、脂肪族炭化水素樹脂、ブチラール樹脂、マレイン酸樹脂、フマル酸樹脂、ビニル樹脂、アミン樹脂、ケチミン樹脂等が挙げられる。これらの樹脂を一種単独で用いても良く、二種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、エポキシ樹脂や、水酸基を複数有するアクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂及びポリエステル樹脂(水酸基を複数有する樹脂をポリオール樹脂とも称する)が好ましい。具体的には、樹脂成分としてエポキシ樹脂とアミン化合物とを含む反応硬化型の塗料組成物や、樹脂成分として上述のようなポリオール樹脂とイソシアネートとを含む反応硬化型の塗料組成物が好ましい。」
「【0047】
なお、上記例示した樹脂のうち、エポキシ樹脂としては、例えば、JER1001・・・
【0048】
更に好ましくは、旧塗膜の上に塗装した場合にも旧塗膜のリフティングを発生させることの無い、脂肪族炭化水素系溶剤および高沸点芳香族炭化水素系溶剤などの弱溶剤にも溶解可能な変性エポキシ樹脂とアミン樹脂とを含む塗料組成物が好ましい。このような弱溶剤に溶解可能な変性エポキシ樹脂としては、アルキルフェノール変性エポキシ樹脂、脂肪酸変性エポキシ樹脂、アルキルグリシジルエーテル等が挙げられる。
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このような変性エポキシ樹脂の市販品名としては、エピコート168V70(三菱ケミカル社製)・・・
【0049】
また、耐剥離性を高める観点、または外観の良好な塗膜を得る等の観点から、塗膜の遮断性、防食性を維持できる範囲で変性樹脂を用いることができる。変性された樹脂を用いる場合、顔料の分散安定性が向上する傾向があり、顔料の濡れを改善し、塗膜の緻密性及び塗膜の外観を向上させることができる。また、変性された樹脂は、線膨張係数を下げる効果を付与することもできる。尚、エポキシ樹脂やポリオール樹脂の変性例としては、例えば、アルキル変性、アルキルエーテル変性・・・
また、上記変性樹脂を用いる方法とは別に、2種類以上の樹脂をブレンドして用いてもよい。例えば、上記エポキシ樹脂やポリオール樹脂に炭化水素樹脂をブレンドすることが好ましい。
例えば、炭化水素樹脂としては、キシレン樹脂等の芳香族系炭化水素樹脂や脂肪族系炭化水素樹脂が使用できる。また、フェノール等で変性された炭化水素樹脂も使用することができる。炭化水素樹脂としては、例えば、ニカノールL・・・
【0050】
本発明の塗料組成物は、樹脂成分の一部が変性樹脂であることが好ましく、該変性樹脂が液状の変性樹脂であることが好ましい。樹脂成分の一部として変性樹脂を含むことにより、水蒸気透過度を低下させる効果が大きくなる。
また、本発明の塗料組成物は、樹脂成分の一部である変性樹脂を、鱗片状顔料と併用することで、水蒸気透過度を低下させる効果がより一層大きくなる。
本明細書において「変性樹脂」には、変性された樹脂と、変性作用を有する樹脂とが含まれ、これらは単独で使用してもよいし、併用してもよいが、水蒸気透過度の低減効果の観点から、好ましくは変性作用を有する樹脂、より好ましくは変性作用を有する液状の樹脂を用いることである。
ここで、「変性された樹脂」の具体例としては、アルキル変性、アルキルエーテル変性、アルキルフェノールノボラック変性、アクリル変性、脂肪酸変性、ウレタン変性、アミノ変性、イソシアネート変性、シリコーン変性、その他アリル基を利用したグラフト変性等の変性がされている樹脂(好ましくはエポキシ樹脂、ポリオール樹脂等)が挙げられる。
また、「変性作用を有する樹脂」とは、樹脂改質剤や樹脂変性剤とも呼ばれる樹脂であり、エポキシ樹脂やポリオール樹脂等の樹脂を変性することが可能な樹脂であり、その具体例としては、上述の炭化水素樹脂の他、特開2009-254939号公報に記載されるような樹脂(C4系~C12系石油樹脂又はこれらの混合物、ケトン系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、クロマン系樹脂、キシレン系樹脂、トルエン系樹脂、テルペン系樹脂、フェノール系樹脂、スチレン系樹脂、インデン系樹脂)等が挙げられる。
【0051】
本発明の塗料組成物中において、樹脂成分の含有量は、例えば5~70質量%であることが好ましい。また、本発明の塗料組成物において、不揮発分中における変性樹脂の含有量は、水蒸気透過度の低減効果を向上させる観点から、好ましくは1~15質量%、更に好ましくは3~8質量%であることが好ましい。」
「【0052】
本発明の塗料組成物に用いる顔料は、特に限定されるものではなく、塗料業界において通常使用されている顔料を使用できる。具体例としては、二酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック等の着色顔料、シリカ、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の体質顔料、亜鉛、リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ハイドロカルマイト等の防錆顔料、アルミニウム、ニッケル、クロム、錫、銅、銀、白金、金、ステンレス等の光輝顔料や、ガラスフレーク、黒鉛等の鱗片状顔料、その他針状、繊維状の顔料等が挙げられる。用いる顔料は塗膜の線膨張係数を低くする顔料が好ましく、同じ組成であれば粒径の大きい顔料の方が好ましい。これら顔料は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、本発明の塗料組成物において、顔料は、防食性の観点から、防錆顔料や鱗片状の顔料であることが好ましい。このため、屋外構造物の塗装に使用する観点から、本発明の塗料組成物に用いる顔料は、防錆顔料及び鱗片状の顔料の少なくとも一方を含むことが好ましく、水蒸気透過度と線膨張係数の両立の観点からは、鱗片状顔料を含むことが好ましい。
【0053】
上記防錆顔料としては、例えば、Heucophos ZPA・・・
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【0054】
上記体質顔料としては、例えば、タルクにクラウンタルクP・・・
【0055】
炭酸カルシウムに、「スーパーS」・・・等を使用できる。
【0056】
着色顔料としては、たとえば、「A-190」・・・
【0057】
本発明の塗料組成物に用いる顔料は、例えば、平均粒径が1~1500μmの範囲内の顔料を使用することができる。ここで、平均粒径が1~500μmの場合においては、平均粒径はレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置を用いて測定し、その結果得られた50%平均粒径(体積基準で累計50%となる粒子径、メジアン値)を意味する。
平均粒径が500μmを超え1500μm以下の場合においては、光学顕微鏡で顔料を観察し、任意の粒子50個の粒径の平均値を求め、その値を平均粒径とする。
尚、鱗片状顔料の平均粒径は、光学顕微鏡で顔料を観察し、任意の粒子50個の長径の平均値を求め、その値を平均粒径とする。なお、長径とは、光学顕微鏡で観察された粒子の最も長い方向における長さである。ここで、鱗片状顔料の平均粒径は、好ましくは5~800μmであり、より好ましくは5~600μmであり、外観、塗装性や遮断性を考慮すると、更に好ましくは10~200μm、特に好ましくは30~160μmである。
【0058】
本発明の塗料組成物に用いる顔料は、例えば、アスペクト比が1~750の範囲内の顔料を使用することができる。ここで、顔料のアスペクト比は、平均粒径(D)と平均厚み(T)との比(D/T)で求められる。顔料の平均厚み(T)は、SEM(走査電子顕微鏡)又は光学顕微鏡を用いて顔料の厚みを測定し、任意の50個の粒子を対象にして平均値を求めることにより得られる。
【0059】
本発明の塗料組成物中において、顔料の含有量は、例えば15~75質量%であることが好ましい。本発明の塗料組成物において、不揮発分中における鱗片状顔料の含有量は、塗装性、外観、遮断性等を考慮して適宜調整されるものであるが、例えば15~60質量%であることが好ましい。」
「【0060】
本発明の塗料組成物には、上記樹脂成分および顔料以外に、水、有機溶剤、乾燥剤、酸化防止剤、反応触媒、分散剤、消泡剤、脱水剤、レベリング剤、沈降防止剤、ダレ止め剤、シランカップリング剤等の付着性付与剤、防藻剤、防カビ剤、防腐剤、紫外線吸収剤、光安定剤等を必要に応じて適宜配合してもよい。本発明の塗料組成物は、必要に応じて適宜選択される各種成分を混合することによって調製できる。」

(3) 検討

ア「塗料組成物」について

本件発明1の「塗料組成物」は、「前記塗料組成物中に含まれる不揮発分のガラス転移温度以下の温度における線膨張係数が2.5×10-5/K~3.6×10-5/Kであり」及び「前記塗料組成物から厚さ200μmの塗膜を形成させた場合の該塗膜の水蒸気透過度が0.1~1.4g/m2・dayである」と特定されているものであるから、本件発明1の「塗料組成物」を製造することができるといえるためには、「前記塗料組成物中に含まれる不揮発分のガラス転移温度以下の温度における線膨張係数が2.5×10-5/K~3.6×10-5/Kであり」及び「前記塗料組成物から厚さ200μmの塗膜を形成させた場合の該塗膜の水蒸気透過度が0.1~1.4g/m2・dayである」を充足する塗料組成物を製造することができることを要するといえる。

また、本件発明1の「塗料組成物」は、「樹脂成分及び顔料を含む」ものであって、「前記樹脂成分が、エポキシ樹脂を含み、前記顔料が、平均粒径が5~600μmである鱗片状顔料を含」むものに限定されているものである。

イ 「樹脂成分」及び「顔料」について

本件発明1の「樹脂成分」は、「エポキシ樹脂」を含むものに特定されている。

また、発明の詳細な説明には、本件発明1の「顔料」について、「本発明の塗料組成物に用いる顔料は、特に限定されるものではなく、塗料業界において通常使用されている顔料を使用できる。具体例としては、二酸化チタン・・・これら顔料は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。」(【0052】)、「上記防錆顔料としては、例えば、HeucophosZPA・・・上記体質顔料としては、例えば、タルクにクラウンタルクP・・・着色顔料としては、たとえば、「A-190」・・・等が使用できる。」(【0053】~【0056】)と記載されている。

ウ 「不揮発分の線膨張係数」について

発明の詳細な説明には、本件発明1の「前記塗料組成物中に含まれる不揮発分のガラス転移温度以下の温度における線膨張係数」(以下、「不揮発分の線膨張係数」という。)について、「本発明の塗料組成物においては、樹脂成分の種類や顔料の種類にかかわらず、不揮発分中に占める顔料の割合を増加させることで、不揮発分のガラス転移温度以下の温度での線膨張係数を低下させることができる。この理由としては、塗料組成物に使用される樹脂と顔料を比較すると、顔料の線膨張係数の方が樹脂よりも小さいことが挙げられる。以下に、不揮発分中に占める顔料の割合と線膨張係数α1の関係について、表1に示す。」(【0036】)、「表1から分かるように、不揮発分中に占める顔料の割合を増加させることで、不揮発分の線膨張係数α1を低下させることができる。また、線膨張係数α1は顔料の種類にも影響されることがわかる。即ち、顔料形状が球状よりも鱗片状の方が少量で線膨張係数α1を低下させる効果が大きく、更に同じ鱗片状顔料の場合でも、粒径の大きい方が線膨張係数α1を低下させる効果が大きいことが分かる。」(【0038】)と記載されている。

以上によれば、発明の詳細な説明には「不揮発分の線膨張係数」について、要するに、「顔料」の方が「樹脂成分」よりも線膨張係数が小さいので、顔料を含有する割合に応じて「不揮発分の線膨張係数」が小さくなると説明されているとともに、線膨張係数を低下させる効果は顔料の形状や粒径にも依存するとも説明されている。

次に、発明の詳細な説明の【表1】(なお、【表1】の記載に基づいて特許権者が作成した以下のグラフ(令和2年2月10日付け意見書5~6頁)を説明の便宜のために、以下に転記する。)

を見ると、顔料を含有する割合や、顔料の形状や粒径に依存して「不揮発分の線膨張係数」が小さくなる程度が異なることが理解できる。また、GFの場合は、G小、G中、G大のグラフの傾きが大きく異なるのに対し、マイカの場合は、マイカ小、マイカ中、マイカ大のグラフの傾きがほぼ等しくなっているので、線膨張係数を低下させる効果が粒径に依存する依存度は、GFの方がマイカよりも大きいことや、いずれにしても顔料の形状が鱗片状である方が球形の場合よりも大きく低下することも理解できる。また、同じ含有割合(例えば、G小、マイカ小がそれぞれ30重量%)の時のα1の値は、G小が略6であるのに対し、マイカ小は略4であることから、同じ含有割合であってもGFよりもマイカの方が線膨張係数を低下させる効果が大きいが、いずれにしても顔料を含有することによって線膨張係数が低下することが理解できる。

さらに、発明の詳細な説明には、「樹脂成分」としてエポキシ樹脂である「JER1001X75」を含有し、「平均粒径が5~600μmである鱗片状顔料」として「RCF-160」または「RCF-600」を含有し、線膨張係数が「2.5×10-5/K~3.6×10-5/K」を充足する実施例(実施例3~5)が記載されている。

以上によれば、発明の詳細な説明の記載に基づき、顔料の含有割合を増加することや、球形のものを鱗片状のものに変更することや、より粒径が大きいものを使用することによって、線膨張係数をより小さくし、線膨張係数が「2.5×10-5/K~3.6×10-5/K」となるようにすることができることを理解することができるといえる。

エ 「塗膜の水蒸気透過度」について

発明の詳細な説明には、本件発明1の「前記塗料組成物から厚さ200μmの塗膜を形成させた場合の該塗膜の水蒸気透過度」(以下、「塗膜の水蒸気透過度」という。)について、「本発明の塗料組成物においては、例えば、鱗片状の顔料、好ましくは大きな鱗片状の顔料を用いたり、鱗片状顔料や樹脂成分の割合を調整したりすることで、上記特定した範囲を満たす線膨張係数を維持しつつ、水蒸気透過度を低下させることができる。」(【0041】)と記載されている。

そうすると、水蒸気透過度は、より粒径が大きな鱗片状の顔料を用いたり、顔料の含有割合を調整することによって、小さくすることができることが理解できる。

また、発明の詳細な説明には、「樹脂成分」としてエポキシ樹脂である「JER1001X75」を含有し、「平均粒径が5~600μmである鱗片状顔料」として「RCF-160」または「RCF-600」を含有し、水蒸気透過度が「0.1~1.4g/m2・day」を充足する実施例(実施例3~5)が記載されている。

以上によれば、発明の詳細な説明の記載に基づき、顔料の含有割合を調整することや、球形のものを鱗片状のものに変更することや、より粒径が大きいものを使用することによって、水蒸気透過度をより小さくし、水蒸気透過度が「0.1~1.4g/m2・day」となるようにすることができることを理解することができるといえる。

オ 特許異議申立人の主張について

特許異議申立人は、令和2年9月18日付け意見書(2頁下7行~4頁21行)において、概略、実施例1、比較例2及び比較例4を対比すると、顔料の平均粒径やアスペクト比を大きくしても、線膨張係数α1の値がまったく同じであったり、かえって小さくなる場合があるから、特許権者が提出した令和2年8月13日付けの意見書の6頁のグラフや8頁のグラフ及びこれらに関連する説明は、発明の詳細な説明の記載と整合していない。したがって、本件発明を実施するためには過度の試行錯誤が必要であると主張している。

しかしながら、実施例1、比較例2及び比較例4は、いずれも本件発明1に該当しない態様であり、そのような態様に基づく特許異議申立人の主張が、直ちに本件発明1にも当てはまるとはいえない。

したがって、特許異議申立人の主張は、採用できない。

カ 小括

以上をまとめると、発明の詳細な説明によれば、顔料の含有割合を調整することや、球形のものを鱗片状のものに変更することや、より粒径が大きいものを使用することによって、「不揮発分の線膨張係数」及び「塗膜の水蒸気透過度」をいずれも小さくすることができることが理解できる。また、この方法によって「不揮発分の線膨張係数」を「2.5×10-5/K~3.6×10-5/K」にすると同時に、「塗膜の水蒸気透過度」を「0.1~1.4g/m2・day」にすることができることを裏付ける実施例も記載されている。

そうすると、発明の詳細な説明の記載は、当業者が、「前記塗料組成物中に含まれる不揮発分のガラス転移温度以下の温度における線膨張係数が2.5×10-5/K~3.6×10-5/Kであり」及び「前記塗料組成物から厚さ200μmの塗膜を形成させた場合の該塗膜の水蒸気透過度が0.1~1.4g/m2・dayである」を充足する本件発明1の「塗料組成物」を製造することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであると認められる。

本件発明3は、本件発明1を引用し、さらに「前記不揮発分中における鱗片状顔料の含有量が15~60質量%である」点を限定したものであるが、実施例3~5が当該限定を充足するものであることを勘案すれば、本件発明1と同様の理由により、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明3に係る塗料組成物を製造することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであると認められる。

本件発明4は、本件発明1を引用し、さらに「前記樹脂成分の一部が変性樹脂であり、前記不揮発分中における変性樹脂の含有量が0.1~15質量%である」点を限定したものであり、本件発明5は、本件発明4を引用し、さらに「前記変性樹脂が液状変性樹脂であること」を限定したものであるが、これらの樹脂が入手困難なものであるなどの事情は見いだせないから、当業者であればそれらの限定に係る事項をさらに備える塗料組成物を製造する程度のことは、適宜なしえると認められる。したがって、本件発明1と同様の理由により、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明4、5に係る塗料組成物を製造することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであると認められる。

また、本件発明6は、本件発明1を引用し、さらに「前記塗料組成物が、構造物の塗装に使用される」点を限定したものであり、本件発明7は、本件発明6を引用し、さらに「前記構造物が、鋼構造物であること」を限定したものであるが、当業者であればそれらの限定に係る事項をさらに備える塗料組成物を製造する程度のことは、適宜なしえると認められるので、本件発明1と同様の理由により、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明6、7に係る塗料組成物を製造することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであると認められる。

さらに、本件発明8、9は、それぞれ、本件発明1を「塗膜」あるいは「塗装方法」の発明で表現したものであるから、いずれも、本件発明1と同様の理由により、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明8、9を実施することができる程度に明確かつ十分にされたものであると認められる。

2 理由2について

(1) 検討手法

特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

以下、上記観点に沿って検討する。

(2) 発明の詳細な説明の記載

上記1(2)を参照。

(3) 検討

ア 課題について

本件発明が解決しようとする課題は、「防食性及び耐剥離性に優れる塗膜を形成可能な塗料組成物、防食性及び耐剥離性に優れる塗膜と、該塗膜を形成する塗装方法とを提供すること」(【0009】)であると認められる。

イ 課題を解決するための手段について

発明の詳細な説明には、課題を解決するための手段について、「塗膜の内部応力を小さくすることができるため、耐剥離性に優れる塗膜を提供できる」(【0010】)、「線膨張係数は、下記関係式(1)に示されるように、その値を小さくすることで応力を小さくすることができる。

【数1】

関係式(1)において、σは応力であり、αは線膨張係数であり、Eは弾性率であり、T1は低温側の温度であり、T2は高温側の温度である。」(【0011】)、「線膨張係数はガラス転移温度を境にして変化するため、関係式(1)を下記関係式(2)として表すことができる。また、一般には、α1<α2の関係があるものの、E1>>E2の関係があるため、関係式(2)の右辺におけるガラス転移温度から高温側(右辺第2項)はガラス転移温度から低温側(右辺第1項)に比べてその影響力は小さい。

【数2】

」(【0013】)「本発明者は更に検討したところ、ガラス転移温度から低温側の線膨張係数α1を特定の範囲にまで低下させ、塗膜の内部応力を小さくすることで、塗膜の剥離を十分に防ぐことができることを見出した。また、線膨張係数に基づき塗膜の内部応力を小さくすることで、特定の樹脂に限定されず、広範な樹脂が使用可能となるため、塗膜の防食性を左右する遮断性の目安となる水蒸気透過度を同時に低下させることができ、防食性及び耐剥離性に優れる塗膜を提供できることも見出し、本発明を完成させるに至った。」(【0014】)と記載されている。

以上によれば、本件発明は、線膨張係数に基づき塗膜の内部応力を小さくすると同時に水蒸気透過度を低下させること、より具体的には、線膨張係数を「2.5×10-5/K~3.6×10-5/K」にするとともに水蒸気透過度を「0.1~1.4g/m2・day」とすることをその課題を解決するための手段とするものであると認められる。

ウ 判断

本件発明の課題を解決するための手段は、上記イのとおりであるが、発明の詳細な説明の【数2】(右辺第2項は無視できるとする。)をみると、σ(内部応力)は、α1(不揮発分の線膨張係数)のみでは決まらず、E1(塗膜の弾性率)が大きいほど、また、Tgが大きいほど、その値が大きくなることが理解できるから、「不揮発分の線膨張係数」が「2.5×10-5/K~3.6×10-5/K」であっても、E1やTgなどが大きい場合などには、σが大きくなり、塗膜の剥離を十分に防ぐことができない可能性があると認められる。

しかし、発明の詳細な説明には、線膨張係数が「2.5×10-5/K~3.6×10-5/K」であるとともに水蒸気透過度が「0.1~1.4g/m2・day」である塗料組成物の具体例が3例(実施例3~5)記載されており、これらの実施例の耐剥離性及び防食性の評価結果はいずれも良好である。

また、これらの実施例は、樹脂成分としてJER1001X75(エポキシ樹脂)、顔料としてRCF-160または600(ガラスフレーク顔料)を使用するものであるが、本件発明1は、その樹脂成分がエポキシ樹脂、顔料が平均粒径5~600μmである鱗片状顔料に特定されている。

そうすると、本件発明1において、E1やTgの値は、これらの実施例における値と概ね類似する範囲に特定されているといえるので、「不揮発分の線膨張係数」の値が「2.5×10-5/K~3.6×10-5/K」とされていれば、σが十分に小さくなり、塗膜の剥離を十分に防ぐことができると認められる。

(4) 特許異議申立人の主張について

特許異議申立人は、令和2年9月18日付け意見書(2頁4~6行、3頁末行~4頁1行、4頁20~21行、6頁5~7行)において、本件発明は、その実施をすることができない範囲を含むものであり、また、その効果を奏さない範囲を含むものであり、また、その実施にあたり過度の試行錯誤が必要な範囲を含むものであり、そのような範囲については発明の詳細な説明に記載されているとはいえないと主張する。

しかしながら、いわゆる明細書のサポート要件は、上記(1)に示した観点に沿って検討すべきものであり、実施をすることができないことや効果を奏さないことから直ちにサポート要件違反であるといえるものではない。

特許異議申立人の主張は、論理に大きな飛躍があり、採用できない。

(5) 小括

以上のとおりであるから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められる。

本件発明3~7は、本件発明1を引用し、さらに限定したものであり、本件発明8、9は、それぞれ、本件発明1を「塗膜」あるいは「塗装方法」の発明で表現したものであるから、いずれも、本件発明1と同様の理由により、本件発明3~9も、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められる。

3 理由3、4について

(1) 理由3、4の概要

理由3、4は、刊行物として国際公開第2017/138168号(甲1)または国際公開第2016/42840号(甲2)を引用するものであって、要するに、甲1に記載された発明(甲1発明)または甲2に記載された発明(甲2発明)と本件発明を対比すると、本件発明は、「塗料組成物中に含まれる不揮発分のガラス転移温度以下の温度における線膨張係数が2.5×10-5/K~3.6×10-5/Kであり」、及び、「塗料組成物から厚さ200μmの塗膜を形成させた場合の該塗膜の水蒸気透過度が0.1~1.4g/m2・dayである」という特定を有するものであるのに対し、甲1発明及び甲2発明は、いずれも、そのような特定を有していない点で相違しているが、これらの相違点について検討すると、甲1発明及び甲2発明は、いずれも、その顔料の含有割合が本件発明と重複一致しているので、これらの相違点に関する特定を充足するはずであり、したがって、これらの相違点は、いずれも、実質的な相違点ではないか、実質的な相違点であるとしても、当業者であれば容易に想到しえるものであるというものである。

(2) 検討

甲1及び甲2には、「塗料組成物中に含まれる不揮発分のガラス転移温度以下の温度における線膨張係数」、及び、「塗料組成物から厚さ200μmの塗膜を形成させた場合の該塗膜の水蒸気透過度」について記載も示唆もないし、これらの値をそれぞれ「2.5×10-5/K~3.6×10-5/K」、及び、「0.1~1.4g/m2・day」という特定の数値範囲に限定することについても記載も示唆もない。

また、上記1(3)ウ、エで検討したとおり、これらの相違点に係る事項を充足するものとするためには、顔料の含有割合が重複一致するだけでは足りず、線膨張係数及び水蒸気透過度がそれぞれ「2.5×10-5/K~3.6×10-5/K」、及び、「0.1~1.4g/m2・day」となるように、形状と粒径についても同時に調整することを要するものである。

そうすると、上記調整が行われていない甲1発明及び甲2発明は、いずれも、これらの相違点に関する特定を充足するはずであるとはいえないから、これらの相違点はいずれも実質的なものである。

また、線膨張係数や水蒸気透過度を調整すること(によって、本件発明に係る数値範囲を充足するものとすること)について記載も示唆も無い甲1あるいは甲2に接した当業者が、これらの相違点に係る事項を充足するものとすることを動機づけられることはないと認められる。

したがって、本件特許の請求項1、3~9に係る発明は、いずれも、甲1または甲2に記載された発明であるとはいえない。また、甲1または甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

4 特許異議申立人のその他の主張について

特許異議申立人は、令和2年9月18日付け意見書(1頁17行~2頁6行)において、本件発明の「鱗片状」は、その定義が不明確であるため、実施例の態様以外にどのような形状が含まれるのかが明確ではないし、したがって、実施例の態様以外については過度の試行錯誤が必要なので実施することができず、実施することができない範囲については発明の詳細な説明に記載していない発明である、という新たな取消理由を追加しようとする主張をしている。

しかしながら、「鱗片状」という事項は、そもそも、本件特許(設定登録時)の請求項2に記載されていた事項であるから、この取消理由は、本件訂正の内容に付随して生じた理由などには該当しない。また、新たな取消理由を追加することは認められない。

したがって、主張は、採用することができない。

第6 むすび

当審で通知した取消理由は、特許異議申立ての理由の全てを含むものであるところ、上記第5のとおり、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件特許の請求項1、3~9に係る特許を取り消すことはできない。

また、他に本件特許の請求項1、3~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

さらに、本件特許の請求項2に係る特許についての特許異議の申立ては、本件訂正により請求項2が削除された結果、申立ての対象が存在しないものとなった。したがって、本件特許の請求項2に係る特許についての特許異議の申立ては、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。

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2019-700817

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