特許異議申立
2023-700813
表面処理フィルム
- 審判番号
- 2023-700813
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-003765
- 登録番号
- 7220311
- 請求日
- 2023年08月07日
- 審決日
- 2024年11月08日
- 公報発行日
- 2025年02月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】住友化学株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】清水 義憲
- 【権利者代理人】三上 敬史
- 【権利者代理人】田中 政輝
- 【異議申立人】加藤 浩志
- 審判長/審判官
- 審判長 岡田 吉美
- 審判官 貝沼 憲司
- 審判官 関根 洋之
- 分類
- P1651.121-YAA(G02B) / P1651.536-YAA(G02B) / P1651.537-YAA(G02B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条、特許法第36条、特許法第126条、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7220311号発明「表面処理フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7220311号の明細書及び特許請求の範囲を、令和6年5月16日に提出された訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
特許第7220311号の請求項1~3、5~7に係る特許を維持する。
特許第7220311号の請求項4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7220311号(以下「本件特許」という。)の請求項1~7に係る特許についての出願は、令和4年1月13日の出願であって、令和5年2月1日にその特許権の設定登録がされ、同月9日に特許掲載公報が発行された。本件特許の特許請求の範囲に記載された請求項の数は7である。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和5年 8月 7日 :特許異議申立人 加藤浩志(以下、単に
「特許異議申立人」という。)による
請求項1~7に係る特許に対する
特許異議の申立て
同年11月14日 :取消理由通知書
令和6年 1月15日 :意見書の提出(特許権者)
同年 3月19日付け:取消理由通知書(決定の予告)
同年 5月16日 :意見書及び訂正請求書の提出(特許権者)
同年 同月29日付け:手続補正指令書(方式)
同年 6月10日 :補正書の提出(特許権者)
同年 7月18日 :意見書の提出(特許異議申立人)
訂正請求書による訂正の請求を、以下「本件訂正請求」という。
第2 本件訂正について
1 本件訂正の請求の趣旨
本件訂正請求に係る請求の趣旨は、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、それぞれ本件訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~7について訂正することを求めるものである。
2 本件訂正前の特許請求の範囲の記載
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~7の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】
厚みが20μm未満である基材層と、
前記基材層表面に設けられた塗工層と、
温度23℃、相対湿度55%における引裂き強度が1.7N以上である第1端部と、を有し、
前記塗工層の厚みは、5μm以下であり、
前記第1端部は、前記基材層表面に前記塗工層が設けられていない未塗工領域を含み、
前記未塗工領域における前記基材層の端から前記塗工層の端までの距離は、5.5mm以上50mm以下である、表面処理フィルム。
【請求項2】
前記第1端部は、前記表面処理フィルムの平面視において対向する一対の辺に沿って設けられている、請求項1に記載の表面処理フィルム。
【請求項3】
温度23℃、相対湿度55%において、前記表面処理フィルムの前記塗工層に100個のクロスハッチを形成して行うクロスハッチ試験により、前記基材層上に90個以上の前記クロスハッチが残る、請求項1又は2に記載の表面処理フィルム。
【請求項4】
前記基材層は、環状オレフィン樹脂フィルムである、請求項1~3のいずれか1項に記載の表面処理フィルム。
【請求項5】
前記塗工層は、紫外線硬化型樹脂を含む組成物の硬化物層である、請求項1~4のいずれか1項に記載の表面処理フィルム。
【請求項6】
前記表面処理フィルムは、長尺体であり、
前記第1端部は、前記表面処理フィルムの幅方向両端部に設けられている、請求項1~5のいずれか1項に記載の表面処理フィルム。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の表面処理フィルムと、直線偏光層とを有する偏光板。」
3 本件訂正後の特許請求の範囲の記載
本件訂正後の特許請求の範囲の記載は、次のとおりである。下線は、訂正箇所を示す。
「【請求項1】
厚みが20μm未満である基材層と、
前記基材層表面に設けられた塗工層と、
以下の[引裂き強度の測定]に記載の方法により測定される温度23℃、相対湿度55%における引裂き強度が1.7N以上である第1端部と、を有し、
前記塗工層の厚みは、5μm以下であり、
前記第1端部は、前記基材層表面に前記塗工層が設けられていない未塗工領域を含み、
前記未塗工領域における前記基材層の端から前記塗工層の端までの距離は、5.5mm以上50mm以下であり、
前記基材層は、環状オレフィン樹脂フィルムである、表面処理フィルム。
[引裂き強度の測定]
表面処理フィルムの未塗工領域が形成された端部において、表面処理フィルムの端、未塗工領域、及び塗工領域を含み、上記表面処理フィルムの端が位置する辺の延在する方向に50mm、当該辺に直交する方向に70mmの大きさとなるように、矩形状のサンプル片を切り出す。サンプル片の辺のうちの表面処理フィルムの上記辺を構成していた辺、及び未塗工領域を少なくとも跨ぐように、サンプル片の一方の面に2つのリードテープ(パイオランクロス養生用テープ緑、50mm×25m、Y-09-GR、ダイヤテックス製)を取り付ける(以下、リードテープを取付けた辺を「取付け辺」ということがある。)。各リードテープは、長さ50mm×幅20mmとし、サンプル片の取付け辺の中心において2つのリードテープの間に1mmの隙間が形成され、リードテープの幅方向が取付け辺に平行となり、一方の端から10mmの長さの範囲がサンプル片上に配置されるように、サンプル片に取付ける。サンプル片の他方の面にも、サンプル片の一方の面に取付けたリードテープに重なるように、2つのリードテープを取付ける。これにより、サンプル片の取付け辺には、サンプル片の平面視において2つのリードテープ(サンプル片の両面に取付けられたリードテープ)が重なったリードテープ群が2組、1mmの間隔(隙間)をあけて取付けられた状態となる。サンプル片に取付けたリードテープの長さ方向の端部のうちの、サンプル片に取付けた側とは反対側の端部をオートグラフ(「AGS-50NX」、島津製作所製)の上下チャックにそれぞれ固定する。その後、2組のリードテープ群のうちの一方の組を、サンプル片31の平面を基準として一方側に、2組のリードテープ群のうちの他方の組を、サンプル片の平面を基準として他方側になるように、サンプル片の平面を基準にして互いに反対の方向(サンプル片の平面を基準にして上下方向)に速度300mm/minで引っ張る180°引っ張り試験を行い、サンプル片の取付け辺を含む端部が裂けたときに現れるピークの値(力の大きさ)を測定する。測定は、温度23℃、相対湿度55%の条件下で行う。この測定を5回行い、測定された力の大きさの平均値を引裂き強度とする。
【請求項2】
前記第1端部は、前記表面処理フィルムの平面視において対向する一対の辺に沿って設けられている、請求項1に記載の表面処理フィルム。
【請求項3】
温度23℃、相対湿度55%において、前記表面処理フィルムの前記塗工層に100個のクロスハッチを形成して行うクロスハッチ試験により、前記基材層上に90個以上の前記クロスハッチが残る、請求項1又は2に記載の表面処理フィルム。
【請求項4】(削除)
【請求項5】
前記塗工層は、紫外線硬化型樹脂を含む組成物の硬化物層である、請求項1~3のいずれか1項に記載の表面処理フィルム。
【請求項6】
前記表面処理フィルムは、長尺体であり、
前記第1端部は、前記表面処理フィルムの幅方向両端部に設けられている、請求項1~3及び5のいずれか1項に記載の表面処理フィルム。
【請求項7】
請求項1~3、5及び6のいずれか1項に記載の表面処理フィルムと、直線偏光層とを有する偏光板。
4 本件訂正の内容
本件訂正請求は、一群の請求項である請求項1~7について、特許請求の範囲及び明細書の記載を訂正するものであるところ、本件訂正の内容を訂正される明細書又は請求項の記載ごとに訂正事項として整理すると、以下のとおり、訂正事項1~訂正事項6までからなる。
なお、訂正事項を整理し直したので、訂正事項の番号は、訂正請求書における訂正事項の番号とは一致しない。
(1) 訂正事項1(明細書の記載に係る訂正)
明細書の【0083】の
「パイオランクロス養生用テープ緑、50mm×25mm、Y-09-GR、ダイヤテックス製」
との記載を、
「パイオランクロス養生用テープ緑、50mm×25m、Y-09-GR、ダイヤテックス製」
と訂正する。
(2) 訂正事項2(請求項1の記載に係る訂正)
ア 訂正事項2-1
特許請求の範囲の請求項1における、
「温度23℃、相対湿度55%における引裂き強度」
との記載を、
「以下の[引裂き強度の測定]に記載の方法により測定される温度23℃、相対湿度55%における引裂き強度」
と訂正するとともに、
「表面処理フィルム。」の後に改行をいれて、次の記載を挿入する。
[引裂き強度の測定]
表面処理フィルムの未塗工領域が形成された端部において、表面処理フィルムの端、未塗工領域、及び塗工領域を含み、上記表面処理フィルムの端が位置する辺の延在する方向に50mm、当該辺に直交する方向に70mmの大きさとなるように、矩形状のサンプル片を切り出す。サンプル片の辺のうちの表面処理フィルムの上記辺を構成していた辺、及び未塗工領域を少なくとも跨ぐように、サンプル片の一方の面に2つのリードテープ(パイオランクロス養生用テープ緑、50mm×25m、Y-09-GR、ダイヤテックス製)を取り付ける(以下、リードテープを取付けた辺を「取付け辺」ということがある。)。各リードテープは、長さ50mm×幅20mmとし、サンプル片の取付け辺の中心において2つのリードテープの間に1mmの隙間が形成され、リードテープの幅方向が取付け辺に平行となり、一方の端から10mmの長さの範囲がサンプル片上に配置されるように、サンプル片に取付ける。サンプル片の他方の面にも、サンプル片の一方の面に取付けたリードテープに重なるように、2つのリードテープを取付ける。これにより、サンプル片の取付け辺には、サンプル片の平面視において2つのリードテープ(サンプル片の両面に取付けられたリードテープ)が重なったリードテープ群が2組、1mmの間隔(隙間)をあけて取付けられた状態となる。サンプル片に取付けたリードテープの長さ方向の端部のうちの、サンプル片に取付けた側とは反対側の端部をオートグラフ(「AGS-50NX」、島津製作所製)の上下チャックにそれぞれ固定する。その後、2組のリードテープ群のうちの一方の組を、サンプル片31の平面を基準として一方側に、2組のリードテープ群のうちの他方の組を、サンプル片の平面を基準として他方側になるように、サンプル片の平面を基準にして互いに反対の方向(サンプル片の平面を基準にして上下方向)に速度300mm/minで引っ張る180°引っ張り試験を行い、サンプル片の取付け辺を含む端部が裂けたときに現れるピークの値(力の大きさ)を測定する。測定は、温度23℃、相対湿度55%の条件下で行う。この測定を5回行い、測定された力の大きさの平均値を引裂き強度とする。」
イ 訂正事項2-2
特許請求の範囲の請求項1における、
「前記未塗工領域における前記基材層の端から前記塗工層の端までの距離は、5.5mm以上50mm以下である、」
との記載を、
「前記未塗工領域における前記基材層の端から前記塗工層の端までの距離は、5.5mm以上50mm以下であり、
前記基材層は、環状オレフィン樹脂フィルムである、」
と訂正する。
(3) 訂正事項3(請求項4の記載に係る訂正)
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(4) 訂正事項4(請求項5の記載に係る訂正)
特許請求の範囲の請求項5における、
「請求項1~4のいずれか1項」
との記載を、
「請求項1~3のいずれか1項」
と訂正する。
(5) 訂正事項5(請求項6の記載に係る訂正)
特許請求の範囲の請求項6における、
「請求項1~5のいずれか1項」
との記載を、
「請求項1~3及び5のいずれか1項」
と訂正する。
(6) 訂正事項6(請求項7の記載に係る訂正)
特許請求の範囲の請求項7における、
「請求項1~6のいずれか1項」
との記載を、
「請求項1~3、5及び6のいずれか1項」
と訂正する。
5 本件訂正についての当審の判断
(1) 訂正の目的
ア 訂正事項1
訂正事項1の訂正は、本件訂正前の明細書の【0083】の「パイオランクロス養生用テープ緑、50mm×25mm、Y-09-GR、ダイヤテックス製」に関して、「50mm×25mm」との記載を「50mm×25m」と訂正するものである。
ここで、ダイヤテックス製のY-09-GRのリードテープが「50mm×25m」であることは技術常識であることから、【0083】の「50mm×25mm」との記載は「50mm×25m」の誤記であると認められる。
したがって、当該補正は、特許法120条の5第2項ただし書2号に規定する「誤記の訂正」を目的とするものに該当する。
イ 訂正事項2
(ア) 訂正事項2-1
訂正事項2-1の訂正は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「温度23℃、相対湿度55%における引裂き強度が1.7N以上である第1端部」について、引裂き強度を、以下の[引裂き強度の測定]に記載の方法により測定されるものに限定又は明確化するものである。
[引裂き強度の測定]
表面処理フィルムの未塗工領域が形成された端部において、表面処理フィルムの端、未塗工領域、及び塗工領域を含み、上記表面処理フィルムの端が位置する辺の延在する方向に50mm、当該辺に直交する方向に70mmの大きさとなるように、矩形状のサンプル片を切り出す。サンプル片の辺のうちの表面処理フィルムの上記辺を構成していた辺、及び未塗工領域を少なくとも跨ぐように、サンプル片の一方の面に2つのリードテープ(パイオランクロス養生用テープ緑、50mm×25m、Y-09-GR、ダイヤテックス製)を取り付ける(以下、リードテープを取付けた辺を「取付け辺」ということがある。)。各リードテープは、長さ50mm×幅20mmとし、サンプル片の取付け辺の中心において2つのリードテープの間に1mmの隙間が形成され、リードテープの幅方向が取付け辺に平行となり、一方の端から10mmの長さの範囲がサンプル片上に配置されるように、サンプル片に取付ける。サンプル片の他方の面にも、サンプル片の一方の面に取付けたリードテープに重なるように、2つのリードテープを取付ける。これにより、サンプル片の取付け辺には、サンプル片の平面視において2つのリードテープ(サンプル片の両面に取付けられたリードテープ)が重なったリードテープ群が2組、1mmの間隔(隙間)をあけて取付けられた状態となる。サンプル片に取付けたリードテープの長さ方向の端部のうちの、サンプル片に取付けた側とは反対側の端部をオートグラフ(「AGS-50NX」、島津製作所製)の上下チャックにそれぞれ固定する。その後、2組のリードテープ群のうちの一方の組を、サンプル片31の平面を基準として一方側に、2組のリードテープ群のうちの他方の組を、サンプル片の平面を基準として他方側になるように、サンプル片の平面を基準にして互いに反対の方向(サンプル片の平面を基準にして上下方向)に速度300mm/minで引っ張る180°引っ張り試験を行い、サンプル片の取付け辺を含む端部が裂けたときに現れるピークの値(力の大きさ)を測定する。測定は、温度23℃、相対湿度55%の条件下で行う。この測定を5回行い、測定された力の大きさの平均値を引裂き強度とする。
したがって、当該訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」又は同項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
(イ) 訂正事項2-2
訂正事項2-2の訂正は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1において、「基材層」を「環状オレフィン樹脂フィルム」に限定するものであり、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
ウ 訂正事項3
訂正事項3の訂正は、請求項4を削除するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
エ 訂正事項4~6
(ア) 訂正事項4の訂正は、訂正事項3により請求項4を削除したことに伴い、請求項5が引用する請求項を、本件訂正前の「請求項1~4」から本件訂正後の「請求項1~3」に訂正するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」又は同項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
(イ) 訂正事項5の訂正は、訂正事項3により請求項4を削除したことに伴い、請求項6が引用する請求項を、本件訂正前の「請求項1~5」から本件訂正後の「請求項1~3及び5」に訂正するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」又は同項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
(ウ) 訂正事項6の訂正は、訂正事項3により請求項4を削除したことに伴い、請求項7が引用する請求項を、本件訂正前の「請求項1~6」から本件訂正後の「請求項1~3、5及び6」に訂正するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」又は同項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
(2) 新規事項の追加、特許請求の範囲の実質的拡張・変更
ア 訂正事項1
訂正事項1の訂正は、前記(1)アにおいて検討したとおり、技術常識に基づいて明細書の【0083】において、「リードテープ」に関する誤記を訂正するものであるから、本件特許の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。
また、訂正事項1の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法120条の5第9項において準用する同法126条6項の規定に適合する。
イ 訂正事項2
(ア) 訂正事項2-1
a 訂正事項2-1は、は、前記アの訂正事項1についての検討結果も踏まえると、願書に添付された明細書(以下「特許時明細書」という。)の段落【0081】~【0084】(下線は当合議体において付した。)の以下の記載に基づくものであると認められる。
「【0081】
表面処理フィルムの、未塗工領域が形成された端部(参考例1及び3については、基材層)について、後述する手順で引裂き強度を測定した。参考例1及び3以外で得た表面処理フィルムについて、後述する手順でクロスハッチ試験を行った。結果を表1に示す。
…(中略)…
【0083】
[引裂き強度の測定]
図3は、引裂き強度の測定に用いるサンプル片を模式的に示す平面図である。表面処理フィルムの未塗工領域が形成された端部において、表面処理フィルムの端、未塗工領域21、及び塗工領域22を含み、上記表面処理フィルムの端が位置する辺の延在する方向に50mm、当該辺に直交する方向に70mmの大きさとなるように、矩形状のサンプル片31を切り出した(図3)。サンプル片31の辺のうちの表面処理フィルムの上記辺を構成していた辺33、未塗工領域21、及び塗工領域22を跨ぐように、サンプル片31の一方の面に2つのリードテープ(パイオランクロス養生用テープ緑、50mm×25m、Y-09-GR、ダイヤテックス製)35,35を取り付けた(以下、リードテープを取付けた辺33を「取付け辺33」ということがある。)。各リードテープ35は、長さ50mm×幅20mmとし、サンプル片31の取付け辺33の中心において2つのリードテープ35,35の間に1mmの隙間が形成され、リードテープ35の幅方向が取付け辺33に平行となり、一方の端から10mmの長さの範囲がサンプル片31上に配置されるように、サンプル片31に取付けた。サンプル片31の他方の面にも、サンプル片31の一方の面に取付けたリードテープ35,35に重なるように、2つのリードテープを取付けた。これにより、サンプル片31の取付け辺33には、図3に示すように、サンプル片31の平面視において2つのリードテープ(サンプル片31の両面に取付けられたリードテープ)が重なったリードテープ群が2組、1mmの間隔(隙間)をあけて取付けられた状態となった。
【0084】
サンプル片31に取付けたリードテープ35の長さ方向の端部のうちの、サンプル片31に取付けた側とは反対側の端部をオートグラフ(「AGS-50NX」、島津製作所製)の上下チャックにそれぞれ固定した。その後、2組のリードテープ群のうちの一方の組を、サンプル片31の平面を基準として一方側に、2組のリードテープ群のうちの他方の組を、サンプル片31の平面を基準として他方側になるように、サンプル片31の平面を基準にして互いに反対の方向(サンプル片31の平面を基準にして上下方向)に速度300mm/minで引っ張る180°引っ張り試験を行い、サンプル片31の取付け辺33を含む端部が裂けたときに現れるピークの値(力の大きさ)を測定した。測定は、温度23℃、相対湿度55%の条件下で行った。この測定を5回行い、測定された力の大きさの平均値を引裂き強度とした。」
b したがって、訂正事項2-1の訂正は、本件特許の願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「特許時明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。
c また、訂正事項2-1の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法120条の5第9項において準用する同法126条6項の規定に適合する。
(イ) 訂正事項2-2
a 訂正事項2-2は、特許時明細書の【0079】の次の記載に基づくものであると認められる。
「【0079】
〔実施例1~10、比較例1及び2、参考例1~3〕
基材層として、表1に示す厚みを有する環状オレフィン樹脂フィルム(以下、「COPフィルム」ということがある。)を準備した。(後略)」
b したがって、訂正事項2-2の訂正は、特許時明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。
c また、訂正事項2-2の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法120条の5第9項において準用する同法126条6項の規定に適合する。
ウ 訂正事項3
(ア) 訂正事項3の訂正は、請求項4を削除するものであるから、特許時明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。
(イ) また、訂正事項3の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法120条の5第9項において準用する同法126第6項の規定に適合する。
エ 訂正事項4~6
(ア) 訂正事項4~6の訂正は、いずれも多数項を引用している請求項の引用請求項数を削減するものであるから、特許時明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。
(イ) また、訂正事項4~6の訂正は、いずれも実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法120条の5第9項において準用する同法126第6項の規定に適合する。
(3) 独立特許要件
本件特許異議の申立てにおいては、全請求項について特許異議の申立てがされているから、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する特許法126条7項の独立特許要件は課されない。
(4) 小括
前記(1)~(3)において検討した訂正要件についての当審の判断をまとめると、訂正事項1~6の訂正は、いずれも特許法120条の5第2項並びに同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するから、本件訂正は適法なものである。
よって、前記結論のとおり、訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
前記第2において説示したとおり、本件訂正は認められたから、本件特許の請求項1~3、5~7に係る発明(以下、請求項の番号に従い「本件発明1」などという。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1~3、5~7に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1~3、5~7の記載は、前記第2の3に摘記したとおりである。
第4 取消理由通知書に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1~7に係る特許に対して、当審が令和6年3月19日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。
(1) 取消理由1(進歩性の欠如)
ア 取消理由1-1(進歩性の欠如)
本件訂正前の請求項1~3、5~7に係る発明は、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が、その出願前に日本国内又は外国において発行された下記の文献に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項1~3、5~7に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
記
甲第1号証:特開2015- 61754号公報(主引用例)
甲第7号証:特開2013-130887号公報
イ 取消理由1-2(進歩性の欠如)
本件訂正前の請求項1~3、5~7に係る発明は、当業者が、その出願前に日本国内又は外国において発行された下記の文献に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項1~3、5~7に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
記
甲第2号証:特開2015- 94823号公報(主引用例)
甲第7号証:特開2013-130887号公報
(2) 取消理由2(明確性要件違反)
本件訂正前の請求項1に記載された「引裂き強度」の定義が不明であるから、本件訂正前の請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項に係る発明である請求項2~7に係る特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
なお、特許異議申立人が提出した各甲号証は、以下、各甲号証の番号に従って「甲1」などと略記する。
2 取消理由1-1(進歩性の欠如)についての当審の判断
(1) 甲号証の記載及び甲号証に記載された発明
ア 甲1に記載された事項及び甲1発明の認定
(ア) 甲1に記載された事項
甲1には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に用いる箇所を示す(以下同様である。)。
a 【特許請求の範囲】
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)環状ポリオレフィン系樹脂を含む層と、
(B)分子中に脂環構造を有する、光及び/又は熱で重合した樹脂を含む層と、
を有する光学フィルム。
【請求項2】
前記(A)層の膜厚が20μm以下であり、かつ前記(B)層の膜厚が20μm以下である請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
更に、(C)ハードコート層を有し、
(A)層、(B)層、(C)層をこの順に有する請求項1又は2に記載の光学フィルム。
【請求項4】
前記(C)層の膜厚が10μm以下である請求項3に記載の光学フィルム。
…(中略)…
【請求項7】
偏光子と請求項1~6のいずれか1項に記載の光学フィルムとを有する偏光板であって、
偏光子、(A)層、(B)層をこの順に有する偏光板。
(後略)」
b 【0001】~【0006】
「【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルム、偏光板、偏光板の製造方法、及び画像表示装置に関する。
…(中略)…
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、液晶表示装置、特に中小型用途の液晶表示装置は薄型化が急激に進んでおり、使用される部材(光学フィルム、偏光板保護フィルム、偏光板など)の薄膜化が急務となっている。
…(中略)…
【0006】
本発明の目的は、薄膜でも高い湿熱耐久性を有し、ハードコート層との密着性に優れ、かつ表面硬度が高い光学フィルム、この光学フィルムと偏光子を有する偏光板、及びこの光学フィルム又はこの偏光板を有する画像表示装置を提供することである。」
c 【0012】~【0109】、【図1】
「【発明を実施するための形態】
…(中略)…
【0012】
[光学フィルム]
本発明の光学フィルムは、(A)環状ポリオレフィン系樹脂を含む層(「(A)層」とも呼ぶ)と、(B)分子中に脂環構造を有する、光及び/又は熱で重合した樹脂を含む層(「(B)層」とも呼ぶ)とを有する。
【0013】
〔(A)環状ポリオレフィン系樹脂を含む層〕
本発明の光学フィルムは、環状ポリオレフィン系樹脂を含む層((A)層)を有する。
…(中略)…
【0029】
(A)層の膜厚は、十分に低い透湿度を満ながらも薄膜化の要求を満足するという理由から、20μm以下が好ましく、1μm以上15μm以下がより好ましく、3μm以上10μm以下が更に好ましい。
…(中略)…
【0031】
〔(B)分子中に脂環構造を有する、光及び/又は熱で重合した樹脂を含む層〕
本発明の光学フィルムは、分子中に脂環構造を有する、光及び/又は熱で重合した樹脂を含む層((B)層)を有する。
【0032】
<(B)層に含まれる分子中に脂環構造を有する、光及び/又は熱で重合した樹脂>
(B)層は、分子中に脂環構造を有する、光及び/又は熱で重合した樹脂を含む。
分子中に脂環構造を有する、光及び/又は熱で重合した樹脂は、分子中に有する脂環構造が(A)層の環状ポリオレフィン系樹脂の環構造と類似の構造であるため、環状ポリオレフィン系樹脂との親和性が高く(A)層との密着性に優れ、かつ脂環構造は疎水的であるため透湿度を低くでき、光学フィルムの膜厚を薄くした場合でも光学フィルムの透湿度を低くできると考えられる。また、(B)層上に(C)ハードコート層を積層した場合に界面混合層を形成しやすいために、(C)ハードコート層との密着性にも優れると考えられる。
【0033】
分子中に脂環構造を有する、光及び/又は熱で重合した樹脂の脂環構造は、環状の脂肪族炭化水素基であることが好ましい。
脂環構造は、好ましくは炭素数5以上20以下の脂環構造であり、より好ましくは炭素数8以上16以下の脂環構造であり、更に好ましくは炭素数10以上14以下の脂環構造である。
脂環構造は、好ましくは、二環式、三環式等の、多環式構造である。
より好ましくは、特開2006-215096号公報の特許請求の範囲記載の化合物の中心骨格、特開2001-10999号公報記載の化合物の中心骨格、あるいは、アダマンタン誘導体の骨格等が挙げられる。
環状の脂肪族炭化水素基としては具体的には、ノルボルニル、トリシクロデカニル、テトラシクロドデカニル、ペンタシクロペンタデカニル、アダマンチル、ジアマンタニル等が挙げられる。
【0034】
分子中に脂環構造を有する、光及び/又は熱で重合した樹脂は、分子中に脂環構造を有する重合性化合物を光及び/又は熱で重合した樹脂であることが好ましい。分子中に脂環構造を有する重合性化合物は1種のみでもよいし、2種以上を併用してもよい。
分子中に脂環構造を有する重合性化合物は、エチレン性不飽和二重結合基を分子中に1つ以上有するモノマー又はオリゴマーであることが好ましく、2つ以上有する多官能モノマー又はオリゴマーであることがより好ましく、2つ以上4つ以下有する多官能モノマー又はオリゴマーであることが更に好ましい。
エチレン性不飽和二重結合基としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、スチリル基、アリル基等の重合性官能基が挙げられ、中でも、(メタ)アクリロイル基、-C(O)OCH=CH2が好ましく、(メタ)アクリロイル基が更に好ましい。
【0035】
分子中に脂環構造を有する重合性化合物としては、エチレン性不飽和二重結合基を2つ以上有する多官能モノマー又はオリゴマーが特に好ましい。エチレン性不飽和二重結合基を2つ以上有する多官能モノマー又はオリゴマーによって、低透湿性に優れ、(A)層との密着性及び(C)ハードコート層との密着性に優れる(B)層とすることができる。詳細は明らかではないが、分子内に脂環構造を有する化合物を用いることで、環状ポリオレフィン系樹脂との相溶性が良化し、密着性が良化するものと考えられる。また、分子内にエチレン性不飽和二重結合基を2つ以上有し架橋点密度を上げることで、表面硬度を向上できる。
…(中略)…
【0058】
(B)層の膜厚は、十分な表面硬度を得ながら薄膜化の要求を満足するという理由から、20μm以下が好ましく、2μm以上16μm以下がより好ましく、4μm以上12μm以下が更に好ましい。
本発明の光学フィルムは、(A)層の膜厚が20μm以下であり、かつ(B)層の膜厚が20μm以下であることが好ましい。
…(中略)…
【0060】
〔(C)ハードコート層〕
本発明の光学フィルムは、更に、(C)ハードコート層(「C層」とも呼ぶ)を有することが好ましく、(A)層、(B)層、(C)層をこの順に有することがより好ましい。
…(中略)…
(C)層の膜厚は、3μm以上20μm以下がより好ましく、4μm以上12μm以下が更に好ましい。3μm以上であることで十分な硬度が得られ、20μm以下であることで脆性の点で好ましい。
【0061】
ハードコート層は、光及び/又は熱により重合した樹脂を含むことが好ましく、ハードコート層の全固形分に対して光及び/又は熱により重合した樹脂を70質量%以上含むことが好ましく、75質量%以上98質量%以下含むことがより好ましく、80質量%以上95質量%以下含むことが更に好ましい。ハードコート層の光及び/又は熱により重合した樹脂は、光及び/又は熱により重合する重合性化合物を光及び/又は熱により重合した樹脂であることが好ましい。
光及び/又は熱により重合する重合性化合物としては、直鎖又は分岐状の構造を持ち、かつ重合性基を2つ以上有する化合物(多官能モノマー)が好ましい。
光及び/又は熱により重合する重合性化合物が有する重合性基は、エチレン性不飽和二重結合基、エポキシ基、オキセタニル基、アルコキシシリル基が好ましい。
エチレン性不飽和二重結合基としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、スチリル基、アリル基等の重合性官能基が挙げられ、中でも、(メタ)アクリロイル基、-C(O)OCH=CH2が好ましく、(メタ)アクリロイル基が更に好ましい。
…(中略)…
【0065】
ハードコート層の膜厚は、十分な硬度を確保しながらも薄膜化の要求を満足するという観点から、10μm以下であることが好ましく、2μm以上8μm以下がより好ましく、3μm以上6μm以下が更に好ましい。
【0066】
<光学フィルムの層構成>
本発明の光学フィルムは、(A)環状ポリオレフィン系樹脂光を含む層、及び、(B)分子中に脂環構造を有する、光及び/又は熱で重合した樹脂を含む層、を有する。
本発明の光学フィルムは、更に、(C)ハードコート層を有し、(A)層、(B)層、(C)層をこの順に有することが好ましい。
(A)層と(B)層は他の層を介さずに直接積層されていることが好ましい。
(B)層と(C)層は他の層を介さずに直接積層されていることが好ましい。
また、本発明の光学フィルムは、(C)層の上((B)層側と反対側の面上)に反射防止層(低屈折率層、中屈折率層、高屈折率層などの屈折率を調整した層等)を設けてもよい。本発明の光学フィルムの具体的な好ましい層構成を以下に示す。
・(A)層/(B)層
・(A)層/(B)層/(C)層
・(A)層/(B)層/(C)層/低屈折率層
・(A)層/(B)層/(C)層/高屈折率層/低屈折率層
・(A)層/(B)層/(C)層/中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層
中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層としては特開2006-17870号、特開2006-30881号、特開2007-298974号、特開2011-136503号、特開2012-159692号等に記載のものを好適に用いることができるがこれに限定されるものではない。
…(中略)…
【0104】
[偏光板]
本発明の偏光板は、偏光子と前述の本発明の光学フィルムとを有する偏光板であって、偏光子、(A)層、(B)層をこの順に有する。
図1に本発明の偏光板の一例を示す。図1の偏光板は、偏光子、(A)層、(B)層、(C)層をこの順に有する。
…(中略)…
保護フィルム処理面と偏光子を貼り合わせるのに使用される接着剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルコール系接着剤や、ブチルアクリレート等のビニル系ラテックス等が挙げられる。」
「【図1】
[図:0001419317000001.jpg]
」
「【0105】
偏光子の本発明の光学フィルムを有する面とは反対の面に偏光板保護フィルム有していてもよい。この偏光板保護フィルムとしては特に限定されず、例えば環状ポリオレフィン系樹脂フィルム、セルロースアシレートフィルムなどを用いることができる。
【0106】
本発明の光学フィルムは、液晶表示装置の視認側偏光板の視認側(液晶セルから遠い側)の偏光板保護フィルムとして用いられることが好ましい。
【0107】
本発明の偏光板は、薄膜化の観点から、膜厚は40μm以下が好ましく、より好ましくは5~30μm、更に好ましくは10~25μmである。
【0108】
(偏光子)
偏光板に用いられる偏光子は、ポリビニルアルコール系樹脂をヨウ素又は二色性色素で染色することにより得られる偏光子が好ましい。
偏光子の膜厚は、薄膜化の観点から、10μm以下が好ましく、より好ましくは1~10μm、更に好ましくは2~6μmである。
偏光子の作製方法は、薄手偏光子の作製方法としては、例えば特許第4691205号公報などを参照することができる。
【0109】
[偏光板の製造方法]
本発明の偏光板の製造方法は、前述の光学フィルムの製造方法の(f)工程で剥離された(A)層と(B)層を含む積層体(本発明の光学フィルム)の(A)層にコロナ処理等の表面処理を行い、別途作製した偏光子と(A)層を貼り合わせる工程を有することが好ましい。」
d 【0112】~【0154】
「【実施例】
…(中略)…
【0112】
〔光学フィルムの作製〕
((A)環状ポリオレフィン系樹脂含有層形成用組成物の調製)
<(A)層形成用組成物A1>
下記各成分を混合した後、攪拌機をつけたガラス製セパラブルフラスコに仕込み、室温にて24時間攪拌後、孔径20μmのポリプロピレン製デプスフィルターでろ過し、(A)層形成用組成物A1を得た。
【0113】
〔A層形成用組成物A1の組成〕
・APEL6015T 9.8質量部
・UV-1 0.2質量部
・シクロヘキサン 90質量部
【0114】
<(A)層形成用組成物A2~A7>
各成分を下記表1のように変更したこと以外は、(A)層形成用組成物A1と同様にして、(A)層形成用組成物A2~A7を得た。
【0115】
【表1】
[図:0001419317000002.jpg]
【0116】
以下、使用した化合物について説明する。下記一般式(A-IV)と一般式(A-V)は、ともに一般式(A-II)の構造単位を含むものである。
・APL6015T:下記一般式(A-IV)で表される環状ポリオレフィン樹脂(三井化学(株)製)
エチレンに由来する構造単位の含有率(X):19質量%
環状オレフィンに由来する構造単位の含有率(Y):81質量%
MFR:10g/10min
・APL8008T:下記一般式(A-IV)で表される環状ポリオレフィン樹脂(三井化学(株)製)
エチレンに由来する構造単位の含有率(X):38質量%
環状オレフィンに由来する構造単位の含有率(Y):62質量%
MFR:15g/10min
【0117】
【化21】
[図:0001419317000003.jpg]
【0118】
・TOPAS5013:下記一般式(A-V)で表される環状ポリオレフィン樹脂(Poly plastics(株)製)
エチレンに由来する構造単位の含有率(X):23質量%
環状オレフィンに由来する構造単位の含有率(Y):77質量%
MFR:49g/10min
【0119】
【化22】
[図:0001419317000004.jpg]
【0120】
・ARTONR5000:(JSR(株)製)
これは下記繰り返し単位を有する樹脂(繰り返し単位の比はモル比)であり、一般式(A-III)で表される構造単位を含むものである。
【0121】
【化23】
[図:0001419317000005.jpg]
【0122】
・UV-1:下記構造式で表される化合物
【0123】
【化24】
[図:0001419317000006.jpg]
【0124】
・X-1:下記構造式で表される化合物
【0125】
【化25】
[図:0001419317000007.jpg]
【0126】
((B)分子中に脂環構造を有する、光及び/又は熱で重合した樹脂含有層形成用組成物の調製)
<(B)層形成用組成物B1>
下記各成分を混合した後、攪拌機をつけたガラス製セパラブルフラスコに仕込み、室温にて30分攪拌後、孔径5μmのポリプロピレン製デプスフィルターでろ過し、(B)層形成用組成物B1を得た。
〔(B)層形成用組成物B1の組成〕
・DCP 28.8質量部
・イルガキュア907 1.2質量部
・シクロヘキサン 49質量部
・トルエン 21質量部
【0127】
<(B)層形成用組成物B2>
(B)層形成用組成物B1で用いたDCPをA-DCPに変更したこと以外は、(B)層形成用組成物B1と同様にして、(B)層形成用組成物B2を得た。
【0128】
<(B)層形成用組成物B3>
(B)層形成用組成物B1で用いたDCPをADDAに変更したこと以外は、(B)層形成用組成物B1と同様にして、(B)層形成用組成物B3を得た。
【0129】
以下、使用した化合物について説明する。
【0130】
・DCP:トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート(新中村化学工業(株)製)
これは、前述の例示化合物M-4に相当する化合物である。
【0131】
【化26】
[図:0001419317000008.jpg]
【0132】
・A-DCP:トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(新中村化学工業(株)製)
これは、前述の例示化合物M-5に相当する化合物である。
【0133】
【化27】
[図:0001419317000009.jpg]
【0134】
・ADDA:1,3-アダマンタンジメタノールジアクリレート
これは、前述の例示化合物M-7に相当する化合物である。
【0135】
【化28】
[図:0001419317000010.jpg]
【0136】
((C)ハードコート層形成用組成物の調製)
下記の組成の各成分を混合した後、孔径30μmのポリプロピレン製フィルターでろ過して、(C)ハードコート層用塗布液を調製した。
【0137】
【表2】
[図:0001419317000011.jpg]
【0138】
*1:「UV1700B」(日本合成社製)
*2:イルガキュア184(BASF社製(旧チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製))
【0139】
(光学フィルム1の作製)
透光性支持体(セルローストリアセテート(TAC):富士フイルム(株)製TD80UL)上に、前述の(A)層形成用組成物A1を特開2006-122889号公報実施例1記載のスロットダイを用いたダイコート法で、搬送速度10m/分の条件で乾燥後の膜厚が10μmとなるように塗布し、30℃で1分乾燥させた。
【0140】
続いて、(A)層上に、(B)層形成用組成物B1を同様の方法で乾燥後の膜厚が5μmとなるように塗布し、120℃で5分乾燥させた。その後、更に窒素パージ下酸素濃度約0.01体積%で160W/cmの空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて、照度400mW/cm2、照射量300mJ/cm2の紫外線を照射した。
続いて、(B)層上に、(C)ハードコート層形成用組成物を、マイクログラビア塗工方式で、搬送速度30m/分の条件で塗布した。60℃で150秒乾燥の後、窒素パージ(酸素濃度0.5体積%以下)しながら、160W/cmの空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて、照度400mW/cm2、照射量150mJ/cm2の紫外線を照射し、厚み5μmの(C)ハードコート層を形成した。
続いて、(A)層、(B)層、(C)層の積層体をTAC支持体から剥離した。
この様にして、(A)層、(B)層、(C)層をこの順に有する光学フィルム1を作製した。
【0141】
(光学フィルム2~8の作製)
光学フィルム1の作製において、(A)層形成用組成物、(B)層形成用組成物及び(C)層形成用組成物の種類、各層の膜厚を表3に示すように変更した以外は同様にして光学フィルム2~8を作製した。
【0142】
(光学フィルム9~10の作製)
光学フィルム1の作製において、(A)層形成用組成物の種類、膜厚を表3に示すように変更し、(B)層及び(C)層を設けない以外は同様にして光学フィルム9~10を作製した。
【0143】
(光学フィルム11の作製)
(A)層形成用組成物A7を280℃で溶融し、膜厚が10μmとなるようにして、光学フィルム11を得た。
【0144】
(光学フィルム12の作製)
(A)層形成用組成物A7を280℃で溶融し、膜厚が10μmとなるようにした後、光学フィルム1と同様に(B)層と(C)層を形成し、光学フィルム12を作製した。
【0145】
(光学フィルム13の作製)
(A)層形成用組成物A7を280℃で溶融し、膜厚が10μmとなるようにし、一方の面に1500W・min/m2の条件でコロナ処理を施した。前述のコロナ処理を施した面に、(C)層形成用組成物を光学フィルム1と同様に形成して光学フィルム13を得た。
【0146】
(光学フィルム14の作製)
(A)層形成用組成物A7を280℃で溶融し、膜厚が40μmとなるように形成して光学フィルム14を得た。
【0147】
(光学フィルム15の作製)
(A)層形成用組成物A7を280℃で溶融し、膜厚が40μmとなるようにし、一方の面に1500W・min/m2の条件でコロナ処理を施した。前述のコロナ処理を施した面に、(C)層形成用組成物を光学フィルム1と同様に形成して光学フィルム15を得た。
【0148】
【表3】
[図:0001419317000012.jpg]
【0149】
[光学フィルムの評価]
作製した光学フィルム1~8、12、13、15について下記の物性測定と評価を行った。
…(中略)…
【0151】
(ハードコート層の密着性評価)
ハードコート層の密着性評価を、下記の方法で行った。
JIS K 5600に準処した碁盤目試験を行った。具体的には光学フィルムのハードコート層表面上に1mm間隔で縦横に11本の切れ込みを入れて1mm角の碁盤目を100個作った。この上に透明感圧付着テープ(ニチバン株式会社製、セロテープ(登録商標)CT-15S)を貼り付け、素早く剥がし剥がれた箇所を目視観察により密着評価した。測定用サンプルは密着性評価前に温度25℃湿度60%の部屋で2時間以上調湿した後に評価した。
密着性A:剥がれ箇所0~10マス
密着性B:剥がれ箇所11~49マス
密着性C:剥がれ箇所50マス~99マス
密着性D:剥がれ箇所100マス以上(テープを貼った部分全部)
上記評価のA又はBが許容水準である。
…(中略)…
【0153】
得られた評価結果を表4に示す。
【0154】
【表4】
[図:0001419317000013.jpg]
」
(イ) 甲1発明の認定
甲1の請求項1~3を引用する請求項4を参照すると、甲1には次の「光学フィルム」の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
<甲1発明>
「(A)環状ポリオレフィン系樹脂を含む層と、
(B)分子中に脂環構造を有する、光及び/又は熱で重合した樹脂を含む層と、更に、(C)ハードコート層を有し、
(A)層の膜厚が20μm以下であり、
(B)層の膜厚が20μm以下であり、
(C)層の膜厚が10μm以下であり、
(A)層、(B)層、(C)層をこの順に有する光学フィルム。」
イ 甲7に記載された事項及び甲7技術事項の認定
(ア) 甲7に記載された事項
甲7には、次の事項が記載されている。
a 【0001】
「【技術分野】
【0001】
本発明(α)は、液晶ディスプレイ(LCD)やプラズマディスプレイ(PDP)等のディスプレイ表面に設ける光学積層体に関し、特に耐擦傷性、耐薬品性、画面の視認性を改善するための光学積層体に関する。
本発明(β)は、ハードコートフィルムに関し、特に、液晶ディスプレイ(LCD)やプラズマディスプレイ(PDP)等のディスプレイ表面に好ましく使用することができるハードコートフィルムに関する。」
b 【0014】
「【0014】
ハードコート層の表面硬度を向上させる方法として、ハードコート層の厚みを増加させる方法が挙げられる。しかし、当該方法ではハードコート層の表面硬度が向上するものの、該ハードコート層の割れや剥がれが生じやすくなると同時に、ハードコートフィルムの製造プロセスや、それを使用した各種2次加工プロセスでシワやカールなどのトラブルが発生するため、実用上使用できるものではなかった。上記のシワやカールなどの問題はハードコート層の表面硬度が高くなるほど発生しやすくなるものであった。上記のシワやカールなどの問題は光学用途に使用する場合に特に問題となる。例えば、ハードコートフィルムを偏光板用保護フィルムとして使用する場合、該ハードコートフィルムにケン化(酸・アルカリ)処理を施すのが一般的である。ケン化処理によって該ハードコートフィルムの表面改質がなされ、接着剤や粘着剤の塗布性が向上する。これにより接着剤や粘着剤を介して、偏光基板と、ハードコートフィルムとの密着性が向上する。しかしながら、ケン化処理によって、ハードコートフィルムに割れ、硬化収縮によるシワやカールが起きやすくなる問題を有していた。
また、Roll-to-Rollによりハードコートフィルムを作成することにより生産性が向上する。しかしながら、ハードコートフィルムをRoll-to-Rollにより作製する工程や、その二次加工プロセス(例えば、ケン化処理)を行う場合において、ハードコートフィルムに割れ、硬化収縮によるシワやカールが起きやすくなる問題を有していた。」
c 【0018】~【0033】
「【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明(α)は、優れた表面硬度を備えながら、割れや硬化収縮によるカールが抑制されていて、かつ、画面の視認性が良好で、LCDやPDPのTV用途にも好適に使用できる光学積層体を提供することを目的とする。
【0019】
従来、高い表面硬度を有し、カールやシワの発生がしにくく、耐薬品性(例えば、ケン化処理におけるアルカリ処理)に優れた光学積層体は存在しなかった。そこで、本発明(α)は、耐スクラッチ性に優れ、高い表面硬度(鉛筆硬度)を有し、耐薬品性に優れ、カールの発生が少なく、防汚性に優れる光学機能層(例えばハードコート層や、防眩層)を有する光学積層体を提供することを目的とする。また、光学積層体にケン化処理を施した場合においても、透光性微粒子(例えば、シリカ)がケン化液中に溶出し、透光性微粒子の効果が消失することがない光学積層体を提供することを目的とする。
【0020】
本発明(β)は、樹脂フィルム上にハードコート層を1層積層した層構成であって、該ハードコート層の鉛筆硬度が4H以上の場合であっても、カールが生じにくいハードコートフィルムを提供することを目的とする。
また、本発明(β)は、ハードコートフィルムをRoll-to-Rollにより作製する工程やその二次加工プロセス(例えば、ケン化処理)を行う場合においても、カールが生じにくいハードコートフィルムを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
…(中略)…
【0026】
本発明(β)は、下記の発明(5)~(9)の技術的構成により上記課題を解決したものである。
【0027】
(5)樹脂フィルム上にハードコート層が積層されてなり、該ハードコート層の厚さをA(mm)とし、該樹脂フィルムの縁部から該ハードコート層の縁部までの幅(耳取り幅)をB(mm)としたとき、A×1500<B(但し、0.003mm≦A≦0.020mm)であることを特徴とするハードコートフィルム。
(6)前記樹脂フィルムの弾性率が2GPa~8GPaであることを特徴とする(5)に記載のハードコートフィルム。
(7)前記樹脂フィルムの厚さが5~100μmであることを特徴とする(5)に記載のハードコートフィルム。
(8)前記ハードコート層が放射線硬化型樹脂を含有し、該放射線硬化型樹脂の体積収縮率が5~25%であることを特徴とする(5)に記載のハードコートフィルム。
(9)前記発明(5)~(8)いずれかに記載のハードコート層が表面凹凸構造を具備してなることを特徴とする防眩フィルム。
【0028】
尚、本明細書において、「光学積層体」と「ハードコートフィルム」は同じものを意味する。
【発明の効果】
…(中略)…
【0032】
本発明(β)によれば、樹脂フィルムの片面または両面を全て覆うようにしてハードコート層を形成させた従来のハードコートフィルムに比べ、本発明のハードコートフィルムは、ハードコート層の厚さA(mm)と樹脂フィルムの縁部からハードコート層の縁部までの幅B(mm)の関係式をA×1500<B(但し、0.003mm≦A≦0.020mm)としたため、樹脂フィルム上にハードコート層を1層積層した層構成であって、該ハードコート層の鉛筆硬度が4H以上の場合であってもカールが生じにくいハードコートフィルムを提供することができる。
また、本発明(β)は、ハードコートフィルムをRoll-to-Rollにより作製する工程やその二次加工プロセス(例えば、ケン化処理)を行う場合においても、カールが生じにくいハードコートフィルムを提供することができる。
【0033】
本発明(6)(7)によれば、割れ、硬化収縮によるシワが生じにくいハードコートフィルムを提供することができる。」
d 【0075】~【0081】、【図2】、【図3】
「【0075】
図2は樹脂フィルム10上に、1層のハードコート層20が積層されてなるハードコートフィルム1を示した平面図である。図2に示すように、ハードコート層20は樹脂フィルム10の端面11aから端面11bまで積層することができるが、これに限定されない。すなわち、ハードコート層20は樹脂フィルム10上に積層されていればよいのであって、ハードコート層20の端面21a、21bと、樹脂フィルム10の端面11a、11bが一致する必要はない。
【0076】
図3は図2の直線Lでハードコートフィルム1を切断した断面図である。図3において、ハードコート層20の厚さをA、樹脂フィルム10の縁部12aからハードコート層20の縁部22aまでの長さ(耳取り幅)をBとし、樹脂フィルム10の縁部12bからハードコート層20の縁部22bまでの長さをB’としている。BとB’の長さは同一であってもよいし、それぞれ別の長さを有することもできる。
【0077】
本発明のハードコートフィルムは、A×1500<Bであることが必要である。A×1500<Bとすることにより、ハードコートフィルム1のカールを抑制することができる。例えば、ハードコート層の厚さが本発明の下限である0.003mmである場合、上記の関係式は4.5<Bとなる。また、ハードコート層の厚さが本発明の上限である0.020mmである場合、上記の関係式は30<Bとなる。ここで、上記関係式においてBの上限値は特に制限されないが、例えば、100であり、好ましくは50である。Bの下限値を超える値であれば全ての値で割れ、シワ、カールが生じにくいハードコートフィルムを提供することができる。樹脂フィルムを有効に活用する観点からは、A×1500<Bの関係式において耳取り幅Bを当該Bの下限値に近づけることが好ましい。
…(中略)…
【0081】
樹脂フィルムの弾性率は2GPa~8GPaであることが好ましく、より好ましくは3GPa~7GPaである。
上記範囲の弾性率を有する樹脂フィルムをハードコートフィルムの構成材料として使用することにより、当該ハードコートフィルムを偏光板に加工し液晶表示装置に使用した際に、高湿低湿の環境下であっても光漏れ、偏光度の低下等の不具合が発生しづらくなるため好ましい。
樹脂フィルムの弾性率が2GPa未満であると、RolltoRollでハードコート層形成用塗料を塗工する際に、樹脂フィルムが切れる恐れがある。
なお、本発明における弾性率とは、JISP8113に準拠して測定した値をいう。具体的には、引っ張り試験機(エーアンドディー社製 製品名:RTG1210)を使用し、樹脂フィルムを1mm/分の速度で引っ張ることにより測定して求めることができる。」
「【図2】
[図:0001419317000014.jpg]
」
「【図3】
[図:0001419317000015.jpg]
」
(イ) 甲7技術事項の認定
甲7の段落【0027】及び【0032】を参照すると、甲7には次の技術(以下「甲7技術事項」という。)が記載されていると認められる。
<甲7技術事項>
「樹脂フィルム上にハードコート層が積層されてなるハードコートフィルムにおいて、
該ハードコート層の厚さをA(mm)とし、該樹脂フィルムの縁部から該ハードコート層の縁部までの幅(耳取り幅)をB(mm)としたとき、A×1500<B(但し、0.003mm≦A≦0.020mm)とすることにより、
カールが生じにくいハードコートフィルムを提供することができ、
ハードコートフィルムをRoll-to-Rollにより作製する工程やその二次加工プロセス(例えば、ケン化処理)を行う場合においても、カールが生じにくいハードコートフィルムを提供することができること。」
(2) 本件発明1について
ア 「塗工層」、「基材層」及び「表面処理フィルム」の意味について
(ア) 本件特許の明細書の発明の詳細な説明における「塗工層」、「基材層」及び「表面処理フィルム」についての記載としては、それぞれ次の段落【0026】、【0024】及び【0023】の記載がある。
「【0026】
(塗工層)
塗工層12は、表面処理フィルム1に、ハードコート特性、防眩特性、反射防止特性、帯電防止特性、及び防汚特性等のうちの少なくとも1種以上の特定の機能を付与するための層であることができる。塗工層12としては、ハードコート層、防眩層、反射防止層、帯電防止層、及び防汚層等が挙げられる。」
「【0024】
(基材層)
基材層11は、被着体表面を被覆し、塗工層12を支持するために用いられる。基材層11は、樹脂フィルムであることが好ましく、透明樹脂フィルムであることが好ましい。」
「【0023】
表面処理フィルム1は、ハードコート特性、防眩特性、反射防止特性、帯電防止特性、及び防汚特性等のうちの少なくとも1つ以上の機能を有することができる。これらの特性は、塗工層12によって付与することができる。表面処理フィルム1は、後述する直線偏光層等の被着体の表面に貼合することにより、被着体に上記特性等を付与することができる。表面処理フィルム1は、基材層11側が被着体に貼合されることが好ましい。」
(イ) 前記(ア)に摘記した本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌すると、次のaからcのことがいえる。
a 「塗工層」には「ハードコート層」が含まれる。
b 「ハードコート層」を支持するために用いられる層は、「基材層」といえる。
c 「ハードコート層」を有することによりハードコート特性の機能を有するフィルムは、「表面処理フィルム」といえる。
イ 本件発明1と甲1発明の対比分析
(ア)a 前記ア(イ)aの「塗工層」という用語の意味の検討結果を踏まえると、本件発明1の「塗工層」には「ハードコート層」が含まれるから、甲1発明の「光学フィルム」における「(C)ハードコート層」は、本件発明1の「塗工層」に相当する。
b(a) 甲1発明の「光学フィルム」における「(A)環状ポリオレフィン系樹脂を含む層」と「(B)分子中に脂環構造を有する、光及び/又は熱で重合した樹脂を含む層」は、「(C)ハードコート層」を支持するために用いられる層である。
(b) そうすると、前記ア(イ)bの「基材層」という用語の意味の検討結果を踏まえると、「ハードコート層」を支持するために用いられる層は、「基材層」といえるから、甲1発明における「(A)層」と「(B)層」は全体として、本件発明1の「基材層」に相当するといえる。
c そして、「(A)層、(B)層、(C)層をこの順に有する光学フィルム」の発明である甲1発明は、ハードコート特性の機能を有するフィルムといえるところ、前記ア(イ)cの「表面処理フィルム」という用語の検討結果を踏まえると、「ハードコート層」を有することによりハードコート特性の機能を有するフィルムは「表面処理フィルム」といえるから、甲1発明は、「表面処理フィルム」であるといえる。
d 前記aからcまでの検討結果をまとめると、甲1発明は、「基材層」と「塗工層」を有する「表面処理フィルム」の発明であるといえ、この点において本件発明1と一致する。
(イ) 甲1発明の「(C)ハードコート層」は、「(B)分子中に脂環構造を有する、光及び/又は熱で重合した樹脂を含む層」の表面に設けられるものであるから、本件発明1と甲1発明は、「基材層表面に設けられた塗工層」を有する点において一致する。
(ウ) 甲1発明の「光学フィルム」が第1端部の領域を有することは明らかであるから、本件発明1と甲1発明は、「第1端部を有する表面処理フィルム」の点において一致する。
(エ) 甲1発明の「(A)環状ポリオレフィン系樹脂を含む層」は、前記bを踏まえると、本件発明1の「基材層」に含まれることから、本件発明1と甲1発明は、「基材層は、環状オレフィン樹脂を含む」点で共通する。
ウ 本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点
前記イの対比分析の結果をまとめると、本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点は、それぞれ次の(ア)及び(イ)に示すとおりである。
(ア) 一致点1A
「基材層と、前記基材層表面に設けられた塗工層と、第1端部とを有し、前記基材層は、環状オレフィン樹脂を含む、表面処理フィルム」である点。
(イ) 相違点1A
本件発明1においては、
基材層の厚みが20μm未満であり、
塗工層の厚みが5μm以下であり、
第1端部が、前記基材層表面に前記塗工層が設けられていない未塗工領域を含み、前記未塗工領域における前記基材層の端から前記塗工層の端までの距離は、5.5mm以上50mm以下であり、(以下ここまでを「部分相違点1A」という。)
前記基材層は、環状オレフィン樹脂フィルムであり、(以下「追加相違点1A」という。)
以下の[引裂き強度の測定]に記載の方法により測定される温度23℃、相対湿度55%における引裂き強度が1.7N以上である…(中略)…
[引裂き強度の測定]
表面処理フィルムの未塗工領域が形成された端部において、表面処理フィルムの端、未塗工領域、及び塗工領域を含み、上記表面処理フィルムの端が位置する辺の延在する方向に50mm、当該辺に直交する方向に70mmの大きさとなるように、矩形状のサンプル片を切り出す。サンプル片の辺のうちの表面処理フィルムの上記辺を構成していた辺、及び未塗工領域を少なくとも跨ぐように、サンプル片の一方の面に2つのリードテープ(パイオランクロス養生用テープ緑、50mm×25m、Y-09-GR、ダイヤテックス製)を取り付ける(以下、リードテープを取付けた辺を「取付け辺」ということがある。)。各リードテープは、長さ50mm×幅20mmとし、サンプル片の取付け辺の中心において2つのリードテープの間に1mmの隙間が形成され、リードテープの幅方向が取付け辺に平行となり、一方の端から10mmの長さの範囲がサンプル片上に配置されるように、サンプル片に取付ける。サンプル片の他方の面にも、サンプル片の一方の面に取付けたリードテープに重なるように、2つのリードテープを取付ける。これにより、サンプル片の取付け辺には、サンプル片の平面視において2つのリードテープ(サンプル片の両面に取付けられたリードテープ)が重なったリードテープ群が2組、1mmの間隔(隙間)をあけて取付けられた状態となる。サンプル片に取付けたリードテープの長さ方向の端部のうちの、サンプル片に取付けた側とは反対側の端部をオートグラフ(「AGS-50NX」、島津製作所製)の上下チャックにそれぞれ固定する。その後、2組のリードテープ群のうちの一方の組を、サンプル片31の平面を基準として一方側に、2組のリードテープ群のうちの他方の組を、サンプル片の平面を基準として他方側になるように、サンプル片の平面を基準にして互いに反対の方向(サンプル片の平面を基準にして上下方向)に速度300mm/minで引っ張る180°引っ張り試験を行い、サンプル片の取付け辺を含む端部が裂けたときに現れるピークの値(力の大きさ)を測定する。測定は、温度23℃、相対湿度55%の条件下で行う。この測定を5回行い、測定された力の大きさの平均値を引裂き強度とする(追加相違点1Aより後のこの相違点を「引裂き強度の部分相違点」という。)のに対して、
甲1発明においては、
「基材層」に相当する「(A)層」と「(B)層」は全体として合計40μm以下であり、
「塗工層」に相当する「(C)ハードコート層」は10μm以下であり、
前記基材層表面に前記塗工層が設けられていない未塗工領域を含むのか否か不明であり、
「基材層」が「(A)環状ポリオレフィン系樹脂を含む層と、(B)分子中に脂環構造を有する、光及び/又は熱で重合した樹脂を含む層」からなり、
[引裂き強度の測定方法]に記載の方法により測定される温度23℃、相対湿度55%における引裂き強度が1.7N以上であるのか否か不明である点。
エ 判断
事案に鑑みて、相違点1Aにおける「追加相違点1A」について検討する。
(ア) 「追加相違点1A」は、本件発明1は「基材層は、環状オレフィン樹脂フィルムである」のに対して、甲1発明は、「(A)環状ポリオレフィン系樹脂を含む層と、(B)分子中に脂環構造を有する、光及び/又は熱で重合した樹脂を含む層」からなる点であるところ、甲1発明から(B)層を除くことが想到容易か検討する。
(イ) 甲1発明は、薄膜でも高い湿熱耐久性を有し、ハードコート層との密着性に優れ、かつ表面硬度が高い光学フィルムの提供を目的としている(【0006】)。
(ウ) そして、甲1発明の(B)層については、【0032】及び【0035】に、次の記載がある。
「【0032】
<(B)層に含まれる分子中に脂環構造を有する、光及び/又は熱で重合した樹脂>
(B)層は、分子中に脂環構造を有する、光及び/又は熱で重合した樹脂を含む。
分子中に脂環構造を有する、光及び/又は熱で重合した樹脂は、分子中に有する脂環構造が(A)層の環状ポリオレフィン系樹脂の環構造と類似の構造であるため、環状ポリオレフィン系樹脂との親和性が高く(A)層との密着性に優れ、かつ脂環構造は疎水的であるため透湿度を低くでき、光学フィルムの膜厚を薄くした場合でも光学フィルムの透湿度を低くできると考えられる。また、(B)層上に(C)ハードコート層を積層した場合に界面混合層を形成しやすいために、(C)ハードコート層との密着性にも優れると考えられる。」
「【0035】
分子中に脂環構造を有する重合性化合物としては、エチレン性不飽和二重結合基を2つ以上有する多官能モノマー又はオリゴマーが特に好ましい。エチレン性不飽和二重結合基を2つ以上有する多官能モノマー又はオリゴマーによって、低透湿性に優れ、(A)層との密着性及び(C)ハードコート層との密着性に優れる(B)層とすることができる。詳細は明らかではないが、分子内に脂環構造を有する化合物を用いることで、環状ポリオレフィン系樹脂との相溶性が良化し、密着性が良化するものと考えられる。また、分子内にエチレン性不飽和二重結合基を2つ以上有し架橋点密度を上げることで、表面硬度を向上できる。」
(エ) これらの記載から(B)層は、分子内に脂環構造を有する化合物を用いることで、(A)層である環状ポリオレフィン系樹脂との相溶性が良化し、密着性が良化するとともに、分子内にエチレン性不飽和二重結合基を2つ以上有し架橋点密度を上げることで、表面硬度を向上できるといえる。
(オ) そうすると、甲1発明における(B)層は、課題解決のための必須の手段となっており、これを除去することは、甲1発明を毀損してしまうこととなるから、阻害要因があるといえるため、想到容易とはいえない。
(カ) したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲7技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 特許異議申立人の主張について
(ア) 特許異議申立人は、甲1では、「(A)層」及び「(B)層」(併せて基材層)の上にハードコート層が形成されているが、基材層をどのように構成するかは適宜の設計的事項にすぎない。基材層に環状オレフィン樹脂フィルムを用いる点に何らかの技術的意味があるとは考えられず、当該構成は当業者が適宜採用し得る程度の設計的事項にすぎない旨主張している。
(イ) しかしながら、甲1発明において「(B)層」が必須の手段であることは前記エで検討したとおりである。
(ウ) よって、特許異議申立人の主張は、前記エの結論を左右するものではない。
カ 本件発明1についての小括
以上、ア~オに検討のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明及び甲7に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3) 本件発明2、3、5~7について
本件発明2、3,5~7は、本件発明1の構成を全て含むものであるから、上記(2)に示した理由と同様の理由により、本件発明2、3、5~7は、甲1発明及び甲7に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 取消理由1-2(進歩性の欠如)について
(1) 甲2に記載された事項及び甲2発明12、13の認定
ア 甲2に記載された事項
甲2には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に用いる箇所を示す(以下同様である。)。
a 【0001】~【0008】
「【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースエステルフィルムを有する偏光板に関する。
…(中略)…
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、ディスプレイの大型化や薄型化の要求に呼応する形で、偏光板にも薄膜化が求められている。もちろん、偏光板の構成部材である保護フィルムに対しても、薄膜化の要求が強く存在する。そこで、本発明者は、ヒンダードアミンを添加した薄膜のセルロースエステルフィルムを保護フィルムとし、これと偏光子とを紫外線硬化型接着剤を用いて接着した偏光板の作製を試みた。
【0007】
しかしながら、得られた偏光板を評価したところ、保護フィルムであるセルロースエステルと偏光子との接着性が悪く、偏光板の平面性も十分でないことが判明した。
【0008】
そこで、本発明は、ヒンダードアミンを添加した薄膜のセルロースエステルフィルムを保護フィルムとし、当該保護フィルムと偏光子とを紫外線硬化型接着剤を用いて接着してなる偏光板において、保護フィルムであるセルロースエステルフィルムと偏光子との接着性、及び、偏光板の平面性を改善する手段を提供することを目的とする。」
b 【発明を実施するための形態】
「【発明を実施するための形態】
…(中略)…
【0019】
≪偏光板≫
以下、添付した図面を参照しながら本発明の偏光板の各構成要素の詳細について説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係る偏光板を模式的に表す断面図である。図1において、本発明の偏光板101は、表面側より、保護フィルムAであるセルロースアセテートフィルム102と、偏光子104を有し、このセルロースアセテートフィルム102と偏光子104とは、紫外線硬化型接着剤から構成される接着剤層103Aにより接着されている。」
「【図1】
[図:0001419317000016.jpg]
」
「【0023】
<保護フィルムA>
本発明の偏光板において、保護フィルムAは、下記(1)~(4)の特徴を有する。
【0024】
(1)本形態に係る保護フィルムAは、膜厚が10~30μmであることを特徴とする。当該膜厚は、好ましくは15~26μmであり、より好ましくは20~26μmである。膜厚を30μm以下とすることにより、偏光板全体の薄膜化を達成することができる。一方、膜厚を10μm以上とすることにより所望の剛度や取り扱い性を維持することができる。なお、当該膜厚は、溶液製膜のTダイのギャップ間距離を調整することにより制御することができる。
…(中略)…
【0250】
<ハードコート層>
本発明に係る偏光板は、取り扱い性、平面性、耐擦傷性等を向上させるため、保護フィルムAの、接着剤層Aが形成されていない面側に、ハードコート層をさらに有することが好ましい。
【0251】
ハードコート層の膜厚は、特に制限されないが、1~20μmであることが好ましく、2~8μmであることがより好ましく、3~7μmであることが特に好ましい。
…(中略)…
【0259】
ハードコート層は、光及び/又は熱による硬化性化合物の架橋反応、又は、重合反応により形成されることが好ましい。硬化性官能基としては、光重合性官能基が好ましい。」
c 【実施例】
「【実施例】
…(中略)…
【0362】
[製造例1]
≪保護フィルムAとしてのセルロースアセテートフィルムの作製≫
特開2012-098698号公報の実施例101に準じて、セルロースアセテートフィルムを製造した。
【0363】
(セルロースアセテートの調製)
アセチル置換度2.87のセルロースアセテートを調製した。これは、触媒として硫酸(セルロース100質量部に対し7.8質量部)を添加し、酢酸を添加し40℃でアセチル化反応を行った。またアセチル化後に40℃で熟成を行った。さらにこのセルロースアセテートの低分子量成分をアセトンで洗浄し除去した。
【0364】
(ドープの調製)
1.セルロースアセテート溶液の調製
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、攪拌して各成分を溶解し、セルロースアセテート溶液1を調製した。
【0365】
セルロースアセテート溶液1の組成
アセチル置換度2.87、重合度370のセルロースアセテート 100.0質量部
FA-10 9.0質量部
例示化合物A-6 3.0質量部
CHIMASORB944FDL 表4記載の添加量
メチレンクロライド(第1溶媒) 353.9質量部
メタノール(第2溶媒) 89.6質量部
n-ブタノール(第3溶媒) 4.5質量部。
【0366】
2.マット剤溶液2の調製
下記の組成物を分散機に投入し、攪拌して各成分を溶解し、マット剤溶液2を調製した。
【0367】
マット剤溶液2の組成
平均粒子サイズ20nmのシリカ粒子(AEROSILR972、日本アエロジル(株)製) 2.0質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 69.3質量部
メタノール(第2溶媒) 17.5質量部
前記セルロースアセテート溶液1 0.9質量部。
【0368】
3.酸化防止剤溶液3の調製
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、有機酸溶液3を調製した。
【0369】
有機酸溶液3の組成
FLAMESABNOR116FF(BASF社製) 10.0質量部
下記紫外線吸収剤C 10.0質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 61.0質量部
メタノール(第2溶媒) 15.4質量部
n-ブタノール(第3溶媒) 0.8質量部
前記セルロースアセテート溶液1 12.8質量部。
【0370】
【化27】
[図:0001419317000017.jpg]
【0371】
上記マット剤溶液2の1.3質量部と、有機酸溶液3の3.4質量部をそれぞれ濾過後にインラインミキサーを用いて混合し、さらにセルロースアセテート溶液1を95.3質量部加えて、インラインミキサーを用いて混合し、表層用ドープを調製した。
【0372】
(流延)
ドラム流延装置を用い、前記調製したドープをステンレス製の流延支持体(支持体温度-9℃)に流延口から均一に流延した。各層のドープ中の残留溶媒量が略70質量%の状態で剥ぎ取り、フィルムの幅方向の両端をピンテンターで固定し、残留溶媒量が3~5質量%の状態で、横方向に1.28倍延伸しつつ乾燥した。その後、熱処理装置のロール間を搬送することにより、さらに乾燥し、セルロースアセテートフィルムを得た。得られたセルロースアセテートフィルムの膜厚は25μm、幅は1480mmであった。
【0373】
≪ハードコート層の形成≫
特開2012-098698号公報の実施例101に準じて、上記セルロースアセテートフィルムの一方の表面にハードコート層を形成した。
【0374】
(ハードコート層用塗布液(HC-1)の調製)
各成分を下記に示す組成で配合し、孔径30μmのポリプロピレン製フィルターでろ過してハードコート層用塗布液(HC-1)を調製した。
【0375】
ハードコート層用塗布液(HC-1)の組成
・バインダー
PET-30 22.9質量部
ビスコート360 22.9質量部
・重合開始剤
イルガキュア127 1.5質量部
・光拡散性粒子
8μm架橋アクリル・スチレン粒子30%MiBK分散液 1.0質量部
・溶剤
MiBK 19.2質量部
MEK 25質量部
・レべリング剤
FP-13 0.1質量部。
【0376】
上記で使用した化合物を以下に示す。
・PET-30:ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートの混合物[日本化薬(株)製]
・ビスコート360:トリメチロールプロパンPO変性トリアクリレート[大阪有機化学工業(株)社製]
・8μm架橋アクリル・スチレン粒子(30%):平均粒径8.0μm[積水化学(株)製]をポリトロン分散機にて10000rpmで20分間分散したMiBK分散液)
・イルガキュア127:重合開始剤[チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製]
・FP-13:特開2009-063983号公報[0341]に記載のフッ素系表面改質剤(MEKの10質量%溶液として溶解した後に使用)
上記表1中、MiBKはメチルイソブチルケトンを表し、MEKはメチルエチルケトンを表し、いずれもケトン系溶媒である。
【0377】
(ハードコート層の形成)
上記セルロースアセテートフィルムの製膜時に支持体に接していた面(以下支持体面と称す)上に、ハードコート層用塗布液(HC-1)を、マイクログラビア塗工方式で、搬送速度30m/分の条件で塗布した。60℃で150秒乾燥の後、窒素パージ(酸素濃度0.5%以下)しながら、160W/cmの空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて、照度400mW/cm2、照射量150mJ/cm2の紫外線を照射して塗布層を硬化させ、膜厚5μmのハードコート層を形成した。
【0378】
≪オシレート巻き≫
上記で作製したセルロースアセテートフィルムの一方の表面にハードコート層が形成されてなる光学フィルムを、巻取装置を用いて巻芯にロール状に巻き取ることによって、積層ロール体を製造した。
…(中略)…
【0385】
≪偏光板の作製≫
下記の方法に従って、図1に記載の構成からなる偏光板1を作製した。まず、上記で作製した保護フィルムBとしてのシクロオレフィンフィルムの表面にコロナ放電処理を施した。なお、コロナ放電処理の条件は、コロナ出力強度800Wとした。次いで、保護フィルムBのコロナ放電処理面に、上記で調製したラジカル系紫外線硬化性接着剤を、硬化後の膜厚が約0.5μmとなるようにグラビアコーターで塗工して接着剤層Bを形成した。当該接着剤層Bに、上記で作製した偏光子を貼合した。
【0386】
次いで、ハードコート層が形成された保護フィルムAとしてのセルロースアセテートフィルムの、ハードコート層の形成面とは反対側の表面に、コロナ放電処理を施した。コロナ放電処理の条件は、コロナ出力強度800Wとした。次いで、保護フィルムAのコロナ放電処理面に、上記で調製したラジカル系紫外線硬化型接着剤を、硬化後の膜厚が約0.5μmとなるようにグラビアコーターで塗工して接着剤層Aを形成した。
【0387】
この接着剤層Aに、保護フィルムBが片面に貼合された偏光子を貼合して、ハードコート層/保護フィルムA/接着剤層A/偏光子/接着剤層B/保護フィルムBが積層された積層体を得た。
【0388】
この積層体の両面から、ベルトコンベア付き紫外線照射装置(ランプは、フュージョンUVシステムズ社製のDバルブを使用)を用いて、積算光量が400mJ/cm2となるように紫外線を照射し、紫外線硬化型接着剤を硬化させ、偏光板1を作製した。
…(中略)…
【0392】
[製造例11~16]
製膜時のダイのギャップ間隔を調整することにより、セルロースアセテートフィルムの膜厚を表4記載の値としたこと以外は、上記製造例1と同様の方法で、偏光板11~16を作製した。
…(中略)…
【0465】
結果を下記表4(表4A~4C)に示す。また、各層の貼り合わせ方法を、表5に示す。
【0466】
【表4A】
[図:0001419317000018.jpg]
」
イ 甲2発明12の認定
甲2の【0362】~【0378】、【0392】、【0466】及び表4Aの実施例12の記載を参照すると、甲2には次の「光学フィルム」の発明(以下「甲2発明12」という。)が記載されていると認められる。
<甲2発明12>
「セルロースアセテートフィルムからなる膜厚10μmの保護フィルムAと、セルロースアセテートフィルムの一方の表面に膜厚5μmのハードコート層を形成した光学フィルム。」
ウ 甲2発明13の認定
同様に、表4Aの実施例13の記載を参照すると、甲2には次の「光学フィルム」の発明(以下「甲2発明13」という。)が記載されていると認められる。
<甲2発明13>
「セルロースアセテートフィルムからなる膜厚15μmの保護フィルムAと、セルロースアセテートフィルムの一方の表面に膜厚5μmのハードコート層を形成した光学フィルム。」
(2) 本件発明1について
ア 本件発明1と甲2発明12の対比分析
前記2(2)アにおける「塗工層」、「基材層」及び「表面処理フィルム」の用語の意味についての検討結果を踏まえて、本件発明1と甲2発明12を対比する。
(ア) 基材層
a 甲2発明12の「光学フィルム」における「セルロースアセテートフィルム」は、「一方の表面に」「ハードコート層を形成し[ている]」ことから、本件発明1の「基材層」と同じ機能を有する。
b そして、甲2発明12の「保護フィルムA」の膜厚は「10μm」であるから、本件発明1と甲2発明12は、「厚みが20μm未満である基材層」を備える点において共通する。
(イ) 塗工層
a 甲2発明12の「光学フィルム」における「ハードコート層」は、本件発明1の「塗工層」に相当する。
b そして、甲2発明12において、「セルロースアセテートフィルムの一方の表面にハードコート層が形成され[る]」ことは、本件発明1において「塗工層」が「基材層表面に設けられ[る]」ことに相当する。
c また、甲2発明12において、「ハードコート層」の膜厚は「5μm」であるから、甲2発明12の「ハードコート層」と本件発明1の「塗工層」は、「厚みは、5μm以下であ[る]」点において一致する。
d 以上を踏まえると、本件発明1と甲2発明12は、「基材層表面に設けられた塗工層」を有し、「前記塗工層の厚みは、5μm以下である」点において一致する。
(ウ) 表面処理フィルム
a 甲2発明12の「光学フィルム」が第1端部の領域を有することは明らかである。
b そうすると、甲2発明12の「光学フィルム」は、本件発明1の「基材層」、「塗工層」及び「第1端部」を有するものであるから、本件発明1の「表面処理フィルム」に相当するといえる。
c したがって、甲2発明12と本件発明1は、「第1端部を有する表面処理フィルム」の発明である点において一致する。
イ 本件発明1と甲2発明12の一致点及び相違点
前記本件発明1と甲2発明12の対比分析の結果をまとめると、本件発明1と甲2発明12の一致点及び相違点は、次の(ア)及び(イ)に示すとおりである。
(ア) 一致点1B
「厚みが20μm未満である基材層と、
前記基材層表面に設けられた塗工層と、
第1端部と、を有し、
前記塗工層の厚みは、5μm以下である、
表面処理フィルム」である点。
(イ) 相違点1B
本件発明1においては、
「第1端部」が、「前記基材層表面に前記塗工層が設けられていない未塗工領域を含み、前記未塗工領域における前記基材層の端から前記塗工層の端までの距離は、5.5mm以上50mm以下であ[り]」、
「基材層」が「環状オレフィン樹脂フィルムであ[り]」、(以下「追加相違点1B」という。)
「以下の[引裂き強度の測定]に記載の方法により測定される温度23℃、相対湿度55%における引裂き強度が1.7N以上であ[る]」のに対して、
甲2発明12においては、
前記基材層表面に前記塗工層が設けられていない未塗工領域を含むのか否か不明であり、
[引裂き強度の測定]に記載の方法により測定される温度23℃、相対湿度55%における引裂き強度が1.7N以上であるのか否か不明である点。
ウ 判断
事案に鑑みて、相違点1Bにおける「追加相違点1B」について検討する。
(ア) 甲2の【0008】には、「ヒンダードアミンを添加した薄膜のセルロースエステルフィルムを保護フィルムとし、当該保護フィルムと偏光子とを紫外線硬化型接着剤を用いて接着してなる偏光板において、保護フィルムであるセルロースエステルフィルムと偏光子との接着性、及び、偏光板の平面性を改善する手段を提供することを目的とする。」と記載されているように、甲2発明12は、セルロースエステルフィルムであるセルロースアセテートフィルムを保護フィルムとすることを前提とする発明であると認められる。
(イ) そうすると、甲2発明12に触れた当業者がセルロースエステルフィルムであるセルロースアセテートフィルムに代えて環状オレフィン樹脂フィルムを採用する発想に至る動機付けがあるとはいえない。
(ウ) そして、甲7には「基材層は、環状オレフィン樹脂フィルム」であることは記載も示唆もされていない。
(エ) したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明12及び甲7技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 甲2発明13に基づく本件発明1の想到容易性について
本件発明1と甲2発明13を対比すると、両者の一致点及び相違点は、それぞれ前記イ(ア)及びイ(イ)において認定した一致点1B及び相違点1Bと同一である。
そうすると、前記ウにおいて相違点1Bについて検討したのと同様の理由により、本件発明1は甲2発明13及び甲7に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない。
オ 特許異議申立人の主張について
(ア) 特許異議申立人は、本件特許明細書には環状オレフィン樹脂フィルムを用いることによる技術的意味、他の材料との比較等は記載されていないから当該相違点は当業者が適宜採用し得る設計的事項にすぎない旨主張している。
(イ) しかしながら、甲2発明12、13において環状オレフィン樹脂フィルムを採用する動機付けがないことは前記ウで検討したとおりである。
(ウ) よって、特許異議申立人の主張は、前記ウの結論を左右するものではない。
カ 本件発明1についての小括
以上、ア~オに検討のとおりであるから、本件発明1は、甲2発明12及び甲7に記載された技術的事項、又は、甲2発明13及び甲7に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3) 本件発明2、3、5~7について
本件発明2、3,5~7は、本件発明1の構成を全て含むものであるから、上記(2)に示した理由と同様の理由により、本件発明2、3、5~7は、甲2発明12及び甲7に記載された技術的事項、又は、甲2発明13及び甲7に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
4 取消理由2(明確性要件違反)について
(1) 判断
本件訂正により、請求項1に記載された「引裂き強度」の定義が本件特許明細書の【0083】、【0084】及び図3に記載される測定方法による引裂き強度であることが特定された。
したがって、訂正後の請求項1に係る発明は明確である。
(2) 特許異議申立人の主張について
(ア) 特許異議申立人は、本件発明1は、引裂き強度が、サンプル片の取付け辺を含む端部が裂けたときに現れるピークの値を測定することで得られると特定しているが、当該「ピーク」がどの時点で得られるのか不明確である旨主張している。
(イ) しかしながら、本件発明1には、「2組のリードテープ群のうちの一方の組を、サンプル片31の平面を基準として一方側に、2組のリードテープ群のうちの他方の組を、サンプル片の平面を基準として他方側になるように、サンプル片の平面を基準にして互いに反対の方向(サンプル片の平面を基準にして上下方向)に速度300mm/minで引っ張る180°引っ張り試験を行い、サンプル片の取付け辺を含む端部が裂けたときに現れるピークの値(力の大きさ)を測定する。」と記載されているように「サンプル片の取付け辺を含む端部が裂けたときに現れるピーク」であることは明確である。
(ウ) したがって、上記特許異議申立人の主張は採用できない。
第5 特許異議申立人が申立てた理由について
1 特許異議申立理由の概要及び証拠方法
特許異議申立人は、概略以下の申立理由1~6に示す理由により、本件特許の請求項1~7に係る特許は取り消すべきものである旨主張する。
(1) 申立理由1
本件特許の請求項1~7に係る発明は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~7に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
(2) 申立理由2
本件特許の請求項1~7に係る発明は、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~7に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
(3) 申立理由3
本件特許の請求項1~7に係る発明は、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~7に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
(4) 申立理由4
本件特許は、下記ア~ウに示す理由(以下、それぞれ「申立理由4-1」~「申立理由4-3」までという。)のとおり、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記
ア 申立理由4-1
請求項1は、「温度23℃、相対湿度55%における引裂き強度が1.7N以上である」と特定しているが、測定方法が不明確である。
イ 申立理由4-2
請求項1は、「引裂き強度が1.7N以上」「5.5mm以上50mm以下」と特定しているが、本件発明の詳細な説明の表1では未塗工領域距離Lと引裂き強度が相関しておらず、「引裂き強度が1.7N以上」の技術的意味が不明確である。また、未塗工領域Lを「5.5mm以上50mm以下」と特定しているがその技術的意味が不明確である。
ウ 申立理由4-3
請求項3は、「温度23℃、相対湿度55%において、前記表面処理フィルムの前記塗工層に100個のクロスハッチを形成して行うクロスハッチ試験により、前記基材層上に90個以上の前記クロスハッチが残る」と特定しているが、当該発明特定事項は課題を記載したものにすぎず、当該課題を達成するための手段が欠如していることが明らかである。
(5) 申立理由5
本件特許は、下記ア~エに示す理由(以下、それぞれ「申立理由5-1」~「申立理由5-4」までという。)のとおり、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記
ア 申立理由5-1
一般的に、引裂き強度は、JIS K7128に基づいて測定されるものと解釈されるが、本件発明の詳細な説明には全く異なる測定方法が記載されており、請求項1における「引裂き強度」は本件発明の詳細な説明に記載されたものでない。
イ 申立理由5-2
請求項1には、「厚みが20μm未満である基材層」と特定しているが、本件発明の詳細な説明には、基材層の厚みが13μmの例しかなく(段落85、表1)、例えば、厚みが1μmの場合に表1の引裂き強度が得られるとは到底考えられない。また、基材層の厚みが1μmで塗工層の厚みが5μmの場合、塗工層の引裂き強度が相対的に大きくなり、表1とは全く異なる結果になると考えられる。
ウ 申立理由5-3
請求項1は基材層の材料を特定していないが、発明の詳細な説明には、環状オレフィン樹脂フィルムを用いて評価したことしか記載されておらず、環状オレフィン樹脂フィルムであることを特定していない請求項1は、発明の課題を達成しえない無数の態様を包含している。
エ 申立理由5-4
請求項1は、「引裂き強度が1.7N以上」と特定しているが、引裂き強度には塗工層の機能、材料、厚みが大きく影響するものと考えられる。これに対して、本件発明の詳細な説明には、塗工層が「紫外線硬化型樹脂を含むアクリル系樹脂組成物」であることが記載されているのみであり、その機能、具体的材料、厚みが記載されておらず、表1の評価に用いられた機能、材料、厚みと異なる塗工層の場合に表1の引裂き強度は得られない。例えば、塗工層の厚みが0.5μmの場合に、実施例4、5の引裂き強度が得られるとは到底考えられない。
(6) 申立理由6
本件特許は、下記ア~カに示す理由(以下、それぞれ「申立理由6-1」~「申立理由6-4」までという。)のとおり、発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記
ア 申立理由6-1
請求項1には、「厚みが20μm未満である基材層」、「前記塗工層の厚みは、5μm以下」と特定しているが、本件発明の詳細な説明には、基材層の厚みが13μmの1例しかなく(段落85、表1)、塗工層の厚みについてはいかなる厚みで評価したのか記載がない。
また、基材層及び塗工層の材料は、引裂き強度に大きく影響を与えると考えられるが、本件発明の詳細な説明には、具体的材料について説明されていないから、当業者に過度な試行錯誤を強いることになる。
イ 申立理由6-2-1
本件発明の詳細な説明には、引裂き強度の技術的意味が説明されていない。
ウ 申立理由6-2-2
請求項1における「引裂き強度」について、本件発明の詳細な説明には、リードテープの寸法が50mm×25mmとも50mm×20mmとも記載されており、いずれが正しいのか不明瞭である(段落83)。
エ 申立理由6-2-3
請求項1における「引裂き強度」について、本件発明の詳細な説明は、「一方の端から10mmの長さの範囲がサンプル編31上に配置されるように、サンプル編31に取付けた。」と記載されているが、以下の点が不明瞭である。
・「一方の端から10mmの長さ」(段落83)とは辺33から10mmの範囲の意味と解されるが、未塗工領域が10mm以上の場合、未塗工領域及び塗工領域に跨がってリードテープを貼り付けることができない。
・サンプル片31のサイズが50mm×70mm、リードテープのサイズが20mm×50mmと記載されているが(段落83)、図3における両者のサイズ比と異なっている。
オ 申立理由6-3
請求項3には、「温度23℃、相対湿度55%において、前記表面処理フィルムの前記塗工層に100個のクロスハッチを形成して行うクロスハッチ試験により、前記基材層上に90個以上の前記クロスハッチが残る」と特定しているが、当該発明特定事項は課題を記載したものにすぎず、発明の詳細な説明には当該課題を達成するための手段が、当業者が実施できる程度に記載されているといえない。
カ 申立理由6-4
請求項4は「基材層は、環状オレフィン樹脂フィルムである」と特定し、本件発明の詳細な説明の実施例にも環状オレフィン樹脂フィルムを用いたことが記載されているが(段落79)、環状オレフィン樹脂フィルムにも多くの種類の材料が存在し、どの種類の環状オレフィン樹脂フィルムを用いれば表1の特定が得られるのか、当業者が実施できる程度に説明されていない。
(7) 証拠方法
特許異議申立人は、上記申立理由1~3の主張を裏付ける証拠として、次の甲第1~10号証を提出した。
ア 甲第1号証 :特開2015-61754号公報
イ 甲第2号証 :特開2015-94823号公報
ウ 甲第3号証 :特開2018-132665号公報
エ 甲第4号証 :特開2009-51922号公報
オ 甲第5号証 :再公表特許WO2018/235610号
カ 甲第6号証 :特開2016-71351号公報
キ 甲第7号証 :特開2013-130887号公報
ク 甲第8号証 :特開2006-212549号公報
ケ 甲第9号証 :特開2015-99284号公報
コ 甲第10号証 :特開2016-189028号公報
2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
上記1において示した特許異議申立理由のうち、申立理由1、申立理由2、申立理由4-1以外の理由については、令和6年3月19日付け取消理由通知において採用していない。
取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由についての当審の判断は以下の(1)及び(2)とおりである。
(1) 甲号証に記載された発明の認定等
ア 甲第3号証
(ア) 甲第3号証に記載された事項
甲3には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に用いる箇所を示す(以下同様である。)。
a 【0001】~【0019】
「【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部材に用いられるハードコートフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば液晶表示装置(LCD)等の液晶ディスプレイの表示面には、取り扱い時に傷が付いて視認性が低下しないように耐擦傷性を付与することが要求されている。そのため、基材フィルムにハードコート層を設けたハードコートフィルムを利用して、ディスプレイの表示面の耐擦傷性を付与することが一般的に行われている。近年タッチパネルの普及により、この様な光学部材に用いるハードコートフィルムに対する機能的要求はさらに高まっている。
【0003】
ところで、シクロオレフィンフィルムは、透明性、耐熱性、寸法安定性、低吸湿性、低複屈折性、及び光学的等方性に優れるため、この様な光学部材用途への利用が期待されており、このシクロオレフィンフィルム上にハードコート層を設けることが提案されている。
【0004】
光学部材用途にシクロオレフィンフィルムを用いる場合には、その他の樹脂フィルムと同様、紫外線による液晶の劣化を防止する目的でシクロオレフィン樹脂原料と紫外線吸収剤とを混合した混合物を溶融押し出し法により製膜された紫外線吸収剤が含まれているシクロオレフィンフィルムが一般に使用されている。
【0005】
一方、近年液晶表示装置の薄型化により、光学部材用途のフィルムについても薄膜化(たとえば膜厚30μm以下)が期待されているが、そのような薄膜フィルムに紫外線吸収剤が含まれていると製膜時に紫外線吸収剤がブリードアウトし易く、透明性の低下、フィルム黄変、また柔軟性の低下による加工適性の低下等の問題があることが知られている。
【0006】
従って、光学部材用途の場合、従来の膜厚が30μm以下のシクロオレフィンフィルムについては、紫外線吸収剤が含まれていないか、または紫外線吸収剤が含まれていてもその含有量を抑えたものであって十分な紫外線吸収性能を有するフィルムは得られていなかった。
【0007】
そのため、このような紫外線吸収性能の低いシクロオレフィンフィルムを用いてハードコートフィルムを作製する場合には、シクロオレフィンフィルム上に電離放射線硬化型樹脂と紫外線吸収剤とを含む混合物からなるハードコート層を設けることにより紫外線吸収性を付与する方法が従来提案されている(例えば特許文献1参照)。
…(中略)…
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示されているハードコートフィルムでは、紫外線吸収性は得られるものの、未だ密着性、耐久性が十分ではなく、加工性(カールの発生)や黄変による視認性の悪化など、課題の多いものであった。
【0010】
そこで、本発明は、厚さ30μm以下の薄膜のシクロオレフィンフィルムを基材として用い、ハード性(表面硬度)、密着性、耐久性(特に耐光性、耐熱性、耐湿熱性など)、加工性(カール特性)、光学特性(ヘイズ、透明性など)、視認性(b*値)にも優れるハードコートフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、以下の構成を有することにより上記課題を解決できることを見出した。
すなわち、本発明は以下の構成を有するものである。
第1の発明は、厚さ30μm以下のシクロオレフィンフィルムの少なくとも片面に、ポリオレフィン系樹脂とスチレンアクリル系樹脂との混合物を含有する易接着層を介し、電離放射線硬化型樹脂を含有するハードコート層が積層され、且つ下記条件(A)及び(B)を満たすことを特徴とするハードコートフィルムである。
(A)b*値が1.5以下である。
(B)前記ハードコートフィルムに対し、温度43度、湿度50%RHの環境下で、照射照度500W/m2とし、照射時間100時間の紫外線を照射した後に、JIS-K5600-5-6のクロスカット法により測定される前記ハードコート層の残存率が90%以上である。
…(中略)…
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、厚さ30μm以下の薄膜のシクロオレフィンフィルムを基材として用い光学部材用途のハードコートフィルムを薄膜化でき、かつ、ハード性(表面硬度)、密着性、耐久性(特に耐光性、耐熱性、耐湿熱性など)、加工性(カール特性)、光学特性(ヘイズ、透明性など)、視認性(b*値)にも優れるハードコートフィルムを得ることができる。」
b 【0022】~【0023】、【図1】
「【0022】
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係るハードコートフィルム10は、基材である厚さ30μm以下のシクロオレフィンフィルム1の少なくとも片面に、ポリオレフィン系樹脂とスチレンアクリル系樹脂との混合物を含有する易接着層2を介し、電離放射線硬化型樹脂を含有するハードコート層3が積層されており、且つ当該ハードコートフィルム10は下記条件(A)及び(B)を満たすことを特徴とするものである。
(A)b*値が1.5以下である。
(B)上記ハードコートフィルムに対し、温度43度、湿度50%RHの環境下で、照射照度500W/m2とし、照射時間100時間の紫外線を照射した後に、JIS-K5600-5-6のクロスカット法により測定される前記ハードコート層の残存率が90%以上である。
以下、このハードコートフィルム10の構成を詳しく説明する。」
「【図1】
[図:0001419317000019.jpg]
」
「【0023】
[基材フィルム]
まず、上記ハードコートフィルム10の基材フィルムについて説明する。
本発明において、ハードコートフィルムの基材フィルムとしては、透明性、耐熱性、寸法安定性、低吸湿性、低複屈折性、及び光学的等方性等に優れるシクロオレフィンフィルム1を用いることを特徴とする。具体的には、シクロオレフィン類単位がポリマー骨格中に交互に又はランダムに重合し分子構造中に脂環構造を有するものであり、ノルボルネン系化合物、単環の環状オレフィン、環状共役ジエンおよびビニル脂環式炭化水素から選択される少なくとも一種の化合物を含んでなる共重合体であるシクロオレフィンコポリマーフィルム又はシクロオレフィンポリマーフィルムが対象となり何れかを適宜選択し使用できる。」
c 【0028】~【0041】
「【0028】
[易接着層]
次に、上記ハードコートフィルム10の易接着層2について説明する。
本発明において、上記易接着層2は、ポリオレフィン系樹脂とスチレンアクリル系樹脂との混合物を含有する層である。また、上記易接着層2はさらに紫外線吸収剤を含有することができる。つまり、上記易接着層は、ポリオレフィン系樹脂とスチレンアクリル系樹脂と紫外線吸収剤とを含有した混合物層であってもよい。
【0029】
本発明において、上記易接着層2に用いられるポリオレフィン系樹脂は、シクロオレフィンフィルム1とハードコート層3との密着性の付与を目的に配合する樹脂である。本発明者らは、シクロオレフィンフィルムとハードコート層の双方に対し密着性の優れる易接着層用樹脂について鋭意検討を行った結果、柔軟性に優れるポリオレフィン系樹脂が適することを見出した。
【0030】
本発明における上記易接着層2に用いられるポリオレフィン系樹脂は特に限定されるものではないが、基材(シクロオレフィンフィルム)との密着性に優れるものとしてエチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体等の2種以上のモノマーで共重合体を構成するものが好ましく、特に共重合体中にプロピレンモノマーを含むものが好ましい。また、その分子量についても特に限定されるものではないが、重量平均分子量10,000~200,000の範囲にあるものが、柔軟性と密着性のバランスの点で好ましい。その様なポリオレフィン系樹脂としては、例えば、市販されているユニストール(商品名:三井化学株式会社製)、サーフレン(商品名:三菱化学株式会社製)、アローベース(商品名:ユニチカ株式会社製)、アウローレン(商品名:日本製紙株式会社製)等が挙げられる。
【0031】
なお、このポリオレフィン系樹脂は、柔軟性に優れる樹脂であるため、易接着層を形成しフィルムを巻き取った際にフィルム面同士が圧着し易い問題点がある。そのため、フィルム面同士のブロッキング防止の観点から易接着層へ高硬度な樹脂や無機あるいは有機微粒子の配合、或いはシクロオレフィンフィルムの裏面に保護フィルムの貼着等による圧着防止を施すことが好ましい。
…(中略)…
【0034】
また、本発明において、上記易接着層2に含有されるスチレンアクリル系樹脂は、構成単位にアクリルモノマー及びスチレンモノマーを交互に、又はランダムに含んでなるポリマーである。このスチレンアクリル系樹脂は、ハードコート層が形成されてないシクロオレフィンフィルム裏面の保護フィルムと易接着層との圧着防止、及び易接着層とハードコート層との収縮差を少なくし、耐熱条件下におけるクラック発生の防止を目的に配合する樹脂であるため、比較的硬く伸びの少ない樹脂であることが要求される。本発明において、目安としてはガラス転移温度(Tg)が50℃以上である樹脂の使用が望ましい。その様なスチレンアクリル系樹脂としては、例えば、市販されているARUFON樹脂(商品名:東亜合成株式会社製)や、アクリット樹脂(商品名:大成ファインケミカル株式会社製)等が挙げられる。
…(中略)…
【0041】
本発明における上記易接着層2の塗膜厚みは、特に制約されるわけではないが、シクロオレフィンフィルム及びハードコート層との密着性、或いはハードコート層の鉛筆硬度などに悪影響を及ぼさない範囲の0.2μm~5.0μmの範囲が好適である。なお、易接着層の塗膜厚みは、マイクロメーターで実測することにより測定可能である。
上記易接着層2の塗膜厚みが0.2μm未満では、ハードコート層との密着性の低下や、紫外線吸収剤を易接着層に含有する場合、目標の紫外線吸収性が得られ難くなるため好ましくない。一方、上記易接着層2の塗膜厚みが5.0μmを超えると、ハードコート層の下層に柔軟な易接着層の塗工量が多く形成されることになり、ハードコートフィルムの鉛筆硬度の低下(例えば、鉛筆硬度5Bから鉛筆硬度6Bに低下)や、耐熱条件下(例えば、温度100℃のオーブン中に5分間保存)においてクラックが発生し易くなるため好ましくない。」
d 【0078】~【0080】
「【0078】
[実施例1]
<易接着層塗料の調製>
まず、スチレンアクリル系樹脂「ARUFON UG-4070(商品名)」(固形分100%、東亜合成株式会社製、ガラス転移温度58℃)40部を、攪拌機を用いて酢酸エチル160部中へ攪拌しながら少量ずつ添加し樹脂溶解を行い濃度20%の溶解液を作製した。
次いで、ポリオレフィン系樹脂「サーフレンP-1000(商品名)」(固形分20%、三菱化学株式会社製)85部と上記のスチレンアクリル系樹脂「ARUFON UG-4070(商品名)」(固形分20%)15部とを配合し、酢酸ブチル/トルエン=85/15(重量%)にて固形分濃度10%となるまで希釈し易接着層塗料を調製した。
【0079】
<ハードコート層塗料の調製>
ウレタンアクリレート系紫外線硬化型樹脂「ARTRESIN UN-908(商品名)」(固形分100%、(メタ)アクリロイルオキシ基数:9、重量平均分子量:3600、根上工業株式会社製)100部を主剤とし、TINUVIN 460(トリアジン系紫外線吸収剤、BASF社製)10部、イルガキュア184(光重合開始剤、BASF社製)3.5部と、TINUVIN 292(ヒンダードアミン系光安定化剤、BASF社製)2.5部と、レベリング剤RS75(フッ素系レベリング剤、DIC株式会社製)0.3部を酢酸ブチル/n-プロピルアルコール=50/50(重量部)で紫外線硬化型樹脂の塗料中の固形分濃度が35%となるまで希釈し十分攪拌してハードコート層塗料を調製した。
なお、該ハードコート層塗料を用いて、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に、紫外線光量100mJ/cm2で硬化させた電離放射線硬化型樹脂からなるハードコート層を2μm厚の塗膜となるよう形成させたフィルムを作製する。次に、当該フィルムから幅15mm×長さ150mmの試験片を作製し、温度23℃、湿度50%RHの環境下で、当該試験片を引張速度50mm/分にて引張試験を行った際の、上記塗膜にクラックが発生するまでの伸び率は18.3%であった。
【0080】
<ハードコートフィルムの作製>
シクロオレフィンフィルムとして厚さ13μmのゼオノアフィルムZF14(日本ゼオン株式会社製)の片面に上記の易接着層塗料をバーコーターを用いて塗工し、90℃の乾燥炉で1分間熱風乾燥させ乾燥固化し、塗膜厚み2.0μmの易接着層を形成させ、易接着層塗布フィルムを得た。
次に、その易接着層塗布フィルムの易接着層上に、上記のハードコート層塗料を、バーコーターを用いて塗工し、80℃の乾燥炉で1分間熱風乾燥させ、塗膜厚み2.5μmの塗工層を形成した。これを、塗工面より60mmの高さにセットされたUV照射装置を用い、UV照射量150mJ/cm2にて硬化させてハードコート層を形成し、本実施例のハードコートフィルムを作製した。」
e 【0103】
「【0103】
【表1】
[図:0001419317000020.jpg]
」
(イ) 甲3発明の認定
前記(ア)において摘記した事項を総合すると、甲第3号証には、次のとおりの発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
[甲3発明]
「ハードコートフィルムの基材フィルムとしては、透明性、耐熱性、寸法安定性、低吸湿性、低複屈折性、及び光学的等方性等に優れるシクロオレフィンフィルム1を用い、(【0023】)
シクロオレフィンフィルムとして厚さ13μmのゼオノアフィルムZF14の片面に易接着層塗料をバーコーターを用いて塗工し、90℃の乾燥炉で1分間熱風乾燥させ乾燥固化し、塗膜厚み2.0μmの易接着層を形成させ、易接着層塗布フィルムを得て、
その易接着層塗布フィルムの易接着層上に、ハードコート層塗料を、バーコーターを用いて塗工し、80℃の乾燥炉で1分間熱風乾燥させ、塗膜厚み2.5μmの塗工層を形成し、これを、塗工面より60mmの高さにセットされたUV照射装置を用い、UV照射量150mJ/cm2にて硬化させてハードコート層を形成したハードコートフィルム。(【0080】)」
(2) 当審の判断
ア 申立理由3(甲3に基づく進歩性欠如)について
(ア) 本件発明1について
a 本件発明1と甲3発明の対比
本件発明1と甲3発明を対比する。
(a) 甲3発明の「ハードコートフィルム」は「ハードコート層」を有し、前記第4の2(2)ア(ア)よりハードコート特性の機能を有するフィルムは、「表面処理フィルム」といえることから、本件発明1の「表面処理フィルム」に相当する。
(b) 甲3発明の「シクロオレフィンフィルム」は、本件発明1の「環状オレフィン樹脂フィルム」に相当し、当該「シクロオレフィンフィルム」は、「厚さ13μm」の「基材フィルム」として用いられていることから、本件発明1の「厚みが20μm未満である基材層」に相当する。
(c) 甲3発明の「ハードコート層」は「シクロオレフィンフィルム」の「片面に易接着層を形成」させ、その「易接着層上」に「塗工層」として形成されていえ、前記(b)を踏まえると、「基材層」の上に「塗工層」を有するといえることから、本件発明1と甲3発明は、「基材層」の上に「塗工層」を有する点で共通する。
(d) 甲3発明は、「2.5μmの塗工層を形成し[ている]」ことから、本件発明の「塗工層の厚みは、5μm以下であ[る]」点で一致する。
b 一致点及び相違点
前記aの対比の結果をまとめると、本件発明1と甲3発明は、以下の一致点において一致し、以下の相違点において相違する。
(a)一致点
「厚みが20μm未満である基材層と、
前記基材層の上に設けられた塗工層と、を有し、
前記塗工層の厚みは、5μm以下であり、
前記基材層は、環状オレフィン樹脂フィルムである表面処理フィルム。」
(b) 相違点
<相違点1>
本件発明1においては、「塗工層」が「前記基材層表面に設けられ[ている]」のに対して、甲3発明は「塗工層」が「易接着剤層」を介して「基材層」の上に設けられている点。
<相違点2>
本件発明1においては、「以下の[引裂き強度の測定]に記載の方法により測定される温度23℃、相対湿度55%における引裂き強度が1.7N以上である第1端部と、を有し、
前記第1端部は、前記基材層表面に前記塗工層が設けられていない未塗工領域を含み、
前記未塗工領域における前記基材層の端から前記塗工層の端までの距離は、5.5mm以上50mm以下であ[る]」のに対して、甲3発明においては、そのような構成を有していない点。
c 相違点についての当審の判断
事案に鑑みて、相違点1について検討する。
(a) 相違点1は、本件発明1においては、「塗工層」が「前記基材層表面に設けられ[ている]」のに対して、甲3発明は「塗工層」が「易接着剤層」を介して「基材層」の上に設けられている点であるところ、甲3発明から「易接着剤層」を除くことが想到容易か検討する。
(b) 甲3発明は、厚さ30μm以下の薄膜のシクロオレフィンフィルムを基材として用い、ハード性(表面硬度)、密着性、耐久性(特に耐光性、耐熱性、耐湿熱性など)、加工性(カール特性)、光学特性(ヘイズ、透明性など)、視認性(b*値)にも優れるハードコートフィルムを提供することを目的としている(【0010】)。
(c) そして、甲3発明における「易接着剤層」については、【0029】に、次の記載がある。
「【0029】
本発明において、上記易接着層2に用いられるポリオレフィン系樹脂は、シクロオレフィンフィルム1とハードコート層3との密着性の付与を目的に配合する樹脂である。本発明者らは、シクロオレフィンフィルムとハードコート層の双方に対し密着性の優れる易接着層用樹脂について鋭意検討を行った結果、柔軟性に優れるポリオレフィン系樹脂が適することを見出した。
」
(d) すなわち、甲3発明における「易接着剤層」は、「基材層」であるシクロオレフィンフィルムと「塗工層」であるハードコート層の双方に対し密着性の優れる易接着層であるといえる。
(e) そうすると、甲3発明における「易接着剤層」は、課題解決のための必須の手段であって、これを除去することは、甲3発明を毀損してしまうこととなるから、阻害要因があるといえるため、想到容易とはいえない。
(f) したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
d 本件発明1についての小括
以上、a~cに検討のとおりであるから、本件発明1は、甲3発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ) 本件発明2、3、5~7について
本件発明2、3,5~7は、本件発明1の構成を全て含むものであるから、上記(ア)に示した理由と同様の理由により、本件発明2、3、5~7は、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ) 小括
以上のとおり、申立理由3は理由がない。
イ 申立理由4-2及び6-2-1(「引裂き強度」及び「未塗工領域」の技術的意義)について
(ア) 「引裂き強度」及び「未塗工領域」についてそれぞれ値を特定することの技術的意義が不明確であるという申立理由4-2及び6-2について、本件特許の明細書には、以下の記載がある。
「【0018】
第1端部10が未塗工領域21を含む場合、第1端部10は塗工領域22を含んでいてもよく、塗工領域22を含んでいなくてもよい。第1端部10が未塗工領域21を含む場合、第1端部10における基材層11の端から塗工層12の端までの距離Lは、0.6mm以上であることが好ましく、0.8mm以上であってもよく、1.0mm以上であってもよく、1.5mm以上であってもよい。距離Lの上限値は特に限定されないが、例えば50mm以下であってもよく、40mm以下であってもよい。(後略)」
「【0020】
表面処理フィルム1が第1端部10を有することにより、例えば後述する偏光板の製造にあたり表面処理フィルム1を搬送する際に、第1端部10が辺15に交差する方向に裂けるといった第1端部10の破断を抑制することができる。これに対し、上記した引裂き強度が0.5N未満である端部を有する表面処理フィルムでは、搬送時等において当該端部が破断しやすい。これは、基材層11の厚みが20μm未満である場合のように基材層11の厚みの小さい表面処理フィルム1では、衝撃を基材層11によって緩和しにくく、基材層11上の硬い塗工層12が損傷を受けやすいことにより、塗工領域22が脆くなっているためと推測される。脆くなった領域は、外力を受けたり変形したりすると破断しやすいと考えられる。表面処理フィルム1は搬送時等に、端部に外力を受けたり変形が生じたりしやすいため、上記した引裂き強度が0.5N以上である第1端部10を有する表面処理フィルム1では、第1端部10の破断を抑制することができると推測される。」
「【0083】
[引裂き強度の測定]
図3は、引裂き強度の測定に用いるサンプル片を模式的に示す平面図である。表面処理フィルムの未塗工領域が形成された端部において、表面処理フィルムの端、未塗工領域21、及び塗工領域22を含み、上記表面処理フィルムの端が位置する辺の延在する方向に50mm、当該辺に直交する方向に70mmの大きさとなるように、矩形状のサンプル片31を切り出した(図3)。サンプル片31の辺のうちの表面処理フィルムの上記辺を構成していた辺33、未塗工領域21、及び塗工領域22を跨ぐように、サンプル片31の一方の面に2つのリードテープ(パイオランクロス養生用テープ緑、50mm×25m、Y-09-GR、ダイヤテックス製)35,35を取り付けた(以下、リードテープを取付けた辺33を「取付け辺33」ということがある。)。各リードテープ35は、長さ50mm×幅20mmとし、サンプル片31の取付け辺33の中心において2つのリードテープ35,35の間に1mmの隙間が形成され、リードテープ35の幅方向が取付け辺33に平行となり、一方の端から10mmの長さの範囲がサンプル片31上に配置されるように、サンプル片31に取付けた。サンプル片31の他方の面にも、サンプル片31の一方の面に取付けたリードテープ35,35に重なるように、2つのリードテープを取付けた。これにより、サンプル片31の取付け辺33には、図3に示すように、サンプル片31の平面視において2つのリードテープ(サンプル片31の両面に取付けられたリードテープ)が重なったリードテープ群が2組、1mmの間隔(隙間)をあけて取付けられた状態となった。
【0084】
サンプル片31に取付けたリードテープ35の長さ方向の端部のうちの、サンプル片31に取付けた側とは反対側の端部をオートグラフ(「AGS-50NX」、島津製作所製)の上下チャックにそれぞれ固定した。その後、2組のリードテープ群のうちの一方の組を、サンプル片31の平面を基準として一方側に、2組のリードテープ群のうちの他方の組を、サンプル片31の平面を基準として他方側になるように、サンプル片31の平面を基準にして互いに反対の方向(サンプル片31の平面を基準にして上下方向)に速度300mm/minで引っ張る180°引っ張り試験を行い、サンプル片31の取付け辺33を含む端部が裂けたときに現れるピークの値(力の大きさ)を測定した。測定は、温度23℃、相対湿度55%の条件下で行った。この測定を5回行い、測定された力の大きさの平均値を引裂き強度とした。」
「【0088】
【表1】
[図:0001419317000021.jpg]
」
(イ) 前記(ア)に摘記した表1の結果では、「未塗工領域距離L」がある程度以上の大きさがある方が、引裂き強度が高いことが理解でき、未塗工領域距離Lが5.5mmのときの「引裂き強度」が1.7Nの値は、その許容値を定めるものとして選択した値であることは自明である。
(ウ) よって、この点について発明は当業者が実施できる程度に明確かつ十分であり、申立理由4-2及び6-2-1には理由がない。
ウ 申立理由4-3(クロスハッチ)について
(ア) 申立理由4-3は、クロスハッチの試験に関する発明特定事項は課題を記載したものにすぎず、当該課題を達成するための手段が欠如しているから特許請求の範囲の請求項3の記載が特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていないという申立理由であるところ、請求項3について、「温度23℃、相対湿度55%において、前記表面処理フィルムの前記塗工層に100個のクロスハッチを形成して行うクロスハッチ試験により、前記基材層上に90個以上の前記クロスハッチが残る」との記載は明確であり、当該クロスハッチ試験により所定の成績が得られることを技術手段としているのであって、課題を達成するための手段が欠如しているとはいえない。
(イ) よって、課題を達成するための手段が欠如しているから発明が不明確であるとする申立理由4-3には理由がない。
エ 申立理由5-1(「引裂き強度」)について
(ア) 本件訂正により、請求項1において「引裂き強度」の測定方法が本件発明の詳細な説明に記載されたものに特定された。
(イ) よって、「引裂き強度」の測定方法について、発明の詳細な説明には一般的とは異なる方法が記載されているため、「引裂き強度」が本件発明の詳細な説明に記載されたものでないという申立理由5-1は理由がない。
オ 申立理由5-2及び5-4(基材層及び塗工層の厚みなど)について
(ア) 本件特許の明細書の【0004】、【0005】には、次の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、表示装置に用いられる光学フィルムの厚みを小さくすることが求められている。これに伴い、表面処理フィルムに含まれる基材層の厚みも小さくすることが求められている。厚みの小さい基材層に塗布膜を形成した表面処理フィルムは、搬送時に端部が破断することがあった。
【0005】
本発明は、厚みの小さい基材層を有しながらも破断が抑制された表面処理フィルム、それを備えた偏光板、及び偏光板の製造方法の提供を目的とする。」
(イ) これらの記載から、本件発明は、厚みの小さい基材層に塗布膜を形成した表面処理フィルムの搬送時の端部の破断を抑制することを課題としていると認められる。
(ウ) そして、本件特許は、前記基材層表面に前記塗工層が設けられていない未塗工領域を含む第1端部について、「以下の[引裂き強度の測定]に記載の方法により測定される温度23℃、相対湿度55%における引裂き強度が1.7N以上である」、との特定があるのであるから、当該数値を満たさないものは本件特許の態様とはいえず、当該数値を満たす範囲において課題を解決できることは自明である。
(エ) そうすると、発明の課題を達成し得ない多数の態様を包含しているという申立理由5-2及び5-4には理由がない。
カ 申立理由5-3(環状オレフィン樹脂フィルム)について
(ア) 訂正後の請求項1において「基材層」が「環状オレフィン樹脂フィルム」であると特定された。
(イ) よって、環状オレフィン樹脂フィルムであることを特定していない請求項1は、発明の課題を達成しえない無数の態様を包含しているという申立理由5-3には理由がない。
キ 申立理由6-1(基材層及び塗工層)及び申立理由6-4(環状オレフィン)について
(ア) まず、基材層及び塗工層の厚みを変えて実験することにさしたる困難性は認められない。
(イ) そして、本件特許の明細書の【0020】には、次の記載がある。
「【0020】
表面処理フィルム1が第1端部10を有することにより、例えば後述する偏光板の製造にあたり表面処理フィルム1を搬送する際に、第1端部10が辺15に交差する方向に裂けるといった第1端部10の破断を抑制することができる。これに対し、上記した引裂き強度が0.5N未満である端部を有する表面処理フィルムでは、搬送時等において当該端部が破断しやすい。これは、基材層11の厚みが20μm未満である場合のように基材層11の厚みの小さい表面処理フィルム1では、衝撃を基材層11によって緩和しにくく、基材層11上の硬い塗工層12が損傷を受けやすいことにより、塗工領域22が脆くなっているためと推測される。脆くなった領域は、外力を受けたり変形したりすると破断しやすいと考えられる。表面処理フィルム1は搬送時等に、端部に外力を受けたり変形が生じたりしやすいため、上記した引裂き強度が0.5N以上である第1端部10を有する表面処理フィルム1では、第1端部10の破断を抑制することができると推測される。」
(ウ) 前記(イ)で摘記した記載を参酌すると、本件特許に係る発明においては、「[引裂き強度の測定]に記載の方法により測定される温度23℃、相対湿度55%における引裂き強度が1.7N以上である」ということについて、基材層及び塗工層の材料を工夫するというよりも、第1端部に未塗工領域を設けることにより、達成しているのであるから、基材層及び塗工層の具体的材料について説明されていないから、当業者に過度な試行錯誤を強いることになるとの特許異議申立人の主張は採用できず、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
(エ) よって、申立理由6-1及び6-4には理由がない。
ク 申立理由6-2-2及び6-2-3(「引裂き強度」)について
(ア) 申立理由6-2-2(「引裂き強度」)について
a 本件訂正により、明細書の【0083】において[引裂き強度の測定]における誤記が訂正され、「引裂き強度」についての本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は明瞭となった。
b よって、申立理由6-2-2には理由がない。
(イ) 申立理由6-2-3(「引裂き強度」)について
a まず、段落【0083】における「一方の端から10mmの長さ」について、未塗工領域距離Lが10mmを超える表面処理フィルムについては、各リードテープはサンプル片における未塗工領域部分のみを覆った状態で引裂き強度を測定することは自明である。
b そして、図3のサンプル片とリードテープのサイズ比について、図3が模式図であることは当業者にとって自明である。
c よって、申立理由6-2-3には理由がない。
(ウ) 以上の(ア)及び(イ)より、申立理由6-2-2及び申立理由6-2-3は理由がない。
ケ 申立理由6-3(クロスハッチ)について
(ア) 本件特許の【0087】には以下の記載があり、当業者が実施できる程度に記載されているといえる。
「【0087】
[クロスハッチ試験]
表面処理フィルムの塗工層面に、塗工層が貫通するように、1mm角のクロスハッチを100個(10×10個)刻んだ。このクロスハッチに、幅24mmの粘着テープ(セロハン粘着テープCT405AP-24、ニチバン製)を貼付した後、粘着テープをクロスハッチ面に対して45°の方向に引き剥がした。粘着テープの引き剥がし後に、基材層上に残っているクロスハッチの数を数えた。クロスハッチ試験は、温度23℃、相対湿度55%の条件下で行った。」
(イ) したがって、申立理由6-3は理由がない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知で通知した取消理由及び特許異議申立書で申し立てられた特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1~3、5~7に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件特許の請求項1~3、5~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件特許の請求項4は、前記第2のとおり、訂正により削除されたことにより、申立ての対象が存在しないものとなったため、請求項4に係る特許異議の申立てについては、特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700813