2019-700720
ポリオキシメチレン樹脂成形体及びその製造方法
- 審判番号
- 2019-700720
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-243415外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2019年09月11日
- 審決日
- 2020年06月19日
- 公報発行日
- 2020年09月25日
- 結論
- 訂正認容
- 分類
- P1651.113-YAA(B29C) / P1651.121-YAA(B29C) / P1651.537-YAA(B29C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
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結論
理由
目次 ▾ 20項目
第1 主な手続の経緯等
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特許第6490570号(設定登録時の請求項の数は14。以下、「本件特許」という。)は、平成27年12月14日を出願日とする特願2015-243415号に係るものであって、平成31年3月8日にその特許権の設定登録がされ、特許掲載公報が同年同月27日に発行され、その後、その特許に対し、令和1年9月11日に特許異議申立人 渋谷都(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし14)がされた。
当審において、令和1年11月27日付けで取消理由を通知したところ、特許権者は、令和2年1月29日に訂正請求書(当該訂正請求書による訂正を「本件訂正請求」という。)及び意見書を提出した。
当該訂正請求書に関し、当審から、令和2年3月3日付けで異議申立人に対して特許法第120条の5第5項に基づく通知をしたところ、異議申立人は、同年3月27日に意見書を提出した。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下の訂正事項1ないし3のとおりである。ここで、訂正事項1ないし3は、訂正前の請求項1~14の一群の請求項に係る訂正である。なお、下線は、訂正箇所に合議体が付したものである。
訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項1における、
「ポリオキシメチレン樹脂組成物からなるポリオキシメチレン樹脂成形体であって、」との記載と、
「当該ポリオキシメチレン樹脂成形体の最薄部の厚さが0.3mm以上8mm以下であり、」との記載の間に、
「前記ポリオキシメチレン樹脂組成物は、結晶化開始温度(Cp)が141℃以上146℃以下であり、」
との記載を挿入する。
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし8及び10ないし14についても同様に訂正する。
訂正事項2
訂正前の特許請求の範囲の請求項9を削除する。
訂正事項3
訂正前の特許請求の範囲の請求項10における、
「請求項1乃至9のいずれか一項に記載のポリオキシメチレン樹脂成形体」
という記載を、
「請求項1乃至8のいずれか一項に記載のポリオキシメチレン樹脂成形体」
に訂正する。
請求項10を直接又は間接的に引用する請求項11ないし14についても同様に訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
ア この訂正は、訂正前の請求項1に、「前記ポリオキシメチレン樹脂組成物は、結晶化開始温度(Cp)が141℃以上146℃以下であり、」との発明特定事項を追加して、ポリオキシメチレン樹脂組成物を限定するものであるから、請求項1に係る訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 請求項1に係る訂正事項1の訂正は、願書に添付した明細書の段落【0009】の〔9〕の記載及び訂正前の特許請求の範囲の請求項9の記載からみて、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
ウ そして、請求項1に係る訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
エ 訂正事項1の訂正に伴って、訂正される請求項2ないし8及び10ないし14についての訂正も同様である。
(2) 訂正事項2について
ア 訂正事項2は、訂正前の請求項9を削除するものであるから、請求項9に係る訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 請求項9に係る訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
ウ 請求項9に係る訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3) 訂正事項3について
ア 訂正事項3は、請求項10において引用する請求項から請求項9を除くものであるから、請求項10に係る訂正事項3は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 請求項10に係る訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
ウ 請求項10に係る訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
エ 訂正事項3の訂正に伴って、訂正される請求項11ないし14についての訂正も同様である。
3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1~14]について、訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるので、本件特許の請求項1ないし14に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明14」という。)は、令和2年1月29日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】ポリオキシメチレン樹脂(A)と、外観改良剤(B)と、を、含むポリオキシメチレン樹脂組成物からなるポリオキシメチレン樹脂成形体であって、前記ポリオキシメチレン樹脂組成物は、結晶化開始温度(Cp)が141℃以上146℃以下であり、続きを表示(全43行)当該ポリオキシメチレン樹脂成形体の最薄部の厚さが0.3mm以上8mm以下であり、当該ポリオキシメチレン樹脂成形体の意匠面にウェルド部を有し、当該ウェルド部とその周辺部分との色差ΔE*が10未満である、ポリオキシメチレン樹脂成形体。【請求項2】前記ウェルド部の幅が60μm未満である、請求項1に記載のポリオキシメチレン樹脂成形体。【請求項3】ボス穴を有する、請求項1又は2に記載のポリオキシメチレン樹脂成形体。【請求項4】0.5mm以上の厚み変化部を有する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のポリオキシメチレン樹脂成形体。【請求項5】前記意匠面に曲面を有する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のポリオキシメチレン樹脂成形体。【請求項6】前記意匠面にシボ面を有する、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のポリオキシメチレン樹脂成形体。【請求項7】前記ポリオキシメチレン樹脂組成物が、ヒンダードアミン系添加剤を、さらに含む、請求項1乃至6のいずれか一項に記載のポリオキシメチレン樹脂成形体。【請求項8】前記ポリオキシメチレン樹脂組成物は、メルトフローレート(MFR)が2.5g/10min以上35g/10min以下である、請求項1乃至7のいずれか一項に記載のポリオキシメチレン樹脂成形体。【請求項9】(削除)【請求項10】請求項1乃至8のいずれか一項に記載のポリオキシメチレン樹脂成形体の製造方法であって、ポリオキシメチレン樹脂(A)と、外観改良剤(B)と、を、含むポリオキシメチレン樹脂組成物を射出成形する工程を有する、ポリオキシメチレン樹脂成形体の製造方法。【請求項11】前記射出成形する工程において、多点ゲートで射出成形を行う、請求項10に記載のポリオキシメチレン樹脂成形体の製造方法。【請求項12】前記射出成形する工程において、溶融状態のポリオキシメチレン樹脂組成物のフローフロントが、射出成形機のゲートを通過する際の速度が600mm/sec以下である、請求項10又は11に記載のポリオキシメチレン樹脂成形体の製造方法。【請求項13】前記射出成形する工程において、ポリオキシメチレン樹脂成形体の意匠面を形成するために用いる金型の温度が95℃以上145℃以下である、請求項10乃至12のいずれか一項に記載のポリオキシメチレン樹脂成形体の製造方法。【請求項14】前記射出成形する工程において、射出成形時の保圧力が最大射出圧力(一次圧力)の80%以上で充填を行う、請求項10乃至13のいずれか一項に記載のポリオキシメチレン樹脂成形体の製造方法。」
第3 特許異議申立書に記載した理由の概要
異議申立人が主張する申立て理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(特許法第29条第1項第3号:甲1に基づく新規性)
本件特許の請求項1、2、7、8、10、11に係る発明は、下記の本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証に記載された発明であるから、本件特許の請求項1、2、7、8、10、11に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由2(特許法第29条第2項:甲1に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし14に係る発明は、下記の本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証の記載事項並びに周知の技術的事項に基づいて、その出願前にその発明の技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1ないし14に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
3 申立理由3(特許法第36条第6項第2号:明確性)
請求項1の「当該ウェルド部とその周辺部分との色差ΔE*が10未満である」は、明確でないから、本件特許の請求項1及びこれを引用する請求項2ないし14に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
4 証拠方法
なお、文献名等の表記は概略特許異議申立書の記載に従った。以下、順に「甲1」のようにいう。
参考文献1ないし3は、令和2年3月27日に異議申立人から提出された意見書に添付された文献である。
第4 取消理由の概要
令和1年11月27日付けで通知した取消理由は、概ね次のとおりである。
「【理由1】(新規性) 本件特許の請求項1、2、5、7、8、10、11、12及び14に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。【理由2】(進歩性) 本件特許の請求項1ないし8、10ないし14に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。記・・・1 【理由1】及び【理由2】(新規性及び進歩性)について(1) 刊行物等甲1、甲3・・・」
第5 取消理由についての判断
1 甲1及び3の記載事項
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(1) 甲1には、以下の記載がある。
ア 「【請求項1】ポリアセタールコポリマー100質量部と、ヒンダードアミン系安定剤0.01~5質量部と、15~50μmの体積平均粒子径を有するアルミニウム顔料であって、10μm以下の粒子径を有する粒子4~25体積%を含有する前記アルミニウム顔料0.1~10質量部と、を含むポリアセタール樹脂組成物。・・・【請求項6】請求項1~5のいずれか一項に記載のポリアセタール樹脂組成物を成形して得られる成形体。・・・【請求項8】シボ加工が施された意匠面を有する、請求項6又は7に記載の成形体。」
イ 「【0007】本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、見る角度による色調変化の小さい優れた金属光沢を有する成形体であって、ホルムアルデヒドの発生が抑制され、ウエルド性能に優れ、ポリアセタール樹脂が本来有する機械的特性を保持する成形体を安定して得ることができるポリアセタ-ル樹脂組成物及びその樹脂組成物を含む成形体を提供することを目的とする。・・・【発明の効果】【0010】本発明によれば、見る角度による色調変化の小さい優れた金属光沢を有する成形体であって、ホルムアルデヒドの発生が抑制され、ウエルド性能に優れ、ポリアセタール樹脂が本来有する機械的特性を保持する成形体を安定して得ることができるポリアセタール樹脂組成物及びその樹脂組成物を含む成形体を提供することができる。」
ウ 「【0075】[成形体の製造方法]本実施形態のポリアセタール樹脂組成物を用いた成形体の製造方法としては、公知の成形方法、例えば押出成形、射出成形、真空成形、ブロー成形、射出圧縮成形、加飾成形、ガスアシスト射出成形、発砲射出成形、低圧成形、超薄肉射出成形(超高速射出成形)、金型内複合成形(インサート成形、アウトサート成形)等の方法を用いることができる。特に、品位や生産安定性、経済性などの観点から、射出成形、射出圧縮成形、及びこれらと金型内複合成形とを組み合わせた成形方法が好ましい。」
エ 「【実施例】【0079】次に、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。【0080】続きを表示(全18行)(1)主要原材料[(A)ポリアセタールコポリマー]ポリアセタールコポリマーと各種添加剤とを含有したもの(以下、「調整ポリアセタールコポリマー」ともいう。)を、下記のようにして得た。【0081】熱媒を通すことのできるジャケット付セルフ・クリーニングタイプの二軸パドル型連続混合反応機(スクリュー径3インチ、L/D=10)の反応容器内を80℃に調整し、主モノマーとしてトリオキサンを2625g/時間、コモノマーとして1,3-ジオキソランを27~90g/時間の間の所定量、連鎖移動剤としてメチラールをスタティックミキサー(ノリタケ・カンパニー・リミテッド社製、T型・エレメント数21)を通して上記反応機の反応容器内に連続的にフィード(供給)した。重合触媒として三フッ化ホウ素ジ-n-ブチルエーテラートの1質量%シクロヘキサン溶液を用い、その触媒がトリオキサン1モルに対して2.0×10-5モルになるように、上記反応容器内に添加して重合を行い、重合フレークを得た。なお、連鎖移動剤の供給量は2~5g/時間とした。【0082】得られた重合フレークを細かく粉砕後、トリエチルアミン1%水溶液中に投入して撹拌を行い、重合触媒の失活を行った。その後、濾過、洗浄、乾燥を行い、粗ポリマーを得た。得られた粗ポリマー1質量部に対し、第4級アンモニウム化合物としてトリエチル(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム蟻酸塩を、窒素の量に換算して20ppmになるように添加し、均一に混合した後、それらを120℃で3時間乾燥して乾燥ポリマーを得た。【0083】この乾燥ポリマーをベント付きスクリュー型二軸押出機(プラスチック工業社製;商品名「BT-30」、L/D=44、設定温度200℃、回転数80rpm)の前段部分にトップフィーダーより投入し、乾燥ポリマー100質量部に対し水を0.5質量部添加して、平均滞留時間1分間でポリマー末端を安定化して減圧脱気を行った。次に二軸押出機の後段部分で、サイドフィーダーより、乾燥ポリマー100質量部に対して熱安定剤としてナイロン6-6(ポリアミド66)を0.05質量部及びステアリン酸カルシウムを0.05質量部加えて、平均滞留時間1分間で溶融混合した後、造粒を行った。これを80℃で3時間乾燥し、調整ポリアセタールコポリマー(a-1)~(a-4)を得た。原料投入から中間ペレット採取まで、できるだけ酸素の混入を避けて操作を行った。なお、下記(a-1)~(a-4)中、「コモノマー含有量」とは、ポリアセタールコポリマーにおいて、トリオキサン100モル%に対するコモノマーの含有量を示す。【0084】(a-1)コモノマー含有量:4.0モル%、MFR:9g/10分(ASTM D1238-57Eに準拠。以下同様。)(a-2)コモノマー含有量6.0モル%、MFR:9g/10分(a-3)コモノマー含有量1.4モル%、MFR:9g/10分(a-4)コモノマー含有量1.0モル%、MFR:9g/10分」
オ 「【0085】[(B)ヒンダードアミン系安定剤](b-1)ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート(b-2)1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジノールとβ,β,β’,β’-テトラメチル-3,9-(2,4,8,10-テトラオキサビス[5,5’]ウンデカン)ジエタノールとの縮合物」
カ 「【0096】[ウエルド外観(ウエルド性能)]下記実施例及び比較例で得られたペレットを、シリンダー温度200℃に設定された1オンス成形機(東洋機械金属社製、商品名「TI-30G」)を用いて、金型温度80℃の条件で成形して、成形体である直径60mmで厚さ5mmの歯車(3点ピンゲート)を得た。この成形体のウエルドを目視及び光学顕微鏡で観察した。○;ウエルドラインが細く目立たない。△;ウエルドラインが中程度で確認できる。×;ウエルドラインが太く明確に確認できる。【0097】[耐候性]上記「アルミ光沢、色目変化評価」と同様にして試験片を得た。次いで、スーパーキセノンウエザーメーター(商品名「XAL-2WL」、スガ試験機(株)製)を用いて、立ち上がり波長320nm、試料面光強度162w/m2(光強度制御300~400nm)、ブラックパネル温度89℃、明暗サイクルなしの条件で、試験片に光照射した。試験片表面にクラックが生じるまでの時間を測定した。」
キ 「【0107】【表1】」
(2) 甲3には、以下の記載がある。
ア 甲3の第1頁には、「精密射出成形機」として、メーカー及び形式の欄に、「東洋機械金属」及び「TI-30G」との記載がある。
2 甲1に記載された発明
甲1には、上記1(1)ア、イ、エ、オ、カ及びキより、ポリアセタールコポリマー、特に、トリオキサンと1,3-ジオキソランとのコポリマー(MFR:9g/10分)とアルミニウム顔料とヒンダードアミン系安定剤を含む樹脂組成物の成形体であって、直径60mmで厚さ5mmの歯車(3点ピンゲート)が記載されている。
また、上記1(1)ウには、成形体の製造方法として射出成形が記載され、また、実施例において、「1オンス成形機(東洋機械金属社製、商品名「TI-30G」)」を使用して歯車(3点ピンゲート)を成形することが記載されている。ここで、上記東洋機械金属社製、「TI-30G」は、甲3に記載されているように、射出成形機であり、また、ピンゲートが射出成形に用いられることは周知であることから、上記歯車が射出成形法により得られたものであることは、明らかである。
さらに、上記歯車は直径と厚さの記載があることから円盤状のものであって、側面部に凹凸(歯)が形成されているものである。すると、前記歯車形成用の金型設計としては、前記「円盤」の片面に対応する箇所であって、互いに均等である3か所の位置にピンゲートを設けるように設計することが技術常識である。そして、前記ピンゲートからキャビティに流入する溶融樹脂の3つの流れが合流する際に、ピンゲートからみて、「円盤」の反対側の片面の表面にウェルドが形成されることは自明である。
そして、上記1(1)カのとおり、上記歯車について、そのウェルドを目視及び光学顕微鏡で観察して、「○:ウエルドラインが細く目立たない。」等の評価をしており、また、上記1(1)キから明らかなように「ウエルド性能」が「○」であるもの、すなわち、ウェルドラインが細く目立たない歯車が得られている。
すると、甲1には、次のとおりの発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1発明>
「トリオキサン/1,3-ジオキソランコポリマー(MFR:9g/10分)とアルミニウム顔料とヒンダードアミン系安定剤を含む樹脂組成物を、金型温度80℃で射出成形して得た直径60mmで厚さ5mmの歯車(3点ピンゲート)であって、その表面について、目視及び光学顕微鏡で観察してウェルドラインが細く目立たない前記歯車。」
3 本件発明1について(甲1発明との対比、判断)
(1) 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明に係る「トリオキサン/1,3-ジオキソランコポリマー」は、本件発明1の「ポリオキシメチレン樹脂」に相当する。
また、本件発明1に係る「外観改良剤(B)」は、本件特許明細書段落0044を参照するに、無機/有機顔料、染料等であり、アルミニウム粉等の金属粉顔料を含むものである。したがって、甲1発明に係る「アルミニウム顔料」は、本件発明1の「外観改良剤(B)」に相当する。
そして、甲1発明に係る「直径60mmで厚さ5mmの歯車」は、その厚さが5mmであるのであるから、当然に、本件発明1の「樹脂成形体の最薄部の厚さが0.3mm以上8mm以下」であるものに相当する。
また、甲1発明に係る「歯車」は、その表面にウェルドラインが形成されるのであるから、本件発明1の「樹脂成形体の意匠面にウェルド部を有する」ものに相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明は、
「ポリオキシメチレン樹脂(A)と、外観改良剤(B)と、を、含むポリオキシメチレン樹脂組成物からなるポリオキシメチレン樹脂成形体であって、当該ポリオキシメチレン樹脂成形体の最薄部の厚さが0.3mm以上8mm以下であり、当該ポリオキシメチレン樹脂成形体の意匠面にウェルド部を有する、ポリオキシメチレン樹脂成形体。」
の点で一致し、以下の相違点で、相違する。
<相違点1>
ポリオキシメチレン樹脂に関し、本件発明1は、「結晶化開始温度(Cp)が141℃以上146℃以下」と特定するのに対し、甲1発明は、そのような特定をしていない点。
<相違点2>
本件発明1は、「当該ウェルド部とその周辺部分の色差△E*が10未満である」と特定しているが、甲1発明では、そのような特定をしていない点。
(2) 相違点についての判断
事案に鑑み、相違点1から検討する。
甲1発明の「トリオキサン/1,3-ジオキソランコポリマー」(ポリオキシメチレン樹脂)の結晶化開始温度(Cp)については、甲1には記載がない。また、異議申立人が特許異議申立書に添付したいずれの証拠にも、甲1発明の「トリオキサン/1,3-ジオキソランコポリマー」の結晶化開始温度が141℃以上146℃以下であることを示す証拠は提示されておらず、甲1のコポリマーの結晶化開始温度が141℃以上146℃以下にあるとは認められないから、相違点1は実質的な相違点である。
そして、本件発明1において、結晶化開始温度(Cp)が141℃以上146℃以下であるポリオキシメチレン樹脂を用いることで、「ポリオキシメチレン樹脂成形体の意匠性を改善し、実用上十分な生産性を維持し、耐久性を高める」(段落【0036】)とされ、実施例において、結晶化開始温度(Cp)が141℃以上146℃以下であるポリオキシメチレン樹脂を用いた成形体のウェルド周辺の色差が小さく、成形体が生産性、外観、強度、耐久性に優れることについて確認されている。
してみれば、甲1発明において、その「トリオキサン/1,3-ジオキソランコポリマー」(ポリオキシメチレン樹脂)の結晶化開始温度(Cp)を141℃以上146℃以下とすることが、想到容易ということはできない。
そして、本件発明1に係る上記相違点において、格別顕著な効果が奏されるものである。
なお、この判断は、参考文献1ないし3を踏まえても変わらない。
よって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、すなわち、甲1に記載された発明であるとはいえないし、また、甲1発明、すなわち、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
4 本件発明2ないし8及び10ないし14について(甲1発明との対比、判断)
本件発明2ないし8及び10ないし14は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1に記載されている発明特定事項を全て有するものであることから、本件発明1と同様に、甲1に記載された発明であるとはいえないし、また、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
5 まとめ
以上のとおり、上記取消理由には、理由がない。
第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立理由について
上記取消理由において、採用しなかった申立理由は、訂正前の請求項9に対する申立理由2(甲1に基づく進歩性)及び申立理由3(明確性)であるので、以下、検討する。
1 申立理由2について
本件訂正により、訂正前の請求項9は削除されたので、訂正前の請求項9に対する申立理由2は、理由がない。
2 申立理由3について
(1) 異議申立人の主張
異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲に関し、請求項1の「当該ウェルド部とその周辺部分との色差ΔE*が10未満である」は以下の理由で明確でないから、本件特許の請求項1ないし8及び10ないし14についての特許は取り消されるべきものである旨主張する。
「a 上記のとおり、請求項1には、「当該ウェルド部とその周辺部分との色差ΔE’が10未満である」と規定されている。そして、上記段落0063には、「ここでウェルド部とその周辺部分の色差とは、ウェルド部とウェルド部端部より100μm離れた箇所の色差をいう。」と記載され、「色差ΔE’」の測定部位が定義されている。b 次に、上記段落0063には、「またウェルド部の幅とは、この色目が変わっている部分をいい、具体的には、周辺部との色差ΔE’が、5以上の部分の幅をいう。」との記載がある。ここで、上記「ウェルド部の幅」とは、通常、帯状のウェルド部の2つの端部間の距離を意味すると解するのが自然であり、「この色目が変わっている部分」との記載とも矛盾するものではない。そして、上記「周辺部」とは「ウエルド部端部より100μm離れた箇所」を意味すると認める以外にない。そうすると、ここでは、上記「ウェルド部の幅」を定める際のウェルド部と前記「周辺部」乃至「周辺部分」との「色差ΔE’」について説明していると解され、更に、前記「色差ΔE’」は「5以上」と定義されている。c しかし、仮に、「ウェルド部」と「周辺部」乃至「周辺部分」との「色差ΔE’」が、例えば、5未満の「4」であった場合には、上記「ウェルド部の幅」を定めることができないこととなり、それは、すなわち、「ウェルド部端部」の位置をいかに確定するかが不明であるといえる。してみると、請求項1において、「ウェルド部とその周辺部分との色差ΔE’」を「10未満」とし、5未満の場合を含む以上、上記段落0063の記載事項(特に、「ウェルド部の幅」を定める基準の点)と整合していないことから、明確であるとはいえない。」
(2) 異議申立人の主張の検討
しかしながら、請求項1の「ウェルド部」と「周辺部」ないし「周辺部分」との「色差ΔE*」が5以上であったときには、本件明細書の段落【0024】に記載の定義どおりのものとして、「色差ΔE*」が特定できる一方で、「ウェルド部」と「周辺部」ないし「周辺部分」との「色差ΔE*」が5未満であったときには、ウェルド部端部を考慮することなく全て「当該ウェルド部とその周辺部分との色差ΔE*が10未満である」という条件を満足することになると理解できるから、請求項1の当該記載は明確であり、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たす。
したがって、異議申立人の申立理由3は、理由がない。
3 まとめ
以上のとおり、取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立理由には、理由がない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、特許第6490570号の請求項1ないし8及び10ないし14に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。さらに、他に本件請求項1ないし8及び10ないし14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、特許第6490570号の請求項9に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、請求項9に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2019-700720