2019-700467
粉末冶金用混合粉末及び焼結体の製造方法
- 審判番号
- 2019-700467
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2014-266266外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2019年06月11日
- 審決日
- 2020年01月06日
- 公報発行日
- 2020年04月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 分類
- P1651.113-YAA(B22F) / P1651.121-YAA(B22F) / P1651.536-YAA(B22F) / P1651.537-YAA(B22F) / P1651.832-YAA(B22F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第3項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
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結論
理由
目次 ▾ 14項目
第1 手続の経緯
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特許第6437309号の請求項1~6に係る特許についての出願は、平成26年12月26日の出願であって、平成30年11月22日にその特許権の設定登録がされ、同年12月12日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和元年6月11日に特許異議申立人豊田敦子(以下、「申立人」という。)は特許異議の申立てを行い、当審は、令和元年8月2日付けで取消理由を通知した。この取消理由通知に対して、特許権者は、同年10月4日に意見書の提出及び訂正の請求を行った。その訂正の請求に対して、申立人は同年11月14日に意見書を提出した。
第2 訂正の可否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求の請求の趣旨は、特許第6437309号の特許請求の範囲の記載を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正することを求めるというものであって、本件訂正請求による訂正の内容は、次の訂正事項1~4のとおりである。
なお、訂正事項1~3は、訂正前に引用関係を有する請求項1~5に対して、また、訂正事項4は、訂正前の請求項6に対して請求されたものであり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第3項及び第4項の規定に従うものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「主原料である鉄基粉末と任意成分として含有される副原料粉末からなる原料粉末と、前記原料粉末の表面に付着することで前記原料粉末を互いに結びつけるバインダーよりなる混合粉末と、前記混合粉末に0.01質量%以上0.7質量%以下で配合される潤滑剤を含んでなる粉末冶金用混合粉末であって、前記潤滑剤は、平均粒径が0.1μm以上3μm未満であり、融点を有さず、炭素原子を構成原子とする層状構造物を含み、常温(25℃)での流動度が25s/50g未満であることを特徴とする粉末冶金用混合粉末。」と記載されているのを、「主原料である鉄基粉末と任意成分として含有される副原料粉末からなる原料粉末と、前記原料粉末の表面に付着することで前記原料粉末を互いに結びつけるバインダーよりなる混合粉末と、前記混合粉末に0.01質量%以上0.7質量%以下で配合される潤滑剤を含んでなる粉末冶金用混合粉末であって、前記潤滑剤は、平均粒径が0.1μm以上3μm未満であり、融点を有さず、炭素原子を構成原子とする層状構造物を含み、前記バインダーが、融点が45℃以上90℃以下かつ190℃での加熱溶融流動性が2.8g/10分以上3.8g/10分以下のポリオレフィン、又は重量平均分子量が50万以下のアクリル樹脂を含み、常温(25℃)での流動度が20s/50g未満であることを特徴とする粉末冶金用混合粉末。」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2、3、5についても同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5に「前記バインダーが、前記ポリオレフィン及びアクリル樹脂を共に含み、前記アクリル樹脂のポリオレフィン100質量部に対する含有量が10質量部以上である請求項4に記載の粉末冶金用混合粉末。」と記載されているのを、「前記バインダーが、前記ポリオレフィン及びアクリル樹脂を共に含み、前記アクリル樹脂のポリオレフィン100質量部に対する含有量が10質量部以上である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の粉末冶金用混合粉末。」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6に「主原料である鉄基粉末と任意成分として含有される副原料粉末からなる原料粉末と、前記原料粉末の表面に付着することで前記原料粉末を互いに結びつけるバインダーよりなる混合粉末及び潤滑剤の混合により前記潤滑剤の配合量を0.01質量%以上0.7質量%以下として粉末冶金用混合粉末を得る工程と、前記粉末冶金用混合粉末を金型を用いて圧縮する工程と、前記圧縮工程により圧縮された圧粉体を焼結する工程とを備え、前記潤滑剤が、平均粒径が0.1μm以上3μm未満であり、融点を有さず、炭素原子を構成原子とする層状構造物を含み、前記粉末冶金用混合粉末の常温(25℃)での流動度が25s/50g未満であることを特徴とする焼結体の製造方法。」と記載されているのを、「主原料である鉄基粉末と任意成分として含有される副原料粉末からなる原料粉末と、前記原料粉末の表面に付着することで前記原料粉末を互いに結びつけるバインダーよりなる混合粉末及び潤滑剤の混合により前記潤滑剤の配合量を0.01質量%以上0.7質量%以下として粉末冶金用混合粉末を得る工程と、前記粉末冶金用混合粉末を金型を用いて圧縮する工程と、前記圧縮工程により圧縮された圧粉体を焼結する工程とを備え、前記潤滑剤が、平均粒径が0.1μm以上3μm未満であり、融点を有さず、炭素原子を構成原子とする層状構造物を含み、前記バインダーが、融点が45℃以上90℃以下かつ190℃での加熱溶融流動性が2.8g/10分以上3.8g/10分以下のポリオレフィン、又は重量平均分子量が50万以下のアクリル樹脂を含み、前記粉末冶金用混合粉末の常温(25℃)での流動度が20s/50g未満であることを特徴とする焼結体の製造方法。」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1において、訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項4の発明特定事項である、バインダーが、融点が45℃以上90℃以下かつ190℃での加熱溶融流動性が2.8g/10分以上3.8g/10分以下のポリオレフィン、又は重量平均分子量が50万以下のアクリル樹脂を含むことを特定し、さらに、粉末冶金用混合粉末の流動度について、「25s/50g未満」をより小さい値である「20s/50g未満」に特定するものであるところ、バインダーについて、訂正前の請求項4には、請求項1の粉末冶金用混合粉末において、「前記バインダーが、融点が45℃以上90℃以下かつ190℃での加熱溶融流動性が2.8g/10分以上3.8g/10分以下のポリオレフィン、又は重量平均分子量が50万以下のアクリル樹脂を含む」ことが記載され、また、本件明細書の【0078】には、粉末冶金用混合粉末の流動性が最も高いものに対する評価基準について「A:流動度が常温(25℃)で20s/50g未満」という記載がある。
そうすると、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項3について
訂正前の請求項5は訂正前の請求項4を引用し、訂正前の請求項4は訂正前の請求項1、請求項2又は請求項3を引用するものである。そして、上記(1)で述べたように、訂正後の請求項1、請求項2又は請求項3は、訂正前の請求項4の発明特定事項が特定され、さらに、減縮されたものであるところ、訂正事項3は、上記訂正事項2に係る請求項4の削除に伴って、訂正後の請求項5の引用請求項を、訂正後の請求項1、請求項2又は請求項3とするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項6において、バインダーが、融点が45℃以上90℃以下かつ190℃での加熱溶融流動性が2.8g/10分以上3.8g/10分以下のポリオレフィン、又は重量平均分子量が50万以下のアクリル樹脂を含むことを特定し、さらに、粉末冶金用混合粉末の流動度について、「25s/50g未満」をより小さい値である「20s/50g未満」に特定するものであるところ、バインダーについて、訂正前の請求項4には、請求項1の粉末冶金用混合粉末において、「前記バインダーが、融点が45℃以上90℃以下かつ190℃での加熱溶融流動性が2.8g/10分以上3.8g/10分以下のポリオレフィン、又は重量平均分子量が50万以下のアクリル樹脂を含む」ことが記載され、また、本件明細書の【0078】には、粉末冶金用混合粉末の流動性が最も高いものに対する評価基準について「A:流動度が常温(25℃)で20s/50g未満」という記載がある。
そうすると、訂正事項6は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(5)小括
上記のとおり、訂正事項1~4に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕、6について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1~6に係る発明(以下、「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】主原料である鉄基粉末と任意成分として含有される副原料粉末からなる原料粉末と、前記原料粉末の表面に付着することで前記原料粉末を互いに結びつけるバインダーよりなる混合粉末と、前記混合粉末に0.01質量%以上0.7質量%以下で配合される潤滑剤を含んでなる粉末冶金用混合粉末であって、前記潤滑剤は、平均粒径が0.1μm以上3μm未満であり、融点を有さず、炭素原子を構成原子とする層状構造物を含み、前記バインダーが、融点が45℃以上90℃以下かつ190℃での加熱溶融流動性が2.8g/10分以上3.8g/10分以下のポリオレフィン、又は重量平均分子量が50万以下のアクリル樹脂を含み、続きを表示(全20行)常温(25℃)での流動度が20s/50g未満であることを特徴とする粉末冶金用混合粉末。【請求項2】前記層状構造物が、メラミンシアヌレートである請求項1に記載の粉末冶金用混合粉末。【請求項3】前記潤滑剤が、アミド化合物をさらに含み、このアミド化合物の前記層状構造物100質量部に対する含有量が10質量部以上90質量部以下である請求項1又は請求項2に記載の粉末冶金用混合粉末。【請求項4】(削除)【請求項5】前記バインダーが、前記ポリオレフィン及びアクリル樹脂を共に含み、前記アクリル樹脂のポリオレフィン100質量部に対する含有量が10質量部以上である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の粉末冶金用混合粉末。【請求項6】主原料である鉄基粉末と任意成分として含有される副原料粉末からなる原料粉末と、前記原料粉末の表面に付着することで前記原料粉末を互いに結びつけるバインダーよりなる混合粉末及び潤滑剤の混合により前記潤滑剤の配合量を0.01質量%以上0.7質量%以下として粉末冶金用混合粉末を得る工程と、前記粉末冶金用混合粉末を金型を用いて圧縮する工程と、前記圧縮工程により圧縮された圧粉体を焼結する工程とを備え、前記潤滑剤が、平均粒径が0.1μm以上3μm未満であり、融点を有さず、炭素原子を構成原子とする層状構造物を含み、前記バインダーが、融点が45℃以上90℃以下かつ190℃での加熱溶融流動性が2.8g/10分以上3.8/10分以下のポリオレフィン、又は重量平均分子量が50万以下のアクリル樹脂を含み、前記粉末冶金用混合粉末の常温(25℃)での流動度が20s/50g未満であることを特徴とする焼結体の製造方法。」
第4 取消理由の概要
1 本件訂正前の請求項1~6に係る特許に対して、当審が令和元年8月2日付けで特許権者に通知した取消理由は、次のとおりである(甲各号証は、単に「甲1」などと記載した。)。
(1)理由1(新規性)本件の訂正前の請求項1、2、6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、請求項1、2、6に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
(2)理由2(進歩性)本件の訂正前の請求項1~6に係る発明は、下記の甲1~甲3に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1~6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
(3)理由3(サポート要件)本件は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1~6の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、請求項1~6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
(4)理由4(実施可能要件)本件は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、請求項1~6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
(5)上記「(1)理由1」、「(2)理由2」の引用文献
(6)「(3)理由3」、「(4)理由4」について
ア 訂正前の請求項1に係る発明は、訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項では、「常温(25℃)での流動度」の値が「25s/50g未満」とならないというのであれば、「常温(25℃)での流動度」の値が「25s/50g未満」とするための構成がさらに必要であるというべきである。
そうすると、そのような構成を発明特定事項として備えていない訂正前の請求項1~6に係る発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないといわざるを得ない。
イ さらに、本件明細書の発明の詳細な説明には、「常温(25℃)での流動度」の値が「25s/50g未満」とするためには、どのような構成を備えればいいのかについての指針が示されておらず、「常温(25℃)での流動度」の値を「25s/50g未満」とするために、当業者の技術常識に照らしても、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要があるといえ、当業者が実施することができる程度に発明の詳細な説明が記載されておらず、訂正前の請求項1~6に係る発明について、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないといわざるを得ない。
ウ また、訂正前の請求項1~6に係る発明の課題は、「粉末冶金用混合粉末の流動性を高めると共に高密度な焼結体を製造可能な潤滑剤、この潤滑剤を含む粉末冶金用混合粉末及びこの潤滑剤を用いた焼結体の製造方法の提供を目的とする(【0009】)」ことと認められる。
これに対し、本件明細書の発明の詳細な説明の【0076】の「比較例5」は、本件発明の課題を解決するものではないところ、バインダーの成分は、本件発明の課題を解決することが確認された実施例1、2と同じものを用いている。
そして、メラミンシアヌレートの平均粒径について、本件発明は、「0.1μm以上3μm未満」であるのに対し、比較例5は、「3.3μm」であって、平均粒径のみが訂正前の請求項1に係る発明と相違している。
しかしながら、当該平均粒径が相違するといっても、粒径分布は不明であって、粒径分布の幅が数μmにも及ぶ場合、訂正前の請求項1に係る発明と比較例5とに、含有されるメラミンシアヌレートに有意な差があるとは認められない。
そうすると、バインダーとして、比較例5と同じ「スチレンブタジエンゴム」を含む訂正前の請求項1に係る発明は、本件発明の課題を解決しないものを含むといわざるを得ない。
したがって、「融点が45℃以上90℃以下かつ190℃での加熱溶融流動性が2.8g/10分以上3.8g/10分以下のポリオレフィン、又は重量平均分子量が50万以下のアクリル樹脂」を用いることが特定されていない訂正前の請求項1に係る発明、及び、訂正前の請求項1に係る発明を直接的又は間接的に引用する訂正前の請求項2、3、6に係る発明は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
第5 取消理由通知に記載した取消理由についての当審の判断
1 理由1、2について
(1)引用文献の記載
ア 甲1
「【請求項1】鉄粉と、前記鉄粉の表面に少なくとも一部が付着する結合剤と、前記鉄粉の表面に付着した結合剤に少なくとも一部が付着する合金成分と、続きを表示(全16行)前記鉄粉に対して少なくとも一部が遊離状態にある潤滑剤と、前記鉄粉の表面に付着した結合剤に少なくとも一部が付着する流動性改善剤と、前記鉄粉に対して少なくとも一部が遊離状態にあるメラミンシアヌレートと、を含有する粉末冶金用鉄基粉末。【請求項2】・・・【請求項3】前記メラミンシアヌレートの含有量が、前記鉄粉および前記合金成分の合計100質量部に対して0.01~0.2質量部である、請求項1または2に記載の粉末冶金用鉄基粉末。【請求項4】前記流動性改善剤の含有量が、前記鉄粉および前記合金成分の合計100質量部に対して0.05~0.4質量部である、請求項1~3のいずれか一項に記載の粉末冶金用鉄基粉末。【請求項5】前記流動性改善剤が、(メタ)アクリル樹脂である、請求項1~4のいずれか一項に記載に粉末冶金用鉄基粉末。」
「【0016】また、流動性改善剤5の少なくとも一部が結合剤2に付着している。より詳細には、流動性改善剤5は、鉄粉1の表面に付着した結合剤2において、合金成分3が付着した部位以外の部位を埋めるようにして、付着している。結合剤2の付着力は鉄粉1どうしの付着力よりも大きいため、結合剤2の露出部位が多くなると鉄粉1の流動性が劣る傾向にあると考えられる。そこで、流動性改善剤5が、結合剤2を覆うように付着することで、結合剤2の露出部位が減少し、鉄粉1の流動性改善が期待される。なお、図1には示さないが、流動性改善剤5は結合剤2ではなく、鉄粉1に直接付着していてもよい。【0017】また、メラミンシアヌレート6が、基本的には鉄粉1の表面に付着せずに、その少なくとも一部が鉄粉1に対して遊離状態で存在する。本発明の鉄基粉末は、このようなメラミンシアヌレート6を含有することにより、抜出力が低下し、抜出性に優れる。その理由は明らかではないが、メラミンシアヌレート6は、一般的に、雲母状の粒子形状を有するとされ、そのへき開により、摩擦力を低減する効果があると考えられる。特に、粉末冶金の成形では、粉末を金型に充填する際、メラミンシアヌレート6が優先的に金型壁面に付着し、これが、成形圧縮時、抜出時に、金型と鉄粉1との直接の接触、焼き付きを防ぐのではないかと考えられる。もっとも、これら以外の理由やメカニズムによって抜出性に優れる場合であっても、本発明の範囲内であるものとする。」
「【0020】〔結合剤〕結合剤としては、加熱により溶融するものであっても加熱により固化するものであってもよいが、固化した後で潤滑性を有するものが好ましい。その理由は、鉄粉の摩擦力を低下させて鉄粉の流動性を良好にして、成形初期の粒子再配列を促すためである。結合剤の具体例としては、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウムなどの金属石鹸;ステアリン酸モノアミド、エルカ酸アミド、エチレンビスステアロアミドなどのアミドワックス;等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。結合剤の含有量は、後述する黒鉛粉、Cu粉、Ni粉といった合金成分を鉄粉表面に付着するものであり、その量は、付着させるのに必要な量だけあればよく、焼結時に消滅させるという観点から可能な限り少ない方がよいという理由から、鉄粉および合金成分の合計100質量部に対して、0.05~0.8質量部であるのが好ましく、0.1~0.4質量部であるのがより好ましい。」
「【0022】〔潤滑剤〕潤滑剤としては、例えば、金属石鹸、アミドワックス、ポリアミド、ポリエチレン、酸化ポリエチレン等が挙げられる。これらのうち、流動性や抜出性を含めた成形性がよく、バランスがとれているという理由から、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウムなどの金属石鹸;ステアリン酸モノアミド、エチレンビスステアロアミドなどアミドワックス;等が好ましく用いられる。潤滑剤の平均粒径は、1~150μmが好ましく、5~20μmがより好ましい。このような潤滑剤は、結合剤が固化した後に添加されるため、基本的には、鉄粉表面に付着せず、少なくとも一部は鉄粉に対して遊離状態にある。このため、潤滑剤を「遊離潤滑剤」ともいう。なお、潤滑剤の平均粒径は、レーザー回折法により測定した粒度分布の累積度数が体積百分率で50%となる粒子径である。潤滑剤の含有量は、成形を円滑に行うのに必要最小限の量を添加するという観点から、鉄粉および合金成分の合計100質量部に対して、0.05~1.0質量部であるのが好ましく、0.1~0.6質量部であるのがより好ましい。」
「【0023】〔流動性改善剤〕流動性改善剤としては、例えば、カーボンブラック;Al2O3・MgO・2SiO2・xH2O(ケイ酸アルミン酸マグネシウム)、SiO2、TiO2、Fe2O3などの金属酸化物;ポリエチレン(PE);ポリメチルメタクリレート(PMMA)および/またはポリメチルアクリレートである(メタ)アクリル樹脂;等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらのうち、焼結後に残渣がないという理由から、(メタ)アクリル樹脂であるのが好ましく、PMMAであるのがより好ましい。」
「0027】〔メラミンシアヌレート〕メラミンシアヌレートは、一般的に、雲母状の粒子形状を有するとされ、上述したように、本発明の鉄基粉末は、メラミンシアヌレートを含有することにより、抜出性に優れる。【0028】続きを表示(全12行)メラミンシアヌレートの平均粒径は、3~20μmが好ましく、3~10μmがより好ましい。メラミンシアヌレートの平均粒径が小さくなるほど抜出力が低下する傾向にあるが、流動性が阻害される場合がある。一方、メラミンシアヌレートの平均粒径が大きくなるほど抜出力が高くなる傾向にあるが、ある程度の平均粒径に到達すると抜出力が高くなりにくくなる。メラミンシアヌレートの平均粒径が上記範囲内であれば、流動性の阻害を抑制しつつ、抜出力を低減する効果がより優れる。なお、メラミンシアヌレートの平均粒径は、レーザー回折法により測定した粒度分布の累積度数が体積百分率で50%となる粒子径である。【0029】メラミンシアヌレートの含有量は、鉄粉および合金成分の合計100質量部に対して0.01~0.2質量部であるのが好ましく、0.05~0.1質量部であるのがより好ましい。メラミンシアヌレートの含有量が少なすぎると、抜出力を低減するという効果が低減する。一方、メラミンシアヌレートの特異的な形状は流動性の観点からは必ずしも有利とはいえず、含有量が多すぎると、流動性を阻害する場合がある。これに対して、メラミンシアヌレートの含有量が上記範囲内であれば、流動性の阻害を抑制しつつ、抜出力を低減する効果がより優れる。」
「【0033】<発明例1~14>まず、ヘンシェルタイプの高速ミキサーに、鉄粉(JFEスチール社製 JIP(登録商標)300A、平均粒径:85μm)と、合金成分としてのCu粉および黒鉛粉と、結合剤としてのステアリン酸モノアミドおよびエチレンビスステアロアミドとを、下記第1表に示す量(単位:質量部)で添加し、加熱混合を開始した。このとき、高速ミキサーにおける回転翼の回転数を5m/秒とし、混合槽内の温度が結合剤の融点以上になるまで加熱混合し、融点以上の温度で5分間混合した。【0034】次に、混合槽内を60℃まで冷却した後、潤滑剤としてのステアリン酸亜鉛(平均粒径:15μm)と、流動性改善剤としての(メタ)アクリル樹脂(PMMA)と、メラミンシアヌレートとを、下記第1表に示す量(単位:質量部)で添加し、3分間混合し、粉末冶金用鉄基粉末(以下、単に「鉄基粉末」ともいう)を得た。なお、用いた(メタ)アクリル樹脂の平均粒径(単位:μm)および重量平均分子量(Mw)と、メラミンシアヌレートの平均粒径(単位:μm)とについても下記第1表に示す。」
「【0038】【表1】」
イ 甲2
甲2には、次の記載がある。
「【0029】メラミンシアヌレート(シアヌル酸メラミン)又はテレフタル酸は、金属成分を含まず、かつ、高温で溶融せずに500℃以下で分解又は昇華する物質であるため、焼結時には焼結体に影響を与えずに消失する。また、メラミンシアヌレート又はテレフタル酸は、固体潤滑剤としての性能が高い。したがって、潤滑剤としてメラミンシアヌレート又はテレフタル酸を用いることにより、成形時には潤滑剤としての高い機能を果たしつつ、焼結時においては焼結体の汚れと表面欠陥、脱炭を防止することができる。また、潤滑剤としてメラミンシアヌレート又はテレフタル酸用いることにより、表面欠陥を防止することができることに伴い、焼結体の強度が改善される。また、潤滑剤としてメラミンシアヌレート又はテレフタル酸を用いることにより、成形時の圧縮性が高くなり、成形圧力が低減されるとともに金型の破損が防止され、高密度、高強度、高硬度の仕様を満足させることができる。また、メラミンシアヌレートは、主要用途の難燃剤用の原料粉末として、テレフタル酸は、主要用途のPET樹脂製造用の原料粉末として容易に入手でき、低価格であるという利点を有する。」
「【0033】本発明の必須潤滑剤をメラミンシアヌレート又はテレフタル酸に限定するのは、融点が無く、溶融しない物質は、潤滑剤溶融物に炉内の煤や汚れが付着して焼結体が汚れる事が原理的に起こらないからである。融点が無く、溶融しない物質は、その他にも存在し、潜在的に本発明の必須潤滑剤に成り得る。本発明者は、その他の溶融しない物質として、メラミン、メラミン樹脂、シアヌル酸、尿素、尿素樹脂(ウレア樹脂)、アダマンタン、セルロース、アラミド樹脂について検討した。どれも使用不可能なレベルでは無いが、潤滑性や圧縮性、流動性等が劣る部分があるため粉末冶金用原料粉末の潤滑剤として従来から使用してきた潤滑剤に代替して使用するにはやや不十分であった。」
「【0036】本発明において用いられるメラミンシアヌレート及びテレフタル酸及びエルカ酸アミド及びステアリン酸アミドは、平均粒径0.1~200μmのものが好ましい。200μmを超えると焼結体に内部欠陥が発生し、0.1μm未満では2次凝集しやすくなる。また、本発明において用いられるメラミンシアヌレートは、平均粒径0.1~3μmのものがより好ましい。3μmを超えると粉末冶金用原料粉末の流動性が悪化する。また、本発明において用いられるエルカ酸アミドは、平均粒径60~200μmのものがより好ましい。60μm未満では粉末冶金用原料粉末の流動性が悪化する。メラミンシアヌレートとエルカ酸アミドを併用する場合は、メラミンシアヌレートとエルカ酸アミドの配合割合は90~50%:10~50%の範囲とするのが好ましい。また、メラミンシアヌレートとステアリン酸アミドを併用する場合は、メラミンシアヌレートとステアリン酸アミドの配合割合は90~10%:10~90%の範囲とするのが好ましい。配合割合をこの範囲とすることにより、成形時の圧縮性、潤滑性、流動性を両立させることができる。また、メラミンシアヌレートとテレフタル酸を併用又は単独で使用する場合は、特に温間成形において成形時の圧縮性、潤滑性、流動性を両立させることができる。」
ウ 甲3
甲3には、次の記載がある(下線は当審が付与した。)。
「【請求項1】鉄基粉末と副原料粉末とを含む粉末冶金用混合粉末に配合して使用されるバインダーであって、前記バインダーは融点が50℃以上85℃以下、且つ、190℃での加熱溶融流動性が2.0g/10分以上3.6g/10分以下を有するブテン系重合体、および重量平均分子量が1,000,000以下のメタクリル酸系重合体から選択される1種以上であることを特徴とする粉末冶金用バインダー。」
「【0001】本発明は、主原料粉末と副原料粉末との混合粉末に配合して使用する粉末冶金用バインダー、および粉末冶金用混合粉末、並びに焼結体に関するものである。」
「【背景技術】【0002】鉄基粉末などの主原料粉末を用いて焼結体などの製品を製造する粉末冶金法では、まず上記主原料粉末と、焼結体の強度特性や加工特性などの物性を改善するために黒鉛粉などの副原料粉末とを混合し、加圧成形して圧粉体を成形する。そして該圧粉体を主原料粉末の溶融点以下の温度で焼結することによって焼結体を製造している。」
「【0003】このような焼結体の製造方法においては様々な問題が指摘されている。例えば上記成形した圧粉体を金型から抜出す際に、圧粉体と金型面との摩擦係数が増加すると、金型から製品を取り外す際、金型の表面に傷が発生する型かじりや金型の損傷の原因となることが知られている。そのため、主原料粉末と副原料粉末との混合粉末に、潤滑性を良好にするための潤滑剤(例えば特許文献1)などが添加・混合されている。【0004】また例えば副原料粉末として汎用されている黒鉛は主原料粉末である鉄基粉末に比べて比重が小さく、かつ粒径が小さい。そのため、単に混合するだけでは、黒鉛と鉄基粉末が大きく分離して黒鉛が偏析し、均一に混合できないという問題が指摘されている。黒鉛の偏析によって圧粉体中のカーボン含有量にバラツキが生じると、焼結体にも炭素濃度の濃淡が生じ、機械的特性が安定しないため、品質の安定した部品を製造することが困難となる。続きを表示(全26行)【0005】更に黒鉛を使用すると、混合工程または加圧成形工程で黒鉛が飛散して発塵するため混合粉末中の黒鉛量が低下すると共に、黒鉛の発塵によって作業環境が悪化するといった問題を抱えている。上記した偏析や発塵は、黒鉛のみならず、主原料粉末と混合されるその他の様々な粉末でも同様に生じ、偏析や発塵の防止が求められていた。【0006】そこで、偏析や発塵を防ぐ方法として、粘結剤となるバインダーを添加することが提案されている。バインダーとしては例えばスチレン・ブタジエンゴム(SBR)などのゴム系バインダーなどが提案されている(例えば特許文献2)。【0007】しかしながらゴム系バインダーは、極めて高い粘着性を有しているため、混合粉末の流動性を阻害する原因となっていた。混合粉末の流動性が悪いと以下のような問題が生じる。例えば、混合粉末を貯蔵ホッパーから排出して成形金型に移送する際、または混合粉末を成形金型に充填する際などの加圧成形工程で、貯蔵ホッパーの排出上部でブリッジングなどによる排出不良が生じる。また貯蔵ホッパーからシューボックスまでのホースが閉塞するなどの問題が生じる。また、混合粉末の流動性が悪いと、成形金型内全体、特に薄肉部分に混合粉末が均一に充填され難くなり、均質な圧粉体が得られ難いという問題もある。【0008】そこで上記問題を解決するため、特許文献3~10には、上記偏析や発塵を防止するだけでなく、更に混合粉末の流動性も改善し得る樹脂系バインダーやそのための補助添加剤が開示されている。【先行技術文献】【特許文献】【0009】・・・(略)・・・【発明の概要】【発明が解決しようとする課題】【0010】上記各種バインダーを添加すれば、主原料粉末と副原料粉末との間の付着力が高まって偏析や発塵を防止することができ、更に混合粉末の流動性も改善することができる。しかしながら混合粉末の流動性改善効果は十分でなく、更なる向上が求められていた。例えば混合粉末の移送や充填、加圧成形時に混合粉末同士あるいは混合粉末と装置内壁との摩擦熱によって混合粉末の温度が50℃以上の高温に上昇することがある。このような場合、樹脂系バインダーを含有する混合粉末は、常温で流動性を有するが、高温状態では流動性が低下した。一方、高温状態で流動性を有する樹脂系バインダーを含有する混合粉末は偏析や発塵に対する十分な防止効果を有していなかった。【0011】そのため、混合工程や加圧成形工程では依然として偏析や発塵、排出不良や閉塞などが生じ、均質で高密度な焼結体を製造することが難しかった。【0012】さらに、バインダーを混合粉末に添加する場合、バインダーを有機溶媒に溶解させてスプレー噴霧して、混合粉末に添加している。しかしながら溶解させたバインダーの粘度が高いと、混合粉末に均一に噴霧できず混合粉末における黒鉛付着量にバラツキが生じた。【0013】本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は偏析や発塵の抑制に優れた効果を有するだけでなく、例えば50℃~70℃の高温に加熱された場合でも優れた流動性を奏するバインダーを提供することである。また本発明の他の目的は、成形作業性が良好で高密度な焼結体を得ることのできる粉末冶金混合粉末を提供すること、及び均質で高密度な焼結体を提供することである。」
「【0021】本発明者らは樹脂系バインダーとして、融点と190℃での加熱溶融流動性が特定の範囲にあるブテン系重合体、および重量平均分子量が特定の範囲にあるメタクリル酸系重合体が好適であり、これらの少なくともいずれか一方を含むバインダーは、常温だけでなく高温での流動性と偏析や発塵の防止に優れた効果を奏することを突き止めて本発明に至った。【0022】本発明において「流動性に優れている」とは、25℃の常温のみならず、50℃以上70℃以下の高温での流動性が高いことを意味する。具体的には、後記する実施例に示す測定条件において、(1)25℃および50℃、70℃の高温状態で流動することであり、25℃での流動度は好ましくは25s/50g以下、50℃、および70℃の高温での流動度は好ましくは30s/50g以下、より好ましくは25s/50g以下である。(2)限界流出径が小さいことであり、好ましくは25mm以下、より好ましくは20mm以下である。および(3)金型充填性に優れていることであり、好ましくは30g以上、より好ましくは35g以上である。」
「【0052】本発明のメタクリル酸系重合体の重量平均分子量を低くすると、製造過程でメタクリル酸系重合体の有機溶媒で溶解する際の粘度が調整されて、鉄粉と黒鉛の粘着性向上効果を奏するため、混合粉末中の黒鉛付着量のバラツキを抑制することができ、ブタン系重合体よりも優れた偏析抑制効果を発揮する。また50℃以上70℃以下の高温において高い流動性を発揮する。このような効果を得るためには、メタクリル酸系重合体の重量平均分子量は1,000,000以下、好ましくは350,000以下である。なお、高温での流動性を向上させる観点からは重量平均分子量の下限は特に限定されないが、低くなりすぎると粘性が低下することがあるため、好ましくは150,000以上である。」
「【0054】[融点が50℃以上85℃以下、且つ、190℃での加熱溶融流動性が2.0g/10分以上3.6g/10分以下を有するブテン系重合体、および重量平均分子量が1,000,000以下のメタクリル酸系重合体の2成分系]本発明の第3のバインダーは、上記第1のバインダーであるブテン系重合体と、上記第2のバインダーであるメタクリル酸系重合体を両方含むものである。ブテン系重合体と共にメタクリル酸系重合体を使用すると、50℃以上70℃以下の高温での優れた流動性を発揮しつつ、メタクリル酸系重合体の上記優れた偏析抑制効果を発揮できる。このような効果を得るためには、上記第2のバインダーとして説明した重量平均分子量が1,000,000以下のメタクリル酸系重合体は、バインダー中、すなわち、ブテン系重合体とメタクリル酸系重合体の合計質量100質量%中、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上含有させる。」
「【0081】[粉末冶金用混合粉末の調製]粒径40μm以上120μm以下の純鉄粉(神戸製鋼所製「アトメル300M」)を用意し、この純鉄粉100質量%に対し、銅粉末2.0質量%、黒鉛粉0.8質量%とをV型混合機を用いて混合しつつ、純鉄粉100質量%に対しバインダー0.10質量%となるようにトルエンにバインダーを溶解させたバインダー濃度2.5質量%溶液を噴霧・攪拌混合してバインダーで被覆された粉末冶金用混合粉末を得た。【0082】続きを表示(全11行)得られた混合粉末の流動性、及び付着性、偏析性を下記の方法によって測定した。【0083】[流動性]流動性は(1)メルトフローレートに基づく流動度、(2)限界流出径、(3)スリット充填量を測定して評価した。(1)~(3)の全ての基準を満たした場合、流動性に優れていると評価した。流動性は(1)流動度が小さいほど、そして(2)限界流出径が小さく、(3)スリット充填量が多いほど優れている。【0084】(1)流動度(s/50g)JIS Z 2502:2012年に記載の「金属粉の流動度試験法」に準拠した。すなわち、50gの混合粉末がφ2.63mmのオリフィスを流れ出るまでの時間(秒:s)を測定し、この時間(秒)を混合粉末の流動度とした。なお、流動度は、樹脂の温度を25℃、50℃、70℃に調整したものをそれぞれ調べた。本発明では25℃:25s/50g以下、50℃:25s/50g以下、70℃:25s/50g以下を全て満たす場合を合格とした。なお、表1中、NF(Non-Flow)は流動しなかったことを示し、NFと記載された例は不合格を意味する。」
(2)甲1に記載された発明(甲1発明)
甲1の【0038】【表1】には、発明例7として、
「鉄粉 97.2(質量部)と、合金成分として Cu粉 2(質量部)及び 黒鉛粉0.8(質量部)と、結合剤として ステアリン酸モノアミド 0.2(質量部)及び エチレンビスステアロアミド 0.3(質量部)と、潤滑剤として ステアリン酸亜鉛 0.1(質量部)流動性改善剤として、(メタ)アクリル酸であるPMMA 0.1(質量部)と、平均粒径1μmのメラミンシアヌレート 0.1(質量部)とを含有した粉末冶金用鉄基粉末」が記載されている。
そして、請求項1には、結合剤は、鉄粉の表面に少なくとも一部が付着するものであること、及び、合金成分は、鉄粉の表面に付着した結合剤に少なくとも一部が付着するものであることが記載され、【0022】には、潤滑剤は、鉄粉に対して少なくとも一部が遊離状態にあることが記載され、【0016】には、流動性改善剤が、鉄粉の表面に付着した結合剤に少なくとも一部が付着することが記載され、【0017】には、メラミンシアヌレートが、鉄粉に対して少なくとも一部が遊離状態にあることが記載されている。
そうすると、甲1には、発明例7として、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「鉄粉97.2部(質量部、以下同じ)と、前記鉄粉の表面に少なくとも一部が付着する結合剤としてステアリン酸モノアミド0.2部及びエチレンビスステアロアミド0.3部と、前記鉄粉の表面に付着した結合剤に少なくとも一部が付着する合金成分であるCu粉2部及び黒鉛粉0.8部と、前記鉄粉に対して少なくとも一部が遊離状態にある潤滑剤としてステアリン酸亜鉛0.1部と、前記鉄粉の表面に付着した結合剤に少なくとも一部が付着する流動性改善剤としてPMMA0.1部と、前記鉄粉に対して少なくとも一部が遊離状態にある平均粒径1μmのメラミンシアヌレート0.1部と、を含有する粉末冶金用鉄基粉末。」
(3)対比・判断
ア 本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「鉄粉」、「合金成分」、「結合剤」及び「粉末冶金用鉄基粉末」は、それぞれ、本件発明1の「主原料である鉄基粉末」、「任意成分として含有される副原料粉末」、「原料粉末を互いに結びつけるバインダー」及び「粉末冶金用混合粉末」にそれぞれ相当する。
また、甲1の【0017】には、「本発明の鉄基粉末は、このようなメラミンシアヌレート6を含有することにより、抜出力が低下し、抜出性に優れる。」、「その理由は明らかではないが、メラミンシアヌレート6は、一般的に、雲母状の粒子形状を有するとされ、そのへき開により、摩擦力を低減する効果があると考えられる。特に、粉末冶金の成形では、粉末を金型に充填する際、メラミンシアヌレート6が優先的に金型壁面に付着し、これが、成形圧縮時、抜出時に、金型と鉄粉1との直接の接触、焼き付きを防ぐのではないかと考えられる。」と記載され、甲1発明において、メラミンシアヌレートは、摩擦力を低減することにより、抜出力を低下させるものであるから、潤滑剤としても機能することは明らかである。
なお、メラミンシアヌレートは、潤滑剤としても機能することは、甲2の【0029】、【0033】にも示されている。
また、メラミンシアヌレートは、甲1の【0017】に記載されたように「雲母状の粒子形状を有する」から、「炭素原子を構成原子とする層状構造物」であり、甲2の【0029】、【0033】に記載されるように、融点を有しないことも周知である。
さらに、甲1発明は、潤滑剤として、平均粒径1μmのメラミンシアヌレート(融点を有さず、炭素原子を構成原子とする層状構造物)を、原料粉末とバインダーよりなる混合粉末に約0.1質量%(=0.1/(97.2+2+0.8+0.2+0.3+0.1+0.1+0.1)×100=1/100.8×100=0.099・・)含んでいるといえる。そして、甲1発明は、メラミンシアヌレート以外に、ステアリン酸亜鉛を約0.1質量%(メラミンシアヌレートと同様)含んでいるから、潤滑剤の合計は、それらの和の約0.2質量%であり、本件発明1の「混合粉末に0.01質量%以上0.7質量%以下で配合される潤滑剤を含んでなる」構成を満たす。また、下記(3)で述べるように、「ステアリン酸モノアミド」及び「エチレンビスステアロアミド」を潤滑剤とみなす場合であっても、潤滑剤の合計は、それらの和の0.694・・・質量%であり、本件発明1の「混合粉末に0.01質量%以上0.7質量%以下で配合される潤滑剤を含んでなる」構成を満たす。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「主原料である鉄基粉末と任意成分として含有される副原料粉末からなる原料粉末と、前記原料粉末の表面に付着することで前記原料粉末を互いに結びつけるバインダーよりなる混合粉末と、前記混合粉末に0.01質量%以上0.7質量%以下で配合される潤滑剤を含んでなる粉末冶金用混合粉末であって、前記潤滑剤は、平均粒径が0.1μm以上3μm未満であり、融点を有さず、炭素原子を構成原子とする層状構造物を含む、粉末冶金用混合粉末。」である点(以下、「一致点」という。)で一致し、次の点で相違が認められる。
(相違点1)
バインダーについて、本件発明1は、「融点が45℃以上90℃以下かつ190℃での加熱溶融流動性が2.8g/10分以上3.8g/10分以下のポリオレフィン、又は重量平均分子量が50万以下のアクリル樹脂」であるのに対し、甲1発明の結合剤は、ステアリン酸モノアミド及びエチレンビスステアロアミドである点。
(相違点2)
粉末冶金用混合粉末の「常温(25℃)での流動度」について、本件発明1においては、「20s/50g未満」であるのに対して、甲1発明においては、流動度は規定されていない点。
ここで、相違点について、検討する。
(相違点1について)
甲1発明の「結合剤」である「ステアリン酸モノアミド」及び「エチレンビスステアロアミド」は、ポリオレフィンでもなく、アクリル樹脂でもない。
したがって、上記相違点1は、実質的な相違点である。
また、甲1には、「結合剤」について、「結合剤の具体例としては、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウムなどの金属石鹸;ステアリン酸モノアミド、エルカ酸アミド、エチレンビスステアロアミドなどのアミドワックス;等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。」(甲1の【0020】)と記載されているように、ポリオレフィンやアクリル樹脂を用いることについては記載も示唆もない。また、「金属石鹸」及び「アミドワックス」と、「ポリオレフィン」及び「アクリル樹脂」とは、高温における粘性など特性が大きく異なることは明らかであり、甲1発明の「結合剤」に替えて、「ポリオレフィン」及び「アクリル樹脂」を結合剤として用いた場合に、甲1発明に係る「粉末冶金用鉄基粉末」の流動度といった特性がどのようになるかは、不明といわざるを得ない。
また、甲2には、粉末冶金用バインダーとして、ポリオレフィン又はアクリル樹脂を用いることについては、記載も示唆もされていない。
一方、甲3には、「鉄基粉末と副原料粉末とを含む粉末冶金用混合粉末に配合して使用されるバインダーであって、前記バインダーは融点が50℃以上85℃以下、且つ、190℃での加熱溶融流動性が2.0g/10分以上3.6g/10分以下を有するブテン系重合体、および重量平均分子量が1,000,000以下のメタクリル酸系重合体から選択される1種以上であることを特徴とする粉末冶金用バインダー。」(甲3の【請求項1】)について記載され、粉末冶金用バインダーとして、特定のポリオレフィン又は特定のアクリル樹脂を用いることが記載されているといえる。
しかしながら、甲3に記載された上記「粉末冶金用バインダー」は、主原料粉末と混合されるその他の様々な粉末において生じる、偏析や発塵を防止するために、従来より用いられていたスチレン・ブタジエンゴム(SBR)などのゴム系バインダー(同【0005】~【0007】)や、樹脂系バインダー(同【0008】)を添加した混合粉末の流動性改善効果をさらに向上させる(同【0010】)ためのものであって、偏析や発塵の抑制に優れた効果を有するだけでなく、例えば50℃~70℃の高温に加熱された場合でも優れた流動性を奏するバインダーを提供すること(同【0013】)を課題としてなされたものといえる。
これに対し、甲1発明の「結合剤」は、ゴム系バインダーでもなく、樹脂系バインダーでもないため、上記甲3記載の課題に係る従来の問題点は存しないから、甲1発明の「結合剤」に替えて、甲3に記載された上記「粉末冶金用バインダー」を採用する動機付けは見出すことができない。
そして、本件発明1は、潤滑性が高く、焼結体の高密度化、高品質化を促進し、金型からの抜き圧を低減することができる(本件明細書【0016】)ものであり、上記相違点1に係る発明特定事項を有することで、鉄基粉末又はその他の粉末の偏析や飛散を的確に防止することができる(本件明細書【0017】)という、格別顕著な作用効果を奏するものであり、このことは、実施例9~15において確認されている。
したがって、本件発明1の上記相違点1に係る発明特定事項は、当業者が容易に想到し得るものである、ということはできない。
よって、上記相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明であるとも、甲1発明及び甲2、3の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、ともいうことはできない。
イ 本件発明2、3及び5について
本件発明2、3及び5は、本件発明1を引用し、さらに限定するものであるから、本件発明1は、甲1発明であるとも、甲1発明及び甲2、3の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、ともいうことはできない。
ウ 本件発明6について
本件発明6は、実質的に、本件発明1の粉末冶金用混合粉末を用いた焼結体の製造方法であり、本件発明1と同様に、甲1発明であるとも、甲1発明及び甲2、3の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、ともいうことはできない。
2 理由3、4について
本件発明の課題は、「粉末冶金用混合粉末の流動性を高めると共に高密度な焼結体を製造可能な潤滑剤、この潤滑剤を含む粉末冶金用混合粉末及びこの潤滑剤を用いた焼結体の製造方法の提供」すること(【0009】)と解される。
これに対し、本件明細書には、次の記載がある(下線は当審が付与した。)。
「【課題を解決するための手段】【0010】上記課題を解決するためになされた発明は、鉄基粉末を含む粉末冶金用混合粉末に配合される潤滑剤であって、平均粒径が0.1μm以上3μm未満であり、融点を有さない有機系層状構造物を含むことを特徴とする潤滑剤である。【0011】当該潤滑剤は、融点を有さない有機系層状構造物を含み、この有機系層状構造物の平均粒径が上記範囲とされるため、粉末冶金用混合粉末に含まれる鉄基粉末やその他の粉末等の空隙に比較的容易に入り込み、粉末冶金用混合粉末の潤滑性を高めることができる。また、当該潤滑剤は、平均粒径が上記範囲とされているので、粉末冶金用混合粉末の圧縮時にこの粉末冶金用混合粉末の圧縮を阻害するおそれが低く、得られる焼結体の高密度化を促進することができ、ひいてはこの焼結体の高品質化を促進することができる。さらに、当該潤滑剤は、上記有機系層状構造物の一部が、粉末冶金用混合粉末を金型に充填する際に金型の内面に溶融することなく付着することで、粉末冶金用混合粉末を圧縮して得られる圧粉体の金型からの抜き圧を低減することができる。」
「【0032】当該潤滑剤の粉末冶金用混合粉末における配合量の下限としては、0.01質量%が好ましく、0.05質量%がより好ましく、0.1質量%がさらに好ましい。一方、当該潤滑剤の粉末冶金用混合粉末における配合量の上限としては、1.5質量%が好ましく、1質量%がより好ましく、0.7質量%がさらに好ましい。当該潤滑剤の粉末冶金用混合粉末における配合量が上記下限に満たないと、粉末冶金用混合粉末の潤滑性が十分に高められないおそれがある。逆に、当該潤滑剤の粉末冶金用混合粉末における配合量が上記上限を超えると、粉末冶金用混合粉末の圧縮性が低下するおそれがある。」
「【0034】<粉末冶金用混合粉末>当該粉末冶金用混合粉末は、鉄基粉末と、当該潤滑剤と、副原料粉末と、バインダーとを含む。」
「【0039】(バインダー)上記バインダーは、上記鉄基粉末及び副原料粉末等の飛散や上記副原料粉末の偏析等を防止する。上記バインダーとしては、特に限定されるものではなく、例えばポリオレフィン、アクリル樹脂、ポリスチレン、エチレングリコールジステアレート、エポキシ樹脂、ロジンエステル等が挙げられる。【0040】中でも、上記バインダーとしては、ポリオレフィン又はアクリル樹脂が好ましく、ポリオレフィン及びアクリル樹脂を共に含むのがより好ましい。」
「【0042】上記ポリオレフィンの融点の下限としては、45℃が好ましく、50℃がより好ましく、55℃がさらに好ましい。一方、上記ポリオレフィンの融点の上限としては、90℃が好ましく、85℃がより好ましく、80℃がさらに好ましい。上記ポリオレフィンの融点が上記下限に満たないと、粉末冶金用混合粉末の温度が上昇した際に粘着性が高くなり過ぎて粉末冶金用混合粉末の流動性が十分に高くならないおそれがある。逆に、上記ポリオレフィンの融点が上記上限を超えると、上記鉄基粉末及び副原料粉末の間の付着力が弱くなり偏析や発塵を十分に防止できないおそれがある。」
「【0043】上記ポリオレフィンの190℃での加熱溶融流動性の下限としては、2.8g/10分が好ましく、3.2g/10分がより好ましい。一方、上記ポリオレフィンの190℃での加熱溶融流動性の上限としては、3.8g/10分が好ましく、3.4g/10分がより好ましい。上記ポリオレフィンの190℃での加熱溶融流動性が上記範囲外であると、上記ポリオレフィンの流動性が低下し、ひいては上記粉末冶金用混合粉末の流動性が十分に高くならないおそれがある。」
「【0046】上記アクリル樹脂の重量平均分子量の上限としては、50万が好ましく、40万がより好ましく、35万がさらに好ましい。上記アクリル樹脂の重量平均分子量が上記上限を超えると、有機溶媒で溶解した際の粘度の調整が困難になり、上記鉄基粉末及び副原料粉末の粘着性を的確に向上できないおそれがあり、ひいては上記副原料粉末の偏析を防止できないおそれがある。これに対し、上記アクリル樹脂の重量平均分子量が上記範囲内であると、当該粉末冶金用混合粉末中における上記副原料粉末の均一分散性を向上することができると共に、50℃以上70℃以下程度の高温下における当該粉末冶金用混合粉末の流動性を向上することができる。なお、上記アクリル樹脂の重量平均分子量の下限は、流動性を向上する点からは特に限定されない。ただし、上記アクリル樹脂の重量平均分子量が低くなり過ぎると粘性が低下するおそれがあるため、例えば上記アクリル樹脂の重量平均分子量の下限としては、15万とすることができ、好ましくは20万とすることができる。」
これらの記載によれば、次の(a)~(f)ことが理解できる。
(a)潤滑剤として、平均粒径が0.1μm以上3μm未満であり、融点を有さない有機系層状構造物を含む粉末冶金用混合粉末は、当該潤滑剤が粉末冶金用混合粉末に含まれる鉄基粉末やその他の粉末等の空隙に比較的容易に入り込み、粉末冶金用混合粉末の潤滑性を高めることができるものであって、粉末冶金用混合粉末の圧縮時にこの粉末冶金用混合粉末の圧縮を阻害するおそれが低く、得られる焼結体の高密度化を促進すること(【0011】)。
(b)潤滑剤の粉末冶金用混合粉末における配合量が、0.01質量%以上0.7質量%以下であれば、粉末冶金用混合粉末の潤滑性が十分に高められないおそれがなく、粉末冶金用混合粉末の圧縮性が低下するおそれがないこと(【0032】)。
(c)バインダーは、上記鉄基粉末及び副原料粉末等の飛散や上記副原料粉末の偏析等を防止するものであること(【0039】)。
(d)融点が45℃以上90℃以下かつ190℃でのポリオレフィンを含むバインダーは、粉末冶金用混合粉末の温度が上昇した際に粘着性が高くなり過ぎて粉末冶金用混合粉末の流動性が十分に高くならないおそれがなく、鉄基粉末及び副原料粉末の間の付着力が弱くなり偏析や発塵を十分に防止できないおそれもないこと(【0042】)。
(e)ポリオレフィンの190℃での加熱溶融流動性が2.8g/10分以上3.8g/10分以下のポリオレフィンは、流動性が低下し、ひいては粉末冶金用混合粉末の流動性が十分に高くならないおそれがないこと(【0043】)。
(f)重量平均分子量が50万以下のアクリル樹脂は、副原料粉末の均一分散性を向上することができると共に、50℃以上70℃以下程度の高温下における当該粉末冶金用混合粉末の流動性を向上することができること(【0046】)。
これに対し、本件発明1は、上記第3に記載したとおりのものであるところ、「粉末冶金用混合粉末」について、「主原料である鉄基粉末と任意成分として含有される副原料粉末からなる原料粉末と、前記原料粉末の表面に付着することで前記原料粉末を互いに結びつけるバインダーよりなる混合粉末と、前記混合粉末に0.01質量%以上0.7質量%以下で配合される潤滑剤を含んでなる」ことが特定され、
さらに、「潤滑剤は、平均粒径が0.1μm以上3μm未満であり、融点を有さず、炭素原子を構成原子とする層状構造物を含」むこと、及び、「バインダーが、融点が45℃以上90℃以下かつ190℃での加熱溶融流動性が2.8g/10分以上3.8g/10分以下のポリオレフィン、又は重量平均分子量が50万以下のアクリル樹脂を含」むこと、が特定されている。
すなわち、本件発明1は、上述した(a)~(f)に記載した条件を満たし、粉末冶金用混合粉末の流動性が高く、その結果、高密度な焼結体が得られることが理解できる。
そして、本件明細書の【0082】【表2】より、本件発明1に含まれる具体例である実施例9~15について、粉末冶金用混合粉末の流動性が高く、高密度な焼結体が得られることが確認されていることが看取できる。
また、本件明細書の発明の詳細な説明の【0076】の「比較例5」は、バインダーの成分はスチレンブタジエンゴムからなるものであるから、本件発明1に含まれないことが明らかになった。
以上のとおり、本件発明1は、訂正によって、「バインダーが、融点が45℃以上90℃以下かつ190℃での加熱溶融流動性が2.8g/10分以上3.8g/10分以下のポリオレフィン、又は重量平均分子量が50万以下のアクリル樹脂を含」むことが特定されたことにより、「常温(25℃)での流動度」の値が「25s/50g未満」(訂正後は、「20s/50g未満」)とするための構成が特定され、そのようにするための指針が明らかなものとなった。また、本件明細書の発明の詳細な説明の【0076】の「比較例5」を含まないものとなった。
したがって、本件発明1は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしており、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているものである。
本件発明1を引用する本件発明1~3及び5並びに同様な発明特定事項を有する本件発明6についてみても同様である。
以上のとおり、本件発明1~3、5及び6は、本件訂正によって、取消理由で通知した理由3、4は解消した。
3 まとめ
以上のとおり、取消理由で通知した1~4はいずれも理由がない。
第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人は、次のように主張している。
発明の詳細な説明には、メラミンシアヌレート以外の「平均粒径が0.1μm以上3μm未満であり、融点を有さず、炭素原子を構成原子とする層状構造物」を潤滑剤とすることは、全く記載されていない。
「平均粒径が0.1μm以上3μm未満」の黒鉛、フッ化黒鉛については全く記載されていないから、これらを潤滑剤とした場合、「粉末冶金用混合粉末の流動性を高めると共に高密度な焼結体を製造可能」にするという発明の課題が解決できるかどうか明らかでない。
したがって、潤滑剤として、メラミンシアヌレート以外の「平均粒径が0.1μm以上3μm未満であり、融点を有さず、炭素原子を構成原子とする層状構造物」を含む本件発明1、それに従属する本件発明2~5、及び本件発明6は、「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えている」から、本件発明1~6と、本件特許の発明の詳細な説明に発明として記載されたものとが、実質的に対応しているとはいえず、特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たしていない。
また、令和元年11月14日付けの意見書において、次のように主張している。
潤滑剤として、セルロースを用いた場合、常温(25℃)での流動度が20s/50g未満とならない可能性が高く、また、セルロースを炭化した炭素を用いた場合、常温(25℃)での流動度が、20s/50g未満となるかどうか明らかではない。
そこで、申立人の上記主張について検討する。
上記第5 2において摘示した本件明細書の【0011】によれば、潤滑剤は、「融点を有さない有機系層状構造物」であって、「有機系層状構造物の平均粒径が」0.1μm以上3μm未満であれば、「粉末冶金用混合粉末に含まれる鉄基粉末やその他の粉末等の空隙に比較的容易に入り込み、粉末冶金用混合粉末の潤滑性を高めることができる」ものであり、融点を有さないことから「有機系層状構造物の一部が、粉末冶金用混合粉末を金型に充填する際に金型の内面に溶融することなく付着することで、粉末冶金用混合粉末を圧縮して得られる圧粉体の金型からの抜き圧を低減することができる」ものであることが理解できる。
そうすると、平均粒径が0.1μm以上3μm未満の融点を有さない有機系層状構造物」、すなわち、「平均粒径が0.1μm以上3μm未満であり、融点を有さず、炭素原子を構成原子とする層状構造物」であれば、層状構造物がどのような種類であっても、「粉末冶金用混合粉末に含まれる鉄基粉末やその他の粉末等の空隙に比較的容易に入り込」むことが想定され、しかも、「粉末冶金用混合粉末を金型に充填する際に金型の内面に溶融することなく付着すること」が想定されるから、粉末冶金用混合粉末の潤滑性を高めることができ、粉末冶金用混合粉末を圧縮して得られる圧粉体の金型からの抜き圧を低減することができることが理解できるというべきである。
そして、本件発明は、常温(25℃)での流動度が20s/50g未満とならないものは含まれないところ、上記第5 2で述べたように、本件発明は、さらに、「バインダーが、融点が45℃以上90℃以下かつ190℃での加熱溶融流動性が2.8g/10分以上3.8g/10分以下のポリオレフィン、又は重量平均分子量が50万以下のアクリル樹脂を含」むことによって、粉末冶金用混合粉末の流動性が高いものとなることが理解できることから、潤滑剤として、セルロースや、セルロースを炭化した炭素を用いた場合においても、常温(25℃)での流動度が、20s/50g未満となることはない、とまではいえない。
したがって、「平均粒径が0.1μm以上3μm未満であり、融点を有さず、炭素原子を構成原子とする層状構造物」に黒鉛等のメラミンシアヌレート以外の「融点を有さず、炭素原子を構成原子とする層状構造物」が含まれるからといって、本件発明1が「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているとはいえない。
本件発明1~3、5及び6も同様である。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
第7 まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1~3、5及び6に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、請求項4は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項4に対して申立人がした特許異議申立は、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
そして、他に本件発明1~3、5及び6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2019-700467