特許異議申立
2024-700185
銑鉄製造方法
- 審判番号
- 2024-700185
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-148356
- 登録番号
- 7339222
- 請求日
- 2024年02月28日
- 審決日
- 2025年07月25日
- 公報発行日
- 2025年12月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社神戸製鋼所
- 【権利者代理人】池田 義典
- 【権利者代理人】天野 一規
- 【権利者代理人】藤本 勝誠
- 【権利者代理人】石田 耕治
- 【異議申立人】吉田 敦子
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 猛
- 審判官 佐藤 陽一
- 審判官 粟野 正明
- 分類
- P1651.113-YAA(C21B) / P1651.121-YAA(C21B) / P1651.537-YAA(C21B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第7項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7339222号発明「銑鉄製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7339222号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項3について訂正することを認める。
特許第7339222号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件の特許第7339222号(以下「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願(特願2020-148356号。以下「本願」という。)は、令和 2年 9月 3日の出願であって、令和 5年 8月28日にその特許権の設定登録がされ、同年 9月 5日に特許掲載公報が発行され、その後、令和 6年 2月28日に、その請求項1~6(全請求項)に係る特許について、特許異議申立人である吉田 敦子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものであり、その後の経緯は、以下のとおりである。
令和 6年 5月31日付け 取消理由通知
同年 8月 2日 特許権者による意見書の提出
同年 9月27日 申立人による上申書の提出
同年10月25日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年12月25日 特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
令和 7年 2月 5日 特許権者による手続補正書(方式)の提出
同年 3月 7日付け 訂正請求があった旨の通知
同年 4月10日 申立人による意見書の提出
第2 本件訂正請求について
1 請求の趣旨、及び訂正の内容
令和 6年12月25日に提出され、令和 7年 2月 5日提出の手続補正書(方式)によって補正された訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。また、本件訂正請求書による訂正請求を以下「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を以下「本件訂正」という。)による訂正請求に係る請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項3について訂正することを求める、というものであり、本件訂正の内容は、以下のとおりである。なお、訂正箇所には、当合議体が下線を付した。
(1)訂正事項
訂正前の特許請求の範囲の請求項3に、
「羽口を有する高炉を用いて銑鉄を製造する銑鉄製造方法であって、
上記高炉内に鉱石原料を含む第1層とコークスを含む第2層とを交互に積層する工程と、
上記羽口から送風する熱風により補助燃料を高炉内へ吹込みつつ、積層された上記第1層の上記鉱石原料を還元及び溶解する工程と
を備え、
上記熱風を上記高炉の中心部まで通気させるための骨材が上記第1層に混合されており、
上記骨材が、還元鉄を圧縮成形した還元鉄成形体を含み、
上記還元鉄成形体が酸化アルミニウムを含み、
上記還元鉄成形体中の上記酸化アルミニウムの含有量が1.5質量%以下である銑鉄製造方法。」
と記載されていたのを、
「羽口を有する高炉を用いて銑鉄を製造する銑鉄製造方法であって、
上記高炉内に鉱石原料を含む第1層とコークスを含む第2層とを交互に積層する工程と、
上記羽口から送風する熱風により補助燃料を高炉内へ吹込みつつ、積層された上記第1層の上記鉱石原料を還元及び溶解する工程と
を備え、
上記熱風を上記高炉の中心部まで通気させるための骨材が上記第1層に混合されており、
上記骨材が、還元鉄を圧縮成形した還元鉄成形体を含み、
上記鉱石原料の平均粒径に対する上記還元鉄成形体の平均粒径の比が1.3以上であり、
上記還元鉄成形体が酸化アルミニウムを含み、
上記還元鉄成形体中の上記酸化アルミニウムの含有量が1.5質量%以下である銑鉄製造方法。」
に訂正する。
2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の目的について
上記訂正事項に係る訂正は、訂正前の請求項3に「上記鉱石原料の平均粒径に対する上記還元鉄成形体の平均粒径の比が1.3以上であり、」との特定事項を直列的に付加するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
(2)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否について
上記訂正事項に係る訂正は、上記(1)のとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。
(3)新規事項追加の有無について
本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「本件明細書等」という。)の【0032】には、「鉱石原料11の平均粒径に対する上記還元鉄成形体の平均粒径の比の下限としては、1.3であり、1.4がより好ましい。」との記載があるから、上記訂正事項に係る訂正は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものとはいえない。
したがって、上記訂正事項に係る訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(4)独立特許要件について
本件は、訂正前のすべての請求項について特許異議の申立てがされたものであるから、上記訂正事項について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 本件訂正請求についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項3について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2の3のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるから、本件特許の請求項1~6に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。なお、以下において、本件特許の請求項1~6に係る発明をそれぞれ「本件発明1」~「本件発明6」といい、総称して「本件発明」という。
「【請求項1】
羽口を有する高炉を用いて銑鉄を製造する銑鉄製造方法であって、
上記高炉内に鉱石原料を含む第1層とコークスを含む第2層とを交互に積層する工程と、
上記羽口から送風する熱風により補助燃料を高炉内へ吹込みつつ、積層された上記第1層の上記鉱石原料を還元及び溶解する工程と
を備え、
上記熱風を上記高炉の中心部まで通気させるための骨材が上記第1層に混合されており、
上記骨材が、還元鉄を圧縮成形した還元鉄成形体を含み、
上記還元鉄成形体の装入量が銑鉄1トン当たり100kg以上であり、
上記鉱石原料の平均粒径に対する上記還元鉄成形体の平均粒径の比が1.3以上であり、
上記還元鉄成形体のタンブラー回転試験後の通気抵抗指数が0.1以下である銑鉄製造方法。
【請求項2】
羽口を有する高炉を用いて銑鉄を製造する銑鉄製造方法であって、
上記高炉内に鉱石原料を含む第1層とコークスを含む第2層とを交互に積層する工程と、
上記羽口から送風する熱風により補助燃料を高炉内へ吹込みつつ、積層された上記第1層の上記鉱石原料を還元及び溶解する工程と
を備え、
上記熱風を上記高炉の中心部まで通気させるための骨材が上記第1層に混合されており、
上記骨材が、還元鉄を圧縮成形した還元鉄成形体を含み、
上記還元鉄成形体の塩基度が0.9以上1.4以下である銑鉄製造方法。
【請求項3】
羽口を有する高炉を用いて銑鉄を製造する銑鉄製造方法であって、
上記高炉内に鉱石原料を含む第1層とコークスを含む第2層とを交互に積層する工程と、
上記羽口から送風する熱風により補助燃料を高炉内へ吹込みつつ、積層された上記第1層の上記鉱石原料を還元及び溶解する工程と
を備え、
上記熱風を上記高炉の中心部まで通気させるための骨材が上記第1層に混合されており、
上記骨材が、還元鉄を圧縮成形した還元鉄成形体を含み、
上記鉱石原料の平均粒径に対する上記還元鉄成形体の平均粒径の比が1.3以上であり、
上記還元鉄成形体が酸化アルミニウムを含み、
上記還元鉄成形体中の上記酸化アルミニウムの含有量が1.5質量%以下である銑鉄製造方法。
【請求項4】
羽口を有する高炉を用いて銑鉄を製造する銑鉄製造方法であって、
上記高炉内に鉱石原料を含む第1層とコークスを含む第2層とを交互に積層する工程と、
上記羽口から送風する熱風により補助燃料を高炉内へ吹込みつつ、積層された上記第1層の上記鉱石原料を還元及び溶解する工程と
を備え、
上記熱風を上記高炉の中心部まで通気させるための骨材が上記第1層に混合されており、
上記骨材が、還元鉄を圧縮成形した還元鉄成形体を含み、
上記鉱石原料が、気孔径が4μm以上の粗大開気孔の気孔率が21%以上であり、かつ圧潰強度が180kg/P以上の鉄鉱石ペレットを含む銑鉄製造方法。
【請求項5】
羽口を有する高炉を用いて銑鉄を製造する銑鉄製造方法であって、
上記高炉内に鉱石原料を含む第1層とコークスを含む第2層とを交互に積層する工程と、
上記高炉の中心部にコークス及び還元鉄成形体の混合物を装入する工程と、
上記羽口から送風する熱風により補助燃料を高炉内へ吹込みつつ、積層された上記第1層の上記鉱石原料を還元及び溶解する工程と
を備え、
上記熱風を上記高炉の中心部まで通気させるための骨材が上記第1層に混合されており、
上記骨材が、還元鉄を圧縮成形した還元鉄成形体を含み、
上記混合物における上記還元鉄成形体のうち、粒径5mm以上の還元鉄成形体が占める割合が90質量%以上であり、
上記混合物における上記還元鉄成形体の含有量が75質量%以下である銑鉄製造方法。
【請求項6】
羽口を有する高炉を用いて銑鉄を製造する銑鉄製造方法であって、
上記高炉内に鉱石原料を含む第1層とコークスを含む第2層とを交互に積層する工程と、
上記羽口から送風する熱風により補助燃料を高炉内へ吹込みつつ、積層された上記第1層の上記鉱石原料を還元及び溶解する工程と
還元鉄成形体に由来する粉体及び石炭を微粉砕する工程と
を備え、
上記熱風を上記高炉の中心部まで通気させるための骨材が上記第1層に混合されており、
上記骨材が、還元鉄を圧縮成形した還元鉄成形体を含み、
上記微粉砕工程で、粉砕する還元鉄成形体の粒径が3mm以下であり、微粉砕後の還元鉄成形体の平均粒径が100μm以下であり、
上記補助燃料として上記微粉砕工程で得られる微粉体を含める銑鉄製造方法。」
第4 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として下記5の甲第1号証~甲第6号証(以下「甲1」等という。)を提出し、以下の理由により、本件訂正前の請求項1~6に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
1 申立理由1(新規性;取消理由として不採用)
(1)申立理由1-1
本件訂正前の請求項3に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由1-2
本件訂正前の請求項3に係る発明は、甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由2(進歩性;取消理由として採用)
(1)申立理由2-1
本件訂正前の請求項3に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2、甲3に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2-2
本件訂正前の請求項3に係る発明は、甲2に記載された発明に基いて、又は、甲2に記載された発明及び甲1、甲4の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
3 申立理由3(サポート要件;取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項に係る発明の課題は、「高炉の安定操業を維持しつつコークスの使用量を低減できる銑鉄製造方法の提供」にあると認められ、本件特許の発明の詳細な説明には、還元鉄成形体(骨材)を高炉の中心部まで比較的均一に存在させることにより、熱風を高炉の中心部まで通気させることができ、コークスの使用量を低減することができることが記載されている。
一方、本件訂正前の請求項1~6に係る発明は、骨材が高炉の中心部に存在しない態様、すなわち上記課題が解決できることを当業者が認識できない態様を包含するものであるから、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。
したがって、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~6の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
4 申立理由4(明確性;取消理由として不採用)
本件特許の発明の詳細な説明には、本件訂正前の請求項1~6に係る発明の「上記熱風を上記高炉の中心部まで通気させるための骨材が上記第1層に混合されており」との特定について、「還元鉄成形体が高炉の中心部まで比較的均一に存在するので、融着帯で骨材効果を発揮し、上記熱風を上記高炉の中心部まで確実に通気させることができるようになる。従って、コークスの使用量を低減することができる。」(【0015】)と記載されている。
しかしながら、甲1のFig.6及びFig.17の記載、及び当業者の常識(例えば甲5のFig.9の記載参照)からみて、還元鉄成形体(HBI)を高炉の半径方向で均一に装入して操業を行うと、中心部のガス流分布が抑制され、上記還元鉄成形体(HBI)が「熱風を」「高炉の中心部まで通気させる骨材」として機能するとはいえない。
そうすると、本件訂正前の請求項1~6に係る発明の「上記熱風を上記高炉の中心部まで通気させるための骨材が上記第1層に混合されており」との特定は、どのように骨材を装入すればよいのか不明であるから、本件訂正前の請求項1~6に係る発明は、明確でない。
したがって、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~6の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
5 証拠方法
甲1:Y. UJISAWA et al., Effect of HBI Charging on Blast Furnace Productivity, CAMP-ISIJ, Vol.22(2009), pp.282-285
甲2:宇治澤 優 他4名, HBI利用による高炉増産効果の検討, 鉄と鋼Tetsu-to-Hagane, Vol.92(2006), No.10, pp.13-22
甲3:内藤 誠章 他2名, 製銑技術の100年 -技術導入から先進技術への展開, そして次世代技術へ-, 鉄と鋼Tetsu-to-Hagane, Vol.100(2014), No.1, pp.2-30
甲4:大沼 孝 他4名, 名古屋1高炉における還元鉄高配合操業(還元鉄の高炉使用-2), CAMP-ISIJ, Vol.14(2001), pp.207
甲5:山本 亮二 他6名, 福山2高炉における装入物分布制御, 鉄と鋼, Vol.71(1985), No.2, 巻末A17-A20
甲6:特許第7339222号公報(本件特許の特許公報)
6 申立人が令和 6年 9月27日提出の上申書とともに提出した参考文献
申立人は、令和 6年 9月27日提出の上申書とともに、以下の参考文献を提出した。
参考文献1-1:田中 英年 他1名, 石炭ベース還元鉄HBI製造技術とその高炉使用, 鉄と鋼Tetsu-to-Hagane, Vol.92(2006), No.12, pp.330-336
参考文献1-2:国友 和也 他5名, 高炉操業に与える還元鉄の影響の基礎検討(還元鉄の高炉使用-1), CAMP-ISIJ, Vol.14(2001), pp.206
7 申立人が令和 7年 4月10日提出の意見書とともに提出した参考文献
申立人は、令和 7年 4月10日提出の意見書とともに、以下の参考文献を提出した。
参考文献2-1:鉄鋼新聞社編,鉄鋼辞典,工業図書出版株式会社,昭和40年 5月15日発行,第464頁
参考文献2-2:特開2015-199978号公報
参考文献2-3:特開2004-27265号公報
参考文献2-4:特開平11-43710号公報
第5 取消理由の概要
当合議体は、上記第4の申立理由2-1、2-2を採用し、令和 6年 5月31日付け取消理由通知、及び令和 6年10月25日付け取消理由通知(決定の予告)において、以下の取消理由1、2を通知した。
1 取消理由1(進歩性;申立理由2-1に対応)
本件訂正前の請求項3に係るは、甲1に記載された発明、甲1の記載事項及び周知・慣用の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 取消理由2(進歩性;申立理由2-2に対応)
本件訂正前の請求項3に係る発明は、甲2に記載された発明、及び甲2の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
第6 当合議体の判断
当合議体は、以下に述べるとおり、令和6年 5月31日付け取消理由通知及び令和 6年10月25日付け取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由、並びに特許異議申立ての理由のいずれによっても、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
1 申立理由1-1(新規性)、取消理由1(進歩性)及び申立理由2-1(進歩性)について
(1)甲1に記載された発明
本願の出願前に公知となった甲1(論文の表題:Effect of HBI Charging on Blast Furnace Productivity(HBI装入が高炉生産性に及ぼす影響))の「2. Characteristics of HBI」(2.HBIの特徴)、「3. Burden distribution behavior with use of HBI」(3.HBIを使用した装入物分布挙動)、「4. Evaluation of gas permeability based on basic experiment」(4.基礎実験に基づくガス透過性評価)、「5. HBI melting test using experimental blast furnace」(5.実験用高炉を用いたHBI溶融試験)及び「7. Use of HBI in actual blast furnace burdens」(7.実際の高炉装入物におけるHBIの使用)の各記載を総合勘案し、特に、「5. HBI melting test using experimental blast furnace」の記載、及び「2. Characteristics of HBI」の「Table 1」に記載されたHBI(ホットブリケットアイアン)の化学分析と物理的性質の記載に着目すると、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。なお、以下の発明は、申立人が提出した甲1の翻訳文の記載に基づいて認定したものである。
「羽口を有する実験用高炉(EBF)を用いて行ったHBI溶融試験において、
上記HBIは、当初ブリケットサイズが30×50×110mmであって、その複数のものが存在し、+80mmのトップサイズが粉砕され、-6mmは除去され、かつ、Al2O3:0.80質量%(当合議体注:甲1に明記はないが、技術常識に鑑み、「質量%」を意味すると認定した。)を含有するものであり、
上記実験用高炉内でコークス(Coke)の層と、HBIと焼結鉱(Sinter)を質量比50:50で含む層とを交互に積層して行ったHBI溶融試験。」(以下「甲1発明」という。)
(2)本件発明3について
ア 対比
本件発明3と甲1発明とを対比する。
(ア)本願出願時の技術常識によれば、甲1発明の「HBI溶融試験」が、「羽口を有する実験用高炉(EBF)を用いて」、「HBI」と「焼結鉱(Sinter)」から銑鉄を製造する方法に該当するものであることは、明らかであるから、甲1発明の「羽口を有する実験用高炉(EBF)を用いて行ったHBI溶融試験」は、本件発明3の「羽口を有する高炉を用いて銑鉄を製造する銑鉄製造方法」に相当する。
(イ)甲1発明の「上記実験用高炉内でコークス(Coke)の層と、HBIと焼結鉱(Sinter)を質量比50:50で含む層とを交互に積層」することは、本件発明3の「上記高炉内に鉱石原料を含む第1層とコークスを含む第2層とを交互に積層する工程」に相当する。
(ウ)本願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の【0027】の「本明細書において還元鉄成形体は鉱石原料11には含めない。」との記載によれば、甲1発明の「HBI」自体は、本件発明3の「鉱石原料」には相当しないものの、上記(ア)のとおり、甲1発明の「HBI溶融試験」は、「焼結鉱(Sinter)」から銑鉄を製造するものであるから、本件発明3と同様に「積層された上記第1層の上記鉱石原料を還元及び溶解する工程」を包含するものであることは、明らかである。
(エ)本件明細書の【0029】の「骨材12は、後述する融着帯Dの通気性を改善し、上記熱風を高炉1の中心部まで通気させるためのものである。」との記載、及び同じく【0032】の「鉱石原料11に対して一定以上大きい上記還元鉄成形体を骨材12として混合させると、上記還元鉄成形体の骨材効果が発現し易く、第1層10全体が層収縮することを抑止できる。」との記載からすると、本件発明3の「骨材」は、第1層全体の層収縮を抑止しつつ、融着帯Dの通気性を改善し、熱風を高炉の中心部まで通気させるように機能する物体を意味すると解される。
一方、甲1発明の「HBI」、すなわちホットブリケットアイアンは、本願出願時の技術常識に照らして、還元鉄を熱間圧縮成形したものであることは明らかであり、また、「当初ブリケットサイズが30×50×110mmであって、その複数のものが存在し、+80mmのトップサイズが粉砕され、-6mmは除去され、かつ、Al2O3:0.80質量%を含有するものであ」るから、上記(イ)の点も考慮すると、本件発明3の「骨材」と甲1発明の「HBI」とは、「第1層に」含まれるものであって、「還元鉄を圧縮成形した還元鉄成形体を含み、」「上記還元鉄成形体が酸化アルミニウムを含み、」「還元鉄成形体中の上記酸化アルミニウムの含有量が1.5質量%以下である」物体である限りにおいて共通する。
(オ)甲1発明の「実験用高炉」は、「羽口」を有するものであり、当該羽口からは、送風する熱風が高炉内に吹き込まれることは明らかであるから、本件発明3と甲1発明とは、「上記羽口から送風する熱風」「を高炉内へ吹込」んでいる点で共通する。
(カ)そうすると、本件発明3と甲1発明とは、
「羽口を有する高炉を用いて銑鉄を製造する銑鉄製造方法であって、
上記高炉内に鉱石原料を含む第1層とコークスを含む第2層とを交互に積層する工程と、
上記羽口から送風する熱風を高炉内へ吹込みつつ、積層された上記第1層の上記鉱石原料を還元及び溶解する工程と
を備え、
物体が上記第1層に含まれており、
上記物体が、還元鉄を圧縮成形した還元鉄成形体を含み、
上記還元鉄成形体が酸化アルミニウムを含み、
上記還元鉄成形体中の上記酸化アルミニウムの含有量が1.5質量%以下である銑鉄製造方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点1-1>
羽口から送風する熱風を高炉内へ吹込みつつ、積層された上記第1層の上記鉱石原料を還元及び溶解する工程において、本件発明3は、熱風により補助燃料を高炉内へ吹込みつつ実施するのに対して、甲1発明は、補助燃料を吹き込んでいるか否か不明である点。
<相違点1-2>
第1層に含まれる物体が、本件発明3では「骨材」であり、当該「骨材」は、「熱風を高炉の中心部まで通気させるための」ものであって、「第1層に混合されて」いるものであるのに対して、甲1発明では「HBI」であり、「骨材」であるか否か不明であり、当該「HBI」は、焼結鉱と同じ層に含まれてはいるものの、熱風を高炉の中心部まで通気させるために、焼結鉱と混合されているものか否か不明である点。
<相違点1-3>
本件発明3は、「上記鉱石原料の平均粒径に対する上記還元鉄成形体の平均粒径の比が1.3以上であ」るのに対して、甲1発明は、これらの平均粒径の比が1.3以上であるか否か不明である点。
イ 相違点についての検討
(ア)相違点1-1について
a 甲1の記載事項及び本願出願時の技術常識を考慮しても、甲1発明において、羽口から送風する熱風によって補助燃料が高炉内へ吹き込まれていると断言することはできないから、上記相違点1-1は、実質的な相違点である。
b しかしながら、高炉の操業効率を向上する等の目的で、羽口から送風する熱風によって補助燃料を高炉内に吹き込みつつ操業することは、本願出願当時既に周知・慣用の技術にすぎず(例えば、城本 義光、「特集 一般炭の利用 高炉への微粉炭吹き込み」、燃料協会誌、第56巻第607号(1977)、第909~916頁等参照)、甲1発明において、操業効率を向上する観点から、当該周知・慣用の技術を採用し、その羽口から熱風とともに補助燃料を吹き込むこと、すなわち上記相違点1-1に係る特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たことといえる。
(イ)相違点1-2について
a 甲1には、「5.実験用高炉を用いたHBI溶融試験」に至る基礎実験として、焼結体(焼結鉱)とHBIとを完全に混合し、径方向に混合比が均一に分布するように高炉内に装入した「3-1 実験室規模の実験」及び「3-2 実際の高炉での装入試験」が実施されたことが記載され、また、これらを前提として、HBI/焼結混合物のガス透過性を評価する「4.基礎実験に基づくガス透過性評価」が実施されたことが記載されている。
b ここで、甲1発明の認定の基礎となった「5.実験用高炉を用いたHBI溶融試験」が、上記aの各基礎実験を踏まえたものであることを考慮すれば、甲1発明において、高炉内に積層するHBIと焼結鉱とを含む層を、両者が完全に混合し、径方向に混合比が均一に分布するように装入する構成とすることは、極めて自然であって、当業者が容易に想到し得たことといえる。
c そして、甲1の「4.基礎実験に基づくガス透過性評価」、「5.実験用高炉を用いたHBI溶融試験」、及び「7.実際の高炉装入物におけるHBIの使用」の結果(特に、HBIの使用による、高炉内(特に融着帯)のガス流抵抗乃至圧力損失の減少)を考慮すれば、甲1発明において、圧縮成形されたHBIと焼結鉱とを含む層を、両者が完全に混合し、径方向に混合比が均一に分布するように装入して高炉内に積層する構成とすることによっても、高炉内(特に融着帯)のガス流抵抗乃至圧力損失が減少することは、明らかであり、また、HBIが、羽口から送風された熱風を高炉の中心部まで通気させるとともに、焼結鉱を含む層全体の層収縮を抑制するように骨材として機能することも、当業者にとって明らかである。
d したがって、甲1発明において、上記相違点1-2に係る特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たことといえる。
(ウ)相違点1-3について
a 甲1の記載事項及び本願出願時の技術常識を考慮しても、甲1発明において、「鉱石原料」である「焼結鉱(Sinter)」の平均粒径と、「還元鉄成形体」である「HBI」の平均粒径との比が1.3以上であるか否かは不明であると言わざるを得ないから、上記相違点1-3は実質的な相違点である。
b この点、申立人は、令和 7年 4月10日提出の意見書の「(2)「鉱石原料の平均粒径に対する還元鉄成形体の平均粒径の比が1.3以上」についての特許権者の主張に対する反論」において、「「決定の予告」で認定された甲1発明における「+80mmのトップサイズが粉砕され、-6mmは除去され、かつ、Al2O3:0.80質量%」である高炉試験用のHBIは、(甲1の下記)Fig.1における「HBI_BFuse」に相当する」との前提を置いた上で、「平均粒子径(平均粒径)として、調和平均粒子径、重み付き平均粒子径、算術平均粒子径のいずれを採用しても、甲1発明において、鉱石原料(焼結鉱)の平均粒径に対する還元鉄成形体(HBI)の平均粒径の比は、1.3以上になるから、「鉱石原料の平均粒径に対する還元鉄成形体の平均粒径の比が1.3以上」である点は、本件発明3と甲1発明との一致点であり、相違点にはならない」と主張している。
「
[図:0001429973000001.jpg]
」
c しかしながら、甲1のFig.1に示された「HBI_BFuse」のサイズ分布によれば、6mm未満の粒径のものが少なからず存在していることが見て取れるから、「甲1発明における「+80mmのトップサイズが粉砕され、-6mmは除去され、かつ、Al2O3:0.80質量%」である高炉試験用のHBI」がFig.1における「HBI_BFuse」に相当するという前提自体が成立していない。
d また、仮にその前提は正しいとしても、「Fig.1のプロット(点)は篩目と考えられ、篩下の重量分率が縦軸に記載されていると解することができるから、Fig.1の各篩目、代表粒径(中央値)および重量分率を読み取」って、各代表粒径の値に基づいて、「調和平均粒子径」及び「重み付き平均粒子径」を算出することは、上記Fig.1のプロットが篩目であるとは断言できないことや、篩目間の代表粒径(中央値)を採用することが、真の粒径分布を必ずしも反映したものとはいえないことから、妥当とはいえない。
さらに、甲1のTable.1に「Sinter」(焼結鉱)の「Size」が「10-25mm」と記載され、「HBI」の「Size」が「30-100mm」と記載されているからといって、これらの値の範囲の下限値と上限値の単純な算術平均が真の粒径分布におけるそれぞれの算術平均粒子径に対応するものでないことは、明らかである。
e したがって、いずれにしても、申立人による上記bの主張は、前提を欠くものであるから、採用できない。
f 次に上記相違点1-3の容易想到性について検討する。
(a)甲1の「6. Quantification of effect of using HBI by model」の項には、「HBI使用による粒子径増大と高温通気性の改善により塊状帯と炉下部のガス通気抵抗は低下する。」との記載がある。
(b)上記(a)の記載によれば、甲1発明において、高温通気性の改善により塊状帯と炉下部のガス通気抵抗を低下させるために、焼結鉱(Sinter)にHBIを加えて粒子径の増大を図ろうとする動機付けが存在するといえ、その際に、HBIと焼結鉱(Sinter)の平均粒子径の比を1.3以上となるように設定すること、すなわち上記相違点1-3に係る特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たことといえる。
(エ)本件発明3によって奏される効果について
a 本件発明3は、「高炉の安定操業を維持しつつコークスの使用量を低減できる」との効果を奏するもの(本件明細書【0020】)であり、また、「上記鉱石原料の平均粒径に対する上記還元鉄成形体の平均粒径の比が1.3以上であ」ることによって、「還元鉄成形体の骨材効果が発現し易く、第1層10全体が層収縮することを抑止できる」(同【0032】)との効果を奏するものであると認められるところ、さらに、本件明細書の図11に示された「実施例におけるHBI粒径比と最大圧損との関係を示すグラフ」(下記参照)によれば、上記平均粒径の比を1.3以上と設定することには、最大圧損の顕著な低下、すなわち通気性の顕著な改善が得られるという臨界的意義を有するものと認められる。
「【図11】
[図:0001429973000002.jpg]
」
b そうすると、本件発明3によって奏される上記aの効果は、甲1発明、甲1の記載事項、上記(ア)bの周知・慣用の技術、及び本願出願時の技術常識を考慮しても、当業者の予測の範囲を超える、格別顕著なものといえる。この点は、甲2、甲3の記載事項を参照しても同様である。
ウ 申立理由1-1、取消理由1及び申立理由2-1についてのむすび
したがって、本件発明3は、甲1に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるとはいえないから、申立理由1-1によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
そして、本件発明3は、甲1に記載された発明、甲1の記載事項及び周知・慣用の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、又は甲1に記載された発明及び甲2、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、取消理由1又は申立理由2-1によっては、同発明に係る特許を取り消すことができない。
2 申立理由1-2(新規性)、取消理由2(進歩性)及び申立理由2-2(進歩性)について
(1)甲2に記載された発明
本願の出願前に公知となった甲2(論文の表題:HBI利用による高炉増産効果の検討)の「1.緒言」、「3・1 基礎実験によるHBIの溶解挙動の調査」、及び「3・2 試験高炉試験によるHBI使用評価」の各記載を総合勘案し、特に、Fig.11に記載された試験高炉を使用し、羽口からの微粉炭吹き込みを行い、Table.3に示されたHBI(塊状還元鉄)を使用した試験高炉操業に着目すると、甲2には、次の発明が記載されていると認められる。
「炉床径は、0.9mで内容積は3.8m3で、炉頂にはコークスホッパーと鉱石原料切り出し装置を装備し、3本の羽口を備えた試験高炉の炉内に、コークス、HBI、鉱石の順で交互に、半径方向均一な層構造を形成するように装入し、3本の羽口から800℃の送風を熱風炉より送り込み、177kg/hの微粉炭を吹き込んで実施された試験高炉操業であって、
上記HBIは、Al2O3を0.8質量%(当合議体注:甲2に明記はないが、技術常識に鑑み、「質量%」を意味すると認定した。)含有するものである、
試験高炉操業。」(以下「甲2発明」という。)
(2)本件発明3について
ア 対比
本件発明3と甲2発明とを対比する。
(ア)本願出願時の技術常識によれば、甲2発明の「試験高炉操業」が、「3本の羽口を備えた試験高炉」を用いて、炉内に装入した「HBI」と「鉱石」から銑鉄を製造する方法に該当するものであることは、明らかであるから、甲2発明の「3本の羽口を備えた試験高炉」を用いて実施された「試験高炉操業」は、本件発明3の「羽口を有する高炉を用いて銑鉄を製造する銑鉄製造方法」に相当する。
(イ)甲2発明の「炉内に、コークス、HBI、鉱石の順で交互に、半径方向均一な層構造を形成するように装入」することは、積層構成のHBIと鉱石の層と、コークスの層とを交互に積層しているとみることができるから、本件発明3の「上記高炉内に鉱石原料を含む第1層とコークスを含む第2層とを交互に積層する工程」に相当する。
(ウ)上記(ア)のとおり、甲2発明の「試験高炉操業」は、炉内に装入した「鉱石」から銑鉄を製造するものであるから、本件発明3と同様に「積層された上記第1層の上記鉱石原料を還元及び溶解する工程」を包含するものであることは、明らかである。また、甲2発明の「3本の羽口を備えた試験高炉の炉内に、コークス、HBI、鉱石の順で交互に、半径方向均一な層構造を形成するように装入し、3本の羽口から800℃の送風を熱風炉より送り込み、177kg/hの微粉炭を吹き込」むことは、本件発明3の「積層された上記第1層の上記鉱石原料を還元及び溶解する工程」において、「上記羽口から送風する熱風により補助燃料を高炉内へ吹込」むことに相当する。
(エ)甲2発明の「HBI」、すなわち塊状還元鉄は、本願出願時の技術常識に照らして、還元鉄を熱間圧縮成形したものであることは明らかであり、また、積層構成のHBIと鉱石の層に含まれるものであるから、甲2発明の「Al2O3を0.8質量%含有する」「HBI」と、本件発明3の「骨材」とは、「第1層」に含まれるものであって、「還元鉄を圧縮成形した還元鉄成形体を含み、」「上記還元鉄成形体が酸化アルミニウムを含み、」「還元鉄成形体中の上記酸化アルミニウムの含有量が1.5質量%以下である」物体である限りにおいて共通する。
(オ)そうすると、本件発明3と甲2発明とは、
「羽口を有する高炉を用いて銑鉄を製造する銑鉄製造方法であって、
上記高炉内に鉱石原料を含む第1層とコークスを含む第2層とを交互に積層する工程と、
上記羽口から送風する熱風により補助燃料を高炉内へ吹込みつつ、積層された上記第1層の上記鉱石原料を還元及び溶解する工程と
を備え、
物体が上記第1層に含まれており、
上記物体が、還元鉄を圧縮成形した還元鉄成形体を含み、
上記還元鉄成形体が酸化アルミニウムを含み、
上記還元鉄成形体中の上記酸化アルミニウムの含有量が1.5質量%以下である銑鉄製造方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点2-1>
第1層に含まれる物体が、本件発明3では「骨材」であり、当該「骨材」は、「熱風を高炉の中心部まで通気させるための」ものであって、「第1層に混合されて」いるものであるのに対して、甲2発明では「HBI」であり、「骨材」であるか否か不明であり、当該「HBI」は、炉内に、半径方向均一な層構造を形成するように装入されてはいるものの、鉱石と混合されてはおらず、熱風を高炉の中心部まで通気させるものか否か不明である点。
<相違点2-2>
本件発明3は、「上記鉱石原料の平均粒径に対する上記還元鉄成形体の平均粒径の比が1.3以上であ」るのに対して、甲2発明は、これらの平均粒径の比が1.3以上であるか否か不明である点。
イ 相違点についての検討
(ア)相違点2-1について
a 甲2の記載事項及び本願出願時の技術常識を考慮しても、上記相違点2-1が実質的な相違点であることは、明らかである。
b 次に上記相違点2-1の容易想到性について検討する。
(a)甲2の「3・1 基礎実験によるHBIの溶解挙動の調査」については、「黒鉛坩堝の最下層にコークスを一層敷き、その上部に焼結鉱とHBIを混合した充填層を形成させた後、高炉内で受ける昇温・ガス組成・荷重状態を模擬した条件下で、坩堝内の鉄原料が軟化収縮、溶解、滴下する過程での通気抵抗を測定し、・・・通気抵抗指数(KS値)を算出した。」(第593頁左欄第1~6行、「・・・」は記載の省略を表す。)と記載されている。
(b)ここで、甲2発明の認定の基礎となった「3・2 試験高炉試験によるHBI使用評価」における「試験高炉操業」が、上記aの基礎実験を踏まえたものであることを考慮すれば、甲2発明において、高炉内に半径方向均一な層構造を形成するように装入された「HBI」と「鉱石」の層を、上記aの基礎実験のように、両者を混合した層構造に変更することは、当業者が容易に想到し得たことといえる。
(c)そして、甲2の「3・1 基礎実験によるHBIの溶解挙動の調査」に基づく「HBIの高炉使用を想定した場合、出銑比向上・還元材比低減のみならず、通気性改善に大きく寄与するものと考えられる」(第593頁右欄下から2行~第594頁左欄第1行、Fig.10)との結果、HBIの「骨材効果により層内の空隙率が維持され」る旨の記載(第593頁右欄第2~3行)、及び「3・2試験高炉試験によるHBI使用評価」に基づく「HBIの多量使用により塊状帯ならびに先に示した高温荷重軟化試験の結果通り、融着帯での通気抵抗は大幅に改善する」(第598頁左欄最下行~右欄第2行)との結果を考慮すれば、甲2発明において、圧縮成形された「HBI」が、「鉱石」とともに混合され、高炉内に半径方向均一な層構造を形成するように装入されることによっても、高炉内(特に融着帯)の通気性改善に寄与することは、明らかであり、また、HBIが、羽口から送風された熱風を高炉の中心部まで通気させるとともに、鉱石を含む層全体の層収縮を抑制するように骨材として機能することも、当業者にとって明らかである。
(d)したがって、甲2発明において、上記相違点2-1に係る特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たことといえる。
(イ)相違点2-2について
a 甲2の記載事項及び本願出願時の技術常識を考慮しても、甲2発明において、「鉱石原料」である「鉱石」の平均粒径と、「還元鉄成形体」である「HBI」の平均粒径との比が1.3以上であるか否かは不明であると言わざるを得ないから、上記相違点2-2は実質的な相違点である。
b この点、申立人は、令和 7年 4月10日提出の意見書の「(2)「鉱石原料の平均粒径に対する還元鉄成形体の平均粒径の比が1.3以上」についての特許権者の主張に対する反論」において、「甲第2号証の上記Fig.8において、粒子径が15-20mmの焼結鉱、粒子径が25-30mmのHBIの平均粒径は、算術平均粒子径が、焼結鉱については(15mm+20mm)/2=17.5mm、HBIについては(25mm+30mm)/2=27.5mmとなり、焼結鉱の平均粒径に対するHBIの平均粒径の比は、27.5/17.5≒1.57となるから、1.3以上であることは明らかである。したがって、甲第2号証にも、焼結鉱の平均粒径に対するHBIの平均粒径の比を1.3以上にして、HBIに骨材効果を持たせて、炉上部で通気性を確保することが示されているといえる」と主張している。
c しかしながら、甲2のFig.8に「Sinter size(mm)」が「15-20」であり、「HBI size(mm)」が「25-30」である「Case4」について記載されているからといって、これらの値の範囲の下限値と上限値の単純な算術平均が真の粒径分布におけるそれぞれの算術平均粒子径に対応するものでないことは、明らかである。
d したがって、申立人による上記bの主張は、前提を欠くものであるから、採用できない。
e 次に上記相違点2-2の容易想到性について検討する。
(a)甲2の「3・2・2 試験結果 (1)出銑速度・還元材比の比較」の項には、「但し、HBI装入量が増加するほど、炉頂温度が上昇して増産勾配は低下する傾向であった。これは鉄源の平均粒径の上昇が原因と考えられる。炉内通気抵抗はHBI50%以上で大幅に低下した。」との記載がある。
(b)上記(a)の記載によれば、甲2発明において、炉内通気抵抗を低下させるために、HBI装入量を増加させて、鉄源の平均粒径の上昇を図ろうとする動機付けが存在するといえ、その際に、鉱石とHBIの平均粒子径の比を1.3以上となるように設定すること、すなわち上記相違点2-2に係る特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たことといえる。
(ウ)本件発明3によって奏される効果について
a 本件発明3は、「高炉の安定操業を維持しつつコークスの使用量を低減できる」との効果を奏するもの(本件明細書【0020】)であり、また、「上記鉱石原料の平均粒径に対する上記還元鉄成形体の平均粒径の比が1.3以上であ」ることによって、「還元鉄成形体の骨材効果が発現し易く、第1層10全体が層収縮することを抑止できる」(同【0032】)との効果を奏するものであると認められるところ、さらに、本件明細書の図11に示された「実施例におけるHBI粒径比と最大圧損との関係を示すグラフ」(上記1(2)イ(エ)a参照)によれば、上記平均粒径の比を1.3以上と設定することには、最大圧損の顕著な低下、すなわち通気性の顕著な改善が得られるという臨界的意義を有するものと認められる。
b そうすると、本件発明3によって奏される上記aの効果は、甲2発明、甲2の記載事項、及び本願出願時の技術常識を考慮しても、当業者の予測の範囲を超える、格別顕著なものといえる。この点は、甲1、甲4の記載を参照しても同様である。
ウ 申立理由1-2、取消理由2及び申立理由2-2についてのむすび
したがって、本件発明3は、甲2に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるとはいえないから、申立理由1-2によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
そして、本件発明3は、甲2に記載された発明、甲2の記載事項及び周知・慣用の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、又は甲2に記載された発明及び甲1、甲4の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、取消理由2又は申立理由2-2によっては、同発明に係る特許を取り消すことができない。
3 申立理由3(サポート要件)について
(1)本件明細書の【0002】~【0006】の記載、特に【0003】の特許文献1に記載された「高炉周辺部に小粒径の還元鉄を限定装入する高炉操業方法」の記載からすると、本件発明が解決しようとする課題は、「高炉の安定操業を維持しつつ(何らかの代替手段によりコークスの果たす役割を補いながら)、特許文献1の従来方法よりもさらにコークスの使用量を低減できる銑鉄製造方法の提供」にあると認められる(下線は、強調のために当合議体が付したものである。)。
(2)そして、本件明細書の【0008】の「骨材として還元鉄を圧縮成形した還元鉄成形体を含む。この還元鉄成形体により、溶解工程で第1層の軟化融着時に熱風が通過し易くなるため、当該銑鉄製造方法では、通気性を確保するためのコークスの量が少なくて済む。従って、当該銑鉄製造方法を用いることで高炉の安定操業を維持しつつコークスの使用量を低減することができる。」との記載によれば、上記(1)の課題は、軟化融着時に熱風が通過し易くなるものではなく、スペーサとしてのコークスの機能を代替するものではない「小粒径の還元鉄」に替えて、スペーサとしてのコークスの機能を代替可能な「還元鉄を圧縮成形した還元鉄成形体を含む」「骨材」を用いることで、高炉内の中心部の通気性を確保し、安定操業の維持しつつ、その分、さらにコークスの使用量を低減可能とすることにより解決できることを当業者であれば理解できる。
(3)一方、本件発明1~6は、いずれも「熱風を上記高炉の中心部まで通気させるための骨材が上記第1層に混合されて」いること、「骨材が、還元鉄を圧縮成形した還元鉄成形体を含」むことを特定事項として含むから、骨材が高炉の中心部まで存在するか否かに拘わらず、上記(2)の課題解決手段は反映されているといえる。
(4)なお、本件明細書の【0003】、【0005】、【0006】の記載からすると、本件発明が解決しようとする課題は、「高炉の安定操業を維持しつつ(すなわち、何らかの代替手段によりコークスの果たす役割を補いながら)コークスの使用量を低減できる銑鉄製造方法の提供」にあるとも認められる。
(5)そして、本件明細書の【0008】の記載によれば、上記(4)の課題は、「鉱石原料を含む第1層が、骨材として還元鉄を圧縮成形した還元鉄成形体を含む」ことで「熱風が通過し易くなる」ため、適切に「コークスの使用量を低減」すれば、「高炉の安定操業を維持しつつ」(すなわち、コークスの果たす役割を補いながら)「コークスの使用量を低減」することで解決できることを当業者であれば理解できるといえる。
(6)一方、本件発明1~6は、いずれも「還元鉄を圧縮成形した還元鉄成形体を含」む「骨材が上記第1層に混合」されているので、骨材が高炉の中心部まで存在するか否かに拘わらず、上記(5)の課題解決手段が反映されているといえる。
(7)したがって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~6の記載は、本件発明1~6について、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載した範囲を超えるものとはいえないから、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。
(8)申立理由3についてのむすび
よって、本件特許の請求項1~6の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものであるから、申立理由3によっては、同請求項に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由4(明確性)について
(1)本件特許の特許請求の範囲の請求項1~6には、「上記熱風を上記高炉の中心部まで通気させるための骨材が上記第1層に混合されており」との記載がある。
(2)そして、上記(1)の記載が、熱風を高炉の中心部まで通気させるように機能する「骨材」が「第1層に混合」されていることを意味していることは明らかであり、第三者の不測の不利益を及ぼす程に不明確であるとはいえない。
(3)この点、申立人は、特許異議申立書の第44頁第13行~第46頁第13行において、甲1のFig.6及びFig.17、並びに甲5のFig.9を参照しつつ、「HBIを高炉の半径方向で均一に装入した例では、中心部のガス流分布が抑制されたことを表しているから、HBIは、熱風を高炉の中心部まで通気させるための骨材として機能しているとはいえない。したがって、本件発明1~6の「上記熱風を上記高炉の中心部まで通気させるための骨材が上記第1層に混合されており」という特定は、どのように骨材を装入したらよいのか不明であるから、明確でない。」と主張している。
(4)しかしながら、仮に、HBIを均一に装入すると、高炉の中心部のガス流分布が抑制されるとしても、そのことによって、「上記熱風を上記高炉の中心部まで通気させるための骨材が上記第1層に混合されており」との記載の意味が不明確になるわけではないから、上記(3)の主張は採用しない。
(5)なお、念のため検討するに、本件明細書の実施例の記載に従って実施すれば、第1層に混合した骨材によって、熱風を高炉の中心部に通気させることは十分可能といえるから、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1~6について、発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものといえる。
(6)申立理由4についてのむすび
よって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~6の記載は、本件発明1~6について、特許を受けようとする発明が明確であり、特許法第36条第6項第2号に適合するものであるから、申立理由4によっては、同請求項に係る特許を取り消すことはできない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、令和 6年 5月31日付け取消理由通知により通知した取消理由、令和 6年10月25日付け取消理由通知(決定の予告)により通知した取消理由、及び申立人による特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700185