特許異議申立
2024-700380
鉄鉱石ペレット
- 審判番号
- 2024-700380
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-148362
- 登録番号
- 7374870
- 請求日
- 2024年04月19日
- 審決日
- 2025年09月12日
- 公報発行日
- 2026年02月27日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】株式会社神戸製鋼所
- 【権利者代理人】池田 義典
- 【権利者代理人】天野 一規
- 【権利者代理人】藤本 勝誠
- 【権利者代理人】石田 耕治
- 【異議申立人】脇谷 治義
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 猛
- 審判官 石川 雄太郎
- 審判官 酒井 英夫
- 分類
- P1651.113-ZDA(C22B) / P1651.121-ZDA(C22B) / P1651.537-ZDA(C22B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項2号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第5項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第7項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7374870号発明「鉄鉱石ペレット」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7374870号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~3について訂正することを認める。
特許第7374870号の請求項1に係る特許を取り消す。
特許第7374870号の請求項2、3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7374870号の請求項1~3に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、令和 2年 9月 3日の出願であって、令和 5年10月27日にその特許権の設定登録がなされ、同年11月 7日に特許掲載公報が発行された。
その後、令和 6年 4月19日に特許異議申立人脇谷 治義(以下「申立人」という。)により、請求項1~3(全請求項)に係る特許に対して特許異議の申立てがされ、以降の本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は、以下のとおりである。
令和 6年 8月30日付け :取消理由通知書
令和 6年10月30日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
令和 6年12月24日 :申立人による意見書の提出
令和 7年 3月28日付け :取消理由通知書(決定の予告)
なお、上記取消理由通知書(決定の予告)において、特許権者に意見があれば指定期間内に意見書を提出するよう通知したが、特許権者は応答しなかった。
第2 訂正の請求について
1 請求の趣旨、及び、訂正の内容
令和 6年10月30日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の請求は、本件特許の特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~3について訂正することを求めるものであり、その内容は以下のとおりである。なお、訂正箇所には、当合議体が下線を付した。
(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「高炉操業に用いられる鉄鉱石ペレットであって、気孔径が4μm以上の粗大開気孔の気孔率が21%以上であり、」と記載されているのを、「高炉操業に用いられる鉄鉱石ペレットであって、副原料として、石灰石およびドロマイトを含み、気孔径が4μm以上の粗大開気孔の気孔率が21%以上であり、」に訂正する。
(2)訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2に「粒径4.7μm以下の微粉の含有量が8質量%以上である請求項1に記載の鉄鉱石ペレット。」と記載されているのを、「高炉操業に用いられる鉄鉱石ペレットであって、気孔径が4μm以上の粗大開気孔の気孔率が21%以上であり、圧潰強度が180kg/P以上であり、粒径4.7μm以下の微粉の含有量が8質量%以上である鉄鉱石ペレット。」に訂正する。
(3)訂正事項3
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3に「粒径4.7μm以下の微粉を含み、分散している微粉が複数個集合し、二次粒子を形成している状態である微粉の凝集構造を有する請求項1又は請求項2に記載の鉄鉱石ペレット。」と記載されているのを、「高炉操業に用いられる鉄鉱石ペレットであって、気孔径が4μm以上の粗大開気孔の気孔率が21%以上であり、圧潰強度が180kg/P以上であり、粒径4.7μm以下の微粉を含み、分散している微粉が複数個集合し、二次粒子を形成している状態である微粉の凝集構造を有する鉄鉱石ペレット。」に訂正する。
2 訂正の適否についての当合議体の判断
(1)訂正の目的の適否、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無
ア 訂正事項1について
(ア)訂正の目的の適否、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、新規事項の有無について
訂正事項1に係る訂正は、願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)の【0022】の記載を根拠として、訂正前の請求項1の「鉄鉱石ペレット」について、「副原料として、石灰石およびドロマイトを含」むことを特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当し、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえず、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)の記載から導き出される技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
(イ)申立人の主張について
申立人は、本件明細書等には、副原料として石灰石とドロマイトの両方を含むことは記載されていないから、訂正事項1に係る訂正は新規事項を追加するものであると主張する。
しかしながら、本件明細書の【0022】には、「鉄鉱石ペレット1は、副原料を含んでもよい。このような副原料としては、石灰石、ドロマイトなどを挙げることができる。」との記載があり、また、鉄鉱石ペレットにおいて、副原料として石灰石とドロマイトの両方を含むものが知られている(下記第3に示した甲第6号証)ことも踏まえると、本件明細書等には、副原料として石灰石とドロマイトの両方を含むことが記載されているといえる。
よって、申立人の主張は採用できない。
イ 訂正事項2について
訂正事項2に係る訂正は、請求項2について、本件訂正前は請求項1を引用するものであったところ、請求項1との引用関係を解消し、独立形式の請求項に改めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。」を目的とするものに該当し、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえず、本件明細書等の記載から導き出される技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
ウ 訂正事項3について
訂正事項3に係る訂正は、請求項3について、本件訂正前は請求項1又は請求項2を引用するものであったところ、請求項1を引用するものとし、かつ、請求項1との引用関係を解消し、独立形式の請求項に改めるものである。
したがって、該訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするもの、及び、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。」を目的とするものにも該当する。また、該訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえず、本件明細書等の記載から導き出される技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。
したがって、該訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
(2)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~3について、訂正前の請求項2~3は訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1~3は一群の請求項である。
そして、本件訂正は、上記一群の請求項ごとに訂正の請求をするものであるから、特許法第120条の5第4項に適合するものである。
また、本件訂正について別の訂正単位とする求めはないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1~3〕を訂正単位とする訂正を請求するものである。
(3)独立特許要件について
本件は、訂正前の全請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1~3について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(4)訂正の請求についてのむすび
以上のとおりであるから、令和 6年10月30日提出で特許権者が行った訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~3〕についての訂正を認める。
第3 特許異議申立て
1 本件特許発明
令和 6年10月30日提出で特許権者が行った請求項1~3についての訂正は、上記第2で検討したとおり適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~3に係る発明は、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、以下において、本件特許の請求項1~3に係る発明を「本件特許発明1」~「本件特許発明3」といい、総称して「本件特許発明」ということがある。
「【請求項1】
高炉操業に用いられる鉄鉱石ペレットであって、
副原料として、石灰石およびドロマイトを含み、
気孔径が4μm以上の粗大開気孔の気孔率が21%以上であり、
圧潰強度が180kg/P以上である鉄鉱石ペレット。
【請求項2】
高炉操業に用いられる鉄鉱石ペレットであって、
気孔径が4μm以上の粗大開気孔の気孔率が21%以上であり、
圧潰強度が180kg/P以上であり、
粒径4.7μm以下の微粉の含有量が8質量%以上である鉄鉱石ペレット。
【請求項3】
高炉操業に用いられる鉄鉱石ペレットであって、
気孔径が4μm以上の粗大開気孔の気孔率が21%以上であり、
圧潰強度が180kg/P以上であり、
粒径4.7μm以下の微粉を含み、
分散している微粉が複数個集合し、二次粒子を形成している状態である微粉の凝集構造を有する鉄鉱石ペレット。」
2 特許異議申立理由
申立人は、証拠方法として次の甲第1~7号証を提出し、以下の特許異議申立理由により、本件訂正前の請求項1~3に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。
(証拠方法)
甲第1号証:Jian-liang Zhang et al.,“ Effect of aluminum oxide on the compressive strength of pellets”, International Journal of Minerals, Metallurgy and Materials, April 2014, Volume 21, Number 4, Page 339-344
甲第2号証:甲第1号証の書誌的事項掲載ページ、2024年4月15日印刷(https://link.springer.com/article/10.1007/s12613-014-0914-9)
甲第3号証:土屋脩他、「MgO含有自溶性ペレットの焼成時における鉱物組織変化」、鉄と鋼、社団法人日本鉄鋼協会、昭和55年11月1日、Vol.66、No.13、第1830~1839頁
甲第4号証:L. Bentell et al.,“Developments in the Quality of Pellets Made from Rich Magnetite Concentrates”,Scandinavian Journal of Metallurhy 1984,Vo.13,p308-315
甲第5号証:Srinivas Dwarapudi et al.,“Effect of pellet basicity and MgO content on the quality and microstructure of hematite pellets”,International Journal of Mineral Processing,2011,Vol.99,p43-53
甲第6号証:佐伯修他、「含MgO自溶性ペレットについて.(第1報)(ドロマイト添加ペレットの製造について)」、鉄と鋼、社団法人日本鉄鋼協会、昭和51年9月3日、Vol.62、No.11、第S429頁
甲第7号証:山口晋一他、「グレートキルン ペレダイジングプロセス」、神戸製鋼技報、Apr.2010、Vol.60、No.1、第12~21頁
(以下、甲第1号証~甲第7号証を「甲1」等という。)
なお、甲1、甲2は、特許異議申立書とともに提出されたものであり、また、甲3~甲7は、令和 6年12月24日提出の意見書とともに提出されたものである。
(1)申立理由1(新規性)
本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するため、同発明に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(取消理由として採用)。
(2)申立理由2(サポート要件)
本件特許の本件訂正前の請求項1~3の「気孔径が4μm以上の粗大開気孔の気孔率が21%以上であ」るとの記載は、「気孔径」の上限が特定されていないから、同請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである(取消理由として不採用)。
(3)申立理由3(明確性要件)
本件特許の本件訂正前の請求項1~3の「気孔径が4μm以上の粗大開気孔の気孔率が21%以上であ」るとの記載は、「気孔径」、「気孔率」の各数値範囲について下限のみが示されている点で明確でないから、同請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである(取消理由として不採用)。
3 取消理由の概要
(1)当合議体は、令和 6年 8月30日付けで、上記2の(1)を採用して以下の取消理由1を通知するとともに、職権で以下の取消理由2を通知した。
ア 取消理由1(新規性)
上記2の(1)と同様。
イ 取消理由2(進歩性)
本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるため、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)また、当合議体は、令和 7年 3月28日付けの取消理由通知書(決定の予告)で次の新たな取消理由3、4を通知した。
ア 取消理由3(明確性要件)
本件特許の本件訂正後の請求項1に係る発明は、「鉄鉱石ペレット」という物の発明であるが、副原料の石灰石及びドロマイトは焼成の過程で変化し、焼成後の「鉄鉱石ペレット」には、石灰石及びドロマイトの状態で残るわけではないから、「副原料として、石灰石およびドロマイトを含み、」との記載は、製造に関して経時的な要素の記載がある場合に該当するため、当該請求項にはその物の製造方法が記載されているといえる。
ここで、物の発明に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という)が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号、平成24年(受)第2658号)。
しかしながら、本件明細書には不可能・非実際的事情について何ら記載がなく、当業者にとって不可能・非実際的事情が存在することについて明らかであるともいえない。
よって、本件特許の本件訂正後の請求項1の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえない。
したがって、本件特許の本件訂正後の請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
イ 取消理由4(明確性要件)
本件特許の本件訂正後の請求項1には、「副原料として、石灰石およびドロマイトを含み、」と記載されているが、「鉄鉱石ペレット」において副原料として添加された石灰石及びドロマイトは焼成の過程で変化し、焼成後の「鉄鉱石ペレット」には、石灰石及びドロマイトの状態で残るわけではないから、「副原料として、石灰石およびドロマイトを含」む本件特許の本件訂正後の請求項1に係る発明の「鉄鉱石ペレット」は、副原料として、石灰石及びドロマイトではなく、別のCaO源やMgO源を加えた「鉄鉱石ペレット」と区別することができない。
よって、本件特許の本件訂正後の請求項1の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえない。
したがって、本件特許の本件訂正後の請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
第4 当合議体の判断
以下に述べるとおり、当合議体は、上記第3に示した取消理由3、4により、本件特許の本件訂正後の請求項1の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえないから、同請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものであると判断する。
また、当合議体は、上記第3に示した申立理由2、3のいずれによっても、本件特許の本件訂正後の請求項2、3に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
1 取消理由3(明確性要件)
(1)本件特許発明1は、「鉄鉱石ペレット」という物の発明であるが、副原料の石灰石及びドロマイトは焼成の過程で変化し、焼成後の「鉄鉱石ペレット」には、石灰石及びドロマイトの状態で残るわけではないから、「副原料として、石灰石およびドロマイトを含み、」との記載は、製造に関して経時的な要素の記載がある場合に該当するため、当該請求項にはその物の製造方法が記載されているといえる。
ここで、物の発明に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という)が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号、平成24年(受)第2658号)。
しかしながら、本件明細書には不可能・非実際的事情について何ら記載がなく、当業者にとって不可能・非実際的事情が存在することについて明らかであるともいえない。
よって、本件特許の本件訂正後の請求項1の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえない。
(2)なお、当合議体は、令和 7年 3月28日付けの取消理由通知書(決定の予告)で、上記(1)の内容の取消理由3を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者は応答しなかった。
(3)したがって、本件特許の本件訂正後の請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
2 取消理由4(明確性要件)
(1)請求項1には、「副原料として、石灰石およびドロマイトを含み、」と記載されている。
(2)そして、「鉄鉱石ペレット」において、副原料の石灰石やドロマイトは、焼成の過程で脱炭酸し、酸化鉄成分と反応してカルシウムフェライトやマグネシオフェライトを形成したり、脈石成分とスラグを形成したりすることが広く知られている。すなわち、副原料の石灰石及びドロマイトは焼成の過程で変化し、焼成後の「鉄鉱石ペレット」には、石灰石及びドロマイトの状態で残るわけではない。
(3)また、副原料の石灰石及びドロマイトは、CaOやMgOの成分調整のため添加されるが、CaO源やMgO源は必ずしも石灰石やドロマイトのみではない。すなわち、例えば、CaO源としては生石灰が存在し、MgO源としてはカンラン岩が存在する。
(4)そうすると、「副原料として、石灰石およびドロマイトを含」む本件特許発明1の「鉄鉱石ペレット」は、副原料として、石灰石及びドロマイトではなく、別のCaO源やMgO源を加えた「鉄鉱石ペレット」と区別することができない。
(5)よって、本件特許の本件訂正後の請求項1の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえない。
(6)なお、当合議体は、令和 7年 3月28日付けの取消理由通知書(決定の予告)で、上記(1)~(5)の内容の取消理由4を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者は応答しなかった。
(7)したがって、本件特許の本件訂正後の請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
3 申立理由2(サポート要件)について
(1)請求項1~3には、「鉄鉱石ペレット」に関し、「気孔径が4μm以上の粗大開気孔の気孔率が21%以上であり、 圧潰強度が180kg/P以上である」ことの記載がある。
(2)一方、本願の願書に添付した明細書又は図面(以下、「本件明細書等」という。)には、以下の記載がある(なお、下線は当合議体が付したものである。以下同様。)。
ア 「【0005】
高炉操業においては、昨今のCO2削減の要求からコークスの使用量のさらなる削減が求められている。気孔を増やして鉱石原料の還元性を向上させる方法が考えられる。ところが、上記従来の鉄鉱石ペレットでは径が比較的大きい気孔により気孔率を制御しているため、気孔率を増加させても鉄鉱石ペレットの単位重量当たりの表面積は増加し難い。還元性を向上させるためには、直径10μm以上の気孔の体積を大きく増加させる必要が生じる。この場合、鉄鉱石ペレットの圧潰強度が低下し易い。圧潰強度が低下すると、鉄鉱石ペレットが高炉内で粉化し易くなるため高炉内の通気抵抗が増大し、高炉の安定操業に支障をきたす可能性が高くなる。
【0006】
つまり、上記従来の鉄鉱石ペレットではさらなる還元性の向上が難しく、コークスの使用量のさらなる削減のためには、新たな性状の鉄鉱石ペレットが求められている。
【0007】
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、高炉操業において、コークスの使用量のさらなる削減を可能とする性状を有する鉄鉱石ペレットの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述のように鉄鉱石ペレットの還元性を向上させるためには、圧潰強度の低下を抑止しつつ、鉄鉱石ペレットの単位重量当たりの表面積を増加させる必要がある。本発明者らが鋭意検討した結果、気孔径が4μm以上の粗大開気孔の気孔率を制御すれば、還元性を向上させた鉄鉱石ペレットを製造し得ることを見出し、本発明を完成させた。」
イ 「【0027】
気孔13は、当該鉄鉱石ペレット1の外部にまで通じている開気孔13aと、ペレットの内部で閉じている閉気孔13bとがある。つまり、図1の拡大断面図に示すように、開気孔13aは、その一部が当該鉄鉱石ペレット1の表面に接しているのに対し、閉気孔13bは、粗粒11及び微粉12により取り囲まれている。一般に開気孔13aと閉気孔13bとを合わせた全気孔13の体積比率で気孔率が決定されるが、当該鉄鉱石ペレット1の気孔13のうち、高炉内の還元ガスと接触するのは開気孔13aのみであるから、鉱石原料の還元性を向上させるためには、開気孔13aの気孔率が重要である。
【0028】
また、気孔率が一定である場合、開気孔13aの気孔径が小さいほど当該鉄鉱石ペレット1の表面積は大きくなる。しかし、開気孔13aの気孔径が小さいと、開気孔13a内部に還元ガスが拡散し難くなる。このため、開気孔13aには、ある一定以上の気孔径が必要であると考えられる。一方、気孔率が大きくなると、当該鉄鉱石ペレット1の圧潰強度が低下し、高炉内で粉化し易くなるという不都合が生じる。
【0029】
本発明者らが、鋭意検討した結果、気孔径が4μm以上の粗大開気孔13aの気孔率を制御すれば、当該鉄鉱石ペレット1の還元性を向上できることを見出した。つまり、気孔径が4μm以上の粗大開気孔13aの気孔率の下限としては21%であり、23%がより好ましく、25%がさらに好ましい。上記開気孔13aの気孔率が上記下限未満であると、当該鉄鉱石ペレット1の還元性の向上が不十分となり、高炉操業においてコークスの使用量の削減が十分に行えないおそれがある。
【0030】
一方、気孔率を高くすると圧潰強度は低下するため、上記開気孔13aの気孔率の上限は、圧壊強度が一定値未満とならない範囲とされる。この圧潰強度の下限としては、180kg/Pであり、190kg/Pがより好ましく、200kg/Pがさらに好ましい。圧潰強度が上記下限未満であると、当該鉄鉱石ペレット1が高炉内で粉化し易くなり、高炉操業が困難となるおそれがある。」
ウ 「【0063】
実施例1、実施例2及び比較例1の鉄鉱石ペレットについて、気孔径が4μm以上の粗大開気孔の気孔率と、圧潰強度とを測定した。上記粗大開気孔率は、水銀圧入式ポロシメータ(島津製作株式会社の「オートポアIII9400」)を用いて測定した鉄鉱石ペレットの開気孔率ε0[%]、鉄鉱石ペレットの単位重量当たりの全細孔容積A[cm3/g]、鉄鉱石ペレットの単位重量当たりの気孔径4μm以上の全細孔容積A+4[cm3/g]として、ε0×A+4/A[%]で算出した。圧潰強度は、試料を乗せるターンテーブル、駆動装置及びロードセルからなる公知の圧潰強度試験機を用いて測定した。結果を図4に示す。
【0064】
図4の結果から、有機バインダを加えて造粒水の粘度を15mPa・s以上とした当該鉄鉱石ペレットの製造方法では、気孔径が4μm以上の粗大開気孔の気孔率が21%以上であり、圧潰強度が180kg/P以上である鉄鉱石ペレットを容易に製造することができることが分かる。これに対し、造粒水の粘度が15mPa・s未満である比較例1の鉄鉱石ペレットでは、気孔径が4μm以上の粗大開気孔の気孔率及び圧潰強度がともに低いことが分かる。」
エ 「【図1】
[図:0001432024000001.jpg]
」
オ「【図4】
[図:0001432024000002.jpg]
」
(3)ア 上記(2)アの記載からすると、本件特許発明において解決すべき課題(以下「課題」という。)は、高炉操業において、コークスの使用量のさらなる削減を可能とする性状を有する鉄鉱石ペレットを得ることである。
イ そして、上記(2)アに示した【0008】をみるに、上記課題の解決には、圧潰強度の低下を抑止しつつ、単位重量当たりの表面積を増加させた鉄鉱石ペレットを用いることで、該鉄鉱石ペレットの還元性を向上させる必要があると認められ、上記(2)イ、ウに示した【0029】、【0030】、【0064】の記載からみて、気孔径が4μm以上の粗大開気孔の気孔率が21%以上であり、圧潰強度が180kg/P以上である鉄鉱石ペレットは、圧潰強度の低下を抑止しつつ、単位重量当たりの表面積を増加させるものであり、鉄鉱石ペレットの還元性を向上させ、上記課題を解決できることが理解できる。
ウ 上記ア、イを総合すると、本件特許発明1~3において特定された、「気孔径が4μm以上の粗大開気孔の気孔率が21%以上であり、 圧潰強度が180kg/P以上である」「鉄鉱石ペレット」は、上記課題を解決できるものである。
エ 申立人は、異議申立書において、本件明細書【0005】の「上記従来の鉄鉱石ペレットでは径が比較的大きい気孔により気孔率を制御しているため、気孔率を増加させても鉄鉱石ペレットの単位重量当たりの表面積は増加し難い」という記載を挙げ、気孔径が比較的大きい気孔の気孔率を増加させても、表面積が増加しなければ本件特許発明の課題である還元性向上を実現することはできないことを主張する(第11頁第24~末行)。
オ しかし、上記エの【0005】の記載は、径が比較的大きい気孔により気孔率を増加させても鉄鉱石ペレットの単位重量当たりの表面積は増加し難いといった定性的な事項を説明するものにすぎず、気孔率を増加させても表面積が増加しないと述べているわけではなく、径が比較的大きい気孔であっても気孔率を増加させれば、表面積はそれなりに増加することが理解できるから、上記エの主張は採用できない。
また、上記【0005】において、「従来の鉄鉱石ペレット」として認識されているのは、【0003】に示された「10μm以上の気孔の体積を0.01cm3/g」としたものである。それに対し、本件特許発明は、「従来の鉄鉱石ペレット」よりも低い気孔径を下限とする「気孔径が4μm以上」の開気孔の気孔率を特定するものである。そして、技術常識を勘案するに、気孔径の小さい開気孔が鉄鉱石ペレットの表面積の増大に寄与することは明らかであるから、この点からも申立人の上記エの主張には理由がない。
カ さらに、申立人は、異議申立書において、本件特許発明は、実施例とは異なる他の方法・条件によって製造され、実施例1や2の鉄鉱石ペレットの気孔径の分布を大きく超え、圧潰強度が180kg/P以上である鉄鉱石ペレットも発明の範囲に含むものであるが、そのような鉄鉱石ペレットについて、還元性が向上することを示す具体例や説明は本件明細書に何ら記載されておらず、課題を解決できることが裏付けられていないことも主張する(第12頁第16~21行)が、上記イ、ウに示したとおり、「気孔径が4μm以上の粗大開気孔の気孔率が21%以上であり、圧潰強度が180kg/P以上である」「鉄鉱石ペレット」は、その製造条件等を問わず上記課題を解決できるものである。
(4)したがって、本件特許の本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1~3の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものといえ、特許法第36条第6項第1号に適合するものであるから、申立理由2によっては、同請求項に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由3(明確性要件)
(1)請求項1~3の記載は、上記第3の1のとおりのものであるところ、請求項1について上記1、2に示した点以外においては、請求項1~3の記載に不明確なところはなく、いずれもその意味は明確である。
(2)申立人は、異議申立書において、請求項1~3には、「気孔径が4μm以上の粗大開気孔の気孔率が21%以上であ」るとの記載があり、「気孔径」、「気孔率」について下限のみを特定するものであるから、本件特許発明1~3の範囲が不明確であると主張する(第13頁第13~18行)が、「気孔径」、「気孔率」の下限のみを特定しているからといって、本件特許発明1~3の範囲を不明確とするものとはいえないから、上記主張は採用できない。
(3)したがって、本件特許の本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1~3のうち、請求項2、3の記載は、特許を受けようとする発明が明確であり、特許法第36条第6項第2号に適合するものであるから、申立理由3によっては、同請求項に係る特許を取り消すことはできない。
また、本件特許の本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、申立人が主張する上記(2)の理由によっては、特許を受けようとする発明が明確ではないとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものとはいえないから、申立人が主張する上記(2)の理由に基づく申立理由3によっては、同請求項に係る特許を取り消すことはできない。
5 申立理由1、取消理由1、取消理由2(新規性、進歩性)
(1)甲1の記載事項
甲1には、次の記載がある。なお、翻訳は当合議体による。また、下線は当合議体で付した。以下、同様である。
ア 「1. Experimental
1.1. Raw materials
The magnetic iron ore was acquired from a large iron and steel enterprise in northern China. Its composition is shown in Table 1.
[図:0001432024000003.jpg]
As shown in Table 1, the magnetite iron ore used in the experiment has a high grade of 67wt%. The FeO content is high, which is beneficial to solid-phase consolidation. Gangue is less, and the content of harmful elements is low. Therefore, this magnetite is a good raw material for pelletization [6].
Bentonite was added to the pellets at a concentation of 2wt%. The composition and bonding properties of bentonite are shown in Table 2 and 3.
[図:0001432024000004.jpg]
」(第339頁右欄第10行~第340頁右欄第3行)
(訳)「1.実験
1.1.原材料
マグネタイトは中国北部の大手鉄鋼企業から入手した。その組成を表1に示す。
『表1 実験に使用したマグネタイトの化学組成』
(当合議体注:表1の詳細は省略)
表1に示すように、実験で使用したマグネタイトは67wt%の高品位である。FeO含有量が高く、固相圧密に有利である。脈石は少なく、有害元素の含有量は低い。したがって、このマグネタイトはペレット化に適した原料である[6]。
ベントナイトは2wt%の濃度でペレットに添加された。ベントナイトの組成と結合特性は表2と表3に示されている。
『表2 実験に使用したベントナイトの化学組成』
(当合議体注:表2の詳細は省略)」
イ 「1.2. Experimental methods
Mixed with additional moisture (8±0.5)wt%, a series of Al2O3 green pellets with compositions listed in Table 4 were made by using a balling disc. The green pellets were subsequently placed into a constant-temperature drying box at 105℃ for 4 h. 10-12.5 mm balls were elected from each group of dry pellets and weighed approximately 30g, which were used for oxidizing roasting.
[図:0001432024000005.jpg]
The process of oxidizing roasting was conducted in a temperature-programmed tubular resistance furnace. The green pellets were placed in the resistance furnace at 900℃. The temperature inside the furnace was then increased to 1280℃ at a rate of 5℃/min and maintained at 1280℃ for 20 min [8]. Air was allowed to flow through the furnace via the air compressor and control cabinet at a flow rate of 1.5 L/min during the whole process. When the roasting process was completed, the pellets were allowed to cool to room temperature along with the furnace, and the experimental oxidized pellets were subsequently obtained [9-10].」(第340頁左欄第10行~右欄第4行)
(訳)「1.2. 実験方法
追加の水分(8±0.5)wt%を混合し、ボールディスクを使用して、表4にリストされている組成の一連のAl2O3グリーンペレットを作成した。その後、グリーンペレットを105℃の恒温乾燥ボックスに4時間入れた。乾燥ペレットの各グループから10~12.5mmのボールを選択し、重量は約30gで、酸化焙焼に使用した。
『表4 造粒混合物の組成』
(当合議体注:表4の詳細は省略)
酸化焙焼のプロセスは、温度プログラムされた管状抵抗炉で行われた。グリーンペレットを900℃の抵抗炉に入れた。次に、炉内の温度を5℃/分の速度で1280℃まで上げ、1280℃で20分間維持した[8]。プロセス全体を通して、空気はエアコンプレッサーと制御キャビネットを介して1.5L/分の流量で炉に流入した。焙焼プロセスが完了すると、ペレットは炉とともに室温まで冷却され、その後、実験用の酸化ペレットが得られた[9-10]。」
ウ 「The compressive strength of six groups of pellets was measured using a pressure test machine. Each group was measured in six replicate trials. The pore size distribution and porosity of each group of pellets were measured using a mercury injection apparatus.」(第340頁右欄第6~10行)
(訳)「6つのグループのペレットの圧縮強度を圧力試験機で測定した。各グループは6回繰り返して測定された。各グループのペレットの細孔サイズ分布と多孔度は水銀注入装置で測定された。」
エ 「2. Results and discussion
The compressive strength of the six groups of pellets is shown in Fig. 2. As evident in Fig. 2, the compressive strength of the pellets increased slightly and then decreased gradually with increasing Al2O3 content. When the Al2O3 content in the pellets was increased from 1wt% to 1.5wt%, the compressive strength increased from 3307 N to 3403 N. However, when the Al2O3 content was further increased to 3.5wt%, the compressive strength decreased from 3403 N to 2855 N.
The pore size distribution and porosity of the six groups of pellets were measured using the mercury injection apparatus, and the results are shown in Fig. 3.
As shown in Fig. 3, when the Al2O3 content was increased from 1wt% to 1.5wt%, the porosity decreased slightly. However, when the Al2O3 content was increased from 1.5wt% to 3.5wt%, the porosity increased gradually from 22% to 27% and the main peak of pore diameter increased from 5μm to 18μm. These results indicate that an increase in the Al2O3 content resulted in a larger internal pore size and a more scattered pore size distribution [11].
[図:0001432024000006.jpg]
[図:0001432024000007.jpg]
」(第340頁右欄最後から2行~第341頁右欄第2行)
(訳)「2.結果と考察
6グループのペレットの圧縮強度を図2に示す。図2から明らかなように、ペレットの圧縮強度はAl2O3含有量の増加とともにわずかに増加し、その後徐々に減少した。ペレットのAl2O3含有量が1wt%から1.5wt%に増加すると、圧縮強度は3307Nから3403Nに増加した。しかし、Al2O3含有量がさらに3.5wt%に増加すると、圧縮強度は3403Nから2855Nに減少した。
6グループのペレットの細孔サイズ分布と多孔度は、水銀注入装置を使用して測定され、その結果が図3に示されている。
図3に示すように、Al2O3含有量が1wt%から1.5wt%に増加すると、多孔度はわずかに減少した。しかし、Al2O3含有量が1.5wt%から3.5wt%に増加すると、多孔度は22%から27%に徐々に増加し、気孔径の主ピークは5μmから18μmに増加した。これらの結果は、Al2O3含有量の増加により、内部気孔サイズが大きくなり、気孔サイズ分布がより分散していることを示している[11]。
『図2 Al2O3含有量がペレットの圧縮強度に与える影響。』
(当合議体注:図2の詳細は省略)
『図3 Al2O3含有量がペレットの多孔度(a)と細孔分布(b)に与える影響。』
(当合議体注:図3の詳細は省略)」
(2)甲1に記載された発明
ア 上記(1)のア、イによれば、甲1には、表1に示された化学組成のマグネタイト、及び、表2に示された化学組成のベントナイトを用いて、表4に記載されている組成の造粒混合物から一連のAl2O3グリーンペレットを作成したことが記載されている。
イ そして、上記(1)のイの表4によれば、番号6の造粒混合物は、マグネタイト95.5wt%、Al2O32.5wt%、ベントナイト2wt%を混合したものである。ここで、上記(1)のアの表1及び表2を参照すると、マグネタイトにはAl2O3が0.80wt%含有し、ベントナイトにはAl2O3が13.95wt%含有しているから、番号6の造粒混合物のAl2O3含有量は0.955×0.008+0.025+0.02×0.1395=3.543wt%である。
ウ また、上記(1)のイによれば、追加の水分を混合し、番号6の造粒混合物からAl2O3グリーンペレットを作成し、その後、グリーンペレットを105℃の恒温乾燥ボックスに4時間入れ、その乾燥したグリーンペレットを900℃の抵抗炉に入れ、次に、炉内の温度を5℃/分の速度で1280℃まで上げ、1280℃で20分間維持して酸化焙焼し、ペレットを室温まで冷却し、その後、実験用の酸化ペレットを得た。
エ 上記(1)のウより、番号6の造粒混合物から得た酸化ペレットは、圧縮強度を圧力試験機により6回測定され、上記(1)のエの図2(上記イで算出したAl2O3含有量より、Al2O3含有量3.5wt%付近参照。)より、その測定結果は、概ね2700~3200N・pellet-1程度に分布され、その平均は2950N・pellet-1程度であることが読み取れる。
オ また、上記(1)のウより、番号6の造粒混合物から得た酸化ペレットは、多孔度が水銀注入装置により測定され、上記(1)のエの図3(a)(上記イで算出したAl2O3含有量より、Al2O3含有量3.5wt%付近参照。)より、その測定結果は、概ね27%程度であることが読み取れる。
カ 上記(1)のウより、番号6の造粒混合物から得た酸化ペレットは、細孔サイズ分布が水銀注入装置により測定され、上記(1)のエの図3(b)(上記イで算出したAl2O3含有量より、Al2O3含有量3.54wt%のグラフ参照。)より、その測定結果は概ね次のとおり読み取れる。
[図:0001432024000008.jpg]
キ 上記(1)及び上記ア~カより、甲1の番号6の造粒混合物から作成される酸化ペレットに注目すると、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。
「マグネタイト95.5wt%、Al2O32.5wt%、ベントナイト2wt%を混合した造粒混合物に、追加の水分を混合し、Al2O3グリーンペレットを作成し、その後、グリーンペレットを105℃の恒温乾燥ボックスに4時間入れ、その乾燥したグリーンペレットを900℃の抵抗炉に入れ、次に、炉内の温度を5℃/分の速度で1280℃まで上げ、1280℃で20分間維持して酸化焙焼し、ペレットを室温まで冷却して得た酸化ペレットであって、
圧縮強度が圧力試験機により6回測定され、その測定結果は、概ね2700~3200N・pellet-1程度に分布され、その平均は2950N・pellet-1程度であり、
多孔度が水銀注入装置により測定され、その測定結果は、概ね27%程度であり、
細孔サイズ分布が水銀注入装置により測定され、その測定結果は、概ね次のとおりである、酸化ペレット。
(細孔サイズ分布の測定結果)
孔径3μmの水銀侵入量が概ね0.24×102mL・g-1、
孔径7μmの水銀侵入量が概ね0.24×102mL・g-1、
孔径11μmの水銀侵入量が概ね0.16×102mL・g-1、
孔径12μmの水銀侵入量が概ね0.16×102mL・g-1、
孔径15μmの水銀侵入量が概ね0.56×102mL・g-1、
孔径17μmの水銀侵入量が概ね3.02×102mL・g-1、
孔径18μmの水銀侵入量が概ね3.50×102mL・g-1、
孔径21μmの水銀侵入量が概ね2.03×102mL・g-1、
孔径24μmの水銀侵入量が概ね0.20×102mL・g-1、
孔径26μmの水銀侵入量が概ね0.13×102mL・g-1、
孔径34μmの水銀侵入量が概ね0.11×102mL・g-1、
孔径36μmの水銀侵入量が概ね0.18×102mL・g-1、
孔径37μmの水銀侵入量が概ね0.28×102mL・g-1、
孔径39μmの水銀侵入量が概ね0.59×102mL・g-1である。」
(3)対比
ア 甲1発明の「酸化ペレット」は、鉄鉱石であるマグネタイト95.5wt%を含む造粒混合物から製造したものであるから、本件特許発明1の「鉄鉱石ペレット」に相当する。
イ 甲1発明の「細孔サイズ分布」及び「多孔度」の「測定結果」は、いずれも「水銀注入装置により測定され」たものであるから、開気孔についての測定結果であるところ、「多孔度が水銀注入装置により測定され、その測定結果は、概ね27%程度であ」る。すなわち、甲1発明は、開気孔の気孔率が概ね27%であるといえる。
また、甲1発明の「細孔サイズ分布」の「測定結果」について、気孔径が4μm未満の気孔は「孔径3μm」の気孔のみであるから、「孔径3μm」以外の全ての気孔が、本件特許発明1の「気孔径が4μm以上の粗大開気孔」に相当する。
そして、甲1発明の「細孔サイズ分布」の「測定結果」から、全開気孔のうち「気孔径が4μm以上の粗大開気孔」の割合を計算すると、概ね(0.24+0.16+0.16+0.56+3.02+3.5+2.03+0.2+0.13+0.11+0.18+0.28+0.59)/(0.24+0.24+0.16+0.16+0.56+3.02+3.5+2.03+0.2+0.13+0.11+0.18+0.28+0.59)=11.16/11.4=97.9%となる。
また、甲1発明は、「多孔度が水銀注入装置により測定され、その測定結果は、概ね27%程度であ」るから、甲1発明において、「気孔径が4μm以上の粗大開気孔の気孔率」は、27%×0.979=26.43%である。
そうすると、甲1発明の「細孔サイズ分布が水銀注入装置により測定され、その測定結果は、概ね次のとおりである」事項は、本件特許発明1の「気孔径が4μm以上の粗大開気孔の気孔率が21%以上であ」る事項に相当する。
「(細孔サイズ分布の測定結果)
孔径3μmの水銀侵入量が概ね0.24×102mL・g-1、
孔径7μmの水銀侵入量が概ね0.24×102mL・g-1、
孔径11μmの水銀侵入量が概ね0.16×102mL・g-1、
孔径12μmの水銀侵入量が概ね0.16×102mL・g-1、
孔径15μmの水銀侵入量が概ね0.56×102mL・g-1、
孔径17μmの水銀侵入量が概ね3.02×102mL・g-1、
孔径18μmの水銀侵入量が概ね3.50×102mL・g-1、
孔径21μmの水銀侵入量が概ね2.03×102mL・g-1、
孔径24μmの水銀侵入量が概ね0.20×102mL・g-1、
孔径26μmの水銀侵入量が概ね0.13×102mL・g-1、
孔径34μmの水銀侵入量が概ね0.11×102mL・g-1、
孔径36μmの水銀侵入量が概ね0.18×102mL・g-1、
孔径37μmの水銀侵入量が概ね0.28×102mL・g-1、
孔径39μmの水銀侵入量が概ね0.59×102mL・g-1である」
ウ 甲1発明は、「圧縮強度が圧力試験機により6回測定され、その測定結果は、概ね2700~3200N・pellet-1程度に分布され、その平均は2950N・pellet-1程度であ」るものである。
そして、「概ね2700~3200N・pellet-1程度」はkg換算で、2700/9.8~3200/9.8と変換することにより、概ね275.5~326.5kg・pellet-1程度となる。
そうすると、甲1発明の「圧縮強度が圧力試験機により6回測定され、その測定結果は、概ね2700~3200N・pellet-1程度に分布され、その平均は2950N・pellet-1程度であ」る事項は、本件特許発明1の「圧潰強度が180kg/P以上である」事項に相当する。
エ 上記ア~ウより、本件特許発明1と甲1発明とは、
「鉄鉱石ペレットであって、
気孔径が4μm以上の粗大開気孔の気孔率が21%以上であり、
圧潰強度が180kg/P以上である鉄鉱石ペレット。」の点で一致し、次の点で相違する。
<相違点1>
「鉄鉱石ペレット」について、本件特許発明1は、「高炉操業に用いられる」ものであるのに対し、甲1発明は、高炉操業に用いられるものであるか否かが不明である点。
<相違点2>
本件特許発明1は、「副原料として、石灰石およびドロマイトを含」むものであるのに対し、甲1発明は、「副原料として、石灰石およびドロマイトを含」むものではない点。
(4)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点2について検討する。
ア 相違点2が実質的な相違点であるかについて
甲1には、副原料として石灰石およびドロマイトを含むことについて特段の記載はなく、本願出願時の技術常識を考慮しても、甲1発明の「酸化ペレット」が上記相違点2にかかる本件特許発明1の特定事項を備えているとは認められない。
したがって、上記相違点2は、実質的な相違点である。
イ 相違点2の容易想到性について
(ア)鉄鉱石ペレットに、副原料として石灰石及びドロマイトを含ませることは、本願の出願前に公知となった甲6、甲7に記載されるように、当業者における周知技術である(下記a、b参照。)。
a 甲6には、以下の記載がある。
(a)「2.ドロマイト添加ペレットの製造
第1表に示すドロマイトを、他の石灰石および鉄鉱石と共に図1に示す様な乾式閉会路方式で、混合粉砕する。この粉砕原料(ブレーン値;2800~3300cm2/g)と精鉱(10~25%)とベントナイト(0.7~0.8%)とを混練して水分調整(8.8~9.0%)した後、パン型ペレタイザーで造粒し(造粒原料のブレーン値は2600~2800cm2/g)、グレートで乾燥、離水、予熱し、ロータリーキルンにて最終焼成する。
気孔率を26.0~26.5%と一定にするために、キルンでの焼成温度は1250から1310℃に上昇した。
成品ペレットの粒径は11~12mm、塩基度(CaO/SiO2)は、1.30~1.33である。」
(b)「
[図:0001432024000009.jpg]
」
b 甲7には、以下の記載がある。なお、以下、「・・・」は記載の省略を表す。
(a)「まえがき=・・・製鉄の方法として現在主流を占めているのは高炉による大規模製鉄と電気炉による中小規模製鉄である。高炉に装入される製鉄原料は塊鉱石,焼結鉱,ペレットであり,電気炉に装入される製鉄原料は鉄スクラップ,還元鉄ペレット,還元鉄ペレットから製造されるブリケットなどである。焼結鉱は 1~3mm程度の粗粉鉄鉱石を原料とし,燃料となる粉コークスの燃焼熱によって粉鉱石を部分的に溶融して結合させて15~30mmの鉄鋼原料にしたものである。一方,ペレットとは,焼結鉱よりさらに微粉の鉄鉱石を直径12mm程度の大きさの球状に造粒して焼成したものであり,高炉用の原料のみならず,天然ガスを産出する国で広まっているガスベース還元鉄製造プロセスの原料にも使用されている。」
(b)「1.2 原料前処理工程
ペレタイジング用原料として供給された鉄鉱石を後続の造粒工程で要求される性状の微粉原料に処理する工程で,選鉱,脱水,粉砕,乾燥,調湿などの工程がこの範囲に含まれる。
一般に低品位鉱は微粉砕され,鉄品位の向上,硫黄,りん,その他の不純物の除去,粒度調整が行われる。磁鉄鉱の鉄品位向上および不純物の除去には磁力選鉱が行われるが,赤鉄鉱に対しては比重選鉱や浮遊選鉱,あるいは湿式高磁力選鉱が行われている。・・・調湿工程では,乾式粉砕した原料に適度の水分を均一に添加・混合し,造粒工程に適した湿潤微粉を準備する。ペレットの品質に影響を与える微粉原料の特性を調整する工程である。良質な生ペレットを製造するため,鉄鉱石のバインダとして一般的にベントナイトや有機バインダを,また,目標とする化学組成を有する製品ペレットとすることを目的に石灰石やドロマイトを添加し,原料の化学組成を調整する工程でもある3)。」
(イ)しかしながら、上記(ア)のように、甲1発明に石灰石およびドロマイトを添加して製造されたペレットが、添加前のものと同様に「気孔径が4μm以上の粗大開気孔の気孔率が21%以上」、かつ、「圧潰強度が180kg/P以上」という特性を有するかどうかは不明であり、この点が新たな相違点となってしまう。そして、当該相違点について、当業者が容易に想到し得たことであるといえる根拠は見当たらない。
上記(ア)a(b)をみるに、甲6においては、石灰石およびドロマイトを含み、気孔率が25.8~26.6%であり、圧潰強度が322~334kg/Pのペレットが得られているものの、該「気孔率」が「気孔径が4μm以上の粗大開気孔」のものであるかは不明である。
(5)小括
以上のとおり、本件特許発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当しないものであるから、申立理由1、取消理由1によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、本件特許発明1は、甲6、甲7に記載された周知技術を勘案しても、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。したがって、取消理由2によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおり、本件特許の本件訂正後の請求項1の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえないから、同請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
また、申立人による特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項2、3に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に本件特許の請求項2、3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2024-700380