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特許異議申立

2022-700786

積層造形用銅合金粉末、積層造形物の製造方法及び積層造形物

審判番号
2022-700786
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-537945
登録番号
7008076
請求日
2022年08月09日
審決日
2023年08月31日
公報発行日
2023年11月24日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】JX金属株式会社
  • 【権利者代理人】アクシス国際弁理士法人
  • 【異議申立人】中川 賢治
審判長/審判官
  • 審判長 池渕 立
  • 審判官 佐藤 陽一
  • 審判官 山口 大志
分類
P1651.113-YAA(B22F) / P1651.121-YAA(B22F) / P1651.537-YAA(B22F) / P1651.536-YAA(B22F)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第9項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第1項第3号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7008076号発明「積層造形用銅合金粉末、積層造形物の製造方法及び積層造形物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7008076号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕、〔7、8〕について訂正することを認める。 特許第7008076号の請求項1~8に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7008076号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~8に係る特許についての出願は、2018年(平成30年) 6月15日(優先権主張 平成30年 4月11日 平成30年 2月 8日 平成29年 8月21日)を国際出願日とする出願(特願2019-537945号。以下、「本願」という。)であって、令和 4年 1月12日にその特許権の設定登録がなされ、同年 2月10日にその特許掲載公報が発行されたものである。 その後、同年 8月 9日付けで、特許異議申立人 中川 賢治(以下、「申立人」という。)により、本件特許の請求項1~8(全請求項)に係る特許に対して特許異議の申立てがなされた。 本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は、以下のとおりである。 令和 4年 8月 9日 :特許異議の申立て 11月21日付け:取消理由通知 令和 5年 1月24日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提 出 3月 7日 :申立人による意見書の提出 3月31日付け:取消理由通知(決定の予告) 4月21日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提 出 6月 2日 :申立人による意見書の提出 なお、令和 5年 1月24日提出の訂正請求書に基づく訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。 第2 訂正請求について 1 訂正請求の趣旨 令和 5年 4月21日になされた訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の趣旨は、特許第7008076号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~8について訂正することを求める、というものである。 2 訂正の内容 本件訂正請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を表す。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「銅に対して液相以下の温度で最大の固溶量が0.2at%未満である添加元素を0.1~12.0at%含有し、残部が銅及び不可避的不純物である、積層造形用銅合金粉末。」と記載されているのを「銅に対して液相以下の温度で最大の固溶量が0.2at%未満である添加元素を0.1~12.0at%含有し(ただし、前記添加元素のうち少なくとも一つの添加元素について、当該添加元素の含有量が当該添加元素の前記固溶量を超えるものとする)、残部が銅及び不可避的不純物である、積層造形用銅合金粉末。」に訂正する。 請求項1の記載を引用する請求項2~6も同様に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項7に「前記銅合金は、銅に対して液相以下の温度で最大の固溶量が0.2at%未満である添加元素を0.1~12.0at%含有し」と記載されているのを「前記銅合金は、銅に対して液相以下の温度で最大の固溶量が0.2at%未満である添加元素を0.1~12.0at%含有し(ただし、前記添加元素のうち少なくとも一つの添加元素について、当該添加元素の含有量が当該添加元素の前記固溶量を超えるものとする)、残部が銅及び不可避的不純物であり」に訂正する。 請求項7の記載を引用する請求項8も同様に訂正する。 3 訂正の適否についての当審の判断 (1)訂正事項1に係る訂正について ア 訂正の目的の適否について 訂正事項1に係る訂正は、添加元素の含有量を、「添加元素のうち少なくとも一つの添加元素について、当該添加元素の含有量が当該添加元素の固溶量を超えるものとする」との事項でさらに限定して、添加元素の少なくとも一つが析出する態様に限定する訂正であることから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。 イ 新規事項の追加の有無について (ア)後記第5に摘記する本願の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)には、以下の事項が記載されている。 a 「銅合金粉末は、銅に対する固溶量が0.2at%未満である添加元素を含有する。添加元素を含有することにより、純銅の場合と比較してより高い機械強度を有する積層造形物を得ることができる。また、銅に対する固溶量が0.2at%未満であれば、造形における急速な加熱及び冷却によっても、添加元素が銅に固溶した相の形成が抑制されるので、より高い導電率を得ることができる。」(段落【0013】) b 「これらの添加元素は、銅に対する固溶量がいずれも0.2at%未満であり、析出しやすいことから、積層造形物の機械強度を有意義に向上させることができるからである。」(段落【0014】) (イ)上記(ア)の記載事項からすると、本件訂正前の請求項1に係る発明は、銅に対する固溶量が0.2at%未満の添加元素、すなわち、固溶しにくく析出しやすい添加元素を含有させることにより、添加元素を析出させて銅合金の機械強度を向上しようとするものであるから、積層造形物となったときに、添加元素が析出していることを前提とした発明であると認められる。 (ウ)そうすると、訂正事項1に係る訂正は、添加元素の含有量についての上記前提を、「ただし、前記添加元素のうち少なくとも一つの添加元素について、当該添加元素の含有量が当該添加元素の前記固溶量を超えるものとする」との記載によって特定したものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について 上記アのとおり、訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 (2)訂正事項2に係る訂正について ア 訂正の目的の適否について (ア)訂正事項2に係る訂正のうち、「(ただし、前記添加元素のうち少なくとも一つの添加元素について、当該添加元素の含有量が当該添加元素の前記固溶量を超えるものとする)」を追加する訂正は、上記(1)アと同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。 (イ)訂正事項2に係る訂正のうち、「残部が銅及び不可避的不純物であり」を追加する訂正は、銅合金の化学組成における銅と添加元素以外の成分を「不可避的不純物」に限定して特定する訂正であることから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。 (ウ)よって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当する。 イ 新規事項の追加の有無について (ア)訂正事項2に係る訂正のうち、「(ただし、前記添加元素のうち少なくとも一つの添加元素について、当該添加元素の含有量が当該添加元素の前記固溶量を超えるものとする)」を追加する訂正は、上記(1)イと同様に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 (イ)訂正事項2に係る訂正のうち、「残部が銅及び不可避的不純物であり」を追加する訂正について、後記第5に摘記する本件明細書の段落【0025】には、「表に示されない残部は、銅及び不可避的不純物である。」と記載され、当該表には、各実施例について、添加元素の種類とその含有量が記載されており、当該添加元素と銅以外は不可避不純物のみが含有されていることが記載されている。 そうすると、訂正事項2に係る訂正のうち「残部が銅及び不可避的不純物であり」を追加する訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 (ウ)よって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について 上記アのとおり、訂正事項2に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 (3)独立特許要件について 本件特許異議の申立ては、本件訂正前のすべての請求項に対してされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 (4)一群の請求項について ア 本件訂正前の請求項2~6は、それぞれ請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであり、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1~6は一群の請求項である。 イ 本件訂正前の請求項8は、請求項7の記載を引用するものであり、訂正事項2によって訂正される請求項7に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項7、8は一群の請求項である。 ウ そして、本件訂正請求は、一群の請求項ごとにされたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。 4 訂正請求についてのまとめ 以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕、〔7、8〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 本件訂正は、上記第2で検討したとおり適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明8」といい、総称して「本件発明」ともいう。)は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 銅に対して液相以下の温度で最大の固溶量が0.2at%未満である添加元素を0.1~12.0at%含有し(ただし、前記添加元素のうち少なくとも一つの添加元素について、当該添加元素の含有量が当該添加元素の前記固溶量を超えるものとする)、残部が銅及び不可避的不純物である、積層造形用銅合金粉末。 【請求項2】 前記添加元素がW、Zr、Nb、Nd、Y、Mo、Os又はRuからなる群から選択される少なくとも一種である請求項1に記載の積層造形用銅合金粉末。 【請求項3】 平均粒子径D50が20~100μmである請求項1又は2に記載の積層造形用銅合金粉末。 【請求項4】 酸素濃度が1000wtppm以下である請求項1~3のいずれかに記載の積層造形用銅合金粉末。 【請求項5】 請求項1~4のいずれかに記載の積層造形用銅合金粉末を用いて積層造形物を製造する方法であって、 造形用のステージに前記銅合金粉末を敷き詰めて薄層を形成する工程と、 前記薄層に対し、造形すべき部分に電子ビームを照射して前記銅合金粉末を溶解させ、その後自然冷却により凝固させる工程、 を複数回繰り返して積層造形物を製造する方法。 【請求項6】 請求項1~4のいずれかに記載の積層造形用銅合金粉末を用いて積層造形物を製造する方法であって、 造形用のステージに前記銅合金粉末を敷き詰めて薄層を形成する工程と、 前記薄層に対し、造形すべき部分にレーザービームを照射して前記銅合金粉末を溶解させ、その後自然冷却により凝固させる工程、 を複数回繰り返して積層造形物を製造する方法。 【請求項7】 銅合金から構成される積層造形物であって、 前記銅合金は、銅に対して液相以下の温度で最大の固溶量が0.2at%未満である添加元素を0.1~12.0at%含有し(ただし、前記添加元素のうち少なくとも一つの添加元素について、当該添加元素の含有量が当該添加元素の前記固溶量を超えるものとする)、残部が銅及び不可避的不純物であり、理論密度に対する相対密度が98%以上であり、導電率が50%IACS以上であり、0.2%耐力が700MPa以上である、積層造形物。 【請求項8】 前記添加元素がW、Zr、Nb、Nd、Y、Mo、Os又はRuからなる群から選択される少なくとも一種である請求項7に記載の積層造形物。」 第4 特許異議の申立ての理由及び取消理由の概要 1 特許異議の申立ての理由の概要 申立人は、証拠方法として、後記する甲第1号証~甲第7号証を提出し、以下の申立理由1~4により、本件訂正前の本件特許の請求項1~8に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。 (1)申立理由1(新規性)(取消理由として不採用) 本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)申立理由2-1(進歩性)(取消理由として不採用) 本件訂正前の請求項1、3~8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3~6号証に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (3)申立理由2-2(進歩性)(取消理由として不採用) 本件訂正前の請求項2~8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3~7号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (4)申立理由2-3(進歩性)(取消理由として不採用) 本件訂正前の請求項1、3~8に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3~6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (5)申立理由2-4(進歩性)(取消理由として不採用) 本件訂正前の請求項2~8に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3~7号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (6)申立理由3(サポート要件)(取消理由として不採用) 本件訂正前の請求項1~8の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。なお、特許異議申立書の第22ページの「カ 理由4 サポート要件違反」は、「カ 理由3 サポート要件違反」と読み替える。 (7)申立理由4(明確性要件)(取消理由として不採用) 本件訂正前の請求項1~8の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。なお、特許異議申立書の第21ページの「オ 理由3 明確性要件違反」は、「オ 理由4 明確性要件違反」と読み替える。 (8)証拠方法 ・甲第1号証:J. Stasic (当審注:sにキャロン、cにアキュートアクセントを付す。) ,外3名, 「An investigation on synthesis development of high hardened, high conductivity Cu-Zr and Cu-Zr-ZrB2 alloys through green compact laser sintering」, Int J Adv Manuf Technol, 2015年, 80, p. 1049-1057(写し及び抄訳文) ・甲第2号証:国際公開第2014/069318号 ・甲第3号証:David Becker, 「Selektives Laserschmelzen von Kupfer und Kupferlegierungen」, 2014年, p. 5~142(写し及び抄訳文) ・甲第4号証:特開2016-211062号公報 ・甲第5号証:特開2015-218395号公報 ・甲第6号証:村松尚国,外3名, 「強歪み伸線加工したCu-Zr二元系合金線材の組織、および電気的・機械的性質」, 銅と銅合金,平成22年8月1日, 第49巻, 第1号, p. 67-72(写し) ・甲第7号証:特開2003-168321号公報 2 令和 4年11月21日付けで通知した取消理由の概要 (1)取消理由1(サポート要件) 本件訂正前の請求項1~6に係る発明は、添加元素の含有量が、銅に対して液相以下の温度で最大の固溶量未満、すなわち0.2at%未満である場合を包含しているため、添加元素が全て固溶していて、全く析出しないので、所望の機械強度を有しない発明を包含するものであるから、本件訂正前の請求項1~6に係る発明は、当業者が本願出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により本件訂正前の請求項1~6に係る発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものである。 (2)取消理由2(実施可能要件) ア 本件訂正前の請求項7、8に係る発明は、銅合金の化学組成について、「銅に対して液相以下の温度で最大の固溶量が0.2at%未満である添加元素を0.1~12.0at%含有」すること以外何ら特定されていない(請求項1のように「残部が銅及び不可避的不純物である」ことが特定されていない)。また、添加元素を、銅に対して液相以下の温度で最大の固溶量未満含む場合(添加元素を0.1at%以上最大の固溶量未満含む場合)を包含する。 イ 一方、本件明細書には、実施例1~45以外の化学成分を有する銅合金粉末を用いる場合であっても、実際に「理論密度に対する相対密度が98%以上であり、導電率が50%IACS以上であり、0.2%耐力が700MPa以上である積層造形物」を製造できることについては、何ら記載されていない。 ウ よって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施例1~45以外の化学組成を有する積層造形物を包含する本件訂正前の請求項7、8に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。 3 令和 5年 3月31日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要 (1)取消理由1(サポート要件) 令和 5年 1月24日になされた訂正請求により訂正された請求項1~8に係る発明は、例えば、銅に対して液相以下の温度で最大の固溶量が0.1at%の添加元素A:0.09at%と同固溶量が0.1at%の添加元素B:0.09at%とを含有する合金粉末の発明(以下、「想定例」という。)を含んでおり、当該想定例は、添加元素A、Bが、いずれも「銅に対して液相以下の温度で最大の固溶量が0.2at%未満」であり、添加元素A,Bの合計含有量が「0.18at%」となるから、「添加元素を0.1~12.0at%含有」するものであって、さらに、上記合計含有量「0.18at%」は「各添加元素の前記固溶量(0.1at%)を超えるもの」であるので、本件発明1の特定事項の全てを備えるものであるが、添加元素A、Bそれぞれの含有量(0.09at%)は最大の固溶量(0.1at%)を超えないので添加元素A、Bはいずれも全て固溶しており、全く析出しないので、積層造形物となったときに、所望の機械強度を有しない発明を包含するものであるから、令和 5年 1月24日になされた訂正請求により訂正された請求項1~8に係る発明は、当業者が本願出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により請求項1~8に係る発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものである。 第5 本件明細書の記載事項 1 本件明細書には、以下の事項が記載されている。なお、「・・・」は記載の省略を表すものであって、以下同様である。 (1)「【技術分野】 【0001】 本発明は、積層造形用銅合金粉末、積層造形物の製造方法及び積層造形物に関し、特に、機械強度及び導電率を両立できる、銅合金から構成される積層造形用銅合金粉末、積層造形物の製造方法及び積層造形物に関する。」 (2)「【発明が解決しようとする課題】 【0007】 しかしながら、特許文献1には、添加元素が固溶する問題に関しては具体的な解決案を提示していない。実際には、クロムは銅に固溶しやすいので、機械強度を得るためにクロムを添加すると、今度は導電率が低下してしまうとの課題はまだ解決に至ったとはいえない。 【0008】 本発明は前記課題に鑑みてなされたものであり、機械強度及び導電率を両立できる、銅合金から構成される積層造形用銅合金粉末、積層造形物の製造方法及び積層造形物を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0009】 上記の技術課題を解決するために、本発明者らが鋭意研究を行ったところ、銅に対する固溶量の低い添加元素を用いることで固溶を低減し、上記機械強度及び導電率の二律背反を解消することができるとの知見を見出し、さらなる検討と考察を加えて本発明を完成させた。」 (3)「【0012】 (銅合金粉末) 銅合金粉末は、公知の方法によって製造された銅合金粉末を使用することができる。粒径数μm以上のサイズであれば、工業的には製造コストに優れるアトマイズ法に代表される乾式法によって製造された銅合金粉末を使用することが一般的ではあるが、還元法などの湿式法によって製造された銅合金粉末を使用することも可能である。具体的には、タンデッシュの底部から、溶融状態の合金成分を落下させながら、高圧ガスまたは高圧水と接触させ、合金成分を急冷凝固させることにより、合金成分を粉末化する。この他、たとえばプラズマアトマイズ法、遠心力アトマイズ法などによって、金属粉末を製造してもよい。これらの製造方法で得られた金属粉末を用いることにより、緻密な積層造形物が得られる傾向にある。 【0013】 銅合金粉末は、銅に対する固溶量が0.2at%未満である添加元素を含有する。添加元素を含有することにより、純銅の場合と比較してより高い機械強度を有する積層造形物を得ることができる。また、銅に対する固溶量が0.2at%未満であれば、造形における急速な加熱及び冷却によっても、添加元素が銅に固溶した相の形成が抑制されるので、より高い導電率を得ることができる。 銅に対する固溶量は、添加元素の固有の性質であり、一般的に相図と呼ばれる二つの元素の温度に対する相関係を示す図から抽出することができる。例えば、ASM International社発行のPhase Diagrams for Binary Alloys(ISBN:0-87170-682-2)を参考にして判断する。この相図から、Cu側の固溶量を参照し、液相以下の温度で最大の固溶量が0.2at%以下の元素が対象の元素となる。より詳細には、Ba、Bi、Ca、Gd、Eu、Ho、La、Lu、Mo、Nd、Nb、Os、Pb、Pm、Pu、Re、Ru、S、Se、Sr、Sm、Tb、Tc、Te、Th、Tm、U、V、W、Y、Yb、Zrである。 また、これらの元素は1種のみを添加してもよく、2種以上を添加してもよい。 【0014】 また、機械強度及び導電率を両立させる観点から、前記添加元素がW、Zr、Nb、Nd、Y、Mo、Os又はRuからなる群から選択される少なくとも一種であることが望ましい。これらの添加元素は、銅に対する固溶量がいずれも0.2at%未満であり、析出しやすいことから、積層造形物の機械強度を有意義に向上させることができるからである。 【0015】 また、添加元素の含有量は0.1~12.0at%であることが好ましい。添加元素の含有量が0.1at%以上であれば、機械強度の向上の効果がより現れ、12.0at%以下であれば、導電率の不必要な低下を防止することができるからである。 また、添加元素を2種以上添加する場合、その合計量は0.1~12.0at%であればよい。 添加元素の含有量は、例えばSII社製SPS3500DDのICP-OES(高周波誘導結合プラズマ発光分析法)で測定することができる。 ・・・ 【0018】 銅合金粉末中には、上記添加元素及び銅以外、不可避的不純物が含まれる場合があるが、銅合金粉末に必要な性質に影響がない限り不純物を含むことも可能である。この場合、ガス成分を除く不可避的不純物の濃度が0.01質量%以下とした方が、銅合金粉末を効率的に溶融結合できる観点から好ましい。」 (4)「【0019】 (積層造形物の製造方法) 本発明の銅合金粉末を用いる方法であれば、その具体的手段は特に制限されない。ここで、もっとも典型的な方法として、本発明の銅合金粉末の薄層を形成し、この薄層における銅合金粉末を、電子ビーム又はレーザービームで焼結又は溶融結合により固化させて造形物層を形成し、この造形物層を積層することにより積層造形物を製造することができる。 好ましくは、造形用のステージに、本発明の銅合金粉末を敷き詰めて薄層を形成する工程と、当該薄層に対し、造形すべき部分に電子ビームを照射して前記銅合金粉末を溶解させ、その後自然冷却により凝固させる工程を複数回繰り返して行うことで、本発明の積層造形物を製造することができる。 別の好ましい実施態様では、造形用のステージに、本発明の銅合金粉末を敷き詰めて薄層を形成する工程と、当該薄層に対し、造形すべき部分にレーザービームを照射して前記銅合金粉末を溶解させ、その後自然冷却により凝固させる工程を複数回繰り返して行うことで、本発明の積層造形物を製造することができる。レーザービームは、銅合金粉末を溶解させることができるものであれば、設備環境や要求される製品の性能等に応じて適宜選択することができ、例えば、波長約1060nmのファイバーレーザーや、波長約450nmの青色レーザーを選択することができる。」 (5)「【0020】 (積層造形物) 本発明の製造方法により製造される積層造形物は、機械強度及び導電率が優れている。具体的には、理論密度に対する相対密度が98%以上であり、導電率が50%IACS以上であり、0.2%耐力が700MPa以上という特性を得ることが可能である。この観点から、相対密度は99%以上がより好ましく、99.5%以上がより好ましい。 【0021】 本発明の積層造形物は、理論密度に対する相対密度が98%以上である。理論密度に対する相対密度が98%以上であれば、機械強度の要求の高い場面においても、本発明の積層造形物を用いることが可能である。 本発明では、積層造形物の密度は相対密度で示す。相対密度は、測定された密度及び理論密度によって、相対密度=(測定密度/理論密度)×100(%)で表される。理論密度とは、積層造形物の各構成元素において、各元素の理論密度から算出される密度の値である。例えば、W(タングステン)を5.0質量%含有するのであれば、各構成元素であるCuとWとの質量比を、Cu:W=95:5として、理論密度の算出に用いる。この場合、理論密度は、(Cuの密度(g/cm3)×95+Wの密度(g/cm3)×5)/100(g/cm3)として算出する。そして、Wの理論密度は19.25g/cm3、Cuの理論密度は8.94g/cm3として計算し、理論密度は9.455(g/cm3)と算出される。 なお、分析機器によってat%の測定結果となるが、質量%に換算することで計算できる。 一方、積層造形物の測定密度は、たとえばアルキメデス法により測定することができる。アルキメデス法による密度測定は、「JIS Z 2501:焼結金属材料-密度、含油率および開放気孔率試験方法」に準拠して行うことができる。液体には水を用いればよい。 【0022】 本発明の積層造形物は、導電率が50%IACS以上である。導電率が50%IACS以上であれば、導電率の要求の高い場面においても、本発明の積層造形物を用いることが可能である。この観点から、導電率は70%IACS以上がより好ましく、90%IACS以上がより好ましい。 導電率は、市販の渦流式導電率計によって測定できる。なお、IACS(international annealed copper standard)とは、電気抵抗(又は電気伝導度)の基準として、国際的に採択された焼鈍標準軟銅(体積抵抗率:1.7241×10-2μΩm)の導電率を、100%IACSとして規定されたものである。 【0023】 本発明の積層造形物は、0.2%耐力が700MPa以上である。0.2%耐力が700MPa以上であれば、機械強度の要求の高い場面においても、本発明の積層造形物を用いることが可能である。 0.2%耐力は、引張試験機を用いてJIS Z2241に準拠して測定する。」 (6)「【実施例】 【0024】 以下、本発明を実施例、比較例に基づいて具体的に説明する。以下の実施例、比較例の記載は、あくまで本発明の技術的内容の理解を容易とするための具体例であり、本発明の技術的範囲はこれらの具体例によって制限されるものでない。 【0025】 (実施例1~45及び比較例1~5の作製) [組成] 積層造形物の原料となる銅合金粉末に含まれる元素の組成は、SII社製SPS3500DDのICP-OES(高周波誘導結合プラズマ発光分析法)で測定した。 なお、表に示されない残部は、銅及び不可避的不純物である。 [積層造形物] 実施例1~45及び比較例1~5の積層造形物は、それぞれ表1に示される銅合金粉末により作製されたものである。これらの銅合金粉末いずれもディスクアトマイズ法で作製した銅粉を用いた。 積層造形物は、銅合金粉末を薄層に形成し、これに電子ビーム又はレーザービームを照射して、銅合金粉末を固化させて造形物層を形成し、この造形物層を積層することによって作製した。また、評価を容易にするため造形物の形状は、W80×L100×H35の板状試験片とした。 【0026】 (実施例1~45及び比較例1~5の評価) [酸素濃度] 酸素濃度は、LECO社製のTCH600にて、不活性ガス融解法で測定した。 [平均粒子径D50] 平均粒子径D50(体積基準)は、以下の装置及び条件で測定した。 メーカー:スペクトリス株式会社(マルバーン事業部) 装置名 :乾式粒子画像分析装置 Morphologi G3 測定条件: 粒子導入量:11mm3 射出圧:0.8bar 測定粒径範囲:3.5-210μm 測定粒子数:20000個 [相対密度] 造形物からサンプルを20mm四方で切り出し、アルキメデス法にて測定密度を算出する。そして見かけ密度を理論密度(8.93g/cm3)で除して100倍したものを相対密度(%)と定義した。 [導電率] 造形物からサンプルを20mm四方で切り出し、市販の渦流式導電率計にて導電率を評価した。 [0.2%耐力] 各試験片に対し、JIS Z2241に基いて引張り試験を行って、0.2%耐力(YS:MPa)を測定した。 【0027】 【表1-1】 [図:0001403638000001.jpg] 【表1-2】 [図:0001403638000002.jpg] 【0028】 実施例1~45によれば、銅に対する固溶量が0.2at%未満である添加元素を含有させることで、積層造形物の機械強度を高めつつ、高い導電率も得られることが理解される。 一方、比較例1及び2は銅に対する固溶量が0.2at%であるクロムを含有するため、機械強度と導電率の両立を実現できなかった。 比較例3は、銅に対する固溶量が0.2at%以上あるシリコンを含有するため、含有量が低いものの、すべて銅中に固溶してしまうため、機械強度と導電率とも両立が実現できなかった。 比較例4は、銅に対する固溶量が0.2at%以上あるアルミニウムを含有するため、含有量が低いものの、すべて銅中に固溶してしまうため、機械強度と導電率の両立が実現できなかった。 比較例5は、純銅粉での造形であったため、十分な機械強度を得ることができなかった。」 第6 甲第1号証~甲第7号証の記載事項 1 甲第1号証の記載事項 甲第1号証には、「An investigation on synthesis development of high hardened, high conductivity Cu-Zr and Cu-Zr-ZrB2 alloys through green compact laser sintering」(当審仮訳:圧粉体レーザー焼結による高硬度・高導電性Cu-ZrおよびCu-Zr-ZrB2合金の合成法の開発に関する研究)(表題)に関して、以下の記載がある。 (1)「Abstract Cold pressed mechanically alloyed Cu-1Zr (wt%) and Cu-4.1 Zr-1.1 B (wt%)powders were sintered by laser irradiation. Laser employed was pulsed, millisecond Nd:YAG laser system. The influence of different sintering parameters on structural, mechanical, and physical properties of laser-sintered materials was investigated. Microstructural changes during laser sintering were studied using scanning electron microscopy and X-ray diffraction. High hardening of the Cu-Zr alloy is achieved by thermal treatment due to the influence of the developed rapidly solidified structure and precipitation of metastable CuZr. In ternary Cu-Zr-B alloy rapidly solidified structure, as well as the presence of ZrB2 particles and metastable CuZr phase, affected much higher degree of copper matrix hardening which, thanks to the ceramic particles, is retained at high temperatures. It was determined that the optimum combination of high density, microhardness, and electrical conductivity is reached using the following parameters: laser frequency 3 Hz, laser pulse duration 8 ms, pulse energy ~19 J, number of scans 3 (binary alloy), i.e., 4 (ternary alloy).」(第1049ページ左欄第1行~最下行) (当審仮訳:概要 メカニカルアロイングした後コールドプレスしたCu-1Zr(wt%)およびCu-4.1Zr-1.1B(wt%)の粉末をレーザー照射により焼結した。レーザーはミリ秒パルスNd:YAGレーザーを使用した。レーザー焼結体の構造的、機械的、物理的特性に及ぼす焼結パラメータの影響について検討した。レーザー焼結中の微細構造変化を走査型電子顕微鏡とX線回折で調べた。Cu-Zr合金の高硬度化は、発達した急冷凝固組織と準安定CuZrの析出の影響により、熱処理により達成される。三元系Cu-Zr-B合金では、急冷凝固組織とZrB2粒子および準安定CuZr相の存在が、セラミック粒子の効果で高温でも保持される銅マトリックス硬化の程度に大きく影響した。レーザー周波数3Hz、レーザーパルス時間8ms、パルスエネルギー~19J、スキャン数3(二元合金)、すなわち4(三元合金)のパラメータで高密度、微細硬さおよび導電性の最適組み合わせに達することが決定された。) (2)「One of the techniques, which started to develop 30 years ago [10] and is increasingly used nowadays in order to obtain rapidly solidified metal alloys, is synthesis of the starting materials (powders or compacts) by laser radiation. The advantages of this technique are in selectivity of location, time and energy efficiency, flexibility, versatility, automation worthiness, and faster heating and cooling rates including transient heating to elevated temperature [11]. Depending on the way in which synthesis by laser radiation was conducted, different processing methods are applied nowadays: selective laser sintering [12], direct laser sintering [13], laser micro sintering [14], green compact laser sintering [15], selective laser melting [16], and direct laser melting [17].」(第1050ページ左欄18~30行) (当審仮訳:30年前に開発が始まり[10]、現在では急冷凝固合金を得るためにますます利用されている技術の1つが、レーザー照射による出発材料(粉末または成形体)の合成である。この手法の利点は、場所の選択性、時間とエネルギーの効率、柔軟性、汎用性、自動化への対応、そして高温への過渡加熱を含む加熱・冷却速度の速さである[11]。現在では、レーザー照射による合成の方法に応じて、選択的レーザー焼結[12]、直接レーザー焼結[13]、レーザーマイクロ焼結[14]、圧粉体レーザー焼結[15]、選択的レーザー溶融[16]、直接レーザー溶融[17]など、異なる処理方法が適用されている。) (3)「2 Materials and methods The powders used as starting materials were copper (99.5 % purity, ~30 μm), zirconium (99.5 % purity, ~2 μm), and amorphous boron (97 % purity, ~0.08 μm). The mixture of Cu-1wt.%Zr as well as the mixture of Cu-4.1wt%Zr-1.1wt%B were homogenized for 2 h in Turbula mixer. The copper-zirconium-boron alloy was formulated to produce seven volume percents of borides. Homogenized mixtures were mechanically alloyed in Netzsch attritor mill with ball-to-powder weight ratio of 5:1. Steel balls with diameter of 6 mm were used in the mill. Attrition milling was carried out in protective atmosphere (argon) for 25 h, with stirring speed of 330 rpm. Mechanically alloyed powders were compacted into specimens at a pressure of 180 MPa, producing the green compact with 20-mm diameter and 1-mm height. Green compacts were subjected to Nd:YAG pulsed laser in the nitrogen atmosphere. Conditions of green compact laser sintering are shown in Table 1. Laser beam diameter was ~600 μm and spot overlap in the scan track ~70%. Width of a single track was about 1 mm taking into account the heated zone around the spot. First scan of the green compact was always conducted with the distance between successive tracks of 1 mm (no overlap), and in subsequent scans it was 0.5 mm (spot overlap ~20 %). Scanning speed was ~0.5 mm/s. Thickness of laser-sintered samples was around 700 μm. Prior to mechanical, electrical, and microstructural testing, all samples were thinned on the bottom side so that the final thickness of foils was 300 μm.」(第1050ページ右欄下から10行~第1051ページ左欄下から6行) (当審仮訳:2 材料と方法 出発原料として銅(純度99.5%,~30μm)、ジルコニウム(純度99.5%,~2μm)、非晶質ボロン(純度97%,~0.08μm)粉末を使用した。Cu-1wt%Zrの混合物とCu-4.1wt%Zr-1.1wt%Bの混合物をタービュラミキサーで2時間均質化処理した。銅ジルコニウムホウ素合金は、7体積%のホウ化物を生成するように調合された。均質化した混合物をNetzschアトライターミルでボールと粉末の重量比を5:1にしてメカニカルアロイングした。粉砕機には直径6mmの鋼球を使用した。アトライターミルは保護雰囲気(アルゴン)中、攪拌速度330rpmで25時間実施した。メカニカルアロイングされた粉末を180MPaの圧力で圧縮して試験片とし、直径20mm、高さ1mmの圧粉体を作製した。この圧粉体に窒素雰囲気下でNd:YAGパルスレーザーを照射した。圧粉体のレーザー焼結の条件を表1に示す。レーザービーム径は~600μm、スキャントラック内のスポットの重なりは~70%であった。単一トラックの幅は、スポット周辺の加熱領域を考慮して約1mmであった。圧粉体の最初のスキャンは常に連続したトラック間の距離が1mm(オーバーラップなし)で行われ、その後のスキャンでは0.5mm(スポットオーバーラップ~20%)であった。スキャン速度は~0.5mm/sであった。 レーザー焼結試料の厚さは約700μmであった。機械的、電気的、微細構造的試験の前に、すべてのサンプルは底面が薄くされ、箔の最終厚さは300μmとなった。) (4)「Fig. 1 SEM image of a Cu-1Zr and b Cu-4.1Zr-1.1B powders mechanically alloyed for 25h [図:0001403638000003.jpg] 」(第1051ページ) (当審仮訳:図1 25時間メカニカルアロイングされたaのCu-1Zr粉末とbのCu-4.1Zr-1.1B粉末のSEM写真) (5)「3 Results and discussion Mechanical alloying for 25 h (details given in [27]) produces alloys with extended solid solubility of Zr in Cu-1Zr alloy, i.e., Zr and B in Cu-4.1Zr-1.1B alloy. In the course of this process, particles undergo high energy collisions during milling which causes their plastic deformation, cold welding, and fracture. At milling times of 25 h, work hardening of particles renders them brittle, and fracturing process becomes significant. The presence of Zr and B in Cu matrix facilitates fracturing process of particles in two ways: increasing of dissolved Zr and B atoms in Cu matrix and increasing work hardening rate thus promoting fracturing of Cu particles. Figure 1 shows mechanically alloyed Cu-Zr and Cu-Zr-B powders with visible multilayered structure. ・・・ Porosities among loosely bound particles are characteristic for green compacts. The presence of pores was more prominent in green compacts of copper alloys compared to green compacts of pure copper, which was expected. In green compacts of Cu-1Zr alloy (Fig. 3), the distribution of Zr in copper particles was not the most homogeneous due to the presence of certain number of agglomerates formed from the smallest particles of alloying element. Variations of parameters of green compact laser sintering have affected the densification degree (Table 2) and microstructure of the samples (Figs. 4a-c and 5a-c). Significant densification of the green compacts was not attained for pulses shorter than 5 ms, i.e., the pulse length and its energy were not high enough to overpower high thermal conductivity of the base metal and eliminate 27-40% of pores present in the structure. Higher densification was achieved when longer laser pulses of 8 and 10 ms were applied and the total porosity in the structure depended on the number of scans across the green compact surface. It was established that one scan of copper green compact surface or two scans in case of copper alloys (Table 2, Fig. 4a-c) were not sufficient for obtaining high-density values. This is evidenced by smaller and bigger unmelted regions, as well as connecting or widening of the existing pores. However, the successive scans diminished these pores, and nearly theoretical density values were obtained. The presence of higher number of hard Zr and ZrB2 particles has expectedly influenced on the degree of densitification in mechanically alloyed powders, so in ternary copper alloy more scans were needed in order to obtain nearly theoretical density value (Table 2). ・・・ It is known that many parameters affect microstructure, mechanical, and physical prope1ties of the materials sintered by laser beam. These prope1ties are pa1ticularly sensitive to changes in the distance from the surface directly exposed to laser irradiation [32-34]. However, since this was not the object of our work, all experiments were conducted on thin foils (thickness 300 μm), thus excluding inhomogeneity of the properties with depth. In our case, determination of microhardness and electrical properties was conducted on both upper and bottom sides of the samples (Table 3).」(第1052ページ左欄1行~第1054ページ右欄下から10行) (当審仮訳:3 結果と考察 25時間のメカニカルアロイング(詳細は [27] に記載)により、Cu-1Zr合金中のZr、すなわち Cu-4.1Zr-1.1B合金中のZrおよびBの固溶度が拡大した合金が生成された。この過程で、粒子はミリング中に高エネルギーの衝突を受け、塑性変形、冷間溶接、破断を起こす。粉砕時間が25時間になると、粒子の加工硬化により脆くなり、破壊の進行が顕著になる。Cuマトリックス中のZrとBの存在は、Cuマトリックス中の溶存ZrとB原子の増加と加工硬化率の増加という2つの方法で粒子の破壊過程を促進する。図1はメカニカルアロイングされたCu-ZrおよびCu-Zr-B粉末で、目に見える多層構造を示す。 ・・・ 緩く結合した粒子間のポロシティは圧粉体に特徴的である。銅合金の圧粉体は純銅の圧粉体に比べて気孔の存在がより顕著であり、これは予想されたことである。Cu-1Zr合金の圧粉体(Fig.3)では、合金元素の微小な粒子から形成される凝集体が一定数存在するため、銅粒子中のZrの分布が最も均一でないことが確認された。 圧粉体レーザー焼結のパラメータを変化させたところ、試料の緻密化度(表2)と微細構造(図4a-c,図 5a-c)に影響があった。 5msよりも短いパルスでは、圧粉体の大幅な高密度化は達成されなかった。つまり,母材の高い熱伝導性に打ち勝ち、構造中に存在する27~40%の気孔を除去するには,パルス長およびそのエネルギーが十分でなかった。8msと10msの長いレーザーパルスを適用すると、より高密度化が達成され、構造体の全空隙率は圧粉体表面のスキャン回数に依存した。銅の圧粉体表面では1回、銅合金の場合は2回のスキャンでは、高密度の値を得るには十分でないことが立証された(表2、図4a-c)。このことは、未溶融領域が小さくなったり大きくなったり、既存の孔がつながったり広がったりしていることからも明らかである。しかし、連続したスキャンにより、これらの気孔は減少し、ほぼ理論値に近い密度値が得られた。硬いZrやZrB2の粒子が多いほど、メカニカルアロイ粉末の高密度化の度合いに影響を与えることが予想され、三元銅合金では、ほぼ理論的な密度値を得るために、より多くのスキャンが必要となった(表2)。 ・・・ レーザー照射による焼結材料の微細構造、機械的、物理的特性は、多くのパラメータに影響されることが知られている[32-34]。これらの特性は、レーザー照射を直接受ける表面からの距離の変化に特に敏感である[32-34]。しかし,本研究の対象外であるため,すべての実験は薄い箔(厚さ300μm)に対して行われ,深さによる特性の不均一性を排除している。また,微小硬度や電気特性の測定は,試料の上下面に対して行った(表3)。) (6)「Table 2 Density/Porosity of laser-sintered compacts as a function of Process parameters [図:0001403638000004.jpg] 」(第1052ページ) (当審仮訳:表2 レーザー焼結体の密度/気孔率の加工パラメータ依存性 [図:0001403638000005.jpg] ) (7)「Table 3 Values of microhardness and electrical conductivity of the green compact laser-sintered samples [図:0001403638000006.jpg] 」(第1054ページ) (当審仮訳:表3 圧粉体レーザー焼結体試料の微小硬度と導電率の値 [図:0001403638000007.jpg] ) 2 甲第2号証の記載事項 甲第2号証には、「銅合金およびその製造方法」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。 (1)「【請求項1】 銅合金であって、 Zrを5.00at%以上8.00at%以下含有し、CuとCu-Zr化合物とを含み、 前記Cuと前記Cu-Zr化合物との2相が、共晶相を含むことなく、断面視したときに大きさ10μm以下の結晶が分散したモザイク状の組織を有する、銅合金。 ・・・ 【請求項6】 CuとCu-Zr化合物とを含む銅合金の製造方法であって、 平均粒径が30μm以下であり、Zrを5.00at%以上8.00at%以下含有する亜共晶組成のCu-Zr二元系合金粉末を、0.9Tm℃以下の温度(Tm(℃)は前記合金粉末の融点)で直流パルス通電を行うことにより放電プラズマ焼結する焼結工程、を含む銅合金の製造方法。 ・・・」 (2)「技術分野 [0001] 本発明は、銅合金およびその製造方法に関する。」 (3)「発明が解決しようとする課題 [0004] ところで、Cu-Zr系銅合金は、Zrの含有量が増加すると金属の柔軟性が低下し、その加工性が低下することが知られている。例えば、上述の特許文献1に記載の銅合金では、時効処理をすることによって導電率と引張強さとを向上させているものの、Zr含有量をより高めることは検討されていなかった。 [0005] 本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、Zr含有量の高い銅合金において、導電性をより高めると共に機械的強度をより高めることができる銅合金を提供することを主目的とする。 課題を解決するための手段 [0006] 上述の目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、Zrを5.0at%以上8.0at%以下の範囲で含む銅合金を粉末化し、これを放電プラズマ焼結したところ、Zrが5.0at%などZr含有量の高い銅合金において、導電性をより高めると共に機械的強度をより高めることができることを見出し、本発明を完成するに至った。 [0007] 即ち、本発明の銅合金は、Zrを5.00at%以上8.00at%以下含有し、CuとCu-Zr化合物とを含み、前記Cuと前記Cu-Zr化合物との2相が、共晶相を含むことなく、断面視したときに大きさ10μm以下の結晶が分散したモザイク状の組織を有するものである。 [0008] 本発明の銅合金の製造方法は、CuとCu-Zr化合物とを含む銅合金の製造方法であって、平均粒径が30μm以下であり、Zrを5.00at%以上8.00at%以下含有する亜共晶組成のCu-Zr二元系合金粉末を、0.9Tm℃以下の温度(Tm(℃)は前記合金粉末の融点)で直流パルス通電を行うことにより放電プラズマ焼結する焼結工程、を含むものである。」 (4)「[0021](1)粉末化工程 この工程では、亜共晶組成のCu-Zr二元系合金からCu-Zr二元系合金粉末を作製する。この工程では、特に限定されないが、例えば、亜共晶組成のCu-Zr二元系合金から高圧ガスアトマイズ法により合金粉末を作製することが好ましい。このとき、合金粉末の平均粒径は、30μm以下であることが好ましい。この平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定するD50粒子径とする。原料としては、5.0at%以上8.0at%以下の範囲でZrを含む銅合金とすることができれば、特に限定されず、合金を用いても、純金属を用いてもよい。このうち、Zrを5.0at%以上8.0at%以下の範囲で含む銅合金を粉末化工程に用いることが好ましい。・・・」 (5)「[0022](2)焼結工程 この工程では、平均粒径が30μm以下であり、Zrを5.00at%以上8.00at%以下含有する亜共晶組成のCu-Zr二元系合金粉末を、0.9Tm℃以下の温度(Tm(℃)は合金粉末の融点)となるように直流パルス通電を行うことにより放電プラズマ焼結する処理を行う。・・・」 (6)「[0029][実験例1~3] 粉末化工程としての高圧Arガスアトマイズ法で作製したCu-Zr合金粉末を用い、これらを106μm以下に篩い分けした。Zrの含有量は、1at%、3at%、5at%とし、それぞれ実験例1~3の合金粉末とした。・・・この粉末の酸素含有量は0.100mass%であった。・・・」 3 甲第3号証の記載事項 甲第3号証には、「Selektives Laserschmelzen von Kupfer und Kupferlegierungen」(当審仮訳:銅および銅合金の選択的レーザー溶融)に関して、以下の記載がある。 (1)「6.2.2 Selektives Laserschmelzen von CuCr1Zr 6.2.2.1 Charakterisierung von CuCr1Zr in Pulverform ・・・ [図:0001403638000008.jpg] Tabelle 31 Eigenschaften der verwendeten Pulver aus CuCr1Zr ・・・ [図:0001403638000009.jpg] Tabelle 32 EDX-Analyse des Pulvers aus CuCr1Zr」(第95ページ) (当審仮訳:6.2.2 CuCr1Zrの選択的レーザー溶融 6.2.2.1 CuCr1Zrの粉末状態での特性評価 ・・・ 粒度 10μm-45μm 平均粒度分布 18μm-26μm(異なるバッチ) 粉末形状 球形 製法 アルゴン雰囲気下でのアトマイズ 表31 使用したCuCr1Zr粉末の性質 ・・・ Cu Cr Zr 目標 最小最大[%] 残部 0.5-1.2 0.03-0.3 測定値[%] 99.1 0.8 0.1 表32 CuCr1Zrの粉末のEDX解析結果) (2)「6.2.2.2 Verwendete Anlagentechnik und untersuchte Verfahrensparameter ・・・ [図:0001403638000010.jpg] Tabelle 33 Variieren Parameter Fuer das Laserschmelzen von CuCr1Zr」(第96ページ) (当審仮訳:6.2.2.2 使用したプラント技術および調査したプロセスパラメータ ・・・ レーザー出力PL[W] 200-900 層厚Ds[μm] 50 走査速度Vs[mm/s] 100-1000 トラック幅Δys[μm] 200 表33 CuCr1Zrのレーザー溶融のための各種パラメータ) 4 甲第4号証の記載事項 甲第4号証には、「銅合金粉末、積層造形物の製造方法および積層造形物」(発明の名称)に関し、以下の記載がある。 (1)「【請求項1】 積層造形用の金属粉末であって、 クロムおよび珪素の少なくともいずれかを0.10質量%以上1.00質量%以下含有し、前記クロムおよび前記珪素の合計量が1.00質量%以下であり、残部が銅からなる、金属粉末。」 (2)「【0005】 本発明の目的は、機械強度および導電率を両立できる、銅合金から構成される積層造形用の金属粉末、積層造形物の製造方法および積層造形物を提供することである。」 (3)「【0027】 金属粉末は、Cu、Cr、Siの他に、不純物元素を含有することもある。不純物元素は、製造時に意図的に添加された元素(添加元素)でもよい。つまり本実施形態の金属粉末では、残部がCuおよび添加元素からなることもある。不純物元素は、製造時に不可避的に混入した元素(不可避不純物)でもよい。つまり本実施形態の金属粉末では、残部がCuおよび不可避不純物からなることもある。あるいは残部は、Cu、添加元素および不可避不純物からなることもある。不純物元素としては、たとえば酸素(O)、リン(P)等が挙げられる。不純物元素の含有量は、たとえば0.10質量%未満でもよいし、0.05質量%未満でもよい。」 (4)「【0033】 〔積層造形物の製造方法〕 次に、上記の金属粉末を用いた積層造形物の製造方法について説明する。ここでは、金属粉末を固化させる手段として、粉末床溶融結合法のうちレーザを用いる態様を説明する。しかし当該手段は、金属粉末の固化が可能である限り、レーザに限定されない。当該手段は、たとえば電子ビーム、プラズマ等でもよい。本実施形態では、粉末床溶融結合法以外の付加製造法(Additive Manufacturing:AM)を利用してもよい。たとえば本実施形態では、指向性エネルギ堆積法を利用することもできる。さらに本実施形態では、造形中に切削加工を実施してもよい。」 5 甲第5号証の記載事項 甲第5号証には、「3D印刷のための安定化された金属ナノ粒子」(発明の名称)に関し、以下の記載がある。 (1)「【請求項1】 3Dプリンタで使用するための材料であって、 平均断面長さが約100nm以下の複数の金属粒子と、 有機アミン、カルボン酸、チオールおよびその誘導体、キサントゲン酸、ポリエチレングリコール、ポリビニルピリジン、ポリビニルピロリドン、またはこれらの組み合わせを含む安定化材料とを含む、材料。」 (2)「【0012】 複数の金属粒子を使用し、3Dプリンタによって金属物体を製造してもよい。金属粒子は、任意の金属または金属アロイ、例えば、銀、金、アルミニウム、白金、パラジウム、銅、コバルト、クロム、インジウム、チタン、ジルコニウム、ニッケル、これらのアロイ、またはこれらの組み合わせであってもよく、またはこれらを含んでいてもよい。金属粒子は、平均断面長さ(例えば、直径)が約100nm以下、約50nm以下、または約20nm以下であってもよい。この大きさの粒子をナノ粒子と呼んでもよい。金属ナノ粒子は、粉末形態であってもよい。さらに、金属ナノ粒子は、銀ナノ粒子コンポジットまたは金属ナノ粒子コンポジット、例えば、Au--Ag、Ag--Cu、Ag--Ni、Au--Cu、Au--Ni、Au--Ag--CuおよびAu--Ag--Pdを含んでいてもよい。コンポジットの種々の成分は、例えば、約0.01重量%~約99.9重量%、特に、約10重量%~約90重量%の範囲の量で存在していてもよい。」 6 甲第6号証の記載事項 甲第6号証には、「強歪み伸線加工したCu-Zr二元系合金線材の組織、および電気的・機械的性質」(表題)に関して、以下の記載がある。 (1)「ここで,Cu-Zr合金の状態図ではCu相中へのZrの固溶限は0.12at%である」(第68ページ右欄下から5~4行) (2)「3.3 強歪み伸線加工材の電気的・機械的性質 ・・・ Fig.7はWD Cu-4at%Zr合金の加工度(η)とEC、UTSおよびσ0.2との関係を示したものである.RS材、すなわちas-cast時のECは28%IACSであるが、WD材のECはRS材に比べて一旦高くなり、η=3.6付近で最高になった後、それ以上の加工度(η)では減少した.一方UTSとσ0.2は、加工度(η)の増加とともに直線的に増加した.これらの傾向は、WD Cu-5at%Zr合金で見られた過去の報告3)と一致している.」(第70ページ右欄9行~第71ページ左欄1行) (3)「図7 [図:0001403638000011.jpg] 」(第70ページ右欄) (4)「Fig.10は、本研究で得られたWD材におけるUTSとECとの関係を従来の代表的な銅合金6)7)の場合と比較した材料チャートである.実線上に示してあるのが本研究で得られたWD材の結果である.WD Cu-4at%Zr合金を加工度(η)で整理した結果(白丸)、および加工度η=5.9のWD材をZr量で整理した結果(黒丸)を同時にプロットしてある.一方、従来の代表的な銅合金の結果は破線上に示した.ここで、一般にUTSとECの間にはトレードオフの関係があることが良く知られており、破線で示したようにUTSが増加するとECは急激に減少する.しかし実線で示した亜共晶Cu-3、4、5at%Zr合金のWD材では、従来の代表的な銅合金よりもこの関係が緩やかになる.これは多くの銅合金が化学組成や添加元素量によって必要な性質を得ようとするのに対し、本開発WD材は、所定の二元系合金組成で、加工度(η)のみを変えることによって調製する点で大きく異なるためである.伸線加工の過程で層状組織が加工度(η)に関連して連続的に変化し得るので、このことがUTSとECのトレードオフ関係の緩和に寄与しているものと考えられる.ただしこの関係に与える組織的因子の影響を、さらに定量的に調べることは今後の検討課題である.本研究で得られたUTSの最高値は、RS Cu-5at% Zr合金を加工度η=5.9で伸線加工した直径160μm線材の1773MPaであり、このときのECは24%IACSであった.」(第71ページ右欄7行~最下行) (5)「図10 [図:0001403638000012.jpg] 」(第71ページ) 7 甲第7号証の記載事項 甲第7号証には、「導電ペースト用銅合金粉」(発明の名称)に関し、以下の記載がある。 (1)「【請求項1】 Cu:80~99.9質量%及びTa,Wから成る群から選ばれた1又は2の元素:0.1~20質量%から成り、平均粒径が0.1~1μmであることを特徴とする導電ペースト用銅合金粉。」 (2)「【0007】添加元素としては、Cuの焼結開始温度の向昇に効果があるもの、又は、高温硬さの向上が見られるもので、電気比抵抗の増加の少ない金属としてTa,Wからなる群を選定した。これらの添加量は0.1質量%未満では焼結開始温度の向上、耐酸化性改善の効果が少なく、20質量%を越えると電気比抵抗の増加が著しく、従来のNiよりも高抵抗となるため、0.1~20質量%の範囲に限定した。より好ましくは、Cu:80~99.5質量%及びTa,Wから成る群から選ばれた1又は2の元素:0.5~20質量%である。」 第7 当審の判断 以下に述べるように、特許異議申立書の申立理由及び当審から通知した取消理由によっては、本件特許の請求項1~8に係る特許を取り消すことはできない。 1 申立理由1(新規性) (1)甲第1号証に記載された発明 ア 甲第1号証には、「圧粉体レーザー焼結による高硬度・高導電性Cu-ZrおよびCu-Zr-ZrB2合金の合成法の開発に関する研究」に関する発明が記載されており、その概要欄には、「メカニカルアロイングした後コールドプレスしたCu-1Zr(wt%)およびCu-4.1Zr-1.1B(wt%)の粉末をレーザー照射により焼結した。」ことが記載されている。また、表2には、コールドプレスで作製したCu-1Zr(wt%)の粉末をスキャン数3のレーザー照射により焼結した焼結体の密度が8.79±0.07(g/cm3)であることが記載され、表3には、この焼結体の導電率が89±0.22%IACSであることも記載されている。 イ そして、甲第1号証に、レーザー焼結した高硬度・高導電性Cu-Zr合金の原料となる粉末も記載されることは明らかである。 ウ そうすると、甲第1号証の、特に、概要欄、表2、表3に着目すると、以下の2つの発明(以下、「甲1発明A」、「甲1発明B」という。)が記載されていると認められる。 <甲1発明A> コールドプレスした後に、レーザー照射により焼結されるCu-1Zr(wt%)合金粉末。 <甲1発明B> Cu-1Zr(wt%)の粉末をコールドプレスした圧粉体を、スキャン数3のレーザー照射により焼結した焼結体であって、密度が8.79±0.07g/cm3、導電率が89±0.22%IACSである焼結体。 (2)本件発明1について ア 本件発明1と甲1発明Aとの対比・判断 (ア)対比 a 甲1発明Aにおける、「Zr」は、甲第6号証の「Cu-Zr合金の状態図ではCu相中へのZrの固溶限は0.12at%である」との記載を参照すると、本件発明1の「銅に対して液相以下の温度で最大の固溶量が0.2at%である添加元素」に相当する。 b そうすると、本件発明1と甲1発明Aとは、以下の一致点1において一致するとともに、以下の相違点1-1、相違点1-2において相違する。 <一致点1> 「銅に対して液相以下の温度で最大の固溶量が0.2at%未満である添加元素を含有する銅合金粉末。」である点。 <相違点1-1> 銅合金粉末の化学組成について、本件発明1は、「添加元素を0.1~12.0at%含有し(ただし、前記添加元素のうち少なくとも一つの添加元素について、当該添加元素の含有量が当該添加元素の前記固溶量を超えるものとする)、残部が銅及び不可避的不純物」であるのに対し、甲1発明Aは、「Cu-1Zr(wt%)」である点。 <相違点1-2> 本件発明1は、銅合金粉末が、「積層造形用」であるのに対し、甲1発明Aは、Cu-1Zr(wt%)合金粉末が、「コールドプレスした後に、レーザー照射により焼結される」点。 (イ)判断 事案に鑑み、相違点1-2から検討する。 甲1発明Aにおける、「コールドプレス」及び「焼結」は、「積層造形」とは異なる処理であるから、相違点1-2は実質的な相違点である。 イ 小括 したがって、相違点1-1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明Aであるとはいえない。 ウ 申立人の主張について (ア)申立人は、特許異議申立書の第16ページにおいて、「甲第1号証(記載事項2)には、銅合金粉末を用いて、選択的レーザー焼結、選択的レーザー溶融を行えることが記載されている。これら選択的レーザー焼結、選択的レーザー溶融は、積層造形の一手法である。したがって、甲第1号証には、構成Bについても開示されている。」と主張する。 (イ)しかしながら、甲第1号証には、「レーザー照射による出発材料(粉末または成形体)の合成」の方法として、「選択的レーザー焼結、直接レーザー焼結、レーザーマイクロ焼結、圧粉体レーザー焼結、選択的レーザー溶融、直接レーザー溶融」が列挙されているに過ぎず(第1050ページ左欄)、甲1発明の「Cu-1Zr(wt%)合金粉末」を選択的レーザー焼結又は選択的レーザー溶融に供することが記載されているわけではない。 よって、申立人の主張は採用できない。 (3)本件発明2について ア 本件発明2と甲1発明Aとの対比・判断 本件発明2と甲1発明Aとを対比すると、少なくとも、上記相違点1-2において相違する。 そして、相違点1-2についての判断は、上記(2)ア(イ)の判断と同様である。 イ 小括 したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1発明Aであるとはいえない。 (4)申立理由1のまとめ 以上のとおり、申立理由1によっては、本件特許の請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。 2 申立理由2-1、申立理由2-2(進歩性) (1)本件発明1について ア 本件発明1と甲1発明Aとの対比・判断 (ア)対比 本件発明1と甲1発明Aとを対比すると、上記一致点1において一致するとともに、上記相違点1-1、相違点1-2において相違する。 (イ)判断 事案に鑑み、相違点1-2から検討する。 a 甲第3号証には、99.1%Cu-0.8%Cr-0.1%Zr合金を選択的レーザー溶融することが(第95ページ「6.2.2 CuCr1Zrの選択的レーザー溶融」)、甲第4号証には、「積層造形用の金属粉末であって、クロムおよび珪素の少なくともいずれかを0.10質量%以上1.00質量%以下含有し、前記クロムおよび前記珪素の合計量が1.00質量%以下であり、残部が銅からなる、金属粉末。」(請求項1)が、甲第5号証には、「3Dプリンタで使用するための材料であって、平均断面長さが約100nm以下の複数の金属粒子と、有機アミン、カルボン酸、チオールおよびその誘導体、キサントゲン酸、ポリエチレングリコール、ポリビニルピリジン、ポリビニルピロリドン、またはこれらの組み合わせを含む安定化材料とを含む、材料。」(請求項1)がそれぞれ記載されている。 b 上記aに列記したとおり、積層造形用の金属粉末は、本件特許に係る出願の優先日前に当業者にとって周知であったと認められるから、甲1発明Aの銅合金粉末を積層造形への適用を試みることは、当業者が容易に想到し得たことといえる。 c 一方、本件発明1は、本件発明の解決しようとする課題を踏まえると、積層造形物としたときに、機械強度及び導電率を両立できる銅合金粉末である。 そして、積層造形物の導電率と機械強度とを両立することは、甲1発明及び甲第3号証~甲第6号証には何ら記載されておらず、甲1発明及び甲第3号証~甲第6号証の記載された事項から、当業者が予測することができる範囲を超えた顕著な効果であると認められる。 d よって、相違点1-1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3~6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 小括 したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3~6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (2)本件発明2について ア 本件発明2と甲1発明Aとの対比・判断 (ア)対比 本件発明1を引用する本件発明2は本件発明1の特定事項の全てを備えているので、本件発明2と甲1発明Aとを対比すると、両者は相違点1-1及び相違点1-2で相違しており、新たな相違点は生じない。 (イ)判断 よって、上記(1)ア(イ)で検討したのと同じ理由によって、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3~6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 申立人の主張について 申立人は、特許異議申立書の第18ページにおいて、「甲第7号証(記載事項1)には、Wを含む銅合金粉末が開示されている」から、「本件特許発明2は、甲第1号証~甲第7号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである」旨主張する。 しかしながら、甲第7号証に記載されるのは、導電ペースト用銅合金粉であり、導電ペーストとレーザー焼結とは技術分野が異なるから、甲1発明Aに甲第7号証に記載された事項を適用し、ZrをWに置換することが動機付けられるとはいえない。また、甲第7号証に記載された事項により、上記相違点1-2が解消するともいえない。 よって、申立人の主張は採用できない。 ウ 小括 したがって、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3~7号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3)本件発明3、4について ア 請求項3、4は、請求項1、2の記載を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1、2が、甲第1号証に記載された発明及び甲第3~7号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明3、4についても同様に、甲第1号証に記載された発明及び甲第3~7号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 小括 したがって、本件発明3、4は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3~7号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (4)本件発明5、6について ア 請求項5、6は、請求項1~4のいずれかの記載を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1~4が、甲第1号証に記載された発明及び甲第3~7号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明5、6についても同様に、甲第1号証に記載された発明及び甲第3~7号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 小括 したがって、本件発明5、6は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3~7号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (5)本件発明7について ア 本件発明7と甲1発明Bとの対比・判断 (ア)対比 a 甲1発明Bにおける、「Zr」は、甲第6号証の「Cu-Zr合金の状態図ではCu相中へのZrの固溶限0.12at%である」との記載を参照すると、本件発明7の「銅に対して液相以下の温度で最大の固溶量が0.2at%である添加元素」に相当する。 b 甲1発明Bにおける、「導電率が89±0.22%IACS」は、本件発明7の「導電率が50%IACS以上」に相当する。 c 甲第1号証の表2によれば、甲1発明Bの理論密度は、8.97g/cm3であるから、甲1発明Bの相対密度は、97.2%~98.8%(8.72/8.97~8.86/8.97)となる。 d そうすると、本件発明7と甲1発明Bとは、以下の一致点2において一致するとともに、以下の相違点1-3~相違点1-5において相違する。 <一致点2> 「銅合金から構成される物であって、 前記銅合金は、銅に対して液相以下の温度で最大の固溶量が0.2at%未満である添加元素を含有し、導電率が50%IACS以上である物。」である点。 <相違点1-3> 本件発明7は、銅合金から構成される物が、「積層造形物」であるのに対し、甲1発明Bは、銅合金から構成される物が、「Cu-1Zr(wt%)の粉末をコールドプレスした圧粉体を、スキャン数3のレーザー照射により焼結した焼結体」である点。 <相違点1-4> 銅合金の化学組成について、本件発明7は、「添加元素を0.1~12.0at%含有し(ただし、前記添加元素のうち少なくとも一つの添加元素について、当該添加元素の含有量が当該添加元素の前記固溶量を超えるものとする)、残部が銅及び不可避的不純物」であるのに対し、甲1発明Bは、「Cu-1Zr(wt%)」である点。 <相違点1-5> 本件発明7は、積層造形物の特性が、「理論密度に対する相対密度が98%以上であり、」「0.2%耐力が700MPa以上である」のに対し、甲1発明Bは、焼結体の相対密度が、97.2%~98.8%であり、0.2%耐力が不明である点。 (イ)判断 事案に鑑み、相違点1-5から検討する。 a 甲1発明及び甲第3号証~甲第7号証には、積層造形物の特性に関し、導電率が50%IACS以上と0.2%耐力が700MPa以上とを両立することが何ら記載されていないから、甲1発明Bにおいて、仮に、焼結体を積層造形物とすることが容易であったとしても、積層造形物の特性を、導電率が50%IACS以上、0.2%耐力が700MPa以上とすることが動機付けられるとはいえない。 また、これらの特性は、甲1発明及び甲第3号証~甲第7号証の記載された事項から、当業者が予測することができる範囲を超えた顕著な効果であると認められる。 b よって、相違点1-3、相違点1-4について検討するまでもなく、本件発明7は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3~7号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 申立人の主張について 申立人は、特許異議申立書の第20ページにおいて、「甲第6号証(記載事項2)には、Cu-Zr合金において、導電率が50%以上、0.2%耐力が700MPaとされたデータが開示されている。また、甲第6号証(記載事項3)には、Cu-4at%Zrにおいて、導電率が60%、引張強度が1000MPaとされたデータが開示されている。なお、甲第6号証(記載事項2)に開示されているように、0.2%耐力と引張強度は一定の関係にあり、引張強度が1000MPaであれば0,2%耐力は700MPa以上である蓋然性は高い。よって、構成要件Nについては、甲第6号証に開示されている。」と主張する。 しかしながら、甲第6号証の記載は、「3.3 強歪み伸線加工材の電気的・機械的性質・・・ Fig.7はWD Cu-4at%Zr合金の加工度(η)とEC、UTSおよびσ0.2との関係を示したものである.RS材、すなわちas-cast時のECは28%IACSであるが、WD材のECはRS材に比べて一旦高くなり、η=3.6付近で最高になった後、それ以上の加工度(η)では減少した.一方UTSとσ0.2は、加工度(η)の増加とともに直線的に増加した.これらの傾向は、WD Cu-5at%Zr合金で見られた過去の報告3)と一致している.」(第70ページ右欄~第71ページ左欄)というものであり、甲第6号証において、導電率が60%となるのは、伸線加工をη=3.6という強歪みで行った場合である。 そうすると、甲第6号証の上記記載は、積層造形物の特性を示唆するものとはいえないから、本件発明7が、甲第1号証に記載された発明及び甲第3~7号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 よって、申立人の主張は採用できない。 ウ 小括 したがって、本件発明7は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3~7号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (6)本件発明8について ア 本件発明8と甲1発明Bとの対比・判断 (ア)対比 本件発明7を引用する本件発明8は本件発明7の特定事項の全てを備えているので、本件発明8と甲1発明Bとを対比すると、両者は相違点1-3乃至相違点1-5で相違しており、新たな相違点は生じない。 (イ)判断 よって、上記(5)ア(イ)で検討したのと同じ理由によって、本件発明8は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3~7号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 小括 したがって、本件発明8は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3~7号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (7)申立理由2-1、2-2のまとめ 以上のとおり、申立理由2-1によっては、本件特許の請求項1、3~8に係る特許を取り消すことはできない。また、申立理由2-2によっては、本件特許の請求項2~8に係る特許を取り消すことはできない。 3 申立理由2-3(進歩性)、申立理由2-4(進歩性) (1)甲第2号証に記載された発明 ア 甲第2号証には、「CuとCu-Zr化合物とを含む銅合金の製造方法であって、 平均粒径が30μm以下であり、Zrを5.00at%以上8.00at%以下含有する亜共晶組成のCu-Zr二元系合金粉末を、0.9Tm℃以下の温度(Tm(℃)は前記合金粉末の融点)で直流パルス通電を行うことにより放電プラズマ焼結する焼結工程、を含む銅合金の製造方法。」(請求項6)が記載されている。 イ そして、甲第2号証に、上記アの製造方法に用いられる合金粉末、上記アの製造方法によって製造される銅合金も記載されることは明らかである。 ウ そうすると、甲第2号証の、特に、請求項6に着目すると、以下の2つの発明(以下、「甲2発明A」、「甲2発明B」という。)が記載されていると認められる。 <甲2発明A> 平均粒径が30μm以下であり、Zrを5.00at%以上8.00at%以下含有する亜共晶組成のCu-Zr二元系合金粉末であって、0.9Tm℃以下の温度(Tm(℃)は前記合金粉末の融点)で直流パルス通電を行うことにより放電プラズマ焼結されるCu-Zr二元系合金粉末。 <甲2発明B> 平均粒径が30μm以下であり、Zrを5.00at%以上8.00at%以下含有する亜共晶組成のCu-Zr二元系合金粉末を、0.9Tm℃以下の温度(Tm(℃)は前記合金粉末の融点)で直流パルス通電を行うことにより放電プラズマ焼結した、CuとCu-Zr化合物とを含む銅合金。 (2)本件発明1について ア 本件発明1と甲2発明Aとの対比・判断 (ア)対比 a 甲2発明Aにおける、「Zr」は、甲第6号証の「Cu-Zr合金の状態図ではCu相中へのZrの固溶限は0.12at%である」との記載を参照すると、本件発明1の「銅に対して液相以下の温度で最大の固溶量が0.2at%未満である添加元素」に相当する。 b 甲2発明Aにおける、「Cu-Zr二元系合金粉末」は、二元系合金であるから、「Cu-Zr二元系合金粉末」におけるCu及びZr以外の残部は、不可避的不純物であるといえる。また、甲2発明Aにおける、Zrの含有量(5.00at%以上8.00at%)は、Zrの固溶限(0.12at%)を超えている。 よって、甲2発明Aにおける、「Zrを5.00at%以上8.00at%以下含有する亜共晶組成のCu-Zr二元系合金粉末」は、本件発明1における、「添加元素を0.1~12.0at%含有し(ただし、前記添加元素のうち少なくとも一つの添加元素について、当該添加元素の含有量が当該添加元素の前記固溶量を超えるものとする)、残部が銅及び不可避的不純物である、」「銅合金粉末」に相当する。 c そうすると、本件発明1と甲2発明Aとは、以下の一致点3において一致するとともに、以下の相違点2-1において相違する。 <一致点3> 「銅に対して液相以下の温度で最大の固溶量が0.2at%未満である添加元素を0.1~12.0at%含有し(ただし、前記添加元素のうち少なくとも一つの添加元素について、当該添加元素の含有量が当該添加元素の前記固溶量を超えるものとする)、残部が銅及び不可避的不純物である、銅合金粉末。」である点。 <相違点2-1> 本件発明1は、銅合金粉末が、「積層造形用」であるのに対し、甲2発明Aは、Cu-Zr二元系合金粉末が、「0.9Tm℃以下の温度(Tm(℃)は前記合金粉末の融点)で直流パルス通電を行うことにより放電プラズマ焼結される」もので、「積層造形用」とはいえない点。 (イ)判断 a 上記2(1)ア(イ)で検討したとおり、積層造形用の金属粉末は、本件特許に係る出願の優先日前に当業者にとって周知であったと認められるものの、甲2発明AのCu-Zr二元系合金粉末は、「放電プラズマ焼結される」ことを前提とする銅合金粉末であるから、金属粉末を積層造形に供することが、本件特許に係る出願の優先日前に当業者にとって周知であったとしても、甲2発明AのCu-Zr二元系合金粉末を積層造形に供することが動機付けられるとはいえない。 b よって、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3~6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3)本件発明2について ア 本件発明2と甲2発明Aとの対比・判断 (ア)対比 本件発明1を引用する本件発明2は本件発明1の特定事項の全てを備えているので、本件発明2と甲2発明Aとを対比すると、両者は相違点2-1で相違しており、新たな相違点は生じない。 (イ)判断 よって、上記(2)ア(イ)で検討したのと同じ理由によって本件発明2は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3~6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 申立人の主張について 申立人は、特許異議申立書の第18ページにおいて、「甲第7号証(記載事項1)には、Wを含む銅合金粉末が開示されている」から、「本件特許発明2は、甲第1号証~甲第7号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである」旨主張する。 しかしながら、甲第7号証に記載されるのは、導電ペースト用銅合金粉であり、導電ペーストと放電プラズマ焼結とは技術分野が異なるから、甲2発明Aに甲第7号証に記載された事項を適用し、ZrをWに置換することが動機付けられるとはいえない。また、甲第7号証に記載された事項により、上記相違点2-1が解消するともいえない。 よって、申立人の主張は採用できない。 ウ 小括 したがって、本件発明2は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3~7号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (4)本件発明3、4について ア 請求項3、4は、請求項1、2の記載を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1、2が、甲第2号証に記載された発明及び甲第3~7号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明3、4についても同様に、甲第2号証に記載された発明及び甲第3~7号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 小括 したがって、本件発明3、4は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3~7号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (5)本件発明5、6について ア 請求項5、6は、請求項1~4のいずれかの記載を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1~4が、甲第2号証に記載された発明及び甲第3~7号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明5、6についても同様に、甲第2号証に記載された発明及び甲第3~7号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 小括 したがって、本件発明5、6は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3~7号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (6)本件発明7について ア 本件発明7と甲2発明Bとの対比・判断 (ア)対比 a 甲2発明Bにおける、「Zr」は、甲第6号証の「Cu-Zr合金の状態図ではCu相中へのZrの固溶限は0.12at%である」との記載を参照すると、本件発明7の「銅に対して液相以下の温度で最大の固溶量が0.2at%未満である添加元素」に相当する。 b 甲2発明Bにおける、「Cu-Zr二元系合金粉末」は、二元系合金であるから、「Cu-Zr二元系合金粉末」におけるCu及びZr以外の残部は、不可避的不純物であるといえる。また、甲2発明Bにおける、「Zr」の含有量(5.00at%以上8.00at%)は、Zrの固溶限(0.12at%)を超えている。 よって、甲2発明Bにおける、「Zrを5.00at%以上8.00at%以下含有する亜共晶組成のCu-Zr二元系合金」は、本件発明7における、「銅合金は、」「添加元素を0.1~12.0at%含有し(ただし、前記添加元素のうち少なくとも一つの添加元素について、当該添加元素の含有量が当該添加元素の前記固溶量を超えるものとする)、残部が銅及び不可避的不純物であり」に相当する。 c そうすると、本件発明7と甲2発明Bとは、以下の一致点4において一致するとともに、以下の相違点2-2、相違点2-3において相違する。 <一致点4> 「銅合金から構成される物であって、 前記銅合金は、銅に対して液相以下の温度で最大の固溶量が0.2at%未満である添加元素を0.1~12.0at%含有し(ただし、前記添加元素のうち少なくとも一つの添加元素について、当該添加元素の含有量が当該添加元素の前記固溶量を超えるものとする)、残部が銅及び不可避的不純物である物。」である点。 <相違点2-2> 本件発明7は、銅合金から構成される物が、「積層造形物」であるのに対し、甲2発明Bは、銅合金から構成される物が、「直流パルス通電を行うことにより放電プラズマ焼結した、CuとCu-Zr化合物とを含む銅合金」である点。 <相違点2-3> 本件発明7は、積層造形物の特性が、「理論密度に対する相対密度が98%以上であり、導電率が50%IACS以上であり、0.2%耐力が700MPa以上である」のに対し、甲2発明Bは、銅合金の特性が不明である点。 (イ)判断 a 相違点2-2について検討すると、甲2発明及び甲第3号証~甲第7号証には、「直流パルス通電を行うことにより放電プラズマ焼結した、CuとCu-Zr化合物とを含む銅合金」を「積層造形物」とすることが何ら記載されていなから、甲2発明Bにおいて、「直流パルス通電を行うことにより放電プラズマ焼結した、CuとCu-Zr化合物とを含む銅合金」を「積層造形物」とすることが動機付けられるとはいえない。 b よって、相違点2-3について検討するまでもなく、本件発明7は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3~7号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 小括 したがって、本件発明7は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3~7号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (7)本件発明8について ア 本件発明8と甲2発明Bとの対比・判断 (ア)対比 本件発明7を引用する本件発明8は本件発明7の特定事項の全てを備えているので、本件発明8と甲2発明Bとを対比すると、両者は相違点2-2及び相違点2-3で相違しており、新たな相違点は生じない。 (イ)判断 よって、上記(6)ア(イ)で検討したのと同じ理由によって、相違点2-3について検討するまでもなく、本件発明8は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3~7号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 小括 したがって、本件発明8は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3~7号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (8)申立理由2-3、2-4のまとめ 以上のとおり、申立理由2-3によっては、本件特許の請求項1、3~8に係る特許を取り消すことはできない。また、申立理由2-4によっては、本件特許の請求項2~8に係る特許を取り消すことはできない。 4 申立理由3(サポート要件) (1)ア 本件発明1は、「銅に対して液相以下の温度で最大の固溶量が0.2at%未満である添加元素を0.1~12.0at%含有し(ただし、前記添加元素のうち少なくとも一つの添加元素について、当該添加元素の含有量が当該添加元素の前記固溶量を超えるものとする)、残部が銅及び不可避的不純物である、積層造形用銅合金粉末。」との発明特定事項を有するものである。 また、本件発明7は、「銅合金から構成される積層造形物であって、 前記銅合金は、銅に対して液相以下の温度で最大の固溶量が0.2at%未満である添加元素を0.1~12.0at%含有し(ただし、前記添加元素のうち少なくとも一つの添加元素について、当該添加元素の含有量が当該添加元素の前記固溶量を超えるものとする)、残部が銅及び不可避的不純物であり、理論密度に対する相対密度が98%以上であり、導電率が50%IACS以上であり、0.2%耐力が700MPa以上である、積層造形物。」との発明特定事項を有するものである。 イ ここで、本件発明が解決しようとする課題は、「機械強度及び導電率を両立できる、銅合金から構成される積層造形用銅合金粉末、積層造形物の製造方法及び積層造形物を提供すること」であると認められる(段落【0008】)。 ウ そして、本件明細書には、上記課題を解決するための手段について、以下の事項が記載されている。なお、「・・・」は記載の省略を表す。 (ア)「上記の技術課題を解決するために、本発明者らが鋭意研究を行ったところ、銅に対する固溶量の低い添加元素を用いることで固溶を低減し、上記機械強度及び導電率の二律背反を解消することができるとの知見を見出し、さらなる検討と考察を加えて本発明を完成させた。」(段落【0009】) (イ)「銅合金粉末は、銅に対する固溶量が0.2at%未満である添加元素を含有する。添加元素を含有することにより、純銅の場合と比較してより高い機械強度を有する積層造形物を得ることができる。また、銅に対する固溶量が0.2at%未満であれば、造形における急速な加熱及び冷却によっても、添加元素が銅に固溶した相の形成が抑制されるので、より高い導電率を得ることができる。・・・」(段落【0013】) (ウ)「また、機械強度及び導電率を両立させる観点から、前記添加元素がW、Zr、Nb、Nd、Y、Mo、Os又はRuからなる群から選択される少なくとも一種であることが望ましい。これらの添加元素は、銅に対する固溶量がいずれも0.2at%未満であり、析出しやすいことから、積層造形物の機械強度を有意義に向上させることができるからである。(段落【0014】) (エ)「また、添加元素の含有量は0.1~12.0at%であることが好ましい。添加元素の含有量が0.1at%以上であれば、機械強度の向上の効果がより現れ、12.0at%以下であれば、導電率の不必要な低下を防止することができるからである。 また、添加元素を2種以上添加する場合、その合計量は0.1~12.0at%であればよい。・・・」(段落【0015】) エ 上記ウの記載事項からすると、上記イに記載の課題において、機械強度は、添加元素が析出することで解決し、導電率は、銅に固溶した相の形成を抑制することで解決するものと認められる。 オ そして、本件明細書の段落【0027】の表1-1、表1-2によれば、銅合金から構成される積層造形物の具体的な化学成分として、本件発明2で特定される8種の添加元素のうち少なくとも一つを、銅に対して液相以下の温度で最大の固溶量を超えて含有する実施例1~45が所望の機械強度及び導電率を両立できるのに対し、銅に対して液相以下の温度で最大の固溶量が0.2at%以上のCr、Si又はAlの1種を含有する比較例1~4、純銅の比較例5では、所望の機械強度及び導電率を両立できないことから、本件発明1、7は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。 カ 申立人は、特許異議申立書の第22ページの3(4)カ(ア)において、「本件特許明細書の実施例においては、添加元素の含有量が最小で0.4at%のものが記載されているにすぎず、下限値である0.1at%近傍の実施例はない。」、「銅に対して液相以下の温度で最大の固溶量が0.2at%未満である添加元素において、例えば含有量が0.2at%や0.3at%である場合に、目的とする効果を達成できるかはサポートされていない。」と主張する(なお、令和 5年 3月 7日提出の意見書の第4ページの3-2)(1)イ)、令和 5年 6月 2日提出の意見書の第4ページの3-2)(1)イ)においても同様に主張する。)が、上記ウ~オで検討したとおり、本件発明1、7は、サポート要件を満たすものであるから、添加元素の含有量が0.1at%近傍、0.2at%や0.3at%である場合であっても、サポート要件を満たすものである。 よって、申立人の主張は採用できない。 キ 申立人は、令和 5年 3月 7日提出の意見書の第3~4ページの3-2)(1)ア)において、「添加元素を2種以上含む場合には、上述のように、添加元素の固溶量は変化することから、2元系のCu合金の相図から確認される各添加元素の固溶量を超える量を添加したとしても、必ずしも「添加元素が全て固溶していて、全く析出しない」場合が排除されている、とは言えない。」と主張するが、「添加元素を2種以上含む場合」は、本件訂正前の請求項1、7に係る発明においても包含される場合であって、本件訂正により生じた理由であるとはいえない。 よって、この主張は、実質的に新たな申立理由であるから採用できない。 ク 申立人は、令和 5年 3月 7日提出の意見書の第4~5ページの3-2)(1)ウ)において、「添加元素として、W、Zr、Nb、Nd、Y、Mo、Os、Ruが記載されているのみであり、その他の元素については開示されていない。その他の添加元素における作用効果については確認されていない。」と主張する(申立人は、令和 5年 6月 2日提出の意見書の第5ページの3-2)(1)ウ)においても同様に主張する。)が、上記添加元素は、本件訂正前の請求項2、8にも記載される事項であるから、本件訂正により生じた理由であるとはいえない。 よって、この主張は、実質的に新たな申立理由であるから採用できない。 ケ 申立人は、令和 5年 6月 2日提出の意見書の第3ページの3-2)(1)ア)において、「2種類の添加元素を含有した・・・いずれの実施例においても、全ての添加元素において最大の固溶量(銅に対する固溶量(at%))を超えたものした開示されておらず、複数の添加元素のうち「少なくとも一つ」の添加元素において固溶量を超えた含有量のものは開示されていない 。」と主張するが、「全ての添加元素において最大の固溶量(銅に対する固溶量(at%))を超えたもの」と「複数の添加元素のうち「少なくとも一つ」の添加元素において固溶量を超えた含有量のもの」とは矛盾しない。 よって、申立人の主張は採用できない。 (2)ア 上記のとおり、本件発明1、7は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえるから、本件発明1、7を引用する本件発明2~6、8も同様である。 イ 申立人は、特許異議申立書の第22ページの3(4)カ(イ)において、「本件請求項2~6においては上述する本件請求項1を引用するものであり、本件請求項8においては上述する本件請求項7を引用するものであり、これら本件請求項2~6,8についてもサポートされていない。」と主張する(なお、令和 5年 3月 7日提出の意見書の第5ページの3-2)(2)、令和 5年 6月 2日提出の意見書の第5ページの3-2)(2)においても同様に主張する。)が、上記アのとおりである。 よって、申立人の主張は採用できない。 (3)小括 したがって、本件発明1~8について、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものである。 5 申立理由4(明確性要件) (1)ア 本件発明1、7は、「銅に対して液相以下の温度で最大の固溶量が0.2at%未満である添加元素」との発明特定事項を有する。 イ 上記添加元素について、本件明細書の段落【0013】に、「銅に対する固溶量は、添加元素の固有の性質であり、一般的に相図と呼ばれる二つの元素の温度に対する相関係を示す図から抽出することができる。例えば、ASM International社発行のPhase Diagrams for Binary Alloys(ISBN:0-87170-682-2)を参考にして判断する。この相図から、Cu側の固溶量を参照し、液相以下の温度で最大の固溶量が0.2at%以下の元素が対象の元素となる。」と記載されるように、相図を参照すれば、対象となる具体的な添加元素を明確に理解することができる。 ウ したがって、本件発明1、7の記載は、特許を受けようとする発明が明確である。 エ 申立人は、特許異議申立書の第21ページの3(4)オ(ア)において、「本件特許明細書段落0013には、添加元素として「より詳細には、Ba,Bi(中略)Yb,Zrである。」との記載があるが、実施例(表1-1、1-2)には、段落0013に記載されたBa、Biなどの添加元素の実施例の開示がない。ここで、出願人は、令和2年12月28日に提出された「審判請求書」の「(4)本願発明の進歩性について(ア)」において、「銅合金は、その性質上そもそも積層造形に適さない点があること」及び「どのような添加元素をどれくらい添加すると目的とする強度や導電率が得られるか、慎重な試行錯誤が必要であること」を述べており、該実施例の開示がない点と審判請求書における主張とが矛盾する。」と主張するが、上記主張は、明確性要件に係る主張とはいえないから採用できない。 オ また、申立人は、令和 5年 3月 7日提出の意見書の第5ページの3-3)(1)において、「2種類以上の添加元素を含有する場合には、添加元素の含有量を規定することができない。」と主張するが、「2種類以上の添加元素を含有する場合」は、本件訂正前の請求項1、7に係る発明においても包含される場合であって、本件訂正により生じた理由であるとはいえない。 よって、この主張は、実質的に新たな申立理由であるから採用できない。 カ なお、令和 5年 3月 7日提出の意見書の第5ページの3-4)における、実施可能要件に係る主張も、上記オの判断と同様に、本件訂正により生じた理由であるとはいえない。 よって、この主張も、実質的に新たな申立理由であるから採用できない。 (2)ア 本件発明2、8は、「添加元素がW、Zr、Nb、Nd、Y、Mo、Os又はRuからなる群から選択される少なくとも一種である」との発明特定事項を有する。 イ 上記添加元素に係る記載について、不明確な点は認められないから、本件発明2、8の記載は、特許を受けようとする発明が明確である。 ウ 申立人は、特許異議申立書の第21ページの3(4)オ(イ)において、「本件請求項2および請求項8には、「前記添加元素がW、Zr、(中略)Ruからなる群から選択される」は、それぞれの添加元素において具体的にどれくらい添加するとよいのか、各添加元素の含有量が規定されておらず、不明確である。」と主張する。 しかしながら、本件発明2、8は、その記載から明らかなように、添加元素ごとの含有量を特定しない発明であって、その点においては明確であるから、「各添加元素の含有量が規定されておらず、不明確である。」とはいえない。 よって、申立人の主張は採用できない。 (3)ア 上記のとおり、本件発明1、2の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるから、本件発明1、2の記載を引用する本件発明3~6の記載も、特許を受けようとする発明が明確である。 イ 申立人は、特許異議申立書の第21ページの3(4)オ(ウ)において、「本件請求項3~6においては、上述する本件請求項1,2を引用するものであり、これら本件請求項3~6の記載も不明確である。」と主張するが、上記アのとおりである。 よって、申立人の主張は採用できない。 (4)小括 したがって、本件発明1~8について、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定に適合するものである。 (5)申立理由4のまとめ 以上のとおり、申立理由4によっては、本件特許の請求項1~8に係る特許を取り消すことはできない。 6 令和 4年11月21日付けで通知した取消理由 (1)取消理由1(サポート要件) 本件訂正により、本件発明1に、「添加元素のうち少なくとも一つの添加元素について、当該添加元素の含有量が当該添加元素の前記固溶量を超えるものとする」との事項が追加されたため、本件発明1は、「添加元素の含有量が、銅に対して液相以下の温度で最大の固溶量未満」となる態様は包含されなくなった。 よって、取消理由1は解消した。 (2)取消理由2(実施可能要件) ア 本件訂正により、本件発明7に、「残部が銅及び不可避的不純物であり」との事項が追加されることにより、本件発明7は、銅合金の化学組成が特定された。 イ 本件訂正により、本件発明7に、「添加元素のうち少なくとも一つの添加元素について、当該添加元素の含有量が当該添加元素の前記固溶量を超えるものとする」との事項が追加されたため、本件発明7は、「添加元素の含有量が、銅に対して液相以下の温度で最大の固溶量未満」となる態様は包含されなくなった。 ウ よって、取消理由2は解消した。 7 令和 5年 3月31日付けで通知した取消理由 (1)取消理由1(サポート要件) 本件訂正により、本件発明1に、「添加元素のうち少なくとも一つの添加元素について、当該添加元素の含有量が当該添加元素の前記固溶量を超えるものとする」との事項が追加されたため、本件発明1は、「想定例」が包含されなくなった。 よって、取消理由1は解消した。 第8 まとめ 以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した申立理由及び当審から通知した取消理由によっては、本件特許の請求項1~8に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2022-700786

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