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特許異議申立

2022-700442

圧粉磁芯用鉄基粉末および圧粉磁芯

審判番号
2022-700442
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-516924
登録番号
6969677
請求日
2022年05月21日
審決日
2023年03月15日
公報発行日
2023年06月30日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】JFEスチール株式会社
  • 【権利者代理人】杉村 憲司
  • 【権利者代理人】川原 敬祐
  • 【権利者代理人】市枝 信之
  • 【異議申立人】工藤 知江
  • 【異議申立人】宮川 貴浩
  • 【異議申立人】松崎 隆
審判長/審判官
  • 審判長 井上 猛
  • 審判官 山本 佳
  • 審判官 粟野 正明
分類
P1651.113-YAA(B22F) / P1651.121-YAA(B22F) / P1651.161-YAA(B22F) / P1651.4 -YAA(B22F) / P1651.536-YAA(B22F)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第41条第3項、特許法第29条の2、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第39条第1項、特許法第120条の8第1項
データ出所
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事件の表示

特許第6969677号発明「圧粉磁芯用鉄基粉末および圧粉磁芯」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6969677号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。 特許第6969677号の請求項1、2、4、5に係る特許を維持する。 特許第6969677号の請求項3に係る特許異議の申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第6969677号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、2020年(令和 2年) 2月10日(優先権主張 平成31年3月6日)を国際出願日として特許出願され、令和 3年11月 1日にその特許権の設定登録がされ、同年11月24日に特許掲載公報が発行されたものであり、本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和 4年 5月21日差出 :特許異議申立人工藤知江(以下、「申立人 1」という。)による請求項1~5(全請 求項)に係る特許に対する特許異議の申立 て 令和 4年 5月23日差出 :特許異議申立人宮川貴浩(以下、「申立人 2」という。)による請求項1~5(全請 求項)に係る特許に対する特許異議の申立 て 令和 4年 5月23日差出 :特許異議申立人松崎隆(以下、「申立人3 」という。)による請求項1~5(全請求 項)に係る特許に対する特許異議の申立て 令和 4年10月 3日付け :取消理由通知 令和 4年11月16日提出 :特許権者による意見書及び訂正請求書(以 下、「本件訂正請求書」といい、当該請求 書による訂正請求を「本件訂正請求」とい い、本件訂正請求による訂正を「本件訂正 」という。) 第2 訂正請求について 1 訂正請求の趣旨、及び訂正の内容 (1)訂正請求の趣旨 本件訂正請求は、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~5について訂正することを求めるものであり、その内容は、以下のとおりである。なお、下線は、訂正した箇所を表す。 (2)訂正の内容 ア 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、「最大粒径が1mm以下であり」と記載されているのを、「最大粒径が400μm以下であり」と訂正する。 請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2、4、5も同様に訂正する。 イ 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項3を削除する。 ウ 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項4に、「請求項1~3のいずれか一項に記載の圧粉磁芯用鉄基粉末。」と記載されているのを、「請求項1または2に記載の圧粉磁芯用鉄基粉末。」と訂正する。 2 本件訂正の適否についての当審の判断 2-1 訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び、新規事項追加の有無 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の「最大粒径が1mm以下であり」との発明特定事項を、本件訂正前の請求項3の発明特定事項である「最大粒径が400μm以下であり」と限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲(以下、「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正である。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、請求項3を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された事項の範囲内の訂正である。 (3)訂正事項3について 訂正事項3は、本件訂正前の請求項4について、訂正事項2において請求項3を削除することに伴い、請求項3を引用しないようにするものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された事項の範囲内の訂正である。 2-2 一群の請求項について 本件訂正前の請求項2~5は、本件訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1~5は一群の請求項であり、本件訂正は特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。 そして、本件訂正は、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めはないから、訂正後の請求項〔1~5〕を訂正単位として訂正の請求をするものである。 2-3 独立特許要件について 本件特許異議の申立ては、訂正前の全ての請求項である請求項1~5に対してされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。 2-4 訂正請求についてのむすび 以上のとおり、本件訂正による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~5〕についての訂正を認める。 なお、本件訂正は、上記2-1のとおり、本件訂正前の請求項1に、本件訂正前の請求項3の発明特定事項を加えることによって、実質的に本件訂正前の請求項1、2を削除する訂正といえ、訂正が一部の請求項の削除のみの場合に該当することから、申立人に意見書提出の機会を与える必要がないと認められる特別な事情がある場合に該当するため、上記意見書及び訂正請求書は申立人に送付されなかった。 第3 本件発明 本件特許の請求項1~5に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下、請求項1~5に係る発明を、それぞれ「本件発明1」~「本件発明5」といい、これらを総称して「本件発明」という。) 「【請求項1】 圧粉磁芯用鉄基粉末であって、 最大粒径が400μm以下であり、 前記圧粉磁芯用鉄基粉末を構成する粒子の円形度の中央値が0.40以上であり、 Rosin-Rammlerの式における均等数が0.30以上、90.0以下である、圧粉磁芯用鉄基粉末。 【請求項2】 下記(A)および(B)の少なくとも一方の条件を満足する、請求項1に記載の圧粉磁芯用鉄基粉末。 (A)前記円形度の中央値が0.70以上かつ前記均等数が0.30以上、90.0以下 (B)前記円形度の中央値が0.40以上かつ前記均等数が0.60以上、90.0以下 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 前記圧粉磁芯用鉄基粉末を構成する粒子の表面に絶縁被覆を有する、請求項1または2に記載の圧粉磁芯用鉄基粉末。 【請求項5】 請求項4に記載の圧粉磁芯用鉄基粉末を用いてなる圧粉磁芯。」 第4 特許異議申立理由 1 申立人1による申立理由 申立人1は、証拠方法として、甲第1号証~甲第5号証(以下、「甲1-1」~「甲1-5」という。)を提出し、以下の申立理由により、本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。 (証拠方法) 甲第1号証(甲1-1):Takuya Takashita外2名、「Influence of Particle Shape on Microstructure and Magnetic Properties of Iron Powder Cores」、Materials Transactions、2016年、Vol.57、No.11、p.1859-1867 甲第2号証(甲1-2):関本光一郎他2名、「高圧水アトマイズジェットの形状が金属粉末の特性におよぼす影響」、電気製鋼/大同特殊鋼技報、2017年6月16日、第88巻、第1号、p.11-17 甲第3号証(甲1-3):国際公開第2020/026949号 甲第4号証(甲1-4):甲第3号証に係る特許出願の国内優先権の基礎出願である特願2018-144278号の願書並びに当該願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲、要約書及び図面 甲第5号証(甲1-5):(社)粉体粉末冶金協会、「粉体粉末冶金便覧」、株式会社 内田老鶴圃、2010年11月10日、p.44-45、50-55 (1)申立理由1-1(新規性・取消理由として不採用) 本件訂正前の請求項1~5に係る発明は、甲1-1又は甲1-2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)申立理由1-2(進歩性・取消理由として不採用) 本件訂正前の請求項1~5に係る発明は、甲1-1又は甲1-2に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (3)申立理由1-3(拡大先願・取消理由として一部採用) 本件訂正前の請求項1~5に係る発明は、本件特許の優先日前の特許出願であって、本件特許の優先日後に特許法第41条第3項(同法第184条の15第2項参照)の規定により出願公開がされたものとみなされた、甲1-3の日本語特許出願の優先権主張の基礎とされた甲1-4の出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の発明者がその優先日前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の優先日において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもない。 したがって、本件訂正前の請求項1~5に係る発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 2 申立人2による申立理由 申立人2は、証拠方法として、甲第1号証~甲第3号証(以下、「甲2-1」~「甲2-3」という。)を提出し、以下の申立理由により、本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。 (証拠方法) 甲第1号証(甲2-1):特許第5368686号公報 甲第2号証(甲2-2):特開2004-143595号公報 甲第3号証(甲2-3):国際公開第2020/026949号 (1)申立理由2-1(進歩性・取消理由として不採用) 本件訂正前の請求項1~5に係る発明は、甲2-1に記載された発明、及び甲2-2の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)申立理由2-2(実施可能要件・取消理由として不採用) 本件訂正前の請求項1~5に係る発明については、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、本件訂正前の請求項1~5に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 3 申立人3による申立理由 申立人3は、証拠方法として、甲第1号証~甲第4号証(以下、「甲3-1」~「甲3-4」という。)を提出し、以下の申立理由により、本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。 (証拠方法) 甲第1号証(甲3-1):特開2009-200325号公報 甲第2号証(甲3-2):特開2009-070914号公報 甲第3号証(甲3-3):国際公開第2020/026949号 甲第4号証(甲3-4):特許第6865860号公報 (1)申立理由3-1(新規性・取消理由として不採用) 本件訂正前の請求項1~5に係る発明は、甲3-1又は甲3-2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)申立理由3-2(進歩性・取消理由として不採用) 本件訂正前の請求項1~5に係る発明は、甲3-1又は甲3-2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (3)申立理由3-3(拡大先願・取消理由として一部採用) 本件訂正前の請求項1~5に係る発明は、本件特許の優先日前の特許出願であって、本件特許の優先日後に特許法第41条第3項(同法第184条の15第2項参照)の規定により出願公開がされたものとみなされた、甲3-3に係る日本語特許出願の優先権主張の基礎とされた出願(特願2018-144278号)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の発明者がその優先日前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の優先日において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもない。 したがって、本件訂正前の請求項1~5に係る発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (4)申立理由3-4(先願・取消理由として不採用) 本件訂正前の請求項1に係る発明は、本件特許の出願の日前の特許出願である甲3-4の出願に係る発明と同一の発明である。 したがって、本件訂正前の請求項1に係る発明は、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 第5 取消理由の概要 令和4年10月3日付けでした取消理由では、申立理由1-3、申立理由3-3の一部を採用し、以下の取消理由を通知した。 1 取消理由(拡大先願) 本件訂正前の請求項1、2、4、5に係る発明は、本件特許の優先日前の特許出願であって、本件特許の優先日後に特許法第41条第3項(同法第184条の15第2項参照)の規定により出願公開がされたものとみなされた、甲1-3もしくは甲3-3の日本語特許出願の優先権主張の基礎とされた甲1-4の出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の発明者がその優先日前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の優先日において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもない。 したがって、本件訂正前の請求項1、2、4、5に係る発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 第6 当審の判断 1 取消理由(拡大先願)について 本件訂正によって、本件発明1、2、4、5は、取消理由の対象となっていない本件訂正前の請求項3の発明特定事項である「最大粒径が400μm以下であ」る点を発明特定事項として有するものとなったため、取消理由(拡大先願)は解消した。 2 取消理由として採用しなかった申立理由について (1)拡大先願(申立理由1-3、3-3)について ア 先願当初明細書等の記載 2020年(令和 2年) 2月 6日に国際公開(国際公開第2020/026949号)がされた出願(PCT/JP2019/029302)(以下、「先願」という。)である甲1-3もしくは甲3-3の優先権主張の基礎とされた出願である甲1-4の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「先願当初明細書等」という。)には、以下の記載がある。 なお、各項目において、摘記した記載の後に、括弧書きで、前記摘記した内容が含まれる甲1-3もしくは甲3-3の段落番号を記載する。また、下線は当審が付し、「・・・」は記載の省略を示す。以下同じ。 (ア)「【請求項1】 不可避不純物を除き組成式FeaSibBcPdCueMfで表される組成を有する軟磁性粉末であって、 前記組成式中のMは、Nb、Mo、Zr、Ta、W、Hf、Ti、V、Cr、Mn、C、Al、S、O、およびNからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素であり、 79at%≦a≦84.5at%、 0at%≦b<6at%、 0at%<c≦10at%、 4at%<d≦11at%、 0.2at%≦e≦0.53at%、 0at%≦f≦4at%、かつ a+b+c+d+e+f=100at%であり、 粒径が1mm以下であり、かつ、 前記軟磁性粉末を構成する粒子の円形度の中央値が0.4以上、1.0以下である、軟磁性粉末。 ・・・ 【請求項3】 請求項1または2に記載の軟磁性粉末であって、 Rosin-Rammler式における均等数nが0.3以上、30以下である軟磁性粉末。」 ([請求項1]~[請求項3]) (イ)「【0047】 (円形度) 本実施形態の軟磁性粉末においては、該軟磁性粉末を構成する粒子の円形度の中央値を0.4以上、1.0以下とする。通常、圧粉磁芯は絶縁被覆された軟磁性粉末を加圧成形して製造される。その際、粒子の形状が過度にいびつであると粒子表面の絶縁被覆が破れ、その結果、圧粉磁芯の磁気特性が低下する。さらに、粒子の形状が過度にいびつであると圧粉磁芯の密度が低下し、その結果、磁気特性が悪化する。そのため、円形度の中央値を0.4以上とする。一方、円形度の上限は、その定義より1である。そのため、本実施形態では、円形度の中央値を1.0以下とする。なお、円形度の平均値は円形度が大きい粒子の値の影響が大きく受けるため、粉末全体の円形度を示す指標として適していない。したがって、本発明では円形度の中央値を用いる。 【0048】 ここで、軟磁性粉末を構成する粒子の円形度とその中央値は以下の方法で測定することができる。まず、対象の軟磁性粉末を顕微鏡で観察し、視野内に含まれる個々の粒子の投影面積A(m2)および周囲長さP(m)を求める。1つの粒子の円形度(φ)は、当該粒子の投影面積Aおよび周囲長さPより、下記(1)式を用いて算出することができる。ここで円形度φは無次元数である。 φ=4πA/P2…(1) 【0049】 得られた個々の粒子の円形度φを昇順に並べた際の、中央の値を円形度の中央値(φ50)とする。なお、より具体的には、実施例に記載した方法で円形度の中央値を求めることができる。」 ([0047]~[0049]) (ウ)「【0050】 (粒径) 上記軟磁性粉末を構成する粒子の粒径は、結晶化度を低くするため1mm以下とする。前記粒径は200μm以下とすることが好ましい。なお、ここで粒径が1mm以下であるとは、軟磁性粉末に含まれる全ての粒子の粒径が1mm以下であること、すなわち、軟磁性粉末が粒径1mm超の粒子を含まないことを意味するものとする。前記粒径は、レーザー粒度分布計によって測定することができる。」 ([0050]) (エ)「【0051】 (均等数n) 軟磁性粉末の粒度分布を狭くすることにより、粒度偏析を抑制し、圧粉磁芯の密度をさらに向上させることができる。そしてその結果、圧粉磁芯の磁気特性が一層向上する。そのため、Rosin-Rammler式における均等数nを0.3以上とすることが好ましい。均等数nは、粒度分布の広さを表す指標であり、均等数nが大きい値ほど粒度分布が狭い、つまり粒径が均一であることを意味する。一方、nが30超の場合、粒径が過度に均一になるため、粗大粒子間の隙間に入る微細粒子の数が不足し、空隙率が上昇して圧粉磁芯の密度の低下につながる。そのため、さらに磁気特性を向上させるという観点からは、Rosin-Rammler式における均等数nを30以下とすることが好ましい。 【0052】 前記均等数nは、以下の方法で求めることができる。Rosin-Rammler式は、粉体の粒度分布を表す式の1つであり、下記(2)式で表される。 R=100exp{-(d/c)n}…(2) 【0053】 上記(2)式中の記号は、それぞれ次の意味である。 d(m):粒径 R(%):粒径d以上の粒子の体積割合 c(m):R=36.8%に相当する粒径 n(-):均等数 【0054】 上記(2)式を、自然対数を用いて変形すると、下記(3)式となる。したがって、X軸にln d、Y軸にln{ln(100/R)}の値をとってプロットして得られる直線の傾きが均等数nとなる。 ln{ln(100/R)}=n×ln d-n×ln c…(3) 【0055】 そこで、レーザー粒度分布計を用いて測定した実際の軟磁性粉末の粒度分布を、上記(3)式を用いて直線近似することにより、均等数nを求めることができる。 【0056】 なお、直線近似の相関係数rが、一般的に強い相関があるとされる0.7以上の時のみ作製した粉末粒子においてRosin-Rammlerの式が成立するとし、その傾きを均等数として適用する。また、均等数の精度確保のため、粉末において測定された粒径の上限と下限において10以上の粒径範囲に分割して各粒径範囲における体積割合をレーザー粒度分布計で測定し、Rosin-Rammlerの式に適用するものとする。 【0057】 均等数nが0.3以上、30以下である軟磁性粉末は、例えば、水アトマイズ法の場合は、溶鋼に衝突させる水の水圧や水/溶鋼の流量比、溶鋼注入速度を制御することで製造することができる。」 ([0051]~[0057]) (オ)「【0102】 (第1の実施例) ・・・ 【0103】 ・軟磁性粉末の作製と評価 まず、軟磁性粉末を製造するための原料として、工業純鉄、フェロシリコン、フェロリン、フェロボロン、フェロニオブ、フェロモリブデン、ジルコニウム、タンタル、タングステン、ハフニウム、チタン、フェロバナジウム、フェロクロム、フェロマンガン、フェロカーボン、フェロアルミ、硫化鉄、および電解銅を用意した。前記原料を、表1に示す組成となるように秤量し、アルゴン雰囲気中で高周波溶解によって溶解して合金溶湯とした。前記合金溶湯を水アトマイズ法によって処理し、軟磁性粉末(合金粉末)を作製した。 ・・・ 【0105】 円形度の中央値は、以下の手順で評価した。まず、対象となる軟磁性粉末を乾燥した後、粒子画像イメージング分析装置モフォロギG3(スペクトリス株式会社製)に装入した。前記モフォロギG3は、顕微鏡により粒子を撮像し、得られた画像を解析する機能を有する装置である。前記軟磁性粉末は、個々の粒子の形状が判別可能となるように、500kPaの空気によりガラス上に分散させた。次いで、ガラス上に分散させた前記軟磁性粉末をモフォロギG3付属の顕微鏡で観察し、視野に含まれる粒子の個数が6万個になるよう自動で倍率を調整した。その後、視野内に含まれる6万個の粒子について画像解析を行い、自動的に各粒子の円形度φを算出した。得られた個々の粒子の円形度φを昇順に並べた際の、中央の値を円形度の中央値(φ50)とした。得られた軟磁性粉末の円形度の中央値は、いずれも0.7以上、1.0以下であった。 ・・・ 【0107】 さらに、得られた軟磁性粉末の粒度分布をレーザー粒度分布計により測定した。その結果、いずれの軟磁性粉末も粒径が1mm以下であった。すなわち、いずれの軟磁性粉末も粒径1mm超の粒子を含まなかった。 ・・・ 【0110】 ・圧粉磁芯の作製と評価 さらに、上記軟磁性粉末(熱処理前のもの)を用いて、以下の手順で圧粉磁芯を作製した。まず、前記軟磁性粉末を、2mass%のシリコーン樹脂を使用して造粒した。次いで、造粒後の粉末を、外径13mm且つ内径8mmの金型を使用して10ton/cm2の成形圧力によって成形した。その後、電気炉を使用して熱処理を施し、圧粉磁芯を得た。前記熱処理は、上記Fe基ナノ結晶合金粉末の製造における熱処理と同じ条件で行った。」 ([0102]~[0110]) (カ)「【0141】 (第7の実施例) さらに、軟磁性粉末の円形度の中央値が見掛密度と磁気特性に与える影響を評価するために、表13に示した組成の軟磁性粉末を製造した。軟磁性粉末の製造にあたっては、円形度の中央値が異なる軟磁性粉末を得るために、溶鋼に衝突させる水の流速を変えた異なる条件で水アトマイズを行った。それ以外については、上記第1の実施例と同様とした。 【0142】 得られた軟磁性粉末の粒度分布を第1の実施例と同様の方法で測定した結果、いずれの軟磁性粉末も粒径が1mm以下であった。 【0143】 得られた軟磁性粉末の円形度の中央値を、先に述べた方法で測定した。なお、測定においては、該軟磁性粉末を構成する粒子の中から無作為に抽出した6万個の粒子の円形度を顕微鏡観察により算出し、得られた円形度の中央値φ50(無次元)を求めた。得られた結果を表13に併記した。 【0144】 また、軟磁性粉末の見掛密度(g/cm3)をJIS Z 2504で規定される方法により測定した。結果を表13に併記する。 【0145】 実施例103~112の結果から分かるように、φ50が大きいほど、すなわち粒子が球形に近いほど、粉末の見掛密度が高くなる。具体的には、φ50が0.4以上の粉末では、見掛密度が3.5g/cm3以上であった。 【0146】 次いで、上記軟磁性粉末(熱処理前のもの)を用いて、上記第1の実施例と同様の方法で圧粉磁芯を作製した。成形後の熱処理では、成形体を表13に示した最高到達温度(Tmax)まで、昇温速度:10℃/minで加熱し、前記最高到達温度で10分間保持した。その後、得られた圧粉磁芯の密度(圧粉密度)とコアロスを測定した。前記圧粉密度は、圧粉後の成形体の質量を、圧粉後の成形体の体積で割ることにより求めた。また、コアロスは第1の実施例と同様の方法で測定した。コアロスの評価基準も第1の実施例と同様とした。得られた圧粉密度とコアロスの値を表13に併記する。」 ([0141]~[0146]) (キ)「【0150】 (第8の実施例) さらに、軟磁性粉末の均等数nが見掛密度と磁気特性に与える影響を評価するために、表14に示した組成の軟磁性粉末を製造した。軟磁性粉末の製造にあたっては、溶鋼に衝突させる水の流速を変えた異なる条件で水アトマイズを行った。それ以外については、上記第7の実施例と同様とした。 【0151】 得られた軟磁性粉末の粒度分布を第1の実施例と同様の方法で測定した結果、いずれの軟磁性粉末も粒径が1mm以下であった。 【0152】 得られた軟磁性粉末の粒度分布をレーザー粒度分布計により測定し、先に述べた方法でRosin-Rammler式における均等数nを算出した。均等数nは粒度分布の広さを表す指標である。また、得られた軟磁性粉末の円形度の中央値を、上記第7の実施例と同様の方法で測定した。得られた結果を表14に併記した。 【0153】 次いで、上記第7の実施例と同様の方法で圧粉磁芯を作製し、得られた圧粉磁芯の密度(圧粉密度)とコアロスを測定した。成形後の熱処理では、成形体を表14に示した最高到達温度(Tmax)まで、昇温速度:10℃/minで加熱し、前記最高到達温度で10分間保持した。得られた圧粉密度とコアロスの値を表14に併記した。 【0154】 得られた軟磁性粉末のφ50は、実施例113~117では約0.90で、ほぼ一定であった。同様に、実施例113~121におけるφ50は約0.95で、ほぼ一定であった。 【0155】 実施例113~121の結果より、φ50がほぼ同じであっても、均等数nが大きいほど、すなわち、粒径がより均一になるほど軟磁性粉末の見掛密度が高くなることが分かる。特に、均等数nが0.3以上であれば見掛密度が3.5g/cm3以上となり、圧粉磁芯のコアロスがさらに低下した。これは、見掛密度の上昇により圧粉成形後の圧粉密度が上昇し、圧粉磁芯中の空隙が減少したためである。 【0156】 また、実施例113、118と実施例114、119を比較すると、均等数nが0.3未満である実施例113、118では軟磁性粉末の見掛密度が低く、圧粉磁芯のコアロスが高かった。したがって、軟磁性粉末のnは0.3以上とすることが好ましい。また、実施例116、121と実施例117、122を比較すると、均等数nが30より大きい実施例117、122では軟磁性粉末の見掛密度が低く、圧粉磁芯のコアロスが大きかった。これは、軟磁性粉末を構成する粒子の径が過度に均一化したため、粗大粒子により作られた隙間に入る細粒が減少し、結果的に粉体中の空隙が増加したためである。 【0157】 【表14】 [図:0001398259000001.jpg] 」 ([0150]~[0157]) (ク)「【0158】 (第9の実施例) さらに、軟磁性粉末の円形度の中央値と均等数nが圧粉磁芯の飽和磁束密度に与える影響を評価するために、表15に示した組成の軟磁性粉末を製造した。軟磁性粉末の製造にあたっては、溶鋼に衝突させる水の流速を変えた異なる条件で水アトマイズを行った。それ以外については、上記第7の実施例と同様とした。 【0159】 得られた軟磁性粉末の粒度分布を第1の実施例と同様の方法で測定した結果、いずれの軟磁性粉末も粒径が1mm以下であった。 【0160】 得られた軟磁性粉末の円形度の中央値φ50と均等数nを、上記第7の実施例と同様の方法で求めた。得られた結果を表15に併記した。 【0161】 次いで、得られた軟磁性粉末を用いて、上記第7の実施例と同様の方法で圧粉磁芯を作製し、得られた圧粉磁芯の密度(圧粉密度)と飽和磁束密度を測定した。成形後の熱処理では、成形体を表15に示した最高到達温度(Tmax)まで、昇温速度:10℃/minで加熱し、前記最高到達温度で10分間保持した。飽和磁束密度の測定は、直流磁化測定装置により、磁界100A/mの条件で行った。得られた圧粉密度と飽和磁束密度の値を表15に併記した。なお、飽和磁束密度の値が1.30T以上を◎、1.20T以上1.30T未満を○で分類した。 【0162】 実施例123、124と実施例125の比較からφ50が0.4以上かつnが0.3以上で良好な飽和磁束密度が得られることがわかった。これは圧粉密度において円形度と均等数が因子となっており、いずれもある一定の値未満では、十分に圧粉しないため圧粉密度が低下して結果的に飽和磁束密度が低くなるためである。実施例125~129のようにφ50が0.4以上かつnが0.3以上を満たしていれば、φ50またはnのいずれかの値が上昇すると圧粉密度が上昇し、結果的に圧粉磁芯としても1.3T以上の高飽和磁束密度が得られることがわかる。 【0163】 一方で、実施例130と実施例129を比較するとnが30より大きな値の場合は圧粉密度および飽和磁束密度が低下することがわかった。実施例130では粒径が過度に均一化したため、粗大粒子により作られた隙間に入る細粒が減少し、結果的に粉体中の空隙が増加したためである。したがって実施例129のようにnは30以下とすることが好ましい。 【0164】 【表15】 [図:0001398259000002.jpg] 」 ([0158]~[0164]) (ケ)「【0165】 (第10の実施例) さらに、軟磁性粉末の粒度と結晶化度が圧粉磁芯のコアロスに与える影響を評価するために、表16に示した組成の軟磁性粉末を製造した。軟磁性粉末の製造にあたっては、溶鋼に衝突させる水の流速を変えた異なる条件で水アトマイズを行った。それ以外については、上記第7の実施例と同様とした。 【0166】 得られた軟磁性粉末の粒度分布をレーザー粒度分布計により測定し、該軟磁性粉末における粒径200μm超の粒子の体積割合と、粒径1mm超の粒子の体積割合を算出した。また、第1の実施例と同様の方法により、軟磁性粉末の結晶化度を測定した。測定結果を表16に併記した。 【0167】 次いで、得られた軟磁性粉末を用いて、上記第7の実施例と同様の方法で圧粉磁芯を作製し、得られた圧粉磁芯のコアロスを測定した。成形後の熱処理では、成形体を表16に示した最高到達温度(Tmax)まで、昇温速度:10℃/minで加熱し、前記最高到達温度で10分間保持した。得られたコアロスの値と評価を表17に併記した。なお、表16の各欄は、表17の各欄と対応している。例えば、表17の実施例140は、表16の実施例131の軟磁性粉末を用いたものである。 【0168】 また、Fe基ナノ結晶合金粉末の保磁力Hc(A/m)、飽和磁束密度Bs(T)、およびFe結晶子径(nm)を測定した。保磁力Hcは、振動試料型磁力計(VSM)を使用して測定した。飽和磁束密度BsとFe結晶子径は第1の実施例と同様の方法で測定した。 【0169】 表17の実施例30~32と実施例140~148から、1mm超の粒子が含まれている場合、軟磁性粉末の結晶化度が10%以上であり、かつFe結晶子径が大きくなり、保磁力やコアロスが大きいことがわかる。また、実施例140~148から、200μm超の粒子が含まれていない場合に結晶化度が3%以下であり、かつFe結晶子径が小さくなり、保磁力やコアロスが小さいことがわかる。したがって、軟磁性粉末の粒径は1mm以下とすることが必要であり、200μm以下とすることが好ましい。 【0170】 【表16】 [図:0001398259000003.jpg] 」 ([0165]~[0170]) イ 先願発明について (ア)上記ア(イ)、(エ)の円形度の中央値及び均等数nの評価方法、上記ア(オ)~(ケ)の、特に、実施例114、127、133に関連した摘記事項によれば、先願当初明細書等には、次の発明が記載されていると認められる。 「Fe81.7Si5B7P6Cu0.3Nb0で表される組成を有する軟磁性粉末であって、 粒径が1mm以下であり、かつ、 前記軟磁性粉末を構成する粒子の円形度の中央値が0.89、かつ、 Rosin-Rammler式における均等数nが0.30である、 軟磁性粉末。」(「先願発明1」) 「Fe81.9Si3.6B6P6Cu0.5Nb2で表される組成を有する軟磁性粉末であって、 粒径が1mm以下であり、かつ、 前記軟磁性粉末を構成する粒子の円形度の中央値が0.70、かつ、 Rosin-Rammler式における均等数nが1.00である、 軟磁性粉末。」(「先願発明2」) 「Fe81.65Si5B7P6Cu0.35Nb0で表される組成を有する軟磁性粉末であって、 粒径が200μm以下である、 軟磁性粉末。」(「先願発明3」) ウ 本件発明1と先願発明1の対比・判断 (ア)対比 a 本件発明1の「鉄基粉末」とは、本件明細書等の段落【0020】によれば、「50質量%以上のFeを含む粉末」であると認められる。そして、先願発明1の「Fe81.7Si5B7P6Cu0.3Nb0で表される組成を有する軟磁性粉末」は、Feが「81.7」at%であって、Feよりも質量の大きい原子としてCuを0.3at%のみ含有するものであるため、Feを50質量%以上含むことは明らかであるから、本件発明1の「鉄基粉末」に相当する。 b 本件明細書等の段落【0024】~【0027】には、上記ア(イ)、(オ)における円形度の中央値の算出方法と同じ方法で、円形度の中央値を算出することが記載されている。 したがって、先願発明1の「前記軟磁性粉末を構成する粒子の円形度の中央値が0.89」であることは、本件発明1の「鉄基粉末を構成する粒子の円形度の中央値が0.40以上であ」ることに相当する。 c 本件明細書等の段落【0028】~【0034】には、上記ア(エ)における均等数の値の算出方法と同じ方法で、均等数を算出することが記載されている。 したがって、先願発明1の「Rosin-Rammler式における均等数nが0.30である」ことは、本件発明1の「Rosin-Rammlerの式における均等数が0.30以上、90.0以下である」ことに相当する。 d 上記a~cから、本件発明1と先願発明1とは、以下の点で一致し、以下の相違点1~2において相違する。 <一致点> 「鉄基粉末であって、 前記鉄基粉末を構成する粒子の円形度の中央値が0.40以上であり、 Rosin-Rammlerの式における均等数が0.30以上、90.0以下である、鉄基粉末。」 <相違点1> 鉄基粉末が、本件発明1では、「圧粉磁芯用」であるのに対して、先願発明1では、所定の組成を有する「軟磁性粉末」であり、「圧粉磁芯用」ではない点。 <相違点2> 本件発明1では、「圧粉磁芯用鉄基粉末」の「最大粒径が400μm以下」であるのに対して、先願発明1では、所定の組成を有する「軟磁性粉末」の「粒径が1mm以下」である点。 (イ)判断 a 相違点2の検討 (a)上記ア(ウ)、(ケ)に摘記のとおり、先願当初明細書等には、結晶化度を低くするため、軟磁性粉末を構成する全ての粒子の粒径(すなわち、軟磁性粉末の最大粒径)は1mm以下とし、好ましくは200μm以下とすることが記載されており、最大粒径が1mm以下であって200μm超である実施例131,132と最大粒径が200μm以下である実施例133を比較すると、実施例133が最も結晶化度が低いことが開示されている。 すなわち、先願発明1において、軟磁性粉末の最大粒径を1mm以下とすることにより奏される効果は、結晶化度の低下であると認められる。 (b)他方、本件明細書等には、鉄基粉末の最大粒径に関して以下の記載がある。 「【0022】 (最大粒径) 圧粉磁芯用鉄基粉末の最大粒径は1mm以下とする。鉄基粉末に粒径が1mmより大きな粒子が含まれる場合、粒子内に発生する渦電流による損失が大きいため、圧粉磁芯の鉄損も大きくなるためである。前記最大粒径は、400μm以下とすることが好ましい。言い換えると、本発明の圧粉磁芯用鉄基粉末は、粒径1mm超の粒子を含有しない(体積割合が0%である)。また、圧粉磁芯用鉄基粉末が、粒径400μm超の粒子を含有しない(体積割合が0%である)ことが好ましい。」 「【0073】 [実施例2] 次に、最大粒径の影響を評価するために、円形度の中央値と均等数が同じであるが、粒径1mm超の粒子の割合が異なる圧粉磁芯用鉄基粉末を作製し、渦電流損を評価した。なお、その他の条件は上記実施例1と同様とした。 【0074】 (粒径1mm超の粒子の割合) 粒径1mm超の粒子の割合は、以下の手順で測定した。まず、圧粉磁芯用鉄基粉末を溶媒としてのエタノールに添加し、1分間の超音波振動を付与することにより分散させて試料とした。次いで、前記試料を用いて、前記圧粉磁芯用鉄基粉末の体積基準での粒度分布を測定した。前記測定には、レーザー回折式粒度分布測定機(株式会社堀場製作所製、LA-950V2)を使用した。得られた粒度分布より、粒径1mm超の粒子の割合を算出した。なお、同様の方法で、粒径400μm超の粒子の割合も求めた。測定結果を表2に示す。 【0075】 (渦電流損) 実施例1と同様の手順で、直流磁気特性測定装置を用いた磁気特性の測定を行い、得られた結果よりヒステリシス損を求めた。具体的には、最大磁束密度:0.05T、周波数:30kHzにおける鉄損とヒステリシス損を測定し、鉄損からヒステリシス損を差し引いた値を渦電流損とした。得られた渦電流損の値を用いて、以下の基準で渦電流損の評価を決定した。測定結果を表2に示す。 ・良:10kw/m3未満 ・可:10kw/m3以上、50kw/m3未満 ・不可:50kw/m3以上 【0076】 比較例4と発明例9の比較から、粒径1mm超の粒子が粉末に含まれる場合、渦電流損が50kw/m3より大きく磁気特性が悪いことがわかる。また、発明例9、10と発明例11の比較から、粒径が400μm超の粒子を含まない場合、渦電流損がより小さいことがわかる。 【0077】 【表2】 [図:0001398259000004.jpg] 」 (c)上記(b)の摘記によれば、本件明細書等には、渦電流による損失を小さくするため、鉄基粉末に含まれる粒子の最大粒径は1mm以下とし、好ましくは400μm以下とすることが記載されており、最大粒径が1mm以下であって400μm超である発明例9,10と、最大粒径が400μm以下である発明例11を比較すると、発明例11が最も渦電流損が小さいことが開示されている。 すなわち、本件発明1において、鉄基粉末の最大粒径を400μm以下とすることにより奏される効果は、渦電流損の低減であると認められる。 (d)そうすると、本件発明1において、鉄基粉末の最大粒径を400μm以下とすることにより得られる渦電流損の低減という効果は、先願当初明細書等に記載の結晶化度の低下とは異なる新たな効果であるから、相違点2は、課題解決のための具体化手段における微差とはいえない。 b 以上のとおり、相違点2は課題解決のための具体化手段における微差とはいえないから、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は先願発明1と同一とはいえない。 エ 本件発明1と先願発明2の対比・判断 (ア)対比 a 上記ウ(ア)aで述べたとおり、本件発明1の「鉄基粉末」とは、「50質量%以上のFeを含む粉末」である。先願発明2の「Fe81.9Si3.6B6P6Cu0.5Nb2で表される組成を有する軟磁性粉末」は、Feが「81.9」at%であって、Feよりも質量の大きい原子としてCuを0.5at%、Nbを2at%のみ含有するものであるため、Feを50質量%以上含むことは明らかであるから、本件発明1の「鉄基粉末」に相当する。 b 上記ウ(ア)bと同様に、先願発明2の「前記軟磁性粉末を構成する粒子の円形度の中央値が0.70」であることは、本件発明1の「鉄基粉末を構成する粒子の円形度の中央値が0.40以上であ」ることに相当する。 c 上記ウ(ア)cと同様に先願発明2の「Rosin-Rammler式における均等数nが1.00である」ことは、本件発明1の「Rosin-Rammlerの式における均等数が0.30以上、90.0以下である」ことに相当する。 d 上記a~cから、本件発明1と先願発明2とは、以下の点で一致し、以下の相違点3~4において相違する。 <一致点> 「鉄基粉末であって、 前記鉄基粉末を構成する粒子の円形度の中央値が0.40以上であり、 Rosin-Rammlerの式における均等数が0.30以上、90.0以下である、鉄基粉末。」 <相違点3> 鉄基粉末が、本件発明1では、「圧粉磁芯用」であるのに対して、先願発明2では、所定の組成を有する「軟磁性粉末」であり、「圧粉磁芯用」ではない点。 <相違点4> 本件発明1では、「圧粉磁芯用鉄基粉末」の「最大粒径が400μm以下」であるのに対して、先願発明2では、所定の組成を有する「軟磁性粉末」の「粒径が1mm以下」である点。 (イ)判断 相違点4は、上記ウ(イ)で述べたことと同様に、課題解決のための具体化手段における微差とはいえない。 したがって、本件発明1は先願発明2と同一とはいえない。 オ 本件発明1と先願発明3の対比・判断 (ア)対比 a 上記ウ(ア)aで述べたとおり、本件発明1の「鉄基粉末」とは、「50質量%以上のFeを含む粉末」である。先願発明3の「Fe81.65Si5B7P6Cu0.35Nb0で表される組成を有する軟磁性粉末」は、Feが「81.65」at%であって、Feよりも質量の大きい原子としてCuを0.35at%のみ含有するものであるため、Feを50質量%以上含むことは明らかであるから、本件発明1の「鉄基粉末」に相当する。 b 先願発明3の「粒径が200μm以下である」は、本件発明1の「最大粒径が400μm以下であ」ることに相当する。 c 上記a~bから、本件発明1と先願発明3とは、以下の点で一致し、以下の相違点5~7において相違する。 <一致点> 「鉄基粉末であって、 最大粒径が400μm以下である、鉄基粉末。」 <相違点5> 鉄基粉末が、本件発明1では、「圧粉磁芯用」であるのに対して、先願発明3では、所定の組成を有する「軟磁性粉末」であり、「圧粉磁芯用」ではない点。 <相違点6> 本件発明1では、「鉄基粉末を構成する粒子の円形度の中央値が0.40以上であ」るのに対して、先願発明3では、所定の組成を有する「軟磁性粉末」を構成する粒子の「円形度の中央値」が不明である点。 <相違点7> 本件発明1では、「鉄基粉末を構成する粒子」の「Rosin-Rammlerの式における均等数が0.30以上、90.0以下である」のに対して、先願発明3では、所定の組成を有する「軟磁性粉末」を構成する粒子の「Rosin-Rammlerの式における均等数」が不明である点。 (イ)判断 a 相違点6の検討 (a)本件明細書等には、鉄基粉末を構成する粒子の円形度の中央値に関して以下の記載がある。 「【0024】 (円形度) 本発明においては、前記圧粉磁芯用鉄基粉末を構成する粒子の円形度の中央値を0.40以上とする。円形度が高い、すなわち粒子の形状が球に近いほど、粒子間の接触面積が少なくなるとともに、粒子間の付着要因の一つである機械的なからみあいが減少し、粒子間の摩擦が少なくなる。そのため、円形度の中央値を0.40以上とすることにより、自然充填時の密度である見掛密度を向上させることができる。また、円形度の中央値が0.40以上であれば、金型へ粉末を充填する際に粒子が移動しやすいことに加え、加圧成形時にも粒子間および粒子と金型壁面との間の摩擦が少ないため、高い圧粉密度を得ることができる。円形度の中央値は、0.50以上であることが好ましく、0.60以上であることがより好ましく、0.70以上であることがさらに好ましく、0.80以上であることが最も好ましい。 【0025】 一方、圧粉密度を高めるという観点からは、円形度の中央値は高ければ高いほどよいため、円形度の上限は特に限定されない。しかし、その定義より、円形度の上限は1である。そのため、前記円形度の中央値は1以下であってよい。なお、円形度の平均値は、円形度が大きい粒子の値の影響を大きく受けるため、粉末全体の円形度を示す指標として適していない。そのため、本発明では円形度の中央値を用いる。 【0026】 ここで、圧粉磁芯用鉄基粉末を構成する粒子の円形度とその中央値は以下の方法で測定することができる。まず、対象の鉄基粉末を顕微鏡で観察し、視野内に含まれる個々の粒子の投影面積A(m2)および周囲長さP(m)を求める。1つの粒子の円形度φ(無次元)は、当該粒子の投影面積Aおよび周囲長さPより、下記(1)式を用いて算出することができる。ここで円形度φは無次元数である。 φ=4πA/P2…(1) 【0027】 得られた個々の粒子の円形度φを昇順に並べた際の、中央の値を円形度の中央値φ50とする。なお、測定する粒子数は6万個以上とする。より具体的には、実施例に記載した方法で円形度の中央値を求めることができる。」 「【0060】 [実施例1] 最大粒径が1mm以下の鉄粉(純鉄粉)を、水アトマイズ法を用いて製造した。得られた鉄粉に対して、水素中で850℃、1時間の焼鈍処理を施した。なお、水アトマイズ法による鉄粉の製造の際には、使用する溶鋼の温度、衝突させる水の量および圧力を変化させることにより、異なる円形度および均等数を有する鉄粉を得た。 【0061】 前記焼鈍処理後の鉄粉のそれぞれについて、円形度の中央値、均等数、および見掛密度を以下の方法で評価した。 【0062】 (円形度の中央値) 得られた各粉末の、円形度の中央値を測定した。前記測定においては、まず、ガラス板上に粉末を分散させ、上方から顕微鏡により観察して粒子の画像を撮影した。前記画像の撮影は、1試料あたり6万個以上の粒子について行った。撮影した粒子画像をコンピュータに取り込んで解析し、各粒子の投影面積Aおよび各粒子の周囲長さPを算出した。得られた投影面積Aおよび周囲長さPから、各粒子の円形度φを算出し、観察した全粒子の円形度から、円形度の中央値φ50を算出した。 ・・・ 【0068】 (磁気特性) 得られた圧粉磁芯にコイルを巻き付け、メトロン技研製の直流磁気特性測定装置を用いて磁界の強さ:10000A/mにおける磁束密度を測定した。前記コイルの巻き数は、一次側:100ターン、二次側:20ターンとした。また、高周波鉄損測定装置を用いて、最大磁束密度:0.05T、周波数:30kHzにおける鉄損を測定した。測定された鉄損の値を使用し、以下の基準に基づいて磁気特性の評価を決定した。 ・良:150kW/m3以下 ・可:151kW/m3以上、200kW/m3未満 ・不可:200kW/m3以上 【0069】 表1に評価結果を示す。比較例1、2と発明例1から、φ50が0.40以上、nが0.30以上の粉末の場合、見掛密度が2.50g/cm3以上となり、高い圧粉密度が得られることが分かる。また、前記条件を満たす粉末を用いて得た圧粉磁芯は、磁束密度が1.6T以上、鉄損が200kW/m3以下と優れた磁気特性を備えていた。 【0070】 また、発明例3と発明例4の比較、および発明例2と発明例5の比較から、φ50が0.40以上かつnが0.60以上またはφ50が0.70以上かつnが0.30以上であれば、見掛密度が3.70g/cm3以上とさらに高くなり、さらなる高圧粉密度、高磁気特性が達成できることがわかる。 【0071】 さらに、比較例3と発明例8から、nが90.0より大きい場合は見掛密度が急激に低下することがわかる。これは、粒径が過度に均一になったため粗大粒子の隙間に入り込む微細粒子の数が減少したからである。したがって、nは90.0以下であることが必要であることがわかる。 【0072】 【表1】 [図:0001398259000005.jpg] 」 (b)上記(a)の摘記によれば、本件明細書等には、鉄基粉末を構成する粒子の円形度の中央値を0.40以上とすることで見掛密度、圧粉密度を高めることができ、円形度の中央値が0.40未満である比較例1と0.40以上である発明例1~8を比較すると、発明例1~8は圧粉密度が高く、磁束密度が高く鉄損が低減されるという効果を奏することが開示されている。 そうすると、本件発明1において、鉄基粉末を構成する粒子の円形度の中央値が0.40以上とすることにより得られる上記効果は、鉄基粉末を構成する粒子の円形度の中央値が不明な先願発明3に対して、新たに奏される効果といえるから、相違点6は、課題解決のための具体化手段における微差とはいえない。 b 以上のとおり、相違点6は課題解決のための具体化手段における微差とはいえないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は先願発明3と同一とはいえない。 カ 本件発明2、4、5について 本件発明2、4、5は、本件発明1の記載を直接又は間接的に引用するものであり、上記ウ~オで述べたとおり、本件発明1が先願発明1~3と同一であるとはいえない以上、本件発明2、4、5についても同様に先願発明1~3と同一であるとはいえない。 キ 訂正前の請求項3に係る発明について 訂正前の請求項3に係る発明は、本件訂正により削除され、同請求項に係る申立理由は、その対象が存在しない。 ク 小括 以上から、本件発明1、2、4、5は、甲1-3もしくは甲3-3の優先権主張の基礎とされた出願である甲1-4の出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であるとはいえないから、申立理由1-3、3-3(拡大先願)によっては、本件特許の請求項1、2、4、5に係る特許を取り消すことはできない。 (2)先願(申立理由3-4)について ア 本件特許の出願の日前の特許出願である甲3-4の請求項1に係る発明(以下、「先願特許発明」という)は、以下のとおりである。 「【請求項1】 不可避不純物を除き組成式FeaSibBcPdCueMfで表される組成を有する軟磁性粉末であって、 前記組成式中のMは、Nb、Mo、Zr、Ta、W、Hf、Ti、V、Cr、Mn、C、Al、S、O、およびNからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素であり、 79at%≦a≦84.5at%、 0at%≦b<6at%、 0at%<c≦10at%、 4at%<d≦11at%、 0.2at%≦e≦0.53at%、 0at%≦f≦4at%、かつ a+b+c+d+e+f=100at%であり、 粒径が1mm以下であり、かつ、 結晶化度が体積比で10%以下であり、残部が非晶質相であり、 前記軟磁性粉末を構成する粒子の円形度の中央値が0.40以上、1.0以下、 Rosin-Rammler式における均等数nが0.30以上、30以下である、軟磁性粉末。」 イ 本件発明1と先願特許発明との対比・判断 (ア)対比 a 上記(1)ウ(ア)aで述べたとおり、本件発明1の「鉄基粉末」とは、「50質量%以上のFeを含む粉末」である。先願特許発明の「不可避不純物を除き組成式FeaSibBcPdCueMf」「前記組成式中のMは、Nb、Mo、Zr、Ta、W、Hf、Ti、V、Cr、Mn、C、Al、S、O、およびNからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素であり、79at%≦a≦84.5at%、0at%≦b<6at%、0at%<c≦10at%、4at%<d≦11at%、0.2at%≦e≦0.53at%、0at%≦f≦4at%、かつa+b+c+d+e+f=100at%」「で表される組成を有する軟磁性粉末」は、Feが「79at%≦a≦84.5at%」であって、Feよりも質量の大きい原子としてCuを0.53at%以下、Mを4at%以下のみ含有するものであるため、Feを50質量%以上含むことは明らかであるから、本件発明1の「鉄基粉末」に相当する。 b 甲3-4は、甲1-3もしくは甲3-3と同一の出願の特許公報であり、円形度の中央値の算出方法はいずれも同じであるところ、上記(1)ウ(ア)bで述べたとおり、先願発明1の円形度の中央値の算出方法は、本件明細書等に記載された方法と同じ方法である。そうすると、先願特許発明の円形度の中央値の算出方法は、本件明細書等に記載された方法と同じ方法であるから、先願特許発明の「前記軟磁性粉末を構成する粒子の円形度の中央値が0.40以上、1.0以下」であることは、本件発明1の「鉄基粉末を構成する粒子の円形度の中央値が0.40以上であ」ることに相当する。 c 上記bと同様に、上記(1)ウ(ア)cで述べたとおり、先願発明1の均等数の値の算出方法は、本件明細書等に記載された方法と同じ方法である。そうすると、先願特許発明の均等数の値の算出方法は、本件明細書等に記載された方法と同じ方法であるから、先願特許発明1の「Rosin-Rammler式における均等数nが0.30以上、30以下である」ことは、本件発明1の「Rosin-Rammlerの式における均等数が0.30以上、90.0以下である」ことに相当する。 d 上記a~cから、本件発明1と先願特許発明とは、以下の点で一致し、以下の相違点8~9において相違する。 <一致点> 「鉄基粉末であって、 前記鉄基粉末を構成する粒子の円形度の中央値が0.40以上であり、 Rosin-Rammlerの式における均等数が0.30以上、90.0以下である、鉄基粉末。」 <相違点8> 鉄基粉末が、本件発明1では、「圧粉磁芯用」であるのに対して、先願特許発明では、所定の組成を有する「軟磁性粉末」であり、「圧粉磁芯用」ではない点。 <相違点9> 本件発明1が「圧粉磁芯用鉄基粉末」の「最大粒径が400μm以下」であるのに対して、先願特許発明では、所定の組成を有する「軟磁性粉末」の「粒径が1mm以下」である点。 (イ)判断 相違点9は、上記(1)ウ(イ)及びエ(イ)で述べたことと同様に、課題解決のための具体化手段における微差とはいえないから、相違点8について検討するまでもなく本件発明1は先願特許発明と同一とはいえない。 ウ 本件発明1と甲3-4の請求項2~9に係る発明との対比・判断 (ア) 甲3-4の請求項2~9に係る発明は、甲3-4の請求項1を引用する以下の発明である。 「【請求項2】 請求項1に記載の軟磁性粉末であって、 e<0.4at%である軟磁性粉末。 【請求項3】 請求項1または2に記載の軟磁性粉末であって、 b≧2at%である軟磁性粉末。 【請求項4】 請求項1~3のいずれか一項に記載の軟磁性粉末であって、 e≧0.3at%である軟磁性粉末。 【請求項5】 請求項4に記載の軟磁性粉末であって、 e≧0.35at%である軟磁性粉末。 【請求項6】 請求項1~5のいずれか一項に記載の軟磁性粉末であって、 前記結晶化度が体積比で3%以下である軟磁性粉末。 【請求項7】 請求項1~5のいずれか一項に記載の組成を有し、 結晶化度が体積比で30%より高く、かつ、 Fe結晶子径が50nm以下、 断面における700nm×700nmの領域において、結晶相に接する楕円形状の非晶質相の短径の最大値が60nm以下である、Fe基ナノ結晶合金粉末。 【請求項8】 請求項7に記載のFe基ナノ結晶合金粉末を備える磁性部品。 【請求項9】 請求項7に記載のFe基ナノ結晶合金粉末を備える圧粉磁芯。」 (イ)上記(ア)で摘記したとおり、甲3-4の請求項2~9に係る発明は、所定の組成を有する「軟磁性粉末」の粒径を発明特定事項とはしていないから、本件発明1と甲3-4の請求項2~9に係る発明とは、上記イにおいて述べた相違点9と同様の相違点を有しており、当該相違点は、課題解決のための具体化手段における微差とはいえないから、本件発明1は甲3-4の請求項2~9に係る発明と同一とはいえない。 エ 小括 以上から、本件発明1は、甲3-4の請求項1~9に係る発明と同一であるとはいえないから、申立理由3-4(先願)によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。 (3)新規性・進歩性(申立理由1-1,1-2,2-1,3-1,3-2について) ア 甲1-1の記載 甲1-1には、鉄粉コアの原料に用いられる軟磁性金属粉に関し、次の記載がある。 (ア)「Influence of Particle Shape on Microstructure and Magnetic Properties of Iron Powder Cores」(表題) 当審仮訳: (鉄粉コアの微細構造及び磁気特性に及ぼす粒子形状の影響) (イ)「1. Introduction Iron powder cores are made from insulation-coated iron powders through a powder compaction process, and feature higher saturation magnetic flux densities than those of conventional ferrite cores and lower eddy current losses lower than those of conventional metal magnetic materials such as electrical steel sheets1). With these features, iron powder cores have been applied to devices such as reactors for hybrid vehicles2). Soft magnetic metal powders such as pure iron, Fe-Si or Fe-Si-Al are applied as raw materials for iron powder cores3-5). Among these materials, pure iron has the highest magnetic flux density. To expand the fields of application of pure iron powder cores, reduction of hysteresis loss is required. ・・・ In this study, we investigated the influence of the powder particle shape on the microstructure and coercive force quantitatively, and found that the crystal grain size in an iron powder core increases with an increase in the circularity of the powder particle. The mechanism and effect on the coercive force will be discussed in detail.」(第1859頁左欄第1行~右欄第14行) 当審仮訳: (鉄粉コアは、絶縁被覆された鉄粉を圧縮成形して作られ、従来のフェライトコアよりも高い飽和磁束密度と、電磁鋼板などの従来の金属磁性材料よりも低い渦電流損失が特徴である。これらの特徴を活かし、鉄粉コアはハイブリッド車用リアクターのようなデバイスに応用されている。 鉄粉コアの原料として、純鉄、Fe-Si、Fe-Si-Alなどの軟磁性金属粉が使用されている。これらの材料の中で、純鉄は最も高い磁束密度を有している。純鉄粉コアの適用分野を広げるためには、ヒステリシス損失を低減することが必要である。 ・・・ 本研究では、粉末粒子の形状が微細構造および保磁力に与える影響を定量的に検討し、鉄粉コアの結晶粒径は、粉末粒子の円形度が大きくなるにつれて大きくなることを明らかにした。 そのメカニズムと保磁力ヘの影響について詳しく説明する。) (ウ)「2.1 Base iron powders The preparation process of the base iron powders is shown in Fig. 1. Molten steel was water atomized to form an iron powder. The atomizing conditions such as the water pressure, flow rate, etc. were controlled to modify the circularity of the powder particle. The iron powders were annealed at 1223 K for 3.6 ks in a hydrogen atmosphere. The particle size distribution of the annealed powders was controlled by the sieving and remixing process so as to be mutually equivalent. The chemical compositions of the three base iron powders are shown Table 1. The major impurities are O, Si and Mn. The difference of the total impurity amount among these three powders is 0.017 mass% at the largest. This is within the range of scattering over repetition with the same atomizing conditions. As discussed later, the influence of such an impurity difference on the coercive force is smaller than that of the difference in the particle circularity. The apparent density (DA) and particle size distribution were measured according to JIS Z 2504 and JIS Z 2510, respectively. The mass average particle size D50 was determined at the point of 50% on the accumulative particle size distribution. The powder properties of the three base iron powders are shown in Table 2. The average particle size D50 and the particle size distribution are essentially equivalent. The apparent density of these powders varies from 3.19 Mg m-3 (powder C) to 4.07 Mg m-3 (powder A). Apparent density is generally affected by the particle size distribution and particle shape, and a rounder particle shape gives a higher apparent density10). In this research, the three base iron powders have the same particle size distribution. Hence, the apparent density should be mainly affected by the particle shape. The particle shape of the base iron powders was observed by optical micrography. For this purpose, the powders were molded in a thermoplastic resin, polished and etched with natal. As shown in Fig. 2, powder A is almost circular, while powders B and C show significant irregularity. The particle circularity of the base iron powders was quantified through an image analysis of the optical micrographs. The circularity of each particle is defined as Lc/ La, where La is the periphery of the particle cross section and Lc is the periphery of a perfect circle with the same area. This is unity if the particle cross section is a perfect circle, and decreases with an increase in shape irregularity. The software program Image J (Public domain, National Institutes of Health) was used to calculate the circularity of each particle, and the average of the particles with diameters of 10 μm or more was defined as "powder circularity" C. Because higher C values indicate higher apparent density (Table 2), circularity C will be used as a parameter of the iron powder particle shape in the discussion below.」(第1859頁右欄第16行~第1860頁右欄第10行) 当審仮訳: (2. 1 ベース鉄粉 ベース鉄粉の調製工程を図1に示す。溶鋼を水アトマイズして鉄粉を作製した。水の圧力、流量などのアトマイズ条件を制御して、粉末粒子の円形度を変更した。この鉄粉を水素雰囲気中、1223Kで3.6ksアニールした。アニール後の粉末の粒度分布は、飾掛けと再混合の工程によって互いに同等となるように制御した。 3種類のベース鉄粉の化学組成を表1に示す。主な不純物は、O、Si、Mnである。これら3つの粉末の不純物の総量の差は、最大でも0.017質量%である。これは、同じアトマイズ条件での繰り返しのばらつきの範囲内である。後述するように、このような不純物量の違いが保磁力に与える影響は、粒子の円形度の違いに比べて小さい。 見掛密度(DA)および粒度分布は、それぞれJIS Z 2504およびJIS Z 2510に準拠して測定した。質量平均粒径D50は、累積粒度分布の50%の点で測定した。3種類のベース鉄粉の粉体特性を表2に示す。平均粒径D50と粒度分布は基本的に同等である。これらの粉末の見掛け密度は、3.19Mg m-3(粉末C)から4.07Mg m-3(粉末A)であった。見掛密度は一般に粒度分布と粒子形状の影響を受け、粒子形状が丸いほど見掛密度が高くなる。本研究では、3種類のベース鉄粉は同じ粒度分布を有している。したがって、見掛密度は主に粒子形状の影響を受けると考えられる。 ベース鉄粉の粒子形状を光学顕微鏡写真で観察した。この目的のために、粉末を熱可塑性樹脂で成形し、研磨され、エッチングされた。図2に示すように、粉末Aはほぼ円形であるが、粉末BとCは、かなりの凹凸が見られる。 ベース鉄粉の円形度は、光学顕微鏡写真の画像解析により定量化した。各粒子の円形度は、Lc/Laで定義され、ここで、Laは粒子断面の外周、Lcは同じ面積の真円の外周である。これは、粒子の断面が真円であれば1であり、形状の不規則性が増すと減少する。ソフトウェアプログラムImage J(パブリックドメイン、国立衛生研究所)を使用して各粒子の円形度を算出し、直径10μm以上の粒子の平均値を「粉末円形度」Cと定義した。C値が高いほど見掛密度が高いことを示すため(表2参照)、以下の議論では、円形度Cを鉄粉の粒子形状のパラメータとして使用することにする。) (エ) 「 [図:0001398259000006.jpg] [図:0001398259000007.jpg] 」(第1860頁上部) イ 甲1-1に記載された発明 (ア)上記ア(イ)、(ウ)によれば、「ベース鉄粉」は「鉄粉コア」に用いられる原料である。 (イ)上記ア(エ)で摘記した表2に記載のベース鉄粉A~Cの粒度分布について、「75~45μm」の粒度範囲は、「75~63μm」の粒度範囲と重複しており、「75~45μm」という記載は正しい記載である可能性(すなわち、「75~45μm」の粒度範囲に含まれる粉末は「75~63μm」の粒度範囲に含まれる粉末をも含む)と、「75~45μm」という記載は「63~45μm」と記載すべき誤記である可能性がある。この点について、ベース鉄粉A~Cは、各粒度範囲の質量%を全て合計すると、どのベース鉄粉も100%となる点を考慮すると、「75~45μm」という記載は「63~45μm」と記載すべき誤記であると解するのが自然である。そして、当該解釈によれば、ベース鉄粉A~Cは180μmよりも大きい粒径の粉末は含まれない、すなわち、最大粒径は180μm以下であると認められる。 (ウ)ベース鉄粉Aの組成に着目すると、表1に記載される含有元素とその含有割合によれば、ベース鉄粉は、99.8361質量%の鉄を含有する。 (エ)そうすると、上記ア(イ)~(エ)の特にベース鉄粉Aに関連した摘記事項によれば、甲1-1には、次の発明が記載されていると認められる。 「鉄粉コア用ベース鉄粉であって、99.8361質量%の鉄を含み、 前記鉄粉の最大粒径が180μm以下であり、 前記鉄粉は、 円形度(Lc/La)=(粒子断面と同じ面積の真円の外周Lc)/(粒子断面の外周La)の式で算出される直径10μm以上の粒子の平均円形度が0.83であり、 粒度分布(質量%)が、180~150μmの範囲が0.6%、150~106μmの範囲が25.0%、106~75μmの範囲が31.8%、75~63μmの範囲が9.8%、63~45μmの範囲が17.4%、45μm以下が15.4%である鉄粉コア用ベース鉄粉。」(「甲1-1発明」) ウ 甲1-2の記載 甲1-2には、高圧水アトマイズ法で製造する鉄系合金粉末に関し、次の記載がある。 (ア)「3.1 粉末の作製 高圧水ジェットが所定の形状になるように設計したアトマイズノズルを使用し,大気誘導炉を持つ高圧水アトマイズ装置で鉄系合金粉末を作製した. 旋回角ωが粉末特性におよぼす影響の調査を目的とし,頂角が一定(10°)の条件で,ωを0~19°に変化させ粉末を作製した.また頂角θが粉末特性におよぼす影響の調査を目的とし,旋回角ωが一定(4°)の条件で,頂角θを10~35°に変化させ粉末を作製した.頂角θが粉末特性におよぼす影響の調査は旋回角ωが粉末特性におよぼす影響の調査に対し,アトマイズノズルに供給される水圧が1.5倍の条件で行った.各実験の条件をTable1に示す. また粉末中の異物を除去するため作製した粉末を目開き44μmの篩で分級し,篩網を通過した粉末を対象に調査を行った.」(第12頁右欄第2行~第17行) (イ)「3.2 粉末特性の測定 作製した鉄系合金粉末の粒度分布をレーザー回折法 (日機装(株)製:マイクロトラックMT3000 II)で測定した.得られた質量基準積算分布の値が50%となる粒子径をd50(メジアン径,単位はμm)とし,粒子径の代表値として用いた.また粒度分布の幅を式(1)で定義する標準偏差σで評価した. σ=d84/d50 (1) d84:質量基準積算分布の値が84%となる粒径 粒子形状は粒子像分析装置(シスメックス(株)製:FPIA-3000S)で測定した.撮像倍率は20倍とし,十分な解像度で撮影できる1.5~40μmの粒子を分析の対象とした.粒子形状は式(2)で定義される円形度Cを用い,1.5~40μmの全測定区間を対数的に14等分した各測定区間内におけるCの個数平均値で評価した.このとき粒径には粒子画像の輪郭上の2点における最大の長さ(粒子最大長)を用いた. C=4πS/L2 (2) S:撮影された粒子の面積 L:粒子の周囲長」(第13頁左欄第1行~第20行) (ウ)「4.1 高圧水ジェットの旋回角ωが粉末特性におよぼす影響 Table2に旋回角ωを0~19°に変化させ作製した粉末の特性を示す.また旋回角ωとメジアン径d50との関係をFig.4,旋回角ωと比表面積径dblの関係をFig.5 に示す.d50はωの増加に伴い減少し,ω=15°で最小値となった後再び増加した.比表面積径dblはωの増加に伴って若干減少したが8μm前後であり,大きく変化しなかった. [図:0001398259000008.jpg] 」(第13頁右欄第2行~第10行、右中央部) (エ)「旋回角ωと粉末の円形度の関係をFig.6,旋回角ωと粒度分布の関係をFig.7,旋回角ωと標準偏差σの関係をFig.8にそれぞれ示す.」(第14頁左欄第1行~第3行) (オ) [図:0001398259000009.jpg] 」(第14頁左上部) エ 甲1-2に記載された発明 (ア)上記ウ(ア)によれば、作製された鉄系合金粉末は、目開き44μmの篩で分級し、篩網を通過した粉末を円形度や粒度分布の測定対象としていることから、最大粒径は44μm以下である。 (イ)上記ウ(ウ)~(オ)によれば、表2のNo.1は、高圧水ジェットの旋回角ωが0°の例であるから、図6のω=0°のサンプルに相当する点によれば、対象とされている全ての粒径の範囲(1.5~40μm)で、円形度Cの個数平均は0.5より大きいことが分かる。 (ウ)上記ウ(イ)、(ウ)によれば、表2のS.D.値は、σ=d84/d50の式で算出される値であるから、S.D.値及びd50からd84を計算すると28.1μmである。 (エ)そうすると、上記ウの特に表2におけるNo.1の鉄系合金粉末に関連した摘記事項によれば、甲1-2には、次の発明が記載されていると認められる。 「鉄系合金粉末であって、 最大粒径が44μm以下であり、 前記鉄系合金粉末は、 粒径1.5~40μmの粒子の個数平均円形度が0.5より大きく、 質量基準で粒子径d50が15.7μm、d84が28.1μmである鉄系合金粉末。」(「甲1-2発明」) オ 甲1-5の記載 「 [図:0001398259000010.jpg] 」(第52頁表3・3・3-1) カ 甲2-1(甲3-2)の記載 甲2-1の明細書及び図面には、「軟磁性材料、圧粉磁芯、軟磁性材料の製造方法、および圧粉磁芯の製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。なお、甲2-1と甲3-2は、同一出願に係る特許公報と公開特許公報の関係にあり、当該出願は審査過程において明細書及び図面の補正はなされていない。 (ア)「【技術分野】 【0001】 本発明は、軟磁性材料、圧粉磁心、軟磁性材料の製造方法、および圧粉磁心の製造方法に関し、たとえば、磁気飽和を起こし難くインバーター等の磁心に用いた場合に直流重畳特性に優れた軟磁性材料、圧粉磁心、軟磁性材料の製造方法、および圧粉磁心の製造方法に関する。」 (イ)「【発明が解決しようとする課題】 ・・・ 【0007】 それゆえ本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、直流重畳特性を向上できる軟磁性材料、圧粉磁心、軟磁性材料の製造方法、および圧粉磁心の製造方法を提供することである。 (ウ)「【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明の軟磁性材料は、複数の金属磁性粒子を備え、金属磁性粒子の粒径の標準偏差(σ)と平均粒径(μ)との比である変動係数Cv(σ/μ)が0.40以下であり、金属磁性粒子の円形度Sfが0.80以上1以下である。 ・・・ 【0010】 本発明の軟磁性材料および軟磁性材料の製造方法によれば、金属磁性粒子の変動係数Cvを0.40以下とすることにより、金属磁性粒子の粒径の分布を均一にできる。そのため、軟磁性材料を用いて加圧成形された成形体内部の均一性を向上できるので、磁化過程において磁壁の移動を容易にすることができる。その結果として、直流重畳特性を向上できる。また、金属磁性粒子の円形度Sfを0.80以上とすることによって、軟磁性材料を加圧成形する時に金属磁性粒子の表面に生じる歪みを低減できるので、直流重畳特性を向上できる。なお、金属磁性粒子の外形が真球状である場合には、金属磁性粒子の円形度Sfは、1となる。 【0011】 なお、上記「粒径の標準偏差(σ)」とは、レーザ散乱回折粒度分布測定法で測定される金属磁性粒子の粒径により、算出される値である。また、「金属磁性粒子の平均粒径(μ)」とは、レーザ散乱回折粒度分布測定法で測定される金属磁性粒子の粒径のヒストグラム中、粒径の小さいほうからの質量の和が総質量の50%に達する粒子の粒径、つまり50%粒径の値である。また、「金属磁性粒子の円形度」とは、下記の式1により規定される値である。なお、下記の式1において、金属磁性粒子の面積および外周長さは、光学的手法によって特定できる。光学的手法とは、たとえば、測定対象の金属磁性粒子を投影して得られる金属磁性粒子の投影像より市販の画像処理装置を用いて統計的に算出する方法を指す。 円形度=4π×金属磁性粒子の面積/金属磁性粒子の外周長さの2乗 ・・・(式1)」 (エ)「【0028】 本発明の圧粉磁心は、軟磁性材料を用いて作製されている。また、本発明の圧粉磁心の製造方法は、軟磁性材料の製造方法を用いて軟磁性材料を製造する工程と、軟磁性材料を用いて加圧成形して圧粉磁心を製造する工程とを備えている。これにより、直流重畳特性を向上できる圧粉磁心を得られる」 (オ)「【0033】 本発明の軟磁性材料および圧粉磁心において、金属磁性粒子10の粒径の標準偏差(σ)と平均粒径(μ)との比である変動係数Cv(σ/μ)は0.40以下であり、金属磁性粒子10の円形度Sfは0.80以上1以下である。 【0034】 金属磁性粒子10の変動係数Cvは、0.40以下であり、0.38以下が好ましく、0.36以下がより好ましい。変動係数Cvを0.40以下とすることによって、金属磁性粒子10の粒径の分布を均一にできるので、軟磁性材料を用いて作製された成形体内部の均一性を向上できる。そのため、磁化過程において磁壁の移動を容易にできるので、直流重畳特性を向上できる。変動係数Cvを0.38以下とすることによって、直流重畳特性をより向上できる。変動係数Cvを0.36以下とすることによって、直流重畳特性をより効果的に向上できる。一方、変動係数Cvは小さい方が好ましいが、たとえば製造の容易性の観点から、0.001以上である。 【0035】 図3は、本発明の実施の形態における金属磁性粒子10の粒径の分布と、従来例における金属磁性粒子の粒径の分布を示す模式図である。図3に示すように、本実施の形態における金属磁性粒子10(図3における本発明例)の変動係数は0.40以下であるので、従来例と比較して粒径の標準偏差(σ)、すなわち粒径のばらつきが小さい。 【0036】 また、金属磁性粒子10の円形度Sfは、0.80以上1以下であり、0.91以上1以下が好ましく、0.92以上1以下がより好ましい。円形度Sfを0.80以上とすることによって、軟磁性材料の成形時に金属磁性粒子の表面に生じる歪みを低減できるので、直流重畳特性を向上できる。円形度Sfを0.91以上とすることによって、直流重畳特性をより向上できる。円形度Sfを0.92以上とすることによって、直流重畳特性をより効果的に向上できる。一方、金属磁性粒子の外形が真球状である場合には、金属磁性粒子の円形度Sfは、1となる。 【0037】 図4(A)は、本発明の実施の形態における金属磁性粒子10の形状を示す概略模式図であり、(B)は従来例における金属磁性粒子11の形状を示す概略模式図である。図4(A)および(B)に示すように、本実施の形態における金属磁性粒子10は、円形度Sfを0.80以上1以下としているので、従来の金属磁性粒子11と比較して、真球状に近い形状である。」 (カ)「【0078】 [実施例] 本実施例では、変動係数Cv(σ/μ)が0.40以下で、円形度Sfが0.80以上である金属磁性粒子を備えることの効果を調べた。 【0079】 (実施例1~4) 実施例1における軟磁性材料は、上述した実施の形態における軟磁性材料の製造方法を用いて製造された軟磁性材料を用いた。具体的には、まず、準備工程(S11)では、鉄粉を水アトマイズ法により鉄が99.6重量%以上含有され、残部が0.3重量%以下のOおよび0.1重量%以下のC、N、P、またはMnなどの不可避的不純物からなる金属磁性粒子を準備した。実施例1~4の金属磁性粒子の平均粒径は、それぞれ表1に記載の通りとした。また、実施例1~4の金属磁性粒子の変動係数Cvおよび円形度Sfは、それぞれ表1に記載の通りであった。なお、金属磁性粒子の変動係数Cvは、レーザ散乱回折粒度分布測定法を用いて対象の軟磁性材料(複数の金属磁性粒子)の粒度分布を測定することにより算出した。円形度Sfは、金属磁性粒子の面積と外周長さを測定した金属磁性粒子の投影像から統計的に算出し、上記式(1)に基づいて算出した。 【0080】 次に、絶縁被膜形成工程(S13)では、リン酸塩化成処理を実施して、リン酸鉄からなる絶縁被膜を形成した。 【0081】 次に、添加工程(S14)では、実施例1~3では金属石鹸としてのステアリン酸亜鉛をそれぞれ0.1質量%添加した。実施例4では非六方晶系の結晶構造を有する潤滑剤であるエチレンビスステアリン酸アミドを0.1質量%添加した。また、0.3質量%のメチル系シリコーン樹脂をさらに添加した。これにより、実施例1~4の軟磁性材料を得た。 【0082】 次に、加圧成形工程(S21)では、軟磁性材料を1000MPaの圧力を印加して、成形体を作製した。そして、第2の熱処理工程(S22)では、500℃で、窒素気流雰囲気において1時間、成形体を熱処理した。これにより、実施例1の圧粉磁心を製造した。 ・・・ 【0087】 【表1】 [図:0001398259000011.jpg] 」 (キ)「【図3】 [図:0001398259000012.jpg] 」 キ 甲2-1(甲3-2)に記載された発明 (ア)上記カ(ウ)の円形度及び変動係数の評価方法、及び上記カ(カ)の、特に、実施例1に関連した摘記事項によれば、甲2-1には、次の発明が記載されていると認められる。 「鉄が99.6重量%以上含有され、残部が0.3重量%以下のOおよび0.1重量%以下のC、N、P、またはMnなどの不可避的不純物からなる複数の金属磁性粒子を備える圧粉磁芯用軟磁性材料であって、 前記軟磁性材料を構成する金属磁性粒子の統計的に算出した円形度が0.80、かつ、 粒径の標準偏差(σ)と、粒径の小さいほうからの質量の和が総質量の50%に達する粒子の粒径である平均粒径(μ)との比である粒径の変動係数Cv(σ/μ)が0.40である、 圧粉磁芯用軟磁性材料。」(「甲2-1発明」) ク 甲2-2の記載 甲2-2には、「希土類磁石用原料合金、その製造方法及び希土類磁石用合金粉末」(発明の名称)に関して、次の記載がある。 (ア)「【技術分野】 【0001】 本発明は、希土類金属、鉄及びボロンを必須成分とするR2Fe14B系の希土類焼結磁石用原料合金、その製造方法及び希土類焼結磁石用原料合金粉末に関する。」 (イ)「【0011】 本発明の希土類焼結磁石用原料合金粉末は、前記本発明の希土類焼結磁石用原料合金を平均粒度(D50)3~7μmに粉砕して得た合金粉末であって、該粉末の粒度分布に、Rosin-Rammler分布を適用した場合、均等数が1.90以上、好ましくは2.00以上、粒度特性数が4.0~10.0となる。該均等数は次のようにして求められる。 まず、レーザー回折式粒度分布計を用いて、合金粉末の粒度分布を測定し、各粒度(x)に対する粒度積算値(R(x))を求める。そして、各粒度の対数値(ln x)と粒度積算値の逆数について2回対数をとった値(ln(ln(1/R(x))))を算出する。X軸にln x、Y軸に(ln(ln(1/R(x))))をとりプロットすると直線になり、この直線の傾きがRosin-Rammler分布における均等数となる。また、粒度特性数は、R(x)=0.368となる時のxの値である。上述の通り粉砕粉の均等数が1.90以上、粒度特性数が4.0~10.0となる場合、磁気特性、特に保磁力が向上する。」 ケ 甲3-1の記載 甲3-1には、「圧粉磁芯および圧粉磁芯用の鉄基粉末」(発明の名称)に関して、次の記載がある。 (ア)「【技術分野】 【0001】 本発明は、鉄粉や鉄基合金粉末(以下、これらを総称して鉄基粉末と呼ぶことがある)等の軟磁性鉄基粉末を圧粉成形し、電磁気部品用の圧粉磁心を製造する際に用いる圧粉磁心用鉄基粉末に関するものである。」 (イ)「【課題を解決するための手段】 【0013】 上記課題を解決することのできた本発明に係る圧粉磁心用鉄基粉末とは、下記で定義される円形度が0.75以上の粉末を個数分率で50%以上(100%を含む)含み、円形度が0.65以下の粉末が個数分率で15%以下(0%を含む)であると共に、円相当径の平均値が50μm以上である点に要旨を有する。円形度とは、粉末投影像の輪郭の長さBに対する粉末の投影面積と同じ面積を有する円の周長Aの比(A/B)を意味する。 【0014】 前記鉄基粉末は、目開き425μmの篩aを通過するが、目開き45μmの篩bを通過しないものであることが好ましい。前記鉄基粉末は、通常、表面に絶縁皮膜が形成されており、該絶縁皮膜は、無機化成皮膜および/または樹脂皮膜であればよい。また、前記絶縁皮膜は、無機化成皮膜の表面に、更に樹脂皮膜が形成されているものであってもよい。」 (ウ)「【0020】 本発明では、具体的には、 (1)下記で定義される円形度が0.75以上の粉末を個数分率で50%以上(100%を含む)含み、 (2)円形度が0.65以下の粉末が個数分率で15%以下(0%を含む)であると共に、 (3)円相当径の平均値が50μm以上、 である鉄基粉末を、圧粉磁心の原材料として用いる。 【0021】 まず、上記(1)と(2)の要件について説明する。 【0022】 鉄基粉末の円形度とは、粉末投影像の輪郭の長さBに対する粉末の投影面積と同じ面積を有する円の周長Aの比(A/B)を意味し、下記式で算出できる。 円形度(A/B)=(粉末の投影面積と同じ面積を有する円の周長A)/(粉末投影像の輪郭の長さB) 【0023】 上記円形度は、その値が、1に近づくほど鉄基粉末の形状が真球状に近づき、0に近づくほど偏平状に近づくことを示している。 【0024】 本発明では、鉄基粉末の円形度を平均値で規定するのではなく、個数分率によって形状分布として規定することが重要である。例えば、複数の鉄基粉末の円形度を測定し、鉄基粉末の保磁力を低減する観点から円形度の範囲を規定したとしても、後述する実施例から明らかなように、円形度が0.65以下の鉄基粉末が多く含まれていると、圧粉磁心の保磁力が低下することが判明したからである。即ち、円形度が小さく、偏平した鉄基粉末を用いて圧粉磁心を形成すると、鉄基粉末自体の保磁力が圧粉磁心の保磁力に影響を及ぼし、圧粉磁心の保磁力が低下しないことが明らかになったのである。 【0025】 そして本発明では、(1)円形度が0.75以上の粉末の個数分率を50%以上とすることで、真球状に近い鉄基粉末の個数を多くし、鉄基粉末自体の保磁力を低減することができる。また、(2)円形度が0.65以下の粉末の個数分率を15%以下とすることで、保磁力の大きな鉄基粉末を少なくし、圧粉磁心としたときの保磁力を低減することができる。このような範囲を定めた理由は次の通りである。 【0026】 (1)円形度が0.75以上の粉末の個数分率が50%を下回ると、偏平状の鉄基粉末の個数が多くなり、保磁力が大きな鉄基粉末が多くなるため、圧粉磁心の保磁力も大きくなってヒステリシス損を低減できない。上記個数分率は、好ましくは55%以上であり、より好ましくは60%以上、更に好ましくは65%以上である。円形度が0.75以上の粉末は、個数分率で100%であることが最も好ましい。 【0027】 (2)円形度が0.65以下の粉末の個数分率が15%を超えると、偏平状の鉄基粉末の個数が多くなり、保磁力が大きな鉄基粉末が多くなるため、圧粉磁心の保磁力も大きくなってヒステリシス損を低減できない。上記個数分率は、好ましくは13%以下であり、より好ましくは10%以下、更に好ましくは8%以下である。円形度が0.15以下の粉末は、個数分率で0%であることが最も好ましい。 【0028】 鉄基粉末の円形度は、例えば、Sysmex製の「Morphologi G2(型番)」などを用いれば測定することができる。」 (エ)「【0032】 本発明の鉄基粉末は、円形度と円相当径が上記範囲を満足する鉄基粉末を選択する他、形状分級する前に、粒度分布を適切に制御しておくことが好ましい。即ち、目開き425μmの篩aと目開き45μmの篩bを用いて篩い分けしたときに、篩aを通過するが、篩bを通過しない鉄基粉末であることが好ましい。目開きが45μmの篩bを通過する鉄基粉末は、粒子径が小さいため、鉄基粉末同士の界面が多くなり、この界面が磁壁移動の障害となって圧粉磁心の保磁力が増大する。従って本発明では、目開き45μmの篩bを通過する鉄基粉末を除去し、該篩bを通過しない(即ち、篩bの上に残る)粉末を用いるのがよい。より好ましくは目開き63μmの篩b1を通過しない粉末とし、更に好ましくは目開き75μmの篩b2を通過しない粉末とする。 【0033】 なお、本発明の鉄基粉末には、上記篩bを通過する鉄基粉末が全く含まれていないことが好ましいが、鉄基粉末全体の質量に対して3質量%以内であれば、篩bを通過する鉄基粉末を含有していてもよい。 【0034】 上記鉄基粉末の粒子径は、粒子内の結晶粒径を大きくして保磁力を低減するために、できるだけ大きい方が好ましいが、本発明では、目開き425μmの篩aを用いて篩い分けしたときに、篩aを通過する鉄基粉末を用いるのがよい。粒子径が大きくなり過ぎると、鉄基粉末を金型へ充填するときに金型の細部への充填性が悪くなったり、圧縮率が低下して圧粉磁心内に空隙が生じ、圧粉磁心の強度が小さくなるからである。 【0035】 なお、本発明の鉄基粉末には、上記篩aを通過しない鉄基粉末(篩aの上に残った鉄基粉末)が全く含まれていないことが好ましいが、鉄基粉末全体の質量に対して1質量%以内であれば、篩aを通過しない鉄基粉末を含有していてもよい。 【0036】 上記鉄基粉末の粒子径は、日本粉末冶金工業会で規定される「金属粉のふるい分析試験方法」(JPMA P02-1992)に準拠して分級して測定した値である。」 (オ)「【実施例】 ・・・ 【0088】 [実験1] 神戸製鋼所製のアトマイズ粉末「アトメル300NH」を日本粉末冶金工業会で規定される「金属粉のふるい分析試験方法」(JPMA P02-1992)に準拠して目開き250μm、180μm、150μm、106μm、75μm、63μm、45μmの篩aを用いて篩い分けし、篩aを通過した粉末を回収した。次に、前記篩aを通過した粉末について、目開き180μm、150μm、106μm、75μm、63μm、45μmの篩bを用いて篩い分けし、篩b上に残った粉末を回収した。各粉末の粒度分布を下記表1に示す。なお、下記表1において、粒度分布が180~250μmと記載した場合は、目開き250μmの篩aを通過し、目開き180μmの篩b上に残った粉末であることを意味する。また、表1のNo.1とNo.14は、篩a(即ち、目開き250μmまたは目開き45μm)を通過したままの粉末であり、2回目の篩い分けは行なっていない。 ・・・ 【0093】 形状分級後、下記表1に示す番号のバケットから鉄基粉末を表1に示す個数(2000個または3000個)無作為に採取し、次の手順で鉄基粉末の円相当径と円形度を測定した。円相当径と円形度の測定は、Sysmex製の「Morphologi G2(型番)」を用いた。円相当径については、各鉄基粉末について円相当径を測定し、測定結果の平均値(個数平均)を算出した。結果を下記表1に示す。円形度については、各鉄基粉末について円形度を測定し、個数分率で、円形度が0.75以上の粉末の割合と、0.65以下の粉末の割合を算出した。結果を下記表1に示す。 【0094】 得られた鉄基粉末の保磁力を下記の条件で測定した。鉄基粉末の保磁力は、φ5.6mm×厚み4.0mmの円柱状容器に鉄基粉末を約0.1g充填し、該鉄基粉末を瞬間接着剤で固定したものを試験片として用い、理研電子製の振動試料型磁力計「BHV-5」を用いて、測定温度を25℃、最大印加磁場(B)を50(Oe)、Sweep Speedを5min/loopとして測定した。コイルは、ヘルムホルツコイルを使用した。測定結果を下記表1に併せて示す。本発明では、鉄基粉末の保磁力が1.25(Oe)未満の場合を合格とし、保磁力が1.25(Oe)以上の場合を不合格とした。 ・・・ 【0099】 【表1】 [図:0001398259000013.jpg] 」 コ 甲3-1に記載された発明 上記ケ(ウ)、(オ)の、特に、No.2に関連した摘記事項によれば、甲3-1には、次の発明が記載されていると認められる。 「圧粉磁芯用鉄基粉末であって、 粒度分布が180~250μm、 円相当径の平均値が123μmであり、 前記圧粉磁芯用鉄基粉末は、 円形度(A/B)=(粉末の投影面積と同じ面積を有する円の周長A)/(粉末投影像の輪郭の長さB)の式で算出される円形度が0.65以下の粉末を個数分率で6.0%含み、円形度が0.75以上の粉末を個数分率で78.2%含む圧粉磁芯用鉄基粉末。」(「甲3-1発明」) サ 本件発明と甲1-1発明との対比判断 (ア)本件発明1と甲1-1発明とを対比する。 a 上記(1)ウ(ア)aで述べたとおり、本件発明1の「鉄基粉末」とは、「50質量%以上のFeを含む粉末」である。よって、甲1-1発明の「99.8361質量%の鉄を含」む「ベース鉄粉」は、本件発明1の「鉄基粉末」に相当する。 b 甲1-1発明の「最大粒径が180μm以下」は、本件発明1の「最大粒径が400μm以下」に相当する。 c そうすると、本件発明1と甲1-1発明とは以下の点で一致し、以下の相違点10~12において相違する。 <一致点> 「鉄基粉末であって、 最大粒径が400μm以下である、鉄基粉末。」 <相違点10> 鉄基粉末が、本件発明1では「圧粉磁芯用」であるのに対して、甲1-1発明では「鉄粉コア用」である点。 <相違点11> 鉄基粉末を構成する粒子の円形度に関し、本件発明1では、「鉄基粉末を構成する粒子の円形度の中央値が0.40以上であ」るのに対して、甲1-1発明では、「円形度(Lc/La)=(粒子断面と同じ面積の真円の外周Lc)/(粒子断面の外周La)の式で算出される直径10μm以上の粒子の平均円形度が0.83」である点。 <相違点12> 鉄基粉末の粒度分布に関し、本件発明1では、「Rosin-Rammlerの式における均等数が0.30以上、90.0以下である」のに対して、甲1-1発明では、「粒度分布(質量%)が、180~150μmの範囲が0.6%、150~106μmの範囲が25.0%、106~75μmの範囲が31.8%、75~63μmの範囲が9.8%、63~45μmの範囲が17.4%、45μm以下が15.4%」である点。 (イ)判断 a 相違点12の検討 (a)本件発明1と甲1-1発明は、鉄基粉末の粒度分布を特定する方法が異なる。甲1-1発明に係るベース鉄粉の粒度分布が、本件発明1における「Rosin-Rammlerの式における均等数が0.30以上、90.0以下」を満たすかどうかは、不明である。 (b)この点に関し、申立人1による異議申立書第10~11頁では、甲1-1発明の「粒度分布(質量%)が、180~150μmの範囲が0.6%、150~106μmの範囲が25.0%、106~75μmの範囲が31.8%、75~63μmの範囲が9.8%、63~45μmの範囲が17.4%、45μm以下が15.4%」であることから「Rosin-Rammlerの式における均等数」を算出すると0.9868であったと主張している。 しかしながら、甲1-1発明は質量割合の粒度分布であるのに対して、本件発明1における「Rosin-Rammlerの式における均等数」とは、本件明細書等の段落【0028】~【0034】によれば「体積割合」で算出されるものである。そうすると、同じ粉末群であっても、その質量割合の粒度分布と体積割合の粒度分布とは通常異なることを考慮すれば、甲1-1発明における粒度分布から算出された均等数が0.9868であることをもって、本件発明1における「体積割合」の「Rosin-Rammlerの式における均等数0.30以上、90.0以下」を満たすとはいえない。加えて、申立人1は、この点に関して「中実の金属粒子の場合、重量割合と体積割合は実質的に同じである」と述べるにとどまり、具体的根拠を示していない。 (c)したがって、申立人1による上記主張によっては、甲1-1発明における「粒度分布(質量%)が、180~150μmの範囲が0.6%、150~106μmの範囲が25.0%、106~75μmの範囲が31.8%、75~63μmの範囲が9.8%、63~45μmの範囲が17.4%、45μm以下が15.4%」は、「体積割合」の「Rosin-Rammlerの式における均等数が0.30以上、90.0以下」に相当するかは不明である。 (d)そして、甲1-1には、粒度分布を制御することに関し、3種類のベース鉄粉A~Cを同じ粒度分布とすること以外には、何ら記載はないから、甲1-1発明において、「体積割合」の「Rosin-Rammlerの式における均等数」範囲を限定する動機が認められない。 (e)また、本件明細書の表1によれば、均等数が0.30未満である比較例2及び90.0を超える比較例3と比較して、均等数が0.30~90.0である発明例1~8は、見掛密度と圧粉密度が高く、高飽和磁束密度であって低鉄損の効果を有することが開示されているから、本件発明1は「体積割合」の「Rosin-Rammlerの式における均等数が0.30以上、90.0以下である」点によって磁束密度が高く鉄損を低減するという当業者が予測できない効果を奏することができる。 (f)したがって、甲1-1発明において、相違点12に係る本件発明1の特定事項である「体積割合」の「Rosin-Rammlerの式における均等数が0.30以上、90.0以下」とすることは、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。 b よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1-1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (ウ)本件発明2、4、5について 本件発明2、4、5は、本件発明1の記載を直接又は間接的に引用するものであり、上記(ア)、(イ)で述べたとおり、本件発明1が甲1-1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明2、4、5についても同様に甲1-1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 シ 本件発明と甲1-2発明との対比判断 (ア)本件発明1と甲1-2発明とを対比する。 a 甲1-2発明の「粉末」は、本件発明1の「粉末」に相当する。 b 甲1-2発明の「最大粒径が44μm以下」は、本件発明1の「最大粒径が400μm以下」に相当する。 c そうすると、本件発明1と甲1-2発明とは以下の点で一致し、以下の相違点13~15において相違する。 <一致点> 「粉末であって、 最大粒径が400μm以下である、粉末。」 <相違点13> 粉末が、本件発明1では「圧粉磁芯用」「鉄基」粉末であるのに対して、甲1-2発明では「鉄系合金」粉末である点。 <相違点14> 粉末を構成する粒子の円形度に関し、本件発明1では、「鉄基粉末を構成する粒子の円形度の中央値が0.40以上であ」るのに対して、甲1-2発明では、「鉄系合金粉末」の「粒径1.5~40μmの粒子の個数平均円形度が0.5より大き」い点。 <相違点15> 粉末の粒度分布に関し、本件発明1では、「Rosin-Rammlerの式における均等数が0.30以上、90.0以下である」のに対して、甲1-2発明では、「質量基準で粒子径d50が15.7μm、d84が28.1μm」である点。 (イ)判断 a 相違点15の検討 (a)本件発明1と甲1-2発明は、「粉末」の粒度分布を特定する方法が異なる。甲1-2発明に係る鉄系合金粉末の粒度分布が、本件発明1における「Rosin-Rammlerの式における均等数が0.30以上、90.0以下」を満たすかどうかは、不明である。 (b)この点に関し、申立人1による異議申立書第15~16頁では、甲1-2発明の粒度分布が「質量基準で粒子径d50が15.7μm、d84が28.1μm」であることから「Rosin-Rammlerの式における均等数」を算出すると1.67であったと主張している。 申立人1による上記計算は、甲1-2発明の粒度分布が、特定の粒径範囲に偏ることなく、例えば正規分布を有することを仮定して行われたものにすぎない。しかしながら、甲1-2には、d50、d84以外の詳細な粒度分布は何ら記載されていないから、甲1-2発明においてd50、d84以外の詳細な粒度分布は不明であるため、上記仮定に基づいた均等数nが甲1-2発明の均等数であるとする根拠が認められない。 したがって、甲1-2発明の「粉末」が「Rosin-Rammlerの式における均等数が0.30以上、90.0以下である」とはいえない。 (c)したがって、申立人1による上記主張によっては、甲1-2発明における「質量基準で粒子径d50が15.7μm、d84が28.1μm」は、本件発明1の「体積割合」の「Rosin-Rammlerの式における均等数が0.30以上、90.0以下」に相当するかは不明である。 (d)そして、甲1-2には、高圧水アトマイズ法における高圧水ジェットの旋回角ωが粒子径d50等の粒度分布におよぼす影響について記載はあるものの、粒径を均一にすべきことは記載されていないから、甲1-2発明において、「Rosin-Rammlerの式における均等数」範囲を限定する動機が認められない。 (e)また、上記サ(イ)a(e)のとおり、本件発明1は「Rosin-Rammlerの式における均等数が0.30以上、90.0以下である」点によって磁束密度が高く鉄損を低減するという当業者が予測できない効果を奏することができる。 したがって、甲1-2発明において、相違点15に係る本件発明1の特定事項である「Rosin-Rammlerの式における均等数が0.30以上、90.0以下」とすることは、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。 b よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1-2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (ウ)本件発明2、4、5について 本件発明2、4、5は、本件発明1の記載を直接又は間接的に引用するものであり、上記(ア)、(イ)で述べたとおり、本件発明1が甲1-2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明2、4、5についても同様に甲1-2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ス 本件発明と甲2-1発明との対比判断 (ア)本件発明1と甲2-1発明の対比 本件発明1と甲2-1発明とを対比する。 a 上記(1)ウ(ア)aで述べたとおり、本件発明1の「鉄基粉末」とは、「50質量%以上のFeを含む粉末」である。よって、甲2-1発明の「鉄が99.6重量%以上含有され、残部が0.3重量%以下のOおよび0.1重量%以下のC、N、P、またはMnなどの不可避的不純物からなる複数の金属磁性粒子を備える圧粉磁芯用軟磁性材料」は、本件発明1の「圧粉磁芯用鉄基粉末」に相当する。 b そうすると、本件発明1と甲2-1発明とは、「圧粉磁芯用鉄基粉末」である点のみで一致し、以下の相違点16~18において相違する。 <相違点16> 本件発明1の「圧粉磁芯用鉄基粉末」の「最大粒径が400μm以下」であるのに対して、甲2-1発明の「複数の金属磁性粒子を備える圧粉磁芯用軟磁性材料」は「最大粒径」が不明である点。 <相違点17> 鉄基粉末を構成する粒子の円形度に関し、本件発明1では、「鉄基粉末を構成する粒子の円形度の中央値が0.40以上であ」るのに対して、甲2-1発明では、「軟磁性材料を構成する金属磁性粒子」の「統計的に算出した円形度が0.80」である点。 <相違点18> 圧粉磁芯用鉄基粉末の粒度分布に関し、本件発明1では、「Rosin-Rammlerの式における均等数が0.30以上、90.0以下である」のに対して、甲2-1発明では、「粒径の標準偏差(σ)と、粒径の小さいほうからの質量の和が総質量の50%に達する粒子の粒径である平均粒径(μ)との比である粒径の変動係数Cv(σ/μ)が0.40である」点。 (イ)判断 a 相違点18の検討 (a)本件発明1と甲2-1発明は、圧粉磁芯用鉄基粉末の粒度分布を特定する方法が異なる。甲2-1発明に係る軟磁性材料を構成する金属磁性粒子の粒度分布が、本件発明1における「Rosin-Rammlerの式における均等数が0.30以上、90.0以下」を満たすかどうかは、不明である。 (b)この点に関し、申立人2による異議申立書第11頁では、本件発明1について「ロジン-ラムラー式における均等数が0.30以上、90.0以下とするものであるが、この数値範囲は均等数の概念からすると極端に広いものであって、特に、均等数90.0との値は粒子の分布ピークが狭く、ほとんど同一粒子径の粒子のみによって構成されている金属粒子を示すものである一方、均等数0.30は逆に非常にブロードな分布形状(裾が広がった甲第1号証の図3中で点線で示された分布形状)を示すものであり、これに対して甲2-1発明の変動係数Cv(σ/μ)が0.40という分布特性は、ブロードな分布から尖鋭なピークの分布を意味するロジン-ラムラー式における均等数0.30以上、90.0以下という範囲と重複することは明らかであると主張している。 しかしながら、申立人2は甲2-1の図3における従来例の分布が、均等数0.30であるとする点、及び、均等数0.30以上、90.0以下の範囲に、変動係数Cv(σ/μ)が0.40である粒度分布が重複する点について、上記主張のみで具体的根拠を何ら示していない。 (c)また、申立人3による異議申立書第10~11頁では、甲2-1発明における変動数Cv及び平均粒径から、均等数nは2.5と算出できると主張している。 しかしながら、甲2-1発明は「平均粒径(μ)」を「粒径の小さいほうからの質量の和が総質量の50%に達する粒子の粒径」とする点を考慮すると「重量割合」で算出される粒度分布であるから、甲2-1発明における変動数Cv及び平均粒径から算出された均等数nが2.5であることをもって、本件発明1における「体積割合」の「Rosin-Rammlerの式における均等数0.30以上、90.0以下」を満たすとはいえない。加えて、申立人3は、この点に関して根拠を示していない。 (d)したがって、申立人2および申立人3による上記主張によっては、甲2-1発明における「変動係数Cv(σ/μ)が0.40」は、本件発明1の「Rosin-Rammlerの式における均等数が0.30以上、90.0以下」に相当するかは不明である。 (e)そして、甲2-1には、「金属磁性粒子の変動係数Cvを0.40以下とすることにより、金属磁性粒子の粒径の分布を均一にできる。そのため、軟磁性材料を用いて加圧成形された成形体内部の均一性を向上できるので、磁化過程において磁壁の移動を容易にすることができる。その結果として、直流重畳特性を向上できる。」(【0010】)ことが記載されており、直流重畳特性と変動係数Cvの関係が記載されているに過ぎず、甲2-1発明において、「体積割合」の「Rosin-Rammlerの式における均等数」範囲を限定する動機が認められない。 (f)そして、上記サ(イ)a(e)のとおり、本件発明1は「体積割合」の「Rosin-Rammlerの式における均等数が0.30以上、90.0以下である」点によって磁束密度が高く鉄損を低減するという当業者が予測できない効果を奏することができる。 (g)また、上記クの摘記によれば、甲2-2には「Rosin-Rammlerの式における均等数」によって粒度分布を特定することが記載されているものの、甲2-2は、希土類焼結磁石用原料合金粉末に関する技術であって、軟磁性材料である「圧粉磁芯用鉄基粉末」に関する発明である甲2-1発明とは技術分野が異なる。したがって、甲2-1発明において、異なる技術分野に属する希土類焼結磁石用原料合金粉末に関する技術が記載されている甲2-2の記載を採用する動機はない。 (h)したがって、甲2-1発明において、甲2-2の記載に基づいて、相違点18に係る本件発明1の特定事項である「体積割合」の「Rosin-Rammlerの式における均等数が0.30以上、90.0以下」とすることは、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。 b よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2-1もしくは甲3-2に記載された発明及び甲2-2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (ウ)本件発明2、4、5について 本件発明2、4、5は、本件発明1の記載を直接又は間接的に引用するものであり、上記(ア)、(イ)で述べたとおり、本件発明1が甲2-1もしくは甲3-2に記載された発明及び甲2-2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明2、4、5についても同様に甲2-1もしくは甲3-2に記載された発明及び甲2-2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 セ 本件発明と甲3-1発明との対比判断 (ア)本件発明1と甲3-1発明との対比 a 甲3-1発明の「粒度分布が180~250μmであ」るとは、甲3-1の段落【0088】の「なお、下記表1において、粒度分布が180~250μmと記載した場合は、目開き250μmの篩aを通過し、目開き180μmの篩b上に残った粉末であることを意味する。」という記載によれば、「目開き250μmの篩aを通過」した粉末のみからなるため、最大粒径は250μm以下と認められるから、本件発明1の「最大粒径が400μm以下」に相当する。 b 本件明細書等の段落【0026】には、円形度φは、「個々の粒子の投影面積A(m2)および周囲長さP(m)」より、φ=4πA/P2の式から算出することが記載されており、甲3-1発明で使用している式とは異なる。しかしながら、甲1-5に記載のとおり、円形度φ=4πA/P2は、甲3-1発明の円形度(A/B)を2乗したものとして換算される。 そうすると、甲3-1発明の「円形度(A/B)=(粉末の投影面積と同じ面積を有する円の周長A)/(粉末投影像の輪郭の長さB)の式で算出される円形度が0.65以下の粉末を個数分率で6.0%含む」とは、本件発明で定義される円形度φで表すと、円形度φが0.42以下の粉末を個数分率で6.0%含むことを意味する。したがって、本件発明1の「円形度の中央値が0.40以上」に相当する。 c 上記a~bから、本件発明1と甲3-1発明とは、以下の点で一致し、以下の相違点19において相違する。 <一致点> 「圧粉磁芯用鉄基粉末であって、 最大粒径は400μm以下であり、 前記圧粉磁芯用鉄基粉末を構成する粒子の円形度の中央値が0.40以上である、圧粉磁芯用鉄基粉末。」 <相違点19> 本件発明1では、「圧粉磁芯用鉄基粉末」の「Rosin-Rammlerの式における均等数が0.30以上、90.0以下である」のに対して、甲3-1発明では、「圧粉磁芯用鉄基粉末」の「Rosin-Rammlerの式における均等数」が不明である点。 (イ)判断 a 甲3-1発明に係る圧粉磁芯用鉄基粉末の粒度分布が、本件発明1における「Rosin-Rammlerの式における均等数が0.30以上、90.0以下」を満たすかどうかは、不明である。 甲3-1発明の「圧粉磁芯用鉄基粉末」は、「粒度分布が180~250μmであ」るが、180~250μmの範囲内における詳細な粒度分布は不明である。申立人3による異議申立書第9頁では、甲3-1の段落【0033】、【0035】の記載に基づいて250μmより大きい粒径を有する粉末の許容含有割合、及び、180μmよりも小さい粒径を有する粒径の許容含有割合を考慮して、上限粒度250μmと下限粒度180μmをRosin-Rammlerの式に適用して均等数を計算したところ、均等数nは15.3であったと主張している。 しかしながら、申立人3による上記計算は、甲3-1発明の「圧粉磁芯用鉄基粉末」の粒度分布が「180~250μmの範囲内」において、特定の粒径範囲に偏ることなく、例えば「180~250μm」の全範囲に広がって正規分布を有することを仮定して行われたものにすぎない。しかしながら、甲3-1発明は180~250μmの範囲内における詳細な粒度分布が不明であるため、上記仮定に基づいた均等数nが甲3-1発明の均等数であるとする根拠が認められないから、甲3-1発明の「圧粉磁芯用鉄基粉末」が「Rosin-Rammlerの式における均等数が0.30以上、90.0以下である」とはいえない。 b そして、甲3-1には、粒度分布に関し、「目開き425μmの篩aと目開き45μmの篩bを用いて篩い分けしたときに、篩aを通過するが、篩bを通過しない鉄基粉末であることが好ましい。・・・目開きが45μmの篩bを通過する鉄基粉末は、粒子径が小さいため、鉄基粉末同士の界面が多くなり、この界面が磁壁移動の障害となって圧粉磁心の保磁力が増大する。」(段落【0032】)、「目開き425μmの篩aを用いて篩い分けしたときに、篩aを通過する鉄基粉末を用いるのがよい。粒子径が大きくなり過ぎると、鉄基粉末を金型へ充填するときに金型の細部への充填性が悪くなったり、圧縮率が低下して圧粉磁心内に空隙が生じ、圧粉磁心の強度が小さくなるからである。」(段落【0034】)という記載があるのみであって、粒径を均一にすべきことは記載されていないから、甲3-1発明において、「Rosin-Rammlerの式における均等数」を用いて、粒径の均一性を限定する動機が認められない。 c また、上記サ(イ)a(e)のとおり、本件発明1は「Rosin-Rammlerの式における均等数が0.30以上、90.0以下である」点によって磁束密度が高く鉄損を低減するという当業者が予測できない効果を奏することができる。 したがって、甲3-1発明において、相違点19に係る本件発明1の特定事項である「Rosin-Rammlerの式における均等数が0.30以上、90.0以下」とすることは、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。 d よって、本件発明1は、甲3-1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (ウ)本件発明2、4、5について 本件発明2、4、5は、本件発明1の記載を直接又は間接的に引用するものであり、上記(ア)、(イ)で述べたとおり、本件発明1が甲3-1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明2、4、5についても同様に甲3-1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ソ 小括 以上から、本件発明1、2、4、5は、甲1-1、甲1-2、甲3-1、甲3-2に記載された発明ではなく、また、甲1-1、甲1-2、甲3-1にそれぞれ記載された発明に基いて、あるいは、甲2-1もしくは甲3-2に記載された発明と甲2-2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえないから、申立理由1-1,1-2,2-1,3-1,3-2(新規性・進歩性)によっては、本件特許の請求項1、2、4、5に係る特許を取り消すことはできない。 また、本件訂正によって本件特許の請求項3が削除されたので、本件発明3に関する新規性、進歩性に係る上記申立理由は、対象が存在しないものとなった。 (4)実施可能要件(申立理由2-2) ア 本件明細書等には、本件発明の圧粉磁芯用鉄基粉末の製造方法、鉄基粉末及び圧粉磁芯の用途について以下の記載がある。 (ア)「【0001】 本発明は、圧粉磁芯用鉄基粉末および前記圧粉磁芯用鉄基粉末を用いた圧粉磁芯に関する。 【背景技術】 【0002】 粉末冶金法は、溶製法に比べ、複雑な形状の部品の製造においても寸法精度が高く、また、原料の無駄が少ないため、各種部品の製造に適用されている。粉末冶金法によって製造される製品としては、例えば、圧粉磁芯が挙げられる。圧粉磁芯は、粉末を加圧成形して製造される磁芯であり、モーターの鉄心などに用いられる。」 (イ)「【0038】 [鉄基粉末の製造方法] 次に、本発明の一実施形態における上記圧粉磁芯用鉄基粉末の製造方法について説明する。なお、以下の説明は製造方法の一例を示すものであって、本発明は以下の説明に限定されるものではない。 【0039】 上記圧粉磁芯用鉄基粉末の製造には、特に限定されることなく任意の方法を用いることができる。例えば、上記鉄基粉末は、アトマイズ法により製造することができる。前記アトマイズ法としては、水アトマイズ法およびガスアトマイズ方のいずれも使用できる。また、粉砕法や酸化物還元法で得られた粉末を加工する方法で鉄基粉末を製造してもよい。言い換えると、前記圧粉磁芯用鉄基粉末は、アトマイズ粉末であることが好ましく、水アトマイズ粉末またはガスアトマイズ粉末であることがより好ましい。 【0040】 前記円形度の中央値および均等数を上述した範囲に制御するために、鉄基粉末の製造条件を制御することができる。例えば、水アトマイズ法の場合は、溶鋼に衝突させる水の水圧や水/溶鋼の流量比、溶鋼注入速度を制御することで製造することができる。特に、円形度の中央値を上述した範囲とするためには、低圧のアトマイズ法で鉄基粉末を製造することができる。また、粉砕法や酸化物還元法、通常の高圧のアトマイズ法で得られた不定形の粉末を加工し、粒子表面を平滑化して円形度の中央値を上記範囲とすることもできる。加工を行った場合には粒子が加工硬化し、圧密が困難となるので、加工後に歪取焼鈍を行うことが好ましい。 【0041】 製造した鉄基粉末の均等数が0.30より小さい場合はJIS Z 8801-1に規定される篩を用いて、一定の粒径以下の粒子および一定の粒径以上の粒子を取り除くことによって均等数を向上させてもよい。また、均等数が90.0より大きい場合は、円形度の中央値が0.40以上で粒径が異なる鉄基粉末を混合するか、篩を用いてある粒径範囲の粒子を除外することにより、均等数を低下させる操作を行ってもよい。 【0042】 [絶縁被覆] 本発明の圧粉磁芯用鉄基粉末は、該圧粉磁芯用鉄基粉末を構成する粒子の表面に絶縁被覆を備えることができる。言い換えると、本発明の一実施形態における粉末は、表面に絶縁被覆を備えた圧粉磁芯用被覆鉄基粉末であってよい。 【0043】 前記絶縁被覆としては任意の被覆を用いることができる。前記絶縁被覆としては、例えば、無機絶縁被覆および有機絶縁被覆の一方または両方を用いることができる。前記無機絶縁被覆としては、アルミニウム化合物を含有する被膜を用いることが好ましく、リン酸アルミニウムを含有する被膜を用いることがより好ましい。前記無機絶縁被覆は、化成皮膜であってよい。前記有機絶縁被覆としては、有機樹脂被膜を用いることが好ましい。前記有機樹脂被膜としては、例えば、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、およびポリイミド樹脂からなる群より選択される少なくとも1つを含有する被膜を用いることが好ましく、シリコーン樹脂を含有する被膜を用いることがより好ましい。前記絶縁被覆は、1層の被膜であってもよいし、2層以上からなる多層被膜であってもよい。前記多層被膜は同種の被膜からなる多層被膜であってもよく、異なる種類の被膜からなる多層被膜であってもよい。 ・・・ 【0052】 (絶縁被覆の形成方法) 前記絶縁被覆は、特に限定されることなく任意の方法で形成することができるが、湿式処理により形成することが好ましい。前記湿式処理としては、例えば、絶縁被覆形成用処理液と鉄基粉末とを混合する方法が挙げられる。前記混合は、例えば、アトライターまたはヘンシェルミキサーなどの槽内で鉄基粉末と処理溶液とを撹拌混合する方法や、転動流動型被覆装置等により鉄基粉末を流動状態として処理溶液を供給して混合する方法などで行うことが好ましい。鉄基粉末への溶液の供給は、混合開始前または開始直後に全量を供給してもよく、混合中に数回に分けて供給してもよい。また、液滴供給装置、スプレーなどを用いて、混合中に継続して処理液を供給しても良い。 【0053】 前記処理液の供給は、スプレーを用いて行うことがより好ましい。これは、スプレーを用いることにより、処理溶液を鉄基粉末全体に均一に散布できるためである。また、スプレーを使用すれば、噴霧条件を調整することにより、噴霧液滴の直径を10μm程度またはそれ以下まで小さくできる。そしてその結果、被覆が過剰に厚くなることを防止でき、均一かつ薄い絶縁被覆を鉄基粉末に形成できる。一方、流動造粒機や転動造粒機などの流動槽およびヘンシェルミキサーのような撹拌型混合機によって撹拌混合を行うと、粉体同士の凝集が抑制されるという利点がある。したがって、流動槽や撹拌型混合機と、スプレーによる処理溶液の供給とを合わせ用いることにより、鉄基粉末へのより均一な絶縁被覆の形成が可能となる。また、混合器中あるいは混合後に加熱処理を施すことは、溶媒の乾燥促進や、反応の促進のために有利となる。 【0054】 [圧粉磁芯] 本発明の一実施形態における圧粉磁芯は、上記圧粉磁芯用鉄基粉末を用いてなる圧粉磁芯である。 【0055】 上記圧粉磁芯の製造方法はとくに限定されず、任意の方法で形成することができる。例えば、上述した絶縁被覆を備える鉄基粉末を金型に装入し、所望の寸法および形状となるように加圧成形することによって圧粉磁芯を得ることができる。 【0056】 ここで、前記加圧成形は、とくに限定されることなく任意の方法で行うことができる。例えば、常温成形法や金型潤滑成形法など、通常の成形方法がいずれも適用できる。なお、成形圧力は用途に応じて適宜決定されるが、好ましい成形圧力は490MPa以上、より好ましくは686MPa以上である。」 (ウ)「【実施例】 【0059】 次に、実施例に基づいて、本発明についてさらに具体的に説明する。しかし、本発明は下記の実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲内にて適宜変更することも可能であり、これらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。 【0060】 [実施例1] 最大粒径が1mm以下の鉄粉(純鉄粉)を、水アトマイズ法を用いて製造した。得られた鉄粉に対して、水素中で850℃、1時間の焼鈍処理を施した。なお、水アトマイズ法による鉄粉の製造の際には、使用する溶鋼の温度、衝突させる水の量および圧力を変化させることにより、異なる円形度および均等数を有する鉄粉を得た。 ・・・ 【0065】 (絶縁被覆) 次に、鉄粉の表面に湿式被覆処理法によりシリコーン樹脂(信越化学工業株式会社製 KR-311)からなる絶縁被覆を形成した。具体的には、転動流動層式被覆装置を用い、鉄粉の表面に絶縁被覆形成用処理液を噴霧して絶縁被覆を施し、被覆鉄粉とした。前記絶縁被覆形成用処理液としては、樹脂分60質量%のシリコーン樹脂をキシレンにより希釈したものを使用し、鉄粉に対する絶縁被覆の被覆量が3質量%となるように被覆を行った。噴霧終了後、乾燥のため10時間流動状態を維持した。乾燥後、樹脂硬化のため150℃で60分間の熱処理を行った。 【0066】 (圧粉磁芯) 次に、これら被覆鉄基粉末を、ステアリン酸リチウムを塗布した金型に充填し、加圧成形して環状(トロイダル状)の圧粉磁芯(外径38mm、内径25mm、高さ6mm)とした。成形圧力は1470MPaとし、1回で成形した。 ・・・ 【0072】 【表1】 [図:0001398259000014.jpg] 【0073】 [実施例2] 次に、最大粒径の影響を評価するために、円形度の中央値と均等数が同じであるが、粒径1mm超の粒子の割合が異なる圧粉磁芯用鉄基粉末を作製し、渦電流損を評価した。なお、その他の条件は上記実施例1と同様とした。 ・・・ 【0077】 【表2】 [図:0001398259000015.jpg] 【0078】 [実施例3] 次に、絶縁被覆の被覆量の影響を評価するために、最大粒径が1mm以下であり、かつ円形度の中央値と均等数が同じであるが、被覆量が異なる圧粉磁芯用鉄基粉末を作製し、磁気特性を評価した。なお、その他の条件および磁気特性の評価方法は実施例1と同様とした。 ・・・ 【0080】 【表3】 [図:0001398259000016.jpg] 」 イ 上記ア(イ)、(ウ)に摘記したとおり、本件明細書等の段落【0038】~【0041】には、本件発明の圧粉磁芯用鉄基粉末を得る方法として、円形度の中央値及び均等数を制御するためのアトマイズ法による製造条件が記載されており、篩を用いて一定の粒径以上の粒子を取り除くとの記載によれば、最大粒径を変化させられることも明らかである。さらに、同段落【0052】、【0055】、【0056】には、圧粉磁芯用鉄基粉末を構成する粒子の表面に絶縁被覆を設ける方法、圧粉磁芯用鉄基粉末を用いて圧粉磁芯を製造する方法が記載されている。また、特に、実施例1~3では、水アトマイズ法を用いて、使用する溶鋼の温度、衝突させる水の量及び圧力を変化させることにより、円形度及び均等数が本件発明1、2で特定される範囲を満たす圧粉磁芯用鉄基粉末を得たことも開示されている。 ウ そうすると、本件明細書等の発明の詳細な説明には、本件発明1、2、4、5を製造する方法が記載されているといえる。 エ さらに、上記ア(ア)に摘記したとおり、本件明細書等の段落【0001】、【0002】には、鉄基粉末を圧粉磁芯に使用すること、鉄基粉末を用いて製造した圧粉磁芯をモーターの鉄心などに使用することが記載されている。 オ したがって、本件明細書等の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明に係る圧粉磁芯用鉄基粉末及び圧粉磁芯を製造することができ、使用することができる程度に、明確かつ十分に記載したものといえる。 カ なお、申立人2は、異議申立書第17頁~第20頁において、甲3-3の段落【0051】には、粒径が過度に均一になると粗大粒子間の隙間に入る微細粒子の数が不足して圧粉密度が低下するという、本件明細書の段落【0029】に記載と同様の理由によって、Rosin-Rammler式における均等数nを30以下とすることが好ましいと記載されているから、均等数が30を超え、90.0以下の範囲において、本件発明の課題を解決することはできないため、本件発明は発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段を反映していないと主張している。 しかしながら、本件発明がその課題を解決することができるか否かにかかわらず、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえることは、上記オのとおりである。よって、申立人2の上記主張は採用しない。 キ なお、申立人の上記カの主張は、サポート要件についての主張であるとも解されるため、念のため、上記カの主張を検討する。 (ア)本件明細書等の段落【0011】によれば、本件発明の解決しようとする課題は「見掛密度が高く、それにより高い圧粉密度を有する圧粉磁芯を製造することができる圧粉磁芯用鉄基粉末を提供すること」、及び、「優れた磁気特性(低鉄損、高飽和磁束密度)を有する圧粉磁芯を提供すること」であると認められる。 (イ)そして、本件明細書等の段落【0022】~【0034】、実施例1~3には、圧粉磁芯用鉄基粉末の最大粒径、円形度の中央値、Rosin-Rammler式における均等数、効果及び試験例が開示されている。 (ウ)特に、発明例8においては、均等数が30を超え90.0であっても、均等数が90.5である比較例3と比較して、見掛密度と圧粉密度が高く、高飽和磁束密度であって低鉄損の効果を有することが開示されている。 (エ)そうすると、均等数が30を超え、90.0以下の範囲においても、上記(ア)の課題を解決できることは、明らかであるから、本件発明が発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段を反映していないとはいえない。 ク 小括 したがって、本件発明1、2、4、5については、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものであるから、申立理由2-2によっては、本件特許の請求項1、2、4、5に係る特許を取り消すことはできない。 また、本件訂正によって本件特許の請求項3が削除されたので、本件発明3に関する実施可能要件に係る上記申立理由は、対象が存在しないものとなった。 第7 まとめ 以上のとおりであるから、取消理由及び特許異議の申立ての理由によっては、請求項1、2、4、5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1、2、4、5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 さらに、本件特許の請求項3は、本件訂正により削除され、同請求項に係る特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2022-700442

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